説明

オキシムの製造方法

【課題】ケトンのアンオモキシム化反応によるオキシムの製造において工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のオキシムの製造方法は、クメンを酸化することによりクメンヒドロペルオキシドを得る工程(1)と、工程(1)で得られたクメンヒドロペルオキシドと、アンモニアと、ケトンとを、触媒の存在下、アンモオキシム化反応させることによりオキシム及び2−フェニル−2−プロパノールを含む反応混合物を得る工程(2)と、工程(2)で得られた反応混合物から、オキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを回収する工程(3)と、工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、触媒の存在下、水素化することによりクメンを得る工程(4)と、工程(4)で得られたクメンの少なくとも一部を工程(1)へリサイクルする工程(5)とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトンをアンモオキシム化反応させてオキシムを製造する方法に関するものである。オキシムは、アミドやラクタムの原料等として有用である。
【背景技術】
【0002】
ケトンをアンモオキシム化反応させてオキシムを製造する方法として、特許文献1及び2には、触媒の存在下に、ケトンをクメンヒドロペルオキシド及びアンモニアとアンモオキシム化反応させてオキシムを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−24144号公報
【特許文献2】特開2011−21006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載の方法においては、オキシムとともに2−フェニル−2−プロパノールが副生するが、副生する2−フェニル−2−プロパノールを有効利用する方法が切望されている。そこで、本発明の目的は、副生する2−フェニル−2−プロパノールを有効利用し、2−フェニル−2−プロパノールをクメンへと変換し、該クメンをクメンヒドロペルオキシドに変換して繰り返し使用することができる工業的に有利なオキシムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]下記工程(1)〜(5)、
(1):クメンを酸化することによりクメンヒドロペルオキシドを得る工程、
(2):工程(1)で得られたクメンヒドロペルオキシドと、アンモニアと、ケトンとを、触媒の存在下、アンモオキシム化反応させることによりオキシム及び2−フェニル−2−プロパノールを含む反応混合物を得る工程、
(3):工程(2)で得られた反応混合物から、オキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを回収する工程、
(4):工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、触媒の存在下、水素化することによりクメンを得る工程、
(5):工程(4)で得られたクメンの少なくとも一部を工程(1)へリサイクルする工程、
を含むことを特徴とするオキシムの製造方法。
[2]工程(4)が下記工程(4a)及び(4b)、
(4a):工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、脱水触媒の存在下、脱水することによりα−メチルスチレンを得る工程、
(4b):工程(4a)で得られたα−メチルスチレンを、水添触媒の存在下、水添してクメンを得る工程、
から構成され、工程(4b)で得られたクメンを工程(5)に付す前記[1]に記載の製造方法。
[3]工程(2)で使用される触媒がチタン及びケイ素酸化物を含む触媒である前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]ケトンが、シクロアルカノンである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]シクロアルカノンがシクロヘキサノンである前記[4]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ケトンをクメンヒドロペルオキシド及びアンモニアとアンモオキシム化反応させる際に副生する2−フェニル−2−プロパノールを有効利用し、2−フェニル−2−プロパノールをクメンへと変換し、該クメンをクメンヒドロペルオキシドに変換して繰り返し使用することができるため、工業的に有利にオキシムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においては、工程(1)として、クメンを酸化してクメンヒドロペルオキシドを得る。
【0009】
クメンの酸化は、通常、クメンと酸素含有ガスとを接触させることによる自動酸化により行われる。酸素含有ガスの酸素源としては、通常、空気や純酸素が用いられ、必要に応じて不活性ガスで希釈される。該自動酸化は、添加剤の存在下に行ってもよく、その添加剤としては、例えば、塩基等が挙げられる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;アンモニア;炭酸アンモニウム等が挙げられる。また、クメンの酸化は、溶媒の存在下に行ってもよい。
【0010】
クメンの酸化における反応温度は、通常50〜200℃であり、反応圧力は、通常0.1〜5MPaである。
【0011】
本発明においては、工程(2)として、工程(1)で得られたクメンヒドロペルオキシドと、アンモニアと、ケトンとを、触媒の存在下にアンモオキシム化反応させることによりオキシム及び2−フェニル−2−プロパノールを含む反応混合物を得る。
【0012】
工程(2)で使用する原料のケトンは、脂肪族ケトンであってもよいし、脂環式ケトンであってもよいし、芳香族ケトンであってもよく、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。ケトンの具体例としては、アセトン、エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトンのようなジアルキルケトン;メシチルオキシドのようなアルキルアルケニルケトン;アセトフェノンのようなアルキルアリールケトン;ベンゾフェノンのようなジアリールケトン;シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、シクロドデカノンのようなシクロアルカノン;シクロペンテノン、シクロヘキセノンのようなシクロアルケノン等が挙げられる。中でもシクロアルカノンが本発明の好適な対象となる。
【0013】
工程(2)で使用する原料のケトンは、例えば、アルカンの酸化により得られたものであってもよいし、2級アルコールの酸化(脱水素)により得られたものであってもよいし、アルケンの水和及び酸化(脱水素)により得られたものであってもよい。
【0014】
工程(2)で使用するアンモニアは、ガス状のものを用いてもよいし、液状のものを用いてもよく、また有機溶媒の溶液として用いてもよい。ガス状のアンモニアを使用する場合は、必要に応じて不活性ガスで希釈される。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。アンモニアの使用量は、反応混合物の液相におけるアンモニアの濃度が1重量%以上となるように調整されるのが好ましい。このように反応混合物液相中のアンモニア濃度を所定値以上とすることにより、原料のケトンの転化率と目的物のオキシムの選択率を高めることができ、その結果、目的物のオキシムの収率も高めることができる。このアンモニアの濃度は、好ましくは1.5重量%以上であり、また、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。なお、アンモニア使用量の目安は、ケトン1モルに対して、通常1モル以上、好ましくは1.1モル以上、さらに好ましくは1.5モル以上である。
【0015】
工程(2)において、工程(1)で得られたクメンヒドロペルオキシドの使用量は、ケトン1モルに対して、通常0.5〜20モルであり、好ましくは0.5〜15モルである。
【0016】
工程(2)においては、触媒の存在下に前記アンモオキシム化反応を行う。工程(2)で使用する触媒としては、チタン及びケイ素酸化物を含む触媒が好ましい。かかるチタン及びケイ素酸化物を含む触媒を用いることにより、良好な収率でオキシムを製造することができる。チタン及びケイ素酸化物を含む触媒としては、例えば、チタンを含有するシリケート、チタンを含有するシリカ等が挙げられる。
【0017】
チタンを含有するシリケートとしては、例えば、チタンを含有するメソポーラスシリケート、チタンを含有する結晶性シリケート等が挙げられる。メソポーラスシリケートとしては、例えば、MCM−41、MCM−48、HMS、SBA−15、FSM−16、MSU−H、MSU−F等が挙げられる。結晶性シリケートとしては、例えば、シリカライト−1(MFI型)、シリカライト−2(MEL型)、ITQ−1(MWW型)、YNU−2(MSE型)等が挙げられる。チタンを含有するシリケートの中でも、チタンを含有するメソポーラスシリケートが好ましく、チタンを含有するMCM−41、チタンを含有するHMSがより好ましい(以下、チタンを含有するMCM−41、チタンを含有するHMSをそれぞれ、Ti−MCM−41、Ti−HMSと称することがある。)。尚、メソポーラスシリケートとは、2〜50nm程度の細孔径を有するメソ多孔性のシリケートを意味するものである。メソポーラス構造の有無は、銅Kα線によるXRD(X線回折)測定における2θ=0.2〜4.0°のピークの有無で確認することができる。チタンを含有するシリケートにおけるチタンは、シリケート骨格中に組み込まれていてもよく、細孔中に組み込まれていてもよく、シリケート骨格表面に担持されていてもよい。前記のチタンを含有するシリケート、チタンを含有するメソポーラスシリケート、チタンを含有する結晶性シリケート、チタンを含有するMCM−41、チタンを含有するHMSにおいては、それぞれ、シリケート骨格中にチタンを含有するものが好ましい。
【0018】
チタンを含有するシリカとしては、シリカ担体にチタンが担持されてなるものや、チタニア−シリカ複合酸化物等が挙げられる。
【0019】
チタン及びケイ素酸化物を含む触媒に含まれうる、チタン、ケイ素及び酸素以外の元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等が挙げられる。該触媒がチタンを含有するシリケートの場合、チタン、ケイ素及び酸素以外に含まれうる元素は、シリケート骨格中に組み込まれていてもよく、細孔中に組み込まれていてもよく、シリケート骨格表面に担持されていてもよい。該触媒がシリケート骨格中にチタンを含有するシリケート(チタノシリケート)の場合、該シリケートは、骨格を構成する元素として、チタン、ケイ素及び酸素を含むものであり、実質的にチタン、ケイ素及び酸素のみから骨格が構成されるものであってもよいし、骨格を形成する元素としてさらにホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等、チタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含むものであってもよい。該触媒がチタンを含有するシリカの場合、チタン、ケイ素及び酸素以外に含まれうる元素は、シリカ骨格中に組み込まれていてもよく、シリカ表面に担持されていてもよい。
【0020】
上記チタン及びケイ素酸化物を含む触媒におけるチタンの含有量は、ケイ素に対する原子比(Ti/Si)で表して、通常0.0001以上、好ましくは0.005以上であり、また、通常1.5以下、好ましくは1.0以下である。なお、このチタン及びケイ素酸化物を含む触媒がチタン、ケイ素及び酸素以外の元素を含む場合、該元素の含有量は、ケイ素に対する原子比で表して、通常1.0以下、好ましくは0.5以下である。また酸素は、酸素以外の各元素の含有量及び酸化数に対応して存在しうる。かかるチタン及びケイ素酸化物を含む触媒の典型的な組成は、ケイ素を基準(=1)として、次の式で示すことができる。
【0021】
SiO2・xTiO2・yMnn/2
【0022】
(式中、Mはケイ素、チタン及び酸素以外の少なくとも1種の元素を表し、nは該元素の酸化数であり、xは0.0001〜1.0であり、yは0〜1.0である。)
【0023】
なお、上記式中、Mはチタン、ケイ素及び酸素以外の元素であり、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、クロム等が挙げられる。
【0024】
上記チタン及びケイ素酸化物を含む触媒は、公知の水熱合成法、ゾルゲル法などにより調製される。チタン及びケイ素酸化物を含む触媒は、ケイ素化合物で接触処理されていてもよい。かかるケイ素化合物としては、有機ケイ素化合物、無機ケイ素化合物が挙げられ、中でも、有機ケイ素化合物が好ましい。
【0025】
なお、工程(2)で使用する触媒は、粒状やペレット状等の形状に成形してから使用してもよいし、担体に担持して使用してもよい。成形する際には、必要に応じてバインダーを用いてもよい。
【0026】
工程(2)のアンモオキシム化反応においては、溶媒を使用してもよい。溶媒の例としては、ブタン、ペンタン、へキサン、シクロへキサン、ベンゼン、クメン、トルエン、キシレンのような炭化水素や、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、トリメチルアセトニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリルのようなニトリルや、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、t−アミルアルコールのようなアルコールなどが挙げられ、必要に応じそれらの2種以上を用いることもできる。尚、工程(1)で得られるクメンヒドロペルオキシドが溶媒との混合物である場合、該溶媒を工程(2)の溶媒として使用することができる。
【0027】
溶媒を使用する場合、その量は、ケトン1重量部に対して、通常1〜500重量部、好ましくは2〜300重量部である。
【0028】
工程(2)におけるアンモオキシム化反応は、回分式で行ってもよく、半回分式で行ってもよく、連続式で行ってもよく、回分式、半回分式及び連続式の組み合わせで行ってもよい。中でも、半回分式、連続式又はその組み合わせが好ましい。半回分式の場合、攪拌混合式又はループ式の反応器内に反応原料を供給しながら前記反応を行うのが好ましい。連続式の場合、攪拌混合式又はループ式の反応器内に反応原料を供給しながら、反応混合物の液相を抜き出す方式や、触媒を充填した固定床反応器に反応原料を流通させる固定床流通方式で前記反応を行うのが、生産性及び操作性の点から望ましい。
【0029】
攪拌混合式反応器を使用する半回分式の反応は、例えば、前記反応器内に触媒が懸濁した反応混合物を存在させるようにして、この中にケトン等の反応原料を供給することにより、好適に行うことができる。攪拌混合式反応器を使用する連続式の反応は、例えば、前記反応器内に触媒が懸濁した反応混合物を存在させるようにして、この中にケトン等の反応原料を供給しながら、反応器からフィルターを介して反応混合物の液相を抜き出すことにより、好適に行うことができる。
【0030】
前記の攪拌混合式反応器を使用する半回分式又は連続式の反応は、あらかじめ溶媒、触媒及びクメンヒドロペルオキシドを入れた反応器内に、ケトン及びアンモニアを供給するのが好ましく、あらかじめ溶媒、触媒、クメンヒドロペルオキシド及びアンモニアを入れた反応器内に、ケトン、クメンヒドロペルオキシド及びアンモニアを供給するのがより好ましい。具体的には、まず、攪拌混合式反応器内に、溶媒、触媒及びクメンヒドロペルオキシドを導入する。これらの導入順序には特に制限はない。これらを反応器内に導入した後、攪拌して触媒を懸濁させ、次いで、ケトン及びアンモニアを供給する。ケトン及びアンモニアは、それぞれ単独で供給(いわゆる共フィード)してもよいし、これらの混合物を供給してもよい。また、あらかじめ溶媒、触媒及びクメンヒドロペルオキシドとともにアンモニアを反応器内に入れておき、次いで該反応器内にケトン及び追加のアンモニアを供給してもよいし、あらかじめ溶媒、触媒及びクメンヒドロペルオキシドを反応器内に入れておき、次いで、ケトンやアンモニアとともに、クメンヒドロペルオキシドを追加で供給してもよいし、あらかじめ溶媒、触媒及びクメンヒドロペルオキシドとともにアンモニアを反応器内に入れておき、次いで、ケトンや追加のアンモニアとともに、クメンヒドロペルオキシドを追加で供給してもよい。なお、前記供給に使用されるケトン、アンモニア及びクメンヒドロペルオキシドは、溶媒で希釈されていてもよい。
【0031】
攪拌混合式反応器を使用する半回分式又は連続式の反応に使用する前記触媒の量は、反応混合物総量に対して0.1〜20重量%程度であればよい。なお、触媒活性の低下を抑制することを目的として、例えば特開2004−83560号公報に示される如く、シリカやケイ酸等のケイ素化合物を反応系内に共存させてもよい。
【0032】
攪拌混合式反応器を使用する半回分式又は連続式の反応において、反応器内にあらかじめクメンヒドロペルオキシドを入れておく場合、あらかじめ入れておくクメンヒドロペルオキシドの量は、反応器内の混合物における液相中のクメンヒドロペルオキシド濃度が0.01〜50重量%になるように調整される。また、攪拌混合式反応器を使用する半回分式又は連続式の反応において、反応器内にあらかじめアンモニアを入れておく場合、あらかじめ入れておくアンモニアの量は、反応器内の混合物における液相中のアンモニア濃度が0.1〜15重量%になるように調整される。
【0033】
攪拌混合式反応器を使用する半回分式又は連続式の反応における、クメンヒドロペルオキシドの供給量は、ケトン1モルに対して、通常0.5〜20モルであり、好ましくは0.5〜15モルである。
【0034】
攪拌混合式反応器を使用する半回分式又は連続式の反応における、アンモニアの供給量は、ケトン1モルに対して、通常1モル以上である。
【0035】
なお、攪拌混合式の反応器は、クメンヒドロペルオキシドの分解を防ぐ観点から、グラスライニングされたものやステンレススチール製のものが好ましい。
【0036】
固定床流通方式での反応は、例えば、触媒が充填された固定床反応器に、反応原料であるケトン、クメンヒドロペルオキシド及びアンモニアを、必要に応じて溶媒とともに、アップフロー又はダウンフローで通液することにより反応を実施できる。アンモニアとしてガス状のアンモニアを使用する場合には、ガス状のアンモニアは、必要に応じて不活性ガスで希釈され、その供給方向は、アンモニア以外の原料の供給方向に対して並流、向流のいずれでもよい。反応は、加圧条件下で行うのが好ましい。加圧条件の制御により、触媒と反応原料の接触時間の調整が可能である。
【0037】
なお、固定床反応器は、反応器に原料供給口と反応液取り出し口が設けられた流通式の各種固定床反応器を使用することができる。反応管の本数は特に限定されるものではなく、単管式固定床反応器、多管式固定床反応器のいずれも使用することができる。また、断熱方式又は熱交換方式の固定床反応器が使用可能である。クメンヒドロペルオキシドの分解を防ぐ観点から、グラスライニングされたものやステンレススチール製のものが好ましい。
【0038】
アンモオキシム化反応の反応温度は、通常50〜200℃、好ましくは80〜150℃である。また、反応圧力は、通常、絶対圧で0.1〜5.0MPa、好ましくは0.2〜1.0MPaである。反応混合物の液相にアンモニアが溶解し易くするために、加圧下に反応を行うのが好ましく、この場合、窒素やヘリウム等の不活性ガスを用いて、圧力を調整してもよい。
【0039】
本発明においては、工程(3)として、工程(2)のアンモオキシム化反応により得られたオキシム及び2−フェニル−2−プロパノールを含む反応混合物から、オキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを回収する。工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを工程(4)の水素化に供することにより、工程(4)の水素化を効率的に行うことができる。工程(3)において、回収される2−フェニル−2−プロパノール中のオキシム濃度は、4.0重量%以下であり、好ましくは3.5重量%以下である。
【0040】
工程(3)において、回収される2−フェニル−2−プロパノール中のオキシム濃度を4.0重量%以下とする方法としては、例えば、反応混合物から前記触媒を濾過やデカンテーション等により分離した後、液相を蒸留することにより、回収される2−フェニル−2−プロパノール中のオキシム濃度が4.0重量%以下となるようにオキシムと2−フェニル−2−プロパノールとを分離する方法、前記液相から2−フェニル−2−プロパノール中のオキシム濃度が4.0重量%以下となるように2−フェニル−2−プロパノールを抽出することによりオキシムと2−フェニル−2−プロパノールとを分離する方法、前記液相からオキシムを晶析させることにより2−フェニル−2−プロパノール中のオキシム濃度が4.0重量%以下となるようにオキシムと2−フェニル−2−プロパノールとを分離する方法、蒸留、抽出及び晶析のうち二つ以上を組み合わせて前記液相を処理することにより2−フェニル−2−プロパノール中のオキシム濃度が4.0重量%以下となるようにオキシムと2−フェニル−2−プロパノールとを分離する方法等が挙げられる。分離した触媒は、必要に応じて洗浄、焼成、ケイ素化合物による再接触等の処理が施された後、再使用することができる。また、反応混合物中に溶媒や、未反応のケトンや、未反応のアンモニアが含まれる場合、前記液相の蒸留等により回収された溶媒や、未反応のケトンや、未反応のアンモニアは工程(2)において再使用することができる。得られたオキシムは、ベックマン転位反応により対応するアミド化合物を製造するための原料として好適に使用される。
【0041】
本発明においては、工程(4)として、工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、触媒の存在下に水素化することによりクメンを得る。該2−フェニル−2−プロパノールを水素化してクメンを得る方法としては、(A)2−フェニル−2−プロパノールを水素化分解する方法、(B)2−フェニル−2−プロパノールを脱水した後、水添する方法が挙げられるが、得られるクメンの収率や触媒寿命の観点から、前記(B)の方法が好ましい。
【0042】
2−フェニル−2−プロパノールを水素化分解する場合、水素化分解反応は、触媒の存在下、2−フェニル−2−プロパノールと水素とを接触させることにより行われる。水素化分解反応においては、溶媒を使用してもよい。尚、工程(3)で得られるオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールが溶媒との混合物である場合、該溶媒を工程(4)の溶媒として使用してもよい。水素化分解反応は、液相反応条件下又は気相反応条件下に実施される。
【0043】
2−フェニル−2−プロパノールを脱水した後、水添する場合、工程(4)は、工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、脱水触媒の存在下に脱水することによりα−メチルスチレンを得る工程(4a)と、工程(4a)で得られたα−メチルスチレンを、水添触媒の存在下に水添してクメンを得る工程(4b)とから構成される。工程(4a)で使用される脱水触媒としては、例えば、硫酸、リン酸等の無機酸や、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸や、活性アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナ、ゼオライト等の固体酸等が挙げられるが、中でも、得られるα−メチルスチレンの選択性、反応後の分離の容易さ及び触媒寿命の観点から、固体酸が好ましく、固体酸の中でも、活性アルミナが好ましい。
【0044】
脱水反応は、2−フェニル−2−プロパノールと脱水触媒とを接触させることにより行われる。脱水反応においては、溶媒を使用してもよい。尚、工程(3)で得られるオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールが溶媒との混合物である場合、該溶媒を工程(4a)の溶媒として使用してもよい。脱水反応における反応温度は、通常50〜450℃、好ましくは150〜300℃であり、反応圧力は、通常0.01〜10MPaである。工程(4a)においては、工程(4b)で使用される水素を予め存在させ、α−メチルスチレンと水素とを工程(4b)に供してもよい。また、得られるα−メチルスチレンには、脱水反応により生成した水が含まれるが、そのまま工程(4b)に供してもよいし、水を分離してから工程(4b)に供してもよい。
【0045】
工程(4b)で使用される水添触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、銅等の金属又は金属の化合物を含む触媒が挙げられ、中でも、α−メチルスチレンの核水素化反応の抑制、得られるクメンの選択性の観点から、パラジウム又はその化合物を含む触媒、銅又はその化合物を含む触媒が好ましい。パラジウム又はその化合物を含む触媒としては、パラジウムが担体に担持されてなるパラジウム担持触媒が挙げられ、銅又はその化合物を含む触媒としては、銅が担体に担体に担持されてなる銅担持触媒が挙げられる。担体としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、活性炭等が挙げられる。水添触媒は必要に応じて2種以上を使用してもよい。
【0046】
水添反応は、水添触媒の存在下、α−メチルスチレンと水素とを接触させることにより行われる。水添反応においては、溶媒を使用してもよい。尚、工程(4a)で得られるα−メチルスチレンが溶媒との混合物である場合、該溶媒を工程(4b)の溶媒として使用してもよい。水添反応における反応温度は、通常0〜500℃、好ましくは30〜300℃であり、反応圧力は、通常0.1〜10MPaである。水添反応において使用される水素は、α−メチルスチレン1モルに対して、通常1〜10モル、好ましくは1〜5モルである。尚、脱水反応及び水添反応の両反応に対して触媒として作用する脱水/水添触媒を使用する場合、工程(4a)及び(4b)は一段階で行うことができる。
【0047】
工程(4a)の脱水反応及び工程(4b)の水添反応は、回分式で行ってもよく、半回分式で行ってもよく、連続式で行ってもよく、回分式、半回分式及び連続式の組み合わせで行ってもよい。中でも、連続式が好ましい。連続式の場合、触媒を充填した固定床反応器に反応原料を流通させる固定床流通方式で前記反応を行うのが、生産性及び操作性の点から望ましい。固定床流通方式での反応は、例えば、触媒が充填された固定床反応器に、反応原料を、必要に応じて溶媒とともに、アップフロー、ダウンフロー又はトリクル流にて供給することにより実施できる。脱水反応と水添反応は、それぞれ単独の固定床反応器を使用して実施してもよいし、同じ固定床反応器を使用して実施してもよい。
【0048】
本発明においては、工程(5)として、工程(4)で得られたクメンの少なくとも一部を工程(1)へリサイクルする。工程(1)〜(5)により、アンモオキシム化反応させる際に副生する2−フェニル−2−プロパノールを有効利用し、2−フェニル−2−プロパノールをクメンへと変換し、該クメンをクメンヒドロペルオキシドに変換して繰り返し使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実験例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。尚、反応液中の2−フェニル−2−プロパノール及びクメンの分析はガスクロマトグラフィーにより行い、この分析結果から、2−フェニル−2−プロパノールの転化率並びにクメンの選択率及び収率を算出した。
【0050】
実験例1
1Lのオートクレーブ(反応器)内に、シクロヘキサノンオキシムを3.0重量%の濃度で含有する2−フェニル−2−プロパノール10.29g、トルエン89.74g及びパラジウム/アルミナ触媒3.0gを入れ、該反応器内の気相部を窒素で置換した後、水素ガスで0.8MPa(ゲージ圧)まで加圧し、攪拌しながら200℃まで昇温した。昇温終了後、6時間反応を継続し、抜き出した反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−フェニル−2−プロパノールの転化率は99.6%であり、クメンの選択率は88.5%、クメンの収率は88.1%であった。
【0051】
実験例2
1Lのオートクレーブ(反応器)内に、シクロヘキサノンオキシムを5.0重量%の濃度で含有する2−フェニル−2−プロパノール10.50g、トルエン89.50g及びパラジウム/アルミナ触媒3.0gを入れ、該反応器内の気相部を窒素で置換した後、水素ガスで0.8MPa(ゲージ圧)まで加圧し、攪拌しながら200℃まで昇温した。昇温終了後、6時間反応を継続し、抜き出した反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、2−フェニル−2−プロパノールの転化率は19.3%であり、クメンの選択率は79.0%、クメンの収率は15.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(5)、
(1):クメンを酸化することによりクメンヒドロペルオキシドを得る工程、
(2):工程(1)で得られたクメンヒドロペルオキシドと、アンモニアと、ケトンとを、触媒の存在下、アンモオキシム化反応させることによりオキシム及び2−フェニル−2−プロパノールを含む反応混合物を得る工程、
(3):工程(2)で得られた反応混合物から、オキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを回収する工程、
(4):工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、触媒の存在下、水素化することによりクメンを得る工程、
(5):工程(4)で得られたクメンの少なくとも一部を工程(1)へリサイクルする工程、
を含むことを特徴とするオキシムの製造方法。
【請求項2】
工程(4)が下記工程(4a)及び(4b)、
(4a):工程(3)で得られたオキシム濃度が4.0重量%以下である2−フェニル−2−プロパノールを、脱水触媒の存在下、脱水することによりα−メチルスチレンを得る工程、
(4b):工程(4a)で得られたα−メチルスチレンを、水添触媒の存在下、水添してクメンを得る工程、
から構成され、工程(4b)で得られたクメンを工程(5)に付す請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(2)で使用される触媒がチタン及びケイ素酸化物を含む触媒である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ケトンが、シクロアルカノンである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
シクロアルカノンがシクロヘキサノンである請求項4に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−214441(P2012−214441A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−43085(P2012−43085)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】