説明

オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンを含有する医薬水溶液

本発明は、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリン、亜鉛塩及び緩衝塩を含有する安定した水溶液に関する。この水溶液は、粘膜のうっ血除去のための鼻への局所用投与に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリン、亜鉛塩及び緩衝塩を含有する安定した水溶液に関する。この水溶液は、粘膜のうっ血除去のために鼻への局所投与に特に適している。
【背景技術】
【0002】
オキシメタゾリン[6-tert-ブチル-3-(4,5-ジヒドロ-1-H-イミダゾール-2-イルメチル)-2,4-ジメチルフェノール]及びキシロメタゾリン[2-(4-tert-ブチル-2,6-ジメチルベンジル)-4,5-ジヒドロ-1-H-イミダゾール]は、鼻粘膜のうっ血除去に局所的に使用されることが好ましい血管収縮作用を有するイミダゾールα-交感神経様作用薬である。ここでは、特に水溶液が使用される。
オキシメタゾリン及びキシロメタゾリンは、水溶液中では不安定である。オキシメタゾリン及びキシロメタゾリンは、それらの塩酸塩の形で水溶液中でより安定しているが、それらの貯蔵時に、特にイミダゾール環の加水分解性切断のための、望ましくない活性化合物の加水分解性分解も、特に上昇した温度で生じる。医薬品としてのこの水溶液の使用に対する有害な副作用のリスクに関連することがある望ましくない分解産物は、活性化合物液滴の成分を形成する。概して、この水溶液の貯蔵寿命は短縮される。
【0003】
イミダゾリン環の加水分解性切断の結果として、水溶液中のオキシメタゾリン及びキシロメタゾリンは、特に各々、N-(2-アミノエチル)-2-[4-(1,1-ジメチルエチル)-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルフェニル]-アセトアミド及びN-(2-アミノエチル)-2-[4-(1,1-ジメチルエチル)-2,6-ジメチルフェニル]アセトアミドを形成する。これらの分解産物は、欧州薬局方(European Pharmacopoeia)2003においてこれらの活性化合物に関連する各条においては不純物としても記載されている。
【0004】
オキシメタゾリン及びキシロメタゾリンの加水分解性分解は、非水性溶媒、例えば油又は有機溶媒が、水性溶媒の代わりに使用される場合に、防ぐことができる。しかし、油は比較的高粘度であり、かつ親水性表面を湿らせる能力が悪く、このことは経鼻投与の場合に鼻粘膜上に存在する活性化合物の優れた分布の障害となる。有機溶媒は通常、毒性上許容できず、及び/又は鼻粘膜への刺激を生じる。非水性製剤も、それらの粘度、又は包装材料及び分配システム、特にプラスチックで製造されたものとの可能性のある相互作用のために、活性化合物の溶液の開発に余り適していないように見える。これは、鼻科用物質について広範に使用されている、プラスチックで製造されたスプレーボトルに特に当てはまる。
【発明の開示】
【0005】
本発明の目的は、安定性が増加したオキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンの水溶液を提供することであった。特に、イミダゾリン環の開裂の結果としての加水分解性分解を減少することが目的であった。
驚くべきことに、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンを含有する安定した水溶液は、これがオキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンに加え、亜鉛塩及び緩衝塩を含有する場合に得ることができることがわかった。従って本発明は、少なくともオキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリン、亜鉛塩及び緩衝塩を含む水溶液に関する。
本発明の目的に関して、存在する溶媒の少なくとも一部が水からなる場合に、水溶液が存在する。存在し得る更なる溶媒の構成物質は、経鼻投与に適している全ての溶媒、特にアルコール、例えばエタノール、プロパノール、プロパンジオール又はグリセロールである。この水溶液は好ましくは、溶媒として水又はエタノール/水混合液を含み、この溶媒は水からなることが特に好ましい。
【0006】
本発明の水溶液中で、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンは、好ましくはその医薬として容認された塩のひとつの形で、例えば塩酸塩又は硝酸塩として存在する。オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンは、各々塩酸塩として存在することが特に好ましい。各場合において本特許出願に含まれたオキシメタゾリン又はキシロメタゾリンの量のデータはいずれも、対応する塩酸塩に関連している。硝酸オキシメタゾリン又は硝酸キシロメタゾリンのその他の塩の形は、各々の塩酸塩に対応する等モル量で使用される。
亜鉛塩としては、本発明において、全ての医薬として許容できる亜鉛塩を使用することができる。塩化亜鉛、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛、クエン酸亜鉛、酢酸亜鉛、ヒスチジン酸亜鉛、オロチン酸亜鉛、アスパラギン酸亜鉛及び/又はグルコン酸亜鉛が、好ましい。存在する亜鉛塩は、グルコン酸亜鉛が特に好ましい。
【0007】
本発明の目的のための緩衝塩は、弱酸の強塩基との塩、又は弱塩基の強酸との塩であり、これは水溶液中で完全に解離し、かつ各塩を形成する酸又は塩基の存在下で、緩衝システムを形成する。本発明に従い使用することができる緩衝塩は、例えば、酢酸もしくはクエン酸、又はホウ酸などの医薬として有用な有機又は無機の弱酸、アルカリ金属塩、特にナトリウム及び/又はカリウム塩である。存在する緩衝塩はクエン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0008】
本発明の有利な態様に従い、水溶液は、医薬として許容できる酸又は塩基を更に含む。この存在する酸又は塩基は、本発明の水溶液の他の構成成分と不相溶性を生じないような医薬として許容できる酸又は塩基のいずれかであることができる。存在する酸は、好ましくは緩衝塩を形成する各酸、すなわち緩衝塩中に存在するアニオンの酸形であり、又は存在する塩基は、好ましくは緩衝塩を形成する塩基、すなわち緩衝塩中に存在するカチオンの塩基形である。例えば本発明の水溶液は、緩衝塩クエン酸ナトリウムに加え、クエン酸(すなわち緩衝塩中にアニオンとして存在する酸形態のクエン酸イオン)を含んでもよく、またはNaOH(すなわち緩衝塩中にカチオンとして存在する塩基形態のナトリウムイオン)を含んでもよい。
本発明の水溶液は、経鼻投与のために、この目的に適した分配装置、例えば滴下装置を備えたボトル又は鼻用スプレーポンプなどによる、例えば点鼻又は鼻内噴霧などの経鼻投与に適している全ての剤形において適用することができる。
【0009】
本発明の有利な態様に従い、水溶液は、pH4〜pH7.5のpH、好ましくはpH5.0〜pH7.2のpH、特に好ましくは約pH6.0のpHを有する。このpHはここでは、緩衝塩に対応する酸もしくは塩基の添加及び/又は別の生理学的に容認された酸もしくは塩基の添加により、正確に設定することができる。例えばクエン酸ナトリウム-含有溶液の望ましいpHは、この緩衝塩中に存在するアニオンの酸形の添加により、すなわちクエン酸の添加によるか、もしくはこの緩衝塩中に存在するカチオンの塩基形の添加により、すなわちNaOHの添加によるか、及び/又は別の酸もしくは塩基の添加、特に塩酸もしくは水酸化ナトリウム溶液の添加により、設定することができる。
【0010】
水溶液の鼻粘膜への投与に対し容認される能力を改善するために、これを等張液として製剤することは利点である。等張性は、約280mOsmの浸透圧モル濃度で存在する。この浸透圧モル濃度は、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリン以外に水溶液中に存在する溶解した物質、亜鉛塩、緩衝塩及び更に存在するいずれかの物質の量の変動によるか、並びに/又は、等張化剤、好ましくは生理的に容認された塩、例えば塩化ナトリウムもしくは塩化カリウムなど、又は生理的に容認されたポリオール、例えば糖アルコール、特にソルビトールもしくはグリセロールなどの、等張とするために必要な濃度での添加により調節することができる。浸透圧モル濃度は、等張化剤の添加は不要であるように、いずれにしても水溶液中に存在する溶解した物質の量を選択することにより、設定されることが好ましい。
【0011】
本発明の水溶液は、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンを、濃度0.005質量%〜1.0質量%で含有する。オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンは、好ましくは濃度0.01質量%〜0.5質量%で存在し、特に濃度0.05質量%〜0.1質量%の間を変動することが好ましい。
本発明の水溶液は、亜鉛塩を、0.1質量%〜10質量%の割合で含有する。亜鉛塩は好ましくは、1.8〜6.0質量%の割合で存在する。緩衝塩は、0.01質量%〜3.0質量%の割合で存在する。緩衝塩は好ましくは、0.2〜1.5質量%の割合で存在する。
【0012】
有利な態様に従い、本発明の水溶液は、塩酸オキシメタゾリン又は塩酸キシロメタゾリンを0.005質量%〜0.1質量%、グルコン酸亜鉛を1質量%〜10質量%、及びクエン酸塩を0.5質量%〜5質量%含有し、並びにpHが約6である。
本発明の有利な態様に従い、水溶液は、ただ1種の活性化合物オキシメタゾリン及びキシロメタゾリンをその塩酸塩の形で含有する。
下記実施例は、本発明を説明しているが、これらに限定されるものではない。
【0013】
実施例1
塩酸オキシメタゾリン 2.625g
グルコン酸亜鉛 300.00g
NaOH、1モル/L 51.20ml
クエン酸ナトリウム 41.440g
注射用水 4604.735g
pH 5.99
浸透圧モル濃度 280mOsm/L
【0014】
調製プロセス
注射用水を最初に投入する。秤量された物質を、少しずつ攪拌しながら添加し、溶解する。完成した溶液は、0.2μm滅菌フィルターを通して濾過し、この目的のために提供された容器に移す。
【0015】
実施例2
塩酸オキシメタゾリン 2.625g
グルコン酸亜鉛 200g
NaOH 1モル/L 32ml
クエン酸ナトリウム 65.94g
注射用水 4699.435g
pH 6.00
浸透圧モル濃度 280mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0016】
実施例3
塩酸オキシメタゾリン 2.625g
グルコン酸亜鉛 90.0g
クエン酸 2.140g
クエン酸ナトリウム 105.84g
注射用水 4799.395g
pH 6.00
浸透圧モル濃度 280mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0017】
実施例4(亜鉛塩を含まない比較例)
塩酸オキシメタゾリン 2.625g
クエン酸 8.480g
クエン酸ナトリウム 144.100g
注射用水 4844.795g
pH 5.99
浸透圧モル濃度 291mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0018】
実施例5
塩酸キシロメタゾリン 1.000g
グルコン酸亜鉛 60.00g
NaOH、1モル/L 10.24ml
クエン酸ナトリウム 8.288g
注射用水 954.0g
pH 6.0
浸透圧モル濃度 290mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0019】
実施例6
塩酸オキシメタゾリン 0.500g
グルコン酸亜鉛 60.00g
NaOH、1モル/L 22.0ml
クエン酸ナトリウム 8.288g
注射用水 942.1g
pH 7.0
浸透圧モル濃度 302mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0020】
実施例7
塩酸オキシメタゾリン 0.500g
グルコン酸亜鉛 60.00g
クエン酸 1.441g
クエン酸ナトリウム 8.288g
注射用水 963.7g
pH 5.0
浸透圧モル濃度 302mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0021】
実施例8
塩酸オキシメタゾリン 0.525g
グルコン酸亜鉛 60.00g
酢酸ナトリウム 9.935g
注射用水 959.5g
pH 6.0
浸透圧モル濃度 285mOsm/L
この水溶液は、実施例1と同様に調製する。
【0022】
本発明の製剤の安定性を、ストレス試験において試験した。この目的のために、実施例1の溶液を含む容器、及び比較目的で実施例4の溶液を含む容器を、30℃及び相対湿度(RH)65%、並びに40℃及びRH75%で貯蔵した。貯蔵前及び52週又は26週貯蔵後に、オキシメタゾリン含量の測定及び同じくそれらの分解産物の測定の両方のために、二つの容器を取り出し、かつ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い調べた。
HPLCクロマトグラフィー試験は、溶離液として緩衝液pH2.5/アセトニトリルの828/172(v/v)を用い行った。カラム:LiChrospher(登録商標)100CN、検出215nm。
安定性試験の結果を、表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
これらの結果は、本発明の製剤は、亜鉛を伴わない比較溶液に比べ、有意に増加した安定性を有することを明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともオキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリン、亜鉛塩及び緩衝塩を含有する、医薬水溶液。
【請求項2】
存在する活性化合物が、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンの、その塩酸塩の形であることを特徴とする、請求項1記載の医薬水溶液。
【請求項3】
存在する亜鉛塩が、塩化亜鉛、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛、クエン酸亜鉛、酢酸亜鉛、ヒスチジン酸亜鉛、オロチン酸亜鉛、アスパラギン酸亜鉛及び/又はグルコン酸亜鉛であることを特徴とする、請求項1又は2記載の医薬水溶液。
【請求項4】
存在する亜鉛塩が、グルコン酸亜鉛であることを特徴とする、請求項3記載の医薬水溶液。
【請求項5】
存在する緩衝塩が、クエン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜4の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項6】
1種又は複数の酸又は1種又は複数の塩基が、更に存在することを特徴とする、請求項1〜5の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項7】
存在する酸が、緩衝塩を形成する各酸、すなわち緩衝塩中に存在する酸形態のアニオンであるか、又は存在する塩基は、緩衝塩を形成する塩基、すなわち緩衝塩中に存在する塩基形態のカチオンであることを特徴とする、請求項6記載の水溶液。
【請求項8】
溶液が、pH4〜pH7.5のpHを有することを特徴とする、請求項1〜7の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項9】
溶液が、pH5.0〜pH7.2のpH、特に約pH6.0のpHを有することを特徴とする、請求項8記載の医薬水溶液。
【請求項10】
溶液が、浸透圧モル濃度約280mOsmを有することを特徴とする、請求項1〜9の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項11】
オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンが、濃度0.005質量%〜1.0質量%で存在することを特徴とする、請求項1〜10の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項12】
オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンが、濃度0.01質量%〜0.5質量%、特に濃度0.05質量%〜0.1質量%で存在することを特徴とする、請求項11記載の医薬水溶液。
【請求項13】
亜鉛塩が、濃度0.1質量%〜10質量%で存在することを特徴とする、請求項1〜12の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項14】
緩衝塩が、濃度0.01質量%〜3質量%で存在することを特徴とする、請求項1〜13の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項15】
溶液が、オキシメタゾリン及び/又はキシロメタゾリンを約0.005質量%〜0.1質量%、グルコン酸亜鉛を1質量%〜10質量%、及びpH約6.0を有するクエン酸緩衝液を含有することを特徴とする、請求項1〜14の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項16】
唯一の活性化合物であるオキシメタゾリン及びキシロメタゾリンが、その塩酸塩の形で存在することを特徴とする、請求項1〜15の1項又は複数項に記載の医薬水溶液。
【請求項17】
鼻粘膜の局所的うっ血除去のための、請求項1〜16の1項又は複数項に記載の医薬水溶液の使用。

【公表番号】特表2007−501817(P2007−501817A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522915(P2006−522915)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007780
【国際公開番号】WO2005/018601
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】