説明

オキシメチレン共重合体多層繊維

【課題】加工時の前処理として施される繊維の捲縮性を良好なものとし、熱収縮、熱変形を抑制しながら加熱接着処理による繊維同士、又は他のオキシメチレン共重合体材料との接着性を向上させることが可能となるオキシメチレン共重合体からなる繊維の提供。
【解決手段】繊維の断面構造が少なくとも2層を有し、何れの層も繊維表面に露出した構造の2種のオキシメチレン共重合体の多層繊維であって、それぞれの層はコモノマー量の異なる2種のオキシメチレン共重合体からなる。(R 、R´は同一または異種の水素原子、アルキル基もしくはアルキル基を有する有機基、又はフェニル基もしくはフェニル基を有する有機基を示す。mは2〜6の整数を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の融点差を有する複数のオキシメチレン共重合体からなる多層繊維であり、更には、これを所定の条件で処理、加工することで得られる構造体に関する。更に詳しくは、加工時の前処理として施される繊維の捲縮性を良好なものとし、同一繊維中に低融点のオキシメチレン共重合体からなる層を表面に露出させることで、加熱接着処理による繊維同士、もしくは他のオキシメチレン共重合体材料との接着性を向上させるだけでなく、加熱処理時の熱履歴を穏やかにすることで熱収縮、熱変形を抑制することが可能となる。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境問題に対して、産業廃棄物が環境を汚染することを防止するために、焼却処理の際に必要な熱量やCO発生量の削減が注目されており、材料の回収、リサイクルについての関心は益々高まっている。
【0003】
オキシメチレン共重合体は、脂肪族エーテル型、もしくは脂肪族エーテルを主成分としたポリマーであり、主として石油に依存しない原料であるメタノールから誘導され、環境負荷の低い材料と考えられる。剛性などの機械的特性も高く、エンジニアリングプラスチックスとして現在、広く使用される優れた材料である。
【0004】
オキシメチレン重合体、及び共重合体の繊維化検討は長い歴史があり、超延伸による超高強度繊維の開発も活発に行われていた(非特許文献1参照)。しかし、その結晶化特性に起因して工業的に繊維に加工することが難しく、また汎用的に得られる繊維の強度がポリエステルやナイロンの汎用繊維と比較して大きいメリットを生み出すことが期待できなかったため市場に広まることが無かった。
【0005】
しかし、近年、オキシメチレン共重合体としての耐薬品性、耐磨耗性などに注目し、従来の射出成形、押出成形に留まらず、延伸材料として繊維、及びそれから得られる構造体の新しい用途開拓が進んでいる。紡糸、延伸加工による繊維化技術の向上に留まらず、2次加工のための技術向上が求められている。
【0006】
2次加工のためにオキシメチレン共重合体からなる材料を接着させる方法が必要となる。一般的にオキシメチレン共重合体からなる材料の表面は化学的に不活性なため、従来の射出、押出成形品においては、超音波融着による接着や、オキシメチレン共重合体表面を予め粗化、電子線やプラズマ処理で改質したうえでシアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤を用いる方法が知られている。前者はその工程や設備が複雑であるうえ、適用できる対象も限られている。また、後者のようにオキシメチレン共重合体と異なる成分からなる接着剤を用いれば、オキシメチレン共重合体からなる繊維同士を接着させることが可能であるが、十分な接着効果が得られないだけでなく、リサイクル性の点で、オキシメチレン共重合体と別の成分を使用するという問題がある。一方、同系の非晶性オキシメチレン共重合体(特許文献1)、低融点のオキシメチレン共重合体(特許文献2参照)の適用も提案されているが、前者についてはその接着強度が十分でない上に、非晶性共重合体の融点が低く、接着後の耐熱性や耐溶剤性に劣り、実用性は不十分でなものであった。後者は、前者よりも接着強度が大幅に改良され、接着成分の耐熱性が上がっているものの、未だ接着後に従来のオキシメチレン重合体と同じ環境で使用するには耐熱性に劣っている。これらはオキシメチレン共重合体繊維の接着についても全く同様のことが言える。
【0007】
オキシメチレン共重合体からなる繊維同士を接着させるために、高融点のオキシメチレン共重合体からなる層を芯に、低融点のオキシメチレン共重合体からなる層を鞘とした、芯鞘繊維が提案されている(特許文献3参照)。これによれば確かに繊維同士を接着させることができるが、加熱処理による他の悪影響については全く考慮されていない。
【0008】
【非特許文献1】Polymer Enginnering and Science,Oct.,1974,Vol.14,No.10,p.682−686
【特許文献1】特開平1−132638号公報
【特許文献2】特開平8−60125号公報
【特許文献3】特開2006−9205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
オキシメチレン共重合体繊維は適当な倍率に延伸加工しているために結晶化配向が生じており、接着のために与える熱履歴が大きいと熱収縮が予想以上に大きく、更には材料側の溶融が無視できなくなり、形状を正確に維持した構造体が製造できない。更に、得られた繊維を2次加工して構造体とする際、前加工で捲縮を行う際にも、繊維の構造によって捲縮性が制御できず、生産性に問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の融点差を有する複数のオキシメチレン共重合体からなる多層繊維を用いることで、加工時の前処理として施される繊維の捲縮性を良好なものとし、熱収縮、熱変形を抑制しながら、加熱接着処理による繊維同士、もしくは他のオキシメチレン共重合体材料との接着性を向上させることが可能となることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は以下に示すオキシメチレン共重合体多層繊維に関するものである。
1.繊維の断面構造が少なくとも2層を有し、何れの層も繊維表面に露出した構造であるオキシメチレン共重合体の多層繊維であって、下記一般式(1)で示されるトリオキサンと該トリオキサン100重量部に対し0.5〜30.0重量部の1種以上のコモノマーとから得られるオキシメチレン共重合体(A)からなる層と、下記一般式(1)で示されるトリオキサンと該トリオキサン100重量部に対し5.0〜50.0重量部の1種以上のコモノマーとから得られるオキシメチレン共重合体(B)からなる層を有するオキシメチレン共重合体多層繊維。
【0012】
【化1】

(式中、R 、R0’は同一または異種の水素原子、アルキル基もしくはアルキル基を有する有機基、又はフェニル基若しくはフェニル基を有する有機基を示す。mは2〜6の整数を示す。)。
2. オキシメチレン共重合体(A)の融点と、オキシメチレン共重合体(B)の融点差が5〜50℃であることを特徴とする1に記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
3. 融点差が10〜30℃である2に記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
4. コモノマーが1,3−ジオキソラン及びその誘導体、1,3−ジオキセパン及びその誘導体、1,3,5−トリオキソカン及びその誘導体、並びに単官能グリシジルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種以上である1に記載のオキシメチレン共重合体。
5. オキシメチレン共重合体(B)が、200℃で3分間保持したあと、150℃で冷却した際の1/2結晶化時間が100秒以上である1〜4何れかに記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
6. 上記1〜5何れかに記載の多層繊維を2次加工して得られる構造体。
7. 上記1〜5何れかに記載の多層繊維を、共重合物(A)の融点より5℃低い温度以下、且つ、共重合物(B)の融点よりも20℃低い温度以上の範囲で加熱接着させて得られる構造体。
8.上記1〜5何れかに記載の多層繊維を用いて得られた不織布、フィルター、ロープ、編物又は組物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、特定の融点差を有する複数のオキシメチレン共重合体からなる多層繊維を用いることで、加工時の前処理として施される繊維の捲縮性を良好なものとし、熱収縮、熱変形を抑制しながら、加熱接着処理による繊維同士、もしくは他のオキシメチレン共重合体材料との接着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるオキシメチレン共重合体(A)としては、下記一般式(1)で示されるようなトリオキサンと該トリオキサン100重量部に対し0.5〜30.0重量部の1種以上の環状ホルマールまたは環状エーテルのオキシメチレン共重合体である。
【0015】
【化2】

(式中、R 、R0’は同一または異種の水素原子、アルキル基もしくはアルキル基を有する有機基、又はフェニル基若しくはフェニル基を有する有機基を示す。mは2〜6の整数を示す。)。
【0016】
一方、オキシメチレン共重合体(B)としては、同じく前述の一般式(1)で示されるものであるが、但し、トリオキサンと該トリオキサン100重量部に対し5.0〜50.0重量部の1種以上の環状ホルマールまたは環状エーテルの共重合体であり、オキシメチレン共重合体(A)に対して融点が5〜50℃低いことを特徴とする。更に好ましくは、10〜30℃の融点差を持つことが好ましい。これより融点差が小さい場合には、接着させるための温度がオキシメチレン共重合体(A)の融点に極めて近くなるため、オキシメチレン共重合体(A)を含む材料の熱収縮が大きくなるばかりでなく、熱変形、更には溶融して形状を損なう恐れがある。逆に融点差が大きい場合には前述のように接着後の耐熱性が劣り、過大の場合には十分な接着強度が得られない。
【0017】
多層繊維の層構造としては、同一繊維中、その断面に、何れも繊維表面に露出した2つ以上の層を有し、その層を構成する成分が、少なくとも上記のオキシメチレン共重合体(A)と(B)の2成分からなることを特徴とする。表面への露出割合は、特に限定されないが、融点が低く、2次加工時に接着層として機能するオキシメチレン共重合体(B)成分の露出割合が高いほど接着強度は良好なものとなる。そのため、オキシメチレン共重合体(B)成分を各々分かれた複数層として形成させてもよい。しかし、(B)の露出割合が、全体の100%を占め、いわゆる芯鞘構造をとった場合には、接着強度は良好であるが、巻縮性に劣る繊維となってしまうため、適度に(A)と(B)成分を露出させ、繊維断面における多層構造が中央部を中心とした対称形にならないようにすることが重要である。その方法は、同時に2つ以上の押出機で各々のオキシメチレン共重合体を可塑化させ、ノズル部にて合流させて多層構造を形成させても良いし、1成分以上で繊維を紡糸した後に、その表面を他の1つ以上の成分によって一定の割合でコーティングすることも可能である。
【0018】
接着条件は、オキシメチレン共重合体(A)の融点未満、且つ、接着成分として用いるオキシメチレン共重合体(B)の融点より20℃低い温度以上の範囲で加熱接着処理が好ましい。これよりも温度が高いと繊維全体の熱収縮が大きくなるばかりでなく、熱変形、更には溶融して繊維形態を損なう恐れがある。逆にこれよりも低い場合には、十分な接着強度が得られないか、全く接着させることができない。
【0019】
オキシメチレン共重合体(A)、及びオキシメチレン共重合体(B)に用いられるコモノマーとしては、従来より知られる環状エーテルおよび環状ホルマールが挙げられる。その中でも1,3−ジオキソラン及びその誘導体、1,3,5−トリオキセパン及びその誘導体、1,3,5−トリオキソカン及びその誘導体、並びに単官能グリシジルエーテルが好適に用いられる。
【0020】
尚、本発明のオキシメチレン共重合体は、本発明の本来の目的を損なわない範囲内で公知の添加剤や充填剤を添加することが可能である。添加剤としては、例えば結晶核剤、酸化防止剤、可塑剤、艶消し剤、発泡剤、潤滑剤、離型剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、消臭剤、難燃剤、摺動剤、香料、抗菌剤等が挙げられる。また、充填剤としてはガラス繊維、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウィスカー等が挙げられる。さらに、顔料、染料を加えて所望の色目に仕上げることも可能である。また、各種モノマー、カップリング剤、末端処理剤、その他の樹脂、木粉、でんぷんなどを加えて変性することも可能である。
【0021】
更に、オキシメチレン共重合体多層繊維中には、本発明の本体の目的を損なわない範囲内で公知の材料を含有させることが可能である。例えば、他の熱可塑性樹脂からなる層、連続的な長繊維などを強化材として含有させることも可能である。
【0022】
本発明のオキシメチレン共重合体複合繊維の2次加工については、特に限定はないが、該繊維をマルチフィラメントもしくはモノフィラメントとしてそのまま用いるか、ステープル状とした後に、例えば紡績糸として用いても良く、これら繊維同士を用いたロープ、網、織物、編物、不織布、フィルターなどが構造体として挙げられ、更にそれら構造体同士、もしくはオキシメチレン共重合体の射出成形品や押出成形品などといった新たに形状の異なるオキシメチレン共重合体と組み合わせて高度な構造体を形成していくことも可能である。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0024】
尚、実施例で使用した材料、融点の測定法、及び接着方法、捲縮処理の方法と合否基準を以下に示す。
<材料>
オキシメチレン共重合体(A)として、172℃の融点を有する三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製 ユピタールA40(a)及び168℃の融点を有するユピタールF40(b)を用いた。
オキシメチレン共重合体(B)として、155℃の融点を有する三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製 ユピタール、V40(c)を用いた。
表1に記載のとおり、半円状で左右対称になるように多層繊維を溶融紡糸し、連続的に4倍延伸を行った。
<融点の測定>
10℃/分の速度で、30℃から210℃まで昇温し、示差熱走査熱量法(DSC)により溶融ピーク温度として測定した。
<接着方法及び判定基準>
オキシメチレン共重合体(A)及びオキシメチレン共重合体(B)からなる多層構造を有するマルチフィラメントを10cm長に切断したものを鉄板の上に交差するように配置し、もう1つの鉄板で挟みこんだ。これを表1に記載の温度に予め加熱した油圧式ホットプレス装置によって、所定時間加熱、加圧条件下で熱接着処理を施した。処理後、オキシメチレン重合体(A)とオキシメチレン共重合体(B)との接着状態を目視で確認した。更には、処理後の繊維長さを測定し、処理前後での熱収縮率を測定した。
<捲縮処理>
押込法により120℃で加熱しながら捲縮加工を行った。処理後に目視で捲縮のかかり具合を評価した。
【0025】
〈実施例1〜6〉
表1に示す条件で、オキシメチレン共重合体(A)とオキシメチレン共重合体(B)とからなる多層繊維を作成した。評価結果も表1に示した。
【0026】
〈比較例1〜5〉
表1に示す条件で、オキシメチレン共重合体(A)とオキシメチレン共重合体(B)とからなる多層繊維を作成した。評価結果も表1に示した。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の断面構造が少なくとも2層を有し、何れの層も繊維表面に露出した構造であるオキシメチレン共重合体の多層繊維であって、下記一般式(1)で示されるトリオキサンと該トリオキサン100重量部に対し0.5〜30.0重量部の1種以上のコモノマーとから得られるオキシメチレン共重合体(A)からなる層と、下記一般式(1)で示されるトリオキサンと該トリオキサン100重量部に対し5.0〜50.0重量部の1種以上のコモノマーとから得られるオキシメチレン共重合体(B)からなる層を有するオキシメチレン共重合体多層繊維。
【化1】


(式中、R 、R0’は同一または異種の水素原子、アルキル基もしくはアルキル基を有する有機基、又はフェニル基もしくはフェニル基を有する有機基を示す。mは2〜6の整数を示す。)。
【請求項2】
オキシメチレン共重合体(A)の融点と、オキシメチレン共重合体(B)の融点差が5〜50℃であることを特徴とする請求項1に記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
【請求項3】
融点差が10〜30℃である請求項2記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
【請求項4】
コモノマーが1,3−ジオキソラン及びその誘導体、1,3−ジオキセパン及びその誘導体、1,3,5−トリオキソカン及びその誘導体、並びに単官能グリシジルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
【請求項5】
オキシメチレン共重合体(B)が、200℃で3分間保持したあと、150℃で冷却した際の1/2結晶化時間が100秒以上である請求項1〜4何れか1項に記載のオキシメチレン共重合体多層繊維。
【請求項6】
請求項1〜5何れか1項に記載の多層繊維を2次加工して得られる構造体。
【請求項7】
請求項1〜5何れか1項に記載の多層繊維を、共重合物(A)の融点より5℃低い温度以下、且つ、共重合物(B)の融点よりも20℃低い温度以上の範囲で加熱接着させて得られる構造体。
【請求項8】
請求項1〜5何れか1項に記載の多層繊維を用いて得られた不織布、フィルター、ロープ、編物又は組物。

【公開番号】特開2008−138331(P2008−138331A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327655(P2006−327655)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】