説明

オキセタン化合物およびその製造法

【課題】高屈折率を有する硬化樹脂を提供すること。
【解決手段】下記一般式


(式中、各記号は明細書に記載の通りである。)で表されるオキセタン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化樹脂の材料として有用なオキセタン化合物、および該オキセタン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化樹脂は種々の硬化剤で硬化させることにより、一般的に機械的性質、耐水性、耐薬品性、耐熱性、電気的性質などに優れた硬化物となり、接着剤、塗料、積層板、成形材料、注型材料などの幅広い分野に利用されている。また、近年では眼鏡などのレンズにも、その軽量性、強靭性を利用して硬化性プラスチックが用いられる傾向がある。このような光学的な用途においては硬化物の屈折率は高くなければならない。
高屈折率の硬化物を与える硬化樹脂としてはナフタレン系のエポキシ樹脂が公知であるが、感作性・変異原性といった健康被害の問題がある(特許文献1)。またエポキシ樹脂に一般的な硬化収縮、カチオン硬化における連鎖移動による物性の低下および硬化速度の低さが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3062822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高屈折率性を有し、かつ成形性および物性制御性に優れ、充分な硬化速度を有する樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、鋭意検討した結果、一般に硬化収縮が小さく、連鎖移動が小さく、かつ健康被害が小さいことが知られるオキセタン構造を有する化合物について、高屈折率の硬化物を与える化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]下記一般式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、
Rは、同一または異なって、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基;
Xは、同一または異なって、それぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基、
Yは、芳香族炭化水素環、または
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、
環Aおよび環Bは、同一または異なって、それぞれ芳香族炭化水素環;
Zは、単結合またはスペーサーを示す。)
で表される多環構造を示す。]
で表されるオキセタン化合物(以下、化合物(I)と略記する場合がある)。
[2]下記一般式(II)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、Halは、同一または異なって、それぞれハロゲン原子を示し、その他の記号は上記[1]と同意義を示す。)
で表されるジカルボン酸ハロゲン化物(以下、ジカルボン酸ハロゲン化物(II)と略記する場合がある)を、下記一般式(III)
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rは上記[1]と同意義を示す。)
で表されるオキセタン環含有アルコール(以下、オキセタン環含有アルコール(III)と略記する場合がある)と縮合させることを含む、下記一般式(I)
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、各記号は上記[1]と同意義を示す。)
で表されるオキセタン化合物の製造方法。
[3]一般式(II)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物が、下記一般式(IV)
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、Yは上記[1]と同意義を示す。)
で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物(以下、芳香族テトラカルボン酸二無水物(IV)と略記する場合がある)を、下記一般式(V)
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、Xは上記[1]と同意義を示す。)
で表されるα−アミノ酸またはその塩(以下、α−アミノ酸(V)と略記する場合がある)と反応させて得ることを特徴とする、上記[2]記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本明細書で用いられる各記号の定義について詳述する。
Rで示される「炭素数1〜5のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられ、好ましくはエチル基である。
【0022】
一般式(I)において、2つのRは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
2つのRは、好ましくは、共にエチル基である。
【0023】
Xで示される「置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基」の「炭素数1〜5のアルキル基」としては、前述のRで示される「置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル」の「炭素数1〜5のアルキル基」と同様のものが挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基である。
該「炭素数1〜5のアルキル基」は置換可能な任意の位置に1または2個の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、
(a)−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(b)−CO−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(c)−CO−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(d)−SR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(e)−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、またはアミノ基およびイミノ基(=NH)から選択される1または2個の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(f)ヒドロキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基、
(g)炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基等が挙げられる。
【0024】
〜Rで示される「炭素数1〜4のアルキル基」、および、RもしくはRで示される「アミノ基およびイミノ基(=NH)から選択される1または2個の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基」の「炭素数1〜4のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0025】
上記「ヒドロキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基」の「炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基」としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられ、好ましくは、フェニル基である。
【0026】
該「炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基」が有していてもよい置換基としての「炭素数1〜4のアルコキシ基」としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0027】
上記「炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基」の「芳香族複素環基」とは、環を構成する原子として、炭素原子の他に、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1〜4個のヘテロ原子を有し、環を構成する原子の数が5〜14員の芳香族複素環基であり、単環式芳香族複素環基および縮合環式芳香族複素環基を含む。
【0028】
該「単環式芳香族複素環基」としては、例えば、チエニル基、フリル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、ピリジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基等が挙げられる。
【0029】
該「縮合環式芳香族複素環基」としては、例えば、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリニル基、キノキサリル基、フタラジニル基、シンノリニル基、ナフチリジニル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、インドリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾジオキシニル基、ベンゾチアゾリル基、テトラヒドロキノリル基、ジヒドロベンゾフラニル基、ジヒドロベンゾチエニル基、ジヒドロベンゾジオキシニル基、インデノチアゾリル基、テトラヒドロベンゾチアゾリル基、5,7−ジヒドロピロロ[3,4−d]ピリミジニル基、6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタピリミジニル基、イミダゾ[2,1−b]チアゾリル基、プテリジニル基、プリニル基等が挙げられる。
【0030】
該「芳香族複素環基」が有していてもよい置換基としての「炭素数1〜4のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0031】
「炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基」としては、それぞれ環を構成する窒素原子上に炭素数1〜4のアルキル基を有していてもよい、イミダゾリル基、インドリル基が好ましい。
【0032】
Xは、好ましくは、水素原子または
(a)−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(b)−CO−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(c)−CO−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(d)−SR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(e)−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、またはアミノ基およびイミノ基(=NH)から選択される1または2個の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(f)ヒドロキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基、および
(g)炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基
から選択される1または2個の置換基で置換されていてもよい炭素数1〜5のアルキル基であり、
より好ましくは、水素原子または
(a)−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(b)−CO−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(c)−CO−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(d)−SR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(e)−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、またはアミノ基およびイミノ基(=NH)から選択される1または2個の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(f)ヒドロキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基、または
(g)それぞれ環を構成する窒素原子上に炭素数1〜4のアルキル基を有していてもよい、イミダゾリル基、インドリル基
で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基)である。
さらに好ましくは、水素原子である。
【0033】
一般式(I)において、2つのXは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
2つのXは、好ましくは、共に水素原子である。
【0034】
Yで示される「芳香族炭化水素環」とは、6〜30員の芳香族炭化水素環であり、単環および縮合環を含む。
該「単環式芳香族炭化水素環」としては、ベンゼン環等が挙げられる。
該「縮合環式芳香族炭化水素環」としては、ナフタレン環等が挙げられる。
これらの環は、4つの結合手を有し、それぞれがカルボニル基と結合する。
【0035】
環Aまたは環Bで示される「芳香族炭化水素環」とは、6〜30員の芳香族炭化水素環であり、単環および縮合環を含む。
該「単環式芳香族炭化水素環」としては、ベンゼン環等が挙げられる。
該「縮合環式芳香族炭化水素環」としては、ナフタレン環等が挙げられる。
【0036】
環Aおよび環Bは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。より好ましくは、共にベンゼン環である。
環Aおよび環Bは、合わせて4つの結合手を有し、それぞれがカルボニル基と結合する。好ましくは、該4つの結合手は、環Aおよび環Bに2つずつ存在する。
【0037】
Zが「単結合」であるとは、Zが存在しないことを意味する。この場合、環Aおよび環Bは単結合により直接結合される。
【0038】
Zで示される「スペーサー」としては、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基、−CO−、−S−、−SO−、−SO−、−O−等が挙げられる。
上記「ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基」の「アルキレン基」としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、−C(CH−等の炭素数1〜3のアルキレン基等が挙げられる。
該「アルキレン基」は、置換可能な任意の位置に1〜6個のハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)を有していてもよい。
該「ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基」としては、メチレン基、−C(CF−等が好ましい。
【0039】
Zは、好ましくは単結合、1〜6個のハロゲン原子(好ましくは、フッ素原子)で置換されていてもよいアルキレン基、−CO−、−SO−、−O−であり、より好ましくは単結合、メチレン基、−C(CF−、−CO−、−SO−、−O−である。さらに好ましくは、単結合である。
【0040】
Yは、好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、
【0041】
【化8】

【0042】
[式中、
環Aおよび環Bは、共にベンゼン環;
Zは、単結合、1〜6個のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基(好ましくは、メチレン基、−C(CF−)、−CO−、−SO−または−O−を示す。]
で表される多環構造であり、より好ましくはビフェニル環である。
【0043】
化合物(I)としては、好ましくは、
2つのRが共に、炭素数1〜5のアルキル基(好ましくは、エチル基)であり;
2つのXが共に、水素原子または
(a)−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(b)−CO−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(c)−CO−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(d)−SR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(e)−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、それぞれ水素原子、またはアミノ基およびイミノ基(=NH)から選択される1または2個の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(f)ヒドロキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよい炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基、および
(g)炭素数1〜4のアルキル基で置換されていてもよい芳香族複素環基
から選択される1または2個の置換基で置換されていてもよい炭素数1〜5のアルキル基
[好ましくは、水素原子または
(a)−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(b)−CO−OR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(c)−CO−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(d)−SR(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(e)−NR(式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子、またはアミノ基およびイミノ基(=NH)から選択される1または2個の置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す)、
(f)ヒドロキシ基または炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基、または
(g)それぞれ環を構成する窒素原子上に炭素数1〜4のアルキル基を有していてもよい、イミダゾリル基、インドリル基
で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基)、より好ましくは、水素原子]であり;
Yが、ベンゼン環、ナフタレン環、または
【0044】
【化9】

【0045】
[式中、
環Aおよび環Bが、共にベンゼン環であり;
Zが、単結合、1〜6個のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキレン基(好ましくは、メチレン基、−C(CF−)、−CO−、−SO−または−O−である。]
で表される多環構造(好ましくは、ビフェニル環)である化合物である。
【0046】
化合物(I)は、例えば、ジカルボン酸ハロゲン化物(II)をオキセタン環含有アルコール(III)と縮合させることにより製造することができる。
【0047】
ジカルボン酸ハロゲン化物(II)において、2つのHalは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
Halで示される「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子である。
【0048】
オキセタン環含有アルコール(III)としては、(3−メチルオキセタン−3−イル)メタノール、(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール、(3−プロピルオキセタン−3−イル)メタノール、[3−(1−メチルエチル)オキセタン−3−イル]メタノール、(3−ブチルオキセタン−3−イル)メタノール、[3−(1−メチルプロピル)オキセタン−3−イル]メタノール、[3−(2−メチルプロピル)オキセタン−3−イル]メタノール、[(1,1−ジメチルエチル)オキセタン−3−イル]メタノール、(3−ペンチルオキセタン−3−イル)メタノール、[(1−メチルブチル)オキセタン−3−イル]メタノール、[(2−メチルブチル)オキセタン−3−イル]メタノール、[(3−メチルブチル)オキセタン−3−イル]メタノール、[(1,1−ジメチルプロピル)オキセタン−3−イル]メタノール、[(1,2−ジメチルプロピル)オキセタン−3−イル]メタノール、[(2,2−ジメチルプロピル)オキセタン−3−イル]メタノール等が挙げられ、(3−エチル−オキセタン−3−イル)メタノールが好ましい。
【0049】
上記縮合反応は、無水条件下、塩基の存在下で行うことができる。
塩基としては、特に限定されず、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、イミダゾール、ジイソプロピルアミン、コリジン等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、ピリジン、イミダゾールが好適に用いられる。
【0050】
オキセタン環含有アルコール(III)の使用量は、ジカルボン酸ハロゲン化物(II)1モルに対して、通常2〜4モル、好ましくは2.5〜3モルである。
反応温度は、通常、約−20〜約100℃、好ましくは約−10℃〜約50℃である。
反応時間は、通常、約0.1〜約2時間である。
【0051】
ジカルボン酸ハロゲン化物(II)は、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物(IV)をα−アミノ酸(V)と反応させることにより得られる。
【0052】
芳香族テトラカルボン酸二無水物(IV)としては、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0053】
α−アミノ酸(V)としては、天然物または化学工業により供給されるものを好適に用いることができる。
このようなα−アミノ酸(V)としては、アラニン、アルギニン、イソロイシン、トレオニン、バリン、グリシン、フェニルアラニン、メチオニン、リシン、ロイシン、グルタミン酸およびその5−モノエステルもしくは5−モノアミド、システインおよびそのS−アルキル体、セリンおよびそのO−アルキル体、チロシンおよびそのO−アルキル体、トリプトファンおよびそのN−アルキル体、ヒスチジンおよびそのN−アルキル体、オルニチンおよびそのN,N−ジアルキル体、アスパラギン酸およびその4−モノエステルもしくは4−モノアミド等またはそれらの塩が挙げられ、グリシンが好ましい。これらはD−体またはL−体の光学活性体でもよく、それらの任意の割合の混合物でもよい。
α−アミノ酸の塩としては、特に限定されず、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩;塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸塩;酢酸、クエン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸塩等が挙げられる。
【0054】
ジカルボン酸ハロゲン化物(II)は、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物(IV)およびα−アミノ酸(V)を極性有機溶媒中で脱水縮合させることによりジカルボン酸を得、該ジカルボン酸を塩化チオニル、塩化オキザリル、塩化ホスホリル等の塩素化反応剤と反応させることにより得ることができる。
【0055】
極性有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、酢酸、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジグライム、トリグライム等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、酢酸、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0056】
α−アミノ酸(V)の使用量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物(IV)1モルに対して、通常2.0〜2.5モル、好ましくは2.0〜2.2モルである。
塩素化反応剤の使用量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物(IV)1モルに対して、通常2.0〜4.0モル、好ましくは、2.2〜3.0モルである。
脱水縮合の反応温度は、通常、約25〜約150℃、好ましくは約60℃〜約100℃である。
脱水縮合の反応時間は、通常、約0.1〜約2時間である。
塩素化反応の反応温度は、通常、約−40〜約25℃、好ましくは約−20℃〜約10℃である。
塩素化反応の反応時間は、通常、約0.1〜約2時間である。
【0057】
上記した方法により得られる生成物は、結晶化、再結晶、カラムクロマトグラフィー、分取HPLC等の慣用される常法で単離精製することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例および試験例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0059】
実施例1
[2’−(3−エチルオキセタン−3−イルメトキシカルボニルメチル)−1,3,1’,3’−テトラオキソ−1,3,2’,3’−テトラヒドロ−1’H−[5,5’]ビイソインドリル−2−イル]酢酸 (3−エチルオキセタン−3−イル)メチル エステルの製造
【0060】
【化10】

【0061】
工程1 ジカルボン酸の製造
攪拌装置、冷却器および温度計を備え付けた500mL容の四つ口フラスコに、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸無水物(14.7g,0.05モル)、グリシン(7.5g,0.10モル)および酢酸(100g)を仕込み、窒素ガスを緩やかに通じながら、90℃に加熱して4時間反応させた。反応終了後、反応液を25℃まで冷却し、析出した固体を濾過して粗生成物を得た。これを酢酸から再結晶してジカルボン酸(12.1g,0.03モル)を得た。
【0062】
工程2 ジカルボン酸塩化物の製造
攪拌装置、冷却器および温度計を備え付けた100mL容の三つ口フラスコに、工程1で得たジカルボン酸(4.1g,0.01モル)、塩化チオニル(12g,0.1モル)、N,N−ジメチルホルムアミド(1滴)を仕込み、窒素ガスを緩やかに通じながら70℃に加熱して2時間反応させた。過剰の塩化チオニルを留去してジカルボン酸塩化物(4.4g)を得た。
【0063】
工程3 オキセタン化合物の製造
攪拌装置、冷却器および温度計を備え付けた500mL容の四つ口フラスコに、工程2で得たジカルボン酸塩化物(4.4g,0.01モル)、(3−エチルオキセタン−3−イル)メタノール(2.6g,0.022モル)およびピリジン(3.2g,0.04モル)を仕込み、窒素ガスを緩やかに通じながら室温で2時間反応させた。反応混合物を砕いた氷および2N塩酸の当量混合物(300g)に投入し、室温でろ過乾燥して目的物の粗生成物(5.5g)を得た。これをカラムクロマトグラフィーにより精製して表題のオキセタン化合物(4.3g)を得た。
【0064】
試験例1 オキセタン化合物の硬化
実施例1により製造したオキセタン化合物(1g)、テトラヒドロフラン(10g)、イルガキュア250(チバジャパン製)(50mg)およびアントラキュアUVS−1331(川崎化成製)(10mg)を混合し、ガラス板上にスピンコーター(1000rpm)で塗布し、風乾した。これを紫外線(365nm、50mW/cm)で30秒間照射して硬化膜を得た。プリズムカプラー(633nm)で測定した屈折率は1.645であった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、高屈折率を有する硬化樹脂を提供することができる。新規な本発明のオキセタン化合物から製造されるオキセタン樹脂は、高屈折率を有し、一般的な凹凸レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、プラスチック光導波路、プリズムシート、マイクロレンズ、導光板、拡散板等の光学材料、電子部品材料等を構成するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

[式中、
Rは、同一または異なって、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基;
Xは、同一または異なって、それぞれ水素原子、または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基、
Yは、芳香族炭化水素環、または
【化2】

(式中、
環Aおよび環Bは、同一または異なって、それぞれ芳香族炭化水素環;
Zは、単結合またはスペーサーを示す。)
で表される多環構造を示す。]
で表されるオキセタン化合物。
【請求項2】
下記一般式(II)
【化3】

(式中、Halは、同一または異なって、それぞれハロゲン原子を示し、その他の記号は請求項1と同意義を示す。)
で表されるジカルボン酸ハロゲン化物を、下記一般式(III)
【化4】

(式中、Rは請求項1と同意義を示す。)
で表されるオキセタン環含有アルコールと縮合させることを含む、下記一般式(I)
【化5】

(式中、各記号は請求項1と同意義を示す。)
で表されるオキセタン化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(II)で表されるジカルボン酸ハロゲン化物が、下記一般式(IV)
【化6】

(式中、Yは請求項1と同意義を示す。)
で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を、下記一般式(V)
【化7】

(式中、Xは請求項1と同意義を示す。)
で表されるα−アミノ酸またはその塩と反応させて得ることを特徴とする、請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−126842(P2011−126842A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289157(P2009−289157)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】