説明

オキセタン官能基を有するシロキサン樹脂

【課題】 B段階処理可能で、ボイドが発生しにくい硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】 Si−H結合、側鎖炭素−炭素二重結合、及び側鎖オキセタン官能基を含む線状又は環状のシロキサン化合物類。これら化合物類は、二つの硬化温度を有する。一つはSi−H基と炭素−炭素二重結合との間のヒドロシレーション反応に関連しており、他はオキセタンの開環に関係している。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、オキセタン官能基を有するシロキサン樹脂に関し、半導体チップを基板に取り付けるためのB段階処理可能な(B-stageable)組成物における樹脂に関する。
【0002】
発明の背景
半導体パッケージの製造のための加工工程では、半導体ダイ又はチップを接着材で基板に機械的に接着する。その製造は一連の連続工程において行われるか、又は基板は機械的に取り付けるための接着材とともに作製され、その後の時間まで保持される。
【0003】
その製造工程が接着材を基板に施した後に中断することになり、そのアセンブリがその後の時間まで保持される場合、接着材は上手く保存されるために固化状態であるべきである。この固化状態は、ブリーディングを最小又は全く無くし、チップと接着材との間の境界であるボンドラインの厚さ及びボンドラインティルトをより良く制御するという更なる利点をもたらす。
【0004】
いくつかの半導体パッケージ用途に関して、プロセス上の理由からペースト状接着材は固体(フィルム)接着材よりも好ましいが、固体のボンドライン及びフィレットを制御することが望まれている。そのような場合、B段階処理可能な接着材として知られる接着材が使用されることができる。出発接着材料が固体である場合、その固体は溶媒中に分散又は溶解されて、ペーストを形成し、そのペーストが基板に施される。その後、その接着材は加熱されて溶媒が蒸発され、固体の未硬化の接着材が基板上に残る。出発接着材が液体又はペーストである場合、その接着材は基板上に施され、加熱されて接着材が固体状態に部分的に硬化される。製造工程におけるこの段階での加熱をB段階処理と呼び、その接着材はB段階処理可能なものであるとする。
【0005】
上述した接着材を固化することに利点が存在するものの、欠点も存在する。B段階処理後、保存の間、固体接着材は周囲条件の下で空気から、基板から、特に、BT樹脂、印刷回路基板、又はポリイミドフレキシブル基板などの有機基板から、水分を吸収する傾向がある。その接着材はまた、あるレベルの残留溶媒又は他の揮発性物質を含むことができる。
【0006】
高い取り付け温度では、吸収された水分や残留揮発性物質が蒸発しやすい。この蒸発が接着材からの蒸散よりも速く起こる場合、接着材中にボイドやバブルが形成され、接着材の最大の不良の原因となり得る。このような事情から、B段階処理可能で、ボイドが発生しにくい硬化性組成物が求められている。
【0007】
環状又は線状シロキサン樹脂、例えば、米国特許4,751,337号、4,877,820号、4,900,779号、4,902,731号、5,013,809号、5,025,048号、5,077,134号、5,118,735号、5,124,423号、5,124,375号、5,147,945号、5,171,817号、5,196,498号、5,242,979号、5,260,377号、5,334,688号、5,340,644号、5,373,077号、5,391,678号、5,408,026号、5,412,055号、5,451,637号、5,491,249号、5,523,374号、5,512,376号に開示されているものは、線状又は環状シロキサン主鎖にジシクロペンタジエンを付加反応で導入された側鎖炭素−炭素二重結合を有する。これらシロキサン化合物は優れた安定性と非常に低い水分吸収性を有するが、それらは最適な接着特性を有するとはいえない。
【0008】
オキセタン樹脂は高反応性の環状エーテルであり、カチオン性及びアニオン性のいずれの開環単独重合も行うことができ、一般に、良好な接着性を示し、硬化時の収縮が少なく、容易に重合する。オキセタン化合物とシロキサン化合物(ここで、シロキサン化合物はSi−H結合と炭素−炭素二重結合官能基を含む)とに見られる特性を兼ね備えたものは、二官能性硬化材料が求められる用途、例えば、電気、電子、光子、光電子工学用途において有用なB段階処理可能な接着材などに有利である。
【0009】
発明の概要
本発明は少なくとも1つのSi−H結合、少なくとも1つの側鎖(pendant)炭素−炭素二重結合、及び少なくとも1つの側鎖オキセタン官能基を含む線状又は環状のシロキサン化合物である。これら化合物は、単独重合されると二つの硬化温度を有する。一つはSi−H基と炭素−炭素二重結合との間のヒドロシレーション反応に関連しており、他はオキセタンの開環に関係している。第一の硬化は約110℃で起こり、第二の硬化は約150℃で起こる。これらの硬化温度は、B段階処理の間オキセタン官能基が反応(開環)し、その後の段階で炭素−炭素二重結合とSi−Hヒドロシレーション反応が起こるために、十分に離れている。これら化合物は、半導体パッケージ産業における、例えば、リッドシーラント、アンダーフィル、フィルム、ダイ取り付け材料及びB段階処理可能な接着材として使用される組成物において有用である。
【0010】
発明の詳細な記述
シロキサン出発化合物及びそれらの製造方法は、本明細書の発明の背景の項で列挙した米国特許に開示されている。一般に、出発シロキサン化合物は下記線状構造:
【0011】
【化1】

【0012】
又は下記環状構造:
【0013】
【化2】

【0014】
(上記二つの式において、x、y及びzは合計100モル%に対するSi−H部位のモル%を表す。x部位は、未置換のSi−H部位として残る部位を表す。y部位は、ジシクロペンタジエンとのヒドロシレーション後に側鎖炭素−炭素不飽和を含む部位を表す。z部位は、炭素−炭素二重結合及びオキセタン官能基の両方を含む化合物上の炭素−炭素二重結合とのヒドロシレーション後に側鎖オキセタン官能基を含む部位を表す。q部位は、ヒドロシレーションを起こさない部位(これら部位にはSi−H結合が存在しない)を表し、整数として示される。)
を有する。
【0015】
本発明の化合物を形成するために、出発材料は(i)ジシクロペンタジエンとの、(ii)炭素−炭素二重結合官能基及びオキセタン官能基を含む化合物(オキセタン出発化合物)との、ヒドロシレーションを経て反応させる。好適なオキセタン出発化合物はアリル(allyl)オキセタンである。ジシクロペンタジエンの反応は、ジシクロペンタジエン上のノルボルネン二重結合と出発シロキサン化合物上のSi−H部位との間で起こり、出発シロキサン化合物に側鎖炭素−炭素不飽和を加える。出発オキセタン化合物の反応は、出発オキセタン化合物上の炭素−炭素二重結合と出発シロキサン化合物上のSi−H部位との間で起こり、出発シロキサン化合物に側鎖オキセタン官能基を加える。これらの反応は、作業員の選択によって同時に或いは順次に行うことができるが、Si−H部位に対して非選択的である。得られる化合物は25℃で1,000mPa.s未満の粘度を有する無色液体である。
【0016】
各x、y及びz部位のモル%はx+y+zの合計を100%として各部位について5〜90%である。一般に、x、y及びz部位の置換のモル当量のレベルは、できるだけ近いことが続く硬化反応において等しい架橋レベルを得る上で好ましい。qで表される未置換の部位は1〜50の範囲である。理解すると思うが、本明細書において、x、y及びzに関して、部位は、シロキサン出発化合物上の水素原子とケイ素原子との間の結合を指し、qに関して、部位はシロキサン出発化合物上のアルキル基(典型的にはメチル)とケイ素原子との間の結合を指す。また理解すると思うが、部位の置換レベルは常に100%正確であるとは限らず、特にqの値は近似値であり、記号「〜」で表現する。
【0017】
上記記載の範囲内の化合物としては、下記環状構造:
【0018】
【化3】

【0019】
又は下記線状構造:
【0020】
【化4】

【0021】
(上記二つの式において、x、y及びzは合計100%に対するモル%置換を表し、qは1〜50の整数である)
を有するものが挙げられる。
【0022】
これらの化合物はまた、炭素−炭素不飽和を有する他の材料、又はカチオン性開環を起こす材料、例えば、エポキシ、オキセタン(本明細書に開示する本発明の化合物以外)、ベンゾオキサジン、オキサゾリンなどとブレンドされることができる。当業者であれば理解できるように、追加の材料中の炭素−炭素二重結合は、本発明の化合物上の側鎖炭素−炭素二重結合と反応し、カチオン性開環重合を起こす材料は、オキセタン官能基と反応する。追加の反応剤を賢明に選択することによって当業者は多くの様々なエンドユーズを満たす硬化性能を有する化合物を製造できる。
【0023】
以下の実施例において、線状又は環状シロキサンは、Gelestから購入し、製品コードHMS及びMHCSで表示される。
実施例1:化合物1
【0024】
【化5】

【0025】
線状シロキサンHMS−501(25.15g、Si−H=0.162mol)及びトルエン(30mL)を500mL4つ口丸底フラスコに最初に仕込んだ。反応容器をNブランケット下に置き、上部攪拌機及びコンデンサーを装着した。混合物が均質になるまで攪拌を続けた。温度を65〜70℃に維持した。アリルオキセタン(8.424g、0.0541mol)、ジシクロペンタジエン(7.14g、0.0541mol)、50ppmのジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を1時間かけてそのフラスコに滴下した。反応はFT−IR分析によってノルボルニル二重結合(1342cm−1)の消費に関して監視した。反応は17時間後に完了させた。この後、溶媒を減圧下(60℃、0.3mmHg)除去して薄黄色の液体を得た。
【0026】
実施例2:化合物2
【0027】
【化6】

【0028】
環状シロキサンMHCS(25.0g、Si−H=0.411mol)及びトルエン(30mL)を500mL4つ口丸底フラスコに最初に仕込んだ。反応容器をNブランケット下に置き、上部攪拌機及びコンデンサーを装着した。混合物が均質になるまで攪拌を続けた。温度を65〜70℃に維持した。アリルオキセタン(21.385g、0.137mol)、ジシクロペンタジエン(18.084g、0.137mol)、22.5ppmのジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を1時間かけてそのフラスコに滴下した。反応はFT−IR分析によってノルボルニル二重結合(1342cm−1)の消費に関して監視した。反応は8時間後に完了させた。この後、溶媒を減圧下(60℃、0.3mmHg)除去して薄黄色の液体を得た。
【0029】
実施例3:化合物3
【0030】
【化7】

【0031】
環状シロキサンMHCS(25.0g、Si−H=0.411mol)及びトルエン(30mL)を500mL4つ口丸底フラスコに最初に仕込んだ。反応容器をNブランケット下に置き、上部攪拌機及びコンデンサーを装着した。混合物が均質になるまで攪拌を続けた。温度を65〜70℃に維持した。アリルオキセタン(9.622g、0.062mol)、ジシクロペンタジエン(24.54g、0.175mol)、17.5ppmのジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金(II)を1時間かけてそのフラスコに滴下した。反応はFT−IR分析によってノルボルニル二重結合(1342cm−1)の消費に関して監視した。反応は5時間後に完了させた。この後、溶媒を減圧下(60℃、0.3mmHg)除去して薄黄色の液体を得た。
【0032】
実施例4:化合物4
【0033】
【化8】

【0034】
線状シロキサンHMS−501(25.15g、Si−H=0.162mol)及びトルエン(30mL)を500mL4つ口丸底フラスコに最初に仕込んだ。反応容器をNブランケット下に置き、上部攪拌機及びコンデンサーを装着した。混合物が均質になるまで攪拌を続けた。温度を65〜70℃に維持した。アリルオキセタン(25.27g、0.162mol)、100ppmの白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(キシレン中)を1時間かけてそのフラスコに滴下した。反応はFT−IR分析によってSi−H結合(2160cm−1)の消費に関して監視した。反応は5時間後に完了させた。この後、溶媒を減圧下(60℃、0.3mmHg)除去して薄黄色の液体を得た。
【0035】
実施例5.熱重量分析(TGA)
TGAは実施例1〜4の樹脂の揮発性を測定するために行った。各樹脂の試料を室温から350℃まで10℃/分の温度勾配で加熱した。電子工学用途のためには、ニート樹脂の重量減量%は200℃で10%未満である。実施例1、3及び4の樹脂に関して200℃での重量減量は10重量%未満だったが、実施例2のそれは200℃で13%だった。しかし、実施例2の樹脂は揮発する前に配合物を硬化させるのに十分な反応性を有していた。
【0036】
実施例6.配合物
実施例1、2、3及び4の化合物をそれぞれ配合してこれら化合物及び開始剤を含む一連の3つの組成物を調製した。第一の組成物は、実施例の化合物及び1重量%のRhodorsil 2074を含む。Rhodorsil 2074は、Rhodiaから入手できるカチオン性光開始剤触媒であり、オキセタン置換基の単独重合を触媒するために加えられる。第二の組成物は、実施例の化合物、1重量%のRhodorsil 2074及び1重量%のラジカル開始剤USP90MD(Akzo Nobelから入手可能)を含む。第三の組成物は、実施例の化合物、1重量%のRhodorsil 2074及び1重量%のベンゾピナコール(ラジカル開始剤)を含む。
【0037】
ラジカル開始剤は、分解の際にRhodorsil 2074に対する還元剤として働く。その結果、強酸が生成してその後オキセタン環の開環が開始される。
各実施例の化合物の組成物は、DSCによって別個に分析され、動力学的及び熱力学的性質が測定された。その結果を表1に報告する。その結果は、これら開始剤系を使用して実施例1、2及び3の化合物において広範囲なヒドロシレーション及びカチオン性オキセタン開環が起こることを示している。カチオン性オキセタン開環はより低い温度で起こる。水素化ケイ素基の100モル%がオキセタン官能基で変性されているので、実施例4の化合物ではヒドロシレーションは起こらず、結局、これら配合物では唯一の硬化ピークのみが存在する。データは、これら化合物が二段階で硬化しそれら二つの硬化温度の間には十分な差があるのでB段階処理可能な組成物を得ることができることを示している。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのSi−H結合、少なくとも1つの側鎖炭素−炭素二重結合、及び少なくとも1つの側鎖オキセタン官能基を含む線状又は環状のシロキサン化合物。
【請求項2】
下記構造:
【化1】

(ここで、x、y及びzは合計100%に対する各部位のモル%を表し、qは1〜50の整数である)
を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記構造:
【化2】

(ここで、xは44モル%を表し、yは30モル%を表し、zは26モル%を表す)
を有する請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
下記構造:
【化3】

(ここで、xは43モル%を表し、yは42モル%を表し、zは15モル%を表す)
を有する請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
下記構造:
【化4】

(ここで、x、y及びzは合計100%に対する各部位のモル%を表し、qは1〜50の整数である)
を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
下記構造:
【化5】

(ここで、xは39モル%を表し、yは28モル%を表し、zは33モル%を表す)
を有する請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
下記構造:
【化6】

(ここで、xは100モル%を表す)
を有する請求項5に記載の化合物。

【公開番号】特開2006−37108(P2006−37108A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219086(P2005−219086)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(590000824)ナショナル スターチ アンド ケミカル インベストメント ホールディング コーポレイション (112)
【Fターム(参考)】