説明

オキナワモズクを原料とした環境にやさしい天然物由来の凝集剤

【課題】 海藻等の天然物資源を活用して、より効果的な水処理剤、凝集・沈殿剤を開発することである。特に、オキナワモズクから医薬・健康食品として有用な成分を抽出した残渣物から、上述した問題を含まない、工業的に安価で環境にやさしい水処理剤、凝集・沈殿剤を開発する。
【解決手段】 オキナワモズクを水中で粉砕して、その水溶液に酸を加えて酸性条件下でフコイダン等の水可溶分を抽出後、その残渣を原料とした水処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキナワモズクからフコイダンを製造した残渣を原料とした天然物由来の環境にやさしい水凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飲み水や工場排水は原水を浄化処理して使用或いは廃棄している。その浄化で最も重要な役目を担うのが、凝集剤である。凝集剤は目で見えるごみや不純物は勿論、自然沈殿では中々沈殿させることが出来ない100ミクロン以下の微小な浮遊物も凝集させて回収する事が出来る。現在市販されている凝集剤は、無機系凝集剤及び高分子(有機)系凝集剤に大別できる。無機系凝集剤には、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などがあり、価格が安いこともあり量的には最も多く使われている。
【0003】
高分子凝集剤には側鎖のイオン性に応じて、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性系に分かれる。ノニオン系は、ポリアクリルアミドのように分子鎖上にイオン性基をもたないもの、アニオン系はカルボン酸基を側鎖にもつものとスルフォン酸基を側鎖にもつものであり、カチオン系はアクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系がある。両性系はそれらを両方もつものである。高分子系凝集剤は高分子量である為に、少量の使用で効果がある。我が国での総使用量は価格が高い為に無機系凝集剤の約100分の1程度である。
【0004】
これらの凝集剤は、例えば、無機系凝集剤では凝集剤の使用量が多くなり、結果として処理スラッジの量が多くなるという問題や処理液中に金属イオン(アルミニウムイオンや鉄イオン)の蓄積があるという問題がある。また、凝集力を上げる為にアルカリの添加が必要という操作上の問題もある。一方、高分子凝集剤では、使用量も少なくスラッジが多くなるという点はないが、最適使用量の範囲が狭いことや、凝集反応に時間がかかる点が問題である。
【0005】
更に、最近では上述の人工的な凝集剤ではなく、自然にやさしい天然由来の凝集剤が環境問題の観点から求められるようになってきている。例えば、ポリγ−グルタミン酸やその架橋物、ポリγ−グルタミン酸に磁性を持たせたもの(例えば、日本ポリグル(株))、アルギン酸、キトサン等の天然高分子を利用したものなどである。例えば、特許文献1には、海藻ペーストを汚水に添加・撹拌して、次いでカルシウム化合物水溶液を添加して汚水中の遺物粒子を凝集・沈殿させることを提案している。この方法は海藻をそのまますりつぶしてペースト状にして使用するもので、低コストで且つ泥水を凝集・団粒化させる能力が高いとしている([0015]、[0017])。しかし、海藻をそのまま粉砕してペーストにすると確かに余計な処理が不要で安価であるが、一方、海藻における水分散粒子の凝集・沈降のメカニズムは、粒子のイオンを中和することや粒子と疎水結合で凝集し、その後凝集粒子をイオン的な中和によって沈殿させることが想定される。その作用の主となるのは海藻中に含まれるアルギン酸成分のようなイオン性ポリマーが考えられる。しかし、海藻にはセルロース、各種の糖類、脂質、ミネラル等の凝集には効果がなく、むしろ二次汚染を引き起こす可能性を有する成分も含まれ、環境にやさしい天然物の海藻を使った水処理剤の使用で、却って環境汚染を引き起こす可能性もある。
【0006】
特許文献2では、カルシウムイオンやマグネシウムイオンのような多価金属イオンとアルギン酸ナトリウム、フコイダン複合体(もずくから抽出したフコイダン+アルギン酸複合体)、ペクチン、グルコマンナン、こんにゃく粉末、めかぶ乾燥粉末、もずく乾燥粉末などの粘性高分子材料との併用しより泥水を浄化しようとするものである([請求項1]から[請求項19]、[0153]から[0166])。即ち、難沈降性微粒子を含む懸濁水中に多価金属イオンによって凝集するとともに水に対して易分散性を有する粘性高分子材料を均一に分散させた混合液を得たのち、この混合液に多価金属塩粉粒体またはその準飽和水溶液を投入し、急速攪拌混合して前記難沈降性微粒子の凝集・沈殿させることを提案している。しかし、こうした粘性高分子材料の抽出粘製には膨大な労力・費用がかかり、必ずしも低コストで出来るものではない。また、こうした材料を抽出する際の副産物の処理にも費用・環境負荷がかかる。例えば、実施例5([0157])ではもずくを80℃の熱水で2時間加熱したのち、もずくを取り出し、残った抽出液を真空乾燥させて得られたフコイダン+アルギン酸複合体を使用するとしているが、フコイダンは健康食品や医薬原料として価値が高く経済的にも問題があり、必ずしも水処理剤としては適当でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−136296号
【特許文献2】特開2008−207167号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、海藻等の天然物資源を活用して、より効果的な水処理剤、凝集・沈殿剤を鋭意検討し、本発明の完成に至った。本発明の目的とするところは、天然物資源を使用し、更には天然物から医薬・健康食品として有用な成分を抽出した残渣物から、上述した問題を含まない、工業的に安価で環境にやさしい水処理剤、凝集・沈殿剤を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1は、オキナワモズクを水中で粉砕して、その水溶液に酸を加えて、医薬・健康食品として有用な成分(フコイダン等)の水可溶分を除去して、その残渣を原料とする水処理剤であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2は、酸性条件がオキナワモズクの粉砕物に少なくとも0.05モルの酸を加えてフコイダン等の水可溶分を除去する請求項1記載の水処理剤であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3は、フコイダン等の水可溶分を除去後、残渣が初期重量の0.5〜20%である請求項1〜2項記載の水処理剤であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4は、残渣中のセルロースの成分が少なくとも50〜60%である請求項1〜3記載の水処理剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の凝集剤は、オキナワモズク由来の凝集剤であり、水処理した後の廃棄物の処理や埋め立てなどにおいても問題はない。また、本発明の凝集剤はオキナワモズクからフコイダン等の有効成分を抽出した残りの残渣を原料にするために、原料の均一性や原料を集める手間が省ける。一般にバイオマスの工業的な活用が困難な理由は、広い範囲に生息するバイオマスの収穫、洗浄、バイオマスの不純物の除去などに多大の労力、費用がかかるからである。本発明ではフコイダンと言う有用成分の抽出に使用する為に、精選したオキナワモズクの収穫、抽出と言う化学的な処理を経る為にオキナワモズクの洗浄や不純物の除去が行われる。その後、さらに、フコイダン等の有効成分を抽出するために、非常に安定して且つきれいな残渣であると言える。従って、最初から天然物から凝集剤を製造する先行技術の特開2007−136296号公法や特開2008−207167号公法に提案された方法に比べて格段に工業原料として均質な原料と言える。また、非常に高価なフコイダンを抽出した残渣の利用であるために低コストであることも工業的に優位である。更に、汚濁液のpH(酸性度)に依存せず、酸性でも、中性でも、アルカリ性でも良好な凝集能力を示す。これは実用上大きな特徴である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】オキナワモズク粉末から本発明の水処理剤の調製方法を示す。
【図2】汚濁水の調製法及び水処理法を示す。
【図3】本発明品によるカオリン汚濁水、赤土汚濁水の処理効果を示す。
【図4】本発明品と先行技術での処理剤でのカオリン汚濁水に対する処理効果を示す。
【図5】島尻マージ汚濁水に対する本発明品及び先行技術品、市販品の処理効果を示す。
【図6】pHの異なる島尻マージ汚濁水の凝集作用に関して本発明品の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
請求項1に示すオキナワモズクはナガマツモ科(Chordariaceae)、オキナワモズク属(Cladosiphon okamuranusTOKIDA)を使用する。名称だけは通常のモズク(モズク科Spermatochnaceae、モズク属:Nemacytis dicipieus Kuckuck)と似ているが、形態や大きさは明らかに違いがある。また、生物学上の分類(界、門、綱、目、科、属、種)でも種の上位分類の属で異なり、また、成分的には構成多糖の成分中に多量のフコイダンを含んでいるのが特徴である。従って、オキナワモズクはフコイダン、フコキサンチン等の孔腫瘍成分を採取する非常に貴重な海藻であり、オキナワモズクを原料としてフコイダン等の有用成分の製造が工業的に多量に行われている。本発明はオキナワモズクからこうした貴重なフコイダン等の成分を酸で抽出した残渣を使用することに大きな工業的な特徴がある。即ち、フコイダンを抽出するために、品質のいい多量のオキナワモズクが栽培・採取され工場に集められる。そこで、不純物の除去や洗浄が行われるなど、安価で良質の本発明の原料を得ることができる。
【0016】
また、請求項2では本発明の原料の採取法を示す。即ち、オキナワモズクを乾燥・粉砕して酸、例えば、塩酸、クエン酸、硫酸、酢酸水溶液を添加するとフコイダンは容易に水可溶性となり、その液を濾別すれば容易にフコイダンが得られる。具体的には図1に例示する。原料のオキナワモズクは乾燥していても良いし、未乾燥品でもいい。オキナワモズクをミキサーなどで粉砕してペースト状にして、この中に酸、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、硫酸の無機酸、有機酸、或いはこれらの混合酸を添加して、液中の酸濃度を通常少なくとも0.05M(モル)、好ましくは0.07−2M、更に好ましくは0.1−1.5Mとする。0.05Mより小さい場合は、フコイダンの残存が多くなり経済的でない場合か、また、水処理能力(浮遊微粒子凝集能力)が低下する(先行の特開に近くなる)。又、2Mより大きい場合は殆どフコイダン抽出量が飽和になるばかりか、酸除去・精製に労力やコストがかかるようになる。モズクと水の比率は特に限定しないが、加水分解、濾過等の化学操作に問題ない程度の流動性があれば良く、通常オキナワモズクの乾燥物1gに対して水を10−500mL、好ましくは30−200mL、加える。この水の量が10mLより小さい場合はペーストの流動性が小さく後の酸処理や濾過で問題となる。一方、500mLより大きい場合は流動性は十分であるが、処理量が大きくなり、処理容器や時間が長くなるデメリットとなる。
【0017】
本発明ではこのようにしてフコイダンを抽出した後の残渣を使用する。この残渣はフコイダンを抽出したあとのモズク成分になるが、それにトリフルオロ酢酸を例えば2M添加して加水分解して構成糖成分をしらべると、主にフコース(Fuc)、ガラクトース(Gal)、グルコース(Glc)、キシロース(Xyl)、及びウロン酸を含む多糖とセルロースが含まれている。これら多糖の分子量はフコイダンを抽出する条件によってことなるが、通常、40,000〜1,000,000であるが、水処理剤、凝集・沈殿剤としては、分子量は50,000〜500,000が好ましい。有効成分を抽出した後の残渣を利用することによって、例えば、最初からオキナワモズクを原料とするよりも、原料の集荷・選定、洗浄等の前処理が不要で品質の安定化、コストダウンが実現できる。
【0018】
更に、請求項3に示す抽出条件では、もし特開2007−136296号公法に示すようにフコイダンを除去しないでオキナワモズクをそのままペーストにして使用すると非常に高価な水処理剤になるばかりでなく、水処理の効果も極めて低いものであった(実施例1OF1参照)。本発明では、原料モズクからフコイダン等の有効成分を抽出するために、本発明の凝集剤に利用される残渣は原料重量の0.5〜20%、好ましくは1〜15%である。20%より多い場合は凝集剤としての能力が低いものが混入する場合がある。また0.5%より少ない場合は、凝集剤の収量が低下しコストが高くなる。
【0019】
請求項4では、本発明の含有多糖類の成分比を示す。本発明の水処理のメカニズムは必ずしも十分に解明されたわけではないが、残渣中のセルロースの役割が大きいものであることがわかっている。オキナワモズク原料そのものでは、トリフルオロ酢酸による加水分解後のそれぞれの構成糖の比を測定すると、D−フコース、D−キシロース、D−グルクロン酸、酢酸、および硫酸の構成比が、3.0〜4.0:0.1−0.3:0.8〜1.2:0.5〜1.0:0.8〜1.2(重量%)(特開平10−237103)であるが、本発明の水処理剤では、フコース(Fuc):ガラクトース(Gal):グルコース(Glc):ウロン酸(UA):セルロースの構成比は、10−25:2−5:2−5:8−13:2−5:55−70、好ましくは、15−22:2−4:3−4:9−11:4−5:58−67である。本発明では、こうした多糖類の内、好ましくはウロン酸と中性糖とセルロースとの比率が0.1以下、更に好ましくは0.06〜0.08の時である。この原因は詳しくは不明であるが、セルロース分子は高分子量であり、そのセルロースと汚濁物質との非荷電相互作用(疎水相互作用)による柔らかな一次凝集とそれに続く荷電粒子同士の電気的相互作用が効果的に働く為と推測される。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。尚、本実施例にて濁度:SS(mg/L)の評価法は以下のように行った。水1L中に浮遊微粒子としてカオリン(和光純薬)を所定量分散させたものを原液として、その中に本発明の水処理剤や市販の水処理剤を添加して5分撹拌し、5分静置後に 水面から2cmのところの水を採取し、それを分光光度計にて600nmの波長の光の透過率(%/10mm)を測定して、あらかじめ作っておいた検量線からカオリンの量から濁度(SS:mg/L)を評価した。
実施例1
【0021】
乾燥オキナワモズク1gを40mLの水中或いは表2に示す濃度の塩酸水溶液に添加して、振とう式シェーカー(タイテック製 Wave−SI)にて1時間振とうして、遠心分離機(日立製 CF15RXII)で22,300Gの回転数で20分間遠心して、上清はフコイダン液とし、残渣は水洗後凝集剤利用のため回収した。沈殿をそのまま、10mLの水または0.06%の炭酸ナトリウム(NaCO3)水溶液に浸漬し本発明の水処理剤とした。処理試験用の水の原液の濁度は1,000(mg/L)であった。得られた本発明品にトリフルオロ酢酸を2M添加して加水分解して構成糖成分を液体クロマトグラフィー(ダイオネックス製 DX500)でしらべると表1に示すような多糖類からなることがわかった。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

実施例2
【0024】
実施例1で使用したOF2を使い各種微粒子分散液での水処理・凝集効果を検討した。結果を表3、図3に示す。濁度の大きい水だけでなく、浄水処理前濁水のように比較的微粒子分散の少ない水でも十分な効果がある。
【0025】
【表3】

実施例3
【0026】
カオリンを1,000(mg/L)分散した濁水を調整して、添加量を変えた各種水処理剤にて処理した結果を表4、図4に示す。尚、NOFはモズクそのものを粉砕しただけのもの(特開2007−135296の追試)であり、本発明品に比べると凝集性能が低いことがわかる。また、NRFは工業的にオキナワモズクからフコイダンを製造している工程からの残渣を利用した凝集剤であり、また、TRFはNRFを10mLの0.06%の炭酸ナトリウム(NaCO3)水溶液に浸漬し凝集剤として調製したものである。
【0027】
【表4】

実施例4
【0028】
汚濁物質として島尻マージ(沖縄県南部で採取)を2,000mg/L分散した濁水を調製して、市販の合成水処理剤も含めた各種水処理剤にて処理した結果を表5、図5に示す。尚、NOFはモズクそのものを粉砕しただけのものである(特開2007−135296の追試)。この結果から、本発明品(TRF,NRF)は先行技術よりも実験バッチごとの性能のばらつきが小さく更に効果が高い。また、市販のPACに比べるとはるかに高い効果であることがわかる。
【0029】
【表5】

実施例5
【0030】
汚濁物質として島尻マージ(沖縄県南部で採取)を2,000mg/L分散した濁水を調製して、本発明の凝集剤(TRF)を12.5mg/L添加して、塩酸或いは水酸化ナトリウムにて汚濁液のpHを3,4(酸性),7(中性),9(アルカリ性)に調整して、同様に凝集性の評価を行った。結果を表6、図6に示すが、本発明の凝集剤ではpHが酸性〜中性〜アルカリ性に変化しても同様に優れた凝集力を発揮する。このようなpH依存性がなく効果が出る水処理剤は実用上非常に使用しやすいものである。
【0031】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキナワモズクを水中で粉砕して、その水溶液に酸を加えて酸性条件下でフコイダン等の水可溶分を抽出後、その残渣を原料とする水処理剤。
【請求項2】
酸性条件がオキナワモズクの粉砕物に少なくとも0.05モルの酸を加えてフコイダン等の水可溶分を除去する請求項1記載の水処理剤。
【請求項3】
残渣がオキナワモズクの重量の0.5〜20%となる請求項1〜2項記載の水処理剤。
【請求項4】
残渣中のウロン酸とセルロースの成分比率が0.1以下である請求項1〜3記載の水処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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