説明

オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブおよびその製造方法

【課題】水および種々の有機溶媒によく溶解するオスミウムクラスター含有カーボンナノチューブおよび該オスミウムクラスター含有カーボンナノチューブを製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明によるオスミウム(Os)クラスターで官能化されたCNTは、複数個のカルボキシル(COOH)基を有する官能化されたカーボンナノチューブおよび一つ以上のアミン基を有するトリオスミウム誘導体がCOOH基とアミン基との間の双性イオン相互作用を通じて結合された双性イオン錯体であって、水だけでなく種々の有機溶媒に高い溶解度を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オスミウムクラスターで官能化された新規なカーボンナノチューブ(osmium clusters-functionalized carbon nanotube)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(carbon nanotube, CNT)は、巻き取られた形態によって単層ナノチューブ(single- walled nanotube, SWNT)、多層ナノチューブ(multi-walled nanotube, MWNT)、ロープ型ナノチューブ(rope nanotube)に区分され、中空であるため軽く、高い電気伝導度、熱伝導度および引張力を有するなど固有な物理、化学および機械的性質を示す。
【0003】
特に、CNTは、周辺環境によって特定の標的分子と選択的に反応することによって導体または半導体に変換する性質を有するので、極微細領域(nanoscale)の感知素材(sensing materials)またはナノ生体電子工学(nano-bioelectronic)素子分野への活用が注目されている。これに関連して、カーボンナノチューブの反応選択度を向上させるため、特定の標的分子(target molecules)と選択的に反応する様々な官能基(fuctional groups)をCNTに導入(anchor)させる官能化(functionalization)または生体−固定化(bio-immobilization)方法が報告されている(H. Dai, Acc. Chem. Res., 35, 1035, 2002)。
【0004】
オスミウムクラスター(osmium cluster, Os cluster)は、優れた電気化学的性質のため核エネルギー研究、感知システムおよび分子電気分野で脚光を浴びており、最近は特定のDNA結合位置(DNA binding site)を含むオスミウムクラスター誘導体を合成した例が報告されている(E. Rosenbergら, J. Organometal Chem., 668, 51, 2003)。したがって、このようなオスミウムとCNTを結合させる研究が行われており、代表的にOsO4の光照射反応(photoactivation reaction)を通じてのSWNTのオスミウム化(Cui, J.ら, Nano Lett., 3, 615, 2003)、SWNTへのオスメートエステル(osmate ester)形成に関する理論的研究(Lu, X.ら, Nano Lett., 2, 1325, 2002)および紫外線照射(UV irradiation)の下で行われた溶液状態のOsO4とSWNTの反応(Banerjee, S.ら, J. Am. Chem. Soc., 126, 2073-2081, 2004)等に関する研究が行われているが、既存の方法で製造されたオスミウム(Os)−CNT複合体はいずれも水や産業用有機溶媒に不溶性を示すため、産業への適用には限界があった。
【非特許文献1】E. Rosenbergら著, J. Organometal Chem., 668, 51, 2003年発行
【非特許文献2】Cui, J.ら著, Nano Lett., 3, 615, 2003年発行
【非特許文献3】Lu, X.ら著, Nano Lett., 2, 1325, 2002年発行
【非特許文献4】Banerjee, S.ら著, J. Am. Chem. Soc., 126, 2073-2081, 2004年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、水および種々の有機溶媒によく溶解するオスミウムクラスター含有カーボンナノチューブを提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、前記オスミウムクラスター含有カーボンナノチューブを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様によって、本発明は、複数個のカルボキシル(COOH)基を有する官能化されたカーボンナノチューブおよび一つ以上のアミン基を有するトリオスミウム誘導体がCOOH基とアミン基との間の双性(または両性)イオン相互作用(zwitterionic interactions)を通じて結合して生成するオスミウム(Os)クラスターで官能化されたカーボンナノチューブ(osmium clusters-functionalized carbon nanotube)を提供する。
【0008】
本発明の他の実施態様によって、本発明は、前記カルボキシル(COOH)基で官能化されたカーボンナノチューブ(carboxyl-functionalized CNT)を前記アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体(amino functionalized triosmium derivatives)と有機溶媒中で反応させることを含む、前記オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るオスミウム(Os)クラスターで官能化されたCNTは、複数個のカルボキシル(COOH)基を有する官能化されたカーボンナノチューブおよび一つ以上のアミン基を有するトリオスミウム誘導体がCOOH基とアミン基との間の双性イオン相互作用(zwitterionic interactions)を通じて結合して生成した双性錯体であって、水だけでなく、種々の有機溶媒に高い溶解度を示し、加工が容易であるため、様々なCNT系触媒工程(CNT-based catalytic process)およびナノ生体電子(nanobioelectronics)素子のような次世代電気素子分野に有用に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明のオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブ(CNT)は、カーボンナノチューブとオスミウムクラスターとの間のアンモニウム−カルボキシレート結合(ammonium-carboxylate bond(-CO2-+NH3-))を通じて形成された双性イオン錯体(zwitterion complex)である。
【0012】
本発明のオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブは、カルボキシル(COOH)基で官能化されたカーボンナノチューブ(carboxyl-functionalized CNT)をアミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体(amino functionalized triosmium derivatives)と窒素雰囲気下、有機溶媒中で反応させて製造できる。
【0013】
この際、前記カルボキシル基で官能化されたカーボンナノチューブは通常の方法(J. Liuら, Science, 280, 1253-1256, 1998)に従ってカーボンナノチューブを濃無機酸で酸化させて得られ、前記アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体は通常の方法(R. Smithら, Organometallics, 18, 3519-3527, 1999)に従ってアミノ化されたベンゾキノリンをトリオスミウムクラスターと反応させて得られる。
【0014】
前記カーボンナノチューブの酸化反応において使用可能な酸としては硝酸、塩酸、または硫酸と硝酸の混合溶液などがあり、CNT 10mg当たり1〜10mlの量で使用してもよく、前記カーボンナノチューブの酸化反応は40〜90℃で2〜8時間行ってもよい。
【0015】
本発明の製造方法において、アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体はカルボキシル基で官能化されたカーボンナノチューブの1〜2重量倍、好ましくは2重量倍の量で使用してもよく、使用可能な有機溶媒としてはDMF(N,N-Dimethyl formamide)、DMSO(dimethylsulfoxide)、アセトン(acetone)およびオクタン(octane)などがあり、反応は70〜140℃で3〜7日間行ってもよい。
【0016】
このような本発明に係るオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブ(osmium clusters-functionalized carbon nanotube)複合体は水および種々の有機溶媒に優れた溶解度を有し、加工が容易であるので、様々なCNT系触媒工程(CNT-based catalytic process)およびナノ生体電子(nanobioelectronics)素子のような次世代電気素子分野で有用である。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を下記実施例によってさらに詳細に説明する。ただし、これらは本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を制限しない。
【0018】
本発明の化合物の製造
[実施例1]
精製されたSWNT(single-walled nanotube、イルジン社、韓国)を[Sohn, J. I.ら, App. Phy. Let., 78, 901-903, 2001]に記載された鉄(Fe)触媒−CNT成長法に従ってパルスレーザー蒸着法(pulsed laser deposition, PLD)を用いてシリコン上に成長させることによって95%の高純度を有するMWNT(multi-walled nanotube)を製造した。製造されたMWNT 10mgを濃硝酸(HNO3)10mlとともに80℃で6時間還流反応させて酸化させた。反応生成物を洗浄および乾燥した後、これに参考文献[R. Smithら, Organometallics, 18, 3519-3527, 1999]に記載された方法に従ってアミノ化させた下記構造式のアミノ基で官能化されたトリオスミウム(Os)誘導体20mgを窒素雰囲気下で滴加した後、得られた混合物を140℃で7日間連続して還流した。
【化1】

【0019】
この反応混合物の色が緑色から褐色に均一に変化したことを確認した後、遠心分離し、上澄液を除去した。得られた固体を水およびアセトンで数回洗浄し、真空オーブンで乾燥してオスミウムクラスター官能基を有するカーボンナノチューブ5mg(収率:50%)を製造した。
【0020】
[実施例2]
濃硝酸の代わりに濃塩酸を用いたことを除いては、前記実施例1と同様な工程を行ってオスミウムクラスター官能基を有するカーボンナノチューブ5mg(収率:50%)を製造した。
【0021】
本発明の化合物の分析
(1)赤外線(IR)および中赤外線(Mid−IR)分光分析
酸化されたカーボンナノチューブ(a)、アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体(b)および実施例1で製造されたオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブ(c)を対象に赤外線(IR)および中赤外線(Mid−IR)分光分析を行い、その結果を図1および図2に示す。図1および2から観察された特徴的なピークの波数を各々下記表1に示す。
【表1】

【0022】
表1の結果から分かるように、酸化されたカーボンナノチューブ、アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体および実施例1で製造したオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブは目的通りに製造されたことを確認した。
【0023】
具体的に、図1〜2に示すように、酸化されたカーボンナノチューブでは1,712cm-1(C=O)および1,233cm-1(C−O)で強いピークが現れたが、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブでは観察されず、N−H結合を示す広くて強いピークはトリオスミウム誘導体では1,625cm-1で、そして、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブでは1,629cm-1で各々観察された。また、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブでは強い対称性カルボン酸(COO-)振動(1,585cm-1)およびトリオスミウム誘導体でも確認されたC−N結合を意味する広いピーク(1,278cm-1、トリオスミウム誘導体は1274cm-1)が観察され、オスミウムピーク(2,023および1,933cm-1位置)が保持されていることを確認した。
【0024】
したがって、本発明に係るオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブとオスミウムクラスターとの間のアンモニウム−カルボキシレート結合(ammonium-carboxylate bond(-CO2-+NH3-))を通じて形成された双性イオン錯体(zwitterion complex)であることが分かる。
【0025】
(2)紫外線−可視光線−近赤外線(UV−Vis−NIR)分光分析
アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体(a)、酸化されたカーボンナノチューブ(b)および実施例1で製造したオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブ(c)を対象に紫外線−可視光線−近赤外線(UV−Vis−NIR)分光分析を行い、その結果を図3に示す(差込図は一部区間の拡大図である)。
【0026】
その結果、図3に示すように、酸化されたカーボンナノチューブと同様に、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブは1,414nm(1.14eV)および1,554nm(1.24eV)の二つの主ピークを示し、これは本発明に係るオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブのカルボキシル基がイオン性アンモニウム−カルボキシレート結合の形で保持されていることを意味する。また、アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体から観察された859nm(1.44eV)の小さいピークは、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブにおいて890nmの赤色波長側にシフトしたことを確認し、これはオスミウムとCNTが結合した後、オスミウムとアミノ基の結合長さが大きくなったことを意味する。
【0027】
(3)走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー散乱X−線(EDX)分光分析
実施例1で得られたオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブおよび一般のカーボンナノチューブの細部形態的特性を走査電子顕微鏡(SEM、図4)および透過電子顕微鏡(TEM、図5)で分析した。
【0028】
その結果、図4に示すように、本来のカーボンナノチューブ(d)とは異なって、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブ(a、bおよびc)では30nm〜1.5μm長さのカーボンナノチューブの先端に嵩高い基(bulky group)が接合されていることが分り、これからCNTとオスミウム錯体の双性イオン結合(zwitterion formation)の存在を確認できる。また、このような嵩高い基は同じCNTの側壁(side wall)ではほとんど発見されず、これはCNTの側壁よりは先端にCOOH官能基がさらに多く存在するためである。
【0029】
EDX分析結果(図6)は、オスミウムクラスターで官能化されたCNTにおいてオスミウム官能基が全官能性残基の1.4%に該当することを示す。
【0030】
(4)溶解度測定
本来のカーボンナノチューブ、酸化されたカーボンナノチューブおよびオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブの水、DMF、THFおよびDMSOにおける溶解度を各々測定した。
【0031】
その結果、オスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブは水に150mg/lの溶解度を示し、官能化されていない本来のCNTが溶解しないDMF、THFおよびDMSOにおいても各々250mg/l、50mg/lおよび250mg/lの高い溶解度を示すことを確認した。一方、酸化されたカーボンナノチューブはDMFおよびDMSOにおいて各々7mg/l、そしてTHFにおいて4mg/lの溶解度を示した。
【0032】
したがって、本発明のオスミウムクラスターで官能化されたCNTは特徴的な双性イオン結合によって水だけでなく、種々の産業への利用可能性が高い有機溶媒に優れた溶解度を示すことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】酸化されたカーボンナノチューブ(a)、トリオスミウム誘導体(b)および実施例1で製造したオスミウムクラスター−カーボンナノチューブ(c)の赤外線(IR)分光分析結果である。
【図2】トリオスミウム誘導体(b)および実施例1で製造したオスミウムクラスター−カーボンナノチューブ(c)の中赤外線(Mid IR)分光分析結果である。
【図3】トリオスミウム誘導体(a)、酸化されたカーボンナノチューブ(b)および実施例1で製造したオスミウムクラスター−カーボンナノチューブ(c)の紫外線−可視光線−赤外線(UV−Vis−NIR)分光分析結果である。
【図4】実施例1で製造したオスミウムクラスター−カーボンナノチューブ(a, bおよびc)およびカーボンナノチューブ(d)の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【図5】実施例1で製造したオスミウムクラスター−カーボンナノチューブの透過電子顕微鏡(TEM)イメージである。
【図6】実施例1で製造したオスミウムクラスター−カーボンナノチューブのエネルギー散乱X−線(EDX)分光分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のカルボキシル(COOH)基を有する官能化されたカーボンナノチューブおよび一つ以上のアミン基を有するトリオスミウム誘導体がCOOH基とアミン基との間の双性イオン相互作用を通じて結合して生成する双性イオン錯体の形態のオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記カルボキシル(COOH)基で官能化されたカーボンナノチューブを前記アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体と有機溶媒中で反応させることを含む、請求項1記載のオスミウムクラスターで官能化されたカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記カルボキシル基で官能化されたカーボンナノチューブがカーボンナノチューブを濃無機酸で酸化させて得られることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記無機酸が硝酸、塩酸、および硫酸と硝酸の混合溶液から選ばれるものであることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体がアミノ化されたベンゾキノリンをトリオスミウムクラスターと反応させて得られることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項6】
前記アミノ基で官能化されたトリオスミウム誘導体が前記カルボキシル基で官能化されたカーボンナノチューブの1〜2重量倍の範囲で用いられることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンおよびオクタンからなる群から選ばれることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項8】
前記反応が70〜140℃で行われることを特徴とする請求項2記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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