説明

オゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法

【課題】 本発明は、オゾンを利用し光学フィルムの接触角を低減する方法を提供する。
【解決手段】 紫外線を採用し空気中における酸素を照射することにより、オゾンを生成し、オゾンの強力な酸化能力を利用して、光学フィルムの親水ラジカルを増加し、これにより光学フィルムの接触角を低減する、トリアセテート・セルロース(TAC)膜表面に対する乾式の前処理工程であり、この乾式の前処理工程を行なうことにより、従来の湿式工程の処理手順が煩雑で、高コストで、利便性が悪い、という問題点を解消するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法に関し、更に具体的に言うと、オゾン乾式工程を利用して光学フィルムの接触角を低減するための前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板(Polarizer)は、液晶ディスプレイ(LCD;Liquid Crystal Display)産業に欠かせない重要な鍵となる部材の一つである。
LCD装置は、TN LCD(Twisted Nematic;ツイスト・ネマティック・タイプのLCD)、STN LCD(Super TN;スーパーツイスト・ネマティック・タイプのLCD)、そして、TFT LCD(Thin Film Transistor、薄膜トランジスター・タイプのLCD)の3種類に分類される。
LCDパネル産業界が活気づくに伴い、偏光板の需要も自ずと大幅に拡大し、その市場も大いに成長している。
【0003】
偏光板は、ランダムな不特定方向の光を濾過して特定方向の光(バイアス光)にするフィルターとして機能し、その機能によって、入射光を直行させて偏光成分を分離する。しかし、その一部分は通過されるが、残りは、吸収,反射,乱射などの作用により遮蔽されてしまう。
【0004】
液晶ディスプレイユニットの上下に、分極方向が互いに90度になるように2枚の偏光板を配置した場合、下方の偏光板を通過する光は真上の上方偏光板を通過出来ないため、黒色を呈する。しかし、電圧を介して液晶層中における分子配列方向を調整し制御すれば、明るい白色を呈すようになり、パネルに光線の明暗の変化をつけられるようになる。簡単に言えば、偏光板は、バイアス性(偏向性)を持たない自然光を直線偏光に変換する装置である。
【0005】
偏光板の基本構成は多層膜であって、PVA(Polyvinyl Alcohol;ポリビニル・アルコール)の分子延伸特性は偏光作用を有するため、偏光板中の偏光基体として常にこの多層膜中に使用される。PVAを延伸しポリビニル・アルコール膜として成膜した後に、通常は、PVA膜が縮小しないようにそして該膜を保護するために、その両側に、それぞれ一層のTAC(Triacetate Cellulose;トリアセテート・セルロース)の光学フィルムを張付けて、偏光板の基本構成を完成する。
【0006】
TACの化学式は以下の通りである;
【化1】


ここで、R=COCH3である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
偏光板を生産した場合の数値では、光学フィルム(TAC)とPVAとを張付ける場合の接触角が40度を上回っていなくても、実際に貼り付ける段階で、親水性液との光学フィルムの接触角が40度を上回っていると、剥離現象を起こしやすくなるため、光学フィルム(TACフィルム)とPVAフィルムとの積層工程が失敗することが判っている。
【0008】
従来は、例えば図1に示すように、親水性液との接触角を低減するためのトリアセテート・セルロース(TAC)膜表面に対する前処理工程は、以下の処理工程;即ち
a.原膜であるトリアセテート・セルロース(TAC)膜と、
b.前記原膜をアルカリ洗浄槽中に浸漬し、アルカリ液により所定時間洗浄するアルカリ洗浄処理と、
c.前記原膜を水洗槽中に浸漬し、純水により原膜表面のアルカリ液を洗浄する水洗処理と、
d.前記原膜を硫酸洗槽中に浸漬し、硫酸により所定時間洗浄する硫酸洗処理と、
e.前記原膜を水洗槽中に浸漬し、純水により原膜表面の硫酸を洗浄する水洗処理と、
f.前記原膜を真空オーブンにより乾燥する乾燥処理と、
から成る。
【0009】
前述の処理ステップを行なうことにより、原膜表面の親水性を増加させることができ、前記原膜の接触角を所要の角度に狭くすることができるため、光学フィルムの張付けを施行して、TACフィルムと光学フィルムとを張り合わせても剥離を起こさない。
【0010】
しかし、上述したような従来の湿式前処理工程では、アルカリ洗浄、硫酸洗浄に対し所要の化学物質を購入する必要がある上、前処理に対する各ステップにおいて、それぞれ、温度、濃度などの各種のパラメーターを厳密に監視し制御しなければならない。更に、処理後の廃液はこの光学フィルム処理工程以外の回収処理で処分する必要がある。また数工程にわたる全体の工程に対する配管配線なども詳細に規定される必要があり、全体に言えば、従来の湿式前処理工程は、コスト高になるだけではなく、使用上も不便である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、乾式前処理工程を導入して、前述の欠点を改善するものである。
本発明の請求項1は、光学フィルムにオゾン乾式前処理を施し、光学フィルムの表面親水性の増加及び接触角度の低減を図るようにしたことを特徴とするオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法を提供するものである。
【0012】
本発明の請求項2は、請求項1に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法において、前記光学フィルムの原料は、以下に示す、トリアセテートセルロース、ジアセテートセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリカーボネート、シクロオレフィン共重合体、オレフィン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンからなる群から選択されたものであることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3は、請求項1に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法において、オゾンの生成は、紫外線と酸素を採用し光化学反応を行うことにより生成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4は、請求項3に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法において、前記紫外線は低圧水銀灯管により生成されることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5は、a、光学フィルムを用意する工程と、b、光学フィルムをオゾンタンクに放置し、光学フィルムの表面親水性を増加させ、接触角度を低減するオゾン処理工程と、を含むことを特徴とするオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法を提供するものである。
【0016】
本発明の請求項6は、請求項5に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法において、前記光学フィルムの原料は、以下に示す、トリアセテートセルロース、ジアセテートセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリカーボネート、シクロオレフィン共重合体、オレフィン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンからなる群から選択されたものであるであることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項7は、請求項5に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法において、オゾンの生成は、紫外線と酸素を採用し光化学反応を行うことにより生成されることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項8は、請求項7に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法において、前記紫外線は、低圧水銀灯管により生成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、オゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法を提供するもので、オゾン乾式前処理工程において、UV(Ultraviolet;紫外線)を利用して空気中における酸素を照射し、酸素分子を2個の高エネルギーの酸素原子に分裂させることで、酸素原子と酸素分子が再び突き当たり、これによりオゾンが生成され、生成されたオゾンの強力な酸化能力を利用し、光学フィルム表面部に親水基を増加させることで、光学フィルムの接触角が低減されるようにし、TACフィルムと光学フィルムとの積層に剥離が起こらないようすることができ、偏光板の品質を向上させることができる。
【0020】
また本発明では、前記乾式前処理方法を利用することで、従来の湿式方法で必要とされていた化学物質の購入や廃液回収のコストを節約でき、複雑な配管配線のレイアウトの必要もなく、複雑な操作や工程ステップを簡単化し、使用上の利便性を増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の特徴と利点は、添付図面を参照して好適な実施の形態を以下に詳細に説明する。
図2は本発明の前処理工程のフローチャートであり、図3はトリアセテート・セルロース(TAC)が図2の前処理工程を受けた後の実験結果を示す原膜表面の接触角の角度を示す表である。
【実施例】
【0022】
図2に、本発明のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法を達成するための、前処理工程におけるフローチャートを示す。
本発明のオゾンを利用する乾式処理工程法は、従来の湿式工程処理で利用された、トリアセテートセルロース(Triacetate Cellulose、TAC)、ジアセテートセルロース(Diacetate Cellulose)、アセテートブチレートセルロース(Cellulose Acetate Butyrate)、ポリカーボネート(Polycarbonate)、シクロオレフィン共重合体(Cyclic Olefin Copolymer)、オレフィン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン(Polysulfone)、ポリエーテルスルホン、及びその混合物などの光学フィルムをいずれも処理することができる。
【0023】
本実施例では、トリアセテート・セルロース(TAC)を例にとって説明する。
本発明の前処理工程は、
a’. トリアセテート・セルロース(TAC)原膜と、
b’. 前記トリアセテート・セルロース(TAC)原膜をオゾン処理槽に配置することにより原膜表面の親水性を増加して、張付ける原膜の接触角を低減するオゾン処理と、から成る。
【0024】
前述のステップb’のオゾン処理工程を以下に説明する。
UV(Ultraviolet;紫外線)を利用して空気中における酸素を照射すると、酸素分子を2個の高エネルギー酸素原子に分裂し、酸素原子と酸素分子が再度突き当たることで、オゾン(O3)を生成する。オゾンは、酸素の性質が活発で、強力な酸化剤であり、残留せず自動的に分解して、酸素になる。
【0025】
また、オゾンは優れた消毒剤であり、水中では、殺菌,酸化,ミクロ凝集化,脱色除臭などの効能を発揮し、空気中では、除臭,化学酸化,食物保存,微生物抑制などの効能を発揮する。
【0026】
通常の状態では、オゾンが長時間にわたって普通環境に存在するというのは難しい。オゾンの自己分解速度は、熱,光,水分,pH値などの様々な要因により変化する。金属酸化物と他の触媒なども分解速度を加速する。オゾンが分解する時に生成されるラジカル(radical; 複数分子の結合)の過程は連続する反応作用からなり、1つの反応の生成物が別の異なる反応の生成物と反応するかもしれず、必ずしも固定の反応式を有するとは限られず、非常に複雑だと言える。
【0027】
オゾンは、大気中,常温下での半減時間は40分間であるが、温度の相違により多少変化し、水中における半減時間は20分間であり、pHがよりいっそう高い環境では、分解速度がいっそう速くなる。オゾンが分解した後の最も重要な分離生成物は水酸イオンである。水酸イオンの酸化能力のほうがオゾン自身の酸化エネルギーよりも高い。
【0028】
現在、人工オゾンの生成は2種類の方式があり、その一つがスパーク生成技術で、もう一つが紫外線生成技術である。
スパーク生成技術は、典型的な伝統方式で、その生成オゾン過程には高エネルギーのコロナ放電を運用しなければならず、また、酸素が分解されるだけではなく、窒素も分解される。従って、放電過程中に窒素酸化物(NOx)を生成するので、安全な放電環境を形成する前に、先にNOxを処理する必要がある。
前記窒素酸化物は湿気や水分に当たるとただちに亜硝酸に転化し、これが人体に対し非常に重大な毒性を及ぼしやすくなる。
【0029】
紫外線生成技術は、気密式人工紫外線と大気中における酸素を経由して光化学作用を生成することにより形成される。
紫外線生成技術でいっそう重要なことは、その過程において窒素酸化物(NOx)が生成されないため、除窒素機や純酸素機を組み合わせる必要がなく、起動次第すぐに使用でき、またオゾンの生成量が緩やかである、ということである。
【0030】
本発明における最も良い実施例は、紫外線を採用してオゾンを生成する方法である。
この方法は、低圧水銀灯管から発されたUVを利用して酸素を分解し、さらにオゾンを生成する。全ての反応式を下記に表示する。
低圧水銀灯管から生成された反応:
O2+hr(185nm)→O(3P)+O(3P)
O2+O(3P)→O3
O3+hr(254nm)→O2+O(1D)
オゾン自己分解
O3→O2+O(3D)
ここで、O(1D)は励起状態の活性酸素原子を表し、O(3P)は基底状態の酸素原子を表し、hrはUVを表す。
【0031】
図3に示す実験数値では、まだ前処理がなされていない段階でのTAC原膜接触角は、65.69度であるが、本発明のオゾン乾式前処理工程により、トリアセテート・セルロース(TAC)原膜を、照射距離10mm、照射時間70秒間の下に処理すると、接触角が低減し、24時間を経由しても、平均接触角は、18.07度であることが分かる。
このように、オゾン処理を利用することにより、TAC接触角を著しく低減することができる。
【0032】
ゆえに本発明が提供するオゾン乾式前処理工程は、光学フィルム接触角を低減でき、また化学物質および廃液回収を購入する必要もなく、故にコストを削減でき、複雑な配管配線レイアウトの必要もなく、操作作業における複雑性及び工程段階を簡略化し、使用上の便利性を増加するから、本発明は、高度な産業利用性を有するものである。
【0033】
本発明は、好ましい実施例により前述のように開示されたが、この実施例は本発明を限定するものではなく、当該技術に習熟する者であれば。本発明の精神と請求の範囲を逸脱しない範囲で、種々の変更・修正を施行できるものであり、従って、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲により限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】トリアセテート・セルロース(TAC)製の原膜表面を湿式処理にて異物を除去し、その接触角を低減するための、従来の湿式前処理工程のフローチャートである。
【図2】本発明の乾式の前処理工程のフローチャートである。
【図3】トリアセテート・セルロース(TAC)フィルムが図2の前処理工程を受けた後の実験結果を示す原膜表面の接触角の角度を示す表である。
【符号の説明】
【0035】
a 原膜
b アルカリ洗浄処理
c 水洗処理
d 酸洗処理
e 水洗処理
f 乾燥処理
a’ 本発明で処理される原膜
b’ オゾン処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルムにオゾン乾式前処理を施し、光学フィルムの表面親水性の増加及び接触角度の低減を図るようにしたことを特徴とするオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項2】
前記光学フィルムの原料は、以下に示す、トリアセテートセルロース、ジアセテートセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリカーボネート、シクロオレフィン共重合体、オレフィン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項3】
オゾンの生成は、紫外線と酸素を採用し光化学反応を行うことにより生成されることを特徴とする請求項1に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項4】
前記紫外線は低圧水銀灯管により生成されることを特徴とする請求項3に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項5】
a、光学フィルムを用意する工程と、
b、光学フィルムをオゾンタンクに放置し、光学フィルムの表面親水性を増加させ、接触角度を低減するオゾン処理工程と、
を含むことを特徴とするオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項6】
前記光学フィルムの原料は、以下に示す、トリアセテートセルロース、ジアセテートセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリカーボネート、シクロオレフィン共重合体、オレフィン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項5に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項7】
オゾンの生成は、紫外線と酸素を採用し光化学反応を行うことにより生成されることを特徴とする請求項5に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。
【請求項8】
前記紫外線は、低圧水銀灯管により生成されることを特徴とする請求項7に記載のオゾンを利用して光学フィルムの接触角を低減する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−124631(P2006−124631A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60774(P2005−60774)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(503133069)力特光電科技股▲分▼有限公司 (16)
【Fターム(参考)】