説明

オゾン分解除去用触媒、その製造方法、およびそれを用いたオゾン分解除去方法

【課題】低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能な触媒を提供すること。
【解決手段】支持体と、金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に電気メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面に電気メッキまたは無電解メッキにより担持された第二の触媒成分とを備えることを特徴とするオゾン分解除去用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン分解除去用触媒、その製造方法、およびそれを用いたオゾン分解除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光化学オキシダント濃度の1時間値の最大値が年々高くなる傾向にあり、特に東京や名古屋などの都市部においては、光化学オキシダント濃度が環境基準値(1時間値が0.06ppm以下)を満たしていない。
【0003】
前記光化学オキシダントは、工場や自動車から排出される窒素酸化物と炭化水素類とが太陽の紫外線照射の下で反応して生成するオゾンを主成分とする酸化力の強い汚染物質である。オゾンは物質の酸化劣化を引き起こすだけでなく、人体に対しても悪影響を及ぼすものであり、熱分解法や活性炭法、触媒法など、従来から様々なオゾン分解除去方法が提案されている。
【0004】
前記触媒法に用いられるオゾン分解用触媒としては、MnO、Co、NiO、Fe、AgO、Cr、CeO、V、CuO、MoOなどが知られており、これらのうち、MnOが最も高い活性を示すことが知られている〔Applied Catalysis B,Environmental、1997年、第11巻、129−166頁(非特許文献1)〕。また、オゾンから酸素を生成させる反応における触媒としてクリプトメレン(cryptomelane)形態のα−MnOが好ましいことが知られている〔特表2003−527951号公報(特許文献1)〕。
【0005】
しかしながら、オゾン分解用触媒としてオゾン分解除去性能が最も優れているMnOを使用した場合であっても、実用上、必ずしも十分な性能を発現できてはいなかった。例えば、自動車のラジエータなどの熱交換器にオゾン分解除去性能を付与するために熱交換器表面にMnOを担持させた場合、十分なオゾン分解除去性能を発現させるためには、MnOの担持量を多くする必要があり、熱交換器の熱交換性能が低下するという問題があった。
【0006】
このため、特表2000−515063号公報(特許文献2)には、熱交換性能(放熱性能)の低下を防止するために、自動車のラジエータなどの熱交換器の熱交換外面の一部を、卑金属(具体的には酸化物の形態)、貴金属、それらの化合物、またはそれらの組み合わせからなる触媒組成物で被覆した熱交換装置が提案されている。そして、前記触媒組成物には、単位体積当たりの触媒量を増加させるために、高い表面積の耐火性酸化物支持体を含有させている。
【0007】
このように、MnOなどの金属酸化物を含むオゾン分解用触媒を熱交換器の表面にコーティングする場合には、熱交換性能を維持するためにコーティング面積が制約され、オゾン分解除去性能を向上させるには限界があった。
【0008】
一方、特開2009−208018号公報(特許文献3)には、支持体の表面に、Co、Cu、Niなどの金属触媒成分が無電解メッキによりコーティングされたオゾン分解除去用触媒が開示されている。この触媒は、従来の金属酸化物を含むオゾン分解用触媒に比べて効率よくオゾンを分解除去することができるものの、オゾン濃度が低く且つ水蒸気が存在する環境下においては、オゾン分解除去性能は十分なものではなく、未だ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−527951号公報
【特許文献2】特表2000−515063号公報
【特許文献3】特開2009−208018号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Dhandapatiら、Applied Catalysis B,Environmental、1997年、第11巻、129−166頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能な触媒、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、支持体の表面に電気メッキによりZnなどの第一の触媒成分をコーティングし、さらに、この第一の触媒成分の表面に電気メッキまたは無電解メッキにより標準電極電位が前記第一の触媒成分と0.3V以上異なる第二の触媒成分を担持させることによって、得られた触媒が低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても優れたオゾン分解除去性能を示し、しかも、前記第一の触媒成分を幅広い種類の金属の中から選択することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒は、支持体と、金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に電気メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面に電気メッキまたは無電解メッキにより担持された第二の触媒成分とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、支持体の表面に、金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種の第一の触媒成分を電気メッキによりコーティングする第一の工程と、前記第一の触媒成分の表面に、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種の第二の触媒成分を電気メッキまたは無電解メッキにより担持させる第二の工程とを含むことを特徴とする方法である。
【0015】
本発明のオゾン分解除去用触媒およびその製造方法において、前記第一の触媒成分としては、重金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、Zn、Sn、Cu、Cr、Fe、Co、Ni、Cd、W、Ag、In、Ru、Rh、Pd、Au、Ir、OsおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。また、前記第二の触媒成分としては、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、RuおよびOsからなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0016】
本発明のオゾン分解除去用触媒およびその製造方法において、前記第二の触媒成分は前記第一の触媒成分の表面上に分散した状態で担持されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明のオゾン分解除去方法は、オゾンを含む気体を本発明のオゾン分解除去用触媒に接触せしめて前記オゾンを分解除去することを特徴とする方法である。
【0018】
なお、本発明のオゾン分解除去用触媒によって低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することできる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のオゾン分解除去用触媒は、図1に示すような触媒構造を形成していると考えられ、これによって高いオゾン分解除去性能が発現されると推察される。
【0019】
以下、図1を参照しながら本発明にかかるオゾン分解メカニズムについて詳細に説明するが、本発明にかかるオゾン分解メカニズムは図1に限定されるものではない。本発明のオゾン分解除去用触媒の表面には、通常、空気中の水分が付着して水膜1が形成される。このとき、第二の触媒成分3(Ag)の近傍では、この水膜1を介して局部電池が形成される。すなわち、第一の触媒成分2(Zn)が溶解して金属イオン(Zn2+)と電子(e)が生成する。第二の触媒成分3は第一の触媒成分2に比べて標準電極電位が高いため、生成した電子は第二の触媒成分3中に移動する。第二の触媒成分3中に移動した電子は第二の触媒成分3の表面でオゾンの還元反応(分解反応)に利用される。このオゾンの分解反応においてはオゾンと水が反応して酸素と水酸化物イオンが生成する。この水酸化物イオンは、前記金属イオン(Zn2+)と反応して金属水酸化物(Zn(OH))を形成する。このような分解メカニズムにおいては、第一の触媒成分2が溶解して生成した電子がオゾンの還元反応を格段に促進するため、極めて高いオゾン分解除去性能を示すと推察される。
【0020】
一方、単一の触媒成分を備えるオゾン分解除去用触媒においては、このような局部電池が形成されないため、オゾンの還元反応が促進されず、高いオゾン分解除去性能が得られなかったと推察される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、オゾンを分解除去する際に人体や環境により安全であり、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能なオゾン分解除去用触媒を提供することができる。また、触媒成分を電気メッキによりコーティングすることによって、製造コストを低減できるとともに、Znなどの汎用の金属を主な触媒成分として利用できるため、原料コストも低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のオゾン分解除去方法において推定されるオゾン分解メカニズムの一例を示す模式図である。
【図2】実施例および比較例で使用したオゾン分解除去性能評価装置を示す模式図である。
【図3】実施例および比較例で得られた触媒層付きラジエータテストピースのオゾン分解除去性能の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0024】
<オゾン分解除去用触媒>
先ず、本発明のオゾン分解除去用触媒について説明する。本発明のオゾン分解除去用触媒は、支持体と、金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に電気メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面に電気メッキまたは無電解メッキにより担持された第二の触媒成分とを備えるものである。
【0025】
本発明のオゾン分解除去用触媒においては、前記第一の触媒成分と前記第二の触媒成分とを備える層がオゾン分解除去性能を示す触媒層として作用する。また、このような触媒層は、オゾン分解に対する触媒作用に優れているため、その厚さを従来の金属酸化物触媒に比べて少なくすることができ、さらに、高いオゾン分解除去性能を示すとともに、その性能も長期間にわたって安定して持続する傾向にある。
【0026】
(第一の触媒成分)
本発明にかかる第一の触媒成分を構成する金属(以下、「第一の金属」という。)としては、金属イオンを含む溶液から電気メッキによりメタル状の金属を析出するものであれば特に制限はないが、大気中における安定性の観点から、重金属および貴金属が好ましく、Zn、Sn、Cu、Cr、Fe、Co、Ni、Cd、W、Ag、In、Ru、Rh、Pd、Au、Ir、Os、Ptがより好ましく、Zn、Sn、Cu、Cr、Fe、Co、Ni、Ag、Au、Ptが特に好ましい。また、前記第一の金属として、Zn、Sn、Fe、Cr、Cuなどの安価な金属を使用することによって、オゾン分解除去用触媒の原料コストを低減することが可能となる。
【0027】
本発明においては、前記第一の金属として、1種の金属を単独で用いてもよいし、2種以上の金属を組み合わせて使用してもよい。2種以上の金属を組み合わせる場合、2種以上の金属の合金を形成してもよいし、2種以上の金属膜を積層した多層膜を形成してもよい。特に、前記2種以上の金属のうちの少なくとも1種が、上記で例示した好ましい金属である場合においては、前記第一の金属として、前記好ましい金属2種以上の合金を形成してもよいし、前記好ましい金属からなる2種以上の金属膜を積層した多層膜を形成してもよい。また、前記好ましい金属と他の金属との合金を形成してもよいし、前記好ましい金属からなる膜と他の金属からなる膜を積層した多層膜を形成してもよい。他の金属としてはPb、Moなどが挙げられる。さらに、触媒活性をより高めるために、これらの金属に熱処理を施してもよい。
【0028】
本発明のオゾン分解除去用触媒は、このような第一の触媒成分が支持体の表面に電気メッキによりコーティングされたものである。この電気メッキにより、金属の種類は特に制限されず、第一の金属を幅広い種類の金属の中から選択することができ、環境負荷の小さい金属や安価な金属を使用することが可能となる。
【0029】
(第二の触媒成分)
本発明にかかる第二の触媒成分は、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上(好ましくは0.4V以上)である金属(以下、「第二の金属」という。)、この第二の金属の合金ならびにこの第二の金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種の触媒成分である。前記標準電極電位の差の絶対値が前記範囲にあると、第一の触媒成分との標準電極電位の差によって、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能となる。
【0030】
このような第二の金属としては、第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が前記条件を満たすものであれば特に制限はないが、例えば、前記第一の金属が卑金属である場合においては、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Ru、Osなどが挙げられ、中でも、前記標準電極電位の差の絶対値が大きくなり、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下におけるオゾン分解除去性能がさらに向上するという観点から、Ag、Pt、Pd、Au、Ruが好ましい。本発明のオゾン分解除去用触媒においては、これらの第二の金属からなる群から前記標準電極電位差の絶対値が前記条件を満たすように少なくとも1種の金属を第二の触媒成分として選択する。
【0031】
また、第二の金属と第一の触媒成分との標準電極電位の差([第二の金属]−[第一の触媒成分])が+0.3V以上(好ましくは+0.4V以上)である場合には、この電位差によって第一の触媒成分の表面部分が第二の触媒成分に置換されるため、還元剤を使用しなくても第一の触媒成分の表面に無電解メッキにより第二の触媒成分を担持させることが可能となる。このような第二の金属としては、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Ru、Osが挙げられ、中でも、第一の触媒成分の表面に第二の触媒成分を無電解メッキによって容易に担持できるという観点から、Pt、Ag、Au、Cuが好ましい。
【0032】
さらに、このような第二の金属は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。2種以上の第二の金属を組み合わせる場合、これらは合金を形成してもよいし、2種以上の金属膜を積層した多層膜を形成してもよい。また、前記第二の金属は、他の金属と合金を形成してもよいし、前記第二の金属からなる膜と他の金属からなる膜を積層した多層膜を形成してもよい。他の金属としては、例えば、Co、Ni、Fe、Sn、Zn、Cd、W、Moなどが挙げられ、中でも、Co、Ni、Fe、Sn、Znが好ましい。
【0033】
本発明のオゾン分解除去用触媒は、このような第二の触媒成分が前記第一の触媒成分の表面に電気メッキまたは無電解メッキにより担持されたものである。前記第二の触媒成分は、第一の触媒成分の表面上に分散した状態で担持されていることが好ましい。このような状態のオゾン分解除去用触媒を用いることによって、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下において、さらに効率よくオゾンを分解除去することが可能となる。第二の触媒成分の分散状態としては、第二の触媒成分が均一の密な膜状でなければ特に制限はないが、第二の触媒成分が多孔質膜を形成した状態、海島構造を形成した状態(第二の触媒成分が島状)、第二の触媒成分の微粒子が高度に分散した状態が好ましく、触媒活性が格段に高くなるという観点から第二の触媒成分の微粒子が均一且つ高度に分散した状態が特に好ましい。
【0034】
(支持体)
本発明に用いられる支持体は有機材料および/または無機材料からなる担体であり、その形状は特に制限されないが、フォーム状、モノリス状、ハニカム状またはコルゲート状などの通気性を有する形状であることが好ましい。前記有機材料および無機材料からなる担体は特に限定されず、従来公知のオゾン分解触媒に用いられる担体が挙げられ、より具体的には、ウレタンフォーム、セラミックフォーム、セラミックハニカム担体などが挙げられる。また、本発明においては、支持体として自動車のラジエータ、エバポレータ、ヒータコアなどのアルミニウム製熱交換器を用いることも可能である。
【0035】
また、本発明において、表面が不導体(絶縁体)の支持体を使用する場合には、常法の無電解Cuメッキなどにより支持体に表面処理を施して支持体の表面に導電性を付与することができる。また、表面がアルミニウム製の支持体を使用する場合には、通常のシンジケート液を用いて支持体にシンジケート処理を施して表面を亜鉛置換することによって支持体の表面に導電性を付与することができる。このような導電性付与によって支持体の表面に前記第一の触媒成分を電気メッキよってコーティングすることが可能となる。
【0036】
<オゾン分解除去用触媒の製造方法>
次に、本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法について説明する。本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法は、支持体の表面に、金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種の第一の触媒成分を電気メッキによりコーティングする第一の工程と、前記第一の触媒成分の表面に、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種の第二の触媒成分を電気メッキまたは無電解メッキにより担持させる第二の工程とを含む方法である。これにより、前記第一の触媒成分と、この第一の触媒成分の表面に担持された前記第二の触媒成分とを含有する触媒層を備えるオゾン分解除去用触媒を得ることができる。
【0037】
本発明のオゾン分解除去用触媒の製造方法において、支持体として表面が不導体(絶縁体)のものを使用する場合には、支持体の表面に無電解メッキを施して導電性を付与したり、表面がアルミニウム製の支持体を使用する場合には、支持体の表面を亜鉛で置換したりすることによって、導電性を付与する必要がある。そこで、先ず、支持体の表面処理方法について説明する。
【0038】
(支持体の表面処理)
表面が不導体(絶縁体)の支持体に導電性を付与する最も一般的な方法としては、支持体の表面をPdなどの金属微粒子で活性化した後、Cu、Co、Niなどの金属またはその合金を無電解メッキによりコーティングする方法が挙げられる。
【0039】
また、他の導電性付与方法としては、支持体の表面を亜鉛で置換する方法、例えば、アルミニウム製の支持体をジンケートイオン(ZnO2−)を含むジンケート浴中に浸漬し、置換反応により亜鉛膜を形成させる方法などが挙げられる。このように支持体表面のアルミニウムを亜鉛で置換することによって、アルミニウム製の支持体に導電性を付与でき、第一の触媒成分を電気メッキによりコーティングすることが可能となる。
【0040】
(第一の工程)
本発明にかかる第一の工程は、前記支持体(好ましくは表面処理されたもの)の表面に、前記第一の触媒成分を電気メッキによりコーティングする工程である。コーティング方法としては、前記第一の金属の塩と、必要に応じて前記他の金属の塩とを含有する第一の電気メッキ溶液に前記支持体を浸漬し、この支持体をカソード(陰極)として電気メッキを行い、必要に応じて洗浄および乾燥する方法が挙げられる。これにより、支持体表面に前記第一の触媒成分が、通常、膜状(混合膜や多層膜を含む)に形成される。
【0041】
前記第一の金属の塩の種類としては特に限定されないが、溶媒への溶解性が高く、安価であるという観点から、硫酸塩、硝酸塩、ピロリン酸塩、スルファミン酸塩、メタンスルフォン酸塩、カルボン酸塩、塩化物、シアン化物などが好ましいが、市販の金属塩または貴金属塩の水溶液またはコロイド溶液を使用することもできる。また、前記第一の金属がスズの場合には、スズ酸のアルカリ金属塩も前記第一の金属の塩として使用することができる。
【0042】
前記第一の電気メッキ溶液としては特に制限はなく、通常の電気メッキ溶液を使用することができ、重金属をメッキする場合、例えば、銅メッキを施す場合には、硫酸銅メッキ溶液、シアン化銅メッキ溶液、ピロリン酸銅メッキ溶液などを、ニッケルメッキを施す場合には、硫酸ニッケルを主成分とするメッキ溶液(ワット浴)、スルファミン酸ニッケルメッキ溶液などを、クロムメッキを施す場合には、無水クロム酸と硫酸を主成分とするメッキ溶液(サージェント浴)、3価のクロムを含有するメッキ溶液(3価クロムメッキ浴)などを、亜鉛メッキを施す場合には、シアン化亜鉛メッキ溶液、亜鉛と水酸化ナトリウムを含有するメッキ溶液(ジンケート浴)(以上、アルカリ浴)、塩化亜鉛メッキ溶液、硫酸亜鉛メッキ溶液(以上、酸性浴)などを、スズメッキを施す場合には、硫酸スズメッキ溶液、メタンスルフォン酸スズメッキ溶液(以上、酸性浴)、スズ酸ナトリウムメッキ溶液、スズ酸カリウムメッキ溶液(以上、アルカリ浴)、カルボン酸スズメッキ溶液、ピロリン酸スズメッキ溶液(以上、中性(弱酸性、弱アルカリ性)浴)などを使用することができる。また、貴金属をメッキする場合、例えば、金メッキを施す場合には、シアン化金カリウムメッキ溶液(シアン化金メッキ浴)などを、銀メッキを施す場合には、シアン化銀カリウムを主原料とするメッキ溶液(アルカリ性シアン化銀メッキ浴)などを使用することができる。
【0043】
このような第一の電気メッキ溶液に用いられる溶媒としては、前記第一の金属の塩を溶解するものであれば特に限定されないが、第一の金属の塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を使用することもできる。
【0044】
本発明に用いられる第一の電気メッキ溶液中の第一の金属の塩の濃度は5〜150g/Lであることが好ましい。また、この第一の電気メッキ溶液には、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤、改良剤などの各種添加剤をさらに配合することも可能である。これらの添加剤の配合量は特に制限されないが、一般的に250g/L以下であることが好ましい。
【0045】
前記電気メッキに使用するアノード(陽極)としては特に制限はなく、亜鉛板、スズ板、銅板、ニッケル板、鉛合金の不溶性陽極、白金板、白金メッキチタン板、ステンレス鋼板などの公知のアノード用電極が挙げられる。
【0046】
第一の工程における電気メッキ処理の条件としては特に制限はなく、所望の厚さの第一の触媒成分からなる層が形成されるように適宜設定することができる。例えば、電流密度としては0.1〜30A/dmが好ましく、電気メッキ溶液の温度としては20〜90℃が好ましく、メッキ処理時間としては1分間〜1時間が好ましいが、これらの条件は、コーティングする第一の触媒成分の種類に応じて適宜調整することができ、これにより、第一の触媒成分のコーティング量(第一の触媒成分からなる層の厚さ)を調整することが可能となる。電流密度および電気メッキ溶液の温度が前記下限未満になると、電気メッキが進行しにくく、所望の厚さの第一の触媒成分からなる層を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電気メッキが速く進行し、第一の触媒成分からなる層が厚くなり過ぎる傾向にある。ただし、電気メッキが速く進行し過ぎる場合には、電流密度を低下させたり、電気メッキ溶液の温度を低下させることによって、メッキ速度を遅くすることは可能である。
【0047】
このようにしてコーティングされた第一の触媒成分の量は支持体1L当たり0.1〜100gであることが好ましい。第一の触媒成分のコーティング量が上記下限未満になると第一の触媒成分の効果が十分に発揮されない、すなわち、オゾン分解除去性能が低くなる傾向にあり、また、第二の触媒成分が脱離しやすくなる傾向にある。他方、前記上限を超えると第一の触媒成分が粒成長してオゾン分解除去性能が低下する傾向にある。
【0048】
また、第一の工程においては、前記方法により第一の触媒成分がコーティングされた支持体に洗浄処理を施して第一の触媒成分の表面に残留した第一の金属の塩などの不純物を除去することが好ましい。この洗浄処理の方法は特に限定されないが、例えば、第一の触媒成分を備える前記支持体を、前記不純物を溶解可能な溶媒中に分散させた後、20℃から溶媒の常圧沸点の間の温度で0.5〜3時間程度撹拌することが好ましい。このような洗浄用の溶媒としては、前記第一の金属の塩などを溶解するものであれば特に制限されないが、第一の金属の塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を使用することもできる。さらに、溶媒の温度が高いほど第一の金属の塩などの化学物質の溶媒に対する溶解度が大きくなるため、洗浄する際の溶媒の温度は上記範囲内で高い方が好ましい。用いる攪拌機は特に制限されないが、マグネットスターラー、プロペラ攪拌機、超音波洗浄機などが挙げられる。
【0049】
本発明にかかる第一の触媒成分は、電気メッキにより層を形成しているため、金属結合により支持体に対する密着性に優れている。また、本発明においては、無機系または有機系バインダーを用いずに支持体表面に第一の触媒成分をコーティングしているため、耐水性に優れたオゾン分解除去用触媒を得ることができる。さらに、前記第一の触媒成分からなる層は、熱伝導率の高い金属により形成され且つ電気メッキにより形成されたものであるため、その厚みが数μm〜数百μm(好ましくは数μm〜数十μm)と非常に薄いことから、熱交換性能(例えば、放熱性能)に優れたオゾン分解除去用触媒を得ることができる。
【0050】
(第二の工程)
本発明にかかる第二の工程は、前記第一の触媒成分の表面に、前記第二の触媒成分を電気メッキまたは無電解メッキにより担持させる工程である。このようなオゾン分解除去用触媒においては、第一の触媒成分と第二の触媒成分とを備える層がオゾン分解除去性能を示す触媒層として作用する。また、本発明にかかる触媒層はオゾン分解に対する触媒作用に優れているため、高いオゾン除去性能を示すとともに、その性能も長期間にわたって安定して持続することができる。
【0051】
(電気メッキ)
電気メッキにより担持する方法としては、前記第二の金属の塩と、必要に応じて前記他の金属の塩とを含有する第二の電気メッキ溶液に、第一の触媒成分を備える前記支持体を浸漬し、この支持体をカソード(陰極)として電気メッキを行い、必要に応じて洗浄および乾燥する方法が挙げられる。これにより、前記第一の触媒成分の表面に前記第二の触媒成分が担持され、本発明のオゾン分解除去用触媒を得ることができる。
【0052】
前記第二の金属の塩の種類としては特に限定されないが、溶媒への溶解性が高く、安価であるという観点から、硫酸塩、硝酸塩、ピロリン酸塩、スルファミン酸塩、メタンスルフォン酸塩、カルボン酸塩、塩化物、シアン化物などが好ましいが、市販の金属塩または貴金属塩の水溶液またはコロイド溶液を使用することもできる。また、前記第二の金属がスズの場合には、スズ酸のアルカリ金属塩も前記第二の金属の塩として使用することができる。
【0053】
前記第二の電気メッキ溶液としては特に制限はなく、通常の電気メッキ溶液を使用することができ、重金属をメッキする場合、例えば、銅メッキを施す場合には、硫酸銅メッキ溶液、シアン化銅メッキ溶液、ピロリン酸銅メッキ溶液などを、ニッケルメッキを施す場合には、硫酸ニッケルを主成分とするメッキ溶液(ワット浴)、スルファミン酸ニッケルメッキ溶液などを、クロムメッキを施す場合には、無水クロム酸と硫酸を主成分とするメッキ溶液(サージェント浴)、3価のクロムを含有するメッキ溶液(3価クロムメッキ浴)などを、亜鉛メッキを施す場合には、シアン化亜鉛メッキ溶液、亜鉛と水酸化ナトリウムを含有するメッキ溶液(ジンケート浴)(以上、アルカリ浴)、塩化亜鉛メッキ溶液、硫酸亜鉛メッキ溶液(以上、酸性浴)などを、スズメッキを施す場合には、硫酸スズメッキ溶液、メタンスルフォン酸スズメッキ溶液(以上、酸性浴)、スズ酸ナトリウムメッキ溶液、スズ酸カリウムメッキ溶液(以上、アルカリ浴)、カルボン酸スズメッキ溶液、ピロリン酸スズメッキ溶液(以上、中性(弱酸性、弱アルカリ性)浴)などを使用することができる。また、貴金属をメッキする場合、例えば、金メッキを施す場合には、シアン化金カリウムメッキ溶液(シアン化金メッキ浴)などを、銀メッキを施す場合には、シアン化銀カリウムを主原料とするメッキ溶液(アルカリ性シアン化銀メッキ浴)などを使用することができる。
【0054】
このような第二の電気メッキ溶液に用いられる溶媒としては、前記第二の金属の塩を溶解するものであれば特に限定されないが、第二の金属の塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を使用することもできる。
【0055】
本発明に用いられる第二の電気メッキ溶液中の第二の金属の塩の濃度は5〜150g/Lであることが好ましい。また、この第二の電気メッキ溶液には、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤、改良剤などの各種添加剤をさらに配合することも可能である。これらの添加剤の配合量は特に制限されないが、一般的に250g/L以下であることが好ましい。
【0056】
前記電気メッキに使用するアノード(陽極)としては特に制限はなく、亜鉛板、スズ板、銅板、ニッケル板、鉛合金の不溶性陽極、白金板、白金メッキチタン板、ステンレス鋼板などの公知のアノード用電極が挙げられる。
【0057】
第二の工程における電気メッキ処理の条件としては特に制限はなく、所望の量の第二の触媒成分が担持されるように適宜設定することができる。例えば、電流密度としては0.1〜30A/dmが好ましく、電気メッキ溶液の温度としては20〜90℃が好ましく、メッキ処理時間としては1分間〜1時間が好ましいが、これらの条件は、担持する第二の触媒成分の種類に応じて適宜調整することができ、これにより、第二の触媒成分の担持量を調整することが可能となる。電流密度および電気メッキ溶液の温度が前記下限未満になると、電気メッキが進行しにくく、十分な量の第二の触媒成分が担持されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電気メッキが速く進行し、第二の触媒成分の担持量が多くなり過ぎ、第二の触媒成分を第一の触媒成分の表面上に分散した状態で担持させることが困難となる傾向にある。ただし、電気メッキが速く進行し過ぎる場合には、電流密度を低下させたり、電気メッキ溶液の温度を低下させることによって、メッキ速度を遅くすることは可能である。
【0058】
(無電解メッキ)
無電解メッキにより担持させる方法としては、第一の触媒成分との標準電極電位の差([第二の金属]−[第一の触媒成分])が+0.3V以上(好ましくは+0.4V以上)である前記第二の金属の塩と、必要に応じて前記他の金属の塩とを含有する無電解メッキ溶液に、第一の触媒成分を備える前記支持体を浸漬し、必要に応じて洗浄および乾燥する方法が挙げられる。これにより、前記第一の触媒成分の表面に前記第二の触媒成分が担持され、本発明のオゾン分解除去用触媒を得ることができる。
【0059】
前記無電解メッキ溶液に用いられる溶媒としては、前記第二の金属の塩を溶解するものであれば特に限定されないが、第二の金属の塩の溶解度が大きく、安全性が高く、安価であるという観点から水が好ましい。また、水以外の溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も使用可能であり、水と有機溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を使用することもできる。さらに、これらの無電解メッキ溶液に酸を添加することによって置換メッキを促進したり、第一の触媒成分の表面をエッチングして表面積を増大させることができる。
【0060】
前記第二の金属の塩の種類は特に限定されないが、前記溶媒への溶解性が高く、安価であるという観点から硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが好ましいが、市販の金属塩または貴金属塩の水溶液またはコロイド溶液を使用することもできる。このような第二の金属の塩の濃度としては0.1〜10g/Lが好ましい。第二の金属の塩の濃度が前記下限未満になると十分な量の第二の触媒成分を担持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると過度の量の第二の触媒成分が析出し、第一の触媒成分の表面全体が密に被覆される傾向にある。
【0061】
また、この無電解メッキ溶液には、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、錯化剤、促進剤、安定剤、改良剤などの各種添加剤をさらに配合することも可能である。これらの添加剤の配合量は特に制限されないが、一般的に50g/L以下であることが好ましい。なお、この第二の工程においては、第一の触媒成分と第二の触媒成分の電位差を利用して無電解メッキ(置換メッキ)を行うため、この無電解メッキ溶液には還元剤を添加しなくてもよい。
【0062】
第二の工程における無電解メッキ処理の条件は特に制限されないが、浸漬温度の下限としては室温以上が好ましい。浸漬温度が上記下限未満になるとメッキ反応の制御が困難となり、第二の触媒成分の担持量の制御が困難となる傾向にある。また、浸漬温度の上限としては溶媒の常圧沸点未満(水の場合は100℃未満)が好ましく、溶媒の常圧沸点より5℃低い温度以下(水の場合は95℃以下)がより好ましい。溶媒の常圧沸点近傍ではメッキ反応が速くなり過ぎる傾向にある。また、浸漬時間としては5分間〜6時間が好ましく、10分間〜3時間がより好ましく、15分間〜60分間が特に好ましいが、担持する第二の触媒成分の種類に応じて適宜調整することができる。この浸漬時間を調整することにより第二の触媒成分の担持量を調整することができる。また、浸漬時間が前記下限未満になると十分な量の第二の触媒成分が担持されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると第二の触媒成分の担持量が多くなりすぎ、第二の触媒成分を第一の触媒成分の表面上に分散した状態で担持させることが困難となる傾向にある。
【0063】
このように電気メッキまたは無電解メッキにより担持された第二の触媒成分の量は支持体1L当たり0.05〜5gであることが好ましい。第二の触媒成分の担持量が上記下限未満になると第二の触媒成分の効果が十分に発揮されない、すなわち、オゾン分解除去性能が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると第一の触媒成分の表面が全て第二の触媒成分で被覆されるため、局部電池が形成されにくく、オゾン分解除去性能が低下する傾向にある。
【0064】
また、本発明においては、前記方法により製造されたオゾン分解除去用触媒に洗浄処理を施して第一の触媒成分および第二の触媒成分の表面に残留した第二の金属の塩などの不純物を除去することが好ましい。この洗浄処理の方法は特に限定されず、前記第一の工程の場合と同様の洗浄処理方法、洗浄用溶媒などを採用することができる。
【0065】
本発明にかかる第二の触媒成分は、電気メッキまたは無電解メッキ(置換メッキ)により第一の触媒成分の表面に担持されているため、第一の触媒成分に対する密着性に優れている。また、本発明においては、無機系または有機系バインダーを用いずに第一の触媒成分の表面に第二の触媒成分が担持されているため、耐水性に優れたオゾン分解除去用触媒を得ることができる。さらに、通常、前記第二の触媒成分は、熱伝導率の高い金属により形成され、且つ電気メッキまたは無電解メッキにより第一の触媒成分の表面に分散した状態で担持されたものであるため、第一の触媒成分と第二の触媒成分を備える触媒層は、その厚さが非常に薄く、本発明のオゾン分解除去用触媒は熱交換性能(例えば、放熱性能)に優れている。
【0066】
<オゾン分解除去方法>
次に、本発明のオゾン分解除去方法について説明する。本発明のオゾン分解除去方法は、前記本発明のオゾン分解除去用触媒にオゾンを含む気体を接触せしめてオゾンを分解除去する方法である。前記気体としては、オゾンを含む空気などが挙げられるが、本発明のオゾン分解除去用触媒は、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下におけるオゾン分解除去性能に優れており、本発明のオゾン分解除去方法によれば、例えば、オゾン濃度が体積基準で0.01〜10ppm、露点が−17〜50℃である低オゾン濃度の湿潤空気のオゾン浄化を実施することが可能となる。
【0067】
前記オゾン分解除去用触媒とオゾンを含む気体との接触方法としてはバッチ式や、オゾン分解除去用触媒の固定床にオゾンを含む気体を流通させて接触させる方法などが挙げられる。また、操作条件は適宜設定することができるが、接触温度としては、オゾンを効率よく分解除去できる観点から、室温〜200℃が好ましく、50〜200℃が好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
先ず、支持体であるアルミニウム製ラジエータから切り出した直径30mm×厚さ16mmのテストピースの表面にダブルジンケート処理により亜鉛置換を施した。次に、イオン交換水1Lに塩化亜鉛68gおよび塩化アンモニウム205gを溶解して塩化亜鉛メッキ液を調製した。この塩化亜鉛メッキ液に、前記ダブルジンケート処理を施したテストピースおよび亜鉛板を浸漬し、前記テストピースをカソード(陰極)、前記亜鉛板をアノード(陽極)として温度25℃、電流密度1A/dmの条件で30分間電気メッキを行なった。その後、テストピースを引き上げ、イオン交換水で十分に水洗し、105℃で1時間乾燥して、表面が亜鉛(第一の触媒成分)でメッキされたラジエータテストピースを得た。
【0070】
次に、イオン交換水20mlに硝酸銀0.023gを加えて溶解し、銀化学メッキ液を調製した。この銀化学メッキ液に、亜鉛でメッキされた前記ラジエータテストピースを室温(27℃)で1時間浸漬して置換メッキを行なった後、引き上げ、イオン交換水で十分に水洗した。その後、105℃で1時間乾燥して亜鉛(第一の触媒成分)と銀(第二の触媒成分)でメッキされたAg−Zn触媒層付きラジエータテストピースを得た。
【0071】
このAg−Zn触媒層付きラジエータテストピースにおけるAgメッキ量およびZnメッキ量を誘導結合プラズマ発光分析(ICP)により測定したところ、アルミニウム製ラジエータテストピース1L当たり、Ag量が0.5g、Zn量が72.8gであった。
【0072】
(比較例1)
銀(第二の触媒成分)をメッキしなかった以外は実施例1と同様にして、触媒成分として亜鉛のみでメッキされたZn触媒層付きラジエータテストピースを得た。このZn触媒層付きラジエータテストピースにおけるZnメッキ量を重量法により測定したところ、アルミニウム製ラジエータ1L当たり、Zn量は88.2gであった。
【0073】
(比較例2)
金属塩として塩化パラジウム(II)162mgをイオン交換水1Lに溶解した。この水溶液に、強く撹拌しながら1質量%のステアリルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液10mlを加え、さらに0.15質量%の水素化ホウ素ナトリウム水溶液50mlを加えて、パラジウムコロイド溶液を調製した。このパラジウムコロイド溶液1Lに、支持体としてアルミニウム製ラジエータから切り出した直径30mm×厚さ16mmのテストピースを1時間浸漬した後、引き上げ、水洗および乾燥を施して、パラジウムコロイド粒子を表面に吸着させることにより活性化させたアルミニウム製ラジエータテストピースを得た。
【0074】
次に、イオン交換水1Lに硝酸銀4.76g、ヒドラジン一水和物2.36g、1,2−ビス(2−ヒドロキシエチルチオ)エタン29.53gを加えて溶解した。0.1Nの硝酸を用いてこの水溶液のpHを10に調整することにより銀化学メッキ液を調製した。
この銀化学メッキ液に、表面をパラジウムコロイドで活性化させた前記アルミニウム製ラジエータテストピースを45℃で1時間浸漬して無電解メッキを行なった後、引き上げ、イオン交換水で十分に水洗した。その後、105℃で1時間乾燥して、触媒成分として銀のみでメッキされたAg触媒層付きラジエータテストピースを得た。このAg触媒層付きラジエータテストピースにおけるAgメッキ量を重量法により測定したところ、アルミニウム製ラジエータ1L当たり、Ag量は1.49gであった。
【0075】
(比較例3)
アルミニウム製ラジエータから、触媒成分が担持されていない未処理のテストピース(直径30mm×厚さ16mm)を切り出した。
【0076】
<オゾン分解除去性能の評価>
実施例1および比較例1〜2で得られた触媒層付きラジエータテストピースのオゾン分解除去用触媒としての性能を以下のように評価した。なお、比較例3で得られた未処理のラジエータテストピースについてもオゾン分解除去性能を評価した。
【0077】
先ず、図2に示すオゾン分解除去性能評価装置の触媒床5(内径30mm)に触媒層付きまたは未処理の前記ラジエータテストピース(直径30mm×厚さ16mm)を設置した。この触媒床5に体積基準で1ppmのオゾンを含む湿潤空気(露点:21.0℃)を35〜100℃の入りガス温度、LV値=1m/sおよびSV値=2.3×10−1の流速で供給し、触媒床通過前後の湿潤空気中のオゾン濃度を測定してオゾン分解除去率を算出した。その結果を図3に示す。
【0078】
図3に示した結果から明らかなように、実施例1で得られたAg−Zn触媒層付きラジエータテストピースは、Zn触媒層付きラジエータテストピース(比較例1)、Ag触媒層付きラジエータテストピース(比較例2)および未処理のラジエータテストピース(比較例3)のオゾン分解除去用触媒に比べて高いオゾン浄化率を示し、オゾン分解除去用触媒として有用であることが確認された。特に、入りガス温度が高くなるにつれてオゾン浄化率の差が増大することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明によれば、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下においても効率よくオゾンを分解除去することが可能なオゾン分解除去用触媒を提供することができる。特に、本発明においては、触媒成分を構成する金属として、安価な金属や環境に対する負荷が小さい金属を選択することができるため、低コスト化や、オゾンを分解除去する際の人体や環境に対する安全性の向上を図ることが可能となる。
【0080】
したがって、本発明にかかる支持体として自動車のラジエータやエバポレータ、ヒータコアなどの熱交換器を用いた場合、この熱交換器は、低オゾン濃度且つ高湿度の雰囲気下において優れた触媒活性(オゾン分解除去性能)を示すオゾン分解除去用触媒としても有用となる。また、触媒成分を構成する金属として、安価な金属や環境に対する負荷が小さい金属を選択することによって、低価格の熱交換器や環境に対する負荷が小さい熱交換器として有用である。
【符号の説明】
【0081】
1:水膜、2:第一の触媒成分、3:第二の触媒成分、4:支持体、5:触媒床、6:石英管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記支持体の表面に電気メッキによりコーティングされた第一の触媒成分と、
前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記第一の触媒成分の表面に電気メッキまたは無電解メッキにより担持された第二の触媒成分と、
を備えることを特徴とするオゾン分解除去用触媒。
【請求項2】
前記第一の触媒成分が、重金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のオゾン分解除去用触媒。
【請求項3】
前記第一の触媒成分が、Zn、Sn、Cu、Cr、Fe、Co、Ni、Cd、W、Ag、In、Ru、Rh、Pd、Au、Ir、OsおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載のオゾン分解除去用触媒。
【請求項4】
前記第二の触媒成分が、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、RuおよびOsからなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のオゾン分解除去用触媒。
【請求項5】
前記第二の触媒成分が前記第一の触媒成分の表面上に分散した状態で担持されていることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のオゾン分解除去用触媒。
【請求項6】
支持体の表面に、金属および合金からなる群から選択される少なくとも1種の第一の触媒成分を電気メッキによりコーティングする第一の工程と、
前記第一の触媒成分の表面に、前記第一の触媒成分との標準電極電位の差の絶対値が0.3V以上である金属、該金属の合金および該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種の第二の触媒成分を電気メッキまたは無電解メッキにより担持させる第二の工程と、
を含むことを特徴とするオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記第一の触媒成分が、重金属および貴金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項8】
前記第一の触媒成分が、Zn、Sn、Cu、Cr、Fe、Co、Ni、Cd、W、Ag、In、Ru、Rh、Pd、Au、Ir、OsおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第二の触媒成分が、Cu、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、RuおよびOsからなる群から選択される少なくとも1種の金属、該金属の合金ならびに該金属と他の金属との合金からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項6〜8のうちのいずれか一項に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記第二の触媒成分を前記第一の触媒成分の表面上に分散した状態で担持させることを特徴とする請求項6〜9のうちのいずれか一項に記載のオゾン分解除去用触媒の製造方法。
【請求項11】
オゾンを含む気体を請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のオゾン分解除去用触媒に接触せしめて前記オゾンを分解除去することを特徴とするオゾン分解除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−236144(P2012−236144A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106571(P2011−106571)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】