説明

オゾン含有ハイドレートの製造方法及びその装置並びにオゾン含有ハイドレート

【課題】高濃度のオゾンハイドレートを低圧でしかも氷点下近くで連続的に製造でき、しかもこれを常圧で貯蔵可能なオゾン含有ハイドレートの製造方法及びその装置並びにオゾン含有ハイドレートを提供する。
【解決手段】ハイドレート生成器10内に冷却水14を貯留し、その冷却水14中にオゾンガスとキセノン又は炭酸ガスを吹き込み、水をホストとし、オゾンガスとキセノン又は炭酸ガスをゲストガスとした高濃度オゾン含有ハイドレート47を生成し、そのハイドレート生成器10から高濃度オゾン含有ハイドレート47を、−10℃以下に冷却すると共に大気圧まで落圧して、常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレート47Sを製造するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のオゾンを含有したハイドレートの製造方法及びその装置に係り、特に、低圧、0℃以上でオゾンをハイドレート化できると共に常圧で貯蔵可能なオゾン含有ハイドレートの製造方法及びその装置並びにオゾン含有ハイドレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
オゾンは、殺菌作用を有すると共に時間の経過と共に自己分解して酸素となるため、殺菌後は、塩素系殺菌剤のように有害物が残ることがないため、食品や容器の殺菌、室内の殺菌に広く使用されている。
【0003】
このオゾンの利用形態としては、オゾンガス、オゾン水、オゾン氷など種々の形態で使用されるが、濃度は約20〜30ppmと低く、しかもオゾンの自己分解作用により長期の保存は困難である。
【0004】
オゾンの貯蔵方法として、特許文献1に示されるように、オゾンと水又は氷とを接触させながら所定の温度以下にすることによってオゾンを取り込んだ固体状物質を形成することが提案されている。
【0005】
この特許文献1では、オゾンと水又は氷とを接触させる際の温度圧力条件は、270K(−3℃)以下、2MPa以上、特に248K(−25℃)以下、13MPa以上とすることで、オゾンを取り込んだ固体状物質を製造できることが開示されている。
【0006】
ところで、特許文献1では、オゾンが水に包接された固体状物質を製造できるとしているが、水は大気圧下では0℃で凝固し、圧力を高くすれば凝固温度は下げることができるものの、13MPa以上で、−25℃以下の過冷却水で、オゾンと接触させてオゾンハイドレートとするのは、製造上からも困難であり、特許文献1では反応槽内に粉末状の氷を充填し、その反応槽内にオゾンガスを供給することで、オゾンガスが氷に包接されるとされ、現実には、オゾンハイドレートではなく、オゾンガス含有氷が製造されるものと考えられる。
【0007】
従って、このオゾン含有固体状物質は、氷の中にオゾンガスが閉じこめられたものであり、オゾン分子を包接したハイドレートと違って、貯蔵中にオゾンガスの自己分解は避けられない問題がある。
【0008】
オゾンハイドレートを生成するには、オゾン水を反応槽内に封入し、その反応槽を高圧にした状態で冷却すればオゾンハイドレートとすることができるが、バッチ式であり、連続してオゾンハイドレートを製造することはできない問題があると共に、反応槽で生成したオゾンハイドレートを他の容器に移し替える際には、圧力と温度を維持したまま移し替えることも困難である。
【0009】
そこで、本出願人は、先に、オゾンハイドレートを製造する際に、ハイドレート生成器内に冷却水を貯留し、そのハイドレート生成器を、低圧(1〜3MPa)に保つと共に冷却水を0℃以下に保ち、冷却水中に、ゲストガスとしてのオゾンに炭酸ガスやキセノンを添加して吹き込むことで、2000〜5000ppmの高濃度のオゾン含有ハイドレートを連続的に生成できるオゾン含有ハイドレートの製造方法とその装置を提案した(特願2010−31387号)。
【0010】
この先願の発明においては、製造したオゾン含有ハイドレートを1〜3MPaに保ったままハイドレート収納容器に収納し、使用時にはハイドレート収納容器内の圧力を順次開放してオゾンを放出させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−210881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、先願の発明では、生成したオゾン含有ハイドレートを1〜3MPaに保ったまま保存し、使用時に、圧力を開放してハイドレートを分解してオゾンを放出させるものであるが、分解したオゾンの濃度は2000〜5000ppmと高濃度であり、取り扱い性に問題を残している。
【0013】
そこで、本発明者らは高濃度のオゾンハイドレートの常圧での保存性について研究した結果、生成したオゾンハイドレートを過冷却状態とすることで、大気圧下でもハイドレートが分解せずに保存できることを見出して本発明をなすに至ったものである。
【0014】
本発明の目的は、上記課題を解決し、高濃度のオゾンハイドレートを低圧でしかも氷点下近くで連続的に製造でき、しかもこれを常圧で貯蔵可能なオゾン含有ハイドレートの製造方法及びその装置並びにオゾン含有ハイドレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ハイドレート生成器内に0℃以下の冷却水を貯留すると共に上記ハイドレート生成器内の圧力を1〜3MPaに保ち、その冷却水中にオゾンガスとキセノン又は炭酸ガスを吹き込み、水をホストとし、オゾンガスとキセノン又は炭酸ガスをゲストガスとした高濃度オゾン含有ハイドレートを生成し、そのハイドレート生成器から高濃度オゾン含有ハイドレートを、−10℃以下に冷却すると共に大気圧まで落圧して、常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを製造することを特徴とするオゾン含有ハイドレートの製造方法である。
【0016】
請求項2の発明は、ハイドレート生成器内の下部に回収器を接続すると共にその回収器の下部に大気圧筒を接続し、高濃度オゾン含有ハイドレートを、その圧力を保ったまま回収器内に導入して冷却し、その後、冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒内に導入して常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートとし、その常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒から貯蔵タンクに回収する請求項1記載のオゾン含有ハイドレートの製造方法である。
【0017】
請求項3の発明は、回収器内に、低温の冷媒液を供給すると共に回収器内での冷媒液の蒸気圧をハイドレート生成器内の圧力より低い圧力に保持し、その回収器内に、ハイドレート生成器内の高濃度オゾン含有ハイドレートを導入して高濃度オゾン含有ハイドレートを−10℃以下に冷却し、その冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒に導入すると共に冷媒ガスを排気して大気圧筒を大気圧まで落圧し、その後常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒から貯蔵タンクに回収する請求項2記載のオゾン含有ハイドレートの製造方法である。
【0018】
請求項4の発明は、回収器内に、低温の窒素ガスを供給すると共に回収器内の窒素ガスの圧力をハイドレート生成器内の圧力より低い圧力に保持し、その回収器内に、ハイドレート生成器内の高濃度オゾン含有ハイドレートを導入して高濃度オゾン含有ハイドレートを−10℃以下に冷却し、その冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒に導入すると共に窒素ガスを排気して大気圧筒を大気圧まで落圧し、その後常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒から貯蔵タンクに回収する請求項2記載のオゾン含有ハイドレートの製造方法である。
【0019】
請求項5の発明は、冷却水を貯留するハイドレート生成器と、そのハイドレート生成器内の冷却水中に設けられゲストガスを吹き出す気泡発生器と、気泡発生器にオゾンガスとキセノン又は炭酸ガスを供給するゲストガス供給ラインと、ハイドレート生成器の下部に接続され、ハイドレート生成器からオゾン含有ハイドレートを導入すると共にこれを常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートとして回収する落圧過冷却装置とを備えたことを特徴とするオゾン含有ハイドレートの製造装置である。
【0020】
請求項6の発明は、落圧過冷却装置は、ハイドレート生成器内で生成した高濃度オゾン含有ハイドレートを生成圧力のまま導入して−10℃以下に冷却する回収器と、回収器に接続され冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧まで落圧する大気圧筒とからなる請求項5記載のオゾン含有ハイドレートの製造装置である。
【0021】
請求項7の発明は、請求項1〜4のオゾン含有ハイドレートの製造方法で製造され、常圧、−10℃以下の過冷却状態に保持されると共にオゾン濃度が2000ppm以上であることを特徴とするオゾン含有ハイドレートである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、圧力を3MPa以下とし、温度を0℃以下にした冷却水に、オゾンの他にキセノンや炭酸ガスを混合したゲストガスを吹き込んで高濃度のオゾン含有ハイドレートとし、これを過冷却化すると共に大気圧まで落圧することで、常圧貯蔵でもオゾンハイドレートが分解することがなく、しかも使用時にはその高濃度オゾン含有ハイドレートを、殺菌対象物に少量散布或いは混入することで、簡単にしかも安全にオゾン殺菌することが可能となるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態を示すフロー図である。
【図2】図1の落圧過冷却装置の詳細を示す図である。
【図3】図2に落圧過冷却装置の他の例を示す図である。
【図4】本発明において、オゾンハイドレートの保存時間とオゾン濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
先ず、本発明者らは、オゾン含有ハイドレートの保存実験を行い、大気圧下で保存したときのオゾン含有ハイドレートのオゾン濃度の変化を調べた。
【0026】
図4は、炭酸ガスを用い約0.2mass%(約2000ppm)のオゾン含有ハイドレートを生成し、これを−5℃、−10℃、−20℃、−30℃で保存したときのオゾン濃度の経時変化を測定した結果を示したものである。
【0027】
この図4の結果より、−5℃で保存した場合には、オゾン含有ハイドレートのオゾン濃度は1日で0mass%となるが、−10℃では、10日でオゾン濃度が、0.02mass%(200ppm)、−20℃では20日でオゾン濃度が、0.05mass%(500ppm)、−30℃では20日でオゾン濃度が0.15mass%(1500ppm)となり、ハイドレートの分解速度が減少していることが分かった。
【0028】
よって、オゾン含有ハイドレートを、−10℃以下の過冷却にすることで、常圧でも自己保存効果によってハイドレートの分解が抑えられ、通常の冷凍庫で長期に保存できることが可能であり、しかも使用時には、−5℃でハイドレートが分解するため、生鮮食品の殺菌消毒に最適であることが分かった。
【0029】
そこで、本願発明は、先願の発明を改良し、ハイドレート生成器で製造されるオゾン含有ハイドレートを、常圧過冷却にして回収できるようにしたものであり、これを図1により説明する。
【0030】
図1において、ハイドレート生成器10は、外周が断熱カバー11で覆われて形成される。ハイドレート生成器10内には、リング状の気泡発生器12が設けられ、その下方に笠状の旋回防止板13が設けられる。
【0031】
ハイドレート生成器10内には、冷却水14が貯留され、その冷却水14が後述するが冷却水循環ライン15により循環されると共に冷却水14の温度が0℃近傍になるように制御される。
【0032】
気泡発生器12には、オゾンガスとキセノン又は炭酸ガスを供給するゲストガス供給ライン16が接続される。ゲストガス供給ライン16は、オゾン生成器17が接続された酸素ガス供給ライン18と、オゾン生成器17の下流のオゾン含有酸素ライン19に接続されるキセノン又は炭酸ガスからなる混入ガス供給ライン20とからなる。
【0033】
酸素ガス供給ライン18には、酸素ボンベなど酸素を高圧で貯蔵する酸素貯蔵容器21が接続され、その酸素貯蔵容器21の出口側の酸素ガス供給ライン18に酸素を所定圧(2.72MPa)で放出する放出弁(PCV−1)22が接続され、その下流側に酸素流量制御計(FIC−1)23、酸素流量調節弁24が接続される。
【0034】
混入ガス供給ライン20には炭酸ガス又はキセノンガスボンベなど混入ガスを高圧で貯蔵する混入ガス貯蔵容器25が接続され、その混入ガス貯蔵容器25の出口側の混入ガス供給ライン20に混入ガスを所定圧(例えば、後述の原料成分の場合、2.7MPa)で放出する放出弁(PCV−2)26が接続され、その下流側に混入ガス流量制御計(FIC−2)27、混入ガス流量調節弁28が接続される。
【0035】
冷却水循環ライン15は、旋回防止板13の直下の冷却水を吸引する冷却水導入部30と、旋回防止板13の上部に対向して設けられ、ハイドレート生成器10の内面に冷却水を接線方向に噴射する冷却水噴射ノズル31a、31bとを有し、その冷却水循環ライン15に循環ポンプ33が接続され、導入部30と循環ポンプ33の吸込側の間に温度調節弁32が接続され、循環ポンプ33の吐出側から冷却水噴射ノズル31a、31bにかけて、冷却器34、冷却水流量計35、冷却水量調節弁36が接続されて構成される。
【0036】
循環ポンプ33と冷却器34間の冷却水循環ライン15には、冷却水供給ライン38が接続される。冷却水供給ライン38には、給水ポンプ40が接続され、給水ポンプ40が補給水タンク41内の補給水を吸引し、補給水流量計42、給水流量調節弁(FCV−4)43を介して冷却水循環ライン15に補給水を供給するようになっている。補給水タンク41には、上水(補給水)が法定の逆止弁44、ボールタップ45を介して常時所定液面となるように補給される。
【0037】
ハイドレート生成器10の頂部には、ゲストガス排出ライン51が接続され、その排出ライン51に気相圧力制御弁(PCV−4)52が接続されると共にその下流側にオゾン分解器53が接続される。
【0038】
ハイドレート生成器10の上部には、ゲストガス循環ライン54が接続され、ゲストガス循環ライン54にてハイドレート生成器10の気相部のゲストガスが、ゲストガス供給ライン16のオゾン生成器17の下流側に戻される。このゲストガス循環ライン54には、循環ガスブロワー55、循環ガス圧力制御弁56、オゾン再生器57が接続される。
【0039】
さて、ハイドレート生成器10の下部には生成した高濃度オゾン含有ハイドレート47を排出する排出管48が接続され、その排出管48にハイドレート導入開閉弁49を介して落圧過冷却装置60が接続される。この落圧過冷却装置60は、導入した高濃度オゾン含有ハイドレート47を自己保存効果を発揮する−10℃以下の過冷却に冷却すると共に大気圧まで落圧するものである。落圧過冷却装置60で、常圧過冷却にされたオゾン含有ハイドレート47Sはバルブ61を介して貯蔵タンク62に貯蔵されるようになっている。
【0040】
次にハイドレート生成器10で高濃度オゾン含有ハイドレートを製造する方法を説明する。
【0041】
先ず、単位容積当りのオゾン保存量を大量にするために、ハイドレート生成器10内でのハイドレート生成温度を0℃以上でハイドレートのみを製造するために、ゲストガスとしてのオゾンガスに、混入ゲストガスとして、キセノン(Xe)や炭酸ガス(CO2)を添加して、オゾン(O3)をハイドレート化するものである。
【0042】
ここで、混入ゲストガスとして炭酸ガスを使用した場合について説明する。
【0043】
先ずハイドレート生成器10にハイドレート生成に必要な冷却水14を貯留し、そのハイドレート生成器10内に、冷却水循環ライン15の冷却水噴射ノズル31a、31bからハイドレート生成器10の円周壁に沿って冷却水を噴射してハイドレート生成器10内で冷却水14を旋回させる。
【0044】
このハイドレート生成器10内を旋回している冷却水14に気泡発生器12から混合ガスをゲストガス供給ライン16を介してガスがマイクロバブルとして吹き出される。すなわち酸素ガス供給ライン18から酸素をオゾン生成器17を通しオゾン化してオゾン含有酸素ライン19から酸素とオゾンを、また混入ガス供給ライン20から炭酸ガスをオゾン含有酸素ライン19に供給し、その混合ガスをゲストガス供給ライン16を介して気泡発生器12からマイクロバブル状にして冷却水14中に吹き込む。
【0045】
バブルの径は反応速度を速くするために約230μm以下の気泡にして、旋回している冷却水14の中心寄りに分散するように噴射してハイドレート生成器10の内周壁に沿って下降するオゾン含有ハイドレート47との衝突を避けるようにする。
【0046】
冷却水循環ライン15の冷却水噴射ノズル31a、31bからの循環水供給条件は、オゾン含有ハイドレート生成熱を吸収して生成を促進する供給量と温度とする。
【0047】
例えば、オゾン含有ハイドレート生成条件を圧力2.5MPa以上、温度0〜2℃とした場合、循環冷却水の供給温度は、0℃以下(氷点降下により0℃以下でも氷結しない)にして反応温度を保持できる水量を供給する。
【0048】
ハイドレート化を、約274K(約1℃)の温度で進めるとすると、反応熱を吸収した未反応の水の温度は、0℃より上昇して供給される循環冷却水(約272.2K、0.2℃)よりも重くなる。
【0049】
このようにハイドレート反応により温度の高くなった冷却水の比重は、冷却水噴射ノズル31a、31bから噴射される温度の低い冷却水よりも重くなるため、混合ガスの噴射点である気泡発生器12よりも低い位置で循環冷却水を供給すれば、比重差により循環冷却水は、矢印で示したように上昇して噴出気泡と連続的に接触する。
【0050】
ハイドレート生成器10内のハイドレート生成領域(気泡発生器12の上部)で生成されたオゾン含有ハイドレート47は、冷却水14よりも比重が重いために、循環冷却水の旋回流のために遠心力でハイドレート生成器10の内周壁側に押し寄せられながら、矢印で示したように下降(旋回下降流)する。また、噴射ノズル31a、31bから噴射された循環冷却水は、中心寄りが旋回しながら上昇(旋回上昇流)する。
【0051】
ハイドレート生成器10内の冷却水14を旋回する理由は、上記の遠心力による重質成分(ハイドレート)の遠心分離以外に、ハイドレート反応速度に支配的な要因となる伝熱(反応熱の除去)を促進させることにある。即ちマイクロバブルと冷却水が共に上昇流となり通常は共流となるためにバブル周辺の水が随伴して伝熱を阻害するが、冷却水を旋回させることにより、冷却水の水平な流れができるために、マイクロバブルが浮力差で強く上昇しようとするので、バブルとの間に流れの方向にずれが発生する。このためにバブル周辺に随伴する冷却水の量が減り、代りに温度の低い冷却水と接触するので伝熱が促進される。
【0052】
噴射ノズル31a、31bより下部には旋回流を防止する旋回防止板13が設けられており、これより下部は旋回が止められている。内周壁に沿って下降するハイドレート47は旋回防止板13の下部のハイドレート生成器10の底部に沈下して積層し、またハイドレート化で温度が上昇し比重の重くなった冷却水は、旋回防止板13の下部中心に設けた冷却水導入部30から吸引されて冷却水循環ライン15に導入され、冷却器34で冷却されて、再度噴射ノズル31a、31bから噴射されて循環される。
【0053】
このように、ハイドレート生成器10の底部には、高濃度オゾン含有ハイドレート47が蓄積される。
【0054】
この高濃度オゾン含有ハイドレート47は、圧力が1〜3MPa、温度が0℃の条件下で安定しているが、本発明おいては、高濃度オゾン含有ハイドレート47をハイドレート生成器10から排出管48を介して落圧過冷却装置60に導入して常圧過冷却の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sとし、これを貯蔵タンク62に常圧で冷凍貯蔵できるようにしたものである。
【0055】
この落圧過冷却装置60は、ハイドレート生成器10内で生成される高濃度オゾン含有ハイドレート47(生成圧力1〜3MPa、生成温度0℃以下)を、大気圧まで落圧すると共に−10℃以下に冷却できるものであればよい。
【0056】
図2は、液化炭酸ガスを冷媒として常圧過冷却の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sとする落圧過冷却装置60の一例を示したものである。
【0057】
落圧過冷却装置60は、ハイドレート生成器10の下部に接続され、ハイドレート生成器10内の高濃度オゾン含有ハイドレート47を、圧力を保持したまま導入して−10℃以下に冷却する回収器64と、回収器64の下部に排出弁63を介して接続され、回収器64で冷却された高濃度オゾン含有ハイドレート47を導入して大気圧まで落圧する大気圧筒65とで構成される。
【0058】
大気圧筒65には、常圧過冷却化された高濃度オゾン含有ハイドレート47をバルブ61を介して導入し、これを適宜冷凍庫内で保存するための貯蔵タンク62が接続される。
【0059】
回収器64内の上端には排出管48からの高濃度オゾン含有ハイドレート47を粒子状に噴射するスプレーノズル50が設けられると共に、回収器64内に導入される高濃度オゾン含有ハイドレート47の圧力を保持したまま、高濃度オゾン含有ハイドレート47を−10℃以下に冷却するための冷媒循環回路66が接続される。
【0060】
冷媒循環回路66は、冷媒として液化炭酸ガスを用いるもので、回収器64の上部で、かつノズル50より低い位置に接続した排気ライン67eと回収器64の中央部に接続した供給ライン67dとで循環ライン67が形成され、その循環ライン67に、吸込側圧力調整弁68、ガスタンク69、コンプレッサ70、冷却器71、液溜タンク72、吐出側圧力調整弁73が順次接続されて構成される。
【0061】
回収器64の中央部には、循環ライン67から液化炭酸ガスからなる冷媒液Rlが供給され、その回収器64内で蒸発した炭酸ガスからなる冷媒ガスRgが、吸込側圧力調整弁68を介してガスタンク69に導入され、コンプレッサ70にて、1〜3MPaに圧縮された後、冷却器71で冷却されて−10℃以下の冷媒液Rlとされ、液溜タンク72、吐出側圧力調整弁73を介して回収器64に供給循環されるようになっている。
【0062】
回収器64には、炭酸ガスからなる冷媒ガスの補充ライン74が接続されると共にその補充ライン74に供給圧制御弁74aが接続される。冷却器71は、R404AやC3成分(プロパン等)の冷媒を用いた冷凍機87で冷却されるようになっている。
【0063】
大気圧筒65は、回収器64で、−10℃以下に冷却された高濃度オゾン含有ハイドレート47を導入し、これを大気圧に落圧するものである。大気圧筒65には排気管75が接続され、その排気管75が落圧用弁76を介して回収タンク77に接続される。回収タンク77には、回収した炭酸ガス等の冷媒ガスを昇圧してガスタンク69に戻すための昇圧用コンプレッサ78が接続される。
【0064】
また貯蔵タンク62には、貯蔵タンク62内の炭酸ガスを回収タンク77に戻す戻し管79が接続される。
【0065】
次にこの図2に示した落圧過冷却装置60の作用を説明する。
【0066】
先ずハイドレート生成器10内の高濃度オゾン含有ハイドレート47は、圧力1〜3MPa、温度0℃以下であり、この高濃度オゾン含有ハイドレート47を、その圧力で、スプレーノズル50から粒状にして回収器64に導入する。
【0067】
回収器64内には、冷媒循環回路66から、ハイドレート生成器10内の圧力よりやや低い圧力、例えばハイドレート生成器10内の圧力を2.5MPa、温度を1℃とすると、回収器64内を1.6MPaの圧力に保たれた液化炭酸ガスからなる冷媒液Rlが導入される。この冷媒液Rlは、高濃度オゾン含有ハイドレート47を冷却することで蒸発し、その冷媒ガスRgが、回収器64から、吸込側圧力調整弁68を介してガスタンク69に導入され、コンプレッサ70にて1〜3MPaに圧縮され、冷却器71で冷却されて冷媒液Rlとされて回収器64に循環される。
【0068】
この際、回収器64内は、冷媒液Rlの液相部と、冷媒ガスRgの気相部とが形成され、液相部では、高濃度オゾン含有ハイドレート47を−10℃以下に冷却する過冷却状態にあるが、気相部の高さを十分にとることで、ノズル50に行くに従って温度が上昇する温度分布となり、また回収器64に接続する循環ライン67の排出ライン67eをノズル50より低い位置に接続することで、ノズル50外周の雰囲気が0℃近くに保持することが可能となり、ノズル50内の高濃度オゾン含有ハイドレート47の凍結を防止することができる。
【0069】
液化炭酸ガスからなる冷媒液Rlの比重は約1.0であり、高濃度オゾン含有ハイドレート47の比重は約1.1であり、これにより高濃度オゾン含有ハイドレート47は比重差により沈降して回収器64の底部に溜まる。
【0070】
また、高濃度オゾン含有ハイドレート47と共に導入された氷は、液化炭酸ガスからなる冷媒液Rl上に一部浮き上がり、炭酸ガスとの接触で炭酸ガスハイドレートとなって沈降する。この炭酸ガスハイドレートの生成で不足する炭酸ガスは、補充ライン74から供給圧制御弁74aを介して回収器64内の圧力に保って適宜補充する。補充ライン74から供給する炭酸ガスの量は少量であり、常温状態で供給しても回収器64内の温度環境を損なうことはない。
【0071】
回収器64の底部に溜まった高濃度オゾン含有ハイドレート47は、その温度が−10℃以下の過冷却状態にされ、回収器64から、排出弁63を介して大気圧筒65に導入される。この際、大気圧筒65内のガスを排気管75に接続した落圧用弁76にて冷媒ガスRgを回収タンク77に戻して大気圧筒65を大気圧近くに落圧することで、常圧過冷却の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sとすることができる。また、大気圧筒65内には、一部冷媒液Rlも同時に大気圧筒65に導入され、冷媒液が液化炭酸ガスであればドライアイスとなるが、大気圧筒65内が大気圧近くとされるため、ドライアイスが昇華して炭酸ガスとなって排気管75から排出される。
【0072】
その後、大気圧筒65内の常圧過冷却の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sはバルブ61を介して貯蔵タンク62に排出され貯蔵される。
【0073】
高濃度オゾン含有ハイドレート47Sを貯蔵した貯蔵タンク62は、蓋62cから外し、適宜冷凍機内で冷凍貯蔵することで長期保存が可能となる。
【0074】
この高濃度オゾン含有ハイドレート47Sは、オゾン濃度が2000ppm以上であり、また高濃度オゾン含有ハイドレート47Sがパウダー状となっているため、これをスプーンやカップですくいとり、殺菌対象物に振りかけることで容易に、殺菌処理が行える。
【0075】
すなわち図4で説明したように、高濃度オゾン含有ハイドレート47Sは、−5℃で容易に分解するため、冷蔵・冷凍保存された生鮮食品でも容易にしかも安全に殺菌でき、また氷詰めされた生鮮食品に振りかければ、低濃度オゾン水と同様に殺菌処理することが可能である。
【0076】
また高濃度オゾン含有ハイドレート47S中には、一部炭酸ガスハイドレートが混入しているが、炭酸ガスハイドレートが高濃度オゾン含有ハイドレート47Sと共に分解しても炭酸ガスが発生するだけで殺菌に支障はない。また高濃度オゾン含有ハイドレート47Sをオゾン水として使用する際には、分解した炭酸ガスが水に溶けて炭酸水となり、オゾンを分解を抑制する効果を発揮する。
【0077】
次に、落圧過冷却装置60の他の例を図3により説明する。
【0078】
図2の落圧過冷却装置60では、冷媒として液化炭酸ガスを用いる例で説明したが、液化炭酸ガスを用いると、ハイドレート生成器10から同時に排出される氷が炭酸ガスと反応して一部炭酸ガスハイドレートを生成するため、炭酸ガスハイドレートの生成の影響をなくすために、図3では、窒素ガスで、高濃度オゾン含有ハイドレート47を常圧過冷却状態にして回収する落圧過冷却装置60の例を示したものである。
【0079】
図3において、落圧過冷却装置60は、回収器64と大気圧筒65とで構成される。回収器64内の下部には、過冷却窒素ガスを噴射する噴射リング81が設けられ、その噴射リング81と回収器64の上部間に、窒素ガス冷却回路80が接続される。窒素ガス冷却回路80は、回収器64の上部と噴射リング81を結ぶ循環ライン82に圧力調整弁83、ガスタンク84、循環ポンプ85、冷却器86を順次接続して構成される。冷却器86は、R404AやC3成分(プロパン等)の冷媒を用いた冷凍機87で冷却されるようになっている。
【0080】
また、大気圧筒65は、冷却ジャケット90が設けられ、冷却ジャケット90に冷却媒体の供給ライン91と排出ライン92が接続される。大気圧筒65には、排気管88が接続され、その排気管88に昇圧用コンプレッサ89が接続されると共に排気管88がガスタンク84に接続される。
【0081】
この図3の落圧過冷却装置60においては、噴射リング81から−40℃の過冷却窒素ガスが噴出され、その窒素ガスで回収器64内に導入された高濃度オゾン含有ハイドレート47が−10℃以下に冷却される。高濃度オゾン含有ハイドレート47を冷却した窒素ガスは、圧力調整弁83を介してガスタンク84に導入され、循環ポンプ85にて、冷却器86に送られて−40℃に冷却され、噴射リング81で噴射される。
【0082】
回収器64内の圧力は圧力調整弁83にて、ハイドレート生成器10よりやや低い圧力となるように制御され、これにより高濃度オゾン含有ハイドレート47はその圧力を保持したまま−10℃以下に冷却される。
【0083】
回収器64で冷却された高濃度オゾン含有ハイドレート47は、排出弁63を介して大気圧筒65に導入され、その大気圧筒65内で過冷却を保ったまま、高濃度オゾン含有ハイドレート47と共に同伴した窒素ガスが排気管88から排気されることで、大気圧筒65内が大気圧近くまで落圧される。排気管88に排出された窒素ガスは昇圧用コンプレッサ89にてハイドレート生成器10よりやや低い圧力とされてガスタンク84に回収される。
【0084】
大気圧筒65に導入され大気圧近くまで落圧された常圧過冷却状態の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sは、バルブ61を介して貯蔵タンク62に排出され、貯蔵される。
【0085】
この図3の落圧過冷却装置60は、窒素ガスの顕熱で高濃度オゾン含有ハイドレート47を過冷却にするものであるが、回収器64の容量を十分に大きくすることで、高濃度オゾン含有ハイドレート47を過冷却状態にすることが可能となり、また冷却に窒素ガスを用いるため、図2と違って炭酸ガスハイドレートを生成することなく、常圧過冷却状態の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sとすることができる。
【0086】
このように、本発明は、ハイドレート生成器10で、例えば圧力2.5MPa、温度0℃の温度条件下で、2000ppm以上、約4000ppm程度のオゾンハイドレートを生成し、その上で、落圧過冷却装置60で高濃度オゾン含有ハイドレート47を常圧過冷却状態の高濃度オゾン含有ハイドレート47Sとすることで、通常の冷凍機で長期に保存できるものとすることができると共に、使用時には、その高濃度オゾン含有ハイドレート47Sを適量殺菌対象物に振りかけたり散布することで、オゾン殺菌が行える。
【符号の説明】
【0087】
10 ハイドレート生成器
12 気泡発生器
14 冷却水
15 冷却水循環ライン
16 ゲストガス供給ライン
18 酸素供給ライン
20 混入ガス供給ライン
47、47S 高濃度オゾン含有ハイドレート
60 落圧過冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドレート生成器内に0℃以下の冷却水を貯留すると共に上記ハイドレート生成器内の圧力を1〜3MPaに保ち、その冷却水中にオゾンガスとキセノン又は炭酸ガスを吹き込み、水をホストとし、オゾンガスとキセノン又は炭酸ガスをゲストガスとした高濃度オゾン含有ハイドレートを生成し、そのハイドレート生成器から高濃度オゾン含有ハイドレートを、−10℃以下に冷却すると共に大気圧まで落圧して、常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを製造することを特徴とするオゾン含有ハイドレートの製造方法。
【請求項2】
ハイドレート生成器内の下部に回収器を接続すると共にその回収器の下部に大気圧筒を接続し、高濃度オゾン含有ハイドレートを、その圧力を保ったまま回収器内に導入して冷却し、その後、冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒内に導入して常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートとし、その常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒から貯蔵タンクに回収する請求項1記載のオゾン含有ハイドレートの製造方法。
【請求項3】
回収器内に、低温の冷媒液を供給すると共に回収器内での冷媒液の蒸気圧をハイドレート生成器内の圧力より低い圧力に保持し、その回収器内に、ハイドレート生成器内の高濃度オゾン含有ハイドレートを導入して高濃度オゾン含有ハイドレートを−10℃以下に冷却し、その冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒に導入すると共に冷媒ガスを排気して大気圧筒を大気圧まで落圧し、その後常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒から貯蔵タンクに回収する請求項2記載のオゾン含有ハイドレートの製造方法。
【請求項4】
回収器内に、低温の窒素ガスを供給すると共に回収器内の窒素ガスの圧力をハイドレート生成器内の圧力より低い圧力に保持し、その回収器内に、ハイドレート生成器内の高濃度オゾン含有ハイドレートを導入して高濃度オゾン含有ハイドレートを−10℃以下に冷却し、その冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒に導入すると共に窒素ガスを排気して大気圧筒を大気圧まで落圧し、その後常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧筒から貯蔵タンクに回収する請求項2記載のオゾン含有ハイドレートの製造方法。
【請求項5】
冷却水を貯留するハイドレート生成器と、そのハイドレート生成器内の冷却水中に設けられゲストガスを吹き出す気泡発生器と、気泡発生器にオゾンガスとキセノン又は炭酸ガスを供給するゲストガス供給ラインと、ハイドレート生成器の下部に接続され、ハイドレート生成器からオゾン含有ハイドレートを導入すると共にこれを常圧過冷却高濃度オゾン含有ハイドレートとして回収する落圧過冷却装置とを備えたことを特徴とするオゾン含有ハイドレートの製造装置。
【請求項6】
落圧過冷却装置は、ハイドレート生成器内で生成した高濃度オゾン含有ハイドレートを生成圧力のまま導入して−10℃以下に冷却する回収器と、回収器に接続され冷却した高濃度オゾン含有ハイドレートを大気圧まで落圧する大気圧筒とからなる請求項5記載のオゾン含有ハイドレートの製造装置。
【請求項7】
請求項1〜4のオゾン含有ハイドレートの製造方法で製造され、常圧、−10℃以下の過冷却状態に保持されると共にオゾン濃度が2000ppm以上であることを特徴とするオゾン含有ハイドレート。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240901(P2012−240901A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115529(P2011−115529)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(592009281)IHIプラント建設株式会社 (39)
【Fターム(参考)】