説明

オゾン濃度測定装置

【課題】測定セルを通過する試料ガスが長い透過距離を移動すると透過中にオゾンが何度も紫外線に照射され、正しいオゾン濃度測定ができない。このため、窒化物系深紫外線半導体素子を使用した、正しい測定値が得られ、装置へのダメージを排除するオゾン濃度測定装置を提供する。
【解決手段】波長200nm〜320nmを含む紫外線を発光する固体発光素子を利用して、試料ガスが吹き出るガス注入部と対抗する位置にこの試料ガスを吸い込むガス排出部で構成された試料ガス計測部を備え、試料ガスが瞬時に通過する機構を設け、ガスの乱れを無くし、透過時間を短くする事によって再オゾン化を抑える効果があり正しいオゾン濃度測定が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系深紫外半導体発光素子等の固体発光素子を利用した紫外線吸収式オゾン濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線を解説した参考書である非特許文献1によれば、オゾンには、Chappuis帯(850nm〜440nm)、Huggins帯(360nm〜300nm)、Hartley帯(200〜320nm)と呼ばれる吸収帯がある。本発明は、Hartley帯(200〜320nm)の紫外線を利用した紫外線吸収式オゾン濃度測定に関するものである。Hartley帯オゾンに放射される紫外線の波長(200〜320nm)の違いによってエネルギー準位が違う三種の活性酸素(O(P)、O(D)、O(S))が発生する。エネルギー準位の大きさは O(P)<O(D)<O(S)になる。O3(オゾン、以下同じ)に266nm(4.66eV)以上の波長を持った紫外線を放射すると、活性酸素O(D)だけが発生する。波長320nm(3.87eV)ではO(D)の発生量は少なくなるが依然として発生している。O3に266nm(4.66eV)未満の波長ではO(S)が発生し、O(D)とO(S)が混在して発生する。波長237nm(5.23eV)になるとO(D)の発生はなくなりO(S)のみとなり、波長200nm(6.20eV)からO(S)の発生量が増えてくる。
【0003】
なお、活性酸素O(P)は、O3に463nm以下(2.68eV以上)の紫外線でないと発生しない。本発明は、Hartley帯のオゾン濃度測定なのでO(D)とO(S)を取り上げる。
【0004】
以上をまとめると、
1)O3+波長(320nm〜266nm)→O(D)+O2(酸素分子、以下同じ)、
2)O3+波長(266nm未満〜237nm)→O(S、D)+O2、
3)O3+波長(237nm未満〜200nm)→O(S)+O2になる
【0005】
O(D)、O(S)は酸化を引き起こす。この酸化作用を利用して、半導体製造工程では、酸化物膜厚の形成に利用される。例えば、シリコン表面に酸化物膜厚を形成させてシリコン表面にゲート絶縁膜を持たせる。また、発生した活性酸素を利用したシリコン表面の有機物の除去にも利用が出来る。
【0006】
波長によりオゾンの吸光率は変化する。この吸光率は図7に示すように、オゾンの吸光断面積で測ることができる。図7は参考書である非特許文献2から抜粋したものであり、一定温度におけるオゾン吸光断面積と紫外線波長域との関係をグラフに表したものである。この図7のグラフからどの波長域がオゾンに対してどのくらい効率良く吸収されるかを判断する事が出来る。例えば、水銀スペクトル線である単一波長254nm(4.88eV)は偶然であるが、オゾンに効率良く吸収される波長近傍にある。
【0007】
オゾンの吸光断面積の値が大きいとその波長は効率良くオゾンに吸収される。波長255nmは、オゾンの吸光断面積のピーク値であるため、最大のオゾン吸収波長になる。このことは、Hartley帯オゾンの吸収波長帯(200〜320nm)において、波長255nm(4.86eV)近傍のみがオゾンに吸収されるのではなく、Hartley帯全域において、吸光作用があることを意味する。
【0008】
紫外線吸収式オゾン測定は、オゾンに吸収される前の波長の放射出力強度Iとオゾンに吸収された後の放射出力強度Oを測定し、吸収された紫外線量を求め、ランベルト・ベールの法則からオゾン濃度が判明する原理を利用している。
【0009】
紫外線吸収式で濃度を測定する場合、測定する試料はランベルト・ベールの法則の数式1で求められる。試料ガスを透過してきた紫外線の放射出力強度をO、試料ガスを透過する前の入射光の放射出力強度I、波長におけるオゾンの吸収係数をε(オゾンの吸収係数εは各波長によってオゾンの吸収係数の値が決められている。)、試料ガスのオゾン濃度をc、紫外線が試料ガスを透過する際の光の光路長をLとすると、数式1は下記のようになる。JIS B 7957 大気中のオゾン及びオキシダントの自動計測器 付随書2(規定)に紫外線吸光光度計によるオゾン濃度の値付け方法が記載されており、ここに示された計算式を使用してオゾン濃度を算出することができるが、そのアルゴリズムは下記の数式1と基本的に同じである。
【0010】
【数1】

【0011】
1992年頃、オゾン濃度測定は従来の湿式法に代わり低圧水銀ランプが利用されるようになった。低圧水銀ランプは湿式法とは違い薬品を使用しないこと、メンテナンスが容易であること、測定感度が良いことからオゾン濃度測定に低圧水銀ランプの利用が増えていった。
【0012】
低圧水銀ランプを使用するオゾン濃度測定は、特許文献1に示すように、真空放電を利用した低圧水銀ランプから発せられる単一波長254nmの紫外線を利用したものである。この方法は効率よくオゾンに吸収する波長254nmが利用でき、しかも単一波長である点で有利である。しがしながら、真空放電を利用した低圧水銀ランプである故に、時間単位における放射出力強度の上限値、下限値の差が大きくなり、正しいオゾン濃度を得るには補正を常に必要とすること、また、低圧水銀ランプは約5000時間で劣化し、交換しなければならないという弱点を抱えていた。
【0013】
この弱点は、特に無人島などに設置してある自動オゾン濃度測定器に対して、低圧水銀ランプの交換の為に、わざわざ無人島に行かねばならないという運用上の問題に繋がった。
【0014】
更に、低圧水銀ランプには水銀が含まれている為、廃棄処理が難しく、環境負荷への影響は大きい。
【0015】
これらの問題に対して、低圧水銀ランプに代わりにダイヤモンド紫外線発光素子を使用する方法が特許文献2に記載されている。ダイヤモンド紫外線発光素子を利用することによって、低圧水銀ランプを使用した場合の紫外線吸収式オゾン濃度測定上の問題点であった発光強度の安定までに時間がかかったことや、発光強度にちらつきがあったことなどが解決されている。
【0016】
特許文献2の方法は、測定機器の部品、特に発光素子表面にO(S)、O(D)が作用して、酸化物膜を形成することによる測定誤差や、また、測定中の再オゾン化の影響を考慮していなかった。
【0017】
これらの問題に対して、特許文献3の方法は、発光素子として窒化物系深紫外線半導体素子を使用しO(S)、O(D)が作用した酸化膜の形成と測定中の再オゾン化の影響を極力回避する方法を考慮したオゾン濃度測定装置を提案している。その実施形態では、特許文献4の発明である窒化物系深紫外線半導体素子を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平5−172743号公報
【特許文献2】特開2002−5826号公報
【特許文献3】特願2009−246024
【特許文献4】国際公開番号WO2006/104063
【0019】
【非特許文献1】実験化学講座 反応と速度 発行所 丸善株式会社 平成5年2月5日発行
【非特許文献2】大気の物理化学 小川利紘著 発行所 東京堂出版 1991年8月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献3の方法は、測定セルを通過する試料ガス中のオゾンが紫外線により酸素と活性酸素に分解された後活性酸素が再度酸素と結び付き再オゾン化されたオゾンに再照射する可能性を除去しておらず、オゾン測定値に誤差が生ずる点が問題である。また、セル内部構造の微小な歪みによるガスの乱れは活性酸素をセル内に残留させることが流体計測から判明している。その活性酸素により、再オゾン化や装置の劣化が発生する。
【0021】
特許文献3では装置の劣化を緩和するため、吸光断面積の値が大きい250〜260nmの波長域を除くように設定している。しかし、測定セルを構成する紫外線収束管内を透過する紫外線は集束しており、照射エネルギーが集中しているため、透過中の再オゾン化の確率は高く、かつ、照射エネルギーの集中は、光学フィルタへダメージを与え、フィルタの寿命にも悪い影響を及ぼすと推定される。
【0022】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、窒化物系深紫外線半導体素子を使用した、正しい測定値が得られ、装置へのダメージを排除するオゾン濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0024】
本発明であるオゾン濃度測定装置は、200nm〜320nmの波長域を含む紫外線を発光する固体発光素子が少なくとも1個備わった発光チャンバ機構と、試料ガス計測部を挟んで試料ガスを吹き出すガス注入部と該試料ガスを吸い込むガス排出部とが相対する位置に少なくとも1対設けられ、前記発光チャンバ機構から来た紫外線が、ガス注入部からガス排出部へ向かう試料ガス計測部中の試料ガスの流れと直角の方向に透過する構造を有する計測チャンバ機構と、この計測チャンバ機構を出た紫外線を受光し、その放射強度を計測する強度センサを備えた受光チャンバ機構とが、取り外し可能な前記3つの機構により構成され、オゾン無しの状態の計測チャンバ機構内を透過してきた紫外線を強度センサで受け、その受光強度の値をオゾンゼロ値とするゼロ設定値取得手段と、試料ガスが流れた状態にある試料ガス計測部中を、紫外線が透過したときの強度センサの受光値と発光強度とみなした前記オゾンゼロ値とでオゾン濃度を算出するオゾン濃度算出手段を有することを特徴とする。
【0025】
ポンプが吸引するとガス注入部から外部大気が吸い込まれガス排出部に向かって高速に流れる。試料ガスの流れと直交する方向に紫外線が透過していく。このとき紫外線はオゾンにぶつかると酸素と活性酸素に分解するエネルギーに消費され、減衰(吸光)する。ポンプは吸引側に設けねばならない。また、ガス注入部とガス排出部は対になっていれば流れに歪みが生じないので好ましい。ガス注入部とガス排出部の口は複数個が好ましく、この複数の流れを紫外線がオゾンに衝突しながら通過した結果を計測する。
【0026】
また、本発明では、発光チャンバ機構は、真空又は不活性ガス充填の状態で密閉する。チョッパ駆動電源部を制御することにより機構内の固体発光素子が紫外線を断続発光し、その紫外線は平行レンズを経由して平行光になる。次いで、光学フィルタに到達し、この光学フィルタの仕様により指定された単一波長の紫外線のみが透過して次の計測チャンバ機構へ入射していく仕組みを設けている。
【0027】
この場合の光学フィルタは指定範囲の波長だけを透過させるバンドパスフィルタが好ましい。ただし、ロングパスフィルタとショートパスフィルタを組み合わせてもよい。この組み合わせ型も本発明に含まれることは言うまでもない。光学フィルタには使用しない波長の光を反射させる反射型とフィルタに吸収させる吸収型があり、特に吸収型の場合は温度上昇による損傷や光学特性の劣化が懸念される。ただし、本発明の紫外線エネルギーは微弱なので光学フィルタの劣化への影響はほとんど無い。従って、どちらの型も使用可能である。また、通常、固体発光素子の表面をレンズで保護するが、このレンズが平行レンズと光学フィルタとの一体型であってもよい。あるいは、発光チャンバと計測チャンバ機構の境に平行レンズと光学フィルタを一体化したレンズを配置してもよい。
【0028】
本発明におけるチョッパ駆動電源部の紫外線発光の断続周期には、短周期と長周期の2つが組み合わさっている。短周期は紫外線を点滅させてオゾン計測を実行する周期である。更に第1の短周期と第2の短周期の間に、第1の短周期において紫外線が照射され、活性酸素が混在している測定済みの試料ガスがガス排出部へ吸引される時間を予想して紫外線照射を中断するガス排出予想時間(非測定時間)を設ける。長周期は、第1の短周期とこのガス排出予想時間を合わせた間隔になる。これら2つの周期をコンピュータ制御により実現する。
【0029】
ガス排出予想時間を設け、測定を中断する理由は、再オゾン化したオゾンを再度測定させないためである。従って、紫外線がオゾンを酸素と活性酸素に分離した後、その活性酸素が酸素と結び付いたオゾンを測定前に排出させる時間がガス排出予想時間になる。コンピュータはガス注入部/ガス排出部間の距離に対する試料ガスの流速を計算して排出時間を予想する。この時間を十分に長くすれば、再オゾン化されたオゾンを排除できる。更に、ガス注入部とガス排出部の間隔は狭ければ狭いほど都合がよい。なぜならば、排気が早ければ、再オゾン化したオゾンが紫外線に再吸光される確率が減るからである。この間隔は、固体発光素子のサイズによるところが大である。しかし、平行レンズに入る前に一度集光レンズで光を集めるようにすれば前記間隔を制御できる。短周期と長周期のタイミング設定は、発光出力や、計測部品の性能によるが、使用を通じて記録された情報から、効率、安全性を考慮した分析を行い、最良の実行条件を得る仕組みを組み込んでもよい。
【0030】
また、本発明においては、受光チャンバ機構は、真空又は不可性ガス充填の状態で密閉されている。計測チャンバ機構を出た紫外線は前記受光チャンバ機構内に設けた集光レンズにより集束され、強度センサに照射される。
【0031】
また、本発明のゼロ設定値取得手段は、計測チャンバ機構内を一時密閉して外部空気の侵入を遮断し、計測に使用するすべての固体発光素子から紫外線を連続照射することにより、計測チャンバ機構内のオゾンを破壊する。オゾンがすべて破壊された状態では、強度センサが受ける受光強度は変化しない。従って、透過してきた紫外線の受光強度を少なくとも2回測定し、強度センサの値が変化しなくなったときの強度センサの値をオゾンゼロにおける受光強度とすることを特徴とする。
【0032】
オゾンゼロ後は、紫外線の吸光は無くなるので受光強度は変わらないという前提に基づき、測定値が一定になるまで紫外線の連続照射を行う。この測定値が一定(オゾンゼロに到達)になるまでは、オゾン破壊時のみに使用する素子の参加や、濃度計測用の素子の出力強度を強めるなどにより、オゾン破壊の時間短縮を図ってもよい。ただし、オゾンゼロに到達した後、計測時と同じ出力強度で測定に参加する素子のみによるオゾンゼロの強度基準値を求めなければならない。ノイズの影響も加味して、測定値不変と認めるまでの比較回数は、コンピュータの記憶装置に記録したデータの解析により経験的に求めていくことになる。また、計測時と同じ条件にするために、ゼロ基準値の最終決定には、断続発光(短周期)で計測する工程を加えてもよい。なお、オゾンゼロの受光強度は発光強度(素子から発光があり、吸光が未だされていない初期の強度)とみなすことができる。
【0033】
また、本発明におけるオゾン濃度算出手段は、計測チャンバ機構に入射した紫外線が試料ガス計測部をオゾンに吸光されつつ通過して強度センサに到達したときの測定値を長周期毎に記録し、次にその記録データから最頻値を算出して受光強度とみなし、更に、前記オゾンゼロにおける受光強度を発光強度とみなし、オゾン濃度を算出する。
【0034】
測定条件次第で測定値は種々変わる。そのため、一定時間の測定値を記録し、統計的手法を駆使して、妥当な測定値(受光強度)を算出する。本発明における測定の特徴から、測定値には最頻値、又は最頻値近傍に記録値が集まると推定される。従って、記録値の分布が予測より分散している場合には異常の発生を疑い、エラーとしてよい。オゾン濃度はランベルト・ベールの法則を採用する。また、これらの計算や解析はコンピュータが実行し、測定動作を制御する。
【0035】
本発明の固体発光素子は、電力制御により1個当たりの固体発光素子の放射出力強度が0.015〜0.12μw/cm2に設定できる窒化物系深紫外半導体素子であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明のゼロ設定値取得手段におけるオゾンゼロ化の手段には、計測チャンバ機構内を密閉し、減圧又は真空にする手段を含む。更に、ゼロ設定値取得手段におけるオゾンゼロ化の手段には、計測チャンバ機構内を密閉し、不活性ガスを充填する手段を含む。従って、本発明のゼロ設定値取得手段には、固体発光素子によるオゾンゼロ状態の生成、真空によるオゾンゼロ状態の生成、不活性ガス充填によるオゾンゼロ状態の生成、及び減圧によるオゾン量減少化と固体発光素子からの紫外線照射の併用によるオゾンゼロ状態の生成の4つの方法がある。最後に記載した方法は、減圧(残存気体の排出)とオゾン破壊を同時並行に進行させることが好ましい。オゾン破壊のときの活性酸素も排出されるからである。
【0037】
なお、本発明では、発光チャンバ機構と計測チャンバ機構と受光チャンバ機構は、それぞれ取り外し可能な独立した構成を基本としているが、図2に示すように、3機構が連続一体化していてもよい。ただし、発光チャンバ機構と受光チャンバ機構は計測チャンバ機構と繋がっているので、計測チャンバ機構を減圧、真空又は不活性ガス充填する際には、3機構すべてを密閉し、3機構すべてを減圧、真空又は不活性ガス充填の処理が必要になる。
【発明の効果】
【0038】
本発明は試料ガスが測定領域を瞬時に通過する機構を設け、透過時間を短くした計測なので、再オゾン化を抑える効果を奏する。また、試料ガス行路長が短くガスの乱れがないので、発生した活性酸素や、仮に再オゾン化されたオゾンが生じても測定前に排気され、活性酸素による部品の劣化も最小限となる効果を奏する。
【0039】
本発明によれば、紫外線の放射出力強度を0.015〜0.12(μW/cm2)の微弱光に抑え、かつ、紫外線を短時間に点滅させ、測定済み試料ガスは再測定されずに排気される効果を奏する。
【0040】
本発明によれば、連続波長の紫外線を平行レンズで平行光に分散させた後に光学フィルタで単一波長に絞るため、更にエネルギーの集中を排除でき、装置寿命を長く保つことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する発光・計測・受光のチャンバ機構が独立分離した、窒化物系深紫外半導体発光素子を用いたガス交差分離型紫外線吸収式オゾン濃度測定装置の構成図である。
【図2】本発明を実施する発光・計測・受光のチャンバ機構が連続一体化した、窒化物系深紫外半導体発光素子を用いたガス交差型紫外線吸収式オゾン濃度測定装置の構成図である。(実施例1)
【図3】本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子を用いた実験から駆動電流値と放射出力強度の関係をグラフにしたものである。
【図4】本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子を用いた実験から照射距離と放射出力強度の関係をグラフにしたものである。
【図5】本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子を用いた実験からオゾン濃度に対する分光放射照度の減衰をグラフにしたものである。
【図6】本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子を用いた実験をする為のオゾン発生・供給システムの構成図である。
【図7】非特許文献2から抜粋した一定温度におけるオゾン吸光断面積と紫外線波長域との関係をグラフに表したものである。
【図8】本発明を実施するオゾン濃度測定装置において、オゾンゼロの場合の発光強度又は受光強度の相対値を設定するフローチャートである。
【図9】本発明を実施するオゾン濃度測定装置において、オゾン濃度を確定するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
オゾン濃度測定は、オゾンの紫外線吸収性を利用したものである。従来、この紫外線発光には、水銀ランプが用いられている。測定には、単一波長の紫外線がもっとも好ましく、水銀ランプの真空放電方式は単一波長を発する為、広く使われるようになった。しかし、水銀ランプには耐久性がなく、また、装置構成にもオゾンの再発生を防止する機構が無いなど数々の問題があり、水銀ランプに代わる方式が求められていた。本発明のオゾン濃度測定装置は紫外線発光体として、水銀ランプではなく、窒化物系深紫外半導体発光素子102を利用する事に特徴がある。窒化物系深紫外半導体発光素子102からは200〜320nmの連続波長を発する。オゾン濃度測定を行う際、試料ガスが長い透過距離を移動すると、透過中の再オゾン化があり正しいオゾン濃度測定ができない。そこで本発明では、試料ガス行路長を短くした試料ガス計測部129を採用し、ガスの乱れを防ぐ工夫、活性酸素を除去する工夫、再オゾン化を防ぐ工夫を取り入れた。また、放射出力強度を0.015〜0.12(μW/cm2)の微弱光により、活性酸素による機器へのダメージの低減、再オゾン化の減少を促進できた。更に紫外線の発光を点滅化することで、測定ノイズの除去が実現した。これは、短時間に紫外線を点滅させることにより、検出信号のS/N比を高くする効果があるからである。なお、窒化物系深紫外線半導体素子102は高速スイッチングが可能であり、チョッピング周期を短くする点において優れている。このため、経時的に紫外線を点灯、消灯するチョッピング方式を取り入れた。更に、紫外線照射を受けたガスの排気中は紫外線照射を中断させれば、同じオゾン分子に紫外線を何度も作用させないので再オゾン化を極力抑えられる。また、本発明では連続波長から紫外線を平行光レンズ127で平行光に照射エネルギーを分散させ、更に連続波長から単一波長を取り出せる光学フィルタ130を採用した。
【0043】
図1は本発明を実施する系深紫外半導体発光素子102を用いたガス交差分離型紫外線吸収式オゾン濃度計1の構成図である。発光チャンバ機構164、計測チャンバ機構163、受光チャンバ機構165から構成され、3機構は独立分離している。発光チャンバ機構164、計測チャンバ機構163、受光チャンバ機構165は密封状態が保たれている。取り付けネジ部150を取り外す事で計測チャンバ機構163内に取り付けてある機構部品のメンテナンス作業(部品の簡単な洗浄を行う作業など)を行う事ができるが、その後は、真空又は不活性ガスを充填して、密封状態を回復する必要がある。発光チャンバ機構164と受光チャンバ機構165は真空状態(不活性ガス充填でも可)にするので発光素子保護ガラス103、平行レンズ127、光学フィルタ130、集光レンズ128、強度センサ111の表面には、紫外線の影響による酸化膜の形成はない。
【0044】
オゾン濃度測定に先立ち、オゾンゼロの状態である受光強度(ゼロ基準設定値)を得る操作を行う。真空や不活性気体で充填されているといったオゾンの存在しない空間を紫外線が通過するならば、オゾンによる紫外線の吸光作用は起きない。即ち、紫外線の減衰は無いという前提に基づき、固体発光素子から発光した紫外線は、前述の空間を通過しても、そのままの強度で強度センサに到達する。従って、強度センサが受けた強度は発光強度に等しくなる。しかし、測定機器は紫外線やオゾンにより酸化等のダメージを受けている。また、個々の固体発光素子により出力に相違があるので、オゾン濃度測定時には予め、相対的な発光強度(吸光の無いオゾンゼロ状態と同様)を測定しておかなければならない。
【0045】
図1に従い、オゾンゼロを設定するための操作手順を説明する。流量バルブ117を閉じて試料ガスが計測チャンバ機構163に試料ガスが流入しないようにする。ここでは計測チャンバを真空にしてオゾンを除去するケースを説明する。真空ポンプ120を作動させガス計測部排気バルブ119、チャンバ排気バルブ118を開け計測チャンバ機構163、試料ガス計測部129内に滞留する酸素、オゾン、大気中に含まれるガス、微少水分、を排気ガス出口121から排気して真空状態をつくる。到達吸引圧 −85KPa程度である。今後、実験を進めることで低真空状態、更には大気圧に近い状態においてもゼロガス設定が可能になると考える。真空ポンプ120は長寿命でメンテナンスフリーの小型式真空ポンプが市販されている。真空度は真空計を使用しなくても計測チャンバ機構163の内部体積、真空ポンプ120の排気流量から実験で到達真空度までの時間が分かれば真空度は時間で管理する事が出来る。この後、計測チャンバ機構163内に滞留するオゾンを分解させる目的で、発光素子取り付け部104のチョッパ駆動電源部115を連続点灯モードで作動させ、計測チャンバ機構163の内のオゾンを分解させる。オゾン分解は例えば窒化物系深紫外半導体発光素子102から発する放射出力強度を上げる事でオゾンの分解反応は活発になる。ただし、オゾン除去後は、オゾン計測に使用する窒化物系深紫外半導体発光素子102を使用(複数素子の場合にはそのすべて)とその出力強度を同一(複数素子の場合にはそれぞれの強度を一致)させて、ゼロ基準を設定する。分解されたオゾンは試料ガス計測部129内から排出される。オゾンの分解度が進む事で計測チャンバ機構163内の真空度は上がる。(真空度が良くなる)時間毎に窒化物系深紫外半導体発光素子102から微弱光の紫外線を放射させ、放射出力強度を計測する。このオゾン除去を継続すると放射出力強度がほぼ同じ値に安定してくる。この時に、オゾンが無くなり、吸光されなくなったゼロ基準に達したと判断でき、ゼロ設定完了とする。また、図1、図2に記載はないがオゾン分解の為の専用の発光素子を計測チャンバ機構163の内(例えば計測チャンバ機構163の側面に取り付ける)に取り付ける事も可能である。試料ガス計測部129内だけでなく計測チャンバ機構163内全体のオゾン分解反応が活発になりより精度よくオゾンが無い状態を作ることが出来る。ただし、オゾン除去後、濃度測定を行う素子のみで、再度ゼロ基準値を得る操作が必要である。
【0046】
オゾンゼロ基準値へ到達したかの判断は、十分な時間、真空ポンプを作動させる方法の他、真空ポンプによるオゾン除去や紫外線によるオゾン分解を継続して行い、受光強度が一定になったときをオゾンゼロとする方法がある。本発明は後者を採用する。即ち、光チャンバ機構164の窒化物系深紫外半導体発光素子102を点灯、消灯をさせたチョッピングで光を照射させる。光は照射方向126に進み、連続波長の紫外線が平行レンズ部106に取り付けられた平行レンズ127に照射される。平行レンズ127により平行な紫外線となって光学フィルタ部140に取り付けられた光学フィルタ130に照射される。光学フィルタ130で連続波長は単一波長に絞られ、透過フィルタ部161に取り付けられた透過フィルタ162を通り、計測チャンバ機構163内の試料ガス計測部129に入射される。オゾンがあれば、紫外線はオゾンを分解し、放射出力強度は減衰する。真空やオゾンがない状態の場合、紫外線はオゾンに吸収されず、放射出力強度(発光強度)は減衰しない。試料ガス計測部129を通過した単一波長の紫外線は透過フィルタ部161に取り付けられた透過フィルタ162を通り受光チャンバ機構165内の集光レンズ部110に取り付けられた集光レンズ128により収束した光になって強度センサ111に到着する。受光チャンバ機構165に取り付けてある強度センサ111で測定された値は電圧値として出力される。電圧値は増幅器112を通してインターフェイス123を介してマイクロコンピュータ124に入力される。オゾンゼロの状態でのI=入射光の放射出力強度がオゾンゼロ基準値であり、オゾンゼロ基準設定が完了する。また、このときの放射出力強度が、発光強度とみなせる。
【0047】
オゾンゼロ基準値設定後、試料ガスの濃度測定を行う。ここでも、図1に基づき、説明する。真空ポンプ120を作動させた状態でチャンバ排気バルブ118は閉じ、ガス計測部排気バルブ119は開ける。流量バルブ117を開け流量計116でガス流量を所定の値に設定して、試料ガスを試料ガス入口122から試料ガス計測部129に試料ガスを流入させる。計測チャンバ機構163の試料ガス計測部129内のガス注入109とガス排出108の間の短い試料ガス行路長を試料ガスが一瞬に乱れなく通過する。圧力差を利用しているので試料ガス注入109からガス排出108に試料ガスの方向107に流れる。試料ガスが試料ガス計測部129に流入した状態で発光素子取り付け部104のチョッパ駆動電源部115を作動させ窒化物系深紫外半導体発光素子102を点灯、消灯させ連続波長の紫外線を放射する。窒化物系深紫外半導体発光素子102から発する200〜320の放射出力強度は0.015〜0.12(μW/cm2)の微弱光である。平行レンズ127で紫外線を平行光にし、光学フィルタ130で所定の単一波長の紫外線を取り出す。単一波長となった紫外線は、試料ガス計測部129内を流入され試料ガスに含まれているオゾンを分解しながら透過する。このとき紫外線は減衰する。単一波長でかつ平行光である紫外線は集光レンズ128において収束させられ、強度センサ111に受光される。強度センサ111で測定された値は電圧値として出力される。透過光の放射出力強度はO(受光強度)として、電圧値は増幅器112を通してインターフェイス123を介してマイクロコンピュータ124に入力される。
【0048】
入射光の放射出力強度(オゾンゼロ基準値)I(発光強度)、透過光の放射出力強度をO(受光強度)がマイクロコンピュータ124に入力されると、マイクロコンピュータ124はランベルト・ベールの法則を表した数式1から計算してオゾン濃度を算出する。マイクロコンピュータ124は統計的な手法により最頻値を計算し、表示器125に表示する。
【0049】
更に、本発明においては、オゾンゼロにおけるゼロ基準設定値又は発光強度を得るために、密閉した測定空間を紫外線で十分に照射してオゾンを消滅させる方法を提案している。この方法を採用すると、特にコンピュータによる制御が重要になる。図8及び図9は、コンピュータ制御を中心に、本発明の動作を解説する。
【0050】
図8はオゾンが存在しない環境において強度センサが受ける紫外線の強度を、発光強度とみなす処理フローチャートである。排気ガス出口121、試料ガス入口122を閉じ、外部と遮断し、真空ポンプ120により計測チャンバ機構163の気体を排出すれば真空状態にすることができる。予め真空状態にするとゼロ設定値が早く取得できる利点があり、また、残留物も除去され、より測定環境は良くなる。しかし、この実施形態においては、本発明の特徴を明瞭にするため、ゼロ設定値の取得手段では、密閉した計測チャンバ機構163を紫外線で照射することのみで、オゾンゼロの状態を現出する方法を採用した。なお、図示していないが、ゼロ設定の手段実施中に並行して、計測チャンバ内の残留物除去を目的に真空ポンプを作動させることは実際の運用において好ましいと言える。
【0051】
以下、その手段を説明する。まず、S801において、計測稼動情報をマイクロコンピュータ124に付属する記憶装置から取り出す。計測稼動情報には、オゾン消滅に必要な紫外線照射時間や、窒化物系深紫外半導体発光素子102別の発光電力などが記録されている。もっとも効率のよいかつ機器へのダメージを少なくする照射時間や発光強度が選択され、実行に移る。S802では、本処理を実行するときに使用するワーク記憶域をクリアする。ワーク記憶域には、1回あたりの紫外線照射時間カウンタ、強度センサ値の前記録データ、センサ値同一の場合の比較カウンタ等がある。
【0052】
計測チャンバ機構163の開口部分の試料ガス入口122、排気ガス出口121を閉じ、密閉状態にするため、真空ポンプ120を閉じるよう指令する(S803)。マイクロコンピュータ124から指令を受け、すべてのバブルが閉じられる(S804)。次に計測稼動情報に基づき、指定された窒化物系深紫外半導体発光素子102(S805)とその出力の強度が指定される(S806)。図示はしていないが、固体発光素子の一つである窒化物系深紫外半導体発光素子102が本実施形態では使用されているがこれが一つとは限らない。また同様に、図示はしていないが、固体発光素子は窒化物系深紫外半導体発光素子とは異なる、紫外線発光素子を含む場合もある。
【0053】
マイクロコンピュータ124は発光チャンバ機構164に指定時間、連続して紫外線照射を行うよう指令する(S807)。この指令の結果、指定された窒化物系深紫外半導体発光素子102(複数可)が指定された時間、指定された出力強度で紫外線を発光する(S808)。マイクロコンピュータ124は、指定時間後に強度センサ111から受光強度の値を受ける(S809)。強度センサ111は強度を知らせる(S810)。
【0054】
S811において、マイクロコンピュータ124は、前に記録していた受光強度値と比較し、同一か、誤差範囲内であれば、オゾンゼロ(吸光無し)と予測する。そうでないならば、ワークデータのゼロ値計測カウンタをクリアする(S812)。これは、前回のオゾンゼロ状態は偶然とみなし、再度オゾンゼロ状態を追求するために、初期状態に戻したのである。ゼロ値計測カウンタはオゾンゼロと予想する状態が指定回数続けば、オゾンゼロと確定することができるとの考えに基づき設けられた。S811でオゾンゼロ(吸光無し)と予測されたので、このゼロ値計測カウンタを1回更新する(S813)。このカウントが指定回に達するとオゾンゼロと確定してもよいとなる(S814)。そうでなければ、再度、同様の状態が続き、指定回数に達するまで紫外線照射と受光強度の記録を続行する。
【0055】
オゾンゼロと確定したならば、マイクロコンピュータ124は、紫外線照射を停止させる(S815、S816)。この時の強度センサ111が連続して記録した同一の値がゼロ設定値である。これを不揮発な記憶領域に記録する(S817)。また、ゼロ設定値の取得やオゾン濃度測定計算に最も効率よく、機器の安定性を維持できるための、測定時間や発光強度、使用する固体発光素子などを決める分析データを最良指定値分析情報として、マイクロコンピュータ124に付属する記憶装置に記録する(S818)。
【0056】
図9は、ゼロ設定値を相対的な発光強度とみなし、オゾン環境下において、測定した受光強度によりオゾン濃度を計算する処理のフローチャートである。オゾンゼロ設定値取得手段において使用した固体発光素子、その紫外線発光時の電力強度は同一であり、その情報は先に記録された相対発光強度(ゼロ設定値)を含めて、マイクロコンピュータ124に付属する記憶装置から供給される。
【0057】
以下、図9を説明する。前述の相対発光強度や、後で説明する紫外線発光の断続短周期や断続長周期等を記録した計測稼動情報をマイクロコンピュータ124に付属する記憶装置から取り出す(S901)。次に、S902では、本処理を実行するときに使用するワーク記憶域をクリアする。マイクロコンピュータ124の指令により計測チャンバ機構163内の試料ガス計測部129の試料ガス注入部109から外部の試料ガスが吹き出し、ガス排出部108へと吸い込まれ外部へ出ていくように真空ポンプ120が指定された圧力で作動し、各種バルブを調整していく(S903、S904)。
【0058】
マイクロコンピュータ124の制御を受けて、発光チャンバ機構164の指定された固体発光素子は、指定された周期の点滅を開始する(S905、S906)。この指定された固体発光素子とは、ゼロ設定値取得手段でオゾン消去を行った固体発光素子(複数可)である。紫外線の強度はオゾン消去時に使用した強度である。本発明ではオゾン濃度測定を実行するときは、紫外線を連続照射せず、点滅を繰り返す断続照射を採用している。この点滅には短周期と長周期がある。短周期は、非常に短い周期で紫外線を点滅させることにより、S/N比が大きくなり、測定ノイズを除去できる。長周期は、一度照射されたオゾンが再オゾン化されてもそのオゾンに紫外線が照射されず、排気ガス出口121から外部へ出ていく時間を短周期に含む周期である。即ち、短周期+再オゾンの排気時間(無照射)である。一連の短周期発光でオゾンが破壊されるが、同時に生成した活性酸素により再オゾン化があり、再度このオゾンに紫外線が当たるとオゾン濃度に不測の値を加えてしまうので、本発明では、再オゾン化されたオゾンを含む試料ガスが外部へ吸引排気されるように仕組みを設けた。
【0059】
S907において、長周期の紫外線照射断続を実行すべく、長周期の回数を計測稼動情報から取り出し(S908)、計測を開始する。また、S909において、短周期で紫外線を点滅すべく、照射時間と無照射時間のタイミングをコンピュータ制御により実行する。
【0060】
S910において、マイクロコンピュータ124は、発光チャンバ機構164へ紫外線照射時間、電力等を指示し、紫外線を発光させる(S911)。受光チャンバ機構165は、強度センサ111で受けた紫外線の強度の値をマイクロコンピュータ124へ報告する(S912)。点滅により、この繰り返しが短周期分ある。これらは、マイクロコンピュータ124に付属する記憶装置に記録される。これらの記録について、マイクロコンピュータ124は妥当な計測値とみなす値を選別する(S913)。この測定と処理を周期分実行する(S914)。
【0061】
S915では、短周期の紫外線点滅後、前述した再オゾン再計測を阻止するため、試料ガスが排気ガス出口に吸い込まれる時間を予測して紫外線の照射を停止する。マイクロコンピュータ124は、発光チャンバ機構164へ指令して、指定時間の紫外線発光を停止させる(S916)。この長周期の紫外線断続照射を指定回数分実行し、回数分に達したら(S917)オゾン濃度測定の機器の稼動を停止する(S918)。発光チャンバ機構164には紫外線照射の停止(S919)、計測チャンバ機構163には試料ガス計測部129を流れる試料ガスの停止を指示する(S920)。
【0062】
長周期回数分の強度センサ値のデータを統計的手法により最頻値を求める。この場合、分散分布の適正パターンが存在するので、それから外れた記録を外し、最頻値近傍のデータから受光強度を確定する(S921)。なお、図示していないが、分布状態が異常であると、機器故障や操作ミスが疑われ、測定エラーとなる。ここにオゾンゼロ設定値を発光強度とみなし、ランベルト・ベールの式を使用して、オゾン濃度を算出する(S922)。
【実施例1】
【0063】
図2は真空チャンバ機構101内に窒化物系深紫外半導体発光素子102を用いて、試料ガス計測部129内にガス排出108、ガス注入109を取り付けたガス交差型紫外線吸収式オゾン濃度計2の構成図である。図2を利用して構成図の概略を説明する。発光素子取り付け部104とカバー160は取り付けネジ部150で取り付けられ密封されている。取り付けネジ部150に取り付けてあるカバー160を取り外す事で真空チャンバ101内にある全ての機構部品のメンテナンス作業、部品交換作業を行う事ができる特徴がある。
【0064】
オゾンゼロ基準値設定後、試料ガスの測定を行う。真空ポンプ120を作動させ試料ガスが真空チャンバ機構101に流れ込まないようにガス計測部排気バルブ119は開け、チャンバ排気バルブ118は閉じる。試料ガスが試料ガス計測部129に流入した状態で発光素子取り付け部104のチョッパ駆動電源部115を作動させ窒化物系深紫外半導体発光素子102を点灯、消灯させ連続波長の紫外線を放射する。試料ガス計測部129内に流入され試料ガスに含まれているオゾンに吸収され紫外線は減衰する。平行に分散された単一波長の紫外線は集光レンズ128において収束させられ、強度センサ111で受光し、透過光の放射出力強度とする。強度センサ111で測定された値は電圧値として出力される。透過光の放射出力強度はOとして、電圧値は増幅器112を通してインターフェイス123を介してマイクロコンピュータ124に入力される。
【実施例2】
【0065】
図3〜図6の実験の目的は、特許文献4に記載のある製造方法で作成した窒化物系深紫外半導体発光素子102を実際に使用して活性酸素による再オゾン化の影響がある250〜260nmの紫外線の放射出力強度下限値、上限値を見いだし、下限値の微弱光が計測可能であるかをオゾン発生・供給システム6を使用して見いだす事である。また、本発明に使用した平行レンズ127、試料ガス計測部129、を利用する手段の必要性を確認する実験を行った。
【0066】
(実験装置の説明)図6は、本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子102を用いた実験をする為のオゾン発生・供給システム6の構成図である。微弱光の下限値を見いだす為にオゾン発生・供給システム6を使用した。ポンプ203で大気ガスをオゾン発生装置201に注入させ濃度計202で設定したオゾン濃度を発生させる。発生したオゾンガスはオゾン測定セル206に入り、光源部209内にセットした窒化物系深紫外半導体発光素子102から紫外線を発光させる。紫外線はオゾン測定セル206を通過する間にオゾン濃度ガスに吸収され減衰する。オゾン測定セル206を通過したオゾンガスはオゾン分解器205で処理され大気中に排出される。オゾン測定セル206の長さは30cmである。オゾン測定セル206には温度・圧力計204が取り付けられている。紫外線の放射出力強度は地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センターの分光器で測定した。(仕様 プリズムグレーティング方式 測定波長 200nm〜2500nm 分光計器(株)製 型番 US−25ART)オゾン無しの放射出力強度と、オゾン有りの放射出力強度を分光器207で計測する。分光器207で計測した入射光(オゾンゼロ基準値)の放射出力強度をI、透過光(オゾン設定値)の放射出力強度をOとする。オゾン測定セル206内の圧力、温度、大気温度は参考値として計測した。ランベルト・ベールの法則、数式1から計算してオゾン濃度を算出する。オゾン発生装置201で発生させたオゾン濃度と実測値で計算したオゾン濃度からより正確なオゾン発生濃度がわかる。図6には記載はないがオゾン発生装置201に流量調整バルブが取り付けてある。また、光源部209内にセットしてある窒化物系深紫外半導体発光素子102が含まれている。
【0067】
(実験1)図5は、本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子102を用いて250〜260nmの波長を放射してオゾン発生・供給システム6を使用した実験からオゾン濃度を発生させ紫外線が減衰した時の放射出力強度をグラフにしたものである。僅かな紫外線の出力強度が分光器207で計測可能であるかを確認することが目的である。たとえば、200ppbのオゾンを発生させた時、縦軸が分光放射照度(放射出力強度)の値、横軸が窒化物系深紫外半導体発光素子102から発する波長の値を表している。オゾン無しの時の分光放射照度(放射出力強度)(501)、オゾン濃度200ppbの時の分光放射照度(放射出力強度)(502)がグラフから分かる。実験から活性酸素による再オゾン化を抑え安定的に精度よく放射出力強度を計測出来る250〜260nmの波長の下限値は0.015(μW/cm)とした。
【0068】
(実験2) 図3は本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子102を用いて250〜260nmの波長を放射してオゾン発生・供給システム6を使用した実験から駆動電流値と放射出力強度の関係をグラフにしたものである。
オゾン発生・供給システム6を使用して例えばオゾン濃度が0ppmの時の放射出力強度と駆動電流値をグラフにしてある。縦軸が放射出力強度の値、横軸が窒化物系深紫外半導体発光素子102から発する波長を表している。250〜260nmの波長で放射出力強度が約0.015(μW/cm・255nm)を放射する駆動電流値は5mA(306)になる。駆動電流値30mA(301)、駆動電流値25mA(302)、駆動電流値20mA(303)、駆動電流値15mA(304)、駆動電流値10mA(305)に対する放射出力強度を読み取る事ができる。実験から活性酸素による再オゾン化を抑え、安定的に精度よく放射出力強度を計測できる250〜260nmの波長の駆動電流値は30mA(301)として、上限値は0.12(μW/cm)とした。更に、実験を進める事で、0.12μW/cm以上の放射出力強度で、活性酸素による再オゾン化の影響を抑え、安定的に精度よく計測出来る値を見いだせると考える。
【0069】
(実験3) 図4は本発明を実施する窒化物系深紫外半導体発光素子102を用いて250〜260nmの波長を放射して透過距離と放射出力強度の関係をグラフにしたものである。測定セルを通過する試料ガスが長い透過距離を移動する間に透過中にオゾンが何度も紫外線に照射される事を実験する為オゾン発生・供給システム6のオゾン測定セル206を使用しないで大気中(オゾン濃度 10ppb以下)で計測を行った。透過距離を変化させて放射出力強度の変化を実験した。縦軸が放射出力強度の値、横軸が窒化物系深紫外半導体発光素子102から発する波長の値を表している。窒化物系深紫外半導体発光素子102から放射出力強度0.12μW/cmを放射して、透過距離10cm(401)、透過距離20cm(402)、透過距離30cm(403)に対する放射出力強度の値を読み取る事ができる。オゾン測定セル206を使用しない計測は分光器207に紫外線が到達する前に大気中に分散してしまい放射エネルギーが減衰する。実験から測定セルを使用する計測は分散した紫外線が測定セルに反射して試料ガスが長い透過距離を移動する間に、透過中にオゾンが何度も紫外線に照射される事になる。
【実施例3】
【0070】
本発明のオゾン濃度測定の仕組みは、気相を対象にしている。しかし、この仕組みは、液相に対しても有効である。濃度測定には、予めオゾンゼロ状態における相対的な受光強度の値を取得しておかねばならない。即ち、本発明を特徴づける最も重要な手段は、オゾンが存在しない状態を計測環境に如何に現出するかにある。この手段には真空や紫外線に不活性な物質充填等を上げることができる。しかしながら、気相と液相では条件が異なり単純に同じ仕組みを適用できない。これは媒質の除去、又は交換のような手間のかかる工程があるからである。この点、本発明では、紫外線の照射により残留オゾンを破壊しオゾンゼロの状態を設定できることに気付いている。破壊されたオゾンの処置や気相で通用した固体発光素子の出力が、液相ではどの程度に調整しなければならないか等、考察すべき項目は多々ある。しかし、前述の理由から、本発明は液相に適用できる特徴を有すると考える。
【0071】
具体的には、液相ゼロ設定値を取得する際は液相の進入、排出をなくす為にバルブは閉め計測する液相を閉じ込める。計測に使用するすべての固体発光素子から紫外線を連続照射することにより、計測部に閉じ込められた液相に含まれるオゾンを破壊する。液相に含まれるオゾンがすべて破壊された状態では、強度センサが受ける受光強度は変化しない。従って、透過してきた紫外線の受光強度を少なくとも2回測定し、強度センサの値が変化しなくなったときの強度センサの値を液相オゾンゼロにおける受光強度とする事になる。
【符号の説明】
【0072】
1 ガス交差分離型紫外線吸収式オゾン濃度計
2 ガス交差型紫外線吸収式オゾン濃度計
6 オゾン発生・供給システム
101 真空チャンバ機構
102 窒化物系深紫外半導体発光素子
103 発光素子保護ガラス
104 発光素子取り付け部
105 発光素子アダプタ
106 平行レンズ部
107 試料ガス方向
108 ガス排出部
109 ガス注入部
110 集光レンズ部
111 強度センサ
112 増幅器
115 チョッパ駆動電源部
116 流量計
117 流量バルブ
118 チャンバ排気バルブ
119 ガス計測部排気バルブ
120 真空ポンプ
121 排気ガス出口
122 試料ガス入口
123 インターフェイス
124 マイクロコンピュータ
125 表示器
126 照射方向
127 平行レンズ
128 集光レンズ
129 試料ガス計測部
130 光学フィルタ
140 光学フィルタ部
150 取り付けネジ部
160 カバー
161 透過フィルタ部
162 透過フィルタ
163 計測チャンバ機構
164 発光チャンバ機構
165 受光チャンバ機構
201 オゾン発生装置
202 濃度計
203 ポンプ
204 温度・圧力計
205 オゾン分解器
206 オゾン測定用セル
207 分光器
208 オゾンを通過した光
209 光源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm〜320nmの波長域を含む紫外線を発光する固体発光素子が少なくとも1個備わった発光チャンバ機構と、試料ガス計測部を挟んで試料ガスを吹き出すガス注入部と該試料ガスを吸い込むガス排出部とが相対する位置に少なくとも1対設けられ、前記発光チャンバ機構から来た紫外線が、前記ガス注入部から前記ガス排出部へ向かう前記試料ガス計測部中の試料ガスの流れと直角の方向に透過する構造を有する計測チャンバ機構と、前記計測チャンバ機構を出た紫外線を受光し、該受光強度を計測する強度センサを備えた受光チャンバ機構とが、取り外し可能な前記3機構により構成され、オゾン無しの状態の前記計測チャンバ機構内を透過してきた紫外線を前記強度センサで受け、該受光強度の値をオゾンゼロ値とするゼロ設定値取得手段と、前記試料ガスが流れた状態にある前記試料ガス計測部中を、紫外線が透過したときの前記強度センサの受光値と発光強度とみなした前記オゾンゼロ値とでオゾン濃度を算出するオゾン濃度算出手段を有することを特徴とするオゾン濃度測定装置。
【請求項2】
前記発光チャンバ機構は、真空又は不活性ガス充填の状態で密閉されており、チョッパ駆動電源部を制御することにより該機構内の前記固体発光素子が紫外線を断続発光し、該紫外線が平行レンズを経由して平行光になり、光学フィルタに到達し、該光学フィルタを指定された単一波長の紫外線が透過して前記計測チャンバ機構へ入射する請求項1に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項3】
前記チョッパ駆動電源部の紫外線発光の断続周期は、紫外線を点滅させてオゾン計測を実行する短周期と、第1の前記短周期と第2の前記短周期の間に、前記第1の短周期において紫外線照射された前記試料ガスが前記ガス排出部へ吸引される時間を予想して紫外線照射を中断するガス排出予想時間を設け、該第1の短周期と該ガス排出予想時間を合わせた間隔である長周期と、からなり、前記2つの周期をコンピュータ制御により実行する請求項1又は2に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項4】
前記受光チャンバ機構は、真空又は不可性ガス充填の状態で密閉されており、前記計測チャンバ機構を出た紫外線は該機構内に設けた集光レンズにより、集束され、前記強度センサに照射される請求項1乃至3のいずれか1項に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項5】
前記ゼロ設定値取得手段は、前記計測チャンバ機構内を一時密閉して外部空気の侵入を遮断し、計測に使用するすべての前記固体発光素子から紫外線を連続照射することにより、該計測チャンバ機構内のオゾンを破壊する過程において、透過してきた紫外線の受光強度を少なくとも2回測定し、前記強度センサの値が変化しなくなったときの前記強度センサの値をオゾンゼロにおける受光強度とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項6】
前記オゾン濃度算出手段は、前記計測チャンバ機構に入射した紫外線が前記試料ガス計測部をオゾンに吸光されつつ通過して前記強度センサに到達したときの測定値を前記長周期毎に記録し、該記録データから最頻値を算出して受光強度とみなし、前記オゾンゼロにおける受光強度を発光強度とみなし、オゾン濃度を算出する請求項1乃至5のいずれか1項に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項7】
前記固体発光素子は、電力制御により1個当たりの固体発光素子の放射出力強度が0.015〜0.12μw/cm2に設定できる窒化物系深紫外半導体素子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項8】
前記ゼロ設定値取得手段におけるオゾンゼロ化の手段には、前記計測チャンバ機構内を密閉し、減圧又は真空にする手段を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のオゾン濃度測定装置。
【請求項9】
前記ゼロ設定値取得手段におけるオゾンゼロ化の手段には、前記計測チャンバ機構内を密閉し、不活性ガスを充填する手段を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のオゾン濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−173273(P2012−173273A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38925(P2011−38925)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(591130489)有限会社光電鍍工業所 (3)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】