説明

オゾン発生素子

【課題】高湿度環境下でも放電を維持可能なオゾン発生素子を提供すること。
【解決手段】放電によりオゾンを生成するオゾン発生素子10であって、放電電極14と、前記放電電極14に対向する誘導電極16と、前記放電電極14と前記誘導電極16との間に設けられた誘電体層12と、前記放電電極14上に形成された撥水層40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電により酸素からオゾンを生成するオゾン発生素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のオゾン発生素子として、例えば特許文献1に記載のものが提案されている。以下、図5を参照して、特許文献1のオゾン発生素子を説明する。図5において、オゾン発生素子は、放電電極101、誘導電極102、誘電体103、絶縁体104、高圧端子111及び接地端子121を備える。絶縁体104は、アルミナからなる長方形状の基板である。誘導電極102は、アルミニウム合金からなる電極である。誘導電極102の一端には、接地端子121が設けられる。接地端子121にはリード線122が接続されている。
【0003】
誘電体103は、セラミックからなる層であって、絶縁体104及び誘導電極102を覆っている。放電電極101は、金属箔からなる電極であり、誘電体103上に形成される。放電電極101の一端には、高圧端子111が設けられており、この高圧端子111には、リード線112が接続されている。
【0004】
従来のオゾン発生素子では、高圧端子111の位置と接地端子121の位置とが反対側となっているので、放電電極101と誘導電極102との間に流れる電流の方向が同一となる。これにより、放電電極101と誘導電極102との間に互いに吸引しあう電磁力を発生させることができ、放電電極101が誘電体103から剥離することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−231105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のオゾン発生素子では、高湿度環境下で放電を維持することが難しいという問題点があった。
【0007】
それゆえに、本発明の目的は、高湿度環境において放電を維持可能なオゾン発生素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一局面は、放電によりオゾンを生成するオゾン発生素子であって、放電電極と、前記放電電極に対向する誘導電極と、前記放電電極と前記誘導電極との間に設けられた誘電体層と、前記放電電極上に形成された撥水層と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高湿度環境においても湿度の影響を抑えて放電を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)はオゾン発生素子の全体構成を模式的に示す図であり、(b)はオゾン発生素子の上面図である。
【図2】(a)は、図1(a)に示すE−E線に沿うオゾン発生素子の断面図であり、(b)はオゾン発生素子の下面図である。
【図3】オゾン発生素子の放電停止時の温湿度の測定環境を示す模式図である。
【図4】周囲温度に対するオゾン発生素子の放電停止時の湿度を示すグラフである。
【図5】従来のオゾン発生素子の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(オゾン発生素子の構成について)
まず、図面を参照して、本発明の一実施形態に係るオゾン発生素子の構成について説明する。図1(a),(b)及び図2(a),(b)には、x軸、y軸及びz軸が示される。x軸及びy軸は互いに直交し、両軸で水平面を構成する。また、z軸については、正方向を鉛直上方向と、負方向を鉛直下方向とする。
【0012】
オゾン発生素子10は、大略的には、誘電体基板12、放電電極14、誘導電極16、及び端子電極30,32とを備える。
【0013】
誘電体基板12は、誘電体層の一例であり、長方形状の上面12a及び下面12bを有するアルミナ基板である。上面12a及び下面12bは、z軸の正方向側及び負方向側にある誘電体基板12の主面であり、互いに対向する。また、上面12a及び下面12bの長辺はそれぞれx軸方向に延び、短辺はそれぞれy軸方向に延びる。誘電体基板12のサイズは、例えば4mm×12mmである。
【0014】
放電電極14は、x軸方向に延びるように上面12a上に形成される。放電電極14の抵抗値は、例えば100Ω/mm2 以下である。放電電極14の先端直下にはスルーホール31が形成される。スルーホール31は、誘電体基板12を上面12aから下面12bへと貫く。このスルーホール31の上面12aにて放電電極14は電気的に接続される。
【0015】
端子電極30は、放電電極14と概ね対向するように、下面12b上のx軸正方向の端部に設けられる。端子電極30は、スルーホール31の下面12bで接続電極33を介して導通し、外部回路と放電電極14とを接続する役割を果たす。なお、放電電極14及び端子電極30の材料としては、例えば導電ペースト又はサーメットがある。導電ペーストの主成分としては、金、銀、パラジウム、プラチナ、銅又はニッケルがある。
【0016】
誘導電極16は、x軸方向に延びるように下面12b上に形成される。これにより、放電電極14と誘導電極16とは、誘電体基板12の厚み方向(z軸方向)に互いに対向し、誘電体基板12は、放電電極14と誘導電極16との間に配置される。誘導電極16は例えば銀からなり、その抵抗値は、例えば100Ω/mm2 以下である。
【0017】
端子電極32は、下面12b上であって、誘導電極16のx軸の負方向の端部に設けられ、外部回路と誘導電極16とを接続する役割を果たす。
【0018】
また、オゾン発生素子10は、好ましい構成として、保護膜20,22を備える。保護膜20は、少なくとも放電電極14を覆うように、放電電極14及び誘電体基板12上に設けられる。また、保護膜22は、端子電極32と端子電極30とを除く部分を覆うように、誘導電極16及び誘電体基板12上に設けられる。保護膜20は例えばガラスのような絶縁性材料からなり、また、保護膜22は例えばガラス又はシリコン樹脂のような絶縁性材料からなる。保護膜20,22は、放電電極14及び誘導電極16が酸化したり誘電体基板12から剥離したりすることを防止する役割を果たす。
【0019】
前述のとおり、従来のオゾン発生素子は高湿度下で放電維持することが難しい。この理由は、以下であると考えられる。誘電体基板12の材料であるアルミナの固有容量は湿度に依存する。つまり、通常環境下と高湿度環境下とでは誘電体基板12の固有容量が変わり、放電電極14からの放電開始電圧(放電開始条件)が変わる。このような放電開始電圧の変化により、従来のオゾン発生素子では高湿度下での放電維持が難しい、と考えられる。
【0020】
放電維持のために、オゾン発生素子10は、放電電極14上に保護膜20を介して形成された撥水層40を備える。撥水層40は、放電電極14の表面に水分が付着しないように水分を弾く。撥水層40の厚さは、実験の結果、最大10ミクロン以下であれば放電することが確認できた。好ましくは5ミクロン以下で、さらに好ましくは3ミクロン以下である。撥水層40の材質は、例えば、フッ素系樹脂を溶剤に溶解して溶液化したフッ素コーティング剤である。フッ素コーティング剤は、上面12a側(放電電極14側)のみのコーティングであれば、ブラシ(はけ)により塗布することができ、上面12a側の全面に塗布することも容易である。また、上面12a及び下面12bの双方の全面をコーティングするのであれば、オゾン発生素子10をフッ素コーティング剤に浸漬させる。
【0021】
なお、本実施形態では、撥水層40は保護膜20を介して放電電極14上に形成される(図2(a)を参照)。しかし、これに限らず、撥水層40は放電電極14の直上に設けられても構わない。
【0022】
上記構成のオゾン発生素子10において、端子電極30,32の間には、例えば20kHz〜30kHzの周波数で4〜6kVの交流高電圧が印加される。交流高電圧が印加されると、放電電極14の外縁近傍に交流高電圧の交流周期に合わせて強い電界が形成される。この際、放電電極14の外縁近傍から電子が放出されて誘電体基板12に付与される現象と、その電子が誘電体基板12から放電電極14に戻る現象とが繰り返し発生する。これにより、放電電極14の周辺には放電が発生し、放電電極14近傍を通過する酸素から放電により、オゾンが生成される。
【0023】
(オゾン発生素子の効果について)
まず、図3を参照して、オゾン発生素子10の周囲温度に対する、オゾン発生素子10の放電停止時の湿度を測定する環境について説明する。図3において、恒温恒湿槽50には、フッ素コート剤が塗布されたオゾン発生素子10と、温湿度計52のセンサプローブ54と、高圧電源ユニット56とが槽内に設置される。
【0024】
上記環境下で、本願発明者は、オゾン発生素子10の周囲温度を所定値で一定にした後、高圧電源ユニット56により6.0kVp−p(ピークトゥピーク値)の交流高電圧をオゾン発生素子10に印加した。高圧電源ユニット56は、オン時間が3.0msかつオフ時間が410msで周期的に駆動される。この交流高電圧により、オゾン発生素子10は沿面放電しオゾンを発生する。この間槽内の湿度を徐々に上げ、オゾン発生素子10による放電波形をオシロスコープ58で観測した。また、本願発明者は、この放電波形に基づき放電停止を判断し、放電停止時の湿度を温湿度計52で測定した。同様の手法で、周囲温度が10℃から50℃までの範囲を5℃刻みで、放電停止時の湿度を測定した。
【0025】
オゾン発生素子10における放電停止時の湿度の測定結果が、図4中に四角形のマーク”□”でプロットされている。なお、参考のため、図4には、フッ素コート無しのオゾン発生素子による測定結果が三角形のマーク”△”でプロットされている。図4からも明らかなように、実測の結果、いずれの周囲温度においてもフッ素コート剤が塗布されたオゾン発生素子10の放電停止湿度が、フッ素コート無しのオゾン発生素子の放電停止湿度を上回っている。この結果について、以下のように考えられる。すなわち、フッ素コート剤により放電電極14上の水分を除去した結果、実際には高湿度環境下であっても固有容量及び放電開始電圧が通常環境下の値に近くなり、それによって高湿度下でも放電維持が可能となったと考えられる。以上のとおり、本オゾン発生素子10によれば、高湿度環境下でも放電を維持することができる。
【0026】
また、本オゾン発生素子10によれば、端子電極30は、スルーホール31により端子電極32と同じ下面12b(誘導電極16側)に設けられている。このように端子電極30,32が下面12b側に設けられているので、上面12a側(放電電極14側)に撥水層40をブラシにより形成したり、端子電極30,32に接続される配線をオゾン発生素子10の外部回路へと引き出したりすることが容易になる。なお、端子電極30,32に配線を接続する場合には、例えば、フープ端子を用いることができる。
【0027】
また、以上の実施形態では、フッ素コーティング剤により撥水層40を形成する例について説明した。しかし、これに限らず、厚さを10ミクロン以下に形成するのであれば、撥水層40は、シリコン樹脂やガラスで形成されても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係るオゾン発生素子は、高湿度環境下でも放電を維持可能であり、除菌機能等を備えるエアコンディショナー又は空気清浄器等に有用である。
【符号の説明】
【0029】
10 オゾン発生素子
12 誘電体基板(誘電体層)
14 放電電極
16 誘導電極
20,22 保護膜
31 スルーホール
30,32 端子電極
40 撥水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電によりオゾンを生成するオゾン発生素子であって、
放電電極と、
前記放電電極に対向する誘導電極と、
前記放電電極と前記誘導電極との間に設けられた誘電体層と、
前記放電電極上に形成された撥水層と、
を備える、オゾン発生素子。
【請求項2】
前記放電電極と前記誘導電極は、前記誘電体層の厚み方向に対向する、
請求項1に記載のオゾン発生素子。
【請求項3】
前記撥水層はフッ素コート層である、
請求項1又は2に記載のオゾン発生素子。
【請求項4】
前記撥水層は、前記誘電体層における前記放電電極の配置面の全面に形成される、
請求項1〜3のいずれかに記載のオゾン発生素子。
【請求項5】
前記オゾン発生素子は、さらに、
前記撥水層と前記放電電極の間に形成される保護膜、
を備える、請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン発生素子。
【請求項6】
前記オゾン発生素子は、さらに、
前記誘導電極上に形成される保護膜、
を備え、
前記撥水層は、前記誘電体層における前記誘導電極の配置面の全面に形成される、
請求項1〜5のいずれかに記載のオゾン発生素子。
【請求項7】
前記オゾン発生素子は、さらに、
前記誘電体層を貫通し、前記放電電極と接続されたスルーホール、
を備え、
前記スルーホールはさらに、前記誘導電極側に設けられた端子電極と接続される、
請求項1〜6のいずれかに記載のオゾン発生素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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