説明

オゾン発生装置の運転方法

【課題】添加ガスを注入する必要がなくそのための装置が不要であり、オゾン発生装置及びそれを含むオゾン処理システムをコンパクトにするとともに省エネルギー化を図れる、オゾン発生手段を提供すること。
【解決手段】酸素純度が99.8%以上の原料ガスのみを用い、放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続させて、所定の濃度のオゾンを発生させるオゾン発生装置の運転方法の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を主に含む原料ガスを用い、添加ガスを必要とすることなくオゾンを発生させる、オゾン発生装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上水及び下水にかかる水処理等において、大量のオゾンが使用されている。このオゾンは、殺菌、漂白、脱臭の作用発現において、優れた力を有し、又、自然分解により酸素に戻り、活性炭等で容易に除去することが出来、環境負荷とならないものである。そのため、オゾンの益々の利用が、期待されている。
【0003】
現在では、オゾンの用途にもよるが、高濃度のオゾンを必要とする場合には、原料として高純度酸素を用い、放電式のオゾン発生装置(オゾナイザ)によって、オゾンを発生させることが、一般的である。この放電式オゾン発生装置は、高周波インバータ(INV)電源によって大電力を投入し、放電(無声放電、沿面放電)によって酸素分子に電子を衝突させて、オゾンを発生させるものであり、この放電式オゾン発生装置の普及によって、高濃度のオゾンを高効率で生成することが、可能となってきている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】放電学会誌「放電研究」第49巻第2号、73〜75頁、「純酸素を原料としたときのオゾン生成反応の特異現象について、オゾンゼロ現象中にオゾンを注入したときの挙動」、平成18年、放電学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、酸素純度が99.8vol%以上の原料ガスを用い、放電式のオゾン発生装置(オゾナイザ)によって、オゾンを発生させると、オゾン発生装置の運転時間(経過時間又は単に時間ともいう)の経過とともに、オゾン濃度が低下する現象がみられる。特に、酸素純度が99.999vol%以上の原料ガスを用いると、オゾン濃度が0(零)[g/Nm]付近まで低下する。この現象は、オゾンゼロ現象と呼ばれる(非特許文献1を参照)。このオゾンゼロ現象のメカニズムについては、未だ解明されていない。尚、原料ガスの酸素純度は、35℃における、原料ガス中に酸素が占める割合(vol%)である。
【0006】
このようにオゾン濃度が低下するので、従来、オゾン発生装置の運転初期においては、原料ガスに、わざわざ窒素や乾燥空気(添加ガス)を添加していた。こうすると、オゾン濃度の低下を抑制可能なことが、知られていたからである(同じく非特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、そうすると、オゾン発生装置に、上記添加ガスを注入する装置を追加することから、余分な設備及び動力が必要となり、オゾン発生装置及びそれを含むオゾン処理システムの肥大化を招くとともに省エネルギー運転の妨げとなる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、添加ガスを注入する必要がなくそのための装置が不要であり、オゾン発生装置及びそれを含むオゾン処理システムをコンパクトにするとともに省エネルギー化を図れる、オゾン発生手段を提供することである。オゾンゼロ現象についての研究が重ねられた結果、添加ガスを注入しなくても一度低下したオゾン濃度が戻ることが発見され、更には、オゾン発生装置を運転するに際して放電電力密度を特定の値に設定することによって、オゾン濃度の低下を抑制可能なことが見出されて、この課題が解決され、以下に示す本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明によれば、酸素を主に含む原料ガスを用い、放電によって前記酸素からオゾンを発生させる、オゾン発生装置の運転方法であって、酸素純度が99.8%以上の原料ガスのみを用い、放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続させて、所定の濃度のオゾンを発生させるオゾン発生装置の運転方法が提供される。
【0010】
本発明に係るオゾン発生装置の運転方法は、放電によって酸素からオゾンを発生させる、放電式オゾン発生装置の運転方法である。放電としては、無声放電、あるいはその一態様である沿面放電、が用いられる。この放電式オゾン発生装置自体は、一般に知られたものである。但し、本発明に係るオゾン発生装置の運転方法においては、酸素純度が99.8%以上の原料ガスのみを用い、放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続する。窒素や乾燥空気を添加することはない。このようなオゾン発生装置の運転は、従来、行われていなかった。何故なら、既述の通り、酸素純度が99.8%以上の原料ガスを用い、放電式のオゾン発生装置によって、オゾンを発生させると、オゾン濃度が低下するため、従来は、オゾン発生装置の運転初期において、窒素や乾燥空気を添加して、オゾンを発生させていたからである。本発明に係るオゾン発生装置の運転方法は、酸素純度が99.8%以上の原料ガスのみを用いても、上記放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続させておけば、一旦は低下したオゾン濃度が、運転開始時の濃度に戻る(上昇する)ことを新たに発見して、完成したものである。尚、放電電力密度は、単位面積あたりの放電電力である。
【0011】
所定の濃度のオゾンとは、その使用する放電式のオゾン発生装置が実現し得る濃度のオゾンであり、オゾン発生装置の設計に基づく濃度のオゾンである。この濃度は、オゾン発生装置の運転開始時(最初期)には、得ることが出来る濃度である。運転を継続とは、単に初期の一定の運転条件のまま継続すればよいことを意味し、本発明に係るオゾン発生装置の運転方法において、オゾン発生装置の運転開始後(運転中)には、特段に調整を要しない。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るオゾン発生装置の運転方法によれば、酸素純度が99.8%以上の原料ガスのみを用い、放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続させて、所定の濃度のオゾンを発生させることが出来るので、添加ガスの注入は不要であり、当然に添加ガス用の装置も必要ない。従って、オゾン発生装置及びそれを含むオゾン処理システムをコンパクトにすることが可能であり、又、初期設備費用を抑制出来る。加えて、省エネルギー化(動力費用の低減)を図ることが出来る。
【0013】
オゾン発生装置の運転開始後、一旦、オゾンゼロ現象を含むオゾン濃度の低下現象が発生しても、オゾン濃度は回復し、その間、運転条件は一定を維持すればよく、特段の調整は不要であるので、本発明に係るオゾン発生装置の運転方法は、その(運転)管理が容易である。放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にすることは、運転開始前(開始時)に、一度行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例で使用した、オゾン発生装置を含む試験設備全体の概要を示す構成図である。
【図2】図1に示される試験設備を構成するオゾン発生装置の、長手方向(原料ガスの流れ方向)の断面を表す断面図である。
【図3】図1に示される試験設備を構成するオゾン発生装置の、短手方向(原料ガスの流れ方向に垂直な方向)の断面を表す断面図である。
【図4】実施例の結果を示す図であり、(生産されたオゾン化ガスの)オゾン濃度の時間的変化特性を表すグラフである。
【図5】実施例の結果を示す図であり、(生産されたオゾン化ガスの)オゾン濃度の時間的変化特性を表すグラフである。
【図6】図5と同じ結果を示す図であり、図5のうち最初の10時間までを拡大して示すグラフである。
【図7】実施例の結果を示す図であり、同一の内部電極の使用回数毎に、(生産されたオゾン化ガスの)オゾン濃度の時間的変化特性を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0016】
本発明に係るオゾン発生装置の運転方法は、酸素純度が99.8%以上の原料ガス(単に原料ガスともいう)のみを用いても、放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続させておけば、一旦は低下したオゾン濃度が、運転開始時の濃度に戻る(上昇する)ことを発見して得られたものであるので、以下、実施例に基づいて、具体的に説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)新品(未使用)のステンレス鋼からなる内部電極を用いて、オゾン発生装置を運転したときの、オゾン濃度の時間的変化について、図1に示される試験設備を用いて、調べた。図2及び図3に示されるオゾン発生装置は、同心円筒電極型のオゾン発生装置である。オゾン発生装置の内部電極の材料は、ステンレス鋼であり、そのサイズは、外径68.7mmφ、長さ1000mmである。外部電極は、接地電極であり、そのサイズは、内径69.0mmφ、長さ1260mmである。この外部電極の内側表面には、ガラスライニングが施されている。放電ギャップ(図2を参照)は、0.3mmとした。尚、図1に示される試験設備と、それを構成する図2及び図3に示されるオゾン発生装置では、ガスの流れ方向は反対に描かれている。
【0018】
酸素純度が99.99995vol%の原料ガスを使用した。この原料ガスを、オゾン発生装置へ送り込むにあたっては、マスフローコントローラを用いて流量(ガス流量Q)を1L/min.に調節した。ガスの圧力は、オゾン発生装置の出口において、ゲージ圧として0.05MPaとした。原料ガス用の配管は、6mmφ、10mmφのフッ素樹脂(テフロン(登録商標))製チューブを用い、接続にはスウェージロックチューブ継手(ステンレス鋼)を用いた。
【0019】
オゾン発生装置の両電極(内部電極及び外部電極)は、チラー(冷却装置)で水温10±1℃に保持した冷却水を、280L/hの流量で流して、冷却した。放電電力(放電電力W)は、デジタルパワーメータによって監視し、200W(一定)になるよう制御して運転した。オゾン化ガスに対し、紫外線吸収式オゾンモニタ(測定原理:ランバート・ベールの法則による)で測定し、3桁表示された値を読んで、これを生成された(発生した)オゾンの濃度とした。尚、オゾン化ガスは、オゾン分解触媒を用いて酸素に分解し、大気中へ排気した。オゾン化ガスとは、オゾン発生装置の生産物であり、放電によって酸素をオゾン化した(酸素からオゾンを発生させた後の)ガスを指す。
【0020】
上記条件により、内部電極及び外部電極間に、高電圧(7000V)を印加し、放電を起こして、オゾンを発生させ、オゾン化ガスのオゾン濃度の時間的変化を、250時間経過まで、測定した。結果を図4、図5、及び図6に示す。又、上記試験の条件を、単位ガス流量(原料ガスの流量)あたりの放電電力W/Q、及び単位面積あたりの放電電力W/Sとともに、表1に示す。
【0021】
(実施例2)酸素純度が99.8vol%の原料ガス(液体酸素から気化させたガス)を使用した。これ以外は、実施例1と同条件で、オゾン化ガスのオゾン濃度の時間的変化を、250時間経過まで、測定した。結果を図4に示す。又、この試験の条件を、単位ガス流量(原料ガスの流量)あたりの放電電力W/Q、及び単位面積あたりの放電電力W/Sとともに、表1に示す。
【0022】
(比較例1)原料ガスの流量(ガス流量Q)を、2.2L/min.に調節するとともに、放電電力Wを、440W(一定)になるよう制御して運転した。これ以外は、実施例1と同条件で、オゾン化ガスのオゾン濃度の時間的変化を、250時間経過まで、測定した。結果を図5,図6に示す。又、この試験の条件を、単位ガス流量(原料ガスの流量)あたりの放電電力W/Q、及び単位面積あたりの放電電力W/Sとともに、表1に示す。
【0023】
(比較例2)原料ガスの流量(ガス流量Q)を、3.35L/min.に調節するとともに、放電電力Wを、670W(一定)になるよう制御して運転した。これ以外は、実施例1と同条件で、オゾン化ガスのオゾン濃度の時間的変化を、250時間経過まで、測定した。結果を図5,図6に示す。又、この試験の条件を、単位ガス流量(原料ガスの流量)あたりの放電電力W/Q、及び単位面積あたりの放電電力W/Sとともに、表1に示す。
【0024】
(参考例1)比較例1と同じ条件で試験を行い(新品(未使用)のステンレス鋼からなる内部電極を使用)、オゾン化ガスのオゾン濃度の時間的変化を、4時間経過まで、測定した。この1回目の試験(運転)終了後、内部電極の表面についた金属酸化物(膜)を、電解研磨装置を用いて剥ぎ取り、金属母材面を露出させた上で、再度(2回目の)試験を行った。そして、これを5回目まで繰り返し行った。結果を図7に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
(考察)図4に示された結果より、相対的に酸素純度の低い原料ガス(液体酸素から得られるガス)を用いた実施例2では、実施例1よりも、オゾン濃度の減少が少なかった。又、実施例2では、実施例1と同じく、オゾン濃度が、最初に最大値をとり、その後に減少して最小値を取った後に、再度増加した。実施例1,2では、250時間経過後のオゾン濃度は、最大値に対して97%であり、オゾン濃度は、概ね最大値の値まで回復していることがわかる。
【0027】
図5に示された結果より、比較例1,2のオゾン濃度は、実施例1と比べ、オゾン濃度の減少が速かった。比較例1におけるオゾン濃度の最小値(4g/Nm)は、最大値(261g/Nm)に対して1.5%であった。比較例2におけるオゾン濃度の最小値(6g/Nm)は、最大値(268g/Nm)に対して2.2%であった。一方、実施例1では、オゾン濃度の最小値(104g/Nm)は、最大値(262g/Nm)に対して40%であり、比較例1,2の方が、実施例1より、遥かに低い値になった。比較例1,2におけるオゾンゼロ現象では、オゾン濃度が0(零)[g/Nm]付近まで低下したと思われる。
【0028】
図5に示された結果より、比較例1,2では、約40〜50時間で、オゾン濃度が回復し、それは、実施例1と同じ傾向だった。しかし、実施例1とは違い、比較例1,2では、オゾン濃度が、最大値と比べて、約45%しか回復しなかった。その後、比較例1,2のオゾン濃度は、増加と減少を繰り返した。比較例1,2は、多少の違いはあるが、オゾン濃度の挙動は良く似ている、といえる。
【0029】
図6に示された結果より、比較例1,2にように、放電電力密度(単位面積あたりの放電電力)が大きい場合には、放電電力密度が小さい実施例1と比較して、短時間の間に、オゾン濃度が減少することがわかる。図6に示されるように、運転開始直後から、オゾン濃度の時間的変化は、実施例1、比較例1,2において、3つとも違った曲線を描いたが、放電電力密度が大きいほど、速くオゾン濃度は減少した。これらの原因は、明らかではないが、ステンレス鋼(電極)の表面の変化が、オゾン生成に影響しているのではないかと推測される。
【0030】
図7に示された結果より、同一の電極を繰り返し使用すると、オゾン濃度の低下速度が速くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るオゾン発生装置の運転方法は、オゾン(オゾン発生装置)が利用される種々の産業分野において、利用することが出来る。特に、上水道、下水道、工業排水処理、パルプ漂白、半導体等の分野において、有効に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を主に含む原料ガスを用い、放電によって前記酸素からオゾンを発生させる、オゾン発生装置の運転方法であって、
酸素純度が99.8%以上の前記原料ガスのみを用い、前記放電にかかる放電電力密度を0.1W/cm以下にして、運転を継続させて、所定の濃度のオゾンを発生させるオゾン発生装置の運転方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−51776(P2012−51776A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197655(P2010−197655)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (刊行物等1) 発行者名 社団法人電気学会 刊行物名 平成22年 電気学会全国大会 講演論文集(CD−ROM) 公開のタイトル 「オゾナイザにおけるオゾン濃度の時間的変化」 該当ページ 第111ページ 発行年月日 平成22年3月5日 (刊行物等2) 発行者名 特定非営利活動法人日本オゾン協会 刊行物名 第19回 日本オゾン協会年次研究講演会 講演集 公開のタイトル 「高純度酸素を用いたオゾン発生装置の放電電力密度W/Sの影響」 該当ページ 第9〜12ページ 発行年月日 平成22年6月18日 (刊行物等3) 発行者名 特定非営利活動法人日本オゾン協会 刊行物名 第19回 日本オゾン協会年次研究講演会 講演集 公開のタイトル 「同軸円筒型オゾナイザのオゾン生成特性」 該当ページ 第19〜22ページ 発行年月日 平成22年6月18日
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)
【Fターム(参考)】