説明

オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙

【課題】オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性にバランスよく優れ、かつオフセット印刷によって画像を印刷した後に、皺等の欠陥を発生させることなくインクジェット印刷によって別の画像を鮮明性を損なわずに重ねて印刷することができるオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、基紙と、上記基紙上に積層され、顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層とを有する塗工紙であって、上記基紙が、内添サイズ剤及び/又は外添サイズ剤を含み、上記顔料塗工層に印刷適性向上剤が含有され、湿潤伸びが0.01%以上0.5%以下であり、動的液体浸透性が85%以上98%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
紙に画像を印刷する種々の方法において、多量の画像を高速に印刷する場合には一般にオフセット印刷が用いられる。オフセット印刷は、画像の鮮明性に優れ、多量の印刷に適しており、安価で高品質な印刷物が得られるため商業印刷において広く使用されている。一方で、可変情報を印刷する場合には一般にインクジェット印刷が用いられる。インクジェット印刷は、少量印刷時のランニングコストが低く、可変情報を取り扱い易いという特徴を有する。このようなオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙として、オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性の両方を兼ね備えた塗工紙が発案されている(特開2004−230777号公報等参照)。
【0003】
このオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、オフセット印刷またはインクジェット印刷のうちいずれかを選択して印刷したり、オフセット印刷の非画線部(印刷が施されない白紙部)にさらにインクジェット印刷を施す用途を想定している。例えば、折込チラシの公告情報をオフセット印刷し、欄外白紙部分に最寄店舗の地図をインクジェット印刷することで、顧客の居住地に応じてチラシ情報を変更するなどの用途である。
【0004】
しかしながら近年、例えばダイレクトメールや広告、カレンダー等において、塗工紙等にオフセット印刷によって画像(固定情報)を一律に印刷した上で、この塗工紙等にさらに顧客ごとに個別の画像、文字等の可変情報をインクジェット印刷によって重ねて印刷した印刷物が普及しつつある。このような用途においては、上述のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙では両印刷に対する適性がない。つまり、オフセット印刷によって転写したオフセットインキの上にインクジェット印刷によるインクジェットインクを重ねて付着させた場合についての考慮がなされておらず、このように2つの印刷を重ねて行った場合、鮮明な画像が得られず、かつ波打ち状の皺が生じ易いという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−230777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこれらの事情を鑑みてなされたものであり、オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性にバランスよく優れ、かつオフセット印刷によって画像を印刷した後に、皺等の欠陥を発生させることなくインクジェット印刷によって別の画像を鮮明性を損なわずに重ねて印刷することができるオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、オフセット印刷によって印刷した画像の上にインクジェット印刷を施した場合に、上述の不具合が生じる原因を鋭意検討した結果、以下の知見を得、本発明に至った。
【0008】
つまり、オフセット印刷によって印刷されたオフセットインキとこのオフセットインキが印刷されていない白紙部分とにまたがるようにインクジェットインクが付着した場合、親油性であるオフセットインキに付着したインクジェットインクは顔料塗工層に浸透しない一方で、白紙部分の顔料塗工層はインクジェットインクを吸収する。このため、オフセットインキ上に付着したインクジェットインクが白紙部分に流動してしまい、オフセットインキ上からインクジェットインクが取り除かれるため画像がぼやけて鮮明な画像が得られない。さらに、インクジェットインクが顔料塗工層を通過して基紙にまで浸透することによってパルプ繊維が膨潤し、この白紙部分に皺が発生する。特に、オフセット印刷においてはハーフトーン(網点)で色の濃淡を調整するため、オフセット印刷によるハーフトーン部(網点部)ではオフセットインキと白紙部分とが交互に存在する。そのため、このハーフトーン部にインクジェット印刷を行うと、画像の不鮮明性や皺等の欠陥の発生が特に顕著になり、印刷物の品質が低下する。
【0009】
そこで上記課題を解決するためになされた発明は、
基紙と、
上記基紙上に積層され、顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層と
を有する塗工紙であって、
上記基紙が、内添サイズ剤及び/又は外添サイズ剤を含み、
上記顔料塗工層に印刷適性向上剤が含有され、
湿潤伸びが0.01%以上0.5%以下であり、
動的液体浸透性が85%以上98%以下であることを特徴とするオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙である。
【0010】
この湿潤伸びとは、塗工紙を抄紙流れ方向60mm、幅方向300mmに裁断した測定用試料を水に浸漬し、温度23℃、相対湿度50%の条件下、WET STRETCH DYNAMICS ANALYZER(WSD[MUTEC社製])を用い、抄紙流れ方向に2Nの引張加重を加えた時、引張開始5秒後の測定用試料の抄紙流れ方向長さと試験前の抄紙流れ方向の長さとの差を試験前の抄紙流れ方向の長さで除したものである。
【0011】
また、上記動的液体浸透性とは、塗工紙を抄紙流れ方向50mm、幅方向75mmに裁断した測定用試料を、温度23℃、相対湿度50%の条件下、SURFACE AND SIZING TESTER(EST12[MUTEC社製])を用いて水に浸漬させた時の浸漬開始1秒後の超音波透過強度の測定値である。
【0012】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙によれば、基紙が、内添サイズ剤及び/又は外添サイズ剤を含み、顔料塗工層が印刷適性向上剤を含有することによって、基紙の吸水性を低くする一方、顔料塗工層に適度な吸水性を持たせ、かつ耐濡れ性を付与させることができる。そのため、顔料塗工層にインクジェット印刷適性を持たせるのみならず、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙において、オフセット印刷時に非印刷部に付着される湿し水が顔料塗工層に吸収されるものの基紙には吸収されないため、印刷部と非印刷部との間に乾燥段階における収縮率の差が生じることによって起こるヒジワの発生を防止することができる。加えて、インクジェットインクの顔料塗工層への吸液量を適度に調整できるため、インクジェットインクが基紙にまで到達しないよう調整することができる。また、耐濡れ性の向上によってインクジェットインクの初期吸収速度を遅らせ、オフセットインキ上でインクジェットインクを乾燥させるための時間を稼ぐことができるため、オフセット印刷された画像の上へインクジェットによって付着されたインクジェットインクが白紙部分に流動することを抑制することができる。その結果、塗工紙の波打ちを防止するとともに、オフセット印刷された画像の上へ重ねてインクジェット印刷を鮮明に行うことができ、高品質な印刷物を製造することができる。
【0013】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の湿潤伸びとしては、0.01%以上0.5%以下が好ましい。このように湿潤伸びを上記範囲とすることによって、吸水による伸びが小さくなるため、仮にインクジェットインクが基紙に吸収された場合でも波打ちを防止することができ、高品質な印刷物を製造することができる。
【0014】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の動的液体浸透性としては、85%以上98%以下が好ましい。このように動的液体浸透性を上記範囲とすることによって、湿し水及びインクジェットインクの吸収性(吸収量及び初期吸収速度)を適宜調整できるため、塗工紙の波打ちを防止するとともに、オフセット印刷された画像の上へ重ねてインクジェット印刷を鮮明に行うことができ、高品質な印刷物を製造することができる。
【0015】
上記顔料に対する上記印刷適性向上剤の含有比としては、0.1質量%以上1.0質量%以下が好ましい。このように顔料に対する上記印刷適性向上剤の含有比を上記範囲とすることによって、顔料塗工層をポーラス化することができ、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙のインクジェット印刷適性を向上できる。また、オフセット印刷時に非印刷部に付着される湿し水の吸収量を適度に調整し、さらに耐濡れ性の向上によってインクジェットインクの初期吸収速度を遅らせ、基紙にまで湿し水が浸透することを抑制できる。その結果、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、オフセット印刷の非印刷部における波打ちを防止しやすく、かつインクジェット印刷が鮮明になりやすく、高品質な印刷物を製造しやすい。
【0016】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の水分率としては、3質量%以上6質量%以下が好ましい。このように水分率を上記範囲とすることによって、印刷時の湿潤状態から乾燥状態に変化する段階での収縮率を低減することができ、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の収縮によって生じるヒジワの発生を防止することができる。この結果、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙によって、高品質な印刷物を製造することができる。
【0017】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、オフセット印刷によって画像を印刷し、さらにこの画像上にインクジェット印刷によって別の画像を重ねて印刷する用途に好適に使用される。当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙を用いることで、オフセット印刷に重ねてインクジェット印刷を行っても、皺等を生じさせることなく、鮮明な画像が得られるため、高品質な印刷物を製造することができる。
【0018】
なお、「印刷適性向上剤」とは、顔料等と反応して架橋構造を形成したりイオン的に結合したりして、顔料塗工層の吸水性及び耐濡れ性を向上させるために塗工紙に添加される添加剤を意味する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性にバランスよく優れ、かつオフセット印刷によって画像を印刷した後に、皺等の欠陥を発生させることなくインクジェット印刷によって別の画像を鮮明性を損なわずに重ねて印刷することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳説する。
【0021】
本発明のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、基紙と、基紙上に積層される顔料塗工層とを有し、基紙が、内添サイズ剤及び/又は外添サイズ剤を含み、顔料塗工層が印刷適性向上剤を含有し、湿潤伸びが0.01%以上0.5%以下であり、動的液体浸透性が85%以上98%以下であることを特徴とするものである。
【0022】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、基紙が、内添サイズ剤及び/又は外添サイズ剤を含むため、基紙の吸水性が低い。また、顔料塗工層が印刷適性向上剤を含有しているため、顔料塗工層が適度な吸水性と耐濡れ性を有する。そのため、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙に、オフセット印刷を施した時に非印刷部に付着される湿し水が顔料塗工層には吸収されるものの基紙には浸透せず、乾燥段階でヒジワが発生することを防止することができる。加えて、インクジェット印刷時に付着されるインクジェットインクが基紙に吸収されることを抑制することができる。その結果、塗工紙の波打ちを防止することができるとともに、オフセット印刷で転写されたオフセットインキ上に付着されたインクジェットインクの白紙部分への流動による印刷不良を防止することができ、鮮明な画像を得ることができる。
【0023】
また、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の湿潤伸びは、0.01%以上0.5%以下であり、好ましくは0.1%以上0.4%以下である。湿潤伸びが上記範囲内であることによって、湿し水やインクジェットインクが基紙に吸収された場合でも塗工紙の伸びが小さく、波打ちを防止することができる。当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の湿潤伸びが上記範囲未満であると、基紙の吸液性を低下させるためにサイズ剤や紙力向上剤を過剰に添加しなくてはならず、操業性が悪化して製造が困難となるおそれがある。逆に、湿潤伸びが上記範囲を超えると、湿し水やインクジェットインクが基紙に吸収された場合にパルプ繊維が膨潤して塗工紙が波打ち状になるおそれがある。なお、この湿潤伸びは、後述のサイズ剤及び印刷適性向上剤等の含有量によって調整することができる。
【0024】
さらに、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は動的液体浸透性が85%以上98%以下であり、好ましくは90%以上98%以下である。動的液体浸透性が上記範囲であることによって、湿し水及びインクジェットインクの吸収性(吸収量及び初期吸収速度)が適宜調整可能であり、塗工紙の波打ちを防止するとともに、オフセット印刷された画像の上へ重ねてインクジェット印刷を鮮明に行うことができ、高品質な印刷物を製造することができる。動的液体浸透性が上記範囲未満であると、吸水性が高くなりすぎてオフセット印刷においては湿し水を吸収しやすくなり、ヒジワやブリスターが発生し、また、インクジェット印刷の印刷適性が悪化する。逆に、動的液体浸透性が上記範囲を超えると、オフセット印刷においては湿し水を吸収しにくく、版汚れが発生してオフセット印刷適性が悪化し、また、インクジェットインクを吸収しにくくなるため画像の鮮明性が低下する。
【0025】
上記動的液体浸透性は、超音波透過強度の経時カーブから、表面のサイズ性や多孔性、ぬれ性と言った紙の特性を評価するものである。測定は次のように行う。水で満たした測定セル内に塗工紙を浸漬し、すぐに厚さ方向へ超音波信号を発射し、塗工紙を透過した信号の変化を測定する。超音波の透過性は次のとおり変化する。測定直後では紙表面が水に濡れるに従い、塗工紙と水との界面での超音波の反射が減少し、受信信号が増加する。その後、水が塗工紙に浸透するに従い、塗工紙内部に局所的に取り残された気泡によって超音波の散乱が発生し、受信信号が減少する。水が塗工紙に完全に浸透すると超音波の吸収が減少し、受信信号が増加する。この動的液体浸透性は、サイズ剤、印刷適性向上剤等の含有量によって調整することができる。
【0026】
以下、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の基紙及び顔料塗工層を構成する必須及び好適な具体的成分(原料パルプ、サイズ剤、顔料、接着剤等)及びこのオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の製造方法について説明する。
【0027】
<原料パルプ>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の基紙に用いられる原料パルプとしては、特に限定されるものではなく、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの機械パルプ;茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ又は離解・脱墨・漂白古紙パルプ;ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的又は機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを使用することができる。
【0028】
これらの原料パルプの中でも、基紙としての各種品質特性等をバランスよく効率的に達成するために、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)又は上白古紙、ケント古紙、茶古紙、クラフト封筒古紙から製造された古紙パルプが好ましい。なお、原料パルプを選択する場合には、古紙パルプを可能な限り多く配合することが、エネルギー原単位や環境に与える負荷の軽減から好ましい。
【0029】
<内添サイズ剤>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の基紙には、サイズ性を向上させるために内添サイズ剤が含有されることが好ましい。この内添サイズ剤としては、特に限定されるものではなく、ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤、スチレンアクリル系サイズ剤、各種エマルジョンサイズ剤等の公知の種々の内添サイズ剤を使用することができる。これらの中でも、印刷時の塗工紙の波打ちを防止する効果が高いアルキルケテンダイマーが特に好ましい。
【0030】
基紙に対する上記内添サイズ剤の含有率の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.02質量%がより好ましく、0.04質量%が特に好ましい。一方、内添サイズ剤の添加量の上限としては、1.0質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、0.3質量%が特に好ましい。内添サイズ剤の添加量が上記下限未満であると、湿し水やインクジェットインクを基紙が吸収し易くなって印刷時に波打ちやヒジワ、ブリスターが発生するおそれがある。逆に、内添サイズ剤の添加量が上記上限を超えると、抄紙工程において、サイズ剤内の油脂成分がドライヤー表面に付着して被膜することにより、基紙表面の光沢度及び平滑度が低下するおそれがある。また、抄紙工程内におけるスケール発生の原因となり、異物欠陥が発生するおそれがある。
【0031】
<外添サイズ剤>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の基紙の表面には、サイズ性を向上させるために外添サイズ剤が塗布されることが好ましい。この外添サイズ剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、アクリル酸エステル、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、アクリレート系重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、アルキルケテンダイマー、スチレン−アクリル系共重合体、アニオン系共重合体とカチオン系共重合体の複合材料、オレフィン−マレイン酸共重合体、澱粉等の公知の種々の外添サイズ剤を使用することができる。これらの中でも、印刷時の塗工紙の波打ちを防止する効果が高いオレフィン系重合体が特に好ましい。
【0032】
上記外添サイズ剤の塗工量の下限としては絶乾パルプに対して0.10質量%が好ましく、0.20質量%がより好ましい。一方、外添サイズ剤の塗工量の上限としては、1.0質量%が好ましく、0.50質量%がより好ましい。外添サイズ剤の塗工量が上記下限未満であると、湿し水やインクジェットインクを基紙が吸収し易くなって印刷時に波打ちやヒジワ、ブリスターが発生するおそれがある。逆に外添サイズ剤の塗工量が上記上限を超えると、顔料塗工層の接着性が低下して、均一に顔料塗工層が形成されず画像の鮮明性が低下するおそれがある。
【0033】
<填料>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の基紙には、上記原料パルプに、内添の填料として従来製紙用途で用いられている填料を添加することができる。この填料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレンラテックス、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。
【0034】
基紙に対する上記填料の含有率は特に限定されるものではないが、2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。填料の含有率が上記下限未満であると、毛羽立ちやラフニングが発生するおそれや、吸水性が高くなって印刷時に破断するおそれや皺等の欠陥が発生するおそれがある。逆に、填料の含有率が上記上限を超えると、パルプ繊維同士の結合が阻害されて剛度、引張強度、引裂強度等が低下するおそれがあり、オフセット印刷時の湿し水を吸収した際に破断するおそれがある。なお、填料の含有率は、JIS−P8251「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に準じて測定した灰分含有量から算出した値である。
【0035】
また、上記原料パルプには、本発明の効果を損なわない範囲で、サイズ剤及び填料以外で、従来製紙用途で用いられている各種のアニオン性、ノニオン性、カチオン性あるいは両性の歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤等の各種抄紙用内添助剤、染料、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等の抄紙用内添助剤を適宜添加することができる。
【0036】
<顔料塗工層>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙においては、基紙の一方又は双方の面に、顔料及び接着剤を含む塗工液を塗工して顔料塗工層が積層される。
【0037】
<顔料>
上記顔料塗工層に用いる顔料としては、従来製紙用途で用いられている無機顔料及び有機顔料を使用することができる。具体的には、例えば、クレー(カオリン、ろう石)、炭酸カルシウム、タルク、サチンホワイト、亜硫酸カルシウム、石膏、硫酸バリウム、ホワイトカーボン、焼成カオリン、構造化カオリン、珪藻土、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト、ポリスチレン系樹脂微粒子、尿素ホルマリン系樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質微粒子、シリカ複合無機粒子等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して配合することができる。これらの中でも、クレー及びシリカ複合無機粒子を顔料塗工層に含有させることが特に好ましい。
【0038】
上記クレーとしては、低塗工量であっても基紙を被覆しやすくオフセット印刷適性を向上させ易い板状クレーを用いることが好ましい。一方で、板状クレーを顔料塗工層に添加した場合、顔料塗工層表面の細孔が少なくなり、吸水性が低下するが、後述の印刷適性向上剤を顔料塗工層に添加することによって顔料塗工層がポーラス化され、インクジェット印刷に対する印刷適性を確保することができ、表面強度及びインクジェット印刷適性を両立させることができる。
【0039】
このような板状クレーとしては、粒子径分布で粒子径が0.2μm以上7.0μm以下の範囲に極大値を有するものが、被覆性が高く、かつ表面強度が高いため好ましい。粒子径が0.2μm未満であると、被覆性が低くなるほか、粒子が基紙内に沈み込み易くなって画像の鮮明性が低下する。逆に粒子径が7.0μmを超えると、顔料塗工層の表面粗さが大きくなって画像の鮮明性が低下する。さらに、被覆性の点から、板状クレーのアスペクト比(粒子の厚みに対する板直径の比)は5以上が好ましい。なお、上記の粒子径とは、顔料塗工層表面の顔料粒子を電子顕微鏡で撮影し、粒子の直径を測定して得られた粒子径を指す。
【0040】
上記シリカ複合無機粒子としては、シリカとシリカ以外の無機粒子とを複合させたものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリカ−炭酸カルシウム複合粒子、シリカ−二酸化チタン複合粒子、シリカと再生粒子とを複合させたシリカ複合再生粒子等を用いることができる。このシリカ複合再生粒子としては、製紙スラッジや脱墨フロスを脱水、乾燥、焼成、粉砕等して得られたカルシウム、シリカ、アルミナ等を主成分とする再生粒子にシリカを複合させたものを用いることができる。このシリカ複合無機粒子を顔料として顔料塗工層に添加した場合、塗工紙の表面強度が低下するが、上記クレーと併用することによって、表面強度を維持してオフセット印刷に対する印刷適性を確保することができる。
【0041】
上記シリカ複合無機粒子の平均粒子径としては、1.7μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上10μm以下がより好ましく、5μm以上8μm以下が特に好ましい。シリカ複合無機粒子の平均粒子径が上記下限未満であると、十分な不透明度向上効果が得られないおそれがある。逆に、シリカ複合無機粒子の平均粒子径が上記上限を超えると引張強度、引裂強度等が低下するおそれがある。
【0042】
<接着剤>
上記顔料塗工層に用いる接着剤としては、従来製紙用途で用いられている接着剤を使用することができる。具体的には、例えば、蛋白質類(カゼイン、大豆蛋白等)、ラテックス類(メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックス若しくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、これらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等)、合成樹脂系接着剤(ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等)、澱粉類(酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0043】
<印刷適性向上剤>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の顔料塗工層には、顔料塗工層をポーラス化してインクジェットインク吸収量を向上させ、かつ耐濡れ性を向上させインクジェットインクの初期吸収速度を遅らせるために、印刷適性向上剤が添加される。この印刷適性向上剤としては、具体的には、例えば、メラミン系樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド系樹脂、尿素系樹脂、尿素−ホルムアルデヒド系樹脂、ポリアミン系樹脂、ポリアミドポリ尿酸系樹脂、ポリアミドポリ尿素−ホルムアルデヒド系樹脂、ポリアミド−ホルムアルデヒド系樹脂、ポリアミド−エポキシ系樹脂、ポリアミドエピクロルヒドリン系樹脂、グリオギザール系樹脂、炭酸ジルコニウム、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリグリシジルエーテル、ケトンアルデヒド系樹脂、ジアルデヒド澱粉等を挙げることができる。これらの中でも、顔料塗工層を軟凝集させやすくインクジェットインク吸収量と耐濡れ性を向上させ、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の印刷適性を向上させることができるポリアミン系樹脂が特に好ましい。但し、印刷適性向上剤の顔料塗工層への含有量は後述する範囲にすることが望ましい。本発明で使用する印刷適性向上剤の成分は、耐水化剤として使用されているものであり、含有量を多くすると耐水性が発現してインクジェットインクの吸収性が悪化しやすく、にじみが発生するなどインクジェット印刷適性が低下する可能性がある。
【0044】
この印刷適性向上剤を顔料塗工層に添加することによって、顔料塗工層が軟凝集してインクジェット印刷適性が向上するものの、表面強度が低下しやすい。そのため、顔料として上記平板状クレー及び接着剤を用いることが、表面強度の低下を最小限に抑えやすいため好ましい。また、顔料としてクレーを含有する場合、平板状のためインクジェットインク吸収性に劣るためインクジェット印刷適性が得られにくいが、本発明のごとく印刷適性向上剤を含有させることにより、適切なインクジェットインク吸収性を得ることができる。すなわち、印刷適性向上剤と平板状クレーとを組み合わせて顔料塗工層に添加することによって、塗工紙の表面強度を維持しつつ、オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性を塗工紙に同時に付与することができる。特に、印刷適性向上剤としてポリアミン系樹脂を用い、かつ顔料として平板状クレーを併用すると、表面強度、オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性に特に優れた塗工紙を得ることができる。
【0045】
また、上記印刷適性向上剤の添加によって、顔料塗工層の空隙が大きくなるため、ブリスターの発生を防止することができる。さらに、塗工紙の水分の吸放出が行われやすくなり、シーズニング期間(オフセットインキが十分に定着し、インクジェット印刷に耐えられるようになるまでの期間)を短縮することができる。そのため、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は短納期を達成することができる。
【0046】
顔料塗工層に含有される顔料の100質量部に対する上記印刷適性向上剤の含有率の下限としては、0.1質量部が好ましく、0.2質量部がより好ましい。一方、印刷適性向上剤の含有率の上限としては、1.0質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましい。印刷適性向上剤の含有率が上記下限未満であると、顔料塗工層に十分なインクジェットインク吸収性を付与することができず、インクジェットインクのにじみが発生するおそれがあるだけでなく、湿し水の吸収性が低下して版汚れが発生し、オフセット印刷適性が低下する可能性がある。逆に、印刷適性向上剤の含有率が上記上限を超えると、顔料塗工層を形成する塗工剤の粘度が大きくなり、均一に塗工できず画像の鮮明性が低下するおそれや、凝集が生じて塗工面感が悪化するおそれがある。また、塗工工程内を汚染するおそれがある。
【0047】
また、基紙に対する片面あたりの塗工量の割合としては、固形分換算で5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。顔料塗工層の塗工量の割合が上記下限未満であると、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の印刷適性が低下するおそれがある。逆に、顔料塗工層の塗工量の割合が上記上限を超えると、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の不透明度、剛度、引張強度、引裂強度等が低下するおそれがある。
【0048】
<水分率>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の水分率としては、3質量%以上6質量%以下が好ましく、3質量%以上4.5質量%以下がさらに好ましい。当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の水分率が上記範囲未満であると、過乾燥気味となり充分な平滑性が得られないおそれがある。逆に、当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の水分率が上記範囲を超えると、オフセット印刷後の乾燥時にブリスターが発生しやすく、また、水分放出による塗工紙の収縮によって、ヒジワが発生するおそれがある。なお、ここで言う水分率とは、塗工紙を防湿紙で梱包して1週間以上室温にて放置し、開梱した後10分以内にJIS P 8127:1998「紙及び板紙−水分試験方法−乾燥器による方法」に準じて測定した水分率を意味する。
【0049】
<オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙の製造方法>
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、通常の製紙に用いられる抄紙方法によって製造することができる。この抄紙方法としては、特に限定されるものではなく、公知のワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、コーターパート、カレンダーパートを有する抄紙工程を用いることができる。
【0050】
上記ワイヤーパートで用いられるフォーマーとしては、例えば、長網フォーマー、長網フォーマーとオントップフォーマーとを組み合わせたもの、ツインワイヤーフォーマー等を用いることができる。これらの中でも、ヘッドボックスから噴出された紙料を2枚のワイヤーで挟み込んで両面から脱水するギャップフォーマーが特に好ましい。このギャップフォーマーを用いることによって、湿紙に表裏差が生じることを防止することができる。
【0051】
上記プレスパートに用いられるプレス機としては、例えば、ストレートスルー型、インバー型、リバース型等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、紙を保持しやすく断紙が生じにくいオープンドロー部を有さないストレートスルー型が特に好ましい。また、上記プレスパートに用いられる脱水方式としては、例えば、サクションロール方式、グルーブドプレス方式、シュープレス方式等を用いることができる。これらの中でも、脱水性及び平滑性を向上することができるシュープレス方式が特に好ましい。
【0052】
上記ドライヤーパートに用いられるドライヤーとしては、例えばシングルデッキドライヤー、ダブルデッキドライヤー等を用いることができる。これらの中でも、断紙が生じにくく乾燥の効率が高いオープンドロー部を有さないシングルデッキドライヤーが特に好ましい。
【0053】
上記コーターパートにおいて、基紙に表面サイズ剤を塗布する方法としては、例えば、フィルム転写型ロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーター、スプレーコーター等を使用する方法を挙げることができる。
【0054】
これらの中でも、均一な塗工が可能なフィルム転写型のロールコーターを用いることが好ましい。このフィルム転写型のロールコーターとしては、例えば、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター等を挙げることができる。
【0055】
上記カレンダーパートに用いられるカレンダーとしては、例えば、マシンカレンダー、ソフトカレンダー、マルチニップカレンダー等を用いることができる。これらの中でも、ニップごとに圧力を調整できるマルチニップカレンダーが特に好ましい。また、カレンダーは抄紙機及び塗工機と一体になったオンマシンタイプが好ましい。オンマシンタイプのカレンダーは、塗工後の紙面温度が高い状態で平坦化処理をすることができるため、平滑性を向上させやすい。そのため、紙厚の低下を最小限に抑えつつ、白紙光沢度及び印刷光沢度を向上させることができる。
【0056】
当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、オフセット印刷によって画像が印刷され、さらにこの画像上にインクジェット印刷によって別の画像が重ねて印刷される印刷用紙として好適に使用される。当該オフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙を用いることで、オフセット印刷に重ねてインクジェット印刷を行っても、皺等を生じさせることなく、鮮明な画像が得られるため、高品質な印刷物を製造することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
原料パルプとして、NBKPを20質量%、LBKPを80質量%で混合したものを用いた。この原料パルプのスラリーに、内添サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD、東邦化学工業株式会社製「FK34改」)を固形分で0.05質量%添加した。なお、NBKPのフリーネスは500ml、LBKPのフリーネスは400mlに調整した。
【0059】
この原料パルプスラリーを用いて、ギャップフォーマーを用いたワイヤーパート、オープンドローを有さないストレートスルー型プレス機を用いたプレスパート、シングルデッキドライヤーを用いたドライヤーパートを経て、坪量50g/mの基紙を製造した。
【0060】
次に、この基紙の両面に外添サイズ剤としてオレフィン系ポリマー(星光PMC株式会社製「SS2550」)を基紙の両面にフィルム転写形ロールコーターを用いて両面の合計で基紙に対して固形分換算で0.3質量%の量で塗工した。
【0061】
外添サイズ剤の塗工後、顔料としてHCクレー(HUBER社製「HYDRASPERSE」)と、凝集型炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製「ハイドロカーブ90」)とを、それぞれ顔料全体100質量部に対して50質量部ずつ混合し、この顔料100質量部に対して、接着剤としてスチレン−ブタジエンラテックス(日本エイアンドエル株式会社製「XY4」)を7質量部、澱粉(三晶株式会社製「コートマスターK96F」)を5質量部を混合し、さらに印刷適性向上剤としてポリアミン系樹脂(星光PMC株式会社製「RA6634」)を顔料に対し固形分で0.3質量%添加した塗工液を作成した。この塗工液を、基紙の両面にブレードコーターを用いて、基紙に対して両面の合計で固形分換算で20質量%となるように塗工し、顔料塗工層を形成した。
【0062】
塗工液の塗工後、マルチニップカレンダーを用いて平坦化処理を行い、実施例1のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙を得た。
【0063】
以上の抄紙工程を経て得た実施例1の塗工紙の湿潤伸び及び動的液体浸透性を上述のWSD及びESTを用いて計測した結果、湿潤伸びが0.1%、動的液体浸透性が98%であった。また、JIS−P8127に準拠して計測した水分率は4%であった。
【0064】
[実施例2〜24]
原料パルプ、顔料、接着剤の種類及び含有量は実施例1と同様とした。内添サイズ剤については、実施例2はロジン系(東邦化学工業株式会社製「E−3600」)を用い、実施例3はスチレン−アクリル系(東邦化学工業株式会社製「NS−555」)を用い、それ以外の実施例では上記実施例1と同様の内添サイズ剤を用いて、表1に示す添加量を原料パルプスラリーに含有させた。また、外添サイズ剤については、実施例8はスチレン系ポリマー(星光PMC株式会社製「SS2700」)を用い、実施例9はアクリレート系ポリマー(星光PMC株式会社製「SE2066」)を用い、それ以外の実施例では実施例1と同様の外添サイズ剤を用いて、実施例1と同様の方法で基紙に塗工した。さらに、印刷適性向上剤については、実施例14はポリアミドポリ尿酸系(田岡化学工業株式会社製「スミレーズレジン633」)を用い、実施例15は炭酸ジルコニウム系(クラリアントジャパン株式会社製「Cartabond MZI」)を用い、それ以外の実施例では上記実施例1と同様の印刷適性向上剤を用いて、塗工液に添加した。各実施例におけるサイズ剤及び印刷適性向上剤の添加量、並びに計測した湿潤伸び、動的液体浸透性、水分率は下記表1の通りである。
【0065】
[比較例1、2]
原料パルプ、顔料、接着剤の種類及び含有量は実施例1〜24と同様とした。比較例1は内添サイズ剤を原料パルプスラリーに含有させず、かつ外添サイズ剤を基紙に塗工しない点以外は実施例1と同様とした。比較例2は、印刷適性向上剤を塗工液に添加しない点以外は実施例1と同様とした。
【0066】
[品質評価]
実施例1〜24及び比較例1、2で得られた各塗工紙について、以下の各品質評価を行った。品質評価は、下記表1に示す。
【0067】
(1)波打ち
塗工紙にオフセット印刷による画像を印刷した上に、インクジェット印刷による画像を重ねて印刷し、塗工紙の波打ち(皺の発生)の程度を以下のとおり評価した。
(評価基準)
◎:塗工紙の表面に、皺が発生していない。
○:塗工紙の表面に、目視では確認できないが、ルーペで拡大すると微小な皺が確認できる。
△:塗工紙の表面に、目視で確認できる小さな皺がある。
×:塗工紙の表面に、目視で確認できる大きな皺があり、塗工紙全体が波打っており、実使用不可能。
【0068】
(2)ヒジワ
塗工紙にオフセット印刷による画像を印刷し、塗工紙のヒジワの発生程度を以下の基準で目視評価した。
(評価基準)
◎:塗工紙の表面に、ヒジワが発生していない。
○:塗工紙の表面に、ヒジワが若干発生し、見栄えが若干劣る。
△:塗工紙の表面に、ヒジワが多少発生し、見栄えが多少劣る。
×:塗工紙の表面に、ヒジワが発生し、見栄えが劣り、実使用不可能。
【0069】
(3)ブリスター
塗工紙にオフセット印刷による画像を印刷し、塗工紙のブリスターの発生程度を以下の基準で目視評価した。
(評価基準)
◎:塗工紙の表面に、ブリスターが発生していない。
○:塗工紙の表面に、ブリスターが若干発生し、見栄えが若干劣る。
△:塗工紙の表面に、ブリスターが多少発生し、見栄えが多少劣る。
×:塗工紙の表面に、ブリスターが発生し、見栄えが劣り、実使用不可能。
【0070】
(4)画像鮮明性
塗工紙にオフセット印刷による画像を印刷した上に、インクジェット印刷による画像を重ねて印刷し、以下のとおり評価した。
(評価基準)
◎:印刷にムラがなく、鮮明な印刷である。
○:印刷の重なる部分が僅かにぼやけており、画像鮮明性が僅かに劣る。
△:印刷の重なる部分がぼやけており、画像鮮明性が劣る。
×:印刷の重なる部分がかなりぼやけており、画像鮮明性が著しく劣る。
【0071】
(5)異物欠陥
塗工紙の異物混入程度を以下の基準で目視評価した。
(評価基準)
◎:塗工紙の表面に、異物の混入がない。
○:塗工紙の表面に、異物の混入が若干発生し、見栄えが若干劣る。
△:塗工紙の表面に、異物の混入が多少発生し、見栄えが多少劣る。
×:塗工紙の表面に、異物の混入が発生し、見栄えが劣り、実使用不可能。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果から示されるように、実施例1〜24の塗工紙は、波打ち、ヒジワ、ブリスターの発生を防止することができ、また画像鮮明性及び異物欠陥の程度も実使用範囲にある。一方で、内添サイズ剤を添加せず、かつ外添サイズ剤を塗工していない比較例1においては、波打ち、ヒジワ及びブリスターが著しく発生し、また、印刷適性向上剤を添加していない比較例2においては、ヒジワ及びブリスターが著しく発生し、画像鮮明性も著しく劣る。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙は、オフセット印刷適性及びインクジェット印刷適性にバランスよく優れ、かつオフセット印刷によって画像を印刷した後に、皺等の欠陥を発生させることなくインクジェット印刷によって別の画像を鮮明性を損なわずに重ねて印刷することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、
上記基紙上に積層され、顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層と
を有する塗工紙であって、
上記基紙が、内添サイズ剤及び/又は外添サイズ剤を含み、
上記顔料塗工層に印刷適性向上剤が含有され、
湿潤伸びが0.01%以上0.5%以下であり、
動的液体浸透性が85%以上98%以下であることを特徴とするオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙。
【請求項2】
上記顔料に対する上記印刷適性向上剤の含有比が0.1質量%以上1.0質量%以下である請求項1に記載のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙。
【請求項3】
水分率が3質量%以上6質量%以下である請求項1又は請求項2に記載のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙。
【請求項4】
オフセット印刷によって画像を印刷し、さらにこの画像上にインクジェット印刷によって別の画像を重ねて印刷する用途に用いられる請求項1、請求項2又は請求項3に記載のオフセット印刷及びインクジェット印刷兼用塗工紙。

【公開番号】特開2013−46985(P2013−46985A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186639(P2011−186639)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】