説明

オフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法

【課題】オフセット印刷機械で使用された汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去する。
【解決手段】汚れた湿し水を濾過してオフセット印刷機械に戻す湿し水循環系中において、印刷インキの顔料または(および)染料に対し湿し水より高い相溶性を有する固体有機物16を、汚れた湿し水に接触させることにより、汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料が湿し水から固体有機物16内部に移行して固体有機物16内部に溶解するようにし、これにより汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法に係り、特に印刷インキから湿し水中に溶け出した顔料または(および)染料を除去するオフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、オフセット印刷においては、インキが付く親油性の画線部と水が付く親水性の非画線部とを版の表面上に形成した上、インキを塗布する前に湿し水を版に塗布し、非画線部に湿し水を付着させ、インキを版に塗布したとき、画線部にのみインキが付着するようにして印刷を行っている。
【0003】
前記湿し水としては、種々の添加物を添加された大量の水が使用されるが、使用後の湿し水の中には紙粉、インキ、洗浄溶剤等が混入し、汚れている。このような使用後の汚れた湿し水は、湿し水循環系中において濾過装置で物理的に濾過された後、再びオフセット印刷機に供給されている。
【0004】
しかし、前記濾過装置により物理的に濾過して除去できる印刷インキは、湿し水に溶解しておらず、湿し水に不溶状態で存在するもののみである。汚れた湿し水の中には、該湿し水に溶解して来た顔料または(および)染料が存在しており、これにより湿し水は全体に着色状態になっている。このような湿し水に溶解している顔料または(および)染料は、濾過装置で物理的に濾過することによっては除去することができない。そして、前記着色状態がある限度を超えるようになると、湿し水から紙(被印刷体)に色が移り、印刷品質の低下をもたらしていた。
【0005】
したがって、湿し水全体を交換する必要が生じるが、その交換自体にコストが掛かるとともに、使用済みの湿し水の廃棄に環境問題が生じ、さらには湿し水交換中は印刷作業を行うことができないという問題があった。
【0006】
このため従来より、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を活性炭、ゼオライト等の吸着剤に吸着させて除去する試みがなされていた(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−296002号公報
【特許文献2】特開2000−351193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記のように吸着剤を使用すると、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を吸着して除去できたとしても、湿し水に添加されている有用な添加物まで吸着して除去してしまい、湿し水の機能が著しく低下し、印刷をうまく行えることができなくなるという致命的な問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、湿し水に添加されている有用な添加物は除去することなく、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去することができるオフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を低コストで除去することができるオフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるオフセット印刷機用の湿し水浄化装置は、
オフセット印刷機械で使用された汚れた湿し水を濾過して前記オフセット印刷機械に戻す湿し水循環系中に置かれるオフセット印刷機用の湿し水浄化装置であって、
除去すべき印刷インキの顔料または(および)染料に対し前記湿し水より高い相溶性を有する固体有機物を交換可能に保持するようになっており、前記固体有機物に前記汚れた湿し水を接触させることにより、前記汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料が前記湿し水から前記固体有機物内部に移行して前記固体有機物内部に溶解するようにし、これにより前記汚れた湿し水から該湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去するものである。
【0013】
また、本発明によるオフセット印刷機用の湿し水浄化方法は、
オフセット印刷機械で使用された汚れた湿し水を濾過して前記オフセット印刷機械に戻す湿し水循環系中において、
除去すべき印刷インキの顔料または(および)染料に対し前記湿し水より高い相溶性を有する固体有機物を、前記汚れた湿し水に接触させることにより、前記汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料が前記湿し水から前記固体有機物内部に移行して前記固体有機物内部に溶解するようにし、これにより前記汚れた湿し水から該湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去するものである。
【0014】
顔料は水に不溶と言われることもあるが、実際には顔料(特に有機顔料)の中には水に微量に溶解するものがある。また、湿し水中の溶剤等の添加物の作用により溶解することもあると考えられる。
【0015】
本発明においては、除去すべき印刷インキの顔料または(および)染料に対し湿し水より高い相溶性を有する固体有機物を、汚れた湿し水に接触させることにより、湿し水に溶解している顔料または(および)染料が前記湿し水から固体有機物内部に移行し、固体有機物内部に溶解するようにし、これにより汚れた湿し水から該湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去する。
【0016】
本発明においては、顔料または(および)染料は、前記固体有機物に接触すると、謂わば、湿し水中に存在しているより、固体有機物の中に存在する方が居心地がよいので、それまで溶解していた湿し水から固体有機物の方に移行して該固体有機物に溶解するのである。活性炭等の吸着剤が他の物質を吸着する原理や、従来の濾過装置がその濾材の構成する濾目に被濾過物を物理的に引っ掛けて補足する原理とは全く異なる原理によって、顔料または(および)染料が除去されることが注意されなければならない。
【0017】
そして、除去されるのは、湿し水より前記固体有機物の方に高い相溶性を有する物質のみであるので、湿し水中の有用な添加物は除去されないようにすることができる。
【0018】
また、前記固体有機物を湿し水に接触させるだけでよいので、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を低コストで除去することができる。
【0019】
なお、固体有機物内に溶解される顔料または(および)染料が飽和状態になれば、それ以上湿し水から顔料または(および)染料を除去できなくなるので、固体有機物を交換する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法は、
(イ)湿し水に添加されている有用な添加物は除去することなく、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去することができる、
(ロ)湿し水に溶解している顔料または(および)染料を低コストで除去することができる、
等の優れた効果を得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例におけるオフセット印刷機の平版へのインキおよび湿し水供給機構を示す概略側面図である。
【図2】前記実施例における湿し水循環系を示す系統図である。
【図3】前記実施例における濾過兼浄化装置のフィルタの箱状濾材を示す斜視図である。
【図4】前記実施例におけるフィルタ全体を示す断面図である。
【図5】前記実施例における濾過兼浄化装置全体を示す正面図である。
【図6】前記濾過兼浄化装置全体を示す側面図である。
【図7】前記濾過兼浄化装置におけるフィルタ容器を示す斜視図である。
【図8】前記濾過兼浄化装置における上段側のフィルタ収容部を示す側断面図である。
【図9】前記濾過兼浄化装置における下段側のフィルタ収容部を示す側断面図である。
【図10】前記濾過兼浄化装置における上段側のフィルタ収容部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における固体有機物としては、除去すべき印刷インキの顔料または(および)染料に対し湿し水より相溶性が高いものであれば、使用可能である。
【0023】
除去対象とする顔料または(および)染料の種類、および前記溶剤等の添加物の種類により、本発明において使用できる固体有機物は相違してくる可能性はあるが、一般的には、多くの顔料または(および)染料に対しポリウレタンが本発明における固体有機物として使用できる。ポリウレタンは、入手しやすく、安価であるという点においても、本発明における固体有機物として好適である。
【0024】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0025】
本実施例においては、オフセット印刷機の印刷インキとして下記のものを使用した。
【0026】
墨インキ:株式会社T&K TOKA製、スーパーテックプラス SOYA E100 墨、
黄インキ:株式会社T&K TOKA製、スーパーテックプラス SOYA E100 黄、
紅インキ:株式会社T&K TOKA製、スーパーテックプラス SOYA E100 紅、
藍インキ:株式会社T&K TOKA製、スーパーテックプラス SOYA E100 藍、
また、湿し水として水道水にH液(光陽化学工業株式会社製、SOLAIA KS−YS)を添加したものを使用した。これにより、湿し水には、クエン酸、アラビアゴム液等の水溶性樹脂、防腐剤、表面張力低下剤(非イオン系活性剤)、アルコール系溶剤、セロソルブ系溶剤等が添加されている。
【0027】
図1は本実施例におけるオフセット印刷機における平版へのインキおよび湿し水供給機構1を示しており、水舟(湿し水容器)2内の湿し水を、水元ローラー3、水受け渡しローラー4および水着けローラー5を介して、版胴6に取り付けられた平版7全面に付与し、親水性の高い非画線部のみに湿し水を微量に保持させる。しかる後に、インキ着けローラー8で平版7表面全面に油性のオフセットインキを付与すると、親油性ひいてはインキ受理性の高い画線部のみにインキが付着し、湿し水を保持している非画線部は油性のインキをはじき、非画線部にはインキは付着しない。
【0028】
このようにして、画線部と非画線部のうちの画線部のみに選択的にインキを付着させ、さらに平版7からブランケット(図示せず)を介して紙(被印刷体、図示せず)へとインキを転移させて、紙面上にインキによる画像を形成させる。
【0029】
したがって、オフセット印刷においてきれいな印刷を大量に行うには、湿し水の働きは非常に重要である。このため、湿し水には、平版7表面に均一にしっかりとした水の皮膜を形成し、油性のインキを反発するための種々の添加物質が混入されている。
【0030】
水着けローラー5は平版7に湿し水を付与する毎に平版7上の印刷インキに接触するので、水着けローラー5にはインキが付着する。このため、湿し水内には徐々にインキが混入して来る。
【0031】
また、オフセット印刷では、印刷機の排紙部においては、インキが乾かない状態で次々と印刷物が重なって行くため、印刷物紙面の裏にインキが付着しないようにする目的で、最終色の印刷が行われ、排紙される直前に印刷面全面に微粉末(パウダー)が一枚一枚にスプレー塗布されているが、空中に飛散したこのパウダーが湿し水の中に混入することがある。さらに、印刷途中で平版7表面をきれいにするために、溶剤系の版クリーナーをスポンジに含ませて平版7表面を拭くことが多くあり、またブランケットゴム胴に堆積した印刷インキを除去するためにブランケットゴム胴を溶剤系のブランケット洗浄剤で洗浄するが、これらクリーナーおよび洗浄剤が湿し水内に混入する機会も多い。加えるに、印刷用紙の裁断の切粉(紙粉)が空中に飛散し、湿し水に混入する。
【0032】
このように、湿し水は、使用するにつれて、油性のインキ、溶剤、油、紙粉パウダー等の種々の不純物が混入し、本来のその機能を阻害されて行く環境にある。
【0033】
図2は、本実施例における湿し水の循環系を示している。湿し水は、インキおよび湿し水供給機構1の水舟2−中間タンク9−一次処理装置10−濾過兼浄化装置11−湿し水貯蔵タンク12−水舟2の経路からなる湿し水循環系を循環するようになっている。これを順次説明すると、水舟2から送られて来た湿し水は中間タンク9で泡を除去された後、一次処理装置10により、粒径の大きい粒子状や比較的に大きな塊状になったインキ、油等(これらは湿し水に不溶状態で存在している)を除去する一次処理が行われる。このような一次処理装置10としては、例えば、特開2005−238448号に開示されている「オフセット印刷用湿し水浄化装置」を使用できる。
【0034】
粒径の大きい粒子状や比較的に大きな塊状になったインキおよび油を除去された湿し水は、一次処理装置10から濾過兼浄化装置11へ送られる。この濾過兼浄化装置11へ送られて来た湿し水中には、湿し水に溶解していない微細なインキ・油粒子、紙粉、パウダー等の微細な不純物が存在する他に、湿し水に溶解した状態で顔料または(および)染料が存在し、湿し水は顔料または(および)染料により全体に着色している。
【0035】
前記濾過兼浄化装置11は、本実施例において、以下に詳しく説明するように、湿し水を物理的に濾過して、湿し水に溶解していない微細なインキ・油粒子、紙粉、パウダー等の微細な不純物を除去する濾過装置として機能するとともに、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去する本発明の湿し水浄化装置としての機能をも果すものである。
【0036】
図3は、前記濾過兼浄化装置11に使用されるフィルタ13の箱状濾材14を示しており、ポリプロピレンまたはポリエチレン等からなる不織布を、ポリプロピレン等からなる糸(図示せず)を用いて、上方を開放された箱状に縫製してなる。
【0037】
図4は、本実施例におけるフィルタ13全体を示しており、このフィルタ13は網袋15内に詰められたポリマー濾材16を箱状濾材14内に収容してなる。前記ポリマー濾材16は、厚さ5mm程度のポリエーテル系軟質発泡ポリウレタンシート(株式会社イノアックコーポレーション製、商品名:カラーフォームECZ)を幅3mm程度の帯状ないしは紐状に裁断してなる。前記ポリマー濾材16は、後で詳しく説明するように、物理的な濾過を行う濾材としての機能を果たすと同時に本発明における固体有機物として機能するものである。ポリマー濾材16を詰められた網袋15は、複数箇所において結合具17により箱状濾材14に留められている。
【0038】
図5〜10は、濾過兼浄化装置11の具体的な構成を示している。濾過兼浄化装置11の基台18の下部には、ポンプ19が取り付けられている。このポンプ19は、一次処理装置10から排出される汚れた湿し水を、図5の矢印Aで示されるように吸引するようになっている。前記基台18の上部には、プラスチックからなるフィルタ容器20が上下方向に5個重ねて取り付けられている。
【0039】
各フィルタ容器20は各段のフィルタ収容部21をそれぞれ構成するユニットであり、すべて同一形状かつ同一の大きさとされている(ただし、一番下のフィルタ容器20のみ、後で詳しく説明する底部の排出口22の位置および個数が他のフィルタ容器20と異なっている)。図7は、前記フィルタ容器20および後で詳しく説明する開放部カバー23をそれぞれ1個のみ取り出して示したものである。同図によく示されるように、各フィルタ容器20は、基本的に箱状をなしていて、上方および上部前方を開放されている。各フィルタ容器20の左右両側の内壁面20a,20bのうちの前端付近の部分には、直線状のカバー挿入溝24がそれぞれ上下方向に設けられている。各フィルタ容器20の底部には、排出口22が設けられている。
【0040】
図5,6,8および10に示されるように、一番上のフィルタ容器20の上端には上部蓋材25が取り付けられており、この上部蓋材25は一番上のフィルタ容器20の上方開放部を閉じている。前記上部蓋材25に取り付けられた4路に分岐された管26の出口側は、図8および10に示されるように、一番上のフィルタ容器20内に侵入している。前記管26の入口側は、図5および6に示されるように、弁27を介してポンプ19の吐出口に接続されている。上から2〜5番目のフィルタ容器20は、上段側のフィルタ容器20の底部で下段側のフィルタ容器20の上部開放部が閉じられるようにして、重ねられている。このようにして上部蓋材25が一番上のフィルタ容器20に取り付けられるとともに、5個のフィルタ容器20が上下方向に重ねられることにより、上下方向に5段、フィルタ収容部21が形成されており、かつ各段のフィルタ収容部21に横方向(本実施例では、特に前方)に開放された横方向開放部28(図5,8,9参照)が形成されている。
【0041】
上から1〜4段目のフィルタ収容部21(上から1〜4番目のフィルタ容器20)の底部には、図8〜10に示されるように、それぞれ前記排出口22が4つずつ設けられており、上段側のフィルタ収容部21内の空間と下段側のフィルタ収容部21内の空間とを連続させている。これらの排出口22は、上段側のフィルタ収容部21から下段側のフィルタ収容部21へ水を導く流路を構成している。最下段のフィルタ収容部21(一番下のフィルタ容器20)の底部には、図9に示されるように、1つの排出口22のみが設けられており、この排出口22は管32を介して湿し水貯蔵タンク12に接続されている。各段のフィルタ収容部21の底部上には、多数の小孔29aを有していて水を通過させることができるフィルタ載置材29が載置されている。
【0042】
図8〜10に示されるように、各段のフィルタ収容部21内には、フィルタ載置材29上に載置された状態で、フィルタ13が2つずつ横に並べて収容されている。なお、管26の4路に分岐された出口および上から第1〜4段目のフィルタ収容部21に設けられた4つの排出口22は、それらの2つずつが各フィルタ13のポリマー濾材16上にそれぞれ位置するように配置されている。
【0043】
前記開放部カバー23は、図7によく示されるように、不透明なプラスチック製の下側板23aと、透明なプラスチック製の上側板23bとを有してなり、上側板23bは蝶番30により、下側板23aの上端に幅方向に延びる軸回りに回動可能に取り付けられている。前記下側板23aは、幅方向両端部をフィルタ容器20のカバー挿入溝24に抜き出し可能に挿入されるようになっている。前記上側板23bには、止め具31が取り付けられている。
【0044】
この濾過兼浄化装置11においては、印刷機で使用されて汚れた湿し水が図5の矢印Aのようにポンプ19で吸引され、該ポンプ19から吐出されて、弁27を介して上方に送られ、管26の出口から最上段のフィルタ収容部21内に図8および10の矢印のように自然落下する。そして、最上段のフィルタ収容部21内に収容されたフィルタ13のポリマー濾材16に接触しながら該ポリマー濾材16間を通過し、さらに箱状濾材14を通過して行く。これにより、湿し水は最上段のフィルタ収容部21内のポリマー濾材16および箱状濾材14により物理的に濾過されて、微細なインキ・油粒子(湿し水に溶解しておらず、フィルタ13のポリマー濾材16および箱状濾材14が構成する濾目より大きいもの)、紙粉、パウダー等の微細な不純物が除去される。
【0045】
また、同時に、ポリマー濾材16(固体有機物)はポリウレタンからなり、汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料に対し、湿し水より相溶性が高いので、湿し水に溶解している顔料または(および)染料がポリマー濾材16の方に移行して、ポリマー濾材16内部に溶解する。これにより汚れた湿し水から、該湿し水に溶解している顔料または(および)染料が除去される。
【0046】
最上段のフィルタ収容部21を通過した湿し水は、該フィルタ収容部21の底部の排出口22を経て、上から2段目のフィルタ収容部21内に自然落下する。そして、上から2段目のフィルタ収容部21内に収容されたフィルタ13のポリマー濾材16に接触しながら該ポリマー濾材16を通過し、さらに箱状濾材14を通過して行く。これにより、上から2段目のフィルタ収容部21内においても、前記最上段のフィルタ収容部21の場合と同様にして、湿し水は、ポリマー濾材16および箱状濾材14により物理的に濾過されて、微細なインキ・油粒子(湿し水に溶解しておらず、フィルタ13のポリマー濾材16および箱状濾材14が構成する濾目より大きいもの)、紙粉、パウダー等の微細な不純物を除去される。また、汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料がポリマー濾材16の方に移行して、ポリマー濾材16内部に溶解し、これにより汚れた湿し水から、該湿し水に溶解している顔料または(および)染料が除去される。
【0047】
以後、同様にして、使用後の湿し水が順次上段側のフィルタ収容部21から排出口22を経て下段側のフィルタ収容部21に図8〜10の矢印のように自然落下して、不溶状態の不純物の濾過および溶解している顔料または(および)染料のポリマー濾材16内への移行が行われる。
【0048】
最下段のフィルタ収容部21の底部の排出口22に達した濾過および浄化された湿し水は、管32を経て、図5の矢印Bのように、湿し水貯蔵タンク12に送られ、さらに湿し水貯蔵タンク12から水舟2に戻される。
【0049】
上記のようにして、湿し水に溶解している顔料または(および)染料がポリマー濾材16内部へ移行して除去されることにより、湿し水は着色状態から無色透明な水となって行く。
【0050】
本実施例では、湿し水に溶解しており、濾過によっては除去できない黄インキの次の化学構造式の顔料、
【0051】
【化1】

【0052】
紅インキの次の化学構造式の顔料、
【0053】
【化2】

【0054】
および藍インキの次の化学構造式の顔料、
【0055】
【化3】

【0056】
がポリマー濾材16内部に移行し、除去されるのが確認された。
【0057】
なお、黒色インキのカーボンからなる黒い顔料は粒子が大きく、かつ湿し水に完全に不溶であるので、フィルタ13のポリマー濾材16および箱状濾材14が構成する濾目に引っ掛かって物理的に濾過されることにより、汚れた湿し水から除去される。
【0058】
使用時間が経過するにつれ、フィルタ17は目詰まりしてきて濾過能力が低下する。また、ポリマー濾材16内部に溶解される顔料または(および)染料が飽和状態になれば、それ以上湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去できなくなる。本実施例では、次のようにして、ポリマー濾材16をフィルタ17全体とともに容易に新品に交換できる。すなわち、上側板23bを図8および9の一点鎖線位置で示されるように回動して、各段の横方向開放部28を開いた状態とすることにより、横方向開放部28を通して、フィルタ17の交換を非常に容易に行うことができる。
【0059】
また、従来一般的に用いられている糸巻き型フィルタ等のように濾過対象液に圧力を作用させてフィルタを通過させる形式の濾過装置では、濾材と濾過対象液の接触時間が短くなるので、本実施例のように濾材に固体有機物としての機能も兼ねさせる場合は、溶解している顔料または(および)染料の固体有機物への移行に不利となると考えられる。しかるに、本実施例においては、湿し水が加圧されることなく、自然落下式でフィルタ17を通過するようになっており、湿し水とポリマー濾材16(固体有機物)との接触時間を長くすることができるので、溶解している顔料または(および)染料のポリマー濾材16(固体有機物)への移行をより効果的に実現することができる。
【0060】
なお、前記実施例においては、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を吸収させる固体有機物として、シート状の発泡体ポリマーを帯状ないしは紐状に裁断して用いているが、本発明においては、必ずしも固体有機物はポリマーでなくてもよいし、発泡体でなくてもよいし、帯状ないしは紐状以外の形状にして用いてもよい。ただし、前記実施例のように固体有機物をシート状の発泡体ポリマーを帯状ないしは紐状に裁断したものとし、ポリマー濾材16として用いると、固体有機物に濾材としての機能も果たさせることができるとともに、固体有機物および濾材の取り扱いが容易になる。
【0061】
ただし、他方、本発明において、固体有機物を粒状として用いれば、固体有機物の単位重量当たりの表面積を増加させ、顔料または(および)染料の吸収能力を増大させることができる。
【0062】
また、前記実施例においては、湿し水に溶解している顔料または(および)染料を吸収させる固体有機物(ポリマー濾材16)に濾材としての機能も果たさせているが、本発明においては、前記固体有機物に濾材としての機能は果たさないようにさせてもよい。
【0063】
また、前記実施例においては、濾過兼浄化装置11内に固体有機物(ポリマー濾材16)を設け、濾過兼浄化装置11が物理的濾過機能と湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去する機能との両方の機能を果たすようにしているが、固体有機物を保持する湿し水浄化装置と濾過装置とを別個に設け、湿し水浄化装置は湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去する機能のみ、濾過装置は不溶状態の不純物を除去する物理的濾過機能のみをそれぞれ行うようにしてもよい。
【0064】
また、前記実施例においては、固体有機物を1種のみ用いているが、顔料または(および)染料の種類に応じて複数種類の固体有機物を同時に用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように本発明によるオフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法は、印刷インキから湿し水中に溶け出した顔料または(および)染料を除去するオフセット印刷機用の湿し水浄化装置および浄化方法として有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 インキおよび湿し水供給機構
2 水船
9 中間タンク
10 一次処理装置
11 濾過兼浄化装置
12 湿し水貯蔵タンク
13 フィルタ
16 ポリマー濾材(固体有機物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オフセット印刷機械で使用された汚れた湿し水を濾過して前記オフセット印刷機械に戻す湿し水循環系中に置かれるオフセット印刷機用の湿し水浄化装置であって、
除去すべき印刷インキの顔料または(および)染料に対し前記湿し水より高い相溶性を有する固体有機物を交換可能に保持するようになっており、前記固体有機物に前記汚れた湿し水を接触させることにより、前記汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料が前記湿し水から前記固体有機物内部に移行して前記固体有機物内部に溶解するようにし、これにより前記汚れた湿し水から該湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去するオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項2】
前記固体有機物はポリマーである請求項1記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項3】
前記ポリマーはポリウレタンである請求項2記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項4】
前記湿し水を物理的に濾過する濾過装置としての機能も兼ねており、前記固体有機物は前記湿し水を物理的に濾過する濾材としても機能する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項5】
前記湿し水を加圧することなく前記固体有機物間を通過させるようになっている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項6】
前記固体有機物は帯状ないしは紐状とされている請求項1乃至5のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項7】
前記固体有機物は粒状とされている請求項1乃至5のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化装置。
【請求項8】
オフセット印刷機械で使用された汚れた湿し水を濾過して前記オフセット印刷機械に戻す湿し水循環系中において、
除去すべき印刷インキの顔料または(および)染料に対し前記湿し水より高い相溶性を有する固体有機物を、前記汚れた湿し水に接触させることにより、前記汚れた湿し水に溶解している顔料または(および)染料が前記湿し水から前記固体有機物内部に移行して前記固体有機物内部に溶解するようにし、これにより前記汚れた湿し水から該湿し水に溶解している顔料または(および)染料を除去するオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。
【請求項9】
前記固体有機物はポリマーである請求項8記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。
【請求項10】
前記ポリマーはポリウレタンである請求項9記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。
【請求項11】
前記固体有機物は前記湿し水を物理的に濾過する濾材の機能を兼ねている請求項8乃至10のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。
【請求項12】
前記湿し水を加圧することなく前記固体有機物間を通過させる請求項8乃至11のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。
【請求項13】
前記固体有機物は帯状ないしは紐状とされている請求項8乃至12のいずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。
【請求項14】
前記固体有機物は粒状とされている請求項8乃至12いずれか1項に記載のオフセット印刷機用の湿し水浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−103420(P2013−103420A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249229(P2011−249229)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(501311502)ダアイシム工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】