説明

オフセット印刷装置を用いた印刷方法、及びオフセット印刷装置

【課題】十分な精度が出せるとともに、インキの厚みを出すことが出きるオフセット印刷装置を提供する。
【解決手段】凹凸パターンで形成された印刷版2の表面にインキを供給する。印刷版2の表面のインキを転移させ、転移させたインキを印刷対象物3の表面に転写するブランケット胴6と、ブランケット胴6を、印刷版2の表面に接した状態で所定の転移速度で転動させて、印刷版2の表面のインキをブランケット胴6の表面に転移させる。インキが転移されたブランケット胴6を、印刷対象物3の表面に押し当てた状態で所定の転写速度で転動させて、ブランケット胴6の表面のインキを印刷対象物3の表面に転写させる。印刷版2の表面のインキを前記ブランケット胴6の表面に転移させる際の転移速度と、ブランケット胴6の表面のインキを印刷対象物3の表面に転写させる際の転写速度を異なる速度に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種々の特性のインキを用いて、それぞれ最適な条件で印刷し得るように改良されたオフセット印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7に示したような従来のオフセット印刷装置100は、
版胴110の表面に、インキ供給装置120でインキを供給し、湿し水供給装置130で湿し水を供給した後、前記版胴110に接しながら回転するブランケット胴140の表面に、前記版胴110の表面のインキを転移させて、前記ブランケット胴140に接しながら相対的に移動する印刷対象物150の表面に、前記ブランケット胴140の表面のインキを転写させて固定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−231165号公報の図2、およびその説明
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のオフセット印刷装置では、版胴の表面に供給したインキを、ブランケット胴の表面に転移させて、ブランケット胴の表面のインキを、印刷対象物の表面に転写する方式であるため、導電性を備えたインキを用いる場合には、インキの厚みを出すことが困難であるという問題があった。
通常の紙等の印刷対象物に限らず、液晶表示パネルや微細な電子回路の製造にもオフセット印刷方式を採用することが可能であるが、そのためには、導電性を備えたインキを十分な厚みを持たせて印刷対象物の表面に印刷して形成する必要がある。
【0005】
また、導電性を備えたインキ等のように、従来のインキとは異なる物性のインキを用いる場合には、版胴からブランケット胴への転移に最適な速度でブランケット胴を回転させると、ブランケット胴のインキを印刷対象物に転写させるときの速度が不適切になり、逆に、ブランケット胴から印刷対象物への転写に最適な速度でブランケット胴を回転させると、版胴からブランケット胴へインキを転移させる速度が不適切になるというジレンマが発生するという問題がある。
これらの問題やジレンマを解決するためには、印刷版からブランケット胴への転移速度と、ブランケット胴から印刷対象物への転写速度を、それぞれ最適な速度、すなわち異なる速度に設定し得る構成とすることが必要である。
【0006】
このように、従来のオフセット印刷装置は、インキの厚みを出すことや、印刷版からブランケット胴への転移速度とブランケット胴から印刷対象物への転写速度を異なる速度に設定することはできないという問題があった。しかし、オフセット印刷方式は、スクリーン印刷方式等と比較して、細線等も十分な精度で印刷できるという長所を備えている。
【0007】
かかる事情に鑑みて、インキの厚みを出すことが困難であった従来のオフセット印刷装置を改良して、十分な精度が出せるとともに、インキの厚みを出すことが出き、さらに、印刷版からブランケット胴への転移速度とブランケット胴から印刷対象物への転写速度を異なる速度に設定することもできるような印刷装置を提供することを目的として本発明はなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る印刷方法においては、
表面に印刷パターンが凹凸パターンで形成された印刷版と、
前記印刷版の表面にインキを供給し、供給されたインキを前記印刷版の表面に均し、前記印刷版上の余分なインキを除去するように構成されたインキ供給手段と、
表面に前記印刷版の表面のインキを転移させ、また、転移させたインキを印刷対象物の表面に転写し得るブランケット胴と
を備えたオフセット印刷装置を用いた印刷方法において、
前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる際の転移速度と、前記ブランケット胴の表面のインキを前記印刷対象物の表面に転写させる際の転写速度を異なる速度とすることによって、インキの特性に応じて最適の転移速度と最適の転写速度で印刷することを特徴としている。
請求項2に係るオフセット印刷装置においては、
表面に印刷パターンが凹凸パターンで形成された印刷版と、
前記印刷版の表面にインキを供給し、供給されたインキを前記印刷版の表面に均し、前記印刷版上の余分なインキを除去するように構成されたインキ供給手段と、
表面に前記印刷版の表面のインキを転移させ、また、転移させたインキを印刷対象物の表面に転写し得るブランケット胴と、
前記ブランケット胴を、前記印刷版の表面に接した状態で所定の転移速度で転動させて、前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる転移手段と、
インキが転移された前記ブランケット胴を、印刷対象物の表面に押し当てた状態で所定の転写速度で転動させて、前記ブランケット胴の表面のインキを前記印刷対象物の表面に転写させる転写手段と、
前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる際の転移速度と、前記ブランケット胴の表面のインキを前記印刷対象物の表面に転写させる際の転写速度を異なる速度に設定し得る制御手段と
を備えたことを特徴としている。
前記オフセット印刷装置において、前記印刷版は、平板状の印刷版でも版胴でもよい。
また、印刷対象物は、平板状の切断された用紙やロール状の連続した用紙でもよく、紙に限らず、樹脂シート等のように種々の対象物でもよい。
また、前記インキ供給手段と前記ブランケット胴は、個別の駆動手段で駆動しても、共通の駆動手段で駆動して連動させてもよい。
請求項3のオフセット印刷装置では、
前記印刷版は、平板状の印刷版とし、
前記転移手段は、前記ブランケット胴を前記平板状の印刷版に接した状態で転動させるように構成されている。
請求項4のオフセット印刷装置では、
前記印刷対象物は、平板状の印刷定盤上に配設され、
前記転写手段は、前記ブランケット胴を前記印刷定盤上に印刷対象物に接した状態で転動させるように構成されている。
請求項5のオフセット印刷装置では、
前記インキ供給手段は、前記転移速度および前記転写速度と異なる速度で駆動されるように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るオフセット印刷装置を用いた印刷方法およびオフセット印刷装置によれば、印刷版の表面のインキをブランケット胴の表面に転移させる際の転移速度と、ブランケット胴の表面のインキを印刷対象物の表面に転写させる際の転写速度を異なる速度とすることによって、インキの特性に応じて最適の転移速度と最適の転写速度で印刷することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るオフセット印刷装置の構成を示した概略構成図である。
【図2】前記オフセット印刷装置を用いた印刷方法を説明する説明図である。
【図3】前記オフセット印刷装置を用いた印刷方法を説明する説明図である。
【図4】前記オフセット印刷装置を用いた印刷方法を説明する説明図である。
【図5】前記オフセット印刷装置を用いた印刷方法を説明する説明図である。
【図6】別の実施形態のオフセット印刷装置を用いた印刷方法を説明する説明図である。
【図7】一般的な従来例のオフセット印刷装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るオフセット印刷装置を実施するための形態を、図面を参照して説明する。
図1は、前記オフセット印刷装置の構成を示した概略構成図である。
【0012】
図1において、
10は前記オフセット印刷装置である。1は印刷装置の基台であり、その上面の一方には平板状の印刷版2が配設され、他方には印刷対象物3が定盤の上に配設されている。前記印刷版2の表面には、所定の印刷パターンが凹凸パターンで形成されている。
【0013】
4はインキ供給装置であり、
前記基台1の上方に配設されたインキ供給装置用の駆動機構5によって、下降して前記印刷版2と接した状態で、前記印刷版2の表面にインキを供給しつつ、図上、右から左へ所定のインキ供給速度(V3)で移動するインキ供給動作と、前記印刷版2の左端に到達した後に、インキの供給を停止した状態で上昇して、前記印刷版2から離れた状態で、図上左から右へ移動させて前記印刷版2の右端の基点まで復帰させるインキ供給装置復帰動作と、を繰り返すように駆動される。
インキ供給動作においては、インキ供給機41から吐出させたインキを、ヘラ状のスキージ42で均して印刷版の凹部に確実にインキを供給し、余分なインキはドクターブレード43で掻き取る動作も並行して行う。
【0014】
6は前記印刷版2の表面のインキを転移して、さらに前記印刷対象物3の表面に転写するブランケット胴である。
このブランケット胴6は、前記基台1の上方に配設されたブランケット胴用の駆動機構7によって、
前記ブランケット胴6の下端を前記印刷版2の右端に接する状態に下降させた状態(基点に復帰させた状態)から、前記印刷版2の上を所定の転移速度(V1)で転動させて、前記印刷版2の表面のインキを、前記ブランケット胴6の表面に転移させつつ、少なくとも前記印刷版2の右端から左端まで移動させる転移動作と、
前記ブランケット胴6の下端を前記印刷対象物3の右端に接した状態から、前記印刷対象物3の上を所定の転写速度(V2≠V1)転動させて、前記ブランケット胴6の表面のインキを前記印刷対象物3に転写しつつ、少なくとも前記印刷対象物3の右端から左端まで移動させる転写動作と、
前記印刷対象物3の左端に到達した後に、上昇して、前記印刷対象物3から離れた状態で、少なくとも前記印刷対象物3の左端から前記印刷版2の右端の前記基点まで移動させるブランケット胴復帰動作と、を繰り返すように駆動される。
【0015】
8は制御装置であり、前記転移速度(V1)と転写速度(V2)とインキ供給速度(V3)を、それぞれ所望の異なる速度に設定し得るように構成されている。したがって、前記インキの種々の特性や、インキとブランケット胴との相性、また、インキと印刷対象物との転写特性等に基づいて、適宜、最適の速度、すなわち、異なる速度にも設定できるように構成されている。なお、ここでいう転移速度、転写速度、および速度とは、前記ブランケット胴6の表面の周速度のことである。
以上の構成において、前記駆動機構7と前記制御手段8とによって、特許請求の範囲に記載された転移手段と転写手段とを構成している。
【0016】
上記構成のオフセット印刷装置の動作を以下に説明する。
図2は、前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる転移工程を説明する説明図である。
この転移工程では、
前記ブランケット胴6を、前記印刷版2の表面に接した状態で所定の転移速度(V1)で、右端の基点から前記ブランケット胴2の左端まで転動させて、前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる。この転移工程に先立って、後述するインキ供給工程で、前記ブランケット胴6には既にインキが供給されている。
【0017】
図3は、前記インキ供給装置4によって前記ブランケット胴2の表面にインキを供給するインキ供給工程を説明する説明図である。
このインキ供給工程では、インキ供給機41から吐出させたインキを、ヘラ状のスキージ42で均して印刷版2の凹部に確実にインキを供給し、余分なインキはドクターブレード43で掻き取る動作も並行して行う。
【0018】
図4は、前記ブランケット胴6の表面のインキを印刷対象物3の表面に転写させる転写工程を説明する説明図である。
この転写工程では、インキが転移された前記ブランケット胴6を、印刷対象物3の表面に押し当てた状態で所定の転写速度(V2)で転動させて、前記ブランケット胴6の表面のインキを前記印刷対象物3の表面に転写させる。この転写工程中に、前記インキ供給装置4は独自に右端に復帰してもよい。
【0019】
図5は、前記インキ供給装置4および前記ブランケット胴6を、前記転写工程から前記転移工程の状態に復帰させる復帰工程である。
この復帰工程では、前記インキ供給装置4および前記ブランケット胴6は、それぞれ独立して、もしくは連動して、前記印刷対象物3からも、前記印刷版2からも離れて浮いた状態で右端へ移動する。当然、インキ供給機41からのインキの吐出も停止させている。
この復帰工程中において、ブランケット胴6の表面をクリーニングして、次の転移工程に備える。
また、この復帰工程から次の転写工程までの間で、印刷対象物を入れ換える。
【0020】
以上のように、本発明に係るオフセット印刷装置によれば、転移工程と転写工程とを完全に分離したので、転移工程における前記転移速度(V1)と、前記転写工程における前記転写速度(V2)を異なる速度に設定することが可能となった。そのため、インキの特性に応じて最適の転移速度と最適の転写速度で印刷することが可能となり、種々の顔料インキや染料インキ、または導電性のインキなどの特殊な特性のインキであっても、その特性に応じて、最適の転移速度と転写速度に設定することができる。
また、インキ供給速度(V3)も、使用するインキの特性に応じて、前記転移速度(V1)とも前記転写速度(V2)とも異なる最適な速度にすることができる。
【0021】
なお、以上の説明では、印刷版を平板状の印刷版としたが、版胴の形態としてもよい。版胴を用いる場合には、図6の(A)、(B)に示したオフセット印刷装置10Bのように、ブランケット胴6Bと版胴2Bとは接した状態と、離れた状態の2つの状態に移動可能に構成する。
図6の(A)は、転移工程における位置状態を示した説明図であり、ブランケット胴6Bは版胴2Bと接した状態で共に同じ転移速度(V1)で回転し、版胴2Bのインキがブランケット胴6Bの表面に転移される。
図6の(B)は、転写工程における位置状態を示した説明図であり、ブランケット胴6Bは版胴2Bから離れた状態で、前記転移速度(V1)とは異なる所定の転写速度(V2)で回転して、ブランケット胴6Bの表面のインキが印刷対象物3Bに転写される。
図6に示したオフセット印刷装置10Bでは、
上述した様に、ブランケット胴6Bと版胴2Bとは離れた状態に移動可能に構成したので、転移工程における回転速度と、転写工程における回転速度を異なる速度に設定することが可能となり、使用するインキや印刷対象物の特性に応じて、それぞれ最適の速度に設定することができる。
【0022】
なお、図1においても、図6においても、印刷対象物は、平板状の印刷定盤上でなく、裏から圧胴で押圧されたシートでもよい。また、印刷版とインキ供給装置は、相対的に移動すればよく、何れの一方が移動してもよい。また、ブランケット胴と印刷対象物も、相対的に移動すればよく、何れの一方が移動してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 基台
2 印刷版
3 印刷対象物
4 インキ供給装置
41 インキ供給機
42 スキージ
43 ドクターブレード
5 駆動機構
6 ブランケット胴
7 駆動機構
8 制御装置
V1 転移速度
V2 転写速度
V3 インキ供給速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に印刷パターンが凹凸パターンで形成された印刷版と、
前記印刷版の表面にインキを供給し、供給されたインキを前記印刷版の表面に均し、前記印刷版上の余分なインキを除去するように構成されたインキ供給手段と、
表面に前記印刷版の表面のインキを転移させ、また、転移させたインキを印刷対象物の表面に転写し得るブランケット胴と
を備えたオフセット印刷装置を用いた印刷方法において、
前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる際の転移速度と、前記ブランケット胴の表面のインキを前記印刷対象物の表面に転写させる際の転写速度を異なる速度とすることによって、インキの特性に応じて最適の転移速度と最適の転写速度で印刷することを特徴とするオフセット印刷装置を用いた印刷方法。
【請求項2】
表面に印刷パターンが凹凸パターンで形成された印刷版と、
前記印刷版の表面にインキを供給し、供給されたインキを前記印刷版の表面に均し、前記印刷版上の余分なインキを除去するように構成されたインキ供給手段と、
表面に前記印刷版の表面のインキを転移させ、また、転移させたインキを印刷対象物の表面に転写し得るブランケット胴と、
前記ブランケット胴を、前記印刷版の表面に接した状態で所定の転移速度で転動させて、前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる転移手段と、
インキが転移された前記ブランケット胴を、印刷対象物の表面に押し当てた状態で所定の転写速度で転動させて、前記ブランケット胴の表面のインキを前記印刷対象物の表面に転写させる転写手段と、
前記印刷版の表面のインキを前記ブランケット胴の表面に転移させる際の転移速度と、前記ブランケット胴の表面のインキを前記印刷対象物の表面に転写させる際の転写速度を異なる速度に設定し得る制御手段と
を備えたことを特徴とするオフセット印刷装置。
【請求項3】
前記印刷版は、平板状の印刷版とし、
前記転移手段は、前記ブランケット胴を前記平板状の印刷版に接した状態で転動させるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のオフセット印刷装置。
【請求項4】
前記印刷対象物は、平板状の印刷定盤上に配設され、
前記転写手段は、前記ブランケット胴を前記印刷定盤上に印刷対象物に接した状態で転動させるように構成されていることを特徴とする請求項2または3の何れか1項に記載のオフセット印刷装置。
【請求項5】
前記インキ供給手段は、前記転移速度および前記転写速度と異なる速度で駆動されることを特徴とする請求項2、3、4の何れか1項に記載のオフセット印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−95109(P2013−95109A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242131(P2011−242131)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(592217037)
【出願人】(510121798)
【Fターム(参考)】