説明

オペアンプ

【課題】入力端子に接続される素子のオフセット電圧を補正することができるオペアンプを提供する。
【解決手段】入力端子を共通に接続したメインアンプとオフセット補正用アンプとを備えたオペアンプであって、メインアンプは、測定用の第1トランスコンダクタンスアンプとオフセット補正用の第2トランスコンダクタンスアンプと第2トランスコンダクタンスアンプの入力端子に接続された第1の容量とを備え、オフセット補正用アンプは、測定用の第3トランスコンダクタンスアンプとオフセット補正用の第4トランスコンダクタンスアンプと第4トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子に接続された第2の容量とを備え、オフセット補正用アンプは第4トランスコンダクタンスアンプの他方の入力端子にオフセット電圧調整回路を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペアンプに関し、より詳しくはオペアンプのオフセット電圧キャンセルに関する。
【背景技術】
【0002】
センサ素子などから発生する微小な電圧を計測する半導体装置には、微小電圧を増幅する目的でオペアンプが使用される。精度よく計測するためには、オペアンプの代表的な誤差要因であるオフセット電圧の影響を小さくする必要がある。オフセット電圧を小さくする技術として、オフセット電圧を自己補正する機能を備えたオフセット電圧キャンセル機能付きのオペアンプが発明されている。
【0003】
従来のオフセット電圧キャンセル機能付きのオペアンプは、メインのオペアンプと補正用のオペアンプを備え、メインのオペアンプのオフセット電圧を計測し補正することで、オフセット電圧の補正を実現させている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
図4は、従来のオフセット電圧キャンセルオペアンプの回路図である。非反転入力端子101及び反転入力端子102に接続されたメインアンプ117は、トランスコンダクタンスアンプ107及び108と、トランスインピーダンスアンプ113を備える。トランスコンダクタンスアンプ108は、非反転入力端子にコンデンサ111が接続されている。反転入力端子102及びスイッチ103を介して非反転入力端子101に接続された補正用アンプ118は、トランスコンダクタンスアンプ109及び110と、トランスインピーダンスアンプ114を備える。二つの入力端子の間にはスイッチ104が接続されている。トランスコンダクタンスアンプ110は、非反転入力端子にコンデンサ112が接続されている。トランスインピーダンスアンプ114の出力端子は、スイッチ115を介してコンデンサ111に接続され、スイッチ116を介してコンデンサ112に接続される。メインアンプ117は、入力端子にオフセット電圧105が存在する。補正用アンプ118は、入力端子にオフセット電圧106が存在する。
【0005】
スイッチ103及び115は、クロックΦ2モードのときに接続される。スイッチ104及び116は、クロックΦ1モードのときに接続される。クロックΦ1モードは、補正用アンプ118のオフセット電圧106を補正するモードである。クロックΦ2モードは、メインアンプ117のオフセット電圧105を補正するモードである。
【0006】
図4のオフセット電圧キャンセルオペアンプは、クロックΦ1モードとクロックΦ2モードを交互に行うことにより、補正用アンプ118によってメインアンプ117のオフセット電圧を補正する。
【0007】
次に、図4のオフセット電圧キャンセルオペアンプの動作を説明する。ここで、トランスコンダクタンスアンプのトランスコンダクタンスをgm、トランスインピーダンスアンプのトランスインピーダンスをRとする。
【0008】
クロックΦ1モードでは、補正用アンプのオフセット電圧106(Voff,n)の値を、トランスコンダクタンスアンプ109にて測定し、その情報をコンデンサ112へ保存する。
補正用アンプ118の出力端子120の出力電圧 (Vout,n)は、次式で示される。
【0009】
Vout,n = (Voff,n×gm3 − Vout,n×gm4)×Rn
= Voff,n×gm3×Rn/(1+gm4×Rn) ≒ Voff,n×gm3/gm4
よって、クロックΦ1モードでは、コンデンサ112へ Voff,n×gm3/gm4 の電圧が保存される。
【0010】
クロックΦ2モードでは、メインアンプ117のオフセット電圧105(Voff,m)の値を、補正用アンプ118にて測定し、その情報をコンデンサ111へ保存する。このときに、補正用アンプ118のオフセット電圧の値は、コンデンサ112に保存されている。非反転入力端子101に電圧(Vin)が入力され、反転入力端子102にはメインアンプ出力端子119から帰還率βでフィードバックされている場合、メインアンプ117の出力端子119の出力電圧(Vout,m)は、次式で示される。
【0011】
Vout,m =〔(Vin−β×Vout,m+Voff,m)×gm1+[ (Vin−β×Vout,m+Voff,n)×gm3−(Voff,n×gm3/gm4)×gm4 ]×Rn×gm2〕×Rm
= (gm1+gm2×gm3×Rn)×Rm×Vin/[1+β×Rm×(gm1+gm2×gm3×Rn) ]+(gm1×Rm×Voff,m) /[1+β×Rm×(gm1+gm2×gm3×Rn) ]
ここで、gm1=gm2=gm3=gm4=gmとすると、
Vout,m ≒ [ Vin+Voff,m/(gm×Rn) ]/β
となる。上式から、補正用アンプ118のオフセット電圧106(Voff,n)の影響はなくなり、メインアンプ117のオフセット電圧105(Voff,m)は1/(gm×Rn) となり、影響は非常に小さくなる。
【0012】
従って、従来のオフセット電圧キャンセルオペアンプは、自己のオフセット電圧をキャンセルすることが可能である。また、オフセット電圧は温度特性を持っているが、その温度特性も同様にキャンセルすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平3−117908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
オペアンプに接続されるセンサ素子は、個々のセンサ素子ごとに異なるオフセット電圧や、温度特性を有している。従って、測定精度を上るためには、センサ素子のオフセット電圧や温度特性をキャンセルしなければならない。
【0015】
しかしながら、従来のオフセット電圧キャンセルオペアンプは、自己のオフセット電圧や温度特性を減少することが可能であるが、センサ素子のオフセット電圧や温度特性をキャンセルすることが出来ない。
【0016】
本発明は、以上のような課題を解決するために考案されたものであり、センサ素子のオフセット電圧や温度特性をキャンセルすることが出来、測定精度のよいオフセット電圧キャンセルオペアンプを実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従来の課題を解決するために、本発明のオフセット電圧キャンセルオペアンプは以下のような構成とした。
【0018】
入力端子を共通に接続したメインアンプとオフセット補正用アンプとを備えたオペアンプであって、メインアンプは、測定用の第1トランスコンダクタンスアンプとオフセット補正用の第2トランスコンダクタンスアンプと第2トランスコンダクタンスアンプの入力端子に接続された第1の容量とを備え、オフセット補正用アンプは、測定用の第3トランスコンダクタンスアンプとオフセット補正用の第4トランスコンダクタンスアンプと第4トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子に接続された第2の容量とを備え、オフセット補正用アンプは第4トランスコンダクタンスアンプの他方の入力端子にオフセット電圧調整回路を備え、入力端子に接続される素子のオフセットを補正するオペアンプ。
【発明の効果】
【0019】
本発明のオフセット電圧キャンセルオペアンプによれば、接続されるセンサ素子のオフセット電圧や温度特性に合わせて、オフセット電圧をキャンセルすることが出来、測定精度のよいオフセット電圧キャンセルオペアンプを実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のオフセット電圧キャンセルオペアンプの回路図である。
【図2】図1のオフセット電圧キャンセルオペアンプのクロックΦ1モードを示す回路図である。
【図3】図1のオフセット電圧キャンセルオペアンプのクロックΦ2モードを示す回路図である。
【図4】従来のオフセット電圧キャンセルオペアンプを示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の添付の図面を参照して、本発明のオフセット電圧キャンセルオペアンプを説明する。
【0022】
図1は、本発明のオフセット電圧キャンセルオペアンプの回路図である。非反転入力端子101及び反転入力端子102に接続されたメインアンプ117は、トランスコンダクタンスアンプ107及び108と、トランスインピーダンスアンプ113を備える。トランスコンダクタンスアンプ108は、非反転入力端子にコンデンサ111が接続されている。反転入力端子102及びスイッチ103を介して非反転入力端子101に接続された補正用アンプ118は、トランスコンダクタンスアンプ109及び110と、トランスインピーダンスアンプ114を備える。二つの入力端子の間にはスイッチ104が接続されている。トランスコンダクタンスアンプ110は、非反転入力端子にオフセット電圧調整回路124が接続され、反転入力端子にコンデンサ112が接続されている。トランスインピーダンスアンプ114の出力端子は、スイッチ115を介してコンデンサ111に接続され、スイッチ116を介してコンデンサ112に接続される。メインアンプ117は、入力端子にオフセット電圧105が存在する。補正用アンプ118は、入力端子にオフセット電圧106が存在する。
【0023】
オフセット電圧調整回路124は、スイッチ121及び122と、電圧源123を備える。電圧源123は、スイッチ121を介してオフセット電圧調整回路124の出力端子に接続される。スイッチ122は、GNDと出力端子の間に接続される。従って、スイッチ121及び122を切替えることによって、トランスコンダクタンスアンプ110の非反転入力端子に、電圧源123の電圧かGNDの電圧が入力される。
【0024】
スイッチ103、115及び121は、クロックΦ2モードのときに接続される。スイッチ104、116及び122は、クロックΦ1モードのときに接続される。クロックΦ1モードは、補正用アンプ118のオフセット電圧106を補正するモードである。クロックΦ2モードは、メインアンプ117のオフセット電圧105を補正するモードである。
【0025】
図1のオフセット電圧キャンセルオペアンプは、クロックΦ1モードとクロックΦ2モードを交互に行うことにより、補正用アンプ118によってメインアンプ117のオフセット電圧を補正する。
【0026】
次に、図1のオフセット電圧キャンセルオペアンプの動作を説明する。ここで、トランスコンダクタンスアンプのトランスコンダクタンスをgm、トランスインピーダンスアンプのトランスインピーダンスをRとする。
【0027】
図2は、クロックΦ1モードを示す回路図である。クロックΦ1モードでは、補正用アンプのオフセット電圧106(Voff,n)の値を、トランスコンダクタンスアンプ109にて測定し、その情報をコンデンサ112へ保存する。
補正用アンプ118の出力端子120の出力電圧 (Vout,n)は、次式で示される。
【0028】
Vout,n = (Voff,n×gm3 − Vout,n×gm4)×Rn
= Voff,n×gm3×Rn/(1+gm4×Rn) ≒ Voff,n×gm3/gm4
よって、クロックΦ1モードでは、コンデンサ112へ Voff,n×gm3/gm4 の電圧が保存される。
【0029】
図3は、クロックΦ2モードを示す回路図である。クロックΦ2モードでは、メインアンプ117のオフセット電圧105(Voff,m)の値を、補正用アンプ118にて測定し、その情報をコンデンサ111へ保存する。このときに、補正用アンプ118のオフセット電圧の値は、コンデンサ112に保存されている。トランスコンダクタンスアンプ110の非反転入力端子には、電圧源123の電圧 (Vc)が接続される。
【0030】
非反転入力端子101に電圧(Vin)が入力され、反転入力端子102にはメインアンプ出力端子119から帰還率βでフィードバックされている場合、メインアンプ117の出力端子119の出力電圧(Vout,m)は、次式で示される。
【0031】
Vout,m =〔(Vin−β×Vout,m+Voff,m)×gm1+[ (Vin−β×Vout,m+Voff,n)×gm3−(Voff,n×gm3/gm4−Vc)×gm4 ]×Rn×gm2〕×Rm
= (gm1+gm2×gm3×Rn)×Rm×Vin/[1+β×Rm×(gm1+gm2×gm3×Rn) ]+(gm1×Rm×Voff,m+Vc×gm2×gm3×Rn) /[1+β×Rm×(gm1+gm2×gm3×Rn) ]
ここで、gm1=gm2=gm3=gm4=gm とすると、
Vout,m ≒ [ Vin+Voff,m/(gm×Rn)+Vc ]/β
となる。上式から、補正用アンプ118のオフセット電圧106 (Voff,n) の影響はなくなり、メインアンプ117のオフセット電圧105(Voff,m)の影響は非常に小さくなる。そして、電圧源123の電圧(Vc)がオフセット電圧に加算される。これにより、電圧源123の電圧(Vc)を変更することにより、オフセット電圧キャンセルオペアンプにオフセット電圧調整機能を付加することが可能となる。
【0032】
以上説明したように、電圧源123の電圧(Vc)を変えることにより、オフセット電圧の値を調整できるようになり、接続されるセンサ素子のオフセット電圧をキャンセルすることが可能となる。また、電圧源123の電圧(Vc)の温度特性を、接続されるセンサ素子の温度特性をキャンセルできるように設定すると、センサ素子の温度特性をキャンセルすることが可能となる。
【0033】
なお、図1では、トランスコンダクタンスアンプ110の非反転入力端子に電圧源123が接続されているが、反転入力端子に接続されているコンデンサ112においても同様な考え方をすることが可能である。クロックΦ2モードにおいて、コンデンサ112に電荷を出し入れして電圧を変更することによって、センサ素子のオフセット電圧及び温度特性をキャンセルすることが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
101 非反転入力端子
102 反転入力端子
105,106 オフセット電圧
107,108,109,110 トランスコンダクタンスアンプ
113,114 トランスインピーダンスアンプ
117 メインアンプ
118 補正用アンプ
123 電圧源
124 オフセット電圧調整回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子を共通に接続したメインアンプとオフセット補正用アンプとを備えたオペアンプであって、
前記メインアンプは、測定用の第1トランスコンダクタンスアンプと、オフセット補正用の第2トランスコンダクタンスアンプと、前記第2トランスコンダクタンスアンプの入力端子に接続された第1の容量と、を備え、
前記オフセット補正用アンプは、測定用の第3トランスコンダクタンスアンプと、オフセット補正用の第4トランスコンダクタンスアンプと、前記第4トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子に接続された第2の容量と、を備え、出力端子を前記第1の容量に接続してなり、
前記オフセット補正用アンプの前記第4トランスコンダクタンスアンプの他方の入力端子に、オフセット電圧調整回路を備え、前記入力端子に接続される素子のオフセットを補正することを特徴とするオペアンプ。
【請求項2】
前記オペアンプは、前記第3トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子と他方の入力端子の間に設けられた第1のスイッチと、前記第1トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子と前記第3トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子の間に設けられた第2のスイッチと、を備え、
前記オフセット補正用アンプは、前記出力端子と前記第2の容量の間に設けられた第3のスイッチと、前記出力端子と前記第1の容量の間に設けられた第4のスイッチと、を備え、
前記オフセット電圧調整回路は、電圧源と、GNDに接続された第5のスイッチと、前記電圧源に接続された第6のスイッチと、を備え、
前記第1のスイッチと前記第3のスイッチと前記第5のスイッチは同時に開閉し、前記第2のスイッチと前記第4のスイッチと前記第6のスイッチは同時に開閉することを特徴とする請求項1に記載のオペアンプ。
【請求項3】
入力端子を共通に接続したメインアンプとオフセット補正用アンプとを備えたオペアンプであって、
前記メインアンプは、測定用の第1トランスコンダクタンスアンプと、オフセット補正用の第2トランスコンダクタンスアンプと、前記第2トランスコンダクタンスアンプの入力端子に接続された第1の容量と、を備え、
前記オフセット補正用アンプは、測定用の第3トランスコンダクタンスアンプと、オフセット補正用の第4トランスコンダクタンスアンプと、前記第4トランスコンダクタンスアンプの一方の入力端子に接続された第2の容量と、を備え、出力端子を前記第1の容量に接続してなり、
前記第2の容量に接続されたオフセット電圧調整回路を備え、前記入力端子に接続される素子のオフセットを補正することを特徴とするオペアンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−71752(P2011−71752A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221233(P2009−221233)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】