説明

オメガ−3おおびオメガ−6脂肪酸を含有するグリセロリン脂質

【課題】改善された生物活性を有する脂質調製物の提供。
【解決手段】ホスファチジルセリン(PS)、特にエイコサペンタエノイル(EPA)基及び/又はドコサヘキサエン酸(DHA)基などの長鎖多不飽和脂肪酸(LC−PUFA)アシル基を含む脂質調製物が開示され、ここで、前述のPUFAは上述のグリセロリン脂質に共有結合されている。これらの調製物は改善された生物活性を有しており、例えばADHDなどの認知力および精神に関する様々な状態および障害の治療、ならびに脳が関連するシステムおよびプロセスの正常な機能の維持に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質骨格に共有結合により取り付けられたオメガ−3及び/又はオメガ−6脂肪酸を豊富に含んだリン脂質および極性脂質調製物に関係する。本発明のリン脂質調製物は、栄養補助食品、食品添加物、及び/又は様々な状態、特に認知機能に関係する様々な状態を治療するための薬剤として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
脂質、特に極性脂質、窒素含有脂質および炭水化物含有脂質(リン脂質、スフィンゴシン、糖脂質、セラミド、スフィンゴミエリン)は、細胞膜、組織などの主要な構築ブロックである。更に、これらの脂質は、情報伝達プロセス、ならびに様々な生化学的経路および生合成経路において重要な役割を果たしている。
【0003】
グリセロール骨格をベースとし、リン酸頭部基を含有する脂質であるグリセロリン脂質は、細胞膜の主要な構築ブロックである。すべてではないにしても、殆どの生化学的プロセスが細胞膜と関わり合っているため、種々の異なる組織における膜の構造的および物理的特性は、すべての生化学的プロセスにおける膜の正常で効率的な機能遂行にとって極めて重要である。
【0004】
食物脂質の領域における機能性食品カテゴリーの出現について考慮した場合、多くの健康上の利益は特定の脂肪酸を摂取することに起因するものと考えられている。例えば、多くの研究的試験において、タイプオメガ−3およびオメガ−6の多不飽和脂肪酸(PUFA)は心臓血管疾患、免疫障害および炎症、腎機能異常、アレルギー、糖尿病、ならびに癌に対して幾つかの健康上の利益を有していることが報告されている。これらのタイプの脂肪酸は主に魚および藻類で天然に生じ、そこでは、これらの脂肪酸は、トリグリセリドのグリセロール骨格におけるsn−1、sn−2およびsn−3位置にランダムに分配されている。
【0005】
専門的な文献は、オメガ−3脂肪酸を含有する適切な食事の重要性を強調している。脳内における最も重要なオメガ−3脂肪酸のうちの一つであるドコサヘキサエン酸(DHA)の重要性について調べた、広範囲にわたる臨床試験は、DHAレベルが低い状態が抑鬱症、記憶障害、認知症および視力障害と関わっていることを明らかにした。すべての試験は、血液中のDHAレベルが増大すると、高齢者の脳機能における劇的な改善が見られることを示した。
【0006】
DHAに関する他の既知の便益性は:不整脈が生じるリスクの低下、突然心臓死のリスクの低減、血漿中のトリグリセリドレベルの低下、および血液が凝固する傾向の低減;を含む。更に、DHAは、脳機能の増強、粉ミルクの強化、糖尿病患者および癌の分野においても重要性を有しているものと考えられる。脳におけるDHAの重要性について調べた栄養学的な研究は、DHAレベルが低い状態が抑鬱症、記憶障害、認識機能障害、認知症および視力障害と関わっていることを明らかにした。
【0007】
人体はDHAを充分に合成することができない。従って、DHAを食事から得ることが必要である。ヒトは、DHAを、最初は胎盤を通じて、次は母乳から、それ以降は魚、赤身の肉、動物の内臓肉および卵などの食物ソースを通じて食事から得る。マグロ、サケおよびイワシなどのポピュラーな魚が豊富なソースである。最近まで、DHA栄養補助食品の主要なソースは魚油であった。酵素がリノール酸およびアルファ−リノレン酸のオメガ−6およびオメガ−3ファミリーの生成物を産生する能力は加齢と共に減少する。DHA合成が加齢と共に減少するため、年を取るに連れ、食事または栄養補助食品からDHAを直接的に摂取する必要性が増大する。実際、近年の幾つかの出版物はDHAを必須脂肪酸と見なすべきであることを示唆している[例えば、Muskiet,F.らによる(2004年)J Nutr.134(1):183〜6]。
【0008】
DHAは脳、眼および神経系における情報伝達にとって重要であるため、精神的明瞭度を維持することに関心を有する多くの消費者は、DHAレベルを補うための純粋で安全な方法を探し求めている。
【0009】
多不飽和酸、特にオメガ−3および6などの長鎖の多不飽和酸は、人々に多くの価値ある健康上の利益をもたらすことが示されている。食品事業を含め、長鎖PUFAsに関する世界市場は急速に成長している。
【0010】
しかし、この産業における大多数の努力は、栄養補助食品および機能性食品のニーズに適応させるべく、PUFA加工技術の改善および一層高度に濃縮された等級のPUFA誘導体の創出に注がれている。
【0011】
学会および産業界は、PUFAのバイオアベイラビリティーおよび既知の様々な健康上の利益の観点におけるPUFAの効力を高めるためのPUFAの異なる送給手法の評価に関してはあまり関心を寄せていない。これらの健康上の利益は、CVD、糖尿病、認識力障害及び/又は認識衰退、視力障害、皮膚の状態、学習障害などの予防から治療までの範囲に及ぶ。更に、PUFAsは、乳児の認知力および視力の発達に役立つことが示されている。
【0012】
(PUFA−脂質)
PS−PUFA
PSとしても知られているホスファチジルセリンは生体機能性を備えた天然のリン脂質であり、この特徴がホスファチジルセリンを脳栄養の分野における最も有望な栄養補助食品のうちの一つに成している。PSおよびPSの健康上の利益については1970年代から科学界および栄養学界において知られている。様々な認知機能および精神的な機能におけるこの効力を立証するため、数多くの研究が実施されてきた。これらの研究は、ほんの僅かな例を挙げれば、PSが記憶力を改善し、認知症に抵抗し、初期のアルツハイマー病と闘い、ストレスおよび緊張を低減し、集中力の持続時間を改善し、気分を高め、鬱状態に抵抗することができることを示している。
【0013】
PSは脳における細胞膜の最も重要な構築ブロックのうちの一つである。従って、脳の細胞膜におけるPSのレベルがこれらの膜の流動性および構造を確かなものにする。正常なレベルは、正常で効率的な情報伝達プロセス、効率的なグルコース消費、ならびに正常な認知機能および精神的な機能をもたらす他の生物学的な経路を確保する。
【0014】
PSはヒトの栄養中に豊富に含まれていないため、また、多くの人々、特に高齢者においては、PS産生の責を担った生合成経路が正常に機能していないため、身体および脳におけるPSのレベルは低い。これは、抑鬱症、記憶障害、短い集中力持続時間、学習困難などの様々な認識力障害および精神的な障害をもたらす。
【0015】
このような障害を伴う高齢者の食事におけるPSの補給は、多くの場合、これらの障害の劇的な改善をもたらした。近年においては、もっと若い人々においてさえ、PSの食事による補給が有益であり得ることが複数の研究により示されている。PSは、学生の学習能力を改善し、記憶力および集中力持続時間などを改善することが示されている。
【0016】
従って、本発明の一つの目的は、主に栄養補助食品および機能性食品添加物として使用するためのPSの特殊な調製物を提供することである。
【0017】
PC−PUFA
前述の如く、リン脂質はすべての細胞膜およびオルガネラ膜の必須の構成成分である。ホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミンが量的に優位を占め、実質的に、典型的な二層立体配置を構成している。リン脂質は、水溶性成分および脂溶性成分を伴う両親媒性分子に属する。この二層立体配置において、親水基は、周囲の媒質に向けて、膜の外側および内側に配列されており;これとは対照的に、親油基は、この二層立体配置の内側で互いに面している。
【0018】
生物学的な膜の他の重要な構成物質はコレステロール、糖脂質、ならびに周辺タンパク質および内在性タンパク質である。従って、生物学的な膜の基本的な構造は、脂質−タンパク質複合体の一連の反復性単位体である。この膜は非対称性である。外部(細胞)および内部(オルガネラ)膜システムの機能は、これらの膜システムの組成およびこれらの膜システムにおけるリン脂質構造の完全性に依存する。細胞膜内におけるリン脂質の存在に加え、リン脂質は、リポタンパク質および界面活性剤の表面単層における構造的および機能的要素を構成している。
【0019】
生物学的な膜の機能にとってこの上ない重要性はこれらの膜の流動性であり、この流動性はリン脂質によって決定的な影響を受ける。このシステムにおけるコレステロールおよびタンパク質の含量、ならびにリン脂質の極性頭部基の性状および電荷のほかに、膜の流動性は、リン脂質分子における脂肪酸残基の連鎖の長さ、更には、これらの二重結合におけるペアリングの数とタイプに依存する。
【0020】
多不飽和脂肪酸を含有するリン脂質は、生物体に、膜の流動性を改善する重要な構築ブロックを供給する。
【0021】
PUFA含有リン脂質を用いて実施された研究は、以下のことを示している:
1.PUFA含有リン脂質は、細胞、血球、リポタンパク質および界面活性剤などのすべての生物学的な膜の高エネルギーの基本的な構造的および機能的要素である。
【0022】
2.PUFA含有リン脂質は、細胞の分化、増殖および再生にとって必要不可欠である。
【0023】
3.PUFA含有リン脂質は、多くの膜結合タンパク質および受容体の生物学的活性を維持し、促進する。
【0024】
4.PUFA含有リン脂質は、ナトリウム−カリウム−ATPアーゼ、アデニル酸シクラーゼおよびリポタンパク質リパーゼなどの、膜に所在する多数の酵素の活性および活性化にとって決定的な役割を果たす。
5.PUFA含有リン脂質は、膜を通じる分子の輸送にとって重要である。
【0025】
6.PUFA含有リン脂質は、細胞内腔および細胞間腔の間で生じる膜依存性の代謝プロセスを制御する。
【0026】
7.PUFA含有リン脂質に含有されているリノール酸などの多不飽和脂肪酸は、細胞保護作用を有するプロスタグランジンおよび他のエイコサノイドの前駆体である。
【0027】
8.コリンおよび脂肪酸供与体と同様に、PUFA含有リン脂質は特定の神経学的なプロセスに影響力を有している。
【0028】
9.PUFA含有リン脂質は、胃腸管内において脂肪を乳化する。
【0029】
10.PUFA含有リン脂質は、胆汁内における重要な乳化剤である。
【0030】
11.PUFA含有リン脂質は、赤血球および血小板の凝集を共同決定する。
【0031】
12.PUFA含有リン脂質は、細胞レベルでの免疫反応に影響を及ぼす。
【0032】
PUFA含有リン脂質は、理論上、膜構造物の損傷、リン脂質レベルの低減、及び/又は膜流動性の低下が存在するすべての疾患において重要である。この仮説は、膜が関係する様々な障害および病気についての実験的および臨床的な研究により支持されている。
【0033】
活性成分についての研究、更には薬理学的および臨床的な試験は、膜の損傷が関係した様々な障害および疾患に関して行うことができる。例を挙げれば、肝臓疾患の場合、肝細胞の構造物は、例えばウイルス、有機溶媒、アルコール、薬剤、薬物または高脂肪食によりダメージを受ける。その結果、膜の流動性および浸透性が妨げられ、また、膜依存性の代謝プロセス、更には膜に関係した酵素の活性が損なわれ得る。これは、肝臓の代謝をかなり阻害する。
【0034】
他の例は、アテローム性動脈硬化症を伴う、または伴わない高リポタンパク血症、血小板および赤血球の膜におけるコレステロール/リン脂質比の上昇を伴う血流動態学的な障害、神経学的な疾患、胃腸炎、腎臓疾患および様々な老化症状を含む。
【0035】
これらの非常に異なる疾患は、すべて、共通の似たような膜障害を有している。多不飽和ホスファチジルコリン分子を用いた場合、このような障害は、多不飽和脂肪酸の高い含有量により、好ましい方向の影響を受け、排除され、または正常な状態以上に改善されることさえあり得る。以下は、この現象を成立させるメカニズムの幾つかの例である:
1.PUFA含有ホスファチジルコリンが豊富なHDL粒子は、より多くのコレステロールを低密度リポタンパク質(LDL)および組織から取り上げることができる。より多くのコレステロールを肝臓に逆輸送することができる。コレステロールの逆輸送に関するこの作用は独特である。他のすべての脂質低下剤は、体内でのコレステロールの吸収を低減させるか、または肝臓におけるコレステロールの合成を低減し、周辺へのコレステロールの分配を少なくするかのいずれかである。しかし、これらの物質は、既に周辺に存在するコレステロールを生理学的に可動化させない。
【0036】
2.膜、血小板および赤血球におけるコレステロール/リン脂質比が低減し、膜の機能が正常な状態にまで改善される。
【0037】
3.過酸化反応が低減され、損傷を被った肝細胞の膜構造物が修復され、膜の流動性および機能が安定化され、免疫修飾および細胞の保護が改善され、膜に関係した肝臓の機能が増強される。
【0038】
4.コレステロール/リン脂質比の正常化に伴い、胆汁も安定化される。
【0039】
5.表面活性乳化剤としての特定の性質により、PUFA含有ホスファチジルコリンは脂肪を可溶化するため、脂肪塞栓症のリスクの低減および治療に使用される。
【0040】
6.多不飽和脂肪酸およびコリンでの置換は、脳における細胞保護効果を有しており、神経突起を活性化することができる。
【0041】
7.多不飽和ホスファチジルコリン分子を伴うリポソームは、ビタミンEなどの薬剤担体として作用することができる。
【0042】
(肝臓疾患)
実験的および臨床的な結果は、PUFA含有ホスファチジルコリンの治療学的な適用が、洞内皮細胞および肝細胞の生物学的な膜に及ぼす保護効果、更には治効および再生効果さえ有しているという仮説を支持している。PUFA含有ホスファチジルコリンの細胞保護効果は七例の生体外実験および五十五例の生体内実験において裏付けられており、そこでは、五種類の異なる動物種で二十種類の異なるモデルが使用された。殆どの場合、肝臓疾患の病因においてある役割を果たすことが知られている様々なタイプの中毒が適用された:化学物質、薬剤、アルコール、胆汁分泌停止、免疫学的現象、放射線への曝露など。
【0043】
PUFA含有ホスファチジルコリンの肝臓保護効果は立証されており、初期のPUFA含有ホスファチジルコリンが投与されたときの効果を一層顕著にしたものであった:
1.膜の構造物は正常であったか、または大幅に正常化された。
【0044】
2.脂肪浸潤および肝細胞の壊死を縮小することができ、または排除することさえできた。
【0045】
3.脂質過酸化、トランスアミナーゼおよびコリンエステラーゼ活性、ならびに血清脂質に関しても対応するデータが得られた。
【0046】
4.RNAおよびタンパク質合成の増大、ならびに肝細胞のグリコーゲン含量の増大は、肝細胞の刺激を指示した。
【0047】
5.コラーゲン産生、コラーゲン/DNA比、および肝臓のヒドロキシプロリン含量の低減は、結合組織の形成が低減されていることを指示した。
【0048】
PUFA含有ホスファチジルコリンの用量は、経口的に投与した場合には525mg/日から2,700mg/日までの範囲であり、静脈内投与の場合には500mg/日から3,000mg/日までの範囲であった。治療は、数週間から30ヶ月までの期間にわたって続けられた。主な肝臓適応症は急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、毒性肝臓損傷、肝硬変および肝性昏睡であった。
【0049】
PUFA含有ホスファチジルコリンの有効性を示す臨床的な知見は、概して以下のようにまとめることができる:
1.自覚的な病訴、臨床的な知見、および幾つかの生化学的な値の改善または正常化が加速された。
【0050】
2.対照グループに比べ、より良好な組織学的結果が得られた。
【0051】
3.入院期間が短縮された。
【0052】
腎臓障害、慢性的な外来腹膜透析、高リポタンパク血症/アテローム性動脈硬化症、胃腸炎、乾癬、およびそれ以外でも有望な結果が得られた。
【0053】
最近行われた幾つかの研究的試験は、ニジマスの胚から単離されたPUFA富化リン脂質が新規な健康上の利益を有していることを示している。これらのうちの幾つかの利益は腫瘍細胞の治療、5−リポキシゲナーゼ活性の阻害、中性脂肪レベル(コレステロールなど)の低減を含む。
【0054】
富化されたリン脂質を栄養学的に接種する人の場合、これらのリン脂質は、腸関門および血液−脳関門を通過し、このようにして脳に達することを示す証拠がある。最近、Ponroy Laboratoriesの研究者らがある実験について記載しており、そこでは、LC−PUFAの唯一のソースとして機能する必須脂肪酸、即ちリノール酸(18:2 n−6)およびα−リノレン酸(18:3 n−3)を欠くマウスに脳リン脂質が食事として与えられ、脳の各部分におけるリン脂質の量が測定された。これらのリン脂質は、細胞質、シナプス、および脳の他の部分で存在が認められた[Carrieら、(2000年)J.Lipid Res.41、465〜472]。
【0055】
PUFAが富化されたリン脂質の使用は、臨床的な観点から見た多くの潜在的な利点を有している。リン脂質は、脳などの特定の器官または身体部分へ必須脂肪酸を送給し、膜内におけるこれらの脂肪酸の取込みを助長することができる。他の利点は、PUFAが富化されたリン脂質は、現在の主要な栄養補助食品ソースである魚油で見られるような臭気の問題を伴わないという事実からもたらされ得る。更に、幾つかの予備的な臨床試験は、リン脂質に組み込まれたPUFAが、トリグリセリドにより担持されたPUFAよりも優れた効能を有していることを示している[Songら、(2001年)Atherosclerosis、155、9〜18]。
【0056】
更なる幾つかの研究は、自然発生的に高血圧のラットにおいて、富DHAリン脂質の活性が富DHAトリアシルグリセロールの活性とは異なっていたことを示している[Irukayama−Tomobeら、(2001年)Journal of Oleo Science、50(12)、945〜950]。これらの自然発生的に高血圧のラット(SHR)は、魚卵から抽出された30%−ドコサヘキサエン酸(DHA)リン脂質(DHA−PL)または30%−DHA魚油(DHA−TG)を含有する試験脂質食が六週間与えられた。対照食は、試験脂質の存在下においてトウモロコシ油を含んだ。食事後、DHA−TG食グループおよびDHA−PL食グループの血圧は、対照食グループに比べ、有意に低いことが判明した。DHA−PL食グループにおけるジホモ−リノール酸(DHLnA)およびアラキドン酸(AA)の血清中脂肪酸含量は、対照食グループまたはDHA−TG食グループよりも有意に少なかった。DHA−TG食グループおよびDHA−PL食グループにおける血清中のトリアシルグリセロール、リン脂質および総コレステロールは、対照食グループよりも有意に少なかった。DHA−PL食グループにおける肝臓の総コレステロールは、DHA−TG食グループおよび対照食グループの場合の二倍であった。従って、DH−PLによる血液からコレステロールを除去するためのメカニズムはDHA−TGによるメカニズムとは異なっているように思われた。DHA−TG食グループおよびDHA−PL食グループにおける血清中の過酸化脂質(LPO)は、対照食グループの場合と本質的に同じであった。
【0057】
多くのPUFA含有剤は、多不飽和脂肪酸の高度の酸化により、安定性および品質に関する問題を抱えている。これらの問題は、酸化防止剤の組込み、更には、この酸化を低減することを意図した特殊な手段の利用を必要とする。PUFAの担体としてのリン脂質の使用は、リン脂質の抗酸化特性により、このような製品の安定性を高める結果をもたらし得る。
【0058】
このような必須脂肪酸に対する最も効果的な輸送メカニズムのうちの一つは、リン脂質分子にこれらの基を付着させることであると思われる。リン脂質は、血液−脳関門を通過し、必要とされている場所にDHAを輸送することが示されている。
【0059】
(器官感覚受容性に関する懸念)
PUFAsは伝統的には冷水魚から抽出される。ヘルシーなイメージがあるにもかかわらず、消費者の受容性に関する一つの問題は、結果としてもたらされる強烈な魚臭い味覚であった。この問題を解決するため、この十五年間に、マイクロカプセル化された形態のオメガ−3が開拓された。更なるステップは、DHAが富化されたマヨネーズおよびパスタなどの玉子含有製品の開発であった。DHAが富化されたヨーグルト、焼いた食品およびブロイラーなども想定されていた。
【0060】
PUFA送給剤であると考えられる他の栄養製品または成分は存在しない。現在のすべての商業的製品は、カプセル化された形態における脂肪酸自体に基づくものであるか、または特殊な動物/作物飼料を通じてPUFAが富化された食品に基づくものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0061】
従って、本発明の一つの目的は、主に栄養補助食品および機能性食品添加物として使用するための、オメガ−3またはオメガ−6脂肪酸が富化された脂質調製物を提供することである。前述の調製物の組成は、その組成によりPUFAsのバイオアベイラビリティーが高められた特性を有する調製物がもたらされるような組成である。従って、好適には栄養補助食品、食品添加物または薬剤組成物の形態においてこの調製物を摂取すると、生物体は、以下で詳細に説明されているように、最も効率的な仕方で、前述の調製物によりもたらされる恩恵を享受することができる。
【0062】
本発明のこの目的および他の目的は、説明が進むに連れて明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0063】
第一の態様においては、本発明は、脂質調製物であって、前述の脂質がグリセロリン脂質およびグリセロリン脂質の塩、共役体および誘導体、ならびに前述のもののあらゆる混合物から選択され、また、上述の調製物における全脂肪酸含量のうちの少なくとも5%(w/w)、好適には10%(w/w)以上、より好適には20〜50%(w/w)の濃度における多不飽和脂肪酸(PUFA)アシル基、特に長鎖の多不飽和脂肪酸(LC−PUFA)アシル基、好適にはオメガ−3及び/又はオメガ−6アシル基であって、前述のPUFAが共有結合により上述の脂質に結合されている脂質調製物を提供する。
【0064】
前記の脂質は天然に生じる脂質であってよく、または合成脂質であってもよい。好適には、前記脂質は、グリセロール骨格におけるsn−1またはsn−2基のうちの少なくとも幾つかが前記多不飽和脂肪酸(PUFA)アシル基で置換されているグリセロリン脂質である。
【0065】
一つの特定の実施態様においては、前記脂質は、式I:
【化2】

【0066】
[式中、R’’はセリン(PS)、コリン(PC)、エタノールアミン(PE)、イノシトール(PI)、グリセロール(PG)および水素(ホスファチジン酸−PA)から選択される部分を表し、RおよびR’は、同じものであってよく、または異なるものであってもよく、RおよびR’が同時に水素を表すことができないという条件付きで、独立して水素またはアシル基を表し、ここで、前述のアシル基は飽和、単不飽和または多不飽和アシル基(PUFA)、特に長鎖の多不飽和脂肪酸(LC−PUFA)、より好適にはオメガ−3及び/又はオメガ−6アシル基から選択される]のグリセロリン脂質およびこのグリセロリン脂質の塩であり、ここで、前述の多不飽和アシル基は全脂質脂肪酸のうちの少なくとも5%(w/w)、好適には10%(w/w)以上、特に20〜50%(w/w)を構成する。
【0067】
上述の調製物におけるもう一つの特定の実施態様においては、Rは水素を表し、R’はアシル基を表す。代替的には、R’が水素を表し、Rがアシル基を表す。
【0068】
これらの後者の実施態様について考察すると、前記アシル基が好適にオメガ−3アシル基である場合、このアシル基はエイコサペンタエノイル(EPA)基、ドコサヘキサエノイル(DHA)基またはリノレン酸オメガ−3基であってよい。また、前記アシル基が好適にオメガ−6アシル基である場合、このアシル基はアラキドノイル(ARA)基またはリノール酸オメガ−6基であってよい。更なる可能性は、前記アシル基がリノレノイル(18:3)基であってよいことである。
【0069】
本発明の調製物における尚も更なる一つの実施態様においては、R’’はセリン、コリン、エタノールアミン、イノシトールまたはグリセロールのうちのいずれか一つであってよい。
【0070】
一つの更なる特定の実施態様においては、RおよびR’の素性および含量は予め決定されている。
【0071】
R’’がセリンである式Iの化合物を含む本発明の調製物は、ヒト脳PSの組成によく似ている。
【0072】
それにもかかわらず、本発明は、ヒト脳PSとは異なっているが、特にダイズ−PSと比べたときに、改善された生物活性を更に有する、R’’がセリンである式Iの化合物を含む調製物にも当てはまる。この改善された生物活性は、高齢者、特にアルツハイマー病の如きコリン作動性障害状態にある高齢者の学習記憶力および作業記憶力の両方に有益な効果をもたらす。
【0073】
また、本発明は、ダイズ−PSと比べて同様または改善された生物活性を有しながら、ダイズ−PSよりも少ない用量(2〜3倍)で有効な、ヒト脳PSによく似たPS調製物にも関係する。
【0074】
このPSは植物、動物または微生物ソースのものであってよく、R’’がセリン部分を表す式IのPSが富化される。
【0075】
本発明の調製物は、更に、魚に関係する器官感覚受容性の影響が低減されている、または影響がないことを特徴とする式IのPSがさらに富化されていてよい。このような調製物は、チョコレートを含有した食料品または乳製品をベースとした食料品(濃縮乳を含む)に組み入れるのに特に適している。
【0076】
本発明の調製物は、認知力および精神的な状態、ならびに様々な障害の改善および治療、更には脳が関係するシステムおよびプロセスの正常な機能の維持、好適にはADHD、老化、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、失語症、抑鬱症、学習能力、脳波の強さ、ストレス、不安症、精神的および精神病理学的な障害、集中力および注意力、気分、脳グルコースの利用率、一般的な認知力および精神に関する満足な状態、神経学的障害およびホルモン障害の改善および治療、更には維持に使用されてよい。
【0077】
本発明の調製物は、オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸のバイオアベイラビリティーを高めるのに特に有用である。
【0078】
本発明の調製物は、付加的な健康上の障害または状態の改善と共に認知機能および精神的な機能の組み合わされた改善において使用されてよい。このような付加的な健康上の障害または状態は、少なくとも高い血中コレステロールレベル、高いトリグリセリドレベル、高い血中フィブリノーゲンレベル、HDL/LDL比、糖尿病、代謝症候群、閉経期または閉経期後の状態、ホルモンが関係した障害、視力障害、炎症性障害、免疫障害、肝臓疾患、慢性肝炎、脂肪症、リン脂質欠損症、脂質過酸化、細胞再生の律動不整、細胞膜の不安定化、冠状動脈疾患、高血圧、癌、緊張亢進症、老化、腎臓疾患、皮膚疾患、浮腫、胃腸疾患、末梢血管系疾患、アレルギー、神経変性疾患および神経病理学的疾患であってよい。
【0079】
また、本発明の調製物は、アテローム性動脈硬化症、心臓血管障害及び/又は冠状動脈性心疾患をもたらす血清酸化ストレスの低減及び/又は予防にも用いることができる。
【0080】
本発明は、更に、本発明による脂質調製物を含む栄養補助食品組成物にも関係する。この栄養補助食品組成物は、軟質ゲルカプセル剤、錠剤、シロップ剤、またはあらゆる他の一般的な栄養補助食品送給システムの形態であってよい。
【0081】
尚も更に、本発明は、本発明の脂質調製物を含む機能性食料品にも関係する。このような機能性食料品は、乳製品、乳飲料、アイスクリーム、ベーカリー製品、菓子製品、ビスケット、ダイズ製品、ペストリーおよびパン、ソース、調味料、油脂、マーガリン、スプレッド、シリアル、飲み物およびミルクセーキ、油脂、特殊調製粉乳、乳児食(ビスケット、茹でて潰した野菜およびフルーツ、シリアル)、バー食品、スナック菓子、キャンディーおよびチョコレート製品から選択されてよい。
【0082】
尚も更なる一つの態様においては、本発明は、本発明の脂質調製物を含み、場合によって少なくとも一つの薬剤学的に許容可能な添加剤、希釈剤または賦形剤を更に含む、薬剤組成物に関係する。本発明の薬剤組成物は、場合によって少なくとも一つの薬剤学的に活性な物質を更に含んでよい。
【発明を実施するための形態】
【0083】
第一の態様においては、本発明は、脂質調製物であって、前記脂質がグリセロリン脂質、グリセロリン脂質の塩、共役体および誘導体、ならびに前述のもののあらゆる混合物であり、また、上述の調製物における全脂肪酸含量のうちの少なくとも5%(w/w)、好適には10%(w/w)以上、より好適には20〜50%(w/w)の濃度における多不飽和脂肪酸(PUFA)アシル基、特に長鎖の多不飽和脂肪酸(LC−PUFA)アシル基、好適にはオメガ−3及び/又はオメガ−6アシル基であって、前述のPUFAが共有結合により上述のグリセロリン脂質に結合されている脂質調製物を提供する。
【0084】
上述の脂質は天然に生じる脂質であってよく、または合成脂質であってもよい。好適には、前記脂質は、グリセロール骨格におけるsn−1またはsn−2基のうちの少なくとも幾つかが上述の多不飽和脂肪酸(PUFA)アシル基で置換されているグリセロリン脂質である。
【0085】
一つの特定の実施態様においては、前記脂質は、式I:
【化3】

【0086】
[式中、R’’はセリン(PS)、コリン(PC)、エタノールアミン(PE)、イノシトール(PI)、グリセロール(PG)および水素(ホスファチジン酸−PA)から選択される部分を表し、RおよびR’は、同じものであってよく、または異なるものであってもよく、RおよびR’が同時に水素を表すことができないという条件付きで、独立して水素またはアシル基を表し、ここで、前述のアシル基は飽和、単不飽和または多不飽和アシル基(PUFA)、特に長鎖の多不飽和脂肪酸(LC−PUFA)、より好適にはオメガ−3及び/又はオメガ−6アシル基から選択される]のグリセロリン脂質およびこのグリセロリン脂質の塩であり、ここで、前述の多不飽和アシル基は全脂質脂肪酸のうちの少なくとも5%(w/w)、好適には10%(w/w)以上、特に20〜50%(w/w)を構成する。
【0087】
前記調製物におけるもう一つの特定の実施態様においては、Rは水素を表し、R’はアシル基を表す。代替的には、R’が水素を表し、Rがアシル基を表す。
【0088】
これらの後者の実施態様について考察すると、前記アシル基が好適にオメガ−3アシル基である場合、このアシル基はエイコサペンタエノイル(EPA)基、ドコサヘキサエノイル(DHA)基またはリノレン酸オメガ−3基であってよい。また、前記アシル基が好適にオメガ−6アシル基である場合、このアシル基はアラキドノイル(ARA)基またはリノール酸オメガ−6基であってよい。更なる可能性は、前記アシル基がリノレノイル(18:3)基であってよいことである。
【0089】
本発明の調製物における尚も更なる一つの実施態様においては、R’’はセリン、コリン、エタノールアミン、イノシトールまたはグリセロールのうちのいずれか一つであってよい。
【0090】
一つの更なる特定の実施態様においては、RおよびR’の素性および含量は予め決定されている。
【0091】
R’’がセリンである式Iの化合物を含む本発明の調製物は、ヒト脳PSの組成によく似ている。
【0092】
それにもかかわらず、本発明は、ヒト脳PSとは異なっているが、特にダイズ−PSと比べたときに、改善された生物活性を更に有する、R’’がセリンである式Iの化合物を含む調製物にも当てはまる。
【0093】
伝統的に、栄養補助食品として使用されるPS活性成分は、動物の脳、特にウシ脳の抽出により製造されていた。ヒト脳PSと同様に、動物の脳組織から抽出されたPSは、植物リン脂質中において見られるオメガ−3のレベルに比べ、オメガ−3部分のレベルが比較的高いことにより特徴付けられる脂肪酸組成を有している。
【0094】
PSは、以下の構造を有している:
【化4】

【0095】
ヒト脳PSは、20〜30%以上のPSが、好適にはグリセロール部分のsn−2位置において、主にDHAまたはEPAのオメガ−3脂肪酸アシルを含有していることにより特徴付けられる。上で述べられているように、リン脂質、特にPSは、膜の構造および物理的な特性の責を担っている。リン脂質により決定される主要な物理的特性のうちの一つは、これらの膜の流動性である。オメガ−3脂肪酸、特にDHAおよびEPAは、これらが有する独特な3D構造を考慮に入れ、膜の流動性にとって極めて重要な役割も担っている。従って、オメガ−3脂肪酸アシル部分を伴うPS、特にDHAおよびEPAは、このリン脂質の基本的なリン脂質骨格のみからは派生し得ない独特な生体機能性を有している。
【0096】
プリオン病、特にウシ海綿状脳症(BSE)に罹患するリスク、更には、動物ソースから得られた成分が関係する他の欠点を考慮し、PSサプリメントは、通常、ダイズレシチン由来のPSを用いて調製される。このレシチンは普通には酵素的にPSが富化される。この製造方法は、オメガ−3脂肪酸が低レベルであり、殆どDHAおよびEPAを含んでいないことにより特徴付けられるダイズリン脂質の脂肪酸プロフィールを備えたPSをもたらす。このPS活性成分はダイズ−PSとしても知られている。
【0097】
認知機能の改善におけるダイズ−PSの生体機能性はウシ−PSの場合と同様であることが示されているが、やはり、ヒト脳PSとは異なっている。本発明の一つの目的は、ヒト脳PSの脂肪酸組成によく似た、予め決定された脂肪酸組成を有するPS成分を提供することである。
【0098】
本発明の更なる一つの目的は、天然に生じる脳PSとは同一でないものの、特にダイズ−PSと比較して、機能性が改善されていることにより特徴付けられるPS成分を提供することである。この改善されたPS成分は、予め決定された脂肪酸組成を有している。
【0099】
本発明のPS成分は、オメガ−3脂肪酸アシル、好適にはDHA、EPAまたはリノレン酸オメガ−3が富化されている。更に、本発明のPSは、このPS骨格におけるグリセロール部分のsn−1位置またはsn−2位置のいずれかもしくは両方に共有結合により結合されたオメガ−3脂肪酸アシルが富化されている。
【0100】
また、本発明は、リン脂質のグリセロール部分におけるsn−1位置またはsn−2位置のいずれかもしくは両方に共有結合により結合されているオメガ−3脂肪酸、好適にはDHA、EPAまたはリノレン酸が富化された、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジル−イノシトール(PI)、ホスファチジルグリセロール(PG)およびホスファチジン酸(PA)などの他のリン脂質にも関係し、これらのリン脂質についても開示する。代替的に、本発明のリン脂質はオメガ−6脂肪酸が富化されている。
【0101】
本開示におけるPSについて言及する場合、これらに限定するものではないが、上でリストアップされている極性脂質などのあらゆる他の脂質をも意味するものと解釈すべきである。
【0102】
一つの好適な実施態様においては、本発明のPS成分におけるオメガ−3脂肪酸(特にEPA、DHAもしくはリノレン酸)またはオメガ−6脂肪酸(特にARAおよびリノール酸)の量は、sn−1位置またはsn−2位置のいずれかもしくは両方において、好適にはsn−2位置において10%より多く、好適には20%以上、最も好適には約40%以上である。
【0103】
既に述べられているように、望ましいオメガ−3/オメガ−6脂肪酸アシルは、sn−1位置およびsn−2位置の両方または一方のみに結合されていてよい。
【0104】
本発明のPS調製物の脂肪酸組成は、特に植物PS、例えばダイズ−PSの活性に比べ、高められた活性を有していることを条件として、通常の健常なヒト脳において見られる脂肪酸組成と同様な、またはそのような脂肪酸組成とは異なる、予め定められた脂肪酸組成を有していてよい。
【0105】
本発明のオメガ−3/オメガ−6富化PS調製物の調製は、酵素的、化学的であってよく、または分子生物学的方法によるものであってよい。簡単に説明すると、本PSは、酵素的なプロセスにより、例えば酵素的なエステル交換/エステル化により天然のリン脂質/レシチンにオメガ−3脂肪酸を富化し、続いて、その頭部基を(PLD酵素を用いて)セリンに変換してPS−オメガ−3/オメガ−6共役体を得ることにより、オメガ−3またはオメガ−6部分を富化することができる。別の酵素的な経路は、オキアミリン脂質などのオメガ−3酸が天然に豊富なレシチンまたはリン脂質ソースを得、これらの頭部基をセリンに変換することである。この方法により得られるPSの脂肪酸組成は、選択するソース(魚、オキアミ、藻類など)によって予め決まったオメガ−3組成を有することに留意すべきである。このような方法は、IL158553からの優先権を主張した本出願人の同時係属PCT出願で詳しく説明されている。
【0106】
また、本発明のPS−オメガ−3/オメガ−6成分は、sn−1および2位置にオメガ−3またはオメガ−6アシル残基を付加する、化学的なエステル変換/エステル化法により調製することもできる。PS−オメガ−3およびPS−オメガ−6のこのような調製方法は、IL158553からの優先権を主張した本出願人の同時係属PCT出願に記載されている。
【0107】
代替的に、本発明のPS成分は、例えばリン脂質を産生する生物にオメガ−3またはオメガ−6脂肪酸を供給して、オメガ−3またはオメガ−6PSが富化されたリン脂質を得る、GMO(遺伝子組み換え生物)/バイオテクノロジー法により調製することができる。動物ソースの使用を避けるため、遺伝子工学の産物である植物または微生物を使用するのが好適であろう。
【0108】
本発明のPSは、ダイズ−PSに比べて高められたオメガ−3またはオメガ−6脂肪酸レベルを有するPS成分を得るべくPSを富化した、オメガ−3またはオメガ−6脂肪酸が比較的豊富な特定のレシチン原料のオメガ−3またはオメガ−6脂肪酸組成を有することができる。例えば、上で述べられている如く、オキアミから得られたリン脂質が開始材料として使用される場合がこのケースに相当する。
【0109】
一つの好適な実施態様においては、オメガ−3またはオメガ−6が富化されるPSはダイズ−PS、または植物、動物、例えばオキアミもしくは微生物ソースから得られるあらゆる他のPSであってよい。一つの更なる好適な実施態様においては、オメガ−3またはオメガ−6の富化をレシチンで実施し、次に、ホスファチジル変換によりPSを富化することができる。
【0110】
本発明の目的は、オメガ−3脂肪酸が富化され、結果として、天然、または単に富化されたPSを含有する成分に比べて改善された効力を有する成分をもたらす、新規なPS成分を提供することである。
【0111】
本発明の改善されたPS調製物は、認知力および精神的な状態、ならびに様々な障害の改善および治療、更には脳が関係するシステムおよびプロセスの正常な機能の維持において、高められた活性を呈する。これらの適応症および適応する状態は、これらに限定するものではないが、ADHD、多発性硬化症(MS)、失語症、抑鬱症、学習能力、脳波の強さ、ストレス、精神的および精神病理学的な障害、神経学的な障害、ホルモン障害、集中力および注意力、気分、脳グルコースの利用率、ならびに一般的な認知力および精神に関する満足な状態を含む。
【0112】
本発明の新規な脂質調製物は、以下で詳述されている如く、認知機能の改善において、オメガ−3もしくはオメガ−6脂質自体、またはダイズ−PSを上回る、高められた活性を呈する。更に、特定の条件下において、またはすべてのもしくは特定の障害に対して、本発明の脂質調製物は、100mg/日未満の用量で効果を発揮する。この用量は、ダイズ−PSにおける現行の推奨一日量(100〜300mg/日)または市場で現在入手可能なオメガ−3脂質(約1〜2g/日またはそれ以上)よりも少量である。それにもかかわらず、本発明における脂質調製物の高められた効力にとって、100〜600mg/日の用量が好適である。
【0113】
本発明におけるPS調製物の一つの重要な利点は、本調製物が多機能活性を呈することである。この多機能性は、他の健康上の障害または状態の改善と共に示される、認知力および精神的な機能における改善により明らかとなる。
【0114】
このPS成分の高められた活性、更には本成分の多機能性は、この成分の独特な構造、ならびに脳組織、更には他の器官および組織における細胞膜の物理的および化学的特性に及ぼすこの独特な構造の影響からもたらされるものと考えることができる。
【0115】
また、このPS成分の高められた活性、更には本成分の多機能性は、オメガ−3脂肪酸がPS骨格に組み込まれたことによる、オメガ−3脂肪酸の高められたバイオアベイラビリティーにも起因するものと考えられる。従って、血液−脳関門を通過してオメガ−3脂肪酸を脳へ送給することができ、これらのオメガ−3脂肪酸は、この関門を容易に通過する本PS分子の一部である。本PSは、様々な器官および組織に対する、このPSに結合された脂肪酸の送給プラットフォームとして機能し、これにより、これらの脂肪酸のバイオアベイラビリティーを高めることができる。
【0116】
本発明の多機能性PS調製物により影響を及ぼすことができる付加的な健康上の障害または状態は、これらに限定するものではないが、高い血中コレステロールレベル、高いトリグリセリドレベル、高い血中フィブリノーゲンレベル、HDL/LDL比、糖尿病、代謝症候群、閉経期または閉経期後の状態、ホルモンが関係した障害、視力障害、炎症性障害、免疫障害、肝臓疾患、慢性肝炎、脂肪症、リン脂質欠損症、脂質過酸化、細胞再生の律動不整、細胞膜の不安定化、冠状動脈疾患、高血圧、癌、緊張亢進症、老化、腎臓疾患、皮膚疾患、浮腫、胃腸疾患、末梢血管系疾患、アレルギー、気道疾患、神経変性疾患および神経病理学的疾患を含む。
【0117】
本発明の新規な成分は様々な製品において送給および利用することができる。このような製品は栄養補助食品、機能性食品、薬剤送給システムなどを含む。
【0118】
薬剤組成物の調製については当技術分野において広く知られており、また、多くの文献およびテキストにも記載されている(例えば、Gennaro,A.R.編集による(1990年)Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania)の特に1521〜1712頁を参照のこと)。
【0119】
栄養補助食品の場合、本発明の調製物は、軟質ゲルカプセル剤、錠剤、シロップ剤、および他の一般的な栄養補助食品送給システムの形態で使用することができる。
【0120】
機能性食品の場合、本発明の調製物は、乳製品、アイスクリーム、ビスケット、ダイズ製品、ペストリーおよびパン、ソース、調味料、油脂、マーガリン、スプレッド、シリアル、飲み物およびミルクセーキ、特殊調製粉乳、乳児食(ビスケット、茹でて潰した野菜およびフルーツ、シリアル)、バー食品、スナック菓子、キャンディー、チョコレート製品などの様々な食品に組み入れ、使用することができる。
【0121】
医薬品の場合、本発明の調製物は、経口的に、静注により、またはあらゆる他の通常のもしくは特殊な投与経路により送給することができる。
【0122】
本発明の新規な調製物は、流動性オイル、粉末、顆粒、ワックス、ペースト、オイルまたは水性乳濁液の形態、および目的とする用途における使用を可能に成すあらゆる他の形態であってよい。
【0123】
本発明のPS調製物を含む薬剤調合物または栄養補助食品調合物は、生理学的に許容可能な自由流動剤、他の添加物、賦形剤、乾燥剤および希釈剤、着色剤、芳香および風味成分、ならびに物理的特性、器官感覚受容特性および他の特性を調節するあらゆる成分、更には付加的な活性成分、例えばミネラル、ビタミン、他の栄養添加剤などを含んでよい。
【0124】
様々な用途におけるオメガ−3脂質の使用、特に機能性食品の成分としてのオメガ−3脂質の使用は、これらの脂質が有する特有の魚臭さにより妨げられている。従って、本発明のオメガ−3富化リン脂質成分の別の利点は、これらの成分が、PS骨格へのこれらの基の共有結合により、オメガ−3アシル部分の低減された臭気または風味を有していることである。これは、これらの材料の蒸気圧を増大させ、これにより、これらの材料が有するはっきりとした芳香を低減させる。従って、リン脂質骨格、特にPSへのオメガ−3脂肪酸の共有結合は、これらの材料の風味特性を変更および改善する。その上、本発明のPS成分は、酸化感受性オメガ−3脂肪酸に高められた安定性も提供する。一般的にリン脂質、特にPSは、酸化防止剤および安定剤として作用することが知られている。
【0125】
これらの利点が、本発明の脂質調製物を、様々な用途、特に安定性、芳香および風味が基本的な必要条件である機能性食品において高度に有益で重要なものに成している。
【0126】
更に、これらの新規な成分は、一層高められた生体機能性および効力を求めて、付加的な脂質と共に調合することもできる。
【0127】
PS−PUFA誘導体などのPUFAの極性脂質誘導体は、本発明の臨床試験において使用された調製物として、付加的には幾つかの食品用途において、高度の安定性を示した。これらの感受性化合物の安定性は、過去には保存剤として使用され、不安定なPUFA部分として知られていたリン脂質の共有結合による組合せから生じたものである。
【0128】
本発明の新規な成分は様々な製品において送給および使用することができる。このような製品は、栄養補助食品、機能性食品、薬剤送給システムなどを含む。
【0129】
本発明について開示および説明してきたが、本発明は、ここで開示されている特定の例、プロセスステップおよび材料に限定されるものではなく、このようなプロセスステップおよび材料が幾分変わり得ることを理解すべきである。また、ここで用いられている用語は特定の実施態様を説明する目的でのみ使用されており、限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求項およびそれらの同等物によってのみ限定されることも理解すべきである。
【0130】
この明細書および添付の特許請求項で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、内容がはっきりと別な具合に指示していない限り、複数形の指示対象も含むことに留意しなければならない。
【0131】
この明細書および以下の特許請求項全体を通じて、用語「comprise(含む)」、ならびに「comprises」および「comprising」などの派生語は、文脈が別な具合に要求していない限り、整数またはステップのうちの述べられている整数もしくはステップまたはグループを包含することを意味するが、整数またはステップのうちのあらゆる他の整数もしくはステップまたはグループを除外するものではないものと理解される。
【0132】
以下の実施例は、本発明の種々の態様を実施する際に発明者らが使用した技術の代表的な例である。これらの技術は本発明を実践するための好適な実施態様の典型例ではあるが、当業者であれば、本開示を考慮し、本発明の精神および意図的範囲から逸脱することなく、数多くの修飾を為し得ることが認識されるものと理解すべきである。
【実施例】
【0133】
実施例1
方法:
動物および食事
同一のコロニーに由来する雄のWistarラットをHarlenから入手した。五十匹のラットを、通常の食事に加え、栄養補助食品が与えられる五種類のグループにランダムに振り分けた:(i)0.1gの中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)/1mlのサプリメント基質が与えられるグループ(MCTグループ);(ii)0.1gのDHA/EPA(20/30%の全脂肪酸組成、30%(w/w)のLC−PUFA化合物を生成すべくMCTで希釈)トリグリセリド/1mlのサプリメント基質が与えられるグループ(LC−PUFAグループ);(iii)0.1gのダイズレシチン誘導PS(20%のSB−PSw/w)/1mlのサプリメント基質が与えられるグループ(SB−PSグループ);および(iv)0.1gのPS−ω3(20%のPSw/w、および30%の全LC−PUFA組成)/1mlのサプリメント基質が与えられるグループ(PSグループ)。サプリメント基質は−20℃で保存され、新鮮な部分がラットに毎日与えられた。すべてのサプリメントは脂肪酸の酸化を最小化するような仕方で取り扱われた。ラットは随意に食事と水を摂取した。すべてのラットが標準的な環境下において室内で飼われ、室内の温度は24±0.5℃に維持され、相対湿度は65±5%に保たれ、12時間間隔で明るい状態と暗い状態を繰り返した。治療期間の始めと終わりに体重を測定した。
【0134】
この試験で用いたPS−ω3化合物は、DHA含量(20%)に関して、哺乳動物の脳PSにおける脂肪酸組成によく似ている。一般的に、動物の細胞においては、PSの脂肪酸組成は組織毎に変動するが、生合成で特定の分子種を選択的に使用するためか、または脱アシル化−再アシル化反応による脂質の再構築のためかのいずれかにより、前駆体リン脂質に似ていないように思われる。ヒト血漿においては1−ステアロイル−2−オレオイルおよび1−ステアロイル−2−アラキドノイル種が優位を占めているが、脳および多くの他の関連組織においては1−ステアロイル−2−ドコサヘキサエノイル種が非常に豊富である[O’Brienら、(1964年)J Lipid Res.5(3):329〜38]。Yabuuchiらによる初期の研究[Yabuuchiら、(1968年)J Lipid Res.9(1):65〜7]は、ウシ灰白質におけるDHA含量が全脂肪酸組成のうちの30%までにも及ぶことを確証した;全DHA量のうちの殆どがsn−2位置に所在していた(60%)。ToffanoおよびBruniが、中枢神経系における年齢に関係した変化を妨げる薬理学的に活性な化合物であると1980年代の初期に報じたのは、ウシ脳PSであった[Toffanoら、(1980年)Pharmacol.Res.Commun.12:829〜845]。
【0135】
行動試験
Morrisにより開発された水迷路試験[Stewart,CA.およびMorris,RG.(1993年)The water maze.In:Behavioural Neuroscience:A Practical Approach.Vol.1(Saghal,A.編集)、pp.107〜122、Oxford University Press、New York、NY.]は、不透明な白色のプラスチックで作られた円形のタンク(直径137cm、深さ35cm)を使用する。28cmの深さにまでタンクに水(21〜22℃)が満たされ、可溶性で無毒の白色ラテックス塗料を加えることにより、水が不透明に成される。場所バージョンの迷路においては、ラットは、迷路外手がかりの空間マップを開発し、この後、この空間マップを用いてプラットフォームの場所を探り当てる。従って、ラットがプラットフォームの位置を学習しているときには、プラットフォームに到達するまでに泳いだ距離およびプラットフォームに到達するまでに要した時間は、試験セッション(日数)を重ねるに連れて短縮されるはずである。更に、ラットが迷路外手がかりとの関係においてプラットフォームの位置を学習している場合には、この探索試行での最初の応答は、ラットがプラットフォームを見つけられるものと期待した四分円へ向けて直接的に泳ぐことであると期待される。従って、標的四分円内で泳いだ距離(および要した時間)は他の二つの四分円(スタート位置の四分円は除外する)内での場合よりも大きいはずである。ビデオをベースとした追跡システムを用いて、プラットフォームに到達するまで泳いだ距離、更にはプラットフォームに到達するまでのレイテンシーをモニタリングした。この行動試験は、ラットが、通常、最も活動的な時である暗サイクル中に実施された。
【0136】
このプールは、迷路外の多くの空間的な手がかりが存在する試験室内に位置付けられた。最初の三日間、ラットは、水面下1cmの位置に置かれた、隠れているプラットフォーム(15.5cm×15.5cm)の位置を探し当てることを求められた。一日につき二回の習得試験セッションがあり、一回のセッションにつき四回の試行が行われた。各試行で、ラットは、タンク内における四つの四分円のうちの一つに壁に面して置かれ、最大で60秒間泳ぐことを許された。ラットが一旦プラットフォームを見つけ出すと、ラットを5秒間プラットフォームに留めた後、加温パッドで温かく保たれている収容ケージへ戻した。このときにラットがプラットフォームを見つけ出すのに失敗した場合には、ラットをプラットフォーム上に5秒間置いた後、収容ケージへ戻した。毎日行われた八回の各試行は、疑似ランダム的(同じ四分円から二回行わない)に決定され、且つ、日ごとに変わる順番で、異なる四分円から開始された。各試行間の間隔(ITI)は、一つの試行の終了時点から次の試行の開始時点までを計時し、120秒であった。四日目、上で述べられている通りのセッションの後に、タンクからプラットフォームが取り除かれ、ラットをプラットフォームの四分円とは反対側の四分円に置いた後、ラットを60秒間泳がせることにより、探索試行を実施した。この探索試行の翌日、ラットは、前に説明されている通りに迷路が設定されたセッションで試験され、続いて、プラットフォームが反対側の四分円の中央に配置し直されたセッションで試験された。各試行でプラットフォームを見つけ出すまでのレイテンシーを記録した。スコポラミン(1mg/Kg)は、指示された試行の30分前に腹腔内(i.p.)に投与された。
【0137】
脂質の抽出およびNMR分析
行動試験の終了時に、ラットをハロタンで麻酔し、この後、断頭した。肝臓および脳組織を迅速に取り出し、(−80℃で)保存した。これらのラット組織の脂質フラクションは、BlighおよびDyer(1959年)[BlighおよびDyer、(1959年)Can.J.Biochem.Physiol.37、911〜917]により説明されている技法の変法を用いて抽出された。簡単に説明すると、それぞれ、500〜700mgおよび300〜1200mgの肝臓および脳組織を、CDCl3、メタノールおよびCS−EDTA(1:2:2 v:v:v)の溶液中において均質化した。これらのホモジネートを、超音波浴(10分間、80℃)を用い、続いて、付加的に激しく振盪(20分間)することにより、更に攪拌した。これらのホモジネート中におけるリン脂質の相対比は、7.06テスラのGeneral Electricスペクトロメーターを用いる121MHZでの高分解能31P−NMRを用いて測定された。
【0138】
これらのホモジネートを更に脂肪酸分布について分析した。初めに、RP−18カラムを用いる逆相クロマトグラフィーによりこれらの脂質抽出物を脱塩し[Williamsら、(1980年)J.Neurochem.;35、266〜269]、カラムに負荷する前に、内部標準としてジヘプタデカノイルホスファチジルコリンを加えた。イソヘキサン:エーテル:ギ酸(80:20:2(v:v:v))中において展開されるシリカゲルプレート(Merck 60)上で、リン脂質をコレステロールなどの中性脂肪から分離した。プリムリン溶液を噴霧することによりリン脂質スポットを視覚化し、真正リン脂質標準と比較した。第二内部標準としてヘンエイコサン酸メチルエステル(C21:0)を加え、1%メタノール硫酸を用いて穏やかに50℃で夜通し酸加水分解することにより、リン脂質をメチルエステルに変換した。気−液クロマトグラフィーにより種々の異なるサンプルの脂肪酸プロフィールを決定した。
【0139】
結果
ウシ脳皮質誘導PS(BC−PS)の認知症防止効果は幾つかの二重盲検プラシーボ対照試験により実証されており、例えば[Kidd P.(1996年)Alt MedRev.1(2):70〜84]によるレビューを参照。過去の十年間で、BC−PSおよびダイズレシチンホスファチジル変換PS(SB−PS)の両者は、これらの化合物間における脂肪酸組成はかなり異なっているものの、齧歯類におけるスコポラミン誘導健忘症を回復させることが示された[Zanotti Aら、(1986年)Psychopharmacology(Berl)、90(2):274〜5;Claro F.ら、(1999年)Physiol Behav.67(4)551〜4;Sakai M.(1996年)Nutr Sci Vitaminol.(Tokyo)42(1):47〜54;Furushiro Mら、(1997年)Jpn J Pharmacol.75(4):447〜50]。これらの研究におけるPS投与手段は、大部分が静脈内投与または腹腔内投与であった;但し、Furushiroらは、SB−PSの経口投与についても記載しており、スコポラミンの健忘効果を中和したと報じている。しかし、後者の試験において、この研究者は、60mg/Kgから240mg/Kgまでの範囲に及ぶかなり高用量のSB−PSを使用した。
【0140】
ここで提示されている研究においては、ラットの食事は、迷路試験が実施される前に三ヶ月間、上述の治療食(食事i、ii、iii、ivおよびv)が補給された。習得段階(図1A〜1D)では、すべてのグループにおけるスコポラミン(1mg/Kg)の投与後、プラットフォームを見つけるまでのレイテンシータイムに予想通りの著しい増大が存在する。MCTグループおよびPS−ω3グループのレイテンシー曲線は似通っているが、MCTグループにより提示されたレイテンシーに比べ、PS−ω3グループの場合には、スコポラミンにより誘発されたレイテンシーの変化に統計学的に小さな差異が存在する(それぞれ、P値<0.07対P値<0.0007)。同様に、SB−PSまたはLC−PUFAで治療されたグループは、MCTグループに比べ、これらのグループの学習曲線においてスコポラミンの影響の低減を示した(図1A〜1D参照)。すべてのグループが同様な速度でこの課題を学習したという結果は、Bloklandら[Bloklandら、(1999年)Nutrition 15(10):778〜83]により提示されたデータと似ており、前述のデータは、水迷路試験において、種々の異なるソースから得られた空賦形剤のPS間に差異がないことを示した。
【0141】
本試験で特別なことは、スコポラミンによる鎮静作用下においてこの課題を学習する速度が加速されたことである。これは以前には実証されていなかった[Furushiroら、(1997年)同一著者の同書;Suzukiら、(2000年)Jpn.J.Pharmacol.84、86〜8]。これらの研究においては、齧歯類が異なる課題に直面したことに留意する必要がある(受動回避)。2001年のSuzukiら(J.Nutr.131:2951〜6)においては、研究者らは、この研究において試験されたラットよりもかなり高齢のラット(24〜25ヶ月齢)を使用した。試験された若いラット(八週齢)に比べ、老齢のラットの場合には、習得ステップにおけるレイテンシータイムがかなり長かった。興味あることに、本研究における非鎮静ラットのレイテンシータイムはSuzukiら[Suzukiら、(2001年)同一著者の同書]により試験された比較的若いラットの場合とある程度似ているが、本MCTグループにおけるスコポラミン誘導健忘症でのレイテンシータイムは、老齢のラットに対して上述の研究で得られたレイテンシータイムと似ている。要するに、スコポラミンは、本対照グループ(MCT)において、同程度のレイテンシータイムを引き起こした。この影響は、PSまたはLC−PUFAのいずれかでラットを長期間治療することにより、異なる程度に増大された。
【0142】
本探索試験において、PS−ω3で治療されたラットは、この課題の習得中にプラットフォームが位置付けられていたゾーンに居ることに関して、MCTで治療されたラットよりも明確に高い傾向(P<0.085)を示し(図2)、これは、これらのラットがプラットフォームの空間的な配置を学習していたことを指示している。更に、PS−ω3で治療されたラットは、中央から外れた周辺領域で泳ぐことに関して、低減された傾向(P<0.08)を示し、寧ろ、中央ゾーンで泳ぐ時間が多かった。PS−ω3グループにより提示されたこれらの後者の指示は、冒険好きな特性が高いことと関係しており、オープンフィールド行動試験とある程度相関付けることができた。興味あることに、Bloklandら[Bloklandら、(1999年)同一著者の同書]の場合、BC−PSで治療されたマウスは、有意ではないが、オープンフィールド行動試験において、中央領域で過ごす時間が少ないことにより、冒険心が少ない明らかな傾向を示した。PS−ω3で治療されたラットにより示された顕著な学習能力を考慮に入れ、この空間的探索試験におけるMorris水迷路課題での前述のラットの成果を、Suzukiら[Suzukiら、(2001年)同一著者の同書]によるSB−PSで治療された動物によって得られた成果と比較することに興味が持たれる。プラットフォームが位置付けられていた四分円で費やした時間の百分率は同様(〜45%)であるが、現行の研究における用量がSuzukiら(2001年)での投与レベルの三分の一に過ぎなかった(それぞれ、20mg/kg対60mg/kg)ことは、注目に値する。実際のところ、本研究では、SB−PS(20mg/kg)で治療されたラットがこの四分円で費やした時間は、MCT治療グループによって得られた値と比較した場合、有意な変化がなかった[それぞれ、図1Cおよび図1A]。要約すると、PS−ω3で治療されたグループの学習能力は、かなり低レベルのPSが投与された対照グループの場合よりも著しく高かった。更に、PS−ω3で治療されたラットは、保守性が低く、プラットフォームが存在しない迷路での試験において冒険心が強かった。
【0143】
最後に、本研究において得られた最も重要で顕著なデータは、プラットフォームの再配置に対する応答であった。MCT治療グループにより得られたレイテンシーと比較した場合、すべてのグループが、スコポラミンによる鎮静作用下において、一回目のセッションでプラットフォームを見つけ出すことにおける比較的短いレイテンシーを示した(図3A〜3D)。これらのデータは、LC−PUFAが、より有望にはPSが、他の研究(上述の選定文献参照)によりこれまでに提示されている如く、スコポラミン誘導健忘症を減衰させ得ることを示唆している。
【0144】
驚くべきことに、二回目のセッションでは、PS−ω3で治療されたグループを除き、すべてのグループにおいて、プラットフォームの再配置後にプラットフォームを見つけ出すことにおけるレイテンシーに差異はなかった。実際には、PS−ω3を除くすべての治療において、プラットフォームの位置を学習するプロセスはないように思われた。PS−ω3グループは、顕著に異なる行動を示した;この抗ムスカリン剤で治療されたラットの場合には、再配置されたプラットフォームの位置を学習することにおける遅延がないように思われた。プラットフォームが再配置された後にプラットフォームの位置を探し当てることにおけるPS−ω3治療グループの能力は、この空間的探索試験において初期に得られた結果(図2)と矛盾するように思われ、そこでは、これらのラットは、第三の四分円を好む傾向を示した。Pearceおよび彼の同僚ら[Pearceら、(1998年)Nature 396:75〜77]は、特定の空間的な位置を記憶するための二つの手段を開述することにより、この矛盾を解明しようと試みた。一つの方法は、目標物と幾つかの目印との間の幾何学的な関係についての情報を符号化する認知地図を使用すること(認知地図法)であり、もう一つの方法は、単一の目印から目標物までの方向および距離を特定する方向定位ベクトルを使用すること(方向定位ベクトル法)である。本試験においては、ラットは、上述の手がかりから、及び/又は壁との関係における距離および方向から、プラットフォームの位置を探し当てることができた。この習得および空間的探索試験においては、両方の方法がプラットフォームを見つけ出すスコアに寄与した。しかし、再配置試験においては、方向定位ベクトル法に関連付けられる認識能力および短期間の記憶力(作業記憶力)が相違をもたらした。壁からの距離が再配置(単に同一四分円内での再配置)により有効に働かなかったため、方向定位ベクトル法は機能せず、プール内での効果的な探索を可能に成す、既に調査済みの領域を記憶することにおける便益性による作業記憶力が機能する。
【0145】
PSがスコポラミンの影響を減衰させるメカニズムはコリン作動性回路への有益な効果に起因するだけでなく、PSはセロトニン作動性ニューロン系への効果も持ち得ることがこれまでに報告されている[Furushiroら、(1997年)同一著者の同書]。提示されたデータは、恐らくはドーパミン作動性である一つより多くのニューロン系変性の結果であり得たように思われる。もっと初期の研究[Dragoら、(1981年)Neurobiol Aging、2(3):209〜13]において、対照に対するBC−PSで治療された老齢のラット間で得られた行動変化における変質は、上述の如きコリン作動性およびセロトニン作動性伝達における修飾に起因するだけでなく、(ドーパミンなどの)カテコールアミン作動性の系に影響を及ぼすことによってももたらされ得ることが示唆されている。この研究では、シャトルボックスおよびポールジャンピング試験状況下で調べられた場合の如き能動回避行動の習得促進、ならびに能動および受動回避応答の維持は、PSで治療されたラットにおいて改善された。Tsakiris[Tsakiris,S.(1984年)Z Naturforsch[C]、39(11〜12):1196〜8]は、膜流動性メカニズムを通じて、ドーパミン関連アデニリルシクラーゼに及ぼすPSの間接的な効果について報じている。興味あることに、高レベルの(n−3)PUFAを富化された食事が、結果として、皮質のドーパミン作動性機能に影響を及ぼし得ることも報じられている[Chalonら、(1998年)J Nutr.;128(12):2512〜9]。リン脂質の骨格上におけるLC−PUFAの存在が、このようなマルチ神経伝達物質メカニズムの観点において非常に有益であったことが想像される。
【0146】
肝臓組織における本結果の生化学的分析(図4A)は、PSを三ヶ月間補給されたラットの場合(SB−PSおよびPS−ω3)、プライマーリン脂質、即ち、ホスファチジルコリン(PC)のレベルが顕著に増大したことを示している。これらのデータは、肝臓、ならびにリン脂質の取込みおよび殆どの脂肪酸の一次代謝における肝臓の主要な役割に関する初期の観察結果と一致している。Wijendranおよび彼らの同僚ら[Wijendranら、(2002年)Pediatr.Res.51:265〜272]は、PCおよびトリグリセリドの骨格上の標識LC−PUFAを食事として与えられたヒヒについての研究を報告しており、リン脂質骨格上におけるLC−PUFAの肝臓への取込みレベルがトリグリセリド骨格上におけるLC−PUFAの取込みの程度よりも高かったことを示している。更に、PS−ω3が食事として与えられたラットのPSレベルは、MCTに比べ、リン脂質分布の皮質組織分析において上昇していた(図4B)。興味あることに、これらの皮質のリン脂質脂肪酸プロフィール(表1)は、PS−ω3が与えられたラットにおけるDHA含量が著しく上昇したことを示している(P=0.007)。LC−PUFAを与えられたラットでも同様な上昇が認められたが、PS−ω3治療(14.6対17.5、それぞれP=0.03)に比べて上昇の程度が低かった。これら二つのオメガ−3グループ間におけるDHAレベルのこの相違は、トリグリセリドの骨格に対してよりも寧ろ、リン脂質の骨格に対してエステル化されたときの方がDHAのバイオアベイラビリティーが増強されることを示唆していたのかもしれない。Lemaitre−Delaunayらがトリグリセリド対リゾホスファチジルコリンにおけるトリグリセリドの富化での標識DHAの動力学および代謝的運命について研究したときのLemaitre−Delaunayおよび彼の同僚ら[Lemaitre−Delaunayら、(1999年)J.Lipid Res.;40:1867−1874]により、また、上述のヒヒでの研究においてWijendranら[Wijendranら、(2002年)同一著者の同書]により、同様な結論が導き出されている。
【0147】
興味あることに、PS−ω3およびLC−PUFAが与えられたラットの両方における皮質中のDHA含量のこの増大は、リン脂質フラクションにおけるオレイン酸レベルの統計学的に有意な減少およびリノール酸の幾分低めの程度への減少を伴う(表1)。LC−PUFAが富化された食物脂肪を齧歯類に与えることにより、脂肪酸プロフィールのこれらの比における同様な変化が他の研究者らによって実証されている[例えば、Yamamotoら、(1987年)J.Lipid Res.28:144〜151]。SB−PSグループは、MCTグループに非常に似通ったプロフィールを示した。
【0148】
要約すると、スコポラミンの鎮静作用下でのPS−ω3治療ラットのMorris水迷路試験におけるこの改善された成果は、抗−認知症および年齢関連記憶障害作用剤としてのPS−ω3の有効性を強く支持している。この認知力の増強は、更に、肝臓および脳組織におけるリン脂質レベルが上昇し(図4A〜4B)、また、PS−ω3を与えられたラットの皮質において、リン脂質に付着されたDHAのレベルが上昇したという生化学的な証拠により支持されている。
【0149】
表1は、種々の異なるソースからもたらされた食物LC−PUFAが、高齢のWistarラットから得られた脳リン脂質の脂肪酸プロフィールに及ぼす効果をまとめたものである。気−液クロマトグラフィーにより、精製リン脂質フラクションからの脂肪酸を分析した。主要な脂肪酸が、これらのリン脂質における全脂肪酸のうちの百分率(%)で表されている。数値は、一つの治療様式当たり四匹の異なるラットの平均値±S.D.を表している。種々の異なるサプリメントおよびMCTグループ間の統計学的な有意性は以下の通りに表されている:*P<0.05;**P<0.01。
【表1】

【0150】
実施例2:ADHD児童の治療におけるPS−オメガ−3
注意欠陥/過多動性障害(ADHD)は広い範囲にわたる一群の行動上および学習上の問題を包含し、ADHDの定義および診断については異論の多いままである[Kamper(2001年)J.Pediatr.139:173〜4;Richardsonら、(2000年)Prostaglandins Leukot.Essent.Fatty Acids、63(1〜2):79〜87]。ADHDの病因は、コンプレックスおよび多因子性の両方であることが知られている。伝統的に、ADHDは、注意力不足、衝動的、及び/又は過多動性の児童について述べるために使用される診断である。ADHDを患っている児童のうち概略で20〜25%が、算数、読書もしくはスペリングのうちの一つまたはそれ以上の特定の学習能力障害を示す[Barkley,R.A.(1990年)Attention−deficit hyperactivity disorder:a handbook for diagnosis and treatment.New York:Guilford Press]。ADHDを患っている児童は、学業を果たす上での問題および注意を払うことにおける問題を抱え、支離滅裂な場合があり、自律性が乏しく、自尊心が低いことが多い。控えめに見積もって、学齢期の人口のうちの3〜5%がADHDを有している[American Psychiatric Association.Diagnostic and statistical manual of mental disorders.第四版、(DSM−IV)Washington,DC;American Psychiatric Association、1994年]。ADHDに対する治療は行動療法および投薬、主にメチルフェニデート(Ritalin(商標))の使用を含む。ADHDを患っている児童を落ち着かせるため、精神刺激薬および抗鬱薬が使用されることが多く、有効率は〜75%である(Swansonら、Except Child 1993年;60:154〜61)。これらの薬剤を使用することの利点は、迅速な応答、使用しやすさ、有効性、および比較的安全であることを含む。欠点は、食欲および成長の減退、不眠症、興奮性亢進、ならびに薬が切れたときの反跳過多動性を含めた、起こり得る副作用を含む[Ahmannら、(1993年)Pediatrics;91:1101〜6]。その上、これらの薬剤は、ADHDの根底にある原因を解決しようとするものではない。従って、ADHDにおける行動上の問題に対する潜在的寄与因子を解明するための研究が、幾人かの児童に対するもっと効果的な治療戦略をもたらす可能性がある。
【0151】
オメガ−3脂肪酸は、特に中枢神経系の機能を維持することに関わっている。ラットおよびサルにおけるn−3脂肪酸の欠乏は、行動、感覚および神経学的な異常と関係していた[Yehudaら、(1993年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA;90:10345〜9;Reisbickら、(1994年)Physiol.Behav.55:231〜9;Enslenら、(1991年)Lipids;26:203〜8]。幾つかの研究は、ADHDを患っている児童における必須脂肪酸の代謝に焦点を当てた[Colquhounら、(1981年)Med Hypotheses;7:673〜679]。過多動性を患っている児童は、健常な児童よりものどが渇き、湿疹、喘息および他のアレルギーの症状を有することが報告されている[Mitchellら、(1987年)Clin.Pediatr.;26:406〜11]。例えば、中部インディアナから集められた六歳から十二歳までの少年を対象として行われた横断的研究において、ADHDを患っている五十三人の被検者は、四十三人の対照被検者の場合よりも、血漿中の極性脂質[アラキドン酸(AA;20:4n−6)、エイコサペンタエン酸(EPA;20:5n−3)、およびドコサヘキサエン酸(DHA;22:6n−3)]および赤血球中の総脂質(20:4n−6および22:4n−6)中における主要な脂肪酸の割合が有意に低かったことが示された[Stevenら、(1995年)Am.J.Clin.Nutr.;62:761〜8]。しかし、DHAの補給がADHD児童における症状を軽減する結果をもたらすかどうかについて研究した最近の出版物[Hirayamaら、(2004年)Eur.J.Clin.Nutr.;58(3):467〜73;Voigtら、(2001年)J Pediatr.;139(2):189〜96]は、一つまたは複数のどの脂肪酸を使用するかに関して慎重な注意を払うべきであることを示唆している。これらの研究においては、DHAの補給は、何らかの有益な効果があるかどうかぎりぎりの状態に過ぎないことを示していた。
【0152】
最近、ADHDで多く見られる栄養不足に対する可能な解決策のうちの一つがPSの補給であり得ることが示唆されている[Kidd(2000年)Altern Med Rev.;5(5):402〜28]。
【0153】
方法
被検者および食事
DSM−IVによりADHDと診断された八歳から十三歳までの九十人の児童を、刺激性薬剤または他のサプリメントを摂取しない状態に保ちながら、二重盲検的な仕方で、二ヶ月間PS−ω3(300mg/d:合計で450mg/dのDHA/EPAを含有)を摂取するグループ、450mg/dのDHA/EPAを摂取するグループ、またはナタネ油を摂取するグループにランダムに割り当てた(一つのグループ当たり三十人)。ADHDとしての被検者の特徴付けは、Test of Variables of Attentionにおけるスコアが−1.8未満であることを含んだ。
【0154】
データ解析
この試験の最後に、保護者から見た行動評定スケール(Connors’ Ratingスケール))によりADHD児童を採点した。
【0155】
結果および検討
補完療法の使用は、特に、慢性の病体、不治の病体、または頻繁に再発する病体を患っている患者の間で一般的である。例えば、補完および代替医学療法(CAM)の使用は、癌、喘息および嚢胞性線維症を患っている小児において一般的である。CAMを求める保護者または被検者は、典型的には、このような治療法が、通常の治療よりも、彼らの価値観と一致し、一層能力を引き出し、より自然で危険性が少ないと理解されているという理由からCAMを求める。これらの患者のうちの大多数は、主流の治療法を放棄するわけではなく、補助療法としてハーブおよび他の形態のCAMを使用する。CAMの使用について小児科医と話し合うのは少数(<40%)に過ぎない。刺激性薬剤の使用に伴う徴候および副作用のため、多くの家族がADHDを治療するためにCAMに戻る。典型的には、小児のうちの70%のみがRitalin(商標)などの刺激薬に応答し、応答した小児のうちの約半数が薬剤による副作用を報告する。ADHD総合医療センターで見られた二百九十家族のオーストラリアでの調査において、64%が少なくとも一度は「他の治療法」を試し、最も多く見られた他の治療法は食事制限、総合ビタミン剤補給および作業療法であった[Stubberfieldら、(1999年)J Paediatr Child Health;35:450〜3]。
【0156】
本研究においては、この異なる補給剤がポピュラーなチョコレートペーストに調合された(以下を参照)。この基質を用いることは、保護者が彼らの子供に対してこれまでとは異なる形態において治療を施すことを可能にし、海産物誘導化合物における器官感覚受容性の影響特性の低減をもたらした(以下を参照)。
【0157】
保護者によるこの評定調査は、治療期間の終了時に、子供らの注意欠陥、過多動性および衝動性、更には保護者、教師、兄弟姉妹および仲間により評価された攻撃性を判定した。得られた結果は、著しく大きなプラシーボ効果を示している。この効果は、重大な行動上の悪化により本試験を完了することができなかったプラシーボ治療ADHD児童を考慮に入れた場合には、幾分低減される。これらの児童のうちの殆どがRitalin(商標)投与への再割り当てを主張したようであった。しかし、本データは、PS−ω3が効能を有する物質であることもはっきりと示している。要するに、PS−ω3で治療されたADHD児童の保護者のうちの〜70%が彼らの子供達の行動スコアに幾分かの改善があったことを指摘し、一方、これらの保護者のうちの50%は、彼らの子供達の行動に及ぼすこのサプリメントの多数の有益な効果を示す明らかな徴候を与えた。この卓越した効果は、プラシーボグループ(〜30%)で得られた改善よりも2.2倍高い。ADHD児童の行動についての保護者によるLC−PUFAの採点と、三ヶ月間PS−ω3を投与した後の並行的な評定との比較は、後者の方が高い点数を有していたことを示している。両化合物とも同程度の境界的な改善を示したが、PS−ωの方が、無効果または悪影響の率が最も低く(それぞれ、21%&11%対26%および17%)、著しく高い実質的改善率(それぞれ、47%対35%)を示した。PS−ω3補給のこれらの効果は、オメガ−3脂肪酸の高められたバイオアベイラビリティー、ならびに気分、ストレスおよび不安に及ぼすPSの広く実証されている効果の両方に起因するものと考えることができる。
【0158】
実施例3:ApoEマウスにおけるPC−DHA摂取の効果
方法
動物の食事
八週齢のアポリポタンパク質E欠損症(ApoE)マウス[Hayek T.ら、(1994年)Biochem.Biophys.Res.Commun.201:1567〜1574]を、LC−PUFA富化レシチングループ(全脂肪酸組成のうちの30%のオメガ−3;PC−DHAグループ)またはプラシーボグループにランダムに割り当てた(各グループ当たり五匹のマウス)。これらのマウスには、通常の食事のほかに、経口ガバージュにより、25μlのPC−DHAまたはPBSのいずれかが三日ごとに一回、十週間与えられた。
【0159】
各マウスは約5mLの水/日、および5gの食物/日を摂取した。
【0160】
血清脂質酸化
血清をPBS中において1:4に希釈した。血清の酸化感受性は、100mMのフリーラジカル発生化合物(一定の速度で熱的に分解してペルオキシルラジカルを生成する水溶性のアゾ化合物である2’−2’−アゾビス2’アミジノプロパン塩酸塩(AAPH))と共に血清サンプルをインキュベートすることにより決定された。チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)および過酸化脂質の形成を測定し、AAPHを伴わない点を除いて同様な条件下でインキュベートされた血清と比較した。
【0161】
結果および検討:
ApoEマウスは、食事で重度の高コレステロール血症およびアテローム性動脈硬化病変を発症するため、アテローム性動脈硬化症に対する動物モデルとして広く用いられている。その上、加速されたアテローム性動脈硬化は、これらのマウスにおける血漿リポタンパク質および動脈細胞の脂質過酸化の増大と関わっている[Hayek Tら、(1994年)同一著者の同書;Keidar S.(1998年)Life Sci.63:1〜11]。
【0162】
図6は、ApoEマウスによる長期にわたるPC−DHA摂取がAAPH−誘導酸化に対する血清感受性を(プラシーボグループと比べて)16%だけ低減させる明らかな傾向(P<0.10)を如何にしてもたらしたかを示している。
【0163】
器官感覚受容性の問題
様々な用途、特に機能性食品の成分としてのオメガ−3脂質の使用は、これらの脂質が有する特有の魚臭さにより妨げられている。従って、本発明のオメガ−3富化リン脂質成分の別の利点は、これらの成分が、PS骨格へのオメガ−3アシル基の共有結合により、オメガ−3アシル部分の臭いまたは味を低減していることである。これは、これらの材料の蒸気圧を増大させ、これにより、これらの材料が有する特有の臭いを低減する。従って、リン脂質骨格、特にPSへのオメガ−3脂肪酸の共有結合は、これらの材料の味覚特性を変え、改善する。その上、本発明のPS成分は、酸化感受性オメガ−3脂肪酸に高められた安定性も提供する。一般的にリン脂質、特にPSは、酸化防止剤および安定剤として作用することが知られている。
【0164】
これらの利点が、本発明のこの新規なリン脂質調製物を、様々な用途、特に安定性、芳香および風味が基本的な必要条件である機能性食品において高度に有益で重要なものに成している。
【0165】
更に、これらの新規な成分は、一層高められた生体機能性および効力を求めて、付加的な脂質と共に調合することもできる。
【0166】
ADHD患者における上述の臨床試験で使用された開始化合物は、魚油と混合されたLC−PUFA富化PSであった。最初は、この製品および対照の魚油がエネルギーバーの如き食品に調合されていた;しかし、専門家委員会からの反応はカテゴリー的に散々なものであり、重大な器官感覚受容性の問題が指摘された。この味覚に関する障壁を乗り越えるため、本発明のPS−ω3製品は脱油された。このプロセスの最終製品は、不活性または優性のいずれかの状態で再調合されたときに−器官感覚受容性飽和脂肪をチョコレートバー、チョコレートスプレッド、チョコレートをコーティングしたコーンフレーク、低脂肪乳製品または濃縮乳に容易に調合することができたペーストであった。これらのそれぞれ個々の調合物に対しては、専門家委員会および試験志願者の両方からの器官感覚受容性に関する不服が明らかに低減していた。
【0167】
PS−PUFA誘導体などのPUFAの極性脂質誘導体は、本発明の臨床試験において使用された調製物として、更には幾つかの食品用途において、高い安定性を示した。これらの感受性化合物のこの安定性は、過去には保存剤として使用することが知られており、また、不安定なPUFA部分として知られていた、リン脂質の共有結合による組合せから発している。
【0168】
LC−PUFAの有益な効果に対する国民意識が高まったため、研究用の齧歯類の食事用として[Lytleら、(1992年)Nutr Cancer;17(2):187〜94]またはスプレッド状脂肪における質の向上のため[Kolanowskiら、(2001年)Int J Food Sci Nutr.;52(6):469〜76]、商業的に調製された魚油(オメガ−3脂肪酸)の安定性を対象とした幾つかの研究が行われた。大部分の努力は、魚油の脂肪酸が、加工中、または様々な時間的長さにわたって保管されたときに、空気、光もしくは熱に晒されることにより、急速な及び/又は広範な酸化、ならびに他の化学的な変化を受けやすいため、魚油の酸化安定性を維持することに充てられた。これらの研究において提示された共通の解決策は、魚油基質にブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシキノンおよびアルファ−トコフェロールの如き酸化防止剤を補充すること、または代替的に、濃縮魚油を飽和脂肪基質中において1%の限界にまで希釈することであった。しかし、Songおよび彼の同僚ら[Songら、(1997年)Biosci Biotechnol Biochem.;61(12):2085〜8]は、既に、十週間の保管中、バルク相の25℃における暗所での、リン脂質、トリグリセリドおよびエチルエステルの形態におけるDHA含有オイルの過酸化安定性について評価していた。彼らは、リン脂質の形態におけるDHA含有オイルが、バルク相のトリグリセリドおよびエチルエステルの形態の場合よりも、DHAの酸化分解に対する抵抗性が高かったことを示していた。
【0169】
本臨床試験で使用された上述のPS−ω3含有製品の室温における貯蔵寿命および安定性について試験した。コンデンスミルク中に調合された本富化PS−ω3(10mlのミルク当たり1gの製品)を、31P−NMRにより、一週間の凍結−解凍サイクルにおける安定性について分析し、安定していることが判明した。第二フェーズにおいて、チョコレートペースト基質中におけるPS−ω3(20gのチョコレートスプレッド当たり0.75gの製品)を、室温での二週間の保管後に、安定性について試験した。この調合物は、31P−NMR分析において、PSの百分率も安定していることを示した。結論として、我々は、酸化防止剤の消費後に急速に崩壊することが知られているω−3含有トリグリセリドとは対照的に、ω−3含有リン脂質が、室温において、更には凍結−解凍サイクルにおいて非常に安定していることを確証することができた。
【0170】
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1A−D】空間的Morris迷路課題の習得におけるラットの成果。以下で詳述されている通りの様々なサプリメントが三ヶ月間補給された高齢のラットにおける三日間の習得(1日当たり二回のセッション)でのプラットフォーム到達までのレイテンシータイムが、1mg/kgのスコポラミンによる前処理を伴った場合(白抜きの四角)、またはこのような前処理を伴わない場合(黒塗りの丸)について、ビデオカメラを用いて解析された。
【0172】
図1A:MCTを補給されたラット、P<0.007。
【0173】
図1B:PS−ω3を補給されたラット、P<0.07。
【0174】
図1C:SB−PSを補給されたラット、P<0.02。
【0175】
図1D:LC−PUFAを補給されたラット、P<0.03。
【0176】
数値は、一つのサプリメント当たり四匹から五匹のラットにおける平均値±S.E.Mを表している。
【0177】
省略記号:Lat.T.、レイテンシータイム;sec、秒。
【図2】空間的探索試験でのMorris水迷路課題におけるスコポラミン処理ラットの成果。
【0178】
このグラフは、1mg/kgのスコポラミンによる前処理後、MCT(白抜きの棒)、PS−ω3(黒塗りの棒)、SB−PS(斑点付きの棒)またはLC−PUFA(縞入りの棒)を三ヶ月間補給された高齢のラットがプラットフォームの除去後に異なる領域で費やした、ビデオカメラを用いて解析された時間(T.)の百分率を表している。数値は、一つのサプリメント当たり四匹から五匹のラットにおける平均値±S.E.Mを表している。対照グループ(MCT)を基準にして有意性を比較した*P<0.02および**P<0.08。
【図3A−D】プラットフォームの再配置後、プラットフォームの所在位置を突き止めることにおけるスコポラミン誘導ラットの成果。
【0179】
以下で特定されている通りの種々の異なるサプリメントが三ヶ月間補給された高齢のラットにおける、一回目のセッションから二回目のセッションまでの間にプラットフォームが再配置された水迷路課題の五日目におけるプラットフォーム到達までのレイテンシータイムが、1mg/kgのスコポラミンによる前処理を伴った場合(白抜きの四角)、またはこのような前処理を伴わない場合(黒塗りの丸)について、ビデオカメラを用いて解析された。
【0180】
図3A:MCTを補給されたラット。
【0181】
図3B:PS−ω3を補給されたラット。
【0182】
図3C:SB−PSを補給されたラット。
【0183】
図3D:LC−PUFAを補給されたラット。
【0184】
数値は、一つのサプリメント当たり四匹から五匹のラットにおける平均値±S.E.Mを表している。
【0185】
省略記号:Lat.T.、レイテンシータイム;sec、秒;tr.、試行。
【図4A−B】31P−NMRを用いて測定したときの、ラット組織におけるリン脂質レベル。
【0186】
MCT(白抜きの棒)、PS−ω3(黒塗りの棒)、SB−PS(斑点付きの棒)またはLC−PUFA(縞入りの棒)を三ヶ月間補給された高齢のラットの組織から脂質を抽出した。31P−NMR装置を用いてリン脂質レベルを分析し、これらの種々の異なる治療様式におけるホスファチジルコリンの相対的なレベルが提示される。
【0187】
図4A:肝臓から抽出された脂質の分析。
【0188】
図4B:脳(皮質部)から抽出された脂質の分析。
【0189】
数値は、一つのサプリメント当たり四匹から五匹のラットにおける平均値±S.D.を表している。対照グループ(MCT)を基準にして有意性を比較した*P<0.05および**P<0.1。
【0190】
省略記号:Tot.Pl.、総リン脂質。
【図5】行動評定スケールによるADHD児童の保護者によるスコア。
【0191】
このグラフは、ナタネ油(白抜きの棒)、DHA(黒塗りの棒)またはPS−ω3(ハッチング入りの棒)を二ヶ月間補給された後の保護者の観点における改善または改善の欠如を示したADHD児童の百分率を表している。評定は、家庭および学校における兄弟姉妹または仲間との行動傾向に関する所感および教師フィードバックを含む。数値は、一つのサプリメント当たり二十例から二十五例のADHD児童スコアの百分率を表している。十二人の保護者が質問者に答えることを断り、六人の児童が、味のまずさまたは厳格な規律問題のため、この補給期間を完了しなかった(殆どが対照グループ)ことに留意する必要がある。
【0192】
省略記号:Improv.、改善;Marg.Improve.、境界的改善;n.c.、変化なし;Deter.、悪化。
【図6】血清酸化ストレスに及ぼすPC−DHAの効果。
【0193】
アポEマウスにプラシーボ(白抜きの棒)またはPC−DHA(黒塗りの棒)を十週間与えた。分光光度アッセイを用いて、血清中の過酸化脂質(Ser.per.)レベルを測定した。数値は、一つの治療様式当たり五匹のマウスの平均値±S.D.を表している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
注意欠陥障害(ADD)/注意欠陥過多動性障害(ADHD)の治療を目的とした調製物を製造するための、エイコサペンタエノイル(EPA)基を含有しセリン残基を有するグリセロリン脂質と、ドコサヘキサエン酸(DHA)基を含有しセリン残基を有するグリセロリン脂質との人工的な混合物の使用であって、
前記混合物中のEPA基を含有するグリセロリン脂質と、DHA基を含有するグリセロリン脂質は、式I:
【化1】

で表され、
式I中、R’’はセリン残基を表し、
RおよびR’の一方は、EPAのアシル残基またはDHAのアシル残基であり、RおよびR’の他方は、水素またはアシル基を表し、
前記混合物の用量が100−600mg/日となるように調製されていることを特徴とする使用。
【請求項2】
前記EPA基を含有しセリン残基を有するグリセロリン脂質と、前記DHA基を含有しセリン残基を有するグリセロリン脂質は、脂質源を、酵素を用いてホスファチジル変換して得られることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記セリン残基を有するグリセロリン脂質の前記混合物中に存在するEPA基とDHA基を合わせた量は、前記調製物中のセリン残基を有するグリセロリン脂質の全脂肪酸の重量の20−50%を占めていることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記脂質源は、植物、動物または微生物由来であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記調製物は、薬剤組成物として形成されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤組成物は、少なくとも、一つの薬剤学的に許容可能な添加剤、希釈剤または賦形剤をさらに含有することを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤組成物は、少なくとも、一つの薬剤学的に活性な物質をさらに含有することを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤組成物は、軟質ゲルカプセル剤、錠剤、シロップ剤、または、他の一般的な投与形態として形成されていることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記薬剤組成物は、経口または静脈注射によって投与されるように準備されることを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項10】
前記調製物は、栄養補助食品組成物として形成されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記栄養補助食品組成物は、軟質ゲルカプセル剤、錠剤、シロップ剤、または、他の一般的な食品サプリメントの形態として形成されていることを特徴とする請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記調製物は、機能性食品として形成されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項13】
前記機能性食品は、乳製品、アイスクリーム、ビスケット、ダイズ製品、ベーカリー製品、ペストリーおよびパン、ソース、スープ、加工調理済み食品、冷凍食品、調味料、菓子製品、油脂、マーガリン、スプレッド、詰め物、シリアル、インスタント食品、飲み物およびミルクセーキ、特殊調製粉乳、乳児食、バー食品、スナック、キャンディーおよびチョコレート製品のいずれかであることを特徴とする請求項12に記載の使用。

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−211168(P2012−211168A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141384(P2012−141384)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【分割の表示】特願2006−536258(P2006−536258)の分割
【原出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(504263439)エンジィモテック リミテッド (5)
【Fターム(参考)】