説明

オランザピンの製造方法および中間体

【課題】最も安定で医薬的に望ましい特性を有するオランザピン中間体の提供。
【解決手段】特定の面間隔によって示される典型的なX線粉体回折パターンを有する安定な結晶2水和物Dオランザピン多形又は、特定の面間隔によって示される典型的なX線粉体回折パターンを有する結晶2水和物Bオランザピン多形。工業級オランザピンを、水性条件下で特定の温度及び時間攪拌することによって、結晶2水和物Dオランザピンは製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2−メチル−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)−10H−チエノ[2,3−b][1,5]ベンゾジアゼピン(以後、本明細書では「オランザピン」という)の製造方法、およびある2水和物中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
オランザピンは精神病患者の治療に有用であり、現在そのような使用について研究されている。本出願人はII形オランザピンがオランザピンの最も安定な無水形であり、医薬的に望ましい特性を有する安定な無水製剤を提供することをみいだした(欧州特許明細書第733635号)。実質的に純粋なII形オランザピン製剤(以後、本明細書では「II形」という)であることを保証するには注意深い製造と条件の制御が必要であるが、本出願人は、水性条件下で2水和物オランザピン中間体を用いて所望のII形を製造する方法をみいだした。ある状況では、水性溶媒から製造されるII形が特に有利である。水性溶媒から製造されたそのようなII形物質は、II形物質が実質的にすべての有機溶媒残留物を含まないことを保証する。この方法は所望のII形を得るための特に経済的に望ましい方法を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許明細書第733635号
【特許文献2】米国特許第5229382号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はII形オランザピンを製造するための中間体として特に有用な2水和物オランザピンを提供する。結晶形が特に有利であろう。
【0005】
特に好ましい2水和物は表1に示す以下の面間隔(d)によって示される典型的なX線粉体回折パターンを有する安定な結晶2水和物Dオランザピン多形(以後、本明細書では「2水和物D」という)である。
表1
【0006】
【表1−1】

【表1−2】

【0007】
別の特に好ましい2水和物中間体は表2に示す以下の面間隔(d)によって示される典型的なX線粉体回折パターンを有する結晶2水和物Bオランザピン多形(以後、本明細書では「2水和物B」という)である。
表2
【0008】
【表2−1】

【表2−2】

【0009】
別の特に好ましい2水和物中間体は表3に示す以下の面間隔(d)によって示される典型的なX線粉体回折パターンを有する結晶2水和物Eオランザピン多形(以後、本明細書では「2水和物E」という)である。
表3
【0010】
【表3−1】

【表3−2】

【0011】
本明細書に示すX線粉体回折パターンは波長l=1.541Åの銅kを用いて得られた。「d」の符号を付した欄の面間隔はオングストロームで示す。検出器はKevexケイ素リチウム固体状態検出器であった。
【0012】
さらに本発明は、所望のII形が形成されるまで、例えば約40℃〜約70℃の減圧オーブン中で、オランザピン2水和物を乾燥させることを含むII形オランザピンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願人は式(I):
【化1】

で示される2−メチル−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)−10H−チエノ[2,3−b][1,5]ベンゾジアゼピンがX線粉体回折法により区別できる2つの異なる無水形として存在することをみいだした。最も安定な無水形をII形と呼ぶ。II形は注意深く制御された条件を用いて製造されなければならないが、本出願人は、オランザピン2水和物をII形の製造に用いることができることをみいだした(米国特許第5229382号は本明細書の一部を構成する)。
【0014】
米国特許第5229382号に記載の方法により得ることができる多形は、医薬製剤としてII形ほどには望ましくない無水形である。米国特許第5229382号記載の方法により得ることができる無水物はI形と呼ばれ、Siemens D5000 X線粉体回折系を用いて得られる(ここで、dは面間隔を表す)、実質的に以下の典型的なX線粉体回折パターンを有する。
【0015】
【表4−1】

【表4−2】

【0016】
I形のX線回折パターンの典型的な例は以下の通りである(ここで、dは面間隔を表し、I/Iは典型的な相対強度を表す)。
【0017】
【表5−1】

【表5−2】

【0018】
本明細書においてX線粉体回折パターンは波長l=1.541Åの銅Kを用いて得られた。「d」の符号を付した欄の面間隔はオングストロームで示す。典型的な相対強度は「I/I」の符号を付した欄に示す。
【0019】
本明細書で用いている「実質的に純粋な」とは、溶媒和物となったものが約20%以下およびI形が約5%以下、好ましくは溶媒和物となったものおよび/またはI形が約5%以下、より好ましくは溶媒和物となったものおよびI形が約1%以下であるII形をいう。さらに、「実質的に純粋な」II形は関連物質を約0.5%以下で含むであろう(ここで、「関連物質」とは望ましくない夾雑化学物質または残留有機溶媒をいう)。
【0020】
都合のよいことに、本発明の方法と中間体を用いて製造される多形は化学的溶媒和物を含まず、例えば実質的に純粋なII形として存在するであろう。
【0021】
2水和物中間体が純粋な2水和物B、2水和物D、および2水和物Eからなる群から選ばれることが特に好ましい。本明細書で用いている用語「純粋な」は望ましくない2水和物が約20%以下であることを表す。より好ましくは、該用語は望ましくない2水和物が約10%以下であることを表す。「純粋な」は望ましくない2水和物が約5%以下であることを表すのが特に好ましい。
【0022】
2水和物DのX線回折パターンの典型的な例は以下の通りである(ここで、dは面間隔を表し、I/Iは典型的な相対強度を表す)。
【0023】
【表6−1】

【表6−2】

【0024】
本明細書においてX線回折パターンは波長l=1.541Åの銅Kを用いて得られた。「d」の符号を付した欄の面間隔はオングストロームで示す。典型的な相対強度は「I/I」の符号を付した欄に示す。
【0025】
2水和物B多形のX線回折パターンの典型的な例は以下の通りである(ここで、dは面間隔を表し、I/Iは典型的な相対強度を表す)。
【0026】
【表7−1】

【表7−2】

【0027】
2水和物EのX線回折パターンの典型的な例は以下の通りである(ここで、dは面間隔を表し、I/Iは典型的な相対強度を表す)。
【0028】
【表8−1】

【表8−2】

【0029】
本明細書においてX線回折パターンは波長l=1.541Åの銅Kを用いて得られた。「d」の符号を付した欄の面間隔はオングストロームで示す。典型的な相対強度は「I/I」の符号を付した欄に示す。
【0030】
無水II形多形のX線回折パターンの典型的な例は以下の通りである(ここで、dは面間隔を表し、I/Iは典型的な相対強度を表す)。
【0031】
【表9−1】

【表9−2】

【0032】
本明細書で用いている、用語「哺乳動物」は、高等脊椎動物の哺乳綱を表す。用語「哺乳動物」には、限定されるものではないがヒトが含まれる。本明細書で用いている用語「治療(処置)する(treating)」には、示した病状の予防、または一旦確立された病状の改善もしくは除去が含まれる。
【0033】
本発明の化合物および方法は中枢神経系に対する有益な活性を有する化合物を製造するのに有用である。本発明の範囲内であるある種の化合物と病状が好ましい。表の形で示す以下の病状、発明態様、および化合物特性を独自に組み合わせて、種々の好ましい化合物および方法の条件をつくることができよう。以下の本発明の態様の一覧は何ら本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
本発明の好ましい特性には以下のものが含まれる。
【0035】
A)オランザピンの2水和物D多形である中間体2水和物、
B)実質的に純粋な2水和物D多形である化合物、
C)オランザピンの2水和物B多形である中間体2水和物、
D)オランザピンの2水和物E多形である中間体2水和物、
E)約50℃の減圧オーブン中でオランザピン2水和物を乾燥させることを含むII形の製造方法、
F)精神病、精神分裂病、精神分裂病様障害、軽度の不安、および急性躁病からなる群から選ばれる病状を治療するのに用いられる、2水和物を用いて製造されたII形、
G)II形および実質的に純粋な2水和物Dを含有する製剤、および
H)II形および実質的に純粋な2水和物Bを含有する製剤。
【0036】
本発明の出発物質は、当業者によく知られた種々の方法により製造することができる。本発明の方法において出発物質として用いられる物質は米国特許第5229382号にChakrabartiが記載した一般的手順により製造することができる(この内容は本明細書の一部を構成する)。
【0037】
2水和物Dは、水性条件下で製造例1の記載に従って製造することができる工業級オランザピンを長く攪拌することにより製造される。用語「水性条件」は水、または溶媒混合物中に必要な化学量論的量の水が存在するように十分に水が混和可能な有機溶媒と水を含有する溶媒混合物のいずれかであってよい水性溶媒を表す。溶媒混合物を利用する場合は、次に水を残して有機溶媒を除去し、そして/または水で交換する必要がある。用語「長く攪拌する」は、約1時間〜約6日間になるであろうが、当業者はその時間が温度、圧、および溶媒のような反応条件によって変化するであろうことを認識するであろう。長く攪拌するは少なくとも4時間を表すのが好ましいかもしれない。好ましくは、水性条件は水性溶媒を含む。
【0038】
反応の完結はX線粉体回折法および当業者によく知られた他の方法を用いてモニターすることができよう。そのような技術のいくつかを以下に示す。
【0039】
化合物を特徴付ける方法には、例えば、X線粉体パターン分析、熱重量分析(TGA)、示差走査熱量測定法(DSC)、水の滴定分析、および溶媒内容のH−NMR分析が含まれる。
【0040】
本明細書に記載の2水和物は薬物分子あたり水2分子を有する真の2水和物である(ここで、水分子は2水和物化合物の結晶格子に取込まれる)。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の実施例は例示を目的とするものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0042】
製造例1
工業級オランザピン
【化2】

中間体1
【0043】
適切な三首フラスコ中で以下のものを加えた:
ジメチルスルホキシド(分析用):6容量
中間体1:75g
N−メチルピペラジン(試薬):6当量
中間体1は当業者に知られた方法を用いて製造することができる。例えば、中間体1の製造法は米国特許第5229382号に開示されている。
【0044】
表面下窒素拡散ラインを加えて反応時に形成されたアンモニアを除去した。反応物を120℃に加熱し、反応継続中、その温度に維持した。反応後、反応せずに残った中間体1が5%になるまでHPLCを行なった。反応が完結した後、混合物を徐々に20℃に冷却した(約2時間)。次に、反応混合物を水浴中の適切な三首丸底フラスコに移した。この攪拌溶液に10容量の試薬級メタノールを加え、反応物を20℃で30分間攪拌した。水3容量を約30分間かけて徐々に加えた。反応物のスラリーを0〜5℃に冷却し、30分間攪拌した。生成物を濾過し、湿潤ケーキを冷メタノールで洗浄した。該湿潤ケーキを減圧下、45℃で一夜乾燥させた。生成物が工業級オランザピンであることを確認した。
収率:76.7%、有効性:98.1%。
実施例1
2水和物D
【0045】
工業級オランザピン試料100g(製造例1参照)を水(500mL)に懸濁した。混合物を約25℃で約5日間攪拌した。減圧濾過を用いて生成物を単離した。X線粉体分析法を用いて生成物が2水和物Dオランザピンであることを確認した。収量:100g、TGA質量損失は10.2%であった。
実施例2
2水和物E
【0046】
工業級オランザピン試料0.5gを酢酸エチル(10mL)とトルエン(0.6mL)に懸濁した。混合物をすべての固形物が溶解するまで80℃に加熱した。溶液を60℃に冷却し、水(1mL)を徐々に加えた。該溶液を室温に冷却すると結晶スラリーが形成された。生成物を減圧濾過を用いて単離し、周囲条件下で乾燥した。X線粉体分析および固体状態13C NMRを用いて生成物が2水和物Eであることを確認した。TGA質量損失は10.5%であった。収量:0.3g。
実施例3
2水和物B
【0047】
工業級オランザピン試料10gを水(88mL)に懸濁した。混合物を約25℃で6時間攪拌した。減圧濾過を用いて生成物を単離した。X線粉体分析法を用いて生成物が2水和物Bオランザピンであることを確認した。収量:10.86g。
実施例4
II形
【0048】
実施例1に記載のごとく製造したオランザピンの2水和物Dを約100〜300mmの減圧下、約50℃の減圧オーブン中で約27時間乾燥する。X線粉体分析を用いて、得られる物質がII形であることを確認する。
実施例5
【0049】
オランザピンの2水和物Bを約100〜300mmの減圧下、約50℃の減圧オーブン中で約30時間乾燥する。X線粉体分析を用いて、得られる物質がII形であることを確認する。
実施例6
【0050】
オランザピンの2水和物Eを約100〜300mmの減圧下、約50℃の減圧オーブン中で約30時間乾燥する。X線粉体分析を用いて得られる物質がII形であることを確認する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オランザピン2水和物である化合物。
【請求項2】
該2水和物が、以下の典型的な相対強度パターンを有するII形オランザピン:
【表1】

を製造するための中間体である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
該2水和物が以下の面間隔(d)によって示される典型的なX線粉体回折パターンを有する結晶2水和物Bオランザピン多形である請求項1記載の化合物:
d
9.9045
6.9985
6.763
6.4079
6.1548
6.0611
5.8933
5.6987
5.4395
5.1983
5.0843
4.9478
4.7941
4.696
4.5272
4.4351
4.3474
4.2657
4.1954
4.0555
3.9903
3.9244
3.8561
3.8137
3.7671
3.6989
3.6527
3.5665
3.4879
3.3911
3.3289
3.2316
3.1982
3.1393
3.0824
2.9899
2.9484
2.9081
2.8551
2.8324
2.751
2.7323
2.6787
2.6424
2.5937。
【請求項4】
結晶2水和物Bオランザピン多形が以下の典型的な相対強度パターンを有する請求項3記載の化合物:
【表2】

【請求項5】
純粋である請求項4記載の化合物。
【請求項6】
該2水和物が以下の典型的な相対強度パターンを有する結晶2水和物Eオランザピン多形である請求項1または2に記載の化合物:
【表3】

【請求項7】
純粋である請求項6記載の化合物。
【請求項8】
以下の典型的な相対強度パターンを有するII形オランザピン:
【表4】

以下の典型的な相対強度パターンを有する結晶2水和物Bオランザピン多形:
【表5】

を含む製剤。
【請求項9】
該結晶2水和物Bオランザピン多形において、望ましくない2水和物が20%以下である請求項8記載の製剤。
【請求項10】
該結晶2水和物Bオランザピン多形において、望ましくない2水和物が5%以下である請求項9記載の製剤。

【公開番号】特開2009−242407(P2009−242407A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135901(P2009−135901)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【分割の表示】特願平10−514842の分割
【原出願日】平成9年9月18日(1997.9.18)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】