説明

オリゴ−エチレングリコールベースのポリマー組成物および使用方法

本発明は、ポリマー骨格にα-アミノ酸およびオリゴ-エチレンエーテルセグメントを含めるための溶液重縮合によって合成される生分解性PEA、PEURおよびPEUを提供する。本ポリマーは、その製造中に脂肪族二酸およびジオールをオリゴ-エチレングリコール(OEG)で置換することによって得ることができる。生物活性物質がポリマー中に分散している組成物も提供する。本組成物は酵素作用によって生分解され、組み入れられた生物活性物質およびオリゴ-エチレングリコールセグメントを放出し、それらは400Da未満の分子量では完全に生分解性である。その比較的迅速な表面での酵素加水分解のために、本組成物は、約18〜24時間といった相対的に迅速な送達時間以内に制御された様式で生物活性物質を送達するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として、薬物送達システムに関し、詳細には、種々の異なるタイプの分子を制御された徐放性様式で送達することのできるポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
持続送達、または迅速であるが滑らかな放出のいずれかのために、例えば癌治療薬および疼痛緩和薬の送達などのために、薬物の送達プロファイルを制御する組成物を開発する目的で、さまざまな方法を用いた取り組みがなされてきた。例えば、ミクロ/ナノスフェア、リポソーム、アルブミン結合体(conjugate)、水溶性プロドラッグ、シクロデキストリン複合体およびヒドロゲルなどの組成物がそのような目的に試みられてきたが、そのような組成物は薬物の大きな初期バーストを放出する傾向があり、その結果、制御された期間にわたる持続送達は成功していない。
【0003】
検討された1つの手法では、ペプチドを含む生物活性物質が、生物活性物質の半減期を増大させるためにポリエチレングリコール(PEG)と結合された。そのような結合体の送達プロファイルは一般に、循環中の薬物の半減期が、用いるPEG分子の分子量に比例することを示している。PEGの生物動態および生体内分布は用いるPEG分子のサイズにも依存することが示されている。
【0004】
当技術分野におけるこれらの進展にもかかわらず、例えば、制御された期間にわたる持続送達を伴う滑らかな放出速度プロファイルを達成することを目的とする、さまざまな生物活性物質の投与のためにポリエチレングリコールおよび類似の化学構造を持つ分子を用いるための、新規でより良い組成物および方法の必要性がある。
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
本発明は、オリゴ-エチレングリコール含有(OEGベースの)分子を、ポリマー骨格中に反復単位当たり少なくとも1つのα-アミノ酸を含むポリ(エステルアミド)(PEA)、ポリ(エステルウレタン)(PEUR)およびポリ(エステルウレア)(PEU)ポリマーのポリマー骨格に導入しうるという前提に基づく。そのようなオリゴ-エチレングリコール含有ポリマーを、本明細書ではポリ(エステルエーテルアミド)(PEEA)、ポリ(エステルエーテルウレタン)(PEEUR)およびポリ(エステルエーテルウレア)(PEEU)と称し、これらは、1つまたは複数の分散した生物活性物質の一貫性および信頼性のある様式での迅速な放出のための生分解性ポリマー組成物を製剤化するために用いることができる。例えば、そのような組成物は、その中に含まれる生物活性物質を、約24時間の期間以内に滑らかな放出速度プロファイルで放出させるために用いることができる。
【0006】
したがって、1つの態様において、本発明は、生物活性物質が生分解性ポリマー中に分散している、OEGベースの組成物を提供する。本ポリマーは、以下のa)からf)までの少なくとも1つを含む。
a)構造式(I)によって記載される化学式を有するポリ(エステルエーテルアミド)(PEEA):

式(I)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)

式(II)
のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンである式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり;
個々のn個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)

式(III)
の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択される;
b)構造式(IV)によって記載される化学式を有するPEEAポリマー:

式(IV)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり:pは約0.9〜0.1の範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12) アルケニレンおよび式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンである式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルまたは保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである;
c)構造式(V)によって記載される化学式を有するポリ(エーテルウレタン)(PEEUR):

式(V)
式中、nは約15から約150までの範囲であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおけるR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される;
d)一般構造式(VI)によって記載される化学構造を有するPEEUR:

式(VI)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり、pは約0.9〜約0.1の範囲であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C1-C6)アルキル(C6-C10)アリールおよび保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおけるR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである;
e)一般構造式(VII)によって記載される化学式を有するポリ(エーテルウレア)(PEEU):

式(VII)
式中、
nは約15〜約150であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される;ならびに
f)式VIIIは、構造式(VIII)によって記載される化学式を有するPEEUであり、

式(VIII)
式中、
mは約0.1〜約1.0であり;pは約0.9〜約0.1であり;nは約15〜約150であり;
R2は独立に、水素、(C1-C12)アルキルまたは(C6-C10)アリールからなる基であり;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである。
【0007】
もう1つの態様において、本発明は、上記の式I、IV、V、VI、VIIまたはVIIIによって記載される化学構造を有する、生分解性のOEGベースのポリマーを提供する。
【0008】
さらにもう1つの態様において、本発明は、内部に分散している生物活性物質の送達のために有用な、生分解性のミセル形成性ポリマー組成物を提供する。本組成物は、
b)水溶性区域(section)
と連結している
a)上記の構造式I、IV、V、VI、VIIまたはVIIIによって記載される化学構造を有する、少なくとも1つの本発明の生分解性のOEGベースのポリマーを含む疎水性区域
の交互反復単位(repeating alternating unit)を有するポリマーを含む。水溶性区域は、
i)Mwが400ダルトン〜約200ダルトンであるポリエチレングリコールと、
ii)少なくとも1つのイオン性または極性アミノ酸と
の交互反復単位でできている。これらの交互反復単位は実質的に同程度の分子量を有し、かつポリマーの分子量は約15kDa〜300kDaの範囲である。
【0009】
さらにもう1つの態様において、本発明は、上記の構造式I、IV、V、VI、VIIまたはVIIIによって記載される化学構造を有する本発明のOEGベースの生分解性ポリマーの少なくとも1つまたはそれらの配合物(blend)中に分散している少なくとも1つの生物活性物質を含む、本発明のOEGベースのポリマー組成物をインビボで対象に投与することによって、生物活性物質を対象に送達するための方法を提供する。本組成物は、内部に少なくとも1つの生物活性物質が分配されている(disbursed)ポリマー粒子の液体分散物として製剤化することができる。粒子はその表面で酵素作用によって生分解されて、生物活性物質を約24時間の期間にわたって実質的にゼロ次放出速度で放出する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のOEGベースのPEA、AP3EGの、37℃およびpH 7.4での重量減少速度に対する酵素(α-キモトリプシン)濃度の影響を示しているグラフである。PBS緩衝液を対照として用いている。(-■-)=PBS緩衝液;(-●-)=α-キモトリプシン、0.05mg/mL;(-▲-)=α-キモトリプシン、0.10mg/mL;(-▼-)=α-キモトリプシン、0.20mg/mL。
【図2】本発明のPEEAに組み入れられた二酸構造(モノマー1)の、PBSまたはα-キモトリプシン媒質(0.1mg/mL)中、37℃でのその重量減少に対する影響を示しているグラフである。実線=酵素溶液。点線=PBS媒質。-■-=モノマー1a(4つのメチレン基を有するアジピン酸ジ-p-ニトロフェニル);-○-=モノマー1b(8つのメチレン基を有するセバシン酸ジ-p-ニトロフェニル)。
【図3】図3A〜3Cは、インビトロでのリパーゼ触媒下の生分解を、純粋なリン酸緩衝媒質中のものと比較して、3種の本発明のPEEURのmg/cm2単位での重量減少に関して、OEGセグメントを含まないPEA 8-L-Leu-6のそれとの比較で示しているグラフである。図3A=EG2-Leu-2;図3B=EG3-Leu-2;図3C=EG4-Leu-2。曲線a)リパーゼ触媒下のリン酸緩衝媒質、pH 7.4、t=37℃;曲線b)純粋なリン酸緩衝媒質;曲線c)リパーゼ触媒下のリン酸緩衝媒質中でのPEA 8-L-Leu-6の分解。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、アミノ酸の間に1つまたは複数のエステル結合を有する骨格セグメントを含むα-アミノ酸含有PEA、PEURおよびPEUポリマーが、OEGベースの骨格セグメントが生分解を受けると約44(モノエチレングリコール)から400Daまでの、ただし400Daは含まない分子量(Mw)を有するOEGを形成する限り、完全に生分解性であるという発見に基づく。ポリマー骨格中の少なくとも1つのエステル結合は、本発明のポリマーファミリーの重縮合に用いられるジオール成分(およびPEEAの場合には二酸)に容易に導入される。本発明のPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーの構造特性のために、そのようなポリマーを用いて作られた組成物は、さまざまな治療目標を実現するのに適した、分配された生物活性物質の放出速度を達成するように調整することができる。例えば、そのようなポリマーを用いて作られる粒子およびフィルムは、薬物放出の大きな初期バーストを伴わず、かつ実質的にゼロ次放出プロファイルを有する、24時間の輸注(infusion)に類似した放出速度で生分解されるように設計することができる。
【0012】
より詳細には、1つの態様において、本発明は、本明細書でポリ(エーテルエステルアミド)(PEEA)、ポリ(エーテルエステルウレタン)(PEEUR)およびポリ(エーテルエステルウレア)(PEEU)と称する生分解性ポリマーのファミリーのうち少なくとも1つの中に分配された少なくとも1つの生物活性物質を含む、生分解性ポリマー組成物を提供する。本発明において用いられるポリマーは、生分解を受けると分子量(Mw)が400Daまたはそれ未満であるOEGベースの骨格セグメントが放出されるような、少なくとも1つのOEGベースの骨格セグメントを含む。このため、生分解を受けると、ポリマーはそのOEGベースのセグメントを含めて、刺激物質の形成を伴うことなく完全に生分解される(R. Mehvar, J. Pharm Pharmaceut Sci (2000) 3(1):125-136;およびT. Yamaoka, J. Pharm Sci (1994) Apr, 83(4):601-6)。加えて、400Daまたはそれ未満のOEGセグメントは、哺乳動物では内網・腎臓系(endoreticular and renal system)によって循環から選別除去されるため、ポリマー分解生成物およびポリマー中に分散しているあらゆる生物活性物質は、酵素的生分解を受けると循環中から排除される。
【0013】
したがって、1つの態様において、本発明のPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーは、ポリマーの製造(fabrication)中に、分子量が400Daまたはそれ未満であるOEGベースのセグメントを含む少なくとも1つのジオール(またはPEEAの場合には二酸)を用いることによって作られる。そのようなジオールおよび二酸のみが製造に用いられた場合、生成されるPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーは公知のPEG含有ポリマーの類似体であるが、生分解を受けると主要な分解生成物は、生体α-アミノ酸などのα-アミノ酸、および44から400Da未満までのOEGセグメントである。それ故に、本発明のポリマーおよびそれらをベースとする組成物は、PEG分解生成物(すなわち、Mwが400Daまたはそれ以上であるもの)を形成するポリマーの場合のように、より分子量の大きいOEGセグメントを含むポリマーの分解に起因する刺激作用を伴うことなく、哺乳動物対象によって容易に生分解される。
【0014】
より詳細には、1つの態様において、本発明は、以下のa)からf)までの少なくとも1つ、またはそれらの配合物を含む、生分解性のOEGベースのポリマー中に分散している少なくとも1つの生物活性物質を含む組成物を提供する。
a)構造式(I)によって記載される化学式を有するポリ(エステルエーテルアミド)(PEEA):

式(I)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)

式(II)
のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし例外として各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり、ここでR7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンであり;
個々のn個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)

式(III)
の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択される;
b)構造式(IV)によって記載される化学式を有するPEEAポリマー:

式(IV)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり:pは約0.9〜0.1の範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし例外として各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり、ここでR7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンであり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルまたは保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである;
c)構造式(V)によって記載される化学式を有するポリ(エーテルウレタン)(PEEUR):

式(V)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおけるR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される;
d)一般構造式(VI)によって記載される化学構造を有するPEEUR:

式(VI)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり、pは約0.9〜約0.1の範囲であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C1-C6)アルキル(C6-C10)アリールおよび保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおけるR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである;
e)一般構造式(VII)によって記載される化学式を有するポリ(エーテルウレア)(PEEU):

式(VII)
式中、
nは約15〜約150であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される;ならびに
f)構造式(VIII)によって記載される化学式を有するPEEU:

式(VIII)
式中、
mは約0.1〜約1.0であり;pは約0.9〜約0.1であり;nは約15〜約150であり;
R2は独立に、水素、(C1-C12)アルキルまたは(C6-C10)アリールからなる基であり;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである。
【0015】
例えば、1つの態様において、構造式(I)または(IV)またはその両方によって記載されるポリマーにおいて、n個の各モノマーにおけるR7は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンであり、R4はCH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)およびいずれか1つの(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される。この態様において、ポリマーは生分解されて、44から400Daまでの、ただし400Daは含まないMwを有する15〜300個のOEGを形成すると考えられる。
【0016】
さらにもう1つの態様において、構造式(V)または(VI)またはその両方によって記載されるポリマーにおいて、n個の各モノマーにおけるR4またはR6は、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される。または、構造式(V)または(VI)またはその両方によって記載されるポリマーにおいて、n個の各モノマーにおけるR4およびR6は両方とも、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C4)アルキルオキシ(C2-C8)アルキレンからなる群より選択される。後者の態様において、ポリマーは生分解されて、44から400Daまでの、ただし400Daは含まないMwを有する15〜300個のOEGを形成すると考えられる。
【0017】
組成物中のポリマーが構造式(VII)または(VIII)またはその両方によって記載される、さらにもう1つの態様において、n個の各モノマーにおけるR4は、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C4)アルキルオキシ(C2-C8)アルキレンからなる群より選択される。この態様において、ポリマーは生分解されて、44から400Daまでの、ただし400Daは含まないMwを有する15〜300個のOEGを形成すると考えられる。
【0018】
本明細書で用いる場合、「アルケニル」とは、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基のことを指す。
【0019】
本明細書で用いる場合、「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基のことを指す。
【0020】
本明細書で用いる場合、「アリール」とは、6個から14個までの範囲の炭素原子を有する芳香族基のことを指す。
【0021】
本発明の組成物中に用いられるPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーはである。式(IV、VIおよびVIII)における「m」と「p」との比は、これらの重縮合物ポリマーの記載の中で無理数と定義される。さらに、「m」および「p」はそれぞれ、任意の重縮合物の中の範囲を占めると考えられるため、そのような範囲を一対の整数によって定義することはできない。各ポリマー鎖は、すべてのビス-アミノアシルジオール-ジエステル(i)および無方向性(adirectional)アミノ酸(例えば、リジン)のモノマー残基(ii)が、PEEAの場合には二酸モノマー残基(iii)によって、PEEURの場合にはジオール残基(iii)によって、またはPEEUの場合にはカルボニル(iii)によって、それら自体にまたは相互に連結されるという規則によって連結し合ったモノマー残基の連なり(string)である。すなわち、i-iii-i、i-iii-ii(またはii-iii-i)およびii-iii-iiという線状組み合わせ(linear combination)のみが形成される。次には、これらの組み合わせのそれぞれが、PEEAの場合には二酸モノマー残基(iii)によって、PEEURの場合にはジオール残基(iii)によって、またはPEEUの場合にはカルボニル(iii)によって、それら自体にまたは相互に連結される。このため、各ポリマー鎖は、整数個のモノマーi、iiおよびiiiで構成される、モノマー残基の総計的ではあるがランダムではない連なりである。しかし、一般に、任意の現実的な平均分子量(すなわち、十分な平均長)のポリマー鎖については、式(IV、VIおよびVIII)におけるモノマー残基の「m」と「p」との比は自然数(有理整数)ではないと考えられる。さらに、すべての多分散コポリマー鎖の縮合物に関して、鎖の全体で平均した(すなわち、平均鎖長に対して標準化した)モノマーi、iiおよびiiiの数は整数ではないと考えられる。その必然的な結果として、これらの比は無理数の値(すなわち、有理数ではない任意の実数)しか取れないことになる。無理数とは、この用語を本明細書で用いる場合、nおよびjが整数である形式n/jではない比から導き出されるものである。
【0022】
本明細書で用いる場合、「アミノ酸」および「α-アミノ酸」という用語は、アミノ基、カルボキシル基、および本明細書で定義したR3基のようなペンダントR基を含む化合物を意味する。本明細書で用いる場合、「生体α-アミノ酸」という用語は、フェニルアラニン、ロイシン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、メチオニンまたはそれらの混合物から選択される、合成に用いられるアミノ酸を意味する。本明細書で用いる場合、「無方向性アミノ酸」という用語は、R基(例えば、式VIおよびVIIIにおけるR8)がポリマー骨格の内部に挿入されるような、α-アミノ酸から得られるポリマー鎖の内部の化学部分(chemical moiety)を意味する。
【0023】
本明細書で用いる場合、「生物活性物質」という用語は、本発明の組成物のポリマー中に分散している、本明細書で開示される生物活性物質を意味する。本明細書で用いる場合、生物活性物質に言及して用いられる「分散している」という用語は、生物活性物質がポリマーの中に混合されている、溶解されている、ポリマーともにホモジナイズされている、および/またはポリマーと共有結合している、例えば、組成物のポリマー中の官能基またはポリマー粒子の表面と付着(attach)していることを意味する。そのような生物活性物質には、低分子薬物、ペプチド、タンパク質、DNA、cDNA、RNA、糖、脂質および全細胞が非限定的に含まれうる。生物活性物質は、さまざまな治療目標および投与経路を実現するために適した、種々のサイズおよび構造を有するポリマー粒子の中にある状態で投与することができる。
【0024】
本発明のOEGベースのポリマー組成物を記載するために本明細書で用いられる「生分解性」という用語は、その中に用いられるポリマーが、体の正常な機能において無害な生成物に分解されうることを意味する。これは、本発明のポリマーの製造に用いられるアミノ酸が生体L-α-アミノ酸であり、ポリマーの製造に用いられるジオールおよび二酸が生分解を受けると44から400Daまでの、ただし400Daは含まないOEGセグメントを形成する場合に特にあてはまる。本発明のOEGベースのポリマー組成物中のポリマーは、生分解性を提供する加水分解可能なエステルおよび酵素により切断可能なアミド結合を含み、典型的には鎖の末端は主としてアミノ基である。任意で、ポリマーのアミノ末端をアセチル化または任意の他の酸含有性生体適合性分子との結合による他の様式でキャッピングして、限定的ではないが、有機酸、生体不活性物質および本明細書に記載した生物活性物質を含めることもできる。1つの態様において、ポリマー組成物全体およびそれでできた任意の粒子は、実質的に生分解性である。
【0025】
1つの選択肢において、本発明のOEGベースのポリマーの製造に用いられるα-アミノ酸の少なくとも1つは、生体α-アミノ酸である。例えば、R3がCH2Phである場合には、合成に用いられる生体α-アミノ酸はL-フェニルアラニンである。R3がCH2CH(CH3)2である選択肢において、ポリマーは生体α-アミノ酸、L-ロイシンを含む。本明細書に記載したモノマー内のR3を変更することにより、他の生体α-アミノ酸、例えば、グリシン(R3がHの場合)、アラニン(R3がCH3の場合)、バリン(R3がCH(CH3)2の場合)、イソロイシン(R3がCH(CH3)CH2CH3の場合)、フェニルアラニン(R3がCH2C6H5の場合)またはメチオニン(R3が(CH2)2SCH3の場合)およびそれらの組み合わせを用いることもできる。さらにもう1つの代替的な態様において、本発明のOEGベースのポリマー組成物中の作製に用いられるポリマー中に含まれるさまざまなα-アミノ酸のすべてが、本明細書に記載された生体α-アミノ酸である。
【0026】
ポリマー組成物は、種々の特性を提供するように製剤化することができる。1つの態様において、本発明のPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーの粒子は、その中に分散している生物活性物質の周囲の組織/細胞への局所送達のためにインビボ注射された場合に、インビボで集塊化して徐放性ポリマーデポーを形成するようにサイジングされる。
【0027】
したがって、さらにもう1つの態様において、本発明は、1つまたは複数の生物活性物質を対象の体内の局所部位に送達するための方法を提供する。この態様において、本発明の方法は、対象の体内のインビボ部位に、内部に少なくとも1つの生物活性物質が分散しているポリマー粒子として製剤化された本発明のOEGベースのポリマー組成物を注射することを伴う。注射された粒子は集塊化して、サイズの増大した粒子のポリマー性デポーを形成し、この集塊は個々の粒子を緩徐に放出すると考えられ、それは本明細書に記載した酵素作用によって生分解されて、分散している生物活性物質を放出すると考えられる。生分解の後に、各ポリマー分子もまた、44から400Daまでの、ただし400Daは含まない分子量を有する15〜300個のオリゴ-エチレングリコール(OEG)分子を循環中に放出すると考えられる。本明細書に記載したように、任意の特定のポリマーの生分解によって放出される、分子量が400Daまたはそれ未満であるオリゴ-エチレングリコール(OEG)分子の数は、ポリマーの製造に用いられるジオールおよび二酸の選択に依存すると考えられる。
【0028】
OEGベースのPEEA、PEEURまたはPEEU粒子の分散体は、非経口的に、例えば皮下、筋肉内、または臓器などの体内部位に注射することができる。サイズが約19〜約27ゲージの範囲にある医薬シリンジ針を通過することのできるサイズのポリマー粒子、例えば平均直径が約1μm〜約200μmの範囲にあるものを体内部位に注射することができ、それらは集塊化して、分散している生物活性物質を局所的に分与するデポーを形成する大きいサイズの粒子を形成すると考えられる。他の態様において、生分解性ポリマー粒子は、生物活性物質が循環中に入って全身性の標的指向性および徐放性の放出を行うための担体として作用する。サイズが約10nm〜約500nmの範囲にある本発明のポリマー粒子は、そのような目的で循環中に直接入ると考えられる。
【0029】
本発明のOEGベースのポリマー組成物中に用いられる生分解性ポリマーは、ポリマーの生分解の速度を調整して、選択した期間にわたって生物活性物質の制御された送達がもたらされるように設計することができる。例えば、典型的には、本発明の組成物の薄いディスクは、24時間以内に約81%〜56%の重量減少という重量減少を来すように、(例えば、インビボで認められるような)酵素溶液中での表面浸蝕によって生分解される。
【0030】
本発明は、非常にさまざまな疾患および疾患症状の治療において、非常にさまざまな生物活性物質を、ポリマーおよび粒子サイズの選択によって人為的に操作することのできる速度で送達するために、生分解性ポリマー粒子を介した送達手法を用いる。本明細書に記載したポリマー組成物および方法の個々の成分のうちある種のものは公知であったが、そのような組み合わせが、生物活性物質が放出される時間間隔を、これまでに達成されている制御のレベルを超えて制御するために、生分解性ポリマー、生物活性物質および粒子サイズを臨床医(practitioner)が選択することを可能にすると考えられることは、予想外かつ驚くべきことであった。
【0031】
構造式(IおよびIV〜VIII)によって記載される、本発明の実施における使用のために適したポリマーは、ポリマーへの生物活性物質または被覆分子の容易な共有結合性の付着を可能にする官能性を持つ。例えば、カルボキシル基を持つポリマーは、アミノ部分と容易に反応することができ、それにより、その結果得られるアミド基を介してペプチドとポリマーを共有結合させることができる。本明細書で記載されるように、生分解性ポリマーおよび生物活性物質は、生物活性物質と生分解性ポリマーを共有結合させるために用いうるさまざまな補足的官能基を含んでもよい。例えば、活性ビス-カーボネート(実施例2における化合物4a〜c)とオリゴ-エチレングリコール(OEG)ベースのジ-p-トルエンスルホン酸塩(以下および実施例2における化合物2a〜e)との重縮合によって形成されるPEEURは、さまざまな化学的および生化学的用途のためのPEGの生分解性類似体として有用な可能性がある。

【0032】
モノマー2a〜eは、以下の実施例に記載されるようにα-アミノ酸とモノマーとしてのOEGとの直接縮合によって合成することができる。または、当業者に周知のペプチド化学の方法を用いて、さまざまな疎水性のα-アミノ酸を、モノマー2a〜eを合成するために用いることもできる。後者の方法は、本発明の生分解性のOEGベースのポリマーの親水性/疎水性バランスの調節を可能にする。このため、本発明のポリマーおよび組成物の特性および生物学的用途は広範囲にさまざまでありうる。
【0033】
例えば、PEEURの骨格におけるすべてのヘテロ結合―エーテル結合およびウレタン結合―は親水性であり、それ故にこれらのポリマーの水溶性を高める。OEGセグメントを連結するα-アミノ酸における側方R3置換基の賢明な選択により、本発明のOEG含有ポリマーの親水性/疎水性バランスを、当技術分野で周知であり本明細書に記載されているような原理を用いて調節することができる。
【0034】
本発明のPEEA、PEEURおよびPEEUは、溶液活性重縮合を介して得られる他のポリマーと同様に、これらのポリマーをその後の化学的/生化学的用途のために、当技術分野で周知であり本明細書に記載されているような方法を用いて官能化するために用いうる2つの末端基を含む。さらに、モノ-エタノールアミンとの相互作用により、ポリマーの末端活性カーボネート基を、ポリマーの親水性を高めるためにオキシ-エチルウレタン基に変換させることができる。
【0035】
またはさらに、末端OH基を、その後の変換のために、例えばアクリレートを付着させるために用いることもできる。同様なやり方で、SHを末端とするPEEURを、メルカプト-アミンとの相互作用によって合成することができる。SHを末端とするPEEURは、以下に記載するように、活性二重結合部分を含むポリマーと、例えばフマル酸ベースの不飽和PEAと、穏和な条件下で付着させることができ、またはその後の変換のために用いることもできる。
【0036】
本発明のPEEURはまた、他の不飽和ポリマーに対する、例えばフマル酸ベースの不飽和PEAなどに対する、それらに親水性または水溶性を付与するための化学/光化学グラフティングのために用いることもできる。
【0037】
不飽和マレイミド環を末端とするPEEA、PEEURおよびPEEUは、HS含有分子との、例えばタンパク質、酵素、ペプチドなどとの本発明の組成物中に用いられるポリマーの付着(attachment)に関心が持たれ、いくつかのやり方で合成することができる。例えば、マレイミドを末端とするポリマーは、末端アミノ基と過剰量のN.N'-アルキレン-ビス-マレイミドとの、または活性ジエステル、例えばN-マレイミド-β-アラニンとの相互作用によって合成することができる。
【0038】
また、SHを末端とするポリマー(上記の通りに形成される)を、末端アミノ基と過剰量のN.N'-アルキレン-ビス-マレイミドとの相互作用によって、マレイミドを末端とするPEEA、PEEURおよびPEEUを合成するために用いることもできる。
【0039】
末端活性カーボネート基は、以下のスキームに従ってマレイミド末端に変換することができる。

【0040】
本発明のOEGベースのポリマー組成物中のポリマーは、個々の内因性プロセスが生物活性物質と相互作用するのに十分な期間にわたって生物活性物質を注射部位に保持させることにより、局所注射部位での治療プロセスにおいて活発な役割を果たし、同時にその間、そのような物質を含む粒子またはポリマー分子をポリマーの生分解の過程で放出する。脆弱な生物活性物質が、より緩徐に生分解されるポリマーによって保護されて、生物活性物質の半減期および持続性が増大する。
【0041】
加えて、本明細書で開示されるポリマー(例えば、構造式(IおよびIV〜VIII)を有するものは、酵素分解を受けるとα-アミノ酸をもたらし、一方、他の分解生成物は、脂肪酸および糖が代謝される様式で代謝されうる、OEGまたはさもなければジオールもくは二酸のいずれかである。ポリマーの取り込みは安全である。諸研究により、対象がポリマー分解生成物を代謝して排出することができることが示されている。このため、これらのポリマーおよび本発明のOEGベースのポリマー組成物は、注射それ自体によって引き起こされる外傷を除けば、対象にとって注射部位および全身のいずれにおいても実質的に非炎症性である。
【0042】
本発明の実施において有用なPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーにおいて、複数の異なるα-アミノ酸を単一のポリマー分子中に用いることができる。ポリマーは反復単位当たり少なくとも2種の異なるアミノ酸を含んでよく、単一のポリマー分子は、分子のサイズに依存して、ポリマー分子中に複数の異なるα-アミノ酸を含んでよい。
【0043】
また、本明細書に記載されたポリマーを、ブロックコポリマー中に用いることもできる。さらにもう1つの態様において、ポリマーは、2ブロックまたは3ブロックコポリマーにおける1つのブロックとして用いることができ、それは例えば、以下に述べるように、ミセルを作製するために用いることができる。
【0044】
本発明のOEGベースのポリマー組成物および方法は、ポリエステルアミド(PEA)、ポリエステルウレタン(PEUR)およびポリエステルウレア(PEU)のより大規模なファミリーのメンバーであり、その多くは側鎖上に固有の(built-in)官能基を有し、これらの固有の官能基は他の化学物質と反応して別の官能基の組み込みを導いて、ポリマーの官能性をさらに拡張する。同様に、本発明の方法に用いられるOEGベースの(すなわち、PEEA、PEEURまたはPEEU)ポリマーは、事前の修飾を必要とせずに、粒子の水溶性を高めるために親水性構造を有する他の化学物質と直ちに反応させることができ、生物活性物質および被覆分子と直ちに反応させることができる。
【0045】
加えて、本発明のOEGベースのポリマー組成物中に用いられるOEGベースのポリマーは、食塩水(PBS)媒質中で試験すると加水分解性の分解をわずかしか示さないが、リパーゼ、キモトリプシンまたはCTなどの酵素溶液中では、本明細書に記載したように実質的にゼロ次放出プロファイルを生じる、均一な表面浸蝕性の挙動が観察されている。
【0046】
PEEA、PEEURおよびPEEUポリマー中に用いるために適した保護基には、t-ブチルまたは当技術分野において公知の別のものが含まれる。一般式(III)の適した1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールには、D-グルシトール、D-マンニトールまたはL-イジトールのように糖アルコールから得られるものが含まれる。ジアンヒドロソルビトールは、本発明の本発明のOEGベースのポリマー組成物の製造に用いられるPEEA、PEEURおよびPEEUポリマー中に用いるために現時点で好ましい、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片である。
【0047】
「オリゴ-エチレングリコール(OEG)」という用語は、本明細書で用いる場合、化学構造HO-(CH2-CH2-O)1-9-Hを有する、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを意味する。「オリゴ-エチレングリコール含有(OEG含有)」部分および「オリゴ-エチレングリコールベースの(OEGベースの)」部分という用語は、本明細書において、ポリマーの酵素的生分解を受けるとOEG分子を放出するポリマーセグメントを指すために用いられ、そのOEGは単分散性であってもよいが、より一般的には多分散性であり、多分散指数が約1.05から最大2.0までの範囲にある。本明細書で記載する多分散性OEG分子は、その重量平均分子量)(Mw)およびその数平均分子量(Mn)によって統計学的に特徴づけられ、それらの比は多分散指数(Mw/Mn)と呼ばれる。
【0048】
本明細書における分子量および多分散性は、ポリスチレン標準物質を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。より詳細には、数平均分子量および重量平均分子量(MnおよびMw)は、例えば、高圧液体クロマトグラフィーポンプ、Waters 486 UV検出器およびWaters 2410示差屈折率検出器を備えたModel 510ゲル浸透クロマトグラフィー(Water Associates, Inc., Milford, MA)を用いて決定される。テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)またはN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を溶離液(1.0mL/分)として用いる。狭い分子量分布を有するポリスチレンまたはポリ(メチルメタクリレート)標準物質を、較正のために用いた。
【0049】
一般式中にα-アミノ酸を含むポリマーを作製するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、R4がα-アミノ酸の中に組み入れられている構造式(I)のポリマーの態様については、ポリマー合成のために、例えば、ペンダントR3を有するα-アミノ酸を、エステル化を通じてビス-α,ω-ジアミンに変換することができる。例えば、ペンダントR3を含むα-アミノ酸を、少なくとも1つのオリゴ-エチレングリコールベースのジオール(OEGジオール)と縮合させることができる。その結果として、反応性α,ω-アミノ基を有するOEG含有ビス-α-アミノアシルジエステルモノマーが形成される。続いて、ビス-α,ω-ジアミンはアジピン酸、セバシン酸もしくはフマル酸などの二酸との、またはビス-活性化エステルもしくはビス-塩化アシルとの重縮合反応に入り、OEG含有部分ならびにエステル、エーテルおよびアミド結合を有する最終的なポリマー(PEEA)が得られる。または、例えば、構造(I)のポリマーについては、二酸の代わりに、活性化された二酸誘導体、例えばビス-パラ-ニトロフェニルジエステルを、活性化された二酸として用いることができる。さらに、ビス(p-ニトロフェニル)オリゴエーテル含有ジカーボネートなどのビス-ジ-カーボネートを活性化された種として用いて、2〜9個のエチレンオキシド官能性を含むジオールの残基(すなわち、OEG含有部分)を含むポリマーを得ることもできる。
【0050】
本発明による活性重縮合のために有用なOEG含有二酸型の化合物には、短い脂肪族無毒性二酸、およびジオールとしてのOEGで構成される、式(III)のα,ω-アルキレンジカルボン酸がある。
【0051】
これらの分子は、生物的(酵素)および非生物的な加水分解によって容易に切断可能な、少なくとも1つのエステル基を本来的に含む。本発明のPEEA、PEEURおよびPEEUポリマー組成物は、以前から知られているPEA、PEURおよびPEUポリマーと比べて、親水性が増大し、骨格鎖における単位当たりのエステル基が増加しており、このエステル基は、場合によっては、アルキレン鎖を有する脂肪族ジオールおよび二酸で構成されるポリマーよりも迅速な生分解性を付与する。
【0052】
合成の第一段階の例として、構造式(III)の種々の新たなOEG含有ジエステル-二酸(またはアルキレン-ジカルボン酸)を、ジオールと、マレイン酸無水物、コハク酸無水物およびグルタル酸無水物などの環状の脂肪族五員または六員無水物との相互作用によって製造することができる。アルキレン-ジカルボン酸合成の一般的なスキームは、以下の反応スキームIに示されている。

ここで、R5=(CH2)2、(CH2)3またはCH=CHであり;R7=(-CH2-CH2-O-)kであり、かつk=1〜9の任意の整数である。
スキーム(I)
【0053】
合成の第二段階の例として、構造式IXのアルキレン-ジカルボン酸のさまざまな活性ジ-(p-ニトロフェニル)エステルが製造されている。この反応は、第一段階(式II)で形成された二酸と、p-ニトロフェノールとの、種々の縮合剤の存在下における相互作用によって達成される。

(式IX)
式中、R5は、例えば、(CH2)2、(CH2)3、CH=CHから選択することができ;かつ、R7は、k=1〜9の任意の整数のR7=(-CH2-CH2-O-)kから選択することができる。
【0054】
不飽和PEEAは、
(1)不飽和ジオールのビス(α-アミノ酸)ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩、および飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステル、または
(2)飽和ジオールのビス(α-アミノ酸)ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩、および不飽和ジカルボン酸のジ-ニトロフェニルエステル、または
(3)不飽和ジオールのビス(α-アミノ酸)ジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩、および不飽和ジカルボン酸のジ-ニトロフェニルエステル
のいずれかの溶液重縮合によって調製することができる。本発明において、製造に用いられるジオールおよび/または二酸の少なくとも1つ、好ましくはすべては、1個〜8個のエーテル官能性を含む。
【0055】
p-トルエンスルホン酸の塩は、アミノ酸残基を含むポリマーの合成における使用に関して公知である。アリールスルホン酸塩が遊離塩基の代わりに用いられるのは、ビス(α-アミノ酸)ジエステルのアリールスルホン酸塩は再結晶化によって容易に精製され、ワークアップ(workup)の全体を通じてアミノ基を反応性の低いアンモニウムトシラートとするためである。重縮合反応において、求核性アミノ基は、トリエチルアミンなどの有機塩基の添加によって容易に現われるため、ポリマー生成物が高収率で得られる。
【0056】
構造式(I)のポリマーについては、例えば、不飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステルは、p-ニトロフェニルおよび不飽和ジカルボン酸塩化物から、例えばトリエチルアミンおよびp-ニトロフェノールをアセトン中に溶解し、不飽和ジカルボン酸塩化物を-78℃で撹拌しながら滴下して、水中に注いで生成物を沈澱させることによって合成することができる。適した酸塩化物には、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、エテニル-ブタン二酸および2-プロペニル-ブタン二酸の塩化物が含まれる。構造(V)および(VI)のポリマーについては、飽和または不飽和ジオールのビス-p-ニトロフェニルジカーボネートを活性化モノマーとして用いる。一般式(X)のジカーボネートモノマーが構造式(V)および(VI)のポリマーに対して用いられ、各R10は独立に、1つまたは複数のニトロ、シアノ、ハロ、トリフルオロメチルまたはトリフルオロメトキシで置換されていてもよい(C6-C10)アリールであり;かつ、R6は上記の通りであってよい。

式(X)
【0057】
α-アミノ酸と不飽和ジオールとのジエステルのジ-アリールスルホン酸塩は、トルエン中でα-アミノ酸、例えばp-アリールスルホン酸一水和物および飽和または不飽和ジオールを混合し、水の発生が最小限となるまで還流温度に加熱し、続いて冷却することによって調製することができる。エーテル官能性を含まない不飽和ジオールには、例えば、2-ブテン-1,3-ジオールおよび1,18-オクタデカ-9-エン-ジオールが含まれる。
【0058】
ジカルボン酸の飽和ジ-p-ニトロフェニルエステルおよびビス-α-アミノ酸エステルの飽和ジ-p-トルエンスルホン酸塩は、米国特許第6,503,538 B1号に記載されたようにして調製することができる。生分解性ポリマーとして有用な不飽和ポリ(エステルアミド)(UPEA)の合成は当技術分野において公知である(例えば、米国特許第5,516,881号;同第6,476,204号;同第6,503,538号を参照)。構造式(I)の不飽和PEEAの合成は、上記に開示される通り、および本明細書中の実施例1に記載された通りである。
【0059】
構造式(I)または(IV)のいずれかを有する不飽和化合物では、以下が当てはまる。アミノ置換アミノキシル(N-オキシド)基を保有する基、例えば4-アミノTEMPOを、カルボニルジイミダゾールまたは適したカルボジイミドを縮合剤として用いて付着させることができる。本明細書に記載したような生物活性物質は、二重結合官能性を介して付着させることができる。親水性は、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートとの結合によって付与することができる。
【0060】
生分解性PEEA、PEEURおよびPEEUポリマーは、ポリマー分子当たり1つから複数の異なるα-アミノ酸を含むことができ、好ましくは10,000〜125,000g/molの範囲にある重量平均分子量を有し;これらのポリマーおよびコポリマーは、典型的には、標準的な粘度測定法によって決定される25℃での固有粘度が0.3〜3.0の範囲、例えば、0.5〜1.5の範囲である。
【0061】
PEEUに関する構造式(VII)を有する不飽和化合物では、以下が当てはまる。アミノ置換アミノキシル(N-オキシド)基を保有する基、例えば4-アミノTEMPOを、カルボニルジイミダゾールまたは適したカルボジイミドを縮合剤として用いて付着させることができる。本明細書に記載したようなその他の生物活性物質などを、任意で、二重結合官能性を介して付着させることもできる。
【0062】
例えば、構造式(VII)を有する本発明の高Mw PEEUを、以下の反応スキーム(II)に示されているように、クロロホルム/水系中でビス-求電子性モノマーとしてホスゲンを用いることによって界面で調製することができる。

スキーム(II)
L-リジンエステルを含み、かつ構造式(VIII)を有するコポリ(エステルウレア)(PEEU)の合成は、類似のスキーム(III)によって行うことができる。

スキーム(III)
トルエン中にあるホスゲン(高毒性)の20%溶液(Fluka Chemie, GMBH, Buchs, Switzerland)を、ジホスゲン(クロロギ酸トリクロロメチル)またはトリホスゲン(ビス(トリクロロメチル)カーボネート)によって置き換えることができる。また、より毒性の低いカルボニルジイミダゾールを、ホスゲン、ジホスゲン、またはトリホスゲンの代わりにビス-求電子性モノマーとして用いることもできる。
【0063】
高MwのPEEUを得るためには、モノマーの冷却溶液を用いることが必要である。例えば、水150mL中にあるビス(α-アミノ酸)-α,ω-アルキレンジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩の懸濁液に無水炭酸ナトリウムを添加し、室温で約30分間撹拌し、約2〜0℃に冷却して第1の溶液を形成させる。並行して、クロロホルム中にあるホスゲンの第2の溶液を約15〜10℃に冷却する。第1の溶液を界面重縮合のためにリアクターに入れて、第2の溶液を直ちに迅速に添加して約15分間速めに撹拌する。続いてクロロホルム層を分離し、無水Na2SO4で乾燥させた上で、濾過することができる。得られた溶液はさらなる使用のために保存することができる。
【0064】
製造されたPEUポリマーは、クロロホルム中にある溶液として得られており、これらの溶液は保存中安定である。しかし、ある種のポリマー、例えば、1-Phe-4は、分離後はクロロホルム中に不溶性となる。この問題を克服するために、PEEUポリマーを、滑らかな疎水性表面上に流し込み、クロロホルムを乾燥するまで蒸発させることによって、クロロホルムから分離することができる。得られたPEEUのさらなる精製は必要でない。PEUの調製のための一般的な手順は、公開された米国特許出願US2007/0128250-A1に記載されている。
【0065】
PEEA、PEEURおよびPEEUポリマーといった本発明のOEGベースのポリマー組成物において有用なポリマーは、酵素作用によって表面で生分解される。このため、ポリマー、例えばその粒子は、生物活性物質を対象に制御された放出速度で投与し、その動態はゼロ次に近いことが観察されている。さらに、PEEA、PEEURおよびPEEUポリマーはインビボで有害な副生成物の生成を伴うことなく酵素によって分解されるため、本発明のOEGベースのポリマー組成物は実質的に非炎症性である。内部に組み入れられたOEGでさえも非常に低Mwのものであるため、それらは生分解後にポリマーから遊離すると体内から排除される。
【0066】
本明細書で用いる場合、「分散している」とは、本明細書に開示されるような少なくとも1つの生物活性物質がポリマー粒子の中に分散している、混合されている、溶解されている、ホモジナイズされている、および/または共有結合している(「分散している」)、例えば、組成物のポリマー中の官能基またはポリマー粒子の表面に付着していることを意味する。
【0067】
生物活性物質はポリマー担体との化学結合を伴わずにポリマーマトリックス中に分散させることができるが、生物活性物質または被覆分子が、非常にさまざまな適した官能基を介して生分解性ポリマーと共有結合しうることも想定される。例えば、生分解性ポリマーがポリエステルである場合、鎖末端カルボキシ基を用いて、ヒドロキシ、アミノ、チオといった生物活性物質または被覆分子上の相補的部分と反応させることができる。非常にさまざまな適した試薬および反応条件が、例えば、March's Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms, and Structure, Fifth Edition, (2001);およびComprehensive Organic Transformations, Second Edition, Larock (1999)に開示されている。
【0068】
他の態様において、生物活性物質は、アミド、エステル、エーテル、アミノ、ケトン、チオエーテル、スルフィニル、スルホニル、ジスルフィド結合を介して、PEEA、PEEURまたはPEEUポリマーと連結させることができる。そのような結合は、適切に官能化された出発材料から、当技術分野において公知の合成手順を用いて形成させることができる。
【0069】
例えば、1つの態様において、ポリマーを、ポリマーの末端またはペンダントカルボキシル基(例えば、COOH)を介して生物活性物質と連結させることができる。例えば、構造IV、VIおよびVIIIの化合物を、生物活性物質のアミノ官能基またはヒドロキシル官能基と反応させて、それぞれアミド結合またはカルボン酸エステル結合を介して付着された生物活性物質を有する生分解性ポリマーを得ることができる。もう1つの態様において、ポリマーのカルボキシル基は、ベンジル化させるか、またはハロゲン化アシル、アシル無水物/「混合」無水物もしくは活性エステルに変換させることができる。他の態様において、生物活性物質がポリマーの遊離末端へではなくポリマーのカルボキシル基のみを介して確実に付着するように、ポリマー分子の遊離-NH2末端をアシル化することができる。
【0070】
水溶性被覆分子、例えば、本明細書に記載したポリ(エチレングリコール)(PEG);ホスホリルコリン(PC);ヘパリンを含むグリコサミノグリカン;ポリシアル酸を含む多糖;ポリセリン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリシンおよびポリアルギニンを含む、ポリ(イオン性または極性アミノ酸);キトサンおよびアルギネートなど;ならびに、例えば抗体、抗原およびリガンドなどの標的指向性分子を、当技術分野で公知であるように、生物活性物質によって占有されない活性部位を遮断するため、または特定の体部位に粒子の送達を向かわせるために、粒子の生成後に粒子の外側に結合させることもできる。被覆分子を含む、単一の粒子の生分解によって形成されるOEG分子のMwは、実質的には、約44(モノエチレングリコール)から400Daまでの、ただし400Daは含まない範囲にある任意のMwであってよく、その結果、粒子に付着されるさまざまなPEG分子のMwはさまざまでありうる。
【0071】
または、生物活性物質または被覆分子を、リンカー分子を介してポリマーに付着させることもできる。実際に、生分解性ポリマーの表面疎水性を改善するため、生分解性ポリマーの酵素的活性化への到達性(accessibility)を改善するため、および生分解性ポリマーの放出プロファイルを改善するために、リンカーを利用して生物活性物質を生分解性ポリマーに間接的に付着させることができる。ある態様において、リンカー化合物には、約44から400Daまで、好ましくは200から400までのMwを有するポリ(エチレングリコール);セリンなどのアミノ酸;反復数が1〜100であるポリペプチド;および任意の他の適した低分子量ポリマーが含まれる。リンカーは典型的には、生物活性物質をポリマーから約5オングストロームから約200オングストロームまで分離させる。
【0072】
さらに別の態様において、リンカーは式W-A-Qの二価の基であり、式中、Aは(C1-C24)アルキル、(C2-C24)アルケニル、(C2-C24)アルキニル、(C3-C8)シクロアルキルまたは(C6-C10)アリールであり、WおよびQはそれぞれ-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、-OC(=O)-、-C(=O)O、-O-、-S-、-S(O)、-S(O)2-、-S-S-、-N(R)-、-C(=O)-であり、ここで各Rは独立にHまたは(C1-C6)アルキルである。
【0073】
上記のリンカーを記載するために用いられる場合、「アルキル」という用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルなどを含む、直鎖または分枝鎖炭化水素基のことを指す。
【0074】
上記のリンカーを記載するために本明細書で用いる場合、「アルケニル」とは、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基のことを指す。
【0075】
上記のリンカーを記載するために本明細書で用いる場合、「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分枝鎖ヒドロカルビル基のことを指す。
【0076】
上記のリンカーを記載するために本明細書で用いる場合、「アリール」とは、6個から14個までの範囲の炭素原子を有する芳香族基のことを指す。
【0077】
ある態様において、リンカーは、約2個から約25個までのアミノ酸を有するポリペプチドであってよい。使用が想定される適したペプチドには、ポリ-L-グリシン、ポリ-L-リジン、ポリ-L-グルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-ヒスチジン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-L-セリン、ポリ-L-トレオニン、ポリ-L-チロシン、ポリ-L-ロイシン、ポリ-L-リジン-L-フェニルアラニン、ポリ-L-アルギニン、ポリ-L-リジン-L-チロシンなどが含まれる。
【0078】
1つの態様において、生物活性物質はポリマーを共有結合により架橋することができ、すなわち、生物活性物質は複数のポリマー分子と結合している。この共有結合による架橋は、追加のポリマー-生物活性物質リンカーを用いて行うこともでき、または用いずに行うこともできる。
【0079】
また、生物活性物質分子を、2つのポリマー分子間の共有結合性の付着による分子間架橋の中に組み入れることもできる。
【0080】
直鎖ポリマーポリペプチド結合体は、ポリペプチド骨格上の求核基の可能性がある部分を保護し、ポリマーまたはポリマーリンカー構築物と結合させる1つの反応性基のみを残すことによって作られる。脱保護は、当技術分野において周知のペプチドの脱保護のための方法(例えば、BocおよびFmoc化学反応)に従って行う。
【0081】
本発明の1つの態様において、ポリペプチド生物活性物質はレトロ-インベルソ(retro-inverso)または部分的レトロ-インベルソペプチドとして提示される。
【0082】
他の態様においては、生物活性物質をマトリックス中で光架橋可能な型のポリマーと混合し、架橋の後に、材料を約0.1〜約10μmの範囲にある平均直径になるまで分散(粉砕)する。
【0083】
リンカーは、最初にポリマーに付着させることもでき、または生物活性物質もしくは被覆分子に付着させることもできる。合成中、リンカーは、保護されていない形態であってもよく、または当業者に周知の種々の保護基を用いて保護された形態であってもよい。保護されたリンカーの場合、リンカーの非保護末端を最初にポリマーまたは生物活性物質もしくは被覆分子に付着させることができる。続いて、保護基を、Pd/H2水素化分解、弱酸もしくは塩基による加水分解、または当技術分野で公知である他の任意の一般的な脱保護法を用いて脱保護することができる。続いて、脱保護されたリンカーを、生物活性物質もしくは被覆分子に、またはポリマーに付着させることができる。
【0084】
本発明による生分解性ポリマーの例示的な合成(付着させる分子がアミノキシルである)を以下に示す。
【0085】
ポリエステルを、アミノ置換アミノキシル(N-オキシド)基を保有する基、例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシと、N,N'-カルボニルジイミダゾールの存在下で反応させて、ポリエステルの鎖末端のカルボキシル基におけるヒドロキシル部分をアミノ置換アミノキシル-(N-オキシド)基を保有する基に置き換えることができ、その結果、アミノ部分がカルボキシル基のカルボニル残基の炭素と共有結合してアミド結合を形成する。N,N'-カルボニルジイミダゾールまたは適したカルボジイミドはポリエステルの鎖末端のカルボキシル基におけるヒドロキシル部分を、アミノキシル、例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシと反応すると考えられる中間生成物部分に変換する。アミノキシル反応物は、典型的には反応物:ポリエステルが1:1〜100:1の範囲であるモル比で用いられる。N,N'-カルボニルジイミダゾールとアミノキシルとのモル比は、好ましくは約1:1である。
【0086】
1つの典型的な反応は以下の通りである。ポリエステルを反応溶媒中に溶解させ、溶解に用いた温度で反応を直ちに行わせる。反応溶媒は、ポリエステルが溶解すると考えられる任意のものであってもよい。ポリエステルがポリグリコール酸またはポリ(グリコリド-L-ラクチド)(グリコール酸とL-乳酸とのモノマーモル比が50:50よりも大きい)である場合には、115℃〜130℃の高度に精製した(純度が99.9%を上回る)ジメチルスルホキシドまたは室温のジメチルスルホキシド(DMSO)がポリエステルを好適に溶解させる。ポリエステルがポリ-L-乳酸、ポリ-DL-乳酸またはポリ(グリコリド-L-ラクチド)(グリコール酸のL-乳酸に対するモノマーモル比が50:50または50:50未満)である場合には、室温から40〜50℃までのテトラヒドロフラン、ジクロロメタン(DCM)およびクロロホルムがポリエステルを好適に溶解させる。
【0087】
ポリマー-生物活性物質の結合
1つの態様において、本明細書に記載した本発明のOEGベースのポリマー組成物を作製するために用いられるポリマーは、ポリマーと直接連結された1つまたは複数の生物活性物質を有する。ポリマーの残基は、1つまたは複数の生物活性物質の残基と連結させることができる。例えば、ポリマーの1つの残基を生物活性物質の1つの残基と直接連結させることができる。ポリマーおよび生物活性物質はそれぞれ、1つの空き原子価(open valence)を有することができる。または、複数の生物活性物質、多数の生物活性物質、または複数の異なる治療的もしくは症状緩和的活性を有する生物活性物質の混合物を、ポリマーと直接連結させることもできる。しかし、各生物活性物質の残基は、対応するポリマーの残基と連結させることができるため、1つまたは複数の生物活性物質の残基の数は、ポリマーの残基上の空き原子価の数に対応しうる。
【0088】
本明細書で用いる場合、「ポリマーの残基」とは、1つまたは複数の空き原子価を有するポリマーの基のことを指す。本発明のポリマーの任意の合成的に実現可能な1つの原子、複数の原子、または官能基(例えば、ポリマー骨格またはペンダント基上のもの)を除去して空き原子価を得ることができるが、ただし、これは基が生物活性物質の残基に付着された場合に生物活性が実質的に保たれることを条件とする。さらに、任意の合成的に実現可能な官能基(例えば、カルボキシル)をポリマー上(例えば、ポリマー骨格またはペンダント基上)に作り出して空き原子価を得ることもできるが、ただし、これも基が生物活性物質の残基に付着された場合に生物活性が実質的に保たれることを条件とする。所望の連結に基づき、当業者は、当技術分野において公知である手順を用いて本発明のポリマーから得られることのできる、好適に官能化された出発材料を選択することができる。
【0089】
本明細書で用いる場合、「構造(*)の化合物の残基」とは、1つまたは複数の空き原子価を有する、本明細書に記載された式(I)および(IV〜VIII)のポリマーの化合物の基のことを指す。化合物の任意の合成的に実現可能な1つの原子、複数の原子、または官能基(例えば、ポリマー骨格またはペンダント基上のもの)を除去して空き原子価を得ることができるが、ただし、これは基が生物活性物質の残基に付着された場合に生物活性が実質的に保たれることを条件とする。さらに、任意の合成的に実現可能な官能基(例えば、カルボキシル)を式(I)および(IV〜VIII)の化合物上(例えば、ポリマー骨格またはペンダント基上)に作り出して空き原子価を得ることもできるが、ただし、これも基が生物活性物質の残基に付着された場合に生物活性が実質的に保たれることを条件とする。所望の連結に基づき、当業者は、当技術分野において公知である手順を用いて式(I)および(IV〜VIII)の化合物から得られることのできる、好適に官能化された出発材料を選択することができる。
【0090】
例えば、生物活性物質の残基を、アミド(例えば、-N(R)C(=O)-または-C(=O)N(R)-)、エステル(例えば、-OC(=O)-または-C(=O)O-)、エーテル(例えば、-O-)、アミノ(例えば、-N(R)-)、ケトン(例えば、-C(=O)-)、チオエーテル(例えば、-S-)、スルフィニル(例えば、-S(O)-)、スルホニル(例えば、-S(O)2-)、ジスルフィド(例えば、-S-S-)または直接(例えば、C-C結合)結合によって構造式(I)または(IV)の化合物の残基と連結させることができ、式中、各Rは独立にHまたは(C1-C6)アルキルである。そのような連結は、当技術分野において公知である合成手順を用いて、好適に官能化された出発材料を形成することができる。所望の連結に基づき、当業者は、当技術分野で公知である手順を用いて、構造式(I)または(IV)の化合物の残基からおよび生物活性物質または補助物質の所与の残基から得られることのできる、好適に官能化された出発材料を選択することができる。生物活性物質または補助物質の残基は、構造式(I)または(IV)の化合物上の残基の任意の合成的に実現可能な位置と連結させることができる。さらに、本発明はまた、構造式(I)または(IV)の化合物と直接連結した生物活性物質または補助生物活性物質の複数の残基を有する化合物も提供する。
【0091】
ポリマー分子と連結させることのできる生物活性物質の数は、典型的にはポリマーの分子量に依存しうる。例えば、nが約5〜約150、好ましくは約5〜約70である構造式(I)の化合物については、生物活性物質をポリマーの側鎖基と反応させることによって、約150個までの生物活性物質の分子(すなわち、その残基)をポリマー(すなわち、その残基)と直接連結させることができる。不飽和ポリマーでは、生物活性物質をポリマー中の二重結合と反応させることもできる。
【0092】
本明細書に記載されたPEEA、PEEURおよびPEEUポリマーは、水を吸収し(ポリマーフィルム上で5〜25% w/wの水の取り込み)、親水性分子がその中を通って容易に拡散することを可能にする。この特徴により、これらのポリマーは、放出速度を制御するための粒子上の保護被覆(over coating)として用いるのに適している。水分吸収はまた、ポリマーおよびそのようなポリマーに基づくポリマー組成物の生体適合性も向上させる。加えて、PEEA、PEEURおよびPEEUポリマーの親水性のため、インビボに送達された場合に、粒子は特にインビボの温度では粘着性となり、集塊化する。このため、ポリマー粒子は、皮下針または針無し注射などによって局所送達のために皮下または筋肉内に注射された場合に、自然にポリマーデポーを形成する。体内で効率的には循環しないと考えられるサイズの、約1マイクロメートルから約100マイクロメートルの範囲の平均直径を有する粒子が、インビボでそのようなポリマーデポーを形成させるのには適している。または、経口投与の場合、胃腸管ははるかに大きい粒子、例えば、平均直径が約1マイクロメートルから約1000マイクロメートルまでの微小粒子に耐容することができる。
【0093】
本発明のOEGベースのポリマー組成物中に用いるのに適した粒子は、不混和性溶媒の手法を用いて調製することができる。一般に、これらの方法は、2つの不混和性液体のエマルションの調製を必要とする。単一エマルション(single emulsion)法を用いて、少なくとも1つの疎水性生物活性物質を組み入れるポリマー粒子を作製することができる。単一エマルション法では、粒子中に組み入れようとする生物活性物質をまず溶媒中のポリマーと混合し、続いて界面活性剤などの表面安定剤により水溶液中で乳化させる。こうすることで、疎水性生物活性物質結合体を含むポリマー粒子が形成されて水溶液中に懸濁化され、その中の粒子中の疎水性結合体は水溶液中では大きな溶出を伴うことなく安定であるが、そのような分子は筋組織などの体組織中には溶出すると考えられる。
【0094】
ポリペプチド、タンパク質、DNA、細胞などを含むほとんどの生物製剤(biologics)は、本明細書においてこの用語を用いる場合、親水性である。二重エマルション法を用いて、内部の水相、およびその中に分散している親水性生物活性物質を含むポリマー粒子を作製することができる。二重エマルション法では、まず水相または水中に溶解された親水性生物活性物質をポリマー親油性溶液中で乳化させて一次エマルションを形成させ、続いて一次エマルションを水に加えて再び乳化させて二次エマルションを形成させることで、連続的ポリマー相、および分散相中にある水性生物活性物質を有する粒子が形成される。いずれの乳化法でも、粒子の凝集を防ぐために界面活性剤および添加物を用いることができる。水に混和しないクロロホルムまたはDCMが、PEAおよびPEURポリマーの溶媒として用いられるが、調製における後の時点で、溶媒は当技術分野において公知の方法を用いて除去される。
【0095】
しかし、水溶性が低いある種の生物活性物質に対しては、これらの2つのエマルション法は限界がある。この文脈において、「低い水溶性」とは、タキソール(Taxol)などの真に親油性の薬物よりは疎水性が低いが、多くの生物製剤などの真に水溶性の薬物よりも親水性が低い活性薬剤を意味する。これらのタイプの中間的化合物は、単一エマルション粒子への高充填および安定したマトリックス化には親水性が高過ぎるが、二重エマルション内での高充填および安定性を得るには疎水性が高過ぎる。そのような場合には、三重エマルション工程により、水溶性の低いポリマーおよび薬物でできた粒子をポリマー層でコーティングする。この方法では、得られる薬物充填は比較的低い(ほぼ10% w/w)が、構造的安定性および制御された薬物放出速度が得られる。
【0096】
三重エマルション工程では、生物活性物質をポリマー溶液中に混合し、混合物を水溶液中で界面活性剤または脂質、例えばジ-(ヘキサデカノイル)ホスファチジルコリン(DHPC;天然脂質の短鎖誘導体)などで乳化させることによって、第1のエマルションを作製する。こうすることで、活性物質を含む粒子が形成され、水中に懸濁化されて、第1のエマルションが形成される。第2のエマルションは、第1のエマルションをポリマー溶液に加えて混合液を乳化させることによって形成され、その結果、内部にポリマー/薬物粒子を含む水滴がポリマー溶液中に形成される。水および界面活性剤または脂質は、粒子を分離させて、粒子をポリマー溶液中に溶解させる。続いて、第2のエマルションを界面活性剤または脂質の水溶液に加え、混合液を乳化させて最終的な粒子を水中に形成させることによって、第3のエマルションを形成させる。結果として得られる粒子構造は、中心にポリマーおよび生物活性物質でできた1つまたは複数の粒子を有し、その周りを水および界面活性剤または脂質などの表面安定剤が囲み、それが純粋なポリマー殻で覆われているものと考えられる。表面安定剤および水は、ポリマー被覆中の溶媒が被覆内部の粒子と接触してそれらを溶解させることを防ぐと考えられる。
【0097】
三重エマルション法による生物活性物質の充填を増やすために、水溶性の低い活性物質を、ポリマー被覆なしに、かつ生物活性物質を水に溶解させることもなく、第1のエマルションにおいて表面安定剤でコーティングすることができる。この第1のエマルションにおいて、水、表面安定剤および活性物質は同程度の容積を有する、またはそれぞれ(1〜3):(0.2〜約2):1の範囲の容積比を有する。この場合に、水は、活性物質を溶解させるためではなく、生物活性物質を表面安定剤の力を借りて保護するために用いられる。続いて、二重および三重エマルションを上記のように調製する。この方法では、最大50%までの薬物充填が得られる。
【0098】
代替的または追加的に、上記の単一、二重または三重エマルション方法において、粒子を作製するためにポリマーを用いる前に、生物活性物質を、本明細書に記載したポリマー分子と結合させることもできる。さらにまたは、生物活性物質を、粒子の生成の後に、本明細書に記載した粒子の外側でポリマーと結合させることもできる。
【0099】
多くの乳化手法が、上記のエマルションの作製において奏功すると考えられる。しかし、エマルションを作製する現在の好ましい方法は、水と混和しない溶媒を用いることによるものである。例えば、単一エマルション法において、乳化手順は、ポリマーを溶媒で溶解させる段階、生物活性物質の分子と混合する段階、水に加える段階、ならびに続いて混合器および/または超音波処理器で撹拌する段階からなる。粒子のサイズは、撹拌速度ならびに/またはポリマー、生物活性物質および表面安定剤の濃度を制御することによって制御することができる。被覆の厚さは、第2のエマルションと第3のエマルションとの比率を調節することによって制御することができる。
【0100】
適したエマルション安定剤には、マンニドモノオレ-ト(mannide monooleate)、デキストラン70,000、ポリオキシエチレンエーテル、ポリグリコールエーテルなどの非イオン性界面活性剤が含まれ、それらはすべて市販されていて、例えば、Sigma Chemical Co., St. Louis,Mo.から容易に入手できる。界面活性剤は約0.3%〜約10%の濃度で存在すると考えられ、好ましくは、約0.5%〜約8%、より好ましくは約1%〜約5%で存在する。
【0101】
本発明の組成物からの少なくとも1つの生物活性物質の放出速度は、被覆の厚さ、粒子のサイズ、構造、および被覆の密度を調節することによって制御することができる。被覆の密度は、被覆と結合された生物活性物質の充填を調節することによって調節することができる。例えば、被覆が生物活性物質を含まない場合には、ポリマー被覆は最も密度が高く、生物活性物質は粒子の内側から被覆を通して最も緩徐に溶出する。対照的に、生物活性物質を被覆中のポリマーに充填する場合(すなわち、混合または「マトリックス化」する場合)、または代替的に被覆中のポリマーと結合させる場合には、生物活性物質がポリマーから遊離して被覆の外表面から溶出しはじめると被覆は多孔性になる。その結果、粒子の中心の生物活性物質は高まった速度で溶出することができる。被覆における充填が高度であるほど、被覆層の密度は低くなり、溶出速度は高くなる。被覆における生物活性物質の充填は、外側被覆の下方の粒子内部におけるそれよりも低くてもよいか、または高くてもよい。粒子からの生物活性物質の放出速度を、上記のように調製された異なる放出速度の粒子を混合することによって制御することもできる。
【0102】
二重および三重エマルションポリマーの作製方法の詳細な記載は、Pierre Autant et al, 米国特許第6,022,562号;Iosif Daniel Rosca et al., Microparticle formation and its mechanism in single and double emulsion solvent evaporation, Journal of Controlled Release (2004) 99:271-280;L. Mu and A Feng, A novel controlled release formulation for the anticancer drug paclitaxel (Taxol): PLGA nanoparticles containing vitamin E TPGS, J. Control. Release (2003) 86:33-48;Somatosin containing biodegradable microspheres prepared by a modified solvent evaporation method based on W/O/W-multiple emulsions, Int. J. Pharm. 126 (1995) 129-138、およびF. Gabor et al., Ketoprofenpoly(d,l-lactic-co-glycolic acid) microspheres: influence of manufacturing parameters and type of polymer on the release characteristics, J. Microencapsul. (1999) 16 (1):1-12に見いだされ、これらはそれぞれその全体が本明細書に組み入れられる。
【0103】
水溶性生物活性物質の送達のためのさらに別の態様において、粒子は、循環への送達のための約20nm〜約200nmの平均直径を有するナノ粒子として作製することができる。ナノ粒子は、上記のように、活性物質を内部に分散させる、すなわちエマルション中に混合するかポリマーと結合させる、単一エマルション法によって作製することができる。また、ナノ粒子を、本明細書に記載したPEAまたはPEURポリマーを、それに対して結合された生物活性物質とともに含む、ミセルとして提供することもできる。ポリマーと結合される生物活性物質に対して代替的または追加的に、ミセルは水中で形成されることから、水溶性生物活性物質を溶媒なしで同時にミセル中に充填することもできる。
【0104】
より詳細には、生分解性ミセルは、水溶性イオン化ポリマー鎖と結合された疎水性ポリマー鎖で形成される。ミセルの外側部分は主にポリマーの水溶性イオン化区域または極性区域からなる一方で、ポリマーの疎水性区域は主にミセルの内部に分配され、ポリマー分子をつなぎとめる。
【0105】
ミセルの作製に用いられるポリマーの生分解性の疎水性区域は、本明細書に記載したようにPEEA、PEEURまたはPEEUポリマーで作製される。疎水性の強いPEEA、PEEURまたはPEEUポリマーに関しては、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトールのジ-L-ロイシンエステルまたはα,ω-ビス(4-カルボキシフェノキシ)(C1-C8)アルカンのような剛性の芳香族二酸などの成分を、ポリマー反復単位中に含めてもよい。対照的に、ポリマーの水溶性区域は、
i)Mwが少なくとも200、およびそれ未満であるポリエチレングリコールと、
b)少なくとも1つのイオン性または極性アミノ酸と
の交互反復単位を含み、ここで交互反復単位は交互反復単位は実質的に同程度の分子量を有し、ポリマーのMwは約10kD〜300kDの範囲にある。交互反復単位は、約300Da〜約700Daの範囲にある実質的に同程度の分子量を有しうる。ポリマーの分子量が10kDaを上回る1つの態様において、少なくとも1つのアミノ酸単位は、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジンおよびアルギニンから選択されるイオン性または極性のアミノ酸である。1つの態様において、イオン性アミノ酸の単位は、グルタミン酸またはアスパラギン酸などの少なくとも1ブロックのイオン性ポリ(アミノ酸)を含み、これをポリマー中に含めることができる。本発明のミセル組成物は、ポリマーの水溶性区域中のイオン性アミノ酸の少なくとも一部分がイオン化されるpH値を有する、薬学的に許容される水性媒体をさらに含んでもよい。
【0106】
ポリマーの水溶性セグメントの分子量が高いほど、ミセルの多孔性が増大し、ミセル中への水溶性生物活性物質および/または大型の生物活性物質、例えばタンパク質などの充填が多くなる。このため、1つの態様において、ポリマーの完全に水溶性の区域の分子量は約5kDaから約100kDaの範囲にある。
【0107】
ひとたび形成されると、ミセルを貯蔵および輸送のために凍結乾燥し、上記の水性媒質中で再構成することができる。しかし、凍結乾燥工程によって変性すると考えられる、ある種のタンパク質などのある種の生物活性物質を含むミセルを凍結乾燥することは推奨されない。
【0108】
ミセル内部の荷電部分は水中で互いに部分的に分離して、生物活性物質などの水溶性作用物質の吸収のための空間を作り出す。同じ型の電荷を有するイオン化した鎖は互いに反発し、さらに空間を作り出すと考えられる。また、イオン化ポリマーは生物活性物質を引き寄せて、マトリックスに安定性ももたらす。加えて、ミセルの水溶性の外部は、イオン化部位が治療用生物活性物質によって捉えられた後に、ミセルと体液中のタンパク質との接着を防ぐ。この型のミセルは多孔性が非常に高く、ミセル体積の最大95%にも達し、ポリペプチド、DNAおよび他の生物活性物質などの水溶性生物製剤の高度の充填を可能にする。ミセルの粒子サイズの範囲は約20nm〜約200nmであり、血中での循環のためには約20nm〜約100nmが好ましい。
【0109】
粒子のサイズは、例えば、ヘリウム-ネオンレーザーを組み込んでいる分光計を用いる動的光散乱によって決定することができる。一般に、粒子のサイズは室温で決定され、粒子の直径の平均値を求めるための当該試料の複数の(例えば、5〜10回の)分析を伴う。また、粒子のサイズは走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることで即座に決定される。それを行うためには、乾燥粒子を金/パラジウム混合物でおよそ100オングストロームの厚さにスパッターコーティングし、続いて走査電子顕微鏡を用いて検査する。または、粒子またはそれ以外の形態にあるポリマーを、当技術分野において周知のおよび後述のいくつかの方法のいずれかを用いて、活性物質を化学的付着なしでポリマー中に組み入れる(「充填」)のではなく、生物活性物質と直接的に共有結合により付着させることもできる。生物活性物質の含有量は一般に、ポリマーに対しておよそ0.1%〜約40%(w/w)の生物活性物質、より好ましくは約1%〜約25%(w/w)の生物活性物質、さらにより好ましくは約2%〜約20%(w/w)の生物活性物質に相当する量である。生物活性物質のパーセンテージは、より詳細に以下に考察するように、所望の用量および治療される状態に依存すると考えられる。
【0110】
本発明の生分解性ポリマー組成物中への分散およびそれからの放出のための生物活性物質には、抗増殖物質(anti-proliferant)、ラパマイシンおよびその類似体または誘導体のいずれか、パクリタキセルまたはそのタキセン類似体もしくは誘導体のいずれか、エベロリムス、シロリムス、タクロリムス、またはその〜リムスという名を持つ薬物ファミリーのいずれか、ならびにシンバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチンなどのスタチン系薬剤、17AAG(17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン)などのゲルダナマイシン系薬剤;エポチロンDおよび他のエポチロン系薬剤、17-ジメチルアミノエチルアミノ-17-デメトキシ-ゲルダナマイシン、ならびに熱ショックタンパク質90(Hsp90)、シロスタゾールなどのその他のポリケチド阻害剤も含まれる。
【0111】
本発明のOEGベースのポリマー組成物に用いられるポリマー中への分散が想定されるその他の生物活性物質には、ポリマー粒子の分解中にそれから遊離または溶出した場合に、内皮細胞によって内因性に産生される一酸化窒素のような治療的な天然の創傷治癒物質の内因性産生を促進する作用物質が含まれる。または、分解中にポリマーから放出された生物活性物質が、内皮細胞による自然な創傷治癒過程の促進において直接的な活性を有してもよい。これらの生物活性物質は、一酸化窒素を供与、運搬もしくは放出する、内因性の一酸化窒素レベルを上昇させる、一酸化窒素の内因性合成を刺激する、または一酸化窒素シンターゼの基質としての役を果たす、または平滑筋細胞の増殖を阻害する、任意の作用物質でありうる。そのような作用物質には、例えば、アミノキシル系薬剤、フロキサン系薬剤、ニトロソチオール系薬剤、硝酸薬およびアントシアニン系薬剤;アデノシンなどのヌクレオシド、ならびにアデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)などのヌクレオチド;アセチルコリンおよび5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン/5-HT)などの神経伝達物質/神経調節物質;ヒスタミン、ならびにアドレナリンおよびノルアドレナリンなどのカテコールアミン;スフィンゴシン-1-リン酸およびリゾホスファチジン酸などの脂質分子;アルギニンおよびリジンなどのアミノ酸;ブラジキニン、サブスタンスPおよびカルシウム遺伝子関連ペプチド(CGRP)などのペプチド、ならびにインスリン、血管内皮増殖因子(VEGF)およびトロンビンなどのタンパク質が含まれる。
【0112】
種々の生物活性物質、被覆分子および生物活性物質のリガンドを、ポリマー粒子の表面に、例えば共有結合によって付着させることができる。標的指向性抗体、ポリペプチド(例えば、抗原)および薬物などの生物活性物質を、ポリマー粒子の表面に共有結合によって結合させることができる。加えて、被覆分子、例えば抗体もしくはポリペプチドの付着のためのリガンドとしてのポリエチレングリコール(PEG)、または粒子が患者体内の非標的生体分子および表面と粘着するのを防ぐために粒子の表面の付着部位をブロックするための手段としてのホスファチジルコリン(PC)などを、表面に結合させることもできる。
【0113】
例えば、細菌プロテインAのBドメインおよびプロテインGの機能的に等価な領域などの低分子タンパク質性モチーフは、Fc領域によって抗体分子と結合し、それによって抗体分子を捕捉することが知られている。そのようなタンパク質性モチーフは、ポリマーに、特に本ポリマー粒子の表面に付着させることができる。そのような分子は、例えば、標的指向性リガンドとして用いるための抗体を付着させるためのリガンドとして、または前駆細胞を保持するための抗体を捕捉するため、もしくは患者の血流からの細胞を捕捉するためのリガンドとして作用すると考えられる。このため、プロテインAまたはプロテインGの機能領域を用いてポリマー被覆に付着させることのできる抗体の種類は、Fc領域を含むものである。捕捉抗体は次いで、ポリマー表面の付近にある始原細胞などの前駆細胞と結合してそれらを保持すると考えられ、その間に、好ましくはポリマー内部の増殖培地に浸漬されている前駆細胞がさまざまな因子を分泌して、対象の他の細胞と相互作用する。加えて、ポリマー粒子中に分散した1つまたは複数の生物活性物質、例えばブラジキニンなどが、前駆細胞を活性化してもよい。
【0114】
加えて、対象の血中からの前駆細胞に付着させるため、または内皮始原細胞(PEC)を捕捉するための生物活性物質には、公知の前駆細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体がある。例えば、内皮細胞の表面を修飾すると報告されている相補性決定基(CD)には、CD31、CD34、CD102、CD105、CD106、CD109、CDw130、CD141、CD142、CD143、CD144、CDw145、CD146、CD147およびCD166が含まれる。これらの細胞表面マーカーはさまざまな特異性のものであってよく、特定の細胞/発生の種類/段階に関する特異性の度合いは、多くの場合には十分に特徴づけられていない。加えて、抗体が産生されているこれらの細胞マーカー分子は、特に同じ系列の細胞上の、すなわち内皮細胞の場合には単球上のCDと(抗体認識に関して)重複すると考えられる。流血中の内皮始原細胞は、(骨髄)単球から成熟内皮細胞への発生経路に沿った過程の途中にある。CD 106、142および144は、ある程度の特異性で成熟内皮細胞の印になることが報告されている。CD34は現在、内皮始原細胞に対して特異的であることが知られており、このため現時点では、血液からの内皮始原細胞を、活性物質の局所送達のためにポリマー粒子が植え込まれた部位に捕捉するために好ましい。そのような抗体の例には、一本鎖抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片、Fab断片、IgA、IgG、IgM、IgD、IgEおよびヒト化抗体、ならびにその活性断片が含まれる。
【0115】
以下のさらなる生物活性物質および低分子薬物は、本明細書に記載されたように、生物活性物質の局所送達のための徐放性の生分解性ポリマーデポーを形成するようなサイズに調整されるか、または全身循環に入るようなサイズに調整されるかにかかわらず、本発明のポリマー粒子組成物中での分散のために特に有効であると考えられる。本発明の治療用ポリマー組成物に用いられるポリマー粒子中に分散される生物活性物質および治療方法は、関心対象の疾患またはその症状の治療におけるそれらの適した治療的または緩和的な効果の点から選択されると考えられる。
【0116】
1つの態様において、適した生物活性物質には、徐放様式で提供された場合に創傷治癒を促進するか、またはそれに寄与する、さまざまなクラスの化合物が非限定的に含まれる。そのような生物活性物質には、ある種の前駆細胞を含む創傷治癒細胞が含まれ、これらは本発明の組成物中で生分解性ポリマー粒子によって保護されるとともに送達されうる。そのような創傷治癒細胞には、例えば、周皮細胞および内皮細胞、ならびに炎症治癒細胞が含まれる。そのような細胞をインビボでポリマーデポーの部位に動員するために、本発明の組成物および治療方法に用いられるポリマー粒子は、「細胞接着分子」(CAM)と特異的に結合する抗体および低分子リガンドといった、そのような細胞に対するリガンドを含むことができる。創傷治癒細胞の例示的なリガンドには、ICAM-1(CD54抗原);ICAM-2(CD102抗原);ICAM-3(CD50抗原);ICAM-4(CD242抗原);およびICAM-5などの細胞内接着分子(ICAM);VCAM-1(CD106抗原)などの血管細胞接着分子(VCAM);NCAM-1(CD56抗原);またはNCAM-2などの神経細胞接着分子(NCAM);PECAM-1(CD31抗原)などの血小板内皮細胞接着分子PECAM;LECAM-1;またはLECAM-2(CD62E抗原)などの白血球内皮細胞接着分子(ELAM)などと特異的に結合するものが含まれる。
【0117】
もう1つの局面において、適した生物活性物質には、例えば共有結合または非共有結合によって付着した、本発明の組成物中に用いられるポリマー粒子中に分散させることができる高分子である細胞外マトリックスタンパク質が含まれる。有用な細胞外マトリックスタンパク質の例には、例えば、通常はタンパク質と連結しているグリコサミノグリカン(プロテオグリカン)、および線維状タンパク質(例えば、コラーゲン;エラスチン;フィブロネクチンおよびラミニン)が含まれる。細胞外タンパク質の生体模倣物(bio-mimics)を用いることもできる。これらは通常は非ヒト性であるが生体適合性の糖タンパク質、例えばアルギネートおよびキチン誘導体などである。そのような細胞外マトリックスタンパク質および/またはそれらの生体模倣物の特定の断片である創傷治癒ペプチドも、生物活性物質として用いることができる。
【0118】
タンパク質性増殖因子は、本明細書に記載された本発明の組成物および治療方法に用いられるポリマー粒子中での分散に適した、さらなるカテゴリーの生物活性物質である。そのような生物活性物質は、当技術分野で公知であるように、創傷治癒の促進および他の疾病状態において有効である。例えば、血小板由来増殖因子-BB(PDGF-BB)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、上皮増殖因子(EGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、サイモシンB4;ならびに血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、腫瘍壊死因子-β(TNF-β)およびインスリン様増殖因子-1(IGF-1)などのさまざまな血管新生因子。これらのタンパク質性増殖因子の多くは市販されており、または当技術分野において周知の手法を用いた組換えによって生産することができる。
【0119】
または、種々の生体分子をコードする遺伝子が組み入れられたベクター、特にアデノウイルスベクターを含む発現システムを、徐放性送達のためにポリマー粒子中に分散させることもできる。そのような発現システムおよびベクターを調製する方法は当技術分野において周知である。例えば、ポリマーデポーを形成するようにサイズを調整した粒子の選択によって局所送達のために所望の体部位に、または循環に入ると考えられるサイズの粒子の選択によって全身に、増殖因子の投与のために、タンパク質性増殖因子を本発明のポリマー粒子中に分散させることができる。VEGF、PDGF、FGF、NGFなどの増殖因子、ならびに進化的および機能的に関連する生物製剤、ならびにトロンビンなどの血管形成性酵素を、本発明の生物活性物質として用いることもできる。
【0120】
有機性または無機性の化合物である「低分子薬物」は、本明細書に記載された本発明の組成物および治療方法に用いられるポリマー粒子中での分散に適した、さらなるカテゴリーの生物活性物質である。そのような薬物には、例えば、抗菌薬および抗炎症薬、ならびにある種の治癒促進物質、例えばビタミンAおよび脂質過酸化の合成阻害薬などが含まれる。
【0121】
感染症を予防または抑制することによって自然な治癒過程を間接的に促進するために、種々の抗生物質を、本発明の組成物中に用いられるポリマー粒子中に分散させることができる。適した抗生物質には、アミノグリコシド系抗生物質、またはキノロン系薬剤、またはセファロスポリンなどのβ-ラクタム系薬剤といった多くのクラス、例えば、シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、エリスロマイシン、バンコマイシン、オキサシリン、クロキサシリン、メチシリン、リンコマイシン、アンピシリンおよびコリスチンが含まれる。適した抗生物質は文献中に記載されている。
【0122】
適した抗菌薬には、例えば、アドリアマイシン(Adriamycin)PFS/RDF(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、ブレノキサン(Blenoxane)(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、セルビジン(Cerubidine)(登録商標)(Bedford)、コスメゲン(Cosmegen)(登録商標)(Merck)、ダウノキソム(DaunoXome)(登録商標)(NeXstar)、ドキシル(Doxil)(登録商標)(Sequus)、塩酸ドキソルビシン(Doxorubicin Hydrochloride)(登録商標)(Astra)、イダマイシン(Idamycin)(登録商標)PFS(Pharmacia and Upjohn)、ミトラシン(Mithracin)(登録商標)(Bayer)、ミタマイシン(Mitamycin)(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、ニペン(Nipen)(登録商標)(SuperGen)、ノバントロン(Novantrone)(登録商標)(Immunex)およびルベックス(Rubex)(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)が含まれる。1つの態様において、ペプチドはグリコペプチドでありうる。「グリコペプチド」とは、糖基で置換されていてもよい多環ペプチドコアによって特徴づけられるオリゴペプチド(例えば、ヘプタペプチド)性抗生物質、例えばバンコマイシンなどのことを指す。
【0123】
抗菌薬のこのカテゴリーに含まれるグリコペプチドの例は、Raymond C. Rao and Louise W. Crandallによる「Glycopeptides Classification, Occurrence, and Discovery」、Bioactive agents and the Pharmaceutical Sciences Volume 63, Ramakrishnan Nagarajan編, Marcal Dekker, Inc.出版)中に記載されている。グリコペプチドのさらなる例は、米国特許第4,639,433号、同第4,643,987号、同第4,497,802号、同第4,698,327号、同第5,591,714号、同第5,840,684号および同第5,843,889号;EP 0 802 199、EP 0 801 075、EP 0 667 353、WO 97/28812、WO 97/38702、WO 98/52589、WO 98/52592;ならびにJ. Amer. Chem. Soc.(1996) 118:13107-13108;J. Amer. Chem. Soc. (1997) 119:12041-12047およびJ. Amer. Chem. Soc. (1994) 116:4573-4590に開示されている。代表的なグリコペプチドには、A477、A35512、A40926、A41030、A42867、A47934、A80407、A82846、A83850、A84575、AB-65、アクタプラニン、アクチノイジン、アルダシン、アボパルシン、アズレオマイシン、バルヒミエイン(Balhimyein)、クロロオリエンチエイン(Chloroorientiein)、クロロポリスポリン、デカプラニン、N-デメチルバンコマイシン、エルモマイシン、ガラカルジン、ヘルベカルジン、イズペプチン、キブデリン(Kibdelin)、LL-AM374、マンノペプチン、MM45289、MM47756、MM47761、MM49721、MM47766、MM55260、MM55266、MM55270、MM56597、MM56598、OA-7653、オレンチシン、パルボジシン、リストセチン、リストマイシン、シンモニシン、テイコプラニン、UK-68597、UD-69542、UK-72051、バンコマイシンなどとして特定されるものが含まれる。また、本明細書で用いる場合、「グリコペプチド」または「グリコペプチド系抗生物質」という用語は、糖部分が存在しない上記に開示される一般的なクラスのグリコペプチド、すなわち、アグリコン系列のグリコペプチドも含むものとする。例えば、軽度の加水分解によってバンコマイシン上のフェノールに付加した二糖部分が除去されると、バンコマイシンアグリコンが得られる。アルキル化およびアシル化誘導体を含む、上記に開示される一般的なクラスのグリコペプチドの合成誘導体も、「グリコペプチド系抗生物質」という用語の範囲内に含まれる。さらに、バンコサミンと同様の様式で、別の糖残基、特にアミノグリコシドがさらに付加しているグリコペプチドもこの用語の範囲内にある。
【0124】
「脂質化グリコペプチド」という用語は、特に、脂質置換基を含むように合成的に修飾されたグリコペプチド系抗生物質のことを指す。本明細書で用いる場合、「脂質置換基」という用語は、5個またはそれ以上の炭素原子、好ましくは10〜40個の炭素原子を含む、任意の置換基のことを指す。脂質置換基は、ハロ、酸素、窒素、イオウおよびリンから選択される1〜6個のヘテロ原子を含んでもよい。脂質化グリコペプチド系抗生物質は当技術分野において周知である。例えば、米国特許第5,840,684号、同第5,843,889号、同第5,916,873号、同第5,919,756号、同第5,952,310号、同第5,977,062号、同第5,977,063号、EP 667,353、WO 98/52589、WO 99/56760、WO 00/04044、WO 00/39156を参照されたく、それらの開示内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0125】
抗炎症性の生物活性物質も、本発明の組成物および方法に用いられるポリマー粒子中での分散のために有用である。治療される体部位および疾患に応じて、そのような抗炎症性の生物活性物質には、例えば、鎮痛薬(例えば、NSAIDSおよびサリチル酸剤)、ステロイド、抗リウマチ薬、胃腸薬、痛風用製剤、ホルモン(グルココルチコイド)、鼻用製剤、眼用製剤、耳用製剤(例えば、抗生物質とステロイドの組み合わせ)、呼吸器薬、および皮膚および粘膜薬が含まれる。Physician's Desk Reference, 2001 Editionを参照。具体的には、抗炎症薬はデキサメタゾンを含むことができ、これは化学的には

16I)-9-フルオロ-11,17,21-トリヒドロキシ-16-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンと呼ばれる。または、抗炎症性の生物活性物質は、シロリムス(ラパマイシン)であることができるか、またはこれを含むことができ、これはストレプトミセス-ハイグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)から単離されたトリエンマクロライド系抗生物質である。
【0126】
本発明の組成物および方法に含まれるポリペプチド生物活性物質は、「ペプチド模倣剤(peptide mimetics)」を含むこともできる。本明細書で「ペプチド模倣剤」または「ペプチド模倣薬(peptidomimetics)」と称する、そのようなペプチド類似体は、製薬業界で広く用いられており、鋳型ペプチドのそれと類似の特性を備え(Fauchere, J. (1986) Adv. Bioactive agent Res., 15:29;Veber and Freidinger (1985) TINS, p. 392;およびEvans et al. (1987) J. Med. Chem., 30:1229)、通常はコンピュータによる分子モデリングを用いて開発される。一般に、ペプチド模倣薬は、パラダイムポリペプチド(すなわち、生化学的特性または薬理活性を有するポリペプチド)に構造的に類似しているが、当技術分野で公知であり以下の文献にさらに記載されている方法によって、--CH2NH--、--CH2S--、CH2―CH2--、--CH=CH--(シスおよびトランス)、--COCH2--、--CH(OH)CH2--および--CH2SO--からなる群より選択される結合によって置換されていてもよい1つまたは複数のペプチド結合を有する:Spatola, A.F. in Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides, and Proteins, B. Weinstein, eds., Marcel Dekker, New York, p. 267 (1983);Spatola, A.F., Vega Data (March 1983), 1(3), 「Peptide Backbone Modifications」(総説);Morley, J.S., Trends. Pharm. Sci., (1980) pp. 463-468 (総説);Hudson, D. et al., Int. J. Pept. Prot. Res., (1979) 14:177-185 (--CH2NH--、CH2CH2--);Spatola, A.F. et al., Life Sci., (1986) 38:1243-1249 (--CH2―S--);Harm, M. M., J. Chem. Soc. Perkin Trans I (1982) 307-314 (--CH=CH--、シスおよびトランス);Almquist, R.G. et al., J. Med. Chem., (1980) 23:2533 (--COCH2--);Jennings-Whie, C. et al., Tetrahedron Lett., (1982) 23:2533 (--COCH2--);Szelke, M. et al., European Appln., EP 45665 (1982) CA: 97:39405 (1982) (--CH(OH)CH2--);Holladay, M. W. et al., Tetrahedron Lett., (1983) 24:4401-4404 (--C(OH)CH2--);およびHruby, V.J., Life Sci., (1982) 31:189-199 (--CH2―S--)。そのようなペプチド模倣剤は、天然ポリペプチドの態様に比べて、例えば、以下を含む有意な利点を有しうる:より経済的な生産、より高い化学的安定性、薬理学的特性の向上(半減期、吸収、効力、有効性など)、特異性の変更(例えば、広域にわたる生物学的活性)、抗原性の低下など。
【0127】
さらに、ペプチド内での1つまたは複数のアミノ酸の置換(例えば、L-リジンの代わりにD-リジン)を用いて、より安定なペプチドおよび内因性ペプチダーゼに抵抗性のあるペプチドを作製することもできる。または、生分解性ポリマーと共有結合した合成ポリペプチドをD-アミノ酸から調製することもでき、これらはインベルソペプチドと称される。ペプチドが天然ペプチド配列の反対方向に組み立てられる場合、これはレトロペプチドと称される。一般に、D-アミノ酸から調製されたポリペプチドは酵素加水分解に対して非常に安定である。多くの事例で、レトロ-インベルソまたは部分的レトロ-インベルソポリペプチドに関する生物活性の保存が報告されている(米国特許第6,261,569 B1号およびその中の参考文献;B. Fromme et al, Endocrinology (2003) 144:3262-3269)。
【0128】
本発明を、非常にさまざまな疾患またはそれらの症状の予防または治療に用いられる組成物を調製するために用いうることは、直ちに明らかである。
【0129】
生物活性物質が充填されたポリマー粒子の調製の後に、組成物を凍結乾燥して、乾燥した組成物を投与の前に適した媒質中に懸濁化させることができる。
【0130】
少なくとも1つの活性物質の任意の好適かつ有効な量を、ポリマー粒子(インビボで形成されるポリマーデポー中のものを含む)から経時的に放出させることができ、これは典型的には、例えば、特定のポリマー、粒子の種類、または存在する場合にはポリマー/生物活性物質の結合に依存すると考えられる。典型的には、ポリマー粒子の約100%までを、循環を避けるようなサイズに調整された粒子によってインビボで形成されたポリマーデポーから放出させることができる。具体的には、その約90%まで、75%まで、50%まで、または25%までを、ポリマーデポーから放出させることができる。ポリマーからの放出速度に典型的に影響を及ぼす因子には、ポリマー/生物活性物質の性質および量、ポリマー/生物活性物質の結合の種類、ならびに製剤中に存在するほかの物質の性質および量がある。
【0131】
本発明のOEGベースのポリマー組成物が上記のように作製されると、組成物をその後の肺内、胃腸、皮下、筋肉内、中枢神経系内、腹腔内または臓器内送達のために製剤化する。組成物は一般に、水、食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノールといった、経口、粘膜または皮下送達に適した1つまたは複数の「薬学的に許容される添加剤またはビヒクル」を含むと考えられる。加えて、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質、香味剤などの補助物質が、そのようなビヒクル中に存在してもよい。例えば、界面活性剤などの添加剤は、さまざまな目的に:乳化安定剤として、界面張力の改質剤として、または溶解性の低い薬物の粒子中への充填を増加させるために、役立つ可能性がある。本発明の組成物中に用いるのに適した添加剤の例には、ポリビニルアルコール(PVA)、TWEEN(登録商標) 80、プルロニック(Pluronic)F-68、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Brij(登録商標)-35およびN-ドデシル-β-D-マルトシド、オクチル-β-D-グルコピラノシド、IGEPAL(登録商標) CA-630、N-オクタノイル-N-メチルグルカミン、N-ノナノイル-N-メチルグルカミン、N-デカノイル-N-メチルグルカミン、ノニデット(Nonidet)(登録商標) P-40代替品、サポニン、ヘキサデシルメチルアンモニウムブロミド、CHAPS、EMPIGEN(登録商標) BBおよび3-(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホネート内部塩(SB3-12)が含まれ、これらはすべて市販されている。
【0132】
鼻腔内および肺用の製剤は通常、鼻粘膜に刺激作用を引き起こさず、繊毛機能を著しく妨げることもないビヒクルを含むと考えられる。水、食塩水または他の公知の物質などの希釈剤を、本発明とともに用いることができる。肺内製剤は、クロロブタノールおよび塩化ベンザルコニウムを非限定的に含む保存料を含んでもよい。鼻粘膜による吸収を促進するためにサーファクタントが存在してもよい。
【0133】
直腸用および尿道用の坐剤に関しては、本発明の組成物中に用いられるビヒクルは、カカオバター(カカオ脂)または他のトリグリセリド、エステル化、水素添加および/または分別によって改変された植物油、グリセリン処理ゼラチン、ポリアルカリグリコール、さまざまな分子量のポリエチレングリコールの混合物、ならびにポリエチレングリコールの脂肪酸エステルといった、従来の結合剤および担体を含みうる。
【0134】
膣内送達に関しては、本発明の製剤を、ポリエチレントリグリセリドの混合物を含むものなどのペッサリー基剤に組み入れることができ、または、任意でコロイドシリカを含む、トウモロコシ油もしくはゴマ油などの油中に懸濁させることができる。例えば、Richardson et al., Int. J. Pharm. (1995) 115:9-15を参照。
【0135】
特定の送達様式に対して用いるための適切なビヒクルに関するさらなる考察については、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 19th edition, 1995を参照されたい。当業者は、特定の生物活性物質/ポリマー粒子の組み合わせ、粒子のサイズおよび投与様式に対して用いるためのビヒクルを容易に決定することができる。
【0136】
ヒトの治療に加えて、本発明のOEGベースのポリマー組成物は、ペット(例えば、ネコ、イヌ、ウサギおよびフェレット)、家畜(例えば、ブタ、ウマ、ラバ、乳牛および肉牛)および競走馬といった、種々の罹患哺乳動物の獣医学的治療における使用も意図している。
【0137】
本発明に用いられる組成物は任意で、本発明のOEGベースのPE PEEA、PEEURまたはPEEUポリマー中に分散している、関心対象の生物活性物質の「有効量」を含みうる。すなわち、症状を予防、軽減または除去するために十分な治療的または緩和的な反応を対象に生じさせると考えられる量の生物活性物質を、組成物中に含めることができる。必要な正確な量は、いくつかある要因の中でも特に、治療される対象;治療される対象の年齢および全身状態;対象の免疫系の能力、所望の治療の度合い;治療しようとする状態の重症度;選択された特定の生物活性物質、および組成物の投与の様式に応じて変化すると考えられる。適切な有効量は当業者によって容易に決定されうる。このため、「有効量」は、定型的な試験を通じて決定することのできる比較的広い範囲に収まると考えられる。例えば、本発明に関して、有効量は典型的には、1回の投与量当たりに送達される生物活性物質が約1μg〜約100mg、例えば、約5μg〜約1mg、または約10μg〜約500μgの範囲であると考えられる。
【0138】
ひとたび製剤化されると、本発明のOEGベースのポリマー組成物は、標準的な手法を用いて、経口的に、経粘膜的に、または皮下もしくは筋肉内の注射などによって投与される。例えば、鼻腔内、肺内、膣内および直腸内の手法を含む経粘膜送達手法については、Remington: The Science and Practice of Pharmacy,前記, Easton, Pa., 19th edition, 1995を参照されたく、さらに鼻腔内投与の手法については、欧州特許公報番号517,565およびIllum et al., J. Controlled Rel. (1994) 29:133-141を参照されたい。
【0139】
投薬治療は、当技術分野において公知であるように、本発明のOEGベースのポリマー組成物の単回投与、または多回投与スケジュールであってよい。投薬レジメンは、少なくとも一部には、対象の必要性によっても決定され、臨床医の判断に左右されると考えられる。さらに、疾患の予防が望まれる場合には、ポリマー組成物は一般に、原発性疾患の症状発現、または関心対象の疾患の症状の前に投与される。例えば、症状または再発の軽減のように、治療が望まれる場合には、ポリマー組成物は一般に、原発性疾患の症状発現の後に投与される。
【0140】
これらの製剤は、経口、皮下または経粘膜送達の試験のために開発された多くの動物モデルにおいて、インビボで試験することができる。例えば、意識のあるヒツジモデルは、物質の鼻腔内送達の試験のために当技術分野で認められたモデルである。例えば、Longenecker et al, J. Pharm. Sci. (1987) 76:351-355、およびIllum et al., J. Controlled Rel. (1994) 29:133-141を参照。一般に粉末化されて凍結乾燥された形態にあるポリマー組成物を、鼻腔内に吹き入れる。血液試料を、当技術分野において公知の標準的な手法を用いて活性物質についてアッセイすることができる。
【0141】
本発明を例示するために、一連のPEEAを合成した。まず、ジカルボン酸の3種類の異なるジ-p-ニトロフェニルエステルであるNA、NSおよびNFを、PEEAのカルボン酸エステルセグメントを得るためのモノマーとして合成した。NAおよびNSは飽和メチレン構造を有し、一方、NFはメチレン構造内に不飽和C=C二重結合を有する(スキームIVを参照)。
【0142】
PEEAのアミノ酸セグメントを得るためのモノマーとして、本明細書中の実施例に記載したように、ビス-L-フェニルアラニンジエステルの3種類の異なるジ-p-トルエンスルホン酸塩を合成した。この3種の塩はすべて、セグメント中にエーテル結合を有するエチレングリコールのオリゴマーの残基を含んでいた(スキームV)。
【0143】

1a:アジピン酸ジ-p-ニトロフェニル(NA)、x=4
1b:セバシン酸ジ-p-ニトロフェニル(NS)、x=8
1c:フマル酸ジ-p-ニトロフェニル(NF)
スキーム(IV)

2a:k=2、R3=CH2C6H5:L-フェニルアラニンジエチレングリコールジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(P2EG)
2b:k=3、R3=CH2C6H5:L-フェニルアラニントリエチレングリコールジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(P3EG)
2c:k=4、R3=CH2C6H5:L-フェニルアラニンテトラエチレングリコールジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(P4EG)
2d:k=1、R3=CH2CH(CH3)2:L-ロイシン(モノ)エチレングリコールジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(L1EG)
2e:k=1、R3=CH3:L-アラニン(モノ)エチレングリコールジエステルのp-トルエンスルホン酸塩(A1EG)
スキーム(V)
【0144】
本明細書でP2EG、P3ECおよびP4EGと称するジ-p-トルエンスルホン酸塩モノマー2 a〜cの化学構造はすべて、元素分析、FTIRスペクトルならびに1H-および13C-NMRスペクトルによって確かめられた。FTIRスペクトルにより、第一級アミン塩、エステルカルボニル-CO-の両方の存在が1741cm-1に、ならびに-CH2-O-CH2-の特徴的シグナルが1127cm-1領域に示された。
【0145】
例示となる本発明のOEGベースのPEEAの合成は、以下のスキーム(VI)に示すように、モノマー1(1a、1bまたは1c)およびモノマー2(2a、2bまたは2c)の種々の組み合わせの溶液重縮合によって行った。

x=4の場合、AP2EG(k=2);AP3EG(k=3);AP4EG(k=4);
x=8の場合、SP2EG(k=2);SP3EG(k=3);SP4EG(k=4)。

ここで、FP2EG(k=2);FP3EG(k=3);FP4EG(k=4)。
スキーム(VI)
【0146】
これらのPEEAポリマーの化学構造は、FTIRスペクトルおよびNMRスペクトルによって確かめられた。すべてのフマリルベースのPEEAのFTIRスペクトルにより、不飽和-C=C-結合(983cm-1)、ならびにエステルカルボニル(1740cm-1)、エーテル基1115cm-1)、アミド基(1640および1530cm-1)の存在が確かめられた。トリ-エチレングリコールをベースにした3種の典型的なPEEAのNMRスペクトルは、スキームVIに示されたPEEAポリマーの予想された化学構造と完全に一致した。
【0147】
9種類の異なるPEEAをモノマー1a〜cおよび2 a〜cの組み合わせの溶液重縮合によって合成し、表1に掲載した。
【0148】
(表1)式Iのポリ(エーテルエステルアミド)a)の特性

a 合成条件:c=0.90mol/L。t=70℃、溶媒としてTHF。
b DMSO中、25℃で測定、C=0.25g/dL。
c フマル酸ベースのPEEAに関する分子量データはTHF中に不溶性であるため得られず。
A-アジピン酸、F-フマル酸およびS-セバシン酸;P=L-Phe;スキーム6においてK=2,3,4。
【0149】
アジピン酸およびセバシン酸ベースのPEEAのうち、AP3EGおよびSP3EGで最も高いMn、Mw、および低い粘度ηredが達成された。
【0150】
合成されたPEEAは、脂肪族ジオールの残基を含む対応する飽和または不飽和PEAよりもTgが低かった(Katsasava, R. et al. J Polym Sci Pol Chem (1999) 37(4):391-407およびGuo et al, 前記)。実際、各PEEA系列の中では、エーテル結合の数の増加はそれに対応したTgの低下を招いており、これは不飽和PEEAにおけるよりも飽和PEEA系列でより顕著であるように見えた。したがって、PEEAのTgの低下は、鎖の柔軟性の増大を引き起こして鎖セグメント運動を促進する、エーテル結合の存在に起因すると考えられた。
【0151】
2つの代表的な本発明のトリエチレングリコールベースのPEEAポリマー(AP3EGおよびSP3EG)の生分解動態を、pH7.4のPBS緩衝液およびα-キモトリプシン緩衝液中において37℃で検討した。どちらのポリマーも、PBS緩衝液中よりもα-キモトリプシン溶液中ではるかに速い重量減少を呈し、酵素溶液中でのこれらのPEEAポリマーの生分解のレベルは化学構造および酵素濃度の両方に依存した。試験したポリマーのうち、AP3EGは酵素的生分解に対する感受性が最も高かった(図2)。
【0152】
さらに、生分解試験に用いたα-キモトリプシン濃度の違いにかかわらず、例示的なOEGベースのPEEAの重量減少動態は表面浸蝕に起因するゼロ次のものに非常に近かった。
【0153】
本発明のPEEURの合成を例示するために、以下のモノマー―さまざまな長さのエーテルブロックを含む活性ビス-p-ニトロフェニルカーボネート―を、本明細書中の実施例2に記載したように合成した。個々のエーテルジオール、ジ-エチレングリコール、トリ-エチレングリコール、テトラ-エチレングリコールは市販されており、この作業に適している。活性ビス-p-ニトロフェニルカーボネートは、一般的なスキーム(VII)に従って合成した。

ここで、4a:k=2;4b:k=3;4c:k=4。
スキーム(VII)
【0154】
得られたモノマーの化学構造は、元素分析、1H NMRによって確かめられ、報告されている融点によって同定された。例示となる本発明のOEGベースのPEEURの合成は、以下のスキーム(VIII)に示されているように、上記のPEEA合成と類似した溶液重縮合法によって実施した。

スキーム(VIII)
【0155】
合成されたPEEURの重量平均分子量は、GPC(DMF、PMMA)による評価では31,400〜51,000g/molの範囲にあり、ガラス転移温度は12〜39℃の範囲にあった。リパーゼ触媒下の生分解をL1EGベースのPEEURに対して行わせた。結果は図3A〜Cに図示されており、そのデータは、得られたPEEURがリン酸緩衝液中では化学的加水分解を受けなかったことを示している。対照的に、リパーゼ触媒下の生分解の速度は高く、式V〜VIのR6におけるOEG断片の長さには依存しなかった。
【0156】
以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており、限定するものではない。
【実施例】
【0157】
実施例1
本実施例では、本発明の組成物の特性を例示するために、一連の飽和および不飽和OEGベースのPEA(PEEA)の調製および試験について述べる。
【0158】
A.材料の調製
L-フェニルアラニン(L-Phe)、p-トルエンスルホン酸一水和物(TosOH.H2O)、セバコイルクロリド、アジポイルクロリド、フマリルクロリド、ジエチレングリコール、トリ-エチレングリコールおよびテトラ-エチレングリコール(Alfa Aesar, Ward Hill, MA)およびp-ニトロフェノール(J. T. Baker, Phillipsburg, NJ)を、それ以上は精製せずに用いた。トリエチルアミン(Fisher Scientific, Fairlawn, NJ)は水素化カルシウムとの還流によって乾燥させ、続いて蒸留した。N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(Aldrich Chemical, Milwaukee, WI)は水素化カルシウム上で乾燥させて蒸留した。トルエン、トリフルオロエタノール(TFE)、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)およびジメチルスルホキシド(DMSO)などの他の溶媒は、VWR Scientific(West Chester, PA)から購入し、使用前に標準的な方法によって精製した。
【0159】
B.モノマーおよびポリマーの合成
以下のモノマーを、式(I)および(IV)のPEEA合成のために調製した:ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステル(1a〜c)、およびビス-L-フェニルアラニン-グリコール-エステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(2a-c)。
【0160】
ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステル(化合物1a〜c)の合成は、以前に記載されたように、対応するアシルクロリドをp-ニトロフェノールと反応させることによって実施した(米国特許第6,503,538 B1号およびGuo, K., et al. J. Polym Sci Pol Chem (2005) 43(7):1463-1477)。手短に述べると、100mLアセトン中のトリエチルアミン(0.0603mol)およびp-ニトロフェノール(0.0603mol)の溶液を室温で調製し、この溶液をドライアイスおよびアセトンによって-78℃に保った。続いて、40mLアセトン中のフマリルクロリド(0.03mol、3.2mL)を上記の冷却溶液に-78℃で2時間にわたり撹拌しながら滴加し、続いて撹拌を室温で一晩続けた。その後に、混合物を800mLの蒸留水に注ぎ入れて、生成物であるフマル酸ジ-p-ニトロフェニル(1c)を沈殿させ、それを濾過し、蒸留水で十分に洗浄して、減圧下にて50℃で乾燥させ、最後にアセトニトリルからの再結晶化によって精製した。
【0161】
ビス-L-フェニルアラニンエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(化合物2a〜c)は、前出のスキーム(V)に示されているように、Katsarava at all, 1999, 前記)に記載された手順を変更することによって調製した。
【0162】
典型的には、300mLのトルエン中のL-Phe(0.176mol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.176mol)およびグリコール(0.08mol)を、Dean-Stark装置、CaCl2乾燥管および磁気スターラーを備えたフラスコに入れた。この反応混合物を6.1mL(0.34mol)の水が生じるまで加熱(約140℃)および還流し、続いて室温まで冷却して、ロータリー蒸発によって溶媒を除去した上で、混合物を減圧下で一晩乾燥させ、最後に再結晶化によって精製した。化合物2a(P2EG)は水中で再結晶化させ、化合物2bおよび2cは2-プロパノールから結晶化させた。
【0163】
モノマー1および2の溶液重縮合:
PEEAを、スキーム(VI)に従い、2a〜cとジ-p-ニトロフェニルエステル(1a〜c)の1つとの溶液重縮合によって調製した。ポリマーの組成および名称はスキームVIおよび表3に示されている(FP3EGなどのFから出発したPEEAは、フマリル部分が基で不飽和性であった)。
【0164】
溶液重縮合を介したOEG含有ポリマーAP2EG合成の一例を提示する。3mLの乾燥DMA中のモノマー1a、4.0mmolおよび2a、4.0mmolの混合物に10ミリモル(1.42mL)のトリエチルアミンを滴加し、モノマーが完全に溶解するまで溶液を撹拌しながら60℃に加熱した。その後は反応バイアルを撹拌せずに48時間にわたり70℃未満に保った。この結果得られた粘性溶液(用いたモノマーの種類に応じて淡黄色から暗褐色の色調)を2群に分け、異なる溶媒によって沈殿させた。不飽和PEEA反応混合物(FP2EG9、FP3EGおよびFP4EG)をアセトンで希釈して生成物を沈殿させた。続いてポリマーをアセトンで2回洗浄し、濾過して、最後に減圧下で48時間乾燥させた。
【0165】
飽和PEEAは冷却酢酸エチル中に沈殿させ、生成物を濾過して、ソックスレー抽出器(Soxhlet apparatus)内で48時間にわたって酢酸エチルを循環させることによってさらに精製し、減圧下で48時間乾燥させた。
【0166】
ポリマーの溶解性
FP2ECを除くほぼすべてのPEEAは、DMSO、DMFおよびギ酸中に溶解性であったが、水、メタノールおよび酢酸エチル中には溶解しなかった。飽和PEEAもトリフルオロエタノール、THFおよびクロロホルム中に溶解性であった。しかし、3種の不飽和PEEAはそれらの通常の有機溶媒中にはごくわずかしか溶解しなかった。このように、脂肪族ジオールから得られたPEAポリマーと比較して、OEGベースのPEEA、特に不飽和PEEAは、溶解性の有意な向上を示した。例えば、SP3ECおよびSP4EGはいずれもアセトン中に溶解したが、SPB(1,4-ブタンジオールベースのPEA)およびSPH(1,6-ヘキサンジオールベースのPEA)は不溶性であった。
【0167】
C.モノマーおよびポリマーの化学構造および特性を確認するために用いた試験方法
化学構造はフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルおよびNMRスペクトルによって確認した。FTIR特性決定に関しては、試料を砕いて粉末にし、KBrと1:10 w/wの比で混合した。続いて、Perkin-Elmer Nicolet Magana 560(Madison, WI)FTIR分光計をデータ収集および解析のためのOmnicソフトウエアとともに用いて、試料のFTIRスペクトルを入手した。試料のNMRスペクトルは、Varian Unity NOVA-400 400MHz分光計(Palo Alto, CA)により、1Hおよび13C NMRに関してそれぞれ400および100MHzで動作させて記録した。重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6, Cambridge Isotope laboratories)を溶媒として用いた。合成されたポリマーの元素分析は、PE 2400 CHN元素分析器(Atlantic Microlab, Norcross, GA)を用いて行った。
【0168】
合成されたモノマーおよびポリマーの熱特性は、示差走査熱量計DSC 2920(TA Instruments, New Castle, DE)によって特徴づけた。測定は0℃から300℃まで、走査速度10℃/分および窒素ガス流速25mL/分で行った。TA Universal Analysis(商標)ソフトウエアを、ガラス転移温度の決定といった熱データ解析のために用いた。融点は融解吸熱の開始にて決定した。
【0169】
合成されたPEEAの数平均分子量および重量平均分子量ならびに分子量分布(MWD)は、高圧液体クロマトグラフィーポンプ、Waters 486 UV検出器およびWaters 2410示差屈折率検出器を備えた、ゲル浸透クロマトグラフィー(Model 510, Waters Associates Inc. Milford, USA)によって決定した。テトラヒドロフラン(THF)を溶離剤として用いた(1.0mL/分)。カラムは、狭い分子量分布を有するポリスチレン標準物質を用いて較正した。合成されたポリマーの還元粘度(ηred)は、Cannon-Ubbelhode粘度計により、DMSO溶液中で濃度0.25g/dL、25℃にて決定した。
【0170】
生分解性試験に関しては、PEEAフィルムを10%(wt/v)クロロホルム溶液からテフロン(登録商標)製ペトリ皿に流し込み、室温で溶媒を完全に蒸発させた。フィルムをさらに室温にて減圧下で一晩乾燥させ、最後に直径12.5mmの小さなディスクとして打ち抜いた。
【0171】
OEGベースのPEEAのインビトロ生分解性試験は、乾燥PEEAフィルムの小さなフィルム、および10mLの純粋なPBS緩衝液、またはPBS緩衝液(pH=7.4、0.1M)中にある種々の濃度(0、0.05、0.1または0.2mg/mL)のα-キモトリプシン溶液を含む、小さなバイアル中で行った。2種の代表的なOEGベースのPEEAポリマー(AP3EGおよびSP3EG)をこの生分解性試験に用いた。続いて試料を、一定の往復振盪(100rpm)下にて37℃でインキュベートした。所定の間隔でPEEAフィルムをインキュベーション媒質から取り出し、蒸留水で穏やかに洗浄し、表面の水を濾紙で吸い取った上で秤量した。生分解の度合いは、PEEAフィルム試料の重量減少から、以下の式に基づいて推算した。

式中、Woは浸漬前の乾燥PEEAフィルム試料の元の重量であり、Wtは、t時間にわたるインキュベーション(酵素の存在下または非存在下)後の乾燥PEEAフィルム試料の重量である。3つの標本の重量減少平均を記録した。
【0172】
PEEAポリマーの分子量変化をGPCによってもモニターした。
【0173】
PEEAフィルムの表面親水性は、相対湿度65%および21℃に維持した状態調節室でMASS接触角分析装置を用いることによって決定した。蒸留水を塗布液として用い、各PEEAフィルムのランダムに選択した5つの表面領域で接触角を測定した。各試料タイプの2枚のPEEAフィルムを試験した。
【0174】
モノマー2の構造の確認
ジ-p-トルエンスルホン酸塩モノマー2a〜eの化学構造はすべて、FTIRスペクトルおよびNMRスペクトルの分析によって確かめられた。FTIRスペクトル中に、エステル基(1736〜1750cm-1)およびエーテル基(約1127cm-1)などの主な吸収バンドが突き止められた。2500〜3300cm-1の間の幅広い吸収は、エステル塩中に存在する第一級アミン塩および脂肪族炭化水素構造の両方に起因すると考えられた。2a〜eの1H NMRデータからも、-CH2-O-CH2-の特徴的なシグナルが示された。
【0175】
ポリマーの構造の確認
フマリルベースのPEEAのFTIRスペクトルは、エステル基(ほぼ1740cm-1)、エーテル基(ほぼ1115cm-1)、アミド基(ほぼ1640cm-1およびほぼ1530cm-1)および不飽和-C=C-結合(ほぼ983cm-1)の特徴的な吸収バンドを呈した。2900cm-1前後の幅広い吸収は、ポリマー中に存在する脂肪族炭化水素構造に起因すると考えられた。PEEAの1H-NMRスペクトル(400 MHz、DMSO-d6)は、-NH-結合のプロトンシグナル(8.90または8.24ppm)、ジエステル単位におけるエーテルCH2-O-CH2結合(約3.50ppm)および酸単位における-HC=CH-結合(6.83ppm)を示した。元素分析によるデータも、組成物に関して算出されたものと一致した。
【0176】
生分解性試験の結果
2つの代表的なOEGベースのPEEAポリマー(AP3EGおよびSP3EG)の生分解動態を、α-キモトリプシンを含むpH 7.4のPBS緩衝液溶液中にて37℃で試験した。この生分解性試験によるデータにより、いずれのポリマーも、純粋なPBS緩衝液中よりもα-キモトリプシン溶液中ではるかに速く、かつより顕著な重量減少を呈すること、ならびに酵素溶液中でのこれらのPEEAポリマーの生分解性の度合いは化学構造および酵素濃度の両方に依存することが示された。この生分解データから、AP3EGは酵素的生分解に対する感受性が非常に高いことが示された(図1)。
【0177】
濃度0.05mg/mLのα-キモトリプシン溶液中であっても、AP3EGは容易に生分解されて、最初の8時間で分子量の13%が減少し、1日後には分子量の31%が減少した。AP3EGの生分解プロファイルからは、酵素加水分解の速度はα-キモトリプシンの濃度の上昇に伴って高くなることが示された。さらに、α-キモトリプシン濃度の違いにかかわらず、重量減少動態はゼロ次に非常に近かった。また、AP3EGフィルムは、最大80%の重量減少に至るまでその一定の表面積を非常によく維持し、その間、ポリマー試料は徐々に薄くなっていった。この結果は、本発明のPEEAポリマーフィルムが酵素加水分解中に均等な表面浸蝕を受けたことを指し示しており、これは脂肪族ポリエステルによくみられる一括的(bulk)な生分解のタイプとは対照的な結果であった。
【0178】
本発明のOEGベースのPEEA中の二酸モノマー1a〜bの長さの違いが生分解性に及ぼす影響を図2に示している。その中にまとめられたデータは、AP3EG(モノマー1a:4個のメチレン基を有するアジピン酸ジ-p-ニトロフェニルから得られる)がα-キモトリプシン触媒下の加水分解を受ける傾向は、SP3EG(モノマー1b:8個のメチレン基を有するセバシン酸ジ-p-ニトロフェニルから得られる)のそれよりも弱いことを指し示している。0.10mg/mLのα-キモトリプシン溶液中では、SP3EGもゼロ次に近い生分解動態を示し、24時間以内での重量減少が81%に対して56%という、AP3EGのそれよりも速い生分解速度さえも示した。この結果は、SP3EGのようなより疎水性の高いPEEAはα-キモトリプシンに対する親和性がより大きく、そのためにAP3EGよりも酵素加水分解の速度が高いことに起因する可能性がある。
【0179】
また、これらのOEGベースのPEEAは、線状の脂肪族飽和および不飽和ジオールから得られた同様の構造を有するPEAよりも、はるかに高いα-キモトリプシン触媒下の生分解速度を有することも示された。例えば、24時間以内で、SP3EGの重量減少は81.3%であり、一方、SPBU(2-ブテン-1,4-ジオール由来)の重量減少は13.8%であり、SPB(1,4-ブタンジオールから得られる)では6.4%に過ぎなかった。したがって、OEGベースのPEEAの骨格へのエーテル結合の組み入れは、脂肪族骨格セグメントを有する(すなわち、脂肪族ジオールから得られる)同様の構造を有するPEAと比較して、酵素的生分解を強化する。
【0180】
(表2)種々の媒質中での18時間のインキュベーションの前および後のPEEAポリマーの重量減少、分子量および接触角

a 対照としての元の試料。
【0181】
インキュベーション媒質中のPEEAポリマーフィルムを、それらの生分解について調べるためにGPCによっても測定した(表2)。重量減少からは、0.1mg/mLのα-キモトリプシン溶液中で18時間のうちにAP3EG(34.9%)およびSP3EG(64.8%)試料の有意な生分解が示されたが、GPCデータでは分子量および分子量分布のいずれもほとんどわずかな変化しか示さず、α-キモトリプシン低濃度(0.05mg/mL、より少ない重量減少)、α-キモトリプシン高濃度(0.20mg/mL、より多い重量減少)およびPBS緩衝液(重量減少はほとんどなし)で比例した結果が生じた。
【0182】
実施例2
本実施例では、本発明の組成物の特性を例示するために、一連の飽和OEGベースのPEUR(PEEUR)の調製および試験について述べる。親水性PEEURの鍵となるモノマーの合成のために、さまざまな長さのエーテルブロックを含む活性ビス-p-ニトロフェニルカーボネートを入手した。2EG、3EGおよび4EGの活性ビス-p-ニトロフェニルカーボネートを、一般的なスキームVIIに従って合成した。
【0183】
全般的には、0.01モルのエーテル-ジオールの冷却(-10℃)溶液に対して、0.02モルのクロロギ酸p-ニトロフェニルを段階的に添加し、続いて反応温度を環境温度まで上昇させて、1時間撹拌した。続いて反応溶液をHClの遊離が完了するまで還流させ、溶液を乾燥するまで蒸発させて固体生成物を得て、それをさらに以下のように精製した。
1.ジエチレングリコール-ビス-p-ニトロフェニルカーボネート(スキームVIIにおける4a)を、トルエン/n-ヘキサン(3:1 v/v)の混合物中で再結晶化させた。収率73%、m.p. 110〜112℃(文献. 108〜110℃、R. Katsarava, et al., Vysokomolek.Soed.(Russia) (1987), 29A:2069)。
2.3EGおよび4EGをベースとする活性カーボネート(スキームVIIにおける4bおよび4c)を、ジクロロメタン/ジエチルエーテル(3:1 v/v)混合物中で再結晶化させた。収率:4b 60%、4c 54%、m.p.:4b、59〜61℃;4c 48〜50℃。
【0184】
親水性対抗パートナー(counter-partner)である、最も短いジオール(エチレングリコール)および疎水性の低いα-アミノ酸―L-アラニンおよびL-ロイシンをベースとするジアミンのジ-p-トルエンスルホン酸塩(化合物2d〜e、スキームV)を、本明細書に記載したように、標準的なスキームVに従って調製した。生成物を以下のように再結晶化させた。
2e(A1EG)-アセトン/エタノール(50/1 v/v)混合物から、mp=223〜225℃;および
2d(L1EG)-アセトン/水(50/1 v/v)混合物から、mp=235〜237℃。
【0185】
モノマー2d〜eおよび4a〜cの重縮合は、スキームVIIIに従って、酸受容体としてのトリエチルアミンの存在下にて、濃度c=1.2mol/L、t=80℃、継続時間16時間という、DMA中での標準的な条件下で行った。
【0186】
合成されたポリマー(PEEUR)の分子量は31,400〜51,000g/molの範囲にあり、多分散性は1.3〜1.5の範囲にあった。ポリマーのガラス転移温度(Tg)は12〜39℃の範囲内にあった。
【0187】
これらのPEEURはすべて、DMF、クロロホルムおよびTHF中に溶解性であった。ロイシンベースのポリマーはエタノール中にも溶解性であった。
【0188】
リパーゼ触媒下のインビトロ生分解性試験
PEEURのインビトロ生分解を、リパーゼを酵素として用いて0.2 Nリン酸緩衝液、pH 7.4中にてt=37℃で行った。PEEURは親水性が高く、ポリマーのフィルムは緩衝液中で形状を保てなかった(強い収縮が観察された)。このため、生分解を検討するために、テフロン(登録商標)製ディスクをPEEURクロロホルム溶液中に浸し、続いてポリマーを取り出して乾燥させることにより、d=4cmのテフロン(登録商標)製の支持ディスク(backing disc)をポリマーで覆った。この手順を、ディスクの重量がおよそ400〜500mgに達するまで繰り返した。続いて、PEEURで覆ったテフロン(登録商標)製支持ディスクを一定重量になるまで乾燥させて、インビトロ生分解性試験に用いた。この手順の間に、支持体上に残留したのは2d(L1EG)ベースのPEEURのみであった。親水性がはるかに高い2e Ala-2ベースのPEEURは支持体から緩衝液中に流れたため、重量減少による生分解については検討できなかった。
【0189】
2d(L1EG)ベースのPEEURに関するリパーゼ触媒下の生分解性試験の結果は図3A〜Cにまとめられており、その中のデータは、純粋なリン酸緩衝液中では認知しうる程度の生分解がみられなかったことを示している。しかし、これらのPEEURのリパーゼ触媒下の生分解速度はかなり高く、L-ロイシン、アジピン酸および1,6-ヘキサンジオールをベースとする式IのPEAのリパーゼ触媒下の生分解速度と非常に近かった。この試験により、EG断片(EG2、EG3またはEG4)の長さは、試験したPEEURの生分解速度に実質的な影響を及ぼさないことが示された。
【0190】
すべての刊行物、特許および特許文献は、個別に参照により組み込まれるのと同じように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0191】
本発明を、さまざまな具体的および好ましい態様および手法に関して説明してきた。しかし、本発明の精神および範囲内にある限り、多くの変更および改変を行いうることが理解されるべきである。したがって、本発明は以下の特許請求の範囲のみによって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)からf)までの少なくとも1つを含む生分解性ポリマー中に分散している少なくとも1つの生物活性物質を含む、組成物:
a)構造式(I)によって記載される化学式を有するポリ(エステルエーテルアミド)(PEEA):

式(I)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)

式(II)
のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンである式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり;
個々のn個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)

式(III)
の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択される;
b)構造式(IV)によって記載される化学式を有するPEEAポリマー:

式(IV)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり:pは約0.9〜0.1の範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンである式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルまたは保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである;
c)構造式(V)によって記載される化学式を有するポリ(エーテルウレタン)(PEEUR):

式(V)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおけるR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される;
d)一般構造式(VI)によって記載される化学構造を有するPEEUR:

式(VI)
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり、pは約0.9〜約0.1の範囲であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C1-C6)アルキル(C6-C10)アリールおよび保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおけるR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである;
e)一般構造式(VII)によって記載される化学式を有するポリ(エーテルウレア)(PEEU):

式(VII)
式中、
nは約15〜約150であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される;ならびに
f)構造式(VIII)によって記載される化学式を有するPEEU:

式(VIII)
式中、
mは約0.1〜約1.0であり;pは約0.9〜約0.1であり;nは約15〜約150であり;
R2は独立に、水素、(C1-C12)アルキルまたは(C6-C10)アリールからなる基であり;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである。
【請求項2】
ポリマーが構造式(I)または(IV)によって記載され、かつ、
n個の各モノマーにおいて、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンである、
請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ポリマーが構造式(I)および(IV)によって記載され、かつ、
n個の各モノマーにおいて、R4が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択され、かつ
R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンである、
請求項1記載の組成物。
【請求項4】
ポリマーが構造式(V)または(VI)によって記載され、かつ、
n個の各モノマーにおいて、R4またはR6が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される、
請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ポリマーが構造式(V)および(VI)によって記載され、かつ、
n個の各モノマーにおいて、R4およびR6が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C4)アルキルオキシ(C2-C8)アルキレンからなる群より選択される、
請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ポリマーが構造式(VII)または(VIII)によって記載され、かつ、
n個の各モノマーにおいて、n個の各モノマーにおけるR4が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される、
請求項1記載の組成物。
【請求項7】
各ポリマー分子が、生分解を受けると44から400Daまでの、ただし400Daは含まない分子量を有する15〜300個のオリゴ-エチレングリコール(OEG)分子を放出する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
R3が、CH2CH(CH3)2、CH2C6H5およびCH3からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
ポリマーの粒子の液体分散体の形態での投与のために製剤化されている、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
粒子がポリマー分子当たり約5〜約150個の生物活性物質の分子を含む、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
構造式(I)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)または(VIII)によって記載される化学式を有するポリマー:
a)式(I)は、

式(I)
であり、
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)

式(II)
のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択される式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり;
個々のn個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)

式(III)
の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせから独立に選択され;
b)式(IV)は、

式(IV)
であり、
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜0.9の範囲であり:pは約0.9〜0.1の範囲であり;
R1は、(C2-C12)アルキレン、(C2-C12)アルケニレンおよび式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基からなる群より独立に選択され、ここで式(II)中のR5は(C2-C4)アルキレンおよび(C2-C4)アルケニレンからなる群より独立に選択され、R7は(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択されるが、ただし各ポリマーにおける少なくとも1つのR1は、R7が(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択される式(II)のα,ω-ジカルボン酸の残基であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルまたは保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマーにおけるR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、(C2-C20)アルキレン、(C2-C20)アルケニレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルであり;
c)式(V)は、

式(V)
であり、
式中、
nは約15から約150までの範囲であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2およびCH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただしR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2およびCH2CH(CH2OH)からなる群より選択され;
d)式(VI)は、

式(VI)
であり、
式中、
nは約15から約150までの範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり:pは約0.9〜約0.1の範囲であり;
R2は、水素、(C1-C12)アルキル、(C1-C6)アルキル(C6-C10)アリールおよび保護基からなる群より独立に選択され;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4およびR6は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)、構造式(III)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、1,4-アンヒドロエリトリトールの断片およびそれらの組み合わせからなる群より独立に選択されるが、ただしR4およびR6の少なくとも1つは、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2およびCH2CH(CH2OH)からなる群より選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルであり;
e)式(VII)は、

式(VII)
であり、
式中、
nは約15〜約150であり;
個々のn個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;かつ
R4は、(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレン、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)からなる群より独立に選択され;ならびに
f)式(VIII)は、

式(VIII)
であり、
式中、
mは約0.1〜約1.0であり;pは約0.9〜約0.1であり;nは約15〜約150であり;
R2は独立に、水素、(C1-C12)アルキルまたは(C6-C10)アリールからなる基であり;
個々のm個のモノマー中のR3は、水素、(C1-C6)アルキル、(C2-C6)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C6-C10)アリール(C1-C6)アルキルおよび-(CH2)2SCH3からなる群より独立に選択され;
R4は、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択され;かつ
R8は独立に(C1-C20)アルキルまたは(C2-C20)アルケニルである。
【請求項12】
R7が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される、構造式(I)または(IV)によって記載される請求項11記載の組成物。
【請求項13】
R7が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C4)アルキルオキシ(C2-C8)アルキレンからなる群より選択される、構造式(I)および(IV)によって記載される請求項11記載の組成物。
【請求項14】
R4およびR6が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より独立に選択される、構造式(V)および(VI)によって記載される請求項11記載の組成物。
【請求項15】
R4が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C4)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される、構造式(VII)または(VIII)によって記載される請求項11記載の組成物。
【請求項16】
R4が、CH2CH(OH)CH2、CH2CH(CH2OH)および(C2-C6)アルキルオキシ(C2-C12)アルキレンからなる群より選択される、構造式(VII)および(VIII)によって記載される請求項11記載の組成物。
【請求項17】
R3が、CH2CH(CH3)2またはCH3である、請求項11記載の組成物。
【請求項18】
R3が、水素、CH2CH(CH3)2、CH3、CH(CH3)2、CH(CH3)、CH2CH3およびCH2C6H5)からなる群より選択される、請求項11記載の組成物。
【請求項19】
平均直径が約10ナノメートルから約1000マイクロメートルまでの範囲にある粒子として製剤化されている、請求項11記載の組成物。
【請求項20】
生物活性物質を対象に送達するための方法であって、
請求項1記載の組成物を対象にインビボで投与する段階、および
対象に生物活性物質を制御された送達速度で送達しながら、ポリマー分子当たり15〜300個の、重量平均分子量(Mw)が少なくとも44Daであるが400Da未満であるオリゴ-エチレングリコール(OEG)分子をインビボで形成させる段階
を含む方法。
【請求項21】
組成物が表面酵素作用によって生分解される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記の投与段階の前に、組成物をポリマーフィルムまたはポリマー粒子の液体分散体として製剤化する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記投与が、組成物の粒子を対象の体内の局所部位に注射する段階を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記投与の前に、組成物を平均サイズが約1μm〜約500nmであるポリマー粒子に製剤化する段階をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項25】
ミセル形成性ポリマー中に分散されている少なくとも1つの生物活性物質を含む組成物であって、
a)少なくとも1つの請求項11記載のポリマーを含み、水溶性区域と連結されている疎水性区域と、
b)i)少なくとも200Daでありかつ400Da未満のMwを有する、ポリエチレングリコール、および
ii)少なくとも1つのイオン性または極性アミノ酸
の交互反復単位である水溶性区域と
の交互反復単位を含み、
該交互反復単位が実質的に同程度の分子量を有し、かつ
該ポリマーのMwが約15kDa〜300kDaの範囲にある、
組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−506644(P2011−506644A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537081(P2010−537081)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/085583
【国際公開番号】WO2009/073814
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(505323312)メディバス エルエルシー (12)
【出願人】(508057896)コーネル・ユニバーシティー (12)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
【Fターム(参考)】