説明

オルガノシロキサン共重合樹脂

【課題】耐熱性、柔軟性、潤滑性に優れ、経時的な熱分解が抑制されたオルガノシロキサン共重合樹脂を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基(A)、一般式(4)で示される二価フェノール残基(B)、および芳香族ジカルボン酸残基(C)からなり、250℃で10分間加熱した場合の揮発物量が20〜3000質量ppmであるオルガノシロキサン共重合樹脂および二価フェノール残基(B)におけるYが化学式(5)で示される基であるオルガノシロキサン共重合樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノシロキサンを共重合したポリアリレート樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オルガノシロキサンを共重合したポリアリレート樹脂(以後、「オルガノシロキサン共重合樹脂」と略称する場合がある。)は、耐熱性、電気的特性(絶縁性、誘電特性等)、柔軟性に優れていることから、電子部品や液晶表示装置として用いられている。
【0003】
近年、これらの用途では、前記特性のみならず、樹脂表面の摩擦や磨耗に対する特性も求められている。特に、ギア、ガイド等の摺動部品として用いる場合には、金属や他のプラスチック材料との摩擦により接触面に傷が生じやすいため、潤滑性の高い材料が求められている(特許文献1、2)。
【0004】
しかしながら、特許文献1および2のオルガノシロキサン共重合樹脂を用いた場合、柔軟特性の低下等、経時的な熱分解が生じ、長時間の使用が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−24345号公報
【特許文献2】特開2009−46667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性、柔軟性、潤滑性に優れ、経時的な熱分解が抑制されたオルガノシロキサン共重合樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オルガノシロキサン共重合樹脂中の不純物量を調整し、さらに特定のモノマーを用いれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。不純物が一定量含まれていた方が、経時的な熱分解を抑制できることは予想外のことである。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0008】
一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基(A)、一般式(4)で示される二価フェノール残基(B)、および芳香族ジカルボン酸残基(C)からなり、250℃で10分間加熱した場合の揮発物量が20〜3000質量ppmであるオルガノシロキサン共重合樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子数が1〜12個の脂肪族基または芳香族基を表し、R、R、RおよびRは、独立して、脂肪族基または芳香族基を表し、aは5以上であり、X1およびX2は一般式(2)または化学式(3)で示される置換基を表す。)
【化2】

(式中、Tは炭素原子数が1〜5個の脂肪族基または芳香族基を表し、bは0〜4の整数である。)
【化3】

【化4】

(式中、Yは炭素原子を1以上含む基を表し、UおよびUは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、および、直鎖または分岐構造の炭化水素基からなる群より選ばれたものを表し、c、dは、独立して、0〜2の整数である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、柔軟性、潤滑性に優れ、経時的な熱分解が抑制されたオルガノシロキサン共重合樹脂を提供することができる。また、この樹脂を有機溶剤に溶解した樹脂溶液は、溶液安定性にも優れている。さらに、前記特性を活かして、被膜、フィルム、成形体として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂は、オルガノシロキサン残基(A)、二価フェノール残基(B)、および芳香族ジカルボン酸残基(C)から構成される。
【0011】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂には、一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基が共重合されていることが必要である。一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基が共重合されていないと、柔軟性が低下するので好ましくない。また、摩擦係数が大きくなるので好ましくない。
【0012】
【化5】

(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子数が1〜12個の脂肪族基または芳香族基を表し、R、R、RおよびRは、独立して、脂肪族基または芳香族基を表し、aは5以上であり、X1およびX2は一般式(2)または化学式(3)で示される置換基を表す。)
【化6】

(式中、Tは炭素原子数が1〜5個の脂肪族基または芳香族基を表し、bは0〜4の整数である。)
【化7】

【0013】
一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基の重合度mは、5以上であることが必要であり、9〜100であることが好ましく、20〜70であることがより好ましい。aが5未満である場合、摩擦係数が大きくなるので好ましくない。
【0014】
一般式(1)で示されるオルガノシロキサンのX1およびX2は一般式(2)または化学式(3)で示される置換基であることが必要である。X1およびX2が一般式(2)または化学式(3)で示される置換基でない場合、重合性が低下して、十分な重合度が得られない場合があるので好ましくない。
【0015】
一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基の共重合量は、オルガノシロキサン共重合樹脂において、0.05〜80質量%とすることが好ましく、0.05〜50質量%とすることがより好ましく、1〜30質量%とすることがさらに好ましい。オルガノシロキサン残基の共重合量をこの範囲とすることで、耐熱性を維持しつつも、柔軟性を付与することができ、摩擦係数を小さくすることができる。
【0016】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂には、一般式(4)で示される二価フェノール残基が共重合されることが必要である。一般式(4)で示される二価フェノール残基が共重合されていないと、溶液安定性が不足するので好ましくない。
【0017】
【化8】

(式中、Yは炭素原子を1以上含む基を表し、UおよびUは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、および、直鎖または分岐構造の炭化水素基からなる群より選ばれたものを表し、c、dは、独立して、0〜2の整数である。)
【0018】
二価フェノール残基を与える二価フェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔TMBPA〕、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールC〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン〔AP〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0019】
中でも、二価フェノール(B)におけるYが一般式(5)で示される官能基であることが好ましい。二価フェノール(B)におけるYが一般式(5)で示される官能基である二価フェノールを共重合することで、耐熱性や溶液安定性を向上させることができる。中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔TMBPA〕、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールC〕が好ましい。
【0020】
【化9】

【0021】
ジカルボン酸残基を与えるジカルボン酸としては、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸ビス(p−カルボキシフェニル)アルカン、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点から、一般式(6)で示されるジカルボン酸が好ましく、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸がより好ましい。
【0022】
【化10】

【0023】
一般式(6)で示されるジカルボン酸を用いる場合、全ジカルボン酸に対して、その共重合量は、40モル%以上とすることが好ましく、60モル%以上とすることがより好ましい。共重合量を40モル%以上とすることで、350nmにおける光線透過率を高くすることができる。
【0024】
オルガノシロキサン共重合樹脂の重合時において、一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基および一般式(4)で示される二価フェノール残基の合計と、ジカルボン酸残基とのモル比は、95/105〜105/95の範囲が好ましい。前記モル比を制御することで、オルガノシロキサン共重合樹脂の末端基量等を調整することができる。
【0025】
オルガノシロキサン共重合樹脂を250℃で10分間加熱したときの揮発物量は、20〜3,000質量ppmであることが必要であり、100〜1,500質量ppmであることが好ましく、100〜1,000質量ppmであることがより好ましい。ここでの揮発成分は、オルガノシロキサン共重合樹脂の分解物またはオルガノシロキサン共重合樹脂中に含まれる一般式(1)で示されるオルガノシロキサンであると考えられる。
【0026】
揮発物量が3,000質量ppmを超えると、破断伸度が経時的に低下するので好ましくない。また、溶液安定性が低下するので好ましくない。一方、揮発物量が20質量ppm未満であると、破断伸度が経時的に低下するので好ましくない。揮発物量を20質量ppm以上とすることで、理由は定かではないが、加水分解が促進されなかったために、樹脂の安定性が向上すると推測される。
【0027】
オルガノシロキサン共重合樹脂のフェノール末端基価は30モル/トン以下であることが好ましく、10モル/トン以下であることがより好ましく、4モル/トン未満であることがさらに好ましい。
【0028】
オルガノシロキサン共重合樹脂の酸価は15モル/トン以下であることが好ましく、4モル/トン未満がより好ましい。
【0029】
フェノール末端基価が30モル/トンを超えたり、酸価が15モル/トンを超える場合、加水分解しやすくなったり、溶融成型後に着色が見られたり、樹脂の絶縁破壊電圧、耐アーク性、誘電率等の電気的特性が低下する場合がある。また、樹脂を有機溶媒に溶解して塗工液とした場合、溶液安定性が低下する傾向にある。塗工液の溶液安定性が低下すると、時間の経過とともに、白濁したり、沈澱や不溶物が生じたり、増粘してゲル化したりする。そのため、均一な被膜が形成できなくなり、被膜の機械特性や電気的特性が低下する場合がある。
【0030】
オルガノシロキサン共重合樹脂のフェノール末端基価および酸価は、末端封鎖剤の添加量を変更したり、乾燥温度や乾燥時間を変更したりすることで制御することができる。
【0031】
オルガノシロキサン共重合樹脂のガラス転移温度は、150℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度を150℃以上とすることで、耐熱性が高いオルガノシロキサン共重合樹脂とすることができる。ガラス転移温度は、共重合するモノマーを適宜選択することで制御することができる。
【0032】
オルガノシロキサン共重合樹脂の重量平均分子量は、30,000〜300,000であることが好ましく、50,000〜200,000であることがより好ましい。重量平均分子量をこの範囲とすることで、樹脂の強度を維持しつつも、樹脂溶液の溶液粘度を使用に適した範囲とすることができる。オルガノシロキサン共重合樹脂の重量平均分子量は、末端封止剤の添加量によって制御することができる。
【0033】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂には、必要に応じて、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有させてもよい。
【0034】
次に、本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂の製造方法について説明する。
【0035】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂を製造する方法としては、界面重合法、溶液重合法、溶融重縮合法等が挙げられるが、重合性や外観の点から、界面重合法が好ましい。
【0036】
界面重合法としては、重合触媒を添加した二価フェノールのアルカリ水溶液(水相)に、オルガノシロキサンの有機溶媒溶液(有機相1)を混合し、さらに、二価カルボン酸ハライドの有機溶媒溶液(有機相2)を添加して、50℃以下の温度で1〜8時間撹拌しながら重合反応をおこなう方法が挙げられる。有機相1に用いる有機溶媒は、水とは相溶せず、オルガノシロキサン共重合樹脂が溶解できる有機溶媒が好ましい。
【0037】
水相に用いるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0038】
重合触媒としては、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド等の第四級アンモニウム塩や、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド等の第四級ホスホニウム塩が挙げられる。中でも、重合性の点から、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0039】
有機相1に用いる有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム等が挙げられ、中でも、取り扱いの点から、塩化メチレンが好ましい。
【0040】
有機相2に用いる有機溶媒としては、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族系炭化水素、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン等のケトン系溶媒が挙げられる。中でも、重合性の点から、塩化メチレン、クロロホルム、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサノンが好ましい。
【0041】
オルガノシロキサン樹脂の末端は、一価フェノール、一価酸クロライド、一価アルコール、一価カルボン酸等で封止されていることが好ましい。一価フェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2−フェニル−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニル−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン等が挙げられる。一価酸クロライドとしては、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。一価カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシフェニル酢酸等が挙げられる。中でも、反応性と熱安定性の点からp−tert−ブチルフェノールが好ましい。
【0042】
重合後、樹脂溶液に酢酸を添加し、その後、樹脂溶液を水で繰返し洗浄し、樹脂溶液に含まれるナトリウムやカリウムや重合触媒等のイオン性物質を除去することが好ましい。洗浄は、洗浄に用いた水が中性になるまで繰返し洗浄することが好ましい。
【0043】
オルガノシロキサン共重合樹脂溶液は、重合時に用いた有機溶媒の沸点以上の温度とした温水に添加し、有機溶媒を飛散させることによりポリマーを析出させることができる(温水法)。また、貧溶媒に添加することによりポリマーを析出させることもできる(再沈殿法)。貧溶媒としては、特に限定はされないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類やヘキサン等の炭化水素等が好ましく、有機溶媒の除去の点からヘキサンがより好ましい。析出して得られるポリマーはろ過等で単離し、その後、乾燥させることにより固形分を得ることができる。乾燥は、減圧下または熱風乾燥下いずれの条件下でおこなってもよい。減圧下でおこなう場合、乾燥温度は120℃を超え270℃以下とすることが好ましく、150℃を超え270℃以下とすることがより好ましい。一方、熱風乾燥下でおこなう場合、乾燥温度は150℃以下とすることが好ましい。
【0044】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂は、溶解安定性が優れるため、有機溶媒に溶解させ樹脂溶液とすることができる。
【0045】
有機溶媒としては、前述の有機層2に用いる有機溶媒が挙げられる。
【0046】
樹脂溶液の固形分濃度の下限としては、10質量%以上とすることが好ましく、12質量%以上とすることがより好ましい。固形分濃度が10質量%未満の場合、大量の有機溶媒を用いることになり、環境への負荷が増大したり、溶媒乾燥や溶媒回収のコストが増加したりする。固形分濃度の上限としては、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。固形分濃度が30質量%を超えると、樹脂が溶け残る場合がある。
【0047】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂の被膜を基材上に設けた積層フィルムは、樹脂溶液を公知の塗布方法で基材に塗布し、その後乾燥工程に付すことで、作製することができる。
【0048】
基材としては、PETフィルム、ポリイミドフィルム、ガラス等が挙げられる。
【0049】
乾燥方法は特に限定されないが、効率よく有機溶媒を除去するためには加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度や乾燥時間は樹脂の物性や塗布基板の組み合わせにより適宜選択される。経済性を考慮した場合、乾燥温度は40〜150℃とすることが好ましく、40〜100℃とすることがより好ましく、乾燥時間は1〜30分とすることが好ましく、3〜15分とすることがより好ましい。なお、必要に応じて、室温で自然乾燥してもよい。
【0050】
樹脂被膜の厚みは、溶液濃度や塗布方法により異なるが、例えば、アプリケーターを用いた場合、アプリケーターの隙間幅を変更することで調整でき、また、ワイヤーバーコーターの場合、バーコーターに巻きつけられた針金直径を変更することで調整することができる。
【0051】
塗布方法は特に限定されないが、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、はけ塗りやスプレー塗り、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法を用いることができる。
【0052】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂のフィルムは、例えば、流延法、Tダイ押出法で作製することができる。
【0053】
フィルムの弾性率は1400MPa以下であることが好ましく、1200MPa以下であることがより好ましい。また、破断伸度は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。弾性率が1400MPa以下、破断伸度が70%以上であれば、柔軟性が高いオルガノシロキサン共重合樹脂とすることができる。弾性率は、オルガノシロキサンの共重合量を増やせば、低下する傾向があり、一方、破断伸度は、オルガノシロキサンの共重合量を増やせば、大きくなる傾向がある。
【0054】
フィルムの破断伸度の維持率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。破断伸度の維持率が85%以上であれば、実用上問題がない程度の継続的使用ができる。
【0055】
フィルムの摩擦係数は0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましい。摩擦係数が0.50以下であれば、表面の潤滑性が要求される部品に好適に用いることができる。
【0056】
成形体は、通常の成形加工方法により作製することができる。成形加工方法としては、射出成形、押出成形、吹き込み成形等の熱溶融成形法が挙げられる。
【0057】
本発明のオルガノシロキサン共重合樹脂の用途としては、コンデンサ等の電子部品用フィルム、液晶表示装置・プラズマディスプレイ・有機EL用等の位相差フィルム、偏光フィルム・反射防止フィルム・視野角拡大フィルム・高輝度フィルム・拡散フィルム・導光フィルム等の光学フィルム、ITO膜等を付与したタッチパネル用のフィルム、微細加工用のベースフィルム、スピーカー等の音響機器用振動フィルム等が挙げられる。
【0058】
また、ギア・ガイド等の摺動部品、滑り板、プーリー、レバー、CD−R・DVD−R等の光記録メディア、平面ディスプレー、光学レンズ等、半導体レーザー・発光ダイオード等の光源材料、電子回路基板、液晶ドライバ等として用いることができる。
【0059】
特に、一般式(6)で示される二価カルボン酸を共重合した場合、350nm近傍での透明性が高いため、位相差フィルム、光学フィルム、平面ディスプレー、光学レンズ、光記録メディア、光源材料等、光学用途に好適である。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの発明によって限定されるものではない。
【0061】
1.原料
(1)オルガノシロキサン
【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
2.評価項目
(1)樹脂組成、フェノール末端基価
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製Lambda300WB NMR)を用いて、H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成およびフェノール末端基価を求めた(分解能:300MHz、溶媒:重水素化クロロホルム、温度:25℃)。
【0066】
(2)酸価
オルガノシロキサン共重合樹脂150mgを、ベンジルアルコール5mlに加温して溶解し、冷却後、クロロホルム10mlと混合した。フェノールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定した。その滴定した値を用いてオルガノシロキサン共重合樹脂1トン中に含まれる当量数を計算し、酸価とした。
【0067】
(3)ガラス転移温度
オルガノシロキサン共重合樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて、−80℃から300℃まで10℃/分で昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値をガラス転移温度とした。
【0068】
(4)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
送液装置:ウォーターズ社製Isocratic HPLC Pump 1515
検出器:ウォーターズ社製Refractive Index Detector 2414
カラム:Mixed−D(充填シリカゲル粒径5μm、チューブ長さ300mm、内径7.5mm)
溶媒:クロロホルム
流速:1mL/分
測定温度:40℃
【0069】
(5)揮発物量
オルガノシロキサン共重合樹脂10mgを、島津製作所製ダブルショットパイロライザPY−2020iDを用いて250℃で10分間加熱し、アジレント・テクノロジー社の6890N社製のガスクロマトグラフで分析した(カラム:UA5(MS/HT)−30M−0.25F、キャリアガス:ヘリウム)。揮発物量は、ヘキサデカンを標準試料として作成した検量線を用いて算出した。
【0070】
(6)重量減少率
オルガノシロキサン共重合樹脂10mgを、パーキンエルマー社製TGA−7を用いて、窒素雰囲気下30℃から900℃まで10℃/分で昇温し、450℃での重量減少の割合を測定した。
【0071】
(7)溶液安定性
m−キシレンおよびトルエンに、オルガノシロキサン共重合樹脂を溶液濃度が16質量%になるように混合し、25℃において24時間攪拌した。攪拌後、無色透明溶液が得られた溶液は、さらに25℃において1ヶ月間静置した。攪拌後および1ヵ月後の外観を、目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:溶解直後に無色透明溶液が得られ、1ヵ月後も無色透明溶液であった。
○:溶解直後には無色透明溶液が得られたが、1ヵ月後には白濁していた。
□:溶解直後に白濁した溶液が得られた。
×:溶解しなかった。
【0072】
(8)光線透過率
塩化メチレンに、オルガノシロキサン共重合樹脂を溶液濃度が15質量%になるように混合した。その溶液を、PETフィルム上に流延塗布し、減圧下、120℃、24時間乾燥し、厚み100μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムを用いて、日立製作所製U−4000形分光光度計を用い、波長350nmにおける光線透過率を測定した。
【0073】
(9)弾性率、破断伸度
(8)で得られたフィルムを、JIS K−2318に準拠して、インテスコ社製引張圧縮試験機を用い、弾性率と、破断点での破断伸度を測定した。また、前記フィルムを大気中にて150℃、500時間熱処理したフィルムについても同様の測定をおこなった。
【0074】
(10)破断伸度の維持率
(9)で求めた未処理品と熱処理品の破断伸度の値を、下記の式に用いて破断伸度の維持率を求めた。
破断伸度の維持率(%)=(熱処理品の破断伸度/未処理品の破断伸度)×100
【0075】
(11)摩擦係数
(8)で得られたフィルムの摩擦係数を、協和界面科学製自動摩擦摩耗解析装置TS501を用い、測定した(接触子:SUS製の線状接触子、荷重500g、速度5cm/秒)。
【0076】
実施例1
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)19.57質量部、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール(PTBP)0.40質量部、アルカリとして水酸化ナトリウム10.82質量部、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(BTBAC)0.38質量部、酸化防止剤としてハイドロサルファイトナトリウム(SHS)0.16質量部を仕込み、水1000質量部に溶解した(水相)。これとは別に、化学式(7)で示されるオルガノシロキサン9.94質量部を塩化メチレン200質量部に溶解した(有機相1)。この有機相1を、攪拌下、水相中に添加し、さらに15℃で30分間攪拌を続けた。
【0077】
続いて、この有機相1とは別に、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸クロライド(DEDC)26.62質量部を塩化メチレン400質量部に溶解した(有機相2)。(ビスフェノールA:PTBP:BTBAC:オルガノシロキサン:DEDC=96.5:3.0:0.38:3.5:101.5(モル比))この有機相2を、水相と有機相1の混合溶液中に攪拌下で添加し、さらに15℃で2時間重合反応をおこなった。この時、有機相1と有機相2は一つの有機相となった。この後、攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、新たに塩化メチレン200質量部、純水1000重量部と酢酸1質量部を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄した後に、有機相をヘキサン中に添加してポリマーを沈殿させ、分離・乾燥後、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。得られたオルガノシロキサン共重合樹脂の樹脂組成を確認したところ、仕込みの配合と同じ樹脂組成であった。
【0078】
得られたオルガノシロキサン共重合樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、125℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。
【0079】
実施例2
実施例1で得られたオルガノシロキサン共重合樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、ヘキサン1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、125℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。
【0080】
実施例3
実施例1で得られたオルガノシロキサン共重合樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、155℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。
【0081】
実施例4
実施例1で得られたオルガノシロキサン共重合樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、200℃、24時間乾燥し、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。
【0082】
実施例5
実施例4で得られたオルガノシロキサン共重合樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、ヘキサン1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、減圧下、180℃、24時間乾燥した。さらに、同じ操作を2回繰り返し、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。
【0083】
実施例6
実施例1で得られたオルガノシロキサン共重合樹脂10質量部を塩化メチレン300質量部に溶解し、その後、メタノール1000質量部を添加して再沈殿をおこなった。再沈殿したポリマーを、155℃、24時間、熱風乾燥し、オルガノシロキサン共重合樹脂を得た。
【0084】
実施例7〜9、比較例1〜6
表1に示すように二価フェノールの種類を変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
【0085】
表1に、使用モノマー、樹脂の特性値、およびフィルムの特性値を示す。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1〜9は、比較例1に比べて、フィルムの破断伸度の経時的な低下が小さく、柔軟性の低下が抑制されたフィルムであった。また、耐熱性、柔軟性が高く、摩擦係数が小さかった。
実施例1〜6、8、9は、二価フェノールとしてビスフェノールCまたはTMBPAを用いたため、特に溶液安定性が良好であった。
【0088】
比較例1は、揮発物量が3000質量ppmを超えていたため、溶液安定性が悪かった。また、フィルムの破断伸度の経時的な低下が大きかった。
比較例2は、揮発物量が3000質量ppmを超えており、二価フェノール残基が一般式(4)で示される構造でなかったため、溶液安定性が悪かった。また、フィルムの破断伸度の経時的な低下が大きかった。
比較例3、4は、オルガノシロキサン残基を含んでいなかったため、弾性率が高く柔軟性が低かった。また、摩擦係数が小さかった。
比較例5は、二価フェノール残基が一般式(4)で示される構造でなかったため、溶液安定性が悪かった。
比較例6は、揮発物量が20質量ppm以下であったため、フィルムの破断伸度の経時的な低下が大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるオルガノシロキサン残基(A)、一般式(4)で示される二価フェノール残基(B)、および芳香族ジカルボン酸残基(C)からなり、250℃で10分間加熱した場合の揮発物量が20〜3000質量ppmであるオルガノシロキサン共重合樹脂。
【化1】

(式中、RおよびRは、独立して、炭素原子数が1〜12個の脂肪族基または芳香族基を表し、R、R、RおよびRは、独立して、脂肪族基または芳香族基を表し、aは5以上であり、X1およびX2は一般式(2)または化学式(3)で示される置換基を表す。)
【化2】

(式中、Tは炭素原子数が1〜5個の脂肪族基または芳香族基を表し、bは0〜4の整数である。)
【化3】

【化4】

(式中、Yは炭素原子を1以上含む基を表し、UおよびUは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、および、直鎖または分岐構造の炭化水素基からなる群より選ばれたものを表し、c、dは、独立して、0〜2の整数である。)
【請求項2】
二価フェノール残基(B)におけるYが化学式(5)で示される基である請求項1記載のオルガノシロキサン共重合樹脂。
【化5】

【請求項3】
請求項1または2記載のオルガノシロキサン共重合樹脂と有機溶媒を含有する樹脂溶液。
【請求項4】
請求項1または2記載のオルガノシロキサン共重合樹脂からなる被膜を基材上に設けた積層フィルム。
【請求項5】
請求項1または2記載のオルガノシロキサン共重合樹脂からなるフィルム。
【請求項6】
請求項1または2記載のオルガノシロキサン共重合樹脂からなる成形体。

【公開番号】特開2012−77128(P2012−77128A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221516(P2010−221516)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】