説明

オレフィンのエポキシ化方法、該方法に用いる触媒、該触媒の調製に用いる担体、および該担体の調製方法

【課題】担体中に強度増大添加剤を組み、担体のクラッシュ強度を増大する方法およびその担体を含む触媒を提供する。
【解決手段】フッ化物で鉱物化された担体中にジルコニウム種、ランタニド族種、無機ガラス、およびそれらの混合物からなる群より選択される強度増大添加剤を組み込み、フッ化物で鉱物化された担体および触媒を調製する。また、その触媒を用いてオレフィンエポキシ化を行い、酸化オレフィンおよび1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルまたはアルカノールアミンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化オレフィン、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、またはアルカノールアミンの製造方法に関する。本発明はまた、酸化オレフィンの製造方法に用いる触媒およびその触媒の調製に用いる担体に関する。本発明はまた、その担体の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンのエポキシ化において、オレフィンを含むフィードおよび酸素源をエポキシ化条件で触媒と接触させる。オレフィンは酸素と反応して酸化オレフィンを生成する。生成物混合物は結果として酸化オレフィンおよび一般に未反応フィードおよび、例えば二酸化炭素などの燃焼生成物を含む。
【0003】
この触媒は、担体(一般にα−アルミナ担体)上に、銀および通常それに沈着させた1つ以上の追加の元素を含む。酸化オレフィンは水と反応して1,2−ジオールを、アルコールと反応して1,2−ジオールエーテルを、またはアミンと反応してアルカノールアミンを生成することができる。従って、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルおよびアルカノールアミンは、最初にオレフィンのエポキシ化を、次に生成した酸化オレフィンの水、アルコールまたはアミンを用いる転換を含む、多段階の方法で製造することができる。
【0004】
銀を含む触媒の性能は、オレフィンのエポキシ化における選択率、活性度、および運転の安定度に基づいて評価することができる。選択率は、望ましい酸化オレフィンを生成する転換されたオレフィンのmole分率である。安定度は、ある充填触媒が用いられている間、すなわちより多くの酸化オレフィンが製造される間に、この方法の選択率および/または活性度がいかに変化するかを指す。
【0005】
選択率、活性度および安定度における改良を含む、銀触媒の性能の改良への種々のアプローチが研究されてきた。例えば、最新の銀ベース触媒は、銀に加えて、例えばレニウム、タングステン、クロムまたはモリブデンを含む成分などの高選択率ドープ剤を1種以上含むことができる。高選択率触媒は、例えばUS−A−4,761,394およびUS−A−4,766,105に開示されている。US−A−4,766,105およびUS−A−4,761,394は、オレフィンエポキシ化の初期ピーク選択率が増大する効果を有する銀含有触媒中の更なる成分としてレニウムを用いることができることを開示している。
【0006】
用いる触媒およびオレフィンエポキシ化方法のパラメーターにより、初期ピーク選択率(すなわち、この方法の初期段階において達せられる最高の選択率)に到達するのに要する時間は変化する。例えば、ある方法の初期ピーク選択率は、わずか1日か2日の運転で達成されるかも知れないし、あるいは例えば1ヶ月もの運転の後に達成されるかもしれない。EP−A−352850はまた、アルカリ金属およびレニウムの成分により促進され、アルミナ担体に担持された銀を含む当時新しく開発された触媒が、極めて高い選択率を有することを教示している。
【0007】
銀触媒の性能改良へのアプローチのもう1つの例として、エポキシ化触媒を調製するために用いられる担体中にフッ素が組み込まれた例があるが、これは得られた、フッ化物で鉱物化された担体が、改良された触媒性能に貢献する形態学的特性を有することを目的としたものであった。しかしながら、かかるフッ化物で鉱物化された担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗は、しばしば望まれるよりも本来的に低いものである。しばしば結合剤と呼ばれる種々の添加剤が担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗を改良するために用いられてきた一方、従来の結合剤は一般に、その結合特性を活性化するために高温処理に付さなければならない。しばしば、高温処理は1,200℃より高い温度、1,300℃より高い温度さえも含む。フッ化物で鉱物化された担体の形態は、担体がこのような高い温度にさらされる場合に悪影響を受けるので、フッ化物で鉱物化された担体を有するかかる従来の結合剤の使用は望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,761,394号明細書
【特許文献2】米国特許第4,766,105号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第352850号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、すでに改良がなされたにもかかわらず、オレフィンエポキシ化触媒の性能を改良すること、特に、かかる担体の形態に悪影響を与えることなく、フッ化物で鉱物化された担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗を増大することへの要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、強度増大添加剤をフッ化物で鉱物化された担体中に組み込むことを含む、フッ化物で鉱物化された担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗を増大する方法を提供する。好ましい実施形態において、特に強度増大添加剤はジルコニウム種、ランタニド族種、II族金属種、無機ガラス、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0011】
本発明はまた、強度増大添加剤を組み込んで有するフッ化物で鉱物化された担体を提供する。好ましい実施形態において、特にフッ化物で鉱物化した担体はα−アルミナを含む。本発明はまた、担体調製のいずれかの段階で強度増大添加剤を担体に組み込むことを含む、フッ化物で鉱物化された担体の調製方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、フッ化物で鉱物化された担体上に沈着させた銀成分を含むオレフィンエポキシ化用の触媒であって、フッ化物で鉱物化された担体が強度増大添加剤を組み込んで有する、前記触媒を提供する。
【0013】
本発明はまた、オレフィンおよび酸素を含むフィードをフッ化物で鉱物化された担体上に沈着させた銀成分を含む触媒と接触させる段階、および酸化オレフィンを含む生成物混合物を製造する段階を含むオレフィンエポキシ化の方法であって、フッ化物で鉱物化された担体が強度増大添加剤を組み込んで有する、前記の方法を提供する。
【0014】
フッ化物で鉱物化された担体は、層状または小板型(これらの用語は互換性をもって用いられる)を特徴とする形態を有する粒子状基材を有することができ、有することが好ましい。ここで、少なくとも1つの方向において0.1μmより大きい寸法を有する粒子は、少なくとも1つの実質的に平坦な主表面を有する。かかる粒子は2つ以上の平担な主表面を有することができる。本発明の代替の実施形態において、担体は該小板型構造を有し、本明細書に記載のフッ化物による鉱物化の方法以外の方法により調製される。
【0015】
本発明はまた、酸化オレフィンを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、またはアルカノールアミンに転換することを含む、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、またはアルカノールアミンの製造方法であって、酸化オレフィンが、本発明に従ってオレフィンと酸素とを反応させることを含むオレフィンのエポキシ化の方法により得られた、前記方法を提供する。
【0016】
本発明の担体を含む触媒および適切な触媒種(しばしば、例えば銀、モリブデン、ニッケル、およびタングステン、またはそれらの化合物などの金属種)のある量を、他の転換方法に有利に用いることができると考えられる。
【0017】
本発明の諸特徴および諸利点は、以下の発明の詳細な説明を読むことにより当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0018】
フッ化物で鉱物化した担体はフッ素を担体中に組み込むことにより得られる。本発明の目的のために、フッ化物で鉱物化された担体は、α−アルミナまたはα−アルミナ前駆体(単数または複数)と、組み合わせを焼成するときフッ化物を放出(一般的にフッ化水素として)することができるフッ素含有種とを組み合わせ、この組み合わせを焼成することにより得られる。焼成の前に組み合わせを、例えば押出しまたは吹きつけをすることにより成形体を形成することができる。好ましくは、焼成は1,200℃未満で行い、より好ましくは1,100℃未満で行う。好ましくは、焼成は900℃より高い温度で行い、さらに好ましくは1,000℃より高い温度で行う。温度が1,200℃より十分高ければ、放出されるフッ化物の量は過剰となり、担体の形態は悪影響を受ける。
【0019】
フッ素含有種を担体に導入する方法は限定されず、担体中にフッ素含有種を組み込むための当該分野で公知の方法、およびそれにより得られるフッ化物で鉱物化された担体は本発明に用いることができる。例えば、US−A−3,950,507およびUS−A−4,379,134はフッ化物で鉱物化された担体の調製方法を開示しており、これを本願に参照により組み込む。
【0020】
前述のとおり、フッ化物で鉱物化した担体は、層状または小板型(これらの用語は互換性をもって用いられる)を特徴とする形態を有する粒子状基材を有することができ、有することが好ましい。ここで、少なくとも1つの方向において0.1μmより大きい寸法を有する粒子は、少なくとも1つの実質的に平担な主表面を有する。かかる粒子は2つ以上の平担な主表面を有することができる。本発明の代替の実施形態において、前記の小板型の構造を有し、本明細書に記載のフッ化物により鉱物化する方法以外の方法により調製された担体を用いることができる。
【0021】
担体にフッ素含有種を組み込む適切な手順は、α−アルミナまたはα−アルミナ前駆体(単数または複数)にフッ素含有種を添加することを含む。本明細書に記載のα−アルミナ前駆体は、焼成によりα−アルミナに転換することができる種である。α−アルミナ前駆体は、例えばベーマイト、擬ベーマイト、およびギブス石などのアルミナ水和物、並びに、例えばχ、κ、γ、δ、θ、およびηアルミナなどの遷移アルミナを含む。
【0022】
水和アルミナを用いる場合、水和アルミナに組み合わせでフッ素含有種を適切に加え、ついで、例えば押出しまたは吹きつけなどにより成形体を製造することができる。次に、成形体を焼成することにより水和アルミナをα−アルミナに転換する。好ましくは、焼成は1,200℃未満で行う。焼成の間、フッ化物が放出される。同様に、フッ素含有種は、例えばγアルミナなどの遷移アルミナまたは遷移アルミナと水和アルミナとの組み合わせに適切に添加することができる。前述と同様に、組み合わせは成形体に製造し、焼成する。
【0023】
もう1つの適切な方法において、フッ素含有種はα−アルミナ、α−アルミナ前駆体(単数または複数)またはそれらの混合物の成形体に添加することができる。ついで成形体を焼成に付す。もう1つの適切な方法において、フッ素含有種は、焼成後、すなわちα−アルミナの生成後に、担体に添加することができる。かかる方法において、フッ素含有種は、例えば含侵、一般に真空含侵により銀および他のいずれかのコプロモータと同様に好都合に組み込むことができる。
【0024】
前記で説明したように、焼成は好ましくは1,200℃未満で行う。しかしながら、本発明は焼成を行う方法には左右されない。従って、例えば1つの温度に一定時間保ち、ついで第2の時間の間第2の温度まで温度を上げるなどの、当分野で公知の焼成における変法も本発明により意図されている。
【0025】
フッ素含有種の添加はいずれの公知の方法によってもよい。1つのかかる適切な方法において、α−アルミナまたはα−アルミナ前駆体(単数または複数)はフッ素含有種を含む溶液により処理される。この組み合わせは混練され、押し出し成型される。同様に、成形体はフッ素含有種を含む溶液を用いて真空含侵に付すことができる。フッ化物イオンの存在下で溶液が得られる溶媒とフッ素含有種とのいずれの組み合わせも、かかる方法に従って用いることができる。
【0026】
本発明に従って用いることのできるフッ素含有種は、本発明に従って担体に組み込まれた場合、好ましくは1,200℃未満で焼成するとき、フッ化物を放出(一般にフッ化水素の形で)することができる種である。好ましいフッ素含有種は、焼成が900℃から1,200℃の温度で行われるとき、フッ化物を放出することができる。当分野で公知のかかるフッ素含有種は本発明に従って用いることができる。適切なフッ素含有種には有機種および無機種が含まれる。適切なフッ素含有種にはイオン化合物、共有化合物および極性共有化合物が含まれる。適切なフッ素含有種の例としてF、三フッ化アルミニウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸およびジクロロジフルオロメタンを挙げることができる。
【0027】
一般に、担体に添加されるフッ素含有種の量は、フッ素含有種が組み込まれている担体材料の重量に対して用いられるフッ素元素の重量で換算して、少なくとも0.1重量%であり、一般に5重量%以下である。しばしば、フッ素含有種は0.2から3重量%の量で用いられる。さらに頻繁に、フッ素含有種は0.25から2.5重量%の量で用いられる。これらの量は最初に添加されるフッ素含有種の量を指し、必ずしも完成した担体中に最終的に存在する量を反映しない。
【0028】
本発明の1つの利点は、フッ化物で鉱物化された担体、または層状または小板型の形態の粒子状基材を有する担体が、担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗を増大する役割りをする添加剤を組み込んで有することである。強度増大添加剤は、担体中に組み込まれたときクラッシュ強度の増大または担体の磨耗抵抗の改良が得られる種である。好都合にも、強度増大添加剤は1,200℃未満の温度で、より好ましくは1,100℃未満の温度で焼成することにより、担体のアルミナ結晶構造中に(例えばフッ化物で鉱物化した担体のアルミナ結晶構造中に)容易に組み込まれる。しばしば、強度増大添加剤は、900℃より高い温度で、さらに頻繁には1,000℃より高い温度で焼成することにより、担体のアルミナ結晶構造中に容易に組み込まれる。好ましくは、強度増大添加剤は、担体との相互作用を高めて強度増大効果をもたらすために、一般に比較的低い揮発性を有するフッ化物種を形成することができる。強度増大添加剤は、ジルコニウム種、ランタニド族種、II族金属種、無機ガラスおよびそれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0029】
担体に組み込まれる前に強度増大添加剤が有する特定の形態は限定されるものではない。従って、ジルコニウム種、ランタニド族種、およびII族金属種は、いかなる特定の元素もそのままでおよび元素の化合物として含む。強度増大添加剤の例として、フッ化ジルコン酸アンモニウム、ジルコン酸カルシウム、酢酸ジルコニウム、アセチルアセトン酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、炭酸ランタン、フッ化ランタン、硝酸ランタン、シュウ酸ランタン、酸化ランタン、炭酸セリウム、フッ化セリウム、硝酸セリウム、シュウ酸セリウム、酸化セリウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、硝酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、および酸化カルシウムを挙げることができる。
【0030】
好ましくは、無機ガラスは高々焼成が行われる温度である融解温度を示す。例えば、無機ガラスは1,200℃未満の融解温度を有していてよい。無機ガラスの融解温度は、無機ガラスの成分がガラス製造中に加熱されて流体が得られる温度を意味すると解釈される。典型的な無機ガラス組成物は、例えばアルカリおよびアルカリ土類金属などの多くの他の元素との組み合わせでケイ素、ホウ素、アルミニウム、または鉛の元素を含むことができる。これらの元素は一般にそれらの酸化物として用いられる。本発明の目的に用いることができる無機ガラス組成物の例としては、その他多くのものの中で以下のものが挙げられる:NaO・SiO+NaO・2SiO、NaO・2SiO+SiO(石英)、KO・SiO+KO・2SiO、KO・2SiO+KO・4SiO、PbO、2PbO・SiO+PbO・SiO、NaO・SiO+NaO・2SiO+2NaO・CaO・3SiO、KO・2SiO+KO・2CaO・9SiO+KO・4SiO、NaO・4B+SiO、およびNaO・2B+NaO・SiO
【0031】
これらの制限の範囲内で、強度増大添加剤を担体に組み込む方法は一般に制限されない。同様に、担体の調製方法において、強度増大添加剤を組み込む時点は一般に限定されない。実際、用いられる強度増大添加剤またはそれらの組み合わせおよび用いられる強度増大添加剤の量により、フッ素含有種を担体中に組み込むために用いる方法および他の方法を、強度増大添加剤を組み込むために適切に用いることができる。例えば、1つのかかる適切な方法において、α−アルミナまたはα−アルミナ前駆体(単数または複数)は、例えば酢酸カルシウムなどの強度増大添加剤と組み合わせる。強度増大添加剤は強度増大添加剤を含む組成物の形で、例えば希釈剤(好都合には水性希釈剤あるいは好ましさは劣るが有機希釈剤)中の溶液または分散液として用いることができる。強度増大添加剤はフッ素含有種と同時に添加することができるが、しかしながら、フッ素含有種は先に添加しておいてもよく、または後に添加することもできる。α−アルミナまたはα−アルミナ前駆体(単数または複数)を強度増大添加剤と組み合わせた後、組み合わせを混練し、成形体に製造し、ついで焼成することができる。同様に、押出物または他の成形体は、例えば成形体を強度増大添加剤を含む溶液または乳濁液と共に含侵または真空含侵に付すことにより強度増大添加剤と組み合わせ、ついで焼成することができる。無機ガラスを強度増大添加剤として用いる場合、粉砕無機ガラスまたは望ましい無機ガラスの個々の成分をα−アルミナまたはα−アルミナ前駆体(単数または複数)と組み合わせ、ついで組み合わせを加熱して成形体を製造することができる。無機ガラスは他の方法で添加することもできる。例えば、一定の実施形態において、無機ガラスの個々の成分は溶媒中の溶液として添加することもできる。
【0032】
上記に示したように、本発明は強度増大添加剤がフッ素含有種と同時に担体に組み込まれなければならないことを意図するものではない。本発明は強度増大添加剤がフッ素含有種と同時に、フッ素含有種の前に、または、フッ素含有種の後に添加できることを意図するものである。強度増大添加剤を組み込む適切な方法、並びに担体調製のプロセス中強度増大添加剤を組み込む適切な時点は、日常の実験に基づいて選択することができる。
【0033】
本発明の目的のために、強度増大添加剤は、例えば水和アルミナ(例えば、ベーマイトなどの)に組み合わせて適切に添加し、ついで前述同様に成形体に製造して焼成することができる。同様に、強度増大添加剤は、例えばγアルミナなどの遷移アルミナまたは遷移アルミナと水和アルミナとの組み合わせに適切に添加することができる。前述と同様に、この組み合わせは、例えば押出しまたは吹きつけにより成形体に製造され、焼成される。もう1つの適切な方法において、強度増大添加剤は、α−アルミナ、α−アルミナ前駆体(単数または複数)またはそれらの混合物の成形体に添加することができる。ついで成形体を焼成に付す。もう1つの適切な方法において、強度増大添加剤は層状または小板型の形態の粒子状基材を有する担体(すなわち、α−アルミナの生成後)に添加し、焼成する。かかる方法において、強度増大添加剤は銀および他のコプロモータの場合と同様に、例えば含侵、一般に真空含侵により好都合に組み込ませることができる。
【0034】
本発明に用いるための全ての特定の強度増大添加剤または強度増大添加剤の組み合わせの適切な強度増大量の決定は、日常の実験の課題である。好都合には、全ての特定の強度増大添加剤または添加剤の組み合わせに対する強度増大用量範囲を決定するために範囲検出実験を実施することが望ましい。比較の基準を提供するために、強度増大添加剤を含まない、フッ化物で鉱物化された担体または層状または小板型の形態の粒子状基材を有する担体を調製することが望ましい。その後、特定の強度増大添加剤またはそれらの組み合わせの濃度の下限または上限を、強度増大添加剤またはそれらの組み合わせの連続的に増加する量を含む一連の担体を調製することにより決定することができる。一般に、実験は最後の担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗の測定値がその前の担体の測定値よりも劣る結果が出るまで続けられる。全ての強度増大添加剤またはそれらの組み合わせの特定の応答は、望むならば強度増大添加剤またはその組み合わせの中間量を用いて追加の実験を行うことによりさらに精密化することができる。
【0035】
限定するものではないが、一般に、強度増大添加剤の強度増大用量はジルコニウム種に関しては、担体の全重量に対する用いられるジルコニウム元素の重量として算出して、少なくとも0.1重量%であり、頻繁に少なくとも0.2重量%であり、より頻繁に少なくとも0.5重量%であり、さらにより頻繁に少なくとも1重量%であり、および5重量%以下であり、頻繁に4重量%以下であることが期待される。限定するものではないが、一般に、強度増大添加剤の強度増大用量はランタニド族種に関しては、担体の全重量に対して用いられるランタニド族元素の重量として算出して、少なくとも0.1重量%であり、頻繁に少なくとも0.2重量%であり、より頻繁に少なくとも0.5重量%であり、さらにより頻繁に少なくとも1重量%であり、および5重量%以下であり、頻繁に4重量%以下であることが期待される。限定するものではないが、一般に、強度増大添加剤の強度増大用量はII族金属元素種に関しては、担体の全重量に対して用いられるII族金属元素の重量として算出して、少なくとも0.1重量%であり、頻繁に少なくとも0.2重量%であり、より頻繁に少なくとも0.5重量%であり、さらにより頻繁に少なくとも1重量%であり、および5重量%以下であり、頻繁に4重量%以下であることが期待される。限定するものではないが、一般に、強度増大添加剤の強度増大用量は無機ガラスに関しては、担体の全重量に対して用いられる無機ガラスの重量として算出して、少なくとも0.1重量%であり、頻繁に少なくとも0.2重量%であり、より頻繁に少なくとも0.5重量%であり、さらにより頻繁に少なくとも1重量%であり、および5重量%以下であり、頻繁に4重量%以下であることが期待される。これらの量は最初に添加される添加剤の量を指し、必ずしも完成した担体中に最終的に存在する量を反映しない。
【0036】
本発明の目的のために、担体のクラッシュ強度または担体の磨耗抵抗は多くの方法により測定することができる。適切なクラッシュ強度測定方法はASTMD6175−03を用いる。適切な磨耗抵抗測定方法はASTMD4058−96を用いる。クラッシュ強度または磨耗抵抗を試験するこれらのASTM法または他の方法の使用により、一定量の強度増大添加剤を組み込んで有する担体は、異なる種類の強度増大添加剤または同じ種類で異なる量の強度増大添加剤を有する他の担体と比較することができる。比較は強度増大添加剤を組み込んでいない比較用の担体に対して行うこともできる。このように、強度増大添加剤の強度増大用量を組み込んで有する担体を得ることができる。一定の実施形態において、酸化オレフィンの商業生産に用いるための、実用的なクラッシュ強度または実用的な磨耗抵抗を有する担体を達成するために十分な量の強度増大添加剤を用いることが望ましい。好都合には、フッ化物で鉱物化した担体または層状または小板型の形態を有する担体は、少なくとも0.4lbf/mm(約1.8N/mm)、好ましくは少なくとも2N/mm、より好ましくは少なくとも3.5N/mm、さらにより好ましくは少なくとも5N/mm、および頻繁に40N/mm程度、より頻繁に25N/mm程度、さらにより頻繁に15N/mm程度のクラッシュ強度を有する。かかるクラッシュ強度はASTMD6175−03に従って測定するが、この場合、試験サンプルは、試験サンプルの乾燥の工程を表している前記方法の工程7.2を除外して製造後そのまま試験する。このクラッシュ強度試験方法に関しては、形成した担体のクラッシュ強度は、一般に、外径8.8mm、内径3.5mm、長さ8mmの中空円筒形粒子のクラッシュ強度として測定する。
【0037】
本明細書において、磨耗抵抗はASTMD4058−96に従って測定するが、この場合、試験サンプルは、試験サンプルの乾燥の工程を表している前記方法の工程6.4を除外して製造後そのまま試験する。好ましくは、フッ化物で鉱物化した担体または層状または小板型の形態の担体は、成形された形状で、特に外径8.8mm、内径3.5mm、長さ8mmの中空円筒形粒子の形状において、多くとも50パーセント、より好ましくは多くとも40%、特に多くとも30%の磨耗を示す。しばしば、磨耗は少なくとも10%、特に少なくとも15%、より特に少なくとも20%であってよい。
【0038】
成形された担体が定義されたような中空円筒形以外の特定の形状で存在する場合、クラッシュ強度または磨耗抵抗は、特定の形状の代わりに、担体が定義された中空円筒形に成形されるように差異を有する成形された担体の調製を繰り返し、そうして得られた中空円筒形のクラッシュ強度または磨耗抵抗を測定することにより測定することができる。
【0039】
上記に記述したもの以外は、本発明に従って用いることができる担体は一般に限定されない。一般的に、適合する担体は、担体の重量に対して、少なくとも85重量%、より一般的に90重量%、特に95重量%のα−アルミナを含み、しばしば99.9重量%までのα−アルミナを含む。担体は、追加的に、シリカ、アルカリ金属(例えば、ナトリウムおよび/またはカリウム)および/またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウムおよび/またはマグネシウム)を含むことができる。
【0040】
一般に、適切な担体はまた、表面積、吸水性または他の特性に関しても限定されない。しかしながら、表面積、吸水性および他の特性が担体のクラッシュ強度または磨耗抵抗に影響しうることは当業者に理解されるであろう。担体の表面積は、担体の重量に対して適切には少なくとも0.1m/g、好ましくは少なくとも0.3m/g、さらに好ましくは少なくとも0.5m/g、特に少なくとも0.6m/gであり、この表面積は、担体の重量に対して適切には多くとも10m/g、好ましくは多くとも5m/g、特に多くとも3m/gである。本明細書において、「表面積」はJournal of the American Chemical Society 60 (1938) pp. 309−316 に記載されているB.E.T.(Brunauer, Emmett and Teller)法により測定される表面積を指すと理解される。表面積の大きい担体は、特に場合により、加えてシリカ、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含むα−アルミナ担体である場合、改良された性能および操作安定性を提供する。しかしながら、表面積が極めて大きい場合、担体はより低いクラッシュ強度または磨耗抵抗を有する。
【0041】
担体の吸水性は、適切には担体の重量に対して0.2から0.8g/gであり、好ましくは0.3から0.7g/gである。含侵により担体上に銀および他の元素(もしあれば)をより効果的に沈着させると言う観点から、より高い吸水性が好ましい。しかしながら、より高い吸水性である場合、担体または担体から製造される触媒は、より低いクラッシュ強度または磨耗抵抗を有する。本明細書において、吸水性はASTMC20に従って測定したと見なし、吸水性は担体の重量に対する担体の孔に吸収されうる水の重量として表現する。
【0042】
本発明によれば、触媒は強度増大添加剤の強度増大用量を組み込んで含む前記担体上に沈着させた銀成分を含むことができる。
【0043】
触媒は、触媒活性成分として銀を含む。評価できる触媒活性は一般に、触媒の重量に対する元素の重量として計算して、少なくとも10g/kgの量の銀を用いることにより得られる。好ましくは、触媒は50から500g/kg、さらに好ましくは100から400g/kg、例えば105g/kg、または120g/kg、または190g/kg、または250g/kg、または350g/kgの量の銀を含む。
【0044】
触媒は、銀に加えて1つ以上の高選択性ドープ剤を含むことができる。高選択性ドープ剤を含む触媒は、本明細書中に参照により組み込むUS−A−4,761,394およびUS−A−4,766,105により公知である。高選択性ドープ剤は、例えば、レニウム、モリブデン、クロム、タングステンおよび硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物の1つ以上を含む成分を含むことができる。高選択性ドープ剤は各々が全触媒上の元素(例えば、レニウム、モリブデン、タングステン、窒素および/またはクロム)として計算して0.01から500mmole/kgの量で存在することができる。硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物および特別に選別された硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物は後で規定するとおりである。硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物は特にIA族金属硝酸塩またはIA族金属亜硝酸塩である。レニウム、モリブデン、クロム、タングステン、または硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物は酸化物またはオキシアニオンとして、例えば塩または酸の形の過レニウム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩または硝酸塩として好都合に提供することができる。
【0045】
特に好ましいのは、銀に加えて、レニウム成分、およびさらに好ましくはレニウムコプロモータも含む触媒である。レニウムコプロモータはタングステン、モリブデン、クロム、硫黄、リン、ホウ素、それらの化合物およびそれらの混合物から選択される。
【0046】
触媒がレニウム成分を含む場合、レニウムは触媒の重量に対する元素の量として計算して、一般に少なくとも0.1mmole/kg、より一般に少なくとも0.5mmole/kg、および好ましくは少なくとも1mmole/kg、特に少なくとも1.5mmole/kgの量で存在できる。レニウムは一般に多くとも5mmole/kg、好ましくは多くとも3mmole/kg、より好ましくは多くとも2mmole/kg、特に多くとも1.5mmole/kgの量で存在する。再び、担体に添加するレニウムの形態は本発明には問題ではない。例えばレニウムは酸化物またはオキシアニオン、例えば塩または酸の形のレニウム酸塩または過レニウム酸塩として好都合に提供することができる。
【0047】
添加する場合、レニウムコプロモータの一般的な量は触媒の重量に対する関連する元素(すなわち、タングステン、モリブデン、クロム、硫黄、リンおよび/またはホウ素)の総量に基づいて、0.1から30mmole/kgである。担体に提供するレニウムコプロモータの形態は本発明には問題ではない。例えばレニウムコプロモータは塩または酸の形の酸化物またはオキシアニオンとして好都合に提供することができる。
【0048】
好都合には触媒はIA族金属成分をも含むことができる。IA族金属成分は一般に、リチウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムの1つ以上を含む。好ましくは、IA族金属成分はリチウム、カリウムおよび/またはセシウムである。最も好ましくは、IA族金属成分はセシウムまたはリチウムと組み合わせたセシウムを含む。一般に、IA族金属成分は触媒の重量に対する元素の総量として計算して、触媒中に0.01から100mmole/kg、より一般に0.50から50mmole/kg、より一般に1から20mmole/kgの量で存在する。担体に提供するIA族金属の形態は本発明には問題ではない。例えば、IA族金属は水酸化物または塩として好都合に提供することができる。
【0049】
本明細書においては、触媒中に存在するIA族金属の量は触媒から100℃で脱イオン水を用いて抽出できる限りの量であると考えられる。この抽出方法は、触媒の10gのサンプルを20mLずつの脱イオン水中で100℃で5分間加熱することによる抽出で3回抽出すること、および合わせた抽出物中の関連金属を公知の方法(例えば原子吸光分光法)を用いて定量することを含む。
【0050】
銀、高選択性ドープ剤およびIA族金属を組み込むための方法を含む触媒の調製は当分野に公知であり、本発明により用いることができる触媒の調製に公知の方法が適用できる。触媒の調製方法は担体を銀化合物で含侵させること、および還元を行って金属銀粒子を生成させることを含む。例えば、US−A−5,380,697、US−A−5,739,075、EP−A−266015、米国特許第6,368,998号、WO 00/15333、WO 00/15334およびWO 00/15335を参照することができ、これらを本明細書中に参照により組み込む。
【0051】
銀カチオンの金属銀への還元は触媒が乾燥される段階中に完了するので、還元それ自体は別の工程段階を必要としない。この場合、含侵溶液に、例えばシュウ酸塩などの還元剤を含ませることにより実施できる。そのような乾燥段階は、高々600℃、好ましくは高々300℃、さらに好ましくは高々280℃、よりさらに好ましくは高々260℃の温度で、および好都合には少なくとも100℃、好ましくは少なくとも200℃、より好ましくは少なくとも210℃、さらにより好ましくは少なくとも220℃の温度で、好都合には少なくとも1分間、好ましくは少なくとも2分間、および好都合には高々60分間の時間の間、好ましくは高々20分間、さらに好ましくは高々15分間、そしてさらに好ましくは高々10分間の時間の間で好都合に実施される。
【0052】
本エポキシ化方法は多くの方法で実施することができるが、気相法として実施することが望ましく、すなわちこの方法は、フィードを気相で固形物質として存在する触媒と、一般にエポキシ化条件下で固定床中で接触させる方法である。エポキシ化条件はエポキシ化が起こる条件(特に温度および圧力)の組み合わせである。一般に、本方法は、例えば固定床、管型反応器を含む典型的な商業的方法などの連続的方法として行われる。
【0053】
一般的な市販の反応器は一般にお互い平行に配置された複数の細長い管を有する。管の寸法と数は反応器によって異なる一方、市販の反応器に用いられる典型的な管は4から15mの長さおよび1から7cmの内径を有する。好都合には、内径は触媒を収納するのに十分である。特に、管の内径は担体の成形体を収納するのに十分である。しばしば、商業規模の運転において、本発明の方法は少なくとも10kg、例えば少なくとも20kg、しばしば10から10kg、さらに頻繁に10から10kgの触媒の量を含むことができる。
【0054】
本エポキシ化方法に用いられるオレフィンは、例えば芳香族オレフィン(例えばスチレン)、またはジオレフィン(共役または非共役、例えば1,9−デカジエンまたは1,3−ブタジエン)などのいずれのオレフィンであることもできる。オレフィンの混合物を用いることができる。一般に、オレフィンはモノオレフィン(例えば2−ブテンまたはイソブテン)である。好ましくは、オレフィンはモノ−α−オレフィン(例えば1−ブテンまたはプロピレン)である。最も好ましいオレフィンはエチレンである。
【0055】
フィード中のオレフィン濃度は広い範囲から選択することができる。一般に、フィード中のオレフィン濃度はフィード全量に対して高々80mole%である。望ましくは、同じ基準で、オレフィン濃度は0.5から70mole%であり、特に1から60mole%である。本明細書において、フィードは触媒と接触させる組成物と考えられる。
【0056】
本エポキシ化方法は空気ベースまたは酸素ベースであることができるが、これについては”Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology”,3rd edition,Volume 9,1980,pp.445−447を参照されたい。空気ベースの方法においては、空気または酸素に富む空気を酸化剤の源として用いる一方、酸素ベースの方法においては、酸化剤の源として高純度(一般に、少なくとも95mole%)の酸素を用いる。現在、大部分のエポキシ化プラントは酸素ベースであり、これは本発明の好ましい実施形態である。
【0057】
フィード中の酸素濃度は広い範囲内で選択することができる。しかしながら、実際には一般に易燃性領域を避ける濃度で酸素が適用される。一般に、適用される酸素濃度はフィード全量の1から15mole%、より一般的には2から12mole%の範囲内である。
【0058】
易燃性領域外に保つために、オレフィン濃度を上げるに従ってフィード中の酸素濃度を下げればよい。実際の安全運転範囲はフィードの組成と同時に、例えば反応温度および圧力などの反応条件に依存する。
【0059】
フィード中には、望ましい酸化オレフィンの生成に対して、選択性を増大し、オレフィンまたは酸化オレフィンの二酸化炭素および水への望ましくない酸化を抑制するために、反応調節剤を存在させることができる。多くの有機化合物、特に有機ハロゲン化物および有機窒素化合物を反応調節剤として用いることができる。酸化窒素、ヒドラジン、ヒドロキシルアミンまたはアンモニアもまた同様に用いることができる。オレフィンエポキシ化の運転条件下で、窒素含有反応調節剤は硝酸塩または亜硝酸塩の前駆体、すなわちいわゆる硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物であるとしばしば考えられる(例えば、本明細書中に参照により組み込まれたEP−A−3642およびUS−A−4822900を参照されたい。)。
【0060】
有機ハロゲン化物、特に有機臭化物、より特に有機塩化物は好ましい反応調節剤である。好ましい有機ハロゲン化物は塩化炭化水素または臭化炭化水素である。より好ましくは、有機ハロゲン化物は塩化メチル、塩化エチル、二塩化エチレン、二臭化エチレン、塩化ビニルまたはそれらの混合物の群から選択される。最も好ましい反応調節剤は塩化エチルおよび二塩化エチレンである。
【0061】
好都合な酸化窒素は一般式NO(式中、xは1から2の範囲内である。)で表されるものであり、例えばNO、NおよびNを含む。好都合な有機窒素化合物は、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、アミン、硝酸塩および亜硝酸塩であり、例えばニトロメタン、1−ニトロプロパンまたは2−ニトロプロパンである。好ましい実施形態において、硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物、例えば酸化窒素および/または有機窒素化合物は有機ハロゲン化物、特に有機塩化物と共に用いられる。
【0062】
反応調節剤は一般に、フィード中低濃度で、例えばフィード全量に対して0.1mole%までの濃度、例えば0.01x10−4から0.01mole%で用いられる場合、効果的である。特にオレフィンがエチレンである場合、反応調節剤はフィード中に、フィード全量に対して0.1x10−4から50x10−4mole%、特に0.3x10−4から30x10−4mole%の濃度で存在することが好ましい。
【0063】
オレフィン、酸素および反応調節剤に加えて、フィードは、場合により例えば不活性ガスおよび飽和炭化水素などの1つ以上の成分を含むことができる。例えば窒素またはアルゴンなどの不活性ガスはフィード中に、フィード全量に対して30から90mole%、一般に40から80mole%の濃度で存在することができる。フィードは飽和炭化水素を含むことができる。好都合な飽和炭化水素はメタンおよびエタンである。飽和炭化水素が存在する場合、フィード全量に対して80mole%までの量、特に75mole%までの量で存在することができる。しばしば飽和炭化水素は少なくとも30mole%、より頻繁に少なくとも40mole%の量で存在することができる。飽和炭化水素は、酸素易燃性限界を引き上げるためにフィードに添加することができる。
【0064】
エポキシ化方法は広い範囲から選択された温度および圧力を含むエポキシ化条件を用いて実施することができる。好ましくは、反応温度は150から340℃の範囲内であり、さらに好ましくは180から325℃の範囲内である。反応温度は徐々にまたは複数の段階で、例えば、0.1から20℃の段階で、特に0.2〜10℃の段階で、より特に0.5〜5℃の段階で上昇させることができる。反応温度の上昇の合計は10から140℃、より一般的に20から100℃の範囲内であることができる。反応温度は、新鮮な触媒を用いた場合の一般的に150から300℃の、より一般的に200から280℃の範囲内のレベルから、触媒が経時変化により活性が減少した場合の230から340℃の、より一般的に240から325℃の範囲内のレベルまで上昇させることができる。
【0065】
エポキシ化方法は一般に、1,000から3,500kPaの範囲内の反応器入口圧で行われる。“GHSV”すなわち気体単位時間当たり空間速度(Gas Hourly Space Velocity)は、常温・常圧(0℃、1気圧、すなわち101.3kPa)で充填触媒の1単位体積を1時間あたり通過する気体の単位体積である。エポキシ化方法が固定触媒床を含む気相法である場合、GHSVは好ましくは1500〜10000Nl/(l.h)である。
【0066】
二酸化炭素はエポキシ化方法における副生成物であり、従ってフィード中に存在しうる。二酸化炭素は、未転換のオレフィンおよび/または酸素と共に生成物混合物から回収され、リサイクルされた結果としてフィード中に存在しうる。一般に、フィード中おけるフィード全量に対して25mole%過剰、好ましくは10mole%過剰の二酸化炭素濃度は回避する。
【0067】
本発明の利点は、本方法がフィード中の二酸化炭素のより低いレベルで実施され、触媒がレニウム成分を含む場合に、本方法が、選択率における改良された安定度および/または活性度における改良された安定度を含む高いピーク選択率ならびに改良された安定度を発揮することである。このように、本発明の方法は望ましくはフィード中の二酸化炭素濃度がフィード全量に対して2mole%未満の条件下でおこなわれる。好都合には、1mole%未満の、特に0.75mole未満の二酸化炭素濃度が用いられる。しばしば、本発明を実施する場合、二酸化炭素濃度は少なくとも0.1mole%であり、さらに頻繁に二酸化炭素濃度は少なくとも0.3mole%である。0.50mole%と0.75mole%との間の二酸化炭素濃度がとりわけ望まれる。本発明の方法は、わずかなフィード中の二酸化炭素濃度で、すなわちゼロmole%ではないにせよそれに近い濃度で行うことができると考えられる。実際、フィード中に二酸化炭素が存在しないで行う方法は本発明の範囲内である。
【0068】
触媒性能は手順および方法条件の標準セットを用いて好都合に測定される。例えば、典型的な標準手順はステンレススチール製U型管に3.9gの破砕した触媒を装填することを要する。ついでこの管を溶融金属浴(熱媒体)に浸漬し、両端を気体流システムに接続する。用いる触媒重量および入口気体流速を、破砕しない触媒に関して算出した3,300Nl/(l.h)の気体時間当たり空間速度を負荷するように調節する。ついで1,370kPaの入口気体圧力で気体流を16.9Nl/hに調節する。始動を含む全体の試験運転の間の「単流」操作で触媒層を通過させる混合気体は、好都合には、エチレン30%v、酸素8%v、二酸化炭素0.5%v、窒素61.5%vおよび塩化エチル2.0から6.0体積百万分率(ppmv)にセットされる。初期反応器温度は好都合には180℃であり、1時間当たり10℃の速度で225℃まで上昇させ、ついで反応器出口でエチレンオキシドの望ましい分圧41kPaを達成するように調節する。
【0069】
これらの運転条件で運転するとき、フッ化物で鉱物化した担体上または層状または小板型の形態の粒子状マトリックスを有する担体上に沈着させた銀成分およびレニウム成分を含み、強度増大添加剤の強度増大用量を組み込んで有する触媒を用いるオレフィンのエポキシ化方法により、85%を超すピーク選択率を達成することができる。好ましくは、本方法により87%を超すピーク選択率が達成される。さらに好ましくは、本方法により89%を超すピーク選択率、および90%を超すピーク選択率さえも達成される。しばしば、本方法により高々92%のピーク選択率が達成される。
【0070】
加えて、フィード中の二酸化炭素のこれらのレベルで運転するとき、担体上に沈着させた銀成分およびレニウム成分を含み、強度増大添加剤の強度増大用量を組み込んで有する触媒を用いるオレフィンのエポキシ化方法により、改良された安定度が達成される。
【0071】
製造された酸化オレフィンは、例えば水中で生成物混合物から酸化オレフィンを吸収すること、および場合により酸化オレフィンを蒸留により水溶液から回収することにより、当分野で公知の方法を用いて生成物混合物から回収することができる。酸化オレフィンを含む水溶液の少なくとも一部を、酸化オレフィンを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルまたはアルカノールアミンに転換するための引き続く工程に適用することができる。かかる転換に用いられる方法は限定されず、当分野に公知の方法を用いることができる。本明細書において、「生成物混合物」はエポキシ化反応器の出口から回収される生成物を指すと理解される。
【0072】
1,2−ジオールまたは1,2−ジオールエーテルへの転換は、例えば酸化オレフィンを水と、好都合には酸性または塩基性触媒を用いて反応させることを含むことができる。例えば、1,2−ジオールを主に、そして1,2−ジオールエーテルをより少なく製造するためには、酸化オレフィンを10倍mole過剰量の水と、酸触媒、例えば0.5から1.0重量%硫酸(全反応混合物量に基づいて)の存在下、1バール絶対気圧、50から70℃での液相反応により、または好ましくは触媒の非存在下、20から40バール絶対気圧、130から240℃での気相反応により反応させることができる。水の割合を下げれば1,2−ジオールエーテルの割合は増加する。かくして製造した1,2−ジオールエーテルはジエーテル、トリエーテル、テトラエーテルまたはそれに続くエーテルであることができる。代替的に、1,2−ジオールエーテルは、水の少なくとも一部をアルコールで置換することにより酸化オレフィンをアルコール、特に第一級アルコール(例えば、メタノールまたはエタノールなど)で転換して調製することができる。
【0073】
アルカノールアミンへの転換は、酸化オレフィンをアミン(例えば、アンモニア、アルキルアミン、またはジアルキルアミンなどの)と反応させることを含むことができる。無水アンモニアまたはアンモニア水を用いることができる。無水アンモニアは一般にモノアルカノールアミンの製造に好都合に用いられる。酸化オレフィンのアルカノールアミンへの転換に適用できる方法に関しては、例えばUS−A−4,845,296(本明細書中に参照により組み込む)を参照できる。
【0074】
1,2−ジオールおよび1,2−ジオールエーテルは、例えば、食料、飲料、タバコ、化粧品、熱可塑性ポリマー、硬化性樹脂系、界面活性剤、熱伝達システムなどの分野において非常に多様な工業的用途において用いることができる。アルカノールアミンは、例えば天然ガスの処理(「スウィートニング」)に用いることができる。
【0075】
特記しない限り、本明細書において言及する有機化合物、例えばオレフィン、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、アルカノールアミン、有機窒素化合物、および有機ハロゲン化物などは、一般に高々40個の炭素原子、より一般に高々20個の炭素原子、特に高々10個の炭素原子、より特に高々6個の炭素原子を有する。本明細書で定義したように、炭素原子の数(すなわち炭素数)の範囲は範囲限界のために特定した数を含む。
【0076】
本発明を一般的に説明してきたが、以下の実施例を参照することによりさらに理解を得ることができるであろう。ただし以下の実施例は別に特記しない限り、説明のためだけに提供するものであって限定を意図するものではない。
【実施例1】
【0077】
酢酸カルシウム含侵溶液は、28.28グラムの酢酸カルシウムを165.0グラムの蒸留水に溶解することにより製造することができる。各々円筒状成形体に切り分けた100グラムのγアルミナを20mmHgに1分間排気し、ついで酢酸カルシウム含侵溶液を真空中でγアルミナに加える。次に真空を解除し、遷移アルミナをこの液体に3分間接触させる。ついで含侵された遷移アルミナを500rpmで2分間遠心分離し、過剰の液体を除去する。次に酢酸カルシウム含侵遷移アルミナペレットを窒素気流中、110℃で16時間乾燥させる。
【0078】
フッ化アンモニウム含侵溶液は、19.965gのフッ化アンモニウムを165gの蒸留水に溶解することにより調製できる。
【0079】
酢酸カルシウム含侵遷移アルミナを20mmHgに1分間排気し、ついでフッ化アンモニウム含侵溶液を遷移アルミナに真空中で添加することができる。次に真空を解除し、遷移アルミナをこの液体に3分間接触させる。ついで含侵遷移アルミナを500rpmで2分間遠心分離し、過剰の液体を除去する。次に含侵遷移アルミナペレットを窒素気流中、120℃で16時間乾燥する。
【0080】
ついで乾燥した含侵遷移アルミナを第1の高温アルミナるつぼに入れる。約50gの酸化カルシウムを第2の高温アルミナるつぼに入れる。含侵遷移アルミナを含む高温アルミナるつぼを酸化カルシウムを含有する第2の高温アルミナるつぼにいれ、ついで第2のるつぼより直径が小さい第3の高温アルミナるつぼで覆って、含侵遷移アルミナを第3のるつぼおよび酸化カルシウムにより固定する。次にこの集成体を室温で炉中に入れる。炉の温度を室温から30分にわたって800℃まで上昇させる。ついでこの集成体を30分間800℃に保ち、その後1時間にわたって1,200℃まで加熱する。次にこの集成体を1時間1,200℃に保つ。ついで炉を冷却し、アルミナをこの集成体から取り出す。
【0081】
次に、得られた担体はそのクラッシュ強度または磨耗抵抗について、本明細書に述べるように各々ASTM D6175−03もしくはASTM D4058−96またはクラッシュ強度または磨耗抵抗を測定するための他の方法を用いて試験することができる。結果は、異なる量の酢酸カルシウム、異なる強度増大添加剤を用いて、または強度増大添加剤を用いずに調製した異なる担体の結果と比較することができる。かくして、強度増大添加剤の強度増大用量を組み込んで有する担体を得ることができる。次にこの担体を用いてオレフィンのエポキシ化触媒を調製することができ、ついでこの触媒を用いて酸化オレフィン、およびそれに続く1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルまたはアルカノールアミンの製造方法に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度増大添加剤を組み込んで有するフッ化物で鉱物化された担体。
【請求項2】
層状または小板型の形態を有する粒子状マトリックスを有し、強度増大添加剤を組み込んで有する、担体。
【請求項3】
層状または小板型の形態が、少なくとも1つの方向において0.1μmより大きい寸法を有する粒子が少なくとも1つの実質的に平担な主表面を有する状態である、請求項2に記載の担体。
【請求項4】
強度増大添加剤がジルコニウム種、ランタニド族種、II族金属種、無機ガラス、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から3のいずれかに記載の担体。
【請求項5】
強度増大添加剤がカルシウムを含む、請求項1から4のいずれか記載の担体。
【請求項6】
強度増大添加剤がセリウムを含む、請求項1から4のいずれか記載の担体。
【請求項7】
担体がα−アルミナを含む、請求項1から6のいずれか記載の担体。
【請求項8】
フッ化物で鉱物化された担体または層状または小板型の形態の粒子状マトリックスを有する担体の調製方法であって、担体調製のいずれかの段階で強度増大添加剤、特に請求項4から6のいずれかに記載の強度増大添加剤を担体に組み込むことを含む前記方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載の担体上に沈着させた触媒種を含む触媒。
【請求項10】
触媒種がモリブデン、ニッケル、およびタングステンの1つ以上を含む、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
触媒種が銀を含む、請求項9に記載の触媒。
【請求項12】
触媒が追加的に、レニウム、モリブデン、クロム、タングステンおよび硝酸塩または亜硝酸塩を形成する化合物の1つ以上を含む高選択率ドープ剤を含む、請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
触媒が追加的にレニウム成分、またはレニウム成分およびレニウムコプロモータを含む、請求項11または12に記載の触媒。
【請求項14】
オレフィンおよび酸素を含むフィードを請求項11から13のいずれか1項に記載の触媒と接触させることを含む、オレフィンエポキシ化の方法。
【請求項15】
触媒が追加的に、レニウム成分、またはレニウム成分およびレニウムコプロモータを含み、フィード中の二酸化炭素濃度が1mole%未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
フィード中の二酸化炭素濃度が0.50mole%と0.75mole%との間である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
オレフィンがエチレンを含む、請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
酸化オレフィンを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルまたはアルカノールアミンに転換することを含む、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルまたはアルカノールアミンの製造方法であって、前記酸化オレフィンが請求項14から17のいずれかに記載のオレフィンエポキシ化の方法により製造されている、方法。

【公開番号】特開2012−228688(P2012−228688A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−132559(P2012−132559)
【出願日】平成24年6月12日(2012.6.12)
【分割の表示】特願2007−530376(P2007−530376)の分割
【原出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】