説明

オレフィンの製造法

【課題】 目的とするオレフィンを高収率で得ることができる、オレフィンの製造法の提供。
【解決手段】 第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物を触媒として用いる、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体からのオレフィンの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体を原料とするオレフィンの製造法に関する。更に詳しくは、界面活性剤、種々の化学薬品、医薬品の中間原料として好適に用いられるオレフィンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とする鎖長のオレフィンを製造する方法としては、エチレンなど低鎖長オレフィンをオリゴマー化し、αオレフィンを合成する方法が一般に知られている。しかし、このオリゴマー化経由での合成では重合度に分布を有するため目的とする鎖長のオレフィンのみを高収率で得ることができない。
【0003】
また、カルボン酸からオレフィンを製造する方法として、Pd錯体触媒を用いた、カルボン酸からオレフィンを合成する方法(特許文献1)、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒と酸無水物の存在下、カルボン酸からαオレフィンを合成する方法(特許文献2)、Pd錯体触媒、ピバル酸無水物を用いたカルボン酸からαオレフィンを合成する方法(非特許文献1)が知られている。これらの方法は、効率的にオレフィンを得るために、特殊な添加剤を用いたり、または反応温度を250℃以上の高温としているにもかかわらず、目的とするオレフィンの収率は満足いくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3530198号明細書
【特許文献2】米国特許第5077447号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem. Commun., 724, (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、目的とするオレフィンを高収率で得ることができる、オレフィンの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物を触媒として用いる、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体からのオレフィンの製造法を提供する(以下、態様1という)。
【0008】
本発明はまた、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒とヨウ化物の存在下、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体の脱カルボニル反応を行う、オレフィンの製造法を提供する(以下、態様2という)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造法により、界面活性剤などの基剤及び種々の化合物の中間原料として好適に用いられるオレフィンを、カルボン酸またはその誘導体を原料として、高収率で合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[態様1]
本発明の態様1に用いられるβ水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体は、カルボニル基のβ位に少なくとも1つの水素原子を有するものであれば特に限定されず、飽和体でも不飽和体でも、一部環状になったものでも、ヘテロ原子を含むものでも、カルボニル基を複数有するものでもよいが、飽和1価カルボン酸またはその誘導体が好ましい。β水素原子を有するカルボン酸誘導体としては、β水素原子を有するカルボン酸無水物、β水素原子を有するカルボン酸ハロゲン化物、β水素原子を有するカルボン酸エステル、β水素原子を有するカルボン酸アミドが挙げられ、β水素原子を有するカルボン酸無水物、β水素原子を有するカルボン酸ハロゲン化物が好ましく、β水素原子を有するカルボン酸無水物がより好ましい。
【0011】
β水素原子を有するカルボン酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、3−フェニルプロピオン酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコ酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、2,4−ヘキサジエン酸、3−メチルブタン酸、6−オクタデシン酸、ヒドノカルピン酸、ゴルリン酸、リシノール酸等が挙げられる。
【0012】
β水素原子を有するカルボン酸無水物の具体例としては、カプロン酸無水物、カプリル酸無水物、カプリン酸無水物、ラウリン酸無水物、ミリスチン酸無水物、パルミチン酸無水物、ステアリン酸無水物、ベヘン酸無水物、3−フェニルプロピオン酸無水物、アジピン酸無水物、アゼライン酸無水物、エイコ酸無水物、9−デセン酸無水物、10−ウンデセン酸無水物、オレイン酸無水物、2,4−ヘキサジエン酸無水物、3−メチルブタン酸無水物、6−オクタデシン酸無水物、ヒドノカルピン酸無水物、ゴルリン酸無水物、リシノール酸無水物、コハク酸無水物等、あるいはギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸や、上記β水素原子を有するカルボン酸の具体例で挙げられたカルボン酸と、上記β水素原子を有するカルボン酸の具体例で挙げられたカルボン酸との異なるカルボン酸同士が縮合したカルボン酸無水物が挙げられる。
【0013】
β水素原子を有するカルボン酸ハロゲン化物の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、3−フェニルプロピオン酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコ酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、2,4−ヘキサジエン酸、3−メチルブタン酸、6−オクタデシン酸、ヒドノカルピン酸、ゴルリン酸、リシノール酸等の塩素化物、臭素化物、ヨウ素化物が挙げられる。
【0014】
β水素原子を有するカルボン酸エステルの具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、3−フェニルプロピオン酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコ酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、2,4−ヘキサジエン酸、3−メチルブタン酸、6−オクタデシン酸、ヒドノカルピン酸、ゴルリン酸、リシノール酸等のメチルエステル、エチルエステル等が挙げられる。
【0015】
β水素原子を有するカルボン酸アミドの具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、3−フェニルプロピオン酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコ酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸、2,4−ヘキサジエン酸、3−メチルブタン酸、6−オクタデシン酸、ヒドノカルピン酸、ゴルリン酸、リシノール酸等のアミド、モノメチルアミド、ジメチルアミド、ジエチルアミド等が挙げられる。
【0016】
β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体としては、カルボン酸またはカルボン酸残基の炭素数(カルボン酸無水物の場合は少なくとも1つのカルボン酸残基の炭素数)が3〜22のものが好ましく、8〜18のものがより好ましく、12〜18のものが更に好ましい。なお、不飽和カルボン酸またはその誘導体を原料に用いた場合は、原料よりも二重結合の数が1つ多いオレフィンとなる。
【0017】
本発明の態様1において用いる触媒は、第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物である。第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素としては、Mo,W,Mn,Re,Fe,Ru,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au等が挙げられる。これらの金属元素の中では、第8族金属、第9族金属、第10族金属が好ましく、第9族金属、第10族金属がより好ましく、Co,Rh,Irから選ばれる第9族金属が更に好ましい。
【0018】
本発明の態様1において、触媒として用いられる、第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物の具体例としては、MoI2(C552、MoI(CO)3(C55)、MoI2(CH3CN)2(CO)3、MnI2、MnI(CO)5、WI2(CH3CN)2(CO)3、ReI3、ReIO2(PPh32、[ReI(CO)42、ReI(CO)5、FeI2、FeI3、FeI(CO)2(C55)、RuI3、RuI2(CO)2、RuI(CO)2(C55)、CoI2、CoI2(CO)(C55)、CoI2(PPh3)(C55)、CoI2(PPh32、RhI3、[RhI(CO)22、RhI(PPh33、IrI4、IrI(CO)(PPh32、NiI2、NiI2(NH36、NiI(1,5−シクロオクタジエン)、NiI(PPh33、PdI2、PdI2(PPh32、PdI(CH3)(PPh32、PtI2、[Pt22(H2NCH2CH2NH22](NO32、PtI2(1,5−シクロオクタジエン)、PtI(CH33、PtI(CH3)(PEt32、CuI、AgI、AuI、AuI(CH32(PPh3)(式中、Phはフェニル基、Etはエチル基を示す、以下同様)などが挙げられ、CoI2、RhI3、[RhI(CO)22、IrI(CO)(PPh32、NiI2、FeI2、PtI2が好ましく、CoI2、RhI3、[RhI(CO)22、IrI(CO)(PPh32、NiI2がさらに好ましい。
【0019】
更にこれらの触媒は、N−複素環カルベン系配位子、2,2−ビピリジルやピリジン等のピリジン系配位子、ヒ素系配位子、アセトニトリルやベンゾニトリル等のニトリル系配位子、イソニトリル系の配位子、有機リン系配位子等の配位子と組み合わせて用いてもよい。用いる場合には有機リン系配位子が好ましい。有機リン系配位子としては、例えばジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(パラ−メトキシフェニル)ホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン等が挙げられ、トリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが好ましい。これらの配位子は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の態様1において、触媒の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体1モルに対し、金属原子として0.00001〜0.2モルが好ましく、0.0001〜0.05モルがより好ましく、0.001〜0.04モルがさらに好ましく、0.005〜0.03モルが特に好ましい。
【0021】
本発明の態様1においては、酸無水物を添加しなくても反応は進行するが、酸無水物を加えてもよい。その場合、酸無水物の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体1モルに対して、10モル以下が好ましく、2モル以下がより好ましい。また、酸無水物の使用量は、0.01モル以上がより好ましい。酸無水物としては無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ピバル酸が好ましく、特に無水酢酸が好ましい。
【0022】
本発明の態様1における脱カルボニル反応の温度は、オレフィンの良好な選択性を得る観点から、20〜300℃が好ましく、80〜270℃がより好ましく、120〜260℃がさらに好ましい。
【0023】
[態様2]
本発明の態様2において、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体は、態様1について記載したものを用いることができる。本発明の態様2においては、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体としては、カルボン酸またはカルボン酸残基の炭素数(カルボン酸無水物の場合は少なくとも1つのカルボン酸残基の炭素数)は3〜22が好ましく、3〜18がより好ましい。
【0024】
以下、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体が、β水素原子を有するカルボン酸である場合について記載する(以下、態様2(1)という)。
本発明の態様2(1)において用いる触媒は、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒である。反応性、選択性の観点から、第9族金属、第10族金属元素を含む触媒が好ましい。第8族金属、第9族金属、第10族金属としては、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられ、Co、Ni、Rh、Pd、Irが好ましく、Co、Rh、Pd、Irがより好ましく、Rhが更に好ましい。第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒としては、具体的には、[RhCl(CO)22、(Ph3P)2Rh(CO)Cl、(Ph3P)2NiCl2、(Ph3P)2PdCl2、(Ph3P)2CoCl2、(Ph3P)2PtCl2、(Ph3P)2Ir(CO)Cl、(Ph3P)3CuCl(式中、Phはフェニル基を示す、以下同様)などが挙げられ、[RhCl(CO)22、(Ph3P)2PdCl2、(Ph3P)2CoCl2、(Ph3P)2Ir(CO)Cl、(Ph3P)2NiCl2等が好ましい。
【0025】
更にこれらの触媒は、N−複素環カルベン系配位子、2,2−ビピリジルやピリジン等のピリジン系配位子、ヒ素系配位子、アセトニトリルやベンゾニトリル等のニトリル系配位子、イソニトリル系の配位子、有機リン系配位子等の配位子と組み合わせて用いることが好ましく、有機リン系配位子がより好ましい。有機リン系配位子の具体例は、態様1について記載した通りである。それらのうち、態様2(1)においては、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンが好ましい。これらの配位子は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記配位子の使用量は、良好な触媒の安定性及び反応速度を得る観点から、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素換算で、第8族金属、第9族金属、第10族金属又は銅化合物の金属原子1モルに対して、触媒が元々有するものを含めて配位子分子換算で0.1〜1000モルの範囲であるのが好ましく、0.2〜500モルの範囲であるのがより好ましく、0.3〜100モルの範囲であるのが特に好ましい。
【0027】
本発明の態様2(1)において、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸1モルに対し、金属原子あたり0.00001〜0.2モルが好ましく、0.0001〜0.05モルがより好ましく、0.001〜0.03モルがより好ましく、0.005〜0.025モルが特に好ましい。
【0028】
本発明の態様2(1)に用いられるヨウ化物としては、特に限定されるものではないが、第1族元素〜第14族元素から選ばれる元素のヨウ化物、又は下記一般式(1)で示される4級アンモニウム化合物が挙げられる。
【0029】
[R−(Y)n4+- (1)
(ここで、Rは炭素数1〜22の炭化水素基を示し、Yは−Z−(CH2)m−で示される基を示し、Zはエーテル基、アミノ基、アミド基又はエステル基、より具体的には−O−、−NH−、−CONH−、−NHCO−、−COO−又は−OCO−、mは1〜6の数を示し、nは0又は1を示し、複数個のR、Y及びnはそれぞれ同一でも異なっていても良い。また、[R−(Y)n]同士の間で環状構造を形成していてもよい。)
第1族元素〜第14族元素から選ばれる元素のヨウ化物としては、特に限定されるものではないが、第1族元素、第11族元素及び第12族元素から選ばれる元素のヨウ化物が好ましい。具体的にはKI、CuI、LiI、NaI、ZnI2等を挙げることができ、KI、NaIが好ましい。
【0030】
一般式(1)で示される4級アンモニウム化合物としては、Rが炭素数1〜7のアルキル基、又はベンジル基(好ましくは炭素数1〜7のアルキル基)であって、nが0である4級アンモニウム化合物が好ましく、Et4+-、(n−Butyl)4+-(ここでEtはエチル基、n−Butylはn−ブチル基を示す)等がより好ましく、特にEt4+-が好ましい。
【0031】
本発明の態様2(1)において、ヨウ化物の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸1モルに対し、0.001〜10モルが好ましく、0.01〜3モルがより好ましい。
【0032】
本発明の態様2(1)においては、酸無水物を添加しなくても反応は進行するが、酸無水物を加えることによって低温でも反応が進行する。その場合、酸無水物の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸1モルに対して、10モル以下が好ましく、2モル以下がより好ましい。また、酸無水物の使用量は、0.01モル以上がより好ましい。酸無水物としては無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ピバル酸が好ましく、特に無水酢酸が好ましい。
【0033】
本発明の態様2(1)における脱カルボニル反応の温度は、オレフィンの良好な選択性を得る観点から、20〜300℃が好ましく、80〜280℃がより好ましく、130〜260℃が特に好ましい。
【0034】
次に、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体が、β水素原子を有するカルボン酸無水物である場合について記載する(以下、態様2(2)という)。
【0035】
本発明の態様2(2)において、β水素原子を有するカルボン酸無水物は、態様1について記載したものを用いることができ、例えば下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0036】
【化1】

【0037】
(式中、R1はカルボニル基のβ位に水素原子を有し、置換基を有していても良い炭化水素基、R2は水素原子又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)
一般式(2)において、R1としては、カルボニル基のβ位に水素原子を有する炭素数2〜21のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また炭素数は3〜17がより好ましく、11〜17が特に好ましい。R2としては、炭素数1〜21のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、さらにはR1と同じ基が好ましい。またR1、R2は一緒になって環を形成していてもよい。炭化水素基の置換基としては、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0038】
本発明の態様2(2)に用いられるβ水素原子を有するカルボン酸無水物の具体例は、態様1について記載した通りである。それらのうち、カプロン酸無水物、カプリル酸無水物、カプリン酸無水物、ラウリン酸無水物、ミリスチン酸無水物、パルミチン酸無水物、ステアリン酸無水物、エイコ酸無水物、ベヘン酸無水物、オレイン酸無水物が好ましく、ステアリン酸無水物がさらに好ましい。
【0039】
本発明に用いられるβ水素原子を有するカルボン酸無水物の製造方法は、特に制限されるものでないが、例えばカルボン酸を塩化チオニルや塩化ホスホニル、無水酢酸、トリフルオロ酢酸無水物、塩化アセチル等で脱水する方法、カルボン酸ハロゲン化物とカルボン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩とを反応させる方法、アルデヒドを酸化する方法等の製造方法が挙げられ、カルボン酸ハロゲン化物とカルボン酸アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩とを反応させる方法、カルボン酸を無水酢酸で脱水する方法が好ましい。
【0040】
本発明の態様2(2)において用いられる触媒は、態様2(1)の場合と同様に、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒である。態様2(2)においては、第8族金属、第9族金属、第10族金属として、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptが好ましく、Ni、Ru、Rh、Pd、Irがより好ましく、Ni、Rh、Pd、Irが更に好ましい。態様2(2)において用いられる触媒としては、具体的には、[RhCl(CO)22、(Ph3P)2Rh(CO)Cl、(Ph3P)3RhCl、(Ph3P)2NiCl2、(Ph3P)2PdCl2、(Ph3P)4Pd、Pd(OAc)2、(Ph3P)2CoCl2、CoCl2、(Ph3P)2PtCl2、FeCl2、Ru3(CO)12、[RuCl2(CO)32、(Ph3P)3RuCl2、(Ph3P)4RuCl2、(Ph3P)2Ir(CO)Cl、IrCl(CO)3、(Ph3P)3CuCl(式中、Phはフェニル基を示す、以下同様)などが挙げられ、[RhCl(CO)22、(Ph3P)2PdCl2、IrCl(CO)3、(Ph3P)2NiCl2、Ru3(CO)12、CoCl2、FeCl2等が好ましく、[RhCl(CO)22、(Ph3P)2PdCl2、IrCl(CO)3、(Ph3P)2NiCl2、Ru3(CO)12等がさらに好ましい。
【0041】
更にこれらの触媒は、態様1及び2(1)の場合と同様に、N−複素環カルベン系配位子、2,2−ビピリジルやピリジン等のピリジン系配位子、ヒ素系配位子、アセトニトリルやベンゾニトリル等のニトリル系配位子、イソニトリル系の配位子、有機リン系配位子等の配位子と組み合わせて用いても良い。有機リン系配位子の具体例は、態様1について記載した通りである。これらの配位子は単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、配位子の使用量は、態様2(1)について記載した通りである。
【0042】
態様2(2)において、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸無水物1モルに対し、金属原子として0.00001〜0.2モルが好ましく、0.0001〜0.05モルがより好ましく、0.001〜0.03モルがより好ましく、0.005〜0.025モルが特に好ましい。
【0043】
本発明の態様2(2)において用いられるヨウ化物は、態様2(1)について記載した通りである。
【0044】
本発明の態様2(2)において、ヨウ化物の使用量は、β水素原子を有するカルボン酸無水物1モルに対し、ヨウ素原子として0.001〜10モルが好ましく、0.01〜2モルがより好ましい。
【0045】
本発明の態様2(2)における脱カルボニル反応の温度は、オレフィンの良好な選択性を得る観点から、20〜300℃が好ましく、80〜250℃がより好ましく、120〜220℃が特に好ましい。
【0046】
本発明の上記態様1、2(1)及び2(2)の方法により得られるオレフィンとしては、末端に二重結合を持つ構造のみでなく、それらから異性化した内部に二重結合を持つ内部オレフィンであってもよい。
【0047】
本発明の方法により得られるオレフィンは、界面活性剤、種々の化学薬品、医薬品の中間原料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、特に断らない限り、「%」は「モル%」を表す。なお、態様1の実施例については「実施例1−n」と番号を付す。また、態様2(1)及び態様2(2)の実施例については、それぞれ「実施例2−n」及び「実施例3−n」と番号を付す。
【0049】
実施例1−1
セプタム付きねじ口試験管に撹拌子と、ステアリン酸 142.2mg(0.5mmol)、CoI2 1.6mg(0.005mmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン 2.0mg(0.005mmol)、無水酢酸 51.0mg(0.5mmol)を加え、窒素雰囲気下、250℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。低沸分を減圧留去したのち、内部標準としてアニソール30.3mgを加え、1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した(原料及び生成物の定量は、ステアリン酸のα位のプロトン、末端オレフィンのビニルプロトン、内部オレフィンのビニルプロトン、内部標準であるアニソールのメチル基との積分比を比較することにより行った)。
【0050】
ステアリン酸の転化率は56%、仕込みステアリン酸に対して末端オレフィンが収率43%、内部オレフィンが収率5%で得られた。
【0051】
比較例1−1
CoI2をCoCl2に変えた以外は実施例1と同様に行った。
ステアリン酸の転化率は68%、末端オレフィン、内部オレフィンは得られなかった。
【0052】
実施例1−2
セプタム付きねじ口試験管に撹拌子と、ステアリン酸 142.2mg(0.5mmol)、IrI(CO)(PPh32 8.7mg(0.01mmol)を加え、窒素雰囲気下、250℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。内部標準としてアニソール30.3mgを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0053】
ステアリン酸の転化率は87%、仕込みステアリン酸に対して内部オレフィンが収率87%で得られた。
【0054】
比較例1−2
IrI(CO)(PPh32をIrCl(CO)(PPh32に変えた以外は実施例1−2と同様に行った。
【0055】
ステアリン酸の転化率は68%、仕込みステアリン酸に対して末端オレフィンが収率3%、内部オレフィンが収率65%で得られた。
【0056】
実施例1−1,1−2及び比較例1−1,1−2の結果をまとめて表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1−3
50mLナス型フラスコに攪拌子と、ステアリン酸無水物 12.4g(22.5mmol)、[RhI(CO)22 377mg(0.66mmol)を加え、窒素置換した後、0.02MPaを維持しながら、160℃で攪拌を行った。6時間後、加熱をやめ、内部標準としてアニソール50mgを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0059】
ステアリン酸無水物の転化率は100%、仕込みステアリン酸無水物に対して末端オレフィンが収率19%、内部オレフィンが収率80%、ステアリン酸が収率99%で得られた。
【0060】
比較例1−3,1−4
[RhI(CO)22を表2に示す触媒に変えた以外は実施例1−3と同様に行った。
【0061】
実施例1−3及び比較例1−3,1−4の結果をまとめて表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例1−4
50mLナス型フラスコに攪拌子と、ステアリン酸無水物 4.1g(7.5mmol)、RhI3 72.5mg(0.15mmol)、PPh3 157mg(0.60mmol)を加え、窒素置換した後、0.033MPaを維持しながら、200℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、内部標準としてアニソール50mgを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0064】
ステアリン酸無水物の転化率は100%、仕込みステアリン酸無水物に対して末端オレフィンが収率7%、内部オレフィンが収率88%、ステアリン酸が収率99%で得られた。
【0065】
実施例1−5〜1−7、比較例1−5〜1−8
表3に示す触媒、反応温度に変えた以外は実施例1−4と同様に行った。
【0066】
実施例1−4〜1−7及び比較例1−5〜1−8の結果をまとめて表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例1−8
50mLナス型フラスコに攪拌子と、ステアリン酸 4.3g(15mmol)、RhI3 72.5mg(0.15mmol)、PPh3 157mg(0.60mmol)を加え、窒素置換した後、0.033MPaを維持しながら、250℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、内部標準としてアニソール50mgを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0069】
ステアリン酸の転化率は24%、仕込みステアリン酸に対して末端オレフィンが収率2%、内部オレフィンが収率22%で得られた。
【0070】
実施例1−9〜1−11、比較例1−9〜1−12
RhI3を表4に示す触媒に変えた以外は実施例1−8と同様に行った。
【0071】
実施例1−8〜1−11及び比較例1−9〜1−12の結果をまとめて表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
実施例2−1
10mLナス型フラスコに攪拌子を入れ、ステアリン酸568.7mg(2.0mmol)、ロジウム触媒[RhCl(CO)22 7.8mg(0.02mmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン31.8mg(0.08mmol)、ヨウ化カリウム332mg(2.0mmol)を加え、250℃で攪拌を行った。加熱後、すぐに、固体のステアリン酸は融解し、反応溶液は均一になり泡立ち始めた。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。そして、エチルエーテルで洗いながら、ろ過した。次にエチルエーテルを減圧留去したのち、内部標準としてアニソール105.9mgを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0074】
ガスクロマトグラフィー(GC)測定の結果より、原料のステアリン酸がわずかに残存していた。そして、1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が13%残存し、末端オレフィンが10%、内部オレフィンが60%存在していることが分かった。
【0075】
実施例2−2、比較例2−1
ヨウ化カリウムの量を表5のように変更した以外、実施例2−1と同様に行った。
【0076】
実施例2−3
ステアリン酸をラウリン酸に変更した以外、実施例2−1と同様に行った。
【0077】
実施例2−1〜2−3、及び比較例2−1の結果をまとめて表5に示す。
【0078】
【表5】

【0079】
実施例2−4
10mLナス型フラスコに攪拌子を入れ、ステアリン酸568.7mg(2.0mmol)、ロジウム触媒[RhCl(CO)22 7.8mg(0.02mmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン31.8mg(0.08mmol)、無水酢酸56.9mg(0.2mmol)、ヨウ化カリウム332mg(2.0mmol)を加え、250℃で攪拌を行った。加熱後、すぐに、固体のステアリン酸は融解し、反応溶液は均一になり泡立ち始めた。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。そして、エチルエーテルで洗いながら、ろ過した。次にエチルエーテルを減圧留去したのち、内部標準としてアニソール105.9mgを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0080】
GC測定の結果より、原料のステアリン酸がわずかに残存していた。そして、1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が4%残存し、末端オレフィンが8%、内部オレフィンが86%存在していることが分かった。
【0081】
実施例2−5
ヨウ化カリウムをテトラエチルアンモニウムヨージドに変更した以外は実施例2−4と同様に行った。
【0082】
GC測定の結果より、原料のステアリン酸がわずかに残存していた。そして、1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が12%残存し、末端オレフィンが1%、内部オレフィンが63%存在していることが分かった。
【0083】
比較例2−2
ヨウ化カリウムを使用しないこと以外は実施例2−4と同様に行った。
【0084】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が38%残存し、末端オレフィンが6%、内部オレフィンが45%存在していることが分かった。
【0085】
実施例2−4,2−5及び比較例2−2の結果をまとめて表6に示す。
【0086】
【表6】

【0087】
実施例2−6
無水酢酸の量並びに反応温度を表7のように変更した以外は実施例2−4と同様に行った。
【0088】
GC測定の結果より、原料のステアリン酸がわずかに残存していた。そして、1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が6%残存し、末端オレフィンが65%、内部オレフィンが38%存在していることが分かった。
【0089】
比較例2−3
10mLナス型フラスコに攪拌子を入れ、ステアリン酸568.7mg(2.0mmol)、ロジウム触媒[RhCl(CO)22 7.8mg(0.02mmol)、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン31.8mg(0.08mmol)、無水酢酸569mg(2mmol)を加え、140℃で攪拌を行った。加熱後、すぐに、固体のステアリン酸は融解し、反応溶液は均一になり泡立ち始めた。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。そして、エチルエーテルで洗いながら、ろ過した後、内部標準としてn−ノナデカン95.9mgを加え、GC測定を行った。GC測定の結果より、オレフィンがほとんど生成していなかった。
【0090】
実施例2−6及び比較例2−3の結果をまとめて表7に示す。
【0091】
【表7】

【0092】
実施例2−7
50mLナス型フラスコに攪拌子を入れ、ステアリン酸13.0607g(0.046mol)、パラジウム触媒[(Ph3P)2PdCl2] 0.316g(0.00045mol)、トリフェニルホスフィン(Ph3P)5.9g(0.0225mol)、ヨウ化カリウム2.49g(0.015mol)、内部標準用にスクアラン0.9581gを加え、250℃で攪拌を行った。24時間後、サンプリングを行いGC解析を行った。GC解析の結果、オレフィン収率90.6%であった。
【0093】
比較例2−4
50mLナス型フラスコに攪拌子を入れ、ステアリン酸12.7069g(0.045mol)、パラジウム触媒[(Ph3P)2PdCl2] 0.316g(0.00045mol)、トリフェニルホスフィン(Ph3P)2.36g(0.0135mol)、内部標準用にスクアラン0.9684gを加え、250℃で攪拌を行った。24時間後、サンプリングを行い、生成物のGC解析を行った。GC解析の結果、オレフィン収率16.2%であった。
【0094】
実施例2−7及び比較例2−4の結果をまとめて表8に示す。
【0095】
【表8】

【0096】
実施例2−8
セプタム付きねじ口試験管に攪拌子を入れ、ステアリン酸142.2mg(0.5mmol)、コバルト触媒[(Ph3P)2CoCl2] 3.3mg(0.005mmol)、無水酢酸51.0mg(0.5mmol)、ヨウ化カリウム83.0mg(0.5mmol)を加え、250℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。そして、エチルエーテルで洗いながら、ろ過した。次にエチルエーテルを減圧留去したのち、内部標準としてアニソールを加え、1H−NMRを測定した。
【0097】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が22%残存し、末端オレフィンが16%、内部オレフィンが11%存在していることが分かった。
【0098】
比較例2−5
ヨウ化カリウムを使用しないこと以外、実施例2−8と同様に行った。
【0099】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が2%残存し、オレフィンはまったくないことが分かった。
【0100】
実施例2−8及び比較例2−5の結果をまとめて表9に示す。
【0101】
【表9】

【0102】
実施例2−9
セプタム付きねじ口試験管に攪拌子を入れ、ステアリン酸142.2mg(0.5mmol)、イリジウム触媒[(Ph3P)2Ir(CO)Cl] 7.8mg(0.01mmol)、ヨウ化ナトリウム75.0mg(0.5mmol)を加え、250℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、室温(25℃)になるまで放置した。そして、エチルエーテルで洗いながら、ろ過した。次にエチルエーテルを減圧留去したのち、内部標準としてアニソールを加え、1H−NMRを測定した。
【0103】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が19%残存し、末端オレフィンはなく、内部オレフィンが81%存在していることが分かった。
【0104】
比較例2−6
ヨウ化ナトリウムを使用しないこと以外は実施例2−9と同様に行った。
【0105】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が32%残存し、末端オレフィンが3%、内部オレフィンが65%存在していることが分かった。
【0106】
実施例2−9及び比較例2−6の結果をまとめて表10に示す。
【0107】
【表10】

【0108】
実施例2−10
20mLナス型フラスコに攪拌子を入れ、ステアリン酸1.28g(4.5mmol)、ニッケル触媒[(Ph3P)2NiCl2] 58.8mg(0.09mmol)、トリフェニルホスフィン(Ph3P)47.2mg(0.18mmol)、ヨウ化カリウム1.49g(9mmol)を加え、250℃で3時間攪拌を行った。内部標準としてアニソールを加え、1H−NMRを測定した。
【0109】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が74%残存し、末端オレフィンが1%、内部オレフィンが11%存在していることが分かった。
【0110】
比較例2−7
ヨウ化カリウムを使用しないこと以外、実施例2−10と同様に行った。
【0111】
1H−NMRの測定結果より、原料ステアリン酸が87%残存し、末端オレフィンはなく、内部オレフィンが4%存在していることが分かった。
【0112】
実施例2−10及び比較例2−7の結果をまとめて表11に示す。
【0113】
【表11】

【0114】
製造例3−1
500mL反応容器にステアリン酸クロライド 154g(0.51mol)を加えた後、25℃にて攪拌しながらステアリン酸ナトリウム 153g(0.50mol)を30分かけ加えた。その後、90℃で、2時間攪拌した。反応混合物は、ろ過した後、石油エーテルを加え再結晶した。得られた結晶をろ過、洗浄、減圧乾燥し、ステアリン酸無水物 198g(0.36mol)を得た。
【0115】
製造例3−2
300mL反応容器にステアリン酸 142g(0.50mol)、無水酢酸 51g(0.50mol)を加え、120℃で27kPaにした後、系内の圧力を2時間かけ1.3kPaに低下させ、生成する酢酸を留去した。その後、さらに150℃(1.3kPa)で4時間反応させ、ステアリン酸無水物 137g(0.50mol)を得た。
【0116】
実施例3−1
50mLナス型フラスコに攪拌子と、製造例1で得られたステアリン酸無水物 12.4g(22.5mmol)、(Ph3P)2PdCl2 316mg(0.45mmol)、PPh3 236mg(0.90mmol)、ヨウ化カリウム 2.5g(15mmol)を加え、窒素置換した後、0.033MPaを維持しながら、160℃で攪拌を行った。3時間後、加熱をやめ、内部標準としてアニソールを加え、実施例1−1と同様に1H−NMR測定より、原料、生成物を定量した。
【0117】
ステアリン酸無水物の転化率68%、仕込みステアリン酸無水物に対して、末端オレフィンが収率24%、内部オレフィンが収率42%、ステアリン酸が収率68%で得られた。
【0118】
比較例3−1
ヨウ化カリウムを使用しないこと以外は実施例3−1と同様に行った。
【0119】
ステアリン酸無水物の転化率6%、仕込みステアリン酸無水物に対して、末端オレフィンが収率3%、ステアリン酸が収率5%で得られた。
【0120】
実施例3−2〜3−7
PPh3またはヨウ化カリウムの量を表12のように変えた以外は実施例3−1と同様に行った。
【0121】
実施例3−1〜3−7及び比較例3−1の結果をまとめて表12に示す。
【0122】
【表12】

【0123】
実施例3−8〜3−10及び比較例3−2
触媒の種類及び量、ヨウ化物の種類及び量を表13に示すように変え、PPh3を添加しなかった以外は実施例3−1と同様に行った。
【0124】
実施例3−8〜3−10及び比較例3−2の結果をまとめて表13に示す。
【0125】
【表13】

【0126】
実施例3−11〜3−16及び比較例3−3〜3−8
触媒の種類及び量、PPh3の量、ヨウ化カリウムの量、反応温度を表14に示すように変え、製造例3−2のステアリン酸無水物を用い、実施例3−1と同様に行った。
【0127】
実施例3−11〜3−16及び比較例3−3〜3−8の結果をまとめて表14に示す。
【0128】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物を触媒として用いる、β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体からのオレフィンの製造法。
【請求項2】
β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体が、β水素原子を有するカルボン酸またはその無水物、ハロゲン化物、エステルあるいはアミドである請求項1記載のオレフィンの製造法。
【請求項3】
β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体が、β水素原子を有するカルボン酸またはβ水素原子を有するカルボン酸無水物である請求項1又は2記載のオレフィンの製造法。
【請求項4】
第6族金属、第7族金属、第8族金属、第9族金属、第10族金属及び第11族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物が、第9族金属及び第10族金属からなる群から選ばれる一種以上の金属元素ならびにヨウ素元素を含む化合物である請求項1〜3の何れか1項に記載のオレフィンの製造法。
【請求項5】
第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素を含む触媒とヨウ化物の存在下、β水素原子を有するカルボン酸又はその誘導体の脱カルボニル反応を行う、オレフィンの製造法。
【請求項6】
β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体が、β水素原子を有するカルボン酸またはその無水物、ハロゲン化物、エステルあるいはアミドである請求項5記載のオレフィンの製造法。
【請求項7】
β水素原子を有するカルボン酸またはその誘導体が、β水素原子を有するカルボン酸またはβ水素原子を有するカルボン酸無水物である請求項5又は6記載のオレフィンの製造法。
【請求項8】
第8族金属、第9族金属、第10族金属及び銅から選ばれる元素が、第9族金属及び第10族金属から選ばれる元素である請求項5〜7の何れか1項に記載のオレフィンの製造法。
【請求項9】
ヨウ化物が、第1族元素〜第14族元素から選ばれる元素のヨウ化物、又は下記一般式(1)で示される4級アンモニウム化合物である請求項5〜8の何れか1項に記載のオレフィンの製造法。
[R−(Y)n4+- (1)
(ここで、Rは炭素数1〜22の炭化水素基を示し、Yは−Z−(CH2)m−で示される基を示し、Zはエーテル基、アミノ基、アミド基又はエステル基、mは1〜6の数を示し、nは0又は1を示し、複数個のR、Y及びnはそれぞれ同一でも異なっていても良い。また、[R−(Y)n]同士の間で環状構造を形成していてもよい。)

【公開番号】特開2010−168340(P2010−168340A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58970(P2009−58970)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】