説明

オレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法

【課題】副生した塩化水素を無駄にすることなく使用して生産工程に生かして、より効率的にオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造することができるオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】塩素を水に溶解することにより得られた次亜塩素酸を、オレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造する方法であって、前記次亜塩素酸の生成の際に副生する塩化水素を酸化オレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物を得ることを特徴とするオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素、水およびアルケンを反応させてオレフィンクロロヒドリンを製造する方法は従来から知られている(非特許文献1)。この反応は(1)塩素と水との反応による次亜塩素酸(HOCl)と塩化水素(HCl)との生成および(2)オレフィンと次亜塩素酸との反応によるオレフィンクロロヒドリンの生成で示される2段階で進行すると考えられている。
(1)の反応は平衡反応であるため、通常ある一定の割合に達すると進まないが、反応により生じた次亜塩素酸が(2)の反応によりオレフィンの二重結合に付加してオレフィンクロロヒドリンとなって消費されることにより、さらに(1)の平衡は右に傾き、塩素が水と反応する。
【0003】
しかし、(1)の反応で次亜塩素酸と同時に副生する塩化水素は消費されず、塩酸として系内に残るため、この反応はいずれ平衡に達し、塩素は水と反応しなくなる。その結果、塩素がそのままの形態で水に溶解し、溶解した塩素がオレフィンの二重結合に付加することによりオレフィンジクロライドが副生するという問題があった。
そのため、反応系中にアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等を加え、塩酸を中和することによりオレフィンジクロライドの副生を抑える方法が検討されてきた(特許文献1)。
しかし、このような方法では、副生した塩酸、それを中和するためのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等がオレフィンクロロヒドリンの製造には全く関係がないため、これら塩酸及びアルカリ金属塩等を、生産工程の中での単なる廃棄物として処理せざるを得ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 41, p1419(1919)
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−25037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、副生した塩化水素を消費することによりオレフィンクロロヒドリン系化合物の生成を促すことができるとともに、副生した塩化水素を無駄にすることなく使用して生産工程に生かして、より効率的にオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造することができるオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法は、塩素を水に溶解することにより得られた次亜塩素酸を、オレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造する方法であって、前記次亜塩素酸の生成の際に副生する塩化水素に酸化オレフィン系化合物を反応させ、オレフィンクロロヒドリン系化合物を得ることを特徴とする。
この方法では、前記オレフィン系化合物が、エチレン、プロピレン及びアリルクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記酸化オレフィン系化合物は、前記オレフィン系化合物の対応酸化物とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、副生した塩化水素を消費することによりオレフィンクロロヒドリン系化合物の生成を促すことができる。さらに、副生した塩化水素を無駄にすることなく使用して生産工程に生かして、より効率的にオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法では、
(1)塩素を水に溶解して次亜塩素酸を生成する工程、
(2)塩素を水に溶解して次亜塩素酸を生成する際に、副生成物として塩化水素を生成する工程、
(3)得られた次亜塩素酸をオレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物を生成する工程、
(4)得られた塩化水素を酸化オレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物を生成する工程を含む。
工程(2)においては、次亜塩素酸を生成する際に、塩化水素が副生するが、この塩化水素は、その場で速やかに水に溶解して塩酸となる(以下、本明細書中では、塩酸として解離した塩化水素を含めて塩化水素という)。
従って、本発明のオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法は、主として3種類の反応の一連工程によって構成される。
通常、工程(1)及び工程(2)と、工程(3)と、工程(4)とを、順次行う。
【0010】
工程(1)及び(2)
塩素は、通常、気体で供給される。例えば、水100gに対し、10〜50sccm程度の供給速度で供給することが適している。この場合の供給時間は特に限定されないが、塩素と水との反応が平衡に達すると塩素が溶解しなくなるため、塩素がそのままの形態で水に溶解することがあるため、これを回避するために、水100gに対して100分間程度以下の供給時間とすることが好ましい。
塩素と水との反応により生成させる次亜塩素酸の濃度は、特に限定されないが、濃度が高くなると安定性が悪くなるため、反応溶液において20wt%程度以下とすることが適している。
【0011】
工程(3)
次亜塩素酸と反応させるオレフィン系化合物は、分子中に二重結合を1つ有する不飽和炭化水素系化合物であり、当該分野で公知のいずれを使用してもよい。その炭素数は特に限定されるものではないが、例えば、8程度以下であることが適しており、2〜4程度が好ましい。オレフィン系化合物としては、例えば、オレフィン、オレフィンアルコール、オレフィンクロライド、オレフィンアルデヒド、オレフィンカルボン酸、オレフィンケトンなどが挙げられる。なかでも、好ましくは、オレフィン及びオレフィンクロライドなどが挙げられ、より好ましくは、エチレン、プロピレン、ブテン、エチレンクロライド、アリルクロライド、メチルアリルクロライドなどが挙げられ、さらに好ましくは、エチレン、プロピレン、アリルクロライドなどが挙げられる。
【0012】
このとき、オレフィン系化合物は、安全性の観点から、塩素と同時に供給してもよい。また、同様に、安全性の観点から、オレフィン系化合物は、塩素の供給量(又は供給速度)に対して同量(同速度)又はそれ以上であることが好ましい。
【0013】
工程(4)
副生成物としての塩化水素に反応させる酸化オレフィン系化合物は、上述したオレフィン系化合物の酸化物であればどのようなものを用いてもよいが、好ましくは、工程(3)で用いたオレフィン系化合物の酸化物である。従って、例えば、工程(3)においてオレフィン系化合物としてエチレンを用いる場合には、酸化エチレンを、工程(3)においてプロピレンを用いる場合には酸化プロピレンを、工程(3)においてアリルクロライドを用いる場合にはエピクロロヒドリンを用いることが好ましい。これにより、工程(3)及び(4)によって、同一種類のオレフィンクロロヒドリン系化合物を得ることができ、より高濃度のオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造することが可能となる。
【0014】
酸化オレフィン系化合物は、副生した塩化水素を分離せずに反応溶液中にそのまま供給してもよい。この場合、酸化オレフィン系化合物の供給は、上述したオレフィン系化合物の供給とともに行なうことが適している。
【0015】
なお、反応溶液中に存在する塩化水素の量が多すぎると、酸化オレフィン系化合物の供給により、オレフィンジクロライドが副生することがある。一方、反応溶液中に塩化水素の量が少なすぎると、酸化オレフィン系化合物の供給により、オレフィンジオールが副生することがある。従って、酸化オレフィン系化合物の供給時の反応溶液中の塩化水素の濃度を適宜調整するか、あるいは、反応系への酸化オレフィン系化合物の供給のタイミングを適宜調整することが好ましい。
酸化オレフィン系化合物は、塩化水素のmol濃度等によって、その供給量を設定することが適している。例えば、得られたオレフィンクロロヒドリン系化合物、塩化水素混合溶液において、1molのオレフィンクロロヒドリン系化合物と、塩化水素が1mol程度含まれている時、酸化オレフィン系化合物は合計1mol以下の供給量が適している。また、供給速度は、塩素の供給速度と同等程度(例えば、水100gに対して10〜50sccm程度)が適している。
【0016】
また、上述したように、オレフィンジクロライドが副生した場合には、反応系のpHを0.5〜6程度に、より好ましくはpH3〜5程度に維持する。一方、オレフィンジオールが副生した場合には、塩化水素を分離濃縮し、塩化水素量を調整することが好ましい。
【0017】
上述した(1)〜(4)の反応において、次亜塩素酸を生成する反応及び次亜塩素酸とオレフィン系化合物との反応は、室温でも十分に進行するため、特に加温の必要はないが、塩素と水との反応をより促進するためには、0℃〜室温程度の範囲が好ましい。
これらの反応は、従来の反応器を用いて行うことができる。例えば、バッチ式又は連続式の反応器等のいずれでも利用することができる。
【0018】
反応によって得られたオレフィンクロロヒドリン系化合物は、当該分野で公知の方法により分離・回収することができる。また、さらに精製してもよい。
分離・回収及び/又は精製方法は、当該分野で公知の方法により行うことができる。例えば、単蒸留、精密蒸留、共沸蒸留、膜分離、抽出等を単独で行なってもよいし、繰り返して行なってもよいし、2つ以上を組み合わせて行なってもよい。
抽出する場合、溶媒を大量に使用することを要するため、工業的には簡便な方法として単蒸留を行なうことが好ましい。
膜分離する場合には、塩化水素に強い膜を用いることが好ましい。
【0019】
通常、オレフィンクロロヒドリン系化合物の製造は、オレフィンジクロライドの副生成物を抑えるために、オレフィンクロロヒドリン系化合物5〜7.5重量%程度の溶液となるように反応が進められる。
しかし、本発明のように、次亜塩素酸の生成及び塩化水素の副生反応において、その反応系中の塩化水素を酸化オレフィン系化合物と反応させることによって、塩化水素を効果的に消費することができる。これにより、オレフィンジクロライドの副生を有効に抑制することができる。さらに、酸化オレフィン系化合物を用いることによって、塩素と水との平衡反応をより促すことができ、より高濃度のオレフィンクロロヒドリン系化合物溶液を得ることが可能となる。
【0020】
一方、この反応系から副生塩化水素を塩酸として分離した後、塩酸に含まれる塩化水素と、酸化オレフィン系化合物とを反応させる場合には、塩素と水との平衡反応ではないため、副生塩化水素の濃度に依存して反応を進めることができ、やはり、高濃度オレフィンクロロヒドリン系化合物溶液を得ることが可能となる。
【0021】
以下に、本発明のオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法を詳細に説明する。
まず、実施例に用いた反応装置及び測定方法を示す。
オレフィンクロロヒドリン系化合物の反応は、容量500mlのガラス製反応容器を用いて行った。塩素ガスを水中へ吹き込み、同時にオレフィン系化合物を注入することにより、オレフィンクロロヒドリン系化合物、塩化水素水溶液が得られる。塩化水素濃度がpH3程度になったときにこの水溶液に酸化オレフィン系化合物を吹き込み、オレフィンクロロヒドリンを得た。
【0022】
反応液は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、商品名GC−2010)、キャピラリーカラム(Agilent J&W社製、商品名DB−1、30m×0.25mm(内径)、膜厚1.0μm)水素炎イオン化検出器(FID)を用いて定量した。
各生成物(モル%)=各生成物量(mol)/総生成物量(mol)×100
【0023】
実施例1
ガラス製反応容器に水500mLを入れ、塩素(70sccm)及びエチレンガス(110sccm)を吹き込み、pH3を過ぎた時に酸化エチレンを70sccmの供給速度で3時間吹き込み、12.8wt%のエチレンクロロヒドリン水溶液を得た。
【0024】
比較例1
ガラス製反応容器に水500mLを入れ、塩素(70sccm)及びエチレンガス(110sccm)を3時間吹き込みエチレンクロロヒドリン7.0wt%を得た。
【0025】
実施例2
ガラス製反応容器に水500mLを入れ、塩素(70sccm)及びエチレンガス(110sccm)を吹き込み、エチレンクロロヒドリン7.4wt%、塩化水素3.8wt%の水溶液を得た。
その後、内圧を5kPaとなるように調整し、65℃で2時間、減圧単蒸留を行い、21wt%のエチレンクロロヒドリン溶液と7.3wt%の塩化水素溶液とに分離した。
続いて、この7.3wt%の塩化水素溶液に酸化エチレンを50sccmの供給速度で4時間吹き込み13.2wt%のエチレンクロロヒドリン水溶液を得た。
【0026】
実施例3
ガラス製反応容器に水500mLを入れ、塩素(70sccm)及びエチレンガス(110sccm)を吹き込み、エチレンクロロヒドリン7.3wt%、塩化水素3.6wt%の水溶液を得た。
その後、得られたエチレンクロロヒドリン溶液に酸化エチレンを50sccmの供給速度で2時間吹き込み9.8wt%のエチレンクロロヒドリン水溶液を得た。
【0027】
実施例4
ガラス製反応容器に水500mLを入れ、塩素35sccmの供給速度で吹き込みながら、アリルクロライド10.0gを90分間かけて滴下し、ジクロロプロパノール2.3wt%、塩化水素0.8wt%の水溶液を得た。
その後、得られたジクロロプロパノール水溶液にエピクロロヒドリン12.5gを1時間かけて滴下し、4.6wt%のジクロロプロパノール水溶液を得た。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、副生した塩化水素を無駄にすることなく使用して生産工程に生かして、より効率的にオレフィンクロロヒドリン系化合物を製造することができるオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を水に溶解して次亜塩素酸を得るとともに、塩化水素を副生成物として得る工程、
前記次亜塩素酸を、オレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物得る工程、
前記塩化水素を、酸化オレフィン系化合物と反応させてオレフィンクロロヒドリン系化合物を得る工程を含むことを特徴とするオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法。
【請求項2】
前記オレフィン系化合物が、エチレン、プロピレン及びアリルクロライドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法。
【請求項3】
前記酸化オレフィン系化合物は、前記オレフィン系化合物の対応酸化物である請求項2に記載のオレフィンクロロヒドリン系化合物の製造方法。

【公開番号】特開2013−14527(P2013−14527A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147134(P2011−147134)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】