説明

オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の製造方法

【課題】貯蔵安定性、塗工性、作業性に優れ、作成される塗膜の耐水性、透明性、密着性に優れる、エマルジョンまたは重合体粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィン性不飽和結合を有する化合物を乳化剤の存在下に水溶媒中に分散させ、かつ3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で乳化重合を行ってエマルジョンを製造する方法、またはオレフィン性不飽和結合を有する化合物を分散剤の存在下に水溶媒中に分散させ、かつ3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で懸濁重合を行い、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子状生成物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の製造方法に関する。詳細には、本発明は3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で、オレフィン性不飽和結合を有する化合物を乳化重合することによるエマルジョンの製造方法およびオレフィン性不飽和結合を有する化合物を懸濁重合することによる重合体粒子の製造方法に関する。本発明の製造方法で得られるエマルジョンまたは重合体粒子は、粘着剤・接着剤、塗料、トナー、樹脂表面の改質剤等の用途として有用である。
【背景技術】
【0002】
オレフィン性不飽和結合を有する化合物を乳化重合して得られるエマルジョン、または懸濁重合して得られる重合体粒子は、粘着剤、接着剤、塗料、トナー、樹脂表面の改質剤などとして広く利用されている。粘着剤、接着剤、塗料等の用途では、従来は有機溶剤に溶解させた溶液型樹脂組成物が多く用いられてきた。しかし、近年、安全性や衛生性の面から、有機溶剤を用いない、水系エマルジョンなどの水系樹脂組成物への代替検討が活発に進められている。水系エマルジョンは、通常、オレフィン性不飽和結合を有する化合物を水中に分散させて乳化重合させることで得られる。かかる水系エマルジョンを製造する際の重合安定性や、得られた水系エマルジョンの貯蔵安定性、および塗膜にした場合の平滑性や透明性を保持するために、製造時に乳化剤を添加することが知られている(特許文献1、2、3および非特許文献1参照)。
一方、トナー、樹脂表面の改質剤、粘着剤などの用途では、オレフィン性不飽和結合を有する化合物を懸濁重合して得られる重合体粒子が利用される。懸濁重合は、通常、オレフィン性不飽和結合を有する化合物を水中に分散させて重合させ、その後沈降操作やろ過操作などによって重合体粒子を得ることができる。この懸濁重合の際に、重合体粒子同士の凝集抑制や粒子の粒度分布を小さくするために、水系高分子などの分散剤を添加することが知られている(特許文献4および5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−73803号公報
【特許文献2】特開平7−3233号公報
【特許文献3】特開2007−297417号公報
【特許文献4】特開58−23801号公報
【特許文献5】特開63−112602号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】実験化学講座第5版、26巻、39ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記乳化剤および分散剤は、水系エマルジョンや重合体粒子から得られる塗膜や成膜した接着剤、粘着剤、微粒子中に残存し、耐水性や外観を損なうという問題点を有している。例えば、塗料用途での塗工性や塗膜の透明性、粘着剤用途での基材に対する密着性を向上させるために粒子を微細化することがあるが、その場合、多量の乳化剤・分散剤が必要となり、これらの問題点が顕著になる場合がある。その上、水系エマルジョンは、水の凝固点以下では該エマルジョンが凍結してしまい、有機溶剤を用いる溶液型樹脂組成物に比べて、特に冬季や寒冷地での作業性が低下するという問題があった。
しかして、本発明の目的は、上記の問題を解決しうる、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の目的は、
[1]オレフィン性不飽和結合を有する化合物を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で重合させることを特徴とする、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の製造方法;
[2]オレフィン性不飽和結合を有する化合物を乳化剤の存在下に水溶媒中に分散させ、かつ3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で乳化重合を行い、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体のエマルジョンを製造することを特徴とする、[1]の製造方法;
[3]オレフィン性不飽和結合を有する化合物を分散剤の存在下に水溶媒中に分散させ、かつ3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で懸濁重合を行い、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子状生成物を製造することを特徴とする、[1]の製造方法;
[4]オレフィン性不飽和結合を有する化合物および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの混合液を、またはオレフィン性不飽和結合を有する化合物および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールをそれぞれ独立して同時に水を含む反応系へ添加することを特徴とする、[2]または[3]の製造方法;
[5]ラジカル重合開始剤の存在下に重合を行うことを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかの製造方法;
[6]オレフィン性不飽和結合を有する化合物が(メタ)アクリル酸エステル、または(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体である、[1]〜[5]のいずれかの製造方法;
[7][2]の製造方法で得られる、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体のエマルジョン;
[8][7]のエマルジョンを用いて得られる粘着剤;
[9][7]のエマルジョンを用いて得られる塗料;
[10][3]の製造方法で得られる、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子;
[11][10]の重合体の粒子を含有する樹脂表面改質剤;
[12][10]の重合体の粒子を含有する塗料;および
[13][10]の重合体の粒子を含有するトナー;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法、好適には乳化重合により得られるエマルジョン、または懸濁重合により得られる重合体粒子は、得られる重合体粒子が微細化され、しかも粒子同士の凝集が少なく、粒度分布が狭い。そのため、かかるエマルジョンまたは重合体粒子を用いて得られる塗膜は耐水性、透明性および密着性などに優れ、粘着剤、接着剤、塗料、トナー、樹脂表面の改質剤などの分野で好適に使用できる。また、凝固点の低いエマルジョンが得られるため、冬季や寒冷地での作業性が向上するほか、塗工性、貯蔵安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のエマルジョンのSEM画像(2000倍)である。
【図2】実施例1のエマルジョンのSEM画像(10000倍)である。
【図3】実施例2のエマルジョンのSEM画像(2000倍)である。
【図4】実施例2のエマルジョンのSEM画像(10000倍)である。
【図5】比較例1のエマルジョンのSEM画像(2000倍)である。
【図6】比較例1のエマルジョンのSEM画像(10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法では、オレフィン性不飽和結合を有する化合物を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で重合させることが最大の特徴である。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、各種洗浄剤、クリーナー、塗料などの様々な用途に使用されており、以下のような性質を有する。
(1)無色透明の液体で、低臭である。
(2)両親媒性を有し水と任意の組成で相溶するため、界面活性助剤としての性能を有する。
(3)水の凝固点を下げる働きを有する。
(4)水と共沸を形成するために、水と一緒に揮発する。
(5)毒性が低く、生分解性を有する。
なお、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは市販されており、株式会社クラレの商品名「ソルフィット」が挙げられる。
【0010】
上記の性質を有する3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下でオレフィン性不飽和結合を有する化合物を重合させる、好ましくは乳化重合または懸濁重合を行うと、乳化剤または分散剤の使用量を低減しても、得られるエマルジョンにおける重合体粒子径または懸濁重合で得られる重合体粒子の粒子径が微細化され、かつ粒子同士の凝集が抑えられるため、重合安定性、貯蔵安定性、塗工性、透明性に優れたエマルジョンまたは重合体粒子が得られる。また、本発明の製造方法を適用すると、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが存在することに起因して、得られるエマルジョンの凝固点を下げることができる。このため、特に冬季や寒冷地での作業性に優れるエマルジョンを得ることができる。さらに、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、エマルジョンを乾燥させて塗膜を形成させる際に水と一緒に揮発し、塗膜には残留しないため、塗膜の耐水性に影響を与えないという利点も有する。
なお、本発明の実施態様として、以下、特に乳化重合によるエマルジョンの製造方法、および懸濁重合による重合体粒子の製造方法について具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではなく、例えば3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを溶剤の少なくとも一成分として使用して溶液重合を行うことでオレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体を得る製造方法も、本発明の範囲であることは言うまでもない。
【0011】
本発明の製造方法に用いることのできるオレフィン性不飽和結合を有する化合物としては、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル化合物;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン化合物;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの好ましくは炭素数20以下のα−オレフィン化合物;イソブチレン、β−ピネン、8,9−p−メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2−メチレンテトラヒドロフランなどのオレフィン性化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノブチル、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸またはその無水物;アクリル酸の金属塩、メタクリル酸の金属塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸n−テトラデシル、(メタ)アクリル酸n−ペンタデシル、(メタ)アクリル酸n−ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸n−オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの好ましくは炭素数1〜20の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリメチルシリル、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルなどの官能基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香族基を含有する(メタ)アクリル酸エステル;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリオール(例えばグリセロールなど)の(メタ)アクリル酸エステルおよびテトロール(例えばペンタエリトリトールなど)などの二つ以上の(メタ)アクリレートを有する多官能性の(メタ)アクリレート;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸N−メチロールアミドなどの(メタ)アクリルアミド;N−ビニルピロリドン;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの(メタ)アクリロニトリル;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、p−メトキシスチレン、モノフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、インデン、ジフェニルエチレンなどのビニル芳香族化合物;ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、ピペリレン、1,3−オクタジエンなどの共役ジエン化合物;N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランなどのビニルシラン化合物;N−ビニルカルバゾール;メチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル化合物;3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−ブテン−1−オール、メタリルアルコール、アリルアルコール、オクタ−2,7−ジエニルアルコールなどの、好ましくは炭素数20以下の、水酸基などの官能基を含有するα−オレフィン化合物;などが挙げられる。これらのオレフィン性不飽和結合を有する化合物は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0012】
上記オレフィン性不飽和結合を有する化合物を用いて重合を行って得られる重合体の例としては、例えばポリ塩化ビニル系樹脂(塩化ビニルとビニルエーテル類、アクリロニトリル、マレイミド類などの塩化ビニルとの共重合体も包含する);ポリ酢酸ビニル系樹脂;アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、無水マレイン酸−スチレン樹脂などのスチレン系樹脂;(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体などのアクリル系樹脂;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
上記オレフィン性不飽和結合を有する化合物の使用量は、重合反応を行う際の反応混合物全体の質量に対して、通常、20〜70質量%の範囲であることが好ましく、30〜60質量%の範囲であることがより好ましい。70質量%より高い場合には、重合反応混合液の粘度が増大してエマルジョンの製造が困難となる場合があり、20質量%より低い場合には、塗料や接着剤、粘着剤としてエマルジョンを使用した際に、本発明の効果が十分に奏されない場合がある。
【0014】
また、本発明の製造方法では、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリンなどのメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等の連鎖移動能を有する化合物を分子量調整剤として添加してもよい。
【0015】
本発明の製造方法では、重合安定性や得られるエマルジョンの貯蔵安定性、および重合体粒子の凝集抑制、また前記エマルジョンや重合体粒子を用いて塗膜を作成した際の塗膜の平滑性、透明性を保持する観点から、乳化剤および分散剤を用いる。通常、乳化重合を行う際には乳化剤、懸濁重合を行う際には分散剤を使用するが、本発明の製造方法においてはその限りではなく、例えば、乳化重合を行う際に乳化剤に加えて分散剤を併用してもよいし、懸濁重合を行う際に分散剤に加えて乳化剤を併用してもよい。
【0016】
本発明の製造方法、好適には乳化重合によってエマルジョンを製造する方法で用いることのできる乳化剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル(市販品:例えば花王社製エマルゲン120、エマルゲン150、エマルゲン1108S、など)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、オキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体、ポリグリセリンエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(市販品:例えば花王社製ラテムルE−150、ラテムルE−118B、など)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、アルキル硫酸アンモニウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩又は脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸アミン、アルキルトリメチルアンモニウムクロリドなどのイオン系乳化剤が挙げられる。また、アリルオキシポリオキシエチレンスルホン酸塩(市販品:例えば旭電化工業社製アデカリアソープSR−10、SR−20、SR1025、など)、アリルオキシポリオキシエチレン、(メタ)アクリロキシポリオキシエチレン、アルキルコハク酸アルケニルエーテル塩(市販品:例えば花王社製ラテムルS−180A、S−180、など)なども用いることができる。これらは1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
また、本発明の製造方法、好適には懸濁重合により重合体粒子を製造する際に用いることのできる分散剤としては、例えばポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸カリウムなどのポリアクリル酸塩を含む中和ポリカルボン酸類;ポリアクリルアミドなどのアクリルアミド類;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、第四級化アミン置換セルロース誘導体などのセルロース誘導体; ポリビニルアルコール類;無水マレイン酸−スチレン共重合体;無水マレイン酸−メチルビニルエーテル共重合体;ゼラチンなどを挙げることができる。これらの分散剤は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明の製造方法において、乳化剤または分散剤の使用量に厳密な意味での制限はないが、オレフィン性不飽和結合を有する化合物、水および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの合計質量に対して、通常、0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%である。乳化剤または分散剤の添加量が0.01質量%よりも少ないと、重合安定性や貯蔵安定性が不充分となり、得られるエマルジョン中に分散している重合体粒子の凝集が起こったり分離沈降したりする傾向にある。一方、5質量%よりも多いと、得られるエマルジョンから作成した塗膜などの耐水性や外観が損なわれる傾向となる。
【0019】
本発明の製造方法においては、重合反応としてラジカル重合反応を採用し、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を行うことが好ましい。本発明の製造方法に用いることのできるラジカル重合開始剤としては、例えばt−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキシドなどのヒドロパーオキシド化合物;ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチル−α−クミルパーオキシド、ジ−α−クミルパーオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−ヘキシン−3などのジアルキルパーオキシド化合物;アセチルパーオキシド、コハク酸パーオキシド、ジイソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシドなどのアシルパーオキシド;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−イソブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの過酸化エステル;メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシドなどのケトンパーオキシド;などの有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル=2,2’−アゾビスイソブチレート、アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルアミドオキシム)二塩酸塩等のアゾ系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤の組み合わせで用いられる各種レドックス系開始剤などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種類を単独で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合反応に用いるオレフィン性不飽和結合を有する化合物の種類および量(2種以上を共重合させる場合にはそれらの種類および合計使用量)、連鎖移動剤、重合温度などの重合条件に応じて適宜選択できるが、重合反応に用いるオレフィン性不飽和結合を有する化合物の全質量に対して、通常、好ましくは0.03〜5質量%の範囲であり、より好ましくは0.05〜3質量%の範囲である。0.03質量%よりも少ないと、重合反応の進行が不充分となる場合があり、一方、5質量%よりも多い場合には、得られるエマルジョンまたは重合体粒子の安定性が低下する傾向となる。
【0021】
本発明の製造方法において、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの使用量は、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の合計質量に対して0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、1〜20質量%の範囲であることがより好ましい。0.1質量%よりも少ないと、本発明の効果が得られない。また、30質量%よりも多いと、重合反応の際の重合体の安定性、および得られるエマルジョンまたは重合体粒子の安定性が損なわれる。
【0022】
本発明の製造方法の具体的な実施形態に特に制限はない。例えば乳化重合によりエマルジョンを製造する場合には、乳化剤および水、さらに必要に応じて分散剤とを混合した溶液を所定温度とし、この溶液に、オレフィン性不飽和結合を有する化合物、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールおよびラジカル重合開始剤の混合物を一括添加または逐次添加して重合させる方法;オレフィン性不飽和結合を有する化合物、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、乳化剤および水を予め分散装置等を用いて乳化分散させて分散液(プレエマルジョン)を調製し、該分散液およびラジカル重合開始剤を水中に連続的に添加して重合する方法などが挙げられる。一方、懸濁重合により重合体粒子を製造する場合には、分散剤および水、さらに必要に応じて乳化剤とを混合した溶液を所定温度とし、この溶液に、オレフィン性不飽和結合を有する化合物、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールおよびラジカル重合開始剤の混合物を一括添加または逐次添加し、撹拌機や分散装置によってオレフィン性不飽和結合を有する化合物を水中に分散させながら重合させる方法などが挙げられる。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、オレフィン性不飽和結合を有する化合物を乳化分散させるとき、または懸濁重合において攪拌機や分散装置を用いて水中に分散させるときに存在していることが、得られる重合体粒子の微細化や凝集抑制等の効果を得る観点から重要である。
なお、分散装置としては、高速回転式ホモジナイザー、高圧式ホモジナイザー、超音波式ホモジナイザー、アルティマイザー、ナノマイザー等の公知の装置を使用できる。
【0023】
また、懸濁重合を行う際、重合条件を調節することにより重合体粒子の平均粒子径を調整することができる。重合条件とは一般に、攪拌速度、リアクターの容積、邪魔板、攪拌翼の形状や枚数等をいい、これらを適宜選択することにより所望の平均粒子径を有する微粒子を得ることができる(「懸濁重合におけるポリマー粒子径制御」田中正人著、株式会社アイピーシーより平成5年6月20日発行)。
【0024】
本発明の製造方法、好適には乳化重合または懸濁重合を行う際の反応温度は0〜100℃の範囲であることが、分散溶媒として水を用いる観点から好ましく、50〜90℃の範囲であることがより好ましい。反応時間については、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の種類および使用量、乳化剤または分散剤の使用量、水および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの使用量、反応温度、攪拌の強さなどの諸条件によっても異なり、適宜設定することができる。例えば、重合反応を行う際に、ガスクロマトグラフィーなどでオレフィン性不飽和結合を有する化合物の残存量を測定し、反応溶液中にオレフィン性不飽和結合を有する化合物が残存しなくなった時間をもって重合反応の終点としてもよく、さらに重合反応を続けてもよい。
【0025】
本発明の製造方法で得られる重合体、好適には乳化重合または懸濁重合で得られる重合体は、通常、微粒子である。乳化重合の場合においては、得られるエマルジョン中に分散している重合体の粒子径は、好ましくは0.001〜10μmの範囲であり、より好ましくは0.01〜1μmの範囲である。エマルジョン中に分散している重合体の粒子径が0.001μmより小さいか、または10μmより大きい場合には、エマルジョンの貯蔵安定性が低下する傾向となる。一方、懸濁重合の場合においては、得られる重合体粒子の粒子径は、好ましくは0.01μm〜100μmの範囲であり、より好ましくは0.1μm〜50μmの範囲である。得られる重合体粒子の粒子径が0.01μmより小さいか、または100μmよりも大きい場合には、重合時の安定性が低く、粒子同士の凝集が起こりやすくなる傾向となる。
なお、粒子径の測定は、レーザー回折法、動的光散乱法等の公知の方法を用いることができるほか、走査型電子顕微鏡(SEM)により粒子を直接観察して測定することもできる。
【0026】
本発明の製造方法において、乳化重合により得られるエマルジョンの粘度は、通常、10mPa・s〜100Pa・sの範囲であることが好ましく、50mPa・s〜10Pa・sの範囲であることがより好ましい。10mPa・sより低い場合は、エマルジョンの貯蔵安定性が低下する傾向となり、100Pa・sより高い場合は、作業性が損なわれる傾向となる。なお、エマルジョンの粘度の測定方法としては、例えばブルックフィールド型粘度計を好ましく使用できる。
【0027】
本発明の製造方法で得られる重合体、好適にはエマルジョンまたは重合体粒子は、塗料や粘着剤、接着剤、トナー、樹脂表面の改質剤、光散乱剤、化粧品原料などとして好適に使用することができる。また、用途に応じて、造膜助剤、可塑剤、顔料、増粘剤、消泡剤、pH調整剤、レベリング剤、粘着付与樹脂等の添加剤を配合してもよい。
【0028】
ここで、粘着付与樹脂としては、従来より粘着性を付与する樹脂として使用されているものを特に制限なく用いることができる。例えばガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、これらのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル等のロジンエステルなどのロジン系樹脂;α−ピネン、β−ピネン、ジペンテンなどを主体とするテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂などテルペン系樹脂;(水添)脂肪族系(C5系)石油樹脂、(水添)芳香族系(C9系)石油樹脂、(水添)共重合系(C5/C9系)石油樹脂、(水添)ジシクロペンタジエン系石油樹脂、脂環式飽和炭化水素樹脂などの水素添加されていてもよい石油樹脂、ポリαメチルスチレン、αメチルスチレン/スチレン共重合体、スチレン系モノマー/脂肪族系モノマー共重合体、スチレン系モノマー/αメチルスチレン/脂肪族系モノマー共重合体、スチレン系モノマー共重合体、スチレン系モノマー/スチレン系モノマー以外の芳香族系モノマー共重合体などのスチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂、クマロン−インデン系樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。粘着付与樹脂を含有させる場合、その量はオレフィン性不飽和結合を有する化合物100質量部に対して100質量部以下であるのが好ましく、耐熱性の観点からは80質量部以下であることがより好ましい。かかる粘着付与樹脂の配合方法としては、例えばエマルジョン型の粘着付与樹脂を乳化重合中または乳化重合後に配合する方法、固形タイプの粘着付与樹脂を溶解させて乳化重合または懸濁重合を行う方法が挙げられる。3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールは、これら粘着付与樹脂の溶解性を高める効果も有する。なお、粘着付与樹脂の軟化点については、耐熱性の観点から、50℃〜150℃のものが好ましく、100℃〜150℃がより好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例(以下、実施例等と称する)により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例等に限定されるものではない。なお、実施例等で得られたエマルジョンの評価は、以下の方法により行った。
【0030】
(1)固形分濃度
実施例等で得られたエマルジョンを約1g計り取り、120℃の乾燥機内に3時間放置した後の残分の重量から固形分濃度を算出した(式1)。
固形分濃度(質量%)=(乾燥後のエマルジョン質量)/(乾燥前のエマルジョン質量)×100 (式1)
(2)粘度
実施例等で得られたエマルジョン200gを30℃で5時間放置した後、ブルックフィールド粘度計により回転数20rpmでの粘度を測定した。
(3)粒子観察(クライオ−SEM)
実施例等で得られたエマルジョンを液体窒素によって瞬間凍結し、得られた固体の一辺を破断することで破断面を作成し、続いて白金蒸着処理することによってSEM観察用試料を作成した。試料を−130℃に保持したまま、FEI社製FBI−SEM装置Helios NanoLab 600を用い、加速電圧1kV、倍率2000倍および10000倍でエマルジョンの観察を行った。
(4)粒子径
(3)で得られたSEM画像から、エマルジョンを構成する重合体の粒子径を求めた。
(5)放置安定性
実施例等で得られたエマルジョンを25℃で1ヶ月間放置し、固形分の分離沈降の状態を目視にて観察した。
(6)エマルジョン塗膜の耐水性
実施例等で得られたエマルジョンを用いて、乾燥後の厚みが500μmとなるようにエマルジョンを型に流し込み、23℃で1週間放置してキャスト製膜した。得られた塗膜を1cm×1cmの大きさに切り分けて質量aを測定後、20℃の水に24時間浸漬させた。その後、塗膜を水から取り出して水を軽くふき取った塗膜の質量bを測定し、105℃の恒温槽に5時間放置して、質量cを測定した。得られた質量a〜cから塗膜の吸水率と溶出率を測定した(式2および式3)。
吸水率(%)=(質量b−質量a)/質量a×100 (式2)
溶出率(%)=(質量a−質量c)/質量a×100 (式3)
(7)エマルジョン塗膜の融点
上記(6)で得られた膜を試料とし、示差走査熱量計(セイコーインスツル製DSC「EXSTAR DSC6200」)を用いて−100℃から10℃/分で昇温した際の吸熱ピーク温度を融点とした。
【0031】
<実施例1>
(1)オレフィン性不飽和結合を有する化合物としてアクリル酸2−エチルヘキシル120g、アクリル酸n−ブチル120gおよびアクリル酸10g、分子量調整剤として1−ドデカンチオール2.5g、乳化剤としてエマルゲン118S−70(花王社製;有効成分70%)2.5gおよびラテムルE−118B(花王社製;有効成分26%)2.9g、溶媒としてイオン交換水78.1gおよび3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(株式会社クラレ製:商品名「ソルフィット」)25g(オレフィン性不飽和結合を有する化合物全量に対して10質量%)を容量500mLの容器に入れ、30分間窒素バブリングした後、窒素気流下で高速回転式ホモジナイザーを用いて7000rpmで30分間撹拌し、プレエマルジョンを調製した。
(2)攪拌装置、還流冷却器、温度計、滴下漏斗、定量ポンプ、窒素吹き込み口を備えた容量1Lの容器にイオン交換水137.9gを入れ、窒素気流下、撹拌400rpmで80℃まで加熱した。内温を80℃に保ちながら、(1)で調製したプレエマルジョンの10質量%を一括添加し、その5分後に10%過硫酸アンモニウム水溶液0.5gを一括添加し、重合を開始した。反応混合液を80℃で30分間攪拌後に、残りのプレエマルジョンを滴下漏斗により、10%過硫酸アンモニウム水溶液4.5gを定量ポンプにより、それぞれ2時間かけて連続的に添加した。添加終了後、さらに10%過硫酸アンモニウム水溶液0.5gを一括添加し、80℃で30分撹拌した。その後、反応混合物を40℃まで冷却し、25%アンモニア水溶液でpHを7.5〜8.5に調整することでエマルジョンを得た。エマルジョンの評価結果を表1に示す。SEM画像を図1(倍率2000倍)および図2(倍率10000倍)に示す。
【0032】
<実施例2>
実施例1において、プレエマルジョン調製時のイオン交換水78.1gの使用量を90.6gに、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを12.5g(オレフィン性不飽和結合を有する化合物単量体全量に対して5質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、エマルジョンを得た。エマルジョンの評価結果を表1に示す。SEM画像を図3(倍率2000倍)および図4(倍率10000倍)に示す。
【0033】
<比較例1>
実施例1において、プレエマルジョン調製時のイオン交換水78.1gの使用量を103.1gに、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い、エマルジョンを得た。エマルジョンの評価結果を表1に示す。SEM画像を図5(倍率2000倍)および図6(倍率10000倍)に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例1および2で得られたエマルジョンは、図1〜4に示すように粒子の凝集がほとんど見られず、粒子径も小さくかつ粒子径の分布幅も小さい。一方、比較例1で得られたエマルジョンは、図5、6に示すように粒子の凝集がみられ、粒子径が実施例1および2に比べてやや大きくかつ粒子径の分布幅が大きい。
また、エマルジョンの安定性に関し、実施例1および2で得られたエマルジョンは25℃で1ヶ月放置しても固形分の分離沈降は観察されず安定であるのに対し、比較例1で得られたエマルジョンでは固形分の分離沈降が観察された。この結果より、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下に重合を行ってエマルジョンを製造することにより、安定性の高いエマルジョンが得られることがわかる。
さらに、実施例1および2で得られたエマルジョンから作成した塗膜は、表1に示すように比較例1で得られたエマルジョンから作成した塗膜と比べて融点が低下する。このことから、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下に重合を行ってエマルジョンを製造することにより、冬季や寒冷地での作業性に優れたエマルジョンが得られることがわかる。
一方、塗膜の耐水性について実施例1および2と比較例1は同等であり、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下に重合を行っても、得られるエマルジョンおよびエマルジョンを用いて得られる塗膜の耐水性には影響を与えないこともわかる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法で得られるエマルジョンまたは重合体粒子は貯蔵安定性、塗工性、冬季や寒冷地での作業性に優れ、作成される塗膜の耐水性、透明性、密着性に優れる。従って、粘着剤、接着剤、塗料、トナー、樹脂の表面改質剤等の用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン性不飽和結合を有する化合物を3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で重合させることを特徴とする、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の製造方法。
【請求項2】
オレフィン性不飽和結合を有する化合物を乳化剤の存在下に水溶媒中に分散させ、かつ3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で乳化重合を行い、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体のエマルジョンを製造することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
オレフィン性不飽和結合を有する化合物を分散剤の存在下に水溶媒中に分散させ、かつ3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの存在下で懸濁重合を行い、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子状生成物を製造することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
オレフィン性不飽和結合を有する化合物および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの混合液を、またはオレフィン性不飽和結合を有する化合物および3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールをそれぞれ独立して同時に水を含む反応系へ添加することを特徴とする、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
ラジカル重合開始剤の存在下に重合を行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
オレフィン性不飽和結合を有する化合物が(メタ)アクリル酸エステル、または(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の製造方法で得られる、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体のエマルジョン。
【請求項8】
請求項7記載のオレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体のエマルジョンを用いて得られる粘着剤。
【請求項9】
請求項7記載のオレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体のエマルジョンを用いて得られる塗料。
【請求項10】
請求項3に記載の製造方法で得られる、オレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子。
【請求項11】
請求項10記載のオレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子を含有する樹脂表面改質剤。
【請求項12】
請求項10記載のオレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子を含有する塗料。
【請求項13】
請求項10記載のオレフィン性不飽和結合を有する化合物の重合体の粒子を含有するトナー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−108071(P2013−108071A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−236413(P2012−236413)
【出願日】平成24年10月26日(2012.10.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】