説明

オレフィン系樹脂成形品

【課題】 本発明の課題は、スルホン化処理をしても変色のない耐久性のある親水性を有するオレフィン系樹脂成形品にある。
【解決手段】 本発明は、オレフィン系樹脂成形品をスルホン化処理するに際して、前記スルホン化前のオレフィン系樹脂成形品が物理的親水化表面処理を実施したものであり、前記成形品表面の物理的表面処理状態が該成形品表面をX線光電子分光分析装置で測定した際の前記表面処理後の酸素原子数%の値(O1)と前記表面処理前の酸素原子数%の値(O0)との比(O1/O0)を、1.5〜7.0としたものを使用することを特徴とする親水性オレフィン系樹脂成形品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン化処理をしても変色のない耐久性のある親水性を有するオレフィン系樹脂成形品に関し、詳しくはスルホン化処理しても変色のない親水性ポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂のフィルム、シート等の押出成形品、射出成形品あるいはプレス成形品等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に樹脂成形品表面が親水化されると、付着水滴が基材表面に一様に拡がるようになるので、透明性が必要なフィルム、シート等の曇りを有効に防止でき、微小な水滴による結露を防止でき、流水が水滴状に付着するのを防止でき、雨天時の視界性確保や、シャワ−がかかることによる浴室鏡の視界喪失防止等に役立つ。
【0003】
また、親水性を付与することにより、都市煤塵、自動車等の排気ガスに含有されるカ−ボンブラック等の燃焼生成物、油脂、シ−ラント溶出成分等の疎水性汚染物質が付着しにくく、付着しても降雨、水洗あるいは水拭等により簡単に落せるようになる。また成形品表面を親水化し、濡れ性を向上させることにより、成形品の塗装密着性、接着性、メッキ特性、帯電防止性の向上などが期待される。さらに近年ES細胞やIPS細胞の開発に伴い、医療分野では移植用の細胞培養の研究が盛んである。これら細胞培養に使用させる容器には培養された細胞を簡便に採取するために、容器が親水性を持つことが必要である。また、人工透析等の血液浄化装置などの血液と直接接触する部品には、血液の凝固を防ぐために親水化が必要とされている。
【0004】
樹脂成形品の表面を親水性にする方法としては、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理などの物理的表面処理があり、化学的表面処理方法としては硫酸、硝酸、液状の発煙硫酸やガス状の三酸化硫黄等を用いた化学的表面処理(特許文献1)、あるいは親水性基を有する重合性化合物を電子線、紫外線、プラズマ等の活性エネルギー線を使用して樹脂成形品表面に親水性基含有重合体層を形成させる方法(特許文献2)、界面活性剤や親水性物質の練り込み法、成形材料として親水基を有するポリマーの使用、親水性ポリマーあるいは光触媒によるコーティングなどが行われている。
【0005】
しかしながら、物理的表面処理法では、親水化の程度が劣り、また持続性が無く、親水化効果は1週間程度でその効果は失効する場合が多かった。化学的表面処理法では、素材の限定や、施工法の限定など制約が多かった。また、練り込み法では、界面活性剤等の親水性物質が表面にブリードアウトし易く等の理由で耐久性に劣る上、高い親水性を付与するために親水基を多く混合する必要があり、吸湿による寸法変化、湿潤状態での強度低下、湿潤状態での基材との脱離といった問題が生じていた。親水性樹脂を成形品に塗布する方法もあるが、均一に薄膜状のコーティング技術が必要となり、技術的に複雑な工程を加えなければならず、実用上問題があった。また、コーティング膜の剥離が生じ易く、かつコーティング面が摩滅して効果が失われ易いなど耐久性上問題があった。
【0006】
化学的親水化処理方法において、ガス状の三酸化硫黄により親水化する化学的表面処理方法は非常に優れた親水性を示しかつ耐久性も優れているのにも拘わらず、前述した樹脂成形品に対して使用する場合、三酸化硫黄の強力な酸化作用により、樹脂表面の分子が切断され、低分子化が起こる場合が多く、成形品耐久性が無く実用上問題があった。
特にオレフィン系樹脂に適用する場合、特許文献3の実施例に見られるように、茶色に変色し易く、外観部品として使用することが困難であった。また、オレフィン系樹脂はスルホン酸基が結合し難く、有効な親水性を得るまで親水化するには、表面が褐色に変色する程度まで三酸化硫黄ガスあるいは濃硫酸等の強酸成分に接触させる必要があった。従ってオレフィン系樹脂に三酸化硫黄ガスを使用した変色の少ない、有効な親水化方法は確立されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−179712
【特許文献2】特開2007−56128
【特許文献3】特許第2904856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、スルホン化処理をしても変色のない耐久性のある親水性を有するオレフィン系樹脂成形品にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題について鋭意研究した結果、オレフィン系樹脂成形品をスルホン化処理するに際して、そのオレフィン系樹脂成形品表面の酸素原子数%が物理的親水化処理の前後で特定の比率範囲の値になるように該成形品表面を物理的親水性表面処理し、スルホン化処理すれば、スルホン化処理をしても変色のない耐久性のある親水性を有するオレフィン樹脂成形品を得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、オレフィン系樹脂成形品をスルホン化処理するに際して、前記スルホン化前のオレフィン系樹脂成形品が物理的親水化表面処理を実施したものであり、前記成形品表面の物理的表面処理状態が該成形品表面をX線光電子分光分析装置で測定した際の前記表面処理後の酸素原子数%の値(O1)と前記表面処理前の酸素原子数%の値(O0)との比(O1/O0)を、1.5〜7.0としたものを使用することを特徴とする親水性オレフィン系樹脂成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、オレフィン系樹脂成形品をスルホン化する前に物理的親水化表面処理を実施することにより特定の表面状態とすることで、接触角が小さく耐久性のある親水性を有し、スルホン化処理をしても変色のない或いは表面変色が著しく少ないオレフィン系樹脂成形品を提供できる。さらに、本発明は、表面だけを親水化するため、寸法安定性、耐水性、機械的特性、耐熱性、耐薬品性等の特性を低下させることが無いし、複雑な形状、中空糸のような狭い、細い部分にも無理なく、短時間で親水化できるので、形状に左右されずに親水性を付与できる。従来の物理的表面処理のみでは親水性の耐久性、持続性が無く、約1週間程度空気中に放置すると親水性が失われるが、本発明では、特定の表面状態にした物理的親水化処理後にスルホン化処理を実施したことにより、変色がなく、耐久性に優れた親水性オレフィン系樹脂成形品を得ることが出来る。また、酸化チタンのような光触媒を使用した親水性塗料は塗布後、太陽光程度の紫外線を照射しないと水酸基が形成せず、親水性効果は出ない。従って、こうした塗料では太陽光の当たらない屋内では親水性効果が発現せず、屋内で使用する部材には使用できない。しかし、本発明では、光触媒で親水性が付与できない光の当たらないような場所に用いる部材でも、親水性付与した部材が提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の行うスルホン化処理とは、スルホン化剤として濃硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸等の液状スルホン化剤あるいは三酸化硫黄ガス等のガス状スルホン化剤による処理が好ましく挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。特に好ましくは、ガス状のスルホン化剤での処理である。ガス状のスルホン化剤とは、例えば三酸化硫黄ガスを用い、これを不活性ガス(窒素ガス等)あるいは空気等で希釈したガスであり、こうしたものがオレフィン系樹脂成形品表面を効率よくスルホン化できるので好ましい。
【0013】
前記三酸化硫黄ガスを効率よく得る方法としては、液状三酸化硫黄をその沸点以上に加熱してガス化する方法または高濃度の三酸化硫黄ガスを含む発煙硫酸を加熱して得る方法等があるが、目的に応じてこれらの方法から選ぶことが出来る。好ましい方法としては液状三酸化硫黄をその沸点以上に加熱してガス化する方法である。
【0014】
本発明で用いられるオレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の重合体であり、これらオレフィン系単量体から選ばれた少なくとも一つ以上の単量体の重合体または共重合体である。またオレフィン系単量体類と共重合可能なオレフィン系単量体またはオレフィン系以外の単量体との共重合体であっても差し支えない。オレフィン系樹脂としては、α−オレフィン系樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂の例としてはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、SBR、エチレン−プロピレン系樹脂、ABS系樹脂およびこれらの共重合体等が挙げられる。また、このオレフィン系樹脂と他の熱可塑性樹脂、例えばポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリスチレン樹脂との混合物、或いは共重合体であっても差し支えない。
【0015】
本発明のオレフィン系樹脂成形品とは、前記のオレフィン系樹脂を成形品に成形機で成形したもので、延伸成形品、押出成形品、射出成形品あるいはプレス成形品等である。この成形品の形状は、例えば、フィルム、シート、板、三次元成形品等に成形されたものである。
【0016】
本発明のオレフィン系樹脂成形品は、スルホン化処理する前のオレフィン系樹脂成形品に物理的親水化表面処理を施した後、スルホン化処理をしたものである。その際、スルホン化処理するオレフィン系樹脂成形品は、物理的親水化表面処理前後の該成形品表面の酸素原子数(%)が特定の比率の範囲の値である時、その後で実施される緩和な条件のスルホン化処理が有効となる。すなわち、X線光電子分光分析装置(島津製作所社製品、クレイトス AXIS−HS、以下 XPSとする)で測定した成形品表面の物理的表面処理後の酸素原子数(%)値(O1)と表面処理前の酸素原子数(%)値(O0)との比(O1/O0)が、1.5〜7.0である表面を有するオレフィン系樹脂成形品をスルホン化処理することにより、スルホン化処理による変色が抑えられる。好ましい(O1/O0)比としては2.5〜6.0である。1.5未満の時は物理的親水化表面処理の効果が少なく、スルホン化による親水性向上効果が少ない。7.0を超えると変色が生じる。
【0017】
本発明で用いられる物理的親水化表面処理としては、材料技術研究協会編、実用表面改質技術総覧(1993年)などに記載されている紫外線照射処理(以下 UV処理と略す)、プラズマ処理、コロナ放電処理、イオン処理、放射線処理、エキシマUV処理、オゾン処理、オゾン水処理等からなる群のうち少なくとも一つである。この中で扱い易さの点で、プラズマ処理、UV処理、コロナ放電処理が好ましく用いられる。
【0018】
前記プラズマ処理とは、不活性ガス雰囲気下、低圧下で放電することにより、前記ガスの電離作用によって生じるプラズマをオレフィン系樹脂成形品表面に照射し、この表面をエッチング、濡れ性の向上および官能基の導入などの効果を付与する処理をいう。上記放電には、特に限定されるものではないが、コロナ放電(高圧低温プラズマ)、アーク放電(高圧高温プラズマ)およびグロー放電(低圧低温プラズマ)などが挙げられる。また、前記プラズマ処理における不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、酸素ガス、ヘリウムガス、ネオンガスおよびキセノンガス等が挙げられる。前記プラズマ処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、コロナ放電を用いる場合、前記成形品を密閉容器に入れ、約25〜50℃の酸素ガス雰囲気(約10〜40Pa)下で、出力約100〜800Wで放電し、約30〜1000秒処理する方法などが挙げられる。使用する装置としては、例えば神港精機株式会社製POEM(多目的プラズマ表面処理装置)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。かかる処理時間は、所望の親水性を得る限りにおいては特に限定されないが、通常0.5〜10分程度、好ましくは1〜5分である。また本発明では常圧下でのグロー放電プラズマであっても差し支えない。
【0019】
前記イオンビーム処理とは、不活性ガスをイオン化し、電圧をかけて高速加速して得られるイオンビームをオレフィン系樹脂成形品表面に照射し、衝突させることによって発生したエネルギーにより、イオン注入、膜形成、エッチングおよび濡れ性の向上の効果を付与する表面処理方法をいう。イオンビーム処理の方法は、特に限定されるものではないが、例えば、減圧下で、磁場中の電子のサイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance:ECR)を利用したECRイオン銃を搭載した装置から得られたイオンビームを、約300〜700Vの加速エネルギーで、約1.0×1020ion/cm2のドーズ量で照射する方法が挙げられる。使用する装置としては、例えば、エリオニクス製の小型ECRイオンシャーワ装置(EIS−20 0ER)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。かかる処理の回数は、所望の親水性を得る限りにおいては特に限定されないが、親水性の長期維持の観点から、1回あたり0.25〜2.0×1020ion/cm2のドーズ量を、少なくとも5回以上、好ましくは10回以上照射することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0020】
前記UV照射処理とは、エキシマUVを含む波長が300nm以下の紫外線をオレフィン系樹脂成形品表面に照射し、該樹脂成形表面の親水性を向上させる処理である。照射時間は30秒〜10分が好ましい。
前記コロナ処理とは高周波高電圧装置により発生させた電子をオレフィン系樹脂成形品の表面に衝突させ、該成形品の表面にカルボニル基等のいろいろな極性の強い官能基を生成し、親水性を付与する処理をいう。コロナ処理における1回当たりの放電量は、少なくとも50W/m2/minであることが好ましく、総放電量は100〜5000W/m2/minであることが好ましい。
【0021】
前記オゾン処理あるいはオゾン水処理とはオゾンを含むガスまたは水溶液中でオレフィン系樹脂成形品を処理する方法である。オゾンガス処理はオゾンガスと酸素ガスとの混合ガスを使用して処理される。このときの混合ガス中のオゾンガス濃度は1万〜120万ppmであり、より好ましくは5万〜100万ppmである。また該オゾンガス処理の処理温度は30℃以上、好ましくは40〜120℃、更に好ましくは50〜100℃である。表面改質処理をオゾン水溶液処理で実施する場合のオゾン濃度は通常の水あるいは過酸化水素水等の水溶液中にオゾンを吹き込んで処理するとよい。このとき、オゾン濃度は、5ppm以上、好ましくは15ppm以上であると都合がよい。
【0022】
本発明では前述した物理的親水化表面処理を実施した後、スルホン化処理を行う。スルホン化処理としては、物理的親水化表面処理したオレフィン系樹脂成形品を液状の三酸化硫黄をその沸点以上に加熱して得られた三酸化硫黄ガスを乾燥した不活性ガスあるいは空気等の希釈用ガスで希釈した三酸化硫黄ガスに、被処理成形品を接触させる方法が好ましく用いられる。ガス生成温度としては、液状三酸化硫黄の沸点+5(℃)〜沸点+100(℃)でガス化するのが好ましく、沸点+5(℃)未満では十分な量のガスが得られず、また沸点+100(℃)以上では安全性に問題がある。
【0023】
本発明においてスルホン化処理するオレフィン系樹脂成形品は、希釈された三酸化硫黄ガスと接触させる処理室に設置する前に、乾燥して、該成形品の水分率が0.1%以下になるまで乾燥することが好ましい。水分率が0.1%を超えると、三酸化硫黄ガスが成形品水分と反応し、硫酸に変化するため、十分なスルホン化が行われない。
【0024】
処理の際の三酸化硫黄ガス濃度としては、0.05〜2.0vol%が好ましい。0.05vol%未満では親水性が不十分であり、2.0vol%を超えると、成形品の変色が著しくなる。また、該成形品と接触させる時の処理時のガス温度は、20〜60℃が好ましい。20℃未満では短時間での親水化処理が困難であり、60℃を超えると成形品の変色が著しいので好ましくない。好ましい処理時間としては0.1分〜3分である。0.1分未満では十分な親水性が得られず、3分以上ではオレフィン系樹脂成形品の変色が著しい。
【0025】
また、希釈用ガスの露点としては、−50℃以下が好ましい。−50℃を超えると、希釈ガス中に含まれる水分により、三酸化硫黄ガス中の硫酸ミスト成分が多くなり、親水性が十分向上し無い。さらに、ガス流通量としては、処理容器の内容積に依存し、1分間当たり処理容器の1容量に対し、好ましくは0.5〜10倍量である。より好ましくは、1〜5倍量である。
【0026】
本発明のオレフィン系樹脂成形品は、スルホン化処理後に、該成形品表面にスルホン酸基等の硫黄原子含有官能基が結合したものである。本発明のオレフィン系樹脂成形品の硫黄原子含有基量は、X線光電子分光分析装置(島津製作所社製品、クレイトス AXIS−HS)で測定した硫黄原子数%が好ましくは1.0%〜10.0%であり、かつ接触角が好ましくは50度以下で、初期値からの色差ΔLが10以下であることが好ましい。硫黄原子数%が1.0%未満では親水性効果が無く、10.0%を超えると親水性は良好であるが、スルホン化処理による変色が激しく、実用性が無い。また、接触角は50度以下に調整するのが好ましい。50度を超えると、親水性としての効果が実用上無い。本発明のオレフィン系樹脂成形品は、表面処理による変色が色差で10以下に押さえられた成形品である。色差が10を超えて変色すると、実用上外観部品として使用できない。
【0027】
本発明の親水性オレフィン系樹脂成形品の製造は、未処理の前記オレフィン系樹脂成形品に前記物理的親水化表面処理を実施する第1工程、次に該成形品を20〜100℃で乾燥する第2工程、ついで該成形品を前記スルホン化処理する第3工程を経て行われるのが好ましい。第3工程の後、必要により該成形品を水洗する工程、それを乾燥する工程を設けるのも好ましい。
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。文中特に断りのない限り、「部」「%」は「質量部」「質量%」である。
【実施例】
【0029】
<評価試験方法>
(1)親水性の確認:接触角の測定
成形品表面の接触角を、イオン交換水を用いた液滴法にて測定した。
測定器:協和界面科学製CA−Z型
温度 :25 ℃、湿度:55%(相対湿度)
測定値:測定5回の平均値
一般に濡れ性が良好であるほど、接触角は小さい値を示すが、接触角が50度を超えると親水性が悪いと判断した。
【0030】
(2)表面のスルホン酸基濃度:X線光電子分光分析装置(クレイトス AXIS−HS(株)島津製作所製、以下XPS)によるスルホン酸基の硫黄原子数%で評価。
【0031】
前記試料片につて、その表面をX線光電子分光分析装置(クレイトス AXIS−HS(株)島津製作所製)を用いて、100倍の倍率で元素分析を行い、硫黄原子の原子数% を測定した。
【0032】
(3)変色の確認
成形品表面を未処理品の色を基準として、親水化処理品の色との差(色差)を下記の測定器にて測定。色差が10を超えると着色していると判断した。
【0033】
測定器:コニカミノルタセンシング(株)製 分光測色計CM−3500d
【0034】
(4)表面酸素濃度の測定
成形品表面の物理的親水化表面処理の前後の酸素濃度は、X線光電子分光分析装置(クレイトス AXIS−HS(株)島津製作所製)を用いて、酸素原子の原子数%を測定し、表面処理後の酸素原子数%の値(O1)と表面処理前の酸素原子数%の値(O0)との比(O1/O0)を算出した。
【0035】
(5)水分率の測定
スルホン化処理前のオレフィン系樹脂成形品の水分率は、該成形品を乾燥後の前記成形品の一部約0.2gを切り出し、カールフィッシャーにて、120(℃)/5分加熱し、水分率を測定した。
【0036】
<試験片の作成>
〔試験片1〕
<評価用サンプルの試作>
(1).実施例1〜5、比較例1〜5
幅50mm×長さ50m×厚み2mmのポリプロピレン樹脂成形板を表−1示す条件で、下記に示すプラズマ処理装置を用いてプラズマ処理を実施した。プラズマ処理前後の酸素原子数%はXPSにて測定した。プラズマ処理後の成形品を80(℃)で2時間乾燥し、水分率を測定後、同表に示す条件にてスルホン化処理した。
プラズマ処理装置:神港精機株式会社製POEM(多目的プラズマ表面処理装置)
【0037】
前述した幅50mm×長さ50mmに切断したポリプロピレン板を投入し、密閉後、下記に示す条件にてスルホン化処理を実施した。三酸化硫黄ガスは日曹金属化学株式会社製 液状の三酸化硫黄(商品名 サルファン)を下記に示す条件にてガス化して使用した。希釈用ガスとして露点 −60℃の乾燥空気を使用した。スルホン化処理後、成形品を導電率80(μS/m)のイオン交換水の流水にて、10分間洗浄し、80(℃)で1hrs乾燥した。
【0038】
(1) ガス化温度:表−1に記載
(2) ガス濃度 :表−1記載
(3) 処理槽および処理用ガス温度:表−1記載
(4) ガス流量 :1L/分
(5) 処理時間 :表−1記載
【0039】
(評価)
スルホン化処理試験片について、接触角、XPSにて硫黄原子数%の測定、色差をそれぞれの試験方法に従い、評価を行った。結果を表−1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
実施例6〜8、比較例6〜7
実施例1で使用したポリプロピレン成形板を表3示す条件で、下記に示す波長184.9nm、波長253.7nmをピークとするUV処理装置を用いて、UV処理した。実施例1と同様にUV処理前後の酸素原子数%をXPSで測定した。UV処理後、実施例1と同様に乾燥し、同表に示す条件にてスルホン化処理した。
【0043】
UV照射装置:セン特殊光源株式会社製 PL16−110
【0044】
【表3】

【0045】
実施例と比較例とから、スルホン化処理前にプラズマ処理、UV処理等の物理的親水化表面処理を実施すると、スルホン化処理しても変色が著しく抑えられ、かつ接触角が小さな耐久性に優れた親水性を有する優れたポリオレフィン形成形品を得ることが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明では、スルホン化処理する前にオレフィン系樹脂成形品を物理的親水化表面処理前後の酸素原子数%の比率を特定の値範囲とすることで、スルホン化処理をしても変色のない耐久性のある親水性を有するオレフィン系樹脂成形品を提供できるので、多くの産業分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂成形品をスルホン化処理するに際して、前記スルホン化前のオレフィン系樹脂成形品が物理的親水化表面処理を実施したものであり、前記成形品表面の物理的表面処理状態が該成形品表面をX線光電子分光分析装置で測定した際の前記表面処理後の酸素原子数%の値(O1)と前記表面処理前の酸素原子数%の値(O0)との比(O1/O0)を、1.5〜7.0としたものを使用することを特徴とする親水性オレフィン系樹脂成形品。
【請求項2】
前記スルホン化処理が、希釈された三酸化硫黄ガスと接触させることを特徴とする請求項1記載の親水性オレフィン系樹脂成形品。
【請求項3】
前記物理的親水化処理が、UV照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理、エキシマUV処理からなる群のうち少なくとも1つから選択されるものであることを特徴とする請求項1〜2記載の親水性オレフィン系樹脂成形品
【請求項4】
前記親水性オレフィン系樹脂成形品が、表面の少なくとも一部に硫黄原子含有基を結合させたオレフィン系樹脂成形品であって、該成形品表面の硫黄原子含有基量がエネルギー分散型X線光電子分光装置で測定した硫黄原子数%で1.0%〜10.0%であり、かつ接触角が50度以下で、初期値からの色差ΔLが10以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の親水性オレフィン系樹脂成形品。
【請求項5】
希釈された三酸化硫黄ガスが、液状三酸化硫黄をその沸点以上に加熱して得られた三酸化硫黄ガスを用いたものであることを特徴する請求項1〜4いずれか1項に記載の親水性オレフィン系樹脂成形品。
【請求項6】
前記スルホン化処理前のオレフィン系樹脂成形品が、水分率0.1%以下のものであることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の親水性オレフィン系樹脂成形品。