説明

オレフィン系重合体延伸フイルム

【課題】 優れた帯電防止性を示すのみならず優れた透明性を有するオレフィン系重合体延伸フイルムを提供する。
【解決手段】 オレフィン系重合体(A)及びエチレン単位(b1)30〜60重量%、プロピレン単位(b2)30〜60重量%及びブテン単位(b3)2〜10重量%、(メタ)アクリル酸エステル単位(b4)0〜10重量%及び(メタ)アクリル酸単位(b5)5〜15重量%〔(b1)、(b2)、(b3)、(b4)及び(b5)の合計で100重量%とする。〕からなる重合体(組成物)のカリウムアイオノマーであって、そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5mmol/gの範囲にあるカリウムアイオノマー(B)を含むオレフィン系重合体組成物(C)から得られ、かつ3倍以上の面倍率で延伸されてなるオレフィン系重合体延伸フイルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性に優れるだけでなく、透明性に優れたオレフィン系重合体及び特定のカリウムアイオノマー(B)を含むオレフィン系重合体組成物から得られるオレフィン系重合体延伸フイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系重合体は非極性であることから成形品は静電気を帯び易く、用途によっては、界面活性剤等の帯電防止剤が添加されている。しかしながら、オレフィン系重合体に界面活性剤等の比較的低分子量の帯電防止剤を添加した場合、フイルム等の成形時に帯電防止剤の一部が揮散して成形機を汚したり、帯電防止剤そのものがフイルム表面に溶出することにより帯電防止効果が発現することから、得られるフイルムが滲み出た帯電防止剤によりべたついたりするおそれがある。
【0003】
一方、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアルカリ金属塩、とくにカリウム塩は表面固有抵抗値が10〜1010Ωと低い導電性樹脂として知られており(特許文献1)、このエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩を界面活性剤等の帯電防止剤に代えて、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂に少量添加する方法(特許文献2)、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩にポリエチレン等の疎水性重合体を1〜40重量%添加する方法(特許文献3)が提案されている。
【0004】
しかしながら、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩をポリエチレンに、少量、例えば15重量%程度加えた場合、得られるフイルムの表面固有抵抗値は改良されるが、積層体にした場合、該カリウム塩のフイルムの厚み、あるいは外層フイルムの種類や厚みによっては満足すべき表面抵抗値が得られない場合がある。また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩を疎水性重合体に多量添加した場合は表面固有抵抗値が大幅に改良されたフィルムが得られるが、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩の量が多量を占めるので、コスト面で不利である。
【0005】
さらに、帯電防止性に優れるエチレン・メタクリル酸共重合体のカリウム塩をエチレン・1−ヘキセンランダム共重合体やポリプロピレンに配合して二軸延伸フィルムを成形することも試みられている(特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−240704号公報(第3頁、右下欄)
【特許文献2】特開平8−267671号公報(表1及び表2)
【特許文献3】特開2004−18660号公報(請求項1)
【特許文献4】WO2006/068275(請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特定のカリウムアイオノマーを用いることにより、オレフィン系重合体に配合した際の帯電防止性の性能が優れているのみならず、透明性も優れた延伸フィルムを見出したことに基づく。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(第1の発明)はオレフィン系重合体(A)、及びエチレン単位(b1)30〜60重量%、プロピレン単位(b2)30〜60重量%及びブテン単位(b3)2〜10重量%、(メタ)アクリル酸エステル単位(b4)0〜10重量%及び(メタ)アクリル酸単位(b5)5〜15重量%〔(b1)、(b2)、(b3)、(b4)及び(b5)の合計で100重量%とする。〕を含む重合体(組成物)のカリウムアイオノマーであって、そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5の範囲にあるカリウムアイオノマー(B)を含むオレフィン系重合体組成物(C)から得られ、かつ3倍以上の面倍率で延伸されてなるオレフィン系重合体延伸フイルムを提供するものである。
【0009】
また本発明(第2の発明)はオレフィン系重合体(A)及びエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(D)を含むオレフィン系重合体組成物(E)から得られ、かつ3倍以上の面倍率で延伸されてなる、JIS K7105に準拠して測定したヘイズ(曇り度)が0.5〜15%の範囲にあるオレフィン系重合体延伸フイルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは、特定のカリウムアイオノマーを用いることにより、オレフィン系重合体に配合した際の帯電防止性の性能が優れているのみならず、透明性も優れた延伸フィルムとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
オレフィン系重合体(A)
本発明に係わるオレフイン系重合体(A)は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−へキセン、4−メチル・1−ペンテン、1−オクテン等のα−オレフィンの単独重合体、二種以上の異なるα−オレフィンの共重合体あるいはα−オレフィンと酢酸ビニル、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその誘導体の他の重合性化合物とのα−オレフィンを主体とする重合体で、延伸することにより配向し得る重合体であれば非品性あるいは結晶性はとくに限定はされないが、結晶性の重合体がより強く配向により結晶化するので好ましい。
【0012】
これらオレフィン系重合体(A)の具体例の一つとして、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)及び高密度ポリエチレンの名称で製造、販売されているエチレンの単独重合体あるいはエチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、4一メチル・1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等の他の一種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体で、通常、密度が0.900〜0.970g/cm、好ましくは0.905〜0.940g/cmの範囲にあるエチレンを主体とするエチレン系重合体を例示することができる。
【0013】
これらの中でも、オレフィン系重合体(A)としてポリプロピレンの名称で製造、販売されているプロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル・1一ペンテン、1−オクテン、1−デセン等の他の一種以上のα−オレフィンとのランダム若しくはブロック共重合体で、通常、融点(Tm)が100〜170℃、好ましくは110〜156℃の範囲にあるプロピレンを主体とするプロピレン系重合体が好適である。
また、オレフィン系重合体(A)として、ポリブテンの名称で製造・販売されている1−ブテンの単独重合体あるいは1−ブテンとエチレン、プロピレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル・1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等の他の一種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体で、通常、融点(Tm)が70〜130℃、好ましくは72〜127℃の範囲にある1−ブテンを主体とする1−ブテン系重合体を例示することができる。
【0014】
さらに、オレフィン系重合体(A)として、4−メチル・1−ペンテンの名称で製造・販売されている4−メチル・1−ペンテンの単独重合体あるいは4−メチル・1−ペンテンとエチレン、プロピレン、1−ブテン、1一ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1一デセン等の他の一種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体で、通常、融点(Tm)が200〜250℃、好ましくは220〜240℃の範囲にある4−メチル・1−ペンテンを主体とする4−メチル・1−ペンテン系重合体を例示することができる。
【0015】
オレフィン系重合体(A)の具体例の一つとして、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の他の重合性化合物、好ましくはビニル化合物とのエチレン・ビニル化合物共重合体を例示することができる。
本発明に係わるオレフィン系重合体(A)は、上記各重合体から選ばれる単一の重合体であっても、二種以上の重合体からなる組成物であってもよい。
【0016】
また、本発明に係わるオレフィン系重合体(A)には、オレフィン系重合体以外の熱可塑性樹脂あるいは耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、核剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機または有機の充填剤等の通常熱可塑性樹脂に用いる各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加しておいてもよい。
【0017】
カリウムアイオノマー(B)
本発明に用いられるカリウムアイオノマー(B)は、特定のオレフィン単位、(メタ)アクリル酸エステル、及び(メタ)アクリル酸単位からなる重合体(組成物)のカルボキシル基の一部または全部がカリウム(イオン)によって中和されてなるものである。
ここで、特定のオレフィン単位は、エチレン単位(b1)30〜60重量%(好ましくは30〜50重量%)、プロピレン単位(b2)30〜60重量%(好ましくは40〜60重量%)及びブテン(1−ブテン又は2−ブテン)単位(b3)2〜10重量であり、それと共に重合体(組成物)は(メタ)アクリル酸エステル単位(b4)0〜10重量%(好ましくは0〜5重量%)及び(メタ)アクリル酸単位(b5)5〜15重量%〔(b1)、(b2)、(b3)、(b4)及び(b5)の合計で100重量%とする。〕を含んでいる。
【0018】
なお、本発明で重合体(組成物)とは単独の共重合体または2種以上の重合体若しくは共重合体の組成物を意味する。また(メタ)アクリル酸とはアクリル酸またはメタクリル酸のことを意味し、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。また(c)のブテンとしては1−ブテンまたは2−ブテンが挙げられ、(d)の(メタ)アクリル酸エステルとしてはアルキル基の炭素数が1〜10の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、具体的には例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸磯プロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nブチル、メタクリル酸イソオクチル等を例示できる。
【0019】
このようなカリウムアイオノマー(B)は、例えば以下の方法で得ることができる。
(i)(b1)から(b5)の各成分ノモノマーを高圧重合で共重合したポリマーのカルボキシル基の一部または全部をカリウムイオンで中和する方法
(ii)(b1)から(b5)の各成分の任意の1種類以上のモノマーと(b5)成分モノマーとの共重合体のカルボキシル基の一部または全部をカリウムイオンにより中和して得たカリウムアイオノマーと、(b1)、(b2)、(b3)及び(b4)の各成分モノマーの任意の1種類以上のモノマー成分からなる重合体の少なくとも1種類以上とを混合する方法
(iii)(b1)から(b4)の各成分モノマーの任意の1種類以上のモノマーと(b5)成分モノマーとの共重合体と、(b1)から(b4)の各成モノマーの任意の1種類以上のモノマー成分の重合体の少なくとも1種類以上とからなる混合組成物のカルボキシル基の一部または全部をカリウムイオンで中和する方法
このようにしてカリウムアイオノマー(B)は、特定のオレフィン単位等を含む重合体のカルボキシル基をカリウムの酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物等によって中和することによって得ることができる。
【0020】
本発明で用いられるカリウムアイオノマー(B)のメルトフローレート(230℃、2160g荷重、JIS K7210−1999に準拠)は0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜10g/10分であることが好ましい。また本発明に用いられるカリウムアイオノマー(B)は、本発明の延伸フイルムにおいて優れた帯電防止効果を発現させるため、カリウムアイオノマー中のカリウム(イオン)密度がカリウムアイオノマー(B)1g当たり0.5〜1.5ミリモルの範囲にあることが必要である。
本発明では、ベースポリマーを適宜選択し、またカリウムイオンによる中和度を調整することにより所望のカリウムイオンの含有量のカリウムアイオノマー(B)を調製することができる。
【0021】
本発明において上記のカリウムアイオノマー(B)は1種のみを用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
オレフィン系重合体組成物(C)
本発明に係わるオレフィン系重合体組成物(C)は、前記オレフィン系重合体(A)及びカリウムアイオノマー(B)を含む組成物、好ましくはオレフィン系重合体(A)が99〜60重量%、より好ましくは97〜65重量%、最も好ましくは95〜70重量%、カリウムアイオノマー(B)が1〜40重量%、より好ましくは3〜35重量%、最も好ましくは5〜30重量%の範囲にある。
【0023】
カリウムアイオノマー(B)の量が1重量%未満の組成物は、延伸しても延伸による表面抵抗値の低下効果が左程みられないおそれがあり、一方、40重量%を超えると、得られる延伸フイルムが、オレフィン系重合体(A)が本来備える特徴を失うおそれがある。
【0024】
カリウムアイオノマー(D)
本発明で用いられるカリウムアイオノマー(D)はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(カリウム塩)である。このカリウムアイオノマー(D)はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の一部または全部をカリウム(イオン)で中和したものであって、例えばエチレン・不飽和カルボン酸共重合体をカリウムの酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物等によって中和することによって得ることができる。
【0025】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどを例示することができるが、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また共重合成分となりうる他の単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルのような不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素等が例示されるが、なかでも不飽和カルボン酸エステルが好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の不飽和カルボン酸単位含量は5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%であり、また任意成分のモノマーの含有量は共重合体中40重量%以下、好ましくは20重量%以下で含有されていてもよい。
【0026】
本発明(第2の発明)で用いられるカリウムアイオノマー(D)のメルトフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999に準拠)は0.1〜1000、好ましくは10〜700であることが望ましい。また本発明に用いられるカリウムアイオノマー(D)は、本発明の延伸フイルムにおいて優れた帯電防止効果を発現させるため、カリウムアイオノマー中のカリウム(イオン)密度がカリウムアイオノマー(D)1g当たり0.4ミリモル以上、特に0.7〜3.0ミリモルの範囲(0.7〜3.0mmol/g)にあることが必要である。
【0027】
本発明では、ベースポリマーを適宜選択し、またカリウムイオンによる中和度を調整することにより所望のカリウムイオンの含有量のカリウムアイオノマー(D)を調製することができる。
【0028】
また、カリウムアイオノマー(D)の融点は、加工性、実用性の面から70〜110℃、特に80〜105℃が好ましい。
なお、本発明に係わるカリウムアイオノマー(D)の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)としてテイ・エイ・インスッルメント社製Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JIS K7121 に準拠し、−50℃から加熱速度10℃/分で200℃迄昇温して試料を一旦融解させた後、200℃に10分間維持し、冷却速度:10℃/分で−50℃迄降温して結晶化させた後、−50℃に5分間維持した後、再度加熱速度10℃/分で200℃迄昇温して熱融解曲線を得た時の融解ピークの頂点温度を融点(Tm)とした。
【0029】
オレフィン系重合体組成物(E)
本発明に係わるオレフィン系重合体組成物(E)は、前記オレフィン系重合体(A)及びカリウムアイオノマー(D)を含む組成物であり、好ましくはオレフィン系重合体(A)が99〜60重量%、より好ましくは97〜65重量%、最も好ましくは95〜70重量%、カリウムアイオノマー(D)が1〜40重量%、より好ましくは3〜35重量%、最も好ましくは5〜30重量%の範囲にある。また本発明で用いるオレフィン系重合体組成物(E)のカリウムイオン密度は0.004〜1.2mmol/gの範囲にあることが好ましい。
【0030】
オレフィン系重合体延伸フイルム
本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは、前記オレフィン系重合体組成物(C)または(E)から得られる3倍以上、好ましくは10〜70倍、より好ましくは30〜65倍の面倍率で延伸されてなるフイルムである。
【0031】
延伸倍率が3倍未満のフイルムは、延伸による表面抵抗値の改良効果が見られない場合がある。一方、面倍率の上限はとくに限定はされないが、通常、70倍を超えると延伸時にフイルムが切断する場合があり、良好な延伸フイルムが得られないおそれがある。
【0032】
延伸倍率が上記倍率を充たす限り、延伸は−軸延伸でも、二軸延伸であってもよいが、透明性、フイルム強度が優れる点及び帯電防止性がより発現し易い点で二軸延伸が好ましい。二軸延伸は同時二軸でノマー(B)を含んでいなくてもよい。
【0033】
本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは、オレフィン系重合体(A)及びカリウムアイオノマー(B)を含むオレフィン系重合体組成物(C)またはオレフィン系重合体(A)及びカリウムアイオノマー(D)を含むオレフィン系重合体組成物(E)からなるフィルムあるいは、その組成物(C)または(E)を片側の層とする2層フィルムの場合、組成物(C)または(E)から得られる延伸フイルムが表面にあるので、その表面固有抵抗値は、通常、1×1012Ω以下、好ましくは1×10〜1×1012Ωの範囲にあり、且つ、印加帯電減衰半減期は1秒以下と優れた帯電防止性を示すと共に、そのヘイズの値が小さく、(好ましくはヘイズ(JIS K7105に準拠して測定)が0.5〜15%の範囲にあり)優れた透明性を有する。
【0034】
本発明(第2の発明)のオレフィン系重合体延伸フイルムにおいては、オレフィン系重合体(A)及びカリウムアイオノマー(D)を含むオレフィン系重合体組成物(E)からなるフィルムまたは、オレフィン系重合体組成物(E)の層とオレフィン系重合体(A)の層を有する多層延伸フィルムにおいて、延伸フィルムの層構成、各層の厚み、オレフィン系重合体(A)の種類、あるいはその重合体組成物(E)中のカリウムアイオノマー(D)の含有量等を調製することによってその表面固有抵抗値が、通常、1×1012Ω以下、好ましくは1×10〜1×1012Ωの範囲にあり、且つ、印加帯電減衰半減期は1秒以下と優れた帯電防止性を示すと共に、そのヘイズの値が小さく、(好ましくはヘイズ値(JIS K7105に準拠して測定)が0.5〜15%の範囲にあり)優れた透明性を有するオレフィン系重合体延伸フイルムを得ることが出来る。
【0035】
具体的には例えばオレフィン系重合体組成物(E)の層とオレフィン系重合体(A)を有する多層延伸フィルムにおいて、一方の表面層を組成物(A)の層とすること、好ましくはオレフィン系重合体(A)層とオレフィン系重合体組成物(E)の層からなる2層フィルムとすることにより、印加帯電減衰半減期は1秒以下と優れた帯電防止性を示すと共に、そのヘイズの値が小さく、(好ましくはヘイズ(JIS K7105に準拠して測定)が0.5〜15%の範囲にあり)優れた透明性を有するオレフィン系重合体延伸フイルムを得ることが出来る。
【0036】
本発明のオレフィン系重合体フイルムの厚さは用途により種々決められるものであり、特に限定はされないが、通常、単層の場合は3〜200μm、好ましくは5〜80μmの範囲にある。二層以上の多層フイルムの場合は、オレフィン系重合体組成物(C)から得られるオレフィン系重合体フイルムの厚さが、通常、0.5〜100μm、好ましくは1〜80μmの範囲にあればよい。
【0037】
本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは必要に応じて片面あるいは両面をコロナ処理、火炎処理等の表面処理をしてもよい。また、本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは更に用途により、低温ヒートシール性を付与するために、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、結晶性あるいは低結晶性のエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとのランダム共重合体あるいはプロピレンとエチレンもしくは炭素数4以上のα−オレフィンとのランダム共重合体、ポリブテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の低融点のポリマーを単独あるいはそれらの組成物をオレフィン系重合体延伸フイルムに積層してもよい。また、更にガスバリア性を改良するために、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニリデン系重合体等を押出しコーティング、フイルムラミネート等で積層してもよいし、金属あるいはその酸化物、シリカ等を蒸着してもよい。勿論、他の物質との接着性を増すために、延伸フイルムの表面をイミン、ウレタン等の接着剤でアンカー処理してもよいし、無水マレイン酸変性ポリオレフインを積層してもよい。
【0038】
オレフィン系重合体延伸フイルムの製造方法
本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは、種々公知の製造方法を用いることにより製造し得る。
オレフィン系重合体延伸フイルムが一軸延伸フイルムの場合は、前記オレフィン系重合体(A)とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩(B)とを含むオレフィン系重合体組成物(C)または前記オレフィン系重合体(A)とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウム塩(D)とを含むオレフィン系重合体組成物(E)を溶融押出しして得たフイルム若しくはシートを上記範囲の面倍率になるように縦方向に延伸すればよい。
【0039】
延伸は用いるオレフィン系重合体(A)が延伸により配向される温度で行う限り、とくに限定はされないが、通常、オレフィン系重合体(A)の融点−50℃〜融点+30℃、好ましくは融点−30℃〜融点+20℃の範囲で行う。
例えば、用いるオレフィン系重合体(A)が、エチレン系重合体である場合は、一般に50〜150℃、好ましくは60〜130℃の範囲で行われる。
用いるオレフィン系重合体(A)が、プロピレン系重合体である場合は、一般に80〜160℃、好ましくは90〜150℃の範囲で行われる。
【0040】
オレフィン系重合体延伸フイルムが二軸延伸フイルムの場合は、前記オレフィン系重合体(A)とカリウムアイオノマー(B)とを含むオレフィン系重合体組成物(C)または前記オレフィン系重合体(A)とカリウムアイオノマー(D)とを含むオレフィン系重合体組成物(E)を溶融押出しして得たフイルム若しくはシートを上記範囲の面倍率になるように縦及び横方向に延伸すればよい。
【0041】
延伸は用いるオレフィン系重合体(A)が延伸により配向される温度で行う限り、とくに限定はされないが、同時二軸延伸を行う場合は、通常、オレフィン系重合体(A)の融点−50℃〜融点+30℃、好ましくは融点−40℃〜融点+20℃の範囲で行う。
例えば、用いるオレフィン系重合体(A)が、エチレン系重合体)である場合は、一般に50〜150℃、好ましくは40〜130℃の範囲で行われる。
【0042】
用いるオレフィン系重合体(A)が、プロピレン系重合体(A−2)である場合は、一般に80〜160℃、好ましくは90〜150℃の範囲で行われる。
また、逐次二軸延伸を行う場合は、通常、オレフィン系重合体(A)の融点−50℃〜融点+50℃、好ましくは融点一(マイナス)30℃〜融点+20℃の範囲で縦方向に2〜12倍、好ましくは3〜10倍の範囲で延伸した後、オレフィン系重合体(A)の融点−(マイナス)50℃〜融点+30℃、好ましくは融点−(マイナス)40℃〜融点+20℃の範囲で横方向に3〜12倍、好ましくは4〜10倍の範囲で延伸することにより行い得る。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例に制約されるものではない。
【0044】
<測定方法>
(1)融解特性
JIS K7121に準拠し、DSC(示差走査熱量計)を用い以下の条件で求めた。
示差走査熱量計(DSC)としてテイ・エイ・インスッルメント社製Q100を用い、試料約5mgを精秤し、JISK7121に準拠し、−50℃から加熱速度;10℃/分で200℃迄昇温して試料を一旦融解させた後、200℃に10分間維持し、冷却速度;10℃/分で一50℃迄降温して結晶化させた後、一50℃に5分間維持した後、再度加熱速度:10℃/分で200℃迄昇温して熱融解曲線を得た時の融解ピークの頂点温度、融解ピークが二つ以上ある場合は最大吸熱ピークの頂点湿度を融点(Tm)とした。
【0045】
(2)表面固有抵抗値
23℃、50%RH雰囲気下に24時間及び480時間放置したフイルム試験片の表面固有抵抗値をADVANTEST社製ULTRA HIGH RESISTANCE METERを用いて測定した。
(3)印加帯電減衰(半減期);23℃、50%RH雰囲気下に480時間放置したフイルム試験片に、ETS社製Static Decay Meter Model 406Dを用いて5000V印加し、初期の印加帯電電位(5000V)が2分の1(2500V)になるまでの時間を半減期(秒)として求めた。
【0046】
(3)曇り度(ヘイズ)
Haze Meter(日本電色工業者製 NDH−300A)を使用して、フィルム試験片1枚の光線透過率をJIS K7105に準拠して測定した。
【0047】
実施例及び比較例で用いた重合体を以下に示す。
(1)プロピレン系重合体(A−1)
(a)プロピレン単独重合体(PP)
融点;158℃、MFR;7g/10分。
【0048】
(2)カリウムアイオノマー(B−1)
エチレン・メタクリル酸共重合体とプロピレン・α−オレフィン共重合体を含む下記成分組成の重合体組成物のカルボキシル基の一部がカリウムイオンで中和されており、そのカリウムイオン密度が0.86mmol/g、MFR(230℃)5.9、密度932Kg/mのカリウムアイオノマー。
(b1)エチレン単位 38.1重量%
(b2)プロピレン単位 48.7重量%
(b3)1−ブテン単位 4.1重量%
(b4)アクリル酸エステル単位 0.6重量%
(b5)メタクリル酸単位 8.5重量%
【0049】
(実施例1〜3)
<積層シートの製造>
表面層に用いるオレフィン系重合体組成物として、プロピレン単独重合体(PP)にカリウムアイオノマー(B−1)を表1に示す配合割合で配合してドライ・ブレンドした組成物(C−1)と、基材層に用いるオレフィン系重合体としてプロピレン単独重合体(PP)それぞれ用意し、先端にT−ダイを具備した65mmφの3種3層一軸押出機を用い、C−1/PPを20/80の厚み比率で押出し、30℃のキャスティングロールで急冷し、厚さ25μmの二層構成の多層シートを得た。
C−1及びPPの押出温度はそれぞれ230℃、250℃とした。
【0050】
<二軸延伸フイルムの製造>
得られたシートを120℃に加熱したロールに導き、縦方向に5倍にロール延伸を行った。この縦延伸シートをテンタ一式の横延伸装置により横方向に160℃で10倍に延伸し3秒間155℃で熱固定し巻き取り、面倍率が50の二軸延伸多層フイルムを得た。 得られた二軸延伸多層フイルムの物性を前記測定方法で測定した。
その測定結果を表1に示す。なお、いずれも湿度50%の条件で測定した値である。
【0051】
(比較例1)
外層および基材層を表1に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして得られる各組成物(C−3)について実施例1と同様にして、表1に示す延伸倍率で二軸延伸多層フイルムを得た。
得られた二軸延伸多層フイルムの物性を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、PPにカリウムアイノマー(B−1)を10重量%添加したオレフィン系重合体組成物(C−1)を二軸延伸して得られる二軸延伸多層フイルム(実施例1)は、ヘイズが2.36%、2.78%である。また、添加量が15重量%では、ヘイズが2.66であり優れた透明性を示す。さらに、カリウムアイオノマー(B−1)を20重量%添加したオレフィン重合体組成物(C−2)を用いた場合(実施例3)も、ヘイズが14.2であり優れた透明性を示す。
そして、これらのフィルムの表面固有抵抗値抵抗値(Ω)及び印加帯電減衰半減期にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のオレフィン系重合体延伸フイルムは、食品、医薬品等の包装用として用いられる際に求められる、内容物の視認性や美観などから、帯電防止性に優れると共に優れた透明性を有している。その効果は、半永久的である。
また界面活性剤等の比較的低分子量の帯電防止剤を添加した場合に見られる、帯電防止剤そのものがフイルム表面に滲出することによるフイルムのべたつきのおそれがなく、帯電防止剤が内容物に転移することもない衛生的な包装材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体(A)及び
エチレン単位(b1)30〜60重量%、
プロピレン単位(b2)30〜60重量%及び
ブテン単位(b3)2〜10重量%、
(メタ)アクリル酸エステル単位(b4)0〜10重量%及び
(メタ)アクリル酸単位(b5)5〜15重量%
〔(b1)、(b2)、(b3)、(b4)及び(b5)の合計で100重量%とする〕
からなる重合体(組成物)のカリウムアイオノマーであって、
そのカリウムイオン密度が0.5〜1.5mmol/gの範囲にあるカリウムアイオノマー(B)を含むオレフィン系重合体組成物(C)
から得られ、かつ3倍以上の面倍率で延伸されてなるオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項2】
延伸が二軸延伸されてなる請求項1記載のオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項3】
オレフィン系重合体組成物(C)が、オレフィン系重合体(A)99〜60重量%及びカリウムアイオノマー(B)1〜40重量%である請求項1または2に記載のオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項4】
オレフィン系重合体(A)が、プロピレン系重合体(A−1)である請求項1〜3のいずれかに記載のオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項5】
オレフィン系重合体(A)の層およびオレフィン系重合体(C)の層を有する多層であることを特徴とするオレフィン系重合体延伸フィルム。
【請求項6】
プロピレン系重合体(A)が、プロピレン単独重合体である請求項5に記載のオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項7】
JIS K7105に準拠して測定したヘイズが0.5〜15%の範囲にある請求項1ないし6のいずれかに記載のオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項8】
オレフィン系重合体(A)及びエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(D)を含むオレフィン系重合体組成物(E)から得られ、かつ3倍以上の面倍率で延伸されてなる、JIS K7105に準拠して測定したヘイズが0.5〜15%の範囲にあるオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項9】
オレフィン系重合体組成物(E)のカリウムイオン密度が0.004〜1.2mmol/gの範囲にある請求項8に記載のオレフィン系重合体延伸フイルム。
【請求項10】
オレフィン系重合体(A)の層および請求項8または9に記載のオレフィン系重合体組成物(E)の層を有する多層であることを特徴とするオレフィン系重合体延伸フィルム。
【請求項11】
一方の表面層がオレフィン系重合体(A)の層である請求項10に記載の多層オレフィン系重合体延伸フィルム。

【公開番号】特開2009−138139(P2009−138139A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317409(P2007−317409)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】