説明

オレフィン系重合体組成物、該組成物を用いてなる成形体、および電線

【課題】優れた柔軟性を示し、かつ耐傷つき性と引っ張り伸び特性のバランスに優れ、電線の絶縁体またはシースとして好適に用いることができる成形体を製造することができる、オレフィン系重合体組成物を提供することを目的としている。
【解決手段】(A)シンジオタクティックプロピレン・α−オレフィン共重合体10〜100重量部と、特定のエチレン系重合体0〜90重量部(ここで(A)+(B)の合計は100重量部である)と、
前記(A)+(B)の合計100重量部に対して
(C)無機フィラーを、1〜350重量部の割合で含有してなり、
かつシンジオタクティックポリプロピレン(D)およびアイソタクチックポリプロピレン(E)のいすれをも実質的に含有しないこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系重合体組成物、該組成物を用いてなる成形体および電線に関し、より詳しくは、耐傷つき性、表面硬度と、引っ張り伸び特性のバランスに優れた成形体を製造することのできるオレフィン系重合体組成物、該組成物を用いてなる成形体および電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線の絶縁体やシースは、ポリ塩化ビニルが用いられてきた。しかし、近年では、焼却の困難さなどの点から、オレフィン系重合体材料が用いられるようになってきた。例えば特許文献1には、シンジオタクチックポリプロピレンを含有してなる電線保護用被覆材料が開示されている。また、特許文献2には、アイソタクチックポリプロピレンと、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するシンジオタクチックポリプロピレンと、プロピレンから導かれる構成単位を90−55モル%の量で含有し、プロピレンを除く炭素原子数2から20のα−オレフィンから導かれる構成単位を10−45モル%の量で含むシンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体とからなるポリプロピレン樹脂組成物が、電線被覆用途に使用できることが記載されている。
【0003】
しかし特許文献1、2の材料では、本発明者らの検討結果によれば、成形体の耐傷つき性、表面硬度と、引っ張り伸び特性のバランスの点ではまだ向上の余地があることがわかった。
【特許文献1】特開平8−7667号公報
【特許文献2】特開2003−147135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような課題を解決しようとするものであって、優れた柔軟性を示し、かつ耐傷つき性と引っ張り伸び特性のバランスに優れ、電線の絶縁体またはシースとして好適に用いることができる成形体を製造することができる、オレフィン系重合体組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のオレフィン系重合体組成物は、
(A)プロピレンから導かれる構成単位を90〜55モル%の量で含有し、プロピレンを除く炭素原子数2〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位を10〜45モル%の量で含むシンジオタクティックプロピレン・α−オレフィン共重合体10〜100重量部と、
(B)以下のエチレン系重合体(B−1)と(B−2)を(B−1)/(B−2)=20/80〜100/0の重量比で含んでなるエチレン系重合体0〜90重量部(ここで(A)+(B)の合計は100重量部である)と、
(B−1):密度が860−900kg/mの範囲にある、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体
(B−2):(B−1)以外のエチレン系重合体
前記(A)+(B)の合計100重量部に対して
(C)無機充填剤を、1〜350重量部の割合で含有してなり、
プロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するシンジオタクティックポリプロピレン(D)を実質的に含有せず、かつプロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するアイソタクチックポリプロピレン(E)を実質的に含有しないことを特徴としている。
【0006】
また本発明の成形体は、前記オレフィン系重合体組成物を用いてなることを特徴とし、特に電線の絶縁体またはシースとして好適に用いることができる。
【0007】
本発明の電線は、前記オレフィン系重合体組成物を、絶縁体またはシースの少なくとも一方に用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のオレフィン系重合体は、優れた柔軟性を示し、かつ耐傷つき性と引っ張り伸び特性のバランスに優れた成形体を製造することができる。本発明の成形体は、柔軟性に優れ、かつ耐傷つき性と引っ張り伸び特性のバランスに優れており、電線の絶縁体またはシースとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るオレフィン系重合体組成物について具体的に説明する。
[(A)シンジオタクティックプロピレン・α−オレフィン共重合体]
本発明で用いられるシンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、実質的にシンジオタクティック構造であり、プロピレンから導かれる構成単位を90〜55モル%、好ましくは85〜60モル%、特に好ましくは80〜65モル%の量で、プロピレン以外の炭素原子数2〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位を10〜45モル%、好ましくは15〜40モル%の量、特に好ましくは20〜35モル%の量で含有している。
【0010】
プロピレン以外のオレフィン類としては、エチレン;炭素原子数4以上のα-オレフィン、例えば1 -ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン、1-ヘキサデセン、ノルボルネン等;ジエン類例えば、ヘキサジエン、オクタジエン、デカジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン等が挙げられるが、特に好ましいのはエチレンであり、このようなシンジオタクティックプロピレン・エチレン共重合体は耐寒性、低温特性に優れるため、本発明に好適に利用できる。
【0011】
このような量でプロピレン単位およびα-オレフィン単位を含有するシンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を用いて得られるポリプロピレン樹脂組成物は、充分な柔軟性、耐熱性、耐傷付性を発揮する傾向がある。
【0012】
実質的にシンジオタックティック構造であるとは、1,2,4-トリクロロベンゼン溶液で測定した13C-NMRで約20.2ppmに観測されるピーク強度がプロピレン単位の全メチル基に帰属されるピーク強度の0.3以上、好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.6以上であるものをいい、特にこの値が0.3以上のものは、耐傷付性、耐衝撃性が良好となるため好ましい。
【0013】
シンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が、通常0.01〜10dl/g、好ましくは0.05〜10dl/gの範囲にあることが望ましい。該シンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の極限粘度[η]が、前記範囲内にあると、耐候性、耐オゾン性、耐熱老化性、低温特性、耐動的疲労性などの特性に優れる。
【0014】
またGPCにより測定した分子量分布Mw/Mn(ポリスチレン換算、Mw :重量平均分子量、Mn :数平均分子量)は4.0以下であることが好ましい。
【0015】
このシンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、単一のガラス転移温度を有し、かつ示差走査熱量計(DSC )によって測定したガラス転移温度(Tg)が、通常-10℃以下、好ましくは-15℃以下の範囲にあることが望ましい。該シンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が前記範囲内にあると、耐寒性、低温特性に優れる。本発明で用いられるシンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)はDSCの融解ピークが観測されない方が好ましい。
【0016】
このようなシンジオタクティックプロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の合成方法については先行公報特開2003-147135に記載されているほか、特願2002-332243に記載された触媒を用いて製造することが可能であるが、とくにこれらに限定されるものではない。
【0017】
[(B)エチレン系重合体]
本発明で用いられるエチレン系重合体(B)はエチレンと炭素数3−10のα―オレフィンとの共重合体(B−1)と(B−1)以外のエチレン系重合体(B−2)とを(B−1)/(B−2)=20/80〜100/0、好ましくは50/50〜100/0、より好ましくは70/30〜100/0の重量比で含んでなる。また(B−1)も(B−2)も必須となる場合には、(B−1)/(B−2)=20/80〜99/1、好ましくは50/50〜99/1、より好ましくは70/30〜99/1の重量比で含んでなる。なお本発明でエチレン系重合体(B)を構成する、(B−1)と(B−2)はオレフィン系重合体組成物に最終的に含有されていれば良く、(B−1)と(B−2)とから予め組成物を製造しておいてオレフィン系重合体組成物を製造しても良いし、オレフィン系重合体組成物を製造する際に、(B−1)と(B−2)とが別々に添加されても良い。
【0018】
[(B−1)エチレンと炭素数3−10のα―オレフィンとの共重合体]
本発明で用いられるエチレンと炭素数3−10のα−オレフィンとの共重合体(B−1)に用いられる、炭素数3〜10のα−オレフィンとしては、具体的に、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン1−オクテン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられ、これらの単独もしくは2種以上のものとエチレンで共重合体は構成される。これらのうち、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンのうちの少なくとも1種以上が好ましく使用される。
【0019】
エチレン・αオレフィン共重合体中の各構成単位の含量は、エチレンから誘導される構成単位の含量が通常75〜95モル%、好ましくは80〜95モル%であり、炭素数3〜10のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1つの化合物から誘導される構成単位の含量が通常5〜25モル%、好ましくは5〜20モル%であることが好ましい。
【0020】
さらに本発明で用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体(A−1)は、以下のような性質を有することが好ましい。すなわち、
(i)密度が860〜900kg/m、好ましくは、860〜890kg/mであり、
(ii)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分、好ましくは、0.1〜20g/10分の範囲にあり、
(iii)GPC法により評価される分子量分布の指数:Mw/Mnが1.5〜3.5、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.8〜2.5の範囲にあり、さらに好ましくは
(iv)13C−NMRスペクトルおよび下記式から求められるB値が0.9〜1.5、好ましくは1.0〜1.2である;
【0021】
B値=[POE]/(2・[PE][PO])
(式中、[PE]は共重合体中のエチレンから誘導される構成単位の含有モル分率であり、[PO]は共重合体中のα−オレフィンから誘導される構成単位の含有モル分率であり、[POE]は共重合体中の全ダイアド(dyad)連鎖に対するエチレン・α−オレフィン連鎖数の割合である。)。
【0022】
このB値は、エチレン・α−オレフィン共重合体中のエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの分布状態を表す指標であり、J.C.Randall(Macromolecules,15,353(1982))、J.Ray(Macromolecules,10,773(1977))らの報告に基づいて求めることができる。
【0023】
上記B値が大きいほど、エチレンまたはα−オレフィン共重合体のブロック的連鎖が短くなり、エチレンおよびα−オレフィンの分布が一様であり、共重合ゴムの組成分布が狭いことを示している。なおB値が1.0よりも小さくなるほどエチレン・α−オレフィン共重合体の組成分布は広くなり、取扱性が悪化するなどの悪い点があることがある。
【0024】
さらに好ましくは(v)13C−NMRスペクトルにおけるTααに対するTαβの強度比(Tαβ/Tαα)が0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。ここで13C−NMRスペクトルにおけるTααおよびTαβは、炭素数3以上のα−オレフィンから誘導される構成単位中のCHのピーク強度であり、下記に示すように第3級炭素に対する位置が異なる2種類のCHを意味している。特にエチレン・α−オレフィン共重合体を、メタロセン触媒を用いて製造することで、Tαβ/Tααを上記のような範囲とすることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
このようなTαβ/Tαα強度比は、下記のようにして求めることができる。エチレン・α−オレフィン共重合体の13C−NMRスペクトルを、たとえば日本電子(株)製JEOL−GX270 NMR測定装置を用いて測定する。測定は、試料濃度5重量%になるように調整されたヘキサクロロブタジエン/d6−ベンゼン=2/1(体積比)の混合溶液を用いて、67.8MHz、25℃、d6−ベンゼン(128ppm)基準で行う。測定された13C−NMRスペクトルを、リンデマンアダムスの提案(Analysis Chemistry,43,p1245(1971))、J.C.Randall(Review Macromolecular Chemistry Physics,C29,201(1989))に従って解析してTαβ/Tαα強度比を求める。
【0027】
[エチレン・α−オレフィン共重合体(A−1)の製造方法]
このようなエチレン・α−オレフィン共重合体(A−1)の製造方法には特に制限はないが、V化合物と有機アルミニウム化合物から構成されるチーグラー系触媒やメタロセン系触媒の存在下にエチレンと少なくとも1種以上の炭素数3〜10のα−オレフィンとを共重合させることによって製造することができるがメタロセン系触媒が好適に用いられる。
【0028】
[エチレン系重合体(B−2)]
本発明で用いられるエチレン系重合体(B−2)としては、(B−1)以外のエチレン系重合体であって、密度が900kg/mを超える直鎖低密度ポリエチレン、密度が900kg/m以上である高圧法低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体及びそのアイオノマー、エチレン・メタクリレート共重合体、エチレン・炭素数3−20のα−オレフィン・非共役ポリエン共重合体があげられる。直鎖低密度ポリエチレンとしては密度が905kg/m以上であるものが好ましい。また、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体及びそのアイオノマー、エチレン・メタクリレート共重合体においては、いずれも、エチレン含量は通常共重合体中の全構成単位の5モル%以上である。
【0029】
[(C)無機充填剤]
本発明で使用することのできる(C)無機充填剤としては、特に制限はないが、
例えば金属水酸化物・金属炭酸塩・金属酸化物のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる金属水酸化物としては、特に制限はないが、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マンガン、水酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等の単独もしくはこれらの混合物が挙げられ、好ましくは水酸化マグネシウム単独、水酸化マグネシウムと水酸化マグネシウム以外の金属水酸化物の混合物、水酸化アルミニウム単独および水酸化アルミニウムと水酸化アルミニウム以外の金属水酸化物との混合物などであり、例えば水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとの混合物などを挙げることができる。
【0031】
本発明で用いられる金属炭酸塩としては、特に制限はないが、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウムおよびこれらの混合物を挙げることができる。
【0032】
本発明で用いられる金属酸化物としては、特に制限はないが、例えばアルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウムおよびこれらの混合物などを挙げることができる。
【0033】
[オレフィン系重合体組成物]
本発明のオレフィン系重合体組成物は、上記シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と、上記エチレン系重合体(B)と、上記無機充填剤(C)とを含有している。ここでシンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)は、シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と、上記エチレン系重合体(B)との合計100重量部に対して、10−100重量部、好ましくは30−100重量部、より好ましくは40−100重量部である。この範囲にあれば耐傷つき性の点で好ましい。また、エチレン系重合体を必須とする場合には、シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、10〜99重量部、好ましくは30〜99重量部、より好ましくは40〜99重量部である。この範囲にあれば柔軟性、引っ張り伸びなどの点で好ましい。
【0034】
また、エチレン系重合体(B)は、シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と、上記エチレン系重合体(B)との合計100重量部に対して0〜90重量部、好ましくは0〜70重量部、さらに好ましくは0〜60重量部である。この範囲にあれば耐熱性の点で好ましい。またエチレン系重合体を必須とする場合には、エチレン系重合体(B)は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、1〜90重量部、好ましくは1〜70重量部、より好ましくは1〜60重量部である。この範囲にあれば耐熱性の点で好ましい。
【0035】
また無機充填剤(C)は、前記(A)シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と、上記エチレン系重合体(B)との合計100重量部に対して、1−350重量部、好ましくは40−300重量部、より好ましくは40−250重量部の範囲で含有している。
【0036】
さらに本発明の目的を損なわない範囲で、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、(帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、顔料、染料、可塑剤、結晶核剤、その他成分・添加剤)を配合することができる。これらの成分は(A)+(B)の合計100重量部に対して、0.1−100重量部、好ましくは0.1〜30重量部の範囲で添加することができる。
【0037】
なお本発明においては、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するシンジオタクティックポリプロピレン(D)を実質的に含有せず、かつプロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するアイソタクチックポリプロピレン(E)を実質的に含有しないことを特徴としている。ここで(D)を実質的に含有しないとは、前記シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と、上記エチレン系重合体(B)との合計100重量部に対して、(D)が0.5重量部以下、好ましくは0.1重量部以下しか含有していないことを言い、より好ましくは全く(D)を含まないことである。また(E)を実質的に含有しないとは、前記シンジオタクチックプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)と、上記エチレン系重合体(B)との合計100重量部に対して、(E)が0.5重量部以下、好ましくは0.1重量部以下しか含有していないことを言い、より好ましくは全く(E)を含まないことである。
【0038】
ここで本発明において実質的に含まれない、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するシンジオタクティックポリプロピレン(D)とは、プロピレンの単独重合体またはプロピレンとプロピレン以外のオレフィン類との共重合体であり、実質的にシンジオタックティック構造を有するポリプロピレンである。
【0039】
プロピレン以外のオレフィン類としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。プロピレン以外のオレフィン類は、少量例えば、10モル%未満の量で共重合されているものも含む。
【0040】
ここで実質的にシンジオタックティック構造であるとは、プロピレンの単独重合体にあっては、シンジオタックティックペンタッド分率(rrrr、ペンタッドシンジオタクティシティー)が0.5以上であるものである。
【0041】
なお、上記のシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr)は、先行公報特開2003-147135に記載されている方法で測定・計算されるものである。
【0042】
また、プロピレンと他のオレフィン類との共重合体にあっては、実質的にシンジオタックティック構造であるとは、1,2,4−トリクロロベンゼン溶液で測定した13C-NMRで約20.2ppmに観測されるピーク強度がプロピレン単位の全メチル基に帰属されるピーク強度の0.3以上のものである。
【0043】
なお、このシンジオタクティックペンタッド分率(rrrr)は、以下のようにして測定される。
【0044】
rrrr分率は、13C−NMRスペクトルにおけるPrrrr(プロピレン単位が5単位連続してシンジオタクティック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPW(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)の吸収強度から下記式により求められる。
【0045】
rrrr分率=Prrrr/PW
また本発明において実質的に含まれない、プロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するアイソタクチックポリプロピレン(E)とは、NMR法により測定したアイソタクティックペンタッド分率が0.9以上のポリプロピレンである。
【0046】
アイソタクティックペンタッド分率(mmmm)は、13C−NMRを使用して測定される分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクティック連鎖の存在割合を示しており、プロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。具体的には、13C−NMRスペクトルで観測されるメチル炭素領域の全吸収ピーク中に占めるmmmmピークの分率として算出される値である。
【0047】
なお、このアイソタクティックペンタッド分率(mmmm)は、以下のようにして測定される。
【0048】
mmmm分率は、13C−NMRスペクトルにおけるPmmmm(プロピレン単位が5単位連続してアイソタクティック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPW(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)の吸収強度から下記式により求められる。
【0049】
mmmm分率=Pmmmm/PW
【0050】
NMR測定は、例えば次のようにして行われる。すなわち、試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入する。そして日本電子製GX−500型NMR測定装置を用い、120℃で13C−NMR測定を行う。積算回数は、10,000回以上とする。
【0051】
アイソタクティックポリプロピレン(E)としては、プロピレン単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα-オレフィンとの共重合体を挙げることができる。ここで、プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。
これらのα-オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成している場合もあり、またブロック共重合体を形成している場合もある。
【0052】
本発明においては、上記のように(D)(E)のいずれも実質的に含まない態様であるので、耐傷つき性と、引っ張り伸びとのバランスが特に優れている。
【0053】
また本発明においては、上記以外に本発明の目的を損なわない範囲で、上記(A)、(B)、(D)(E)以外の他の樹脂を含んでいてもよく、その量に特に制限はないが、例えば(A)+(B)の合計100重量部に対して、0.1−30重量部までの量含んでいても良い。
【0054】
本発明のオレフィン系重合体組成物は、各成分を上記のような範囲で種々公知の方法、たとえば、多段重合法、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラブレンダー等で混合する方法、あるいは混合後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練後、造粒あるいは粉砕する方法を採用して製造することができる。
【0055】
[オレフィン系重合体組成物からなる成形体]
上記のような本発明に係るプロピレン系重合体組成物は、従来公知のポリオレフィン用途に広く用いることができるが、特にポリオレフィン組成物をたとえばシート、未延伸または延伸フィルム、フィラメント、他の種々形状の成形体に成形して利用することができる。
【0056】
成形体としては具体的には、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、カレンダー成形、発泡成形などの公知の熱成形方法により得られる成形体が挙げられる。以下に数例挙げて成形体を説明する。
【0057】
本発明に係る成形体がたとえば押出成形体である場合、その形状および製品種類は特に限定されないが、たとえばシート、フィルム(未延伸)、パイプ、ホース、電線被覆、チューブなどが挙げらる。
【0058】
プロピレン系重合体組成物を押出成形する際には、従来公知の押出装置および成形条件を採用することができ、たとえば単軸スクリュー押出機、混練押出機、ラム押出機、ギヤ押出機などを用いて、溶融したプロピレン系重合体組成物を特定のダイスなどから押出すことにより所望の形状に成形することができる。
【0059】
射出成形体は、従来公知の射出成形装置を用いて公知の条件を採用して、プロピレン系重合体組成物を種々の形状に射出成形して製造することができる。本発明に係るプロピレン系重合体組成物からなる射出成形体は帯電しにくく、透明性、柔軟性、耐熱性、耐衝撃性、表面光沢、耐薬品性、耐磨耗性などに優れており、自動車内装用トリム材、自動車用外装材、容器など幅広く用いることができる。
【0060】
ブロー成形体は、従来公知のブロー成形装置を用いて公知の条件を採用して、プロピレン系重合体組成物をブロー成形することにより製造することができる。たとえば押出ブロー成形では、上記プロピレン系重合体組成物を樹脂温度100℃〜300℃の溶融状態でダイより押出してチューブ状パリソンを形成し、次いでパリソンを所望形状の金型中に保持した後空気を吹き込み、樹脂温度130℃〜300℃で金型に着装することにより中空成形体を製造することができる。延伸(ブロー)倍率は、横方向に1.5〜5倍程度であることが望ましい。
【0061】
また、射出ブロー成形では、上記プロピレン系重合体組成物を樹脂温度100℃〜300℃でパリソン金型に射出してパリソンを成形し、次いでパリソンを所望形状の金型中に保持した後空気を吹き込み、樹脂温度120℃〜300℃で金型に着装することにより中空成形体を製造することができる。延伸(ブロー)倍率は、縦方向に1.1〜1.8倍、横方向に1.3〜2.5倍であるであることが望ましい。本発明に係るプロピレン系重合体組成物からなるブロー成形体は、透明性、柔軟性、耐熱性および耐衝撃性に優れるとともに防湿性にも優れている。
【0062】
プレス成形体としてはモールドスタンピング成形体が挙げられ、たとえば基材と表皮材とを同時にプレス成形して両者を複合一体化成形(モールドスタンピング成形)する際の基材を本発明に係るプロピレン系重合体組成物で形成することができる。
【0063】
このようなモールドスタンピング成形体としては、具体的には、ドアートリム、リアーパッケージトリム、シートバックガーニッシュ、インストルメントパネルなどの自動車用内装材が挙げられる。
【0064】
本発明に係るプロピレン系重合体組成物を用いた医療用チューブは、従来公知の押出装置および成形条件を採用することができ、たとえば単軸スクリュー押出機、混練押出機、ラム押出機、ギヤ押出機などを用いて、溶融したプロピレン系重合体組成物を円形のダイから押出し、冷却することで成形することができる。
【0065】
本発明の成形体は、たとえば電線被覆、テープ、フィルム、難燃シート、パイプ、ブロー成形体、難燃壁紙などの用途に好適であり、特に柔軟性に優れ、かつ耐傷つき性と引っ張り伸びのバランスにも優れることから、電線シースおよび電線被覆の用途に好適である。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下、本実施例および比較例で評価に用いた(i)原料の製造方法および物性、(ii)サンプル作成方法、(iii)試験方法を示す。
【0067】
(i)原料の製造方法および物性
(a)シンジオタクティックプロピレン重合体(sPP)の合成
特開平2−274763号公報に記載の方法に従い、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロライドおよびメチルアルミノキサンからなる触媒を用いて、水素の存在下でプロピレンの塊状重合法によって得られたシンジオタクティックポリプロピレンのMFR(230℃)が7.2g/10min、GPCによる分子量分布は2.3、13C−NMRによって測定されたシンジオタクチックペンタッド分率(rrrr)が0.823、示差走査熱量分析で測定したTmが127℃、Tcが57℃であった。
【0068】
(b)シンジオタクティックプロピレン・エチレン共重合体(sPER)の合成
充分に窒素置換した2000mlの重合装置に、833mlの乾燥ヘキサンとトリイソブチルアルミニウム(1.0mmol)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を90℃に昇温しプロピレンで系内の圧力を0.66MPaになるように加圧した後に、エチレンで、系内圧力を0.69MPaに調整した。次いで、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(オクタメチルジヒドロベンゾイルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド0.001mmolとアルミニウム換算で0.3mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温90℃、系内圧力を0.69MPaにエチレンで保ちながら20分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、2Lのメタノール中で重合溶液からポリマーを析出し、真空下130℃、12時間乾燥した。得られたポリマーは、46.4gであり、極限粘度[η]が2.3dl/gであり、ガラス転移温度Tgは−24℃であり、エチレン含量は19.0モル%であり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)は2.3であった。また、前述のDSC測定条件では融解ピークは、実質的に観測されなかった。またこの共重合体の13CNMRスペクトルの20.2ppmに観測されるピークの強度の、プロピレン単位の全メチル基に帰属されるピーク強度に対する比は0.91であり、実質的にシンジオタクチック構造であることを示している。
【0069】
(c) その他原料の物性
エチレン・α−オレフィン共重合体として、MFR(190℃)が1.2g/10分、密度が0.885g/cm3、1−ブテン含量が10.7モル%、Mw/Mn=2.0のエチレン・1−ブテンランダム共重合体(POE)を用いた
【0070】
なお、上記の物性値は下記方法にて測定したものである。
1.融点
DSCの発熱・吸熱曲線を求め、昇温時の最大融解ピーク位置の温度をTm、とした。測定は、試料をアルミパンに詰め、100℃/分で200℃まで昇温して200℃で5分間保持したのち、10℃/分で−150℃まで降温し次いで10℃/分で昇温する際の発熱・吸熱曲線より求めた。
【0071】
2.密度
190℃、2.16kg荷重におけるMFR測定後のストランドを、120℃で1時間熱処理し、1時間かけて室温まで徐冷したのち、密度勾配管法により測定した。
【0072】
3.MFR
ASTM D−1238に準拠し、190℃または230℃で2.16kg荷重におけるMFRを測定した。
【0073】
4.コモノマー(エチレン(C2)、プロピレン(C3)、ブテン(C4))含量
13C−NMRスペクトルの解析により求めた。
【0074】
5.分子量分布(Mw/Mn)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、オルトジクロロベンゼン溶媒で、140℃で測定した。
【0075】
6.極限粘度[η]
135℃、デカリン中で測定した。
7.シンジオタクチックペンタッド分率
先行公報特開2003−147135に記載されている方法で測定した。
【0076】
(ii)サンプル作成方法
表1からなる組成物をバンバリーミキサーを用い、樹脂温度190℃で溶融混練・造粒を行ないペレットを得た。これをプレス成形(加熱温度190℃、加熱時間5min、冷却温度15℃、冷却時間4min)して2mmのシートを得た。
【0077】
(iii)試験方法を示す。
1.ねじり剛性
東洋精機(株)製クラッシュバーグ式柔軟度試験機を用い、JIS K6745に準拠し、温度23℃のねじり剛性を測定した。
【0078】
2.耐スクラッチ性
東京衡機社製のマルテンス硬度引掻硬度試験機を用いて、厚さ2mmの試験片に引掻き圧子20gの荷重を加え試料を引掻いたときに生じる溝幅(mm)を測定し、その逆数(/mm)を算出し評価した。
【0079】
3.引っ張り伸び試験
JIS C 6301に準拠して測定した。
【0080】
[実施例1]
表.1に記載の組成物からなるプレスシートサンプルを上記方法にて評価した結果をあわせて表.1に示す。酸化防止剤としては、チバガイギー社のイルガノックス1010、水酸化マグネシウムには協和化学社のキスマ5Bを用いた。
【0081】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で成形したサンプルの評価結果を表.1に示す。
【0082】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で成形したサンプルの評価結果を表.1に示す。
【0083】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で成形したサンプルの評価結果を表.1に示す。
【0084】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で成形したサンプルの評価結果を表.1に示す。
【0085】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で成形したサンプルの評価結果を表.1に示す。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のオレフィン系重合体は、優れた柔軟性を示し、かつ耐傷つき性と引っ張り伸び特性のバランスに優れた成形体を製造することができる。本発明の成形体は、柔軟性に優れ、かつ耐傷つき性と引っ張り伸び特性のバランスに優れており、電線の絶縁体またはシースとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)プロピレンから導かれる構成単位を90〜55モル%の量で含有し、プロピレンを除く炭素原子数2〜20のα−オレフィンから導かれる構成単位を10〜45モル%の量で含むシンジオタクティックプロピレン・α−オレフィン共重合体10〜100重量部と、
(B)以下のエチレン系重合体(B−1)とエチレン系重合体(B−2)を(B−1)/(B−2)=20/80〜100/0の重量比で含んでなるエチレン系重合体0〜90重量部(ここで(A)+(B)の合計は100重量部である)と、
(B−1):密度が860−900kg/mの範囲にある、エチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合体
(B−2):(B−1)以外のエチレン系重合体
前記(A)+(B)の合計100重量部に対して
(C)無機充填剤を、1〜350重量部の割合で含有してなり、
プロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するシンジオタクティックポリプロピレン(D)を実質的に含有せず、かつプロピレンから導かれる構成単位を90モル%を超えて含有するアイソタクチックポリプロピレン(E)を実質的に含有しないことを特徴とするオレフィン系重合体組成物。
【請求項2】
前記(C)無機充填剤が金属水酸化物・金属炭酸塩・金属酸化物のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン系重合体組成物。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物を用いてなることを特徴とする成形体。
【請求項4】
前記成形体が電線の絶縁体またはシースであることを特徴とする請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
請求項1〜2のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物を、絶縁体およびシースの少なくとも一方に用いてなる電線。

【公開番号】特開2006−241225(P2006−241225A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55859(P2005−55859)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】