説明

オレフィン重合触媒およびポリオレフィンパウダーの製造方法

【課題】低い嵩密度となるように粒子形状が制御され、通気抵抗の低い多孔質体の原料として有用なポリオレフィンパウダーの重合を可能とするオレフィン重合触媒およびこれを用いたポリオレフィンパウダーの製造方法の提供。
【解決手段】炭化水素溶媒に可溶な特定の有機マグネシウム化合物と特定のチタン化合物とを反応させた後、得られた固体粒子に対して機械的な剪断応力を加えて得られる固体触媒成分[A]及び特定の有機アルミニウム化合物からなる有機金属化合物成分[B]からなるオレフィン重合触媒を用いてオレフィンを重合させてポリオレフィンパウダーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィン重合触媒およびこれを用いたポリオレフィンパウダーの製造方法に関する。さらに詳しくは、低い嵩密度となるように粒子形状が制御され、通気抵抗の低い多孔質体の原料として有用なポリオレフィンパウダーの提供を可能とするオレフィン重合触媒およびこれを用いたポリオレフィンパウダーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合触媒として、周期律表第4〜6族の遷移金属化合物と周期律表第1族、第2族、第3族、および第13族からなる群に含まれる有機金属化合物からなるチーグラー触媒系が一般に知られている。高活性を有するオレフィン重合触媒としては、有機マグネシウム化合物を使用した触媒系が多数提案されており、例えば、特許文献1や特許文献2等においては、有機マグネシウム化合物とチタン化合物とを反応させて得られるオレフィン重合触媒が記載されている。
【0003】
こうした触媒系を用いてオレフィンを重合もしくは共重合し、ポリオレフィンを製造する方法としては、スラリー重合または気相重合が一般に用いられる。これらの重合方法によって得られるポリオレフィンは、ある程度形状および粒径がそろったパウダーであり、粉末成形用材料、焼結成形用材料、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂の充填剤、塗料、接着剤、潤滑剤、ろ過剤、洗浄剤、分析カラム用吸着剤、被覆剤、液晶のスペーサー、トナー、触媒担体、化粧品基材等、幅広い分野における有用な素材として注目されている。
一方、スラリー重合または気相重合によって得られるポリオレフィンパウダーの粒子形状および嵩密度は固体触媒成分の粒子性状に大きく依存しているため、ポリオレフィンパウダーの更なる品質向上には固体触媒成分の改良が必要不可欠である。
【0004】
特許文献3においては、チタン、マグネシウム、およびハロゲンを必須成分として含有するチーグラー型触媒用固体成分であって、各成分の接触後において少なくとも一度は機械的粉砕処理に付した成分、特定のケイ素化合物、および有機アルミニウム化合物の接触生成物からなる固体触媒成分を使用して、高剛性かつ高衝撃強度で流動性の良いプロピレンブロック共重合体を製造する方法が記載されている。
特許文献4においては、粉砕処理を施したマグネシウム化合物と、液状状態のチタン化合物と、二個以上のエーテル結合を有する化合物とを接触させて得られる固体触媒成分を使用して、触媒活性が高く、立体特異性が高いオレフィン重合体およびオレフィン共重合体を製造する方法が記載されている。
【0005】
特許文献5においては、攪拌または剪断によって得られるマグネシウムアルコキシドのゼラチン状分散液と遷移金属化合物および有機金属化合物との反応生成物からなる触媒存在下に、粒度分布が狭いパウダーを製造する方法が記載されている。
特許文献6においては、マグネシウム化合物とハロゲン化剤を反応させて得られる固体生成物に炭化水素可溶性チタン化合物およびペルハロゲン化合物を反応させ、次いで平均粒度0.5〜5マイクロメートルに微粉砕することよりなる固体触媒成分を使用して、狭い粒度分布および100〜200μmの平均粒径を有する超高分子量エチレンポリマーを製造する方法が記載されている。
【0006】
特許文献7においては、ホモジナイザー中でチタン(IV)化合物を有機アルミニウム化合物によって還元して得られるチタン(III)化合物を使用してα−オレフィンを重合することにより、均一な粒子径分布と均一な結晶成長をもたらす方法が記載されている。
特許文献8においては、機械的磨砕によって60〜125マイクロメートルに平均粒径を制御したマグネシウムアルコラートと4価のチタン化合物および有機アルミニウム化合物との反応生成物よりなる触媒を使用して、狭い粒度分布および高い嵩密度を有する粗大なエチレン(共)重合体粒子を製造する方法が記載されている。
【0007】
このうち焼結成形用材料の分野においては、ポリオレフィンパウダーの嵩密度が焼結成形によって得られる多孔質体の通気抵抗に大きく関係しており、多孔質体の通気抵抗を下げるためには嵩密度の低いポリオレフィンパウダーを選択する必要がある。しかしながら、従来の触媒技術では、より精密に粒子性状が制御された嵩密度の低いポリオレフィンパウダーを高効率で得ることは困難であり、生産性の低い触媒の使用や、分級機や二次加工等の処理が必要であった。
【0008】
【特許文献1】特公昭58−4724号公報
【特許文献2】特公昭52−036915号公報
【特許文献3】特許第2834226号公報
【特許文献4】特許第2941015号公報
【特許文献5】特表2005−527675号公報
【特許文献6】特許第3308046号公報
【特許文献7】特開平2−189306号公報
【特許文献8】特開平3−9904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、低い嵩密度となるように粒子形状が制御され、通気抵抗の低い多孔質体の原料として有用なポリオレフィンパウダーが高効率で得られるオレフィン重合触媒およびこれを用いたポリオレフィンパウダーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の有機マグネシウム化合物と特定のチタン化合物とを反応させた後、機械的に剪断応力を加えることによって得られるオレフィン重合触媒を用いてオレフィンを重合すると、分級機や二次加工等の処理を必要とせず嵩密度の低いポリオレフィンパウダーが高効率で得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)固体触媒成分[A]および有機金属化合物成分[B]からなるオレフィン重合触媒において、固体触媒成分[A]が下記一般式(1)
Mg・・・・・(1)
(上記一般式(1)中、Mは周期律表第1族、第2族、第3族、第12族および第13族からなる群に含まれる金属原子、RおよびRは炭素数2〜20の炭化水素基、XおよびYは同一または異なるOR、OSiR、NR、SR、ハロゲンから選ばれた官能基、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基、R、R、R、R、およびRは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、E、G、p、q、r、およびsは、E≧0、G>0、p≧0、q≧0、r≧0、s≧0、p+q>0、0≦(r+s)/(E+G)≦2、kE+2G=p+q+r+s(kはMの原子価)を満たす数である。)
で示される炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と、下記一般式(2)
Ti(OR104−w・・・・・(2)
(上記一般式(2)中、R10は炭化水素基、Zはハロゲン、wは0≦w≦4を満たす数
である。)
で示されるチタン化合物とを反応させた後、得られた固体粒子に対して機械的な剪断応力を加えることによって調製され、これに前記有機金属化合物成分[B]として、下記一般式(3)
AlR113−f・・・・・(3)
(上記一般式(3)中、R11は炭素数1〜12の炭化水素基、Tは水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基より選ばれた基であり、fは2〜3の数である。)
で示される有機アルミニウム化合物を混合して得られることを特徴とするオレフィン重合触媒。
(2)前記機械的な剪断応力が、粉砕装置によって加えられることを特徴とする、上記(1)に記載のオレフィン重合触媒。
(3)前記粉砕装置がボールミルであることを特徴とする、上記(2)に記載のオレフィン重合触媒。
(4)前記粉砕装置が、ロータ/ステータ方式のホモジナイザーであることを特徴とする、上記(2)に記載のオレフィン重合触媒。
(5)エチレンの単独重合あるいはエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとを共重合する際に、上記(1)から(4)のいずれかに記載のオレフィン重合触媒を用い、嵩密度が0.2〜0.3グラム/ミリリットルのポリオレフィンパウダーを得ることを特徴とする、ポリオレフィンパウダーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によって得られるオレフィン重合触媒を用いてオレフィンを重合すると、低い嵩密度となるように粒子形状が制御され、通気抵抗の低い多孔質体の原料として有用なポリオレフィンパウダーが高効率で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本願発明について具体的に説明する。なお、本発明において「重合」という語は単独重合のみならず共重合を包含した意味で用いられることがあり、また、「重合体」という語は単独重合体のみならず、共重合体を包含した意味で用いられることがある。
本発明における炭化水素溶媒は不活性であることが重要であり、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、または、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いられる炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物としては、下記一般式(1)で示される有機マグネシウム化合物が用いられる。
Mg・・・・・(1)
(上記一般式(1)中、Mは周期律表第1族、第2族、第3族、第12族および第13族からなる群に含まれる金属原子、RおよびRは炭素数2〜20の炭化水素基、XおよびYは同一または異なるOR、OSiR、NR、SR、ハロゲンから選ばれた官能基、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基、R、R、R、R、およびRは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、E、G、p、q、r、およびsは、E≧0、G>0、p≧0、q≧0、r≧0、s≧0、p+q>0、0≦(r+s)/(E+G)≦2、kE+2G=p+q+r+s(kはMの原子価)を満たす数である。)
なお、周期律表の族番号は、IUPAC(国際純正および応用化学連合)無機化学命名法で1989年に定められた命名法を用いた。
【0015】
この化合物は、炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物およびこの化合物と他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。記号E、G、p、q、r、およびsの関係式kE+2G
=p+q+r+sは、金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。 全金属原子に対するXとYのモル組成比(r+s)/(E+G)の範囲は0≦(r+s)/(E+G)≦2であり、特に0≦(r+s)/(E+G)≦1が好ましい。
【0016】
上記の式中R、R、R、およびRで表される炭化水素基は、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が挙げられ、Rはアルキル基であることが好ましい。また、R、R、R、R、およびRが炭化水素基である場合は、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、アルキル基またはアリール基が好ましい。
【0017】
E>0の場合、金属原子Mとしては、周期律表第1族、第2族、第3族、第12族、および第13族からなる群に含まれる金属元素を使用することができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ベリリウム、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられるが、特にアルミニウム、ホウ素、ベリリウム、亜鉛が好ましい。金属原子Mに対するマグネシウムの比G/Eは、任意に設定可能であるが、0.1〜30の範囲が好ましく、特に0.5〜10の範囲が好ましい。
【0018】
本発明においてこれらの有機マグネシウム化合物は、一般式RMgZおよびRMg(式中、Rは前述の意味であり、Zはハロゲンである)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と一般式MおよびMk−1H(式中、M、R、およびkは前述の意味である)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、室温〜150℃の間で反応させ、必要な場合には続いて、これをさらにアルコール、水、シロキサン、アミン、イミン、メルカプタン、またはジチオ化合物等の追加成分と反応させることによって合成される。反応の順序については、有機マグネシウム化合物中に追加成分を加えていく方法、追加成分に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、または両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。
【0019】
さらに、これらの有機マグネシウム化合物は、一般式MgXおよびRMgXからなる群に属する有機マグネシウム化合物と一般式MおよびMk−1Hからなる群に属する有機金属化合物との反応、または、一般式RMgXおよびRMgからなる群に属する有機マグネシウム化合物と一般式Rk−tからなる群に属する有機金属化合物との反応、または、一般式RMgXおよびRMgからなる群に属する有機マグネシウム化合物と一般式Yk−t(式中、M、R、R、X、およびYは前述の意味であって、XおよびYがハロゲンである場合を含み、tは0〜kの数である。)からなる群に属する有機金属化合物との反応によっても合成することができる。
【0020】
本発明において一般式(1)で示される有機マグネシウム化合物としては、一般式(1)においてr=s=0となる有機マグネシウム化合物、一般式(1)においてs=0、X=ORとなる有機マグネシウム化合物、あるいは一般式(1)においてr=s=0となる有機マグネシウム化合物と、下記一般式(4)で示される鎖状または環状のシロキサン化合物との反応物を用いることが特に好ましい。
【0021】
【化1】

(上記一般式(4)中、R12、R13は水素または炭素数1〜10の炭化水素基、eは2〜40の整数である。)
【0022】
一般式(1)においてs=0、X=ORとなる有機マグネシウム化合物のRで表される炭化水素基としては、炭素原子数1〜12のアルキル基またはアリール基が好ましく、特に3〜10のアルキル基またはアリール基が好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−エチル−4−メチルペンチル基、2−プロピルヘプチル基、2−エチル−5−メチルオクチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルペンチル基および2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
【0023】
一般式(4)においてR12およびR13で表される炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基および炭素数7以下の芳香族炭化水素基が好ましく、メチル基およびフェニル基が特に好ましい。シロキサン化合物としてはポリヒドロメチルシロキサン、ポリヒドロフェニルシロキサンが好ましい。また、eは2〜40の整数であるが、4〜20が好ましく、7〜15が特に好ましい。
【0024】
一般式(1)においてr=s=0となる有機マグネシウム化合物と、一般式(4)で表される鎖状または環状のシロキサン化合物との反応は、不活性炭化水素溶媒中で行われることが好ましい。反応温度は10℃〜150℃が好ましく、40℃〜90℃が特に好ましい。反応時間について特に制限はないが、3時間以上であることが好ましい。また、一般式(4)で表される鎖状または環状のシロキサン化合物の使用量は、一般式(1)においてr=s=0となる有機マグネシウム化合物中の全金属原子に対するモル比で0.3〜5の範囲が好ましく、0.5〜2の範囲が特に好ましい。
【0025】
本発明において一般式(1)で示される有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶媒に不活性であり、E>0であるところの有機マグネシウム化合物は可溶性である。また、E=0となる有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、Rが1−メチルプロピル等の場合には炭化水素溶媒に可溶性であり、このような化合物も本発明に好ましい結果を与える。
【0026】
一般式(1)において、E=0の場合のR、Rは、以下に示す三つの群(i)、(ii)、(iii)のいずれか一つであることが推奨される。
(i)R、Rの少なくとも一方が炭素原子数4〜6である二級または三級のアルキル基であること、好ましくはR、Rがともに炭素原子数4〜6であり、少なくとも一方
が二級または三級のアルキル基であること。
(ii)R、Rが、炭素原子数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはRが炭素原子数2または3のアルキル基であり、Rが炭素原子数4以上のアルキル基であること。
(iii)R、Rの少なくとも一方が炭素原子数6以上の炭化水素基であること、好ましくはR、Rに含まれる炭素原子数を加算すると12以上になるアルキル基であること。
【0027】
以下、これらの基を具体的に示す。
(i)において炭素原子数4〜6である二級または三級のアルキル基としては、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、2−メチルブチル基、2−エチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2−メチル−2−エチルプロピル基等が用いられ、1−メチルプロピル基が特に好ましい。
【0028】
次に(ii)において炭素原子数2または3のアルキル基としては、エチル基、1−メチルエチル基、プロピル基等が挙げられ、エチル基が特に好ましい。また炭素原子数4以上のアルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられ、ブチル基、ヘキシル基が特に好ましい。
さらに、(iii)において炭素原子数6以上のアルキル基としては、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フェニル基、2−ナフチル基等が挙げられ、炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル基、オクチル基が特に好ましい。
【0029】
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると炭化水素溶媒に溶けやすくなるが、溶液の粘性が高くなるため、溶解性を満足させる範囲で炭素原子数の少ないアルキル基を用いることが好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は炭化水素溶液として使用されるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のコンプレックス化剤がわずかに含有されあるいは残存していても差し支えなく用いることができる。
なお、本発明に用いられる炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物は、固体触媒成分[A]の触媒機能を工業的なレベルにまで増幅させる点において極めて重要な役割を果たしている。
【0030】
本発明に用いられるチタン化合物としては下記一般式(2)で示されるチタン化合物が用いられる。
Ti(OR104−w・・・・・(2)
(上記一般式(2)中、R10は炭化水素基、Zはハロゲン、wは0≦w≦4を満たす数である。)
【0031】
10で表される炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、アリル基等の脂肪族炭化水素基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられるが、脂肪族炭化水素基が特に好ましい。Zで表されるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、塩素が特に好ましい。また、上記から選ばれたチタン化合物を2種以上混合した形で用いることも可能である。
【0032】
本発明において一般式(2)で示されるチタン化合物の総使用量は、一般式(1)で示される有機マグネシウム化合物中に含まれるマグネシウム原子1モルに対して、0.05〜20モルの範囲が好ましく、0.2〜10モルの範囲がより好ましく、0.5〜5モル
の範囲が特に好ましい。一般式(1)で示される有機マグネシウム化合物と一般式(2)で示されるチタン化合物との反応は不活性炭化水素溶媒中で行われるが、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが好ましい。
【0033】
本発明において炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とチタン化合物の添加方法としては、炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物に続いてチタン化合物を添加する方法、チタン化合物に続いて炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物を添加する方法、両方を同時に添加する方法、のいずれの方法も可能であるが、炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とチタン化合物の両方を同時に添加する方法が、析出する固体粒子の均一性および取扱い性の点で好ましい。接触させる温度について特に制限はないが、−80℃〜150℃の範囲で行うことが好ましく、−40℃〜100℃の範囲で行うことが特に好ましい。
【0034】
本発明における固体触媒成分[A]は、一般式(1)で示される炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と、一般式(2)で示されるチタン化合物とを反応させた後、得られた固体粒子に対して機械的に剪断応力を加えることによって調製される。ここで、本発明における機械的な剪断応力とは、衝撃とキャビテーションをもつ摩擦荷重を与えることによって生じるずれの応力である。なお、本発明における機械的な剪断応力は、固体粒子の析出反応が完了した後に加える。
【0035】
本発明において炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とチタン化合物とを反応させた後に加える機械的な剪断応力は、固体粒子が不活性炭化水素溶媒中に分散したスラリー状態で加えることが好ましく、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが特に好ましい。また、スラリー濃度としては、1〜150グラム/リットルの範囲にあることが好ましく、5〜100グラム/リットルの範囲にあることが特に好ましい。
【0036】
一般に、固体粒子が液中に分散したスラリー状態で機械的な剪断応力が加わると、粒子が粉砕され、微粒子化される、均一な粒度分布になる、粒子の分散性が向上する、あるいは粒子の形状が整う等の効果が得られるが、本発明では、機械的な剪断応力を加えることによって、固体触媒成分[A]の粒子形状を嵩高くすることに特徴がある。ガス法またはスラリー法によってオレフィンを重合する場合には、固体触媒成分[A]の形状がポリオレフィンパウダーの形状に直接反映されるため、嵩高い固体触媒成分[A]を用いてオレフィンを重合することによって、低嵩密度のポリオレフィンパウダーを得ることができる。
【0037】
本発明において一般式(1)で示される炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と、一般式(2)で示されるチタン化合物とを反応させて得られる固体粒子は、平均粒径が0.5〜20マイクロメートルの範囲が好ましく、より好ましくは1〜20マイクロメートルの範囲にあり、特に不活性炭化水素溶媒中において凝集しやすい特徴を有している。一方で、上記固体粒子は、外部エネルギーによる形状変化を受けやすいという特徴も有している。つまり、これら両方の特徴に起因する現象として、上記固体粒子に機械的な剪断応力が加えられることで形状変化と凝集が繰り返され、非常に嵩高い粒子が形成されることになる。なお、上記固体粒子の平均粒径が上記の範囲にない場合には、機械的な剪断応力による嵩高い粒子の形成が十分に進行しないことがある。ここで、本発明における平均粒径とは、累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径である。
【0038】
本発明において、機械的に剪断応力を加えるための装置としては、粉砕装置であることが好ましい。また、粉砕装置としては、ボールミル、ビーズミル、チューブミル、ロッドミル、振動ミル、あるいはロータ/ステータ方式のホモジナイザー等の湿式で使用可能な粉砕装置が例示されるが、ボールミルまたはロータ/ステータ方式のホモジナイザーが、
過度な微細化を抑えながら嵩高い粒子が得られる点で好ましい。
本発明におけるボールミルとは、硬質ボールと原料粉体を円筒形の缶体に入れて回転させることにより原料粉体をすりつぶす装置である。硬質ボールとしては、ジルコニア、アルミナ、天然ケイ石、ガラス等のセラミックスボール、鋼、ステンレス等の金属ボール、鉄芯入りナイロン球、鉄芯入りテフロン(登録商標)球等の金属被覆ボール、ナイロン、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン等の樹脂製ボール等が例示される。
【0039】
本発明におけるロータ/ステータ方式のホモジナイザーとは、二つの歯形リングからなる遠心力を利用した分散装置である。外側の固定された歯形リングをステータ(固定刃)、ステータの内側で回転する歯型リングをロータ(回転刃)といい、シャフトを介しモーターによって駆動する。原料粉体は、回転するロータとステータとの間で発生する剪断応力によってすりつぶされる。
本発明におけるビーズミルとは、中央に回転軸を有するベッセル(容器)の中にビーズ(メディア)を充填して回転軸の回転による動きを与え、ここに送り込んだ原料粉体をビーズですりつぶす装置である。
【0040】
本発明におけるチューブミルとは、チューブ型の缶体の一端より原料粉体を供給し、他端より取り出す連続式のボールミルである。
本発明におけるロッドミルとは、円筒形の缶体内面の長さよりやや短い棒状のロッドと原料粉体を円筒形の缶体に入れて回転させることにより原料粉体をすりつぶす装置である。構造的にはボールミルとほぼ同じあるが、ボール間は点で接触するのに対し、ロッド間は線で接触するため、ボールミルよりも粗粒を優先的にすりつぶす特徴を有している。
本発明における振動ミルとは、原料粉体を挿入した粉砕筒を高速円振動させることによって、原料粉体をすりつぶす装置である。
【0041】
本発明において機械的に剪断応力を加える温度については、固体触媒成分[A]の触媒活性が劣化しない−50〜100℃の範囲が好ましく、−20〜70℃の範囲が特に好ましい。また、本発明において機械的に剪断応力を加える時間については、所望の固体触媒成分[A]が得られる時間であれば特に制限はないが、嵩高い粒子の形成が十分に進行し、さらに重合によって得られるポリオレフィンパウダーの流動性や輸送時の包装等、工業的な観点からも望ましいパウダーが得られることから、5分間〜100時間の範囲が好ましく、10分間〜30時間の範囲が特に好ましい。
かくして得られた固体触媒成分[A]は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。本発明の固体触媒成分[A]は、有機金属化合物成分[B]と組み合わせることにより、さらに高活性な重合用触媒となる。
【0042】
本発明における有機金属化合物成分[B]としては下記一般式(3)で示される有機アルミニウム化合物が用いられる。
AlR113−f・・・・・(3)
(上記一般式(3)中、R11は炭素数1〜12の炭化水素基、Tは水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基より選ばれた基であり、fは2〜3の数である。)
なお、上記の有機アルミニウム化合物は、単独で用いてもよいし、複数の有機アルミニウム化合物からなる混合物として用いてもよい。
【0043】
上記の式中R11で表される炭素数1〜20の炭化水素基は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素を包含するものである。これらの化合物を具体的に示すと、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリス(3−メチルブチル)アルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイド
ライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素化アルミニウム化合物、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム化合物、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム化合物、ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルミニウム化合物およびこれらの混合物が好ましく、トリアルキルアルミニウム化合物、水素化アルミニウム化合物およびこれらの混合物が特に好ましい。
【0044】
固体触媒成分[A]および有機金属化合物成分[B]の混合は、重合条件下で重合系内に添加する場合または重合に先立って組み合わせる場合のいずれも含む。また組み合わせる両成分の比率は、固体触媒成分[A]1gに対し有機金属化合物[B]が1〜3000ミリモルの範囲で行うのが好ましい。
かくして得られた触媒は、オレフィンの重合、特にエチレンの重合、およびエチレンと炭素数3以上のオレフィンとの共重合に対して、チタン当たりの活性が高く、かつ触媒当たりの活性が非常に高く、得られるポリオレフィンが高品質かつ均質であるという特徴を有する。本発明の触媒系で重合する炭素数3以上のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが特に好ましい。このうちのいくつかを組み合わせて、エチレンと共重合することもできる。また、ブタジエン、イソプレン等のジエンの共存下にオレフィンを重合することも可能であり、さらにはジエンを重合することも可能である。
【0045】
本発明におけるポリオレフィンの製造方法について特に制限はなく、一般的に用いられている溶液法、高圧法、高圧バルク法、ガス法、スラリー法のいずれの製造方法を用いてもよい。ポリオレフィンパウダーを直接的に得る場合にはガス法またはスラリー法を用いるが、スラリー重合が特に好ましい。本発明における重合圧力について特に制限はなく、通常はゲージ圧として0.1MPa〜300MPaであるが、スラリー重合の場合には常圧〜10MPaが好ましい。本発明における重合温度について特に制限はなく、通常は25℃〜300℃であるが、スラリー重合の場合には25℃〜120℃が好ましく、50℃〜100℃が特に好ましい。本発明におけるスラリー重合の溶媒としては、通常使用される不活性炭化水素溶媒が用いられる。
【0046】
本発明によって得られる重合体の分子量は、重合系に存在させる水素の濃度を変化させるか、重合温度を変化させるか、または有機金属化合物[B]の濃度を変化させることによって調節することができる。また、二個以上の反応器を直列および/または並列につなぎこむことによって、分子量分布、側鎖分布等を制御することができる。
本発明におけるポリオレフィンパウダーの分子量について特に制限はないが、焼結成形材料として用いる場合には、焼結成形時に空孔の形成を阻害する要因となる樹脂の流動が少なく、かつ、隣り合うポリオレフィン樹脂粒子の融着性に優れるため、粘度平均分子量が5万〜700万の範囲にあることが好ましく、10万〜500万の範囲にあることがより好ましく、20万〜400万であることが特に好ましい。なお、本発明における粘度平均分子量は、ポリマー溶液の比粘度から求めた極限粘度を粘度平均分子量に換算した値を指す。
【0047】
本発明のオレフィン重合触媒によって得られるポリオレフィンパウダーは、嵩密度が0.2〜0.3グラム/ミリリットルであることを特徴としている。嵩密度が0.3グラム/ミリリットルより低いポリオレフィンパウダーは粉体素材として有用であるが、特に焼
結成形用材料に適しており、焼結成形によって通気抵抗の低い多孔質体を得ることができる。また、一般に嵩密度が低いポリオレフィンパウダーの製造はポリオレフィンパウダーおよびスラリーの流動性、輸送時の包装等、工業的な観点で難易度が高いため、ポリオレフィンパウダーの嵩密度が0.2グラム/ミリリットルより高い必要がある。
なお、本発明におけるポリオレフィンパウダーにより成形された多孔質体の通気抵抗とは、後述する方法に基づいて測定した圧力損失の値であり、特に制限はないが、該多孔体の通気抵抗としては、180〜800ミリメートルAqであることが好ましく、200〜700ミリメートルAqであることがより好ましく、250〜500ミリメートルAqであることが特に好ましい。
【0048】
本発明におけるポリオレフィンパウダーを焼結成形する場合には、ポリオレフィンパウダーを所望の形状に堆積もしくは金型内に充填した後、粒子間に間隙を残しつつ無加圧または加圧の状態で融点以上に加熱すればよい。ポリオレフィンパウダーの表層が加熱融着することによって、連続空孔を容易に形成することができる。なお、本発明における連続空孔とは、多孔質体のある面からその他の面へ連続している空孔である。この空孔は、直線的であっても曲線的であっても良い。また、全体が均一な寸法であっても良いし、例えば表層と内部、あるいは一方の表層と他方の表層とで空孔の寸法を変えたものであっても良い。
次に、実施例および比較例によって本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例および比較例で使用したヘキサンはユニオン昭和株式会社製MS−13Xを用いて脱水したものを使用した。
本発明の実施例および比較例で使用したエチレンはユニオン昭和株式会社製MS−3Aを用いて脱水したものを使用した。
[平均粒径の測定]
本発明における平均粒径とは、累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径である。実施例および比較例における固体触媒成分[A]およびポリオレフィンパウダーの平均粒径は、株式会社島津製作所製SALD−2100を用いて測定した。
[粘度平均分子量の測定]
【0050】
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィンパウダーの粘度平均分子量は、以下に示す方法によって求めた。まず、20ミリリットルのデカリン(デカヒドロナフタレン)にポリマー10mgをいれ、150℃で2時間攪拌してポリマーを溶解させた。その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(t)を測定した。同様に、ポリマー5mgの場合についても測定した。ブランクとしてポリマーを入れていない、デカリンのみの落下時間(t)を測定した。以下の式に従って求めたポリマーの比粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)とポリマーの比粘度(ηsp/C)の直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度(η)を求めた。
ηsp/C=(t/t−1)/0.1
この極限粘度(η)から以下の式に従い、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=5.34×10η1.49
【0051】
[嵩密度の測定]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィンパウダーの嵩密度は、該ポリオレフィンパウダーに滑剤等の添加剤を添加することなく、JIS K 6892に準じて測定することによって求めた。
[表面観察写真の撮影]
本発明の実施例および比較例におけるポリオレフィンパウダーの表面観察写真は、株式
会社日立ハイテクノロジーズ製TM−1000を用い、帯電軽減モードで、加速電圧15kV、倍率300倍の条件で撮影した。
【0052】
[通気抵抗の測定]
本発明の実施例および比較例における焼結シートの通気抵抗は、以下に示す方法によって求めた。まず、内径6ミリメートルの塩ビホースを用い、流量計、圧力計、および内径20ミリメートルのゴムカップを図1のように接続した。25℃にて1キログラム/平方センチメートルの圧縮空気を50ノルマルリットル/分の流量で流し、ゴムカップの縁全面がふさがれるようにして焼結シートに密着させ、圧力計が示す値を測定した。1枚の焼結シートについて等間隔に計6点測定して平均値を算出し、通気抵抗とした。
【0053】
[実施例1]
(1)固体触媒成分[A]の調製
充分に窒素置換された200ミリリットルのステンレス製オートクレーブに組成式AlMg(C12(Cで表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液40ミリリットル(アルミニウムとマグネシウムの総量として37.8ミリモル相当)を仕込み、25℃で攪拌しながらメチルヒドロポリシロキサン2.27グラム(37.8ミリモル)を含有するヘキサン40ミリリットルを30分かけて滴下した。滴下後、80℃に昇温し、3時間攪拌しながら反応させることにより、チタン化合物と接触させる有機マグネシウム化合物を得た。
【0054】
充分に窒素置換された200ミリリットルのガラス製丸底フラスコにヘキサン40ミリリットルを仕込み、−10℃で攪拌しながら、上記有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液40ミリリットル(マグネシウム16ミリモル相当)と、0.4モル/リットルの四塩化チタンヘキサン溶液50ミリリットルとを、2時間かけて同時に滴下した。滴下後、さらに1時間攪拌した。この際、最終的に10℃となるよう徐々に昇温させた。その後、上澄み液を除去し、ヘキサン70ミリリットルでの洗浄を4回行うことにより、固体触媒成分[A]の前駆体となる固体粒子を調製した。得られた固体粒子の平均粒径は3.6マイクロメートルであった。
【0055】
直径13ミリメートルのステンレス製ボール16個と直径9ミリメートルのステンレス製ボール14個を充填した内容積115ミリリットルのステンレス製ポットに、50グラム/リットルに調整した上記固体粒子のヘキサンスラリー30ミリリットルを窒素ガス雰囲気下で導入した。その後、ポットを20℃の室内に設置したボールミル回転架台にのせ、速度150rpmで8時間回転させた。所定時間経過後、窒素グローブボックス中でスラリーを回収し、固体触媒成分[A]を得た。得られた固体触媒成分[A]の平均粒径は、4.3マイクロメートルであった。
【0056】
(2)オレフィンの重合
有機金属化合物成分[B]としてのトリイソブチルアルミニウム0.4ミリモルと上記の固体触媒成分[A]10ミリグラムを、脱水脱酸素したヘキサン0.8リットルとともに、内部を真空脱気し窒素置換した内容積1.5リットルのオートクレーブに入れた。オートクレーブの内温を70℃に保ち、エチレンを添加して全圧を0.2MPaとすることにより重合を開始した。エチレンを補給することにより全圧を0.2MPaに保ちつつ30分間重合を行った。重合後、ろ過によってポリマーを回収し、メタノール洗浄および乾燥を経てポリオレフィンパウダーを得た。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表1に示す。また、得られたポリオレフィンパウダーの表面観察写真を図2に示す。ポリオレフィンパウダーの表面には焼結成形材料として好ましい形態である網目状の細孔が多数認められた。
【0057】
(3)焼結シートの作成
厚さ2ミリメートルのアルミニウム板を用いて、外寸が厚さ6ミリメートル、幅112ミリメートル、高さ108ミリメートル、内寸が厚さ2ミリメートル、幅100ミリメートル、高さ100ミリメートルの金型を作成した。金型の上蓋となるアルミニウム板を外し、30秒間バイブレーターで振動を与えながら上記ポリオレフィンパウダーを充填した。上蓋を元に戻した後、150℃のオーブンで25分間加熱して平板状の焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は360ミリメートルAqであった。
【0058】
[比較例1]
ボールミルによる機械的な剪断応力を加えなかったこと以外は、実施例1と同様の操作で固体触媒成分[A]の調製およびオレフィンの重合を行った。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表1に示す。また、得られたポリオレフィンパウダーの表面観察写真を図3に示す。
実施例1と同様の操作で上記ポリオレフィンパウダーの焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は1270ミリメートルAqと大きな値を示した。
【0059】
【表1】

【0060】
[実施例2]
窒素グローブボックス中に設置したシャフト径20ミリメートルのロータ/ステータ方式のホモジナイザーを用い、実施例1(1)で合成した固体触媒成分[A]の前駆体となる固体粒子のヘキサンスラリー50ミリリットル(60グラム/リットル)に、ロータ回転速度30000rpmで30分間剪断応力を加えた。なお、スラリーの温度は25℃であった。所定時間経過後、窒素グローブボックス中でスラリーを回収し、固体触媒成分[A]を得た。得られた固体触媒成分[A]の平均粒径は、3.8マイクロメートルであった。その後、実施例1と同様の操作でオレフィンの重合を行った。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表2に示
す。
実施例1と同様の操作で上記ポリオレフィンパウダーの焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は440ミリメートルAqであった。
【0061】
[実施例3]
ボールミル回転架台にのせたポットを4時間回転させたこと以外は、実施例1と同様の操作で固体触媒成分[A]を得た。得られた固体触媒成分[A]の平均粒径は、4.6マイクロメートルであった。その後、実施例1と同様の操作でオレフィンの重合を行った。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表2に示す。
実施例1と同様の操作で上記ポリオレフィンパウダーの焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は450ミリメートルAqであった。
【0062】
[実施例4]
ボールミル回転架台にのせたポットを16時間回転させたこと以外は、実施例1と同様の操作で固体触媒成分[A]を得た。得られた固体触媒成分[A]の平均粒径は、4.2マイクロメートルであった。その後、実施例1と同様の操作でオレフィンの重合を行った。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表2に示す。
実施例1と同様の操作で上記ポリオレフィンパウダーの焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は300ミリメートルAqであった。
【0063】
[実施例5]
充分に窒素置換された8リットルのステンレス製オートクレーブにヘキサン2400ミリリットルを仕込み、−5℃で攪拌しながら、組成式AlMg(C12(OCで表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液1300ミリリットル(マグネシウム521ミリモル相当)と0.5モル/リットルの四塩化チタンのヘキサン溶液1300ミリリットルとを、2時間かけて同時に滴下した。滴下後、さらに10℃で1時間攪拌しながら熟成させた後、上澄み液を除去し、ヘキサン3000ミリリットルでの洗浄を4回行うことにより、固体触媒成分[A]の前駆体となる固体粒子を調製した。得られた固体粒子の平均粒径は7.1マイクロメートルであった。
【0064】
直径25ミリメートルのステンレス製ボール30個と直径20ミリメートルのステンレス製ボール30個を充填した内容積2900ミリリットルのステンレス製ポットに、50グラム/リットルに調整した上記固体粒子のヘキサンスラリー800ミリリットルを窒素ガス雰囲気下で導入した。その後、ポットを20℃の室内に設置したボールミル回転架台にのせ、速度90rpmで16時間回転させた。所定時間経過後、窒素グローブボックス中でスラリーを回収し、固体触媒成分[A]を得た。得られた固体触媒成分[A]の平均粒径は、4.4マイクロメートルであった。
上記固体触媒成分[A]を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作でオレフィンの重合を行った。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表2に示す。
実施例1と同様の操作で上記ポリオレフィンパウダーの焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は320ミリメートルAqであった。
【0065】
[比較例2]
ボールミルによる機械的な剪断応力を加えなかったこと以外は、実施例5と同様の操作で固体触媒成分[A]の調製およびオレフィンの重合を行った。この重合により得られたポリオレフィンパウダーの収量、平均粒径、粘度平均分子量、および嵩密度を表2に示す。
実施例1と同様の操作で上記ポリオレフィンパウダーの焼結シートを得た。得られた焼結シートの通気抵抗は1400ミリメートルAqと大きな値を示した。
【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のオレフィン重合触媒によって得られるポリオレフィンパウダーは工業的に生産可能な範囲で嵩密度が低く、粉体素材として有用である。特に、このポリオレフィンパウダーは焼結成形材料に適しており、焼結成形によって通気抵抗の低い多孔質体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明において通気抵抗を測定する設備の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1において得られるポリオレフィンパウダーの表面観察写真である。
【図3】本発明の比較例1において得られるポリオレフィンパウダーの表面観察写真である。
【図4】本発明における触媒の構成を示すフローシート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体触媒成分[A]および有機金属化合物成分[B]からなるオレフィン重合触媒において、固体触媒成分[A]が下記一般式(1)
Mg・・・・・(1)
(上記一般式(1)中、Mは周期律表第1族、第2族、第3族、第12族および第13族からなる群に含まれる金属原子、RおよびRは炭素数2〜20の炭化水素基、XおよびYは同一または異なるOR、OSiR、NR、SR、ハロゲンから選ばれた官能基、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基、R、R、R、R、およびRは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、E、G、p、q、r、およびsは、E≧0、G>0、p≧0、q≧0、r≧0、s≧0、p+q>0、0≦(r+s)/(E+G)≦2、kE+2G=p+q+r+s(kはMの原子価)を満たす数である。)
で示される炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と、下記一般式(2)
Ti(OR104−w・・・・・(2)
(上記一般式(2)中、R10は炭化水素基、Zはハロゲン、wは0≦w≦4を満たす数である。)
で示されるチタン化合物とを反応させた後、得られた固体粒子に対して機械的な剪断応力を加えることによって調製され、これに前記有機金属化合物成分[B]として、下記一般式(3)
AlR113−f・・・・・(3)
(上記一般式(3)中、R11は炭素数1〜12の炭化水素基、Tは水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基より選ばれた基であり、fは2〜3の数である。)
で示される有機アルミニウム化合物を混合して得られることを特徴とするオレフィン重合触媒。
【請求項2】
前記機械的な剪断応力が、粉砕装置によって加えられることを特徴とする、請求項1に記載のオレフィン重合触媒。
【請求項3】
前記粉砕装置がボールミルであることを特徴とする、請求項2に記載のオレフィン重合触媒。
【請求項4】
前記粉砕装置が、ロータ/ステータ方式のホモジナイザーであることを特徴とする、請求項2に記載のオレフィン重合触媒。
【請求項5】
エチレンの単独重合あるいはエチレンと炭素数が3以上のオレフィンとを共重合する際に、請求項1から4のいずれかに記載のオレフィン重合触媒を用い、嵩密度が0.2〜0.3グラム/ミリリットルのポリオレフィンパウダーを得ることを特徴とする、ポリオレフィンパウダーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144147(P2008−144147A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289177(P2007−289177)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】