説明

オンコスタチンMを含有する抗HCV剤およびその利用

【課題】新たな抗HCV技術であり、特にオンコスタチンM(OSM)を用いた新技術の提供。
【解決手段】オンコスタチンMを含有する組成物を抗HCV剤とし、さらにオンコスタチンMとインターフェロン、シクロスポリンA、フルバスタチンまたはピタバスタチンとを組み合わせて適用されることを特徴とする抗HCV剤。またオンコスタチンMを含有しているC型肝炎に対する治療組成物、およびインターフェロン治療を必要とするC型肝炎患者に対して適用されることを特徴とする治療組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗HCV技術に関するものであり、より詳細には、オンコスタチンMを含有する抗HCV剤およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オンコスタチンM(OSM)は、リンパ腫細胞(U-937)が産生する、黒色腫細胞を抑制する抗腫瘍効果を有する液性因子として、1986年にZarlingらによって発見された(非特許文献1参照)。その後、構造が類似している点および受容体複合体にgp130を共通して含む点から、IL-6ファミリーの一員であることが明らかとなった。
【0003】
IL-6ファミリーのサイトカインとしては、OSM以外に、IL-6、IL-11、IL-27、ciliary neutrophic factor(CNTF)、cardiotrophin-like cytokine(CLC)、cardiotrophin-1(CT-1)、neuropoietin(NP)、Leukemia-inhibitory factor(LIF)が知られている。OSMの受容体はgp130とオンコスタチンM受容体(OSMR)とのヘテロダイマーから構成されている。
【0004】
OSMは、多機能なサイトカインとして知られており、抗腫瘍効果以外に、肝細胞の分化誘導、肝再生において重要な役割を果たすことが知られている。特許文献1には、OSMの肝細胞の分化誘導能を利用した、肝細胞(特に成熟肝細胞)の製造方法を開示している。特許文献2には、特許文献1の技術にさらにデキサメサゾン(DEX)を適用することにより、ヒト肝細胞の表現型にさらに近いヒト肝細胞様細胞を製造し、この細胞にC型肝炎ウイルス(HCV)を感染させることによるHCV粒子の産生系が開示されている。さらに、OSMおよびDEXで刺激した肝細胞の分化をHCVのコアタンパク質が抑制することも報告されている(非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−95138号公報(平成17年4月14日公開)
【特許文献2】特開2006−254896号公報(平成18年9月28日公開)
【特許文献3】特開2006−325582号公報(平成18年12月7日公開)
【非特許文献1】Proc. Nati. Acad. Sci. USA: Vol.83, p.9739-9743 (1986)
【非特許文献2】Biochem. Biophys. Res. Commun.: Vol.346, p.1125-30 (2006)
【非特許文献3】Blight et al., J. Virol. 77: p.3181-3190 (2003)
【非特許文献4】Ikeda et al., J. Virol. 76: p.2997-3006 (2002)
【非特許文献5】Pietschmann et al., J. Virol. 76: p.4008-4021 (2002)
【非特許文献6】Ikeda et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 329: p.1350-1359 (2005)
【非特許文献7】Wakita et al., Nat. Med. 11: p.791-796 (2005)
【非特許文献8】Bader et al., A. J. Gastroenterol. Vol.103: p.383-1389 (2008)
【非特許文献9】瀬崎ら、肝臓 49巻 1号 22-24頁(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HCVは非A非B型肝炎の原因ウイルスとして1989年に発見同定されたフラビウイルス科に属するRNAウイルスである。HCVは持続感染を成立させるウイルスであることから、HCV感染により引き起こされる肝炎(C型肝炎)は高率に慢性肝炎に移行する。その後、二十数年の経過のなかで肝硬変、そして最終的に肝細胞癌発症に至ることが明らかになっている。
【0006】
インターフェロン(以下「IFN」と記載する)のみが、C型慢性肝炎に対して単独で抗ウイルス効果を示す治療薬として知られている。著効率を上げることを目的として、近年になって核酸構造類似体で幅広い抗ウイルス活性を示すことが知られていたリバビリン(単独ではC型肝炎には効果がない)とIFN−αとの併用療法(2001年12月に保険適用認可)や、IFN−αにポリエチレングリコールを結合させてIFN−αの血中での安定性を高め、かつ腎排泄度を低下させたPEG-IFN−αを用いた療法(2003年12月使用認可)が行われるようになっている。しかし、約半数の患者には治癒が望めないことから、IFN療法の限界も明らかになっている。
【0007】
IFN以外には、スタチン剤のなかでも抗HCV活性の強いフルバスタチン(FLV)の臨床での有用性が国内外から報告されている(非特許文献8および9参照)。しかし、抗HCV剤として提示されている物質は極めて限られている。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、新たな抗HCV技術を提供することにあり、特にOSMを用いた新技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
HCV感染者の数は日本国内で約200万人、世界で約2億人と推定されている。最近の社会的問題にもなっているフィブリノゲン製剤によるHCV感染という事態からもわかるように、HCVに感染していることを自覚していないいわゆる無症候性キャリアーも多数存在している。現在、日本国内における肝細胞癌による犠牲者は年間約3.5万人となっており、その8割はHCV感染によるものである。また、その前段階である肝硬変においても年間約2万人が犠牲となっている。したがって、HCVは深刻な感染症を引き起こすウイルスであると言える。
【0010】
HCVが増殖し、その感染、複製、粒子産生、再感染が繰り返される状態(すなわちHCVの生活環)が再現されるシステムを得ることは、抗HCV技術の開発に非常に有用である。しかしながら、HCVの発見以後、多くの培養細胞や動物を用いて人工増殖システムの開発が試みられたものの、実用的なものは得られなかった。また、HCV感染のモデル動物はチンパンジーのみであり、これに代わる動物は未だ見つかっていない。また、抗HCV剤の開発にあたって、多数のモデル動物(チンパンジー)を用いた薬理試験を実施することができないため、代替の薬効評価システムが必要とされている。
【0011】
抗HCV剤の開発にあたって、多数のモデル動物(チンパンジー)を用いた薬理試験を容易に実施することができないため、代替の薬効評価システムが必要とされている。このようなシステムとして、全長HCVゲノムの複製システムが開発され、これまでに、3種類のHCV株(N株、Con−1株およびH77株)の全長ゲノムを複製できる細胞(全長HCV RNA複製システム)の樹立が報告されている(非特許文献3〜5参照)。また、レポーター遺伝子を含む、HCVゲノムの複製レベルをモニタリングし得るアッセイ系(非特許文献6および特許文献3参照)が開発されている。
【0012】
また、抗HCV剤を開発するには、HCVタンパク質を評価することも重要である。非特許文献7には、2a遺伝子型に属するJFH1株HCVを用いた感染性HCV粒子産生細胞(HuH-7細胞由来のクローン化細胞)が開示されている。
【0013】
上述したように、OSMおよびDEXは、肝細胞の分化誘導に必要な物質である。本発明者らは、OSMおよびDEXを用いたHCV粒子の産生系を利用したHCV生活環再現システムおよび感染性HCV粒子産生細胞の構築を試みていた。その過程において、本発明者らはこれらの物質の能力を検証したところ、全く予期し得なかったOSMの能力を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明に係る抗HCV剤は、OSMを含有していることを特徴としている。本発明において、OSMは、(i) 配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、または(ii) 配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されているアミノ酸配列からなり、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質であり得る。また、本発明において、OSMは、(i) 配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、(ii) 配列番号5に示される塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質、(iii) 配列番号5に示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドによってコードされ、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質、または(iv) 配列番号5に示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有するポリヌクレオチドによってコードされ、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質であり得る。
【0015】
特許文献1および2に開示されるように、HCV粒子の産生系を構築する際にOSMおよびDEXは有用である。効率よくHCV粒子を産生させるためには、HCV RNAの複製効率がよいことが重要である。本発明者らは、肝細胞の分化誘導に用いられる物質が、HCV RNAの複製を抑制しないことを検証した。期待通り、DEXや他の増殖因子がHCV RNAの複製に影響を与えないことを確認した。しかし、OSMのみがHCV RNAの複製を抑制することは全くの予想外であった。
【0016】
OSMは20年以上前に発見された、かなり研究の進んでいるサイトカインである。HCVコアタンパク質がOSMの肝細胞分化作用を抑制することが報告されているが、OSMの「抗ウイルス効果」を教示または示唆する報告は全くなされていない。HCV粒子の産生系を作製するための、ES細胞から肝細胞への分化誘導に必要なOSMが、実は抗HCV活性を有しているという知見は、全く予期され得るものではなかった。また、構造が類似するIL-6もIL-6ファミリーの他の分子もまた、抗HCV活性を有していなかった。このように、OSMの抗HCV活性は、その構造面からも全く予期し得ない知見である。
【0017】
本発明に係る抗HCV剤は、IFN、シクロスポリン(CsA)、FLVまたはピタバスタチン(PTV)と組み合わせて適用されることが好ましい。
【0018】
本発明に係る治療組成物は、C型肝炎を治療するために、OSMを含有していることを特徴としている。本発明に係る治療組成物は、IFN治療を必要とするC型肝炎患者に対して適用されることが好ましく、対象とされるC型肝炎は慢性肝炎であってもよい。また、本発明に係る治療組成物は、IFN、CsA、FLVまたはPTVをさらに含有していてもよい。
【0019】
本発明に係る治療キットは、C型肝炎を治療するために、OSMを備えていることを特徴としている。本発明に係る治療キットは、IFN治療を必要とするC型肝炎患者に対して適用されることが好ましい。また、本発明に係る治療キットは、IFN、CsA、FLVまたはPTVをさらに備えていてもよい。
【0020】
本発明に係るC型肝炎患者に対するIFN治療の有効性を予測する方法は、被験体サンプル中に存在するOSMのレベルを測定する工程を包含することを特徴している。本発明に係る方法において、上記被験体サンプルはC型肝炎患者からの血液であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係るC型肝炎患者に対するIFN治療の有効性を予測する方法は、C型肝炎患者からの肝組織サンプル中に存在するgp130およびOSMRのレベルを測定する工程を包含することを特徴としている。本発明に係る方法において、上記肝組織サンプルは、生検(バイオプシー)によって得られた組織サンプルであっても、組織サンプルから調製された肝細胞であってもよい。本発明に係る方法は、上記肝組織サンプルにてgp130およびOSMRから構成されるヘテロダイマーを検出する工程をさらに包含してもよい。
【0022】
本発明に係る測定キットは、C型肝炎患者に対するIFN治療の有効性を予測するために、(i) OSMタンパク質に対する抗体;(ii) gp130タンパク質に対する抗体およびOSMRタンパク質に対する抗体;(iii) OSM mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチド;ならびに、(iv) gp130 mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドおよびOSMR mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチド、の少なくとも1つを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明を用いれば、新規抗HCV剤およびC型肝炎治療薬を提供し得る。また、IFNとの併用によって相乗的な抗HCV活性を示すので、IFNの著効率を向上し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
〔1〕抗HCV剤
本発明は、新規抗HCV剤を提供する。一般に、抗HCV作用は、HCVの感染、複製、粒子産生および再感染のいずれかを抑制または阻害する作用が意図されるが、本明細書中において使用される場合、「抗HCV」は、HCVの複製の抑制または阻害が意図される。なお、「抗HCV剤」の適用は生体内および生体外が包含されるが、生体内での使用の局面は「治療組成物」として後述する。
【0025】
HCVは、1989年に米国のカイロン社のグループによって発見された。それ以前は、原因不明の肝炎を引き起こす病原体として、非A非B型肝炎ウイルスと呼ばれていた。C型慢性肝炎に対する治療の歴史をさかのぼると、HCVが発見される以前から非A非B型肝炎ウイルスに対するIFN療法が有効であることが報告されていた。HCV感染の診断が可能となってから、はじめにIFN単独療法が行われたがその著効率は約30%であった。2001年よりIFN−αとリバビリンとの併用療法が開始され、その著効率は約40%となった。2004年よりPEG-IFN−αとリバビリンとの併用療法が開始されて、その著効率は約50%に改善された。しかし、依然として約半数のC型慢性肝炎患者ではウイルスが排除されず、肝硬変、肝癌等へ進行している。また、IFN治療が有効ではない患者では、グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸などを用いた対症療法の継続、肝硬変、肝癌等に対する診断、治療に対する経済的負担もまた、大きな問題である。このような、現状では新しい治療法の開発が急務とされており、社会的な需要も大きい。
【0026】
本発明に係る抗HCV剤は、OSMを含有していることを特徴としている。OSMは、元来リンパ球が産生する抗腫瘍効果のある液性因子として20年以上前に発見された、かなり研究の進んでいるサイトカインであり、HCVコアタンパク質がOSMの肝細胞分化作用を抑制することが報告されている。上述したように、OSMは、DEXとともに肝細胞の分化誘導に必要な物質である。本発明者らは、OSMおよびDEXを用いたHCV粒子の産生系を利用したHCV生活環再現システムおよび感染性HCV粒子産生細胞の構築を試みていた。その過程において、本発明者らはこれらの物質の能力を検証したところ、「抗ウイルス効果」という、これまでに全く予期し得なかったOSMの能力を見出した。OSMの「抗ウイルス効果」を教示または示唆する報告は、これまで全くなされていない。
【0027】
本発明者らは、HCV-O株(遺伝子型1b)由来の全長HCV RNA複製細胞(OR6細胞)を開発している(特許文献3参照)。OR6細胞で複製する全長HCV RNAには、レポーター遺伝子としてのRenilla luciferase遺伝子、選択マーカー遺伝子としてのネオマイシン耐性遺伝子、およびEMCV IRESが含まれている。OR6細胞において、Renilla luciferase遺伝子産物およびネオマイシン耐性遺伝子産物は融合蛋白質として細胞内で発現する。G418を添加した培地中では、ネオマイシン耐性遺伝子産物によって、安定したHCV RNA複製細胞が選択され得、かつ維持され得る。また、細胞内のRenilla Luciferase活性はHCV RNA量と非常に良く相関するため、簡便かつ正確なRenilla Luciferase活性を測定することによって煩雑なHCV RNA定量を代用し得る。このようなOR6システムを開発したことにより、これまで困難であった薬剤の併用効果の微妙な判定が可能になった。OR6システムの開発によってFLVが強い抗HCV活性を有することが見出され(特許文献3参照)、この知見に基づいた臨床での有用性が国内外から報告されている(非特許文献8および9参照)。
【0028】
特許文献1および2に開示されるように、HCV粒子の産生系を構築する際にOSMおよびDEXは有用である。効率よくHCV粒子を産生させるためには、HCV RNAの複製効率がよいことが重要である。本発明者らは、肝細胞の分化誘導に用いられる物質が、HCV RNAの複製を抑制しないことを、上記OR6システムを用いて確認した。その結果、DEXや他の増殖因子はHCV RNAの複製に影響を与えなかったが、OSMのみがHCV RNAの複製を抑制した。このことは、本発明者らの見出したOSMによる「抗ウイルス効果」を支持する。
【0029】
また、OSMは、その構造、および受容体複合体にgp130を含むという特徴に基づいて、IL-6ファミリーに分類される。上記OR6システムを用いてIL-6ファミリー(受容体複合体にgp130を含む)の抗HCV活性を確認すると、腫瘍抑制効果を示すLIFは、抗HCV活性を示さず、IL-6も、強い抗HCV活性を示さなかった。これらの結果は、OSMの抗HCV活性が、IL-6ファミリーに共通する機能ではないことを示している。OSMの受容体複合体はgp130とOSMRのヘテロダイマーにより構成される。受容体複合体にOSMRを含むサイトカインとして、IL-31(IL-6ファミリーではない)が知られている。受容体複合体にOSMと共通のOSMRを含むIL-31の抗HCV活性を調べたが、IL-31もまた抗HCV活性を示さなかった。構造面からも機能面からも全く予期され得なかったOSMの抗ウイルス効果は、HCV関連の肝疾患、さらにはウイルス学全般に対して非常に大きな影響を与え得る。
【0030】
OSMは、(i) 配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、または(ii) 配列番号6に示されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されているアミノ酸配列からなり、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質であり得る。また、本発明において、OSMは、(i) 配列番号5に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質、(ii) 配列番号5に示される塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされ、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質、(iii) 配列番号5に示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドによってコードされ、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質、または(iv) 配列番号5に示される塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有するポリヌクレオチドによってコードされ、かつ抗HCV活性を有しているタンパク質であり得る。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と交換可能に使用され、化学合成されたものであっても、天然供給源より単離されたものであってもよい。用語「単離された」タンパク質は、その天然の環境から取り出されたタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。組換えタンパク質は、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含み、目的のタンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞に導入して、発現されたタンパク質を細胞、組織などから単離精製されたものが意図される。
【0032】
当業者は、周知技術を使用してタンパク質のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。また、当業者は、周知技術を使用してポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、タンパク質をコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望の抗HCV活性を有するか否かを、当業者は容易に決定し得る。
【0033】
好ましい変異体タンパク質は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。このような変異は、サイレントな置換、添加、および欠失が好ましく、保存性置換が特に好ましい。このようなタンパク質は、本発明に用いられるタンパク質の抗HCV活性を変化させない。
【0034】
当業者は、ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを、周知の方法(例えば、Molecular Cloning (Cold Spring Harbor Laboratory)に記載の方法)に従って容易に行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0035】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような測定キットのツールとして使用され得る。また、このようなオリゴヌクレオチドは、その5’側または3’側でタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)が融合されていてもよい。
【0036】
本発明に係る抗HCV剤は、IFN、CsA、FLVまたはPTVと組み合わせて適用されることが好ましい。従来から抗HCV剤として用いられているIFN以外にも、CsA、FLVおよびPTVにも優れた抗HCV活性があることが報告されている。本発明に係る抗HCV剤は、これらの抗HCV活性を増強し、特にIFNの抗HCV活性を相乗的に増強する。
【0037】
〔2〕治療組成物、治療キットおよび治療方法
本発明は、C型肝炎を治療するための治療組成物、治療キットおよび治療方法を提供する。本発明に係る治療組成物は、OSMを含有していることを特徴としている。C型肝炎は、急性C型肝炎と慢性C型肝炎とに分けられ得るが、本発明に係る治療組成物は慢性C型肝炎に好適である。
【0038】
上述したように、本発明者らは、予期し得なかったOSMの抗HCV活性を見出し、その能力を、OR6システムを用いてOSMの抗HCV活性を検証し、後述する実施例に示すように、OSMが濃度依存的(EC50=0.71 ng/ml)にHCV RNAの複製を抑制することを確認した。OSMが発見されてからOSMに関する多くの報告がなされているが、OSMのウイルス複製抑制機能に関する報告は全くなされていない。
【0039】
本発明に係る治療組成物は、経口、非経口、または局所のいずれかの経路で被験体へ投与され得る。当業者は、有効成分であるOSMの含有量を、治療対象の体重および状態、治療される疾病の状態、および選択される特定の投与経路に応じて、適宜選択し得る。有効成分であるOSMは、任意の投与経路により、単独で、あるいは薬学的に受容可能な担体または希釈剤と組み合わせて、単回または複数回投与され得る。本発明に係る治療組成物の剤形は特に限定されず、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、ハードキャンディー剤、散剤、スプレー剤、クリーム剤、塗剤、坐剤、ゼリー剤、ゲル剤、ペースト剤、ローション剤、軟膏剤、水性懸濁液、注射溶液、エリキシル剤、シロップ剤などの形態にて、種々の薬学的に受容可能な担体と組み合わされ得る。なお、薬学的に受容可能な担体は当業者には周知であり、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES (Merck Pub. Co., N.J.1991) に十分に記載されている。
【0040】
現在、C型慢性肝炎に対する標準的な治療法は、IFN−αとリバビリンの併用療法である。しかし、この治療法を適用したときのC型肝炎に対する有効性は、血中での安定性を高めたPEG-IFNを用いた場合でも最大50%に過ぎず、残りの患者は、致死的な肝硬変、肝癌発症の危険に曝されている。また、リバビリンは65歳以上の高齢者には溶血性貧血の副作用が頻発し、治療の中止を余儀なくされるという事態が生じている。したがって、リバビリンに代わる新たなIFNとの併用に有効な薬剤の早期開発が望まれている。
【0041】
本発明者らが見出したOSMの特性は、現状のIFN治療を大きく改善することを期待させ得る。本発明に関して特筆すべき事項は、低濃度(25 pg/ml)のOSMがIFN−αの抗HCV活性を相乗的に増強することである。本発明は、PEG-IFN−αとリバビリンとの併用療法の治療効果を大きく改善することが期待される。すなわち、本発明に係る治療組成物は、IFN治療を必要とするC型肝炎患者に対して適用されることが好ましい。また、上述したように、抗HCV活性を有しているIFN、CsA、FLVおよびPTVとともに用いられることによって、OSMはこれらの抗HCV活性を増強し、特にIFNの抗HCV活性を相乗的に増強する。すなわち、本発明に係る治療組成物は、IFN、CsA、FLVまたはPTVをさらに含有していてもよく、好ましくはIFNをさらに含有し得る。
【0042】
C型慢性肝炎は肝癌の最大(80%)の病原因子であるが、元来、抗腫瘍効果のあるサイトカインとして発見されたOSMは肝癌の抑制効果も期待される。また、腫瘍細胞の抑制効果以外にOSMには血管内皮細胞の増殖抑制効果も報告されている。よって、血管に富んだ腫瘍である肝癌には、この点からも抑制効果が期待される。OSMは、C型慢性肝炎の治療効果と同時に肝癌の発生を予防する効果が期待される。また、本発明は、HCVの治療のみならず他の病原ウイルス(インフルエンザウイルス、B型肝炎ウイルスなど)についての研究に大きな影響を与えることが期待される。
【0043】
本発明に係る治療キットは、上述した治療組成物がキットの態様で提供されたものであり得る。本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)を備えた包装が意図され、好ましくはこれらの材料を使用するための使用説明書を備えている。使用説明書は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。
【0044】
本発明に係る治療キットは、OSMを備えていればよく、本発明に係る治療組成物を備えていてもよい。本発明に係る治療キットは、OSMまたは本発明に係る治療組成物と異なる成分を含むさらなる組成物が備えられていてもよい。本発明に係る治療組成物と異なる成分を含む組成物としては、特に限定されないが、IFN、CsA、FLVまたはPTVを有効成分とするC型肝炎治療用組成物が好ましい。IFNとしては、IFN−αまたはIFN−βが好ましく、IFN−αが特に好ましい。また、IFNはPEG化等の修飾がされていてもよい。すなわち、本発明に係る治療キットは、OSMを備えていればよく、IFN、CsA、FLVまたはPTVをさらに備えていてもよい。
【0045】
キットに2種類以上の組成物が備えられる場合には、これらは別個の容器(例えば、分割されたボトルなど)に入れて備えられてもよく、分割されていない単独の容器に入れて備えられてもよい。またキットは、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。さらに、治療キットは、C型肝炎治療法に適用するために必要な器具をあわせて備えてもよい。
【0046】
キットの形態は、別個の成分が好ましくは異なる剤形(例えば経口および非経口)で投与され、異なる投与量で投与され、または、処方する医師が当該組み合わせの各成分の滴定を所望する場合などに特に有利である。本発明に係る治療キットの使用方法は、上述した組成物の使用形態に従えばよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0047】
また、本発明に係る治療法は、上述した治療組成物または治療キットを適用する態様であり得る。すなわち、本発明に係る治療法は、C型肝炎患者にOSMを投与する工程を包含していればよく、IFN、CsA、FLVまたはPTVを投与する工程をさらに包含してもよい。本発明に係る治療法における上記組成物等の適用については、上述した使用形態に従えばよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0048】
〔3〕IFN治療の有効性を予測する方法およびキット
OSMは肝臓でKuppfer細胞により産生されるということが報告されている。しかし、C型慢性肝炎患者でのOSMの血中濃度に関する情報はこれまでに全く報告されていない。本発明者らは、OSMが低濃度(25 pg/ml)であってもIFNの抗HCV活性を相乗的に増強することを見出した。本発明者らが見出したOSMの特性は、現状のIFN治療を大きく改善し得る。
【0049】
すなわち、本発明は、IFN治療の有効性を予測する方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る方法は、被験体サンプル中に存在するOSMのレベルを測定する工程を包含することを特徴している。測定されるOSMはタンパク質であってもmRNAであってもよい。タンパク質レベルを測定する場合は、OSMに対する抗体を用いた免疫アッセイが好ましい。OSMに関して数多くの研究がこれまでになされているので、抗OSM抗体は当業者に周知である。また、周知のOSM配列(OSMのアミノ酸配列および塩基配列)に基づけば、当業者は抗OSM抗体を容易に取得し得る。mRNAを測定する場合は、OSMの塩基配列(配列番号5)に基づいて作製されたオリゴヌクレオチドがプローブまたはプライマーとして用いられることが好ましい。なお、当業者は上記プローブまたはプライマーとして利用可能なオリゴヌクレオチドを当該分野の技術常識に基づいて容易に作製し得る。また、OSMに関してなされている数多くの研究において採用された、OSM mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドもまた本発明に適用可能であることを、当業者は容易に理解する。
【0050】
本明細書中において使用される場合、「被験体サンプル」は、IFN治療の有効性を予測すべき対象となるC型肝炎患者(好ましくはC型慢性肝炎患者)から採取された任意の組織サンプルまたは細胞サンプルが意図され、肝組織サンプルに限定されない。サンプルの取得手順は、所望される組織または細胞に応じて適宜選択され得ることを当業者は容易に理解する。本実施形態に係る方法において、上記被験体サンプルはC型肝炎患者からの血液であることが好ましいが、これに限定されない。なお、サンプル取得の第一段階として組織または細胞を被験体から直接取り出す工程は、医師によるものであり、本発明の範囲外である。
【0051】
他の実施形態において、C型肝炎患者からの肝組織サンプル中に存在するgp130およびOSMRのレベルを測定する工程を包含することを特徴としている。測定されるgp130およびOSMRはタンパク質であってもmRNAであってもよい。タンパク質レベルを測定する場合は、gp130またはOSMRに対する抗体を用いた免疫アッセイが好ましい。gp130およびOSMRに関して数多くの研究が、OSMに関する研究と同様にこれまでになされているので、抗gp130抗体および抗OSMR抗体は当業者に周知である。また、周知のgp130配列(gp130のアミノ酸配列および塩基配列)およびOSMR配列(OSMRのアミノ酸配列および塩基配列)に基づけば、当業者は抗gp130抗体および抗OSMR抗体を容易に取得し得る。mRNAを測定する場合は、公知の配列データベースから入手可能なgp130またはOSMRの塩基配列に基づいて作製されたオリゴヌクレオチドがプローブまたはプライマーとして用いられることが好ましい。なお、当業者は上記プローブまたはプライマーとして利用可能なオリゴヌクレオチドを当該分野の技術常識に基づいて容易に作製し得る。また、gp130およびOSMRに関してなされている数多くの研究において採用された、gp130 mRNAおよびOSMR mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドもまた本発明に適用可能であることを、当業者は容易に理解する。
【0052】
本実施形態に係る方法において、上記肝組織サンプルは、C型肝炎患者から生検(バイオプシー)によって得られた肝組織であることが好ましいが、この肝組織から調製された肝細胞であってもよい。本発明に係る方法は、上記肝組織サンプルにてgp130およびOSMRから構成されるヘテロダイマーを検出する工程をさらに包含してもよい。なお、サンプル取得の第一段階として肝組織を被験体から直接取り出す工程は、医師によるものであり、本発明の範囲外である。
【0053】
C型慢性肝炎患者のOSMの血中濃度とIFN−α治療の著効率との相関を検討することによって、IFN−α治療の効果を予想し得、治療計画(IFNの投与量、投与期間)に有用な情報を提供することが可能となる。すなわち、OSMの血中濃度の測定は、C型慢性肝炎患者の治療効果予測のための臨床検査として有用であり、大市場が期待される。
【0054】
さらに、本発明は、IFN治療の有効性を予測するための測定キットを提供する。本発明に係る測定キットは、上述した方法を実践するに必要なツールを備えていることを特徴としている。
【0055】
一実施形態において、本発明に係る測定キットは、C型肝炎患者に対するIFN治療の有効性を予測するために、被験体サンプル中に存在するOSMのレベルを測定するためのツールを備えている。OSMが機能を奏するためには所望の被験体(C型肝炎患者)の体内にOSMが存在していることが必要である。本実施形態における、OSMのレベルを測定するためのツールは、OSMタンパク質に対する抗体、あるいはOSM mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドであり得る。上述したように、当業者は、OSMタンパク質に対する抗体、あるいはOSM mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドを容易に入手または作製し得る。
【0056】
他の実施形態において、本発明に係る測定キットは、C型肝炎患者に対するIFN治療の有効性を予測するために、被験体サンプル中に存在するgp130およびOSMRのレベルを測定するためのツールを備えている。OSMが機能を奏するためには所望の部位(C型肝炎患者)にOSMのレセプターが発現していることが必要である。本実施形態における、OSMのレベルを測定するためのツールは、gp130タンパク質に対する抗体およびOSMRタンパク質に対する抗体、あるいはgp130 mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドおよびOSMR mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドであり得る。上述したように、当業者は、gp130タンパク質に対する抗体およびOSMRタンパク質に対する抗体、あるいはgp130 mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドおよびOSMR mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドを容易に入手または作製し得る。
【0057】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0059】
〔1:試薬および手順〕
〔使用試薬〕
FLVはCalbiochem社より購入した。PTVは興和株式会社より購入した。IFN−αはSigma社より購入した。CsAはSigma社より購入した。OSMおよびIL-31はR&D systems社より購入した。LIFはChemicon社より購入した。IL-6はAcris Antibodies社より購入した。STAT1抗体およびSTAT3抗体はBD Bioscience社より、リン酸化STAT1(Tyr701)抗体およびリン酸化STAT3(Tyr705)抗体はCell Signal社より購入した。
【0060】
〔Renilla luciferase活性の測定〕
24ウエルプレートに播種したOR6細胞(2x104 個)を、37℃で24時間培養した。培地を、OSM (0, 0.062, 0.125, 0.25, 0.5, 1, 2, 4 ng/ml) を含む500μlの10% FBS含有DMEMに置換した。細胞を37℃で72時間培養した後、PBSで洗浄し、100μlのRenilla lysis buffer(Promega社)を用いて回収した。10μlのサンプルに50μlのRenilla assay buffer (Promega社) を加えてRenilla luciferase活性を測定した。全ての実験において、異なる3種類のサンプルより得られた結果より平均値、標準偏差を算出した。
【0061】
〔細胞増殖に対する影響〕
6ウエルプレートに播種したOR6細胞(8x104 個)を、37℃で24時間培養した。培地を、OSM(0, 2.5, 5, 10 ng/ml)を含む2 mlの10% FBS含有DMEMに置換した。細胞を37℃で72時間培養した後、PBSで洗浄し、0.25%トリプシン処理にて回収した細胞をトリパンブルーにて染色し、生細胞数を測定した。全ての実験において、異なる3種類のサンプルより得られた結果より平均値、標準偏差を算出した。
【0062】
〔ウエスタンブロット分析〕
6ウェルの細胞培養プレートで培養した細胞に、SDSを含むサンプルバッファー100μlを加えて、細胞溶解液を回収した。10分間超音波破砕機にてソニケイションを行った後、各サンプルに10μlの2-メルカプトエタノールを加え100℃で3分間処理した。10〜20μlのサンプルを10%のSDS-PAGEに供し、これをメンブレン(PVDF膜)に転写した。5%のスキムミルクを含む0.1% トリス緩衝液(10mM Tris (ph7.5), 150mM NaCl, 0.1% Tween20)で60分間、タンパク質を転写したメンブレンをブロッキングした。その後、各HCVタンパク質に対する抗体およびβ-actinタンパク質に対する抗体を0.1% トリス緩衝液で1000倍希釈した溶液と前記のメンブレンとを接触させ、60分間反応を行った。メンブレンを0.1% トリス緩衝液にて5分×3回洗浄後、1000倍希釈したHRP標識マウス二次抗体を加えた0.1% トリス緩衝液と接触させ、60分間反応を行った。メンブレンを0.1% トリス緩衝液にて20分×3回洗浄した。ルネッサンスTMルミノールウエスタンブロット化学発光検出試薬プラス(NEN Life Science)にて化学発光させ、X線フィルム(KODAK BioMax)で感光した。
【0063】
今回の実験で用いた抗体は、抗Core抗体(Institute of Immunology社)、抗E1抗体(東京都臨床研究所、小原博士より供与)、抗E2抗体(参考文献:Microbiol.Immunolo. 42,875-877,1998を参照)、抗NS3抗体(Novocastera Laboratories社)、抗NS4A抗体(大阪大学、高見沢博士より供与)、抗NS5A抗体(大阪大学、高見沢博士より供与)、抗NS5B抗体(東京都臨床研究所、小原博士より供与)、抗β-actin抗体(Sigma社)である。
【0064】
〔2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性の測定〕
24ウエルプレートに播種したOR6c細胞(4x104 個)またはHCV-O/KEQP複製OR6c細胞(4x104個)を、37℃で24時間培養した。形質転換の効率を補正するためのpRL-SV40(1ウエルあたり1ng)を、Luciferase遺伝子の上流に2',5'-oligo(A) synthetase geneのプロモーター領域 (-159/+82)を導入したレポーターアッセイ用のプラスミド(pOAS-Luc;Benech et al., Molecular Cell Biology. 4498-4504(1987)参照)100ngと同時にFuGene6で導入した。37℃で42時間培養した後、OSM(0, 0.1, 1, 10 ng/ml)を細胞に添加した。OSM添加6時間後にサンプルを回収してDual Luciferase Assay (Promega社)を行った。OSMの各濃度に対して3つのサンプルから平均、標準偏差を求めた。
【0065】
〔STAT1およびSTAT3のリン酸化の検出〕
6ウエルプレートに播種したOR6細胞(2x105 個)を、37℃で24時間培養した。OSM(0.1, 1, 10 ng/ml)およびIFN−α(10 IU/ml)、あるいはOSM(10 ng/ml)およびIFN−α(10 IU/ml)をOR6細胞に添加し、30, 60, 120分間後にサンプルを回収した。リン酸化STAT-1(Y701)、STAT1、リン酸化STAT3(Y705)、STAT3に対する抗体を用いてウエスタンブロット解析をおこなった。
【0066】
〔HCV-O/KEQPの作製〕
最初に、HCV陽性血清よりプラスミドpHCV-O(遺伝子型1b型のHCV-O全長cDNAを含む。)を、2つのフラグメントを用いて構築した。2つのフラグメントとは、参考文献(N. Kato, et al., J.Gen.Virol. 79: 1859-1869 (1998).)に記載のpBR322/16-6に由来するEcoR I−Mlu Iフラグメント(HCVゲノムの45位〜2528位に相当する。)、および血清1B-2のPCR産物由来のMlu I−Spe Iフラグメント(HCVゲノムの2528位〜3420位に相当する。)である。これらを、1B-2R1配列を有するpNSS1RZ2RU(N. Kato, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 306: 756-766 (2003)を参照)のEcoR I−Spe I 部位に連結して、pHCV-Oを構築した。4つの適応変異Q1112R, P1115L, E1202G, K1609Gについては、QuickChange mutagenesis (Stratagene)を用いて、それぞれ、a3676g, c3685t, a3946g, a5166g (数字はHCVの1番目の塩基からの位置を、左は置換前の塩基、右は置換後の塩基を表す。)の塩基置換を生成して作製した。
【0067】
〔1B-4株由来の全長HCV RNAを複製し得る細胞の作製〕
HCVキャリアー株である1B-4(1b遺伝子型)から作製したplasmid (p1B-4RN/C-5B)をそれぞれ鋳型としてin vitroで合成した、ルシフェラーゼ遺伝子を有する全長HCV RNA(10 μg)を、ORL8細胞からHCV RNAを排除した治癒細胞であるORL8c細胞(2 x 106個)にエレクロトポレーション法により導入した。p1B-4RN/C-5Bには2カ所の変異(Q1067RおよびS2200R)が導入されている。S2200Rは適応変異である。RNA導入2日後から、4日ごとにG418(0.3 mg/ml)を含む培地と交換して、3週間程度培養した。ルシフェラーゼ遺伝子を有する全長HCV RNAの複製が持続的に高いレベルにあると考えられる細胞をG418耐性コロニー(クローン)として得た。これらのクローンからHCV RNAの複製レベルが高い細胞クローンを選択する目的で、コアタンパク質およびNS5Aタンパク質の発現レベルをウエスタンブロット法により解析した。HCVタンパク質が最も多く発現していた細胞クローンを増殖させかつ株化し、p1B-4RN/C-5B細胞を得た。
【0068】
〔プラスミドp1B-4RN/C-5Bの作製〕
ISOGEN-LS (ニッポンジーン社)を用いてHCV (1B-4株)陽性血清からRNAを抽出し、RT-PCR法によってNS3(SpeI site:3474位)〜NS5B(BsiWI site: 9185位)の非構造領域、および5' UTR(5’側にAsisI を付加: 1位)〜NS3(SpeI site: 3474位)の構造領域のフラグメントを作製した。pON/3-5BのSpeI site〜BsiWI siteの非構造領域を、上記1B-4の非構造領域と置換してp1B-4N/3-5Bを作製した。次いで、p1B-4N/3-5Bの5' UTR(AsisI site)〜NeoおよびEMCV-IRESを含むNS3(SpeI site)を切り出し、上記1B-4の構造領域と置換してp1B-4を作製した。さらに、pORN/C-5BのCore(ClaI site: 708位)〜3' UTR末端(XbaI site:9587位)を切り出し、p1B-4のCore(ClaI site)〜3' UTR末端(XbaI site)と置換してp1B-4RN/C-5Bを作製した。
【0069】
〔2:OSMのOR6細胞における抗HCV活性〕
HCV RNA複製に対するOSMの効果について、OR6細胞のRenilla luciferase活性を測定することによって検討した。図1の(a)に示すように、OR6細胞のluciferase活性はOSMの濃度依存的に抑制されることがわかった。OSMを添加していないコントロールのluciferase活性(RLU)を100%とした。これにより、OSMは抗HCV活性を有するサイトカインであり、濃度依存的にHCV RNAの複製を抑制することが示された。HCV RNA 50%抑制濃度 (EC50)は0.71 ng/mlであった。
【0070】
〔3:OSMのOR6細胞増殖に対する影響〕
OSMの細胞増殖に及ぼす影響について検討した。図1の(b)に示すように、OSMで処理した細胞数はコントロールのものと変わらなかった。OSMを添加していないコントロールの生細胞数を100%とした。このように、OSMの濃度が少なくとも10 ng/ml以下の場合、OSMはOR6細胞に対する細胞増殖に影響を与えないことがわかった。すなわち、図1の(a)で示した4 ng/ml以下の濃度におけるOSMによるHCV RNA複製の抑制は、細胞増殖の抑制ではなくウイルスに対する抑制効果であることがわかった。
【0071】
続いて、OSMの抗HCV活性がIL-6ファミリーのサイトカインに共通する効果であるかどうかを検討した。IL-6ファミリーに属しOSM同様、抗腫瘍効果を有するLeukemia-inhibitory factor (LIF)では、その濃度を20 ng/mlまで増加しても全く抗HCV活性が認められなかった(図2の(a))。また、IL-6では、その濃度が1または10 ng/mlの場合に弱い抗HCV活性が認められたものの、1 ng/ml未満の濃度ではOSMのようなHCV RNA複製の抑制効果は認められなかった(図2の(b))。このように、OSMの抗HCV活性はIL-6ファミリーに属するサイトカインに共通して認められる効果ではなくOSMに特有の効果であることがわかった。
【0072】
さらに、OSMの抗HCV活性が、OSM受容体を構成するOSMRに関連する効果であるかどうかを検討した。OSMの受容体はgp130とOSMRとのヘテロダイマーから構成される。このOSMRを受容体複合体に含むサイトカインとして、その受容体がOMSRとIL-31Rとのヘテロダイマーから構成されているIL-31が知られている。なお、IL-31はIL-6ファミリーに属さない。図2の(c)に示すように、IL-31ではその濃度を10 ng/mlまで増加させても全く抗HCV活性が認められなかった。このことは、抗HCV活性の発揮には、OSMRが受容体複合体に含まれているだけでは不十分であり、gp130とOSMRとのヘテロダイマーが重要であるということを示唆する。
【0073】
〔4:肝細胞における受容体mRNAの発現〕
肝細胞におけるgp130, OSMR, LIFR, IL-6R, IL-31RのmRNAの発現レベルを標準的なRT-PCR法を用いて検討した。インターナルコントロールとしてはGAPDHを測定した。各受容体に対するRT-PCRの逆転写反応ではOligo-dT primerを用い、PCRには以下のSense primerおよびAntisense primerの組合せを用いた。
gp130: 5'- agaacagcatccagtgtcac -3' (配列番号7)
gp130r: 5'- tccaagttgaggcatctttgg -3' (配列番号8)
OSMR: 5'- ggaatgtgccacacactttg -3' (配列番号9)
OSMRr: 5'- cttgaagtcctcggtttcac -3' (配列番号10)
LIFR: 5'- gaaagcaccctctggaacag -3' (配列番号11)
LIFRr: 5'- tcactccactcttcgagacc -3' (配列番号12)
IL-6R: 5'- aggaagtttcagaacagtccg -3' (配列番号13)
IL-6Rr: 5'- actcctggattctgtccaag -3' (配列番号14)
IL31RA: 5'- ttaacctgcacttggagtcc -3' (配列番号15)
IL31RAr: 5'- cttcttcctcagtcattccc -3' (配列番号16)
IFN−α処理によってOR6細胞からHCV RNAを排除した治癒細胞(OR6c細胞)、ORL8細胞からHCV RNAを排除した治癒細胞(ORL8c細胞)、およびヒト不死化肝細胞であるPH5CH8細胞を用いた。ORL8細胞については後述を参照のこと。図3に示すように、gp130はいずれの細胞においても同レベルで検出された。OSMRおよびLIFRの発現レベルは、OR6c細胞およびPH5CH8細胞と比較してORL8c細胞でやや低かった。IL-6Rの発現レベルは、ORL8c細胞およびPH5CH8細胞と比較してOR6c細胞でやや低かった。IL-31Rは今回検討した細胞のいずれでも検出されなかった。IL-31に抗HCV活性が認められなかった理由として、肝細胞ではIL-31Rが発現していないことが考えられた。
【0074】
〔5:OSM処理によるHCV複製の経時的変化〕
OR6細胞をOSM(0, 0.1, 1, 10 ng/ml)で処理した24, 48, 72, 96時間後のHCV RNA複製レベルを調べた。図4の(a)に示すように、OSMで処理していないコントロールのOR6細胞ではHCV RNAの複製は経時的に増加し、96時間後では24時間後の約5.5倍に増加した。しかし、OSMで処理したOR6ではOSMの濃度依存的にHCV RNA複製が抑制されており、OSM 10 ng/mlでは24時間後のHCV RNA複製レベルと96時間後のHCV RNA複製レベルがほぼ同一であり、強い抑制効果が持続していることがわかった。
【0075】
同じ実験結果を別のグラフで表現したものが図4の(b)である。OSM 0.1 ng/mlでは時間経過とともにコントロールに対する抑制効果は減弱していた。OSM 1 ng/mlでは時間が経過してもにコントロールに対する抑制効果ほぼ変わらなかった。OSM 10 ng/mlでは時間経過とともにコントロールに対する抑制効果は増強し96時間でもっとも強い抑制効果(約80%抑制)示した。以上の結果はOSMの抗HCV活性が一過性のものではなく持続的であることを示している。
【0076】
〔6:IFN−αの抗HCV活性に対するOSMの効果〕
OSM添加による抗HCV活性が96時間まで維持されていることがわかったので、次いで、OSM添加後にさらに長時間経過したときの抗HCV活性を調べた。この実験では、外来性遺伝子を含まない本来の9.6kbの全長HCV-O RNAが複製するOR6c細胞を用いた。HCV-Oには、複製効率を増強させる4つの適応変異(K1609E, E1202G, Q1112R, P1115L)を導入している。6ウエルプレートに播種したOR6c細胞(104個)を、37℃で24時間培養した。OSM(0, 1, 10 ng/ml)を添加した細胞を、さらに37℃で8日間培養した。HCVタンパク質の発現レベルをウエスタンブロット解析により検討した。
【0077】
図5の(a)に示すようにOSM処理後8日目の細胞では、OSMの濃度依存的にHCVタンパク質の発現が抑制されていた(レーン1,2,3)。このことは、1回のOSMの抗HCV活性が8日後も維持されていることを示している。また、本実験で用いたHCV RNAには外来性遺伝子が含まれていないので、OSMの抗HCV活性が外来性遺伝子(Renilla luciferase, EMCVなど)の抑制ではなくHCV自体に対する抑制効果であることが示された。
【0078】
OSM (0, 1, 10 ng/ml)をIFN−α(2.5, 5, 10 IU/ml)とともに添加した。いずれの濃度のIFN−αにおいてもOSMはIFN−αの抗HCV活性を増強した(レーン4〜12)。このように、OSMは外来性遺伝子を含まないHCV-O RNAの複製を濃度依存的に抑制し、IFN−αの抗HCV活性を増強することがわかった。
【0079】
OR6細胞を用いて、IFN−αの抗HCV活性に対するOSMの効果をさらに検討した(図5の(b))。IFN−α(0, 2.5, 5, 10 IU/ml)とともにOSM(0, 0.062, 0.125, 0.25, 0.5, 1, 2, 4 ng/ml)を添加した。OSMは低濃度であってもIFN−αの抗HCV活性を増強した。
【0080】
IFN−α 2.5 IU/mlおよびOSM 0.062 ng/mlを単独で投与した場合のルシフェラーゼ値は、それぞれコントロール値の38.8%および81.7%である。よって、IFN−α 2.5 IU/mlとOSM 0.062 ng/mlとを併用した時のルシフェラーゼ値の予測値は0.388x0.817=0.317である。しかし、これらを併用した時のルシフェラーゼ値の実測値は22.6%であり、予想以上の抑制効果であった。このことは、IFN−αの抗HCV活性に対するOSMの増強効果は相乗的な効果であることを示しており、低濃度のOSMであってもその効果を発揮することを示している。
【0081】
〔7:IFN−α誘導性の2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性に対するOSMの影響〕
IFN−αの抗HCV活性に対するOSMによる増強をさらに検討するために、IFN−α刺激で誘導される2'-5' OAS遺伝子のプロモーター領域をルシフェラーゼの上流に含むプラスミド(pOAS-Luc)を用いた。図6の(a)にはOSMで処理していないコントロールを1として2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性の増加を示してある。2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性はOSMの濃度依存的に増加することがわかった。
【0082】
次いで、IFN−α(0, 2.5, 5, 10 IU/ml)とともにOSM(0, 0.1, 1, 10 ng/ml)を添加した時の2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性について検討した。図6の(b)に示すように、OSMは、IFN−αの2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性刺激を濃度依存的に増強させる効果があることがわかった。
【0083】
〔8:OSM によるSTAT1およびSTAT3のリン酸化〕
OSMがSTAT1, STAT3をリン酸化して活性化することが知られている。そこで、HCV RNAの複製が可能なOR6細胞においてSTAT1およびSTAT3がリン酸化されるかどうかを調べた。図7に示すように、OSMで30分間刺激した細胞において、STAT1はOSMの濃度依存的にリン酸化された。STAT1のリン酸化は、OSMでの60分間の刺激で減弱し、120分間の刺激でさらに減弱した。IFN−α(10 IU/ml)で30分間刺激した細胞におけるSTAT1リン酸化の強度はOSM(0.1 ng/ml)と同程度であったが、60分間または120分間の刺激の場合に、OSMでの刺激の際にはSTAT1のリン酸化の強度が減弱するが、IFN−αでの刺激の際にはSTAT1のリン酸化は維持されていた。STAT3はOSMの濃度依存的にリン酸化された。これらの結果より、OR6細胞においてSTAT1およびSTAT3がリン酸化することが確認できた。また、STAT1のリン酸化はIFN−α刺激の場合と比べてOSM刺激の場合には早期にリン酸化の効果が減弱することがわかった。
【0084】
〔9:OSMおよびIFN−αの抗HCV活性における関係〕
OSMおよびIFN−αの抗HCV活性における関係について、70%抑制濃度(EC70)に対するIsobole plots解析を行った。Isobole plots (EC70)解析では、試薬1と試薬2の濃度を変えて70%抑制を示す濃度をグラフ上にプロットし、図8の(a)に示すように試薬1および試薬2単独での70%抑制濃度を結んだ直線上に併用時のプロットが一致すれば相加効果となる。直線よりも併用時のプロット曲線が右上(上に凸)ならば相反効果となり、直線よりも併用時のプロット曲線が左下(下に凸)ならば相乗効果となる。図8の(b)に示すようにOSMとIFN−αとの70%抑制曲線は左下(下に凸)に位置した曲線を描いており、OSMおよびIFN−αの抗HCV活性における関係が非常に強い相乗効果であることが示された。
【0085】
〔10:低濃度のOSMによる、IFN−αの抗HCV活性に対する影響〕
OSMの血中濃度に関する報告は少なく、肝炎患者に関するものは報告されていない。Multiple myeloma の患者におけるOSMの血中濃度は0-52 pg/mlであることが報告されている(Wierzbowska et al. British Journal of Hematology, 1999)。持続的な炎症のあるC型肝炎患者では、血中OSM濃度がこの値よりも高い可能性があるが、生理的な血中濃度が50 pg/ml以下であると考えて、IFN−αの抗HCV活性に対するOSMの影響を、50 pg/ml以下のOSM濃度にて調べた。IFN−α(0, 1, 2, 4, 8 IU/ml)およびOSM(0, 25, 50 pg/ml)を同時に添加して96時間後に評価した。図9の(a)に示すように、OSM(25, 50 pg/ml)単独の抗HCV活性は約20%程度の抑制効果であるが、このような低濃度のOSM であってもIFN−αの抗HCV活性を増強することがわかった。図9の(b)には、IFN−α単独での抗HCV活性を100%とした時の、各濃度のOSMによるIFN−αの抗HCV活性の増強を示している。IFN−α(8 IU/ml)にOSM(25, 50 pg/ml)を併用した場合、IFN−αの抗HCV活性がさらに60%増強されていた。このように、単独では弱い抗HCV活性しか示さないような低濃度のOSMであってもIFN−αの抗HCV活性を相乗的に増強することがわかった。
【0086】
これらの結果は、例え微量であっても血中OSMがC型慢性肝炎患者に対するIFN−α療法を改善し得ることや、C型慢性肝炎患者に対するIFN−α療法の効果がOSMの血中濃度に依存していることを示唆する。また、肝臓ではKuppfer細胞がOSMを産生しているので、局所(肝臓)では血中濃度よりも高い濃度でOSMが存在している可能性も考えられ、IFN治療効果予測のマーカーとしてOSMが重要であることもまた示唆される。
【0087】
〔11:CsAおよびPTVの抗HCV活性に対するOSMの効果〕
CsAおよびPTVが抗HCV活性を示す物質であることを示す報告がなされている。これらの物質の抗HCV活性に対するOSMの影響について検討した。CsA(0, 0.25, 0.5, 1μg/ml)またはPTV(0, 0.25, 0.5, 1 μM)とともにOSM(10 ng/ml)を細胞に添加した。図10に示すようにOSMはCsA((a))およびPTV((b))の抗HCV活性を増強した。このように、OSMが現在のC型慢性肝炎に対する標準的治療剤であるIFN−α以外の候補として見出されている物質の抗HCV活性も増強することがわかった。
【0088】
〔12:全長HCV RNAを複製し得る細胞(1B-4RN/C-5B細胞)を用いた、OSMの抗HCV活性〕
これまで示した結果は、HCV-O株由来の全長HCV RNAを複製し得る細胞を用いたものであった。ルシフェラーゼ遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子を有する全長HCV RNA複製細胞は本発明者らのOR6細胞のみであったので、HCV-O株以外のHCV株を用いた検討は不可能であった。しかし、本発明者らは、1B-4株に由来する全長HCV RNA(Renilla luciferase 遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子およびEMCV IRES遺伝子を含む約12kbのHCV遺伝子)をOR6c細胞に首尾よく導入し得ることを見出し、1B-4株に由来する全長HCV RNA(1B-4RN/C-5B RNA)を複製し得る細胞(1B-4RN/C-5B細胞)を樹立した。
【0089】
1B-4RN/C-5B細胞を用いて図1の場合と同じ条件でOSMの抗HCV活性について検討した。図11に示すようにOSMはHCV RNA複製を濃度依存的に抑制した(EC50:0.83 ng/ml)。このように、HCV-O株以外のHCV株である1B-4株においてもOSMの抗HCV活性を示すことができた。
【0090】
〔13:1B-4RN/C-5B細胞におけるIFN−αおよびFLVの抗HCV活性、ならびにこれらの効果に対するOSMの影響〕
IFN−α(0, 2.5, 5, 10 IU/ml)とともにOSM(0, 0.062, 0.125, 0.25, 0.5, 1,2,4 ng/ml)を1B-4RN/C-5B細胞に添加した時の、IFN−αの抗HCV活性について検討した。図12の(a)に示すように、1B-4株由来のHCV株であってもOSMはIFN−αの効果を濃度依存的に増強することがわかった。FLV(0, 1.25, 2.5. 5 μM)とともにOSM(10 ng/ml)を1B-4RN/C-5B細胞に添加した時の、FLVの抗HCV活性について検討した。図12の(b)に示すように、OSMはFLVの抗HCV活性を増強した。このことは、臨床での有用性が明らかとなったFLVに対してもOSMは増強効果を有することを示している。
【0091】
〔14:HuH-7細胞株以外の細胞に由来する全長HCV RNA複製細胞〕
本発明者らは、HuH-7細胞株由来のHCV生活環再現システムに匹敵する能力を有する、HuH-7細胞株以外の細胞株に由来するHCV生活環再現システムを構築している(本願出願時は未公開)。この新規システムは、HuH-7細胞株以外の特定の細胞(Li23細胞)に由来し、特定の全長HCVゲノム配列と選択マーカー遺伝子配列とを含んでいるRNAが導入されている全長HCV RNA複製細胞(ORL細胞)を用いるものである。全長HCV RNA複製細胞(ORL細胞)の作製手順を、図13に示す。また、ORL細胞(ORL8細胞およびORL11細胞)におけるルシフェラーゼ活性とHCV RNA量との相関を、図14に示す。この結果は、ORL細胞が、薬剤の効果を簡便に評価できる(細胞由来のルシフェラーゼ活性値がHCV RNA量と相関している)細胞系であるOR6細胞(特許文献3参照)と同様に、薬剤の効果を簡便に評価できる細胞系であることを示している。
【0092】
なお、本発明者らが作製した細胞は、岡山大学寄託機関である国立大学法人岡山大学知的財産本部(岡山市津島中一丁目1番1号)に寄託されており、その寄託番号は以下の通りである。
【0093】
【表1】

【0094】
また、これらの細胞は、独立行政法人産業技術総合研究所、特許生物寄託センターに平成20年7月31日に受領されており、その受領番号は以下の通りである。
【0095】
【表2】

【0096】
これまでに抗HCV活性が報告されているIFN−αについて、ORL細胞のアッセイ系を用いた評価を行った結果を、図15に示す(対照としてOR6細胞のアッセイ系を用いている。)。手順としては、各細胞にIFN−α(0, 0.1, 0.2, 0.5, 1, 2, 10 IU/ml:Sigma社,I2396)を添加し、72時間後のルシフェラーゼ活性を測定した。解析の結果、ORL8細胞、ORL11細胞およびOR6細胞におけるEC50はそれぞれ0.13 IU/ml、O.30 IU/mlおよび0.40 IU/mlと算定された。同様の実験をさらに3回行ったが、ほぼ同じような値が得られ再現性は良好であった。IFN−αについては、ORL8細胞の感受性が高く、ORL11細胞、OR6細胞の順であった。
【0097】
なお、IFN−αの添加により生じるルシフェラーゼ活性の減少が、IFN−αによる細胞の増殖抑制、または細胞毒性によるものではないことを確認するために、ルシフェラーゼアッセイと同じ条件にて細胞を培養して、トリパンブルー染色法にて細胞数を測定した。それぞれの細胞で得られたEC50値に相当する濃度のIFN−αの添加効果を調べた。その結果、いずれの細胞においても、対照細胞と比較して95%以上であり、IFN−αによる細胞毒性もほとんど認められなかった(図15)。
【0098】
本発明者らは、IFN−α以外の抗HCV活性が報告されている化合物(例えば、IFN−β、IFN−γ、CsA、FLV等)についても同様の実験を行い、同様の結果を得ている(結果は示さず)。
【0099】
〔15:ORL細胞アッセイ系を用いたOSMの抗HCV活性〕
各細胞にOSM(最終濃度0, 0.125, 0.25, 0.5, 1, 2, 4 ng/ml)を添加し、72時間後のルシフェラーゼ活性を測定した(図16)。0.1%BSAを含むPBS溶液に溶解して−20℃に保存したOSMを、10% FBSを含むLi23細胞用培地にて検定濃度になるように希釈しながらアッセイに使用した。解析の結果、ORL8細胞、ORL11細胞およびOR6細胞におけるEC50はそれぞれ0.15 ng/ml、3.54 ng/mlおよび0.82 ng/mlと算定された。同様の実験をさらに3回行ったが、ほぼ同じような値が得られ再現性は良好であった。なお、HuH-7細胞用培地を使用した実験の結果(図1)においてEC50は0.71 ng/mlと算定されていることから、培地の種類が違ってもほぼ同じような値が得られるといえる。
【0100】
以上の結果から、OSMは単剤での処理によって高い抗HCV活性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明を用いれば、新規抗HCV剤およびC型肝炎治療薬を提供し得るので、試薬産業、医薬品産業などの発展に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】OR6細胞における、OSMの抗HCV活性を検証した結果(a)およびOSMのOR6細胞増殖に対する影響を検証した結果(b)を示す図である。
【図2】IL-6ファミリーのサイトカインが抗HCV活性を示すかどうかを調べた結果を示す図である。
【図3】各種受容体のmRNAの、肝細胞における発現を示す図である。
【図4】OSM処理によるHCV複製の経時的変化を示す図である。
【図5】IFN−αの抗HCV活性に対するOSMの効果を検証した結果を示す図である。
【図6】2'-5' OAS遺伝子プロモーター活性に対するOSMの影響を検証した結果を示す図である。
【図7】OSM によるSTAT1およびSTAT3のリン酸化を示す図である。
【図8】OSMおよびIFN−αの抗HCV活性における関係を示したIsobole plots解析の結果を示す図である。
【図9】低濃度のOSMによる、IFN−αの抗HCV活性に対する影響を示す図である。
【図10】CsAおよびPTVの抗HCV活性に対するOSMの効果を検証した結果を示す図である。
【図11】OSMの抗HCV活性を、1B-4RN/C-5B細胞を用いて検証した結果を示す図である。
【図12】1B-4RN/C-5B細胞におけるIFN−α(a)およびFLV(b)の抗HCV活性、ならびにこれらの効果に対するOSMの影響を示す図である。
【図13】HCVレプリコン複製細胞および全長HCV RNA複製細胞を作製する手順を示す図である。
【図14】ORL8細胞およびORL11細胞におけるルシフェラーゼ活性とHCV RNA量との相関を示す図である。
【図15】ORL8細胞およびORL11細胞、ならびにOR6細胞を用いた、IFN−αの抗HCV活性の比較を示す図である。
【図16】ORL細胞における、OSMの抗HCV活性を検証した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンコスタチンMを含有していることを特徴とする抗HCV剤。
【請求項2】
インターフェロン、シクロスポリンA、フルバスタチンまたはピタバスタチンと組み合わせて適用されることを特徴とする請求項1に記載の抗HCV剤。
【請求項3】
オンコスタチンMを含有していることを特徴とするC型肝炎に対する治療組成物。
【請求項4】
インターフェロン治療を必要とするC型肝炎患者に対して適用されることを特徴とする請求項3に記載の治療組成物。
【請求項5】
インターフェロン、シクロスポリンA、フルバスタチンまたはピタバスタチンをさらに含有していることを特徴とする請求項3に記載の治療組成物。
【請求項6】
オンコスタチンMを備えていることを特徴とするC型肝炎治療キット。
【請求項7】
インターフェロン治療を必要とするC型肝炎患者に対して適用されることを特徴とする請求項6に記載の治療キット。
【請求項8】
インターフェロン、シクロスポリンA、フルバスタチンまたはピタバスタチンをさらに備えていることを特徴とする請求項6に記載の治療キット。
【請求項9】
被験体サンプル中に存在するオンコスタチンMのレベルを測定する工程を包含することを特徴とするC型肝炎患者に対するインターフェロン治療の有効性を予測する方法。
【請求項10】
上記被験体サンプルがC型肝炎患者からの血液であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
C型肝炎患者からの肝組織サンプル中に存在するgp130およびオンコスタチンM受容体のレベルを測定する工程を包含することを特徴とするC型肝炎患者に対するインターフェロン治療の有効性を予測する方法。
【請求項12】
C型肝炎患者に対するインターフェロン治療の有効性を予測するための測定キットであって、以下の(i)〜(iv)の少なくとも1つを備えていることを特徴とする測定キット:
(i) オンコスタチンMタンパク質に対する抗体;
(ii) gp130タンパク質に対する抗体およびオンコスタチンM受容体タンパク質に対する抗体;
(iii)オンコスタチンM mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチド;ならびに
(iv) gp130 mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチドおよびオンコスタチンM受容体mRNAを検出し得るオリゴヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−59081(P2010−59081A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225334(P2008−225334)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】