説明

オンデマンド遊離型腐食抑制剤組成物

(1種または複数の)非導電性皮膜形成コポリマーのみと、ピリジン、ジヒドロピリジン、ピロール、イミダゾールまたはこれらの混合物を含む窒素含有官能基Xと、メタレートアニオンとから形成される、金属基体用のオンデマンド遊離型腐食抑制剤組成物が開示される。このメタレートアニオンは、イオン結合により、官能基X中の窒素に結合する。局所的にpHが上昇すると、プロトン化/脱プロトン化反応によるアニオンが遊離し、この遊離したアニオンが、腐食形成を抑制すると考えられる。このコーティング組成物には、導電性ポリマーが含まれない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)なし。
(連邦政府による資金提供を受けた研究に関する陳述)なし。
本発明は、一般に、腐食防止保護コーティングに関し、より具体的には、非導電性コポリマーと、腐食に応答して遊離可能なメタレートアニオンに結合した、窒素ヘテロ環を含む官能基とを含む腐食防止保護コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
未処理の金属表面は腐食を受け、表面の発錆、脆化、変色および不具合につながる恐れがある。したがって、金属基体は、一般に、その表面の反応性をより低く、また耐食性をより高くするために様々な方法によって処理される。さらに、金属表面は、多くの場合、引き続いて、樹脂コーティング、プライマー、ペイントおよび他の表面処理などの装飾用または追加の保護コーティングで被覆される。
【0003】
1つの一般的な腐食メカニズムは、大気中の酸素が金属基体の金属を酸化する場合に、電気化学的に(galvanically)生じる。電気的触媒サイトにおける金属から酸素への電子の移動によって、種々の金属酸化物である腐食生成物が形成される。冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、亜鉛、アルミニウムおよびこれらの合金、亜鉛被覆鋼および亜鉛合金被覆鋼、ならびにアルミニウム被覆およびアルミニウム合金被覆鋼などの金属表面の腐食を防止するために、様々な処理を用いることができる。これらの処理には、油系一時防錆剤、リン酸塩化成コーティング、無機および有機不動態化剤、ペイント、およびこれらの組合せが含まれる。
【0004】
油系一時防錆剤は、除去することが容易な短期間の防食をもたらすために使用される。それらのみでは、中期または長期的な防食には望ましくなく、他のコーティングと組み合わせた場合には表面が塗装不可能となり、それらのハンドリング性により、最終消費者向け製品には適していない。
【0005】
リン酸塩化成コーティングは、より良好な防食および塗装性をもたらすが、かなりの酸性条件で操作することを要し、このことは、適用する薬品の取扱いが困難であり、スラッジが発生するので廃棄物処理がより煩雑であり、また設備が余計に摩耗するため望ましくない。このような化成コーティングは、典型的には、利点を最大限に生かすために、その後の処理を必要とする。
【0006】
金属コイル素材に一般に適用されるものなどの無機および有機不動態化剤は、高い防食をもたらすが、いくつかの欠点を有する。多くのこのような製品は、クロムを含有するか、高度に酸性であるか、またはこの両方である。クロムは、環境面の考慮にはマイナスであり、毒性があり、また廃棄物処理がより煩雑であるため望ましくない。高度に酸性の処理も、加工設備を劣化させ易く、また作業者の曝露について問題をもたらす。
【0007】
他の耐食性コーティングの取組みとして、導電性無機物質を添加せずに電流を伝導する導電性ポリマー、最も一般的にはポリアニリン(PANI)の使用がある。ポリマー中の共役二重結合が、コーティング全面にわたって電子を伝導する。多くの場合、これらの導電性ポリマーコーティングにアニオンをドープすることができ、またはこれらのポリマーコーティングは、金属基体の電位の変化に応答して遊離するアニオンを含有する。導電性ポリマーは、腐食の部位で保護バリヤを形成するのに十分な電流を供給し、かつ同時に、腐食に対する活性な抑制剤として機能するアニオンを遊離するカソードとして作用することが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性ポリマーは、いくつかの欠点から、工業的コーティングにおいては使用が限定されることが見出されている。高コストであることに加えて、導電性ポリマーの皮膜形成特性は理想的ではなく、これらのポリマーは有機溶媒中の溶解度が低く、塗布を困難にしている。したがって、導電性ポリマーの使用に頼らない腐食抑制メカニズムを提供することが望ましい。著しい腐食がない状態で、さらなる腐食作用を抑制する手段が時間と共に失われることがないように、腐食に応答するコーティングを提供することも望ましい。クロム単独をベースとするコーティングは、いくつかの望ましくない属性を有し、したがって、腐食に対してクロムベースの製品と同様の利益をもたらす、クロムを含まないコーティングを提供することが望ましい。クロムが使われ続ける他の例では、クロム含有コーティング組成物によって提供される防食を引き延ばすことが望ましいであろう。酸性でない希薄有機不動態化剤組成物を提供することも望ましいことであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般的には、本発明は、導電性ポリマーまたはコポリマーを全く含まない非導電性皮膜形成コポリマーのみと、窒素含有官能基Xと、イオン対により官能基X中の窒素に結合したメタレートアニオンとを含む、金属基体向けの腐食防止コーティング組成物を提供し、ここで、このイオン対のアニオンは腐食に応答して遊離可能であり、それにより腐食を抑制する。
【0010】
より具体的には、一実施形態において、本発明は、非導電性皮膜形成コポリマーのみと;ピリジン、ジヒドロピリジン、ピロール、イミダゾールまたはこれらの混合物を含む窒素含有官能基Xと;クーロン引力によるイオン結合によって、その官能基X中の窒素に結合することが可能なメタレートアニオンとを含む、金属基体用の腐食防止コーティング組成物である。この官能基Xは、コポリマーに結合すること、コポリマー鎖に結合し、コポリマー鎖を架橋すること、コーティング組成物中において、組成物の別個の成分として、またはこれらの形態の2つ以上の任意の組合せとして遊離していることが見出される。メタレートアニオンは、アニオン性金属含有化学種として、または、このコーティング組成物中で使用される際にアニオン性となる、非アニオン性金属供給源としてのいずれかで供給することができる。いずれの場合も、コーティング組成物は基体に塗布され、その場で乾燥されると直ぐに、メタレートアニオンはイオン結合により官能基Xに結合する。官能基X中の窒素基のpKaに関連したpHを超えてpHが上昇すると直ぐに、メタレートアニオンは、官能基Xの窒素から遊離することを実証することができる。メタレートアニオンが遊離すると、腐食速度の低下が観察される。この効果を説明するいくつかのメカニズムを理論付けることができる。この抑制アニオンが酸化されて基体の酸化を防止することができるか、または、このアニオンが腐食点でバリヤとしての役割を果たす不溶性の堆積物を形成するか、あるいはそれらの両方である。官能基Xは、ピリジン、ジヒドロピリジン、ピロール、イミダゾールまたはこれらの混合物とすることができる。官能基Xは、さらに、置換されたもの、または無置換のもののいずれであってもよい。
【0011】
本発明のこれら、および他の特徴および利点は、好ましい実施形態の詳細な説明から当業者に、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、露出金属表面(金属リン酸塩溶液、クロム含有リンス液または任意の他の不動態化処理によって金属表面が全く前処理されていないことを意味する)において高レベルの性能を提供するが、しかしながら、また本発明は従来の前処理物において使用することもできる。本発明は、鋼、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、アルミニウムを含む様々な表面への適用に適しているが、その利点は特に、例えば電解亜鉛めっき鋼板、ガルバリウム(galvalume;登録商標)、ガルバニール(galvanneal)、および溶融亜鉛めっき鋼板などの、亜鉛または亜鉛合金で被覆した鋼でもたらされる。
【0013】
本明細書および特許請求の範囲において、成分、温度または他の項目について範囲が記載されている場合、この範囲は、言及された範囲内で見出される全ての小範囲を含むことを意図している。
【0014】
金属表面は清浄であることが好ましい。製鋼所内の亜鉛めっきラインなどのいくつかの用途において、本発明は、別個の洗浄操作を必要とせず、亜鉛めっきステップの後に連続した形で適用される。他の用途では、本発明の適用に先立った洗浄ステップが好ましい。金属表面の洗浄は、当技術分野でよく知られており、弱または強アルカリ性洗浄剤を含むことができる。2種のアルカリ性洗浄剤の例として、Parco(登録商標)Cleaner ZX−1およびParco(登録商標)Cleaner 315が挙げられ、両方ともHenkel Surface Technologiesから入手できる。洗浄に続いて、本発明による処理の前に、表面を水でリンスすることが好ましい。
【0015】
上記において考察したように、金属表面上のある場所で大気中の酸素が還元し、同時に基体の金属が酸化する場合に腐食が起こる。本発明は、導電性ポリマーのない非導電性皮膜形成コポリマーのみと、窒素含有官能基Xと、イオン結合により官能基X中の窒素に結合したメタレートアニオンとを含む、金属基体用の腐食防止コーティング組成物である。腐食反応において、金属基体の酸化は、腐食部位におけるpHの局所的上昇を伴う。このpHの局所的変化を利用して、官能基Xからメタレートアニオンを遊離させることで、本発明が機能すると理論付けられる。遊離したアニオンは、とりわけ、酸素との反応において金属の代わりになり、それにより金属基体を反応させず、腐食を抑制すると考えられる。
【0016】
本発明は、当技術分野で知られている非導電性皮膜形成ポリマーを利用する。適切な非導電性皮膜形成ポリマーの典型的な種類としては、アクリル化合物類、ポリウレタン類およびポリエステル類が挙げられるが、これらに限定されない。非導電性皮膜形成ポリマーの1つの好ましい種類は、ラテックスの形態で乳化重合によって製造されるものなどのアクリルコポリマー類である。このようなコポリマーを調製するのに使用される典型的なエチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸またはそのエステル類、メタクリル酸またはそのエステル類、スチレンおよびビニル官能性化合物が挙げられ、これら全てが当技術分野で広く使用されている。
【0017】
官能基Xは、多くの方法でアクリル性ラテックスに付与することができる。官能基Xを有するモノマーは、直接重合することができる。別法として、基Xは、前駆体官能基Zの誘導反応からもたらすことができ、この誘導は、重合前、重合中、または重合後に行うことができる。官能基Zは、重合可能なモノマー上の末端基として導入することができ、あるいは官能基Zは、ミニ乳化重合内の疎水性物質のようなオリゴマー上の末端基もしくはペンダント基として、または小分子付加物の形態で導入することができる。別法として、官能基Xは、下記の式I〜IVにおいてより十分に説明される小分子として生成することができ、この小分子を、コーティング組成物中に導入することができる。いくつかのコーティング組成物において、官能基Xは、このコーティング組成物中における3つの形態の内の2つ以上の任意の組合せとすることができる。例えば、官能基Xの正の部分(positive portion)100%までがコポリマー鎖に結合することができ、または官能基Xの正の部分100%までが2つのコポリマー鎖を架橋することができ、または官能基Xの正の部分100%までがコーティング組成物内で小分子として遊離していることができ、あるいはコーティング組成物には、これらの形態の2つ以上の任意の組合せが含まれ得る。
【0018】
本明細書および特許請求の範囲において、小分子としての官能基Xとは、官能基Xが非導電性皮膜形成コポリマーに結合していない形態にあることを意味する。小分子としての官能基Xは、下記においてさらに説明されるように、物理的サイズを必ずしも指すものではない。好ましい実施形態において、官能基Zは、β−ケトエステル基であり、またXは、ハンチ(Hantzsch)反応により形成されるジヒドロピリジン基である。ハンチ反応においては、2当量のβ−ケトエステルが1当量のアンモニアおよび1当量のアルデヒドと反応して、ジヒドロピリジン基を形成する。この好ましい実施形態において、例示的なZの供給源として、メタクリル酸アセトアセトキシエチル、およびそれから得られるアクリルコポリマー、アセト酢酸エチル、アセト酢酸t−ブチルおよびアセトアセテート官能性ポリマー/オリゴマー、例えば共にKing Industries製のK−Flex XM−B301およびK−Flex 7301が含まれるが、それらに限定されない。製造業者によると、K−Flexポリマーは低粘性アセトアセテート樹脂である。この好ましい実施形態においては、一般構造L−CHO(式中、Lは、アルデヒド官能基に結合している任意の置換基である)に従う任意のアルデヒドを使用することができる。例示的なアルデヒドとしては、単なる例としてであるが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ケイ皮アルデヒド、グルコース、バニリン、グリオキサル酸およびサリチルアルデヒドが挙げられる。ピリジン官能基Xを形成する方法は当技術分野でよく知られており、単なる例としてであるが、ビニル−ピリジンの重合、またはジヒドロピリジン官能基Xの酸化/脱水素化が挙げられる。
【0019】
他の好ましい実施形態において、Zはアセトアセテート基であり、また官能基Xは、クノール(Knorr)のピロール合成反応による、β−ケトエステル基とα−アミノケトンとの反応によって形成されるピロールである。他の好ましい実施形態において、Zは1,4−ジカルボニル化合物、または第一級アミンのいずれかであり、また官能基Xは、パール−クノール(Paal−Knorr)の合成反応により形成されるピロールである。他の好ましい実施形態において、Zは置換された1,2−ジカルボニル化合物、または第一級アミンのいずれかであり、また官能基Xは、未置換イミダゾールを形成するための1,2−ジカルボニル化合物のアンモニアおよびアルデヒドとの反応、または置換イミダゾールを形成するための1,2−ジカルボニル化合物の第一級アミンおよびアンモニアとの反応(これは、Debus−Radziszewskiのイミダゾール合成を適合させたものである)によって形成されるイミダゾールである。特に好ましい実施形態は、Z基を含む皮膜形成非導電性ポリマーが最初に調製され、その後、続いての誘導反応においてZが官能基Xに変換されるものである。
【0020】
一実施形態において、Zは小分子上の末端基であり、誘導体化反応を受けて官能基Xを形成すると、親水性がより低くなる。誘導体化反応の間、官能基Xを有する小分子は、相間移動により、ラテックスの有機相または非導電性皮膜形成ポリマーの水性分散液に分配される。例示的なZを有する小分子は、アセト酢酸エチルまたはアセト酢酸t−ブチルであり、これらは、反応媒体としてラテックスまたは水性ポリマー分散液を使用して、ハンチ反応により、官能基Xとしての小分子ジヒドロピリジンに変換することができる。
【0021】
官能基Xは、コーティング組成物中にどのように組み込まれていても、乾燥したコーティング組成物1キログラム当り0.001〜0.5モル、より好ましくは0.005〜0.20モルの量、また最も好ましくは0.01〜0.05モルの量の官能基Xとして存在するのが好ましい。乾燥したコーティング組成物は、コーティング組成物を金属基体に塗布し、その場で乾燥した後に得られる。官能基Xは、最終的に、イオン結合によりメタレートアニオンに結合する。この結合は、コーティング組成物を形成した時点で、または基体上、その場でコーティング組成物を乾燥させた後に生じ得る。一実施形態において、金属基体は、コポリマーに結合しているか、被膜形成コポリマーの水性分散液またはエマルジョン中に保持されているか、または溶液の一部となっている官能基Xを含むコポリマーを含有する溶液で被覆される。次いで、コポリマーおよび官能基Xを有する基体を、メタレートアニオンを含有する水溶液中に浸漬することによって、このコーティング組成物が完成する。次いで、コーティング組成物は、その場で乾燥されて、最終的な被覆された基体を形成する。他の実施形態においては、非導電性皮膜形成コポリマー、このコポリマーに結合した、または遊離の官能基X、およびメタレートアニオンの相安定混合物が生成される。この相安定コーティング組成物は、次いで一段階操作で基体に塗布され、その場で乾燥される。
【0022】
ジヒドロピリジンである官能基Xの好ましい式は、下記の式(I)で示され、式中、AおよびEは独立にC〜Cアルキル基であり、BおよびDは独立にCOOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)またはポリマー鎖であり、Fは水素であり、Fは、アルデヒドL−CHOに由来するLである。このポリマー鎖は、非導電性皮膜形成コポリマー、または任意の他のポリマーのいずれかとすることができる。
【0023】
【化1】

【0024】
ピリジンである官能基Xの好ましい式は、下記の式(II)で示され、式中、AおよびEは独立に水素、C〜Cアルキル基またはポリマー鎖であり、BおよびDは独立に水素またはCOOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)またはポリマー鎖であり、Fは、アルデヒドL−CHOに由来するLまたはポリマー鎖である。このポリマー鎖は、非導電性皮膜形成コポリマー、または任意の他のポリマーのいずれかとすることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
ピロールである官能基Xの好ましい式は、下記の式(III)で示され、式中、Iは水素であり、RまたはCOOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)またはポリマー鎖であり、JはC〜Cアルキル基であり、Kは水素またはポリマー鎖であり、Fは水素、C〜C12直鎖状または分岐鎖状炭化水素であり、Gは、水素、C〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素、またはポリマー鎖である。このポリマー鎖は、非導電性皮膜形成コポリマー、または任意の他のポリマーのいずれかとすることができる。
【0027】
【化3】

【0028】
イミダゾールである官能基Xの好ましい式は、下記の式(IV)で示され、式中、Iはポリマー鎖、水素、またはC〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素であり、Jは水素、またはアルデヒドL−CHOに由来するLであり、FおよびGは独立に水素、またはC〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素である。このポリマー鎖は、非導電性皮膜形成コポリマー、または任意の他のポリマーのいずれかとすることができる。
【0029】
【化4】

【0030】
本発明の、その場で乾燥させるコーティング組成物の塗布方法は、当技術分野で知られており、その場で乾燥させる塗布方法である、スプレー塗布、ロールコーティング、浸漬または浴コーティング、ドローバーコーティング、および当業者に知られている他の方法が挙げられる。乾燥は、任意のいくつかの条件下で達成できるが、熱を加えることが一般に好ましい。好ましい実施形態において、塗布はロールコーティングによって行われる。本発明のコーティング組成物は、1平方フィート当り75〜600ミリグラムのレベルで、より好ましくは1平方フィート当り100〜400ミリグラムのレベルで、また最も好ましくは1平方フィート当り120〜200ミリグラムのレベルで塗布されるのが好ましい。塗布したコーティングは、43℃〜150℃のピーク金属温度、より好ましくは70℃〜130℃、また最も好ましくは90℃〜110℃のピーク金属温度を使用して乾燥させることが好ましい。
【0031】
本発明において使用されるメタレートアニオンとしては、モリブデン、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、クロムのメタレート、またはこれらの混合物が挙げられる。非限定的で例示的なメタレートアニオンのための供給源としては、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸およびその塩、五酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル、フルオロジルコニウム酸およびその塩、三酸化クロム、またはこれらの混合物が挙げられる。メタレートアニオンは、コーティング組成物中に、乾燥したコーティング組成物1キログラム当り0.001〜1.500モルの量、より好ましくは0.01〜1.25モルの量、また最も好ましくは0.1〜1.0モルの量の金属元素として存在するのが好ましい。
【0032】
上記のように、メタレートアニオンは、塗布したコーティング組成物中で、官能基X中の窒素において官能基Xに結合したイオン対である。イオン結合が起こるためには、窒素はカチオン性の形態でなければならない。任意のいくつかの酸供給源を利用して、官能基Xのカチオンを供給することができる。例示的なプロトン供給源は、カルボキシル官能性を有するポリマーなどのポリマー酸供給源、またはリンベースもしくは硫黄ベースの酸基である。そのような酸官能基は、当技術分野で知られる方法によってポリマーに付与することができる。酸基は、酸官能性モノマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、リンベースの酸モノマー(例えばPolysurf HP、Ebecryl 168またはEbecryl 170など)、硫黄ベースの酸モノマー(例えばメタクリル酸スルホエチルなど)などによって、ポリマーに付与することができる。Polysurf HPは、製造業者ADD APT Chemicals BVによると、重合可能なプロペン酸ホスホニオキシエステルの混合物である。Ebecryl 168および170は、Cytec Industriesから入手可能であり、メタクリレート酸性誘導体である。他の場合、多くの従来のアクリル開始剤、例えば過硫酸アンモニウムなどと結合した酸末端基が、十分にXにプロトンを供給する。別法として、非ポリマー酸供給源が使用できる。好ましい実施形態において、塗布および乾燥前のコーティング組成物は、コーティング組成物を塗布する時点まで、官能基Xの窒素がメタレートアニオンにイオン結合することを遅らせることができるように、アンモニアなどの揮発性塩基を含む。イオン結合が生じた後、腐食を伴う局所化されたpH上昇によって、官能基Xの窒素からのアニオンの遊離がもたらされると理論付けされる。官能基Xの窒素の遊離挙動は、官能基Xの窒素のpKaによって決定される。Xを構成する好ましい官能基は、pKaが著しく変動できるが、好ましい実施形態においてpKaは一般に4〜11の間、およびその間の全ての範囲である。
【0033】
本発明のコーティング組成物は、他の任意選択の成分、例えば架橋剤、pH調節剤、他の非導電性ポリマー性皮膜形成剤、またはコーティング添加剤なども含むことができる。好ましい実施形態において、塗布前の水性コーティング組成物は、8〜11の間のpH、好ましくはpH10前後を有し、この場合、pH調節剤としてアンモニアが使用され、架橋剤として炭酸ジルコニウムアンモニウムが利用される。添加剤には、湿潤剤、スリップ助剤、還元剤、凝集助剤または他の普通のコーティング用添加剤が含まれる。
【実施例】
【0034】
ここで、本発明を一連の実施例で説明する。これらの実施例は、本発明を例示するものであり、本発明、またはその実施形態を限定しようとするものではない。第1のラテックス非導電性皮膜形成コポリマー、実施例1を、以下の表1に示すように形成した。
【0035】
【表1】

【0036】
パートAを、撹拌子、凝縮器、熱電対および窒素導入口を備えた四つ首1リットル(L)フラスコに添加した。Rhodapon L22は、Rhodiaから入手可能な硫酸ラウリルアンモニウムのアニオン性界面活性剤である。パートAを窒素雰囲気下で80℃まで加熱し、80℃で維持した。パートB1およびB2を別々に混合して、均一な透明な溶液を形成した。Tergital 15−S−20は、Dow Chemicalから入手可能な第二級アルコールエトキシレートの非イオン性界面活性剤であり、Polysurf HPは重合可能なプロペン酸ホスホニオキシエステルの混合物である界面活性剤であり、ADD APT Chemicals BVから入手可能である。B1およびB2を一緒に混合して、プレエマルジョンBを形成した。プレエマルジョンB5%およびパートC25%の量をフラスコに加え、80℃で維持した。15分後、残りのプレエマルジョンBおよびパートCを一定速度で3時間にわたってフラスコに添加し、その後パートHを使用してプレエマルジョン添加ポンプを洗浄し、フラスコ中に入れた。次いで、フラスコ内容物を70℃まで冷却し、その時点でパートFをフラスコに添加した。次いで、パートDおよびEを30分にわたってフラスコに添加し、その後この混合物を1時間にわたって70℃で維持した。混合物を40℃まで冷却し、その時点でパートGを添加した。得られたラテックス、実施例1は、固形分37.2%、pH7.1および粒径132ナノメートルを有していた。
【0037】
ジヒドロピリジン官能基Xを有する、一連のラテックス非導電性皮膜形成コポリマー、実施例2A〜2Dは、以下の表2に示すように、実施例1のラテックスを使用して、ハンチ反応により調製した。選択したアルデヒドを、示した重量比で添加し、その混合物を、45℃24時間に設定したオーブン内の密閉容器に入れた。
【0038】
【表2】

【0039】
実施例2A〜2Dにおいて調製したジヒドロピリジン官能基Xを有する皮膜形成コポリマー、および実施例1のコポリマーを使用して、以下の表3に示すように、メタレートアニオン供給源として五酸化バナジウムを使用して、一連の水性コーティング組成物、実施例3A〜3Eを調製した。Bacote 20は、アニオン性ヒドロキシル化ジルコニウムポリマーを含有する、炭酸ジルコニウムアンモニウムのアルカリ性安定水溶液である。Bacote 20は、Magnesium Elektron,Inc.から入手可能であり、およそ20重量/重量%のZrOを供給する。これらの成分は、列挙された順序で混合した。これらの実施例において、ジヒドロピリジン官能基は、皮膜形成コポリマー上にペンダント基として、およびコポリマーを架橋する架橋ブリッジ中に見られる。比較例3Aは、ジヒドロピリジン官能基Xを有しておらず、対照組成物の役割を果たす。
【0040】
【表3】

【0041】
それぞれのコーティング組成物3A〜3Eを、当技術分野で知られているドローバーによって清浄な溶融亜鉛めっき基体に塗布し、93℃のピーク金属温度まで加熱することにより乾燥させ、乾燥コーティング重量175±25mg/ftとした。
【0042】
比較例4
比較として、清浄な溶融亜鉛めっきパネルを、Henkel Corporationから入手可能な市販のクロムベースの希薄有機不動態化剤であるP3000Bにより被覆した。P3000Bは、ドローバーによりパネルに塗布し、93℃のピーク金属温度まで加熱することにより乾燥させ、乾燥コーティング重量175±25mg/ftを得た。
【0043】
実施例3A〜3Eおよび比較例4のコーティング組成物で被覆したパネルを塩水噴霧(Neutral Salt Spray)(NSS)キャビネット内に入れ、ASTM B117により腐食試験を行った。腐食は、時間の関数として全表面錆の%として測定した。腐食%は、それぞれのコーティング組成物について、試験パネル3枚の平均から決定した。NSSの336時間後および504時間後の試験の結果を、以下の表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
表4の結果は、本発明により調製したコーティング組成物の利点を示す。官能基X(これらの実施例ではジヒドロピリジン)を添加していないコーティング組成物である実施例3Aの、ジヒドロピリジンを含むコーティング組成物である実施例3B〜3Eに対する結果は、防食を増強するには官能基Xが必要であることを示す。比較例4のP3000Bクロムベースのコーティングと比較すると、本発明により調製したコーティング組成物は、極めて良好であり、いくつかの場合では、このクロムベースのコーティングによりもたらされる防食を超えていた。バナジウムベースの抑制アニオン単独では、それ自体で有効な防食を発揮できなかった。
【0046】
以下に示すように、表5の成分を使用して、別のラテックス非導電性皮膜形成コポリマー、ラテックス実施例6を調製した。
【0047】
【表5】

【0048】
パートAを、撹拌子、凝縮器、熱電対および窒素導入口を備えた四つ首1Lフラスコに添加した。内容物を窒素雰囲気下で80℃まで加熱し、80℃で維持した。パートB1およびB2を別々に混合して、均一な透明な溶液を形成した。次いで、パートB1およびB2を一緒に混合して、プレエマルジョンBを形成した。プレエマルジョンB5%およびパートC25%の量をフラスコに加え、80℃で維持した。40分後、残りのプレエマルジョンBおよびパートCを一定速度で3時間にわたってフラスコに添加し、その後パートHを使用してプレエマルジョン添加ポンプを洗浄し、フラスコ中に入れた。フラスコ内容物を70℃まで冷却し、その時点でパートFをフラスコに添加した。パートDおよびEを30分にわたってフラスコに添加し、その後、この混合物を1時間にわたって70℃で維持した。混合物を40℃まで冷却し、その時点でパートGを添加した。得られたラテックスは、固形分37.2%、pH6.9および粒径123ナノメートルを有していた。
【0049】
以下に示すように、表6の成分を使用して、別のラテックス非導電性皮膜形成コポリマー、ラテックス実施例7を調製した。
【0050】
【表6】

【0051】
パートAを、撹拌子、凝縮器、熱電対および窒素導入口を備えた四つ首1Lフラスコに添加した。内容物を窒素雰囲気下で80℃まで加熱し、80℃で維持した。パートB1およびB2を別々に混合して、均一な透明な溶液を形成した。次いで、パートB1およびB2を混合して、プレエマルジョンBを形成した。プレエマルジョンB5%およびパートC25%の量をフラスコに加え、80℃で維持した。40分後、残りのプレエマルジョンBおよびパートCを一定速度で3時間にわたってフラスコに添加し、その後パートHを使用してプレエマルジョン添加ポンプを洗浄し、フラスコ中に入れた。フラスコ内容物を70℃まで冷却し、その時点でパートFをフラスコに添加した。パートDおよびEを30分にわたってフラスコに添加し、その後、この混合物を1時間にわたって70℃で維持した。混合物を35℃まで冷却し、その時点でパートGを添加した。得られたラテックスは、固形分34.5%、pH6.8および粒径116ナノメートルを有していた。
【0052】
以下に示すように、表7の成分を使用して、別のラテックス非導電性皮膜形成コポリマー、ラテックス実施例8を調製した。
【0053】
【表7】

【0054】
パートAを、撹拌子、凝縮器、熱電対および窒素導入口を備えた四つ首1Lフラスコに添加した。内容物を窒素雰囲気下で80℃まで加熱し、80℃で維持した。パートB1およびB2を別々に混合して、均一な透明な溶液を形成した。パートB1およびB2を混合により組み合わせ、付加圧力9000P.S.I.でミクロ流動化装置に3回通過させて、プレエマルジョンBを得た。プレエマルジョンB5%およびパートC25%の量をフラスコに加え、80℃で維持した。20分後、残りのプレエマルジョンBおよびパートCを一定速度で3時間にわたってフラスコに添加し、その後パートHを使用してプレエマルジョン添加ポンプを洗浄し、フラスコ中に入れた。フラスコ内容物を70℃まで冷却し、その時点でパートFをフラスコに添加した。パートDおよびEを30分にわたってフラスコに添加し、その後、この混合物を1時間にわたって70℃で維持した。混合物を44℃まで冷却し、その時点でパートGを添加した。得られたラテックスは、固形分29.6%、pH6.8および粒径165ナノメートルを有していた。
【0055】
ジヒドロピリジン官能基により与えられる官能基Xを有する、一連の非導電性皮膜形成コポリマーを、以下の表8に示した重量比でラテックス6〜8にアルデヒドを添加することによって調製した。それぞれの混合物は、密閉容器に入れて混合し、45℃のオーブン内に24時間入れた。実施例9Aでは、ジヒドロピリジン官能基は、皮膜形成コポリマー上にペンダント基として、およびコポリマーを架橋する架橋ブリッジ中の両方に見られる。実施例9Bおよび9Cでは、ジヒドロピリジン官能基は、皮膜形成コポリマー上にペンダント基として、コポリマーを架橋する架橋ブリッジ中に、および、コポリマーに結合せずに、コーティング組成物中で遊離している小分子として見られる。
【0056】
【表8】

【0057】
一連の水性コーティング組成物、実施例10A〜10Dを、本発明に従って、表9の成分を列挙された順序で混合しながら組み合わせることにより調製した。
【0058】
【表9】

【0059】
それぞれのコーティング組成物、実施例10A〜10Dを、ドローバーによって清浄な溶融亜鉛めっき基体に塗布し、93℃のピーク金属温度まで加熱することにより乾燥させ、乾燥コーティング重量175±25mg/ftとした。
【0060】
実施例10A〜10Dおよび比較例4の一連の被覆したパネルを塩水噴霧キャビネット内に入れ、上述のように試験した。腐食は、複数のパネルについて、時間の関数として全表面錆の%として測定し、平均した。これらの結果を、以下の表10に示す。
【0061】
【表10】

【0062】
これらの結果は、本発明によるクロムを含まないコーティング組成物が、市販のクロムベースの製品と同等な、またはより良好な耐食性をもたらすことを実証する。
【0063】
別の実施例においては、市販の非導電性皮膜形成コポリマーを本発明において使用した。比較例11Aにおいては、官能基Xのないコポリマー単独のものとして、Lubrizolから市販されているCarboset CR−760を利用した。製造業者によれば、Carboset CR−760は、全固形物がおよそ42.0重量%である熱可塑性スチレン−アクリルコポリマーエマルジョンである。実施例12においては、このCarboset CR−760をコポリマーとして使用し、以下の表11に示すように、これにジヒドロピリジン官能基Xを添加した。
【0064】
【表11】

【0065】
ジヒドロピリジン含有ラテックス、実施例12は、直接的な相間移動により調製した。この実施例において、ジヒドロピリジン官能基は小分子であり、すなわちジヒドロピリジン官能基はコポリマーに結合せず、この官能基はラテックス中で遊離している。ここでラテックスは、反応媒体として使用されている。パートAを、撹拌子、凝縮器および熱電対を備えた密閉三つ首1/2Lフラスコに添加した。パートBおよびCを別々に混合して、均一な透明な溶液を形成し、次いでフラスコに添加した。パートDをフラスコに滴下し、その後パートEを添加した。室温で1時間混合した後、混合物を50℃まで加熱し、50℃で2時間維持した。得られたラテックスを濾過し、固形分31.4%、pH8.3および粒径94ナノメートルを有するラテックスを得た。
【0066】
別の実施例においては、市販の非導電性皮膜形成コポリマーを本発明において使用した。比較例11Bにおいては、Rohm and Haasから市販されているアクリルポリマー、Avanse MV−100を、官能基Xを添加せずに単独で利用した。実施例13においては、このAvanse MV−100をコポリマーとして使用し、以下の表12に示すように、これにジヒドロピリジン官能基Xを添加した。この実施例において、ジヒドロピリジン官能基は小分子であり、すなわちジヒドロピリジン官能基はコポリマーに結合せず、この官能基はラテックス中で遊離している。ここでラテックスは、反応媒体として使用されている。
【0067】
【表12】

【0068】
ジヒドロピリジン含有ラテックス、実施例13は、直接的な相間移動により調製した。パートAを、撹拌子、凝縮器および熱電対を備えた密閉三つ首1/2Lフラスコに添加した。パートBおよびCを別々に混合して、均一な透明な溶液を形成し、次いでフラスコに添加した。パートDは、フラスコに滴下し、その後パートEを添加した。室温で20分混合した後、混合物を50℃まで加熱し、50℃で3時間維持し、続いて40℃でさらに6時間維持した。得られたラテックスを濾過し、固形分37.5%、pH9.0および粒径129ナノメートルを有するラテックスを得た。
【0069】
一連の水性コーティング組成物を、以下の表13の成分を列挙された順序で混合しながら組み合わせることにより調製した。
【0070】
【表13】

【0071】
それぞれのコーティング組成物、比較例14A、14B、比較例14Cおよび14Dを、ドローバー法によって、複数の清浄な溶融亜鉛めっき基体に塗布し、93℃のピーク金属温度まで加熱することにより乾燥させ、乾燥コーティング重量175±25mg/ftとした。
【0072】
比較例14A、14B、比較例14Cおよび14Dを使用した被覆したパネルを塩水噴霧キャビネット内に入れ、上述のように試験した。腐食は、時間の関数として全表面錆の%として測定した。以下の表14に示す結果は、それぞれの条件の複数のパネルの平均である。
【0073】
【表14】

【0074】
表14に示した結果は、再び、腐食防止処理としての本発明の利点を実証している。これらの結果は、直接的な相間移動によって非導電性皮膜形成コポリマーの市販ラテックス2種中に導入したジヒドロピリジン結合部位と結合したバナジウムベースの抑制アニオンの腐食防止効果を示している。
【0075】
別の実施例、実施例16においては、非導電性皮膜形成コポリマーを形成した。このコポリマーは、コーティング組成物中の官能基Xとしてピリジンを有して生成された。以下の表15に示すように、ピリジン官能基Xを有するコポリマーを調製した。この実施例では、ピリジン官能基はコポリマーに結合していることが見出されている。
【0076】
【表15】

【0077】
パートAを、撹拌子、凝縮器、熱電対および窒素導入口を備えた四つ首1Lフラスコに添加した。内容物を窒素雰囲気下で80℃まで加熱し、80℃で維持した。パートB1およびB2を別々に混合して、均一な透明な溶液を形成した。次いで、パートB1およびB2を混合して、プレエマルジョンBを形成した。プレエマルジョンB5%、パートC25%およびパートD25%の量をフラスコに加え、80℃で維持した。20分後、残りのプレエマルジョンB、パートCおよびパートDを一定速度で3時間にわたってフラスコに添加し、その後パートJを使用してプレエマルジョン添加ポンプを洗浄し、フラスコ中に入れた。フラスコ内容物を70℃まで冷却し、その時点でパートGをフラスコに添加した。パートE、FおよびHを30分にわたってフラスコに添加し、その後、この混合物を1時間にわたって70℃で維持した。混合物を40℃まで冷却し、その時点でパートIを添加した。得られたラテックス、実施例16は、固形分39.6%、pH6.5および粒径114ナノメートルを有していた。
【0078】
一連の水性コーティング組成物、実施例17A〜17Cは、官能基Xを有しないラテックス実施例6を、ピリジン官能基Xを添加した実施例16と組み合わせて使用して、生成した。これらのコーティング組成物は、以下の表16に列挙された順序で組み合わせることにより調製した。
【0079】
【表16】

【0080】
それぞれの組成物、実施例17A〜17Cを、ドローバーによって複数の清浄な溶融亜鉛めっき基体に塗布し、93℃のピーク金属温度まで加熱することにより乾燥させ、乾燥コーティング重量175±25mg/ftとした。上述の実施例17A〜17Cおよび比較例4で被覆した被覆パネルを塩水噴霧キャビネット内に入れ、上述のように試験した。腐食の程度は、時間の関数として全表面錆の%として測定し、それぞれの条件および時点での複数のパネルを平均して、以下の表17に示した結果が得られた。
【0081】
【表17】

【0082】
表17に示した結果は、官能基Xがピリジンである場合の本発明の利点を示す。腐食防止効果は、比較例4における市販のクロムベースの溶液とほぼ同等である。
【0083】
別の実施例、実施例18においては、非導電性皮膜形成コポリマーを形成した。このコポリマーラテックス、実施例18は、コーティング組成物中の官能基Xとしてジヒドロピリジンを有して生成された。以下の表18に示すように、官能基Xとしてジヒドロピリジンを有するコポリマーを調製した。この実施例では、ジヒドロピリジン官能基Xは、コポリマー鎖を架橋していることが見出されている。
【0084】
【表18】

【0085】
パートA1を、撹拌子、凝縮器、熱電対および窒素導入口を備えた四つ首5Lフラスコに添加した。内容物を窒素雰囲気下で70℃まで加熱し、70℃で維持し、この時点でA2を添加した。パートB1、B2、C1およびC2を別々に混合して、均一な透明な溶液を形成した。次いで、パートB1およびB2を一緒に混合して、プレエマルジョンBを形成した。プレエマルジョンB5%、パートC1およびC2の25%の量をフラスコに加え、70℃で維持した。15分後、残りのプレエマルジョンB、パートC1およびC2を一定速度で3時間にわたってフラスコに添加し、その後パートEを使用してプレエマルジョン添加ポンプを洗浄し、フラスコ中に入れた。パートD1およびD2を別々に混合して、透明な溶液を形成し、次いで、一定速度で30分にわたって添加した。この混合物を1時間にわたって70℃で維持した。フラスコ内容物を50℃まで冷却し、その時点でパートFを混合し、次いでこれをフラスコに添加した。このラテックスは、固形分45%、粒径94ナノメートルおよびpH6.6を有していた。
【0086】
以下の表19に列挙された順序で成分を混合することにより、クロムVI含有コーティング組成物、実施例19Aを調製した。以下の表19に列挙された順序で成分を混合することにより、クロムIII含有コーティング組成物、実施例19Bを調製した。
【0087】
【表19】

【0088】
それぞれのコーティング組成物、実施例19Aおよび19Bを、ドローバーによって複数の清浄な溶融亜鉛めっき基体に塗布し、93℃のピーク金属温度まで加熱することにより乾燥させ、乾燥コーティング重量175±25mg/ftとした。上述の実施例19Aおよび19B、比較例4で被覆した被覆パネルを塩水噴霧キャビネット内に入れ、上述のように試験した。腐食の程度は、時間の関数として全表面錆の%として測定し、それぞれの条件および時点での3枚パネルを平均して、以下の表20に示した結果が得られた。
【0089】
【表20】

【0090】
表20に示した結果は、官能基X、この場合ジヒドロピリジンがメタレートアニオン供給源としてのクロムに結合している場合の本発明の劇的な利点を示す。これらの結果は、市販の従来のクロム処理よりも、腐食の防止において本発明が著しく良好であることを示す。本発明の利点は、NSS試験において、十分に672時間を超えて延長するものと予期される。
【0091】
典型的な導電性コポリマーと比較して、本発明に従って調製したコポリマーには導電性がないことを示すために、導電性コポリマー実施例20を使用して、導電性コーティングを調製した。導電性コポリマー、実施例20を形成するために、10部のn−メチルピロリドンと1.1部のPanipol F(酸ドープしたエメラルド色の形態のポリアニリン)とを組み合わせた。この材料を加熱しながら混合して、液体コーティング組成物を形成し、これをドローバーによって清浄な溶融亜鉛めっき基体に塗布し、温度185℃で10分間加熱することにより乾燥させた。乾燥コーティング重量は206mg/ftと測定された。塗布したコーティングの抵抗率を、Lorestaプローブ8000−20−01を備えたLoresta−EP抵抗率計を使用して測定した。それぞれのパネルについて12回繰返して測定を行い、平均した。ジヒドロピリジン官能基Xおよびメタレートアニオンとして五酸化バナジウムを含む実施例3B〜3Eで上述のように被覆したパネルについて、同様の測定を行った。その結果を以下の表21に示す。これらの結果は、本発明の非導電性コポリマーが、実施例20などのような本来的に導電性ポリマーをベースとする導電性コーティングと比較して、絶縁体であるコーティングをもたらすことを実証している。
【0092】
【表21】

【0093】
本発明のコーティング組成物は、ワックス、pH調節剤、着色剤、溶媒、界面活性剤、およびその場で乾燥する腐食コーティング組成物に典型的に使用される他の成分を含む、当技術分野で知られている他の添加剤および機能性成分をさらに含むことができる。
【0094】
前述の本発明は、関連する法定基準に従って説明されており、したがって、その説明は本質的に限定するよりもむしろ例示的である。開示された実施形態の変更および改変は、当業者には明らかであろうし、かつ本発明の範囲内である。したがって、本発明に与えられる法的保護の範囲は、下記の特許請求の範囲の検討によってのみ決定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーを含まず、少なくとも1種の非導電性皮膜形成コポリマーと、ピリジン、ジヒドロピリジン、ピロール、イミダゾールまたはこれらの混合物を含む窒素含有官能基Xと、イオン結合により前記官能基X中の窒素に結合することが可能であるメタレートアニオンとを含む、金属基体用の腐食防止コーティング組成物。
【請求項2】
前記官能基Xの正の量〜100%が、前記コポリマーに結合している、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記官能基Xの正の量〜100%が、前記コポリマーに結合しており、前記コポリマーの鎖を架橋している、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記官能基Xの正の量〜100%が、前記コーティング組成物内で遊離しており、前記コポリマーに結合していない、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記官能基Xが、乾燥したコーティング組成物1キログラム当り前記官能基X0.001〜0.5モルの量で存在している、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記メタレートアニオンが、乾燥したコーティング組成物1キログラム当り前記メタレートアニオン0.001〜1.5モルの量で存在している、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記アニオンが、モリブデン、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、クロムのメタレート、またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記メタレートアニオンの供給源が、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸、タングステン酸の塩、五酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル、フルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム酸の塩、三酸化クロム、またはこれらの混合物を含む、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記官能基Xが、式(I)を有するジヒドロピリジン
【化1】

[式中、AおよびEは独立にC〜Cアルキル基であり、BおよびDは独立にCOOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)またはポリマー鎖であり、Fは水素であり、Fは、アルデヒドLCHOに由来するLである]
を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記官能基Xが、式(II)を有するピリジン
【化2】

[式中、AおよびEは独立に水素、C〜Cアルキル基またはポリマー鎖であり、BおよびDは独立に水素、COOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)またはポリマー鎖であり、Fは、アルデヒドLCHOに由来するLまたはポリマー鎖である]
である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記官能基Xが、式(III)を有するピロール
【化3】

[式中、Iは水素、R、またはCOOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)またはポリマー鎖であり、JはC〜Cアルキルであり、Kは水素またはポリマー鎖であり、Fは水素、C〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素またはCOOR(式中、Rは直鎖状または分岐鎖状C〜C12炭化水素である)であり、Gは、水素、C〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素、またはポリマー鎖である]
である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記官能基Xが、式(IV)を有するイミダゾール
【化4】

(式中、Iはポリマー鎖、水素、またはC〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素であり、Jは水素、またはアルデヒドL−CHOに由来するLであり、FおよびGは独立に水素、またはC〜C12直鎖状もしくは分岐鎖状炭化水素である)
である、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
前記コポリマーがβ−ケトエステル基を含み、前記官能基Xが、ハンチのジヒドロピリジン合成反応により、2当量の前記コポリマーのβ−ケトエステル基を、1当量のアンモニアおよび1当量のアルデヒドと反応させることによって形成されるジヒドロピリジン基を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項14】
前記コポリマーがβ−ケトエステル基を含み、前記官能基Xが、クノールのピロール合成反応により、1当量の前記コポリマーのβ−ケトエステルを、1当量のα−アミノケトンと反応させることによって形成されるピロール基を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項15】
前記コポリマーが、1,4−ジカルボニル基、第一級アミン基またはこれらの混合物のうちの少なくとも1種を含み、前記官能基Xが、パール−クノールの合成反応により形成されるピロールである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項16】
前記コポリマーが、置換された1,2−ジカルボニル基、第一級アミン基またはこれらの混合物のうちの少なくとも1種を含み、官能基Xが、Debus−Radziszewskiのイミダゾール合成を適用することにより形成されるイミダゾールである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項17】
前記官能基Xの窒素が、pKa4〜11を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項18】
a)金属基体を選択するステップ、
b)導電性ポリマーを含まず、少なくとも1種の非導電性皮膜形成コポリマーと、ピリジン、ジヒドロピリジン、ピロール、イミダゾールまたはこれらの混合物を含む窒素含有官能基Xと、イオン結合により前記官能基X中の窒素に結合することが可能なメタレートアニオンとを含むコーティング組成物を、前記金属基体に塗布するステップ、ならびに
c)前記基体上のコーティング組成物を乾燥させ、それにより前記金属基体上に防食性コーティングを形成するステップ
を含む、金属基体の防食方法。
【請求項19】
ステップa)が、前記金属基体として、鋼、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、および亜鉛金属または亜鉛合金で被覆した鋼を選択することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ステップb)が、前記コーティング組成物を、前記非導電性コポリマー、官能基Xおよび前記メタレートアニオンの相安定混合物として提供することをさらに含み、
前記コーティング組成物を金属基体に塗布するステップが、1ステップの工程である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
ステップb)が、最初に前記コポリマーおよび官能基Xを前記金属基体に塗布し、次いで前記メタレートアニオンの水溶液を前記金属基体に塗布することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
ステップb)が、乾燥したコーティング組成物1キログラム当り官能基X0.001〜0.5モルのレベルで、前記官能基Xを与えることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
ステップb)が、乾燥したコーティング組成物1キログラム当りメタレートアニオン0.001〜1.500モルのレベルで、前記メタレートアニオンを与えることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
ステップb)が、前記官能基Xの正の量〜100%が前記コポリマーに結合しているコーティング組成物を提供することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
ステップb)が、前記官能基Xの正の量〜100%が前記コポリマーに結合しており、かつコポリマー鎖を架橋しているコーティング組成物を提供することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
ステップb)が、前記官能基Xの正の量〜100%が前記コーティング組成物中で遊離しているコーティング組成物を提供することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(b)が、前記メタレートアニオンとして、モリブデン、タングステン、バナジウム、ジルコニウム、クロムのメタレート、またはこれらの混合物を提供することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
ステップb)が、1平方フィート当り75〜600ミリグラムのレベルで、前記金属基体に前記コーティング組成物を塗布することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
ステップc)が、前記金属基体を43〜150℃のピーク金属温度まで乾燥させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
ステップb)が、β−ケトエステル基を含むコポリマーを供給することをさらに含み、前記官能基Xが、ハンチのジヒドロピリジン合成反応により、2当量の前記コポリマーのβ−ケトエステル基を、1当量のアンモニアおよび1当量のアルデヒドと反応させることによって形成されるジヒドロピリジン基を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
ステップb)が、β−ケトエステル基を含むコポリマーを供給することをさらに含み、前記官能基Xが、クノールのピロール合成反応により、1当量の前記コポリマーのβ−ケトエステルを、1当量のα−アミノケトンと反応させることによって形成されるピロール基を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
ステップb)が、1,4−ジカルボニル基、第一級アミン基またはこれらの混合物のうちの少なくとも1種を含むコポリマーを供給することをさらに含み、前記官能基Xが、パール−クノールの合成反応により形成されるピロールである、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
ステップb)が、置換された1,2−ジカルボニル基、第一級アミン基またはこれらの混合物のうちの少なくとも1種を含むコポリマーを供給することをさらに含み、前記官能基Xが、Debus−Radziszewskiのイミダゾール合成を適用することにより形成されるイミダゾールである、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
ステップb)が、ハンチのジヒドロピリジン合成反応、クノールのピロール合成反応、パール−クノールのピロール合成、Debus−Radziszewskiのイミダゾール合成、およびピリジン合成反応の少なくとも1種により、前記コポリマーに結合していない分子として、前記コーティング組成物中にその場所で官能基Xを形成することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項35】
ステップb)が、前記コーティング組成物中への前記形成された官能基Xの相間移動により、前記形成された官能基Xを前記コーティング組成物中に組み込むことをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ステップb)が、ラテックスを含むコーティング組成物をさらに含み、前記形成された官能基Xが、相間移動により、前記ラテックスコーティング組成物中に組み込まれる、請求項35に記載の方法。

【公表番号】特表2012−527517(P2012−527517A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511932(P2012−511932)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/035087
【国際公開番号】WO2010/135229
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(391008825)ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン (309)
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D−40589 Duesseldorf,Germany
【Fターム(参考)】