説明

オージェ電子分光による化学状態分析法及び装置

【課題】 AESを用いて異なる化学状態の混在する試料を分析する方法を提供する。
【解決手段】 FeO(2価)とFe(3価)を標準試料、Feを被験試料として、FeOとFeの標準スペクトルを用いて、Feからのスペクトルに対して最小二乗法のフィッティング計算による波形分離計算を行う。convolution曲線は、最もよいフィッティング結果を与えるときの、FeOとFeの標準スペクトルに各々係数を乗じて合成されたスペクトルである。このときのFeOとFeの係数に基づいて、Fe中の2価と3価の鉄原子の存在比率を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オージェ電子分光装置(AES)を用いて試料の極表面の微小領域分析を行う技術に関わり、特にAESを用いて化学状態分析を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄(以下「Fe」と元素記号で記すことが有る)は、建築物の構造材や自動車の車体をはじめとして広く使われている金属材料であるが、環境によって錆を生じやすいという欠点も持っている。そのため、鉄を含む試料表面に生じる鉄の酸化物や水酸化物等(錆の成分)の化学状態分析は重要である。
【0003】
試料表面の腐食原因調査や材料開発に使われる代表的な分析装置として、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、X線光電子分光装置(XPS)、AESがある。これらの装置を化学状態分析の視点から比較すると、以下の特徴がある。
【0004】
EPMAは試料に電子線を照射して発生する特性X線を検出して分析を行う装置である。試料中に入射した電子が拡散する領域で発生する特性X線を分析に用いるため、最小分析領域(空間分解能)は水平方向、深さ方向ともに、0.数μmから数μm程度である。鉄等の遷移金属の元素分析には通常Kα線を利用するが、化学状態分析を行う場合は、Lα、Lβ線の特性X線の波形変化やピークシフトを利用する。L系列の特性X線の発生効率はそれほどよくないが、化学状態分析には適している(例えば、特許文献1の特開昭63−205550号公報を参照)。
【0005】
XPSは軟X線を試料表面に照射し、発生する光電子の運動エネルギーを測定することにより、電子軌道のエネルギー準位を直接知ることができる。そのため、一般的にはEPMA、XPS、AESの中で化学状態を分析するのに最も適した分析装置である。しかし、XPSの分析領域は、深さ方向こそ数nm程度と極表面であるが、水平方向に関しては通常数100μmから数mmであり、マイクロXPSと呼ばれる装置でも数10μm程度の拡がりを持っている。
【0006】
AESは、EPMAと同様に細く絞った電子線を試料に照射するが、発生するオージェ電子を分析に用いるため、深さ方向はXPSと同様に数nm、水平方向はサブミクロン領域という極めて微小な領域の分析が可能である。この理由は、EPMAにおける特性X線とは異なり、試料に入射した電子線の入射位置の極近傍で発生したオージェ電子のみが分析に寄与できるためである。特性X線とオージェ電子は、原子の内殻の電子軌道に生じた空孔を埋めるために、より外殻の軌道電子が遷移するときに生じる余剰エネルギーが元になって発生するという点で共通性を有する。実際、より外殻の軌道電子の遷移確率は、特性X線の発生確率(蛍光収率)とオージェ電子の発生確率を加えたものに等しい。そのため、オージェ電子を用いた化学状態分析においても、特性X線の場合と同様に、より外殻の軌道電子が関与するオージェ電子ほど、一般的に化学状態に依存して波形やピークシフトが大きく変化する。AESを用いた化学状態分析の例として、例えば特許文献2の特開平7−294464号公報には、オージェ電子スペクトルにおいて、二つのピークの強度比が化学状態によって変化することに着目して分析を行う技術が開示されている。
【0007】
また、例えばチタン(以下「Ti」と元素記号で記すことが有る)系の材料は硬く、Feよりも軽量であるために、超硬バイトからメガネのフレームにまで多種・多様に用いられている。その中でも、TiCN(「C」は炭素、「N」は窒素の元素記号)化合物は超硬バイトなどに用いられる代表的化合物である。TiCN化合物は決まった組成比を持つのではなく、Ti,C,Nの組成比は連続的な値を持つことができる。その材料特性を調べるためには、定量分析が非常に重要であるが、特性X線を用いる分析装置ではNとTiのピークが重なるため、特にNの定量が非常に困難である。定量精度が高いEPMAでもN−Kα線とTi−Ll線が重なるため、Ti−Kα線の強度から、重なっていると考えられるTi−Ll線の強度を推定して差し引くことでNの定量を行っている(例えば特許文献3の特開平1−115045号公報を参照)。
【0008】
【特許文献1】特開昭63−205550号公報
【特許文献2】特開平7−294464号公報
【特許文献3】特開平1−115045号公報
【非特許文献1】A. G. Sault: Appl. Surf. Sci 74, p249(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
試料表面の化学状態分析を行う場合、EPMAを用いると、いくら電子線を細く絞っても特性X線の拡散領域が広いため、サブミクロン以下の空間分解能を得ることは困難である。
【0010】
XPSを用いる場合、水平方向の空間分解能は数10μm程度が限界であるので、それよりも広い領域で化学状態が均一な試料の場合でしか意味の有る分析ができない。また、特に鉄酸化物については、FeOとFe(「O」は酸素の元素記号)からの光電子スペクトルのピーク波形は、殆ど区別がつかないため鉄の化学状態分析には事実上使えないという問題も有る。
【0011】
AESを用いる場合は、EPMAやXPSと比較して最も空間分解能の高い化学状態分析が期待できる。しかし、例えば鉄の化学状態分析を行う場合、Fe−MVVピーク(オージェ電子エネルギーが50eV付近)のピーク形状を使って分析しようとしても、他の共存元素も同じエネルギー位置付近にピークを持つためピーク同士がオーバーラップし易く、他の元素が混在するときは使用できない。また、化学状態の変化によるオージェスペクトルの変化は一般に数eV程度と小さいので、どのオージェスペクトルを用いれば分析対象元素の化学状態分析が可能かを判断することは容易ではない。
【0012】
また、AESでTiCN化合物を分析する場合、特性X線を使用する場合と同様に、Ti−LMMオージェスペクトルとN−KLLオージェスペクトルがオーバーラップするという問題がある。AESで一般的に行われている相対感度因子を用いる定量方法ではその精度が低いため、EPMAで行われているようなTiのオーバーラップ分を差し引く方法を採ることでこの問題を解決することも難しい。
【0013】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、AESを用いて異なる化学状態の混在する試料を分析する方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、AESを用いて異なる化学状態にある鉄の存在比率を求めて鉄の酸化状態を正しく分析できる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、AESを用いて異なる化学状態にあるチタンの存在比率を求めてチタンと炭素と窒素の化合物の組成分析を行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題を解決するために、本発明は、
細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置による化学状態分析法であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む複数の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算を行うステップとを備えたことを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記被験試料が前記分析対象元素として鉄を含むとき、Fe、FeO、Fe、Feのうちの少なくとも2種類の標準試料からのFe-LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのFe-LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれる鉄の化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記被験試料がチタンと窒素を同時に含み、チタン又は窒素が前記分析対象元素であるとき、チタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の複数の標準試料から得られたTi−LMMオージェスペクトル、N−KLLオージェスペクトル、又はTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記被験試料が前記分析対象元素としてチタンを含み、炭素と窒素と酸素のうちの少なくともひとつの元素とチタンとの化合物であるとき、金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタンの化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項3に記載の化学状態分析法。
【0018】
また本発明は、前記被験試料の前記分析対象元素が窒素であり、チタンを含む化合物からなる下地と、前記下地上に形成されたチタン以外の元素の窒素化合物からなる薄膜とからなり、前記薄膜の厚さがオージェ電子分光の実効分析深さより薄いとき、
前記チタン以外の元素の窒素化合物のみからなる試料からのN−KLLオージェスペクトル及び金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトル、又はN−KLLとTi−LMMが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのN−KLLとTi−LMMの重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記下地と前記薄膜に含まれる窒素の存在比率を求めることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記波形分離計算を行うために、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルのバックグランドを除去するバックグランド除去手段を備え、前記バックグランド除去方法は、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルとして微分スペクトルを用いることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記オージェ電子分光装置に備えられた電子エネルギーアナライザにより前記標準スペクトル及び被験試料からのスペクトルを測定するとき、
試料から発生したオージェ電子のエネルギーと前記電子エネルギーアナライザに入射する時のエネルギーに対する減速比を一定にして前記試料から発生したオージェ電子のエネルギーを測定する方法におけるエネルギー分解能が0.35%以上の電子エネルギーアナライザを用いることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む少なくとも2種類の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置による化学状態分析法であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む複数の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算を行うステップとを備えたので、
分析対象元素の化学状態が混在していても、その化学状態毎の割合を知ることができる。
【0023】
また本発明によれば、前記被験試料が前記分析対象元素として鉄を含むとき、Fe、FeO、Fe、Feのうちの少なくとも2種類の標準試料からのFe-LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのFe-LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれる鉄の化学状態毎の存在比率を求めるようにしたので、
鉄の化学状態が混在していても、その化学状態毎の割合を知ることができる。
【0024】
また本発明によれば、前記被験試料がチタンと窒素を同時に含み、チタン又は窒素が前記分析対象元素であるとき、チタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の複数の標準試料から得られたTi−LMMオージェスペクトル、N−KLLオージェスペクトル、又はTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の化学状態毎の存在比率を求めるようにしたので、
前記被験試料がチタンと窒素を同時に含むためチタンと窒素のオージェスペクトルが重なるという問題解決して、チタン化合物と窒素化合物の化学状態へと波形分離が可能となり、化学状態毎の存在比率を求めることができる。さらに求められた化学状態毎の存在比率から、前記被験試料に含まれる元素毎の定量値を知ることができる。
【0025】
また本発明によれば、前記被験試料が前記分析対象元素としてチタンを含み、炭素と窒素と酸素のうちの少なくともひとつの元素とチタンとの化合物であるとき、金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタンの化学状態毎の存在比率を求めるようにしたので、
チタンの化学状態が混在していても、異なる化学状態にあるチタン毎の割合を知ることができる。
【0026】
また本発明によれば、前記被験試料の前記分析対象元素が窒素であり、チタンを含む化合物からなる下地と、前記下地上に形成されたチタン以外の元素の窒素化合物からなる薄膜とからなり、前記薄膜の厚さがオージェ電子分光の実効分析深さより薄いとき、
前記チタン以外の元素の窒素化合物のみからなる試料からのN−KLLオージェスペクトル及び金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトル、又はN−KLLとTi−LMMが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのN−KLLとTi−LMMの重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記下地と前記薄膜に含まれる窒素の存在比率を求めるようにしたので、
従来は極表面のみの分析が行えるオージェ電子分光分析によっても困難とされてきた、チタンと窒素を含む下地上に形成された1〜2nm程度の極薄い窒化物層のみの分析を行うことができる。
【0027】
また本発明によれば、前記波形分離を行うために、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルのバックグランドを除去するバックグランド除去手段を備え、前記バックグランド除去方法は、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルとして微分スペクトルを用いるようにしたので、
試料毎に異なるバックグランドを一定の方法で除去した後のスペクトルを用いて前記波形分離計算を行うことができる。
【0028】
また本発明によれば、前記オージェ電子分光装置に備えられた電子エネルギーアナライザにより前記標準スペクトル及び被験試料からのスペクトルを測定するとき、試料から発生したオージェ電子のエネルギーと前記電子エネルギーアナライザに入射する時のエネルギーに対する減速比を一定にして前記試料から発生したオージェ電子のエネルギーを測定する方法におけるエネルギー分解能が0.35%以上の電子エネルギーアナライザを用いるようにしたので、
Fe-LMMオージェスペクトルを用いた鉄の化学状態分析と、Ti−LMMオージェスペクトルを用いたチタンの化学状態分析を正しく行うことができる。
【0029】
また本発明によれば、細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む少なくとも2種類の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算手段とを備えたので、
分析対象元素の化学状態が混在していても、その化学状態毎の割合を分析より求めることのできるオージェ電子分光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものではない。
【0031】
なお、以下の説明に使用するオージェピークは全て微分スペクトルである。この理由は、オージェ電子ピークは大きなバックグランドの上にのっているため波形分離計算を行う場合に、バックグランドの影響を受けないようにするためである。波形分離計算に用いるスペクトルのバックグランドの除去方法としては、スペクトルを微分することで低周波成分を除去する方法、理論的にバックグランドカーブを求めて差し引く方法、分析者がスプラインカーブを引いて差し引く方法等がある。理論的方法は特定の試料にのみ適用可能であり、スプライン方法は分析者の判断に依存するという問題があるので、本発明ではスペクトルを微分する方法を用いている。しかし、条件によっては他の方法も使用可能であり、必ずしも微分スペクトルの方法が必須というわけではない。
【0032】
ここで、以下に説明する分析に用いる波形分離計算の方法について説明する。但し、波形分離計算に用いる標準試料及び被験試料からのオージェスペクトルは全て同一条件で測定されたデータ(若しくは同一条件に規格化されたデータ)とする。計算手法自体はスペクトルの最小二乗法フィッティングを行っており、以下の行列式を解くことを目的としている。
【0033】
【数1】

…(1)
波形分離に用いるスペクトルのエネルギー幅をn点で分割する。式(1)の左辺が被験試料からのスペクトルのy成分(オージェ電子強度)であり、右辺はそれに相当する標準試料スペクトル(S1〜Sm)のy成分の集合行列である。ここで示すa1,a2,…,aが各標準スペクトルの係数であり、bが定数ベクトルである。この左辺から右辺を引いたものが残差Σであり、式(2)に示すように、この残差が最小になる係数aと定数bを計算する。
【0034】
【数2】

…(2)
残差Σは、必ず正の値となることが明らかなので、この式をa1,a2,…,aで偏微分し、その偏微分した値が0となる点が最小の残差である。よって、次式を満たすように方程式の解を求めれば、各標準試料からのスペクトルの係数aと定数bが求まる。
【0035】
【数3】

…(3)
これらの偏微分方程式を解いて、a1,a2,…,aの各標準スペクトルの係数と定数bを求めることができる。ただし、条件としてa1,a2,…,aはすべて正の数であるという条件を付加して解を求める。以上のようにして、最小二乗法によるピーク分離を行う。
このようにして求められた各標準スペクトルの係数a1,a2,…,aは、被験試料における化学状態毎の存在比率に相当する。なお、実際に波形分離計算を行う際は、ピークシフト等を考慮して非負拘束条件付の最小二乗法を用いることが望ましい。
【0036】
(実施の形態1)
はじめに、Fe−LMMオージェスペクトルを使って、鉄の酸化状態を評価する方法について検討した結果を説明する。図1と図2は、FeO,Fe,Feの標準試料について、それぞれエネルギー分解能が0.5%と0.1%の電子エネルギーアナライザにより測定したFe−LMMオージェスペクトルを示している。ここで、上記エネルギー分解能の定義は、電子エネルギーアナライザへの入射スリットを通過する電子のパスエネルギーをE、検出される電子のエネルギー幅をΔEとしたときのΔE/Eである。なお、パスエネルギーEは、試料から発生したオージェ電子のエネルギーEoとパスエネルギーEに対する減速比Eo/Eを一定にしてオージェ電子のエネルギーを測定するモード(CRR:Constant Retarding Ratio)によって決められる値である。
【0037】
図1は、エネルギー分解能ΔE/E=0.5%で測定されたFe-LMMスペクトルである。大きな3つのオージェピークを含むFe−LMMスペクトルの形状は殆ど変化せず、鉄の酸化状態を判別することは不可能である。非特許文献1の論文の中でSaultは、Fe−LMMのオージェスペクトルによって鉄の酸化状態を判別することは困難であると述べているが、Saultの使用したAESの電子エネルギーアナライザの分解能はΔE/E=0.6%であった。一方、図2は、より高エネルギー分解能ΔE/E=0.1%で測定したFe-LMMスペクトルである。全体としてピークがシャープになっているが、L2,32,32,3とL2,32,34,5のピークが同じ強度で重なっているにも関わらず、L2,34,54,5のピーク強度はFeO,Fe,Fe毎に異なっていることが分かる。これは、明らかに鉄の酸化状態の違いによる変化であり、実用的にもFe−LMMスペクトルのみから鉄の化学状態が評価できる可能性を示している。
【0038】
そこで、図2のFe−LMMスペクトルが本当に鉄の2価と3価の化学状態を示しているかを検証するため、FeO(2価)とFe(3価)からのスペクトルを標準スペクトルとして、Feからのスペクトルに対して最小二乗法のフィッティング計算による波形分離計算を行った。
【0039】
図3に波形分離結果を示す。図3において、convolution曲線は、最もよいフィッティング結果を与えるときの、FeOとFeの標準スペクトルから合成されたスペクトルである。Feはこのconvolution曲線と殆ど重なっていることが分かる。Feを波形分離して得られたFeOとFeのスペクトルの係数と、その係数に基づいて換算したFe2+、Fe3+及びO2−の原子濃度を表1に示す。
【0040】
【表1】

オージェピークの強度は、原理的にそのオージェ電子が放出される元素の原子濃度に依存することから、表1中の係数は、Feを構成するFe原子のうちFe2+の状態にある原子とFe3+の状態にある原子個数のそれぞれ標準試料FeOとFeに対する個数比を示すことになる。但し、係数から各々の原子濃度に換算するときは、標準試料中のその元素の原子濃度を各係数に乗じる必要が有る。例えば、Fe2+の原子濃度は、
FeOの係数×FeO中のFe原子濃度=0.2774×0.5
Fe3+の原子濃度は、
Feの係数×Fe中のFe原子濃度=0.7226×0.4
として、波形分離計算により求めた係数からFeを構成するFe原子の化学状態の存在比率を求めることができる。
表1における換算された原子濃度をみると、Fe2+とFe3+の原子濃度がFeの理論値に近い値が得られており、FeOとFeのスペクトルを2価と3価の標準スペクトルとして、Feの化学状態を分離できることが分かった。
【0041】
(実施の形態2)
次に、Ti−LMMオージェスペクトルによる化学状態分析を用いて、炭窒化チタン(以下、TiCNと記す)化合物におけるTiCとTiNの割合を求める方法について説明する。この方法は、Ti原子の結合相手がCとNに依存してTi−LMMオージェスペクトルが変化することを利用して、TiCとTiNの存在比率を見積もる方法である。このとき、TiNにおいてオーバーラップしているTiとNのスペクトルを恰も一つのスペクトルであるように扱うことで、TiとNのスペクトルがオーバーラップして定量が行えないという問題を解決している。
【0042】
図4は、化学状態の異なるTiの標準試料で測定したTi−LMMスペクトルである。使用した電子エネルギーアナライザのエネルギー分解能は0.05%である。このようにTiの化合物は高エネルギー分解能(ΔE/E=0.1%以下)で測定すると、図4のように完全に異なった形状で測定される。そこで、これらを標準スペクトルとして、未知濃度のTiCN化合物で得られたオージェスペクトルに波形分離計算を適用すれば、それぞれTiCとTiNの化学状態の存在比が求まり、その結果からCとNの濃度を求めることができる。
【0043】
図5は、定量精度を評価するための試料として、CとNの濃度比をそれぞれC:N=3:7、5:5、7:3で作製した濃度既知のTiCN化合物で測定したオージェスペクトルである。図5のスペクトルに対してTi、TiC、TiN、TiOの4つの標準スペクトルを使ってTi−LMMのみを波形分離計算した結果を表2に示す。Tiの換算した原子濃度は、波形分離計算結果により得られたTiCとTiNの各係数に、各化合物中のTiの原子濃度(TiC、TiNとも0.5)を乗じて加えた値である。
【0044】
【表2】

表2において波形分離計算結果の係数から換算した各元素の原子濃度を見ると、理論値と非常によい一致が得られている。AESの従来の定量法における相対感度因子を用いて原子濃度を求める方法では、他の元素のオージェピークがオーバーラップすると、正しい濃度を求めることが非常に困難であった。その理由は、ある元素が他の元素と結合してピーク形状が変化すると、純物質のピーク形状から求めた相対感度因子の値そのものの誤差が大きくなるからである。しかし、今回のように同じ条件で測定した標準スペクトルをもとに、高エネルギー分解能のオージェスペクトルを使って化合物毎(即ち化学状態毎)の存在比率を求めると、非常に精度の良い定量結果が得られることがわかった。
【0045】
(実施の形態3)
次に、図11に示すような、チタンと窒素を含む下地上に形成された1〜2nm程度の極薄い窒化物層の分析方法について説明する。試料に入射した電子線により試料内部でもオージェ電子は発生するが、オージェ電子の試料内での平均自由行程は短いので、一般に分析に寄与するオージェ電子の発生する深さ(本発明においては、「オージェ電子分光の実効分析深さ」と称す)は、図11に示されるように5nm程度である。従って、もし下地上に厚さが1〜2nm程度の薄膜が形成されていても、その薄膜のみを分析することは、オージェ電子分光分析を用いても極めて困難である。特に、分析対象元素が窒素の場合、図11に示すようにチタンと窒素を含む下地が存在する場合は、下地上にチタンを含まない窒化物層が存在するか否かさえも知ることができない。実施の形態3の発明は、このような試料において効果を発揮することができる。
【0046】
図12に示したオージェスペクトルは、TiCN合金上に厚さ1〜2nmのSi(窒化シリコン)の薄膜が形成された試料表面上で、のエネルギー分解能0.05%を持つ電子エネルギーアナライザで測定されたオージェスペクトルである。このスペクトルに見られる375〜390eV付近のピークは、SiとTiNのN−KLLとTi−LMMのオージェピークが重畳したものである。一般的に用いられているAESの電子エネルギーアナライザが持つエネルギー分解能0.5%程度では、エネルギー分解能が低いためにTiの化学状態分析が行えない。そのため、チタンと窒素を含む下地上に形成された1〜2nm程度の極薄い窒化物層の定量分析は困難であるとされてきた。しかし、エネルギー分解能0.05%の電子エネルギーアナライザでN−KLLとTi−LMMを含むエネルギー領域のオージェスペクトルを測定すれば、最小二乗法を用いた波形分離処理により、化学状態分析が可能である。
【0047】
図13に、エネルギー分解能0.05%で測定した、波形分離に用いるSi,Ti,TiN,TiCの各標準試料からの標準スペクトルを示す。図14に、TiCN合金上に形成されたSi薄膜試料の下地と薄膜からのオージェスペクトルを波形分離計算した結果を示す。さらに表5には、波形分離結果から得られた各標準スペクトルの係数と、係数から換算した原子濃度を示す。
【0048】
【表5】

表5の結果から、TiCN合金上に形成された極薄いSiから発生したオージェ電子によるN−KLLスペクトルのみを分離できていることがわかる。即ち、エネルギー分解能の高い電子エネルギーアナライザを用いれば、従来はAESでも分析が困難とされてきたTiCN合金上の極表面に存在する窒化物層の分析が可能であることを示している。さらに、Si−KLLオージェスペクトル等を用いてシリコンのみの組成値を求めれば、表5に示される窒素の原子濃度N(−Si)とから、シリコン窒化物層の定量分析が可能である。
【0049】
以上説明した鉄試料とチタン系試料の分析内容を発明者が検討した結果、Fe−LMMオージェスペクトル若しくはTi−LMMとN-KLLオージェスペクトルを用いて信頼ある化学状態を行うためには、エネルギー分解能ΔE/Eが0.35%以上の電子エネルギーアナライザを使用する必要のあることが分かった。
【実施例】
【0050】
次に、実試料に対して本発明を実施した例について説明する。
(実施例1)
はじめに、Fe−LMMスペクトルによる波形分離法を用いて、身の回りにある鉄錆の分析を行った例を示す。図6に示した二次電子像は、どちらも鉄試料を大気中に長期間さらして、自然に酸化していたものである。図6(a)は肉眼的に黒色をした、所謂黒錆試料である。図6(b)は赤錆試料であるが、肉眼で見ても場所によって赤色した所や黒色した所が混在している。赤色して均一だと思われた領域を二次電子像で観察すると、図6(b)に示すように領域Aと領域Bの二種類の領域が存在することがわかった。
【0051】
まず、表面にどのような元素が検出されるのかを調べるために、黒錆と赤錆の領域Aと領域Bにおいて、エネルギー分解能0.5%でオージェスペクトルを測定した。その結果を図7に示す。微量のC、S、Clが検出されたが、主成分はFeとOで構成されていることがわかった。しかし、エネルギー分解能0.5%ではスペクトルの変化からFeの酸化状態を区別できない。そのため全ての試料において高エネルギー分解能0.1%で再度測定し、波形分離計算を行った。図8は、赤錆の領域Aで波形分離を行った結果の例である。
図8に示す結果をみると、図3の時のようにFeとFeOとFeのスペクトルの和で示されるconvolution曲線と完全に重なってはいない。これは他の分析点でも同じで、完全に重なることはなかった。この理由は、水酸化物等の別の化学状態にあるFeが存在する可能性を示しているためと思われる。しかしここでは、FeとFeOとFeのスペクトルのみを使って、ピーク分離計算と評価を行った。
【0052】
表3に、波形分離計算により得られた各試料における標準スペクトルの係数と換算した原子濃度を示す。
【0053】
【表3】

表3の結果を見ると、黒錆と赤錆とでは、赤錆の方がFeの原子濃度が小さく、よく酸化が進行していると思われる。また、黒錆からは赤錆の成分と考えられているFeの成分は検出されず、赤錆からはFeOとFeの両方の成分が検出された。図6(a)の二次電子像で確認された赤錆の領域Aと領域Bとの差は、Fe2+とFe3+の存在比率が異なっていることがわかった。
【0054】
(実施例2)
次に、TiCN化合物の中の偏析について分析を行った結果を説明する。既に実施の形態の中で述べたように、Ti−LMMオージェスペクトルによる波形分離を用いたTiCの分析結果は、分析の平均値をとればTiCの理論値とよい一致が得られている。ところが、図9の二次電子像から、TiCは2種類の異なる結晶粒が存在していることが分かった。図9の二次電子像から、TiCは表面がスムースな結晶粒と少し凹凸のある結晶粒の2種類がほぼ同率で存在していることがわかる。それぞれの結晶粒を代表する分析点P1とP2において測定したオージェスペクトルを図10に示す。図10からは、P1とP2とではTi−LMMスペクトルが若干異なっていることが分かる。P1とP2で測定したスペクトルに対して波形分離計算を行い、得られた標準スペクトルの係数と換算した原子濃度を表4に示す。
【0055】
【表4】

表4から分かるように、分析点P1とP2では、それぞれTiCとTiNの係数が異なり、それに従って換算された原子濃度も異なっていた。つまりこの試料は、TiCとTiNの存在比率が異なる2種類の結晶粒が混在した試料であることが明らかにされた。
【0056】
以上のように、鉄試料とチタン系試料を例にとり、AESのオージェスペクトルを波形分離して異なる化学状態が混在している試料の化学状態の存在比率を求める方法と実際の試料への応用例について説明した。実際の試料では、図9に示される試料よりもっと複雑で微小な結晶粒が混在している場合が多い。このような場合には、本発明のAESによる波形分離計算を用いた化学状態分析がより大きな効果を奏することは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0057】

【図1】エネルギー分解能が0.5%の電子エネルギーアナライザにより測定したFe−LMMオージェスペクトル
【図2】エネルギー分解能が0.1%の電子エネルギーアナライザにより測定したFe−LMMオージェスペクトル
【図3】FeOとFeを標準試料として、Feからのオージェスペクトルを波形分離した結果。
【図4】エネルギー分解能が0.05%の電子エネルギーアナライザにより測定した各Ti標準試料からのTi−LMMスペクトル。
【図5】エネルギー分解能が0.05%の電子エネルギーアナライザにより測定した濃度既知のTiCN化合物からのオージェスペクトル。
【図6】鉄の黒錆と赤錆の二次電子像。
【図7】エネルギー分解能が0.5%の電子エネルギーアナライザにより測定した鉄の黒錆と赤錆からのオージェスペクトル。
【図8】FeとFeOとFeを標準試料として、鉄の黒錆と赤錆からのオージェスペクトルを波形分離した結果。
【図9】TiCの表面の二次電子像。
【図10】TiC2種類の異なる結晶粒で測定したオージェスペクトル。
【図11】チタンと窒素を含む下地上に形成された1〜2nm程度の極薄い窒化物層からなる試料の模式図。
【図12】TiCN合金上に厚さ1〜2nmのSiの薄膜が形成された試料表面上で測定されたオージェスペクトル。
【図13】波形分離計算に用いるSi,Ti,TiN,TiCの各標準試料からの標準スペクトル。
【図14】TiCN合金上に形成されたSi薄膜試料の下地と薄膜からのオージェスペクトルを波形分離した結果。
【符号の説明】
【0058】
(同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付す。)
P1、P2 分析点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置による化学状態分析法であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む複数の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算を行うステップとを備えたことを特徴とする化学状態分析法。
【請求項2】
前記被験試料が前記分析対象元素として鉄を含むとき、Fe、FeO、Fe、Feのうちの少なくとも2種類の標準試料からのFe-LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのFe-LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれる鉄の化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析法。
【請求項3】
前記被験試料がチタンと窒素を同時に含み、チタン又は窒素が前記分析対象元素であるとき、チタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の複数の標準試料から得られたTi−LMMオージェスペクトル、N−KLLオージェスペクトル、又はTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析法。
【請求項4】
前記被験試料が前記分析対象元素としてチタンを含み、炭素と窒素と酸素のうちの少なくともひとつの元素とチタンとの化合物であるとき、金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタンの化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項3に記載の化学状態分析法。
【請求項5】
前記被験試料の前記分析対象元素が窒素であり、チタンを含む化合物からなる下地と、前記下地上に形成されたチタン以外の元素の窒素化合物からなる薄膜とからなり、前記薄膜の厚さがオージェ電子分光の実効分析深さより薄いとき、
前記チタン以外の元素の窒素化合物のみからなる試料からのN−KLLオージェスペクトル及び金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトル、又はN−KLLとTi−LMMが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのN−KLLとTi−LMMの重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記下地と前記薄膜に含まれる窒素の存在比率を求めることを特徴とする請求項3に記載の化学状態分析法。
【請求項6】
前記波形分離計算を行うために、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルのバックグランドを除去するバックグランド除去手段を備え、前記バックグランド除去方法は、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルとして微分スペクトルを用いることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の化学状態分析法。
【請求項7】
前記オージェ電子分光装置に備えられた電子エネルギーアナライザにより前記標準スペクトル及び被験試料からのスペクトルを測定するとき、
試料から発生したオージェ電子のエネルギーと前記電子エネルギーアナライザに入射する時のエネルギーに対する減速比を一定にして前記試料から発生したオージェ電子のエネルギーを測定する方法におけるエネルギー分解能が0.35%以上の電子エネルギーアナライザを用いることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の化学状態分析法。
【請求項8】
細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む少なくとも2種類の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算手段とを備えたことを特徴とするオージェ電子分光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−20386(P2008−20386A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193777(P2006−193777)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】