オーディオ音源を聴くための、および/または「ハンズフリー」電話機能のための、非適応型のアクティブ・ノイズ・コントロール機能を有するオーディオ・ヘッドセット
【課題】非適応型ANCシステムにおいて、ゲインおよび位相余裕を高めて、不安定性のリスクに対処する。
【解決手段】ヘッドセットのアクティブ・ノイズ・コントロールは、外部マイクロホン28から信号を受信するフィードフォワード帯域通過フィルター32、内部マイクロホン36によって送出されるエラー信号eを入力として受信するフィードバック帯域通過フィルター42、および不安定性帯域、特に1kHzを中心とするウォーターベッド効果帯域におけるフィードバック・フィルターの伝達関数の位相を局所的に大きくするスタビライザー帯域通過フィルター44を、並列に備える。加算回路46は、これらのフィルターによって送出される信号と再生される音声信号Sとの重み付け一次結合を送出する。コントロールは非適応型であり、フィルター32、42、44のパラメータは静的である。
【解決手段】ヘッドセットのアクティブ・ノイズ・コントロールは、外部マイクロホン28から信号を受信するフィードフォワード帯域通過フィルター32、内部マイクロホン36によって送出されるエラー信号eを入力として受信するフィードバック帯域通過フィルター42、および不安定性帯域、特に1kHzを中心とするウォーターベッド効果帯域におけるフィードバック・フィルターの伝達関数の位相を局所的に大きくするスタビライザー帯域通過フィルター44を、並列に備える。加算回路46は、これらのフィルターによって送出される信号と再生される音声信号Sとの重み付け一次結合を送出する。コントロールは非適応型であり、フィルター32、42、44のパラメータは静的である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブ・ノイズ・コントロール・システム(active noise control system)を有するオーディオ・ヘッドセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなヘッドセットは、有線接続を介して、または実際には特にBluetoothタイプ(Bluetooth SIGの登録商標)のワイヤレス接続を介して接続されたMP3プレーヤー、ラジオ、スマートフォンなどの電気製品に由来する音源(例えば、音楽)を聴くために使用されうる。
【0003】
ヘッドセットの着用者の声を拾うのに適したマイクロホンセットが備えられている場合、ヘッドセットは、音源を聴くことに加えて「ハンズフリー」電話機能などの通信機能にも使用することができる。次いで、ヘッドセットのトランスデューサが、ヘッドセットの着用者と会話中である、離れた所にいる話し相手の声を再現する。
【0004】
ヘッドセットは、ヘッドバンドによって連結されている2つのイヤーピースを有する。それぞれのイヤーピースは、音声再生トランスデューサ(本明細書ではより単純に「トランスデューサ」と称する)を収納する、使用者の耳の周りに圧し付けられ、耳を外部音響環境から絶縁するために耳を囲む緩衝材が差し挟まれるように設計されている閉じられたシェルを備える。
【0005】
ノイズの多い環境(地下鉄、人通りの多い道、列車、飛行機など)でヘッドセットを使用する場合、着用者はノイズから一部はヘッドセットのイヤーピースで保護されるが、それは、閉じられたシェルと耳を囲む緩衝材のおかげで絶縁が実現されているからである。
【0006】
しかしながら、その純粋に受動的な保護機能は、部分的なものでしかなく、外部の音の一部、特に周波数スペクトルの低い部分の音は、イヤーピースのシェルを透過する、または実際には着用者の頭蓋骨を通して耳に到達する可能性がある。
【0007】
これが、ヘッドセットのイヤーピースのシェル上に配置されたマイクロホンを使って入ってくるノイズ成分を拾い、理想的にはノイズ成分の圧力波の反転されたコピーである音波を前記ノイズ成分上に時間と3次元において重ね合わせる原理に基づくいわゆるアクティブ・ノイズ・コントロール(ANC)技術が開発された所以である。このアイデアは、ノイズ成分に対し相殺的干渉を発生させて、干渉する音波の圧力変動を低減し、理想的には相殺するというものである。
【0008】
この原理を実装することは、多くの困難を克服することを伴い、そのため、さまざまな提案がなされており、それらの提案は2つのカテゴリにわけることができる。
【0009】
第1のカテゴリは、適応フィルター、つまり、リアルタイムで動作して信号を解析するアルゴリズムによって動的に、かつ連続的に修正される伝達関数を有するフィルターを使用するANC法のカテゴリである。このような処理は、特に、アルゴリズムをリアルタイムで実行するようにプログラムされる専用プロセッサを使って信号をデジタル化し、処理するための技術が発展した結果として可能になった。
【0010】
ドイツ特許第3733132A1号は、そのような適応フィルターを使用するANC処理の典型的な例である。適用フィルターを伴うANC法の他の例は、特に米国特許第6041126A号、米国特許出願第2003/0228019A1号、および国際公開第2005/112849A2号において説明されている。
【0011】
これらの技術は、ノイズを軽減することに関して有効でありうるが、必ずデジタルであること、および比較的大きな計算能力を必要とすること、その結果、比較的設計が複雑であり、作るのにかなり費用がかかるということが欠点となっている。
【0012】
さらに、デジタル処理は、補償信号に無視できない遅延をもたらし、適応型という特徴は、アルゴリズムの収束時間を最短にすることを必要とする。そのすべてがシステムの反応性にとって、特に不規則なノイズに対する反応性にとって有害である。その結果、ノイズ除去は、特に、本質的に周期的で、狭帯域内にあるノイズに対して有効である。
【0013】
ANC法の第2のカテゴリ−本発明の技術が属す−は、使用されるさまざまなフィルターのパラメータが予め決定されている静的な、つまり、非適応型のフィルター・システムのカテゴリである。
【0014】
そのようなANCシステムでは、閉ループではフィードバック型で、開ループではフィードフォワード型である静的フィルタリング機能を組み合わせる。フィードバック・チャネルは、イヤーピースのシェル、耳を囲む緩衝材、およびトランスデューサによって画成される音響空洞(以下では「前」空洞と称する)の内側に置かれたマイクロホンによって拾われる信号に基づく。言い換えると、このマイクロホンは、使用者の耳の近くに置かれ、主にトランスデューサによって生成される信号および前空洞内でまだ知覚可能な残留非相殺ノイズ信号を受けるということである。トランスデューサによって再生される音源からの音声信号は、このマイクロホンからの信号から差し引かれ、ANCシステムのフィードバック・ループに対するエラー信号を構成する。フィードフォワード・フィルター・チャネルは、ヘッドセットの着用者の直の環境内に存在する干渉するノイズを拾う外部マイクロホンによって拾われる信号を使用する。
【0015】
フィードバックおよびフィードフォワード・フィルター・チャネルに加えて、再生される音源からの音声信号を処理する第3のフィルター・チャネルも備えるこのような一システムが、特に米国特許出願第2010/0272276A1号において説明されている。これらのフィルター・チャネルからの出力信号を組み合わせて、トランスデューサに印加し、周囲のノイズを抑圧するための信号と併せて音源からの信号を再生する。
【0016】
さまざまなフィルターのパラメータは静的であるため、静的フィルタリング技術は、適応フィルター技術に要求されるリソースに比べて少ないリソースで済む方法により、アナログ技術またはデジタル技術でも等しく実装することができる。
【0017】
しかしながら、静的フィルタリング法には、いくつかの制限と欠点がある。
【0018】
第1の欠点は、トランスデューサとエラー・マイクロホン、つまり、前空洞内に置かれた内部マイクロホンとの間の電気音響経路の変動に対する感度が比較的大きい点である。これら2つの要素の間の電気音響応答は、前空洞の容積および外側に関するその封止の変動の結果修正されうる。この電気音響応答を変化させるおそれのある主要な要因は、頭部に付けたヘッドセットの位置決め、使用者の耳の形状、ヘッドセットを頭部に圧し付けるきつさ、および耳を囲む緩衝材が頭部を圧迫する場所の髪の毛の存在である。他の変動は、使用される電子コンポーネント(抵抗器、コンデンサ、トランスデューサ、およびマイクロホン)が時間の経過とともに変動する可能性のある電気的特性を示すことから、これらのコンポーネントによる可能性もある。
【0019】
音響応答のこれらの変動は、「ウォーターベッド」効果として知られている望ましくない効果を発生する可能性があるが、これは、主ノイズ抑圧周波数帯域を超えるノイズが、一般的に1キロヘルツ(kHz)を中心とする、比較的狭い周波数帯域内において全体的に知覚可能であり、当然望ましくない形で増幅されるという効果である。この現象が大きすぎる場合、緩衝材が偶然外れたときに多くのヘッドセットにおいて観察されうる現象である、ラーセン効果すら発生する可能性がある。
【0020】
考慮すべき別の要因は、前部容積の小ささがトランスデューサとエラー・マイクロホンとの間の電気音響応答の変動性を高める限りにおいて、前空洞の容積であるが、それは、そのような状況において、通常の聴取位置と使用者がヘッドセットを頭部に近づける遷移位置との間の容積の相対的変動が大きくなるからである。
【0021】
そのため、前空洞に対する小さな容積は、フィードバック・ループ内で安定性が失われる追加要因となっており、上で説明されているのと同じ結果である。実際、イヤーピースは、快適さと重量の両方の理由から比較的小さな容積となるように作ることが望ましく、このことがANCシステムにおける安定性の要件に反している。
【0022】
特に、与えられた電気音響応答に対応する性能を発揮するように、また十分な安定性を保証することを可能にするゲインおよび位相余裕ならびに最大化された性能を有するように、さまざまなフィルタリング・チャネルが調整される。この点で、閉ループ・システムは、一般的に、45°を超える位相余裕と少なくとも10デシベル(dB)のゲイン余裕とを備えなければならないと考えられる。しかし、実際にはアクティブ・ノイズ・コントロール機能を備えるヘッドセットの分野では電気音響応答の変動性が大きいため、これらの理論上の余裕では不十分であることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】ドイツ特許第3733132A1号
【特許文献2】米国特許第6041126A号
【特許文献3】米国特許出願第2003/0228019A1号
【特許文献4】国際公開第2005/112849A2号
【特許文献5】米国特許出願第2010/0272276A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
このような非適応型ANCシステムにおいて、本発明の課題は、頭部へのヘッドセットの位置決め、イヤーピースのきつさ、および耳を囲む緩衝材によってもたらされるよい、または劣った封止効果の変動があるにもかかわらずウォーターベッド効果もしくはラーセン効果の出現を回避することを、前空洞の容積が小さいにもかかわらず、可能にするゲインおよび位相余裕を高めて、不安定性のリスクに対処することである。
【0025】
このような安定性の増大は、当然のことながら、ANCシステムのノイズ防止性能を低下させることなく得られなければならない、つまり、その周期性の高い低いに関係なく、またその周波数スペクトルに関係なく、干渉するノイズ成分を相殺するうえで等しく効果的であり続けなければならない。
【0026】
当然であるが、音源(または電話アプリケーションにおける離れた場所にいる話者の声)からの音声信号は、歪んでいてはならず、またそのスペクトルは、ノイズ・キャンセリング信号および再生される音声信号が同じチャネルによって増幅され、同じトランスデューサによって再現されるとしても、ANC処理によって低減されてはならない。
【0027】
本発明が基づくアイデアは、スペクトルの高い部分における、つまり、不安定な周波数帯におけるフィードバック・フィルターの通過帯域を低減し、ウォーターベッド効果またはラーセン効果のリスクを低減するか、もしくはなくすというものである。以下で説明されているように、この方法で通過帯域を制限することで、少なくとも15dB、好ましくは少なくとも17dBのゲイン余裕の増加、および少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°の位相余裕の増加が引き起こされうる。
【0028】
それと平行して、フィードフォワード・フィルターは、なくすべきノイズ・スペクトル(つまり、1kHzを中心とする)のより高い周波数における性能の喪失を補償する。
【0029】
最後に、スタビライザー・フィルターが、フィードバック・フィルターと並列に接続される。スタビライザー・フィルターは、ウォーターベッド効果の臨界域における位相を大きくすることによってフィードバック・フィルターの位相余裕を増やす働きをする。特にトランスデューサからエラー・マイクロホンへ音が伝搬する際に通る経路の結果としての音響効果による位相の低減を補償するために、スタビライザー・フィルターによって限界共振を発生させ、位相を大きくし、それにより位相余裕を増大する。
【0030】
これら3つのチャネル(フィードバック、フィードフォワード、およびスタビライザー)は、並列に接続され、フィルターからの出力として送出される信号は、トランスデューサによる増幅および再生のため、これらのさまざまな信号の一次結合を送出するコンバイナーを使って、互いに、および再生する音声信号と組み合わされる。
【課題を解決するための手段】
【0031】
さらに、本発明は、それ自体上述の米国特許出願第2010/0272276A1号から知られる形で、ヘッドバンドによって一緒に接続され、再現される音声信号の音を再生するための、耳を囲む緩衝材を備えるシェルで画成される音響空洞内に収納されるトランスデューサをそれぞれ備える2つのイヤーピースを具備するアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを有するヘッドセットを実現するものである。ヘッドセットはアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを備え、このシステムは
第1の帯域通過フィルターがヘッドセットの環境内に存在する音響ノイズを拾うのに適した外部マイクロホンによって送出される信号を入力として受け取る開ループ・フィードフォワードの第1の分岐と、
第2の帯域通過フィルターが空洞の内側の内部マイクロホンによって送出されるエラー信号を入力として受け取る閉ループ・フィードバックの第2の分岐と、
第3のフィルターを備える第3の分岐と、
第1、第2、および第3のフィルターによって送出される信号を、また再生される音声信号を、入力として受け取り、増幅後にトランスデューサを制御するのに適している信号を出力として送出するミキサー回路とを備える。
【0032】
本発明に特徴的な方法において
アクティブ・ノイズ・コントロールは、非適応型コントロールであり、第1、第2、および第3のフィルターのパラメータは予め定められているパラメータであり、
第3のフィルターは、フィードバックの第2の分岐と並列に接続され、内部マイクロホンによって送出される信号を入力として受け取り、組み合わせ回路に入力として印加される信号を出力として送出するスタビライザー帯域通過フィルターであり、この第3のフィルターは予め定められた不安定性帯域内の第2のフィルターの伝達関数の位相を局所的に大きくするのに適しており、
第1、第2、および第3の分岐は、並列に配置構成され、ミキシング回路は、再生される音声信号の少なくとも一部と一緒に第1、第2、および第3のフィルターによって送出される信号の一次結合を、ゲインの各重みをこれらの信号に適用して出力として送出する加算回路である。
【0033】
注目する予め定められている不安定性帯域は、特に1kHzの周波数を中心とするウォーターベッド効果帯域である。
【0034】
第2のフィルターの高カットオフ周波数は、好ましくは150Hzより低く、好ましくは120Hzより低く、その帯域幅は65Hzより低く、好ましくは55Hzより低い。
【0035】
アクティブ・ノイズ・コントロールのフィードバックの分岐のゲイン余裕は有利には少なくとも15dB、好ましくは少なくとも17dBであり、位相余裕は少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°である。
【0036】
再生される音声信号は、好ましくは第2のフィルターおよび加算回路の両方に入力として印加され、第2のフィルターは再生のため内部マイクロホンによって送出される前記エラー信号を音声信号の少なくとも一部と組み合わせることによって得られる信号を入力として受け取るが、音声信号は、第3のフィルターには印加されない。
【0037】
次に、同一または機能的に類似している要素を指定するために一方の図から他方の図まで同じ参照番号が使用される添付図面を参照しつつ本発明のデバイスの実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】使用者の頭部の適所に置かれたオーディオ・ヘッドセットの概略図である。
【図2】さまざまな音響および電気信号、ならびにアクティブ・ノイズ・コントロール機能を有するオーディオ・ヘッドセットの動作に伴うさまざまな機能ブロックも示す線図である。
【図3】さまざまな機械要素およびその中の電気機械部材の構成を示す、本発明のヘッドセットのイヤーピースの1つの断面立面図である。
【図4】図3のイヤーピースの正面図である。
【図5】図3および4のイヤーピースの後面図である。
【図6】図3から5のイヤーピースの下からの図である。
【図7】本発明のヘッドセットのアクティブ・ノイズ・コントロール・システムのさまざまな要素を示すブロック図の形態の概略図である。
【図8】図7のフィードフォワード・フィルターの類似の形態の一実施形態を示す図である。
【図9】図7のフィードバック・フィルターの類似の形態の一実施形態を示す図である。
【図10】図7のスタビライザー・フィルターの類似の形態の一実施形態を示す図である。
【図11】イヤーピースの前空洞の内部減衰に関する、イヤーピースのシェルによって持ち込まれる減衰を示す特性図である。
【図12】図7の回路のフィードフォワード・フィルターの伝達関数の振幅および位相を示すボード線図である。
【図13】スタビライザー・フィルターの作用がある場合とない場合の、本発明のアクティブ・ノイズ・コントロール・システムの黒色の軌跡(Black locus)を示す図である。
【図14】さまざま構成に対する図7の回路のフィードバック・フィルターの伝達関数の係数を示す図である(完全な通過帯域、縮小された通過帯域、スタビライザー・フィルターがある場合とない場合)。
【図15】さまざまな構成に対する同様の、図7の回路のフィードバック・フィルターの伝達関数の位相を示す図である。
【図16】さまざまな構成に対する同様の、図7の回路のナイキスト・プロットである。
【図17】さまざまな構成に対する同様の、図7の回路の閉ループ減衰特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、使用者の頭部に付けたオーディオ・ヘッドセットを示している。従来の方法では、ヘッドセットは、ヘッドバンド12によって連結されている2つのイヤーピース10および10’を備える。イヤーピース10のそれぞれは、使用者の耳の輪郭の周囲を圧迫する外側シェル14を備え、このシェル14と耳の周囲との間に耳を囲む柔軟な緩衝材16が、耳の付近と外部音環境との間に音響の観点から満足のゆく密閉が施されるように挟装される。
【0040】
図2は、さまざまな音響および電気信号、ならびにアクティブ・ノイズ・コントロール機能を有するオーディオ・ヘッドセットの動作に伴うさまざまな機能ブロックを示す線図である。
【0041】
イヤーピース10は、2つの空洞、つまり、耳のそばの前空洞22とその反対側にある後空洞24を画成する仕切り20上に載せられる、以下では単に「トランスデューサ」と称される音再生トランスデューサ18を囲んでいる。
【0042】
前空洞22は、内部仕切り20、イヤーピースの壁14、緩衝材16、および耳の領域内の使用者の頭部の外面によって画成される。この空洞は、音の漏れが緩衝材16の接触領域内で不可避であることを除いて、閉じられた空洞である。
【0043】
後空洞24は、放音口26がイヤーピースの前空洞22内で低周波を強める働きをすることを除いて、閉じられた空洞である。このような音響を強める働きは、電気的に増幅することに比べて有利であるが、それは、周囲ノイズの過圧効果を、飽和なしで、電気的ノイズを減らしつつ、アクティブ・コントロール・システムによって改善できるからである。
【0044】
アクティブ・ノイズ・コントロールでは、イヤーピース10は、イヤーピースの外側の周囲ノイズを拾うための外部マイクロホン28を搭載し、これは波30によって図式的に表されている。外部マイクロホン28によって拾われた信号は、アクティブ・ノイズ・コントロール・システムのフィードフォワード・フィルター段32に印加される。
【0045】
それぞれのイヤーピース10および10’は、それ専用のアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを有し、各外部マイクロホン28および28’(図1)は互いに独立している。
【0046】
図1に示されているように、ヘッドセットは、状況によっては、例えば、ヘッドセットが「ハンズフリー」電話機能を備えている場合に、通信機能を実行するために別の外部マイクロホン34を搭載することも可能である。
【0047】
追加の外部マイクロホン34は、ヘッドセットの着用者の声を拾うためのものであり、アクティブ・ノイズ・コントロールには関与せず、以下の考察は、アクティブ・ノイズ・コントロール専用である外部マイクロホン(複数可)28のみを対象とする。
【0048】
ヘッドセットは、内部空洞22内に存在する、使用者が知覚する残留ノイズを拾うために外耳道にできる限り近い位置に配置された内部マイクロホン36も備える。
【0049】
トランスデューサによって再生される音源(または電話機アプリケーションでは、離れた所にいる話者の声)からの音声信号を無視すると、この内部マイクロホン36によって拾われる音声信号は、
イヤーピースのシェル14を通して伝達される周囲外部ノイズ30に由来する残留ノイズ30と、
相殺的干渉の原理に基づき、理想的には、ノイズ30、つまり、聴取点での抑圧のためのノイズの反転コピーであるトランスデューサ18によって生成される音波40の組み合わせである。
【0050】
音波40を使ったノイズの相殺は決して完全ではないので、内部マイクロホン36は、トランスデューサ18を制御するために開ループのフィードフォワード分岐32からの信号と46で組み合わされる信号を送出する閉ループのフィードバック・フィルター分岐42およびスタビライザー分岐44(本発明に特有)に印加するためのエラー信号eとして使用される残留信号を拾う。
【0051】
それに加えて、トランスデューサ18は、音源(プレーヤー、ラジオなど)、または電話機アプリケーションにおける離れた所にいる話者の声に由来する音声信号を再生のため受信する。この信号は、信号を歪ませる閉ループの効果に曝されるので、これは、アクティブ・コントロールなしで開ループ・ゲインおよびターゲット応答によって決まるような所望の伝達関数をもたらすようにデジタル・シグナル・プロセッサ内のイコライゼーションによる上流の前処理を受ける。
【0052】
図3から6は、イヤーピース10の一方について(他のイヤーピース10’も作りは同一である)、図2に図式的に示されているさまざまな機械および電気音響要素の一実施形態を示す複数の角度からの図である。
【0053】
シェル14の内側を前空洞22と後空洞24とに分割する仕切り20が図示されており、そこでは、トランスデューサ18および内部マイクロホン36がこの仕切り上に取り付けられ、内部マイクロホン36は使用者の外耳道の近くに保持するためグリッド48で支えられている。図5および6は、アクティブ・ノイズ・コントロール専用の外部マイクロホン28、および「ハンズフリー」通信機能用の追加のマイクロホン34も、例えば音響抵抗性を有するプラスチック材料のグリッドによって覆われている一連の小孔で構成される放音口26と一緒に、示している。
【0054】
図7は、本発明のアクティブ・ノイズ・コントロール回路を、この回路の動作に関わる電気および音響伝達関数と一緒に、示すブロック図である。
【0055】
この回路は、本質的に、並列に接続された3つの分岐、つまり、フィードフォワード・フィルター32、フィードバック・フィルター42、およびスタビライザー・フィルター44を備える。
【0056】
外部マイクロホン28によって拾われた信号は、ゲインG1(例えば、G1=+8dB)で前置増幅され、次いで、フィードフォワード・フィルター32に印加される。
【0057】
内部マイクロホン36によって拾われた信号は、スタビライザー・フィルター44およびフィードバック・フィルター42の両方に印加され、各ゲインG2(例えば、G2=0dB)およびG3(例えば、G3=+9dB)が適用される。
【0058】
フィルター32、44、および42によって並列に送出される信号同士が、加算回路46によって組み合わされ、各ゲインG5、G6、およびG7はそれらに適用される(例えば、フィードフォワード・フィルター32からの信号に対してはG5=−6dB、スタビライザー・フィルター44からの信号に対してはG6=+6dB、フィードバック・フィルター42からの信号に対してはG7=0dB)。
【0059】
音源(MP3プレーヤー、ラジオなど)または電話機回路からの音声信号S(「ラインイン」信号)は、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)50によるデジタル処理(復号化、イコライゼーション、立体音響などの音響効果など)を受ける。さらに、この信号は、効果を歪ませる閉ループの効果に曝されるので、これは、アクティブ・コントロールなしで開ループ・ゲインおよびターゲット応答によって決定されるような所望の伝達関数をもたらすように、適切なイコライゼーションによるDSP 50内の上流で前処理される。
【0060】
DSP 50からの出力の音声信号は、2つの場所でアクティブ・コントロール回路に印加され、それぞれ、
ゲインG4(例えば、G4=−14dB)がフィードバック・フィルター42に適用され、
ゲインG8(例えば、G8=−6dB)が、この信号を内部マイクロホン36によって拾われた信号と、その信号がフィードバック・フィルター32に入力として印加するためにゲインG3で前置増幅された後に組み合わせる加算回路52に適用される。
【0061】
再生のため音声信号Sを回路の2つの異なる場所に注入することで、低周波と高周波との間でバランスのとれたイコライゼーションを得ることが可能になる。一般加算回路46の入力に注入される信号の部分は、アクティブ・コントロールの減衰を受け、これにより、高周波成分を生成するが、対照的に、加算回路52を介してフィードバック・フィルター42の入力に注入される信号の部分は、回路のローパス・フィルタリングを受け、低周波成分をもたらす。信号のこれら2つの部分に印加される各ゲインG8およびG4は、再生のための信号のスペクトルの低周波と高周波とのバランスをとる働きをする。
【0062】
再生のための音声信号はフィードバック・フィルター42の入力にのみ(加算回路52を介して)注入されるが、スタビライザー・フィルター44を有する分岐には注入されず、したがって、再生される音楽のイコライゼーションを妨害することなくスタビライザー・フィルタリングを調節することが可能であり、スタビライザー・フィルター44は、したがって安定化機能に干渉しない、再生のための音声信号を除く、内部マイクロホン36によって拾われた音のみを受け取ることがわかるであろう。
【0063】
最後に、再生のための音声信号と併せたフィードフォワード、フィードバック、および安定化フィルタリングに対する、3つのフィルター・チャネルからの信号の一次結合である、一般加算回路46からの出力が、パワー段54による増幅の後トランスデューサ18に印加される。
【0064】
図8、9、および10は、それぞれフィードフォワード・フィルター32、フィードバック・フィルター42、およびスタビライザー・フィルター44の類似の技術における実施形態を示している。これらの図において、ViおよびVoは、それぞれフィルターの入力および出力電圧を示し、Vmidは、フィルターによって使用されるオペアンプの電源のプラス端子とマイナス端子との間の中間電圧を示す。これらのさまざまなフィルターの各伝達関数は、特にスタビライザー・フィルター44がアクティブ・ノイズ・コントロール・システムの全体的性能を向上させるためにフィードバック・フィルター42の応答を修正することを可能にする方法と併せて図12から17を参照して以下でさらに詳しく説明されている。
【0065】
図からわかるように、これら3つのフィルターは、ごく少数のコンポーネントで実装することができ、したがって、ハードウェアのコストが非常に低い。
【0066】
さらに、図示されている例では、フィードフォワード・フィルター32およびフィードバック・フィルター42は、一次のローパス・フィルターの形態で作られるが、抵抗器およびコンデンサを変更することによって二次の帯域通過フィルターを作ることも難なく可能である。
【0067】
以下では、一般的なアーキテクチャが上で説明されている、本発明のアクティブ・ノイズ・コントロール・システムの一般的動作を説明する。
【0068】
以下の記法を使用する。
Hc:外部マイクロホン28によって受信される信号とヘッドセットのイヤーピースのシェルを通過する外部ノイズの一部を表す、内部マイクロホン36が受け取る信号との間の伝達関数、
Ho:トランスデューサ18によって再生される信号とイヤーピースのシェルを通して外部マイクロホンに伝達される音声信号の一部を表す、外部マイクロホン28が受け取る信号との間の伝達関数、
Ha:トランスデューサ18によって生成される信号と内部マイクロホン36が受け取る信号との間の伝達関数、
d:周囲のノイズ信号(アクティブ・コントロールによって減衰されるべき、理想的には相殺されるべきノイズ信号)、
e:内部マイクロホン36によって送出されるエラー信号(最小化されるべき信号)、
HFF:フィードフォワード・フィルター32の伝達関数(静的関数である、つまり、適応型でない)、
HFB:場合によってはスタビライザー・フィルター44の動作によって修正される、フィードバック・フィルター42の伝達関数(同様に静的関数である)、
【0069】
エラー信号eをノイズ信号dの関数として表すことが望ましい場合、外部マイクロホン28から内部マイクロホン38(このマイクロホンは、使用者の外耳道にできる限り近い位置に置かれ、聴取点で知覚される信号を示す)までの伝達関数
【0070】
【数1】
を求める。
【0071】
項εは、2以上の次数のフィードバックのすべてを表し、特に、この項は、分子の他の項と比較して無視可能であり、無視される。さらに、|Ho|<<|Ha|であるが、それは、Hoがイヤーピースのシェルによる追加の減衰を含むからである。
【0072】
図11は、周波数の関数としてのHo/Haの係数の実験的プロットであり、空洞の内部減衰に関するイヤーピースのシェルの減衰を表す。
【0073】
そこで、近似|Ho|<<|Ha|を行うことによって、ノイズの伝達関数を
【0074】
【数2】
のように簡略化することができる。
【0075】
内部マイクロホンによって拾われるノイズを低くするために、つまり、エラー信号を最小化するために、
【0076】
【数3】
とする必要がある。
【0077】
安定性の観点から、フィードフォワードHFFの安定性は、フィードバックHFBの安定性よりよいが、それは、フィードバック・ループがないからである(フィードフォワード・フィルターは開ループ・フィルターである)。
【0078】
対照的に、導入部で説明されているように、フィードフォワードおよびフィードバックは、ノイズ抑圧帯域を超える狭い周波数帯域内、および一般的に1kHzを中心とするノイズを増幅する望ましくない効果(「ウォーターベッド効果」)を発生する傾向を有する。それに加えて、フィードバック・フィルターのフィードバックにより、この効果は素早く進行し、ラーセン効果に変わってしまう。
【0079】
残念なことに、フィードフォワードはより安定しているけれども、これが自然にもたらすノイズ抑圧は効果が弱いため、フィードバックなしでは使用できない。完全な抑圧をもたらすために、HFF=Hc/Haである必要があるが、これは、HcおよびHaが、前の容積が変化し小さいこと、ヘッドセットの位置およびきつさなど、上で述べた理由から大きく変化するため達成が困難である。実際には、フィードフォワード・フィルター単独によるノイズ抑圧は、典型的には、10dBに近いが、フィードバック・フィルターでは、20dBを達成することが可能である。
【0080】
本発明は、特に上で説明されている欠点を軽減するのに役立つ。本質的に、本発明では、
1)特に制御されない不安定性のリスクがある周波数範囲内においてゲインおよび位相余裕(典型的には、少なくとも15dBおよび60°まで)を増やすためにフィードバック・フィルターの周波数帯域を縮小すること、
2)より高い周波数(1kHzまで)での性能の対応する喪失を補償するためにフィードフォワード・フィルターを使用すること、
3)フィードバック・フィルターに関連するスタビライザー・フィルターによってウォーターベッド効果を低減し、それにより、ラーセン効果のリスクを低減するか、またはなくすことすら可能にすることを提案している。
【0081】
通過帯域を縮小することによってゲインおよび位相余裕を高めることは、開ループ・ゲインを低減することに優先して選択されており(これらの余裕を高めるのにも役立っている)、開ループ・ゲインのこのような低減は、通過帯域を縮小することとは対照的に、それがノイズ・コントロール回路の減衰周波数帯域のみを縮小するのでアクティブ・ノイズ・コントロールの最高性能を引き下げるという欠点があることがわかるであろう。したがって、フィードバック・フィルターの開ループ・ゲインを低減することに優先して通過帯域の縮小が選択されるのは、最大ノイズ減衰を低減することを回避するためである。
【0082】
フィードフォワード・フィルターは、開ループ内で動作するのでより安定している。したがって、これは、フィードバック・フィルターにおける通過帯域の喪失を補償するためにより高い周波数(1kHzまで)で使用されうる。フィードフォワード・フィルターは、低ゲインをもたらし、フィードバック・フィルターのQファクタと比べて小さいQファクタ(クオリティ・ファクタ)を有し、その性能は、広範な周波数帯域をカバーするように調節される。
【0083】
図12は、フィードフォワード・フィルター32の振幅および位相を周波数の関数として示す、フィードフォワード・フィルター32のボード線図である。
【0084】
フィードバック・フィルター42と並列に接続されていることによって、スタビライザー・フィルター44は、特にウォーターベッド効果の臨界域において、フィードバック・フィルターの位相余裕を増やす働きをする。音響効果による、特にトランスデューサからエラー・マイクロホンへ音が伝搬する際に経由する音響経路(伝達関数Ha)による、位相の低減を補償するために、スタビライザー・フィルターは、位相を大きくして位相余裕を増大する働きをするこの帯域内の局部共振を発生する。
【0085】
これらのさまざまな態様は、図13から17の例示的な図に特に示されている。
【0086】
図13は、周波数が0Hzから無限大まで変化する、システムの黒色の軌跡、つまり、位相の関数としての開ループ(HaHFB)の係数の直交座標プロットを示している。この黒色の軌跡をトレースすることによって、軌跡が0dBおよび0°に位置する不安定点Oを通過する2本の軸と交差する点によって与えられるゲインおよび位相余裕を容易に読み取ることができる。
【0087】
図13において、破線は、通過帯域を縮小する前に単独でフィードバック・フィルタリングを行う黒色の軌跡であり、実線は、同じフィルターに適用されるが、その通過帯域は縮小されている(が、スタビライザーはない)。最初に、ゲインおよび位相余裕ΔMおよびΔφは、それぞれ、−12dBおよび25°であり、通過帯域を縮小することで、これらの値をそれぞれ−18dBの値および60°を超える値に増大することができる。
【0088】
図7の回路について、図14から17は以下を示す。
図14:フィードバック・フィルターの伝達関数の係数、
図15:フィードバック・フィルターの伝達関数の位相、
図16:ナイキスト・プロット、および
図17:閉ループ減衰特性。
【0089】
これらの図において、
Aは、通過帯域を縮小する前の、前置増幅機能G3を有する元のフィードバック・フィルターに対応する特性を表す。
Bは、Aと同じ特性を表すが、ただし通過帯域を縮小した後である。
Cは、最終特性、つまり、その前置増幅機能G2を有するスタビライザー・フィルター44を追加した後の特性Bを表す。
【0090】
図14の特性AとB(またはC)を比較するとわかるように、80Hz(特性A)の帯域幅を与える、80Hz〜160Hzであったフィルターの元の通過帯域は、65Hz〜115Hzに縮小される、つまり、50Hz(特性BまたはC)のより狭い帯域幅にされる。
【0091】
通過帯域をこのように縮小すると、図13を参照して説明されているように、ゲインおよび位相余裕を著しく高めることが可能であり、システムの安定性向上に寄与する。
【0092】
図15を調べると、スタビライザー・フィルター44を使用すると、約30°から35°までの範囲で、1kHzを中心とするウォーターベッド効果の不安定な帯域内の位相が著しく高められることがわかる。
【0093】
図16において、位相をこのように高めると、開ループが不安定性の帯域から著しく遠ざかることがわかる。この図は、破線がノイズ増幅帯域Nを示しているナイキスト・プロットである。図を見るとわかるように、これら3つの構成A、B、またはCのどれにおいても、システムは不安定点Oを囲まず、理論上は、システムのすべてが安定している。しかしながら、フィードバック・フィルターの通過帯域を縮小すること(AからBに進む)と、それをスタビライザー・フィルターに関連付けること(BからCに進む)とにより、このプロットは毎回、不安定点からさらに遠ざかり、したがって、システムの全体的安定性の向上に寄与する。
【0094】
図17の理論的減衰曲線は、1kHzのウォーターベッド効果帯域が縮小されることを示している。6kHzのウォーターベッド効果帯域は低減されるが、1kHzの帯域のように、4dB以下であることがわかる。この図は、閉ループのシミュレートされた減衰を示し、そこでは、システムAの1kHz帯域内のウォーターベッド効果の深さは、システムBに進むときに(4dBの改善)、またシステムBからシステムCに進むときに(+3dBの改善)低減される。システムAからシステムBまたはCに進むときの100Hz〜800Hz帯において観察される約−5dBの減衰の損失は、静的フィードフォワード・フィルター32によって行われるアクティブ・コントロールによって補償される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブ・ノイズ・コントロール・システム(active noise control system)を有するオーディオ・ヘッドセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなヘッドセットは、有線接続を介して、または実際には特にBluetoothタイプ(Bluetooth SIGの登録商標)のワイヤレス接続を介して接続されたMP3プレーヤー、ラジオ、スマートフォンなどの電気製品に由来する音源(例えば、音楽)を聴くために使用されうる。
【0003】
ヘッドセットの着用者の声を拾うのに適したマイクロホンセットが備えられている場合、ヘッドセットは、音源を聴くことに加えて「ハンズフリー」電話機能などの通信機能にも使用することができる。次いで、ヘッドセットのトランスデューサが、ヘッドセットの着用者と会話中である、離れた所にいる話し相手の声を再現する。
【0004】
ヘッドセットは、ヘッドバンドによって連結されている2つのイヤーピースを有する。それぞれのイヤーピースは、音声再生トランスデューサ(本明細書ではより単純に「トランスデューサ」と称する)を収納する、使用者の耳の周りに圧し付けられ、耳を外部音響環境から絶縁するために耳を囲む緩衝材が差し挟まれるように設計されている閉じられたシェルを備える。
【0005】
ノイズの多い環境(地下鉄、人通りの多い道、列車、飛行機など)でヘッドセットを使用する場合、着用者はノイズから一部はヘッドセットのイヤーピースで保護されるが、それは、閉じられたシェルと耳を囲む緩衝材のおかげで絶縁が実現されているからである。
【0006】
しかしながら、その純粋に受動的な保護機能は、部分的なものでしかなく、外部の音の一部、特に周波数スペクトルの低い部分の音は、イヤーピースのシェルを透過する、または実際には着用者の頭蓋骨を通して耳に到達する可能性がある。
【0007】
これが、ヘッドセットのイヤーピースのシェル上に配置されたマイクロホンを使って入ってくるノイズ成分を拾い、理想的にはノイズ成分の圧力波の反転されたコピーである音波を前記ノイズ成分上に時間と3次元において重ね合わせる原理に基づくいわゆるアクティブ・ノイズ・コントロール(ANC)技術が開発された所以である。このアイデアは、ノイズ成分に対し相殺的干渉を発生させて、干渉する音波の圧力変動を低減し、理想的には相殺するというものである。
【0008】
この原理を実装することは、多くの困難を克服することを伴い、そのため、さまざまな提案がなされており、それらの提案は2つのカテゴリにわけることができる。
【0009】
第1のカテゴリは、適応フィルター、つまり、リアルタイムで動作して信号を解析するアルゴリズムによって動的に、かつ連続的に修正される伝達関数を有するフィルターを使用するANC法のカテゴリである。このような処理は、特に、アルゴリズムをリアルタイムで実行するようにプログラムされる専用プロセッサを使って信号をデジタル化し、処理するための技術が発展した結果として可能になった。
【0010】
ドイツ特許第3733132A1号は、そのような適応フィルターを使用するANC処理の典型的な例である。適用フィルターを伴うANC法の他の例は、特に米国特許第6041126A号、米国特許出願第2003/0228019A1号、および国際公開第2005/112849A2号において説明されている。
【0011】
これらの技術は、ノイズを軽減することに関して有効でありうるが、必ずデジタルであること、および比較的大きな計算能力を必要とすること、その結果、比較的設計が複雑であり、作るのにかなり費用がかかるということが欠点となっている。
【0012】
さらに、デジタル処理は、補償信号に無視できない遅延をもたらし、適応型という特徴は、アルゴリズムの収束時間を最短にすることを必要とする。そのすべてがシステムの反応性にとって、特に不規則なノイズに対する反応性にとって有害である。その結果、ノイズ除去は、特に、本質的に周期的で、狭帯域内にあるノイズに対して有効である。
【0013】
ANC法の第2のカテゴリ−本発明の技術が属す−は、使用されるさまざまなフィルターのパラメータが予め決定されている静的な、つまり、非適応型のフィルター・システムのカテゴリである。
【0014】
そのようなANCシステムでは、閉ループではフィードバック型で、開ループではフィードフォワード型である静的フィルタリング機能を組み合わせる。フィードバック・チャネルは、イヤーピースのシェル、耳を囲む緩衝材、およびトランスデューサによって画成される音響空洞(以下では「前」空洞と称する)の内側に置かれたマイクロホンによって拾われる信号に基づく。言い換えると、このマイクロホンは、使用者の耳の近くに置かれ、主にトランスデューサによって生成される信号および前空洞内でまだ知覚可能な残留非相殺ノイズ信号を受けるということである。トランスデューサによって再生される音源からの音声信号は、このマイクロホンからの信号から差し引かれ、ANCシステムのフィードバック・ループに対するエラー信号を構成する。フィードフォワード・フィルター・チャネルは、ヘッドセットの着用者の直の環境内に存在する干渉するノイズを拾う外部マイクロホンによって拾われる信号を使用する。
【0015】
フィードバックおよびフィードフォワード・フィルター・チャネルに加えて、再生される音源からの音声信号を処理する第3のフィルター・チャネルも備えるこのような一システムが、特に米国特許出願第2010/0272276A1号において説明されている。これらのフィルター・チャネルからの出力信号を組み合わせて、トランスデューサに印加し、周囲のノイズを抑圧するための信号と併せて音源からの信号を再生する。
【0016】
さまざまなフィルターのパラメータは静的であるため、静的フィルタリング技術は、適応フィルター技術に要求されるリソースに比べて少ないリソースで済む方法により、アナログ技術またはデジタル技術でも等しく実装することができる。
【0017】
しかしながら、静的フィルタリング法には、いくつかの制限と欠点がある。
【0018】
第1の欠点は、トランスデューサとエラー・マイクロホン、つまり、前空洞内に置かれた内部マイクロホンとの間の電気音響経路の変動に対する感度が比較的大きい点である。これら2つの要素の間の電気音響応答は、前空洞の容積および外側に関するその封止の変動の結果修正されうる。この電気音響応答を変化させるおそれのある主要な要因は、頭部に付けたヘッドセットの位置決め、使用者の耳の形状、ヘッドセットを頭部に圧し付けるきつさ、および耳を囲む緩衝材が頭部を圧迫する場所の髪の毛の存在である。他の変動は、使用される電子コンポーネント(抵抗器、コンデンサ、トランスデューサ、およびマイクロホン)が時間の経過とともに変動する可能性のある電気的特性を示すことから、これらのコンポーネントによる可能性もある。
【0019】
音響応答のこれらの変動は、「ウォーターベッド」効果として知られている望ましくない効果を発生する可能性があるが、これは、主ノイズ抑圧周波数帯域を超えるノイズが、一般的に1キロヘルツ(kHz)を中心とする、比較的狭い周波数帯域内において全体的に知覚可能であり、当然望ましくない形で増幅されるという効果である。この現象が大きすぎる場合、緩衝材が偶然外れたときに多くのヘッドセットにおいて観察されうる現象である、ラーセン効果すら発生する可能性がある。
【0020】
考慮すべき別の要因は、前部容積の小ささがトランスデューサとエラー・マイクロホンとの間の電気音響応答の変動性を高める限りにおいて、前空洞の容積であるが、それは、そのような状況において、通常の聴取位置と使用者がヘッドセットを頭部に近づける遷移位置との間の容積の相対的変動が大きくなるからである。
【0021】
そのため、前空洞に対する小さな容積は、フィードバック・ループ内で安定性が失われる追加要因となっており、上で説明されているのと同じ結果である。実際、イヤーピースは、快適さと重量の両方の理由から比較的小さな容積となるように作ることが望ましく、このことがANCシステムにおける安定性の要件に反している。
【0022】
特に、与えられた電気音響応答に対応する性能を発揮するように、また十分な安定性を保証することを可能にするゲインおよび位相余裕ならびに最大化された性能を有するように、さまざまなフィルタリング・チャネルが調整される。この点で、閉ループ・システムは、一般的に、45°を超える位相余裕と少なくとも10デシベル(dB)のゲイン余裕とを備えなければならないと考えられる。しかし、実際にはアクティブ・ノイズ・コントロール機能を備えるヘッドセットの分野では電気音響応答の変動性が大きいため、これらの理論上の余裕では不十分であることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】ドイツ特許第3733132A1号
【特許文献2】米国特許第6041126A号
【特許文献3】米国特許出願第2003/0228019A1号
【特許文献4】国際公開第2005/112849A2号
【特許文献5】米国特許出願第2010/0272276A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
このような非適応型ANCシステムにおいて、本発明の課題は、頭部へのヘッドセットの位置決め、イヤーピースのきつさ、および耳を囲む緩衝材によってもたらされるよい、または劣った封止効果の変動があるにもかかわらずウォーターベッド効果もしくはラーセン効果の出現を回避することを、前空洞の容積が小さいにもかかわらず、可能にするゲインおよび位相余裕を高めて、不安定性のリスクに対処することである。
【0025】
このような安定性の増大は、当然のことながら、ANCシステムのノイズ防止性能を低下させることなく得られなければならない、つまり、その周期性の高い低いに関係なく、またその周波数スペクトルに関係なく、干渉するノイズ成分を相殺するうえで等しく効果的であり続けなければならない。
【0026】
当然であるが、音源(または電話アプリケーションにおける離れた場所にいる話者の声)からの音声信号は、歪んでいてはならず、またそのスペクトルは、ノイズ・キャンセリング信号および再生される音声信号が同じチャネルによって増幅され、同じトランスデューサによって再現されるとしても、ANC処理によって低減されてはならない。
【0027】
本発明が基づくアイデアは、スペクトルの高い部分における、つまり、不安定な周波数帯におけるフィードバック・フィルターの通過帯域を低減し、ウォーターベッド効果またはラーセン効果のリスクを低減するか、もしくはなくすというものである。以下で説明されているように、この方法で通過帯域を制限することで、少なくとも15dB、好ましくは少なくとも17dBのゲイン余裕の増加、および少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°の位相余裕の増加が引き起こされうる。
【0028】
それと平行して、フィードフォワード・フィルターは、なくすべきノイズ・スペクトル(つまり、1kHzを中心とする)のより高い周波数における性能の喪失を補償する。
【0029】
最後に、スタビライザー・フィルターが、フィードバック・フィルターと並列に接続される。スタビライザー・フィルターは、ウォーターベッド効果の臨界域における位相を大きくすることによってフィードバック・フィルターの位相余裕を増やす働きをする。特にトランスデューサからエラー・マイクロホンへ音が伝搬する際に通る経路の結果としての音響効果による位相の低減を補償するために、スタビライザー・フィルターによって限界共振を発生させ、位相を大きくし、それにより位相余裕を増大する。
【0030】
これら3つのチャネル(フィードバック、フィードフォワード、およびスタビライザー)は、並列に接続され、フィルターからの出力として送出される信号は、トランスデューサによる増幅および再生のため、これらのさまざまな信号の一次結合を送出するコンバイナーを使って、互いに、および再生する音声信号と組み合わされる。
【課題を解決するための手段】
【0031】
さらに、本発明は、それ自体上述の米国特許出願第2010/0272276A1号から知られる形で、ヘッドバンドによって一緒に接続され、再現される音声信号の音を再生するための、耳を囲む緩衝材を備えるシェルで画成される音響空洞内に収納されるトランスデューサをそれぞれ備える2つのイヤーピースを具備するアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを有するヘッドセットを実現するものである。ヘッドセットはアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを備え、このシステムは
第1の帯域通過フィルターがヘッドセットの環境内に存在する音響ノイズを拾うのに適した外部マイクロホンによって送出される信号を入力として受け取る開ループ・フィードフォワードの第1の分岐と、
第2の帯域通過フィルターが空洞の内側の内部マイクロホンによって送出されるエラー信号を入力として受け取る閉ループ・フィードバックの第2の分岐と、
第3のフィルターを備える第3の分岐と、
第1、第2、および第3のフィルターによって送出される信号を、また再生される音声信号を、入力として受け取り、増幅後にトランスデューサを制御するのに適している信号を出力として送出するミキサー回路とを備える。
【0032】
本発明に特徴的な方法において
アクティブ・ノイズ・コントロールは、非適応型コントロールであり、第1、第2、および第3のフィルターのパラメータは予め定められているパラメータであり、
第3のフィルターは、フィードバックの第2の分岐と並列に接続され、内部マイクロホンによって送出される信号を入力として受け取り、組み合わせ回路に入力として印加される信号を出力として送出するスタビライザー帯域通過フィルターであり、この第3のフィルターは予め定められた不安定性帯域内の第2のフィルターの伝達関数の位相を局所的に大きくするのに適しており、
第1、第2、および第3の分岐は、並列に配置構成され、ミキシング回路は、再生される音声信号の少なくとも一部と一緒に第1、第2、および第3のフィルターによって送出される信号の一次結合を、ゲインの各重みをこれらの信号に適用して出力として送出する加算回路である。
【0033】
注目する予め定められている不安定性帯域は、特に1kHzの周波数を中心とするウォーターベッド効果帯域である。
【0034】
第2のフィルターの高カットオフ周波数は、好ましくは150Hzより低く、好ましくは120Hzより低く、その帯域幅は65Hzより低く、好ましくは55Hzより低い。
【0035】
アクティブ・ノイズ・コントロールのフィードバックの分岐のゲイン余裕は有利には少なくとも15dB、好ましくは少なくとも17dBであり、位相余裕は少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°である。
【0036】
再生される音声信号は、好ましくは第2のフィルターおよび加算回路の両方に入力として印加され、第2のフィルターは再生のため内部マイクロホンによって送出される前記エラー信号を音声信号の少なくとも一部と組み合わせることによって得られる信号を入力として受け取るが、音声信号は、第3のフィルターには印加されない。
【0037】
次に、同一または機能的に類似している要素を指定するために一方の図から他方の図まで同じ参照番号が使用される添付図面を参照しつつ本発明のデバイスの実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】使用者の頭部の適所に置かれたオーディオ・ヘッドセットの概略図である。
【図2】さまざまな音響および電気信号、ならびにアクティブ・ノイズ・コントロール機能を有するオーディオ・ヘッドセットの動作に伴うさまざまな機能ブロックも示す線図である。
【図3】さまざまな機械要素およびその中の電気機械部材の構成を示す、本発明のヘッドセットのイヤーピースの1つの断面立面図である。
【図4】図3のイヤーピースの正面図である。
【図5】図3および4のイヤーピースの後面図である。
【図6】図3から5のイヤーピースの下からの図である。
【図7】本発明のヘッドセットのアクティブ・ノイズ・コントロール・システムのさまざまな要素を示すブロック図の形態の概略図である。
【図8】図7のフィードフォワード・フィルターの類似の形態の一実施形態を示す図である。
【図9】図7のフィードバック・フィルターの類似の形態の一実施形態を示す図である。
【図10】図7のスタビライザー・フィルターの類似の形態の一実施形態を示す図である。
【図11】イヤーピースの前空洞の内部減衰に関する、イヤーピースのシェルによって持ち込まれる減衰を示す特性図である。
【図12】図7の回路のフィードフォワード・フィルターの伝達関数の振幅および位相を示すボード線図である。
【図13】スタビライザー・フィルターの作用がある場合とない場合の、本発明のアクティブ・ノイズ・コントロール・システムの黒色の軌跡(Black locus)を示す図である。
【図14】さまざま構成に対する図7の回路のフィードバック・フィルターの伝達関数の係数を示す図である(完全な通過帯域、縮小された通過帯域、スタビライザー・フィルターがある場合とない場合)。
【図15】さまざまな構成に対する同様の、図7の回路のフィードバック・フィルターの伝達関数の位相を示す図である。
【図16】さまざまな構成に対する同様の、図7の回路のナイキスト・プロットである。
【図17】さまざまな構成に対する同様の、図7の回路の閉ループ減衰特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、使用者の頭部に付けたオーディオ・ヘッドセットを示している。従来の方法では、ヘッドセットは、ヘッドバンド12によって連結されている2つのイヤーピース10および10’を備える。イヤーピース10のそれぞれは、使用者の耳の輪郭の周囲を圧迫する外側シェル14を備え、このシェル14と耳の周囲との間に耳を囲む柔軟な緩衝材16が、耳の付近と外部音環境との間に音響の観点から満足のゆく密閉が施されるように挟装される。
【0040】
図2は、さまざまな音響および電気信号、ならびにアクティブ・ノイズ・コントロール機能を有するオーディオ・ヘッドセットの動作に伴うさまざまな機能ブロックを示す線図である。
【0041】
イヤーピース10は、2つの空洞、つまり、耳のそばの前空洞22とその反対側にある後空洞24を画成する仕切り20上に載せられる、以下では単に「トランスデューサ」と称される音再生トランスデューサ18を囲んでいる。
【0042】
前空洞22は、内部仕切り20、イヤーピースの壁14、緩衝材16、および耳の領域内の使用者の頭部の外面によって画成される。この空洞は、音の漏れが緩衝材16の接触領域内で不可避であることを除いて、閉じられた空洞である。
【0043】
後空洞24は、放音口26がイヤーピースの前空洞22内で低周波を強める働きをすることを除いて、閉じられた空洞である。このような音響を強める働きは、電気的に増幅することに比べて有利であるが、それは、周囲ノイズの過圧効果を、飽和なしで、電気的ノイズを減らしつつ、アクティブ・コントロール・システムによって改善できるからである。
【0044】
アクティブ・ノイズ・コントロールでは、イヤーピース10は、イヤーピースの外側の周囲ノイズを拾うための外部マイクロホン28を搭載し、これは波30によって図式的に表されている。外部マイクロホン28によって拾われた信号は、アクティブ・ノイズ・コントロール・システムのフィードフォワード・フィルター段32に印加される。
【0045】
それぞれのイヤーピース10および10’は、それ専用のアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを有し、各外部マイクロホン28および28’(図1)は互いに独立している。
【0046】
図1に示されているように、ヘッドセットは、状況によっては、例えば、ヘッドセットが「ハンズフリー」電話機能を備えている場合に、通信機能を実行するために別の外部マイクロホン34を搭載することも可能である。
【0047】
追加の外部マイクロホン34は、ヘッドセットの着用者の声を拾うためのものであり、アクティブ・ノイズ・コントロールには関与せず、以下の考察は、アクティブ・ノイズ・コントロール専用である外部マイクロホン(複数可)28のみを対象とする。
【0048】
ヘッドセットは、内部空洞22内に存在する、使用者が知覚する残留ノイズを拾うために外耳道にできる限り近い位置に配置された内部マイクロホン36も備える。
【0049】
トランスデューサによって再生される音源(または電話機アプリケーションでは、離れた所にいる話者の声)からの音声信号を無視すると、この内部マイクロホン36によって拾われる音声信号は、
イヤーピースのシェル14を通して伝達される周囲外部ノイズ30に由来する残留ノイズ30と、
相殺的干渉の原理に基づき、理想的には、ノイズ30、つまり、聴取点での抑圧のためのノイズの反転コピーであるトランスデューサ18によって生成される音波40の組み合わせである。
【0050】
音波40を使ったノイズの相殺は決して完全ではないので、内部マイクロホン36は、トランスデューサ18を制御するために開ループのフィードフォワード分岐32からの信号と46で組み合わされる信号を送出する閉ループのフィードバック・フィルター分岐42およびスタビライザー分岐44(本発明に特有)に印加するためのエラー信号eとして使用される残留信号を拾う。
【0051】
それに加えて、トランスデューサ18は、音源(プレーヤー、ラジオなど)、または電話機アプリケーションにおける離れた所にいる話者の声に由来する音声信号を再生のため受信する。この信号は、信号を歪ませる閉ループの効果に曝されるので、これは、アクティブ・コントロールなしで開ループ・ゲインおよびターゲット応答によって決まるような所望の伝達関数をもたらすようにデジタル・シグナル・プロセッサ内のイコライゼーションによる上流の前処理を受ける。
【0052】
図3から6は、イヤーピース10の一方について(他のイヤーピース10’も作りは同一である)、図2に図式的に示されているさまざまな機械および電気音響要素の一実施形態を示す複数の角度からの図である。
【0053】
シェル14の内側を前空洞22と後空洞24とに分割する仕切り20が図示されており、そこでは、トランスデューサ18および内部マイクロホン36がこの仕切り上に取り付けられ、内部マイクロホン36は使用者の外耳道の近くに保持するためグリッド48で支えられている。図5および6は、アクティブ・ノイズ・コントロール専用の外部マイクロホン28、および「ハンズフリー」通信機能用の追加のマイクロホン34も、例えば音響抵抗性を有するプラスチック材料のグリッドによって覆われている一連の小孔で構成される放音口26と一緒に、示している。
【0054】
図7は、本発明のアクティブ・ノイズ・コントロール回路を、この回路の動作に関わる電気および音響伝達関数と一緒に、示すブロック図である。
【0055】
この回路は、本質的に、並列に接続された3つの分岐、つまり、フィードフォワード・フィルター32、フィードバック・フィルター42、およびスタビライザー・フィルター44を備える。
【0056】
外部マイクロホン28によって拾われた信号は、ゲインG1(例えば、G1=+8dB)で前置増幅され、次いで、フィードフォワード・フィルター32に印加される。
【0057】
内部マイクロホン36によって拾われた信号は、スタビライザー・フィルター44およびフィードバック・フィルター42の両方に印加され、各ゲインG2(例えば、G2=0dB)およびG3(例えば、G3=+9dB)が適用される。
【0058】
フィルター32、44、および42によって並列に送出される信号同士が、加算回路46によって組み合わされ、各ゲインG5、G6、およびG7はそれらに適用される(例えば、フィードフォワード・フィルター32からの信号に対してはG5=−6dB、スタビライザー・フィルター44からの信号に対してはG6=+6dB、フィードバック・フィルター42からの信号に対してはG7=0dB)。
【0059】
音源(MP3プレーヤー、ラジオなど)または電話機回路からの音声信号S(「ラインイン」信号)は、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)50によるデジタル処理(復号化、イコライゼーション、立体音響などの音響効果など)を受ける。さらに、この信号は、効果を歪ませる閉ループの効果に曝されるので、これは、アクティブ・コントロールなしで開ループ・ゲインおよびターゲット応答によって決定されるような所望の伝達関数をもたらすように、適切なイコライゼーションによるDSP 50内の上流で前処理される。
【0060】
DSP 50からの出力の音声信号は、2つの場所でアクティブ・コントロール回路に印加され、それぞれ、
ゲインG4(例えば、G4=−14dB)がフィードバック・フィルター42に適用され、
ゲインG8(例えば、G8=−6dB)が、この信号を内部マイクロホン36によって拾われた信号と、その信号がフィードバック・フィルター32に入力として印加するためにゲインG3で前置増幅された後に組み合わせる加算回路52に適用される。
【0061】
再生のため音声信号Sを回路の2つの異なる場所に注入することで、低周波と高周波との間でバランスのとれたイコライゼーションを得ることが可能になる。一般加算回路46の入力に注入される信号の部分は、アクティブ・コントロールの減衰を受け、これにより、高周波成分を生成するが、対照的に、加算回路52を介してフィードバック・フィルター42の入力に注入される信号の部分は、回路のローパス・フィルタリングを受け、低周波成分をもたらす。信号のこれら2つの部分に印加される各ゲインG8およびG4は、再生のための信号のスペクトルの低周波と高周波とのバランスをとる働きをする。
【0062】
再生のための音声信号はフィードバック・フィルター42の入力にのみ(加算回路52を介して)注入されるが、スタビライザー・フィルター44を有する分岐には注入されず、したがって、再生される音楽のイコライゼーションを妨害することなくスタビライザー・フィルタリングを調節することが可能であり、スタビライザー・フィルター44は、したがって安定化機能に干渉しない、再生のための音声信号を除く、内部マイクロホン36によって拾われた音のみを受け取ることがわかるであろう。
【0063】
最後に、再生のための音声信号と併せたフィードフォワード、フィードバック、および安定化フィルタリングに対する、3つのフィルター・チャネルからの信号の一次結合である、一般加算回路46からの出力が、パワー段54による増幅の後トランスデューサ18に印加される。
【0064】
図8、9、および10は、それぞれフィードフォワード・フィルター32、フィードバック・フィルター42、およびスタビライザー・フィルター44の類似の技術における実施形態を示している。これらの図において、ViおよびVoは、それぞれフィルターの入力および出力電圧を示し、Vmidは、フィルターによって使用されるオペアンプの電源のプラス端子とマイナス端子との間の中間電圧を示す。これらのさまざまなフィルターの各伝達関数は、特にスタビライザー・フィルター44がアクティブ・ノイズ・コントロール・システムの全体的性能を向上させるためにフィードバック・フィルター42の応答を修正することを可能にする方法と併せて図12から17を参照して以下でさらに詳しく説明されている。
【0065】
図からわかるように、これら3つのフィルターは、ごく少数のコンポーネントで実装することができ、したがって、ハードウェアのコストが非常に低い。
【0066】
さらに、図示されている例では、フィードフォワード・フィルター32およびフィードバック・フィルター42は、一次のローパス・フィルターの形態で作られるが、抵抗器およびコンデンサを変更することによって二次の帯域通過フィルターを作ることも難なく可能である。
【0067】
以下では、一般的なアーキテクチャが上で説明されている、本発明のアクティブ・ノイズ・コントロール・システムの一般的動作を説明する。
【0068】
以下の記法を使用する。
Hc:外部マイクロホン28によって受信される信号とヘッドセットのイヤーピースのシェルを通過する外部ノイズの一部を表す、内部マイクロホン36が受け取る信号との間の伝達関数、
Ho:トランスデューサ18によって再生される信号とイヤーピースのシェルを通して外部マイクロホンに伝達される音声信号の一部を表す、外部マイクロホン28が受け取る信号との間の伝達関数、
Ha:トランスデューサ18によって生成される信号と内部マイクロホン36が受け取る信号との間の伝達関数、
d:周囲のノイズ信号(アクティブ・コントロールによって減衰されるべき、理想的には相殺されるべきノイズ信号)、
e:内部マイクロホン36によって送出されるエラー信号(最小化されるべき信号)、
HFF:フィードフォワード・フィルター32の伝達関数(静的関数である、つまり、適応型でない)、
HFB:場合によってはスタビライザー・フィルター44の動作によって修正される、フィードバック・フィルター42の伝達関数(同様に静的関数である)、
【0069】
エラー信号eをノイズ信号dの関数として表すことが望ましい場合、外部マイクロホン28から内部マイクロホン38(このマイクロホンは、使用者の外耳道にできる限り近い位置に置かれ、聴取点で知覚される信号を示す)までの伝達関数
【0070】
【数1】
を求める。
【0071】
項εは、2以上の次数のフィードバックのすべてを表し、特に、この項は、分子の他の項と比較して無視可能であり、無視される。さらに、|Ho|<<|Ha|であるが、それは、Hoがイヤーピースのシェルによる追加の減衰を含むからである。
【0072】
図11は、周波数の関数としてのHo/Haの係数の実験的プロットであり、空洞の内部減衰に関するイヤーピースのシェルの減衰を表す。
【0073】
そこで、近似|Ho|<<|Ha|を行うことによって、ノイズの伝達関数を
【0074】
【数2】
のように簡略化することができる。
【0075】
内部マイクロホンによって拾われるノイズを低くするために、つまり、エラー信号を最小化するために、
【0076】
【数3】
とする必要がある。
【0077】
安定性の観点から、フィードフォワードHFFの安定性は、フィードバックHFBの安定性よりよいが、それは、フィードバック・ループがないからである(フィードフォワード・フィルターは開ループ・フィルターである)。
【0078】
対照的に、導入部で説明されているように、フィードフォワードおよびフィードバックは、ノイズ抑圧帯域を超える狭い周波数帯域内、および一般的に1kHzを中心とするノイズを増幅する望ましくない効果(「ウォーターベッド効果」)を発生する傾向を有する。それに加えて、フィードバック・フィルターのフィードバックにより、この効果は素早く進行し、ラーセン効果に変わってしまう。
【0079】
残念なことに、フィードフォワードはより安定しているけれども、これが自然にもたらすノイズ抑圧は効果が弱いため、フィードバックなしでは使用できない。完全な抑圧をもたらすために、HFF=Hc/Haである必要があるが、これは、HcおよびHaが、前の容積が変化し小さいこと、ヘッドセットの位置およびきつさなど、上で述べた理由から大きく変化するため達成が困難である。実際には、フィードフォワード・フィルター単独によるノイズ抑圧は、典型的には、10dBに近いが、フィードバック・フィルターでは、20dBを達成することが可能である。
【0080】
本発明は、特に上で説明されている欠点を軽減するのに役立つ。本質的に、本発明では、
1)特に制御されない不安定性のリスクがある周波数範囲内においてゲインおよび位相余裕(典型的には、少なくとも15dBおよび60°まで)を増やすためにフィードバック・フィルターの周波数帯域を縮小すること、
2)より高い周波数(1kHzまで)での性能の対応する喪失を補償するためにフィードフォワード・フィルターを使用すること、
3)フィードバック・フィルターに関連するスタビライザー・フィルターによってウォーターベッド効果を低減し、それにより、ラーセン効果のリスクを低減するか、またはなくすことすら可能にすることを提案している。
【0081】
通過帯域を縮小することによってゲインおよび位相余裕を高めることは、開ループ・ゲインを低減することに優先して選択されており(これらの余裕を高めるのにも役立っている)、開ループ・ゲインのこのような低減は、通過帯域を縮小することとは対照的に、それがノイズ・コントロール回路の減衰周波数帯域のみを縮小するのでアクティブ・ノイズ・コントロールの最高性能を引き下げるという欠点があることがわかるであろう。したがって、フィードバック・フィルターの開ループ・ゲインを低減することに優先して通過帯域の縮小が選択されるのは、最大ノイズ減衰を低減することを回避するためである。
【0082】
フィードフォワード・フィルターは、開ループ内で動作するのでより安定している。したがって、これは、フィードバック・フィルターにおける通過帯域の喪失を補償するためにより高い周波数(1kHzまで)で使用されうる。フィードフォワード・フィルターは、低ゲインをもたらし、フィードバック・フィルターのQファクタと比べて小さいQファクタ(クオリティ・ファクタ)を有し、その性能は、広範な周波数帯域をカバーするように調節される。
【0083】
図12は、フィードフォワード・フィルター32の振幅および位相を周波数の関数として示す、フィードフォワード・フィルター32のボード線図である。
【0084】
フィードバック・フィルター42と並列に接続されていることによって、スタビライザー・フィルター44は、特にウォーターベッド効果の臨界域において、フィードバック・フィルターの位相余裕を増やす働きをする。音響効果による、特にトランスデューサからエラー・マイクロホンへ音が伝搬する際に経由する音響経路(伝達関数Ha)による、位相の低減を補償するために、スタビライザー・フィルターは、位相を大きくして位相余裕を増大する働きをするこの帯域内の局部共振を発生する。
【0085】
これらのさまざまな態様は、図13から17の例示的な図に特に示されている。
【0086】
図13は、周波数が0Hzから無限大まで変化する、システムの黒色の軌跡、つまり、位相の関数としての開ループ(HaHFB)の係数の直交座標プロットを示している。この黒色の軌跡をトレースすることによって、軌跡が0dBおよび0°に位置する不安定点Oを通過する2本の軸と交差する点によって与えられるゲインおよび位相余裕を容易に読み取ることができる。
【0087】
図13において、破線は、通過帯域を縮小する前に単独でフィードバック・フィルタリングを行う黒色の軌跡であり、実線は、同じフィルターに適用されるが、その通過帯域は縮小されている(が、スタビライザーはない)。最初に、ゲインおよび位相余裕ΔMおよびΔφは、それぞれ、−12dBおよび25°であり、通過帯域を縮小することで、これらの値をそれぞれ−18dBの値および60°を超える値に増大することができる。
【0088】
図7の回路について、図14から17は以下を示す。
図14:フィードバック・フィルターの伝達関数の係数、
図15:フィードバック・フィルターの伝達関数の位相、
図16:ナイキスト・プロット、および
図17:閉ループ減衰特性。
【0089】
これらの図において、
Aは、通過帯域を縮小する前の、前置増幅機能G3を有する元のフィードバック・フィルターに対応する特性を表す。
Bは、Aと同じ特性を表すが、ただし通過帯域を縮小した後である。
Cは、最終特性、つまり、その前置増幅機能G2を有するスタビライザー・フィルター44を追加した後の特性Bを表す。
【0090】
図14の特性AとB(またはC)を比較するとわかるように、80Hz(特性A)の帯域幅を与える、80Hz〜160Hzであったフィルターの元の通過帯域は、65Hz〜115Hzに縮小される、つまり、50Hz(特性BまたはC)のより狭い帯域幅にされる。
【0091】
通過帯域をこのように縮小すると、図13を参照して説明されているように、ゲインおよび位相余裕を著しく高めることが可能であり、システムの安定性向上に寄与する。
【0092】
図15を調べると、スタビライザー・フィルター44を使用すると、約30°から35°までの範囲で、1kHzを中心とするウォーターベッド効果の不安定な帯域内の位相が著しく高められることがわかる。
【0093】
図16において、位相をこのように高めると、開ループが不安定性の帯域から著しく遠ざかることがわかる。この図は、破線がノイズ増幅帯域Nを示しているナイキスト・プロットである。図を見るとわかるように、これら3つの構成A、B、またはCのどれにおいても、システムは不安定点Oを囲まず、理論上は、システムのすべてが安定している。しかしながら、フィードバック・フィルターの通過帯域を縮小すること(AからBに進む)と、それをスタビライザー・フィルターに関連付けること(BからCに進む)とにより、このプロットは毎回、不安定点からさらに遠ざかり、したがって、システムの全体的安定性の向上に寄与する。
【0094】
図17の理論的減衰曲線は、1kHzのウォーターベッド効果帯域が縮小されることを示している。6kHzのウォーターベッド効果帯域は低減されるが、1kHzの帯域のように、4dB以下であることがわかる。この図は、閉ループのシミュレートされた減衰を示し、そこでは、システムAの1kHz帯域内のウォーターベッド効果の深さは、システムBに進むときに(4dBの改善)、またシステムBからシステムCに進むときに(+3dBの改善)低減される。システムAからシステムBまたはCに進むときの100Hz〜800Hz帯において観察される約−5dBの減衰の損失は、静的フィードフォワード・フィルター32によって行われるアクティブ・コントロールによって補償される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドバンド(12)によって一緒に接続され、再現される音声信号の音を再生するための、耳を囲む緩衝材(16)を備えるシェル(14)で画成される音響空洞内に収納されるトランスデューサ(18)をそれぞれ備える2つのイヤーピース(10)を具備するオーディオ・ヘッドセットであって、前記ヘッドセットはアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを備え、前記アクティブ・ノイズ・コントロール・システムは、
第1の帯域通過フィルター(32)が前記ヘッドセットの環境内に存在する音響ノイズ(30)を拾うのに適した外部マイクロホン(28)によって送出される信号を入力として受け取る開ループ・フィードフォワードの第1の分岐と、
第2の帯域通過フィルター(42)が前記空洞の内側の内部マイクロホン(36)によって送出されるエラー信号(e)を入力として受け取る閉ループ・フィードバックの第2の分岐と、
第3のフィルター(44)を備える第3の分岐と、
前記第1、第2、および第3のフィルターによって送出される前記信号を、また再生される前記音声信号(S)を、入力として受け取り、増幅(54)後に前記トランスデューサ(18)を制御するのに適している信号を出力として送出するミキサー回路(46)とを備え、
前記ヘッドセットは、
前記アクティブ・ノイズ・コントロールは非適応型コントロールであり、前記第1、第2、および第3のフィルター(32、42、44)のパラメータは予め定められているパラメータであり、
前記第3のフィルター(44)は、前記フィードバックの第2の分岐と並列に接続され、前記内部マイクロホンによって送出される前記信号を入力として受け取り、前記組み合わせ回路に入力として印加される信号を出力として送出するスタビライザー帯域通過フィルターであり、前記第3のフィルターは予め定められた不安定性帯域内の前記第2のフィルターの伝達関数の位相を局所的に大きくするのに適しており、
前記第1、第2、および第3の分岐は、並列に配置構成され、前記ミキシング回路は、再生される前記音声信号(S)の少なくとも一部と一緒に前記第1、第2、および第3のフィルター(32、42、44)によって送出される前記信号の一次結合を、ゲイン(G5〜G8)の各重みをこれらの信号に適用して出力として送出する加算回路(46)であることを特徴とする、オーディオ・ヘッドセット。
【請求項2】
前記所定の不安定性帯域は、1kHzの周波数を中心とするウォーターベッド効果帯域である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項3】
前記第2のフィルターの高カットオフ周波数は、150Hz未満、好ましくは120Hz未満である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項4】
前記第2のフィルターの帯域幅は、65Hz未満、好ましくは55Hz未満である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項5】
前記アクティブ・ノイズ・コントロールの前記フィードバックの分岐のゲイン余裕は、少なくとも15dB、好ましくは少なくとも17dBである、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項6】
前記アクティブ・ノイズ・コントロールの前記フィードバックの分岐の位相余裕は、少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項7】
再生される前記音声信号(S)は、前記第2のフィルター(42)および前記加算回路(46)の両方に入力として印加され、前記第2のフィルターは再生のため前記内部マイクロホン(36)によって送出される前記エラー信号(e)を前記音声信号の少なくとも一部と組み合わせること(52)によって得られる信号を入力として受け取る、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項8】
再生される前記音声信号(S)は、前記第3のフィルター(44)に印加されない、請求項7に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項1】
ヘッドバンド(12)によって一緒に接続され、再現される音声信号の音を再生するための、耳を囲む緩衝材(16)を備えるシェル(14)で画成される音響空洞内に収納されるトランスデューサ(18)をそれぞれ備える2つのイヤーピース(10)を具備するオーディオ・ヘッドセットであって、前記ヘッドセットはアクティブ・ノイズ・コントロール・システムを備え、前記アクティブ・ノイズ・コントロール・システムは、
第1の帯域通過フィルター(32)が前記ヘッドセットの環境内に存在する音響ノイズ(30)を拾うのに適した外部マイクロホン(28)によって送出される信号を入力として受け取る開ループ・フィードフォワードの第1の分岐と、
第2の帯域通過フィルター(42)が前記空洞の内側の内部マイクロホン(36)によって送出されるエラー信号(e)を入力として受け取る閉ループ・フィードバックの第2の分岐と、
第3のフィルター(44)を備える第3の分岐と、
前記第1、第2、および第3のフィルターによって送出される前記信号を、また再生される前記音声信号(S)を、入力として受け取り、増幅(54)後に前記トランスデューサ(18)を制御するのに適している信号を出力として送出するミキサー回路(46)とを備え、
前記ヘッドセットは、
前記アクティブ・ノイズ・コントロールは非適応型コントロールであり、前記第1、第2、および第3のフィルター(32、42、44)のパラメータは予め定められているパラメータであり、
前記第3のフィルター(44)は、前記フィードバックの第2の分岐と並列に接続され、前記内部マイクロホンによって送出される前記信号を入力として受け取り、前記組み合わせ回路に入力として印加される信号を出力として送出するスタビライザー帯域通過フィルターであり、前記第3のフィルターは予め定められた不安定性帯域内の前記第2のフィルターの伝達関数の位相を局所的に大きくするのに適しており、
前記第1、第2、および第3の分岐は、並列に配置構成され、前記ミキシング回路は、再生される前記音声信号(S)の少なくとも一部と一緒に前記第1、第2、および第3のフィルター(32、42、44)によって送出される前記信号の一次結合を、ゲイン(G5〜G8)の各重みをこれらの信号に適用して出力として送出する加算回路(46)であることを特徴とする、オーディオ・ヘッドセット。
【請求項2】
前記所定の不安定性帯域は、1kHzの周波数を中心とするウォーターベッド効果帯域である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項3】
前記第2のフィルターの高カットオフ周波数は、150Hz未満、好ましくは120Hz未満である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項4】
前記第2のフィルターの帯域幅は、65Hz未満、好ましくは55Hz未満である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項5】
前記アクティブ・ノイズ・コントロールの前記フィードバックの分岐のゲイン余裕は、少なくとも15dB、好ましくは少なくとも17dBである、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項6】
前記アクティブ・ノイズ・コントロールの前記フィードバックの分岐の位相余裕は、少なくとも45°、好ましくは少なくとも60°である、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項7】
再生される前記音声信号(S)は、前記第2のフィルター(42)および前記加算回路(46)の両方に入力として印加され、前記第2のフィルターは再生のため前記内部マイクロホン(36)によって送出される前記エラー信号(e)を前記音声信号の少なくとも一部と組み合わせること(52)によって得られる信号を入力として受け取る、請求項1に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【請求項8】
再生される前記音声信号(S)は、前記第3のフィルター(44)に印加されない、請求項7に記載のオーディオ・ヘッドセット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−110746(P2013−110746A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−256043(P2012−256043)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【出願人】(509127457)パロット (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256043(P2012−256043)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【出願人】(509127457)パロット (23)
【Fターム(参考)】
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