説明

オートインデューサー−2の定量方法

【課題】オートインデューサー−2を定量するための手段を提供する。
【解決手段】本発明は、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として検量線を作成することを特徴とするオートインデューサー−2の定量方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートインデューサー−2の定量方法およびオートインデューサー−2調節剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界において、微生物は様々な環境下で生存しなければならない。貧栄養、低温度、高温、pH変化はもちろんのこと、生体内においては貪食細胞または抗菌性液性因子(補体、抗体、リゾチーム等)が存在する環境での生存を余儀なくされる。このような状況下で、細菌は自らの存在環境の変化を敏感に感知する機構を獲得してきた。そのような機構の1つとして、微生物は特異的な情報伝達物質を介して環境における自らの濃度を感知し、その濃度に応じて自らの様々な生物活性を巧妙に制御していることが明らかとなっている。このような細胞間の情報伝達機構は、クオラムセンシングシステムと称される。
【0003】
クオラムセンシングは、発光性海洋細菌であるビブリオ・フィシェリおよびビブリオ・ハーベイにおいて最初に報告された。しかし、最近では、多くの細菌における一般的な遺伝子調節機構であると認識されている。この現象により、細菌は、生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成などといった活動を一斉に行うことができる。
【0004】
クオラムセンシングシステムを有する細菌は、オートインデューサーと呼ばれるシグナル伝達分子を合成し、放出し、そのシグナル伝達分子に応答して、遺伝子発現を細胞密度の関数として制御する。これまで、アシルホモセリンラクトンがオートインデューサー−1として、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオンがオートインデューサー−2として同定されている。
【0005】
ビブリオ属細菌、緑膿菌、セラチア、エンテロバクターなど臨床上重要な細菌がクオラムセンシングにオートインデューサー−1を利用することが報告されている。また、ビブリオ・ハーベイが、種内連絡には種特異性の高いオートインデューサー−1を利用し、種間連絡には種特異性の低いオートインデューサー−2を利用することが報告されている(非特許文献1)。
【0006】
さらに最近の研究では、オートインデューサー−2による病原性細菌の種間でのクオラムセンシングが、病原因子の産生を調節していることも示されている(非特許文献2)。したがって、オートインデューサー−2を定量すること、ならびにオートインデューサー−2活性を阻害する化合物を同定することが求められている。
【0007】
オートインデューサー−2を定量する方法として、オートインデューサーを認識することにより発光する細菌を用いたバイオアッセイが報告され、オートインデューサー−2にのみ応答して発光することのできるビブリオ・ハーベイのレポーター株が構築されている(非特許文献3および4)。上記のような細菌を用いるバイオアッセイでオートインデューサー−2を定量するためには、標準試料を用いて検量線を作成する必要がある。しかし、測定対象であるオートインデューサー−2は不安定な構造を有するため入手が困難であり、検量線を作成するための標準試料として用いるのは現実的ではなかった。従って、これまでオートインデューサー−2の測定は相対値として測定されているに過ぎなかった。
【0008】
非特許文献5には、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン(HMF)がオートインデューサー−2活性を有することが記載されている。しかし、上記のようなビブリオ・ハーベイのレポーター株を用いるバイオアッセイでは、HMFはオートインデューサー−2としての4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン(DPD)と比べてかなり高濃度でしか活性を検出できないことが示されており、オートインデューサー−2を定量するための標準物質としては適していないと考えられていた。
【0009】
【非特許文献1】Bassler et al., Bacteriol.179:4043-4045,1997
【非特許文献2】Xavier KB. et al., Nature 437 :750-753, 2005
【非特許文献3】Bassler et al., Mol.Microbiol.9:773-786, 1993
【非特許文献4】Bassler et al., Mol.Microbiol.13:273-286,1994
【非特許文献5】Keersmaecker et al., J. Biol. Chem. 280, 20: 19563-19568, 2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、オートインデューサー−2を定量するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、オートインデューサー−2の代謝産物である4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として検量線を作成することにより、オートインデューサー−2の定量的な測定が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)被検試料におけるオートインデューサー−2の定量方法であって、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として検量線を作成することを特徴とする前記方法。
(2)定量方法がオートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物の発光強度を測定するバイオアッセイである、(1)記載の方法。
(3)オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物の発光強度を測定するバイオアッセイにおいて、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度と発光強度との相関を示す検量線を作成する、(1)または(2)記載の方法。
(4)レポーター細菌が、オートインデューサー−2受容体およびルシフェラーゼを有する細菌である(2)または(3)記載の方法。
(5)レポーター細菌がビブリオ・ハーベイである、(2)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)a)既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンと、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定し、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度と発光強度との相関を示す検量線を作成する工程、
b)被検試料と、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定する工程、および
c)bの工程で得られた測定値から、aの工程で得られた検量線に基づき、オートインデューサー−2を定量する工程
を含む、(2)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)c)の工程において、aの工程で得られた検量線、ならびに同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線の2つの検量線を用いてオートインデューサー−2を定量する、(6)記載の方法。
(8)被検試料から夾雑物を除去する工程をさらに含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)被検試料を吸着性の低い容器を用いて調製および/または保存する、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)被検試料をガラス容器を用いて調製および/または保存する、(9)記載の方法。
(11)検量線の作成を吸着性の低い容器を用いて実施する、(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)検量線の作成をガラス容器を用いて実施する、(11)記載の方法。
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の方法によってオートインデューサー−2を定量することを含む、オートインデューサー−2調節剤のスクリーニング方法。
(14)既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを含む標準試料、オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物、および同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線を含む、オートインデューサー−2を定量するためのキット。
(15)既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを含む標準試料、オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物、および同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線を含む、オートインデューサー−2調節剤をスクリーニングするためのキット。
(16)吸着性の低い容器をさらに含む、(14)または(15)記載のキット。
(17)吸着性の低い容器がガラス容器である、(16)記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、オートインデューサー−2を定量的に測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として検量線を作成することを特徴とするオートインデューサー−2の定量方法に関する。
【0015】
本発明におけるオートインデューサー−2(AI−2)としては、式(I):
【化1】

で表される4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン(DPD)が挙げられる。
【0016】
式(I)のオートインデューサー−2は、細菌のオートインデューサー−2受容体と結合するときにボロンを取り込んで、以下の式(II):
【化2】

で表されるフラノシルボレートジエステルに変換される。
【0017】
本発明においてオートインデューサー−2には、上記式(II)で表されるフラノシルボレートジエステルも包含される。
【0018】
上記オートインデューサー−2は、不安定な構造を有するため、保存が難しく、試薬として入手することは容易ではない。従って、標準試料として使用することは困難である。
【0019】
4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン(HMF)は、以下の式(III):
【化3】

で表され、式(I)のオートインデューサー−2が代謝される際に構造変化することにより生成される。HMFは、オートインデューサー−2活性を有し、オートインデューサー−2と異なり安定であり、試薬として市販のものを容易に入手可能である。HMFは、例えば、SIGMA−ALDRICHから入手できる。
【0020】
本発明においてオートインデューサー−2活性は、オートインデューサー−2がクオラムセンシングシステムを有する細菌に影響を及ぼす活性、すなわち、オートインデューサー−2を介するクオラムセンシングによりもたらされる細菌の機能を促進する活性をさす。細菌は、オートインデューサー−2を介するクオラムセンシングにより発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成を行うことが知られている。従って、オートインデューサー−2活性は、換言すれば、オートインデューサー−2を認識する細菌、すなわちオートインデューサー−2受容体を有する細菌による生物発光、スウォーミング、バイオフィルム形成、タンパク質分解酵素の産生、抗生物質の合成、遺伝子受容能の発達、プラスミド接合伝達、病原因子産生および胞子形成の活性ということができる。本発明においてオートインデューサー−2活性は、特に、細菌の病原因子産生活性をさす。
【0021】
細菌の病原因子としては、例えば、エンテロトキシン、アデニル酸シクラーゼ毒素、アドヘシン、アルカリプロテアーゼ、溶血毒、炭疽毒素、APX毒素、α毒素、β毒素、δ毒素、C2毒素、C3毒素、ボツリヌス毒素、束状線毛構造サブユニット、C5Aペプチダーゼ、心臓毒、走化性、コレラ毒素、毛様体毒素、クロストリジウム細胞毒、クロストリジウム神経毒、コラーゲン接着遺伝子、細胞溶解素、嘔吐毒素、内毒素、表皮剥脱毒素、外毒素、細胞外エラスターゼ、フィブリノゲン、フィブロネクチン結合タンパク質、線維状赤血球凝集素、フィンブリア、ゼラチナーゼ、赤血球凝集素、ロイコトキシン、リポタンパク質シグナルペプチダーゼ、リステリオリシンO、Mタンパク質、神経毒、非フィンブリアアドヘシン類、浮腫因子、透過酵素、百日咳毒素、ホスホリパーゼ、線毛、孔形成毒素、プロリンパーミアーゼ、セリンプロテアーゼ、志賀毒素、破傷風毒素、チオール活性化細胞溶解素、気管細胞溶解素、ウレアーゼなどが挙げられるがこれに制限されない。
【0022】
本発明のオートインデューサー−2定量方法は、オートインデューサー−2を認識することにより発光するレポーター細菌またはその処理物を用い、その発光強度を測定することにより、オートインデューサー−2活性を測定するものである。本発明においてオートインデューサー−2の定量には、オートインデューサー−2活性の定量が包含され、本発明の方法は、上記オートインデューサー−2活性のうち、細菌の病原因子産生活性を定量するために特に好適に用いられる。HMFは、オートインデューサー−2活性を有することから、オートインデューサー−2と同様に上記レポーター細菌を発光させることが知られている。しかし、HMFによるレポーター細菌の発光強度は、オートインデューサー−2による発光強度より低いものである。
【0023】
本発明の方法で用いるオートインデューサー−2を認識することにより発光するレポーター細菌は、好ましくはオートインデューサー−2受容体およびルシフェラーゼを有する細菌である。細菌がオートインデューサー−1をも有する場合は、オートインデューサー−1による発光も同時に検出されてしまい、オートインデューサー−2による発光の測定の妨げとなるため、オートインデューサー−1受容体を有しない細菌をレポーター細菌として用いることが好ましい。細菌がルシフェラーゼを有するとは、細菌がルシフェラーゼを産生し、ルシフェラーゼ活性を発現することをさす。
【0024】
レポーター細菌の処理物は、オートインデューサー−2受容体およびルシフェラーゼを含みオートインデューサー−2と接触して発光するものであれば特に制限されない。レポーター細菌の処理物の具体例として、菌体破砕物、菌体抽出物、菌死体、菌体懸濁液、菌体培養液および菌体培養上清などが挙げられる。
【0025】
オートインデューサー−2受容体を有する細菌としては、例えば、ビブリオ(Vibrio)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属細菌、エルシニア(Yersinia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、ヘモフィルス(Haemophilus)属細菌、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌、バシルス(Bacillus)属細菌、ボレリア(Borrelia)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌、デイノコックス(Deinococcus)属細菌、ミコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、シゲラ(Shigella)属細菌、エロモナス(Aeromonas)属細菌、エイケネラ(Eikenella)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、アクチノマイセス(Actinomyces)属細菌、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌、カプノサイトファガ(Capnocytophaga)属細菌、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌、ハロバチルス(Halobacillus)属細菌、フゾバクテリウム(Fusobacterium)属細菌、エルウィニア(Erwinia)属細菌、エルベネラ(Elbenella)属細菌、リステリア(Listeria)属細菌、マンヘイミア(Mannheimia)属細菌、ペプトコッカス(Peptococcus)属細菌、プレボテラ(Prevotella)属細菌、プロテウス(Proteus)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌およびベイロネラ(Veillonella)属細菌などが挙げられる。より具体的には、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)、シュードモナス・ホスホレウム(Pseudomonas phosphoreum)、ポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgfdorferi)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、ペスト菌(Yersinia pestis)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、デイノコックス・ラジオデュランス(Deinococcus radiodurans)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、箕田赤痢菌(Shigella flexneri)、シゲラ・ボイデイ(Shigella boydii)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・クブチリス(Bacillus cubtilis)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、チフス菌(Salmonella enterica)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、スタフィロコッカス・ハエモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトコッカス・サンギニス(Streptococcus sanguinis)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosus)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、ストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ビブリオ・ブルニフィカス(Vivrio vulnificus)、ビブリオ・ミミクス(Vibrio mimicus)、ビブリオ・アングイラルム(Vibrio anguillarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、エルウィニア・アミロボラ(Erwinia amylovora)、エルウィニア・カロトバラ(Erwinia carotovara)、ハロバチルス・ハロフィラス(Halabacilus halophilus)、セラチア・ピムチカ(Serratia pymuthica)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)、バクテロイデス・ディスタソニス(Bacteroides distasonis)、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、アエロモナス・ハイドロフィリア(Aeromonas hydrophilia)、マンヘイミア・ハエモライティカ(Mannhemia haemolytica)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、アクチノマイセス・ナエスランディ(Actinomyces naeslundii)、ペプトコッカス・アナエロビウス(Peptococcus anaerobius)、フゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ベイロネラ・パルラ(Veillonella parvula)、カプノサイトファガ・スプティゲナ(Capnocytophaga sputigena)、プレボテラ・インタメディア(Prevotella intermedia)およびフォトバクテリウム・ホスホレウム(Photobacterium phosphoreum)などが挙げられる。
【0026】
オートインデューサー−2受容体およびルシフェラーゼを有する細菌として、ビブリオ・ハーベイ、ビブリオ・フィシェリおよびフォトバクテリウム・ホスホレウムが好ましく用いられる。
【0027】
本発明の方法に使用するレポーター細菌は、遺伝子組換え技術により作製された細菌でもよい。例えば、オートインデューサー−2受容体遺伝子および/またはルシフェラーゼ遺伝子を宿主細菌に導入することにより得られる組換え細菌を用いることができる。組換え細菌としては、オートインデューサー−2受容体を有する宿主細菌にルシフェラーゼ遺伝子を導入したもの、ルシフェラーゼを有する宿主細菌にオートインデューサー−2受容体遺伝子を導入したもの、オートインデューサー−2受容体遺伝子およびルシフェラーゼ遺伝子の双方を導入したものが挙げられる。このような組換え細菌は、上記遺伝子を適当なベクターに連結し、得られた組換えベクターを当該遺伝子が発現し得るように宿主細菌中に導入することにより得ることができる。
【0028】
細菌ゲノムから所望の遺伝子を得る方法は、分子生物学の分野において周知である。例えば遺伝子の配列が既知の場合、制限エンドヌクレアーゼ消化により適したゲノムライブラリを作り、所望の遺伝子配列に相補的なプローブを用いてスクリーニングすることができる。配列が単離されたら、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような標準的増幅法を用いてDNAを増幅し、形質転換に適した量のDNAを得ることができる。
【0029】
遺伝子を導入するためのベクターは、宿主細胞で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミドDNA、ファージDNA、コスミドDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、例えばpBR322、pSC101、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pACYC117、pBluescript II SK(+)、pETDuet−1、pACYCDuet−1等が挙げられ、ファージDNAとしては、例えばλgt10、Charon 4A、EMBL−、M13mp18、M13mp19等が挙げられる。宿主としては、目的とする遺伝子を発現できるものであれば特に限定されないが、一般にグラム陰性細菌が好ましく、例えば、ビブリオ属細菌(ビブリオ・ハーベイ、ビブリオ・フィシェリなど)、エシェリキア属細菌(大腸菌など)などが挙げられる。
【0030】
オートインデューサー−2受容体としては、例えば、LuxPやLsrが挙げられ、LuxP遺伝子の塩基配列は、例えば、公開されたデータベース(GenBank、EMBL、DDBJ)において、アクセションNo:NC_009654、NZ_AAWP01000010、NZ_AAWQ01000010、NZ_AAWG01000046、NZ_AAWF01000001、NZ_AAWE01000001、NZ_AAWD01000069、NZ_AAUU01000006、NZ_AAUS01000001、NZ_AAUR01000051、CP000749、DS265228、DS265359、AAWQ01000010、AAWF01000001、AAWP01000010、AAWG01000046、NC_009456、BA000032、CP000626、AE003853、AAWE01000001、AAWD01000069、DS179735、DS179611、AAUU01000006、AAUS01000001、AAUR01000051、NZ_AAKJ02000001、AAKJ02000001、NZ_AAUT01000001、AAUT01000001、AB086408、AB086229、DQ775944、NZ_AAPS01000004、AAPS01000004、NC_006840、AB113244、NZ_AANE01000009、AANE01000009、NZ_AANE01000021、AANE01000021、NC_004605、AY962288、CP000020、VHU07069、X54690として登録されている。Lsr遺伝子についても、NC_000913、U00096、NC_005126などで登録されている。ルシフェラーゼ遺伝子としては、例えば、ホタルなどの昆虫、発光性海洋細菌などの発光細菌、海洋性甲虫類および藻類などの生物に由来するルシフェラーゼ遺伝子が挙げられる。
【0031】
また、オートインデューサー−1受容体を有しない細菌を作製するために、オートインデューサー−1受容体遺伝子をノックアウトした組換え細菌を作製してもよい。オートインデューサー−1受容体遺伝子をノックアウトした組換え細菌とは、オートインデューサー−1受容体遺伝子が破壊されて発現できないような状況にある細菌を意味する。遺伝子をノックアウトする方法としては、標的遺伝子の任意の位置で相同組換えを起こすベクター(ターゲティングベクター)を用いて当該遺伝子を破壊する方法(ジーンターゲティング法)や、標的遺伝子の任意の位置にトラップベクター(プロモーターを持たないレポーター遺伝子)を挿入して当該遺伝子を破壊しその機能を失わせる方法などがある。
【0032】
本発明の方法に好適な組換え細菌として、オートインデューサー−2にのみ応答して発光することのできるビブリオ・ハーベイの株(BB170株およびMM32株)を好ましく用いることができる(Bassler et al, Mol.Microbiol.9:773-786, 1993、Bassler et al, Mol.Microbiol.13:273-286,1994)。
【0033】
本発明者らは、HMFによるレポーター細菌の発光強度とオートインデューサー−2(特に、4,5−ジヒドロキシ−2,3−ペンタンジオン)による細菌の発光強度とが高い相関関係を有することを見出した。本発明の方法は、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とレポーター細菌の発光強度との相関を示す検量線を作成し、該検量線に基づいてオートインデューサー−2を定量するものである。
【0034】
より具体的には、本発明の定量方法は、以下のa)〜c):
a)既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンと、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定し、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度と発光強度との相関を示す検量線を作成する工程、
b)被検試料と、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定する工程、および
c)bの工程で得られた測定値から、aの工程で得られた検量線に基づき、オートインデューサー−2を定量する工程
を含む。
【0035】
標準試料である4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンまたは被検試料と、レポーター細菌またはその処理物とを接触させることには、標準試料または被検試料の存在下、レポーター細菌を培養することも包含される。その場合、レポーター細菌の培養条件は、特に制限されないが、通常、振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜37℃で、好ましくは1〜10時間、好ましくは2〜6時間培養を行う。培養後の発光強度の測定は、例えば、培養液、培養上清、菌体破砕物、菌体懸濁液、菌体抽出物の発光強度を測定することにより実施することができる。
【0036】
被検試料としては、特に限定されないが、動物(カビ、放射菌等の微生物を含む)および植物の抽出物、化合物、ならびに人工合成物が挙げられる。
【0037】
4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度と発光強度との相関を示す検量線は、様々な濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンとレポーター細菌とを接触させて発光強度を測定し、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度に対して測定された発光強度をプロットすることにより作成する。発光強度の測定は、当技術分野で通常用いられる測定器、例えばケミルミネッセンス計を用いて実施できる。
【0038】
cの工程におけるオートインデューサー−2の定量は、aの工程で得られた検量線(一次検量線と称する)、ならびに同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線(二次検量線と称する)の2つの検量線を用いて実施できる。すなわち、bの工程で被検試料について測定された発光強度を、一次検量線に基づいていったんHMF濃度に換算し、さらに二次検量線に基づいてHMF濃度をオートインデューサー−2濃度に換算する。
【0039】
二次検量線において、HMFによる発光強度とオートインデューサー−2による発光強度は、HMF濃度で0.01〜10μM、DPD濃度で0.01〜0.1μMの範囲で特に良好な相関を示すことから、本発明の方法は、0.01〜0.1μMの濃度範囲のオートインデューサー−2およびそれに相当するオートインデューサー−2活性の定量に特に好適に用いられる。
【0040】
本発明の方法では、被検試料とレポーター細菌またはその処理物とを接触させる前に、被検試料に含まれる夾雑物を除去することが好ましい。夾雑物の除去方法は特に制限されないが、オートインデューサー−2は低分子であることから、高分子夾雑物を除去し低分子の精製度を向上する方法を利用するのが好ましい。従って、夾雑物の除去は、濾過によって実施するのが好ましく、例えば、限外濾過および精密濾過などにより実施することができる。本発明においては限外濾過により夾雑物を除去することが好ましく、限外濾過膜としては、分画分子量(分子量カットオフ値)が通常3000以下、好ましくは1000以下のものを用いる。低カットオフ値の場合、分画時間に影響が出るため作業性を考慮して決定すればよい。予め夾雑物を除去することにより、測定試料におけるオートインデューサー−2の純度が高まり、より高精度なオートインデューサー−2の定量が可能になる。
【0041】
本発明の方法では、被検試料を吸着性の低い容器で調製および/または保存することが好ましい。また、検量線の作成も吸着性の低い容器を用いて実施することが好ましい。本発明における吸着性の低い容器とはAI−2および/またはHMFの作用に対する減弱作用が少ないものを意味する。このような容器であれば、容器の素材や表面処理方法は特に限定されない。吸着性の低い容器としては、ガラス容器、金属容器、フッ素化合物により表面処理した容器、シリコナイズしたプラスチック容器などが挙げられ、特にガラス容器を用いることが好ましい。
【0042】
一般に生化学の実験ではガラス容器の方がタンパク質など様々な物質の吸着が懸念されることから、ディスポーザルチューブなどはプラスチック容器が用いられるが、オートインデューサー−2の定量においては、ガラス容器の方がプラスチック容器に比べてオートインデューサー−2およびHMFの吸着を抑制することが明らかとなった。ガラス容器はHMFの吸着を抑制することから、検量線の作成をガラス容器で実施することにより、1μM以下、さらには0.1μM以下の濃度でもバイオアッセイにおいてHMFを検出することができ、HMF濃度と発光強度との相関を示す検量線、ならびに同じ発光強度を示すHMF濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線を、HMF濃度1μM以下、さらには0.1μM以下という低濃度範囲でも正確に作成することができる。さらに、ガラス容器は、オートインデューサー−2の吸着を抑制することから、被検試料をガラス容器で調製およびまたは保存することにより低濃度のオートインデューサー−2を検出し、定量することができる。
【0043】
ガラス容器としては、通常用いられるものを使用でき、例えば、ガラス、石英ガラス、溶融石英、合成石英、アルミナ、サファイア、セラミクス、フォルステライトおよび感光性ガラス等のガラス材料製の容器を使用することができる。
【0044】
オートインデューサー−2の測定は、レポーター細菌の種類、培地の種類、pHおよび温度といった条件によって測定値が変動するバイオアッセイを利用するため、これまでオートインデューサー−2の測定は相対値としてしか測定することができなかった。しかし、本発明においては入手容易な標準試料を用いることにより、オートインデューサー−2濃度およびオートインデューサー−2活性を絶対値として測定することができる。従って、本発明の方法により、異なる条件下で測定された発光強度から求められる値を絶対値として比較することが可能になる。また、対照試料を繰り返し測定する手間を省くこともできる。
【0045】
本発明のオートインデューサー−2の定量方法により、オートインデューサー−2濃度の定量、ならびにオートインデューサー−2活性の定量が可能になる。従って、既知濃度のオートインデューサー−2およびオートインデューサー−2調節剤と、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定することにより、すなわち、上記bの工程において、既知量のオートインデューサー−2を含む試料にオートインデューサー−2調節剤を加えた被検試料とレポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定することにより、オートインデューサー−2調節剤のオートインデューサー−2調節活性を定量することもできる。
【0046】
オートインデューサー−2調節剤は、オートインデューサー−2活性を調節する活性を有する物質をさし、オートインデューサー−2活性を阻害するオートインデューサー−2阻害剤およびオートインデューサー−2活性を促進するオートインデューサー−2促進剤を包含する。
【0047】
また、既知濃度のオートインデューサー−2および被検物質と、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定することにより、すなわち、上記bの工程において、既知量のオートインデューサー−2を含む試料に被検物質を加えた被検試料とレポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定することにより、オートインデューサー−2調節剤をスクリーニングすることもできる。当該スクリーニング方法においては、被検物質のオートインデューサー−2調節活性を合わせて定量することができる。
【0048】
本発明はまた、オートインデューサー−2を定量するためのキットおよびオートインデューサー−2調節剤をスクリーニングするためのキットに関する。本発明のキットは、既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを含む標準試料、オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物、および同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線を含む。さらに本発明のキットは、試料を調製および保存するための容器、好ましくはガラス容器、検量線の作成に使用するための容器、好ましくはガラス容器、濾過膜、バッファー、試料希釈液等を含みうる。オートインデューサー−2調節剤をスクリーニングするためのキットは、陽性対照として、既知のオートインデューサー−2調節剤、例えば、既知のオートインデューサー−2阻害剤およびオートインデューサー−2促進剤を含んでいてもよい。既知のオートインデューサー−2阻害剤としては、例えば、3−フェニルー2−プロペナール、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−メトキシ−2,4−ジフェニル−3(2H)−フラノン、5−メチル−2−エチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンおよび2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノンなどが挙げられる。
【0049】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)検量線の作成
ビブリオ・ハーベイBB170株(ATCCより購入、30℃、好気条件下にてマリン培地(ディフコ)で培養)をオートインデューサー−2(AI−2)レポーター細菌とし、最終濃度として0.001〜1000μMになるようにHMF標品(SIGMA)およびDPD標品(OMM Scientificに合成検討を依頼し、同社で合成したものを購入した)を添加した。AI−2活性の指標である発光強度をKeersmaecker S.C.J. et al., J. Biol. Chem., 280(20), 19563-19568, 2005と同様に測定した。すなわち、ビブリオ・ハーベイBB170株をAB培地(Bassler et al, Mol. Microbiol. 9: 773-786, 1993参照)にて終濃度が5000倍希釈になるように調製し、レポーター細菌液:標品の容量比が9:1になるように混合し、30℃にて好気振盪培養し、4時間後の発光強度をケミルミネッセンス計(ベルトールド、Mitharas LB940、化学発光を検出)で測定した。HMF標品およびDPD標品の濃度と発光強度との相関を図1に示す。HMF標品およびDPD標品はガラス容器で調製した。図1の結果から、同じ発光強度を示すHMF濃度とDPD濃度との相関をとることにより作成した検量線を図2に示した。
【0051】
図2から、HMF濃度とDPD濃度は発光強度を介して高い相関係数を有していることがわかる。従って、被検試料と共存させたときレポーター細菌の発光強度を、HMFを標準試料として作成した検量線に基づいてHMF濃度に換算することにより、最終的にはDPD濃度を定量することが可能となることが示された。
【0052】
(実施例2)試料調製用および試料保存用容器の検討
ビブリオ・ハーベイBB170株の培養上清を粗精製したものを試料として、一般実験用のプラスチック容器またはガラス容器に入れ、1〜3回連続してそれぞれ新しい容器に移し替えた。移し替えるたびに、試料中のレポーター細菌の発光強度をAI−2活性の指標として、実施例1と同様に測定した。容器を移し移し替える前の試料における発光強度を100として相対値で示した(図3)。
【0053】
プラスチック容器に入れた試料におけるAI−2活性が移し替えによって著しく低下する一方、ガラス容器に入れた試料におけるAI−2活性は移し替えによって変化しなかった。
【0054】
一般に生化学の実験ではガラス容器の方がタンパク質など様々な物質の吸着が懸念されることから、ディスポーザルチューブなどはプラスチック容器が用いられているが、AI−2の定量においては、ガラス容器の方がプラスチック容器に比べてAI−2の吸着を抑制すること、従ってAI−2の定量にはガラス容器が適していることが示された。
【0055】
(実施例3)被検試料の前処理
ヒト舌苔を市販の舌ブラシによりかきとりPBSによる遠心洗浄(3000rpm,10分,4℃)したものを被検試料とした。1.5ml PBSに舌苔を再懸濁した後、超音波破砕(Branson、Sonifier150、氷冷下1分×5回)および遠心処理(4℃、15000rpm、10分)に付し、粗抽出液を得た。更に粗抽出液を限外濾過(分子量カットオフ値5000、3000、1000)(ミリポア、Microcon)に供し、各限外濾過溶液のAI−2活性を、レポーター細菌の発光強度を指標として、実施例1と同様に測定した。結果を図4に示す。
【0056】
限外濾過のカットオフ値が小さくなるにつれてAI−2活性が上昇することから、高分子夾雑物の除去などにより低分子であるDPD(分子量132.11)の精製度が向上し被検試料中のAI−2の定量が適正に行われると考えられる。
【0057】
(実施例4)AI−2活性阻害剤の評価
ビブリオ・ハーベイBB170株と任意濃度に調製したシンナムアルデヒド標品(3−フェニル−2−プロペナール)(SIGMA)とをプレインキュベートした後、DPDを終濃度10μMになるように添加した。AI−2活性を、レポーター細菌の発光強度を指標として、実施例1で作成した検量線を用いて定量した。すなわち、DPDが何μM存在するときのAI−2活性に該当するかを測定した(図5)。
【0058】
シンナムアルデヒドはAI−2阻害活性を有する化合物として知られているが(Niu C. et al., Lett. Appl. Microbiol., 43(5), 489-494, 2006)、本発明の方法により、そのAI−2阻害活性を定量的に測定できることが示された。従って、本発明により、被検物質のAI−2阻害活性の強度を含めて、定量的かつ精緻なAI−2阻害物質のスクリーニングが可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】HMF標品およびDPD標品の濃度と発光強度との相関を示す。
【図2】図1の結果から、同じ発光強度を示すHMF濃度とDPD濃度との相関をとることにより作成した検量線を示す。
【図3】ビブリオ・ハーベイBB170株の培養上清を粗精製したものを試料として、プラスチック容器またはガラス容器に入れ、新しい容器に移し替えるたびに、試料中のレポーター細菌の発光強度を測定した結果を示す。
【図4】舌苔検体の粗抽出液を限外濾過(分子量カットオフ値5000、3000、1000)に供し、各限外濾過溶液のAI−2活性を、レポーター細菌の発光強度を指標として測定した結果を示す。
【図5】ビブリオ・ハーベイBB170株とシンナムアルデヒド標品とをプレインキュベートした後、DPDを添加し、AI−2活性を、実施例1で作成した検量線を用いて定量した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料におけるオートインデューサー−2の定量方法であって、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として検量線を作成することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
定量方法がオートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物の発光強度を測定するバイオアッセイである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物の発光強度を測定するバイオアッセイにおいて、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを標準試料として4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度と発光強度との相関を示す検量線を作成する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
レポーター細菌が、オートインデューサー−2受容体およびルシフェラーゼを有する細菌である請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
レポーター細菌がビブリオ・ハーベイである、請求項2〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
a)既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンと、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定し、4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度と発光強度との相関を示す検量線を作成する工程、
b)被検試料と、レポーター細菌またはその処理物とを接触させて発光強度を測定する工程、および
c)bの工程で得られた測定値から、aの工程で得られた検量線に基づき、オートインデューサー−2を定量する工程
を含む、請求項2〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
c)の工程において、aの工程で得られた検量線、ならびに同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線の2つの検量線を用いてオートインデューサー−2を定量する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
被検試料から夾雑物を除去する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
被検試料を吸着性の低い容器を用いて調製および/または保存する、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
被検試料をガラス容器を用いて調製および/または保存する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
検量線の作成を吸着性の低い容器を用いて実施する、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
検量線の作成をガラス容器を用いて実施する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の方法によってオートインデューサー−2を定量することを含む、オートインデューサー−2調節剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを含む標準試料、オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物、および同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線を含む、オートインデューサー−2を定量するためのキット。
【請求項15】
既知濃度の4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノンを含む標準試料、オートインデューサー−2を認識して発光するレポーター細菌またはその処理物、および同じ発光強度を示す4−ヒドロキシ−5−メチル−3(2H)−フラノン濃度とオートインデューサー−2濃度との相関を示す検量線を含む、オートインデューサー−2調節剤をスクリーニングするためのキット。
【請求項16】
吸着性の低い容器をさらに含む、請求項14または15記載のキット。
【請求項17】
吸着性の低い容器がガラス容器である、請求項16記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−115791(P2009−115791A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269049(P2008−269049)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】