説明

オートタキシンアイソフォーム特異的抗体および検出方法

【課題】オートタキシンの測定方法であって、特定のアイソフォームの有無を検出可能な測定方法を提供すること。
【解決手段】オートタキシンを認識する抗体であって、Val−Glu−Pro−Lysからなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを特異的に認識する抗体、および前記抗体を用いたオートタキシンの測定方法および測定試薬により前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオートタキシンのアイソフォームを特異的に検出する抗体および前記抗体を用いたオートタキシンのアイソフォームの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトオートタキシンは、1992年M.L.StrackeらによってA2058ヒト黒色腫細胞培養培地から細胞運動性を惹起する物質として単離された分子量約125KDaの糖タンパク質である(非特許文献1)。オートタキシンはそのリゾホスホリパーゼD活性によりリゾホスファチジルコリンを基質とし、リゾホスファチジン酸(LPA)を産生する。生体内ではLPAが癌の増殖、転移に関与していることが多くの研究者により示され(非特許文献2から4)、その産生酵素であるオートタキシンと様々な疾病との因果関係が研究されている。最近になり、ヒトオートタキシンを定量する手法が確立されていることから(特許文献1および非特許文献5)、様々な疾患の診断マーカーとして期待されている。
【0003】
オートタキシンはそのLPA産生能から癌あるいは癌転移との関連が注目されており、これまでも多くの研究がなされている。1992年に癌との関連を示した特許が開示(特許文献2および3)された後、ヒトテラトカルシノーマ(非特許文献6)、肺の非小細胞癌(非特許文献7)、甲状腺癌(非特許文献8)、乳癌(非特許文献9)、多型膠芽腫(非特許文献10および11)、前立腺癌(非特許文献12)、ホジキンリンパ腫(非特許文献13)等多種多様な癌においてオートタキシンの関与が報告されている。しかしながら、前述した報告はいずれも臓器における発現報告である。
【0004】
一方、体液中のオートタキシン濃度の上昇に関する報告は、卵巣癌患者血清で差が認められない報告(非特許文献14)や、前立腺癌患者血清で差が認められない報告(非特許文献15)等、否定的な報告が多い。これらの結果から、健常者における血清オートタキシン濃度は比較的高く、癌細胞がオートタキシンを産生しても血清濃度を上昇変動させるに至るほどではないことを示唆している。肯定的な報告として、卵巣癌患者腹水中でオートタキシン濃度の上昇が示された報告や、悪性腫瘍のうち血液中に癌細胞が存在する悪性リンパ腫において血清オートタキシン濃度が高値を示す報告(特許文献4、非特許文献16)があるが、体液中のオートタキシン濃度の上昇は極めて限定された癌のみといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/016186号
【特許文献2】米国公開2006/0275865号公報
【特許文献3】加国登録2128215号公報
【特許文献4】特開2011−037802号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Biol.Chem.、256、2524−2529、1992
【非特許文献2】Nat.Rev.Cancer、3、582−591、2003
【非特許文献3】Int.J.Cancer、10.109、833−838、2004
【非特許文献4】Blood、106、2138−2146、2005
【非特許文献5】Clin.Chim.Acta、388、51−58、2008
【非特許文献6】Biochem.Biophys.Res.Commun.、218、714、1996
【非特許文献7】Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.、21216、1999
【非特許文献8】Int.J.Cancer、109、833、2004
【非特許文献9】Clin.Exp.Metastasis、19、603、2002
【非特許文献10】Neoplasia、7、7、2005
【非特許文献11】J.Biol.Chem.、281、17492、2006
【非特許文献12】J.Cell Physiol.、210、111、2007
【非特許文献13】Blood、106、2138、2005
【非特許文献14】Life Sci.,80,1641,2007
【非特許文献15】Ann.Clin.Biochem.、44、549、2007
【非特許文献16】Brit.J.Haematol、143、60、2008
【非特許文献17】J.Biol.Chem.、283、7776、2008
【非特許文献18】Dev.Dynamics、239、2647、2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
オートタキシンにはいくつかのアイソフォーム(isoform、構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質)があることが知られており、一例としてスプライシングバリアント(α、β、γ)が遺伝子として同定されている(非特許文献17)。一方、鶏のオートタキシンには、cATX−SおよびcATX−Lのアイソフォームが同定されており、このうちcATX−LはリゾホスホリパーゼD活性も哺乳動物と同等に有しているため、哺乳動物のオートタキシンと同等の作用、機能を有していると考えられる(非特許文献18)。cATX−Lとヒトオートタキシンとのアミノ酸配列の相同性を確認した結果、cATX−LはVal−Glu−Pro−Lys(配列番号1)が欠損していることが明らかとなっている。cATX−Lと同様の欠損アイソフォームは、ヒトオートタキシンにおいても存在することが示唆されている。しかしながら、これまで前記欠損アイソフォームは、タンパク質としての存在が証明されていなかった。
【0008】
オートタキシン測定に関しては、特許文献1にて、ヒト血清等ヒト検体中のオートタキシン濃度を簡便、短時間、かつ信頼性高く定量可能な方法が開示されており、その方法により各種疾患の診断が可能となっている。しかしながら、特許文献1の方法は、ヒトオートタキシン全量を定量する方法であり、オートタキシンのアイソフォームを特異的に検出するのは困難である。
【0009】
そこで本発明は、オートタキシンの測定方法であって、特定のアイソフォームの有無を検出可能な測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の態様を包含する:
(1)オートタキシンを認識する抗体であって、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを認識し、配列番号1からなるアミノ酸配列を含まないオートタキシンを認識しない抗体。
(2)前記抗体がモノクローナル抗体である(1)に記載の抗体。
(3)前記オートタキシンがヒトオートタキシンである、(1)または(2)に記載の抗体。
(4)前記モノクローナル抗体が、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有した抗体である、(2)または(3)に記載の抗体。
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の抗体を用いて、配列番号1からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを測定する方法。
(6)(1)から(4)のいずれかに記載の抗体と、オートタキシンのアミノ酸配列のうち配列番号1からなるアミノ酸配列以外の領域のアミノ酸配列を認識する抗体と、を用いて、サンドイッチイムノアッセイにより、配列番号1からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを測定する方法。
(7)(1)から(4)のいずれかに記載の抗体と、オートタキシンのアミノ酸配列のうち配列番号1からなるアミノ酸配列以外の領域のアミノ酸配列を認識する抗体と、を含む、サンドイッチイムノアッセイによりオートタキシンを測定する試薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、オートタキシンを含む試料中から、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシン(ATXwt)を特異的に検出する抗体を提供する。また、前記抗体を用いた、簡便かつ短時間にATXwtを定量可能な測定方法および測定試薬も提供する。
【0012】
これまで行なわれてきたオートタキシンの測定は、配列番号1からなるアミノ酸配列の有無にかかわらず、オートタキシン全量を定量しており(特許文献1)、その値から臨床的有用性を評価してきたが、本発明の測定方法および測定試薬により、その有用性をより明確にできる可能性を有している。また、本発明の測定方法を用いて、これまで明らかにされていない各種疾患との関連性を検証することで、オートタキシンによる新たな疾患の診断等も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】各オートタキシンアイソフォーム(ATXwt、ATXδ)に対する各種抗体(ATXR4+4、R1.1A9)のウエスタンブロッティングでの反応性を示した図。
【図2】ATXR4+4抗体によるATXwtの溶液中での捕捉性能の結果を示した図。バックグラウンドはATXR4+4抗体を使用せず、他の操作は同様に実施した場合のATXwt濃度を示す。
【図3】健常者ヒト血清をATXR4+4結合カラムおよびR10.23結合カラムに順次通し、健常者ヒト血清中のオートタキシンをアフィニティー吸着して得られた画分について、各種抗体(ATXR4+4、R1.1A9)でウエスタンブロッティングした結果を示した図。AとBとの違いは、使用した健常者ヒト血清の違いである。
【図4】ATXwt特異的測定試薬の検量線を示した図。縦軸は測定値(nM/sec)の対数値を、横軸は濃度(mg/L)の対数値を、それぞれ示し、オートタキシン非含有試料は、オートタキシン濃度0.01mg/Lの試料として作成している。
【図5】本発明の測定試薬の実効検出感度を算出するのに用いた図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の抗体は、オートタキシンのアミノ酸配列のうち、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシン(以下、ATXwtと略す)を特異的に認識することを特徴としている。血液中に存在する自然状態のATXwtを検出するためには、前記自然状態のATXwt立体構造を認識する抗体が必要であるが、本発明の抗体は、前記自然状態のATXwtとの結合能を有する。そのため、本発明の抗体は、血清からのATXwtの吸収や酵素免疫測定法(エンザイムイムノアッセイ)などによる血清診断にも用いることができる。
【0015】
本発明の抗ATXwt抗体は、動物を免疫化して得た血清から精製されたポリクローナル抗体であってもよいし、又はモノクローナル抗体のいずれであってもよく、好ましくはモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産される抗体、抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組み換え抗体、それらの抗体断片などを挙げることができる。抗体断片としては、ATXwtに対して特異的結合性を示す抗体断片であるFab、Fab’、F(ab')2、一本鎖抗体(scFv)、二量化V領域断片(diabody)などが挙げられる。
【0016】
本発明の抗体は、配列番号1からなるアミノ酸配列を含む合成ペプチドをマウス、ラット、ウサギ等の動物に免疫することにより取得することができる。前記合成ペプチドの一例として、ヒトオートタキシン(GenBank No.AAB00855.1、配列番号4)の569番目から586番目までのアミノ酸からなるオリゴペプチド(配列番号5)があげられる。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列(配列番号5に記載のアミノ酸配列のうち、5番目のバリンから8番目のリジンまでのアミノ酸)を維持する限り、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドから、1アミノ酸から数アミノ酸の付加および/または欠損および/または他のアミノ酸への置換が生じてもよい。
【0017】
本発明の抗体の具体例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有した抗体があげられる。なお、前記重鎖可変領域および/または前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、ATXwtへの特異的認識能を有する限り、1アミノ酸から数アミノ酸の付加および/または欠損および/または他のアミノ酸への置換が生じてもよい。ATXwtへの特異的認識能を維持する観点から、1又は数アミノ酸の付加、欠損及び/又は置換は、相補性決定領域(CDR)ではなく、フレームワーク領域(FR)に生じることが好ましいが、CDRに生じる場合もある。
【0018】
本発明のATXwt認識抗体を用いた、オートタキシンの測定方法は、前処理等をする必要とすることなく、ATXwtを特異的に検出可能な方法である。本発明の測定方法の具体例として、ウエスタンブロッティング、組織染色など一般的な免疫学的手法があげられる。また、本発明のATXwt認識抗体と、オートタキシンのアミノ酸配列のうち配列番号1からなるアミノ酸配列以外の領域のアミノ酸配列を認識する抗体とを組み合わせた、オートタキシン測定試薬を用いることで、ATXwtをサンドイッチイムノアッセイにより特異的に検出することができる。
【0019】
本明細書において「特異的抗体」とは、目的の抗原以外には実質的に結合しないことをいう。すなわち、「Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを特異的に認識する抗体」とは、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンに結合するものの、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含まないオートタキシン欠損アイソフォームに対しては結合しないか、又はVal−Glu−Pro−Lys欠損オートタキシンアイソフォームに比べて、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンへの結合性が、100倍以上、好ましくは1000倍以上、更に好ましくは10000倍以上である抗オートタキシン抗体のことをいう。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示すが、本発明は実施例に記載された例に限られるものではない。なお、以下の実施例で使用したヒト検体は、インフォームドコンセントのもと採血された検体を用い実施した。
【0021】
実施例1 抗原ペプチドの調製
(1)ヒトオートタキシン(GenBank No.AAB00855.1、配列番号4)の569番目から586番目までのアミノ酸からなるオリゴペプチド(Cys−Asp−Asp−Lys−Val−Glu−Pro−Lys−Asn−Lys−Leu−Asp−Glu−Leu−Asn−Lys−Arg−Leu、配列番号5)を定法に従い合成した。
(2)合成したペプチドを、Imject Keyhole Limpet Hemocyanin(PIERCE社;品番77153)を用い、プロトコールに従って、コンジュゲーションすることで免疫抗原を作製した。
(3)配列番号5からなるオリゴペプチド、および配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるオリゴペプチドのうち、5番目のバリンから8番目のリジンまでのアミノ酸(すなわち、配列番号1からなるアミノ酸配列)を欠損させたオリゴペプチド(Cys−Asp−Asp−Lys−Asn−Lys−Leu−Asp−Glu−Leu−Asn−Lys−Arg−Leu、配列番号6)を、Imject Bovine serum albumin(PIERCE社;品番77171)を用い、プロトコールに従って、コンジュゲーションすることでペプチド−BSA(Bovine serum albumin)を作製し、これをスクリーニング用抗原とした。
【0022】
実施例2 スクリーニング用組み換え抗原の調製
組み換え抗原への反応性確認のため、特許文献1に記載の方法に従い、スクリーニング用組み換え抗原を調製した。具体的な方法を以下に示す。
(1)Autotaxin−t(Genbank No.L46720)のうち、60番目から2648番目までのヌクレオチドからなるcDNA(配列番号7)をバキュロウイルス用トランスファーベクターpFASTBac−HT(インビトロジェン)に導入し、プロトコールに従い、ポリヒスチジンを付加した、配列番号1からなるアミノ酸配列を含むオートタキシン(ATXwt)発現用バキュロウイルスプラスミドを調製した。
(2)ポリヒスチジンを付加した、配列番号1からなるアミノ酸配列を含まないオートタキシン(ATXδ)発現用プラスミドとして、(1)で作製したプラスミドを鋳型として、KOD−Plus−Mutagenesis Kit(東洋紡績)を用いて、配列番号7からなるポリヌクレオチドのうち1717番目から1728番目のヌクレオチド(GenBank No.L46720の1776番目から1787番目までのヌクレオチドに相当)を欠損したポリヌクレオチド(配列番号8)を含むプラスミドを調製した。
(3)(1)および(2)で作製したプラスミドを用い、Bac−to−Bacシステム(インビトロジェン)にて組み換えバキュロウイルスを調製した。
(4)(3)で調製したバキュロウイルスを用いて、常法に従い、sf9昆虫細胞に感染させることにより、ATXwtまたはATXδを含む発現培養上清を調製した。
(5)発現タンパク質の精製を特許文献4に従い実施した。具体的には以下に示す方法で実施した。
(5−1)抗オートタキシンモノクローナル抗体R10.7(特許文献1)をHiTrap NHS−activated HPカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)に結合させ、ATXwtまたはATXδ発現培養上清を前記カラムにロードした。
(5−2)TBS(10mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH7.4)で十分洗浄を行なった。
(5−3)100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)により結合したATXwtまたはATXδを溶出した。
【0023】
実施例3 モノクローナル抗体の作製
(1)WKYラット7週齢メスに対し、抗原250μgをフロイント完全アジュバント(DIFCO)と共に、エーテル麻酔下で後足に免疫を行なった。
(2)1カ月後、ラットより鼠頚リンパ節および腸骨リンパ節を採取し、B細胞を回収した。
(3)マウスミエローマ細胞株PAIとポリエチレングリコール存在下、常法に従い、細胞融合を行ない、約10日間のHAT培地による選択を行なった。
(4)実施例1で作製した、スクリーニング用ペプチド−BSAコンジュゲート抗原を用いATXwtと反応性を示し、かつATXδと反応性を示さないクローンを選択した。具体的には下記に示す方法で実施した。
(4−1)ペプチド−BSAコンジュゲート抗原50ng(1μg/mL溶液50μL)をTBSにより希釈し96穴イムノプレート(MaxiSorp、Nalge NUNC International、品番430341)に添加し、4℃にて一昼夜保存、コーティングした。
(4−2)続いてTBSにより3回の洗浄後、3%−BSAを含むTBS溶液を250μL/ウェルにて各ウェルに添加し、室温で2時間放置した。
(4−3)TBSにより3回洗浄を行ない、ハイブリドーマ細胞の培養上清を50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。
(4−4)TBST(0.05%Tween 20を含むTBS)により6回洗浄を行なった後、HRP標識抗ラットイムノグロブリン抗体(5000倍希釈、American Qualex)および1% BSAを含むTBSTを50μL/ウェルにて添加し、室温で2時間放置した。
(4−5)TBSTにより6回洗浄を行ない、続いてTMB基質(Kirkegaard & Perry Laboratories、品番:50−76−00)を50μL/ウェルで添加し室温10分放置した。
(4−6)1M リン酸にて反応を停止しOD450の吸光度を測定し、目的のクローンを選択した。
(4−7)スクリーニング陽性ウェル中の細胞を限界希釈法によりモノクローナル化を行ないハイブリドーマとして樹立した。
(5)得られたハイブリドーマを、HT培地により約10日間の培養を行った後、最終的にハイブリドーマ細胞培養用培地により培養を続けた。ハイブリドーマ細胞培養用培地は、GIT培地(大日本住友製薬)500mLに対し、NCTC−109培地(インビトロジェン)を27.5mL、不必須アミノ酸(インビトロジェン)を5.5mL、ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン酸(インビトロジェン)を5.5mLをろ過滅菌し添加したものを用いた。また、前記培地にHAT(Sigma−Aldrich、HYBRYMAX、品番:H0262)を添加したものをHAT培地として、HT(Sigma−Aldrich、HYBRYMAX,品番:H0137)を添加したものをHT培地として、それぞれ用いた。
(6)培養上清を回収し、ATXwtを特異的に認識するモノクローナル抗体ATXR4+4を回収した。
【0024】
実施例4 モノクローナル抗体ATXR4+4の遺伝子配列
実施例3にて取得したATXwt特異的モノクローナル抗体ATXR4+4の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の遺伝子配列を決定した。
(1−1)重鎖遺伝子の増幅は、RNeasy Miniキット(QIAGEN)にてtotal RNAを回収した後、One−step RT−PCRキット(QIAGEN)を使用しプロトコールに従い実施した。PCRプライマーは、
(A)5’−ctgaggttctcccactc−3’(配列番号9、GenBank No.L22652の19番目から35番目までのヌクレオチドに相当)および5’−gtcacggtgactggctca−3’(配列番号10、GenBank No.L22652の588番目から605番目までのヌクレオチドの相補鎖に相当)の組み合わせ、ならびに
(B)5’−ggagcccagtcctggac−3’(配列番号11、GenBank No.L22652の1番目から17番目までのヌクレオチドに相当)および5’−cagatggggctgttg−3’(配列番号12、GenBank No.L22652の494番目から508番目までのヌクレオチドの相補鎖に相当)の組み合わせ
を用いた。
(1−2)(1−1)で得られた2種類のPCR産物を回収し、ABI PRISM 310(アプライドバイオシステムズ)にてそれぞれシークエンスによりヌクレオチド配列を取得後、重鎖可変領域のヌクレオチド配列を決定した(配列番号15)。配列番号15の情報を基に翻訳した、重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
(2−1)軽鎖遺伝子の増幅は、重鎖と同様に回収したtotal RNAを用いOne−step RT−PCRキットを使用しプロトコールに従い実施した。PCRプライマーは、5’−tgacacagtctcca−3’(配列番号13、GenBank No.BC088255の82番目から95番目までのヌクレオチドに相当)および5’−tggatggtgggaagat−3’(配列番号14、GenBank No.BC088255の420番目から435番目までのヌクレオチドの相補鎖に相当)の組み合わせを用いた。
(2−2)(2−1)で得られたPCR産物を、重鎖と同様にシークエンスし塩基配列を決定した。なお、本方法では軽鎖可変領域全ての配列が決定できなかったため、5’−tggatggtgggaagat−3’(配列番号14、GenBank No.BC088255の420番目から435番目までのヌクレオチドの相補鎖に相当)を用い5’/3’RACEキット(ROCHE)を用い、プロトコールに従い、軽鎖可変領域のヌクレオチド配列を決定した(配列番号16)。配列番号16の情報を基に翻訳した、軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0025】
実施例5 ATXR4+4のウエスタンブロッティングによる反応性解析
実施例2に従い調製したバキュロウイルス−昆虫細胞系で発現させ、精製したATXwtおよびATXδを用い、ウエスタンブロッティングによりATXR4+4の反応性を検証した。なお、対照としてヒトオートタキシンN末端領域の大腸菌発現抗原を用い作製した抗オートタキシンモノクローナル抗体(R1.1A9、全てのオートタキシンN末端を認識する抗体)を用いた。具体的には以下に示す方法で実施した。
(1)ATXwtまたはATXδを80ng/レーンにて、還元条件下SDS−PAGE電気泳動を行なった。
(2)電気泳動後、ポリフッ化ビニリデン膜にSemidry Transblot(BIORAD)を用い常法に従い転写した。
(3)非特異的結合を回避するために、転写後の膜を3%スキムミルクを含むTBS溶液にて2時間のブロッキングを行ない、その後1μg/mLのATXR4+4抗体またはR1.1A9抗体と反応させた。
(4)TBSTによる十分な洗浄後、1 Step NBT/BCIP試薬(PIERCE)により抗体の結合を検出した。
【0026】
結果、図1に示す通り、ATXR4+4抗体は、ATXδとは反応性を示さずATXwtとのみ反応性を示す結果が得られた。一方、オートタキシンN末端を認識するモノクローナル抗体であるR1.1A9抗体は、ATXwtおよびATXδを、いずれも同程度の感度で検出した。このことより、ATXR4+4抗体はATXwtと特異的に反応するモノクローナル抗体であることが確認された。
【0027】
実施例6 天然状態ATXwtへの反応性検証
(1)天然状態ATXwtへの反応性の検証のため実施例2により調製したATXwtを、特許文献4に記載の方法でオートタキシンを吸着して除いた牛血清に添加し、ATXwtのみを含む試料を調製した。
(2)試料中のオートタキシン濃度を、特許文献1に記載のオートタキシン定量法により決定した。
(2−1)ATXR4+4抗体をNHS−Biotin(Sigma)試薬を用い常法に従いビオチン標識を施した。
(2−2)Dynabeads Streptavidin(ベリタス)懸濁液10μLに対し、10μgのビオチン標識ATXR4+4を添加した。
(2−3)10分後、TBSTにて十分洗浄した後、約0.4mg/LのATXwtを含む試料1mLを添加し、緩やかに撹拌を続けながら1時間室温にて反応させた。
(2−4)磁石にてATXR4+4抗体が結合したDynabeadsを回収し、上清中のオートタキシン濃度を測定した。なお、対照としてビオチン標識ATXR4+4抗体を添加せずDynabeadsのみで処理した同一試料の上清中のオートタキシン濃度を測定しバックグラウンド値とした。
【0028】
結果、図2に示す通り、対照であるバックグラウンド中のオートタキシン濃度が0.38mg/Lであったのに対し、ATXR4+4抗体を結合させたDynabeadsにより処理したサンプル中のオートタキシン濃度は0.31mg/Lと約20%低減し、ATXR4+4抗体は、溶液中にあるATXwtとの反応性を有していることが示された。
【0029】
実施例7 ヒト血清中のATXwtおよびATXδの検出
ヒト血清中のATXwtおよびATXδの存在検出を以下の手順にて行なった。
(1)プロトコールに従い1mL容量のHiTrap NHS−activated HP(GEヘルスケアバイオサイエンス)カラムに5mgのモノクローナル抗体を結合させたアフィニティーカラムを2種類作製した。一つは、ATX4+4モノクローナル抗体を結合させたアフィニティーカラムであり、本カラムに結合した物質にはATXwtが含まれ、本カラムの素通り画分にはATXδが含まれることが期待される。もう一つは、ATX全てに結合能を有するR10.23抗体(特許文献1および特許文献4)を結合させたアフィニティーカラムであり、本カラムの素通り画分にはATXwt、ATXδいずれも含まれないことが期待される。
(2)1.16mg/Lのオートタキシンを含む健常者ヒト血清7mLをATXR4+4結合アフィニティーカラムにロードした。なお、各試料のオートタキシン濃度は特許文献1に記載のオートタキシン定量試薬を用い、全自動エンザイムイムノアッセイ装置 AIA−1800(東ソー、製造販売届出番号:13B3X90002000002)にて定量している。
(3)素通り画分を回収する一方、カラムは十分量のTBSにて洗浄後、100mMグリシン(pH2.5)溶液でカラムに結合した物質を溶出し、溶出画分はTBSにて十分透析した後に、解析用サンプルとした。
(4)素通り画分は続いてR10.23を結合させたアフィニティーカラムにロードした。本作業により、本カラムに結合した物質には(3)の素通り画分に残存したATXδが含まれ、素通り画分にはATXwt、ATXδいずれも含まれないことが期待される。
(5)(3)と同様に、素通り画分を回収する一方、カラムは十分量のTBSにて洗浄後、100mMグリシン(pH2.5)溶液でカラムに結合した物質を溶出し、溶出画分はTBSにて十分透析後解析用サンプルとした。2種類のカラムを共に素通りした画分中のオートタキシン濃度を定量した結果、0.00mg/mLであることを確認し、ヒト血清中に存在したオートタキシン全てを2種類のカラムで結合回収できたことを確認した。
(6)ATXR4+4結合カラムに結合後に溶出した画分(以下、ATXR4+4結合画分とする)、およびR10.23結合カラムに結合後に溶出した画分(以下、R10.23結合画分とする)を、実施例5同様、電気泳動、膜への転写を実施し、ATXR4+4抗体およびR1.1A9抗体にてオートタキシンを検出した。
(7)同様の実験を、異なるヒト健常人血清についても実施した。
【0030】
結果、図3(a)および図3(b)((a)、(b)は異なる健常者血清を用いた結果それぞれを示す)に示す通り、ATXR4+4結合画分、およびR10.23結合画分には、いずれも、R1.1A9でのウエスタンブロッティングの結果によりオートオキシンが存在することが確認された。
【0031】
一方、同一試料をATXR4+4でウエスタンブロッティングした場合は、ATXR4+4結合画分とのみ反応性を示す。このことから、ATXR4+4結合カラムにはATXwtのみが結合し、R10.23結合カラムにはATXδのみが結合していることが確認できる。さらに、ヒト血清中には、ATXwtとATXδの、いずれもが存在し、その濃度に大きな差はないことも明らかとなった。
【0032】
実施例8 ATXwt特異的測定試薬の調製
特許文献1と同様の方法でATXwt特異的測定試薬の調製を行なった。具体的には以下に示す方法で実施した。
(1)水不溶性担体(内部にフェライトを練り込んだ粒子径約1.5mmのエチレンビニルアルコール製担体)に抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)を100ng/担体になるように30℃にて一昼夜物理的に吸着させ、その後1%BSAを含む100mMトリス緩衝液(pH8.0)にて40℃・4時間ブロッキングを行なうことで抗体固定化担体を調製した。
(2)抗ヒトオートタキシンモノクローナル抗体(ATXR4+4)をアルカリフォスファターゼ標識用キット−NH2(同仁化学研究所、品番:LK12)を用いてアルカリ性ホスファターゼと結合させることで標識抗体を調製した。
(3)磁力透過性の容器(容量1.2mL)に12個の抗体固定化担体を入れた後、0.7μg/mLの標識抗体を含む緩衝液(3%BSAを含むトリス緩衝液、pH8.0)50μLを容器に添加し凍結乾燥することでオートタキシン測定試薬を調製した。オートタキシン測定試薬は窒素充填下密閉封印シールを施し測定まで4℃にて保管した。
(4)既知濃度ヒトオートタキシン標準品を特許文献1に記載の方法で調製した。具体的には、下記に示す方法で実施した。
(4−1)オートタキシンモノクローナル抗体(R10.23)結合カラムを用い、牛血清中のオートタキシンを吸着させることで、オートタキシン非含有血清を調製した。
(4−2)実施例2に記載の方法で精製した組み換えATXwtを用い、オートタキシン非含有血清に適当な濃度添加することで、濃度の異なる5濃度(オートタキシン非含有血清を加えると6濃度)の標準品を作製した。標準品の濃度決定は特許文献1に記載のオートタキシン定量試薬にて決定した。
【0033】
本実施例で調製した、ATXwt特異的測定試薬について、標準品を用いて作成した検量線を図4に示す。図4の検量線は、縦軸に測定値のlog値を、横軸に各標準品のオートタキシン濃度をとり、オートタキシン非含有血清試料における測定値を0.01mg/Lでの値として代用し作成したものである。
【0034】
実施例9 ATXwt特異的測定試薬による測定(その1)
実施例8で調製した測定試薬を用い、健常者血清2種(オートタキシン濃度が低濃度の血清と中濃度の血清)、および健常者血清に、実施例2に記載の方法で精製した組み換えATXwtを添加した高濃度試料の計3種類の検体を10重測定した際のばらつき(CV(%))を検証した。表1に示す通り、いずれもCVは5%以下であり測定精度は良好であった。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例10 ATXwt特異的測定試薬による測定(その2)
実施例8で調製した測定試薬を用い、健常者血清を、実施例8(4−1)で調製したオートタキシン非含有血清を用い2倍希釈系列を調製した。前記希釈系列を5重測定し、測定値の平均とばらつき(CV(%))をプロットする(図5)ことで実効検出感度を算出した。CVが20%になる濃度を算出した結果68μg/Lとなり、実施例8で調製したATXwt特異的測定試薬がATXwtを非常に高感度に測定する試薬であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートタキシンを認識する抗体であって、Val−Glu−Pro−Lys(配列番号1)からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを特異的に認識し、配列番号1からなるアミノ酸配列を含まないオートタキシンを認識しない抗体。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記オートタキシンがヒトオートタキシンである、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体が、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有した抗体である、請求項2または3に記載の抗体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体を用いて、配列番号1からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを検出する方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体と、
オートタキシンのアミノ酸配列のうち、配列番号1からなるアミノ酸配列以外の領域のアミノ酸配列を認識する抗体と、
を用いて、サンドイッチイムノアッセイにより、配列番号1からなるアミノ酸配列を含むオートタキシンを検出する方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗体と、
オートタキシンのアミノ酸配列のうち、配列番号1からなるアミノ酸配列以外の領域のアミノ酸配列を認識する抗体と、
を含む、サンドイッチイムノアッセイによりオートタキシンを検出する試薬。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14558(P2013−14558A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150054(P2011−150054)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】