説明

オートテンショナ

【課題】オートテンショナ1の可動部材10を樹脂材料として軽量化を図りつつ、プーリ28の支持強度を確保して、ミスアラインメント角度の増大を抑制する。
【解決手段】可動部材10は、固定部材3のスピンドル5にボス部12で揺動可能に外嵌合される可動部材本体11と、基端側が可動部材本体11に一体に設けられたアーム14と、アーム14の先端側に設けられ、プーリ28を軸心方向両側で支持する1対の軸受支持部21とを備え、可動部材本体11、アーム14及び軸受支持部21が樹脂で一体に形成されている。アーム14は、一端が可動部材本体11外周面の揺動軸心O1両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部21に接続された梁材からなる1対の第1アーム部15と、一端が同揺動軸心O1両側の半部の他方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部21に接続された梁材からなる1対の第2アーム部17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートテンショナに関し、特に樹脂製のものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車エンジンのベルト式補機駆動装置において、ベルトに張力を付与する一方、その張力付与動作をダンピングすることでベルトの振動(ばたつき)を抑えて安定したトルク伝達を行わせるようにしたオートテンショナはよく知られ、広く一般に使用されている。
【0003】
このオートテンショナは、例えばエンジンに取付固定されかつ軸部(スピンドル)を有する固定部材と、この固定部材の軸部にボス部において外嵌合されて回動可能に支持され、先端部にテンションプーリが回転自在に支持されたアーム部材等の可動部材と、例えばこの可動部材のボス部周りに配置され、一端部が固定部材に、また他端部が可動部材にそれぞれ係止され、捩りトルクにより固定部材に対し可動部材をテンションプーリがベルトを押圧する方向に回動付勢する捩りコイルばねと、可動部材の揺動を減衰する減衰手段とを備えている。
【0004】
図9及び図10は可動部材としての上記アーム部材10を例示しており、このアーム部材10は、固定部材の軸部に回動可能に外嵌合されて支持されるボス部12と、このボス部12に一体に突設され、先端部にテンションプーリ28を回転自在に支持する軸受支持部21を有するアーム14とを備えている。20はアーム部材10のボス部12に形成されかつ捩りコイルばねの端部(タング)を係止するための貫通孔(又は切欠き)からなるばね係止部、Bはベルトである。
【0005】
ところで、このようなオートテンショナは自動車のエンジンルーム内で使用されることから、その高温環境下での作動信頼性の要求を満たすために、一般に鉄やアルミダイキャスト等の金属材料が用いられている。しかし、この金属材料は重く、自動車の燃費の向上という目的からみれば、このオートテンショナについても軽量化を図ることが重要である。
【0006】
そこで、従来、例えばオートテンショナの可動部材を樹脂製のものとすることが提案されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−187272号公報(特に段落0024)
【特許文献2】特開2005−076672号公報(特に請求項1)
【特許文献3】特開2004−116534号公報(特に請求項2)
【特許文献4】特開2002−106654号公報(特に請求項1)
【特許文献5】特開平07−004481号公報(特に請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これら提案例のものでは、いずれも金属材料の可動部材をそのまま樹脂材料に置き換えただけであり、この樹脂材料は軽量化の手段としては有効であるものの、ヤング率が小さくて許容応力も低いため、強度的に不十分であり、実用上の問題がある。特に、可動部材をなす樹脂のヤング率が金属材料よりも小さいことに起因して、アームにおけるプーリの支持強度や支持剛性が十分とはいえず、ベルトからの張力を受けたプーリを可動部材で支持するときのアームの捩れが大きくなり、このアームの捩れによってプーリのミスアラインメント角度が大きくなるという問題は避けられない。
【0009】
尚、可動部材の強度を確保するために、その樹脂の肉厚を増やす手段もあるが、そうすると、厚さの増加分だけ重くなり、本来の軽量化の効果が小さくなり、その目的の達成が不十分となる。
【0010】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記のようにオートテンショナの少なくとも可動部材を樹脂製とする場合に、その可動部材の構造に工夫を加えることにより、樹脂材料によって可動部材の軽量化を図りつつ、そのプーリの支持強度を確保して、ミスアラインメント角度の増大を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的の達成のため、この発明では、樹脂製アームの先端でプーリをその軸方向の片側のみで支持する片持ち構造ではなく、プーリを軸方向の両側で支持する両持ち構造とするようにした。
【0012】
具体的には、請求項1の発明では、軸部を有する固定部材と、基端が該固定部材の軸部に揺動可能に支持され、先端にベルトを押圧するプーリが基端の揺動軸心と平行な回転軸心で回転自在に支持された可動部材と、上記固定部材に対し可動部材を上記プーリがベルトを押圧する方向に回動付勢するばねと、上記可動部材の揺動を減衰する減衰手段とを備えたオートテンショナが前提である。
【0013】
そして、上記可動部材は、上記固定部材の軸部に上記揺動軸心回りに揺動可能に外嵌合されるボス部を有する可動部材本体と、基端側が該可動部材本体に一体に設けられたアームと、このアームの先端側に設けられ、上記プーリを軸心方向両側で支持する1対の軸受支持部とを備え、少なくとも上記アーム及び両軸受支持部が樹脂により一体に形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明では、上記請求項1の発明のオートテンショナにおいて、上記可動部材本体、アーム及び両軸受支持部が樹脂により一体に形成されていることを特徴とする。
【0015】
これらの請求項1及び2の発明では、可動部材がアーム、その基端側の可動部材本体、及び先端側の軸受支持部を備え、少なくともアーム及び両軸受部材が樹脂により一体に形成されたものであるので、金属材料を用いた場合に比べ可動部材の重さを軽くすることができ、オートテンショナの軽量化を図ることができる。
【0016】
また、アームの先端側には1対の軸受支持部が設けられ、これら軸受支持部間にプーリが軸心方向両側で両持ち支持されているので、そのプーリに対する支持強度や支持剛性を高くしてミスアラインメント角度を小さくすることができる。
【0017】
請求項3の発明では、上記請求項1又は2の発明のオートテンショナにおいて、上記可動部材のアームは、一端が可動部材本体外周において揺動軸心両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第1アーム部と、一端が可動部材本体外周において上記揺動軸心両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第2アーム部とを備えていることを特徴とする。尚、梁材とは、例えば断面が矩形状やその他の形状の細長いものであり、ビーム材ともいう。
【0018】
この請求項3の発明では、樹脂製可動部材の可動部材本体及び2つの軸受支持部が4本の梁状のアーム部により接続されており、この梁状のアーム部をアーム内において力の伝達経路に必要な部分のみに位置付けることで、その力の伝達に必須の部分のみをアーム部としてそれ以外の部分を除去することができ、可動部材の強度を確保しながら、それを軽量にすることができ、オートテンショナのより一層の軽量化を図ることができる。
【0019】
請求項4の発明では、上記請求項1又は2の発明のオートテンショナにおいて、請求項3の発明と同様に、樹脂製可動部材のアームは、一端が可動部材本体外周において揺動軸心両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第1アーム部を備えている。また、請求項3の発明とは異なり、可動部材は、一端が可動部材本体外周において上記揺動軸心両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端が一方の軸受支持部に接続された梁材からなる1つの第2アーム部を備え、この第2アーム部は、プーリがベルトから荷重を受けたときにアームにおいて引張り荷重が作用する側に設けられていることを特徴とする。
【0020】
この請求項4の発明でも、請求項3の発明と同様の作用効果を奏することができる。また、プーリがベルトから荷重を受けたときに、アームは引張り荷重を受ける引張り側と押圧荷重を受ける押圧側とに分かれるが、その引張り荷重は押圧荷重に比べて小さく、この相対的に小さい引張り荷重の作用する引張り側については、小さい荷重に合わせて1つの第2アーム部が設けられているので、請求項3の発明に比べ、アームの強度を確保しながら、第2アーム部の減少分によってその重さを軽くすることができ、オートテンショナをさらに軽量化することができる。
【0021】
請求項5の発明では、請求項1〜4のいずれか1つの発明のオートテンショナにおいて、アームは、各アーム部の中間部と、可動部材本体外周において軸受支持部への対向側部との間を接続する補強アーム部を備えていることを特徴とする。
【0022】
この請求項5の発明では、アームにおける各アーム部の中間部と可動部材本体の外周との間が補強アーム部により接続されているので、アームの強度を増大させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明のように、請求項1の発明では、オートテンショナの可動部材を、アームと、このアームの基端側に設けられ、固定部材の軸部に揺動可能に外嵌合されるボス部を有する可動部材本体と、アームの先端側に設けられ、プーリを軸心方向両側で両持ち支持する1対の軸受支持部とを備え、少なくともこれらアーム及び両軸受支持部を樹脂により一体に形成した。また、請求項2の発明では、可動部材本体、アーム及び両軸受支持部を樹脂により一体に形成した。これらの発明によると、樹脂製の可動部材によって、オートテンショナの軽量化を図るとともに、可動部材の先端部の1対の軸受支持部間にプーリを軸心方向両側で両持ち支持し、そのプーリに対する支持強度や支持剛性を高くしてミスアラインメント角度を小さくすることができる。
【0024】
請求項3の発明では、樹脂製可動部材のアームは、一端が可動部材本体外周における揺動軸心両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第1アーム部と、一端が可動部材本体外周における揺動軸心両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第2アーム部とを備えているものとした。また、請求項4の発明では、樹脂製可動部材のアームは、一端が可動部材本体外周における揺動軸心両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第1アーム部と、一端が可動部材本体外周における揺動軸心両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端が一方の軸受支持部に接続された梁材からなる1つの第2アーム部とを備え、この第2アーム部は、プーリがベルトから荷重を受けたときにアームにおいて引張り側となる側に設けられているものとした。この請求項3及び4の発明によると、アームにおける力の伝達経路のみに梁状のアーム部を位置付けて、アームの強度を確保しながら、オートテンショナのより一層の軽量化を図ることができる。特に、請求項4の発明によると、アームにおいてプーリがベルトから荷重を受けたときに大きさの小さい引張り荷重の作用する引張り側となる側に1つの第2アーム部が設けられているので、オートテンショナをさらに軽量化することができる。
【0025】
請求項5の発明によると、各アーム部の中間部と可動部材本体において軸受支持部への対向側部との間を接続する補強アーム部を設けたことにより、アームを強度を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本発明の実施形態1に係るオートテンショナの断面図である。
【図2】図2は可動部材の正面図である。
【図3】図3は図2のIII方向から見た可動部材の斜視図である。
【図4】図4は図2のIV方向から見た可動部材の斜視図である。
【図5】図5は実施形態2を示す図2相当図である。
【図6】図6は実施形態2を示す図3相当図である。
【図7】図7は実施形態2を示す図4相当図である。
【図8】図8は実施例及び比較例の評価を示す図である。
【図9】図9は従来の片持ちタイプのオートテンショナを示す図2相当図である。
【図10】図10は従来の片持ちタイプのオートテンショナを示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0028】
(実施形態1)
図1において、1は本発明の実施形態に係るオートテンショナであって、このオートテンショナ1は、例えば車両に搭載されるエンジンの補機駆動装置(図示せず)のベルト伝動システムに用いられている。
【0029】
上記補機駆動装置は、図示しないが、例えば車載エンジンのクランク軸に取り付けられたVリブドプーリからなるクランクプーリ、空調機用コンプレッサ(補機)の回転軸に取り付けられた同様のコンプレッサプーリ、パワーステアリング用ポンプ(補機)の回転軸に取り付けられた同様のPSポンププーリ、オルタネータ(補機)の回転軸に取り付けられた同様のオルタネータプーリ、同様のアイドラプーリ、及び、冷却ファンを回転駆動するための平プーリからなるファンプーリを備え、これらプーリ間にVリブドベルトからなる伝動ベルトB(図1及び図2で仮想線にて示す)が、上記Vリブドプーリからなる各プーリにあってはベルトB内面をプーリに接触させた正曲げ状態で、また平プーリからなるファンプーリにあってはベルトB外面をプーリに接触させた逆曲げ状態でそれぞれ巻き付けられて、いわゆるサーペンタインレイアウトで巻き掛けられており、エンジンの回転によりベルトBを各プーリ間で走行させて各補機を駆動するようにしている。
【0030】
上記ベルトBにおいて、プーリ間に位置するいずれかのスパンにアームタイプの上記オートテンショナ1が配置されており、このオートテンショナ1により、上記スパンをベルトB外面側から押圧してベルト張力を自動的に調整するようにしている。
【0031】
上記オートテンショナ1は、エンジンに取付固定される固定部材3と、この固定部材3に基端で揺動軸心O1回りに揺動可能に支持された可動部材10と、この可動部材10の揺動軸心O1に対しオフセットした部分である先端部(後述する軸受支持部21,21)に、可動部材10基端の揺動軸心O1と平行な回転軸心O2で回転自在に軸支され、ベルトBを逆曲げ状態で押圧する平プーリからなるテンションプーリ28と、捩りトルクにより可動部材10をテンションプーリ28がベルトBを押圧するベルト押圧方向に回動付勢する捩りコイルばね30と、上記可動部材10の揺動を減衰させる3つの減衰手段とを備えている。このオートテンショナ1は、固定部材3の後述するスピンドル5のエンジンからの取付高さと、テンションプーリ28のエンジンからの高さが略同じ高さ位置にある並列型のものとされている。
【0032】
上記固定部材3及び可動部材10はいずれも樹脂製のもので、例えばナイロン系樹脂やフェノール系樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂等からなる。尚、これらの樹脂にガラス繊維等の短繊維を混入して補強することも可能である。
【0033】
固定部材3は、一端(図1で上端)に開口する有底円筒状(カップ状)の固定部材本体4と、この固定部材本体4の底部に同心状に一体に立設され、先端部が固定部材本体4の開口から突出するスピンドル5(軸部)とを備えている。このスピンドル5は、その中心部に小径の中心孔5aが形成された中空円筒状のものである。固定部材本体4の底部外周面には複数の取付ブラケット6,6,…が突設されており、この各取付ブラケット6において、図外の取付ボルトにより固定部材3をエンジンに取付固定するようにしている。
【0034】
また、図示しないが、固定部材本体4の側壁には、その開口側から切り欠いた貫通孔又は切欠きからなるばね係止部が形成されている。
【0035】
一方、可動部材10は、一端(図1の下端)に開口する有底円筒状の可動部材本体11を備え、この可動部材本体11の外径は固定部材本体4と略同径とされている。可動部材本体11の側壁には、その開口側から切り欠いた貫通孔(又は切欠き)からなるばね係止部20が形成されている。
【0036】
上記可動部材本体11の底部には円筒状のボス部12が可動部材本体11の開口から突出するように同心状に一体に突設され、このボス部12内には、可動部材本体11の底壁を貫通するボス孔13が形成されている。上記ボス部12は固定部材3のスピンドル5にボス部12先端側から外嵌合されており、このことで可動部材10は基端のボス部12にて固定部材3のスピンドル5に後述のメタルブッシュ32,32を介して揺動可能(回動可能)に支持され、固定部材本体4と可動部材本体11とは各々の開口を対向配置して略密閉状の円筒形状を形成している。
【0037】
図2〜図4に示すように、上記可動部材本体11の外周部には、そのボス部12の中心(揺動軸心O1)から離れる方向に外側に延びるアーム14が一体に形成され、このアーム14の先端には1対の軸受支持部21,21が一体に設けられており、これら可動部材本体11、アーム14及び両軸受支持部21,21は樹脂により一体に形成されている。
【0038】
上記両軸受支持部21,21は例えば互いに同じ径を有する円板状のもので、両者間に所定の間隔が空けられてテンションプーリ28が配置されるようになっている。具体的には、各軸受支持部21の中心には軸挿通孔22が可動部材10の揺動軸心O1と平行に延びるように貫通形成されており、両軸受支持部21,21間に1対の軸受ベアリング23,23及びダストシールド24,24を介してテンションプーリ28を配置し、その軸受ベアリング23,23のインナレース内及び軸挿通孔22,22に、可動部材10の揺動軸心O1と平行に延びるプーリ軸としての取付ボルト25を挿通して、その取付ボルト25の先端部にナット26を螺合締結することにより、軸受ベアリング23,23のインナレースをダストシールド24,24を介して軸受支持部21,21間に挟み込み、テンションプーリ28を軸心方向両側で軸受支持部21,21により回転自在に両持ち支持するようにしている。つまり、テンションプーリ28は、ボス部12から偏心した取付ボルト25上の位置に支持されている。
【0039】
上記アーム14は2本の第1アーム部15,15、2本の第2アーム部17,17、及び4本の補強アーム部19,19,…を骨組み状に接続したものであり、これらアーム部1,17,19はいずれも直線状又は曲線状に延びた細長い板状等の梁材(ビーム材)からなる。図2で上側に位置する第1アーム部15,15は、テンションプーリ28がベルトBから荷重を受けたときにアーム14において押圧荷重が作用する押圧側に設けられ、第2アーム部17,17は、同じアーム14において引張り荷重が作用する引張り側に設けられている。
【0040】
上記2本の第1アーム部15,15は、各々の一端が可動部材本体11の外周面のうち、可動部材10とテンションプーリ28の回転軸心O2とを結ぶ直線と直交する方向(図2で上下方向)に沿って略直径方向に対向する両側部の一方(可動部材本体11の外周面において揺動軸心O1両側に位置する半部の一方)にそれぞれ一体に接続されている。各第1アーム部15は、一端部が可動部材本体11外周面に接続されて該可動部材本体11外周面からその接線方向に直線状に延びる基端側部15aと、一端部がこの基端側部15aの他端部に接続され、他端部が軸受支持部21,21の軸挿通孔22(中心)に向かう方向に直線状に延びて該軸受支持部21,21の周縁部に一体に接続された先端側部15bとからなり、基端側部15a及び先端側部15b間の途中で折れ曲がった形状となっている。そして、2つの第1アーム部15,15の両基端側部15a,15a同士は可動部材本体11から離れるに伴って互いに離隔し、両先端側部15b,15b同士は軸受支持部21,21間の間隔をあけて互いに平行に延びている。また、例えば基端側部15aと先端側部15bとは各々の板幅(板厚)の方向が90°だけずれて接続されている。
【0041】
一方、上記2本の第2アーム部17,17も第1アーム部15,15と同様のもので、各々の一端が可動部材本体11の外周面のうち上記略直径方向に対向する両側部の他方(可動部材本体11の外周面において揺動軸心O1両側に位置する半部の他方)にそれぞれ一体に接続されている。各第2アーム部17も、一端部が可動部材本体11外周面に接続されて該可動部材本体11外周面からその接線方向に直線状に延びる基端側部17aと、一端部がこの基端側部17aの他端部に接続され、軸受支持部21,21の軸挿通孔22(中心)に向かう方向に直線状に延びて、他端部が該軸受支持部21,21の周縁部において第1アーム部15,15の接続部近くに一体に接続された先端側部17bとからなり、基端側部17a及び先端側部17b間の途中で折れ曲がった形状となっている。また、2つの第2アーム部17,17の両基端側部17a,17a同士は可動部材本体11から離れるに伴って互いに離隔し、両先端側部17b,17b同士は軸受支持部21,21間の間隔をあけて互いに平行に延びている。また、これら基端側部17aと先端側部17bとは各々の板幅(板厚)の方向が90°だけずれて接続されている。
【0042】
そして、図2に示すように、可動部材10の軸心方向(テンションプーリ28の軸心方向)から見て、第1及び第2アーム部15,17の基端側部15a,17a同士は互いに平行に延びる一方、先端側部15b,17bは軸受支持部21に向かって互いに近付くように傾斜して延びている。
【0043】
上記4本の補強アーム部19,19,…は、軸受支持部21,21間に支持されるテンションプーリ28と干渉しないようにその外周面に沿って湾曲する円弧板状のものであり、各々の一端部が可動部材本体11の外周面のうち軸受支持部21,21と対向する側に接線状に一体に接続されている。この各補強アーム部19は可動部材本体11から離れるに連れて軸受支持部21,21に向かうように円弧状に湾曲し、他端部はそれぞれ第1及び第2アーム部15,17における基端側部15a,17aと先端側部15b,17bとの接続部分(境界部分)に一体に接続されている。
【0044】
すなわち、上記第1及び第2アーム部15,17は、アーム内での力の伝達経路に樹脂を構造部材として配置し、それ以外の部分を除去した構造とされている。そして、上記可動部材10における可動部材本体11、アーム14の各アーム部15,17,19及び軸受支持部21,21は樹脂の一体成形によって形成されている。
【0045】
上記捩りコイルばね30は、上記可動部材10のボス部12周りに両端部(タング)を半径方向外側に突出させた状態で配置されている。その一方の端部は上記固定部材本体4のばね係止部に、また他方の端部は可動部材本体11のばね係止部20にそれぞれ係止されている。また、捩りコイルばね30は固定部材本体4と可動部材本体11との間に軸方向に圧縮されて介装されており、この捩りコイルばね30のコイル径が拡大する方向の捩りトルクにより、可動部材10を上記テンションプーリ28がベルトBを押圧するベルト押圧方向に回動付勢するようになっている。
【0046】
さらに、上記可動部材10の揺動を減衰させる3つの減衰手段について説明すると、まず、上記固定部材3のスピンドル5と可動部材10のボス部12との間には円筒状の2つのメタルブッシュ32,32が介装されている。この2つのメタルブッシュ32,32はそれぞれボス孔13に対し、ボス孔13の両端開口から両ブッシュ32,32間に少しの間隔があくように圧入されて回動不能に一体に嵌合固定されている。そして、上記各ブッシュ32は、例えば銅等の焼結材からなる金属製薄肉円筒体の内周面に潤滑用の樹脂層を形成したものであり、スピンドル5に外嵌合された状態で、各ブッシュ32内周面の樹脂層の樹脂をスピンドル5外周面に転移させ、スピンドル5と可動部材10のボス部12(ブッシュ32)との間を潤滑油の供給なしでドライ潤滑し、かつ可動部材10の回動を減衰させるようにしている。
【0047】
また、上記可動部材10のボス部12周りには、2つ目の減衰手段としての樹脂製のスプリングサポート33が配置されている。このスプリングサポート33は、ボス部12及び捩りコイルばね30の間に配置されかつ捩りコイルばね30の捩りトルクの反力によりボス部12外周面に押し付けられる略円筒状の摺接部33aと、この摺接部33aのボス部12先端側の端部から半径方向外側に突出し、捩りコイルばね30に軸方向に押圧されて固定部材本体4の内底面に押付固定されるフランジ部33bとを有する。そして、捩りコイルばね30により、スプリングサポート33の摺接部33aが押圧されて可動部材10のボス部12外周面に、またボス部12も押圧されてブッシュ32にそれぞれ押し付けられることで、可動部材10の回動を減衰させる。
【0048】
さらに、上記固定部材3のスピンドル5の先端部は、ボス部12内のボス孔13(可動部材本体11の底壁)を貫通してその外面側に突出し、この突出部分には、可動部材10の抜止めのための金属からなる円板状のプレート部材36がネジ/ナット止め(ボルト及びナットの締結)により回転不能に固定止着されている。このプレート部材36と可動部材本体11の外面(ボス部12の端面)との間には3つ目の減衰手段としての小径の樹脂製のスラストワッシャ34が挟持されており、このスラストワッシャ34が可動部材本体11外面に摺接することで、可動部材10の回動を減衰させる。
【0049】
したがって、この実施形態においては、エンジンの運転中、補機駆動装置により各補機(空調機用コンプレッサ、パワーステアリング用ポンプ、オルタネータ、ファン)がベルトBを介して駆動されているとき、オートテンショナ1の捩りコイルばね30により可動部材10が回動付勢され、この付勢力によりアーム14先端のテンションプーリ28が伝動ベルトBのスパンを押圧し、このことでベルトBの張力が付与される。
【0050】
また、ベルトBの張力の変化により可動部材10のアーム14がテンションプーリ28と共に固定部材3のスピンドル5回りに揺動(振動)すると、その揺動が3つの減衰手段、つまりメタルブッシュ32,32、スプリングサポート33及びスラストワッシャ34の摺動抵抗により制動減衰され、ベルトBの張力が自動的に調整される。
【0051】
そして、上記可動部材10の全体、つまり可動部材本体11、アーム14及び軸受支持部21,21が樹脂により一体に形成されているので、それらを金属材料で構成した場合に比べ可動部材10の重さを軽量にすることができる。また、固定部材3も樹脂であるので、この固定部材3に可動部材10を組み付けたオートテンショナ1全体の軽量化を図ることができ、自動車の燃費の向上に寄与することができる。
【0052】
しかも、上記樹脂製の可動部材10における可動部材本体11と2つの軸受支持部21,21とを接続するアーム14が梁材からなる第1及び第2の4本のアーム部15,15,17,17で構成されており、これら梁材からなるアーム部15,15,17,17は、アーム内での力の伝達経路に必要な部分のみに位置付けられていて、その力の伝達に必須の部分のみをアーム部15,17として残してそれ以外の部分を除去した構造であるので、アーム部15,17によって可動部材10の強度を確保しながら、それを軽量にしてオートテンショナ1のより一層の軽量化を図ることができる。
【0053】
また、アーム14における各アーム部15,17の中間部と可動部材本体11外周面において軸受支持部21,21への対向側部との間が補強アーム部19,19,…により接続されているので、アーム14を強度をさらに増大させることができる。
【0054】
そして、アーム14の先端部には1対の軸受支持部21,21が設けられ、これら軸受支持部21,21間にテンションプーリ28が軸心方向両側で両持ち支持されているので、上記アーム14の強度の増大と相俟って、そのテンションプーリ28に対する支持強度や支持剛性を高くしてミスアラインメント角度を小さくすることができる。
【0055】
また、第1及び第2アーム部15,17は可動部材本体11外周面から互いに平行に延びる基端側部15a,17aと、この基端側部15a,17aに折れ曲がって連続し、互いに近付くように傾斜して延びて軸受支持部21,21に接続された先端側部15b,17bとからなり、上記基端側部15a,17aと先端側部15b,17bとの境界部分に上記補強アーム部19,19,…が接続されているので、高い強度のアーム14を容易に形成することができる。
【0056】
(実施形態2)
図5〜図7は本発明の実施形態2を示し、上記実施形態1において一部のアーム部を省略したものである。尚、この実施形態において図1〜図4と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0057】
すなわち、この実施形態では、上記実施形態1と同様に、可動部材10のアーム14は、第1及び第2の2種類のアーム部15,17で構成されている。そのうち、第1アーム部15は実施形態1と同様に2本であり、各々が軸受支持部21,21に接続されている。これに対し、第2アーム部17については、実施形態1とは異なり、2本ではなくて1本だけ設けられている。この第2アーム部17とは、上記の如く、テンションプーリ28がベルトBから荷重を受けたときにアーム14の引張り側に設けられているものである。
【0058】
よって、この実施形態では、可動部材10のアーム14は、一端が可動部材本体11外周面において揺動軸心O1両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部21,21に接続された梁材からなる1対の第1アーム部15,15と、一端が可動部材本体11外周面において上記揺動軸心O1両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端が一方の軸受支持部21に接続された梁材からなる1つの第2アーム部17とを備えており、この1つの第2アーム部17は、テンションプーリ28がベルトBから荷重を受けたときにアーム14において引張り荷重が作用する引張り側に設けられている。
【0059】
また、アーム14の引張り側に位置する補強アーム部19についても、1本の補強アーム部19が第2アーム部17の中間部のみに連結されており、アーム14全体で補強アーム部19は3本となっている。その他の構成は実施形態1と同様である。
【0060】
したがって、この実施形態においても実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。加えて、テンションプーリ28がベルトBから荷重を受けたときに、アーム14の引張り側に作用する引張り荷重は、押圧側に作用する押圧荷重よりも小さく、この小さい引張り荷重の作用する引張り側に、小さい引張り荷重に応じて1つの第2アーム部17が設けられているので、アーム14全体の強度を確保しながら、第2アーム部17が1本になったことによってアーム14の重さを軽くすることができ、その分、オートテンショナ1をさらに軽量化することができる。
【0061】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態では、第1及び第2アーム部15,17を基端側部15a,17aと先端側部15b,17bとで構成しているが、このような構成は必須ではなく、梁材(ビーム材)を用いることが必須であり、例えば全体が円弧状に湾曲した形状等の他の形状の梁材を用いることもできる。また、補強アーム部19,19,…は必須ではなく、場合によっては省略することもできる。
【0062】
さらに、本発明は、このような梁材を用いることも必須ではなく、可動部材10が例えば中実構造の樹脂で形成されていて、そのアーム14先端に1対の軸受支持部21,21が設けられ、両軸受支持部21,21によりテンションプーリ28が両持ち支持されていればよい。
【0063】
また、上記実施形態では、可動部材の全体を樹脂材料で形成しているが、アーム14及び両軸受支持部21,21のみを樹脂により一体に形成し、可動部材本体11はアルミニウム等の金属材料で形成して、この可動部材本体11に樹脂製アーム14を一体的に接合するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態のように樹脂製の固定部材3を金属製に代え、可動部材10のみを樹脂で構成してもよい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、本発明を並列型のオートテンショナに適用したものであるが、本発明は、テンションプーリ28が固定部材3のスピンドル5よりも高い位置にあるオフセット型のものに対しても適用することができる。
【実施例】
【0066】
次に、具体的に実施した例について説明する。
【0067】
(実施例1)
上記実施形態1(図2〜図4参照)に示すように、オートテンショナの可動部材を、ガラス繊維を30重量%混入して補強したフェノール樹脂により形成したものとした。
【0068】
(実施例2)
上記実施形態2(図5〜図7参照)に示すように、オートテンショナの可動部材を、ガラス繊維を50重量%混入して補強したナイロン樹脂により形成したものとした。すなわち、上記実施例1において、フェノール樹脂をナイロン樹脂に代え、ガラス繊維を増量したものである。
【0069】
(比較例)
オートテンショナの可動部材をアルミダイカストにより形成した現行のものである(図9及び図10参照)。
【0070】
以上の各材料のオートテンショナにつき、以下の手順で重量、ミスアライメント(プーリ面の回転角度)及び応力を求めた。
【0071】
(1)3次元CADにより可動部材の形状を定義し、その体積を出力するとともに、各使用材料の密度により重量を算出する。
【0072】
(2)次いで、上記定義した形状、各使用材料の材料定数、及び使用条件により求めた荷重入力を条件としてFEM解析により応力、プーリ面の回転角度を出力する。
【0073】
(3)そして、
(A)ミスアライメントとして、プーリ面の回転角度が基準以下であり、
(B)応力として、その最大値が各使用材料の許容応力以下である
という制約条件を設定し、この制約条件(A),(B)を満足しない場合には、形状を変更した後に上記(1),(2)の処理を繰り返す。
【0074】
そして、重量については、比較例であるアルミダイカスト品の重量を基準として、それに対する比率(重量比)を算出した。
【0075】
また、ミスアライメントについては、許容回転角度を基準とし、それに対する比率を算出した。
【0076】
さらに、応力については、使用材料の疲労時の許容応力を基準とし、応力の最大値との比率を安全率として算出した。
【0077】
その結果を図8に示す。この図8の評価を考察すると、実施例1,2については、いずれもミスアライメント及び応力の制約条件を満足しているとともに、重量比に関して比較例の2/3〜1/2程度に軽減しており、本発明が有効であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、オートテンショナの軽量化、ミスアラインメント角度の増大の抑制の点で極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0079】
B 伝動ベルト
1 オートテンショナ
3 固定部材
5 スピンドル(軸部)
10 可動部材
O1 揺動軸心
11 可動部材本体
12 ボス部
14 アーム
15 第1アーム部
15a 基端側部
15b 先端側部
17 第2アーム部
17a 基端側部
17b 先端側部
19 補強アーム部
21 軸受支持部
28 テンションプーリ
O2 回転軸心
30 捩りコイルばね
32 メタルブッシュ(減衰手段)
33 スプリングサポート(減衰手段)
34 スラストワッシャ(減衰手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有する固定部材と、
基端が上記固定部材の軸部に揺動可能に支持され、先端にベルトを押圧するプーリが基端の揺動軸心と平行な回転軸心で回転自在に支持された可動部材と、
上記固定部材に対し可動部材を上記プーリがベルトを押圧する方向に回動付勢するばねと、
上記可動部材の揺動を減衰する減衰手段とを備えたオートテンショナにおいて、
上記可動部材は、上記固定部材の軸部に上記揺動軸心回りに揺動可能に外嵌合されるボス部を有する可動部材本体と、
基端側が上記可動部材本体に一体に設けられたアームと、
上記アームの先端側に設けられ、上記プーリを軸心方向両側で支持する1対の軸受支持部とを備え、
少なくとも上記アーム及び両軸受支持部が樹脂により一体に形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
請求項1において、
可動部材本体、アーム及び両軸受支持部が樹脂により一体に形成されていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
可動部材のアームは、一端が可動部材本体外周において揺動軸心両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第1アーム部と、
一端が可動部材本体外周において上記揺動軸心両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第2アーム部とを備えていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項4】
請求項1又は2において、
可動部材のアームは、一端が可動部材本体外周において揺動軸心両側に位置する半部の一方に接続されかつ他端がそれぞれ軸受支持部に接続された梁材からなる1対の第1アーム部と、
一端が可動部材本体外周において上記揺動軸心両側に位置する半部の他方に接続されかつ他端が一方の軸受支持部に接続された梁材からなる1つの第2アーム部とを備え、
上記第2アーム部は、プーリがベルトから荷重を受けたときにアームにおいて引張り荷重が作用する側に設けられていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
アームは、各アーム部の中間部と、可動部材本体外周において軸受支持部への対向側部との間を接続する補強アーム部を備えていることを特徴とするオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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