説明

オートテンショナ

【課題】オートテンショナ内部への泥水等の侵入を抑制するともに、泥水等を積極的に集めてスムーズに排出させる。
【解決手段】オートテンショナ1は、固定部材20と、固定部材20に対して回動自在に支持され且つプーリ100が取り付けられた回動部材30と、コイルバネ4と、排水機構50と備える。固定部材20と回動部材30は、内部にコイルバネ4を収容する外筒部21、31を有し、外筒部21、31は一部分が径方向に重なって配置されている。排水機構50は、外筒部21、31の境界部に設けられており、入水口51と通水路52と排水口53とを有する。入水口51は、外筒部21の外周面と外筒部31の外周面との隙間で構成され、周方向に沿って開口しており、通水路52は、外筒部21の外周面に周方向に沿って形成された水溜め溝21bと外筒部31との隙間で構成されており、排水口53は、通水路52の径方向外側の周壁に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を適度に保つオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車エンジンの補機駆動システム等において、ベルトの張力が変動した際のベルトスリップを防止するために、オートテンショナが採用されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載のオートテンショナは、固定部材と、固定部材に対して回動自在に支持される回動部材と、回動部材を固定部材に対して回動付勢するコイルバネとを備えている。回動部材には、ベルトが巻き掛けられるプーリが取り付けられる。固定部材と回動部材は、コイルバネを内部に収容するための外筒部を有している。また、固定部材の外筒部と回動部材の外筒部の内側には、コイルバネの他に、回動部材の揺動を減衰させるための摩擦部材が配置されている。摩擦部材は、回動部材が回動したときに、固定部材または回動部材と摺動するようになっている。
【0004】
オートテンショナの使用時には、泥水やエンジンオイル等が固定部材あるいは回動部材の外表面に付着し、固定部材と回動部材の隙間を通って内部に侵入することがあった。泥水等がゴムあるいは合成樹脂製の摩擦部材と摺動対象(固定部材あるいは回動部材)との間に侵入すると、摩擦部材の磨耗が促進され、そしてブレーキ力の低下によりダンピング効果が小さくなることがあった。更には、侵入した泥水等が摩擦部材以外の他の部材の耐久性に悪影響を及ぼすことも懸念された。
【0005】
泥水等の侵入を防止するオートテンショナとして、例えば特許文献2に開示されたものがある。このオートテンショナでは、固定部材(テンショナカップ)の開口部の周縁の一部に、外側に張り出すリップが形成されており、このリップを覆うように回動部材(テンショナアーム)の外輪部を延在させることで、泥水等の侵入を抑制する構造になっている。そして、このリップはエンジンの取り付けの際に上側になるように配置されている。また、固定部材の開口部の内周面と回動部材の内輪部の外周面との間には、摩擦部材(ダンピングバンド)が全周にわたって配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−112549号公報
【特許文献2】特開2004−204937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の構造では、固定部材の開口部の周縁から外側に突出したリップが防波堤となって泥水等の侵入を阻止することができるが、泥水等を積極的に排出するガイド手段がないため、泥水等は、固定部材の外周面に沿って下方へ移動した後、固定部材の外周面の下部と回動部材の外輪部の下部との間に溜まりやすく、そこから内部に侵入する虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、内部への泥水等の侵入を抑制するともに、泥水等を積極的に集めてスムーズに排出させることのできるオートテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0009】
第1の発明のオートテンショナは、第1筒部を有する固定部材と、少なくとも一部分が前記第1筒部と径方向に重なって配置される第2筒部を有し、前記固定部材に対して回動自在に支持されると共に、ベルトが巻き掛けられるプーリを取り付け可能な回動部材と、2つの前記筒部の内側に収容されると共に、一端が前記固定部材に係止され、他端が前記回動部材に係止されて、前記固定部材に対して前記回動部材を一方向に回動付勢するコイルバネと、前記2つの筒部の境界部に設けられた排水機構とを備えており、前記排水機構は、前記第1筒部の外周面と前記第2筒部の外周面との隙間で構成され、周方向に沿って開口する入水口と、前記2つの筒部の一方の外周面に周方向に沿って形成された水溜め溝と他方の前記筒部との隙間で構成され、前記入水口に連通する通水路と、前記通水路の径方向外側の周壁に形成された少なくとも1つの排水口とを有することを特徴とする。
【0010】
この構成によると、軸方向が上下方向以外の方向(例えば水平方向)となるようにオートテンショナを配置した場合、入水口から流入した泥水等は、入水口の径方向内側に設けられた通水路に流れ込み、通水路内を周方向に沿って下方に移動した後、排水口から外部に排出される。そのため、オートテンショナの内部に泥水等が侵入するのを抑制しつつ、集めた泥水等をスムーズに排出することができる。
【0011】
第2の発明のオートテンショナは、第1の発明において、前記水溜め溝の深さ方向が、前記筒部の筒軸方向であって、前記水溜め溝内に、前記2つの筒部のうち水溜め溝が形成されていない方の筒部の先端部が挿入されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、水溜め溝内に、筒部の先端部が挿入されていることにより、通水路がU字状となっているため、入水口に流入した泥水等は、U字状の通水路のうち径方向外側の部分に流入し、この部分おいて周方向に沿って下方に移動する。そのため、U字状の通水路のうち径方向内側の部分に泥水等が侵入しにくい。したがって、オートテンショナの内部への泥水等の侵入をより確実に抑制することができる。
【0013】
第3の発明のオートテンショナは、第1または第2の発明において、一端が前記回動部材と前記固定部材の一方に係止され、他端が自由端であり、前記回動部材と前記固定部材の他方の前記筒部の内周面に沿って延在する弾性体と、前記弾性体に対して周方向に相対移動不能に結合され、前記回動部材と前記固定部材の前記他方の前記筒部の内周面と接触する摩擦部材とを備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、ベルトの張力が変動して、回動部材が固定部材に対して回動した際に、摩擦部材が固定部材または回動部材と摺動する。これにより、回動部材の揺動を抑制すると共に減衰させることができる。さらに、ベルトの張力が増加した場合と減少した場合とで、摩擦部材の摺動対象との間に発生する摩擦力を異ならせることができる。
【0015】
第4の発明のオートテンショナは、第1〜第3のいずれかの発明において、前記排水口が、前記通水路の下部と連通することを特徴とする。
【0016】
この構成によると、通水路に流入した泥水等を排水口から確実に排出することができる。
【0017】
第5の発明のオートテンショナは、第3または第4の発明において、前記排水口が、前記他方の前記筒部に形成されており、前記排水口の周方向範囲において、前記他方の前記筒部の内側に、前記摩擦部材が存在しないことを特徴とする。
【0018】
この構成によると、排水口から前記他方の筒部の内側に泥水等が侵入した場合であっても、排水口から侵入した泥水等の影響を最も受けやすい位置に摩擦部材が存在しないため、摩擦部材の摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態のオートテンショナの斜視図である。
【図2】図1に示すオートテンショナの断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図1に示す固定部材および固定部材に取り付けられた部材を図1中の右側から見た図である。
【図5】図1に示す固定部材の斜視図である。
【図6】第1実施形態の変更例のオートテンショナの部分断面図である。
【図7】第1実施形態の変更例のオートテンショナの部分断面図である。
【図8】第1実施形態の変更例のオートテンショナの部分断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態のオートテンショナの断面図である。
【図10】図9のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るオートテンショナ1について説明する。
本実施形態のオートテンショナ1は、エンジンのクランクシャフトの動力を補機に伝達する伝動ベルトの張力を調整するものであって、自動車のエンジンブロックに取り付けられる。
【0021】
図1および図2に示すように、オートテンショナ1は、固定部材20と、回動部材30と、コイルバネ4と、排水機構50と、板バネ(弾性体)6と、複数の摩擦部材7とを備えている。回動部材30には、伝動ベルトが巻き掛けられるプーリ100が取り付けられる。また、回動部材30は、シャフト8とブッシュ9とを介して固定部材20に対して回動自在に支持されている。以下の説明において、回動部材30の回動軸の方向(シャフト8の軸方向)を単に軸方向と称する。なお、図2は、コイルバネ4と排水機構50の周囲部については、切断面から視線の後方に見える形態を記載しているが、それ以外の部分については、切断面のみを表示している。また、後述する変更例と第2実施形態の図6〜図8、図10も同様である。
【0022】
固定部材20は、上下方向が、図2および図4に示す上下方向となるように、図示しないエンジンブロックに固定される。固定部材20は、外筒部(第1筒部)21と、外筒部21の内側に配置された内筒部22と、外筒部21と内筒部22とを連結する円環状の底壁部23とで構成される。内筒部22は、シャフト8に相対回転不能に固定されている。図4および図5に示すように、外筒部21の軸方向略中央には、略三角形状のフランジ部21aが設けられている。
【0023】
図4および図5に示すように、外筒部21の外周面(詳細にはフランジ部21a)には、全周に亘って水溜め溝21bが形成されている。なお、図4は、水溜め溝21bと後述する切り欠き21cの領域に、ドットのハッチングを表示している。水溜め溝21bの深さ方向は、軸方向であって、水溜め溝21bの深さH(図2参照)は、例えば2〜5mmである。水溜め溝21bが深すぎると、固定部材20の強度を維持できなくなり、浅すぎると水を溜める機能を果たさなくなるため、水溜め溝21bの深さは上述の範囲内が好ましい。
【0024】
図1および図5に示すように、水溜め溝21bの径方向外側の周壁(フランジ部21a)には切り欠き21cが形成されている。この切り欠き21cにより、排水機構50の排水口53が構成される。図1および図4に示すように、固定部材20は、排水口53が水溜め溝21bの下側に位置するように設置されている。排水口53の周方向範囲Lは、軸中心の真下の位置から時計回りと反時計回りにそれぞれ20度(図3中のα)の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
回動部材30は、外筒部(第2筒部)31と、外筒部31の内側に配置された内筒部32と、外筒部31と内筒部32とを連結する円環状の底壁部33と、プーリ支持部34とで構成される。プーリ支持部34には、プーリ100が着脱可能に取り付けられる。
【0026】
内筒部32は、固定部材20の内筒部22と軸方向に並んで配置される。内筒部32は、ブッシュ9を介してシャフト8に相対回転可能に取り付けられている。これにより、回動部材30は固定部材20に対して相対回転可能となっている。内筒部32は、図2中右側部分が左側部分よりも外径が大きくなっている。この外径が大きい部分のコイルバネ4に対向する面は、コイルバネ4に沿うように螺旋状に形成されている。そのため、図3に示すように、この螺旋の開始位置と終了位置との境界には段差部32aが形成されている。なお、図3は、回動部材30の外筒部31を省略して表示している。
【0027】
外筒部31は、固定部材20の外筒部21と径方向に重なって配置されている。詳細には、外筒部31は、固定部材20の外筒部21の径方向外側に配置されている。また、外筒部31の先端部は、固定部材20の外筒部21に形成された水溜め溝21bの内側に挿入されている。そのため、水溜め溝21bと、回動部材30の外筒部31の先端部との隙間は、U字状となっている。このU字状の隙間が、排水機構50の通水路52を構成している。通水路52は、全周に亘って形成されている。
【0028】
また、固定部材20の外筒部21の外周面と、回動部材30の外筒部31の外周面との隙間のうち、排水口53を除く部分が、排水機構50の入水口51を構成している。入水口51は、周方向に沿って開口している。入水口51の間隔D(図2参照)は、例えば1〜3mmである。入水口51が大きすぎるとゴミが侵入しやすくなり隙間が詰まる不具合があり、小さすぎるとゴミが溜まりやすくなるため、入水口51の間隔は上述の範囲内が好ましい。
【0029】
排水機構50は、オートテンショナ1の内部に泥水等が侵入するのを防止するためのものである。排水機構50は、固定部材20の外筒部21と回動部材30の外筒部31との境界部に設けられており、上述の入水口51と通水路52と排水口53とで構成されている。
【0030】
図2に示すように、コイルバネ4は、固定部材20の外筒部21および回動部材30の外筒部31の内側に配置されている。コイルバネ4は、その一端部4a(図2中の右側端部)が回動部材30に係止され、他端部(図2中の左側端部)が固定部材20に係止されており、固定部材20に対して回動部材30を一方向に回動付勢する。コイルバネ4の付勢方向は、プーリ100に巻き掛けられる伝動ベルトに対して張力を付与する方向である。
【0031】
図3に示すように、コイルバネ4の端部4aは、板バネ6を介して回動部材30の段差部32aを押圧しており、これにより、コイルバネ4の端部は回動部材30に係止されている。固定部材20に対するコイルバネ4の端部の係止の方法は、特に限定されないが、例えば、固定部材20に形成した溝部にコイルバネ4の端部を嵌着したり、固定部材20に形成した径方向若しくは軸方向に延びる係止孔にコイルバネ4の折曲された端部を圧入することによって係止される。
【0032】
図3および図4に示すように、コイルバネ4には、コイルバネ4の姿勢の傾きを抑えるためのコイルバネ支持部材10が取り付けられている。このコイルバネ支持部材10は、摩擦部材7とコイルバネ4との間に挟まれている(図4参照)。なお、コイルバネ支持部材10は設けなくてもよい。
【0033】
図2および図3に示すように、板バネ(弾性体)6は、固定部材20の外筒部21の先端側部分の内側に配置されており、外筒部21の内周面に沿って延在している。図3に示すように、板バネ6の一端部6aは、径方向内側へ90度に折り曲げられて、回動部材30の段差部32aとコイルバネ4の端部4aとの間に挟持されている。これにより、板バネ6の端部6aは回動部材30に係止されている。板バネ6の端部6aと反対側の端部は自由端となっている。また、板バネ6には、複数の摩擦部材7を取り付けるための複数の取付孔6bが周方向に並んで形成されている。
【0034】
複数(本実施形態では7個)の摩擦部材7は、固定部材20の外筒部21の内周面と板バネ6との間に配置されている。複数の摩擦部材7は、排水口53の周方向範囲L外に、周方向に並んで配置されている。複数の摩擦部材7は、軸中心の真下の位置から時計回りと反時計回りにそれぞれ20度(図3中のα)の範囲外に配置することが好ましい。摩擦部材7は、板バネ6に形成された取付孔6bに嵌入されることで、板バネ6に対して周方向に相対移動不能に結合されている。板バネ6は若干縮径させた状態で配置されているため、摩擦部材7は板バネ6の自己弾性拡径力を受けて常に固定部材20の外筒部21の内周面と接触する。摩擦部材7は、例えば、ナイロン66のようなポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、超高分子ポリエチレン樹脂等の合成樹脂を主成分として形成されている。
【0035】
伝動ベルトの張力が増加した場合には、回動部材30がコイルバネ4の付勢力に抗して図3の時計回りの方向に回動する。このとき、板バネ6の端部6aが図3の時計回りの方向(自由端から離れる方向)に移動するため、板バネ6は全体的に周方向に移動すると共に、わずかに拡径変形する。これにより、摩擦部材7が固定部材20の外筒部21の内周面に押し付けられる力が大きくなるため、摩擦部材7と固定部材20の外筒部21との間には大きな摩擦力が生じる。この摩擦力が、回動部材30の揺動を抑制するとと共に減衰させる減衰力となる。
【0036】
一方、伝動ベルトの張力が減少した場合には、回動部材30がコイルバネ4の付勢力によって図3の反時計回りの方向に回動する。このとき、板バネ6の端部6aが、図3の反時計回りの方向(自由端に近付く方向)に移動するため、板バネ6は全体的に周方向に移動すると共に、わずかに縮径変形する。これにより、摩擦部材7が固定部材20の外筒部21の内周面に押し付けられる力が小さくなるため、摩擦部材7と固定部材20の外筒部21との間には小さい摩擦力しか生じない。
【0037】
このように、本実施形態のオートテンショナ1では、ベルトの張力が増加した場合と減少した場合とで、摩擦部材7と固定部材20の外筒部21の間に発生する摩擦力を異ならせることができる。
【0038】
本実施形態のオートテンショナ1は、軸方向が水平方向となる向きに設置されているため、入水口51に流入した泥水やエンジンオイル等は、入水口51の径方向内側に設けられた通水路52に流れ込み、通水路52内を周方向に沿って下方に移動した後、排水口53から外部に排出される。そのため、オートテンショナ1の内部に泥水等が侵入するのを抑制しつつ、泥水等をスムーズに排出することができる。その結果、摩擦部材7と摺動対象との間に侵入した泥水等によって摩擦部材7の摩耗が促進されるのを防止することができ、摩擦部材7を長寿命化できる。
【0039】
また、本実施形態では、水溜め溝21b内に、外筒部31の先端部が挿入されていることにより、通水路52がU字状となっているため、入水口51に流入した泥水等は、U字状の通水路52のうち径方向外側の部分に流入し、この部分おいて周方向に沿って下方に移動する。そのため、U字状の通水路52のうち径方向内側の部分に泥水等が侵入しにくい。したがって、オートテンショナ1の内部への泥水等の侵入をより確実に抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態では、排水口53が、通水路52の下部と連通するため、通水路52に流入した泥水等を排水口53から確実に排出することができる。
【0041】
また、本実施形態では、排水口53の周方向範囲Lにおいて、固定部材20の外筒部21の内側に摩擦部材7が存在しない。したがって、車両下部から車軸等によって巻き上げられた泥水等が排水口53へ付着して内部に侵入することがあっても、排水口53から侵入した泥水等の影響を最も受けやすい位置に摩擦部材が存在しないため、摩擦部材7の磨耗を抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、排水口53を構成する切り欠き21cが、固定部材20に設けられているため、回動部材30の回動に関らず、排水口53の位置が一定である。
【0043】
また、本実施形態では、水溜め溝21bの深さ方向が軸方向であるため、深さ方向が径方向の場合に比べて、水溜め溝を設けることによる固定部材20の強度低下を抑制できる。
【0044】
なお、本実施形態のオートテンショナ1は、以下のように変更して実施できる。
【0045】
本実施形態では、複数の摩擦部材7は全て排水口53の周方向範囲L外に配置されているが、複数の摩擦部材7のいずれかが排水口53の周方向範囲L内に配置されていてもよい。
【0046】
回動部材30の揺動を減衰させるための板バネ6と摩擦部材7は設けなくてもよい。また、摩擦部材7は、複数設ける必要はなく、1つであってもよい。
【0047】
本実施形態では、排水口53の数は1つであるが、複数であってもよい。つまり、水溜め溝21bの径方向外側の周壁に形成される切り欠き21cの数は、複数であってもよい。
【0048】
上記実施形態では、固定部材20の外筒部21の外周面のうち、回動部材30の外筒部31の内周面と対向する部分は、平坦状(径が一定)であるが、この構成に限定されない。例えば図6に示す固定部材の外筒部221のように、水溜め溝221bの径方向内側の周壁に、溝221dが形成されていてもよい。この溝221dは、水溜め溝221bの周方向全域に形成されていてもよく、水溜め溝221bの周方向範囲の一部分にのみ形成されていてもよい。溝221dを設けることによって、通水路252により多くの水を溜めることができるため、オートテンショナの内部への水の侵入をより抑制できる。
【0049】
本実施形態では、固定部材20の外筒部21に形成された水溜め溝21bの内側に、回動部材30の外筒部31の先端部が挿入されているが、例えば図7に示すように、固定部材の外筒部321に形成された水溜め溝321bの内側に、回動部材の外筒部331の先端部が挿入されていなくてもよい。
この変更例の場合、排水口353は、本実施形態と同様に、水溜め溝321bの径方向外側の周壁に形成された切り欠き321cで構成される。
【0050】
本実施形態では、水溜め溝21bは、深さ方向が軸方向となるように形成されているが、例えば図8に示すように、深さ方向が径方向となるように水溜め溝421bが形成されていてもよい。
この変更例の場合、排水口453は、回動部材の外筒部431の先端部に形成された切り欠き431aと固定部材の外筒部421との隙間で構成される。
【0051】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るオートテンショナ501について説明する。但し、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0052】
図9および図10に示すように、本実施形態のオートテンショナ501は、固定部材520と、回動部材530と、コイルバネ4と、排水機構550と、板バネ(弾性体)6と、複数の摩擦部材7とを備えている。なお、図10は、固定部材520の外筒部521を省略して表示している。
【0053】
固定部材520は、外筒部(第1筒部)521と、内筒部522と、底壁部523とで構成される。内筒部522はシャフト8に相対回転不能に固定されている。内筒部522は、コイルバネ4と軸方向に対向する面が、コイルバネ4に沿うように螺旋状に形成されている。そのため、図10に示すように、この螺旋の開始位置と終了位置との境界には、段差部522aが形成されている。
【0054】
回動部材530は、外筒部(第2筒部)531と、内筒部532と、底壁部533と、プーリ支持部534とで構成される。プーリ支持部534は、第1実施形態のプーリ支持部34と同様に形成されている。内筒部532はブッシュ9を介してシャフト8に相対回転可能に取り付けられている。
【0055】
外筒部531の外径は、基部側が先端側よりも大きくなっている。外径が大きい部分を大径部531aとする。外筒部531の外周面(詳細には大径部531a)には、全周に亘って水溜め溝531bが形成されている。この水溜め溝531bの深さ方向は、軸方向である。
【0056】
図10に示すように、水溜め溝531bの径方向外側の周壁には切り欠き531cが形成されている。この切り欠き531cにより、排水機構550の排水口553が構成される。本実施形態のオートテンショナ501は、回動部材530の切り欠き531c(排水口553)が、水溜め溝531bの下側に位置するように設置される。排水口553の周方向範囲Lは、周方向角度が40度以下の範囲とすることが好ましい。なお、回動部材530の揺動角度は、+15度〜−15度の範囲内である。
【0057】
回動部材530の外筒部531の先端部は、固定部材520の外筒部521と径方向に重なって配置されている。第1実施形態では、回動部材30の外筒部31が、固定部材20の外筒部21の径方向外側に配置されていたが、本実施形態では、固定部材520の外筒部521が、回動部材530の外筒部531の径方向外側に配置されている。
【0058】
固定部材520の外筒部521の先端部は、回動部材530の外筒部531に形成された水溜め溝531bの内側に挿入されている。そのため、水溜め溝531bと、固定部材520の外筒部521の先端部との隙間は、U字状となっている。このU字状の隙間が、排水機構550の通水路552を構成している。
【0059】
固定部材520の外筒部521の外周面と、回動部材530の外筒部531の外周面との隙間のうち、排水口553を除く部分が、排水機構550の入水口551を構成している。排水機構550は、上述の入水口551と通水路552と排水口553とで構成されている。
【0060】
コイルバネ4は、両端部が固定部材520と回動部材530にそれぞれ係止されている。図10に示すように、固定部材520に対するコイルバネ4の端部の係止の方法は、第1実施形態における回動部材30に対するコイルバネ4の端部の係止の方法と同じである。すなわち、コイルバネ4の図9中の左側端部4bは、板バネ6を介して固定部材520の段差部522aを押圧しており、これにより、コイルバネ4の端部4bは固定部材520に係止されている。回動部材530に対するコイルバネ4の端部の係止の方法は、特に限定されない。
【0061】
第1実施形態では、板バネ6は、固定部材20の外筒部21に内周面に沿って配置されているが、本実施形態では、板バネ6は、回動部材530の外筒部531の内周面に沿って配置されている。また、板バネ6の一端部は、径方向内側へ90度に折り曲げられて、固定部材520の底壁部523の段差部522aとコイルバネ4の端部4bとの間に挟持されている。板バネ6の他端部は自由端となっている。
【0062】
第1実施形態では、複数の摩擦部材7は、固定部材20の外筒部21の内周面に接触しているが、本実施形態では、複数の摩擦部材7は、回動部材530の外筒部531の内周面に接触している。また、複数の摩擦部材7は、排水口553の周方向範囲L外に、周方向に並んで配置されている。図10のように排水口553が水溜め溝531bの真下に位置するときに、複数の摩擦部材7が軸中心の真下の位置から時計回りと反時計回りにそれぞれ20度(図10中のα)の範囲外に位置するように、複数の摩擦部材7を外筒部531に設置することが好ましい。板バネ6と摩擦部材7との結合方法は、第1実施形態と同様である。
【0063】
伝動ベルトの張力が増加した場合には、回動部材530がコイルバネ4の付勢力に抗して図10の反時計回りの方向に回動する。回動部材530の外筒部531の回動に伴って、摩擦部材7が回動部材530の外筒部531の内周面に対して摺動すると共に、板バネ6がわずかに拡径変形する。これにより、摩擦部材7が回動部材530の外筒部531の内周面に押し付けられる力が大きくなるため、摩擦部材7と回動部材530の外筒部531との間には大きな摩擦力が生じる。この摩擦力が、回動部材530の揺動を抑制するとと共に減衰させる減衰力となる。
【0064】
一方、伝動ベルトの張力が減少した場合には、回動部材530がコイルバネ4の付勢力によって図10の時計回りの方向に回動する。回動部材530の外筒部531の回動に伴って、摩擦部材7が回動部材530の外筒部531の内周面に対して摺動すると共に、板バネ6がわずかに縮径変形する。したがって、摩擦部材7が回動部材530の外筒部531の内周面に押し付けられる力が小さくなるため、摩擦部材7と回動部材530の外筒部531との間には小さい摩擦力しか生じない。このように、ベルトの張力が増加した場合と減少した場合とで、摩擦部材7と回動部材530の外筒部531との間に発生する摩擦力を異ならせることができる。
【0065】
また、本実施形態のオートテンショナ501では、入水口551に流入した泥水等は、通水路552に流れ込み、通水路552内を周方向に沿って下方に移動した後、排水口553から外部に排出される。そのため、オートテンショナ501の内部に泥水等が侵入するのを抑制しつつ、集めた泥水等をスムーズに排出することができる。
【0066】
また、本実施形態では、通水路552がU字状となっているため、第1実施形態と同様に、オートテンショナ501の内部への泥水等の侵入をより確実に抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態では、排水口553が、通水路552の下部と連通するため、通水路552に流入した泥水等を排水口553から確実に排出することができる。
【0068】
また、本実施形態では、排水口553の周方向範囲Lにおいて、回動部材530の外筒部531の内側に摩擦部材7が存在しない。したがって、排水口553から泥水等が内部に侵入することがあっても、排水口553から侵入した泥水等の影響を最も受けやすい位置に摩擦部材が存在しないため、摩擦部材7の磨耗を抑制できる。
【0069】
また、本実施形態のオートテンショナ501は、上述した第1実施形態の変更例と同様の変更を加えて実施できる。
【符号の説明】
【0070】
1 オートテンショナ
4 コイルバネ
6 板バネ(弾性体)
7 摩擦部材
20、520 固定部材
21、221、321、421、521 外筒部(第1筒部)
21b、221b、321b、421b、531b 水溜め溝
30、530 回動部材
31、331、431、531 外筒部(第2筒部)
50、550 排水機構
51、551 入水口
52、252、552 通水路
53、353、453、553 排水口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1筒部を有する固定部材と、
少なくとも一部分が前記第1筒部と径方向に重なって配置される第2筒部を有し、前記固定部材に対して回動自在に支持されると共に、ベルトが巻き掛けられるプーリを取り付け可能な回動部材と、
2つの前記筒部の内側に収容されると共に、一端が前記固定部材に係止され、他端が前記回動部材に係止されて、前記固定部材に対して前記回動部材を一方向に回動付勢するコイルバネと、
前記2つの筒部の境界部に設けられた排水機構とを備えており、
前記排水機構は、
前記第1筒部の外周面と前記第2筒部の外周面との隙間で構成され、周方向に沿って開口する入水口と、
前記2つの筒部の一方の外周面に周方向に沿って形成された水溜め溝と他方の前記筒部との隙間で構成され、前記入水口に連通する通水路と、
前記通水路の径方向外側の周壁に形成された少なくとも1つの排水口とを有することを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記水溜め溝の深さ方向が、前記筒部の筒軸方向であって、
前記水溜め溝内に、前記2つの筒部のうち水溜め溝が形成されていない方の筒部の先端部が挿入されていることを特徴とする請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
一端が前記回動部材と前記固定部材の一方に係止され、他端が自由端であり、前記回動部材と前記固定部材の他方の前記筒部の内周面に沿って延在する弾性体と、
前記弾性体に対して周方向に相対移動不能に結合され、前記回動部材と前記固定部材の前記他方の前記筒部の内周面と接触する摩擦部材とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記排水口が、前記通水路の下部と連通することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記排水口が、前記他方の前記筒部に形成されており、
前記排水口の周方向範囲において、前記他方の前記筒部の内側に、前記摩擦部材が存在しないことを特徴とする請求項3または4に記載のオートテンショナ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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