説明

オートテンショナ

【目的】固定部材1 に回動可能に支持されかつプーリ8 を回転自在に有する回動部材2 を、該両部材1,2 間に介装された捩りコイルばね3 により所定方向に回動付勢してプーリ8 にベルトを押圧させるオートテンショナにおいて、ベルトに所定の張力を付与してベルトの弛みを円滑に取り去り、かつ反張力付与方向への大きいダンピング力を容易に得る。
【構成】固定部材1 と回動部材2 との間に、フロントプレート21の突出軸21b に回動可能に外嵌合した内輪部22a と、該内輪部22a に対し、回動部材2 の所定方向への回動時に一側への回動を許容する一方、回動部材2 の反所定方向への回動時に他側への回動を規制する外輪部22b と、該外輪部22b を回動部材2 に係合支持するアウタリング22c とを有するワンウェイクラッチ22を設け、内輪部22a に摺接する摺接部材31の下面をナット部材32の締結力により上記内輪部22a に押圧する皿ばね部材33を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば自動車エンジンによる補機類駆動のためのVベルト等に所定の張力を付与しかつ該張力の変動に応じてダンピング力を自動的に変化させるようにしたオートテンショナに関し、特にそのベルトへの張力付与方向とは異なる反張力付与方向へのダンピング力を高める対策に関する。
【0002】
【従来の技術】この種のオートテンショナとしては、例えば米国特許第4473362号で示されるものが一般に知られており、駆動プーリと複数の従動プーリとの間に巻き掛けられたベルトのプーリ間スパンを押圧して、駆動プーリの回転力を全ての従動プーリに伝達させるために用いられる。
【0003】具体的には、図5に例示するように、軸部aを有して例えば自動車エンジン等の固定体に固定される金属製の固定部材bと、該固定部材bの軸部aに回動可能に外嵌合されたボス部cを有するとともに、先端にボス部cの軸心と平行な軸心でプーリdを回転自在に支持するアーム部eが突設され、上記ボス部cにおいて固定部材bに回動可能に支持された金属製の回動部材fと、上記両部材b,f間に縮装されて該回動部材fを固定部材bに対し所定方向に回動付勢する捩りコイルばねgとを備えている。そして、上記固定部材bの軸部aと回動部材fのボス部cとの間にはインサートベアリングhが、また上記回動部材fのボス部c外周側にはスプリングサポートiが、各々、ダンピング部材として配設されている。
【0004】上記オートテンショナでは、上記回動部材fの回動付勢力によりプーリdに図外のベルトを押圧させて所定の張力を付与するのみならず、該張力の変動に応じてダンピング力を変化させるようになされており、付加価値の高いテンショナとなっている。つまり、上記プーリdにベルトが巻き掛けられた状態では、上記インサートベアリングh及びスプリングサポートiと回動部材fのボス部cとの各間にはベルト力(ベルトからプーリdにかかる反力)と捩りコイルばねgの付勢力とが合わさって摩擦によるダンピング力が発生する。そして、この状態で、上記ベルトの張力が減少方向に変動すると、ベルト力の減少に応じてダンピング力が小さくなり、このことで、プーリdのベルトへの追随性が高くなってベルトの張力低下が防止される。一方、ベルトの張りに対してはベルト力の増大によりダンピング力も大きくなり、このことで、プーリdに大きい抵抗力が付与されてベルトのばたつきが防止される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、小排気量の自動車エンジンなどの場合、気筒数が少ないために回転変動の増加に伴ってベルト張力の変動が増加することから、より大きいダンピング力を発生させる必要がある。
【0006】しかしながら、上記従来のオートテンショナでは、ダンピング部材がウレタン樹脂等の合成樹脂製であるために、摺動性や耐摩耗性では十分な機能を果たしていても、回動部材のボス部との間に発生する摩擦力は比較的小さく、したがって、大きいダンピング力を発生させることが困難であるという問題がある。
【0007】また、プーリ間へのベルト張設直後などにおいてベルトに弛みが発生することがあり、この弛みが起因してベルト張力変動時などにプーリに対してベルトが滑る虞がある。
【0008】本発明はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ベルトに所定の張力を付与してベルトの弛みを円滑に取り去ると共に、その張力付与方向とは異なる反張力付与方向への大きいダンピング力が容易に得られるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明が講じた解決手段は、軸部を有し、固定体に固定可能な固定部材と、該固定部材の軸部にボス部が回動可能に外嵌合され、該回動軸心と平行な軸心周りに回転可能なプーリを有する回動部材と、上記固定部材及び回動部材の間に縮装されて該回動部材を固定部材に対し所定方向に回動付勢する捩りコイルばねと、上記固定部材及び回動部材の間に介装されて該回動部材の回動をダンピングするためのダンピング部材とを備え、上記回動部材の回動付勢力により上記プーリにベルトを押圧させて所定の張力を付与し、かつ上記張力の変動に応じてダンピング力を変化させるようにしたオートテンショナを前提とする。そして、上記固定部材及び回動部材の間に、固定部材の軸部に回動可能に外嵌合された固定部と、回動部材に係合支持され、回動部材の所定方向への回動時に上記固定部に対する一側への回動を許容する一方、回動部材の反所定方向への回動時に上記固定部に対する他側への回動を規制する回動部とを有する規制手段を設ける。さらに、上記ダンピング部材を、上記固定部材の軸部に外嵌合されて上記規制手段の固定部に下面を摺接する摺接部材により構成し、上記摺接部材と、上記固定部材の軸部に螺合されるナット部材との間に、摺接部材の下面を上記ナット部材の締結力により規制手段の固定部に押圧する皿ばね部材を設ける構成としたものである。
【0010】また、請求項2記載の発明が講じた解決手段は、上記請求項1記載の発明の規制手段を特定し、ワンウェイクラッチにより構成したものである。
【0011】また、請求項3記載の発明が講じた解決手段は、上記請求項1または請求項2記載の発明の摺接部材を特定し、合成樹脂により成形する構成としたものである。
【0012】また、請求項4記載の発明が講じた解決手段は、上記請求項1、請求項2または請求項3記載の発明のダンピング部材を特定し、固定部材の軸部と回動部材のボス部との間に介装され、回動部材の回動時にボス部の内周面との間でベルト張力の変動に応じた摩擦力を発生するインサートベアリングにより構成したものである。
【0013】また、請求項5記載の発明が講じた解決手段は、上記請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載の発明のダンピング部材を特定し、回動部材のボス部外周側に配設され、回動部材の回動時にボス部の外周面との間でベルト張力の変動に応じた摩擦力を発生するスプリングサポートにより構成したものである。
【0014】さらに、請求項6記載の発明が講じた解決手段は、上記請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5記載の発明のナット部材と皿ばね部材との間を特定し、その間にワッシャを介在せしめる。そして、ナット部材に、外周部を周方向所定間隔置きに切欠いた複数の切欠部を設けるとともに、上記ワッシャに、上記ナット部材の締結時に切欠部に係合する複数の係合片を設ける構成としたものである。
【0015】
【作用】上記の構成により、請求項1記載の発明では、規制手段により、回動部材に係合支持した回動部を、固定部材の軸部に回動可能に外嵌合した固定部に対して、回動部材の所定方向への回動時に一側への回動を許容する一方、回動部材の反所定方向への回動時に他側への回動を規制し、ベルト張設直後などにおいて発生し易いベルトの弛み等が、回動部材の所定方向への回動時つまり張力付与方向への回動時に固定部に対して回動部が一側へ回動して吸収され、この弛みを吸収した状態で、回動部材の反所定方向への回動つまり反張力付与方向への回動が規制されるようにしている。
【0016】その場合、規制手段の固定部は、固定部材の軸部にナット部材が螺合締結された状態で押圧する皿ばねにより、摺接部材の下面との間で摩擦力が作用しているので、回動部材の反張力付与方向への回動が規制手段によって規制されているにも拘らず、規制手段の固定部が摺接部材の下面(固定部材側)に対して反張力付与方向へ高摩擦状態で回動し、このことで、捩りコイルばねを変えることなく、回動部材の反張力付与方向への回動時に大きいダンピング力を容易に得ることができる。
【0017】また、規制手段により、回動部材による張力付与方向への回動時に固定部に対する回動部の一側への回動が規制されないことから、オートテンショナのベルトに対する追随性が損なわれることがなく、プーリ間へのベルト張設直後などにおいてベルトに生じた弛みが円滑に取り去られ、ベルト張力変動時などにプーリに対してベルトが弛みによって滑ることはない。
【0018】また、請求項2記載の発明では、規制手段がワンウェイクラッチにより構成されているので、規制手段が非常にシンプルな構成となり、回動部材の反張力付与方向への回動規制が確実かつ簡単に行える。
【0019】また、請求項3記載の発明では、摺接部材が合成樹脂により成形されているので、回動部材の回動時における摺動性及び耐摩耗性が確保されつつ、摺接部材の下面と規制手段(ワンウェイクラッチ)の固定部との間の摩擦力が大きなものとなる。
【0020】また、請求項4記載の発明では、固定部材の軸部と回動部材のボス部との間にダンピング部材としてのインサートベアリングが介装せしめられているので、回動部材の回動時にボス部の内周面との間でベルト張力の変動に応じた摩擦力が発生し、回動部材の反張力付与方向への回動時にさらに大きなダンピング力を得ることができる。
【0021】また、請求項5記載の発明では、回動部材のボス部外周側にダンピング部材としてのスプリングサポートが配設されているので、回動部材の回動時にボス部の外周面との間でベルト張力の変動に応じた摩擦力が発生し、回動部材の反張力付与方向への回動時により大きなダンピング力を得ることができる。
【0022】さらに、請求項6記載の発明では、ナット部材の外周部を周方向所定間隔置きに切欠いた複数の切欠部に対し、ナット部材と皿ばね部材との間に介在されるワッシャに設けた複数の係合片がナット部材の締結時に係合するので、ナット部材はその締結状態でワッシャによる回り止めがなされ、このワッシャを介したナット部材の締結力により摺接部材の下面と規制手段の固定部との間に皿ばねからの押圧力を均一の摩擦力として常時作用させ、回動部材の反張力付与方向への回動時に大きなダンピング力が常時得られることになる。
【0023】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0024】図1および図2は本発明の一実施例に係るオートテンショナを示し、このオートテンショナは、例えば自動車のディーゼルエンジン等の固定体に固定可能なアルミ合金等の金属からなる固定部材1と、該固定部材1に組み付けられて回動可能に支持された金属製の回動部材2と、上記固定部材1と回動部材2との間に縮装され、該回動部材2を固定部材1に対し所定方向に回動付勢する捩りコイルばね3とを備えている。
【0025】上記固定部材1は、フロント側(図1の上側)が開口された有底円筒状のリヤカップ部1aと、該リヤカップ部1aの底部中央から軸心方向に延びる軸部4とを有し、図外の取付部において固定体に固定するようになされている。また、上記リヤカップ部1aの周壁部には、該周壁部を半径方向に貫通する基端側係止孔5が形成されている。
【0026】上記回動部材2は、開口部が上記リヤカップ部1aの開口部と対向するフロントカップ部2aと、該フロントカップ部2aの底部中央から軸心方向に延び、かつ固定部材1の軸部4にその先端側から円筒状のダンピング部材であるインサートベアリング6を介して外嵌合されるボス部7と、上記フロントカップ部2aの外周に半径方向外方に向けて突設され、先端にボス部7の軸心と平行な軸心でプーリ8が回転自在に支持されたアーム部9とを有する。該回動部材2はボス部7において固定部材1に回動可能に支持され、かつ固定部材1の軸部4先端において図示しない抜止め手段により抜止めがなされている。そして、上記プーリ8には、例えば、自動車エンジンにおける補機類駆動用のVベルト等のような所定の張力を付与すべきベルトtが図2に仮想線(二点鎖線)で示すように巻き掛けられる。また、上記フロントカップ部2aの周壁部には、該周壁部を半径方向に貫通する先端側係止孔12が形成されている。
【0027】上記捩りコイルばね3は、本体が左巻きで、基端側及び先端側の各端部3a,3bが何れも本体から半径方向外方に向けて突出する形状とされている。上記基端側端部3aは固定部材1のリヤカップ部1a周壁部における基端側係止孔5に、また先端側端部3bは回動部材2のフロントカップ部2a周壁部における先端側係止孔12にそれぞれ半径方向に貫通して係止されており、このことで、各端部3a,3bは周方向の移動が規制されている。そして、該両端部3a,3bが係止された状態で本体が拡径する方向に動作することにより、回動部材2を図2の反時計回り方向に回動付勢するようになされている。
【0028】上記インサートベアリング6の内外周面は共に先端側が僅かながら小径となる断面テーパ状に形成されており、これに応じて、軸部4の外周面及びボス部7の内周面も共に同様の断面テーパ状をなしている。また、インサートベアリング6は図外の回り止め手段により固定部材1の軸部4側に回り止めされている。そして、上記軸部4には、その周方向略180°未満の所定領域に軸部4の周方向180°以上の残る領域の径方向への肉厚に比して径方向内方へ凹む凹み部4aが設けられ、捩りコイルばね3による回動部材2の所定方向への回動付勢時に、固定部材1の軸部4と回動部材2のボス部7との間において固定部材1の軸部4の中心に対して回動部材2のボス部7の軸心を反凹み部4a側に偏心させて、回動部材2の回動がスムーズに行えるようにし、アーム部9のロックを確実に回避するようにしている。
【0029】さらに、上記捩りコイルばね3の基端側とボス部7との間には、ダンピング部材である円筒状のスプリングサポート13が介装されている。このスプリングサポート13の内周面はボス部7の外周面に摺接可能とされている。さらに、スプリングサポート13の基端側開口縁には、リヤカップ部1aの底部表面に接する外向きフランジ13aが形成されている。そして、外向きフランジ13aが捩りコイルばね3の軸心方向の押圧力でリヤカップ部1aの底部表面に押し付けられることにより、スプリングサポート13は固定部材1側に固定されている。また、この固定状態においてフロントカップ部2aが図2の時計回り方向に回動したとき、捩りコイルばね3の本体が縮径することで、スプリングサポート13は締め付けられてその内周面がボス部7の外周面に圧接するようになり、このことで、回動部材2の所定方向への回動に対するダンピング力が発生するようになされている。
【0030】そして、この発明の特徴部分として、図3および図4にも示すように、上記固定部材1の軸部4の先端には、下部に段差部21aを有しかつその段差部21aの中心よりフロント側へ突出する突出軸21b(軸部)を有する略凸字状のフロントプレート21が凹凸嵌合により相対回転不能に固定されている。上記フロントプレート21の外周には、外方へ突出する突起21cが設けられ、その突起21cを起点とする略40°の範囲に対応する上記アーム部9に設けられた切欠凹部9a内で該突起21cを回動させて、回動部材2の回動範囲を規定するようにしている。また、上記フロントプレート21の段差部21a上には、突出軸21bに回動自在に外嵌合された規制手段としての円盤状のワンウェイクラッチ22が配設されている。
【0031】該ワンウェイクラッチ22は、上記フロントプレート21の突出軸21bに回動可能に外嵌合された固定部としての内輪部22aと、該内輪部22aの外周面に内周面が相対回転可能に支持され、上記回動部材2に環状のアウタリング23を介して係合支持された回動部としての外輪部22bと、上記内輪部22aの外周面両側端位置より径方向外方に立設され、上記外輪部22bの両側端をスラスト移動不能に支える左右のスラストメタル22c,22cと、上記内輪部22aの外周面所定間隔置きに設けられた凹部22d(図では2箇所のみ示す)と、該凹部22d内において上記外輪部22bの内周面への摺接により回動しつつ周方向に移動可能に設けられ、上記回動部材2の所定方向への回動時に外輪部22bと共に内輪部22aに対する一側(図4の時計方向回り)への回動を許容する一方、上記回動部材2の反所定方向への回動時に外輪部22bと共に内輪部22aに対する他側(図4の反時計方向回り)への回動を規制する略円柱形状のカムローラ22eと、上記各スラストメタル22cの内側面に設けられ、上記カムローラ22eをスラスト移動不能に支持する側板22f,22fとを備えている。上記カムローラ22eは、回動部材2の反所定方向への回動時に凹部22d内における移動方向他側面に形成された円弧面への当接により外輪部22bとの摺接による他側への回動が規制されて外輪部22bを内輪部22aに対して回動規制するようにしている一方、回動部材2の所定方向への回動時に凹部22d内における移動方向一側面との間に縮装された一対のスプリング22g(図では一箇所のみ示す)により一側面側に付勢して外輪部22bとの摺接による回動を許容して外輪部22bを内輪部22aに対して回動させるようにしている。また、上記アウタリング23は、上記回動部材2の外周の所定間隔置き(120°置き)の3箇所に設けられた係合孔2a,…にそれぞれ係合支持される係合片23a,…を有していて、回動部材2に伴う外輪部22bの回動を可能としている。
【0032】また、上記ワンウェイクラッチ22のフロント側には、フロントプレート21の突出軸21bに外嵌合された摺接部材31が配置されている。上記摺接部材31は合成樹脂により環状に成形されてなり、その下面が、上記ワンウェイクラッチ22の内輪部22aのフロント側側面に対して摺接するようになっている。そして、上記摺接部材31と、上記フロントプレート21の突出軸21b先端部に螺合されるナット部材32との間には、摺接部材31の下面を上記ナット部材32の締結力によりワンウェイクラッチ22の内輪部22a(フロント側側面)に押圧する皿ばね部材33が設けられている。また、上記ナット部材32と皿ばね部材33との間にはワッシャ34が介在され、上記ナット部材32は、外周部を周方向所定間隔置きに切欠いた複数の切欠部32a,…を有しているとともに、上記ワッシャ34は、上記ナット部材32の締結時に切欠部32aに係合する複数の係合片34a,…を有している。
【0033】したがって、上記実施例では、オートテンショナのプーリ8にベルトtが巻き掛けられると、該オートテンショナにおけるインサートベアリング6と回動部材2のボス部7内周面及びスプリングサポート13内周面とボス部7外周面との各間では、それぞれベルト力と捩りコイルばね3の付勢力とが合わさってダンピング力が生じるようになり、この状態で上記ベルトtの張力が減少すると、ベルト力の減少によりダンピング力が小さくなる。すると、回動部材2が回動し易くなってプーリ8のベルトtに対する追随性が高くなる。一方、ベルトtの張りに対してはベルト力の増大により上記ダンピング力も大きくなり、このことで、プーリ8に大きい抵抗力を付与してベルトtのばたつきが防止される。
【0034】そして、ワンウェイクラッチ22のカムローラ22eにより、回動部材2にアウタリング23を介して係合支持した外輪部22bを、フロントプレート21の突出軸21bに回動可能に外嵌合した内輪部22aに対して、回動部材2の所定方向への回動時に内輪部22aに対する外輪部22bの一側への回動を許容する一方、回動部材2の反所定方向への回動時に内輪部に対する外輪部の他側への回動を規制し、オートテンショナのプーリ8にベルトtを巻き掛けたベルト張設直後などにおいて発生し易いベルトtの弛み等が、回動部材2の所定方向への回動時つまり張力付与方向への回動時に内輪部22aに対して外輪部22bが一側へ回動して吸収され、この弛みを吸収した状態で、回動部材2の反所定方向への回動つまり反張力付与方向への回動が内輪部22aと外輪部22bとの間で規制されるようにしている。
【0035】その場合、ワンウェイクラッチ22の内輪部22aは、フロントプレート21の突出軸21bの先端部にナット部材32が螺合締結された状態で押圧する皿ばね部材33により、摺接部材31の下面との間で摩擦力が作用しているので、回動部材2の反張力付与方向への回動がワンウェイクラッチ22によって規制されているにも拘らず、ワンウェイクラッチ22の内輪部22aが摺接部材31の下面(固定部材1側)に対して反張力付与方向へ高摩擦状態で他側へ回動する。これにより、捩りコイルばねを変えることなく、回動部材2の反張力付与方向への回動時に、インサートベアリング6と回動部材2のボス部7内周面及びスプリングサポート13内周面とボス部7外周面との各間で生じるダンピング力と相俟って大きいダンピング力を容易に得ることができる。
【0036】しかも、ワンウェイクラッチ22により、回動部材2による張力付与方向への回動が規制されないことから、オートテンショナのベルトtに対する追随性が損なわれることがなく、ベルトtの張力低下を速やかに防止することができる。その上、プーリ間へのベルト張設直後などにおいてベルトtに生じた弛みが円滑に取り去られ、ベルト張力変動時などにプーリに対してベルトが弛みによって滑ることを確実に防止できる。
【0037】また、上記の如くワンウェイクラッチによれば、規制手段が非常にシンプルな構成となり、回動部材2の反張力付与方向への回動規制を確実かつ簡単に行うことができる。
【0038】さらに、摺接部材31が合成樹脂により成形されているので、回動部材2の回動時における摺動性及び耐摩耗性を確保しつつ、摺接部材31の下面とワンウェイクラッチ22の内輪部22aとの間の摩擦力を大きなものにできる。
【0039】さらにまた、ナット部材32の外周部を周方向所定間隔置きに切欠いた複数の切欠部32aに対し、ナット部材32と皿ばね部材33との間に介在されるワッシャ34に設けた複数の係合片34a,…がナット部材32の締結時に係合するので、ナット部材32はその締結状態でワッシャ34による回り止めがなされ、このワッシャ34を介したナット部材32の締結力により摺接部材31の下面とワンウェイクラッチ22の内輪部22aとの間に皿ばね33からの押圧力を均一の摩擦力として常時作用させ、回動部材2の反張力付与方向への回動時に大きなダンピング力を常時得ることができる。
【0040】
【発明の効果】以上の如く、請求項1記載の発明におけるオートテンショナによれば、回動部材の所定方向への回動時に回動部を回動させて、ベルト張設直後のベルトの弛み等を吸収してベルト張力変動時などにベルトの弛みによるプーリでの滑りを確実に防止しつつベルトに対する追随性を損なうことなくベルトの張力低下を速やかに防止し、この弛みを吸収した状態での回動部材の反張力付与方向への回動を規制する一方で、摺接部材の下面と規制手段の内輪部との間に皿ばねによる高摩擦力を作用させることによって回動部材の反張力付与方向への回動時に大きなダンピング力を容易に得ることができる。
【0041】また、請求項2記載の発明におけるオートテンショナによれば、ワンウェイクラッチよりなる規制手段を非常にシンプルにして、回動部材の反張力付与方向への回動規制を確実かつ簡単に行うことができる。
【0042】また、請求項3記載の発明におけるオートテンショナによれば、摺接部材を合成樹脂により成形して、回動部材の回動時における摺動性及び耐摩耗性を確保しつつ、摺接部材の下面と規制手段の内輪部との間の摩擦力を大きくできる。
【0043】また、請求項4記載の発明におけるオートテンショナによれば、回動部材の回動時に軸部とボス部の内周面との間でインサートベアリングベルトによる張力の変動に応じた摩擦力を発生させて、回動部材の反張力付与方向への回動時のダンピング力をさらに大きくすることができる。
【0044】また、請求項5記載の発明におけるオートテンショナによれば、回動部材の回動時にボス部の外周面との間でスプリングサポートによるベルト張力の変動に応じた摩擦力を発生させて、回動部材の反張力付与方向への回動時のダンピング力をより大きくすることができる。
【0045】さらに、請求項6記載の発明におけるオートテンショナによれば、ナット部材と皿ばね部材との間でワッシャの係合片をナット部材の切欠部に係合したので、ナット部材をその締結状態でワッシャにより回り止めしつつ、規制手段の固定部と摺接部材の下面との間に均一の摩擦力を常時作用させ、回動部材の反張力付与方向への回動時の大きなダンピング力を常時得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図2のI−I線断面図である。
【図2】実施例に係るオートテンショナの平面図である。
【図3】実施例に係るワンウェイクラッチの平面図である。
【図4】ワンウェイクラッチの作動を説明するカムローラ付近の横断平面図である。
【図5】従来例に係る図1相当図である。
【符号の説明】
1 固定部材
2 回動部材
3 捩りコイルばね
4 軸部
6 インサートベアリング(ダンピング部材)
7 ボス部
8 プーリ
13 スプリングサポート(ダンピング部材)
22 ワンウェイクラッチ(規制手段)
22a 内輪部(固定部)
22b 外輪部(回動部)
31 摺接部材(ダンピング部材)
32 ナット部材
32a 切欠部
33 皿ばね部材
34 ワッシャ
34a 係合片
t ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸部を有し、固定体に固定可能な固定部材と、上記固定部材の軸部にボス部が回動可能に外嵌合され、該回動軸心と平行な軸心周りに回転可能なプーリを有する回動部材と、上記固定部材及び回動部材の間に縮装されて該回動部材を固定部材に対し所定方向に回動付勢する捩りコイルばねと、上記固定部材及び回動部材の間に介装されて該回動部材の回動をダンピングするためのダンピング部材とを備え、上記回動部材の回動付勢力により上記プーリにベルトを押圧させて所定の張力を付与し、かつ上記張力の変動に応じてダンピング力を変化させるようにしたオートテンショナであって、上記固定部材及び回動部材の間には、固定部材の軸部に回動可能に外嵌合された固定部と、回動部材に係合支持され、回動部材の所定方向への回動時に上記固定部に対する一側への回動を許容する一方、回動部材の反所定方向への回動時に上記固定部に対する他側への回動を規制する回動部とを有する規制手段が設けられ、上記ダンピング部材は、上記固定部材の軸部に外嵌合されて上記規制手段の固定部に下面を摺接する摺接部材よりなり、上記摺接部材と、上記固定部材の軸部に螺合されるナット部材との間には、摺接部材の下面を上記ナット部材の締結力により規制手段の固定部に押圧する皿ばね部材が設けられていることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】 規制手段は、ワンウェイクラッチよりなることを特徴とする請求項1記載のオートテンショナ。
【請求項3】 摺接部材は、合成樹脂により成形されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のオートテンショナ。
【請求項4】 ダンピング部材は、固定部材の軸部と回動部材のボス部との間に介装され、回動部材の回動時にボス部の内周面との間でベルト張力の変動に応じた摩擦力を発生するインサートベアリングであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のオートテンショナ。
【請求項5】 ダンピング部材は、回動部材のボス部外周側に配設され、回動部材の回動時にボス部の外周面との間でベルト張力の変動に応じた摩擦力を発生するスプリングサポートであることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3または請求項4記載のオートテンショナ。
【請求項6】 ナット部材と皿ばね部材との間にはワッシャが介在され、上記ナット部材は、外周部を周方向所定間隔置きに切欠いた複数の切欠部を有しているとともに、上記ワッシャは、上記ナット部材の締結時に切欠部に係合する複数の係合片を有していることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5記載のオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平7−113447
【公開日】平成7年(1995)5月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−257896
【出願日】平成5年(1993)10月15日
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)