説明

オープンシールド機

【課題】 例えば施工場所が地下水の水位が高く緩い砂質土の場合など、オープンシールド機の推進量と掘削により変化する切羽地山の状態に応じて、フロント部内の地山を常に安定した状態に保つことができ、地山崩壊を防止できるオープンシールド機を得る。
【解決手段】 刃口を有するフロント部1dと、シールドジャッキ2を有するジャッキ部1eと、コンクリート函体を吊降ろすテール部1cとで構成されるオープンシールド機1において、前記フロント部1dに配設された隔壁3の前方位置に切羽土留板15を可動自在に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下水道、共同溝、電信・電話などの付設地下道等の地下構造物を市街地などに施工に使用するオープンシールド機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オープンシールド工法は開削工法(オープンカット工法)とシールド工法の長所を活かした合理性に富む工法であり、このオープンシールド工法で使用するオープンシールド機1の概略は図6、図8に示すように左右の側壁板1aと、これら側壁板1aに連結する底板1bとからなる前面、後面および上面を開口したもので、前記側壁板1aと底板1bの先端をフロント部1dとしてさらにその先端を刃口11に形成した。
【0003】
図中12はフロント部1dの先端左右に配設したスライド土留板、13はこのスライド土留板12を推進させるためのスライドジャッキ、14はストローク長を変更することで推進方向を変更する中折れジャッキを示す。
【0004】
また、側壁板1aの中央または後端近くにシールドジャッキ2を後方に向け上下に並べて配設し、この部分をジャッキ部1eとする。図中3は隔壁を示す。
【0005】
このジャッキ部1eの後方がコンクリート函体4を吊降ろすテール部1cである。
【0006】
かかるオープンシールド機1を使用して施工するオープンシールド工法は、図示は省略するが、発進坑内にこのオープンシールド機1を設置して、オープンシールド機1のシールドジャッキ2を伸長して発進坑内の反力壁に反力をとってオープンシールド機1を前進させ、地下構造物を形成する第1番目のコンクリート函体4を上方から吊り降ろし、オープンシールド機1のジャッキ部1e内で縮めたシールドジャッキ2の後方にセットする。シールドジャッキ2と反力壁との間にはストラットを配設して適宜間隔調整をする。
【0007】
また、発進坑は土留壁で構成し、オープンシールド機1を発進させるにはこの土留壁を一部鏡切りするが、必要に応じて薬液注入などで発進坑の前方部分に地盤改良を施しておくこともある。
【0008】
ショベル等の掘削機9でオープンシールド機1の前面または上面から土砂を掘削しかつ排土する。この排土工程と同時またはその後にシールドジャッキ2を伸長してオープンシールド機1を前進させる。この前進工程の場合、コンクリート函体4の前にはボックス鋼材または型鋼を用いた枠体よりなるプレスバー8を配設し、オープンシールド機1は後方にセットされたコンクリート函体4から反力をとる。
【0009】
そして第1番目のコンクリート函体4の前に第2番目のコンクリート函体4をオープンシールド機1のテール部1c内で吊り降ろす。以下、同様の排土工程、前進工程、コンクリート函体の4のセット工程を適宜繰返して、順次コンクリート函体4をオープンシールド機1の前進に伴い縦列に地中に残置し、さらにこのコンクリート函体4の上面に埋戻土5を入れる。
【0010】
なお、コンクリート函体4をオープンシールド機1のテール部1c内に吊り降ろす際には、コンクリートブロック等による高さ調整材7をコンクリート函体4下に配設し、このテール部1c内でオープンシールド機1の内側からコンクリート函体4の底部下方の底板1bとの隙間に裏込注入材6を一次注入し、さらに、オープンシールド機1を前進させ、底板1bが前進した後にここに形成される隙間とコンクリート函体4の左右にさらに裏込注入材6を二次注入して、裏込注入材の充填が終了する。
【0011】
このようにして、オープンシールド機1が到達坑まで達したならばこれを撤去して工事を完了する。
【0012】
このようなオープンシールド工法では、前記のごとくコンクリート函体4をオープンシールド機1の前進に伴い縦列に地中に残置し、コンクリート函体4は、オープンシールド機1のテール部1c内に吊り降ろされ、オープンシールド機1の前進とともに該テール部1cから出て地中に残されていくものであり、オープンシールド機1はこのように地中に残置したコンクリート函体4に反力をとって前進する。
【0013】
コンクリート函体4は鉄筋コンクリート製で、図9に示すように左側板4a、右側板4bと上床板4cと下床板4dとからなるもので、前後面を開口10として開放されている。
【0014】
前記先行技術は当業者間で一般的に行なわれているものであり、文献公知発明にかかるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記のようにオープンシールド工法によるオープンシールド機の掘進は、シールド機のフロント部で囲まれた中を切羽地山前方へ安定法勾配をつけながら掘削する。この場合、フロント部の切羽地山の掘削は、シールド機の掘進に伴い、シールド機の推進推力と切羽地山のバランスをとりながら掘削する。このため、切羽地山の形状は安定状態を保ちながら掘削されるが、常に変化する。
【0016】
ところで、従来のオープンシールド機は、図7に示すようにフロント部1dにはオープンシールド機1内への土砂の侵入を防ぐための隔壁3や、切羽の地山側部からの崩壊を防止するためのスライド土留板12は配設されているが、切羽前方からの地山崩壊を防ぐ手段として従来確立されたものはなかった。
【0017】
このため、図7に示すように施工場所が例えば地下水の水位が高く緩い砂質土系の地盤の場合は、フロント部内に地下水と土砂を溜めながら掘削することになるが、オープンシールド機1の推進時に切羽のAの箇所を掘削すると、法面の一部がBのように崩れ、前方の切羽地山周辺に影響を及ぼす場合があり、例えば、前方に配置した掘削重機の足場の安定性を確保できなくなる場合もあり、施工に支障をきたすおそれがあった。
【0018】
本発明は前記従来例の不都合を解消するものとして、例えば施工場所が地下水の水位が高く緩い砂質土の場合など、オープンシールド機の推進量と掘削により変化する切羽地山の状態に応じて、フロント部内の地山を常に安定した状態に保つことができ、地山崩壊を防止できるオープンシールド機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は前記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、刃口を有するフロント部と、シールドジャッキを有するジャッキ部と、コンクリート函体を吊降ろすテール部とで構成されるオープンシールド機において、前記フロント部に配設された隔壁の前方位置に切羽土留板を可動自在に設けたことを要旨とするものである。
【0020】
請求項1記載の本発明によれば、オープンシールド機のフロント部に配設されている隔壁の前方位置に切羽土留板をさらに配設したから、この切羽土留板が可動し、前方の切羽地山に押し付けられる。これにより、切羽地山を常に安定状態に保持できる。特に、掘進作業を一時的に休止する場合でも、切羽土留板を切羽に押し付けることで切羽地山の開放面積を小さくすることができて安全である。
【0021】
請求項2記載の本発明は、前記切羽土留板は、該切羽土留板の左右端部に位置させて少なくとも上下2段に切羽土留移動ジャッキが配設され、この切羽土留移動ジャッキの伸縮によりオープンシールド機の推進方向の前後方向に可動するように構成されたことを要旨とするものである。
【0022】
請求項2記載の本発明によれば、切羽土留板は切羽土留移動ジャッキの伸縮でオープンシールド機の推進方向の前後方向に可動するから、簡単に可動できる。
【0023】
請求項3記載の本発明は、前記切羽土留板は、配設された切羽土留移動ジャッキの上下の伸縮量を変えることで、切羽土留板の傾斜角度が設定されることを要旨とするものである。
【0024】
請求項3記載の本発明によれば、配設された切羽土留移動ジャッキの上下の伸縮量を変えることで、切羽土留板の傾斜角度が設定されるから、切羽土留板をフロント部内の地山の法勾配にほぼ合わせることができ、地山の安定性をより確実なものにできる。特に、掘進休止時に切羽地山の法面を保持しておく必要がある場合に有効である。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように本発明のオープンシールド機は、例えば施工場所が地下水の水位が高く緩い砂質土の場合など、オープンシールド機の推進量と掘削により変化する切羽地山の状態に応じて、フロント部内の地山を常に安定した状態に保つことができ、地山崩壊を防止できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明のオープンシールド機の実施形態を示す縦断側面図、図2は同上平面図、図3は同上切羽土留板の箇所の縦断正面図で、図6、図7に示した従来例と同一の構成要素には同一の参照符号を付してある。
【0027】
本発明のオープンシールド機1も、基本構成は従来と同様であり、フロント部1d、ジャッキ部1eおよびテール部1cから構成され、フロント部1dには左右側部にスライドジャッキ13とスライド土留板12とが配設され、その内側にストローク差を変えることでオープンシールド機1の進行方向を変換するための中折れジャッキ14が配設されている。
【0028】
ジャッキ部1eには後方のコンクリート函体に反力をとってオープンシールド機1を推進するためのシールドジャッキ2が配設され、テール部1cにはコンクリート函体を吊降ろすためのスペースが形成されている。
【0029】
かかる構成のオープンシールド機1において、フロント部1dの左右の側壁板1aの内側で、隔壁3の前方に位置させて図3にも示すようにフロント部1dの前面開口を塞ぐ切羽土留板15を可動自在に設けた。
【0030】
この切羽土留板15は、該切羽土留板の左右端部に位置させて少なくとも上下2段に切羽土留移動ジャッキ16が配設され、この切羽土留移動ジャッキ16の伸縮によりオープンシールド機1の推進方向の前後方向にフロント部1d内で可動するように構成され、前記複数の切羽土留移動ジャッキ16はそれぞれ単独で伸縮ストロークが設定可能である。
【0031】
次に動作を説明する。オープンシールド工法の基本構成は図6について既に説明したとおりであるからここでの詳細な説明は省略する。図2は切羽土留板15の移動前の後退位置にある場合で、切羽土留移動ジャッキ16は収縮状態にある。
【0032】
オープンシールド機1が掘進し、例えば切羽が地下水位の高い砂質系地盤になった場合、掘削の法面が崩壊しやすくなるが、かかる場合、図4に示すように切羽土留移動ジャッキ16を伸張して切羽土留板15をフロント部1d内で前方に移動する。
【0033】
これによりフロント部1d内の地山に切羽土留板15が押し付けられ、掘削の法面下部の崩壊を防ぐことができる。また、切羽土留板15を地山に押し付けることにより、掘削法面高さも低くなり、掘削法面の安定性が向上する。
【0034】
また、掘進作業を一時的に休止する場合も、図4に示すような状態で切羽土留板15を地山に押し付けておけば、切羽地山の開放面積を小さくすることができ安全である。
【0035】
さらに、前記のように切羽土留移動ジャッキ16は複数設置され、それぞれが異なるストークで伸縮可能であるから、上下位置の切羽土留移動ジャッキ16の伸縮量を異ならせることで、図5に示すように切羽土留板15を前方に向けて任意の角度に傾斜させることができる。よって、切羽土留板15を掘削によって変化するフロント部1d内の切羽地山の法勾配にほぼ合わせることができて、地山の安定性がさらに向上する。
【0036】
そして、前記のように切羽土留板15を地山の勾配に合わせて地山に押し付けられることで、掘削休止時に切羽地山の法面を保持しておく必要がある場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のオープンシールド機の実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明のオープンシールド機の実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明のオープンシールド工法の実施形態を示す切羽土留板の箇所の縦断正面図である。
【図4】本発明のオープンシールド機の実施形態を示す切羽土留板を前方に移動させた状態の縦断側面図である。
【図5】本発明のオープンシールド機の実施形態を示す切羽土留板を前方に傾斜させて移動させた状態の縦断側面図である。
【図6】従来のオープンシールド機の平面図である。
【図7】従来のオープンシールド機の掘削状態を示す縦断側面図である。
【図8】オープンシールド工法の概略を示す縦断側面図である。
【図9】コンクリート函体の斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 オープンシールド機 1a 側壁板
1b 底板 1c テール部
1d フロント部 1e ジャッキ部
2 シールドジャッキ 3 隔壁
4 コンクリート函体 4a 左側板
4b 右側板 4c 上床板
4c 下床板 5 埋戻土
6 裏込注入材 7 高さ調整材
8 プレスバー 9 掘削機
10 開口 11 刃口
12 スライド土留板 13 スライドジャッキ
14 中折れジャッキ 15 切羽土留板
16 切羽土留移動ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃口を有するフロント部と、シールドジャッキを有するジャッキ部と、コンクリート函体を吊降ろすテール部とで構成されるオープンシールド機において、前記フロント部に配設された隔壁の前方位置に切羽土留板を可動自在に設けたことを特徴とするオープンシールド機。
【請求項2】
前記切羽土留板は、該切羽土留板の左右端部に位置させて少なくとも上下2段に切羽土留移動ジャッキが配設され、この切羽土留移動ジャッキの伸縮によりオープンシールド機の推進方向の前後方向に可動するように構成された請求項1記載のオープンシールド機。
【請求項3】
前記切羽土留板は、配設された切羽土留移動ジャッキの上下の伸縮量を変えることで、切羽土留板の傾斜角度が設定される請求項2記載のオープンシールド機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−248723(P2010−248723A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96955(P2009−96955)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000189903)
【出願人】(501200491)
【Fターム(参考)】