説明

カカオエキス及びこれを添加した飲料

【課題】 従来のカカオエキスに比して、香り立ち(広がり)、甘み、自然なカカオ感に優れるカカオエキス及びこれを添加した高い香味を有する飲料を提供する。
【解決手段】 原料カカオを水蒸気と接触させてカカオ中のエキス分を水蒸気に抽出し、次いで抽出された水蒸気を冷却して得られた無色もしくは淡色透明の、カフェインを含まない液体の溜出物からなるカカオエキス及び前記カカオエキスを添加してなる飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香り立ち(広がり)、甘み、自然なカカオ感に優れるカカオエキス及びこれを添加した飲料に関するものである。詳細には、原料カカオを水蒸気蒸留に付すことにより得られる無色もしくは淡色透明の、カフェインを含まないカカオエキス及びこれを添加したココア飲料及びコーヒー飲料等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カカオエキスは以下に記載する様な、原料の処理及び抽出法を組み合わせた製法により、製造されるのが一般的である。
A)原料の処理
原料のカカオはカカオニブ、カカオマス、カカオパウダー及びカカオハスクなどが用いられ、これらの原料は、焙煎処理、発酵処理又は脱脂処理等の方法により処理され、使用された処理方法によって、それぞれ特徴ある風味のエキスが作られる。
更に最近の傾向としては、上記の処理方法に対し、発酵処理あるいはメイラード反応などを組み合わせて処理する方法なども用いられている。
【0003】
B)抽出法
A)の処理が施された原料に対し、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等の低級アルコールやプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールと水の混合物に浸積し、数時間〜数ヶ月間抽出し、固液分離を行った後の液体部分をカカオエキス又はカカオチンキと称している。
上記の方法に対し、アルコール類を用いず、水のみで抽出を行い、数時間〜数ヶ月間の抽出後、固液分離し、液層を得る。この場合、濃度が低いため、抽出液は、Brixが10〜50°程度になるまで濃縮される。
更にA)の処理が施された原料に有機溶剤、例えば、ノルマルヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル及びアセトン等を加え抽出する方法も知られている。この場合は、抽出後、固液分離し、この中から有機溶剤が1ppm以下になるまで取り除かれることが必須条件である。こうして得られたものは、カカオエキス又はカカオオレオレジンと呼ばれ、上述のカカオチンキと区別されている。
【0004】
カカオ中の不揮発性呈味成分、例えば、アミノ酸、糖及びカフェイン等は、極性の高い水によく溶解し、揮発性成分は、極性の低いアルコール類や有機溶剤等に溶解し易いため、上記抽出法に使用された抽出溶媒の極性によってその呈味成分の組成が異なり、そのため、それぞれの抽出法で得られたカカオエキスは、それらの使用目的、用途により使い分けられている。
【0005】
一方、スパイス、ハーブ等の精油を含むものから香気成分である精油を得る目的で、水蒸気蒸留法(SD法と呼ぶ)が香料業界では古くから利用されてきた。
しかし、カカオの様な、精油を含まないものや、油脂含量の多いものに対しては、香気成分を得ることが難しく、この方法が用いられることはなかった。
【0006】
特許文献1には、安価なカカオニブとシェルの混合物を不活性ガスと水蒸気の混合ガス気流中で間接加熱により、220℃以下にて焙炒し、発生した香気成分を5℃以下にて凝集し、捕集することによる香味成分の製造方法が開示されている。該製造方法にて得られたココア香味成分は、ココアないしチョコレート製品の香味として優れていることが記載されているが、上記製造方法は、高温を必要とする焙炒において、香味成分の劣化を抑え、捕集量を確保するために不活性ガスと水蒸気の混合ガスを用いたものであり、通常の水
蒸気蒸留とは異なっている。
また、得られた香味水溶液は、褐色ないし黒褐色の固体が懸濁した水溶液であると記載されている。
【特許文献1】特開昭61−108351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のカカオエキスに比して、香り立ち(広がり)、甘み、自然なカカオ感に優れるカカオエキス及びこれを添加した高い香味を有する飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原料カカオを水蒸気蒸留に付すことにより得られたカカオエキスが、従来のカカオエキスに比して、香り立ち(広がり)、甘み、自然なカカオ感に優れることを見い出し本発明を完成させた。
尚、上記で得られたカカオエキスは、無色もしくは淡色透明であり、また、カフェインを含まないため、種々の食品、飲料へ添加する香味成分として優れたものであり、またこれにより広範囲の使用が可能である。
【0009】
即ち、本発明は、
1.原料カカオを水蒸気と接触させてカカオ中のエキス分を水蒸気に抽出し、次いで抽出された水蒸気を冷却して得られた無色もしくは淡色透明の、カフェインを含まない液体の溜出物からなるカカオエキス、
2.前記溜出物に20〜50%のエタノールを添加してなる前記1.記載のカカオエキス、
3.前記1.記載の溜出物を、更にグリセリン脂肪酸エステルにより再抽出して得られる抽出物からなるカカオエキス、
4.前記原料カカオがカカオニブ、カカオマス、カカオパウダー、カカオハスクまたはそれらの混合物である前記1.乃至3.記載のカカオエキス、
5.前記1.乃至4.のうちいずれか一つに記載のカカオエキスを添加してなる飲料、
6.前記1.乃至4.のうちいずれか一つに記載のカカオエキスを複数添加してなる飲料、
7.前記5.または6.記載の飲料がコーヒー飲料であることを特徴とする飲料、
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来のカカオエキスに比して、香り立ち(広がり)、甘み、自然なカカオ感に優れるカカオエキスが提供される。該カカオエキスは、無色もしくは淡色透明であり、また、カフェインを含まないため、種々の食品、飲料へ添加する香味成分として優れているだけでなく、広範囲の製品への使用が可能である。本発明のカカオエキスを添加して製造されたココア飲料及びコーヒー飲料等の飲料および種々の食品に、風味豊かな香味を付与することができ、ココア飲料及びコーヒー飲料等の飲料、特にコーヒー飲料に添加する香味成分として優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のカカオエキスを製造するために使用される原料カカオとしては、該分野でカカオエキスを得るために使用されるカカオ由来の原料であれば特に制限はないが、例えば、カカオニブ、カカオマス、カカオパウダー、カカオハスクまたはそれらの混合物等を使用することができる。
【0012】
上記の原料カカオは、従来のカカオエキスの製造法に用いられるのと同様の処理が施される。これらの処理としては、焙煎処理、発酵処理、脱脂処理等が挙げられ、これらの処理は必要に応じて1種又はそれ以上の処理を単独又は組み合わせて行うことができる。
【0013】
上記のようにして得られた原料カカオを、図1に示す工程に従って処理することにより、本発明のカカオエキスを製造することができる。
はじめに原料カカオに水蒸気蒸留を行う。この水蒸気蒸留もまた従来技術に知られた手順に従って行うことができ、例えば原料カカオを容器に収容し、該容器に他所で発生させた水蒸気を吹込むことにより行う。この水蒸気蒸留工程により、原料カカオ中の香気成分が水蒸気中に抽出され、そして香気成分を含む水蒸気が該容器から流出することとなる。
【0014】
原料カカオを収容する容器から流出した香気成分を含む水蒸気をその後冷却する。冷却は通常の手段で行うことができ、冷却の結果、水蒸気と香気成分とが双方とも凝縮・液化して、香気成分を含む凝縮液となる。
【0015】
水蒸気蒸留工程によりより得られた香気成分を含む凝縮液からカカオエキスを製造する方法としては、特に、
1)前記凝縮液にエタノールを添加する方法、及び
2)前記濃縮液をグリセリン脂肪酸エステルで再抽出を行う方法、
の2種類の方法が好ましい。
【0016】
1)のエタノールを添加する方法は、水蒸気蒸留工程によりより得られた香気成分を含む凝縮液に、20〜50%(v/v)のエタノールを添加することにより達成される。
得られたカカオエキスは、無色もしくは淡色透明であり、また、カフェインを含まない。
このようにして得られたカカオエキスは、種々の製品、特に、ココア飲料、コーヒー飲料等にそのまま添加して使用することができる。
【0017】
2)のグリセリン脂肪酸エステルで再抽出を行う方法としては、例えば、該凝縮液と適量のグリセリン脂肪酸エステルとを混合攪拌し、次いで静置することにより双方を分離させ、そしてグリセリン脂肪酸エステル層を分液することにより行う。グリセリン脂肪酸エステルには、アセチンのようなグリセリンのモノ脂肪酸エステル、ジアセチンのようなグリセリンのジ脂肪酸エステル、並びにトリアセチンのようなグリセリンのトリ脂肪酸エステルがあるが、何れも本発明の再抽出に使用することができる。また再抽出の際に凝縮液と混合するグリセリン脂肪酸エステルの量は、例えば凝縮液:グリセリン脂肪酸エステルが1:1〜1:2の範囲内である。
【0018】
グリセリン脂肪酸エステルが消泡剤、乳化剤等の食品添加剤として従来から利用されており人体に対して十分無害であるので、こうして得られたグリセリン脂肪酸エステル層はそのままカカオエキスとすることができる。好ましいグリセリン脂肪酸エステルは、トリアセチン(トリアセチルグリセロール)である。
得られたカカオエキスは、無色もしくは淡色透明であり、また、カフェインを含まない。
【0019】
上記1)のエタノールを添加する方法により得られたカカオエキス及び2)のグリセリン脂肪酸エステルで再抽出を行う方法により得られたカカオエキスは、それぞれ単独で、又は2種のカカオエキスの任意の割合の混合物として使用することができる。
【0020】
こうして得られた本発明のカカオエキスは、従来品と比較して、香り立ち(広がり)、甘み、自然なカカオ感に優れている。そして、本発明のカカオエキスを添加して製造され
たココア飲料及びコーヒー飲料等の飲料および種々の食品に、風味豊かな香味を付与することができ、ココア飲料及びコーヒー飲料等の飲料、特にコーヒー飲料に添加する香味成分として優れている。
【実施例】
【0021】
以下に例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0022】
製造例1:カカオエキス(エタノール添加法)の製造
原料カカオニブ 1000gを3L容器に収容した。次いで、該容器に110℃の水蒸気を容器の下より導入し、原料カカオニブに含まれる香気成分の水蒸気蒸留を行った。
該容器から放出された水蒸気を、冷水を使用する冷却器により冷却して凝縮させ、凝縮液200mLを得た。該濃縮液に100mL(95%)のエタノールを添加することによりカカオエキスを無色〜淡褐色の透明溶液として得た。
【0023】
製造例2:カカオエキス(再抽出法)の製造
製造例1と同様にして調製した濃縮液200mLにトリアセチン200mLを添加し、常温で1時間混合攪拌して再抽出を行った。再抽出後、混合液を静置して水層とトリアセチン層とを分離させ、トリアセチン層を分液し、そして夾雑物を濾過除去することによりカカオエキスを無色〜淡褐色の透明溶液として得た。
【0024】
製造例3:製造例1及び製造例2で得られたエキスの混合
製造例1のエキスと製造例2のエキスを1:1の量で混合させることにより、無色〜淡褐色の透明溶液を得た。
【0025】
製造例1及び製造例2で得られた、カカオエキスについてガスクロマトグラフィー(GC)による分析を行った。製造例1で得られたカカオエキスのGCデータを図2に、製造例2で得られたカカオエキスのGCデータを図3に示した。
また比較例として、従来法による抽出方法(エタノール+水)によるカカオエキス(カカオチンキ)のガスクロマトグラフィー分析により得られたGCデータを図4に図示した。
図2及び図3の二つのGCデータと図4のGCデータを比較すると、図2及び図3で示される本発明の製造方法で製造した2種のカカオエキスが、図4の従来品と異なるパターンで香気成分を含む新規なものであることが解る。特に図4の従来品の保持時間44分付近に観察されるカフェインのピークが本発明の製造方法で製造した2種のカカオエキスのどちらにも存在しないことが解る。
【0026】
評価試験例1:パネル試験(カカオエキスを添加したコーヒー飲料)
コーヒー官能専門のパネラー5名によって、官能評価を行った。定法に従い密封容器入りミルク・砂糖入りコーヒーを作成し、香り立ちの強さ(広がり)、ビター感(香ばしさ)、甘み、ボディー感、カカオ感(自然な)及び、異味異臭の有無の6項目を評価した。製造例1、製造例2、製造例3及び比較例で製造した従来法によるカカオエキスの添加量は、飲料全体をベースとして各々0.1%とした。
カカオ感においてはコントロールの評価を1として、それ以外の項目においてはコントロールの評価を3として、それより大きい数字が強い(良い)、小さい数字を弱い(悪い)ことを示す5段階評価を行った。各パネラーが示した評価の平均値を求め、結果を表1に示した。
尚、「ボディー感」とは、コクや飲み応え、及び、風味の膨らみ、「異味異臭」とは様々な風味を有するコーヒーの中で、特に不自然な風味のことをそれぞれ示したものである。
表1
【表1】

【0027】
評価結果
従来法によるカカオエキスはビター感、ボディー感及びカカオ感でコントロールと比較して強く感じられたがカカオ由来のオイリーな味わいが強いものであった。製造例1のカカオエキスは香り立ち(広がり)、ビター感、甘み、ボディー感及びカカオ感でコントロールと比較して強く感じられたが、特に香り立ちの広がりが豊かであり、味わいもカカオらしいほのかなビターテイストで良好なものであった。製造例2のカカオエキスは香り立ち(広がり)、ビター感、甘み、ボディー感及びカカオ感でコントロールと比較して強く感じられたが、特にビター感(香ばしさ)やボディー感が豊かであり、呈味への効果もカカオらしい自然な味わいで良好なものであった。製造例3のカカオエキスは香り立ちの広がりが豊かであり、かつビター感やボディー感が豊かで、呈味への効果もカカオらしい自然な味わいで良好なものであった。従って、製造例1のカカオエキス、製造例2のカカオエキス、または両者の併用(製造例3のカカオエキス)の添加により、カカオ由来の自然で風味豊かな香味を有するコーヒー飲料を調製できるものと認められた。
【0028】
評価試験例2:パネル試験(カカオエキスを添加したココア飲料)
ココア官能専門のパネラー5名によって、官能評価を行った。定法に従い密封容器入りミルク・砂糖入りココアを作成し、香り立ちの強さ(広がり)、ビター感(香ばしさ)、甘み、ボディー感、カカオ感(自然な)及び、異味異臭の有無の6項目を評価した。製造例1、製造例2、製造例3及び比較例で製造した従来法によるカカオエキスの添加量は、飲料全体をベースとして各々0.1%とした。
それぞれの項目においてコントロールの評価を3として、それより大きい数字が強い(良い)、小さい数字を弱い(悪い)ことを示す5段階評価を行った。各パネラーが示した評価の平均値を求め、結果を表2に示した。
尚、「ボディー感」とは、コクや飲み応え、及び、風味の膨らみ、「異味異臭」とは様々な風味を有するココアの中で、特に不自然な風味のことをそれぞれ示したものである。表2
【表2】

【0029】
評価結果
従来法によるカカオエキスはビター感、ボディー感及びカカオ感でコントロールと比較して若干強く感じられたが、大きな差はなかった。製造例1のカカオエキスは香り立ち(広がり)、甘み、ボディー感及びカカオ感でコントロールと比較して強く感じられ、特に香り立ちの広がりが豊かであったが、コーヒーと比較するとその違いは小さかった。製造例2のカカオエキスは香り立ち(広がり)、ビター感、ボディー感及びカカオ感でコントロールと比較して強く感じられ、特にビター感(香ばしさ)やボディー感が豊かで呈味への効果もカカオらしい自然な味わいで良好なものであったが、コーヒーと比較するとその違いは小さかった。製造例3のカカオエキスはコーヒー飲料の評価結果と比較するとその違いは小さいものの、香り立ちの広がりが豊かであり、かつビター感やボディー感が豊かで、呈味への効果もカカオらしい自然な味わいで良好なものであった。従って、製造例1のカカオエキス、製造例2のカカオエキス、または両者の併用(製造例3のカカオエキス)の添加により、カカオ由来の自然で風味豊かな香味を有するココア飲料を調製できるものと認められた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のカカオエキスを製造するための工程を図示する流れ図である。
【図2】製造例1(エタノール添加法)により得られた本発明のカカオエキスについてのガスクロマトグラフィー分析データである。
【図3】製造例2(再抽出法)により得られた本発明のカカオエキスについてのガスクロマトグラフィー分析データである。
【図4】従来法によるカカオエキス(水+エタノール抽出)についてのガスクロマトグラフィー分析データである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料カカオを水蒸気と接触させてカカオ中のエキス分を水蒸気に抽出し、次いで抽出された水蒸気を冷却して得られた無色もしくは淡色透明の、カフェインを含まない液体の溜出物からなるカカオエキス。
【請求項2】
前記溜出物に20〜50%のエタノールを添加してなる請求項1記載のカカオエキス。
【請求項3】
前記請求項1記載の溜出物を、更にグリセリン脂肪酸エステルにより再抽出して得られる抽出物からなるカカオエキス。
【請求項4】
前記原料カカオがカカオニブ、カカオマス、カカオパウダー、カカオハスクまたはそれらの混合物である請求項1乃至3記載のカカオエキス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項記載のカカオエキスを添加してなる飲料。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項記載のカカオエキスを複数添加してなる飲料。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の飲料がコーヒー飲料であることを特徴とする飲料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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