説明

カキポリフェノール系色素の光退色抑制剤、光退色抑制樹脂、光退色抑制染色物およびその染色処理方法

【課題】カキポリフェノール系色素で着色した樹脂、および染色した染色物の退色抑制効果のある薬剤、およびこれを用いた、カキポリフェノール系色素の光退色現象を抑制した樹脂、染色物およびこの染色処理方法の提供。
【解決手段】2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種をカキポリフェノール系色素用光退色抑制剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然色素、特にカキポリフェノール系色素の光退色を抑制するための最適な薬剤、染色方法、及び、これらを用いた染色物、樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
自然志向から天然色素への関心が高まっているが、天然色素を例えば繊維染色用として用いるには多くの問題点がある。なかでも最大の問題点は光が当たることに起因して退色する現象であり、この光による退色を抑制できれば、繊維製品にさらに広く普及するものと思われる。
一方、商品価値や利用価値がなく多量に廃棄される農作物、放置されている植物等の有効利用が重要課題となっている。例えば、奈良県内の柿生産においては、販売に適さない規格外の柿果実が大量に廃棄されている現状があり、有効利用の取り組みへの検討がなされている。
【0003】
天然色素の光退色を抑制できれば、繊維製品に広く普及が見込まれ、さらに、多量に廃棄、放置されている農作物、植物等を、天然色素の原料とし有効利用することが出来る。
色素の化学構造と日光堅牢度との関係は、以前から多くの経験的事実が集積されており、光退色は一般には酸化反応に起因して起こるとされ、色素の光退色における酸化反応については、自動酸化、一重項酸素酸化、及び、スーパーオキシドイオン酸化などが見出されている。
天然色素である紅花赤色素カルタミンの光退色については、一重項酸素酸化と自動酸化が同時に起こっていることが示唆されている。この色素の光安定化には、ニッケルスルホン酸基が大変重要な役割を演じ、フェノール性水酸基の導入が不可欠であることが示唆され、カルタミンの日光堅牢度改善剤として、1−ナフトール−4−スルホン酸ニッケル塩、及び、1−ナフトール−5−スルホン酸ニッケル塩が提案されている(非特許文献1、非特許文献2)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Foods and Food Ingredients Journal of Japan,Vol.210,No.3,2005、天然色素の有効利用―紅花赤色素カルタミンの光安定化―、大阪教育大学教育学部 織田 博則、207−213頁
【非特許文献2】平成16年度〜平成17年度科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書(平成18年3月)、未利用天然素材の有効利用と機能性衣料への新展開(研究課題番号16500474)、研究代表者 織田 博則(大阪教育大学教育学部教授)、2−5頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カキポリフェノール系色素については、分子構造が紅花赤色素カルタミンに比べはるかに大規模および複雑であるため、光退色の仕組みについて詳しく解明されておらず、非特許文献1、非特許文献2で紅花赤色素カルタミンの光退色抑制に有効であると提案された薬剤が、カキポリフェノール系色素の光退色抑制剤としても同様に有効かどうかは不明であった。
【0006】
本発明の目的は、カキポリフェノール系色素に光が当たり退色する現象を抑制する薬剤を見出し、この薬剤、およびこれを用いた、カキポリフェノール系色素の光退色現象を抑制した樹脂、染色物およびこの染色処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
カキポリフェノール系色素により着色または染色した商品、例えば柿渋染め製品は光にあたった部分が徐々に退色するため、製品には注意書きとして光により退色することを記し、消費者には納得の上購入してもらっているのが現状である。
【0008】
本発明者らは、このようなカキポリフェノール系色素により着色または染色した商品の商品価値を高めるため、また、これら商品価値を高めることによって規格外の柿果実を天然色素の原料として付加価値を付け活用することを目標に、カキポリフェノール系色素の光による退色現象を抑制できないか検討を行った。
そこで、種々の薬剤について、カキポリフェノール系色素の、光による退色度合いを確かめた結果、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩、の4つが非常に優れた光退色抑制効果を持つことを見出した。
【0009】
さらに、これらの薬剤により効果的にカキポリフェノール系色素の光退色を抑制する染色方法を見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
項1.2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする、カキポリフェノール系色素用光退色抑制剤;
項2.カキポリフェノール系色素により染色された染色物であって、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする、カキポリフェノール系色素の光退色抑制染色物;
項3.カキポリフェノール系色素により着色された樹脂であって、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする、カキポリフェノール系色素の光退色抑制樹脂;
項4.2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、カキポリフェノール系色素との同浴による染色処理を行うことを特徴とする、カキポリフェノール系色素染色物の光退色を抑制する染色処理方法;
項5.カキポリフェノール系色素により染色した後、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を用いて後媒染処理することを特徴とする、カキポリフェノール系色素染色物の光退色を抑制する染色処理方法;
項6.カキポリフェノール系色素により染色した後、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩で後媒染処理した後、さらに、染色物に付着した前記の2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩のナト
リウムをニッケルに置換して、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩とすることを特徴とする、カキポリフェノール系色素染色物の光退色を抑制する染色処理方法;
【発明の効果】
【0011】
本発明による光退色抑制剤を用いれば、カキポリフェノール系色素を含有した樹脂や塗料、カキポリフェノール系色素で染色した壁紙、カーペット、布、ニット、糸、繊維、紙などの退色を長期間にわたり抑制することができる。
【0012】
変退色グレースケールの判定に基づくと、これら従来はJIS1級の等級であったものが、本発明を適用することによって10kW/mの放射照度を有する紫外線を照射しても、JIS4級の等級を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の、カキポリフェノール系色素(カキタンニン抽出物)と薬剤とを含有させた樹脂フィルムの作製手順を示した図である。
【図2】実施例1における、カキポリフェノール系色素(カキタンニン抽出物)と表2のそれぞれの薬剤とを含有させた薬剤別の樹脂フィルムについて、薬剤の含有量と退色速度との関係を示した図である。
【図3】比較例2における、先媒染処理をした1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩(NSN5)の濃度別に、カキポリフェノール系色素で染色した綿布についての紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)との関係を示した図である。
【図4】実施例2における、カキポリフェノール系色素と2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩(BTSNa)を同浴処理した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度5g/L)の関係を示した図である。
【図5】実施例2における、カキポリフェノール系色素とBTSNaを同浴処理した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)の関係を示した図である。
【図6】実施例3における、カキポリフェノール系色素とNSN5を同浴処理した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度5g/L)の関係を示した図である。
【図7】実施例3における、カキポリフェノール系色素とNSN5を同浴処理した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)の関係を示した図である。
【図8】実施例4における、カキポリフェノール系色素とポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩(PSSN)を同浴処理した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度5g/L)の関係を示した図である。
【図9】実施例4における、カキポリフェノール系色素とPSSNを同浴処理した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)の関係を示した図である。
【図10】実施例5における、BTSNaを後媒染処理後、BTSNaのナトリウム塩をニッケル塩(2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール−スルホン酸ニッケル塩(BTSN))に置換した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度5g/L)を示した図である。
【図11】実施例5における、BTSNaを後媒染処理後、BTSNaのナトリウム塩をニッケル塩(BTSN)に置換した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)を示した図である。
【図12】実施例6における、NSN5を後媒染処理した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度5g/L)を示した図である。
【図13】実施例6における、NSN5を後媒染処理した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)を示した図である。
【図14】実施例7における、PSSNを後媒染処理した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度5g/L)を示した図である。
【図15】実施例7における、PSSNを後媒染処理した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)を示した図である。
【図16】実施例8における、NSN3、NSN4もしくはNSN5を後媒染処理した場合のカキポリフェノール系色素で染色した綿布の紫外線照射時間と退色率(カチオン化剤濃度50g/L)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いられる「カキポリフェノール系色素」とは、一般に、柿果実から抽出したカキタンニンを成分として含む色素のことをいう。
【0016】
従来から一般的に使用されている柿渋、つまり、カキタンニン成分に富んだ柿渋専用品種の未成熟な果実をつぶし適量の水を加えた後に発酵させて作った柿渋も、柿果実から抽出したカキタンニンを成分として含み「カキポリフェノール系色素」といえる。
【0017】
公開特許公報、特開2005−270766号に記載されている柿タンニンの抽出方法に基づき抽出した柿タンニンも「カキポリフェノール系色素」といえる。
【0018】
以下の比較例および実施例で用いた、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩はそれぞれ、市販の2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ナトリウム塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ナトリウム塩から、1/2mol当量の塩化ニッケル濃度でニッケル塩に置換し合成したものを使用したが、別の方法で合成しても同様に光退色抑制剤としての効果を有する。
【0019】
本発明によるカキポリフェノール系色素用光退色抑制剤は、カキポリフェノール系色素により染色した染色物中で安定に存在し得るので、被染色物の素材や染色方法については特に問わない。
仮に、カキポリフェノール系色素が、被染色物の重量に対し0.4%程度含有もしくは染着しているとすると、本発明による光退色抑制剤の含有量は、被染色物の重量に対し0.2%より少なくなると光退色抑制効果が減退するので、被染色物の重量に対し0.2%以上であることが好ましい。
【0020】
2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩を光退色抑制剤として樹脂物に含有させる方法は、あらかじめトルエン、エタノール、ピリジンなどの溶剤を用いて樹脂を溶解した溶液に光退色抑制剤とカキポリフェノール系色素とを分散させるか、もしくは180℃以下の温度で光退色抑制剤、カキポリフェノール系色素、樹脂を混練し
てペレットを作製した後、射出成形や押出成形するのが好ましい。ただし、カキポリフェノール系色素は、大気中150℃以上の温度に晒されると、徐々に黒色化するため、カキポリフェノール系色素含有樹脂を射出成形や押出成形などで成形する場合には短時間で成形するように留意する必要がある。
【0021】
2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩を光退色抑制剤として被染色物に付ける方法は、70℃〜80℃の温度で10分間〜20分間、カキポリフェノール系色素と同じ浴槽で染色と同時に処理する同浴処理、もしくは、カキポリフェノール系色素による染色後に処理する後媒染処理が好ましい。2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩を光退色抑制剤としてカキポリフェノール系色素と同浴処理で被染色物を染色した後に、被染色物に付着した2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩を2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩に置換する方法は、被染色物に付着した2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩の1/2mol当量の塩化ニッケル水溶液中に浸漬するのが好ましい。
【0022】
光退色抑制剤として2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩を被染色物に付着させる方法は、カキポリフェノール系色素の染色後、70℃〜80℃の温度で10分間〜20分間、後媒染処理することが好ましい。
1−ナフトール8−スルホン酸ニッケル塩、または、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩を被染色物に付着させる方法は、カキポリフェノール系色素との同浴処理もしくは後媒染処理することが好ましい。後媒染処理する場合、カキポリフェノール系色素の染色後、30℃〜40℃の温度で10分間〜20分間の後媒染処理が好ましい。
【0023】
以下に比較例および実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明がこの実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0024】
なお、以下すべての比較例および実施例で用いたカキポリフェノール系色素は、公開特許公報、特開2005−270766号に記載されている柿タンニンの抽出方法に基づき作製したものを用いた。つまり、刀根早生の完熟する前に自然落下した果実1kgを洗浄しビニール袋に入れ、4mLのエタノールを噴霧、密封して果実に含まれるタンニンを不水溶化させると同時に果実を軟化させた。次に、へたを取り除き、この果実に水を加えジューサーミキサーで撹拌しジュース状にした。これを遠心分離器にかけ、遠心分離容器の底部に集積したタンニン細胞を抽出した。このタンニン細胞抽出物をセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼにより濃度0.1%、50℃で1〜2時間、余分な細胞壁やペクチンを酵素分解して除去した後、再度遠心分離器にかけ、タンニンを抽出した。これを80℃の酢酸による弱酸性水溶液中に溶かし水に可溶なタンニンにし、乾燥させ粉末としたカキタンニン抽出物をカキポリフェノール系色素として用いた。
[比較例1]
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含有した展開溶媒10mLに、5mgの1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩と、カキタンニン抽出物80mgを加えた溶液を作成し、この溶液を約30μL、円形に染みこませた濾紙を作った。
比較のために、同様に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含有した展開溶媒10mLに、5mgの1−ナフトール−4−スルホン酸ニッケル塩と、カキタンニン抽出物80mgを加えた溶液を作成し、この溶液を約30μL、円形に染みこませた濾紙を作った。同じく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を含有した展開溶媒10mLに、5mgの1−ナフトール−5−スルホン酸ニッケル塩と、カキタンニン抽出物80mgを加えた溶液を作成し、この溶液を約30μL、円形に染みこませた濾紙を作った。
【0025】
これら3種類の濾紙それぞれに550kW/mの紫外線放射照度を有するキセノンラ
ンプを用いて60時間紫外線を照射した。
株式会社島津製作所製UV−3100型自記分光光度計を使用し、紫外線の照射前、照射後の、波長460nmにおける吸光度の変化量から、数1に記載した式を用いてカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。表1はその結果である。
【0026】
【数1】



【0027】
【表1】

【0028】
非特許文献2において、カルタミンの日光堅牢度改善剤として、1−ナフトール−4−スルホン酸ニッケル塩と1−ナフトール−5−スルホン酸ニッケル塩が提案されているが、この実験結果から、カキポリフェノール系色素については、カルタミンとは異なり、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩が、他と比べ退色率が大幅に低く非常に優れた光退色抑制剤であることがわかった。
【実施例1】
【0029】
図1に記載のフローチャートに従い、比較のため、表2に記載の薬剤別に、それぞれの薬剤とカキタンニン抽出物とを含有させた樹脂フィルムを作製した。この含有薬剤別の5種類の樹脂フィルムを室温20℃、湿度60%の恒温恒湿の暗所で60時間以上乾燥後、65mm×120mmの大きさに切断した試験片を作製した。
この5種類の試験片について、それぞれカーボンアーク灯光による280時間の耐光性試験を実施し、吸光度を測定した。カーボンアーク灯光による耐光性試験には、JIS規格L0824に対応したスガ試験機株式会社製FAL−5型フェードテスターを使用した。この装置による280時間の耐光性試験は、試験片が約140kW/mに相当する紫外線照度に晒される試験に相当する。カーボンアーク灯光による耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲200nm〜900nmの領域において1nmごとの吸光度を測定した。数2に記載した式を用いて、測定した各波長の吸光度を積算し、耐光性試験前後の積分吸光度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。さらに、耐光性試験中80時間から280時間までの耐色率が時間に対してほぼ比例関係にあることから、その試験時間範囲における耐光性試験時間に対する退色率の変化を、退色速度
(%/時間)として算出した。
【0030】
図2は、カキポリフェノール系色素(カキタンニン抽出物)と表2のそれぞれの薬剤とを含有させた薬剤別の樹脂フィルムについて、薬剤の含有量と退色速度との関係を示している(図2中の記号は、表2の名称欄に記載の記号の薬剤を示す)。この結果より、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩が、樹脂中で少ない含有量でもカキポリフェノール系色素の退色速度が大幅に遅く、樹脂中のカキポリフェノール系色素に対し非常に優れた光退色抑制剤として作用することが判明した。

【表2】

【0031】
【数2】

【0032】
[比較例2]
水溶液1L当たり50g相当の綿布を、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に30分間浸漬しカチオン化処理し、さらに、濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。
次に、比較のため、濃度が1g/L、2g/L、5g/Lの3種類の40℃の1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩(図3中の記号:NSN5)水溶液に、これらの綿布をそれぞれ1枚ずつ20分間浸漬し、3種類の濃度が違う先媒染処理をした綿布を作製した
。次に、これらの綿布および前記の先媒染処理を実施していない綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に60分間浸漬し染色処理し、染色後、綿布を脱水し自然乾燥した。
【0033】
これら4種類の綿布について、それぞれ実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、株式会社日立製作所製C−2000型カラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とした。数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。図3は、先媒染処理をした1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩(図3中の記号:NSN5)水溶液の濃度別に、カキポリフェノール系色素で染色した綿布について、紫外線照射時間と退色率との関係を示している。

【数3】


【数4】

【0034】
この結果、1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩水溶液で綿布を先媒染処理した場合、染色したカキポリフェノール系色素の退色率低減効果がほとんど無いことがわかった。これは、先媒染処理と比較し、染色処理の方が高温かつ長時間の処理であるため、綿布に付着した1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩がカキポリフェノール系色素の染色時にほとんど綿布から染料液に溶出し、脱落したためであると考えられる。
【実施例2】
【0035】
濃度が5g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、比較のため、カキタンニン抽出物が10g/Lの濃度の、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩(図4、図5中の記号:BTSNa、以下「BTSNa」と記す)の濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に濃度5g/Lでカチオン化処理した綿布を浸漬し80℃で60分間同浴処理し、脱水、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度5g/Lでカチオン化処理した後、カキタンニン抽出物と、それぞれ濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/LのBTSNaとを同浴処理した綿布)を作製した。
【0036】
これらの綿布とは別に、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、比較のため、カキタンニン抽出物が10g/Lの濃度の、BTSNaの濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、
先に濃度50g/Lでカチオン化処理した綿布を浸漬し80℃で60分間同浴処理し、脱水、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理した後、カキタンニン抽出物と、それぞれ濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/LのBTSNaとを同浴処理した綿布)を作製した。
【0037】
これら計8種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。
図4はカチオン化処理の濃度が5g/Lの場合、図5はカチオン化処理の濃度が50g/Lの場合の上記の綿布について、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0038】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、カチオン化処理の濃度が5g/L、BTSNaの同浴処理の濃度が1.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は9.2%から3.5%にまで低減し、また、カチオン化処理の濃度が50g/L、BTSNaの同浴処理の濃度が5g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から18.0%にまで低減している。綿布の染色について、カチオン化剤の濃度が5g/L、50g/Lのいずれの場合も、BTSNaについて、カキポリフェノール系色素と同浴処理することによって、さらに、同浴処理の濃度が高いほど、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が高いことがわかった。
【実施例3】
【0039】
濃度が5g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、比較のため、カキタンニン抽出物が10g/Lの濃度の、1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩(図6、図7中の記号:NSN5、以下「NSN5」と記す)の濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に濃度5g/Lでカチオン化処理した綿布を浸漬し80℃で60分間同浴処理し、脱水、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度5g/Lでカチオン化処理した後、カキタンニン抽出物と、それぞれ濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/LのNSN5とを同浴処理した綿布)を作製した。
【0040】
これらの綿布とは別に、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、比較のため、カキタンニン抽出物が10g/Lの濃度の、NSN5の濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に濃度50g/Lでカチオン化処理した綿布を浸漬し80℃で60分間同浴処理し、脱水、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理した後、カキタンニン抽出物と、それぞれ濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/LのNSN5とを同浴処理した綿布)を作製した。
【0041】
これら計8種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域におい
て10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。図6はカチオン化処理の濃度が5g/Lの場合、図7はカチオン化処理の濃度が50g/Lの場合の上記の綿布について、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0042】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、カチオン化処理の濃度が5g/L、NSN5の同浴処理の濃度が1.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は9.2%から2.5%にまで低減し、また、カチオン化処理の濃度が50g/L、NSN5の同浴処理の濃度が5g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から9.4%にまで低減している。綿布の染色について、カチオン化剤の濃度が5g/L、50g/Lのいずれの場合も、NSN5について、カキポリフェノール系色素と同浴処理することによって、さらに、同浴処理の濃度が高いほど、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が高いことがわかった。
【実施例4】
【0043】
濃度が5g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、比較のため、カキタンニン抽出物が10g/Lの濃度の、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩(図8、図9中の記号:PSSN、以下「PSSN」と記す)の濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に濃度5g/Lでカチオン化処理した綿布を浸漬し80℃で60分間同浴処理し、脱水、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度5g/Lでカチオン化処理した後、カキタンニン抽出物と、それぞれ濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/LのPSSNとを同浴処理した綿布)を作製した。
【0044】
これらの綿布とは別に、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、比較のため、カキタンニン抽出物が10g/Lの濃度の、PSSNの濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に濃度50g/Lでカチオン化処理した綿布を浸漬し80℃で60分間同浴処理し、脱水、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理した後、カキタンニン抽出物と、それぞれ濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/LのPSSNとを同浴処理した綿布)を作製した。
【0045】
これら計8種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。
図8はカチオン化処理の濃度が5g/Lの場合、図9はカチオン化処理の濃度が50g/Lの場合の上記の綿布について、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0046】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、カチオン化処理の濃度が5g/L、PSSNの同浴処理の濃度が1.0g
/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は9.2%から5.1%にまで低減し、また、カチオン化処理の濃度が50g/L、PSSNの同浴処理の濃度が5g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から9.4%にまで低減している。綿布の染色について、カチオン化剤の濃度が5g/L、50g/Lのいずれの場合も、PSSNについて、カキポリフェノール系色素と同浴処理することによって、さらに、同浴処理の濃度が高いほど、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が高いことがわかった。
【実施例5】
【0047】
濃度が5g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。
【0048】
次に、比較のため、BTSNaの濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し70℃で30分間、後媒染処理し、続いて、綿布に付着したBTSNaのナトリウム塩をニッケル塩に置換するため、それぞれ、BTSNaの濃度の1/2molの濃度の70℃の塩化ニッケル水溶液に10分間浸漬し、その後、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度5g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/LのBTSNaを後媒染処理し、続いてBTSNaの1/2molの濃度の塩化ニッケル水溶液に浸漬することで、付着した薬剤が2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩(図10、図11中の記号:BTSN、以下「BTSN」と記す)に置換した綿布)を作製した。
【0049】
これらの綿布とは別に、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。次に、比較のため、BTSNaの濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し70℃で30分間、後媒染処理し、続いて、綿布に付着したBTSNaのナトリウム塩をニッケル塩に置換するため、それぞれ、BTSNaの濃度の1/2molの濃度の70℃の塩化ニッケル水溶液に10分間浸漬し、その後、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/LのBTSNaを後媒染処理し、続いて塩化ニッケル水溶液の1/2molの濃度の塩化ニッケル水溶液に浸漬することで、付着した薬剤がBTSNに置換した綿布)を作製した。
【0050】
これら計8種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。
図10はカチオン化処理の濃度が5g/Lの場合、図11はカチオン化処理の濃度が50g/Lの場合の上記の綿布について、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0051】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、カチオン化処理の濃度が5g/L、BTSNaの後媒染処理の濃度が1.0g/L(塩化ニッケル水溶液に浸漬しBTSNに置換)の場合、カキポリフェノール色素の退色率は9.2%から2.5%にまで低減し、また、カチオン化処理の濃度が50g/L、BTSNaの後媒染処理の濃度が5g/L(塩化ニッケル水溶液に浸漬しBTSNに置換)の場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から16.6%にまで低減している。綿布の染色について、カチオン化剤の濃度が5g/L、50g/Lのいずれの場合も、BTSNについて、カキポリフェノール系色素の染色後、BTSNaを後媒染処理し、塩化ニッケル水溶液に浸漬しBTSNに置換することによって、さらに、後媒染処理の濃度が高いほど、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が高いことがわかった。
【実施例6】
【0052】
濃度が5g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。次に、比較のため、NSN5の濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し40℃で20分間、後媒染処理し、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度5g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/LのNSN5を後媒染処理した綿布)を作製した。
【0053】
これらの綿布とは別に、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。次に、比較のため、NSN5の濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し40℃で20分間、後媒染処理し、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/LのNSN5を後媒染処理した綿布)を作製した。
【0054】
これら計8種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。
図12はカチオン化処理の濃度が5g/Lの場合、図13はカチオン化処理の濃度が50g/Lの場合の上記の綿布について、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0055】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、カチオン化処理の濃度が5g/L、NSN5の後媒染処理の濃度が1.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は9.2%から−5.4%にまで低減し、また、カチオン化処理の濃度が50g/L、NSN5の後媒染処理の濃度が5g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から3.3%にまで低減している。
綿布の染色について、カチオン化剤の濃度が5g/L、50g/Lのいずれの場合も、NSN5について、カキポリフェノール系色素の染色後、後媒染処理することによって、さらに、後媒染処理の濃度が高いほど、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が高いことがわかった。
【実施例7】
【0056】
濃度が5g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(カチオン化剤)に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。次に、比較のため、PSSNの濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し40℃で20分間、後媒染処理し、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度5g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が0g/L、0.2g/L、0.5g/L、1.0g/LのPSSNを後媒染処理した綿布)を作製した。
【0057】
これらの綿布とは別に、濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。次に、比較のため、PSSNの濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/Lの4種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し40℃で20分間、後媒染処理し、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が0g/L、1g/L、2g/L、5g/LのPSSNを後媒染処理した綿布)を作製した。
【0058】
これら計8種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。
図14はカチオン化処理の濃度が5g/Lの場合、図15はカチオン化処理の濃度が50g/Lの場合の上記の綿布について、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0059】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、カチオン化処理の濃度が5g/L、PSSNの後媒染処理の濃度が1.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は9.2%から−0.3%にまで低減し、また、カチオン化処理の濃度が50g/L、PSSNの後媒染処理の濃度が5g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から4.2%にまで低減している。綿布の染色について、カチオン化剤の濃度が5g/L、50g/Lのいずれの場合も、PSSNについて、カキポリフェノール系色素の染色後、後媒染処理することによって、さらに、後媒染処理の濃度が高いほど、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が高いことがわかった。
【実施例8】
【0060】
濃度が50g/Lの70℃のグリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液に、水
溶液1L当たり50g相当の綿布を30分間浸漬しカチオン化処理し、次に濃度が2mL/Lの40℃の酢酸水溶液に30分間浸漬し中和後湯洗した。
次に、この綿布を、カキタンニン抽出物の濃度が10g/Lの80℃の水溶液に浸漬し60分間染色処理した。
【0061】
比較のため、NSN3、NSN4およびNSN5の濃度がそれぞれ5g/Lの3種類の水溶液を作製し、これらに、それぞれ、先に染色処理した綿布を浸漬し40℃で20分間、後媒染処理し、綿布を脱水し、自然乾燥して、4種類の綿布(濃度50g/Lでカチオン化処理し、カキタンニン抽出物による染色処理後、それぞれ濃度が5g/LのNSN3,NSN4およびNSN5を後媒染処理した綿布)を作製した。
【0062】
後媒染処理を行わない綿布と、NSN3、NSN4もしくはNSN5で後媒染処理した綿布の計4種類の綿布を、実施例1で使用したフェードテスターを用いて、280時間までの耐光性試験を実施し、比較例2で使用したカラーアナライザーを使用して、耐光性試験開始前および試験中40時間ごとに、波長範囲400nm〜700nmの領域において10nmごとの分光反射率を測定した。さらに、数3に記載した式を用いて、測定した各波長の分光反射率を積算し、染着濃度とし、数4に記載した式を用いて、耐光性試験前後の染着濃度の変化からカキポリフェノール系色素の退色率を算出した。図16は、紫外線照射時間とカキポリフェノール系色素の退色率との関係を示している。
【0063】
これらの結果から、約10kW/mの紫外線放射照度に相当する紫外線照射200時間後において、NSN5の後媒染処理の濃度が5.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から3.3%にまで大幅に低減する。一方、カチオン化処理の濃度が50g/L、NSN3の後媒染処理の濃度が5.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から13.6%まで低減し、NSN4の後媒染処理の濃度が5.0g/Lの場合、カキポリフェノール色素の退色率は33.0%から26.8%まで低減するものの、NSN5に匹敵するような光退色抑制効果は得られていないことがわかる。綿布の染色について、カキポリフェノール系色素の染色後、他の1−ナフトールスルホン酸ニッケル塩よりもNSN5を用いて後媒染処理することによって、カキポリフェノール系色素の光退色抑制効果が最も高くなることがわかった。
【符号の説明】
【0064】
PE1 サリチル酸−p−オクチルフェニル
BT1 2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール
BTSN 2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール−スルホン酸ニッケル塩
MSN3 1−ナフタレン−4−スルホン酸ニッケル塩
MSN4 1−ナフタレン−5−スルホン酸ニッケル塩
NSN5 1−ナフタレン−8−スルホン酸ニッケル塩
PSSN ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩
BTSNa 2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする、カキポリフェノール系色素用光退色抑制剤
【請求項2】
カキポリフェノール系色素により着色された樹脂であって、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする、カキポリフェノール系色素の光退色抑制樹脂
【請求項3】
カキポリフェノール系色素により染色された染色物であって、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする、カキポリフェノール系色素の光退色抑制染色物
【請求項4】
2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、カキポリフェノール系色素との同浴による染色処理を行うことを特徴とする、カキポリフェノール系色素染色物の光退色を抑制する染色処理方法
【請求項5】
カキポリフェノール系色素により染色した後、1−ナフトール−8−スルホン酸ニッケル塩、ポリスチレン−p−スルホン酸ニッケル塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を用いて後媒染処理することを特徴とする、カキポリフェノール系色素染色物の光退色を抑制する染色処理方法
【請求項6】
カキポリフェノール系色素により染色した後、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩で後媒染処理した後、さらに、染色物に付着した前記の2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ナトリウム塩のナトリウムをニッケルに置換して、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾールスルホン酸ニッケル塩とすることを特徴とする、カキポリフェノール系色素染色物の光退色を抑制する染色処理方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−225865(P2011−225865A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77270(P2011−77270)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プログラム「地域ニーズ即応型」第2期、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000225142)奈良県 (42)
【出願人】(304025138)国立大学法人 大阪教育大学 (13)
【出願人】(594189187)三精塗料工業株式会社 (4)
【出願人】(397037786)株式会社クロスライン (2)
【Fターム(参考)】