説明

カシスアントシアニン含有飲料

【課題】保存中のアントシアニンの安定性が向上し、かつ嗜好性が向上した、常温流通可能なアントシアニン含有飲料を提供する。
【解決手段】カシスアントシアニン含有飲料をpH2.8以下にして、かつ溶存炭酸ガスボリュームを1.4〜3.5volすること、さらに飲料中のカシスアントシアニン1g当たりの総アミノ酸量を50mg以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカシスアントシアニンを含む飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カシス(ブラックカラント)やブルーベリー等の野菜や果物に含まれるアントシアニンには、眼精疲労改善効果、癌予防、糖尿病予防効果等の様々な生理機能があることが報告されており、これらアントシアニンを含む飲食品、サプリメントが多数販売されている。カシスに含まれるアントシアニンは、デルフィニジン−3−O−グルコシド(D3G)、デルフィニジン−3−O−ルチノシド(D3R)、シアニジン−3−O−グルコシド(C3G)、シアニジン−3−O−ルチノシド(C3R)の4種のアントシアニンが主であり、特に水溶液とした場合保存中に分解されやすい。
このアントシアニンの安定性を向上させるために様々な方法が試みられている(特許文献1〜7参照)。しかしながらカシスやブルーベリー等に多く含まれる、上記4種のアントシアニン等の、非アシル化アントシアニンは水に溶けた状態では安定性が著しく低いため、賞味期限が数日〜数週間程度の冷蔵保存が必要な飲料は別としても、常温流通でき、長期保存の可能な飲料においては、消費者の手に渡る時点で、十分な量のアントシアニンを確保することは困難であった。また、飲料品として摂取する上で、より喉越しの良い、嗜好性の高い飲料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−207172号公報
【特許文献2】特開平6−234935号公報
【特許文献3】特開平8−112076号公報
【特許文献4】特開平8−224068号公報
【特許文献5】特開平9−263707号公報
【特許文献6】国際公開WO01/48091号パンフレット
【特許文献7】特開2006−306966号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Agric.Food Chem.(2001)49(3),p1541−1545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保存中のアントシアニンの安定性が向上し、かつ嗜好性が向上した、常温流通可能なアントシアニン含有飲料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記アントシアニンの安定性を向上する様々な試みの中で、例えば、溶液中のpHを下げることによってアントシアニンを安定化させることが知られている。しかしながら、pHを2.8以下に下げると、クエン酸などを多量に入れなければならないために、酸味度が極めて高くなることなどからその嗜好性が大幅に低下する。従って、市販流通品としてはpH2.8以下のカシスアントシアニン飲料はほとんどないのが現状である。そこで本発明者らは、炭酸ガスを封入するとクエン酸による高い酸味がマスキングされ、その低い嗜好性を回復させることを発見した。すなわち、本発明はpHを2.8以下とし、さらに該飲料中の炭酸ガス量ボリュームを1.4〜3.5volとすることで、アントシアニンが安定であり、かつ嗜好性が向上したカシスアントシアニン飲料の提供を可能にするものである。さらに飲料中のカシスアントシアニン1g当たりの総アミノ酸量を50mg以下とすることで、よりカシスアントシアニンの安定性が向上することを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は以下に示すものである。
(1)pH2.8以下であり、かつ炭酸ガスボリュームが1.4〜3.5volであるカシスアントシアニン含有飲料。
(2)pH2〜2.8であり、かつ炭酸ガスボリュームが1.4〜3.5volであるカシスアントシアニン含有飲料。
(3)pH2〜2.5であり、かつ炭酸ガスボリュームが1.4〜2.5volであるカシスアントシアニン含有飲料。
(4)総アミノ酸量が、カシスアントシアニン1g当たり50mg以下である(1)〜(3)いずれかに記載のカシスアントシアニン含有飲料。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、カシスやブルーベリー等に多く含まれるアントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを含有する飲料の、保存中の安定性を向上させることができ、カシスアントシアニンが十分残存し、しかも嗜好性の向上した常温流通飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明においてカシスアントシアニンとは、D3G、D3R、C3G、C3Rの4種のアントシアニンを示す。これら4種であれば、必ずしもカシス由来でなくともよい。カシスアントシアニン量とは、これら4種のアントシアニンの総量である。
本発明は、飲料中のpHを2.8以下、好ましくは2.0〜2.8、さらに好ましくは2.0〜2.5とし、該飲料中の炭酸ガスボリューム量を1.4〜3.5容量vol、好ましくは1.4〜2.5容量volとすることで、アントシアニンが安定であり、嗜好性が向上し、喉越しが良好なカシスアントシアニン飲料を提供するものである。さらに飲料中のカシスアントシアニン1g当たりの総アミノ酸量を50mg以下、好ましくは30mg以下とすることで、カシスアントシアニンをさらに安定化させた飲料を提供することができる。
【0009】
総アミノ酸量とは、蛋白質を構成する20種類のアミノ酸の総量を指す。
カシスアントシアニン量は、非特許文献1に記載の方法に従って精製したカシスアントシアニン4成分(D3G、D3R、C3G、C3R)を標品として、国際公開WO01/48091号パンフレットに示されるHPLC分析により測定した。すなわち、520nmにおける吸光度を測定し、得られたピーク面積に標品から求めた応答係数(mg/ピーク面積)を乗じる方法により決定した。カシスアントシアニン1g当たりの総アミノ酸量とは、飲料中の総アミノ酸量(mg)を飲料中のカシスアントシアニン量(g)で割った値を示す。
カシスアントシアニンは果汁として使用しても、必要に応じて濾過や遠心分離により不溶物を除去して使用してもよい。また、減圧濃縮や、逆浸透膜による精製濃縮を行ってもよい。こうして得られたカシスアントシアニン含有エキスは、そのまま使用しても、フリーズドライやスプレードライ等により粉末化して使用してもよい。
【0010】
上記エキスを使用してカシスアントシアニン含有飲料とする場合、果糖、蔗糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖、トレハロース、パラチノース、オリゴ糖、水飴、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、マルチトール、還元パラチノース等の糖質、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム等の高甘度甘味料、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸等の酸味料、香料、着色料等を使用してもよい。
また、ビタミン類、ミネラル類、蛋白質、食物繊維、コエンザイムQ10、α-リポ酸、ローヤルゼリー、セラミド等を加えてもよい。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
試験例1
カシスエキスA(カシスアントシアニン30重量%含有)0.1重量部、果糖シロップ(糖度75)3重量部、クエン酸0〜1重量部に、脱イオン水を加えて全量が100重量部となるように調製して容器に密封し、73℃、20分間熱処理を行い、カシスアントシアニン濃度を30mg/100gとした飲料を得た。これを37℃で30日間保存し、カシスアントシアニンの残存率を測定した。なお、カシスアントシアニン量は、非特許文献1に記載の方法に従って精製したカシスアントシアニン4成分(D3G、D3R、C3G、C3R)を標品として、国際公開WO01/48091号に示されるHPLC分析により測定した。すなわち、520nmにおける吸光度を測定し、得られたピーク面積に標品から求めた応答係数(mg/ピーク面積)を乗じる方法により決定した。結果を表1に示す。
【0012】
【表1】

pH2.8以下になると、アントシアニンの安定性が極めてが向上することが確認された。
【0013】
試験例2
カシスアントシアニン含有原料としてカシスエキスA〜Fを使用して、適宜カシスエキス量を調整しつつ、試験例1の方法と同様にして、pH2.8、カシスアントシアニン濃度を50mg/100gとした飲料を作成した。これを37℃で60日間保存し、試験例1と同様にしてカシスアントシアニンの残存率を測定した。また、各飲料のカシスアントシアニン1g当たりの総アミノ酸量も測定した。結果を表2に示す。
【0014】
【表2】

この結果から、飲料中のカシスアントシアニン1g当たりの総アミノ酸量が50mg以下の場合には明らかにカシスアントシアニンの安定性が向上した。
【0015】
試験例3
カシスエキスBを使用して、カシスアントシアニン濃度を30mg/100g、pH2.5とした飲料を作製した。また、この飲料に炭酸ガスを封入して、炭酸ガスボリューム量を2.4volとした飲料を作製し、8℃に冷却したときの嗜好値を調べた。結果を表3に示す。
なお、嗜好値は、1を最低評価(まずい)、2(ややまずい)、3(ふつう)、4(ややおいしい)、5を最高評価(おいしい)とした場合の、20代から50代の男女20名の評価の平均とした。
【0016】
【表3】

炭酸ガスの封入により、カシスアントシアニンの嗜好値が顕著に向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2.8以下であり、かつ炭酸ガスボリューム容量が1.4〜3.5volであるカシスアントシアニン含有飲料。
【請求項2】
pH2〜2.8であり、かつ炭酸ガスボリューム容量が1.4〜3.5volであるカシスアントシアニン含有飲料。
【請求項3】
pH2〜2.5であり、かつ炭酸ガスボリュームが1.4〜2.5volであるカシスアントシアニン含有飲料。
【請求項4】
総アミノ酸量が、カシスアントシアニン1g当たり50mg以下である請求項1〜3いずれかに記載のカシスアントシアニン含有飲料。

【公開番号】特開2011−36130(P2011−36130A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183274(P2009−183274)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】