説明

カスケードインパクタ及びそれを用いた分析用試料取得方法

【課題】捕集された粒子状物質が微量であっても、元素分析やイオン種分析を同時に定量分析を行なうことが可能なカスケードインパクタ及びそれを用いた分析用試料取得方法を提供する。
【解決手段】粒子状物質を含む気体を下方に流入可能な流入口30bを有するインパクタ30と、前記インパクタ30から流入された前記気体を衝突させることにより前記粒子状物質を捕集させる捕集部材32と、前記捕集部材32を支持するとともに該捕集部材に衝突した前記気体が流出可能な流出口34bを有するベースプレート34と、を備えた捕集ユニット12を有するカスケードインパクタであって、前記捕集部材32は、ガラス素材から構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気を捕集部材に衝突させて大気中に含まれる粒子状物質をその捕集部材に付着させて捕集するカスケードインパクタ及びそれを用いた分析用試料取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石英繊維、フッ素系樹脂及びポリカーボネイト系樹脂などからなるフィルタに粒子状物質を含む気体を衝突させ、そのフィルタに粒子状物質を付着させて捕集するカスケードインパクタが知られている(特許文献1)。従来のカスケードインパクタは、図14に示すように、気体中の粒子状物質を粒径や種類によって選択的に捕集可能な第1乃至3捕集ユニット60、62、64が層状に重ねられて構成されている。第1捕集ユニット60は、気体が流入可能な流入口66aを有するインパクタ66と、この流入口66aから流入した気体を衝突させその気体中の粒子状物質を付着させて捕集するフィルタ68と、このフィルタ68を支持するとともに、フィルタ68に衝突した気体が流出可能な流出口70aを有するベースプレート70と、を備えており、第2、3捕集ユニットも同様にインパクタ72、78と、フィルタ74、80、ベースプレート76、82と、をそれぞれ備えている。また、カスケードインパクタの下方には、図示しないエアポンプが接続されており、上方からカスケードインパクタ内に気体を吸入し、各捕集ユニット60、62、64に一定流量の気体を通過させる。ここで、第1乃至3捕集ユニット60、62、64は、流入口66a、72a、78aの径が下段になるに従い小さくなるように構成されており、エアポンプによって一定流量の気体を吸入すると、上段の捕集ユニットのフィルタの方が粒径が大きい粒子状物質を捕集するように構成されている。
【0003】
このカスケードインパクタにより捕集された粒子状物質は、イオンクロマトグラフ分析装置(以下、「IC分析装置」という)によるイオン種分析や、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置(以下、「ICP質量分析装置」という)若しくは高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(以下、「ICP発光分析装置」という)による元素分析に用いることができ、これらイオン種分析や元素分析を行なう際に同時に定量分析も行なうことができる。
【0004】
捕集された粒子状物質をイオン種分析に用いる場合、粒子状物質が捕集されたフィルタを例えば12mlのプラスチックチューブに入れ、それに10ml程度の超純水を加えて,超音波振動を付与することによって、フィルタから粒子を脱離させてイオン種を超純水に溶解させ、これを例えばニトロセルロース系メンブレンフィルタによりろ過することによって分析用試料とする。
【0005】
また、捕集された粒子状物質を元素分析に用いる場合、粒子状物質が捕集されたフィルタをフッ素系樹脂製の容器に入れ、これにフッ化水素酸、過塩素酸及び硝酸を加え、マイクロウエーブを用いて分解し、分解した溶液を別のフッ素系樹脂製の容器に移し替え、加熱して乾燥固化させ、その固形物を2%硝酸に溶解させ、これを例えばニトロセルロース系メンブレンフィルタによりろ過することによって分析用試料とする。
【特許文献1】特開2004−245795、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のカスケードインパクタによって捕集された粒子状物質について、元素分析を行なう場合、上述のような煩雑な化学処理を必要とするがあるので、フィルタに捕集された粒子状物質の量が微量の場合、同時に定量分析を行なうことができない。また、イオン種分析の場合であっても、フィルタによっては、捕集された粒子状物質をフィルタから完全に離脱させることができないので、同様に同時に定量分析を行なうことができない。これら元素分析やイオン種分析とは別に捕集された粒子状物質の定量分析を行なうことは可能であるが、その場合、フィルタは、粒子状物質の捕集の際に水分を含んでしまうため、これらフィルタを温度と湿度を一定にした恒温槽入れて、フィルタから水分を除去した後に定量分析を行なう必要があり、その処理は煩雑である。また、その定量分析は、温度と湿度の厳格の管理や外部からの振動の排除などが必要なマイクロ天秤を用いなければならないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、捕集された粒子状物質が微量であっても、元素分析やイオン種分析と同時に定量分析を行なうことが可能なカスケードインパクタ及びそれを用いた分析用試料取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明は、粒子状物質を含む気体を下方に流入可能な流入口を有するインパクタと、前記インパクタから流入された前記気体を衝突させることにより前記粒子状物質を捕集させる捕集部材と、前記捕集部材を支持するとともに該捕集部材に衝突した前記気体が流出可能な流出口を有するベースプレートと、を備えた捕集ユニットを有するカスケードインパクタであって、前記捕集部材は、ガラス素材から構成されていることを特徴とする。
【0009】
以上のように、本発明に係るカスケードインパクタによれば、捕集部材をガラス素材から構成することにより、元素分析を行なう場合であっても、超音波を放射させて捕集部材に捕集された粒子状物質を溶媒に溶解させるだけで分析用試料を取得することができ、煩雑な化学処理を行なう必要がなく、またイオン種分析においても、完全に捕集部材から粒子状物質を隔離することができるので、元素分析やイオン種分析と同時に定量分析を行なうことができる。
【0010】
本発明に係るカスケードインパクタにおいて、前記ベースプレートには、前記捕集部材の形状に相応する形状の凹部が形成されており、前記捕集部材は、2つに分割されたガラス片からなり、ガラス片の一方には、前記凹部の形状に対して切り欠きされた切り欠き部分が形成されていることが好ましく、このように捕集部材を構成することによって、柔軟性の少ないガラス素材で構成された捕集部材であっても、切り欠き部分をピンセットなどによって摘むことによって容易にベースプレートから取り出すことができる。
【0011】
また、本発明は、前記カスケードインパクタによって粒子状物質が捕集された前記捕集部材を溶媒に浸した状態で超音波を放射して前記粒子状物質を前記捕集部材から前記溶媒に離脱する工程を備えたことを特徴とする分析用試料取得方法である。本発明に係る分析用試料取得方法において、元素分析を行なう場合、溶媒に離脱された粒子状物質をエマルジョン化する工程をさらに備えていることが好ましく、イオン種分析を行なう場合、溶媒に離脱された粒子状物質を濾過する工程をさらに備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、捕集された粒子状物質が微量であっても、元素分析やイオン種分析と同時に定量分析を行なうことが可能なカスケードインパクタ及びそれを用いた分析用試料取得方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明に係るカスケードインパクタの実施例について図面に基づいて説明する。図1は、本実施例に係るカスケードインパクタの一部切断正面図であり、図2は、その平面図である。本実施例に係るカスケードインパクタは、主として円筒状に形成されたケース部10と、上下方向に間隔をおいてケース部材10内に3つ設けられた第1乃至第3捕集ユニット12、14、16と、を備えている。
【0014】
ケース部10は、上流側ケース部材18、3つの第1乃至第3中間ケース部材20、22、24及び下流側ケース部材26が上方から順に積み重ねられることによって構成されている。すなわち、これらケース部材18、20、22、24及び26は、その中を試料気体が通るように、いずれも円筒状に形成されており、上流側ケース部材18、並びに第1乃至第3中間ケース部材20、22、24の内周面の中間近傍には、下方側が大径となるように第1内段差18a、20a、22a、24aが形成されており、内周面下端近傍には、さらに下方側が大径となるように第2内段差18b、20b、22b、24bが形成されている。また、これら第2内段差18b、20b、22b、24bよりも下方側内周面には、周方向全域に亘って外方向に凹んだ溝18c、20c、22c、24cが形成されており、これら溝18c、20c、22c、24cには、ゴム製のOリング28が内方向に突出した状態で設けられている。さらに、第1乃至第3中間ケース部材20、22、24、並びに下流側ケース部材26の外周面の上方近傍には、上方側が小径となる外段差20d、22d、24d、26dが形成されており、上面には、内側が低くなった上段差20e、22e、24e、26eが全周に亘って形成されている。この上段差20e、22e、24e、26eは、後述する第1乃至第3ベースプレート34、42、50の形状に相応した形状に形成されている。また、上段差20e、22e、24e、26eには、全周に亘って下方に凹んだ溝20f、22f、24f、26fが形成されており、この溝20f、22f、24f、26fには、ゴム製のOリング29が上方に突出した状態で設けられている。そして、第1乃至第3中間ケース部材20、22、24、並びに下流側ケース部材26の外段差20d、22d、24d、26dよりも上方の外周面が、上流側ケース部材18、並びに第1乃至第3中間ケース部材20、22、24の第1内段差18a、20a、22a、24aよりも下方の内周面に当接し、第1乃至第3中間ケース部材20、22、24、並びに下流側ケース部材26の外段差20d、22d、24d、26dよりも下方の外周面が、上流側ケース部材18、並びに第1乃至第3中間ケース部材20、22、24の第2内段差18b、20b、22b、24bよりも下方の内周面に当接して、さらに第1乃至第3中間ケース部材20、22、24、並びに下流側ケース部材26の外段差20d、22d、24d、26dの上面がOリング28を当接することによって、上流側ケース部材18、3つの第1乃至第3中間ケース部材20、22、24及び下流側ケース部材26が順に積み重ねられるように構成されている。また、下流側ケース部材26の内周面の下端近傍には、ねじ穴26gが形成されており、そのねじ穴26gまで下方に向かって先細りとなるテーパ面を形成している。このねじ穴26gには、エアポンプが接続され、それを稼動させることにより、ケース部10内に試料気体を通過させることができる。
【0015】
第1捕集ユニット12は、図3乃至5に示すように有上面円筒状に形成された第1インパクタ30と、円盤状に形成された第1ガラスプレート32と、円盤状に形成され、この第1ガラスプレート32を支持する第1ベースプレート34と、第1ガラスプレート32を第1ベースプレート34に固定する固定ねじ36と、を備えている。第1インパクタ30の上面の中心には、固定ねじ36が螺合可能なねじ孔30aが貫通しており、そのねじ孔30aを中心として周方向に均等な間隔をおいて、試料気体が流入可能な6つの流入孔30bが形成されている。また、第1インパクタ30の外周面の下端には、全周に亘って外方向に亘って突出するフランジ30cが形成されており、このフランジ30cの外周縁と第1ベースプレート34の外周縁が整合するように形成されている。さらに、第1インパクタ30は、上流側ケース部材18に挿入された際に、外周面が上流側ケース部材18の内周面に密に接するように構成されている。第1ベースプレート34の中心には、第1ガラスプレート32の形状に相応する円状の凹部34aが形成されており、この凹部34aに第1ガラスプレート32が載置され、固定ねじ36を下方に螺進させてその先端で第1ガラスプレート32を抑えることにより、第1ガラスプレート32を第1ベースプレート34に対して固定することができる。また、第1ペースプレート34の凹部34aの外側には、試料気体を流出可能な4つの流出孔34bが周方向に均等な間隔をおいて形成されている。そして、6つの流入孔30bは、第1ガラスプレート32の上方に位置するように円状に形成されており、4つの流出孔34bは、第1ガラスプレート32の外周に沿った形状に形成されている。第1ガラスプレート32は、図6に示すように、中心部で2つに分かれており、ピンセットなどで取り外しやすいよう片側に切り欠き部分32aが形成されている。
【0016】
第2捕集ユニット14及び第3捕集ユニット16は、図7乃至10に示すように、第1捕集ユニット12と同様に第2インパクタ38、第2ガラスプレート40、第2ベースプレート42及び固定ねじ44、並びに第3インパクタ46、第3ガラスプレート48、第3ベースプレート50及び固定ネジ52を備えており、第2インパクタ38及び第3インパクタ46を除いて、第1捕集ユニット12と同様の構成を有する。第2インパクタ38の流入孔38bは、第1インパクタ30の流入孔30bよりも径が小さく、第3インパクタ46の流入孔46bは、第2インパクタ38の流入孔38bよりも径が小さい。また、第2インパクタ38は、流入孔38bから第2ガラスプレート40までの距離が第1インパクタ30よりも短くなるように、第1インパクタ30よりも高さが低く、第3インパクタ46は、同様に第2インパクタ38よりも高さが低い。
【0017】
これら第1乃至第3捕集ユニット12、14、16は、それぞれ上流側ケース部材18と第1中間ケース部材20の間、第1中間ケース部材20と第2中間ケース部材22の間及び第2中間ケース部材22と第3中間ケース部材24の間に挟持されることによって、ケース部10に装着されるよう構成されている。すなわち、第1捕集ユニット12の第1インパクタ30は、外周面が上流側ケース部材18の内周面に密に接した状態で挿入され、フランジ30cが第1内段差18aに当接する。一方、第1ベース部材34は、第1中間ケース部材20の上段差20e内に載置される。第2及び第3捕集ユニット14及び16は、第1捕集ユニット12と同様に挟持されている。
【0018】
本実施例に係るカスケードインパクタにおいて、第3中間ケース部材24と下流側ケース部材26の間には、フィルタユニット52が第1捕集ユニット12と同様に挟持されている。このフィルタユニット52は、下流側ケース部材26の上段差26eの形状に相応するリング状に形成されており、孔径0.8ミクロンのニトロセルロース系メンブレンフィルタ54と孔径0.8ミクロンのポリカーボネイトメンブレンフィルタ56を張り合わせた状態で挟持している。
【0019】
また、積み重ねられたケース部10は、一対の固定部材58、58によって上下方向から挟持することによって固定されている。この固定部材58は、上流側ケース部材18にねじ止めされたフック58a、及び下流側ケース部材26の底面にねじ止めされた固定片58bをトグル機構58cによって結合する構成からなる。この一対の固定部材58、58によって積み重ねられたケース部10を固定すると各ケース部材18、20、22、24、26は、Oリング28、29の弾性力に抗して上下方向に収縮された状態で固定されるように構成されている。
【0020】
このように組み立てられたカスケードインパクタは、下流側ケース部材26のねじ穴26gに図示しないエアポンプを接続することによって、ケース部10内を試料気体を通過させ、試料気体に含まれる粒子状物質の捕集を行なうことができる。すなわち、試料気体をカスケードインパクタ内に流入させると、先ず、第1インパクタ30の流入孔30bから第1捕集ユニット12内に流入されるとともに、第1ガラスプレート32に衝突させられる。第1ガラスプレート32に衝突された試料気体は、第1ガラスプレート32に一定の粒径以上の粒子状物質が捕集され、残りの粒子状物質を含んだ状態で第1ベースプレート34の流出孔34bから流出される。流出孔34bから流出された試料気体は、第2インパクタ38の流入孔38bから第2捕集ユニット14内に流入されるとともに、第2ガラスプレート40に衝突させられる。第2ガラスプレート40に衝突された試料気体は、第2ガラスプレート40に一定の粒径以上の粒子状物質が捕集され、残りの粒子状物質を含んだ状態で第2ベースプレート42の流出孔42bから流出される。流出孔42bから流出された試料気体は、第3インパクタ46の流入孔46bから第3捕集ユニット16内に流入されるとともに、第3ガラスプレート48に衝突させられる。第3ガラスプレート48に衝突された試料気体は、第3ガラスプレート48に一定の粒径以上の粒子状物質が捕集され、残りの粒子状物質を含んだ状態で第3ベースプレート50の流出孔50bから流出される。流出孔50bから流出された試料気体は、フィルタユニット52を通過することによって一定の粒径以上の粒子状物質が捕集され、ねじ穴26から流出される。
【0021】
次に、本実施例に係るカスケードインパクタを用いて、試料気体中の粒子状物質を捕集する工程を図11に示すフローチャートに基づいて説明する。先ず、(a)第1乃至第3ガラスプレート32、40、48を超純粋のみで洗浄したのち乾燥させ、(b)シリカゲルを入れたデシケータ内に保存して水分を取り除き、またニトロセルロース系メンブレンフィルタ54とポリカーボネイトメンブレンフィルタ56を同様にデシケータ内に保存して水分を取り除いた後張り合わせてフィルタユニット52とする。(c)第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52を秤量して捕集前の重量Wを得た後、(d)カスケードインパクタにそれぞれ設置し、エアポンプを用いて試料気体を吸入して粒子状物質を第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52それぞれに吸着捕集し、(e)さらに、それぞれの捕集後の重量Wを測定する。
【0022】
次に、ICP質量分析装置又はICP発光分析装置に用いて元素分析を行なうのに用いられる分析用試料の取得工程について、図12に示すフローチャートに基づいて説明する。先ず、(f)粒子状物質を捕集させた第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52それぞれを先の尖った内容積15mlのポリプロピレン製コニカルチューブに入れ、それに1%濃度の高純度硝酸(HNO)を5ml又は10ml加え、(g)このコニカルチューブをステンレス製の試験管ラックに収納し、規定の水が満たされた超音波洗浄装置に設置して超音波洗浄を5〜10分間行なうことによって、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52から捕集された粒子状物質を脱離させる。この際、粒子状物質が完全に脱離されることが、目視で確認できる。次いで、(h)この脱離された粒子状物質が含まれた硝酸溶液にX−100(ICN Pharmaceuticals Inc.,USA)の1%溶液を硝酸溶液10mlに対して100μm加えてエマルジョン化することによって、ICP質量分析装置又はICP発光分析装置に用いて元素分析を行なうのに用いられる分析用試料を取得することができる。
【0023】
次に、IC分析装置に用いてイオン種分析を行なうのに用いられる分析用試料の取得工程について、図13に示すフローチャートに基づいて説明する。先ず、(f’)粒子状物質を捕集させた第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52それぞれを先の尖った内容積15mlのポリプロピレン製コニカルチューブに入れ、それに超純水を5ml又は10ml加え、(g’)このコニカルチューブをステンレス製の試験管ラックに収納し、規定の水が満たされた超音波洗浄装置に設置して超音波洗浄を5〜10分間行なうことによって、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52から捕集された粒子状物質を脱離させる。この際、粒子状物質が完全に脱離されることが、目視で確認できる。次いで、(h’)この脱離された粒子状物質が含まれた超純水を0.45μmのディスポーサブルのセルロースアセテート系メンブレンフィルタで濾過することによって、IC分析装置に用いてイオン種分析を行なうのに用いられる分析用試料を取得することができる。
【実施例1】
【0024】
次に、標準物質を含むNational Institute of Standard Reference Material R 2783(Air Particle on Filter Media)を試料として、分析用試料の収得工程に、Li、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Rb、Sr、Zr、Mo、Ag、Cd、Sn、Sb、Cs、Ba、W、Pb、Uの35元素について、IPC質量分析装置を用いて元素分析を行なった。表1にその試験結果を示す。
【0025】
【表1】

試料からは、測定を行った35元素がすべて定量され、標準物質の保証値として提示されている22元素のうち、Al、Si、K、Tiを除く18元素が、保証値に対して66〜110%の検出率となった。以上のことから、上記工程で得られた分析用試料は、ICP質量分析装置によって、元素分析と同時に定量分析を行なうことができることを確認できた。
【0026】
また、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52について、ICP質量分析装置を用いたブランク試験を同様に行なった。その結果、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48においては、B、Na、Al、Si、P、K、Ca、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Rb、Zr、Mo、Sn、Sb、Ba、W、Pbの21元素が微量に定量され、いずれの元素も5回の定量分析による測定値の誤差が1%以下となった。このことから、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48のブランク測定値は、非常に安定しており、捕集された粒子状物質の元素分析の信頼性を高めることができることを確認できた。これに対してフィルタユニット52においては、Si、Cr、Fe、Cu、Pの5元素が定量され、いずれの元素も5回の測定値の誤差は10%以下となった。
【実施例2】
【0027】
次に、空気を試料気体として、本実施例に係るカスケードインパクタを用いて流量20L/分で24時間粒子状物質の捕集を行い、実施例1と同様に35元素について、IPC質量分析装置を用いて元素分析を行なった。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【実施例3】
【0029】
次に、空気を試料気体として、本実施例に係るカスケードインパクタを用いて流量20L/分で24時間粒子状物質の捕集を行い、陰イオンとしてFイオン、Clイオン、NOイオン、Brイオン、NOイオン、POイオン、SOイオン、陽イオンとして、Naイオン、NHイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオンの12種のイオンについて、IC分析装置を用いてイオン種分析を行った。その試験結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

表3に示すように試料気体からは上記12種のイオンがすべて定量された。また、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48及びフィルタユニット52について、IC分析装置を用いたブランク試験を同様に行なった。その結果、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48においては、Clイオン、NOイオン、NOイオン、SOイオン、Naイオン、NHイオン、Kイオンが0.002〜0.025mg/Lの範囲で定量され、5回の測定誤差はどのイオンについても5%以下となった。このことから、第1乃至第3ガラスプレート32、40、48のブランク測定値は、非常に安定しており、捕集された粒子状物質のイオン種分析の信頼性を高めることができることを確認できた。これに対してフィルタユニット52においては、Fイオン、Clイオン、NOイオン、NOイオン、SOイオン、Naイオン、Kイオンが定量され、5回の測定誤差はどの元素についても10%以下となった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のカスケードインパクタに係る実施例の一部切断正面図である。
【図2】本実施例に係るカスケードインパクタの平面図である。
【図3】本実施例に係るカスケードインパクタの第1捕集ユニットの平面図である。
【図4】本実施例に係るカスケードインパクタの第1捕集ユニットのガラスプレートを備えたベースプレートの平面図である。
【図5】本実施例に係るカスケードインパクタの第1捕集ユニットの断面図である。
【図6】本実施例に係るカスケードインパクタのガラスプレートの斜視図及び平面図である。
【図7】本実施例に係るカスケードインパクタの第2捕集ユニットの平面図である。
【図8】本実施例に係るカスケードインパクタの第2捕集ユニットの断面図である。
【図9】本実施例に係るカスケードインパクタの第3捕集ユニットの平面図である。
【図10】本実施例に係るカスケードインパクタの第3捕集ユニットの断面図である。
【図11】本実施例に係るカスケードインパクタの捕集工程を示すフローチャートである。
【図12】本実施例に係るカスケードインパクタによって捕集された粒子状物質の元素分析工程を示すフローチャートである。
【図13】本実施例に係るカスケードインパクタによって捕集された粒子状物質のイオン種分析工程を示すフローチャートである。
【図14】従来のカスケードインパクタを示す一部切断正面図である。
【符号の説明】
【0032】
12 第1捕集ユニット
14 第2捕集ユニット
16 第3捕集ユニット
30 第1インパクタ
32 第1ガラスプレート
34 第1ベースプレート
38 第2インパクタ
40 第2ガラスプレート
42 第2ベースプレート
46 第3インパクタ
48 第3ガラスプレート
50 第3ベースプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質を含む気体を下方に流入可能な流入口を有するインパクタと、前記インパクタから流入された前記気体を衝突させることにより前記粒子状物質を捕集させる捕集部材と、前記捕集部材を支持するとともに該捕集部材に衝突した前記気体が流出可能な流出口を有するベースプレートと、を備えた捕集ユニットを有するカスケードインパクタであって、
前記捕集部材は、ガラス素材から構成されていることを特徴とするカスケードインパクタ。
【請求項2】
前記ベースプレートには、前記捕集部材の形状に相応する形状の凹部が形成されており、
前記捕集部材は、2つに分割されたガラス片からなり、ガラス片の一方には、前記凹部の形状に対して切り欠きされた切り欠き部分が形成されていることを特徴とする請求項1記載のカスケードインパクタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたカスケードインパクタによって粒子状物質が捕集された前記捕集部材を溶媒に浸した状態で超音波を放射して前記粒子状物質を前記捕集部材から前記溶媒に離脱する工程を備えたことを特徴とする分析用試料取得方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−101331(P2007−101331A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290696(P2005−290696)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000181756)株式会社ハリオ研究所 (2)
【Fターム(参考)】