説明

カスケード加速器

グライナッヘルカスケード(20)の形式で、ダイオード(24、30)により相互接続される、それぞれ直列に接続される2組(2、4)のコンデンサ(26、28)を備えるカスケード加速器(1)は、コンパクトな構造に、特に高い達成可能な粒子エネルギーを含むためのものである。したがって、カスケード加速器は、1組(2)のコンデンサの電極内の開口部により形成され、最高電圧を伴う電極(12)の領域に配置される粒子源(6)に向けられる加速チャネル(8)を有し、電極が、加速チャネル(8)を別として、固体または液体の絶縁材料(14)で相互に絶縁される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グライナッヘル(Greinacher)カスケードの方式で、ダイオードを介して接続される、2組のそれぞれ直列に接続されるコンデンサを有するカスケード加速器に関する。本発明は、さらに、そのようなカスケード加速器を有するビーム治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電離放射線が、医療のビーム治療において、病気を治療するために、またはその進行を遅延させるために使用される。電離の高エネルギービームとして使用されるのは、主にガンマ線、X線および電子である。
【0003】
直接の治療での使用のため、またはX線の生成のためのいずれかで電子ビームを生成するためには、粒子加速器を利用することが通例である。粒子加速器では、荷電粒子が電場により高速度に、したがって高運動エネルギーに至り、電場は、ある種の加速器のタイプの場合では、可変の磁場での電磁誘導に起因する。この場合では、粒子は、その固有の静止エネルギーの整数倍に相当する運動エネルギーを必要とする。
【0004】
粒子加速器の場合では、例えばベータトロンまたはサイクロトロンなどの、周期的な加速を伴う粒子加速器と、直線状の加速を伴うものとの間で区別が行われる。後者は、よりコンパクトな設計を可能にし、さらには、いわゆるカスケード加速器(さらにはコッククロフトウォルトン加速器)を備え、その場合では、直列に多数接続される(カスケードされる)グライナッヘル回路が、高いDC電圧を、したがってAC電圧の増倍および整流により、強い電場を生成するために使用され得る。
【0005】
グライナッヘル回路の動作の態様は、ダイオードおよびコンデンサの配置に基づく。AC電圧源の負の半波が、第1のダイオードを介して、第1のコンデンサをAC電圧源の電圧に充電する。そのすぐ後に続く正の半波の場合では、第1のコンデンサの電圧が、今度はAC電圧源の電圧に加えられ、その結果、次に、第2のコンデンサが、AC電圧源の出力電圧を2倍にするように、第2のダイオードを介して充電される。このように、電圧増倍器が、グライナッヘルカスケードの方式で、多重カスケードにより得られる。この場合では、それぞれ第1のコンデンサが、直列に直接接続される、カスケードの第1の組のコンデンサを形成する一方で、それぞれ第2のコンデンサが、対応する第2の組を形成する。ダイオードは、組の間の相互接続を形成する。
【0006】
メガ電子ボルトの領域での比較的高い粒子エネルギーが、そのようなカスケード加速器で実現され得る。しかしながら、この場合では、特にカスケード加速器が通常の大気圧のもとで設置されている状態では、電気的なフラッシュオーバーの危険が存在し(空気の絶縁破壊電圧:3kV/mm)、その結果、最大の粒子のエネルギーは、不適当に制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、コンパクトな設計とともに、特に高い実現可能な粒子エネルギーを生み出すカスケード加速器の仕様を定めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明によれば、1組のコンデンサの電極内の開口部により形成され、最高電圧を伴う電極の領域に配置される粒子源に向けられる加速チャネルを有し、コンデンサの電極が、加速チャネルを除き、固体または液体の絶縁材料により相互に絶縁される、カスケード加速器により実現される。
【0009】
本発明は、この場合では、カスケード加速器の発生される粒子ビームのエネルギーは、加速電圧の上昇により増大され得るという考察から実施される。それに起因する電気的なフラッシュオーバーの危険を最小化するために、カスケード加速器の個々のコンデンサプレートの間隔が、増大される場合がある。しかしながら、これは、まさに医学の分野で使用できる能力のために望まれていることである、コンパクトな設計に相反することになる。したがって、コンパクトな設計とともに、加速電圧が上昇されることを可能にするために、コンデンサは、何らかの他の方法で、電気的なフラッシュオーバーから保護されなければならない。この目的のためには、コンデンサプレートの信頼性の高い絶縁を可能にする、適切な液体または固体の絶縁体が、使用されるべきである。これは、電極の相互間空間を、加速チャネルを除き、固体または液体の絶縁材料で充填することにより実現され得る。
【0010】
カスケード加速器で生成される高電圧は、適切な絶縁の厚さに加えて、幾何形状の適切な構成により、電気的な絶縁破壊から保護されなければならない。したがって、電圧の生成は、粒子加速器に組み込まれるべきであり、特に高い電圧を有する構成要素は、可能な限り小さな容積内に収容されるべきである。最大の電場の強さは、電極の曲率に比例するので、球形の、または楕円の幾何形状が、特に有利である。具体的には、球形の幾何形状は、絶縁体内で、可能な限り大きな電場の強さに関して、特に小さな容積を示し、したがって、さらには、特に小さな質量を示す。しかしながら、特定の設計では、楕円への変形が望まれる場合がある。結果として、複数の電極を、相互に離れた様式で、粒子源の周囲に配置される、同心の中空の楕円のセグメントとして設計することが有利である。
【0011】
楕円の幾何形状の利点を、グライナッヘルカスケード内の電圧の簡単な生成と結び付ける特に簡素な設計は、電極としての中空の半楕円が、それぞれ、中空の楕円のセグメントとして設計されることにより、すなわち、それぞれの中空の楕円の赤道に、分離部分を用意することにより可能であり、それによって、このように製造される中空の半楕円の複数の層が、グライナッヘルカスケードのために必要とされる2組のコンデンサを形成する。次いで有利には、加速チャネルが、それぞれの中空の半楕円の頂点を通って誘導され、それによって、特に簡素な幾何形状が実現される。
【0012】
さらに有利な構成では、それぞれのダイオードは、それぞれの中空の半楕円の大円の領域に配置される。特に、中空の半楕円がそれぞれ、直列にそれぞれ接続される2組のコンデンサを形成する場合、ダイオードはそれぞれ、中空の半楕円をもう一方の半球に接続する。次いで、ダイオードは、特に簡素な設計の目的で、赤道部分内に配置され得る。
【0013】
絶縁破壊に対するカスケード加速器の特に高い安定性を達成するために、加速経路に沿って、すなわち、グライナッヘルカスケードの個々の電極の間で、均一の電圧勾配が与えられるべきである。これは、相互に等距離に隔置される複数の電極により実現され得る。各組の電極は、線形の電圧上昇を行うので、それによって、加速チャネルに沿った、電圧の実質的に線形の上昇が、結果として実現される。
【0014】
さらに有利な構成では、粒子源は、冷陰極である。冷陰極の電極は、加熱されず、さらに、動作中も冷たいままであるので、そこでは熱イオン放出は起こらない。カスケード加速器の特に簡素な設計が、それによって可能にされる。
【0015】
加速チャネルは、粒子の流れが、カスケード加速器から抽出されることを可能にする。加速チャネルがさらに、絶縁破壊なしに、接線方向の電場に耐えるために、加速チャネルは、ダイヤモンドライクカーボンおよび/または酸化ダイヤモンドで被覆される円筒形の壁を備えるべきである。これらの材料は、これらの比較的高い電圧に耐えることができる。
【0016】
そのようなカスケード加速器が、有利には、ビーム治療装置で使用される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により達成される利点は、具体的には、グライナッヘルカスケードに基づくカスケード加速器の場合では、粒子源および/または電極を、固体または液体の絶縁材料に埋め込むことにより、加速する荷電粒子に対して、特に高い加速電圧を生成することが可能であるということである。球形の、または楕円の幾何形状を使用する電極の設計を考慮に入れると、特にコンパクトな設計が可能であり、その上、グライナッヘル回路の2つのコンデンサの組は、粒子源および高電圧電極の周囲の電場分布のための、同心の電位平衡電極としてさらに使用される。そのようなカスケード加速器は、具体的には医療用途で必要とされるような、特にコンパクトな設計とともに、特に高い電圧を可能にする。
【0018】
本発明の例示的な実施形態が、図面の助力によって、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】カスケード加速器を貫く断面の概略図を示す。
【図2】グライナッヘル回路の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
2つの図での同一の部分は、同じ参照符号が与えられる。
【0021】
図1によるカスケード発生器1は、中空の半球の電極の第1の組2および第2の組4を有する。これらは、粒子源6の周囲に同心で配置される。
【0022】
粒子源6に向けられるとともに、粒子源6から発し、中空の球形の高電圧電極12から高い加速電圧を受ける粒子の流れ10の抽出を可能にする加速チャネル8は、電極の第2の組4を通って誘導される。
【0023】
粒子源6に関して内部で、高電圧電極12の高電圧の絶縁破壊を防止するために、粒子源6は、固体または液体の絶縁材料14に完全に埋め込まれる場合があり、その結果、高電圧電極12と粒子源6との間の空間は、加速チャネル8を別として、絶縁材料14で充填される。それによって、高電圧電極12に特に高い電圧を印加することが可能であり、それは、結果として、特に高い粒子エネルギーとなる。さらに、電極のコンデンサプレートに関して、電極は、固体または液体の絶縁材料14により、基本的に加速チャネル8を別として、相互に絶縁され得る。
【0024】
高電圧電極12での高電圧は、図2で回路図として図示されるグライナッヘルカスケード20により生成される。AC電圧Uが、入力22に印加される。最初の半波が、ダイオード24を介して、コンデンサ26を電圧Uに充電する。そのすぐ後に続くAC電圧の半波の場合では、コンデンサ26の電圧Uが、入力22での電圧Uに加えられ、その結果、次に、コンデンサ28が、ダイオード30を介して電圧2Uに充電される。
【0025】
この処理は、そのすぐ後に続いてゆくダイオードおよびコンデンサで反復され、その結果、図2で図示される回路では、総計で電圧6Uが、出力32で達成される。図2はさらに、コンデンサの第1の組2およびコンデンサの第2の組4が、それぞれ、図示される回路によりどのように形成されるかを明確に示す。
【0026】
次に、図2ではそれぞれ相互接続される2つのコンデンサの電極が、図1によるカスケード加速器1では、それぞれ中空の半球のシェルとして、同心で設計される。この場合では、電圧源22の電圧Uは、それぞれ、一番外側のシェル40、42に印加される。回路を形成するためのダイオードは、それぞれの中空の半球の大円の領域に、すなわち、それぞれの中空の球の赤道の部分に配置される。
【0027】
内半径r0および外半径r1である球形のコンデンサは、次式の静電容量を有する。
【0028】
【数1】

【0029】
したがって、半径rに対する場の強さは、次式となる。
【0030】
【数2】

【0031】
この場の強さは、半径に2次で依存し、したがって、電極内に向かって急激に増大する。
【0032】
グライナッヘルカスケード20のコンデンサの電極が、明確に規定される電位での中間の電極としてカスケード加速器1に挿入されるという事実のために、場の強さの分布は、半径にわたって線形に均一化される、というのは、薄い壁の中空の球に対しては、電場の強さは、最小最大の場の強さである
【0033】
【数3】

【0034】
の平坦な場合に近似的に等しいためである。
【0035】
特に高い加速電圧が、カスケード加速器1で、基本的には固体または液体の絶縁材料14に完全に封止される、高電圧電極12での電場分布のための同心の電位平衡電極としての、グライナッヘルカスケード20の2つのコンデンサの組2、4の追加的な使用により実現される。同時に、設計は非常にコンパクトであり、これが、特にビーム治療での柔軟な適用を可能にする。
【符号の説明】
【0036】
1 カスケード発生器、カスケード加速器
2 第1の組
4 第2の組
6 粒子源
8 加速チャネル
10 粒子の流れ
12 高電圧電極
14 絶縁材料
20 グライナッヘルカスケード
22 入力、電圧源
24 ダイオード
26、28 コンデンサ
30 ダイオード
32 出力
40、42 一番外側のシェル
r0 球形のコンデンサの内半径、内半径
r1 球形のコンデンサの外半径、外半径
U AC電圧、電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グライナッヘルカスケード(20)の方式で、ダイオード(24、30)を介して接続される、2組(2、4)のそれぞれ直列に接続されるコンデンサ(26、28)と、1組(2)の前記コンデンサの電極内の開口部により形成され、最高電圧を伴う前記電極(12)の領域に配置される粒子源(6)に向けられる加速チャネル(8)とを有し、前記電極が、前記加速チャネル(8)を除き、固体または液体の絶縁材料(14)により相互に絶縁される、カスケード加速器(1)。
【請求項2】
複数の電極が、相互に離間するように、前記粒子源(6)の周囲に同心で配置される、中空の楕円のセグメントとして構成される、請求項1に記載のカスケード加速器(1)。
【請求項3】
前記それぞれの中空の楕円のセグメントが、中空の半楕円であり、前記加速チャネル(8)が、前記中空の半楕円の頂点を通って誘導される、請求項2に記載のカスケード加速器(1)。
【請求項4】
前記それぞれのダイオード(24、30)は、前記それぞれの中空の半楕円の大円の領域に配置される、請求項3に記載のカスケード加速器(1)。
【請求項5】
複数の電極が、相互に等距離に隔置される、請求項1から4の一項に記載のカスケード加速器(1)。
【請求項6】
前記粒子源(6)は、冷陰極である、請求項1から5の一項に記載のカスケード加速器(1)。
【請求項7】
前記加速チャネル(8)は、ダイヤモンドライクカーボンおよび/または酸化ダイヤモンドで被覆される円筒形の壁を備える、請求項1から6の一項に記載のカスケード加速器(1)。
【請求項8】
請求項1から7の一項に記載のカスケード加速器(1)を有する、ビーム治療装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528427(P2012−528427A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512266(P2012−512266)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054021
【国際公開番号】WO2010/136235
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)
【Fターム(参考)】