説明

カスタマイズされた組成物およびその使用

【課題】組織の再生または修復を必要とする身体部位に適用できる組織再生組成物の提供。
【解決手段】三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含む、組織を再生または修復するための組成物であって、ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、第1および第2の層が互いに別個のものであり、組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、ウェビングの第1および第2の層が組織の第1の層および第2の層に一致する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元(3D)ナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた組成物に関する。さらに本発明は、3Dナノファイバーウェビングを含む組成物の製造プロセスおよび加齢黄斑変性の治療または組織の再生/修復等のその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は身体の最大の器官であるが、有害な微生物や化学物質の体内への侵入を防ぐのに役立つ物理的なバリアを形成するので、生物が生きていくためになくてはならないものである。皮膚は、有害な成分の体内への侵入を阻止するだけでなく、体から特定の老廃物を分泌する役割を有する。さらに、皮膚は身体への衝撃となる可能性のあるものを和らげるので、内部器官にとっての保護構造体である。また皮膚は体液の喪失を抑制し、かつ太陽からの紫外線によって内部器官がダメージを受けるのを防ぐ。
【0003】
皮膚は厚さ1.4〜4.0mmである。通常、皮膚は最も見え易い場所(例えば大腿、前腕、顔等)では比較的薄く、最も厚い部分は、掌や足裏等の擦れや摩擦を受け易い体の部分である。
【0004】
厚さに関係なく、皮膚は2つの別個の層、表皮および真皮からなる。表皮は皮膚の外層であり、頑丈で水を通ない保護層である。真皮、すなわち内層は表皮よりも厚く、皮膚に強度と弾力を与えている。皮膚のこれらの2つの層は、皮膚を結びつける役割を果たし、精巧に相互接続している一連の分子からなる基底膜として知られる組織の薄いけれども複雑な層によって互いに固定し合っている。真皮の下は皮下層である下皮であるが、下皮はタンパク繊維からなる組織と脂肪組織との層である。厳密には皮膚の一部ではないが、皮下層は分泌腺および他の皮膚構造ならびに触覚に含まれる感覚受容器を含む。
【0005】
非常に弾力性はあるが、皮膚は様々な形でダメージを受ける可能性があり、それが恒久的な場合もある。皮膚は損傷を受けるとすぐに修復を始める。
【0006】
創傷治癒または創傷修復は、皮膚(またはその他の器官−組織)が損傷後に自己修復する複雑なプロセスである。正常な皮膚においては、表皮(最外層)と真皮(内層または深層)とは定常状態平衡にあり、外部環境に対する防護壁を形成している。防護壁が破壊されると、創傷治癒の正常(生理的)過程がただちに始動する。創傷治癒の古典的モデルは、重複もあるが逐次的な3つまたは4つの段階(期)に分類される:(1)うっ血(著者によっては段階(期)と見なしていない)、(2)炎症、(3)増殖、および(4)再構築。皮膚が損傷を受けると、一連の複雑な生化学的事象が、損傷を修復するために綿密に組織化された流れに基づいて起こる。損傷後数分以内に血小板(栓球)が損傷部位に凝集してフィブリン塊を形成する。この塊は活動性出血(うっ血)を制御するために働く。
【0007】
炎症期では、細菌および壊死組織片が貪食されて取り除かれ、増殖期に含まれる細胞の移動および分裂を引き起こす因子が放出される。
【0008】
増殖期は、血管新生、コラーゲン沈着、肉芽組織形成、上皮形成および創傷収縮を特徴とする。血管新生では、血管内皮細胞により新しい血管が形成される。線維組織形成および肉芽組織形成では、線維芽細胞が増殖し、コラーゲンやフィブロネクチンを分泌することにより新しい暫定的な細胞外マトリックス(ECM)を形成する。同時に、上皮細胞が増殖して創傷床の上をゆっくりと広がり、新しい組織を覆う表皮の再上皮化が起こる。
【0009】
収縮では筋線維芽細胞の作用により創傷が小さくなるが、筋線維芽細胞は創傷端をしっかりとつかみ、平滑筋細胞の場合と同様のメカニズムにより自ら収縮する。細胞の役割が終了に近付くと、不要な細胞はアポトーシスを遂げる。
【0010】
成熟期および再構築期では、コラーゲンが再構築されて割線に沿って再整列し、必要なくなった細胞はアポトーシスにより取り除かれる。
【0011】
皮膚への損傷は頻度が高いため、創傷治癒または創傷修復過程は多くの場合皮膚で起こる。侵襲的な皮膚手術(例えば癌性皮膚組織の切除)、または物体との偶発的な衝突もしくは火傷による重度の損傷は、皮膚の全ての層に影響し(全層創傷)、創傷修復が長引いて、はっきりと見える瘢痕が残る可能性がある。皮膚の奇形や恒久的異常は、深い創傷の治癒や修復の結果として表れる可能性がある。創傷治癒の過程は脆弱であり中断や失敗が起こり易く、慢性的な非治癒性創傷の形成につながる。この一因となり得る要素としては、糖尿病、静脈または動脈疾患、老齢および感染が挙げられる。
【0012】
慢性創傷とは、ほとんどの創傷が治癒するはずの順序だった一連の段階や予測可能な時間では治癒しない創傷であり、3カ月以内に治癒しない創傷は多くの場合慢性と見なされる。慢性創傷は、創傷治癒における1つまたは複数の段階(期)において留められるようである。例えば、慢性創傷は過度に長い時間炎症段階に留まることがしばしばある。急性創傷においてはコラーゲンのような分子の産生と分解に適切なバランスがあるが、慢性創傷ではこのバランスが失われ、分解の果たす役割が大き過ぎる。
【0013】
慢性創傷は、永遠に治癒しない場合もあれば治癒に何年もかかる場合もある。これらの創傷は患者に重度の精神的かつ肉体的ストレスを引き起こすだけでなく、患者および医療制度全体に著しい経済的負担を負わせる。慢性創傷が関わる皮膚の完全性および外観は満足の行くものではなく、皮膚の強度は約50%以下になる。慢性創傷の効果的な治療は存在しない。
【0014】
皮膚の外観に関して言えば、皮膚の身体的異常に伴う深い精神的ストレスが存在する。これらの異常は、先天的な場合や、環境によって引き起こされる(例えば重度の火傷により)場合があり、例えば顔に深いくぼみや割れ目として存在して視認できる場合がある。組織を修復および再形成する手法は、皮膚移植と効果が乏しい代用皮膚とに限られている。しかしながら、これらの治療のほとんどは、次のような様々な欠点に関連しており、最適までには至っていない:
・利用可能な提供者の組織が限られること;
・移植した真皮が再生せず、収縮した傷跡となる;
・移植片収縮を補うためにより大きな提供者の部位を必要になる;
・採取した提供者の部位が有痛性、掻痒性かつ赤色である;
・治癒過程における提供者の皮膚または代用皮膚の度重なる取り換えの必要性;
・創傷部位のうろこ状、でこぼこ、干からびの出現;
・組織拒絶反応の可能性;
・移植箇所の堅さ;
・機能上また美容上の点で不本意な結果となること。
【0015】
本発明は、全てではないが現在の皮膚移植や現在利用可能となっている代用皮膚治療の欠点の多くを克服する、3Dナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた組織再生組成物の発見に基づいている。この組成物は、特有の皮膚の変形や異常を呈している個々の対象者をよりよく治療するために、組織組成物をカスタマイズする独特のプロセスから作製される。
【0016】
本発明は、体の表面における美容および医療用途に有用であるだけでなく、体内で組織を再生するのにも有用である。体内の内部器官や構造体が組織再生を必要とする状況は数多く存在する。アポトーシス、すなわちプログラム細胞死は、寿命に達した細胞等の不要な細胞(例えば赤血球)を死滅させるために、身体が依存しているプロセスである。しかしながら、無用に誘発された場合、アポトーシスは有害な影響を有し得る。一酸化窒素はアポトーシスに過剰に刺激を与え得る化合物である。一度に過度に刺激されたか、または長期間にわたって刺激されたアポトーシスは、身体に害を及ぼす力があり、また様々な症状に関連している。アポトーシスは加齢黄斑変性(AMD)の主因であることが明らかとなっている。AMDとは、通常は高齢者を襲い、眼の後方、例えば網膜やブルッフ膜(BM)における解剖学的な部位の損傷が原因で視野の中心の視力喪失につながる病状である。「萎縮型」および「滲出型」で起きる。高齢者(>50歳)における失明および視力障害の主な原因である。黄斑変性によって、表情を読んだり顔を識別したりすることが困難になるかまたは不可能になる場合がある。
【0017】
黄斑は網膜の中心領域であり、ここで最も細密な中心視が得られる。網膜は眼の後方にある3つの主要な層の1つである。3つの主要な層とは、眼の内側から後方に向かって、網膜、血液供給を含む脈絡膜および白眼の部分である強膜である。「萎縮型」の進行AMDは、網膜の下の網膜色素上皮層の委縮に起因し、眼の中心部の光受容器(杆体および錐体)の喪失を通じて視力喪失を引き起こす。この症状に対して有効な内科療法や外科療法は全くない。
【0018】
委縮とは、組織の再吸収および分解の一般的な生理的過程であり、細胞レベルのアポトーシスも含まれる。疾患の結果または他の疾患が原因の栄養支援の喪失の結果として生じる場合、病理性委縮と呼ばれるが、同様に正常な身体発育やホメオスタシスの一部の場合もある。したがって、委縮は体内のいずれかの組織の喪失に関連している可能性がある。
【0019】
「滲出型」AMDでは、ブルッフ膜と呼ばれる網膜の基質層(土台)の下で新血管新生が起こる。ブルッフ膜とは脈絡膜の最内層である。滲出型AMDに対しては現在利用可能な治療法があるが、それは抗VEGFの投与である。
【0020】
本発明は、例えばある特定の細胞の送達や増殖によって組織を再生したり、種々の剤の送達によって組織を修復したりするのに使用できるように、新規なナノファイバーエレクトロスピニングプロセスによってカスタマイズされる能力を有する3Dナノファイバーウェビングを含む組成物の発見に基づいている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
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【発明の概要】
【0022】
本発明の第1の態様によれば、三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含む、組織を再生または修復するための組成物であって、ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、第1および第2の層が互いに別個のものであり、組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、ウェビングの第1および第2の層が組織の第1の層および第2の層に一致する組成物が提供される。
【0023】
一実施形態においては、組成物の第1の層および第2の層は細胞外マトリックスや細胞の層を模倣することにより組織の第1の層および第2の層に一致し得る。さらなる実施形態においては、組織中の細胞の層と一致する組成物の層に1つまたは複数の細胞が播種されている。播種されている細胞は組織層中の細胞と同じ細胞型であってもよい。あるいは、播種されている細胞は組織層中の細胞の細胞型と異なってもよいが、培養を通じて同じ細胞型に分化することが可能である。播種されている細胞は幹細胞であってもよい。幹細胞はヒト幹細胞であってもよい。培養は、修復または再生を必要とする組織を組成物と接触させる前に生じてもよい。
【0024】
別の実施形態においては、組成物は3層、4層またはそれ以上の層を含む。組成物は改変可能であり、かつ組織の形状に合わせられている。
【0025】
さらなる実施形態においては、層は織り交ぜられている。
【0026】
さらなる実施形態において、層はシートの形態である。シートを織り交ぜられ、シート同士が相互につなげられてもよい。シートが丸められて開管を形成してもよい。さらなる実施形態においては、組成物は3層以上の層を含有し、3つの層はそれぞれ以下の細胞型のうちの1つを含む:光受容細胞(杆体、錐体)、各種神経細胞または神経由来の細胞、網膜色素上皮細胞。第4の層は網膜色素上皮細胞と同類の細胞を含有してもよい。視神経と連絡するための神経系細胞または他の層の細胞を支持して他の層の細胞と連絡するための細胞を有するさらなる層が加えられてもよい。
【0027】
さらに別の実施形態において、各層は、ポリマーまたはポリマーの混合物を含む液体を撒布することにより、電場を介して別の層またはコレクターの表面上に塗布することができる。コレクターはギプスまたは模型の形態であってもよい。
【0028】
別の実施形態において、ウェビングの第1、第2、第3、第4またはそれ以上の層のそれぞれは、1種のポリマーまたは2種以上のポリマーの混合物からなってもよい。1つまたは複数の層は、1種のポリマーもしくはこのポリマーとは異なる2種以上のポリマーの混合物、または別の1つもしくは複数の層を形成する2種以上のポリマーの混合物によって形成されてもよい。2層以上の層は同じポリマーまたは2種以上のポリマーの混合物を有してもよいが、異なる配向に配置される。ポリマーは天然でも合成でもよく、生分解性でもよい。
【0029】
さらなる実施形態においては、剤は生理化学剤または治療剤であってもよい。剤は、遅延放出用にカプセル化またはコーティングされてもよい。剤は、修復または再生を必要とする組織内に挿入されると同時に組成物から放出されてもよい。剤は抗VEGFであってもよい。
【0030】
組成物は、合成でも天然由来でもよく、ゲル、気体、クリーム、軟膏または固体の形態であってもよい材料をさらに含んでもよい。
【0031】
一実施形態においては、再生または修復を必要とする組織は、顔、胸部、耳、首、腋窩
、鼠径部、手、肘、腕、脚部、足、膝、生殖器、眼瞼、鼻、口唇、皮膚、角膜、網膜(ブルッフ膜(BM)を含む)、視神経およびここでは具体的には挙げないが眼の他のいずれかの解剖学的な後壁を含む眼、肝臓、胆管および胆嚢、腎臓、腸、心臓、膵臓、脾臓、GALT、MALT、咽喉、食道、喉頭、肺、静脈、動脈、胃、小腸、十二指腸、回腸、空腸、結腸、大腸、脳、脊髄および脊髄神経、筋肉(平滑筋、骨格筋および混合筋)、血管、子宮、膀胱および尿道および尿管、卵巣、膣、直腸、甲状腺、舌、口腔粘膜、胃腸粘膜および鼻咽頭粘膜、歯周組織および歯組織、平滑筋および骨格筋、毛髪、乳頭、アポクリン腺、エクリン腺および内分泌腺、毛包、骨軟骨、腱、ならびに骨膜および軟骨膜を含む群より選択される身体部位または臓器に属してもよい。
【0032】
組成物は規模が大きく人工皮膚の形態であってもよい。組成物は規模が小さく網膜、BMまたは眼の後壁のいずれかの解剖学的な部位用に超薄であってもよい。
【0033】
本発明の第2の態様によれば、対象者の組織を再生または修復する方法であって、組織を含有する対象者の身体の部位への組成物の投与を含み、組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、第1および第2の層が互いに別個のものであり、組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、ウェビングの第1および第2の層が組織の第1の層および第2の層に一致する方法が提供される。
【0034】
一実施形態においては、剤は1つまたは複数の細胞である。組成物の第1の層および第2の層は、細胞の層を模倣することにより組織の第1の層および第2の層に一致し得る。1つまたは複数の細胞は組織層中の細胞と同じ細胞型であってもよい。あるいは、1つまたは複数の細胞は組織層中の細胞の細胞型と異なってもよいが、培養を通じて同じ細胞型に分化することが可能である。1つまたは複数の細胞は幹細胞であってもよい。幹細胞はヒト幹細胞であってもよい。
【0035】
本発明の第3の態様によれば、対象者の黄斑変性を治療する方法であって、対象者の網膜の黄斑組織への組成物の投与を含み、組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、第1および第2の層が互いに別個のものであり、組成物の厚さまたは構造が健康状態の組織の厚さまたは構造に一致し、ウェビングの第1および第2の層が組織の第1の層および第2の層に一致する方法が提供される。
【0036】
一実施形態においては、剤は1つまたは複数の幹細胞である。1つまたは複数の幹細胞は、該細胞をインビトロで培養することにより組成物にコロニーを作ることができる。この方法で用いてもよい組成物は、少なくとも1種のポリマーを含む超薄膜である。ポリマーは、いずれかの型のコラーゲンもしくは種々の型のコラーゲンの組合せ(例えばI型コラーゲンとIV型コラーゲン)またはPLGA、PCL、エラスチンおよび他のポリマー等の他のいずれかのポリマーであってもよい。幹細胞を含む膜は眼の後壁につぎ当てられるかまたは外科的に統合される。膜は時間とともに分解し、損傷黄斑内に細胞および剤を放出する。幹細胞は、網膜の光受容細胞または他の細胞に分化し、その結果元の組織では黄斑が再生する。
【0037】
第4の態様によれば、本発明により、対象者の組織を修復または再生するための組成物の使用であって、該組織を含有する対象者の身体の部位への組成物の投与を含み、組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、第1および第2の層が互いに別個のものであり、組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、ウェビングの第1および第2の層が組織の第1の層および第2の層に一致する使用が提供される。
【0038】
さらなる実施形態においては、第3の態様の方法および第4の態様の使用は、随意により第5の態様のプロセスの工程およびそれらの実施形態を含む。
【0039】
第5の態様によれば、本発明により、組織を再生または修復するための組成物の製造プロセスであって、組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、第1および第2の層が互いに別個のものであり、組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、ウェビングの第1および第2の層が組織の第1の層および第2の層に一致し、以下の工程:
(a)再生または修復を必要とする組織の厚さおよび/または構造を測定する工程;
(b)組織の第1および第2の層の厚さおよび/または構造を測定する工程;
(c)(a)および(b)の測定工程に基づき組成物の望ましい厚さおよび/または構造を決定する工程;
(d)ナノファイバーウェビング機の電場にコレクターを設置する工程;
(e)1種または複数のポリマーを、電場を介して撒布して、組成物の第1の層を作製するのに十分な時間と条件下でコレクターに接触させる工程;
(f)(e)の1種または複数のポリマーの撒布の後に1種または複数の剤を第1の層に添加する工程;
(g)1種または複数のポリマーを、電場を介して撒布して、組成物の第2の層を作製するのに十分な時間と条件下でコレクターに接触させる工程;
(h)所望により1種または複数のポリマーの撒布を繰り返してさらなる層を作製する工程;
(i)コレクターから層を取り外す工程;および
(j)組成物の層を組織の形状に合わせる工程
を含むプロセスが提供される。
【0040】
一実施形態においては、すでに第1の層に添加した1種または複数の剤に加えて、またはその代わりに1種または複数の剤を第2の層に添加する。1種または複数の剤は組織特異的であるかまたは幹細胞もしくは前駆細胞であってもよい。
【0041】
さらなる実施形態においては、該プロセスにより作製される組成物は少なくとも3つの層を含む。ある層に光受容細胞を播種する。別の層に網膜色素上皮細胞を播種する。第3の層に1つまたは複数の神経細胞または神経由来の細胞を播種する。あるいは、組成物に光受容細胞、網膜色素上皮細胞および1つまたは複数の神経細胞に分化する1つまたは複数の幹細胞を播種する。第4の層は網膜色素上皮細胞と同類の細胞を含有してもよい。視神経と連絡するための神経系細胞または他の層の細胞を支持して他の層の細胞と連絡するための細胞を有するさらなる層を加えてもよい。
【0042】
別の実施形態においては、撒布は1種または複数のポリマーを噴霧またはスピニングすることにより行われる。
【0043】
さらに別の実施形態においては、コレクターは、組織の再生または修復を必要とする身体部位のインプレッション型から調製するギプスである。型からギプスを調製する代わりに以下の工程を採用してもよい:
(a)3D画像化技術により組織の再生または修復を必要とする身体部位の輪郭を測定する工程;
(b)測定値をデザインアプリケーションに入力して身体の物理模型を調製する工程;および
(c)模型をコレクターとして使用する工程。
【0044】
上記実施形態においては、3D画像化技術は、スキャンX線、CTスキャン、コーンビームX線、MRIおよび3D写真を含む群より選択してもよい。さらなる実施形態においては、デザインアプリケーションは、コンピューター支援設計(CAD)およびラピッドプロトタイピングを含む群より選択される。さらなる実施形態においては、ラピッドプロトタイピングは、3D印刷、3D選択的レーザー加工、3D選択的焼結、3D流延、3Dバーリング、3D研削またはこれらのいずれかの組合せを含み得る。
【0045】
電場はスピン電極に電圧を印加した際に発生する。型または模型はいずれも、電極の間に設置してもよいし、接地してもよく、その結果集電極として使用することができる。
【0046】
該プロセスは、3Dナノファイバーウェビングの硬化の工程をさらに含んでもよい。硬化の工程は化学的または物理的硬化を含み得る。硬化は、ポリマーの光硬化等、重合により行うことができる。
【0047】
第6の態様によれば、第5の態様のプロセスにより得ることができる組成物が提供される。
【0048】
第7の態様によれば、第5の態様のプロセスにより得られる組成物が提供される。
【0049】
第8の態様によれば、本発明により、黄斑変性の治療または皮膚の奇形や異常の矯正に使用する場合の、第6または第7の態様の組成物が提供される。
【0050】
上記の態様の一般的な実施形態を以下に示す。
【0051】
1種または複数の剤は、1種または複数の、抗生物質、抗菌ペプチド、抗菌デフェンシン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、細胞に影響を与え相互に作用する物質、小分子、表面接着分子およびタンパク質等の細胞挙動に影響を与えるシグナル因子、ヒト細胞、天然組織ファイバーまたはこれらのいずれかの組合せを含む群より選択される。
【0052】
組成物は、ゲル、気体、クリーム、軟膏または固体の形態であってもよいさらなる材料を含む。さらなる材料は無機材料であってもよい。無機材料は、カーボンナノチューブ(CNT)、金属または合金、ヒドロキシアパタイトおよび銀粒子を含む群より選択されてもよい。
【0053】
別の実施形態においては、組成物は、組成物に構造安定性を付与するために少なくとも1種の硬化性ポリマー、少なくとも1種の硬化性樹脂、少なくとも1種の自硬性粘土またはそれらの組合せを含有することができる。
【0054】
さらに別の実施形態においては、1種または複数のポリマーを、直接撒布エレクトロスピニング、共蒸着およびエマルションエレクトロスピニングを含む群より選択されるエレクトロスピニング技術により組成物の層に組み込むことができる。
【0055】
さらなる実施形態においては、組成物の厚さは、治療を必要とする身体部位の変形や異常によって異なる。通常、組成物の厚さは約5μm〜約4mmである。別の実施形態においては、厚さは少なくとも100nmで上限はなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
以下、ほんの一例であるが、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0057】
【図1】顔型の作製工程を表した図である。この工程では型を作るために混凝紙を使用する。(図面代用写真)
【図2】ナノファイバー加工を表した図である。テイラーコーンの形成が左パネルに見てとれる。中央パネルでは、電場を通るナノファイバーの集中が増していることが示されている。右パネルでは、ナノファイバーウェビングで完全に覆われたギプスによってナノファイバー加工がほぼ完了していることが示されている。(図面代用写真)
【図3A】顔ギプスから取り外した、ナノファイバー加工の結果得られた組成物を表した図である。(図面代用写真)
【図3B】縮尺を大きくした人工皮膚を表した図である。(図面代用写真)
【図3C】眼、例えば、網膜、BMまたは眼の後壁のいずれかの解剖学的な部位にて使用するための超薄膜である。(図面代用写真)
【図3D】3D画像化技術を実施した結果の3D写真である。(図面代用写真)
【図3E】3D画像化技術を実施した結果の3D写真である。(図面代用写真)
【図3F】3D画像化技術を実施した結果の3D写真である。(図面代用写真)
【図4A】WST−I試験:PCL、ゼラチン、PLGA、カバーグラスおよびBioGideコラーゲン膜に播種したヒト間葉系幹細胞(MSC)の増殖。
【図4B】調製し調べたそれぞれの膜上での細胞増殖を示す、細胞のSEMイメージング。(図面代用写真)
【図5】ゼラチン膜による生分解試験。
【図6】コラーゲンとPLGA組成物とを含有する層の調製:WST−I試験:以下の膜に播種したヒト間葉系幹細胞(MSC)の増殖(0%コラーゲン:100%PLGA;25%コラーゲン:75%PLGA(1:3);50%コラーゲン:50%PLGA(1:1);75%コラーゲン:25%PLGA(3:1);BioGideコラーゲン膜;およびカバーグラス)
【図7】ゼラチン膜(上)および生分解性高分子膜(下)の顕微鏡写真である。(図面代用写真)
【図8】代用全顔の図であり、剥離のプロセスを示している。鼻と上唇のみ(全顔から切り出しているが、代用部位としてその形状を保持している)が示されている。(図面代用写真)
【図9】平膜および骨を覆うための顎へのその適用の図である。(図面代用写真)
【図10】眼の中の黄斑および幹細胞を含むパッチ/膜としての組成物の画像である。(図面代用写真)
【図11】コラーゲンゲルを含むナノファイバー膜としての組成物の画像である。下側パネル(B)では、ゲルを膜状に押し固めて二層組成物を形成している。(図面代用写真)
【図12】79日間(1896時間)にわたるベバシズマブの累積放出を示す、ナノファイバーメッシュ/膜とフィルムとを比較した際のグラフである。
【図13】本発明の組成物を調製するための、ナノファイバーの臨床グレードの無針エレクトロスピニングを示す写真である。a)臨床グレードの製造に必要とされるクリーンルーム適正製造基準(GMP)と同等の条件下にてNanoSpider(商標)が稼働している環境を示している。b)無針エレクトロスピニングの構成、溶液タブ(ST)内に取り付けられたワイヤスピン電極(SE)およびSEの21cm上に位置する集電極(CE)を示しており、空気吸入口(AI)も示されている。c)NF−細胞外マトリックス(ECM)膜を大量生産するために使用される多数のランダムなナノファイバー(NF)マルチジェットを有する6ワイヤスピン電極。d)パイク電極を示しており、エレクトロスピニングパラメータの試験に使用する。e)歯周再生療法におけるHMSC送達に恐らく使用可能であるゆえにヒトの下顎の模型に隣接させた、PLGAからなるNF−ECM膜(矢印)の構造形態を示している。(図面代用写真)
【図14】NF−ECM膜およびフィルムのモルフォロジーである。NF−ECMは臨床グレードのエレクトロスピニングにより作製した。自由表面エレクトロスピニングおよびフィルム流延により調製した膜の走査型電子顕微鏡(SEM)画像:×4000倍におけるPLGA、PCL、ゼラチンおよびコラーゲンのNF−ECM(NF)とフィルム。コラーゲンのNF−ECM(安定したコラーゲンのフィルムの調製はできなかった)および臨床的に承認されたコラーゲン膜(CCM)のSEM像も示されている。水平な40μmスケールバーは全てのSEM像に適用される。PLGAのNF−ECMとフィルムの原子間力顕微鏡(AFM)画像は、NF−ECMとフィルムとで表面トポグラフィーが異なることの実例として示されている。AFM画像は12×12μmのエリアで撮影した。AFM画像に示されるスケールバーはそれぞれの膜の深さを表しており、PLGAのNF−ECMは2μm、PLGAのフィルムは50nmである。(図面代用写真)
【図15】エレクトロスピニングの際のコラーゲンの安定性。a)非架橋コラーゲンのNF−ECM(NF)と同一のスペクトルを示しているコラーゲン(coll)粉末(未加工)のフーリエ変換赤外線(FTIR)、安定したコラーゲンの二次構造の特徴を示している(標識ピーク)。さらにこれらは1より大きい1450:1240cm−1比を有していた。架橋コラーゲンのNFは1715のピークがより低く、1450:1240cm−1比が1未満であった。ゼラチン(gel)のNFとCCMは1715cm−1が無い同一のスペクトルを有し、また1450:1240cm−1比はやはり1未満であった。b)酸可溶化「A」、またペプシン消化「P」した、コラーゲンおよびゼラチン粉末またはNF−ECMのSDS−PAGE分析。横線は分子量を示し、矢印で特異的なコラーゲンバンドを強調している。コラーゲン粉末(未加工)を除く全てのサンプルにおいて、これらのバンドはペプシンによりほぼ完全に消化された。注:ゼラチンのNF(非架橋)はゼラチンのNF(架橋)と未加工ゼラチン粉末も表している(これら全てのサンプルについての結果がFTIRもSDS−PAGEも同一であったため)。酸性溶液に非可溶であったためCCMの(SDS−PAGE)はできなかった。
【図16】膜の機械的特性および水接触角。臨床グレードと同等の、PLGA、PCL、ゼラチンおよびコラーゲンのNF−ECM膜(NF)ならびにフィルム、さらには臨床的に承認されたコラーゲン膜(CCM)の、a)剛性(ヤング率)、b)最大引張応力、c)最大引張ひずみ、およびd)水接触角を特徴付けた。ゼラチンおよびコラーゲンのNF−ECMならびにCCMでは水滴が即座に分散してしまったため、水接触角の測定は不可能であった。
【図17】8日目の膜の生体適合性。生体適合性の基準としてHMSCの増殖をWST−1を用いて調査した。種々のNF−ECM(NF)およびフィルムを試験して比較した。統計的確率は示した通りであり、臨床的に承認されたコラーゲン膜(CCM;横の点線)との比較を基準としている。追加のコントロールとしてのカバーグラス(CG)(横の実線)。エラーバーは平均値の標準誤差を示している。
【図18】HMSCの骨形成アッセイ。24ウェルプレート内でのカルシウム石灰化およびALP活性の評価:PLGA、PCL、コラーゲン(coll)またはゼラチン(gel)のNF−ECM(NF)、およびコポリマーのNF−ECMに14日間播種したHMSCに、アリザリンレッド(カルシウム沈着用に赤に染色)およびBCIP/NBT(ALP活性用に紫/青に染色)を使用。純粋ポリマーの2Dフィルム、カバーグラスおよび臨床的に承認されたコラーゲン膜(CCM)をコントロールとした。コラーゲンのNF−ECMおよびCCMは、アリザリンレッドで自動的に染色された(これは、HMSCを播種していないサンプルにおいて、背景染色についても確認された)。しかしながら、HMSCの有無にかかわらず、非骨形成培地で培養したCCMおよびコラーゲンのNF−ECMに関してはALPの自動染色はなかった。紫/青および赤染色の度合は、白黒の図では灰色の度合として表わされる。
【図19】臨床グレードのNF−ECM膜(NF)に関する細胞接着および統合。PCLおよびPLGAのNF−ECM膜ならびにカバーグラス(CG)に播種したHMSCのSEM像、着色部(ほぼ画像の中央に位置している構造を参照)。細胞培養2日目にPCLに播種したHMSC、密集したNF−ECM膜上での細胞接着および糸状仮足の伸長を示している。PLGAのNF−ECM膜に播種したHMSCは、細胞内規模のナノファイバーメッシュによって形成されたニッチ様空隙への多層状の細胞統合を示している。この統合は非常に深いため、統合した細胞とナノファイバーとの接合部は多くの箇所において識別不能であった。細胞は網目構造の内部に「密閉」されているように見えた。カバーグラスに播種したHMSCは、2D構造に予想された通り3D形状がほとんどないほぼ完全に平坦な形態を示している(SEM:PHOTOSHOP SC5.1.による材料へのHMSCの仮想染色、×1000倍)。(図面代用写真)
【図20】純粋膜に播種したHMSCのモルフォロジー。NF−ECMは臨床グレードのエレクトロスピニングにより作製した。PLGA、PCL、ゼラチンおよびコラーゲンのナノファイバー3DECM(NF)ならびにそれらに対応する2Dフィルムにおける培養2日後のHMSCのSEM像。NF−ECMでは、ナノファイバーメッシュニッチ内への細胞の多面的な密閉様統合が示された。フィルムコントロール上の細胞は平坦であり3D配向がなかった。3Dコントロールとして臨床的に承認されたコラーゲン膜(CCM)を用いた。(×1000倍)。(図面代用写真)
【図21】材料上のHMSCの配向およびモルフォロジー。NF−ECMは臨床グレードのエレクトロスピニングにより作製した。PLGAのNF−ECM(NF)およびフィルムで2日間培養したHMSCならびに臨床的に承認されたコラーゲン膜(CCM)で培養したHMSCの、ローダミン−ファロイジンで標識(カラー写真では赤;白黒写真では灰色)した共焦点画像。PLGAのNFおよびCCMでは、細胞の3D配向は良好であった。対照的にPLGAのフィルムでは、細胞は広がりがより大きく平坦であった。HMSCの表現型はゼラチンおよびPCLのNF/フィルムと同様であった。×100倍および×200倍。(図面代用写真)
【図22】a)nanospider装置およびb)ナノファイバーマトリックスから代用顔を製造するためのエレクトロスピニングの設定を示す画像である。ナノファイバーを、患者の顔の個々の寸法の三次元の顔型に向けて電場内で噴霧する。c)エレクトロスピニングによりナノファイバーマトリックスから作成した代用人工皮膚の大量生産品。大量生産品は1平方メートルのナノファイバー材料より大きい場合がある。d)ナノファイバーマトリックスから作成した鼻および上唇用の個人用代用皮膚。この代用品は代用顔の製造と同じプロセスで作成した後、適宜輪郭に合わせる。(図面代用写真)
【図23】図22の上記説明文に記載のエレクトロスピニングによる代用眼を示す画像である。a)眼型と伝導性表面カバー。b)眼型へのナノファイバースピニング加工。(図面代用写真)
【図24】三次元ナノファイバー眼型を示す画像である。(図面代用写真)
【図25】自然のナノファイバー膜、カバーグラスおよびヒトBMの内コラーゲン層のSEM像である。A:PLGAのナノファイバー膜;B:コラーゲンのナノファイバー膜;C:カバーグラス。D:ヒトBMの内コラーゲン層、参考文献[47]からの許可の下に転載。作製した本発明のナノファイバー膜内のファイバーモルフォロジーおよび3D構造は、ヒトBMの内コラーゲン層との高い類似性を示した。対照的に、カバーグラスは全く3Dモルフォロジーを示さなかった。スケールバー=20μm。(図面代用写真)
【図26】ヒトRPE細胞の増殖アッセイ。ヒトRPE細胞をPLGAおよびコラーゲンのナノファイバー膜ならびにカバーグラス(コントロール)上で培養した。1日目、3日目および5日目に、WST試験により増殖アッセイを実施した。垂直軸は分光光度計による吸光度を示しており、様々な基質における生存細胞の数を示している。ナノファイバー膜は総じて、滑らかなカバーグラス表面に比べてRPE細胞の増殖を有意に大きく促進した。エラーバーは標準偏差を示している。:p<0.05 :p<0.01、ナノファイバー膜とカバーグラスとを各時点において比較するため。
【図27】3日後および11日後の膜の細胞のSEM像。A:PLGA膜;B:コラーゲン膜;C:カバーグラス。画像は×600倍で撮影した。スケールバー=50μm。3日後、培養した細胞は全ての基質において多角形、最も典型的には六角形を呈した。11日後、広範囲に局所コンフルエンスが見られ、細胞が密集していた。(図面代用写真)
【図28】11日後のナノファイバー状膜の細胞のSEM像。画像は×1500、×4000および×10000倍で撮影した。スケールバーはそれぞれ20μm、5μmおよび2μmである。カバーグラスをコントロールとした。全体的に、平坦なカバーグラスよりも本発明者らの新規なPLGAおよびコラーゲンのナノファイバー膜において、細胞はより自然な三次元単層を形成した。ナノ膜で培養した全てのRPE細胞が、ベースがナノ膜に向かって配向した、ほとんどが六/多角形細胞の良く配向した単層を示した。大量のシート状の微絨毛を頂端面に確認することができたが、微絨毛はヒト網膜の生物学的配向と同じであり、ヒト網膜においては光受容細胞を包んでいる。平坦なカバーグラスのRPE細胞の配向および微絨毛の発現は、それほど組織化されていないように見えた。(図面代用写真)
【図29】ナノファイバー膜のヒトRPE細胞によるZO−1の発現。ヒトRPE細胞をPLGA(a)およびコラーゲン(b)のナノファイバー状膜ならびにカバーグラス(c)で11日間培養してから、密着結合のマーカーであるZO−1抗体(緑色)で蛍光免疫染色した。どの基質で培養した細胞も、重要な生体機能的特徴である密着結合の形成および六角形を示した。スケールバー=20μm。(図面代用写真)
【図30】ナノファイバー膜のヒトRPE細胞によるRPE65タンパク質の発現。ヒトRPE細胞をPLGA(a)およびコラーゲン(b)のナノファイバー状膜ならびにカバーグラス(c)で11日間培養してから、RPE65抗体で蛍光免疫染色した。ナノファイバー膜およびカバーグラスのどちらで増殖している細胞も、主要な生体機能性タンパク質であるRPE65に対して陽性であった。スケールバー=20μm。(図面代用写真)
【図31】純粋PLGA、80μMのプルモルファミンを有するPLGA(PLGA80)および160μMのプルモルファミンを有するPLGA(PLGA160)に対する14日目のカルシウム沈着を示すグラフである。
【図32】網膜、BMまたは眼の後壁のいずれかの解剖学的な部位にて使用するための、本明細書に記載のプロセスによって作製した超薄膜の画像である。(図面代用写真)
【0058】
定義
本明細書を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」や「含む(comprising)」等の変化形は、記載した
工程、要素、整数、または工程、要素もしくは整数の群を含むものの、工程、要素、整数、または要素もしくは整数の群のどれ1つも除外することはないということを意味すると理解されよう。本明細書および特許請求の範囲で用いる、「含む(comprising)」(および「含む(comprise)」や「含む(comprises)」等の「含む(comprising)」のいずれ
かの形態)、「有する(having)」(および「有する(have)」や「有する(has)」等
の「有する(having)」のいずれかの形態)、「含む(including)」(および「含む(includes)」や「含む(include)」等の「含む(including)」のいずれかの形態)また
は「含有する(containing)」(および「含有する(contains)」や「含有する(contain)」等の「含有する(containing)」のいずれかの形態)という語は、包括的または無
制限であり、さらなる記載していない要素や方法工程を除外するものではない。
【0059】
「1(a)」または「1(an)」という語を本特許請求の範囲および/または本明細書
中にて「含む(comprising)」という語とともに使用した場合「1」も意味し得るが、「1以上」「少なくとも1」および「1または1より大きい」の意味とも一致している。本明細書で用いる「別の(another)」は、少なくとも2番目またはそれ以上を意味し得る

【0060】
本明細書で用いる「層」は、化学的に、形態学的に、かつ/または機構的に別の層とは別個のものである。2層以上の層には複合体が含まれる。本明細書で用いる当業者に公知の「複合体」という用語は、完成構造内において肉眼や顕微鏡スケールでも依然として別個のものである、有意に異なる物理的および/または化学的性質を持つ2種以上の構成材
料が存在することである。この場合、2種以上の構成材料は2層以上の層であってもよい。3層以上の層にはサンドイッチの形態の複合体が含まれる。各層には厚さがあり、その長さおよび幅よりは実質的に小さい。層は改変可能な場合があり、任意の形状または輪郭に形成し得る。層は、任意の形状または輪郭を維持するために硬化してもよい。層は、1枚のシートまたは複数のシート(正方形シート、例えば「トルティーヤ」状構造のような丸いシート、長方形シートおよび不規則な形状のシート等)の形態であり得る。これらのシートは互いに織り交ぜることによって相互につながっていてもよい。シートを丸めて「ブリトー」に似た開管状にしてもよい。また、閉管、管の切片(例えば帯状物)、球体、または再生もしくは修復を必要とする組織を含む身体部位に組成物を正しく設置することが可能ないずれかの形状もしくは形態が企図されている。層は別の層に対して任意の配向を有し得る。例えば、ある層が別の層に対して平行または垂直であってもよい。また、ある層が1つまたは複数の他の層を横断することも可能であるし、その層自身に折り重なることも別の層の周りに折り重なることも可能である。1つまたは複数の層が、連続して繰り返すことも可能であるし、1つまたは複数の違う層が加えられた後に繰り返すことも可能である。例えば、第1の層がAで層BまたはCが続くとすると、別の層が続いて再びAになることもある。
【0061】
「組成物」という用語は当技術分野において公知であり、本明細書においてはその最も広い意味が企図されている。
【0062】
組成物の「マトリックス(matrice)」または「マトリックス(matrix)」という用語
は、「ウェビング」および「膜」という用語と交換可能に用いられる。
【0063】
本明細書で用いる「生分解性」という用語は、1つまたは複数の層の1種または複数のポリマーがインビボで結合開裂を起こしたことを意味する。開裂は、例えば加水分解、酸化、酵素的分解等、化学結合の破壊をもたらすいずれかの化学反応を介して起こり得る。時間の経過に伴うインビボにおけるポリマーの質量損失は、組成物をインビボに入れる前の元々のポリマー質量の40%〜80%〜93%〜98%〜99%以上の範囲であってもよく、また生分解を完了させるための時間は数分から数年であってもよい。
【0064】
本明細書における「別個の」または「差異」という用語は、各層が化学的に、機械的に、かつ/または形態学的に互いに異なり得ることを意味する。
【0065】
「化学的」という用語は非常に広範であり、層内の化学的含有物、したがって起こり得る化学的相互作用も含む。層内の化学的含有物としては、限定するものではないが、プロトン、中性子、電子、元素、様々な電荷、イオン、化合物、分子、剤、タンパク質、ペプチド、細胞が挙げられる。相互作用はSN1反応、SN2反応を介して起こり得る。「化学的差異」とは、ある層が化学的含有物や相互作用において別の層と異なることを意味する。層同士の「化学的差異」は、異なるポリマーおよび/または異なる剤を用いることにより実現できる。2層以上の層は同じポリマーを含み異なる剤(1種または複数)を含んでもよい。あるいは、2層以上の層は異なるポリマーを含み同じ剤(1種または複数)を含んでもよい。一例として、ある層がポリマーを含有し、一方で別の層もポリマーを含有しているが後で起こる増殖のためにある力価の細胞が播種されている。これら2つの層は化学的に別個と見なされる。
【0066】
「形態」という用語は、層の形状、大きさおよび/または質感を意味する。「形態学的差異」とは、ある層が形状、大きさおよび/または質感において別の層と異なることを意味する。「形態学的差異」は、場の電圧および/または場を生み出す電極の距離を変えること、および/または異なるポリマーを用いること、および/または同じポリマーまたは同じポリマーの混合物の配向を変化させることにより実現できる。
【0067】
「機械的」という用語は、力を加えたり変位させたりした時のポリマー、剤、または層の材料の挙動を意味する。機械的側面には、構造的支持を与えるポリマーの強剛性が含まれ得る。層同士の「機械的差異」は、異なるポリマーおよび/もしくは異なる剤を用いること、ならびに/または電場の電圧および/もしくは場を生み出す電極の距離を変えることにより実現し得る。
【0068】
「剤」という用語は、人体に影響するいずれかの物質を意味し得る。この用語には「生理化学剤」と「治療剤」とが含まれる。「生理化学剤」という用語は、体内に存在する化学的または物理的機能を実行する生体分子の相互作用を含む生体のいずれかの機能に影響する剤を意味する。「治療剤(1種または複数)」は、「薬剤的に活性な剤」、「薬剤的に活性な材料」、「薬」および「生物学的に活性な剤」を意味し得り、また含み得る。他の関連語は本明細書中に置いて交換可能に用いることができ、遺伝子治療剤、非遺伝子治療剤および細胞が挙げられる。組成物中の剤または材料はいずれも遅延放出用にカプセル化されてもよい。
【0069】
「材料」とは、組成物のいずれかの層に添加される任意の合成または天然由来物質である。材料を用いて、(a)組成物の構造をより強固またはより柔軟にする、(b)分子または細胞を3Dナノファイバーウェビング内に取り込む、(c)3Dナノファイバーウェビング内に存在する1種または複数の剤を分解から保護する、もしくは分解を遅らせる、かつ/または(d)1種または複数の剤を活性化させる、もしくは阻害することができる。材料はゲル、気体、クリーム、軟膏または固体の形態であってもよい。材料は有機材料でも無機材料でもよい。本明細書において企図されているが、材料としては、限定するものではないが、鉱物、セラミック、ナノダイヤモンド、結晶、非晶質鉱物およびヒドロキシアパタイト、フッ素リン灰石、リン酸三カルシウム、骨のためのリン酸カルシウムならびに硬(石灰化)組織が挙げられる。また、金属、および金、銀、銅、亜鉛、スズ、白金、チタン、マグネシウム合金等の合金、Na、Ca、F、Li、K、Mg等のアルカリ金属、ならびにCl、Brおよびヨウ素が本明細書において企図されている。
【0070】
本明細書に記載の「組織」とは、必ずしも同一でないが起源は同じである、共同して特定の機能を実行する細胞の集合である。これらは同一に機能することから組織と呼ばれている。複数の組織が機能的に寄せ集まることにより次に器官が形成される。
【0071】
本明細書で用いる「薬」という用語は、疾患や病状の治療に役立つか、または疾患や病状に付随するいずれかの生理的または病理的症状を抑えたり改善したりする化合物と定義される。
【0072】
本明細書で用いる「抗癌薬」という用語は、固形腫瘍用等、癌の治療用の薬と定義される。抗癌薬は、腫瘍の大きさを縮小、腫瘍の増殖や転移を阻害または抑制、かつ/または腫瘍を排除することが好ましい。「抗癌薬」、「抗癌剤」および「抗癌化合物」という用語は、本明細書中において交換可能に用いられる。
【0073】
当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく本発明の組成物に形態学的および/または化学的改変を行えることがわかるであろう。
【0074】
本出願を通して、「約」または「一致する」という用語は、組成物の厚さを再生または修復を必要とする組織と同じにすることが目的ではあるけれども、厚さ等の測定することができる2つの値や態様は必ずしも同一でなく、また値の違いには、(例えば厚さの測定用に)値を決定するために採用されている方法における固有の誤差変動、組成物の製造プロセスにおける変動が含まれる、ということを示すために用いる。
【0075】
特許請求の範囲における「または」という用語は、代替物のみを指すことが明示されていない限り、または代替物が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するために用いられる。
【0076】
本明細書において考察されているあらゆる実施形態は本発明のあらゆる方法や組成物に対して実行することができ逆もまた同様である、ということが企図されている。さらに、本発明の組成物を用いて本発明の方法を達成することができる。
【0077】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内での種々の変更および改変が以下の詳細な説明から当業者にとって明らかとなるため、詳細な説明および具体的な例は本発明の具体的な実施形態を示しているが単なる例示にすぎないと理解すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0078】
本発明者は、組織の再生または修復を必要とするいずれかの身体部位に適用できる、三次元(3D)ナノファイバーウェビング(図7参照)を含むカスタマイズされた組織再生組成物を発見した。身体部位としては、顔、胸部、耳、首、腋窩、鼠径部、手、肘、腕、脚部、足、膝、生殖器、眼瞼、鼻、口唇、皮膚、角膜、網膜、BM、視神経または眼の後壁の他のいずれかの解剖学的な部位を含む眼、肝臓、胆管および胆嚢、腎臓、腸、心臓、膵臓、脾臓、GALT、MALT、咽喉、食道、喉頭、肺、静脈、動脈、胃、小腸、十二指腸、回腸、空腸、結腸、大腸、脳、脊髄および脊髄神経、筋肉(平滑筋、骨格筋および混合筋)、血管、子宮、膀胱および尿道および尿管、卵巣、膣、直腸、甲状腺、舌、口腔粘膜、胃腸粘膜および鼻咽頭粘膜、歯周組織および歯組織、平滑筋および骨格筋、毛髪、乳頭、アポクリン腺、エクリン腺および内分泌腺、毛包、骨軟骨、腱、ならびに骨膜および軟骨膜が挙げられる。
【0079】
本発明の範囲には、組織を修復または再生するための組成物の使用および方法が含まれる。疾患、症状または遺伝的欠陥の結果損なわれた任意の組織が本明細書において企図されており、本発明の組成物を適用することで利益を受ける組織と考えられる。例えば組成物を用いて、パッチまたは膜の形態であり幹細胞を含む組成物を黄斑に適用することにより黄斑変性を治療することができる。一例として、黄斑変性は加齢黄斑変性であってもよい。
【0080】
この発見には、本発明の範囲内において、三次元(3D)ナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた組織再生組成物を得るプロセスが含まれる。この独特のプロセスには、(a)少なくとも組織の再生または修復を必要とする身体部位のインプレッション型を調製する工程、(b)型からギプスを調製する工程、(c)ナノファイバーウェビング機の電場にギプスを設置する工程、(d)3Dナノファイバーウェビングをギプスに所望の厚さに塗布する工程、(e)ギプスから3Dナノファイバーウェビングを取り外す工程、および(f)ウェビングを組織の再生または修復を必要とする身体部位に取り付ける工程、が含まれる。
【0081】
上記のプロセスの工程(a)〜(e)は、以下の工程に置き換えることができる:(g)3D画像化技術により組織の再生または修復を必要とする身体部位の輪郭を測定する工程、(f)測定値をデザインアプリケーションに入力して身体の物理模型を調製する工程、(h)模型を調製する工程、(i)ナノファイバーウェビング機の電場に模型を設置すること、(j)3Dナノファイバーウェビングを模型に所望の厚さに塗布する工程、および(k)模型から3Dナノファイバーウェビングを取り外す工程。本明細書においては、組織の再生または修復を必要とする身体部位の輪郭を測定することができる任意の3D画
像化技術が企図されている。当技術分野において公知である3D画像化技術の非限定的な例としては、スキャンX線、CTスキャン、コーンビームX線、MRIおよび3D写真が挙げられる。3D写真の例を図3D〜3Fに示す。本発明者は、2種類以上の3D画像化技術を使用することを企図している。本明細書においては、正確な測定を実現するための3D画像化技術のあらゆる組合せが企図されている。本明細書においては、1種または複数の3D画像化技術の使用によって収集した輪郭測定値に基づいた模型のデザインが可能なあらゆるデザインアプリケーションが企図されている。デザインアプリケーションの非限定的な例としては、コンピューター支援設計(CAD)およびラピッドプロトタイピング等の、当技術分野において公知であるいずれかのデザインアプリケーションが挙げられる。ラピッドプロトタイピングの非限定的な例としては、3D印刷、3D選択的レーザー加工、3D選択的焼結、3D流延、3Dバーリング、3D研削またはこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0082】
プレナノファイバー加工
いずれかの組織の再生または修復を必要とする身体部位に適用するための三次元(3D)ナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた組織再生組成物を生成するために、本明細書に記載の型または模型を調製する。一例として本発明者は混凝紙を用いて顔の型を調製したが(例として図1参照)、型の作製が可能なあらゆる材料が企図されている。型を作製した後、材料を詰めてギプスを作る。ギプスを作るのに好適である当技術分野において公知の材料が各種存在する。非限定的な例では焼石膏がそのような材料の1つであり、本明細書において企図されている。
【0083】
ナノファイバー加工
好ましい実施形態においては、ギプス(または3D画像化技術(1種または複数)およびデザインアプリケーション(1種または複数)により作製した模型)をナノウェビング機に設置する。本明細書においては、無針でナノウェビングを作り出す全ての機械が企図されている。ナノウェビング機の非限定的な例としては、NS Lab 200s(Nano−spider(登録商標))がある。
【0084】
ギプスまたは模型を2電極間に置いて電場を作り出すが、好適な電場を作り出す全てのデザインが本明細書において企図されており、本発明の範囲内である。好ましい実施形態においては、電極間距離は21cmである。
【0085】
好ましい実施形態においては、ナノファイバーの3D構造体であるナノウェビングは、ナノウェビング加工の際にギプスまたは模型の表面上にバイオポリマー液を噴霧することにより作製する(例として図2参照)。ナノファイバーが電場を通過してギプスまたは模型に当たる。一例として、電場を作り出すための印加電圧は35kVであるが、ナノファイバーの場の通過を可能にする全ての電圧が本発明の範囲内である。ナノファイバーの機械的構成や化学組成はこのプロセスの間に変更可能であり、本明細書において企図されている。また、ファイバーの形態は加工条件を変えることに影響される。加工条件は溶液特性に比べればファイバーの製造への影響は少ないが、それでもやはり、このようなパラメータを理解することは特定の形態のファイバーを得る上で重要なことである[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0086】
ファイバーの形成および形態に影響し得る処理パラメータのいくつかとしては、印加電圧、スピン電極の回転、使用する電極の種類、2電極間の距離、ならびに雰囲気の種類、湿度、温度および圧力がある。これらのパラメータの変更は、飛行時間、加速スピード、テイラーコーンの安定性および電場強度を変えることによって、ファイバーの形態に影響し得る[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0087】
電圧
通常、印加電圧を上昇させるとファイバーに印加される電場が強くなる。これによりファイバーの伸びが良くなり、その結果ファイバー径が小さくなる[Ramakrishna et. al. (2005); Jalili et. al. (2006)]。噴流がシリンジの先端に後退するときは、その噴流
の伸びはテイラーコーンの不安定性によるものと思われる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0088】
低粘度のポリマー溶液の場合、高電圧を与えると第2の噴流が形成される場合があり、その結果径の小さいファイバーが形成されることとなる。しかしながら、さらに粘度が低いと、場合によっては、電圧を低下させても径の小さいファイバーとなることがある。このケースでは、電圧を低下させることで噴流の加速が弱まり、その結果、噴流が回収される前に伸びて細長くなるのにより長い時間がかかるようになり、よってファイバー径が小さくなる[Ramakrishna et. al. (2005); Ki et. al. (2005)]。
【0089】
電極回転
電極の回転は、帯電噴流がポリマー溶液を噴射させる流速と等しい流速で溶液を送達するように設定する。電荷が臨界点に達すると、流体噴流が溶液から噴出する。噴出した流体噴流がテイラーコーンを形成し、電位がより低い領域、すなわち集電極に向かって移動する。対応電圧に対して安定なテイラーコーンを維持するためには、スピン電極の回転を調整することによって溶液の流量を調整することができる。流量を増やすと引き出される利用可能なポリマーの量が増加し、その結果形成されるファイバーの径が大きくなる。しかしながら、引き出される溶液の量が増加することで、噴流が溶媒を蒸発させるために必要な時間がより長くなる可能性がある[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0090】
温度
ファイバーが溶融するのに十分なほど温度が高いと、大きな孔が形成される[Ramakrishna et. al. (2005)]。高温はエレクトロスピニングしたファイバーの結晶化度にも影響し得る。エレクトロスピニングしたナノファイバーの結晶化度を評価するためにX線回折を用いた研究が行われている。
温度を上げると溶液の粘度は低下する。また溶媒蒸発の速度は上がる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0091】
コレクターの効果
コレクターは、必要とされるファイバーの充填密度次第で、伝導性でも非伝導性でもよい。伝導性コレクターに沈着したファイバーがその電荷を散逸させ、より多くのファイバーがコレクターに引き付けられることができるようになる。この結果充填密度がより高くなる。自然の細胞外マトリックスを模倣している輪郭のはっきりした構造の足場は組織工学において大きな可能性がある。コレクターデザインを用いて、収集したファイバーの結果的な配向を、整列させたりランダムであったり、細胞外マトリックスと同様の配向を示すように変えることができる。Zhongとそのグループは、回転シリンダーを用いて整列し
たコラーゲン足場を製作し、それによって線維芽細胞増殖が増加するということを実証した[Zhong et. al. (2006)]。
【0092】
電極間距離
電極間距離を変えると噴流の飛行時間と電場強度に影響する。距離が短めであると飛行時間は少なくなる。さらに、電場が強まって噴流の加速が増す。これによって溶媒が蒸発するまでの時間が減少し、その結果ファイバーが併合する場合がある[Khil et. al. (2003)]。
【0093】
いくつかの溶媒に関しては、針とコレクターとの距離を短くすると電場強度の上昇の結
果ビーズが形成されることがあり、それによって噴流が加速されることになり、その結果ファイバーが伸びるための時間が少なくなる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0094】
溶液特性
溶融ポリマーをエレクトロスピニングすることも可能ではあるが、ポリマー溶液が好ましい。エレクトロスピニングに使用できる溶媒は、水、有機溶媒および油と広範囲である。また多くのポリマー、コポリマーおよびポリマーの混合物がエレクトロスピニングすることができる。ポリマーおよび溶媒の選択は、溶液の表面張力、伝導性、粘弾性および他の特性に影響する。これらの溶液特性は、得られるファイバーの形態、化学的特性および機械的特性に大きく影響する[Liang et. al. (2007)]。
【0095】
表面張力
エレクトロスピニングプロセスを開始するためには、溶液に印加する電荷が表面張力に打ち勝たなければならない。ポリマー溶液の表面張力は液体の単位質量当たりの表面積を減少させる働きをし、それによってファイバー長に沿ったビーズの形成が起き易くなる[Khil et. al. (2003)]。高濃度の自由溶媒分子が存在する低い粘度においては、表面張
力のために、球形状をとるための溶媒分子に対する親和性が高くなる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0096】
粘度
ポリマーの分子量は溶液の粘度に影響する。一般的には、分子量の高いポリマーを溶媒に溶解させると、分子量の低いポリマーよりも粘度が高いポリマー溶液になる。溶液は妥当な分子量のポリマーを有していなければならず、かつエレクトロスピニングが起きるのに十分な粘度を有していなければいけない。分子鎖の絡み合いによって、ポリマー噴流が伸びている間の噴流の破断が防がれる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0097】
粘度を上げる別の方法は、溶液中のポリマーの濃度を高くすることによるものである。この方法では、エレクトロスピニングの際の噴流の連続性を保持するために必須であるポリマーの絡み合いも増加させることになる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0098】
前述の通り、粘度が低過ぎると表面張力が支配的な影響力を持つため、ファイバー長に沿ってビーズが確認されるのは普通である。粘度が高くなるにつれ、滑らかなファイバーが得られるまでビーズの形状が球から紡錘状に変化する。しかしながら、高粘度においては形成されるファイバーの径が大きくなる。これは、絡み合いの量が増加した結果より大きな抵抗が生じるためである[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0099】
高粘度においては、溶液が乾燥してスピン電極と溶液との間に孤立した層を形成する可能性がより高く、エレクトロスピニングの効率に大きく影響することとなる。
【0100】
溶液の粘度が高いと噴流の曲げ不安定性も低下するが、それによって沈着面積が小さくなり、また伸びも少なくなり、その結果さらに径が大きくなる[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0101】
溶液の揮発性(蒸発速度)
噴流がコレクターに向かって進むにつれて溶媒は蒸発する。溶媒の蒸発の速度が遅すぎて溶媒がコレクターに達する時までに十分に蒸発していないと、ファイバーが併合して層間結合や層内結合を形成することがある。これは、得られる足場にさらなる強度を付与するための有用な技術であり得る[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0102】
NS Lab200Sでは自由表面エレクトロスピニングの原理を使用している。この
方法を用いる場合、揮発性溶媒の使用に注意しなければならない。揮発性溶媒を用いる場合は共溶媒を用いることが推奨される。通常、溶媒は以下を満たさなければならない。
・常圧での沸騰温度が80℃〜200℃
・20℃での飽和圧力が0.35〜10kPa
溶液の伝導性
【0103】
エレクトロスピニングは、溶液の表面の電荷の反発によって溶液の伸びが生じた結果起こる。溶液の伝導性が高まるにつれて、噴流が搬送する電荷は多くなる。したがって溶液の伝導性が高まると噴流の伸びがより大きくなり、径のより小さいより滑らかなファイバーが得られる。噴流によって搬送される電荷の量が増加すると曲げ不安定性が増すことにもなり、その結果より大きな沈着面積が達成される。しかしながら、溶液の伝導性が高まることによるファイバーの伸びには限界がある。これは、電荷のクーロン力に対して作用する粘弾性力の有意性による[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0104】
伝導性を高めることは、イオンの添加または溶液のpHの変更により達成できる。タンパク質等の天然ポリマーは、水等の溶媒中で混合した時にイオンが形成されるために伝導性が高い[Ramakrishna et. al. (2005)]。
【0105】
溶媒の誘電効果
溶媒の誘電率はファイバーの伸びに大きく影響する。誘電率が上昇すると溶液の曲げ不安定性が増し、その結果噴流路が大きくなる。その結果、より大きな沈着面積およびより微細なファイバーとなる[Ramakrishna et. al. (2005); Ki et. al. (2005)]。
【0106】
硬化性
少なくとも1種の、硬化性バイオポリマーもしくは樹脂または自硬性粘土を加えると、組成物に形状安定性および構造的完全性を付与することができる。
【0107】
組成物の層
組成物は多層である。好ましい実施形態においては、組成物は膜の形態である。組成物は異なるポリマーの層を含んで複合体を形成し得る。2種またはそれ以上のポリマーは、同じ液体で分散させてもよいし、異なる液体に含ませて別々に分散させてもどちらでもよく、またはポリマーが液体の形態でない場合は2種またはそれ以上のポリマーを用いるさらに別の方法でもよい。各層は、様々な機械的、形態学的または化学的性質を有し得る。ポリマーは、不活性で、組成物の構造全体を支持して強剛性を付与し得る。層は、エレクトロスピニングプロセス中に織り交ぜることで相互につながっていてもよい。
【0108】
さらに、組成物は剤を含有してもよい。非限定的な例であるが、剤は生理化学剤または治療剤であってもよい。本明細書において企図されているが、生理化学剤は、体内に存在する化学的または物理的機能を実行する生体分子の相互作用を含む生体のいずれかの機能に影響するいずれかの物質を包含する。生理化学剤は、天然、天然由来または合成である。治療剤は、例えば、身体部位の炎症を軽減または改善したり、いずれかの微生物感染を防止する際に予防薬として機能したりといった医療目的を有するか、または身体部位やその周辺の組織の全体的な健康を補助するいずれの治療剤でもよく、組成物の3Dナノファイバーウェビング中に存在してもよい。
【0109】
治療剤
皮膚組織または体の中、すなわち体内に存在する組織等の、組織に関連する多種多様の疾患および症状の治療に使用するものを含む、多種多様の治療剤を使用することができる。一例として、内部組織は、AMDの治療のための、網膜組織、BM、または眼の後壁の他のいずれかの組織等の眼組織であってもよい。治療剤の例としては、限定するものでは
ないが、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸類似体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNA、RNA、siRNA)、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその断片もしくは一部、抗原またはエピトープ、ホルモン、ホルモン拮抗物質、増殖因子または組換え増殖因子ならびにそれらの断片および変異体、細胞接着メディエーター(RGD等)、サイトカイン、酵素、抗炎症剤、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗プリオン、毒素、ナノダイヤモンド、プロドラッグ、化学療法剤、転写阻害タンパク質、小分子、薬物(例えば、薬物、染料、アミノ酸、ビタミン、酸化防止剤)、他の抗菌性化合物、ポリエン、グアニン類似体、チミジン類似体、真菌類、動植物またはウイルス(バクテリオファージを含む)等の生物、神経伝達物質、ホルモン、細胞内シグナル伝達剤、薬剤的に活性な剤、毒剤、農薬、化学的毒素、生物学的毒素、微生物、ならびにニューロン/神経、肝臓細胞および免疫系細胞等の動物細胞、薬理学的材料、ビタミン、鎮静剤、睡眠薬、プロスタグランジンおよび放射性医薬品が挙げられる。
【0110】
抗生物質
本発明の組成物の3Dナノファイバーウェビングに包埋することができる抗生物質または抗菌剤としては、限定するものではないが、アクチノマイシン;アミノグリコシド(例えば、ネオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン);βラクタマーゼ阻害剤(例えば、クラブラン酸、スルバクタム);グリコペプチド(例えば、バンコマイシン、テイコプラニン、ポリミキシン);アンサマイシン;バシトラシン;カルバセフェム;カルバペネム;セファロスポリン(例えば、セファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフトビプロール、セフロキシム、セフォタキシム、セフェピム、セファドロキシル、セフォキシチン、セフプロジル、セフジニル);グラミシジン;イソニアジド;リネゾリド;マクロライド(例えば、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン);ムピロシン;ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、オキサシリン、ピペラシリン);オキソリン酸;ポリペプチド(例えば、バシトラシン、ポリミキシンB);キノロン(例えば、シプロフロキサシン、ナリジクス酸、エノキサシン、ガチフロキサシン、レバキン、オフロキサシン等);スルホンアミド(例えば、スルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム−スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール)、スルファジアジン);テトラサイクリン(例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン等);アズトレオナム等のモノバクタム;クロラムフェニコール;リンコマイシン;クリンダマイシン;エタンブトール;ムピロシン;メトロニダゾール;ペフロキサシン;ピラジナミド;チアンフェニコール;リファンピシン;チアンフェニコール;ダプソン;クロファジミン;キヌプリスチン;メトロニダゾール;リネゾリド;イソニアジド;ピラシル;ノボビオシン;トリメトプリム;ホスホマイシン;フシジン酸;またはその他の局所性抗生物質が挙げられる。微生物汚染、特に手術部位感染によって引き起こされるものの防止および/または処置の方法が本発明に包含されている。上記で列挙した抗生物質のいずれかの1種または複数を含む本発明の組成物を用いることによって処置または防止し得る手術部位感染としては、限定するものではないが、化膿連鎖球菌(S. pyogenes)、緑色連鎖球菌、a群連鎖球
菌、緑膿菌(P. aeruginosa)、大便連鎖球菌(E. faecalis)、ミラビリス変形菌(P. mirabilis)、霊菌(S. marcescens)、プレボテラ属、バクテロイデス属、エンテロバク
ター・クロアカエ(E. clocae)、アセチノバクター(Acetinobacter)・アニトラタス(A. anitratus)、肺炎桿菌(K. pneumonia)、大腸菌、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、および腸球菌属、クロストリジウム属、マイコバクテリア科、紡錘状菌、スピロヘータ類、レジオネラ属、ボレリア属、芽胞等の細菌感染が挙げられる。本発明の組成物は、限定するものではないが、美容手術、婦人科手術、産科手術、腹部手術、整形手術、口腔および顎顔面手術、頭頸部手術、心胸郭手術、血管手術および結腸直腸手術を含むいずれかの手術部位感染に有用である。
【0111】
抗菌物質またはペプチド
抗生剤はさらに、デフェンシン、マガイニン、ナイシン、溶菌バクテリオファージ、インドリシジンおよびプロテグリン−1等の抗菌タンパク質または抗菌ペプチドであってもよい。抗生剤はさらに、上記で列挙した剤のいずれかの組合せであってもよい。
サイトカイン
【0112】
本発明の組成物の3Dナノファイバーウェビング内に存在してもよい剤として、インターフェロンまたはインターロイキン等のいずれかのサイトカインが企図されている。非限定的な例であるが、インターロイキン1〜33、35(IL−1〜IL−33、IL−35)ならびにIFN−α、IFN−β、IFN−ωおよびIFN−γが本明細書において企図されている。
【0113】
増殖および形態形成因子
線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3を含むトランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ベバシズマブ(アバスチン(商標))等の抗VEGF、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、PDGF−BB、インスリン様増殖因子、骨形成増殖因子、骨形成様タンパク質、トランスフォーミング増殖因子、神経成長因子等の増殖および形態形成因子が本明細書において企図されており、関連するタンパク質(すなわち当技術分野において公知の増殖因子)が本発明の組成物の3Dナノファイバーウェビング内に存在してもよい剤として企図されている。
【0114】
ホルモン
本発明の組成物の3Dナノファイバーウェビング内に存在してもよい剤として、任意のホルモンが企図されている。非限定的な例であるが、ホルモンは、TRH、バソプレシン、インスリン、成長ホルモン、糖タンパク質ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンおよび甲状腺刺激ホルモン等のペプチドホルモン;テストステロンやコルチゾール等の、コレステロールに由来するステロイドホルモン等の脂質またはリン脂質由来ホルモンおよびエイコサノイド;または芳香族アミノ酸脱炭酸酵素の作用によってフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンのような芳香族アミノ酸から誘導されるモノアミンであってもよい。カルシトニンもまた企図されている。
【0115】
抗炎症剤
コルチコステロン、ブデソニド、デキサメタゾン、プレドニゾロン、エストロゲン、スルファサラジンおよびメサラミン等のステロイド系の抗炎症剤が本明細書において企図されている。本明細書において企図されている非ステロイド抗炎症剤としては、限定するものではないが、アスピリン(アセチルサリチル酸)、ジフルニサル、サルサラート等のサリチル酸塩;イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン等のプロピオン酸誘導体;インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、ナブメトン等の酢酸誘導体;ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム等のエノール酸(オキシカム)誘導体;メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸等のフェナム酸誘導体(フェナム酸塩);およびセレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、ルミラコキシブおよびエトリコキシブ等の選択的COX−2阻害剤(コキシブ)が挙げられる。
【0116】
キナーゼ阻害剤
本発明の組成物の3Dナノファイバーウェビング内に存在してもよい剤として、任意のプロテインキナーゼまたはチロシンキナーゼ阻害剤が企図されている。キナーゼ阻害剤の例としては、限定するものではないが、チロホスチン、ゲニステインおよびキノキサリンが挙げられる。
【0117】
抗がん剤
本明細書においては任意の抗がん剤が企図されており、例えば、限定するものではないが、タモキシフェン、トポテカン、LHRH、ポドフィロトキシン、コルヒチン、エンドスタチン、ラルチトレキセド、チオテパ、シクロホスファミド、ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファン、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ
(meturedopa)、ウレドーパ(uredopa)、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、ト
リエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、トリメチロールメラミン、ブラタシン、ブラタシノン、ブリオスタチン、カリスタチン、CC−1065、アドゼレシン、カルゼレシン、ビゼレシン、クリプトフィシン1、クリプトフィシン8、ドラスタチン、デュオカルマイシン、KW−2189、CB1−TM1、エリュテロビン、パンクラチスタチン、サルコジクチイン、スポンギスタチン、クロランブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムヌスチン(ranimnustine)、カリケアマイシン、ダイネミシン、クロドロネート、エスペラマイシン、ネオカルチノスタチン発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラルナイシン(authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイ
シン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、ミコフェノール酸、ノガラルナイシン(nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン、5−フルオロウラシル(5−FU)、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン、フォリン酸、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、アミノレブリン酸、エニルウラシル、アムサクリン、ベストラブシル、ビサントレン、エダトラキセート(edatraxate)、デフォファミン(defofamine)、デメコルチン、ジアジクオン、エルフォルミチン(elformithine)、酢酸エリプチニウム、エポチロン、エトグルシド、硝酸ガリウム、ヒドロキシ尿素、レンチナン、ロニダイニン(lonidainine)、マイタンシノイド、ミトグアゾン、モピダンモール(mopidanmol)、ニトラエリン
(nitraerine)、ペントスタチン、フェナメット、ピラルビシン、ロソキサントロン、ポドフィリン酸、2−エチルヒドラジド、プロカルバジン、PSK多糖類複合体、ラゾキサン、リゾキシン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム、テヌアゾン酸、トリアジクオン、2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン、トリコテセン、ウレタン、ビンデシン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、ガシトシン(gacytosine)、アラビノシド、シクロホスファミド、チオテパ、ドキセタキセル(doxetaxel)、クロランブシル、6−チオグアニン、メルカプトプリン、シスプラ
チン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ビンブラスチン、白金、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ノバントロン、テニポシド、エダトレキサート、ダウノマイシン、アミノプテリン、ゼローダ、イバンドロネート、イリノテカン、レチノイン酸、カペシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンジオスタチン、アンジオペプチン、細胞や組織の増殖を阻止する能力のあるモノクローナル抗体、ならびにチミジンキナーゼ阻害剤、RFS2000およびジフルオロメチルオルニチン(DMF
O);(l)ブピバカインおよびリドカインロピバカイン等の麻酔薬;(m)抗凝固剤等のRGDペプチド含有化合物、ヘパリン、D−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、ヒルジン、抗トロンビン化合物、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビンおよび抗血小板受容体抗体、ならびにアスピリン;(n)翻訳プロモーター、増殖因子および転写活性化因子等の血管細胞成長促進物質が挙げられる。
【0118】
細胞
本明細書において企図されているが、本発明の組成物は、組織を再生するために必要とされる細胞を再現する細胞を含有してもよい。再現とは、組成物中の細胞が、組織の細胞と(a)同じである、(b)同じ型に分化する類似型である、(c)同じ起源である、かつ/または(d)同じ機能を有する異なる型であることを意味する。例えば、網膜組織がダメージを受けると光受容細胞の喪失につながることがある。本発明の組成物は、多数の光受容細胞または光受容細胞に分化する細胞が播種されてもよい。また組成物は、網膜色素細胞および各種神経細胞をさらに含んでもよい。組成物が組織再生を必要とする身体部位と接触する前に細胞を培養することが本明細書において企図されている。
【0119】
本発明での使用に好適な細胞の例としては、限定するものではないが、前駆細胞または幹細胞、成体幹細胞または胚性幹細胞、成体分化細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、皮膚細胞、毛包細胞、受容器細胞、メラニン細胞、血液細胞、筋肉、骨、軟骨および血管の全ての細胞、内皮細胞、粘膜細胞、免疫細胞、神経細胞、口の細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、角化細胞、腎尿細管細胞、腎臓基底膜細胞、外皮細胞、骨髄細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎細胞、視床下部細胞、下垂体細胞、卵巣細胞、睾丸細胞、唾液腺細胞、脂肪細胞、角膜または網膜細胞、網膜色素上皮細胞、BM細胞、眼の後壁のいずれかの解剖学的部位に存在するいずれかの細胞等の眼の細胞、ならびに前駆細胞が挙げられる。幹細胞は、ヒト間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞、上皮幹細胞、神経幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)または非常に小さな幹細胞等の各種ヒト幹細胞であってもよい。幹細胞はさらに、ウマ、ブタ、ウシ、ニワトリおよびヒツジ等のいずれかの脊椎動物を含む非ヒト由来であってもよい。3Dナノファイバーウェビングの層は2種類以上の細胞からなってもよい。例えば、AMDに冒された網膜組織または他のいずれかの眼組織の再生においては、再生を必要とする眼の部位への杆体および錐体ならびにニューロン/神経を含む光受容細胞の送達が必要な場合がある。この例においては、本発明の組成物は、3Dナノファイバーウェビング中に少なくとも3つの層、例えば7〜8層を含み、1つの層が光受容細胞を含有し、別の層が網膜色素上皮細胞を含有し、さらなる層が種々の神経細胞を含有し、組成物の厚さがほぼ再生を必要とする組織の厚さである、ということが本明細書において企図されている。
【0120】
天然組織ファイバー
本明細書において企図されている天然組織ファイバーの例としては、限定するものではないが、α−エラスチン、トロポエラスチン等のエラスチン、いずれかの型のコラーゲン、マトリゲル、ゲルトレックス(geltrex)、ラミニン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−
リジンが挙げられる。
【0121】
酵素
本発明での使用に好適な酵素の例としては、限定するものではないが、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ等が挙げられる。
【0122】
細胞に影響を与え相互に作用する物質
プルモルファミン、アクチビンA、タウリンおよびレチノイン酸等の物質、ならびに線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3を含むトランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ベバシズマブ(アバスチン(商標))等の抗VEGF、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、PDGF−BB、インスリン様増殖因子、骨形成増殖因子、骨形成様タンパク質、MTA(ミネラルトリオキサイドアグリゲート)、トランスフォーミング増殖因子、神経成長因子および当技術分野において公知の関連するタンパク質が本明細書において企図されている。
【0123】
麻酔剤
本明細書において企図されている麻酔剤としては、限定するものではないが、リドカイン、アルチカイン、プリロカイン、テトラカイン、ブピバカインおよびロピバカインが挙げられる。
【0124】
厚さ
ナノウェビング加工に長くかかるほど、またギプスまたは模型に積層されるナノファイバーが多ければ多いほど、ウェビングは厚くなる。1種または複数のさらなるバイオポリマー、1種または複数の材料および1種または複数の物質は、ナノファイバーウェビングの塗布により同時的または逐次的に模型またはギプスに塗布することができる。
【0125】
好ましい実施形態においては、完全に形成された3Dナノファイバーウェビングは(他の材料および/または物質の有無にかかわらず)硬化プロセスを経、その結果組成物は、ギプスまたは模型から組成物を除去(例えば「剥離」)した後も組織の再生または修復を必要とする身体部位の形状または輪郭を維持するようになる。ナノファイバーは、化学的または物理的に硬化または重合することができる。あるいは重合は、歯科医でのポリマー充填物の光硬化と同様に光硬化を通じて誘発することができる。
【0126】
組成物の厚さは、治療を必要とする身体部位の変形や異常によって異なる。通常、組成物の厚さは約5μm〜約4mmである。別の実施形態においては、厚さは少なくとも100nmで上限はなくてもよい。
【0127】
ナノファイバー径の厚さ(層の径や厚さではなくナノファイバー径)は約10nm〜約2000nmであってもよい。別の実施形態においては、組成物中のファイバーの厚さは約100nm〜約100μmであってもよい(マクロファイバー径、層の径や厚さではない)。得られる組成物(層)の全体の厚さは5μmより厚くてもよい。膜の厚さは皮膚または他の臓器の厚さと一致することが可能であり、かつ1.4〜4.0mmであることが可能であり、またはそれより厚くてもよく天然器官の他の厚さに達してもよい。
【0128】
材料
組成物のいずれかの層に添加される任意の合成または天然由来物質を含む組成物には、任意の材料を添加することができる。材料は、(a)組成物の構造をより強固またはより柔軟にする、(b)分子または細胞を3Dナノファイバーウェビング内に取り込む、(c)3Dナノファイバーウェビング内に存在する1種または複数の剤を分解から保護する、もしくは分解を遅らせる、かつ/または(d)1種または複数の剤を活性化させる、もしくは阻害するのに有用となることが企図されている。材料はゲル、気体、クリーム、軟膏または固体であってもよく、また有機材料でも無機材料でもよい。本明細書において企図されているが、材料としては、限定するものではないが、鉱物、セラミック、ナノダイヤモンド、結晶、非晶質鉱物およびヒドロキシアパタイト、フッ素リン灰石、リン酸三カルシウム、骨のためのリン酸カルシウムならびに硬(石灰化)組織が挙げられる。また、金
属、および金、銀、銅、亜鉛、スズ、白金、チタン、マグネシウム合金等の合金、Na、Ca、F、Li、K、Mg等のアルカリ金属、ならびにCl、Brおよびヨウ素が本明細書において企図されている。具体的には、組成物は少なくとも1種の無機結晶性材料または非晶質鉱物様材料を含有してもよく、例としては限定するものではないが、フルオロアパタイト、(Ca(PO(F、OH))、ヒドロキシアパタイト、マグネタイト(Fe)および炭酸カルシウム(CaCO)がある。幹細胞を象牙質生成細胞にするためのMTA(ミネラルトリオキサイドアグリゲート)もまた、カルシトニンやビスホスホネートとともに本明細書において企図されている。
【0129】
組成物は、少なくとも1種の有機および無機ナノベシクル(ナノ粒子)を含有できる。これらのナノベシクルを用いて少なくとも1種の有機または無機の治療用物質を送達することができる。治療剤は、ナノベシクルおよび/またはナノ粒子の中に充填することもできるし、一時的または永久的化学結合(共有結合、極性共有結合、イオン結合、金属結合、水素結合)を形成することもできる。これらの有機および無機ナノベシクルの例としては、ミセル、高分子電解質カプセル、アルミノケイ酸塩、アルミノケイ酸塩ナノチューブ、シルクナノ粒子、クレイナノ粒子、自己組織化単層、シンターゼカプシド、またはペプチドを使用した積層技術により調製した自己組織化カプセル、タンパク質、ならびにポリマーおよび無機鉱物が可能である。積層カプセルの例としては、ナノウェビングに組み入れることができる、ドラッグデリバリーに使用するポリ(L−グルタミン酸)/キトサンマイクロカプセルがある。少なくとも1種の有機および無機ナノベシクル、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセルを含有する組成物は、ナノウェビング技術を用いた共エレクトロスピニングにより、または有針エレクトロスピニングと、ナノウェビング技術、エマルションエレクトロスピニング法、同軸エレクトロスピニング、またはこれらの技術の組合せとを組み合わせることにより調製することができる。
【0130】
使用
組成物に材料、物質およびバイオポリマーが存在するために、組成物は感染や熱損失から組織を適切に保護する能力を有する。また血液供給や真皮細胞の再生も可能になるが、提供者組織の成分がないので拒絶反応は起こさない。組成物は生分解性であるため、組成物によって送達されるいずれの細胞の増殖も天然皮膚の細胞と調和して進むことができ、これによって瘢痕や拘縮が防がれる。3Dナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた皮膚組織再生組成物の使用は、組織の再生または修復を必要とするいずれの身体部位にも適用できる。本明細書において企図されているが、組成物の使用は皮膚奇形や異常を治療するためであってもよい。異常には、糖尿病性足部潰瘍等の慢性創傷が含まれ得る。組成物を用いて、(例えば幹細胞を有する)パッチまたは膜として組成物を眼の後方(すなわち網膜、BM、視神経)に適用することにより黄斑変性を治療することができる。図10を参照されたい。
【0131】
表面および形状
本発明は、三次元(3D)ナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた組織再生組成物を提供する。組成物の表面は多孔性であっても不浸透性であってもよい。組成物の形状は、組織の再生または修復を必要とする身体部位に合わせられるいずれの形状でもよい。
【0132】
ポリマー
本発明で使用するための3Dナノファイバーウェビングを形成するために使用することができるポリマーとしては、合成および天然ポリマーが挙げられる。合成ポリマーの例としては、限定するものではないが、ナイロン4,6(PA−4,6)、ナイロン6(PA−6)、ナイロン6,6(PA−6,6)、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリアミド−6(PA)、ポリ(ベンズイミダゾール)(PBI)、ポリカーボネート、ポ
リカーボネートビスフェノール−A、ポリ(エーテルイミド)(PEI)、ポリ(エチルオキシド)(PEO)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)、ポリスルホンビスフェノールA、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリ(ウレタン)(PU)、ポリ(ウレタンウレア)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(ビニルカルバゾール)(PVK)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)(PEVA)、ポリ(メタクリレート)(PMMA)およびポリアクリルアミド(PAAm)が挙げられる。合成または天然ポリマーは生分解性ポリマーでもよい。合成生分解性ポリマーとしては、限定するものではないが、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(グリコリド)(PGL)、ポリ(L−乳酸)(PLA)、ポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコール酸)(PLGA)、ならびにグリコリド、ラクチド(L−ラクチド、D−ラクチド、D,L−ラクチド)、ε−カプロラクトン、ポリ(グリセロールセバテート(sebatate))(PGS)、酢酸セルロース、ポリホスファジン、ポリ無水物およびポリオルトエステルのいずれかのホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。天然ポリマーは本明細書において企図されており、タンパク質、脂質および/または多糖類を含む。天然生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ(アミノ酸)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアニリン、ラミニン、小麦グルテン、絹、フィブリン、フィブリノゲン、I型、II型、III型およびIV型コラーゲンまたは当業者に公知のいずれかの型もしくは亜型のコラーゲン、カゼインおよびエラスチン、ならびに例えば、キトサン、ゼラチン、デンプン、酢酸セルロースや、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸およびヒアルロン酸等のグリコサミノグリカンより選択される多糖類より選択されるタンパク質が挙げられる。上記の天然および合成ポリマーの混合物またはブレンドは、本発明の組成物の形成において使用してもよい。組成物は絹等のポリマーを含んでいなくてもよい、ということもまた企図されている。
【0133】
生分解性ポリマーが、I型コラーゲンおよび/もしくはラミニンおよび/もしくはマトリゲルおよび/もしくはゲルトレックス等のタンパク質または他の治療剤であるかまたはそれらを含有する/でありかつそれらを含有する、種々の好ましい実施形態について以下に考察する。
【0134】
I型コラーゲンは天然細胞外マトリックスの主要構成成分である。その天然起源、非免疫原性、生体適合性および細胞接着や細胞移動におけるその役割ゆえに、I型コラーゲンは細胞外マトリックスの主成分として重要な役割を果たしている。I型コラーゲンは、BioGide等の生体膜の設計において幅広い用途がある。
【0135】
ある特定の実施形態においては、コラーゲンおよびPLGA膜を、様々な組成(0%コラーゲン:100%PLGA、25%コラーゲン:75%PLGA、50%コラーゲン:50%PLGA、75%コラーゲン:25%PLGA、100%コラーゲン:0%PLGA、および他の濃度)で厚さ40μm以上でエレクトロスピニングしたところ、架橋して最終組成物の少なくとも1つの層を形成した。
【0136】
ある特定の実施形態においては、本発明の生体内分解性ポリマー含有層内のI型コラーゲンを架橋させ、その結果層の分解速度および溶解度を低下させる。分解速度を制御することが、結果として組成物に組み込まれた治療剤の放出を制御することになる。
【0137】
ある特定の実施形態においては、コラーゲンとゼラチンとを含有する層を架橋させ、ゼ
ロ長架橋剤であるN,N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)により表面修飾する。EDC:NHSの比が5:1であるN−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)を架橋プロセスに加えて架橋の効率を上げる。架橋においては、ゲニピン、アルデヒド(ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリセルアルデヒド)、ポリエポキシド、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびイソシアネート等の他の剤をさらに用いてもよい。
【0138】
またゼロ長架橋を用い、レチノイン酸、ラミニンおよびコラーゲン等の、反応性基(例えばカルボキシル基)を含有する治療剤を加えることにより、組成物の少なくとも1つの層を表面修飾した。架橋、カップリング、共役、環化付加反応等の「クリック」化学、例えばヒュスゲン1,3−双極環化付加反応、Cu(I)触媒アジド−アセチレン環化付加反応、ディールス・アルダー反応、歪みの小さい環(例えばエポキシ環やアジリジン環)への求核置換、尿素やアミドの形成、エポキシ化、ジヒドロキシル化等の二重結合への付加反応、ハロゲン化(例えば塩化または臭化)ベンジル基の求核置換および当該技術分野において公知でありかつ使用されている他のいずれかの活性化プロセスが本明細書において企図されている。再生または修復を必要とする組織への1種または複数の剤の送達を増進するあらゆる活性化プロセスが企図されている。
【実施例】
【0139】
実施例1:顔型の調製
本発明の一態様においては、三次元(3D)ナノファイバーウェビングを含むカスタマイズされた組織再生組成物の調製プロセスは、組織の修復または再生を必要とする身体部位の型の調製から始まる。
一例として、本発明者は、混凝紙を用いて顔の型を調製した。工程は以下の通りである。
・ワセリンの薄いコーティングで顔を覆った
・混凝紙をおよそ7×15cmの小片に切った
・メッシュ片を温水にサッと浸けてから顔の上に載せた
・メッシュ片を皮膚の上で優しくマッサージするようにして顔の形になるようにした
・混凝紙は3層重ねた
・20分間型を乾燥させてから顔から型をゆっくりと引き離した
・2部の水と3部の石膏の混合物を調製することによりギプスを調製した
・石膏を撹拌器を用いて混合した
・次いで混合物をゆっくりと型に流し込んだ
・ギプスを24時間乾燥させた
・一旦石膏を取り付け、型から離して180℃のオーブンに30分間入れた
図1は顔型の調製工程を表した図である。
【0140】
実施例2:ナノファイバーのスピニングプロセス
次の工程では、3Dナノファイバーウェビングを顔のギプスに適用する。ナノファイバーをスピンしてウェブ状にする。スピニング(またはエレクトロスピニング)は、NS Lab 200s(Nano−spider(登録商標))等の無針装置により達成する。プロセスを開始するために、以下の工程を行った:
・ポリマー溶液は換気フードの中で調製しなければならない
・ポリマー用の適切な溶媒を選択してから、種々の濃度のポリマー溶液を調製することができる(溶液濃度のナノファイバーの形態への影響を調査するため)。溶媒は、いずれかの無機もしくは有機溶液、または溶媒の組合せであってもよい。
・ポリマーの溶解を促進するため、以下の装置の少なくとも1つを使用する:マグネチックスターラー、振盪機または超音波処理器。
・バイアルには、ポリマーの名前、使用した溶媒(1種または複数)中の濃度および日付
のラベルを貼っておくべきである。
・ポリマーが完全に溶解したならば、ポリマー溶液特性を調査して記録すべきである。
・蒸気をわずかでも吸入してしまうことを避けるため、溶液は密閉瓶内のスピニングチャンバに移しておくべきである
・集電極を取り付け、5.5〜8mmの銅線を用いてコレクターを接地する
・コレクターの高さを調整する
・スピン電極の軸端をギアホルダーに挿入することによりスピン電極(ワイヤスピン電極、シリンダースピン電極、スパイクスピン電極)をスピニングタブに挿入する
・スピニングタブをスピニングトレーに装填する
・スピニングトレーの内側に向けてロックスリットを回転させることによりスピニングタブをロックする
・スピニングタブ内にポリマー溶液を注ぐ(溶液をタブに注ぐ前にスプーンで溶液を混合する)
・ギアホルダーの上に高電圧シールドを載せる
・スピニングチャンバの正面扉を閉めてロックする
・電源につないでNS Lab200Sを作動させる
・正面扉の下にある主スイッチを押す。「吸込ファン」というパイロット・ランプ(緑色光)が点灯し、換気ファンが運転中であることが示される。
・開始ボタンスイッチ(緑色)を押す。「供給電圧」というパイロット・ランプが点灯し、電気部品が接続されていることが示される。
・安全ロック(青色)ボタンを押す
・スイッチ(黒色の二位置選択器)をオンの位置にひねりライトを点灯する
・電極回転を開始させ、回転の設定を行う(エレクトロスピニングパラメータに従って回転の速度を設定しなければならない)
・電圧ダイヤル式電位差計(Voltage Dial Potentiometer)で出力電圧をゼロに設定する・電流ダイヤル式電位差計(Current Dial Potentiometer)で出力電流を最大値である「10」に設定する
・全パラメータを設定したら、ブラックパワーロッカー(Black Power Rocker)を用いて電源装置のスイッチを入れる
・赤い高電圧スイッチを押して高電圧の発生を可能にする
【0141】
上記の工程が完了した後は、以下の工程により電圧を調整する必要がある。
・赤が押されたら高電圧が発生する
・電圧電位差計を用い、印加電圧を徐々に挙げてナノファイバーが現れ始める値にする
・ナノファイバーの形成を確認するもう1つの方法は電流の変化を確認することであり、電流が0.001〜0.002mAを超えると2電極間の質量移動が始まる。
・ナノファイバー形成が不十分のようであれば印加電圧を上げてもよい
・最良のナノファイバーを得るためには、様々な電圧で溶液をエレクトロスピニングし、走査型電子顕微鏡でファイバーの形態と径にアクセスする必要がある。
【0142】
上記の工程が完了した後は、以下の工程により操作を停止する必要がある。
・赤い高電圧スイッチを押して高電圧の発生をできなくする
・ブラックパワーロッカーを用いて電源装置のスイッチを切る
・電圧ダイヤル式電位差計で出力電圧をゼロに設定する
・電極回転を停止する
・スイッチ(黒色の二位置選択器)をオフの位置にひねりライトを消す
・停止ボタンスイッチ(赤色)を押す
・スピニングチャンバにアクセスするために、正面扉のロックを解く
・接地棒を用いてチャンバ内の全ての残留電荷を除去する
・正面扉の下にある主スイッチを切る
・機械のプラグを抜く
【0143】
実施例3:顔ギプスによるナノウェビング加工
実施例1に記載の顔のインプレッションギプス(焼石膏)を実施例2に記載のようにナノファイバー加工にかけた。詳細は以下の通りである。
ギプスを、Nano−Spiderの機械の中のワイヤーで接地したコレクターの上に置いた。両面テープでギプスをコレクターに固定した。次に、8%ゼラチンをナノウェビング機のタブに注いだ。この操作にはウェビング電極、特にパイク電極を用いたが、シリンダー電極、ワイヤー電極を用いてもよい。操作を開始し、最適化した。電極間距離を21cmに設定した時に最良の操作パラメータが80kVであることがわかった。スピン電極を15Hzに設定した。テイラーコーンの形成(図2、左パネルに見ることができる)は、35kVでのプロセスの開始を示している。
【0144】
十分な厚さを達成した後でナノウェビング加工を停止し、得られた組成物(図3A参照)をギプスから剥がすように取り除いた。膜の形態の組成物も製造した(図3Bおよび3Cを参照のこと)。
【0145】
実施例4:膜の生体適合性試験
膜の形態の組成物を数個、別々のバイオポリマーをナノウェビング化することにより製造した。試験したバイオポリマーは、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、ゼラチンおよびポリ−ε−カプロラクトン(PCL)である。製造工程は各ポリマーとも同じである。代表的な例としては、PLGAのナノウェビング化により製造した膜のプロセスは下記の通りである。具体的には、
・PLGA(85/15:L−ラクチド/グリコリドコポリマー(モル比)(Purasorb PLG8531、ピューラック社(Purac)、オランダ))ポリマー溶液を換気
フード内で調製した
・PLGAを12グラム量り取り、200mLガラス瓶に注いだ
・2,2,2−トリフルオロエタノール(ACR139755000、サーモフィッシャー社(ThermoFisher)、米国)を188グラム量り取り、PLGAを含む200mLガラス瓶に直接注いだ
・15mmの磁性ロッドを瓶の中に入れた
・瓶の蓋をしてパラフィンフィルムで密封した
・次いで瓶にラベルを貼って日付を記入した
・PLGAと溶媒を含有する瓶マグネチックスターラーの上に置き、ポリマーが十分に溶解するまで溶液を500rpmで4時間攪拌した
・40mLの70%v/v酢酸(70mLの氷酢酸(A9967、シグマアルドリッチ社(Sigma Aldrich)、米国)と30mLの脱イオン水の混合により事前に調製)を溶液に
加えた。
・瓶を閉めて再度密封し、一晩攪拌した
・溶液をスピニングチャンバに移した
・集電極のねじを外してスピニングチャンバから引き離した。
■電極距離ボタンを用いて集電極を下げた
■電極の上部の4つのボルトを緩めた
■コレクター(例えば模型またはギプス)コレクターのプラットフォーム上に置いて銅線で固定した
・次いでコレクターを5.5〜8mmの銅線で接地した
・機械の後方に設置された電極距離ボタンを用いてコレクターの高さを調整した
・次いで、スピン電極の軸端をギアホルダーに挿入することによりワイヤスピン電極をスピニングタブに入れた
・次いでスピニングタブをスピニングトレーに装填した
・次いで、スピニングトレーの内側に向けてロックスリットを回転させることによりスピニングタブをトレーの中にロックした
・次いでポリマー溶液をスプーンで混合した後、スピニングタブに注いだ
・高電圧シールドをギアホルダーの上に載せた
・次いでスピニングチャンバの正面扉を閉め、2個のDIRAKロックでロックした。
・NS Lab200Sの機械を電源につないだ
・正面扉の下にある主スイッチで機械を作動させた。「吸込ファン」というパイロット・ランプ(緑色光)が点灯し、換気ファンが運転中であることが示された。
・開始ボタンスイッチ(緑色)を押した。「供給電圧」というパイロット・ランプが点灯し、電気部品が接続されていることが示された。
・安全ロック(青色)ボタンを押した
・スイッチ(黒色の二位置選択器)をオンの位置にひねりチャンバのライトを点灯した
・電極回転を開始させ、回転を8rpmに設定した
・電圧ダイヤル式電位差計で出力電圧をゼロに設定した
・電流ダイヤル式電位差計で出力電流を最大値である「10」に設定した
・全パラメータを設定したら、ブラックパワーロッカーを用いて電源装置をオンにした
・赤い高電圧スイッチを押して高電圧の発生を可能にした
・電圧をゆっくりと50kVに上げた
・ナノファイバーを5分間回収し、次いで10分間空気乾燥させた。
・銅線を緩めてコレクターを裏返した
・銅線をきつく締めて接地を確認した
・スピニングを再開した
・十分な厚みのエレクトロスピニングしたナノファイバーの層がコレクター全体を覆うまで上記の工程を繰り返した
【0146】
カバーグラスおよびBiogide(市販の臨床的に承認されたコラーゲン膜;ガイストリッヒ(Geistlich)社、ウォルフーゼン、スイス)をコントロールとした。
膜とコントロールとにヒト間葉系幹細胞を播種し、増殖および細胞生存を当業者に公知の標準的WSTアッセイで試験した。
8日間の培養後、PLGA膜はコントロールよりも有意に良好な細胞増殖および細胞生存を示した(図4A(ヒストグラム)および図4B(顕微鏡写真)参照)。本発明者らのPCL膜はコントロールと同程度であった。ゼラチン膜の成績は、8日間の培養後も依然として細胞が活動的であったため、中程度ではあるが許容可能であった。
【0147】
実施例5:ナノ織ゼラチン膜の分解速度
代用顔の膜は長期間にわたって生分解性であるべきであるが、そうあることで天然組織が取って代わることができ、またファイバーが分解することによってできる空間内に増殖することができる。
サンプルを37℃で21日間PBSに浸漬した。質量損失率を計算することにより分解速度を7日置きに測定した。30%、50%、70%、90%および100%エタノールを用いてサンプルを脱水し、次いで1時間空気乾燥させてから計量した(21日間)。次式を用いて質量損失率を測定した[Kim et. al. (2009)]。
質量損失(%)=[(W0−Wt)/W0]×100
W0=初期質量(g)
Wt=時間tにおけるサンプルの質量(g)
【0148】
図5に示すように、ゼラチンの代用顔の膜は、数週間、具体的には21日間の経過に伴って天然組織に取って代わることが可能になる分解パターンを有する。
【0149】
実施例6:表面修飾
以下に示す式を用い、反応性カルボキシル基を持つ選択したいくつかのバイオポリマーを、薬、サイトカインおよび増殖因子で表面修飾した。第1の工程として、作製後のポリマーを量り取り1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)および/またはN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含有するエタノールに浸漬した。
【0150】
以下の式を用いて、架橋および表面修飾に必要とされるEDCおよび/またはNHSの量を算出する。
ポリマーの質量=膜の質量×ポリマーの組成
ポリマーのモル数=ポリマーの質量/分子量
反応性側鎖のモル数(n(Re))=ポリマーのモル数×各分子中のReの数
必要とされるn(EDC)=n(Re)×10
必要とされるn(NHS)=2(Re)
必要とされるn(薬)=n(Re)×治療レベル
質量(EDC)=n(EDC)×Mw(EDC)
質量(NHS)=n(NHS)×Mw(NHS)
質量(治療薬)=n(薬)×Mw(薬)
【0151】
必要とされる架橋度によっても異なるが、膜を24時間架橋させる。上記の式は、ラミニン、コラーゲンおよびカルシトニン等の少なくとも1種の治療用物質を加えることが可能なナノファイバーの表面修飾にも当てはまる。
【0152】
実施例7:コラーゲンおよびPLGAの組成物を含有する層の調製
溶媒として1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)を用いて、6%PLGA溶液を調製した。同じ溶媒HFIPを用いて6%コラーゲン溶液を調製した。両溶液を30分間超音波処理した後で、一晩マグネチックスターラー上に放置した。コラーゲンとPLGAが完全に溶解したら、それらを様々な濃度(0%コラーゲン:100%PLGA;25%コラーゲン:75%PLGA(1:3);50%コラーゲン:50%PLGA(1:1);75%コラーゲン:25%PLGA(3:1);100%コラーゲン:0%PLGA、および他の濃度)で混合した。ナノウェビング技術を用いて溶液をスピニングした。パイクスピン電極に5kVを印加した。スピン電極から15cm離れた場所にある集電極上に置かれたアルミホイル上でナノウェブを回収した。25回繰り返した各回において、40μmLの溶液をスピニングし、十分な厚さの層を得た。
【0153】
次いで膜を70%エタノールおよび2倍強度のアンチマイシン−抗生物質溶液で殺菌し、PBSで洗浄してからヒト間葉系幹細胞(hMSC)を播種した。
膜およびコントロールにhMSCを播種し、増殖および細胞生存を当業者に公知の標準的WSTアッセイで試験した。
1日目、3日目、6日目および8日目に細胞増殖および細胞生存を試験した。8日間の培養後、コラーゲン:PLGA(3:1)膜はコントロールよりも良好な細胞増殖および細胞生存を示した(図6参照)。
【0154】
実施例8:臨床グレードのエレクトロスピニング法
これらの研究は、本発明の組成物を製造するための臨床グレードのエレクトロスピニング法の応用に関する。
新規な臨床グレードのエレクトロスピニング法では、合成または天然バイオポリマーナノファイバーからなる三次元(3D)ナノ構造生体材料を得ることができる。かかる先端材料は天然細胞外マトリックス(ECM)を正確に模倣できる可能性があり、また再生療法における最適な幹細胞接着および個々の細胞ホーミングのための、細胞内規模の優れたニッチ様空隙を形成し得る。これらの研究の目的は、再生医療用の先端ヘルスケア材料の
製造のための適正製造基準(GMP)を満たすように厳しく管理して、独特の無針マルチジェットエレクトロスピニング法により天然のメッシュ様3D構造を有するいくつかの新規なナノファイバー細胞外マトリックス(NF−ECM)を設計すること、およびこれらの上でのヒト間葉系幹細胞(HMSC)の細胞挙動を試験することである。
【0155】
1.材料および方法
1.1.ポリマーおよびコポリマー溶液の調製
2種類の合成生分解性ポリマーをこれらの研究用に選んだ:1つ目は、L−ラクチド:グリコリドのモル比が85:15のポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)(ピューラック・バイオケム社(Purac Biochem)、オランダ、より購入)、2つ目は、
ポリ(カプロラクトン)(PCL;シグマ社(Sigma)製、米国ミズーリ州)。さらに、
2種類の天然バイオポリマー、ウシI型コラーゲン(シグマ社、米国ミズーリ州、ロット番号078k7016V、Pコード1001116870、BornsteinとTraubのプロトコルを用いてコウシ皮より抽出)およびウシゼラチン(シグマ社、米国ミズーリ州)を選択した。ポリマーを、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP;サーモフィッシャー社、オーストラリア、ヴィクトリア州)に10%wt/vの濃度で溶解させた。コラーゲンの解離を促進するため、超音波処理を30分間行った。合成および天然バイオポリマー(PLGA:コラーゲン、PLGA:ゼラチン、PCL:コラーゲンまたはPCL:ゼラチン)のコポリマー溶液を調製するため、各ポリマーを別々にHFIPに溶解させた後、適切な比率で合わせた(3:1、1:1または1:3)。調製の直後に、ポリマー溶液をエレクトロスピニングして新規な3D構造ナノファイバーECM(NF−ECM)を作成するか、またはポリマー溶液をフィルム流延して同じ材料の2D表面(2Dコントロール)を誘導した。
【0156】
1.2.3DナノファイバーECM(NF−ECM)の無針マルチジェットエレクトロスピニング
バイオポリマーから本発明者らの3DNF−ECMを作製するために、元々はナノスケールの織物メッシュの管理されたエレクトロスピニング用に設計された新規な産業用装置である、NanoSpider NS200(エルマルコ社(Elmarco)、チェコ共和国
リベレツ)を準備した。図13aは、18℃に設定された、陽圧をかけた通風クリーンルームに設置したNanoSpider(商標)を示している。クリーンルーム条件とすることで臨床グレードかつGMP遵守の製造環境となる。図13bは、ナノファイバーのマルチジェットスプレー(図13c)を可能にするこの自由表面無針エレクトロスピニング装置の構成を示している。最初に、ポリマー溶液をパイクスピン電極(SE)(図13d)を用いてエレクトロスピニングした。パイクSEを用いて、溶液がランダムな3D構造にエレクトロスピニング可能かをテストし、また処理パラメータを最適化した。パイク電極の先端は、40μlのポリマー溶液が置かれた円錐形の開口部からなる。次いでNanoSpider(商標)チャンバを閉めて施錠したが、陰圧チャンバであると、溶媒の迅速な蒸発および排気が可能である。印加電圧、電極間距離およびポリマー溶液濃度等の様々な処理パラメータを変更、かつ最適化し、ファイバー径の同じナノファイバーを作製した。スピン電極と集電極との距離は210mmとした。印加電圧を20kVから35kVに変更し、全ポリマーについて径の同じナノファイバーを得た。エレクトロスピニングを十分長く行って、肉眼で見える厚さ20±4μmのメッシュ膜を形成するNF−ECMを作製した。
【0157】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてナノファイバーの特徴付けを行った。NF−ECMから撮ったSEM像をImageJ(米国国立精神保健研究所、米国メリーランド州ベセズダ)を用いて解析し、その形態、ナノファイバー径および充填密度を調べた。30本のファイバーの径を測定して平均ファイバー径を算出した。均一性(ファイバー径の偏差)を計算するために、ランダムな120本のファイバーを測定して標準偏差を計算し、平
均で割って百分率で表した。充填密度は百分率で表したが、画像の端から端までのファイバーの数を数え、その平均ファイバー径を掛け、次に画像の長さ(117μm)で割って算出した。下記実施例10を参照されたい。
【0158】
1.3.2Dコントロールのためのフィルム流延
3DNF−ECMの誘導に使用した同じバイオポリマーをさらに、ナノファイバー構造を持たない平坦な2Dフィルム状に流延した。フィルムは全て、ポリマー溶液をガラス表面上に直接注ぐことによって調製し、溶液の延展をより一層確実にするために振盪機の上に置いた。クリーンルーム環境と同様の条件を設けた。フィルムを24時間空気乾燥させてから室温にてデシケーター内で保存した。このポリマーフィルムは、HMSCのコロニー形成用の2D表面を得る際にコントロールとなった。
【0159】
1.4.臨床的に承認されたコントロールとしてのコラーゲン膜(CCM)
BioGide(登録商標)膜(ガイストリッヒバイオマテリアルズ社(Geistlich Biomaterials)、ウォルフーゼン、スイス)をさらなるコントロール(CCM)とした。CCMは、ブタECM由来の3DマイクロファイバーI型コラーゲン膜であり、臨床グレードの条件下で製造される。これらの膜は臨床的に承認され、かつ口腔インプラント術や歯周療法術での使用に市販されているため、またその3D構造やマイクロファイバー構造のため、CCMを本発明者らの3DNF−ECM用の基準コントロールとして選択した。CCMは、滅菌臨床パッケージ中の30×40mmの膜として購入した。
【0160】
1.5.ナノファイバー架橋
純粋コラーゲン、純粋ゼラチンのNF−ECMおよびフィルム、ならびにコラーゲンまたはゼラチンを含有する全コポリマーのNF−ECMを、作製直後に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)(サーモフィッシャー社、オーストラリア、ヴィクトリア州)およびN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)(サーモフィッシャー社、オーストラリア、ヴィクトリア州)架橋試薬を用いて架橋させた。ゼラチンとコラーゲンとの架橋を確実に完了させるために、EDCおよびNHSを0.2のNHS/EDCモル比にて加えた。膜を、24時間振盪させながら室温で架橋させた。
【0161】
1.6.機械的試験
機械的試験を行ってNF−ECM、フィルムおよびCCMの生物物理学的特性を評価した。50Nの充填細胞を備えたシングルカラム卓上汎用試験システム(インストロン社(Instron)、オーストラリア、ヴィクトリア州)を用いてNF−ECM、フィルムおよび
CCMの、ヤング率、最大引張応力およびひずみを測定した。NF−ECM、フィルムおよびCCMを、10×40mmのサンプルにカットした。ゲージ開口部は20mmに設定した。最大引張応力にもよるが、測定のスピードは、最大ひずみ100%未満および最大ひずみ1000%未満のサンプルに対して、それぞれ2mm/分または20mm/分に設定した。サンプルの厚さをマイクロメータ(株式会社ミツトヨ、神奈川県、日本)で測定した。全体としては、測定を5回繰り返し、Bluehill(登録商標)ソフトウェア(インストロン社、オーストラリア、ヴィクトリア州)で解析した。
【0162】
1.7.水接触角
ゴニオメーター(フューチャー・デジタル・サイエンティフィック社(Future Digital
Scientific Corp)、米国ニューヨーク州)を用いて水接触角を求めてNF−ECM、2DフィルムおよびCCMの疎水性を評価した。NF−ECM、フィルムおよびCCMを15×15mmのサンプルにカットし、スライドガラス上に固定した。全体としては、各サンプルにつき3回繰り返した。
【0163】
1.8.フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
架橋および非架橋の、コラーゲン、ゼラチンおよびNF−ECMとそのポリマー粉末との組合せ、ならびにCCMのFTIRスペクトルをFTIR分光計(ブルカー・オプティクス社(Bruker Optic)、ドイツ、バーデン−ヴュルテンベルク州)で記録し、OPUS6.5ソフトウェア(ブルカー・オプティクス社、ドイツ、バーデン−ヴュルテンベルク州)で解析した。試験したポリマーの指紋領域を解析して、膜内のゼラチンおよびコラーゲンポリマーの具体的な特徴付けに使用した。
【0164】
1.9.SDS−PAGE
以下のサンプルを用いた:純粋コラーゲン粉末、無針エレクトロスピニングおよび有針エレクトロスピニングで作製した架橋および非架橋のコラーゲンのNF−ECM、HFIP溶解コラーゲン(60分間HFIPに溶解させたがエレクトロスピニングはせず)、純粋ゼラチン粉末、HFIP溶解させたゼラチン、ゼラチンのNF−ECMおよび架橋ゼラチンのNF−ECM。サンプルを、最終濃度1mg/mLになるまで0.5M酢酸に溶解させた。一連のサンプルを、0.5M酢酸中0.1mg/mLペプシンで20分間消化させた。溶液を4℃、13330gにて15分間遠心し、上清を3〜15%の10ウェルゲル(バイオラッド社(Bio-Rad)、米国カリフォルニア州)に充填した。パワーパック(PowerPac)(商標)HC電源装置(バイオラッド社、米国カリフォルニア州)でゲルに1
00Vを供給し、2時間運転させた。タンパク質バンドをシンプリーブルーセーフステイン(SimplyBlue safestain)(商標)(インビトロジェン社(Invitrogen)、米国ニューヨーク州)で可視化し、D5100デジタルカメラ(ニコン、タイ)で画像を撮影した。CCMは0.5M酢酸に溶解せず、またペプシンで消化されなかったため、CCMのSDS−PAGE分析を達成することは不可能であった。
【0165】
1.10.骨髄由来のヒト間葉系幹細胞(HMSC)の単離、培養および特徴付け
試験したNF−ECM、フィルム、カバーグラスおよびCCMの生物学的特性を評価するために、21歳男性のヒト骨髄からHMSCを採取した。本研究は、ボンド大学(オーストラリア、クイーンズランド州、倫理承認番号RO1333)およびクリスティアン・アルブレヒト大学キール医学部(キール、ドイツ、倫理承認番号AZ402/07)の倫理委員会によって承認された。HMSCの単離および培養を行った。マルチパラメータフローサイトメトリーおよびインビトロでの分化アッセイを用いてこれらの細胞を特徴付けた。
【0166】
1.11.膜の調製および滅菌
NF−ECM、コントロールフィルムおよびCCMを15×15mmのサンプルにカットして、CellCrown24(スキャフデックス社(Scaffdex)、フィンランド、ピルカンマー県(Pirkanama))の上に載置した後、24ウェルプレートに入れた。カバー
グラスコントロール(サーモフィッシャー社、オーストラリア、ヴィクトリア州)も24ウェルプレートに入れた。載置したサンプルおよびカバーグラスコントロールを、25kGyのガンマ線照射で滅菌した。
【0167】
簡単に述べると、NF−ECM、フィルム、カバーグラスおよびCCMを1mLのPBSですすいだ後、37℃で一晩αMEMに浸漬した。50μLの完全培地(αMEM、10%FCS、1%P/S、2.2g/l炭酸水素ナトリウム)中の合計で1×10個(3代継代)のHMSCを、それぞれの膜/NF−ECM、フィルム、カバーグラスまたはCCMの上にピペットで移した。細胞を30分間放置して接着させた後1mLの新しい完全培地を添加し、必要になるまでインキュベートした(加湿インキュベーター、5%CO、37℃)。
【0168】
1.12.膜の生体適合性(WST−1アッセイ)
NF−ECM、フィルム、カバーグラスおよびCCMに播種したHMSCの増殖を細胞生体適合性の基準として用い、WST−1試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnosis)、ドイツ、マンハイム)で評価した。WST−1とは、細胞増殖や細胞
生存率を評価するための定量測色技術である。生存細胞内にてミトコンドリアデヒドロゲナーゼによってテトラゾリウム塩が開裂するとホルマザンが産生するが、この吸光度が460nmで検出できる。
【0169】
各6回ずつ繰り返したNF−ECMを、播種後2日目、5日目および8日目に分析した。試験の日に、古い培地を10%WST−1を含有する1mlの新しいHMSC培地と取り換え、90分間インキュベートした。次いで100μlの培地を96ウェルプレートに移し、460nmの吸光度を分光光度計(ターナー・バイオシステムズ社(Turner Biosystem)、米国カリフォルニア州)で測定した。フィルムおよびカバーグラスをそれぞれコントロールとして用いたが、3Dマイクロファイバーの閉塞性な臨床的に承認されたコラーゲン膜Bio−Gide(登録商標)(CCM)は臨床医学に関するコントロールとして用いた。
【0170】
1.13.骨形成生体機能試験
マトリックスへの完全統合後にHMSCが分化できたかどうかを評価するために、骨形成生体機能分化試験を行った。HMSCを、NF−ECM、フィルム、カバーグラスコントロールまたはCCM上にて、2×10個の細胞で一晩培養した。これを6回繰り返した。細胞は、完全培地(コントロール)で14日間維持するか、または骨形成培地(β−グリセロホスフェート10mM、アスコルビン酸50mg/Lおよびデキサメタゾン100nM)を添加した。次いで細胞をアリザリンレッドまたはアルカリホスファターゼでで染色した。
【0171】
1.14.アリザリンレッドおよびアルカリホスファターゼ染色
サンプルをPBSで簡単にすすぎ、室温にて10分間3.7%パラホルムアルデヒドで固定した後、蒸留水で洗浄した。アリザリンレッド(シグマ社、米国ミズーリ州)を用いて20μg/mLの濃度で5分間染色することによりカルシウム石灰化を評価した。余分なアリザリンレッドを複数回洗浄して除去した。ALP活性を、SIGMA FAST BCIP/NBT錠剤(5−ブロモ−4−クロロ−4,3−インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム)(シグマ社、米国ミズーリ州)を用いて測定した。BCIP/NBT希釈標準溶液を、錠剤1個を10mLの蒸留水で希釈して調製した。1mLの希釈標準溶液を各ウェルに加え、暗所で染色させた。サンプルが紫/青色を呈した直後に染色を停止した。背景染色を評価するため、無細胞膜もまた、非骨形成および骨形成条件にてアリザリン/ALPで染色した。次いでサンプルを蒸留水ですすぎ、D5100デジタルカメラ(ニコン、タイ)で撮影した。ImageJ(米国国立精神保健研究所、米国メリーランド州ベセズダ)を用い、染色したウェルをウェルの最外径でカットし、図18で使用した共用ファイルに並べて置いた状態でロードした。
【0172】
1.15.SEM検査
生体適合性アッセイに従って細胞に播種した。播種後2日目および8日目に、NF−ECM、フィルム、カバーグラスおよびCCM上のHMSCをPBS中3%グルタルアルデヒド溶液で30分間固定し、続いてPBS中30、50、70、90および100%エタノールで10分間脱水し、次いでヘキサメチルジシラザンで2回すすぎ脱水を完了した。全サンプルをスパッタ金コーター(日本電子、東京、日本)でコーティングし、Neoscope走査型電子顕微鏡(日本電子、東京、日本)で検査した。
【0173】
1.16.共焦点顕微鏡検査
生体適合性アッセイに従って細胞を調製した。播種後2日目に、NF−ECM、フィル
ム、カバーグラスおよびCCMに播種したHMSCをPBS中3.7%パラホルムアルデヒド溶液で10分間固定した。サンプルを、PBS中0.1%Triton X−100(シグマ社、米国ミズーリ州)溶液で透過処理し、PBS中3%BSA溶液でブロックし、Hoechst33342(インビトロジェン社、米国ニューヨーク州)および1/400ローダミンファロイジン(インビトロジェン社、米国ニューヨーク州)とともに60分間インキュベートした。Nikon C1共焦点顕微鏡(ニコン、東京、日本)で画像を撮影した。
【0174】
1.17.統計
WST−1試験および機械的試験から収集したデータの有意差をスチューデントのt検定により評価し、LSD事後解析(SPSS統計ヴァージョン19、IBM)により確認した。統計的有意性は次のように表した。*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001。エラーバーは平均値の標準誤差を示す。
【0175】
2.結果
2.1.ナノファイバー膜の特徴付け
図14は、NF−ECM、フィルムおよびCCMのSEM顕微鏡写真を示している。Nanospider(登録商標)装置を用いた無針マルチジェットエレクトロスピニング法では、臨床グレードのGMPと同等の構成においてナノファイバー網状膜を製造することが可能であった。NF−ECMは全てメッシュ様の外観であり、ニッチ様空隙を豊富に有する開放構造で接近し易いナノウェブを形成しているランダムな3D構造の数層のナノファイバーを有していた。いくつかのNF−ECMでは、完全な細胞統合、すなわち「密閉」のための正確なサイズを有するニッチ様空隙が得られた(図19と20を比較されたい)。
【0176】
平均ファイバー径、ファイバー径の偏差および充填密度を、SEM像を用いて測定した(実施例10の表を参照のこと)。純粋NF−ECMの内、PLGAのNF−ECMのファイバーが最も厚く448±81nmであり、続いてコラーゲンが424±78nm、ゼラチンのNF−ECMが388±97、PCLのNF−ECMのファイバーは平均径が354±56nmと最も薄かった。コポリマーのNF−ECMは、特に傾向はなく種々の径を有していた。NF−ECMのファイバー径の偏差は、いずれの特定のNF−ECMに関してもファイバー径の偏差30%以下であった。純粋NF−ECMの内、PCLのNF−ECMの充填密度が最も高く(51.9±8.1%)、ゼラチンのNF−ECM(35.3±15.8%)、PLGAおよびコラーゲンのNF−ECM(それぞれ17.3±3.1%および14.0±10.6%)と続く。コポリマーのNF−ECMの充填密度は様々であった。
【0177】
フィルムでは、SEM上は非多孔性かつ無ファイバーに見える2D表面が得られ、NF−ECMに見られるようなニッチ様空隙とは異なった(図14)。CCMは、一様にナノスケールを超えた広範囲のファイバー径を有し、性質としてはマイクロファイバーのようであった。ファイバーは密着しており、より閉塞的なパターンを形成していた(図14)。
【0178】
PLGAのNF−ECMおよびPLGAのフィルムのAFM画像(図14)は、表面トポグラフィーの違いの例として示されている。PLGAのNF−ECMは深さ4μmの3D構造であり、一方でPLGAのフィルムは特定の表面トポグラフィーを示しておらず、深さは50nm未満である。
【0179】
図15aは、コラーゲン粉末およびNF−ECM中のゼラチンのFTIRスペクトルを示している。コラーゲンのNF−ECMは、主ピークが1715cm−1、1625cm
−1、1450cm−1、1240cm−1および1195cm−1と、純粋コラーゲン粉末と相似したFTIR指紋スペクトルを示した。架橋したコラーゲンのNF−ECMは、非架橋コラーゲンのNF−ECMやコラーゲン粉末に比べて1715cm−1のピークが有意に低かった。ゼラチンのNF−ECMおよびCCMは1715cm−1のピークが無かった。架橋したゼラチンのNF−ECM、非架橋のゼラチンのNF−ECMおよびゼラチン粉末は、互いに同一のスペクトルを有していた。純粋コラーゲン粉末およびコラーゲンのNF−ECMのFTIRスペクトルは1240cm−1のピークと1450cm−1のピークとの比が大きいが、これはゼラチンやCCM、さらに架橋コラーゲンのNF−ECMには見られなかった。この大きな比は、コラーゲン:PLGAおよびコラーゲン:PCLコポリマーのNF−ECMにも見られた。
【0180】
SDS−PAGE分析から得られた結果を図15bに示す。コラーゲン粉末、HFIPに溶解させたコラーゲン粉末、コラーゲンのNF−ECMおよび0.5M酢酸に溶解させた架橋したコラーゲンのNF−ECMは、全てγ(I)−、β(I)−、α1(I)−およびα2(I)−バンドを示した。ペプシン消化の後、α1(I)−およびα2(I)−バンドは、架橋および非架橋のコラーゲンのNF−ECMにおいて完全に消化した。これらのバンドはHFIP溶解コラーゲンでかすかに見ることができた。ゼラチンは、0.5M酢酸溶液中のγ(I)−およびβ(I)−バンドは全く示さず、またα1(I)−およびα2(I)−バンドはペプシンを加えると完全に消化した。
【0181】
ヤング率および最大引張応力は、フィルムの方がNF−ECMよりも高かった(p<0.001)(図16)。ゼラチンのフィルムの引張応力およびヤング率が最も高く、それぞれ50.1±4.1MPaおよび2213±143MPaであった(図16(a)および(b))。ゼラチンおよびPLGAのNF−ECMの引張応力(それぞれ6.37±0.46および4.79±0.28MPa)はCCM(5.40±0.16MPa)と同等であったが、コラーゲンおよびPCLのNF−ECMの引張応力は、それぞれ10.89±0.91MPaおよび9.40±0.27MPaと有意に高かった(p<0.01)。対照的に、エレクトロスピニングしたゼラチンのヤング率(2212±143MPa)はCCM(34.8±2.3MPa)のほぼ50倍以上(p<0.001)であり、一方でコラーゲンのNF−ECMのヤング率はわずかに高かった(217.92±15.30MPa)。PLGAおよびPCLのNF−ECMのヤング率(51.4±1.80および38.5±3.30MPa)はCCMと同等であった。最大引張ひずみは、PLGAのフィルム(3.65±0.43%)に比べるとPLGAのNF−ECM(58.3±1.60%)の方が有意に大きかったが、PCLとゼラチンに関しては同じ傾向は見られなかった(p<0.001)。PLGA、PCLおよびコラーゲンのNF−ECMの引張ひずみ(58.3±1.60%、51.7±2.70%および70.05±4.64%)はCCM(41.8±3.58%)よりもわずかに大きかった。それぞれ、p<0.001、p<0.05およびp<0.001。しかしながらゼラチンの引張ひずみ(7.83±1.01%)はCCMに比べると有意に小さかった(p<0.001)。
【0182】
NF−ECMの接触角はフィルムよりも有意に小さかった(疎水性が弱かった)(p<0.001、図16(d))。PLGAのNF−ECMの接触角(121°)が最も大きく、PCLのNF−ECM(92°)が続いている。PLGA、PCLおよびゼラチンのフィルムの水接触角がそれぞれ100°、85°および60°であるフィルムについても、同様の傾向が見られた。CCM、ゼラチンのNF−ECMおよびコラーゲンのNF−ECMについては接触角の測定は達成できなかった。これらのサンプルは極度に親水性であり、測定する前に水が瞬間的に中に分散した。
【0183】
2.2.HMSCの特徴付け
HMSCを播種前に特徴付けたところ、CD105、CD73、CD29およびCD9
0に対しては陽性であり、CD45、CD34、CD14、CD19、HLA−DRおよび7−AADに対しては陰性であった。
【0184】
2.3.生体適合性アッセイ
全てのNF−ECMは8日間にわたってHMSCの増殖を支援した(図17)。PLGAおよびコラーゲンのNF−ECM、PLGAとコラーゲンの全コポリマー(コラーゲン:PLGA、3:1、1:1および1:3)および1:3のコラーゲン:PCLは、460nmの吸光度で測定した通り(それぞれ0.84±0.02、0.84±0.08、0.79±0.10、0.79±0.03、0.79±0.07および0.87±0.70Au)、全てCCM(0.58±0.08Au)よりも高い増殖速度を支援した(p<0.01)。対照的に、ゼラチンのフィルム(0.62±0.2Au)、ゼラチンのNF−ECM(0.67±0.4Au)、PCLのNF−ECM(0.53±0.08Au)および全てのゼラチン:PCLコポリマーのNF−ECMは、CCMと同程度の増殖を示し(p>0.05)、一方PCLのフィルム(0.44±0.10Au)およびカバーグラス(0.45±0.4Au)はCCMに比べると成績は劣っていた(p<0.05)。純粋ポリマーの内、コラーゲンとPLGAの増殖速度が最も速く、ゼラチンとPCLがそれぞれ続いた。コラーゲンまたはゼラチンのいずれかと共エレクトロスピニングしたPLGAは、純粋PLGAのNF−ECMと同等の増殖を示した。対照的に、コラーゲンおよびゼラチンのNF−ECMはPCLと混合すると増殖速度が大きく上昇した。フィルムは、同じポリマーのNF−ECMに比べると増殖は有意に劣っていた(図17)。
【0185】
2.4.カルシウム石灰化およびALP活性
図18は、HMSCによって誘導された石灰化の程度を示す。骨形成培地で培養したNF−ECM、フィルム、カバーグラスおよびCCMは、カルシウム沈着(赤染色)およびALP活性(紫/青染色)について陽性に染色された。骨形成培地では全てのサンプルがアリザリンレッドおよびALPに対して陽性であった。アリザリンレッドに対して陽性(一方ALPに対しては陰性)に自動染色されたコラーゲンのNF−ECMおよびCCMを除き、コントロール培地では全てのサンプルがアリザリンレッドおよびALPに対して陰性であった。
【0186】
2.5.細胞の接着、形態および統合への膜の影響
図19、20および21は、NF−ECM、フィルム、カバーグラスおよびCCM上におけるHMSCの形態を示す。図19に具体的に見られるように、カバーグラスコントロール上のHMSCには3Dの深さがなく(非常に平坦)、細胞質は大きく、かつ広範に延長していた(非常によく広がっていた)。画像では見ることができないが、カバーグラス上のこれらの平坦なHMSCは、NF−ECMで培養したHMSCがほとんど移動させることが不可能であるのとは対照的に、RNA/タンパク質アッセイには必要なことではあるが、細胞培養培地をピペットで移すことによって機械的に攻撃を受けると接着が簡単に壊れてしまう。フィルムコントロールは、カバーグラスに蒔いたHMSCとほとんど同じ傾向をたどった(図20)。対照的にNF−ECM上のHMSCは、明らかに見てとれるが、3D空隙を占有し、NF−ECMナノファイバーメッシュ内で堅固に接着して十分に統合されており、またそうすることにより広範囲に広がった細胞質を失くしていた。PCLのNF−ECMに見られる高充填密度では細胞統合は最小限であるが、ナノファイバー充填密度が低めのNF−ECM(PLGA等)に関しては、HMSCはNF−ECMの3D閉じ込め内で十分に統合されており、ナノファイバーと細胞糸状仮足の伸長体とが一緒になって一つのものに変形、すなわち、ナノファイバーと細胞の接合部が識別不能になっていた(図19、中央パネル)。このように細胞とPLGAのNF−ECMとの間に不一致がないことから、NF−ECMはHMSCにとっての「内部細胞骨格」であると思われた。
【0187】
CCMで培養したHMSCも統合を示したが、マトリックスファイバーはナノファイバーNF−ECMよりも明らかにはるかに大きかった。HMSC細胞骨格の3D共焦点顕微鏡検査は上記の結果と一致した(図21)。
【0188】
3.結論
合成もしくは天然起源またはそれらの組合せの起源の3DNF−ECMを、GMP遵守環境のクリーンルーム内にて新規な無針マルチジェットナノファイバーエレクトロスピニングプロセスにより作製した。この技術により作製した3DNF−ECMは、均一なファイバー径および天然ECMと同様の充填密度を示し、2Dフィルム、カバーグラスおよび臨床的に承認されたベンチマークECMの足場よりも優れた顕著な生体適合性を有していた。全体的に見て、このような増殖ポテンシャル、細胞密閉様統合特性、幹細胞送達ビヒクルとなる潜在能力および必要に応じて幹細胞の特殊分化を誘導する能力があることから、このような環境で無針エレクトロスピニングにより作製したNF−ECMは再生医療において有用となり得ると思われる。
【0189】
実施例9:三次元ナノファイバー膜の形態である本発明の組成物と二次元フィルムとを比較した薬の放出の研究
この研究では、二次元フィルムに比べると、三次元ナノファイバー膜の形態の組成物による抗VEGFの放出はより安定でより遅いことが示されている。抗VEGFは黄斑変性治療に一般的に使用されており、一般に好まれている投与経路は注射である。
抗VEGF、すなわち血管新生抑制剤であるベバシズマブ(アバスチン(商標))を、直接分散によってPLGAのフィルムおよびPLGAのナノファイバー内に組み込んだ。最終濃度25mg/mlのベバシズマブの水溶液を、ジクロロメタン中6%wt/vPLGA溶液に添加した。得られた溶液を混合した後、ポリマー溶液中で薬が確実に均一に分散するように30秒間超音波処理した。次いで溶液の半分をフィルムの中に流延し、もう一方の半分を無針エレクトロスピニングでエレクトロスピニングした。
【0190】
ベバシズマブの放出の動態を調べるため、ベバシズマブを含有するPLGAのフィルム組成物およびPLGAのナノファイバー組成物をリン酸緩衝生理食塩水に浸漬し、37℃の5%CO中でインキュベートした。ベバシズマブの放出をUV分光法により波長285nmで測定した。
図12に示す結果は、79日間(1896時間)にわたるベバシズマブの累積放出を示している。フィルムでは薬が初期バーストする結果となり、一方ナノファイバーでは79日間にわたって直線的な制御された薬の持続放出が可能であった。
【0191】
実施例10:ナノファイバーの径および充填密度
各NF−ECMのナノファイバーの平均径を、標準偏差も含めて測定した。ナノファイバーの均一性は、ファイバー径のパーセント偏差として以下の表に表した。充填密度は、個々のNF−ECMのSEM像全体におけるファイバーのパーセント濃度を示している。
【0192】
【表1】

【0193】
実施例11:ナノファイバーマトリックス内に定着した幹細胞の影響
この研究では、細胞刺激因子および分化因子がナノファイバーから放出されることができて放出後の幹細胞に活発に影響することが示されている。これは、ファイバー内ではなく培地内に分化因子を有することによって試験される。
小分子であるプルモルファミンをポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)溶液に直接組み込んだ後、溶液をファイバー状にエレクトロスピニングした。プルモルファミンは2,6,9−三置換プリンであるが、骨形成分化を促進することがわかっている。分子的研究から、プルモルファミンは7回膜貫通型スムーズンド受容体に結合することによってヘッジホッグシグナル経路を活性化するが、このことが骨ならびに他の組織および器官の発育の際に重要な役割を果たしているということがわかっている。
【0194】
プルモルファミン粉末をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させることにより10mMのプルモルファミン原液を調製した。PLGAを、70%クロロホルム:30%ジメチルフルロミドの溶媒混合液中でゆっくり攪拌することによって溶解させて、10%wt/v溶液を得た。適当なプルモルファミン原液と10%wt/vのPLGAとを混合することによって様々な濃度で作成したプルモルファミン希釈標準溶液を用いて、ナノファイバー膜をエレクトロスピニングした。プレーンな10%wt/vのPLGAと同量のDMSOとが入った希釈標準溶液中をコントロールとした。エレクトロスピニング手順を27〜35kVの下で実施した。電極間距離は21cmとした。
【0195】
骨形成分化のために、膜の細胞を骨形成分化培地で3週間培養した。骨形成培地は、デキサメタゾン100nM、β−グリセロホスフェート10mMおよびアスコルビン酸52mg/Lを含有する補足α−MEMからなっていた。hMSC播種手順は増殖アッセイと同じであった。細胞接着させるための24時間のインキュベーションの後に、増殖培地を完全に骨形成培地と入れ換え、その後は週に2回30%の培地変更を行った。2週間後、マトリックス内に生じたカルシウム沈着を定量化した。
【0196】
石灰化は、骨形成の特異的マーカーの1つである。マトリックス内でのカルシウム沈着を測定してhMSCの骨形成分化を定量した。以下のグラフでは、2μMのプルモルファミンをポリスチレン培養プレート(PS)上の分化培地に直接添加した際のカルシウム沈着の有意な増加を示した。同様の増加が純粋PLGA膜上でも見られた。PLGA80とPLGA160(80μMおよび160μMのプルモルファミンが組み込まれたPLGA膜)の複合体も、純粋PLGAと比較してカルシウム沈着が改善を示した。これらの結果から、プルモルファミンは骨形成分化を増進することができ、またプルモルファミンをPLGA膜と統合するとこの薬の放出がうまくいき、その結果骨形成分化が改善するということがわかった。
【0197】
加えて、図31のグラフは、PSに比べてナノファイバーへのカルシウム沈着が有意に増加していることを示しており、ナノファイバー単独でhMSCの細胞分化を増進することができることを示している。さらに、骨形成培地に添加されることなくPLGAのナノファイバーで培養したhMSCもマトリックス内でのカルシウム沈着の兆候を示しているが、このことはナノファイバーの表面トポグラフィーもまた骨形成分化を誘導し得るということを示すものであると言える。
【0198】
実施例12:新規なナノテクノロジープロセスによる、ヒトブルッフ膜(BM)の天然三次元構造を模倣する超薄ナノファイバー膜の製造に関する研究
加齢黄斑変性(AMD)は、西欧諸国の50歳以上の人間の失明の主な原因である[1、2]。ブルッフ膜(BM)の加齢変化の蓄積および網膜色素上皮(RPE)細胞の死滅がAMDの主な特徴である。天然のヒトBMは、RPEと脈絡毛細管板とをつなぎ、内側から外側に向かってRPEの基底膜層、内コラーゲン層、エラスチン層、外コラーゲン層および脈絡毛細管板の基底膜の5つの解剖学的な層からなる、2〜4μm厚の細胞外マトリックス(ECM)区画である[参考文献3、4参照]。BMはRPE細胞の接着、移動および分化を物理的に支援している。RPEは六角形の細胞の単層であり、視覚機能において以下のような複数の役割を果たしている:迷光の吸収、視サイクルにおけるレチノールの異性化、光のダメージを受けた光受容器の外節の食作用、増殖因子の分泌、ならびにBMとともに血液網膜関門を形成して網膜と脈絡膜間における生体分子、栄養素、酸素および代謝老廃物の相互交換を調節すること[参考文献5参照]。したがって、RPEの喪失またはRPEへのダメージは、光受容器の機能障害および不可逆的失明を引き起こす。
【0199】
現在、委縮性AMDの視力回復のための治療法は非常に限られている[参考文献6参照]。ダメージを受けたRPEを取り替えればおそらく網膜機能を回復できるので、細胞療
法での回復は期待できる。動物モデルにおいて、RPE交換によるAMDの治癒可能性が実証されている[参考文献7〜12参照]。さらに、網膜中央帯から採取した自己RPEおよび胎児シート移植は、AMD患者において部分的な視力改善を示している[参考文献13〜18参照]。しかしながら自己移植はAMDにかかりやすい遺伝的素因によって制限され、網膜の症状が繰り返し発現することになり得る。ヒト胚性幹細胞(hESC)および人工多能性幹細胞はインビトロでRPE細胞に分化しており、したがって、広がる未来に向けてAMD治療用の細胞源の代わりとなる可能性を提示している[19〜24]。解離hESC由来RPE細胞を移植する第I相臨床試験は最近食品医薬品局(FDA)によって認可されている[25、26]。しかしながら、胎児提供者の組織は通常供給源が限られており、またそれを使用することによって倫理上の問題が起きる場合がある。
【0200】
RPE移植は光受容器の機能障害を遅らせることが可能であるが、加齢によってダメージを受けているBMでは移植片接着や移植片生存を支援するのに適当な微環境を形成せず、さらにはRPE機能を阻害することもある。移植片の生存が限られていること、および網膜や眼の後壁の他の部位で異常構造が形成されることは、AMDの細胞療法における大きな課題である[27]。したがって多くの研究所が、長期間にわたって機能的に無傷であり同時に老化したBMの影響を受けないRPEパッチの送達を可能にする人工BMの研究に取り組んでいる[13]。
【0201】
理想的には代用BMは、RPEの表現型の維持を支援し、正常な網膜構造を回復させ、宿主免疫系および視覚系に耐容性であり、網膜下腔にとって適切な厚さを有し、外科的な操作が簡単であり、かつ時間が経過しても生分解性であるべきである[13、28]。現状では、適切かつ十分に機能的なRPEの単層の増殖を可能にし、それによって後に行う植え込みをさらに可能にする、天然のBMを模倣するための理想的な人口足場はまだ見つかっていない。ほとんどの研究では、フィルム等の滑らかな表面が代用BMの可能性を持つものとして調査されている[27]。最近では、絹の膜がRPE送達膜として注目されている[38]。しかしながら、多くのそのような材料の分解プロセスが、望ましくない網膜下血管新生、BMの瘢痕、免疫拒絶反応、または移植組織の生体機能性および寿命の低下を増やし得る宿主の有害な免疫応答を後で誘発する可能性があるかどうかは、まだ十分明らかになっていない。
【0202】
対照的に自然のBMは、滑らかな絹のようなフィルムであるのではなく、ナノファイバー状トポグラフィーを有する天然タンパク質の微細な網目構造を含有している。したがって、本明細書に記載のナノファイバー状メッシュを製造する新規なナノテクノロジー法は、自然のヒトBMの正確な形態的擬態の製造を可能にすることにおいて顕著な進歩を示している。可能な限り正確に天然の構造を模倣する人工の膜であれば、適切なRPEの単層を工学的に作り出してその後網膜下腔に送達することが容易になる。
【0203】
本研究において、本発明者は、新規なエレクトロスピニングプロセスを用いて、天然のBMに近い擬態の設計を可能にし得るナノファイバーで超薄ナノファイバー膜を作製することを目的とした。一般的に使用されている安全なバイオポリマーであるI型コラーゲンおよびPLGAをエレクトロスピニングして膜にした。一次RPE細胞を培養するための代用BMとしてかかるナノ膜を使用することの可能性を、AMDの新規な治療戦略のために天然のような人工BM基質を製造するという目的のために調査した。
【0204】
1.材料および方法
1.1.ナノファイバー膜の調製
L−ラクチド:グリコリドのモル比が85:15のPLGA(ピューラック・バイオケム社、オランダ)および天然バイオポリマーウシI型コラーゲン(カタログ番号C3511、シグマ社、米国)を、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール
(HFIP)(サーモフィッシャー社、オーストラリア)に10%wt/vの濃度で溶解させた。超音波処理を30分間行ってコラーゲンの解離を推進した。織物エレクトロスピニング用の産業用装置であるNanoSpider NS200(エルマルコ社、チェコ共和国)を用いて、実施例8に記載のように臨床グレードのクリーンルーム構成でPLGAおよびコラーゲンのナノファイバー膜を作製した。まず初めに、パイクスピン電極を用いてポリマー溶液をエレクトロスピニングしてランダムな三次元構造を生成させた。パイク電極と集電極との距離は210mmとした。印加電圧は、PLGAおよびコラーゲンについてそれぞれ32kVおよび35kVに設定し、作製した膜全てにおいて同径のナノファイバーを得た。
【0205】
純粋コラーゲンのナノファイバーを、Kuijpersらに従って作製した直後に化学的に架橋した[46]。簡単に述べると、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)(サーモフィッシャー社、オーストラリア)および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)(サーモフィッシャー社、オーストラリア)をモル比1:5で95%エタノールに溶解させ、作製したコラーゲン膜に添加した。架橋の手順を、24時間振盪させながら室温で実施した。実験に関しては、作製した膜を全て小片にカットし、CellCrown24(スキャフデックス社、フィンランド)に添付し、その後25kGのガンマ線照射で滅菌した。
【0206】
1.2.エレクトロスピニングした膜の特徴付け
膜を構成しているナノファイバーを金スパッタした後、Neoscope JCM−5000日本電子走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子、日本)を用いて特徴付けた。Marco Zarbinのグループ[47]は、天然のコントロールである自然のヒトBMの内コラーゲン層のSEM像を親切にも提供した(図25D)。ImageJソフトウェア(国立精神保健研究所、米国)でSEM像を解析してナノファイバーの形態、径および充填密度を求めた。少なくとも50本のファイバーを測定してそれぞれの膜のファイバー径の平均を算出した。充填密度は百分率で表すが、各画像の端から端までのファイバーの数をカウントし、ファイバー径の平均を掛けて、次いで画像の幅で割ることにより算出した(×1000倍で117μm)。
【0207】
機械的試験を行って、作製した膜の生物物理学的特性を評価した。50Nの充填細胞を備えたシングルカラム卓上汎用試験システム(インストロン社、オーストラリア)を用いて試料のヤング率、最大引張応力およびひずみを測定した。エレクトロスピニングした膜を10×40mmのサンプルにカットした。ゲージ開口部は20mmに設定した。両測定スピードは2mm/分に設定した。サンプルの厚さをマイクロメータ(株式会社ミツトヨ、日本)で測定した。測定を5回繰り返し、Bluehill(登録商標)ソフトウェア(インストロン社、オーストラリア)で解析した。
【0208】
1.3.増殖アッセイ
ヒト一次RPE細胞はロンザ社(Lonza)より購入した(カタログ番号0019498
7)。細胞培養基本培地および全ての添加物はロンザ社より購入(カタログ番号00195409)。細胞を3代継代の膜に播種した。簡単に述べると、CellCrown24に添付した滅菌膜をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2時間洗浄した後、2%ウシ胎児血清(FBS)、0.5%線維芽細胞増殖因子(塩基性)(FGF−B)、2%L−グルタミンおよび0.25%GA−100が添加された網膜色素上皮基本培地からなる平板培地中の各試料に10,000個の細胞を加えた。カバーグラスの細胞を滑らかな表面のコントロールとした。翌日、FBSを除く全ての添加物を含有する増殖培地に培地を変えた。その後は1日おきに培地を変えた。
【0209】
増殖アッセイの標準プロトコルに従い、WST−1試薬(水溶性テトラゾリウム(4−
[3−(4−ヨードフェニル)−2−(4−ニトロフェニル)−2H−5−テトラゾリオ]−1,3−ベンゼンジスルホン酸)(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、ドイツ)を用いた。テトラゾリウム塩のWST−1を、生存細胞内のミトコンドリアデヒドロゲナーゼでホルマザンに変換する。続いてホルマザンは分光測定で定量化することができる。1日目、3日目および5日目にWST試験を実施した。試験の日には、古い培地を900μLの新しい増殖培地に取り替えた。次いで100μLのWST−1試薬を各サンプルに加え、37℃、5%COでインキュベートした。4時間後、各サンプルから培地100μLを96ウェルプレートに移し、分光光度計(プロメガ社(Promega)、米国)で
吸光度を450nmで測定した。各試料につき6回繰り返して分析した。
【0210】
1.4.走査型電子顕微鏡(SEM)検査
SEM検査を用いて膜における細胞形態を調査した。播種プロセスおよび培地の交換は上記の通りである。SEMのサンプルは、検査用に3日目および11日目に調製した。SEM検査の日には、ヒトRPE細胞を有する膜をPBS中3%グルタルアルデヒド溶液で24時間固定した。次いで、PBS中30、50、70、90および100%エタノールで濃度を上げていきながら各10分間ずつ脱水した後、ヘキサメチルジシラザンで2回すすいだ。全試料を金コータースパッタ(日本電子、日本)で金コーティングし、Neoscope JCM−5000日本電子卓上型SEM(日本電子、日本)で画像を撮影した。
【0211】
1.5.免疫細胞化学
CellCrown24に添付したコラーゲンおよびPLGAの膜ならびに24ウェルプレート内のカバーグラスに、10,000細胞/cmの密度で細胞を播種した。11日間の培養の後、サンプルを室温にて10分間4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBS中0.1%トリトンX−100で5分間透過処理し、PBSで洗浄した。次いでサンプルを、マウス抗RPE65抗体(カタログ番号ab13826、アブカム社(Abcam)、
米国)の1:1000希釈物、またはブロッキング緩衝液(PBS中3%ウシ血清アルブミン(シグマ社))中のマウスAlexa Fluor488−接合−抗ZO−1抗体(カタログ番号339188、インビトロジェン社、オーストラリア)の1:100希釈物とともに、室温にて90分間暗所でインキュベートした。核を標識するために、ブロッキング緩衝液中のヘキスト33342(インビトロジェン社、オーストラリア)の1:1000希釈物とともに細胞を共染色した。RPE65抗体で染色したサンプルを洗浄し、Alexa Fluor488−接合ヤギ抗マウス抗体(カタログ番号A11001、インビトロジェン社、オーストラリア)とともに室温にて30分間暗所でインキュベートした。Nikon C1共焦点顕微鏡(ニコン、日本)で画像処理を行った。
【0212】
1.6.統計解析
増殖のデータの統計的有意性をスチューデントのt検定で解析し、エレクトロスピニングした膜とカバーグラスとを各時点において比較するためにp<0.05に設定した。
【0213】
2.結果
2.1.膜の特徴付け
本発明者は、本発明者らのNANOSPIDER(登録商標)装置により、PLGAおよびコラーゲンバイオポリマーのナノファイバーをエレクトロスピニングすることができた。得られた超薄膜は、本物の天然のBMに類似している3D構造および3D形態内に定着したナノファイバーからなっていた。
【0214】
図25のSEM像は、作製した膜、カバーグラス、および自然のヒトBMの内コラーゲン層のトポグラフィーを示しており、実施例10の表は、ナノファイバー膜の物理的特徴のデータを表している。エレクトロスピニングした膜は、ランダムに構築されたファイバ
ーの網状組織からなっていた。平均ファイバー径はそれぞれ、PLGA膜が331±78nm、コラーゲン膜が299±185nmであった。PLGA膜のファイバー充填密度は37.1±1.1%であったが、コラーゲン膜は30.3±1.4%であった。SEM像解析から、自然のヒトBMの内コラーゲン層のファイバー径が366±98.8nmであり、充填密度が30.2±8.2%であることがわかった。作製した膜のファイバーの構造はヒトBMの内コラーゲン層と類似していた。それに比べて、カバーグラスの表面は比較的滑らかかつ均質であった。作製したコラーゲンおよびPLGAの膜は、ともに厚さ14μmであった。PLGAのナノファイバー膜の最大引張強度は1.5±0.4MPa、極限ひずみは28.8±4.9%、ヤング率は131.9±13.3MPaであった。コラーゲンのナノファイバー膜の引張強度、引張ひずみおよびヤング率の値は、それぞれ10.8±0.7MPa、70.0±4.6%および217.9±15.3MPaとより高かった。要約すると、PLGA膜はコラーゲン膜よりも強度は低いが弾性は高かった。
【0215】
2.2.増殖アッセイ
図26に増殖アッセイの結果を示しているが、PLGA膜およびコラーゲン膜ともに播種後1日目の細胞の接着がカバーグラスよりも多いことがわかった(p<0.01)。3日目では、PLGA膜およびカバーグラスと比べるとコラーゲン膜により多くの生存細胞が測定されたが、5日目にはPLGA膜が最良のRPE細胞増殖支持を示した。全体的には、5日間の培養後、滑らかなカバーグラス表面に比べるとナノファイバー膜の方がRPE細胞の増殖を有意に大きく促進したことが増殖アッセイによって実証された。
【0216】
2.3.細胞形態のSEM
図27および28においては、代表的なSEM像にてコラーゲン膜およびPLGA膜ならびにカバーグラス上のヒトRPE細胞を示している。3日後、培養した細胞は全ての基質において多角形を呈し、よく広がった形態を示した(図27)。11日後、広範囲に局所コンフルエンスが見られ、細胞が密に詰まっていた。より高い倍率においては(図28)、全体的にカバーグラスよりもPLGAおよびコラーゲンの膜において、細胞はより自然な三次元単層を形成した。カバーグラスの細胞のいくつかは互いに重なっているように見えた。形が良く、長く、大量の、シート状の微絨毛を確認することができ、ナノファイバー膜で培養した細胞の表面を覆っていたが、カバーグラスで培養した細胞の表面では微絨毛の数はより少なく、かつそれほど形は良くなかった。細胞の径の大きさは、試験した全ての基質において10〜14μmの範囲であった。
【0217】
2.4.免疫化学
図29は、密着結合の特異的マーカーの1つであるZO−1で染色した細胞の共焦点顕微鏡画像を示している。どの基質で培養した細胞も、密着結合の形成および六角形を示した。抗RPE65による免疫蛍光染色によって、ナノファイバー膜およびカバーグラスのどちらで増殖している細胞も、主要な機能性タンパク質であるRPE65を維持していることがわかった(図30)。
【0218】
3.考察
RPEの単層やBMへのダメージは、AMDの主な病理学的な特徴である[48]。AMDは、生活要因および遺伝的素因がリスクの一因となっている複合疾患である。この疾患は、黄斑がダメージを受けることによって中心視が冒され、そのため良好な視力が冒され、最終的には不可逆的失明につながる。研究所および可能性のある治療法を探すために行われている臨床研究の数が多いにもかかわらず、委縮性AMDの治療法は現在非常に限られている[6]。細胞移植は動物モデルやAMD患者の視覚機能を部分的に改善しており、いくらか期待が持てる[7、10〜18、49]。しかしながらこのタイプの細胞療法は、短い生存期間およびインビボにおける移植片の異常な細胞構造のため限界がある[27、49]。これまでの研究から、AMD患者におけるヒトBMの解剖学的な層は無傷
ではなく、このことがRPE細胞の接着、生存および形態を変化させ、RPEの増殖および成熟を阻害し得ることがわかっている[50〜53]。加齢によるBMの変化としては、肥大、脂質の蓄積、コラーゲン架橋およびエラスチン層の石灰化が挙げられる。これらの変化による有害作用は累積性であり、かつ進行性である傾向にある[54〜56]。老化したBMのこのような欠点を克服するためには、人工膜上の細胞を送達することが、AMD患者への植え込みを成功させるために必要になると考えられる。
【0219】
治療用の膜として可能性のあるものは、網膜下腔と適合性があり、かつRPE細胞の接着、増殖および成熟を支援したり、また網膜との栄養・老廃物交換を調節したりといったBMの特徴を再現するべきである[13、28]。ほとんどの研究において、二次元の膜である薄いフィルムは天然由来および合成ポリマーから作製されており、またインビトロおよびインビボの両方においてRPE細胞に対して生体適合性であることがわかっている[27、30、33]。しかしながら天然のBMは、相互に連結したナノスケールのタンパク繊維の複雑な三次元のECMであり、また他の細胞型の挙動へのトポロジーの影響がこれまでに報告されている[39〜41、59]。したがって二次元の細胞培養環境は、ECMのより複雑な三次元構造とのトポロジー的な近似が乏しく、強制的に細胞に不自然な特徴を呈示させることがある。
【0220】
ナノスケールのファイバーを含有する三次元細胞培養膜を工学的に作り出せば、RPE細胞の増殖およびよりインビボ様の条件下での分化が可能になる。エレクトロスピニングしたナノファイバー膜は、自然のECMのナノトポグラフィーを正確に表す高い空孔率および表面積−体積比を有し、そのために細胞の接着、増殖および組織化を助長し得る、有力な候補である。この研究において、本発明者は、I型コラーゲンおよびPLGAからなる2種類のエレクトロスピニングした膜を作製した。SEMによって、ファイバー径が200〜500nmの範囲でありファイバー充填密度がそれぞれ30.3±1.4%および37.1±1.1%であるランダムなファイバー状網状組織が明らかになった(図25および実施例10の表)。自然のヒトBMの内コラーゲン層のSEMによって、ファイバー径が366±98.8nmであり充填密度が30.2±8.2%のファイバー状網状組織が示された。要約すると、本発明のエレクトロスピニングした膜によって、自然のヒトBMの内コラーゲン層と同様のナノファイバー状構造が実証された。さらに、工学的に作り出された膜は移植に適当な厚さを有するべきである。エレクトロスピニングした膜は両方とも、網膜下腔に適合するのに十分な薄さであった(14μm)。
【0221】
機械的試験では、試料の強度および剛性が、それぞれ最大引張応力およびヤング率を測定することにより示された。最大引張強度とは、サンプルが破損するまでに耐え得る負荷の量を示すものである。手術中の操作に耐えなければならず、また取り扱いが容易になるような物理的性質を有しなければならないため、ビヒクルの送達には十分な引張強度が必要とされる。ヤング率は試料の剛性を示す。PLGA膜は総じてコラーゲン膜よりも強度は低かったが弾性は高かった。
【0222】
RPE細胞がナノファイバー膜に関連して調査されたことはめったになかった。本研究において本発明者は、RPE細胞が総じて平面状のカバーグラスよりもナノファイバー膜上で増殖が多かったことを実証した(図26)。播種後1日目のRPE細胞の接着は、カバーグラスよりも本発明のナノファイバー膜で有意に改善した(p<0.01)。5日間の培養期間中、細胞は総じてカバーグラスよりもナノファイバー膜で高い増殖を示した。
【0223】
移植したRPEナノファイバー膜がAMDの治療において有効であるためには、RPEの成熟および生体機能を可能にしたり促進したりすることも必須である。局所コンフルエンスに達した後、RPE細胞は成熟を開始し、緊密に集まって多角形細胞の特徴的な単層を形成する。3日間の培養後、細胞は各基質において自然な多角形を呈した(図27)。
11日間の培養後、RPE細胞は全表面において局所コンフルエンスに達したが、カバーグラスよりもナノファイバー膜でより良好な細胞の組織化が確認された(図27および28)。重大な観察となるかもしれないが、形が良く、長く、シート状の微絨毛は、ナノファイバー膜で培養した細胞の表面でのみはっきりと見ることができた。インビボのRPE細胞は、頂端面が網膜下腔に隣接し側底面がBMに面している同じような分極構造を有している。網膜が成熟すると、非常に長いシート状の微絨毛が頂端面で成長して光受容器の外節の先端を包む。したがって、RPEの頂端の微絨毛は網膜接着および光受容器の興奮性の維持において極めて重要な役割を果たしている[69、70]。本発明者は、同じ天然のような配向で、微絨毛の発現が本発明のナノ膜では広範囲であるが平坦なカバーグラスでは同程度ではないRPEの単層を工学的に作り出すことに成功したため、本発明のナノファイバー基質/ウェビングが、RPEの単層を工学的に作り出すことに関して非ナノファイバーの平坦な材料よりも優れているのは当然のことである。さらに、ナノファイバー膜のRPE細胞は、黄斑内の自然のRPE細胞と同じ正常な大きさ(10〜14μm)を示した[13、71、72]。まとめると、本発明者は、ナノファイバー膜はRPEの組織化を改善するため、平面状の基質よりも光受容細胞をよく維持することになり未来のAMD治療法となり得ると考える。
【0224】
成熟したRPEの単層のその他の重要な生物学的特徴は、密着結合形成およびRPE65タンパク質の発現である。細胞間の密着結合によって、単層が、BMと一緒になって、水やイオンが自由に通過するのを阻止する血液網膜関門となることができる[13、73]。RPE65は視サイクルに関与しており、突然変異すると重篤な早発性の失明につながる[50、74、75]。密着結合の形成は、密着結合の特異的マーカーであるZO−1に対する蛍光免疫染色によって、11日間の培養後の全ての基質で実証された(図29)。同様に、全ての基質のRPE細胞が、主要な機能性タンパク質であるRPE65の発現量を維持した(図30)。
【0225】
まとめると、本発明者は、作製したナノファイバー膜が、RPEの増殖および成熟ならびに生体機能的特徴の発現を支援することに関して平面状のカバーグラスよりもよい働きをしたので、エレクトロスピニングした膜を黄斑再生用に用いることの有益な証拠となる、とういことを示した。ナノファイバー三次元マトリックスは、自然のECMのナノ地形構造を模倣することにより、平面状の表面のコントロールよりもインビボ様の組織化および形態を多く誘導する。
【0226】
本研究において、本発明者は、ナノファイバー膜を作製するための生体材料としてI型コラーゲンおよびPLGAのポリマーを選んだ。これらのポリマーを選択したのは、十分に研究されており、またその生体適合性が例えば黄斑変性に関して確認されているからである。PLGAは、FDAに認可された医療用インプラント用の合成ポリマーであり、体内で分解して無毒性の分解生成物となる。I型コラーゲンはBMの主成分であり、細胞接着を強めることができる天然の接着シグナルを有する。増殖アッセイによって、I型コラーゲン膜では、カバーグラスと対照的にRPE細胞の接着がよりよいことが実証された(播種後1日目)(図26)。しかしながら、1日目の接触に関してはPLGA膜とコラーゲン膜との間に有意差は現れなかった。このケースでは、ナノファイバー状トポグラフィーが優勢な役割を果たしているのではないかと考えられる。2つの膜の細胞間の増殖量の差は3日目および5日目ではわずかであった。細胞の大きさ、組織化、密着結合の形成およびRPE65の発現に関しては、細胞挙動はどちらのナノファイバー膜も同じであり、RPE細胞の機能および成熟が両基質上で同程度であったことを示唆している。しかしながら非ヒト起源のポリマーI型コラーゲンでは、疾患の伝染およびいくつかの関連成分への患者のアレルギー等の懸念が起こり得る。比較してみると、化学合成ポリマーであるPLGAははるかに安価であり、調製や保存の際により安定している。インビトロにおける性能が比較的等しいことを考慮すると、本発明者は、膜ベースのRPE治療にはPLGA
が好ましいポリマーであると提唱する。
【0227】
結論として、本発明者は、ナノファイバー膜が、ヒトBMの内コラーゲン層の構造を模倣する三次元環境をもたらし、インビトロで生体適合性であり、また一次ヒトRPE細胞の増殖および生体機能的な成熟を促進することを実証した。このことは、本発明の組成物が、植え込みおよびAMDの治療用の機能的なRPE細胞の単層の適切な担体であることを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含む、組織を再生または修復するための組成物であって、前記ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、前記第1および第2の層が互いに別個のものであり、前記組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、前記ウェビングの第1および第2の層が前記組織の第1の層および第2の層に一致する組成物。
【請求項2】
前記組成物の第1の層および第2の層が、細胞外マトリックスまたは細胞の層を模倣することにより前記組織の第1の層および第2の層に一致する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組織中の細胞の層と一致する前記組成物の層に1つまたは複数の細胞が播種されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
播種されている前記細胞が、前記組織層中の細胞と同じ細胞型である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
播種されている前記細胞が、前記組織層中の細胞の細胞型と異なるが、培養を通じて同じ細胞型に分化することが可能である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
播種されている前記細胞が幹細胞である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記幹細胞がヒト幹細胞である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が3層、4層またはそれ以上の層を含む、請求項1〜7のいずれか一項に組成物。
【請求項9】
前記組成物が改変可能であり、かつ前記組織の形状に合わせられている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ウェビングの第1、第2、第3、第4またはそれ以上の層のそれぞれが、1種のポリマーまたは2種以上のポリマーの混合物からなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
2種以上のポリマーが異なる配向に配置される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリマーが天然または合成であり、かつ生分解性である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記剤が生理化学剤または治療剤である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記剤がカプセル化またはコーティングされている、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
材料をさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記材料が、合成または天然由来であり、ゲル、気体、クリーム、軟膏または固体の形態である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
再生または修復を必要とする前記組織が、顔、胸部、耳、首、腋窩、鼠径部、手、肘、腕、脚部、足、膝、生殖器、眼瞼、鼻、口唇、皮膚、角膜、網膜、BM、視神経および眼の後壁の他のいずれかの解剖学的部位を含む眼、肝臓、胆管および胆嚢、腎臓、腸、心臓、膵臓、脾臓、GALT、MALT、咽喉、食道、喉頭、肺、静脈、動脈、胃、小腸、十二指腸、回腸、空腸、結腸、大腸、脳、脊髄および脊髄神経、筋肉(平滑筋、骨格筋および混合筋)、血管、子宮、膀胱および尿道および尿管、卵巣、膣、直腸、甲状腺、舌、口腔粘膜、胃腸粘膜および鼻咽頭粘膜、歯周組織および歯組織、平滑筋および骨格筋、毛髪、乳頭、アポクリン腺、エクリン腺および内分泌腺、毛包、骨軟骨、腱、ならびに骨膜および軟骨膜を含む群より選択される身体部位または臓器に属する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
対象者の組織を再生または修復する方法であって、前記組織を含む対象者の身体の部位への組成物の投与を含み、前記組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、前記ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、前記第1および第2の層が互いに別個のものであり、前記組成物の厚さまたは構造が健康状態の組織の厚さまたは構造に一致し、前記ウェビングの第1および第2の層が前記組織の第1の層および第2の層に一致する方法。
【請求項19】
前記剤が1つまたは複数の細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物の第1の層および第2の層が、前記細胞の層を模倣することにより前記組織の第1の層および第2の層に一致する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記1つまたは複数の細胞が幹細胞または前駆細胞である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記幹細胞がヒト幹細胞または他のいずれかの脊椎動物の幹細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
対象者の黄斑変性を治療する方法であって、対象者の網膜の黄斑組織への組成物の投与を含み、前記組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、前記ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、前記第1および第2の層が互いに別個のものであり、前記組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、前記ウェビングの第1および第2の層が前記組織の第1の層および第2の層に一致する方法。
【請求項24】
前記剤が組織特異的な細胞、幹細胞または前駆細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が1種または複数のポリマーを含む超薄膜として使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
幹細胞および/または1種または複数の剤を含むポリマー含有膜が、眼の後壁につぎ当てられるかまたは外科的に統合される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記膜が時間とともに分解し、損傷黄斑内に細胞および/または1種または複数の剤を放出する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記幹細胞が光受容細胞、神経由来の細胞または網膜色素上皮細胞に分化する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
対象者の組織を修復または再生するための組成物の使用であって、前記組織を含む対象者の身体の部位への組成物の投与を含み、前記組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、前記ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、前記第1および第2の層が互いに別個のものであり、前記組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、前記ウェビングの第1および第2の層が前記組織の第1の層および第2の層に一致する使用。
【請求項30】
請求項31〜46のプロセスの工程をさらに含む、請求項18〜28に記載の方法ならびに請求項29に記載の使用。
【請求項31】
組織を再生または修復するための組成物の製造プロセスであって、前記組成物が三次元(3D)ナノファイバーウェビングおよび少なくとも1種の剤を含み、前記ウェビングが少なくとも第1の層と第2の層とを含み、前記第1および第2の層が互いに別個のものであり、前記組成物の厚さが健康状態の組織の厚さに一致し、前記ウェビングの第1および第2の層が前記組織の第1の層および第2の層に一致し、以下の工程:
(a)再生または修復を必要とする組織の厚さおよび/もしくは構造を測定する工程;
(b)前記組織の第1および第2の層の厚さおよび/または構造を測定する工程;
(c)(a)および(b)の測定工程に基づき、組成物の望ましい厚さおよび/または構造を決定する工程;
(d)ナノファイバーウェビング機の電場にコレクターを設置する工程;
(e)1種または複数のポリマーを、電場を介して撒布して、組成物の第1の層を作製するのに十分な時間と条件下でコレクターに接触させる工程;
(f)(e)の1種または複数のポリマーの撒布の後に、1種または複数の剤を第1の層に添加する工程;
(g)1種または複数のポリマーを、電場を介して撒布して、組成物の第2の層を作製するのに十分な時間と条件下でコレクターに接触させる工程;
(h)所望により1種または複数のポリマーの撒布を繰り返してさらなる層を作製する工程;
(i)コレクターから層を取り外す工程;および
(j)前記組成物の層を組織の形状に合わせること
を含むプロセス。
【請求項32】
前記1種または複数の剤をあらかじめ前記第1の層に添加することに加えまたはその代わりに、前記1種または複数の剤を前記第2の層に添加する、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
前記1種または複数の剤が細胞である、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記細胞が組織特異的であるか、または幹細胞もしくは前駆細胞である、請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記プロセスにより作製される前記組成物が少なくとも3つの層を含む、請求項32〜34のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項36】
第1の層に光受容細胞を播種し、別の層に網膜色素上皮細胞を播種し、第3の層に1つまたは複数の神経由来の細胞を播種し、所望により第4の層に網膜色素上皮細胞と同類の細胞を播種する、請求項32〜35のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項37】
撒布が前記1種または複数のポリマーを噴霧またはスピニングすることにより行われる、請求項32〜36のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項38】
コレクターが、組織の再生または修復を必要とする身体部位のインプレッション型から調製するギプスである、請求項32〜37のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項39】
型からのギプスの調製の代わりに以下の工程が採用される、請求項38に記載のプロセス:
(a)3D画像化技術により組織の再生または修復を必要とする身体部位の輪郭を測定する工程;
(b)測定値をデザインアプリケーションに入力して身体の物理模型を調製する工程;および
(c)模型をコレクターとして使用する工程。
【請求項40】
3D画像化技術が、スキャンX線、CTスキャン、コーンビームX線、MRIおよび3D写真を含む群より選択される、請求項39に記載のプロセス。
【請求項41】
デザインアプリケーションが、コンピューター支援設計(CAD)およびラピッドプロトタイピングを含む群より選択される、請求項39または40に記載のプロセス。
【請求項42】
ラピッドプロトタイピングが、3D印刷、3D選択的レーザー加工、3D選択的焼結、3D流延、3Dバーリング、3D研削またはこれらのいずれかの組合せを含む群より選択される、請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
電場がスピン電極に電圧を印加した際に発生する、請求項31〜42のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項44】
3Dナノファイバーウェビングを硬化する工程をさらに含む、請求項31〜43のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項45】
前記硬化する工程が化学的または物理的硬化を含む、請求項44に記載のプロセス。
【請求項46】
硬化がポリマーの光硬化により行われる、請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
請求項31〜46に記載のプロセスにより得ることができる組成物。
【請求項48】
請求項31〜46に記載のプロセスにより得られる組成物。
【請求項49】
黄斑変性の治療または皮膚の奇形や異常の矯正に使用する場合の、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項50】
前記1種または複数の剤が、1種または複数の、抗生物質、抗菌ペプチド、抗菌デフェンシン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、細胞に影響を与え相互に作用する物質、小分子、表面接着分子およびタンパク質等の細胞挙動に影響を与えるシグナル因子、ヒト細胞、天然組織ファイバーまたはこれらのいずれかの組合せを含む群より選択される、請求項1〜17、47および48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項51】
前記組成物が、ゲル、気体、クリーム、軟膏または固体の形態のさらなる材料を含む、請求項1〜17、47および48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項52】
前記さらなる材料が無機材料である、請求項51に記載の組成物。
【請求項53】
前記組成物が、前記組成物に構造安定性を付与するために少なくとも1種の硬化性ポリマー、少なくとも1種の硬化性樹脂、少なくとも1種の自硬性粘土またはそれらの組合せを含有する、請求項1〜17、47および48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項54】
1種または複数のポリマーを、直接撒布エレクトロスピニング、共蒸着およびエマルションエレクトロスピニングを含む群より選択されるエレクトロスピニング技術により前記組成物の層に組み込む、請求項1〜17、47および48のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項55】
前記組成物の厚さまたは構造が、治療を必要とする身体部位の変形や異常によって異なる、請求項1〜17、47および48のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2013−81783(P2013−81783A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−226334(P2012−226334)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PHOTOSHOP
【出願人】(512263429)ボンド ユニバーシティ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】