説明

カスパーゼ−14中間体による皮膚疾患の検出

【課題】フィラグリンの分解異常を原因とする皮膚疾患の検出や発症の予知に有効な新規な方法の提供。
【解決手段】本発明は、表皮中のカスパーゼ−14のアミノ酸1位〜178位からなるポリペプチド(C14-Y178L)又は1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失し、かつプロカスパーゼのD146を切断する活性を有するその変異体を、フィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患のマーカーとして、検出することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カスパーゼ−14のアミノ酸1位から178位からなるポリペプチドを含むカスパーゼ−14中間体を指標とする、フィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎や乾癬といった皮膚疾患の検出や発症の予知に有効な新規な方法の提供にある。
【背景技術】
【0002】
システインプロテアーゼであるカスパーゼは脊椎動物のプログラム細胞死や細胞からの分泌におけるタンパク質のプロセッシングに関与しており、現在までにヒト、マウスに由来のものを含め、約14種類の存在が知られている。カスパーゼの共通の特徴には、1)これらが、Asp−X結合(ここで「X」はアミノ酸である)基質切断特性を有するシステインプロテアーゼであること;2)これらが、活性部位内の保存されたペンタペプチド配列を共有すること;及び3)これらが、プロテアーゼ活性の活性化のために特異的アスパラギン酸残基でのタンパク質分解切断を必要とするプロ酵素として合成されることがある。プロ酵素の切断は、2つのポリペプチドプロテアーゼサブユニットを生成し、これらは、非共有結合して2つのヘテロダイマーから構成されるテトラマーを形成する。これらのプロテアーゼは、細胞で発現される場合、一般にアポトーシスを誘導する。
【0003】
カスパーゼ−14は、ヒトでは、最も遅く見出されたカスパーゼであり、システイン酵素スーパーファミリーに属する。他のカスパーゼと異なり、皮膚およびその付属器に特異的に発現しており、アポトーシスには関与しないことが知られている。最近カスパーゼ−14のノックアウトマウスが作製され、このマウスでは、フィラグリンの分解に異常があることが示された(非特許文献1)。
【0004】
フィラグリンの前駆物質は、プロフィラグリンと呼ばれ、顆粒層のケラトヒアリン顆粒に蓄えられている。プロフィラグリンはフィラグリン分子が10個から12個連続してつながった構造をしており、角化とともにこれらが切り出されて、個々のフィラグリンとなり、最終的にこれが分解されて、天然保湿因子(NMF)が作られる。NMFは皮膚の保湿に必須の因子であり、アミノ酸とその派生物が主な成分であるということが知られていた。NMFがフィラグリンから作られるという事は今から30年近く前にすでに推測されていた。
【0005】
我々は、これまでに、フィラグリンが分解されて、NMFになる過程について明らかにしている(非特許文献2)。カスパーゼ−14が最初にフィラグリンに作用し、いくつかのペプチドに分解することも解明されている。そして、カルパインIがフィラグリン・ペプチドに作用し、さらにこれらの分解産物にブレオマイシンヒドロラーゼ(BH)が働くことにより、アミノ酸レベルまで、分解される((特許文献1)。
【0006】
フィラグリンの遺伝子異常が、魚燐癬や一部アトピー性皮膚炎の原因であるという発見は、大きな驚きをもって迎えられた(非特許文献3)。フィラグリンの異常が単にNMFの低下からくる角層の保水能力の低下ばかりではなく、バリアー機能にも直接の影響を与えるということが示された訳である。その後の研究では、フィラグリンの遺伝子異常は、ヨーロッパのある地域においては40%〜に達するという報告もなされているが、日本では、約20%程度にとどまっているようである。この点からも、アトピー性皮膚炎が多因性の疾患であることは十分に理解される。実際、我々は、アトピー性皮膚炎では、カスパーゼ−14および、BHが極度に低下していることを明らかにしている。アトピー患者皮膚におけるBHの極度の発現低下は、フィラグリンの遺伝子異常のみならず、分解系の異常もバリアー傷害の重要な要因となり得ることを示している。実際、BHのノックアウトマウスは、魚燐癬様、アトピー様の皮膚症状を示すことが報告されている。カスパーゼ-14のノックアウトマウスは、TEWL値が亢進しており、バリアー機能が低下していることがわかっている。我々の最近の知見でも、カスパーゼ−14がBHと同様にアトピー患者皮膚の皮疹部および無疹部の両方で有意に低下していることが明らかになった(非特許文献4)。
【0007】
このように、フィラグリンからNMF産生に至る過程は、バリアー機能を考える上で極めて重要である。カスパーゼ−14は皮膚に特異的に発現するカスパーゼであることが報告されているが、それがフィラグリンに作用して分解するようになる活性化の機構及び機能に関しては明らかではない。
カスパーゼ−14の活性化は角質細胞の形成の際に起こることまでは知られるが、その正確な活性化機構までは理解されていない。本発明者は角質細胞からカスパーゼ−14を精製し、そして活性化のための切断部位がD146であることまでは突き止めている(特許文献2)。この情報に基づき、本発明者は活性化カスパーゼ−14のみを認識する切断部位特異的抗体(C14D146Ab)を調製した。また、カスパーゼ−14の活性化機構を解明するため、まずカスパーゼ−14がカスパーゼ−1〜10により活性化されるかどうかも試験した。しかしながら、どのカスパーゼもカスパーゼ−14をプロセシングする能力をもたなかった。次にトリプシン様酵素、キモトリプシン様酵素、カルパインI、KLK7などの表皮プロテイナーゼの作用について調べてみた。その結果、キモトリプシンやKLK7がカスパーゼ−14をY178で切断し、大サブユニット(20kDa)及び小サブユニット(8kDa)から構成される中間体を生成することがわかった(特願2011-039978)。したがって、この切断部位Y178を認識する抗体(h14Y178Ab)を調製した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2009/142268
【特許文献2】特開2003-171400号公報
【特許文献3】特開2006-117594号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Denecker G, Hoste E, Gilbert B, et al. Nat Cell Biol. 2007; 9: 666-674
【非特許文献2】Kamata Y, Taniguchi A, Yamamoto Y, et al. J Biol Chem. 2009; 284: 12829-12836
【非特許文献3】Sandilands A, Terron-Kwiatkowski A, Hull PR, et al. Nat Genet 2007 ; 39 : 650-654
【非特許文献4】Yamamoto M, Kamata Y, Iida T, et al. J Dermatol Sci. 2011 ; 61 : 110-117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フィラグリンの分解異常を原因とする皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎や乾癬といった皮膚疾患の検出や発症の予知に有効な新規な方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、カスパーゼ−14をY178で切断することで生成される大サブユニット(20kDa)(C14-Y178L)及び小サブユニット(8kDa)を生成し、天然カスパーゼ−14における上記サブユニットの並びに対し反転させることで「revC14-Y178SL」を作成した。
なお、本願ではC14-Y178L及びrevC14-Y178SLを以下において「カスパーゼ−14中間体」と称する場合がある。興味深いことに、revC14-Y178SLやC14-Y178Lの基質特異性は精製された活性化カスパーゼ−14とは全く異なり、しかもその酵素活性には、通常カスパーゼなら必要なコスモトロピックイオンを必要としなかった。さらに、活性化カスパーゼ−14の生成は、プロカスパーゼ−14をキモトリプシン又はKLK7で処理したカスパーゼ−14とのインキュベーションと同様、revC14-Y178SLとのインキュベーションでも認められた。
カスパーゼ−14のY178での切断部位に特異的なh14Y178Abを用いた免疫染色分析は、C14-Y178Lが正常なヒト表皮の顆粒細胞と角質細胞との間の限定された部位に局在することが示されたが、アトピー皮膚炎や乾癬に罹患したヒト表皮の対応の部分ではこれ以下の層の広い範囲で存在しており、これらの患者患部の角層抽出液中にもその存在が認められたが、正常で認められる最終活性化体が消失していた(図7)。以上により、カスパーゼ−14の活性化は、カスパーゼ−14の中間体の形成が重要な役割を果たすことで関与する固有な機構によるものであることが解明された。
したがって、カスパーゼ−14中間体がフィラグリンの分解異常を原因とする皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎や乾癬といった皮膚疾患のマーカーとして利用できることがわかった。
【0012】
したがって、本願は以下の発明を提供する。
(1)表皮中のカスパーゼ−14のアミノ酸1位〜178位からなるポリペプチド(C14-Y178L)であるカスパーゼ−14中間体又は1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失し、かつプロカスパーゼのD146を切断する活性を有するその変異体を、フィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患のマーカーとして、検出することを含む方法。
(2)前記皮膚疾患がアトピー性皮膚炎、乾癬脂漏性皮膚炎、日光性角化症、紅色粃糠疹及び全身性エリテマトーデスの不全角化を示す疾患群から選ばれるである、(1)の方法。
(3)前記検出を、カスパーゼの178位での切断部位を特異的に認識する抗体を用いて行うことを特徴とする、(1)又は(2)の方法。
(4)前記検出方法が免疫染色方法である、(3)の方法。
(5)前記検出方法がELISA法である、(3)の方法
(6)C14-Y178Lがカスパーゼ−14のアミノ酸179位〜242位からなるポリペプチドと二量体を形成する、(1)〜(5)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法により、フィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎、乾癬脂漏性皮膚炎、日光性角化症、紅色粃糠疹及び全身性エリテマトーデスの不全角化を示す疾患群といった皮膚疾患の検出や発症の予知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】カスパーゼ−14の活性化のメカニズムを図示する。
【図2】カスパーゼ−14の一次構造を示す。
【図3】カスパーゼ−14中間体の作成の模式図を示す。
【図4】カスパーゼ−14中間体の酵素活性を示す。
【図5】カスパーゼ−14中間体によるプロカスパーゼ−14の活性化を示す。
【図6】カスパーゼ−14中間体による健常皮膚の免疫染色結果を示す。
【図7】カスパーゼ−14中間体によるアトピー性皮膚炎皮膚の免疫染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明でいう活性化カスパーゼ−14とは、フィラグリンに作用し分解し、NMFを生成することのできるカスパーゼ−14成熟体を意味する。活性化カスパーゼ−14はプロカスパーゼ−14のD146位での切断により生成される17kDaサブユニットと11kDaサブユニットとから構成される二量体である。本発明者によれば、かかるプロカスパーゼ−14のD146位での切断は、図1に示すとおり、カリクレイン7(KLK7)によるプロカスパーゼ−14のY178位での切断により生成されるカスパーゼ−14中間体、即ちC14-Y178L又はrevC14-Y178SLにより触媒されることがわかった。図2にはカスパーゼ−14の一次構造及びその切断部位を示す。
【0016】
本発明でいうカスパーゼ−14中間体は、プロカスパーゼ−14のY178位での切断により生成された20kDaのサブユニット(C14-Y178L)、又は20kDaの大サブユニットと、プロカスパーゼ−14のY178位での切断により同時に生成された8kDaの小サブユニットとから構成される二量体、例えばrecC14-Y178SLであってよい。また、20kDaの大サブユニットC14-Y178Lは、プロカスパーゼ−14のD146位の切断を触媒する能力を有する限り、1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したその変異体であってもよい。
【0017】
本発明に係るカスパーゼ−14中間体又はその変異体の測定は、カスパーゼ−14中間体又はその変異体を測定することのできる任意の方法に従い、定量的又は定性的に実施することができる。
【0018】
好ましくはカスパーゼ−14中間体又はその変異体の免疫染色により行うことができる。免疫染色方法に使用するカスパーゼ−14中間体又はその変異体に特異的な抗体は、例えば特開2006-117594号公報に記載のとおり、プロカスパーゼ−14のアミノ酸174〜178位に相当するペンタペプチドを化学合成してハプテンとしてウサギの免疫に用いることで作成できる。健常な表皮においてカスパーゼ−14中間体は顆粒細胞と角質細胞との間の限定された部位に局在するが、フィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎や乾癬といった皮膚疾患を罹患した患者表皮の場合、顆粒細胞や角質細胞の層よりも下層の広い範囲で存在していることから、カスパーゼ−14中間体の存在位置を観察することで、表皮がフィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患を呈している又は呈するおそれがあるか簡易に判断できることとなる。
【0019】
上記の抗体は、適当な固定化試薬で固定させ、好ましくはブロッキング処理を施したヒト表皮切片と接触させる。この際、当該抗体は、免疫染色の一次抗体として用いることができる。免疫染色は、この一次抗体において視覚的に把握可能な標識を施して、その標識を直接的に表皮に存在するカスパーゼ−14中間体を標識とする「直接法」と、カスパーゼ−14中間体に結合した無標識の一次抗体に対して、標識を施した二次抗体、あるいは、二次抗体及び標識を施した三次抗体、を作用させる「間接法」に大別される。本発明においては、一次抗体と二次抗体を用いる間接法を行うことが、鋭敏性と簡便性を兼ね備えており、好適であるが、これに限定されるものではなく、直接法や三次抗体を用いる間接法を用いて本発明の特定方法を行うことができる。
【0020】
上述した抗体に施す標識は、当該標識物質単独で又は当該標識物質と他の物質とを反応させることにより、検出可能なシグナルをもたらす標識物質であり、その限りにおいて、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等の酵素が挙げられる。これらの酵素は、それぞれ対応する基質を接触させることによって、発色が認められる。また、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート、GFP等の蛍光物質が挙げられる。これらの蛍光物質は、励起光を照射することにより、特徴的な蛍光が認められる。また、ビオチン−アビジン(ストレプトアビジン)系を用いることができる。この系では、例えば、ビオチン標識を行った抗体に、上記の酵素標識や蛍光標識が施されたアビジン(ストレプトアビジン)を接触させて、ビオチンとアビジン(ストレプトアビジン)の結合を形成させ、そこに改めて基質や励起光を施すことで、発色や蛍光を顕すことができる。さらに、上記の発色物質を多数結合させた高分子ポリマーを抗体に標識する酵素標識ポリマー法を行うことも可能である。その他、125I,14C,3H等の放射性同位体を標識して、印画紙で可視化することも可能である。
【0021】
また、染色像の視覚的な特定は、顕微鏡で行うが、用いる顕微鏡は、上述した標識の種類に応じて選択することが好ましい。蛍光を伴わない染色標識の場合には、通常の明視野顕微鏡を用いることが好適であり、蛍光標識の場合には、蛍光顕微鏡又は共焦点顕微鏡を用いることが好適である。
【0022】
他の具体的な方法には、カスパーゼ−14中間体又はその変異体に特異的な抗体を利用する免疫測定方法、例えば酵素ラベルを利用するELISA法、免疫比濁法、ウェスタンブロット法、ラテックス凝集法、赤血球凝集法等、様々な方法が挙げられる。免疫測定法の方式には競合法やサンドイッチ法が挙げられる。本発明の好ましい態様においては、C14-Y178又はその変異体は免疫測定方法、例えばELISAにより測定する。ELISAにおいて使用するカスパーゼ−14中間体又はその変異体に特異的な抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、免疫染色方法と同様、例えば特開2006-117594号公報に記載のとおり、プロカスパーゼ−14のアミノ酸174〜178位に相当するペンタペプチドを化学合成してハプテンとしてウサギの免疫に用いることで作成できる。これらの方法の場合、正常角層においては中間体は検出できず、乾癬やアトピー性皮膚炎などの不全角化を原因とする皮膚疾患を呈している又は呈するおそれがあるか状態では有意な量の中間体、具体的には正常角層中に含まれる中間体よりも統計学的(例えばt検定などにより)に有意な量の中間体が検出されることで、そのような状態を呈している又は呈するおそれがあるか否かの簡易な判断ができる。
【0023】
被検体となる皮膚角層試料の採取は任意の方法で実施することができるが、簡便性かつ非侵襲性の観点からテープストリッピング法が好ましい。テープストリッピングとは、皮膚表層に粘着テープ片を貼付し、剥がし、皮膚角層をその剥がした粘着テープに付着させることで角層試料を採取する方法である。テープストリッピング法を利用すれば、角層をテープ一枚採取するだけでカスパーゼ−14中間体又はその変異体の測定が可能となり、C14-Y178又はその変異体を指標とした皮膚疾患群の評価が可能となる。テープストリッピングの好ましい方法は、まず皮膚の表層を例えばエタノールなどで浄化して皮脂、汚れ等を取り除き、適当なサイズ(例えば5×5cm)に切った粘着テープ片を皮膚表面の上に軽く載せ、テープ全体に均等な力を加えて平たく押さえ付け、その後均等な力で粘着テープを剥ぎ取ることで行われる。粘着テープは市販のセロファンテープなどであってよく、例えばScotch Superstrength Mailing Tape(3M社製)、セロファンテープ(セロテープ(登録商標);ニチバン株式会社)等が使用できる。粘着テープに付着した皮膚角層試料中のSCCAは、テープ片を適当な抽出液、例えばTris-buffer(pH 8.0)(0.1M Tris-HCl, 0.14M NaCl, 0.1% Tween-20)に浸漬し、角層を抽出することでテープから単離・抽出させることができる。
【0024】
本発明に係る方法においては、サンドイッチ免疫測定法も好ましく、それは例えば下記の通りに実施できる。
2種類のカスパーゼ−14中間体又はその変異体に特異的な抗体の一方を一次抗体として担体に固定化する。担体としては固体担体が好ましく、例えば固体担体として免疫測定法において常用される任意のものを使用してよく、例えば任意の大きさ、形状に成形されたスチレンやポリスチレンなどの高分子担体のほか、これらの適当な材料で成形した反応容器、例えばELISAプレートのウェルの内壁などが挙げられる。
【0025】
上記一次抗体の担体への固定化は常法に従って行うことができ、例えば上記一次抗体を緩衝液、例えばリン酸緩衝食塩水(PBS)、ホウ酸緩衝液などに溶解して担体に吸着させることにより固定化することができる。また、例えば上記一次抗体に結合する抗体やその他のタンパク質、例えばプロテインCをあらかじめ担体に固定化し、これを上記一次抗体と接触させる等してもよい。更に、非特異的な結合を抑えるため、このようにして一次抗体を固定化した担体に適当なブロッキング剤、例えばPBS−BSAや市販のブロッキング剤、例えばブロックエース(大日本製薬)を加え、約4〜40℃、好ましくは20〜37℃で、5分から数日、好ましくは10分から24時間、より好ましくは10分〜3時間インキュベーションすることによりブロッキングするのが好ましい。
【0026】
上記2種類のカスパーゼ−14中間体又はその変異体に特異的な抗体の他方の抗体は二次抗体として使用し、標識する。標識としては、酵素標識、放射線標識、蛍光標識、などが挙げられる。酵素標識する場合、酵素を二次抗体に直接結合させて標識するか、または例えばアビジンービオチンのような相互反応性蛋白質を介して間接的に酵素で標識することもできる。酵素の抗体などへの結合は、例えば市販のチオール導入基試薬を利用して酵素及び標識すべき抗体などのそれぞれにチオール基を導入してから両者をS−S結合させることで行うことができる。酵素としては、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。酵素の検出は、その酵素に特異的な基質を用いて行うことができる。例えばホースラディッシュパーオキシダーゼを利用する場合、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジンジン)やABTS(2,2’−アジン‐ジ[3−エチルベンズチアゾリンスルホネート])などが利用できる。
【0027】
かかる免疫測定は、前記一次抗体を固定した担体、前記標識した二次抗体、被検試料を混合し、インキュベーションすることにより、担体に固定化された一次抗体に被検試料中のカスパーゼ−14中間体又はその変異体を結合せしめ、このカスパーゼ−14中間体又はその変異体分子に標識二次抗体を結合せしめる。
【0028】
このようにして、標識化抗体は、試料中のカスパーゼ−14中間体又はその変異体の量を反映した量において、担体に固定化された一次抗体と試料に由来するカスパーゼ−14中間体又はその変異体を介して担体上に固定される。かかるインキュベーションは、適当な緩衝液、例えばPBS中で約4〜40℃、好ましくは20〜37℃で、5分から数日、好ましくは10分から24時間、より好ましくは10分〜3時間行う。
【0029】
次に、上記担体から未結合の標識化抗体を分離する操作を行う。担体が固体担体である場合、この分離操作は固液分離により簡単に行うことができる。一定の既知量の標識二次抗体を使用した場合、担体に結合した標識もしくは未結合の標識又はこの両者を測定することができる。他方、任意の標識抗体を使用した場合、担体に結合した標識を検出、測定する。担体に結合した標識を検出するには、好ましくは担体を洗浄液、例えば適当な界面活性剤の入った緩衝液、例えばPBS−Tween20により洗浄して未結合の標識化抗体を除去した後に検出を行う。検出は標識の種類に依存して常法に従って行うことができる。
【0030】
以下に本発明の限定でない実施例を提供する。
【実施例】
【0031】
1)組換プロカスパーゼ−14の作成
組換プロカスパーゼ−14は、特表2002-500049号公報に記載の方法に従い、作成した。簡単には、所定のPCRプライマーを用いてRT−PCR増幅したヒトカスパーゼ−14全長コード配列をプラスミドpQE−100(Qiagen, Co.)にクローニングし、大腸菌DH5αに形質転換し、発現させることで作製した。発現したプロカスパーゼ−14はNi−NTAアフィニティーカラム(Qiagen, Co.)、MonoQ FPLCシステム(アマシャム社)、Superdex−75 FPLCシステム(アマシャム)によるクロマトグラフィーにかけることで精製した。組換プロカスパーゼ−14はルゼート1リッター当たり2〜3mgの収量で得られた。
【0032】
2)revC14-Y178SLの作製
切断部位である、Y178までの大サブユニット(p20)(C14-Y178L)と、その後続配列からなる小サブユニット(p8)を逆転させ、p8-p20の構造体(revC14-Y178SL)を、以下のプライマーを用いて作製した。
P8-foward primer :ggaattccatatgcgacatgatcagaaaggctcatgc(配列番号1)
P8-reverse primer : ccgctcgagctgcagatacagccgtttccggag(配列番号2)
P20-forward primer : ccgctcgagatgagcaatccgcggtctttggaa(配列番号3)
P20-reverse primer: cgggatccctagtaggcgatgtatccctctaccgt(配列番号4)
P8をPCRで増幅後、得られた産物をNde IおよびXho Iで消化した。また、p20についてもPCR増幅後、Xho I/Bam HIで消化した。これらの2つのDNA断片をNde I/Bam HIで消化した、pET15b ベクターにligationし、得られたクローンの大量培養から、通常の方法で、Ni-agroseカラムを用いてリコンビナント蛋白を精製した。図3にカスパーゼ−14中間体の作成の模式図を示す。
【0033】
3)revC14-Y178SL、C14-Y178L及び各種カスパ−ゼの酵素活性の測定
カスパーゼのそれぞれの基質は、Bio Vision, Inc(Mountain View, CA)より購入した。
C14 Assay Buffer(Na citrate(-),(+))+ DTT 80μlに、revC14-Y178SL、C14-Y178L及び 各種カスパーゼ(それぞれ、0.47mg/mlをPBSで10倍希釈したもの)15μlを加え、混合した。これに1mMの各基質を加え、37℃で10分置いた後、excitation:355 nm、emission:460 nmで蛍光強度の変化を測定した。測定には、フルオロスキャンアセントFL(Labsystems)を用いた。その結果を図4に示す。
revC14-Y17SL8及びC14-Y178Lは、ほぼ同様の基質特異性を示し、また活性化カスパーゼ−14が特異性を示す基質WEHDに対しては全く酵素活性を示さなかった。またその酵素活性には、通常カスパーゼなら必要なコスモトロピックイオンを必要としなかった。
4)revC14-Y178SL、C14-Y178Lによる活性化カスパ−ゼ-14の生成
pCMV-HAベクターにrevC14-Y178SLを導入したコンストラクトを作製した。培養ケラチノサイト(増殖期)に、FuGENE HD(Roche, Mannheim, Germany)を用いてトランスフェクションした。コンフルエント時に1.2 mMのカルシウムを添加し内在性のカスパーゼ-14の産生を誘導した。細胞を冷メタノールで固定後、抗HA抗体およびh14D146抗体(カスパーゼ-14の活性化体のみを認識)を用いて、通常の方法で免疫染色した。Alexa Fluor 455(緑)555(赤)の蛍光二次抗体を用いて二重染色を行った。あわせて、DAPIを用いて核の染色を行った。その結果を図5に示す。
Y178中間体を発現している細胞は、緑の蛍光を発している(→で表示)。これらの細胞は、二重染色でカスパーゼ-14活性化体のみを認識するh14D146抗体陽性であり、中間体により、カスパーゼ-14の活性化体が生成されることが示された。
したがって、活性化カスパーゼ−14の生成は、プロカスパーゼ−14をrevC14-Y178SLとインキュベーションすることで認められた。
【0034】
5)h14Y178抗体によるヒト表皮の免疫組織化学染色方法
ヒト健常皮膚、アトピー性皮膚疾患を罹患した患者の皮疹部及び無疹部の皮膚凍結切片をそれぞれ4%のPFA(パラホルムアルデヒド)で室温、20分固定し、ブリーチ(10%のメタノール、3%の過酸化水素/蒸留水)により、内因性のペルオキシダーゼを除去した後、ENVISIONキット(ダコ)を用いて染色を行った。具体的には、10%のヤギ正常血清(ニチレイ社製)にて室温、2時間ブロッキング処理し、revC14-Y178SL、C14-Y178のY178部位を特異的に認識するh14Y178抗体(1/200)と4℃、一晩反応させた後、PBSで室温にて15分×3回、余剰抗体を洗浄した。次に、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギ二次抗体(ダコ)と室温で1時間反応させ、再度PBSで室温にて15分×3回洗浄し、余剰抗体を洗浄し、DABを用いて発色させた。最後にヘマトキシニンを用いて核染色を行った。その結果を図6及び7に示す。
【0035】
h14Y178抗体による免疫染色では、アトピー性皮膚疾患を罹患した患者の皮疹部において、基底層直上から顆粒層まで、広範に染色されていることがわかる(図中の→で示した部分がh14Y178抗体により特異的に染色された部分)。従って、h14Y178抗体は、正常な活性型カスパーゼ-14を染色する抗体、即ちカスパーゼ−14のD146位の切断部を認識するC14D146Abとは異なり、角化の異常を簡単に認識できるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮中のカスパーゼ−14のアミノ酸1位〜178位からなるポリペプチド(C14-Y178L)であるカスパーゼ−14中間体又は1もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失し、かつプロカスパーゼのD146を切断する活性を有するその変異体を、フィラグリンの分解異常による不全角化を原因とする皮膚疾患のマーカーとして、検出することを含む方法。
【請求項2】
前記皮膚疾患がアトピー性皮膚炎、乾癬脂漏性皮膚炎、日光性角化症、紅色粃糠疹及び全身性エリテマトーデスの不全角化を示す疾患群から選ばれるである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出を、カスパーゼの178位での切断部位を特異的に認識する抗体を用いて行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記検出方法が免疫染色方法である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記検出方法がELISAである、請求項3記載の方法。
【請求項6】
C14-Y178Lがカスパーゼ−14のアミノ酸179位〜242位からなるポリペプチドと二量体を形成する、請求項1〜5のいずれ1項記載の方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96826(P2013−96826A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239577(P2011−239577)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】