説明

カソードガスの流量制御バルブおよびその製造方法

【課題】氷結固着防止性能を長く維持できるカソードガスの流量制御バルブを提供すること。
【解決手段】流量制御バルブは、カソードガスが流通するカソード流路42およびこのカソード流路42に連通するシャフト孔部が形成されたバルブボディと、カソード流路42内に設けられ、このカソード流路42の開口面積を変更する弁体と、シャフト孔部に挿通して設けられ、弁体を駆動するシャフト46と、を備える。バルブボディのシャフト孔部のシャフト囲繞部475の内周面にはフッ素樹脂コーティング層が形成され、シャフト46の外周面にはフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードガスの流量制御バルブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば、数十個から数百個のセルが積層されたスタック構造である。ここで、各セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成され、膜電極構造体は、アノード電極(陰極)およびカソード電極(陽極)の2つの電極と、これら電極に挟持された固体高分子電解質膜と、で構成される。
燃料電池システムでは、燃料電池のアノード電極にアノードガスとしての水素ガスを供給し、カソード電極にカソードガスとしての酸素を含むエア(空気)を供給し、電気化学反応により発電させる。この発電時に生成されるのは、基本的に無害な水だけであるため、環境への影響や利用効率の観点から、自動車の新たな動力源として燃料電池システムが注目されている。
【0003】
以上のような燃料電池システムにおいて、カソードガスが流通するカソード流路内は、燃料電池からの生成水により湿潤な状態となっている。また、カソード流路には、カソードガスの流量を制御する流量制御バルブや、カソード流路内の水を排出するドレインバルブなど、様々なバルブが設けられる。そこで、従来より、カソード流路に設けられた各種バルブが、低温(例えば氷点下)の環境下で氷結固着するのを防止する技術が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、カソード流路内の水を排出するドレインバルブの氷結固着を防止する技術が示されている。このドレインバルブは、弁体(シールゴム)の表面に撥水性コーティング剤を塗布することにより、弁体と、この弁体が着座するシート部とが氷結固着するのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−116024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでバルブの氷結固着の原因には、特許文献1にように弁体とそのシート部との氷結固着の他、弁体を駆動するシャフトとこのシャフトを収容するシャフト孔部との氷結固着も考えられる。このため、シャフトの外周面に撥水性のコーティング剤を塗布することにより、これらシャフトとシャフト孔部との氷結固着を防止する技術が提案されている。
【0007】
しかしながらシャフトの外周面のコーティング層は、カソード流路側から成長した氷と擦れることにより摩滅したり剥離したりし易い。したがって、燃料電池システムの氷点下起動を繰り返すことにより、シャフトの撥水性能が低下するとともに、シャフトとシャフト孔部との氷結固着を防止する性能も低下してしまう。
【0008】
なお、このようなバルブの氷結固着の課題に対し、弁体やシャフトの撥水処理によらず、ヒータや温水を用いた加熱装置でバルブを加熱することも考えられるが、この場合、システムが複雑になるだけでなく、コストや消費電力量が増加するおそれがある。
【0009】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、氷結固着防止性能を長く維持できるカソードガスの流量制御バルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明は、アノードガスおよびカソードガスの反応により発電する燃料電池(例えば、後述の燃料電池10)を備えた燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)のうちカソードガスが流通する流路(例えば、後述のエア供給配管21およびエア排出配管22)に設けられ、カソードガスの流量を制御するカソードガスの流量制御バルブ(例えば、後述の流量制御バルブ40、50)を提供する。前記流量制御バルブは、カソードガスが流通するカソード流路(例えば、後述のカソード流路42)および当該カソード流路に連通するシャフト孔部(例えば、後述のシャフト孔部48)が形成されたバルブボディ(例えば、後述のバルブボディ41)と、前記カソード流路内に設けられ、当該カソード流路の開口面積を変更する弁体(例えば、後述の弁体43)と、前記シャフト孔部に挿通して設けられ、前記弁体を駆動するシャフト(例えば、後述のシャフト46)と、を備える。前記バルブボディのシャフト孔部の内周面には、フッ素樹脂コーティング層が形成され、前記シャフトの外周面には、フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成されている。
【0011】
本発明では、バルブボディのシャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成し、このシャフト孔部に挿通されるシャフトの外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成した。このフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成された面における水の接触角は110〜114度程度であり、フッ素樹脂コーティング層とほぼ同じ程度である。このように撥水処理が施された表面で挟まれた空間には、毛細管現象により水が浸入しにくくなる。このため、カソード流路側の水が、シャフト孔部の内周面とシャフトの外周面との間の隙間を伝ってシャフト孔部の奥へ侵入するのを防止することができるので、シャフトとシャフト孔部とが氷結固着するのを防止できる。また、シャフトの外周面にはフッ素樹脂コーティング層よりも耐久性の高いフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成した。フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層は、適切な前処理の後に形成されたものであれば、フッ素樹脂コーティング層と比較して、容易に摩滅したり剥離したりすることもない。したがって本発明によれば、上述のように燃料電池システムを繰り返し氷点下起動してもその撥水性能が低下することがないので、シャフトとシャフト孔部との氷結固着を防止する性能を長く維持することができる。
【0012】
上記目的を達成するため本発明は、アノードガスおよびカソードガスの反応により発電する燃料電池(例えば、後述の燃料電池10)を備えた燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)のうちカソードガスが流通する流路(例えば、後述のエア供給配管21およびエア排出配管22)に設けられ、カソードガスの流量を制御するカソードガスの流量制御バルブ(例えば、後述の流量制御バルブ40、50)の製造方法を提供する。この製造方法では、カソードガスが流通するカソード流路(例えば、後述のカソード流路42)および当該カソード流路に連通するシャフト孔部(例えば、後述のシャフト孔部48)が形成されたバルブボディ(例えば、後述のバルブボディ41)と、前記カソード流路内の弁体(例えば、後述の弁体43)を駆動するシャフト(例えば、後述のシャフト46)と、を準備する。次に、前記バルブボディのうち前記シャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成する第1撥水処理(例えば、後述の図5のS11〜S17)、並びに、前記シャフトを、フッ素樹脂粒子を含有するニッケルめっき液に含浸することにより、当該シャフトの外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する第2撥水処理(例えば、後述の図4のS1〜S9)を行い、前記フッ素樹脂コーティング層が形成されたシャフト孔部に、前記フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成されたシャフトを挿通する。
【0013】
本発明では、第1撥水処理を行うことでシャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成し、第2撥水処理を行うことでシャフトの外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成し、さらにこのシャフト孔部にシャフトを挿通して流量制御バルブを製造する。したがって、本発明により製造されたカソードガスの流量制御バルブによれば、上記流量制御バルブと同様の効果を奏する。
【0014】
ところで、コーティング層は、母材にコーティング剤を塗布することで形成されるのに対し、無電解ニッケルめっき層は、母材をニッケルめっき液に含浸することで形成される。
このため、例えば、バルブボディのシャフト孔部の内周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する場合、バルブボディのうちシャフト孔部を除いた部分をマスキングした上で、ニッケルめっき液に含浸する必要がある。弁体やシャフトが組み付けられるバルブボディには、ねじ穴やシール面などニッケルめっき層が形成されると不都合が生じる部分があるため、特に厳重にマスキングする必要がある。
一方、本発明のように、バルブボディのシャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成する場合、バルブボディのうちシャフト孔部の周囲のみをマスキングした上で、コーティング剤を塗布すればよい。このとき必要なマスキングは、シャフト孔部の周囲だけでよいので、上述のようにニッケルめっき液に含浸する場合と比較して簡易にすることができる。
したがって、本発明によれば、バルブボディおよびシャフトの両方にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する場合に対して、ほぼ同等の効果を奏しつつ、製造にかかるコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る流量制御バルブを適用した燃料電池システムの構成を模式的に示す図である。
【図2】上記実施形態に係る流量制御バルブの構成を示す部分断面図である。
【図3】上記実施形態に係るシャフト囲繞部およびシャフトの構成を示す部分断面図である。
【図4】上記実施形態に係るシャフトの外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する手順を示す図である。
【図5】上記実施形態に係るバルブボディのシャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成する手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るカソードガスの流量制御バルブが適用された燃料電池システム1の概略構成を示すブロック図である。
燃料電池システム1は、自動車に搭載され、反応ガスを反応させて発電を行う燃料電池10と、この燃料電池10に水素ガスやエア(空気)を供給および排出する供給装置20と、これら燃料電池10および供給装置20を制御する制御装置30と、を有する。燃料電池10は、アノード電極(陰極)側にアノードガスとしての水素ガスが供給され、カソード電極(陽極)側にカソードガスとしての酸素を含むエアが供給されると、電気化学反応により発電する。
【0017】
供給装置20は、圧縮エアを生成するエアポンプ24と、燃料電池10に接続されエアポンプ24で圧縮したエアをカソード電極側に供給するエア供給配管21と、燃料電池10に接続されそのカソード電極側からエアを排出するエア排出配管22と、を備える。この他、供給装置20は、燃料電池10のアノード電極側に水素ガスを供給する図示しない水素供給配管と、燃料電池10のアノード電極側から水素ガスを排出する図示しない水素排出配管と、を備える。
エア供給配管21およびエア排出配管22には、加湿器23が設けられる。この加湿器23は、エア排出配管22を流通するエアに含まれる水分を回収し、この回収した水分を、エア供給配管21を流通するエアに加える。
【0018】
エアが流通するエア供給配管21およびエア排出配管22のうち燃料電池10と加湿器23との間には、それぞれ、エアの流量を制御する流量制御バルブ40、50が設けられる。これら流量制御バルブ40、50は、図示しないアクチュエータを介して制御装置30に接続されており、その開度は制御装置30から送信される制御信号に応じて制御される。
【0019】
以下、エア排出配管22に設けられた出口側の流量制御バルブ40の詳細な構成について説明する。なお、エア供給配管21に設けられた入口側の流量制御バルブ50の構成は、出口側の流量制御バルブ40とほぼ同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0020】
図2は、流量制御バルブ40の断面図である。
流量制御バルブ40は、エアが流通するカソード流路42が形成されたバルブボディ41と、円盤状の弁体43と、この弁体43を回転するシャフト46と、を備える。この流量制御バルブ40は、カソード流路42内に設けられた弁体43をシャフト46で回動しカソード流路42の開口面積を変更することにより、カソード流路42を流れるエアの流量を制御する所謂バタフライバルブである。
【0021】
バルブボディ41の略中央には、直線状のカソード流路42が形成されている。また、このバルブボディ41のうちカソード流路42を挟んだ両側には、カソード流路42の延在方向に対し略垂直に延び、カソード流路42に連通するシャフト孔部47、48が形成されている。
【0022】
シャフト46は、これらシャフト孔部47、48に挿通され、これらシャフト孔部47、48内で回動可能となっている。また、これらシャフト孔部47、48に挿通されたシャフト46には、ねじ461により弁体43が取り付けられている。これにより、図示しない電磁アクチュエータでシャフト46を回動し、弁体43のカソード流路42に対する角度、ひいてはカソード流路42の開口面積を変更することが可能となっている。
【0023】
シャフト孔部47の内周面には、周方向に沿って段差部471が形成されている。この段差部471には、カソード流路42内のエアがシャフト46の外周面を伝ってバルブボディ41の外側に流出するのを防止するリップシール472と、このリップシール472を保持するカラー部材473と、シャフト46をシャフト孔部47内で回動可能に支持する軸受け474とが、カソード流路42側から外側へ向ってこの順で嵌装されている。また、シャフト孔部47のうち段差部471よりもカソード流路42側の部分は、所定の隙間を介してシャフト46の外周面を囲繞するシャフト囲繞部475となっている。
【0024】
シャフト孔部48の内周面にも同様に段差部481が形成されており、この段差部481には、リップシール482、カラー部材483および軸受け484が、カソード流路42側から外側へ向ってこの順で嵌装されている。また、このシャフト孔部48のうち段差部481よりもカソード流路42側の部分は、所定の隙間を介してシャフト46の外周面を囲繞するシャフト囲繞部485となっている。
【0025】
以上のように構成されたバルブボディ41およびシャフト46には、カソード流路42内の水滴が、シャフト46の外周面とシャフト囲繞部475、485の内周面との間の隙間を伝ってバルブボディ41の外側へ漏れるのを防止するため、撥水処理が施されている。より具体的には、シャフト孔部47、48のシャフト囲繞部475、485の内周面には、フッ素樹脂コーティング層が形成されており、シャフト46の外周面には、フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成されている。
フッ素樹脂コーティング層およびフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層の表面は、水の接触角が110〜114度程度あり撥水効果が高い。このような撥水処理が施された表面で挟まれた空間には、毛細管現象により水が浸入しにくくなるため、カソード流路42側の水が、上記隙間を介してバルブボディ41の外に漏れるのを防止することができる。
【0026】
図3は、シャフト46をバルブボディに組み付けたときにおけるシャフト孔部のシャフト囲繞部475およびシャフト46の構成を示す部分断面図である。以下では、直径が8[mm]のシャフト46を用いた場合について説明するが、本発明はこれに限るものではない。
【0027】
シャフト囲繞部475の内径は、その内周面とシャフト46の外周面との間の隙間が0.1[mm]以下になるように形成される。また、図3に示すように、シャフト囲繞部475の内周面のうち、シャフト46の外周面に対向する領域に、フッ素樹脂コーティング層を形成する。
【0028】
一方、シャフト46の外周面には、図3に示すようにシャフト46をバルブボディに組み付けたときに、カソード流路42内に露出する領域(以下、「露出領域」という)と、シャフト囲繞部475に重複する領域(以下、「重複領域」という)との両方にわたってフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する。
【0029】
重複領域における上記めっき層の軸方向に沿った長さは、1つの水滴がシャフト46の外周面に沿って均一な厚みで広がった場合を想定し、この広がった水をシャフト囲繞部475とシャフト46の隙間から確実に排除できるように設定する。より具体的には、重複領域における上記めっき層の軸方向に沿った長さは、シャフト46の外周面のめっき層とシャフト囲繞部475のコーティング層との隙間の体積が、水滴1つ分の体積よりも大きくなるように設定する。例えば、水滴の直径を2[mm]とし、シャフト46の直径を8[mm]とし、シャフト囲繞部475とシャフト46の隙間を0.1[mm]とした場合、上記水滴の体積(約4.189[mm])よりも大きな体積の隙間を確保するためには、重複領域におけるめっき層の軸方向に沿った長さを1.646[mm]以上、例えば2[mm]に設定すればよい。
なお、シャフト囲繞部475とシャフト46の隙間を一定にしながらシャフト46の直径を大きくした場合、軸方向に沿った単位長さ当りの上記隙間の体積が大きくなるので、上記めっき層の軸方向に沿った長さも短くすることができる。
【0030】
一方、上記露出領域における上記めっき層の軸方向に沿った長さは、めっき層を形成していない面における水滴の幅(例えば、4[mm])より長くなるように設定する。
図3に示すように、めっき層が形成されていない面の水の接触角は、めっき層が形成された面よりも小さいため、水滴の頂点の高さは低くなり軸方向に沿った幅が大きくなる。このように、表面に沿って広がった水滴が、カソード流路42側からシャフト囲繞部475とシャフト46の隙間に侵入するのを効率的に防止するためには、上述のように、めっき層を形成していない面における水滴の幅より長いめっき層を、露出領域に形成することが好ましい。
【0031】
なお、詳細な説明を省略するが、シャフト囲繞部485と、シャフト46のシャフト囲繞部485側の部分も同様の撥水処理が施される。
【0032】
以下、図4および図5を参照して、流量制御バルブの具体的な製造方法について説明する。
図4は、シャフトの外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する手順を示す図である。ここでは、シャフトの材料としてステンレス鋼材を用いた場合における具体的な手順を説明する。なお、ステンレス鋼材に無電解ニッケルめっき層を形成する場合、ニッケルめっきの母材への密着性を向上し、めっき層の剥がれを防止するには、前処理として酸化皮膜を除去するべくニッケルストライク処理(後述のS3参照)を施しておくことが好ましい。
【0033】
先ず、スロットルシャフトの全面を脱脂液で洗浄した後、乾燥する(S1)。乾燥したスロットルシャフトのうち、めっき層を形成しない非めっき処理面にマスキングテープを貼り(S2)、これをニッケルストライク処理用の処理液(例えば、塩酸ニッケル)に含浸する(S3、ニッケルストライク処理)。ニッケルストライク処理が完了した後、S2で貼り付けられたマスキングテープを剥がし、これを全面洗浄し(S4)、乾燥する(S5)。
次に、乾燥したスロットルシャフトのうち非めっき処理面にマスキングテープを貼り(S6)、これを、フッ素樹脂粒子を含有した無電解ニッケルめっき液に含浸する(S7、フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき処理)。ここで、めっき液はアルカリ性のため、耐アルカリ性の接着材を用いたマスキングテープ(例えば、ブチルゴム自己融着テープ)を用いることが好ましい。フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき処理が完了した後、S6で貼り付けられたマスキングテープを剥がした後、これを全面洗浄し(S8)、乾燥する(S9)。
【0034】
図5は、バルブボディのシャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成する手順を示す図である。
先ず、スロットルボディの全面を脱脂液で洗浄した後、乾燥する(S11)。乾燥したスロットルボディのうち、フッ素樹脂コーティング層を形成しない非コーティング処理面にマスキングテープを貼る(S12)。ここで、マスキングテープを貼る領域は、上述のフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっきと異なり、非コーティング処理面の全面である必要はなく、コーティング層を形成するシャフト孔部の周囲のみでよい。次に、スロットルボディのうちシャフト孔部の内周面に、フッ素樹脂コーティング剤を吹き付け塗装する(S13、フッ素樹脂コーティング処理)。次に、フッ素樹脂コーティング処理を施したスロットルボディを乾燥し(S14)、S12で貼り付けたマスキングテープを除去し(S15)、所定時間に亘って焼成し(S16)、自然冷却する(S17)。
流量制御バルブは、以上の手順で撥水処理が施されたバルブボディのシャフト孔部に、上記図4に示す手順で撥水処理を施したシャフトを挿通し、さらにこのシャフトに弁体、リップシール、カラー部材および軸受けなどを組み付けることにより製造される。
【0035】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態では、バルブボディ41のシャフト孔部47の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成し、このシャフト孔部47に挿通されるシャフト46の外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成した。これにより、カソード流路42側の水が、シャフト孔部47の内周面とシャフト46の外周面との間の隙間を伝ってシャフト孔部47の奥へ侵入するのを防止することができるので、シャフト46とシャフト孔部47とが氷結固着するのを防止できる。また、本実施形態では、シャフト46の外周面にはフッ素樹脂コーティング層よりも耐久性の高いフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成した。フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層は、適切な前処理の後に形成されたものであれば、フッ素樹脂コーティング層と比較して、容易に摩滅したり剥離したりすることもない。したがって、燃料電池システム1を繰り返し氷点下起動してもその撥水性能が低下することがないので、シャフト46とシャフト孔部47との氷結固着を防止する性能を長く維持することができる。
【0036】
(2)本実施形態では、バルブボディ41のシャフト孔部47の内周面にはフッ素樹脂コーティング層を形成した。このため、母材をめっき液に含浸する必要のあるフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき処理を行う場合と比較して、マスキングを簡易にすることができる。したがって、バルブボディ41およびシャフト46の両方にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する場合に対して、ほぼ同等の効果を奏しつつ、製造にかかるコストを低減することができる。
【0037】
上記実施形態では、円盤状の弁体でカソード流路の開口面積を変更するバタフライバルブを例に説明したが、本発明はこれに限らない。球状の弁体でカソード流路の開口面積を変更するボールバルブに適用することもできる。
【符号の説明】
【0038】
1…燃料電池システム
10…燃料電池
21…エア供給配管
22…エア排出配管
40、50…流量制御バルブ
41…バルブボディ
42…カソード流路
43…弁体
46…シャフト
47…シャフト孔部
475…シャフト囲繞部
48…シャフト孔部
485…シャフト囲繞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガスおよびカソードガスの反応により発電する燃料電池を備えた燃料電池システムのうちカソードガスが流通する流路に設けられ、カソードガスの流量を制御するカソードガスの流量制御バルブであって、
前記流量制御バルブは、
カソードガスが流通するカソード流路および当該カソード流路に連通するシャフト孔部が形成されたバルブボディと、
前記カソード流路内に設けられ、当該カソード流路の開口面積を変更する弁体と、
前記シャフト孔部に挿通して設けられ、前記弁体を駆動するシャフトと、を備え、
前記バルブボディのシャフト孔部の内周面には、フッ素樹脂コーティング層が形成され、
前記シャフトの外周面には、フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成されていることを特徴とするカソードガスの流量制御バルブ。
【請求項2】
アノードガスおよびカソードガスの反応により発電する燃料電池を備えた燃料電池システムのうちカソードガスが流通する流路に設けられ、カソードガスの流量を制御するカソードガスの流量制御バルブの製造方法であって、
カソードガスが流通するカソード流路および当該カソード流路に連通するシャフト孔部が形成されたバルブボディと、
前記カソード流路内の弁体を駆動するシャフトと、を準備し、
前記バルブボディのうち前記シャフト孔部の内周面にフッ素樹脂コーティング層を形成する第1撥水処理、並びに、前記シャフトを、フッ素樹脂粒子を含有するニッケルめっき液に含浸することにより、当該シャフトの外周面にフッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層を形成する第2撥水処理を行い、
前記フッ素樹脂コーティング層が形成されたシャフト孔部に、前記フッ素樹脂複合無電解ニッケルめっき層が形成されたシャフトを挿通することを特徴とするカソードガスの流量制御バルブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−241864(P2011−241864A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112558(P2010−112558)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】