説明

カソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物、カソードフィルム、それらの製造方法及び電池

【課題】 本発明の目的は、厚みが薄く均一で、安定した電気的特性を有するカソードフィルムを、押出成形法で生産性高く製造するための技術を提供する。
【解決手段】ポリエーテル系重合体と、活物質と、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥して得た分散安定剤被覆炭素粒子と、を含有してなるカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物。このカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を押出成形してなるカソードフィルム。このカソードフィルムを含んでなる電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物、カソードフィルム、それらの製造方法及び電池に関し、より具体的には、厚みが薄く均一で、安定した電気的特性を有するカソードフィルムを、生産性高く製造するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池等の電池においては、電解液を用いたものが一般的であったが、液漏れに起因する種々の問題が生じていたことから、近年では電解液に代えてゲル電解質や高分子固体電解質を採用した、いわゆるポリマー電池の普及が進んでいる。このポリマー電池の高分子固体電解質を構成する材料として、ポリエーテル系重合体が好適に用いられることが知られてきたが、最近では、ポリエーテル系重合体に活物質や導電性付与剤を添加した組成物がポリマー電池の正極を構成するフィルム(カソードフィルム)の材料としても好適に用いられることが明らかとなってきている。例えば、特許文献1には、ポリエチレンオキシドと正極活物質微粒子と導電性微粒子からなる正極シートを有するリチウムポリマー電池が提案されている。この特許文献1のリチウムポリマー電池は、小型軽量で充放電容量が大きいものであるとされている。
【0003】
しかし、ポリエーテル系重合体は、引張強度等の機械的強度が十分大きくなるような組成や分子量等にすると、溶融粘度が高くなり、押出成形法には適さなくなるという難点があった。そのため特許文献1のリチウムポリマー電池の製造においても、正極シートを得る手法として、加熱軟化した材料をアルミニウム箔上に塗着するなどの手法が採用されているが、生産性の点において問題があった。
【0004】
この問題点を解決すべく、ポリエーテル系重合体に押出成形法を適用してカソードフィルムを生産性良く製造するための種々の研究が進められているが、厚みの薄さや均一性、及び電気的特性の点において更なる改良が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−319692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、厚みが薄く均一で、安定した電気的特性を有するカソードフィルムを、押出成形法で生産性高く製造するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成すべく、導電性付与剤に着目して鋭意検討を重ねた結果、特定の分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥して得た分散安定剤被覆炭素粒子を導電性付与剤としてポリエーテル系重合体に配合して得られる組成物を材料として用いることにより、厚みが薄く均一で、安定した電気的特性を有するカソードフィルムを、押出成形法で生産性高く製造することができることを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば、ポリエーテル系重合体と、活物質と、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥して得た分散安定剤被覆炭素粒子と、を含有してなるカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物が提供される。
【0009】
前記カソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物は、さらに、電解質塩化合物を含有してなることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、前記カソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を押出成形してなるカソードフィルムが提供される。
【0011】
本発明によれば、前記カソードフィルムを含んでなる電池が提供される。
【0012】
本発明によれば、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥することにより、分散安定剤被覆炭素粒子を得て、該分散安定剤被覆炭素粒子と、ポリエーテル系重合体と、活物質と、を混合して組成物を得るカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法が提供される。
【0013】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法において、前記分散安定剤が、400以上の分子量を有する有機酸誘導体であることが好ましい。
【0014】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法において、前記分散安定剤が、フミン酸誘導体であることが特に好ましい。
【0015】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法において、 前記炭素粒子水性分散液が、炭素粒子100重量部に対して、分散安定剤1.5〜30重量部を含んでなるものであることが好ましい。
【0016】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法において、得られる分散安定剤被覆炭素粒子の水分量が5,000ppm以下になるまで、炭素粒子水性分散液を乾燥することが好ましい。
【0017】
本発明によれば、分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥することにより、分散安定剤被覆炭素粒子を得て、該分散安定剤被覆炭素粒子と、ポリエーテル系重合体と、活物質と、を混合して組成物を得て、該組成物を押出成形によりフィルムに成形するカソードフィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、厚みが薄く均一で、安定した電気的特性を有するカソードフィルムを、押出成形法で生産性高く製造するために好適に用いられるカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物とその製造方法、それから得られるカソードフィルムとその製造方法、さらにそれから得られる電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物は、カソードフィルムを得るための材料として用いる組成物であって、ポリエーテル系重合体と、活物質と、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥して得た分散安定剤被覆炭素粒子と、を含有してなることを特徴とするものである。
【0020】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物で用いるポリエーテル系重合体は、オキシアルキレン繰り返し単位を主構造単位とする重合体であれば特に限定されないが、通常、オキシラン単量体を開環重合して得られる重合体であり、1種のオキシラン単量体の単独重合体であっても、2種以上のオキシラン単量体の共重合体であっても、または1種もしくは2種以上のオキシラン単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。このポリエーテル系重合体において、オキシラン単量体単位の種類および量比は特に限定されないが、カソードフィルムの機械的強度を良好にする観点からは、少なくともエチレンオキシド単量体単位を含んでなることが好ましい。なかでも、本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物では、エチレンオキシド単量体(a)単位と、エチレンオキシドと共重合可能なエチレンオキシド以外のオキシラン単量体(b)単位の含有量のモル比が、〔単量体(a)単位のモル数/単量体(b)単位のモル数〕で、好ましくは、85/15〜99/1、より好ましくは90/10〜99/1であるポリエーテル系重合体が特に好適に用いられる。ポリエーテル系重合体のエチレンオキシド単量体(a)単位含有量が少なすぎると、カソードフィルムの機械的強度が不足するおそれや、カソードフィルム製造時に、カソードフィルムが冷却ロール等に粘着し易くなるおそれが生じる。また、エチレンオキシド単量体(a)単位含有量が多すぎると、平滑なカソードフィルムを得るのが困難になるおそれが生じる。
【0021】
ポリエーテル系重合体を得るために用いるエチレンオキシドと共重合可能なエチレンオキシド以外のオキシラン単量体(b)としては、例えば、炭素数3〜20のアルキレンオキシド、炭素数4〜10のグリシジルエーテル、芳香族ビニル化合物のオキシド、これらのオキシラン単量体にビニル基、水酸基又は酸無水物基などの架橋性の官能基を導入した架橋性オキシラン単量体などが挙げられる。また、これらのオキシラン単量体(b)は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、少なくとも、炭素数3〜20のアルキレンオキシド、または、炭素数4〜10のグリシジルエーテルの何れかを含ませて用いることが好ましく、炭素数3〜20のアルキレンオキシドを含ませて用いることがより好ましく、プロピレンオキシドを含ませて用いることが特に好ましい。
【0022】
ポリエーテル系重合体は、例えば、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、オキシラン単量体を開環重合することにより得ることができる。重合触媒は、特に限定されず、通常、ポリエーテル系重合体を得るために用いられるものを使用すればよい。具体例としては、トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒(特公昭46−27534号公報)等の有機アルミニウム化合物にリン酸を反応させて得られる触媒、有機アルミニウム化合物に水とアセチルアセトンを反応させて得られる触媒(特公昭35−15797号公報)、アルミニウムアルコキサイドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる触媒(特公昭43−2945号公報)、有機亜鉛化合物と多価アルコールからなる触媒(特公昭45−7751号公報)、ジアルキル亜鉛と水からなる触媒(特公昭36−3394号公報)などが挙げられる。これらのなかでも、有機アルミニウム化合物にリン酸を反応させて得られる触媒を用いることが好ましい。
【0023】
有機アルミニウム化合物にリン酸を反応させて得られる触媒を用いる場合は、それらに加えて、ルイス塩基を添加すると重合活性が向上するので好ましい。このように用いられるルイス塩基としては、例えば、トリエチルアミン等のアミン化合物;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキサイド等の有機リン化合物;ジアザビシクロウンデセンおよびその有機酸塩などが挙げられる。
【0024】
重合溶媒としては、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの直鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;などが用いられる。重合方法としては、n−ペンタン、n−へキサン、シクロペンタンなどの溶媒を用いて溶媒スラリー重合することが好ましい。溶媒スラリー重合においては、溶媒に不溶な重合体を与える単量体と溶媒に可溶な重合体を与える単量体とで予め触媒を処理しておくことが、重合反応系の安定性の観点から好ましい。触媒の予備処理は、触媒成分と少量の各単量体とを混合し、0〜100℃、好ましくは30〜50℃の温度で10〜30分熟成させればよい。このようにして熟成した触媒の使用によって重合反応器壁面への重合体の付着を防止することができる。また、重合反応は、0〜100℃、好ましくは30〜70℃で、回分式、半回分式、連続式などの任意の方法で行うことができる。
【0025】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物で用いるポリエーテル系重合体は、その重量平均分子量(Mw)が、好ましくは10万〜150万、より好ましくは15万〜100万、特に好ましくは20万〜60万であり、その分子量分布(Mw/Mn、ここでMnは数平均分子量)が、好ましくは1.5〜13、より好ましくは1.6〜12、特に好ましくは1.7〜11である。ポリエーテル系重合体のMwがこの範囲内であると、これを用いたポリエーテル系重合体組成物を押出成形してカソードフィルムを製造する時の流動性や形状保持性、及び、得られるカソードフィルムの柔軟性や機械的強度が特に良好となる。また、ポリエーテル系重合体のMw/Mnの値がこの範囲内であると、ポリエーテル系重合体組成物の成形性、及び、得られるカソードフィルムの表面平滑性や厚さの均一性が特に良好となる。
【0026】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物で用いるポリエーテル系重合体は、その還元粘度が、好ましくは0.7〜20dl/g、より好ましくは0.8〜15dl/g、特に好ましくは0.85〜10dl/gである。ここで、還元粘度は、ポリエーテル系重合体0.25gを、トルエン100gに溶解した溶液の粘度と、トルエンの粘度とを、ウベローデ型粘度計を用いて25℃で測定することにより求められる値である。
【0027】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物で用いる活物質としては、特に制限はなく、通常、電池のカソード用として使用される活物質を用いることができる。その例としては、コバルト酸リチウム(Li1.2CoO、LiCoOなど)、マンガン酸化物リチウム(LiMn、Li0.33MnOなど)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、バナジウム酸リチウム(LiV)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸鉄リチウムとカーボンとの焼成物、リン酸バナジウム酸リチウム(LiVOPO)、これらの複合酸化物等が挙げられる。活物質の平均粒径は、通常、0.1〜30μm、好ましくは0.5〜20μmである。活物質の平均粒径が大きすぎても小さすぎてもポリエーテル系重合体中に均一に分散しなくなるおそれがある。
【0028】
活物質の配合量は、ポリエーテル系重合体100重量部あたり、通常、10〜5,000重量部、好ましくは30〜2,000重量部、より好ましくは50〜1,000重量部である。カソードフィルム用重合体組成物中の活物質含有量が少なすぎると、得られるカソードフィルムの電極機能が不十分になることがあり、逆に多すぎると、活物質の分散が不均一になるおそれがある。
【0029】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物は、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥することによって得られる、分散安定剤によって被覆された炭素粒子(分散安定剤被覆炭素粒子)を含有してなるものである。また、このとき用いる炭素粒子水性分散液は、水性媒体中に、400以上の分子量を有する分散安定剤が添加されていることによって、炭素粒子が安定的に分散された分散液である。
【0030】
この炭素粒子水性分散液を得るために用いる炭素粒子としては、炭素(単体)を主成分とし、導電性付与剤として機能する粒子であれば特に制限はなく、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックや、グラファイトを用いることができるが、カーボンブラックが好適に用いられ、ケッチェンブラックが特に好適に用いられる。炭素粒子の平均粒径は、通常、10〜80nm、好ましくは20〜50nmである。用いる炭素粒子の平均粒径が小さすぎると、炭素粒子のハンドリングが困難となるうえ、水性分散液中に均一に分散させにくくなるおそれがあり、逆に大きすぎると得られるカソードフィルムの表面に凹凸が生じて、フィルムが破断しやすくなるおそれがある。また、用いる炭素粒子のジブチルフタレート(以下、DBPと記すことがある。)吸油量は、通常、100〜500ml/g、好ましくは150〜400ml/gである。DBP吸油量が小さすぎると、活物質を有効に利用するために炭素粒子を大量に配合する必要が生じる結果、単位重量あたりの電池容量が低下するおそれがあり、大きすぎると分散不良を起こしやすく電池容量が低下するおそれがある。また、炭素粒子水性分散液の安定性を良好にする観点より、過酸化水素や熱硝酸等によって酸化処理して、表面におけるカルボキシル基やヒドロキシル基の量を増やした炭素粒子を用いてもよい。
【0031】
炭素粒子水性分散液を得るために用いる分散安定剤は、炭素粒子水性分散液に添加されることにより、該分散液中の炭素粒子の分散の安定化に寄与し、400以上の分子量を有する物質であれば、特に限定されない。このような分散安定剤としては、有機酸誘導体(カルボン酸塩、スルホン酸塩等)、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤;第4級アンモニウム塩、アミン塩等のカチオン系界面活性剤;両性界面活性剤;ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のノニオン系界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の保護コロイド剤等が挙げられ、これらを併用することもできる。これらのなかでも、アニオン系界面活性剤を用いることが好ましく、さらにその中でも、炭素粒子水性分散液中に炭素粒子を良好に分散させる観点より、有機酸誘導体を用いることが好ましく、フミン酸誘導体を用いることがより好ましく、フミン酸アルカリ金属塩を用いることがさらに好ましい(なお、フミン酸とは、腐植酸とも呼ばれ、腐植のアルカリ可溶・酸不溶画分として得られる有機酸である)。また、これらの分散安定剤は、ポリエーテル系重合体への分散性を良好にする観点より、少なくとも400以上の分子量を有することが必要であり、600〜1,000,000の分子量を有することがより好ましい。
【0032】
炭素粒子水性分散液における分散安定剤の濃度は、特に限定されないが、2〜30重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましい。また、炭素粒子水性分散液は、炭素粒子100重量部に対して、分散安定剤1.5〜30重量部を含んでなるものであることが好ましい。
【0033】
用いる炭素粒子水性分散液のpHは、6〜11にすることが好ましい。pHがこの範囲であることにより、水性分散液の安定性、均一性がより良好となり、分散安定剤によって均一性よく被覆された炭素粒子を得ることができる。なお、有機酸誘導体等の分散安定剤を添加すること等によって、炭素粒子水性分散液のpHが6を下回った場合は、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等を水に溶解して得られるアルカリ性水溶液を添加すればよい。
【0034】
上記したような炭素粒子水性分散液を得るためには、水に炭素粒子と分散安定剤を添加して、攪拌混合した後、必要に応じてpHを調整すればよい。また、上記したような炭素粒子水性分散液として、市販品を使用することも可能であり、例えば、親水性カーボンブラック/Aqua−Black HA3(商品名;東海カーボン社製;フミン酸ナトリウムを含有するカーボンブラック水性分散液)を使用することができる。
【0035】
分散安定剤被覆炭素粒子を得るための炭素粒子水性分散液の乾燥方法は特に限定されず、例えば、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの手法が採用できる。なお、この乾燥は、乾燥(例えば、露点が−30℃以下)雰囲気下、および/または、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、この乾燥は、得られる分散安定剤被覆炭素粒子の水分量が5,000ppm以下になるまで行うことが好ましく、3,000ppm以下になるまで行うことがより好ましい。この水分量が多すぎると、最終的に得られる組成物の電気特性が悪化するおそれがある。
【0036】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物における分散安定剤被覆炭素粒子の配合量は、特に限定されないが、通常、組成物中の活物質100重量部に対して、0.1〜20重量部であり、好ましくは、0.3〜15重量部である。分散安定剤被覆炭素粒子の配合量が活物質に対して少なすぎると、ポリエーテル系重合体に対する分散安定剤被覆炭素粒子の分散性が悪くなるおそれがあり、多すぎると、得られる組成物から均一な厚みを有するカソードフィルムを得ることが困難となるおそれがある。
【0037】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物には、さらに、電解質塩化合物を混合することが好ましい。この電解質塩化合物は、特に限定されないが、ポリエーテル系重合体に可溶のものが好ましく、例えば、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン〔CFSO〕、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン〔N(CFSO〕、ビス(ヘプタフルオロプロピルスルホニル)イミドイオン〔N(CSO〕、トリフルオロスルホンイミドイオン、テトラフルオロホウ素酸イオン〔BF〕、硝酸イオン、AsF、PF、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオンなどの陰イオンと、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどの金属の陽イオンとからなる塩が挙げられる。これらの電解塩化合物の中でも、リチウムイオンを陽イオンとするリチウム塩化合物を用いることが好ましく、なかでも、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiN(CFSO及びLiN(CSOのいずれかを用いることがより好ましい。なお、電解質塩化合物は1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
カソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物中の電解質塩化合物の含有量は、ポリエーテル系重合体100重量部当たり、通常、5〜50重量部、好ましくは10〜45重量部、より好ましくは15〜40重量部である。電解質塩化合物の含有量が少なすぎると、組成物から得られるカソードフィルムのイオン伝導性が低下するおそれがある。また、電解質塩化合物の含有量が多すぎると、得られるカソードフィルムの機械的強度が不十分となり成形加工性が低下するおそれがある。
【0039】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物には、さらに、必要に応じて、分散安定剤被覆炭素粒子以外の導電性付与剤、可塑剤、架橋剤、老化防止剤、光安定剤、滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、補強材、充填剤などの添加剤を配合してもよい。
【0040】
本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法は、上述した分散安定剤被覆炭素粒子と、ポリエーテル系重合体と、活物質と、必要に応じて、電解質塩化合物やその他の添加剤とを混合して組成物を得るものであれば、特に限定されず、それぞれの成分の混合は、いかなる順序で行っても良い。また、この混合は、カソードフィルムを成形するための成形機(押出機)に、それぞれの成分を直接供給して、成形機内で混合を行うことが好ましい。このようにすることにより、ポリエーテル系重合体の溶融、混合、成形を効率的に行うことができる。但し、それぞれの成分を成形機に供給する前に予め混合して組成物を得た後、その組成物を成形機に供給することも可能である。その場合には、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダー等により混合(混練)を行い混練された組成物を得てもよいし、ヘンシェルミキサー等により混合して粉末状の組成物を得てもよい。なお、本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物からカソードフィルムを得るには、押出成形法を適用することが好ましいが、その他の方法も適用することも可能であり、例えば、カレンダーロールやミキシングロールによる成形も可能である。
【0041】
以上のように、本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法において、それぞれの成分の混合は、いかなる順序で行っても良いが、活物質と、分散安定剤被覆炭素粒子とは、これらをポリエーテル系重合体と混合する前に、予め混合しておくことが好ましい。このように、活物質と、分散安定剤被覆炭素粒子とを予め混合した後、これらをポリエーテル系重合体に混合することで、活物質及び分散安定剤被覆炭素粒子を、組成物中に良好に分散させることができる。なお、この混合では、ヘンシェルミキサー等の高速攪拌可能な混合機を用いて、十分に混合することが好ましい。また、このような順序で混合を行う場合においても、電解質塩化合物やその他の添加剤を、これらの成分と混合する順序は特に限定されない。
【0042】
本発明のカソードフィルムは、例えばリチウム電池等の電池のカソードとして用いられるフィルムであって、本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を押出成形することにより得られるものである。本発明のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物からカソードフィルムを得る成形方法として、押出成形を採用することにより、厚みが薄く均一で、安定した電気的特性を有するカソードフィルムを、生産性高く製造することが可能となる。また、従来の溶液キャスト法の場合のように有機溶媒の揮散工程を有しないので環境上も安全である。カソードフィルムを成形するために用いる押出機の種類は特に限定されないが、二軸押出機を用いることが好ましく、材料導入口とダイとの間のバレルの途中に第2導入口を備えた二軸押出機を用いることがより好ましい。第2導入口は、熱履歴や剪断を軽減したい成分を供給する場合に使用することができる。また、用いる押出機のバレルの長さ(L)と内径(D)との比L/Dは、通常、10〜50である。ダイとしては、ストレートマニホルドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイ等のフィルムダイが使用される。
【0043】
本発明のカソードフィルムの製造方法において、薄いフィルムを安定して製造するためには、押出機の混練部の温度は、80〜200℃とすることが好ましく、100〜190℃とすることがより好ましく、110〜180℃とすることが特に好ましい。この混練部の温度が低すぎると組成物の粘度が上がってカソードフィルムを円滑に押し出すことが困難になるおそれがあり、逆に、混練部の温度が高すぎるとポリエーテル系重合体が熱分解を起こして得られるカソードフィルムの強度が低下するおそれがある。
【0044】
押出機のダイから押し出されるカソードフィルムは、通常、冷却ロールを経て引取りロールに巻き取られるが、この際、冷却ロールの表面を鏡面状にすることにより、ダイから押し出されたカソードフィルムの表面を一層平滑に仕上げることができる。
【0045】
本発明のカソードフィルムの厚みは、10〜150μmとすることが好ましく、20〜100μmとすることがより好ましい。フィルムの厚みが薄すぎるとフィルムの取扱い性(ハンドリング性)に劣るおそれがあり、厚すぎると当該フィルムと接触する積層フィルムとの密着性および柔軟性(折り畳んでの使用の容易さ)が低下するおそれがある。
【0046】
本発明の電池は、本発明のカソードフィルムを含んでなる電池である。この電池の種類としては、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属系電池、亜鉛−塩化銀、マグネシウム−塩化銀、マグネシウム−塩化銅等のハロゲン塩電池、ニッケル−水素電池等のプロトン伝導型電池等が挙げられる。これらのなかでも、高電圧、高エネルギーで且つイオン伝導度が固体電解質中で高いリチウム電池に好適に用いられる。また、本発明の電池は、電解質が電解液を含まずに、高分子固体電解質のみからなる電池であることが特にも好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。使用した溶媒、単量体などは、全て脱気脱水処理を行ったものを用いた。なお、実施例および比較例における操作は、断りのない限り露点が−40℃以下である乾燥雰囲気下で行ったものである。また、実施例および比較例中の部および%は、断りのない限り重量基準である。
【0048】
〔測定方法〕
(1)重合体組成
ポリエーテル系重合体の組成は、500MHzH−NMR、及び13C−NMRを用いて測定した。
【0049】
(2)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により測定した。
装置:東ソー株式会社製GPC測定装置
カラム:東ソー株式会社製G7000HHR+GMHHR−H
溶媒:ジメチルホルムアミド(リチウムブロマイド5mmol/L)
流速:1ml/min、カラム温度:40℃
分子量標準物質:ポリマーラボラトリー社製標準ポリスチレン
【0050】
(3)限界引取り速度
フィルムの薄膜成形性の指標として、フィルムの引取り速度を当初4m/分にしてフィルムの押出しを開始し、2分間押出機を運転して安定させてからから引取り速度を1m/分上昇させ、以後同様に各速度で2分間運転後1m/分上昇させていった時に、フィルムが切れる直前の引取り速度(m/分)を求め、限界引取り速度として評価した。
【0051】
(4)平均フィルム厚み
上記(3)の限界引取り速度において得たカソードフィルム試料につきデジタル膜厚計にて長さ方向に20cm間隔の6点について厚み(μm)を測定し、それらの平均値を平均フィルム厚みとした。
【0052】
(5)フィルム厚みのバラツキ度
上記(4)において測定した6点の厚みの測定値の最大値と最小値との差を、上記(4)の平均値(平均フィルム厚み)で除した値を百分率(%)で示した。数値が小さいほど厚みのバラツキが小さい。
【0053】
(6)平均インピーダンス
ステンレス鋼製容器(直径20mm、高さ3mm)のキャップとの接合面にポリプロピレン製ガスケット(外径20mm、内径16mm、高さ3mm)を設置した。上記(3)の限界引取り速度において得たカソードフィルム試料を直径15mmの円形に切り抜き、ステンレス鋼製容器の底部にセットし、その上にステンレス鋼製円板(直径15mm、厚さ1mm)、次いでバネ(外径15mm、内径10.6mm、高さ1.7mm)を重ねた。その後、ステンレス鋼製キャップをかぶせて閉め、厚さ約3.2mmのコイン型電池を作製した。これと同様にして、全部で6個のコイン型電池を作製し、これらについて電気化学測定システム(インピーダンスアナライザー1260型、ソーラトロン社製)によりZcosθ(Ω)を測定して平均値を求めた。
【0054】
(7)インピーダンスのバラツキ度
上記(6)における6個のコイン型電池について測定したZcosθの最大値と最小値の差を、上記(6)の平均値(平均インピーダンス)で除した値を百分率(%)で示した。数値が小さいほどバラツキが小さい。
【0055】
(8)初期電池容量
上記(6)と同様にポリプロピレン製ガスケットを設置したステンレス鋼製容器の底にカソードフィルム、次いでポリエーテル系重合体とリチウムトリフルオロメタンスルホニルイミドからなる架橋高分子固体電解質フィルム(下記注参照)、ステンレス鋼製円板及びバネを順次重ね、ステンレス鋼製キャップをかぶせて閉め、厚さ約3.2mmのコイン型電池を作製した。電池容量の測定は、60℃で充放電レートを0.2Cとし、定電流法にて、所定の充放電電圧(充放電の電圧差1.5V)を2回印加した後の初期電池容量を測定した。これと同様にして、全部で6個のコイン型電池を作製し、これらについて測定した初期電池容量(mAh/g−活物質)の平均値を求めた。
(注)n−ヘキサン中で、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びアリルグリシジルエーテルを用いてシード重合を行うことにより得た、EO単位93.5モル%、PO単位2.8モル%及びアリルグリシジルエーテル(AGE)単位3.7モル%であり、Mwが350,000、Mw/Mnが10.2であるポリエーテル系重合体100部とリチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド32部及びベンジルメチルケタール2部をテトラヒドロフランに溶解し、フッ素樹脂板に塗布、乾燥して得た厚み約100μmのフィルムに紫外線照射し、架橋した高分子固体電解質フィルムを得た。
【0056】
〔ポリエーテル系重合体の製造〕
ジャケット及び攪拌機付きオートクレーブを乾燥して窒素置換し、トリイソブチルアルミニウム65.1部、トルエン217.9部及びジエチルエーテル121.6部を仕込んだ。内温を30℃に設定して攪拌しながらリン酸11.26部を10分間かけて一定速度で添加した。これにトリエチルアミン5部を添加し、60℃で2時間熟成反応し、触媒溶液を得た。オートクレーブを窒素置換し、n−ヘキサン1514部と上記触媒溶液63.3部を仕込んだ。内温を30℃に設定して、攪拌しながらエチレンオキシドを7.4部加えて反応させ、次いで、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの等重量混合単量体を14.7部加えて反応させ、シードを形成した。内温を60℃に設定して、シードを形成した重合反応液に、エチレンオキシド439.6部(92モル%)、プロピレンオキシド50.4部(8モル%)、n−ヘキサン427.4部からなる混合溶液を5時間かけて連続的に等速度で添加した。添加終了後、反応を2時間継続した。重合反応率は98%であった。得られたスラリーに、老化防止剤として4,4´−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の5%のトルエン溶液42.4部を添加攪拌した。ポリマークラムをろ過後、40℃で真空乾燥して粉体状のポリエーテル系重合体を得た。ポリエーテル系重合体の組成は、エチレンオキシド(EO)単位91.5モル%、プロピレンオキシド(PO)単位8.5モル%であった。また、この重合体のMwは272,000、Mw/Mnは4.5、還元粘度は1.8dl/gであった。
【0057】
〔実施例1〕
〔分散安定剤被覆炭素粒子の製造〕
セパラブルフラスコに1Lの水を入れ、室温(23℃)下、攪拌しながらケッチェンブラックEC(商品名、ライオン社製、平均粒径39.5nm、DBP吸油量360ml/g)を200g添加し、さらに、フミン酸ナトリウム(アルドリッチ社製)80gを添加した。添加終了後、液温を80℃に昇温して3時間攪拌した。次いで、液温を室温に冷却した後、pHが8になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加して、炭素粒子水性分散液を得た。得られた炭素粒子水性分散液を、ホーローバットに注ぎ、室温、常湿度下で、10時間風乾した後、さらに、室温、乾燥雰囲気(露点−40〜−50℃に制御)下、15時間風乾することにより、分散安定剤被覆炭素粒子を得た。
【0058】
〔カソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造〕
ヘンシェルミキサー(FM10BF、三井三池化工社製、内容積9リットル)に、活物質(Li0.33MnO、中央電気工業社製、平均粒径0.5μm)93.5部、及び、上記分散安定剤被覆炭素粒子6.5部を仕込み、撹拌翼回転数1500RPM、撹拌翼先端周速度14.4m/秒にて撹拌開始した。設定温度30℃で3分攪拌して、活物質と分散安定剤被覆炭素粒子との混合物を得た。
【0059】
次いで、この活物質と分散安定剤被覆炭素粒子との混合物100部と、上記のポリエーテル系重合体26.8部と、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド〔LiN(CFSO、キシダ化学社製〕8.9部とを25mm径二軸押出機(スクリュー回転数200RPM、L/D=40)の導入部に供給して、二軸押出機内で実施例1のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を得た。
【0060】
〔カソードフィルムの製造〕
上記二軸押出機内で実施例1のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を、そのままコートハンガーフィルムダイで、押出量14.3kg/hrにて押し出した。押出機の温度条件は、導入部30℃、溶融部50〜100℃、混練部180℃、ヘッド140℃、ダイ140℃であった。押し出されたフィルム(幅200mm)は冷却ロール(直径200mm)に接触させた後、引取りロール(直径200mm)で巻き取って、実施例1のカソードフィルムを得た。得られたカソードフィルムの限界引取り速度、平均フィルム厚み、フィルム厚みのバラツキ度、該カソードフィルムを用いて作製したコイン型電池の平均インピーダンス、インピーダンスのバラツキ度及び初期電池容量を測定した結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造における活物質と分散安定剤被覆炭素粒子との混合物100部に代えて、該混合物中に含まれるものと同じ種類と量の活物質と分散安定剤被覆炭素粒子とを、それぞれ別個に二軸押出機に供給したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物及びカソードフィルムを製造した。得られたカソードフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0062】
〔実施例3〕
実施例2の分散安定剤被覆炭素粒子の製造におけるフミン酸ナトリウム80gに代えて、PEG#1000(商品名、ライオン社製、重量平均分子量1000のポリエチレングリコール)80gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物及びカソードフィルムを製造した。得られたカソードフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0063】
〔比較例1〕
分散安定剤被覆炭素粒子の製造を行わなかったこと、及び、実施例2のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造における分散安定剤被覆炭素粒子6.5部(ケッチェンブラックECを4.7部含んでいる)に代えて、ケッチェンブラックEC4.7部をそのまま用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例1のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物及びカソードフィルムを製造した。得られたカソードフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0064】
〔比較例2〕
分散安定剤被覆炭素粒子の製造を行わなかったこと、及び、実施例2のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造において、分散安定剤被覆炭素粒子6.5部(ケッチェンブラックECを4.7部含んでいる)に代えて、ケッチェンブラックEC4.7部をそのまま用い、二軸押出機に供給するものとしてPEG#1000を1.8部加えたことこと以外は、実施例2と同様にして、比較例2のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物及びカソードフィルムを製造した。得られたカソードフィルムについて、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1からわかるように、ポリエーテル系重合体と、活物質と、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥して得た分散安定剤被覆炭素粒子と、を含有してなるカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を用いることにより、カソードフィルムを高引取り速度で生産性高く製造することができる。また、得られるカソードフィルムは厚みが薄くて均一であり、それをカソードとして用いたコイン型電池は安定して低いインピーダンスと高い電池容量を示した(実施例1〜3)。一方、分散安定剤被覆炭素粒子に代えて、炭素粒子をそのまま用いた場合や、炭素粒子と分散安定剤とを、水性分散液を経ることなく、単に混合しただけの場合は、カソードフィルムの限界引取り速度は低くなって生産性が低下した。また、得られたカソードフィルムは厚みが不均一であり、そのカソードフィルムのインピーダンスは高くてバラツキが大きく、初期電池容量も低い値を示した(比較例1〜2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル系重合体と、活物質と、400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥して得た分散安定剤被覆炭素粒子と、を含有してなるカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物。
【請求項2】
さらに、電解質塩化合物を含有してなる請求項1に記載のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物を押出成形してなるカソードフィルム。
【請求項4】
請求項3に記載のカソードフィルムを含んでなる電池。
【請求項5】
400以上の分子量を有する分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥することにより、分散安定剤被覆炭素粒子を得て、
該分散安定剤被覆炭素粒子と、ポリエーテル系重合体と、活物質と、を混合して組成物を得るカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法。
【請求項6】
前記分散安定剤が、400以上の分子量を有する有機酸誘導体である請求項5に記載のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法。
【請求項7】
前記分散安定剤が、フミン酸誘導体である請求項6に記載のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法。
【請求項8】
前記炭素粒子水性分散液が、炭素粒子100重量部に対して、分散安定剤1.5〜30重量部を含んでなるものである請求項5〜7のいずれかに記載のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法。
【請求項9】
得られる分散安定剤被覆炭素粒子の水分量が5,000ppm以下になるまで、炭素粒子水性分散液を乾燥する請求項5〜8のいずれかに記載のカソードフィルム用ポリエーテル系重合体組成物の製造方法。
【請求項10】
分散安定剤によって安定化された炭素粒子水性分散液を乾燥することにより、分散安定剤被覆炭素粒子を得て、
該分散安定剤被覆炭素粒子と、ポリエーテル系重合体と、活物質と、を混合して組成物を得て、
該組成物を押出成形によりフィルムに成形するカソードフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−156255(P2006−156255A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347719(P2004−347719)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】