説明

カソードルミネッセンス材料及びその製造方法

【課題】 これまで用いられなかった分野への進出が可能になる上、従来のものと組み合わせることによりその用途を飛躍的に拡大しうる、従来とは全く異なった種類の新規なカソードルミネッセンス材料を提供する。
【解決手段】 脱アルミニウム処理したゼオライトと、その細孔中に充填された金属又は金属酸化物との複合体であって、金属又は金属に換算した金属酸化物の量が脱アルミニウム化したゼオライト100重量部当り、10〜60重量部の範囲にあるものから成るカソードルミネッセンス材料とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なカソードルミネッセンス材料すなわち電子線の照射により発光する材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般にカソードルミネッセンス材料は、ブラウン管やディスプレーにおける発光体として用いられているが、これまで亜鉛化合物例えばZn2SiO4,ZnCdSをベースとし、これにマンガンや銀を配合して複合化合物としたものが知られているにすぎない。他方、ゼオライトに少量の金属又は金属酸化物を担持させたものは、種々の触媒として提案されているが、これらの中でカソードルミネッセンスの性質を示すものは知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このように、これまで知られているカソードルミネッセンス材料は亜鉛化合物をベースとしたものだけであり、それ以外のものはまだ知られていないため、その利用範囲が制限されるのを免れないが、新らしいカソードルミネッセンス材料が開発されれば、これまで用いられなかった分野への進出が可能になる上、従来のものと組み合わせることによりその用途を飛躍的に拡大することができる。本発明は、これを実現するために、新規なカソードルミネッセンス材料を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、新規なカソードルミネッセンス材料を開発するために鋭意研究を重ねた結果、脱アルミニウム化したゼオライトと、その細孔に比較的多量の金属又は金属酸化物を充填した複合体は、意外にも可視光領域において強いカソードルミネッセンスを示すことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0005】すなわち、本発明は脱アルミニウム処理したゼオライトと、その細孔中に充填された金属又は金属酸化物との複合体であって、金属又は金属に換算した金属酸化物の量が処理ゼオライト100重量部当り、10〜60重量部の範囲にあるものから成るカソードルミネッセンス材料を提供するものである。
【0006】本発明のカソードルミネッセンス材料は、ゼオライト−金属系複合材料又はゼオライト−金属酸化物系複合材料であって、ゼオライト細孔内部において、形成されたゼオライト骨格から移動したアルミナ微粒子と、これに担持された金属例えばスズ、ニッケル、コバルトなど、あるいはその酸化物の微粒子が結合することによって半導体を形成し、その価電子帯の電子が、陰極線の照射によって伝導帯へ励起され、それらが正孔と再結合する際にカソードルミネッセンスを示す。そして、アルミナ微粒子へ担持する金属及び金属酸化物の種類を変えることによって、発光する波長領域を変化させることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明のカソードルミネッセンス材料は、ゼオライトを水蒸気により脱アルミニウム処理したのち、この処理ゼオライトに、その100重量部当り、金属換算で10〜60重量部に相当する金属塩水溶液を含浸させ、乾燥後還元雰囲気中又は酸化雰囲気中で焼成し、処理ゼオライトと金属又は金属酸化物との複合体を形成させることにより製造することができる。この際、原料として用いるゼオライトは、天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれでもよいが、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、Z型ゼオライト、特にY型ゼオライトが好ましい。
【0008】本発明においては、このゼオライトを脱アルミニウム化して用いることが必要であるが、この脱アルミニウム化は、水蒸気処理を繰り返すことによって行うことができる。次いで、このようにして脱アルミニウム化したゼオライトに、蒸留水に溶解した水溶性金属塩を含浸させる。この水溶性金属塩としては、例えば塩化スズ、塩化コバルト、塩化ニッケルのようなスズ、コバルト、ニッケルのハロゲン化物、相当する炭酸塩、硝酸塩などが用いられる。金属塩水溶液としては、上記の水溶性塩を飽和濃度までの濃度で溶解した水溶液を用いることができるが、できるだけ高濃度のものが好ましい。通常0.5〜5モル濃度の範囲のものが用いられる。
【0009】このようにして、金属塩水溶液を含浸させたゼオライトは、次に乾燥させるが、この乾燥は例えば砂浴上で蒸発乾固させることによって行うことができる。乾燥後、細孔中に金属塩を付着させたゼオライトを管状電気炉に装入し、還元雰囲気例えば水素気流中あるいは酸化雰囲気例えば酸素気流中で焼成する。この焼成は、例えば1〜5℃/分の昇温速度で450〜600℃の範囲内の温度まで加熱したのち、この温度に1〜5時間保持することによって行われる。焼成後、生成物を室温まで徐冷することにより脱アルミニウム化したゼオライトと金属又は金属酸化物との複合体として、カソードルミネッセンス材料が得られる。
【0010】このようにして得られたカソードルミネッセンス材料は、最終的に脱アルミニウム化したゼオライト100重量部当り金属換算で10〜60重量部の金属又は金属酸化物を含有することが必要である。これまで、触媒として知られているゼオライト−金属複合体又はゼオライト−金属酸化物複合体における金属又は金属酸化物含有量が数重量%のオーダーであることからみて、本発明のカソードルミネッセンス材料を構成するゼオライト−金属複合体又はゼオライト金属酸化物複合体中の金属又は金属酸化物含有量は、著しく高いことが分かる。
【0011】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】参考例1水蒸気処理を5回繰り返して脱アルミニウム化したY型ゼオライト3gを石英製蒸発皿に入れ、これに1M塩化スズ水溶液3mlを加えて、砂浴上で加熱し、蒸発乾固させた。この蒸発乾固物を磁性乳鉢ですりつぶし、アルミナボートにその1gを入れて、管状電気炉に装入した。窒素ガスを室温で30ml/分の流量で40分間掃流し、次いで同じ流量の水素を室温で30分間掃流した後、3℃/分の昇温速度で500℃まで昇温した。次に水素を流したままで、500℃で2時間保持し、3℃/分の降温速度で冷却して、ゼオライト−金属スズ複合体を製造した。前記の塩化スズ水溶液の量を6ml、9ml、12ml、15mlと変化させて同様にして一連の金属スズ−ゼオライト複合体を得た。
【0013】参考例2参考例1と同様にして調製した蒸発乾固物を管状電気炉に入れ、窒素ガスを40分間室温で流した後、酸素ガスを30ml/分の流量で、室温で30分間流し、3℃/分の昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で2時間保持した後、3℃/分の降温速度で冷却した。この工程中、酸素ガスを流し続けた。加える塩化スズ水溶液の量を3ml、6ml、9ml、12ml、15mlとして、一連のゼオライト−酸化スズ複合体を製造した。
【0014】実施例参考例1及び参考例2で得たゼオライト−金属スズ複合体及びゼオライト酸化スズ複合体を圧粉体に成形し、電子線照射装置に取り付け、10-5トール(水銀柱で10-5mmの圧力)の高真空状態で77°Kで電子線を照射したところ、いずれも良好なカソードルミネッセンスが観測された。このスペクトルを図1及び2に示す。また、これらのカソードルミネッセンスと塩化スズの添加量との関係をグラフとして図3に示す。塩化スズを金属スズに転化することによって、ルミネッセンスの主ピークがいずれも可視光側にシフトしているのが分かる。
【0015】
【発明の効果】これまでのものとは全く異なった種類の新規なカソードルミネッセンス材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ゼオライト−金属スズ複合体のカソードルミネッセンス。
【図2】 ゼオライト−酸化スズ複合体のカソードルミネッセンス。
【図3】 ゼオライト−金属スズ複合体の主ピークの位置と添加した塩化スズ水溶液の量との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 脱アルミニウム処理したゼオライトと、その細孔中に充填された金属又は金属酸化物との複合体であって、金属又は金属に換算した金属酸化物の量が脱アルミニウム化したゼオライト100重量部当り、10〜60重量部の範囲にあるものから成るカソードルミネッセンス材料。
【請求項2】 ゼオライトを水蒸気により脱アルミニウム処理したのち、この処理ゼオライトに、その100重量部当り、金属換算で10〜60重量部に相当する金属塩水溶液を含浸させ、乾燥後還元雰囲気中で焼成し、処理ゼオライトと金属との複合体を形成させることを特徴とするカソードルミネッセンス材料の製造方法。
【請求項3】 ゼオライトを水蒸気により脱アルミニウム処理したのち、この処理ゼオライトに、その100重量部当り、金属換算で10〜60重量部に相当する金属塩水溶液を含浸させ、乾燥後酸化雰囲気中で焼成し、処理ゼオライトと金属酸化物との複合体を形成させることを特徴とするカソードルミネッセンス材料の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−144126(P2000−144126A)
【公開日】平成12年5月26日(2000.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−338414
【出願日】平成10年11月13日(1998.11.13)
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【識別番号】220100014
【氏名又は名称】工業技術院九州工業技術研究所長
【Fターム(参考)】