説明

カチオン交換樹脂及びビスフェノール化合物の製造方法

【課題】フェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応でビスフェノール化合物を製造する際の触媒活性及び触媒寿命に優れたカチオン交換樹脂を提供する。
【解決手段】下記(1)〜(3)で求められる耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)以下であるビスフェノール化合物製造用カチオン交換樹脂。
(1)カチオン交換樹脂40mLにTOC10ppb以下の超純水を100mL加え、40℃で20時間振盪した後、上澄み液を採取してそのTOC値(初期TOC値)を測定する。
(2)上記(1)で、超純水の代わりに、TOCが10ppb以下の超純水で希釈した0.1重量%過酸化水素水を加え、同様にTOC値(酸化TOC値)を測定する。
(3)(耐酸化TOC溶出性)=(酸化TOC値)−(初期TOC値)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造するために用いるカチオン交換樹脂及び変性カチオン交換樹脂に関する。
本発明はまた、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を用いたビスフェノール化合物の製造方法と、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂の保管方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビスフェノールAの製造に代表される、フェノール化合物とカルボニル化合物の縮合反応には、その反応触媒としてカチオン交換樹脂が用いられてきた。ビスフェノール化合物製造用触媒としてのカチオン交換樹脂の種類は多様であり、縮合反応に及ぼす影響も同様に多様であるため、その目的に応じて設計されたカチオン交換樹脂が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、懸濁用媒質中に単量体混合物を噴射する噴射式懸濁重合法を用いて製造した、小滴サイズ分布の狭いスチレン系共重合体ビーズを用いた縮合反応用触媒を用いる方法が開示され、この方法によれば、懸濁用媒質に噴射することなしに生成させた共重合体ビーズを用いた場合よりも、反応体のビスフェノール類への変換率が高くなることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、有効径0.3mm以下の微粒状及び/又は粉末状の強酸性イオン交換樹脂を用いたビスフェノールAの製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、スルホン酸基の一部を含イオウアミン化合物と反応させた変性スルホン酸型陽イオン交換樹脂であって、特定の粒径及び粒径分布均一度を有するものを触媒として用いたビスフェノールA製造用反応器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3312920号公報
【特許文献2】特開昭62−178532号公報
【特許文献3】特許第2887304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、ビーズサイズにかかわらず、噴射式懸濁重合法を用いることに着目してなされたものであり、重合方法、重合設備に制約があった。
また、特許文献2では、触媒樹脂の有効径が規定され、特許文献3では特定の粒径及び粒径分布均一度の樹脂を触媒に用いることが記載されているが、単に粒子の形態的な特徴を改善するだけでは性能向上に限界があり、さらに優れた縮合反応効率を担保する技術が望まれている。
【0007】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造する際の触媒活性及び触媒寿命に優れたカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を提供することを課題とする。
本発明はまた、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を用いて、ビスフェノール化合物を高収率で長期に亘り安定かつ効率的に製造する方法と、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を安定に保管する方法と、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の方法で測定された耐酸化TOC溶出性が所定値以下であるカチオン交換樹脂又はこのカチオン交換樹脂中のカチオン性基をメルカプト化合物で変性してなる変性カチオン交換樹脂が、ビスフェノール化合物製造における触媒活性及び触媒寿命に優れること、また、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を特定の高純度水中で保管することにより、触媒の劣化を防止することができること、更にはこのカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂の製造に好適な方法を見出した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、下記〔1〕〜〔11〕に存する。
【0010】
〔1〕 フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造するために用いるカチオン交換樹脂であって、下記測定方法で求められる該カチオン交換樹脂の耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)以下であることを特徴とするカチオン交換樹脂。
<耐酸化TOC溶出性測定方法>
(1)カチオン交換樹脂を水湿潤状態で、3000rpmにて5分間遠心分離して水切りをする。得られた水切り状態のカチオン交換樹脂40mLを三角フラスコに入れ、TOCが10ppb以下の超純水を100mL加える。この三角フラスコを40℃に保った水浴に漬け、20時間振盪後、上澄み液を採取してそのTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「初期TOC値」とする。
(2)上記(1)でTOCが10ppb以下の超純水の代わりに、TOCが10ppb以下の超純水で希釈した0.1重量%過酸化水素水を加える以外は上記(1)と同様にしてTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「酸化TOC値」とする。
(3)下記式により耐酸化TOC溶出性を算出する。
(耐酸化TOC溶出性)=(酸化TOC値)−(初期TOC値)
【0011】
〔2〕 前記耐酸化TOC溶出性の測定における初期TOC値が100(mg−TOC/L−樹脂)以下である〔1〕に記載のカチオン交換樹脂。
【0012】
〔3〕 前記耐酸化TOC溶出性の測定における初期TOC測定時に溶出する化合物が、下記式(II)で示されるスチレン系重合体を含む〔1〕又は〔2〕に記載のカチオン交換樹脂。
【化1】

(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0013】
〔4〕 架橋度が10%以下である〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
【0014】
〔5〕 重量平均粒子径が2μm以上600μm以下である〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
【0015】
〔6〕 樹脂1グラムあたり1ミリ当量以上のスルホン酸基を含有することを特徴とする〔1〕ないし〔5〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
【0016】
〔7〕 均一係数が1.3以下であることを特徴とする〔1〕ないし〔6〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂。
【0017】
〔8〕 〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂中のカチオン性基の少なくとも一部をメルカプト基を有する化合物を用いて変性してなる変性カチオン交換樹脂。
【0018】
〔9〕 〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂又は〔8〕に記載の変性カチオン交換樹脂の存在下に、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造することを特徴とするビスフェノール化合物の製造方法。
【0019】
〔10〕 〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂又は〔8〕に記載の変性カチオン交換樹脂を、溶存酸素濃度1ppm以下及び/又は比抵抗2MΩ・cm以上の水中に保管することを特徴とするカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂の保管方法。
【0020】
〔11〕 〔1〕ないし〔8〕のいずれかに記載のカチオン交換樹脂又は〔8〕に記載の変性カチオン交換樹脂を製造する方法であって、シード重合法、加振法、及びチューブリアクター法から選ばれる少なくとも1種の方法を用いることを特徴とするカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のカチオン交換樹脂及び変性カチオン交換樹脂は、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造する際の触媒活性及び触媒寿命に優れるため、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を用いる本発明のビスフェノール化合物の製造方法によれば、ビスフェノール化合物を高収率で長期に亘り安定かつ効率的に製造することができる。
【0022】
本発明の保管方法によれば、このようなカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を長期間安定に保管することができる。
また、本発明の製造方法によれば、このカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内であれば種々に変更して実施することができる。
【0024】
[カチオン交換樹脂]
本発明のカチオン交換樹脂は、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造するために用いるカチオン交換樹脂であって、下記測定方法で求められる耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)以下であることを特徴とする。
<耐酸化TOC溶出性測定方法>
(1)カチオン交換樹脂を水湿潤状態で、3000rpmにて5分間遠心分離して水切りをする。得られた水切り状態のカチオン交換樹脂40mLを三角フラスコに入れ、TOCが10ppb以下の超純水を100mL加える。この三角フラスコを40℃に保った水浴に漬け、20時間振盪後、上澄み液を採取してそのTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「初期TOC値」とする。
(2)上記(1)でTOCが10ppb以下の超純水の代わりに、TOCが10ppb以下の超純水で希釈した0.1重量%過酸化水素水を加える以外は上記(1)と同様にしてTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「酸化TOC値」とする。
(3)下記式により耐酸化TOC溶出性を算出する。
(耐酸化TOC溶出性)=(酸化TOC値)−(初期TOC値)
【0025】
<化学構造・形態>
本発明のカチオン交換樹脂は、耐久性や製造方法の合理性の観点から、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーの共重合で得られる架橋構造骨格を有しているものが好ましい。ここで、モノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。このうち、スチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。
【0026】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン等が挙げられる。このうち、ジビニルベンゼンが好ましい。
工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンは、予め精製してこうした不純物含有量を減らした上で使用するのが好ましい。
【0027】
本発明のカチオン交換樹脂としては、具体的には、例えばスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体等を挙げることができる。
【0028】
本発明のカチオン交換樹脂の主な形態としては、ゲル型と多孔質型が挙げられるが、本発明に係る後述の縮合反応に用いる場合、カチオン交換樹脂の製造コストの観点から、ゲル型が好ましい。なお、物質拡散性や、樹脂の耐久性、強度の確保の観点で、多孔質型(ポーラス型、ハイポーラス型、またはマクロポーラス型)も好ましい。
【0029】
また、本発明のカチオン交換樹脂は、通常は粒子形状(粒状)である。具体的な形状としては球状、略球状、多面体状、凝集体状など様々な形状が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0030】
<耐酸化TOC溶出性>
本発明のカチオン交換樹脂は、前述の耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)以下であることを特徴とする。耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)を超えるカチオン交換樹脂では、本発明で目的とする高い触媒活性と長い触媒寿命を得ることができない。また、製品であるビスフェノール化合物の着色の原因となる恐れもある。この耐酸化TOC溶出性は、低い程好ましく、好ましくは50(mg−TOC/L−樹脂)以下、より好ましくは20(mg−TOC/L−樹脂)以下、特に好ましくは10(mg−TOC/L−樹脂)以下である。ただし、この耐酸化TOC溶出性を過度に小さくすることは、カチオン交換樹脂の製造上困難であり、通常耐酸化TOC溶出性は1(mg−TOC/L−樹脂)以上である。
【0031】
<初期TOC値>
また、本発明のカチオン交換樹脂は、前述の耐酸化TOC溶出性の測定における初期TOC値が100(mg−TOC/L−樹脂)以下、特に50(mg−TOC/L−樹脂)以下であることが好ましい。この初期TOC値が高いと、使用開始時の洗浄水量や時間が多くかかるようになり、また反応中にも溶出物による装置腐食の問題が起こる恐れがある。この初期TOC値は、低い程好ましく、より好ましくは20(mg−TOC/L−樹脂)以下、特に好ましくは10(mg−TOC/L−樹脂)以下、とりわけ好ましくは5(mg−TOC/L−樹脂)以下である。ただし、この初期TOC値を過度に小さくすることは、カチオン交換樹脂の製造上一般的には困難である。
【0032】
<溶出化合物>
この初期TOC測定時にカチオン交換樹脂から溶出する化合物は、通常、下記式(II)で示されるスチレン系重合体(以下「溶出性化合物(II)」と称す場合がある。)を含む。
【0033】
【化2】

【0034】
(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0035】
この溶出性化合物(II)については、後述の本発明のカチオン交換樹脂の製造方法の項で説明する。
【0036】
<架橋度>
本発明のカチオン交換樹脂の架橋度は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6.5%以下が更に好ましく、また、1%以上が好ましく、2%以上が更に好ましい。ここで言う架橋度とは、重合に供する重合性モノマー中の架橋性モノマーの濃度をいい、当該分野において使われている定義と同様である。
【0037】
この架橋度が大きすぎると、カチオン交換樹脂内の拡散抵抗のため、触媒活性の著しい低下を生じることから好ましくない。一方、カチオン交換樹脂の架橋度が小さすぎると、カチオン交換樹脂の強度を保つことが困難となり、ビスフェノール化合物製造用触媒として反応に供するに際し、使用前にフェノール化合物やフェノール化合物と水との混合溶媒等に接触させてコンディショニングを行う時の膨潤、収縮により、カチオン交換樹脂の破砕等が生じるため好ましくない。
【0038】
<重量平均粒子径>
本発明のカチオン交換樹脂は、重量平均粒子径が2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、とりわけ50μm以上で、600μm以下、特に400μm以下、とりわけ350μm以下であることが好ましい。
【0039】
カチオン交換樹脂の重量平均粒子径が大きすぎると、反応活性が低下する傾向にあり、小さすぎると、カチオン交換樹脂を充填した反応器への反応液の通液の際、圧力損失が大きくなる傾向があり、懸濁状態で反応させる場合は、濾過性が悪化する等、操作性が低下することがある。重量平均粒子径が上記範囲のカチオン交換樹脂を用いることにより、ビスフェノール化合物製造時の縮合反応において高い反応効率を得ることができる。
【0040】
なお、カチオン交換樹脂の重量平均粒子径は、後述の実施例の項に記載される方法で測定、算出される。
【0041】
<均一係数>
本発明のカチオン交換樹脂は、粒度分布がシャープであることが好ましく、均一係数が通常1.3以下、特に1.2以下、とりわけ1.1以下であることが好ましい。均一係数が1.3以下であると、反応活性が向上し、また、カチオン交換樹脂を充填した反応器への反応液の通液時の圧力損失が緩和される点で好ましい。均一係数は小さい程望ましいが、大きすぎると反応活性ばかりでなく、選択性(4,4’−ビスフェノール/(2,4’−ビスフェノール+4,4’−ビスフェノール))も低下する傾向がある。なお、均一係数の下限は1.0である。均一係数が上記範囲のカチオン交換樹脂を用いることにより、ビスフェノール化合物製造時の縮合反応において高い反応効率を得ることができる。
【0042】
なお、カチオン交換樹脂の均一係数は、後述の実施例の項に記載される方法で測定、算出される。
【0043】
<スルホン酸基量>
本発明のカチオン交換樹脂は、樹脂1グラムあたり1ミリ当量以上のスルホン酸基を含有することが好ましい。
特に、本発明のカチオン交換樹脂は、スルホン酸型強酸性カチオン交換樹脂であることが好ましく、この場合において、樹脂1gあたりのスルホン酸基の中性塩分解容量に相当する交換容量が、通常、0.1meq/g−樹脂以上、好ましくは1.0meq/g−樹脂以上、より好ましくは3.0meq/g−樹脂以上で、通常6.0meq/g−樹脂以下、好ましくは5.4meq/g−樹脂以下であることが好ましい。
【0044】
この交換容量が低過ぎると触媒活性が不足し、製品であるビスフェノール化合物の収率も低下する傾向となり、一方、過度に交換容量の高いカチオン交換樹脂は製造困難である。
このカチオン交換樹脂の交換容量は、後述の実施例の項に記載される方法で求められる。
【0045】
[カチオン交換樹脂の製造方法]
以下に、前述の耐酸化TOC溶出性を満たし、好ましくは初期溶出値、架橋度、重量平均粒子径、均一係数、スルホン酸基量が前述の好適範囲を満たす本発明のカチオン交換樹脂を製造する方法について説明する。
【0046】
このような本発明のカチオン交換樹脂の製造方法としては特に制限はないが、好ましくは、下記(a)〜(c)の工程、さらに好ましくは下記(d)の工程を含む方法により、本発明のカチオン交換樹脂は効率的に製造される。また、このような工程を経て製造されたカチオン交換樹脂について、前述の重量平均粒子径及び均一係数を満たすために、(e)粒子径を調整する工程を行ってもよい。
【0047】
(a)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程
(b)下記式(I)で示される溶出性化合物(以下「溶出性化合物(I)」と称す場合がある。)の含有量を、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体1gに対して10mg以下とする工程
【0048】
【化3】

【0049】
(式(I)中、Zは、水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
(c)溶出性化合物(I)の含有量が架橋共重合体1gに対して10mg以下の架橋共重合体をスルホン化する工程
(d)スルホン化された架橋共重合体から下記式(II)で示される溶出性化合物(溶出性化合物(II))を除去する工程
【0050】
【化4】

【0051】
(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0052】
以下、各工程について説明する。
【0053】
<(a)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて架橋共重合体を得る工程>
(a)工程で用いられるモノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。このうち、スチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。
【0054】
また、架橋性芳香族モノマーとしてはジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。このうち、ジビニルベンゼンが好ましい。
前述の如く、工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンは、予め精製して、こうした不純物含有量を減らした上で使用するのが好ましい。
【0055】
架橋性芳香族モノマーの使用量としては、全モノマー重量に対して通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上であり、通常18重量%以下、好ましくは10重量%以下、更に好ましくは8重量%以下、特に好ましくは6.5重量%以下である。架橋性芳香族モノマーの使用量が多く、架橋度が高くなるほど、得られるカチオン交換樹脂の耐酸化性が向上する傾向にある。一方、架橋度が高すぎると、後工程で溶出性化合物の水洗除去が不完全となりやすい。
【0056】
モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合反応は、ラジカル重合開始剤を用いて公知の技術に基づいて行うことができる。
【0057】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ジベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ヘキシルパーベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の1種又は2種以上が用いられ、通常、全モノマー重量に対して0.05重量%以上、2重量%以下で用いられる。
【0058】
重合様式は、特に限定されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の種々の様式で重合を行うことができるが、このうち均一なビーズ状の共重合体が得られる懸濁重合法が好ましく採用される。懸濁重合法は、一般にこの種の共重合体の製造に使用される溶媒、分散安定剤等を用い、公知の反応条件を選択して行うことができる。
【0059】
なお、共重合反応における重合温度は、通常、室温(約18〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下である。重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となる。重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下する。
【0060】
また、重合雰囲気は、空気下もしくは不活性ガス下で実施可能であり、不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が使用でき、中でも、窒素雰囲気下で重合することが好ましい。
【0061】
また、特開2006−328290号公報に記載の重合法は、本発明の縮合反応において優れた縮合反応効率を示すため好ましい。
【0062】
なお、均一粒径の架橋共重合体を得る公知の方法も好適に使用できる。
例えば、特開2002−35560号公報、特開2001−294602号公報、特開昭57−102905号公報、特開平3−249931号公報に記載の方法が好適に使用できる。
【0063】
本発明のカチオン交換樹脂を製造する際の重合方法について、より具体的に説明するに、本発明のカチオン交換樹脂は、例えば以下に詳述するシード重合法、加振法、及びチューブリアクター法から選ばれる1以上の方法により製造されることが好ましい。
【0064】
シード重合法(シード・フィード(種−供給)法)とは、予め分散重合法により作製した小粒子径(1μm〜数百μm程度)の大きさの揃ったシード粒子を用い、このシード粒子に動的膨潤法により多量のモノマーを含浸させて大モノマー膨潤粒子とし、これを重合することによって、より大きな粒子径の重合体粒子を製造する手法である。シード重合法は、所望の粒子径の重合体粒子を多数製造する上で効率的な手法である点や、得られる樹脂の架橋の掛かり具合や網目構造が均質になるように制御できる点で好ましく、かかるシード重合法により製造されたカチオン交換樹脂は、本発明に係る縮合反応方法に好適に使用される。シード重合法としては、例えば米国特許第4564644号明細書、特開昭61−16902号公報、特表平10−508061号公報等の文献に記載されている方法を用いることができる。
【0065】
加振法とは、(1)層流特性をもつ重合性モノマーからなるモノマー層を、ノズルやオリフィス等の開口部を通して該重合性モノマーまたはモノマー相とは混和しない液体と安定化量の懸濁分散剤とからなる連続相へ流入させることによって層流特性をもつ重合性モノマーからなるモノマー層のモノマー噴出流を形成させ、(2)この噴出流を振動的に励起することによってモノマー噴出流を小滴に砕き、(3)これらの小滴を自由上昇速度で上昇させるか又は自由下降速度で下降させ、モノマーの実質的な重合を起こさないでバッチ重合槽に移動させ、(4)次いで懸濁状の該モノマーを合着または接着、固着を生ぜしめる事のない条件において上記の重合を行う方法である。
【0066】
この加振方法において、オリフィスからのモノマー噴出流を小滴に砕くために振動を励起する手段は、超音波や圧電素子を使用する方法が好適である。なお、振動を均等に伝播させるために種々の方法があり、例えば装置全体に振動を与える方法、モノマーに振動を与える方法、オリフィスプレートに振動を与える方法や、該重合性モノマーまたはモノマー相とは混和しない液体と安定化量の懸濁分散剤とからなる連続相に対して振動を与える方法があり、いずれも好ましく使用できる。これらの加振方法の例示としては、超音波加振法として特許2715029号公報、特公平7−62045号公報、特開平5−194611号公報、モノマー噴出装置に対する振動励起方法として、特開2007−44654号公報、また、オリフィス加振法として特開2002−35560号公報、特開2001−294602号公報、圧電素子を使用する方法として特開2000−310645号公報などに記載される方法が挙げられる。また、モノマーを噴出させる部分は、ノズルやオリフィス以外に、充填層装置を通す方法も好ましく、例えば特表2007−515392号公報に記載される方法が挙げられる。
【0067】
かかる加振法により製造されたカチオン交換樹脂は、所望の粒子径の重合体粒子を多数製造する上で効率的な手法である点で、本発明に係る縮合反応方法に好適に使用される。
【0068】
チューブリアクター法とは、(1)層流特性をもつ重合性モノマーからなるモノマー層を、ノズルなどの開口部を通して該重合性モノマーまたはモノマー相とは混和しない液体と安定化量の懸濁分散剤とからなる連続相へ流入させることによって層流特性をもつ重合性モノマーからなるモノマー層のモノマー噴出流を形成させ、(2)この噴出流を振動的に励起することによってモノマー噴出流を小滴に砕き、(3)これらの小滴を自由上昇速度で上昇させるか又は自由下降速度で下降させ、モノマーの実質的な重合を起こさないで、管式反応器に導入し、(4)次いで懸濁状の該モノマーを合着または接着、固着を生ぜしめる事のない条件において上記の重合を行う方法である。
【0069】
かかるチューブリアクター法の場合は、モノマー噴出流を小滴に砕いた後ただちに管式反応器で重合を開始することができるので、生産性に優れている。これに対しバッチ重合槽で重合する場合は、モノマー小滴をバッチ重合槽にフィードする際、所定の量が重合槽に貯まるまでフィードする必要があり、その分時間を要することになる。
【0070】
また、チューブリアクター法の場合は、モノマー噴出流を小滴に砕いた後ただちに管式反応器で重合を開始することができるので、発生した小滴の懸濁分散性を長時間保つ必要がなくなる。その結果、連続相に添加する懸濁分散剤の量を削減することができるので、コストが削減できるとともに、重合後に懸濁分散剤を除去する工程の負荷が軽減できる。
【0071】
これらの理由で、チューブリアクター法で製造されたカチオン交換樹脂は、本発明に係る縮合反応方法において好適に使用される。チューブリアクター法としては、例えば特開2008−7668号公報、非特許文献(Macromol.Symp.2006,245-246,398-402.)などに記載の方法を採用することができる。
【0072】
<(b)溶出性化合物(I)の含有量を、架橋共重合体1gに対して10mg以下とする工程>
本発明のカチオン交換樹脂の製造方法においては、上記(a)工程で得られた架橋共重合体をスルホン化する前に、下記式(I)で示される溶出性化合物(I)を、架橋共重合体1gに対して10mg以下、好ましくは5mg以下、より好ましくは2mg以下とする工程を行うことが好ましい。
【0073】
【化5】

【0074】
(式(I)中、Zは、水素原子またはアルキル基を示す。lは自然数を示す。)
【0075】
ここで、Zのアルキル基は、通常炭素数1〜8のアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0076】
スルホン化に供する架橋共重合体中の前記溶出性化合物(I)の含有量が多すぎると、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ない、耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)以下の本発明のカチオン交換樹脂を得ることができない。該溶出性化合物(I)の含有量は少ない程好ましいが、通常その下限は0.1μg程度である。
【0077】
なお、本発明に係る前記溶出性化合物(I)とは、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合する際に得られる未反応、または反応不十分である副生物である。この溶出性化合物(I)は、製品であるカチオン交換樹脂の溶出物の原因となるものであり、ポリスチレン換算における重量平均分子量が、通常200以上、好ましくは300以上であり、通常1,000,000以下、好ましくは100,000以下である。溶出性化合物(I)としては、例えばスチレン系樹脂の場合、重合不十分の低重合体成分としてスチレンダイマー、スチレントリマー、スチレンオリゴマー等が、遊離重合体成分として線状ポリスチレン、ポリスチレン微粒子等が挙げられる。また重合反応における連鎖移動反応での副生物として、モノマー中に含まれる重合禁止剤の結合した低重合体成分や遊離重合体成分が挙げられる。
【0078】
本発明に係る(b)工程は、特に、前記(a)工程における重合条件や原料モノマーを調整することにより、(a)工程と同時に行われる。また、重合後、得られた架橋共重合体を洗浄することによって溶出性化合物(I)を除去して、溶出性化合物(I)の含有量が低減された架橋共重合体を得ることもできる。
【0079】
前記(a)工程における重合条件や原料モノマーを調整することにより、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得る場合、かかる調整方法としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0080】
<重合温度の調整>
前述の如く、本発明における共重合反応における重合温度が高すぎると解重合が併発し重合完結度がかえって低下し、逆に、重合温度が低すぎると重合完結度が不十分となり、溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得ることができない。従って、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの重合温度は、室温(約18℃〜25℃)以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは70℃以上で、250℃以下、好ましくは150℃以下、更に好ましくは140℃以下の範囲で適宜調整する。中でも、下記に詳述する高温重合反応により架橋重合体を得る方法が特に好ましい。
【0081】
(高温重合反応の条件)
<高温重合反応温度>
高温重合反応はその一部または全部を通常100℃以上の温度で行なえばよい。
高温重合反応は、重合反応が十分に進行・完結しないために発生する未重合の単量体成分(モノマー)、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子等)、重合反応による副生物などの不純物を確実にガラス転移状態とする観点から、中でも110℃以上、更には115℃以上、特に120℃以上の温度で行なうことが好ましい。これは、ポリスチレンのガラス転移点は、例えば架橋度5%では105℃程度、架橋度10%では108℃程度であるからである。但し、あまりに温度が高過ぎると、重合溶液の温度を上昇させるのに時間を要したり、重合開始剤の選択の幅が小さくなったり、製造設備が高価になったり、重合温度の上昇に見合う低溶出性化合物量低減の効果が得られなかったり、生成した重合体が変性又は分解されるおそれがあるので、高温重合反応温度の上限は通常160℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。
【0082】
<高温重合反応時間>
高温重合反応の時間(温度が100℃以上である時間)は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、また、通常20時間以下、好ましくは10時間以下、更に好ましくは6時間以下の範囲である。高温重合反応の時間が短すぎると十分な効果が得られない一方で、長すぎると、残留する重合開始剤が少ないため効果が十分発揮できない場合や、生成した重合体が変性又は分解される場合がある。
【0083】
高温重合反応は連続的に行なっても良く、後述の如く、途中に100℃未満の温度となる期間を挟んで数回に分けて断続的に行なっても良い。その場合、100℃以上である時間が通算で上記の範囲内であればよい。但し、上述の効果を十分に得る観点からは、高温重合反応を連続的に行なうことが好ましい。
【0084】
<高温重合反応の雰囲気>
高温重合反応における雰囲気は、重合反応系内の酸素量を、全原料モノマーに対する比率として、通常5ppm以下、中でも3ppm以下、更には1ppm以下と、できるだけ少なくすることが好ましい。重合反応(特にラジカル重合反応)において、反応系内に酸素が存在すると、末端ラジカルは酸素と共重合しやすいため、原料モノマーの重合反応に酸素が取り込まれ、過酸化物結合を含むポリマーが生成する。この結果、樹脂の製造工程や洗浄工程の際、あるいは樹脂の使用中に、この過酸化物結合が化学的及び熱的に開裂して、オリゴマーの発生及び溶出を引き起こしたり、この過酸化物結合が分解されてホルムアルデヒドやベンズアルデヒド等の分解物を生じ、その溶出を引き起こしたりする原因ともなる。従って、こうしたオリゴマーや分解物の溶出を抑制するためにも、重合反応系内の酸素量を極めて低く抑え、その状態を維持することは重要である。
【0085】
反応系内の酸素量を低減するためには、反応器内の気相を不活性ガスで十分に置換してから反応を行なうのが好ましい。脱気方法としては、不活性ガスをバブリングする方法、減圧脱気を繰り返す方法、加圧及び/又は加温して液相や気相中の溶存酸素を不活性ガスに置換する方法など、一般的に知られている方法で置換することができる。不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス等が挙げられるが、窒素ガスが好ましい。
【0086】
<高温重合反応の段数>
高温重合反応では、重合反応の少なくとも一部は100℃以上の高温で行なう必要があるが、この高温重合反応をより低い温度での重合反応と組み合わせ、複数段に分けて実施しても良い。
【0087】
例えば、反応系中に有機溶媒が存在しない場合(例えば、ゲル型の重合体を製造する場合等)には、原料モノマーの転換率(conversion rate)がまだ低い段階で100℃以上の高温にすると、原料モノマーが水とともに蒸気となって反応器中に充満し、その一部が反応器の蓋部で重合してしまい、これが凝集体となって付着するという課題が生じる。よって、まず100℃未満の比較的低温度で重合反応を行ない(これを適宜「前段重合」という。)、モノマーの転換率をある程度高めた状態にした上で、100℃以上の高温重合反応を行なう(これを適宜「後段重合」という。)ことが好ましい。
【0088】
この場合、前段重合の温度は、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上、また、通常100℃未満、好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下の範囲が好ましい。前段重合の温度が低すぎると、重合性単量体の転換率が低く、後段重合の際の付着物量が増加するという理由から好ましくない。また、前段重合の温度が高すぎると、付着物量が増加する、スチレン特有の熱重合による二量体構造物や、三量体構造物が副生する等の理由から好ましくない。
【0089】
前段重合の時間は、重合開始剤の半減期温度や使用量、モノマーの重合性、樹脂の架橋度等によって異なるが、通常2時間以上、好ましくは3時間以上、更に好ましくは4時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは12時間以下、更に好ましくは8時間以下の範囲である。前段重合の時間が短すぎると、重合が完結できない、残留する低重合体成分や遊離重合体成分等の量が低減できない等の理由から好ましくない。また、前段重合の時間が長すぎると、生産性が低下するという理由から好ましくない。
【0090】
一方、反応系中に有機溶媒が存在する場合(例えば、多孔性の重合体を製造する場合等)には、反応器の蓋部に凝集体が付着するというおそれは少ないため、重合反応は一段で行なって構わない。
【0091】
<高温重合反応の効果>
後述の本発明に係るフェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応においては、前記高温重合反応によるカチオン交換樹脂の製造法を採用すると共に、前述の如く、均一係数が小さく、また、重量平均粒子径が比較的小さいカチオン交換樹脂を用いることにより、特に優れた縮合反応効率が得られる。この理由は、高温重合反応によって不純物としての溶出物が低減されたカチオン交換樹脂が得られること、また、高温重合によりカチオン交換樹脂の架橋構造と網目構造がより均質になることが推察される。即ち、(1)高温重合のほうが、重合時の重合反応速度が促進されるため、得られるカチオン交換樹脂の架橋構造や網目構造がより均質となり、縮合反応時の反応物の拡散性がよくなること、(2)高温重合法で製造したカチオン交換樹脂のほうが、カチオン交換樹脂中に残存する非架橋のモノマー単位の残存ビニル基が均等に残るため、縮合反応時の立体障害が少なくなること、(3)高温重合法で製造したカチオン交換樹脂では、カチオン交換樹脂をガラス転移温度以上に加熱することにより、ポリマー鎖のからみあいの疎密が緩和され、(1)のように得られるカチオン交換樹脂の架橋構造や網目構造がより均質となりやすく、縮合反応における拡散性が良好な構造となること、が考えられる。
【0092】
<脱酸素モノマーの使用>
脱酸素モノマーとは、モノマー中の酸素濃度を飽和酸素濃度よりも下げたものをいい、これを用いることで重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の発生を抑制することができる。例えば、通常のスチレン系モノマーの飽和酸素濃度は5重量%から10重量%程度であるが、本発明においては、飽和酸素濃度が5重量%未満、特に3重量%以下の脱酸素モノマーを用いることが好ましい。
【0093】
脱酸素モノマーの具体的な調製法としては、原料モノマーを不活性ガスでバブリングする方法、膜脱気する方法、不活性ガスをモノマー貯槽の上面気相部に流通する方法、シリカゲルなどのカラムで処理する方法が挙げられる。あるいは市販の脱酸素モノマーも使用できる。中でも好ましくはモノマーを不活性ガスでバブリングする方法であり、この場合、使用する不活性ガスは、窒素、アルゴンが好ましい。また、脱酸素モノマーは不活性ガス雰囲気中で保管する。
【0094】
脱酸素モノマーの添加量は、モノマー混合物の総量に対し、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。脱酸素モノマーの添加量が少なすぎると、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の発生量が多くなる。
【0095】
<重合禁止剤を除去したモノマーの使用>
重合で使用するモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの混合物中の重合禁止剤を除去することにより、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の発生を抑制することができ、溶出性化合物含有量の少ない架橋共重合体を得ることができる。
【0096】
<不純物の少ない架橋性芳香族モノマーの使用>
通常、架橋性芳香族モノマー、例えば、ジビニルベンゼン中には、ジエチルベンゼン等の非重合性の不純物が存在し、これが溶出性化合物(I)の生成の原因となることから、重合に用いる架橋性芳香族モノマーは、不純物含有量の少ないものであることが好ましい。
【0097】
かかる不純物含有量の少ない架橋性芳香族モノマーとしては、当該架橋性芳香族モノマー含有量(純度)が57重量%よりも高い、特定のグレードを選択して使用することが好ましい。その他、例えば蒸留等により不純物を除去することにより、不純物含有量の少ない架橋性芳香族モノマーを得ることもできる。
【0098】
本発明で用いる架橋性芳香族モノマーの架橋性芳香族モノマー含有量(純度)は、特に好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、架橋性芳香族モノマー中の非重合性の不純物含有量は、モノマー重量当り通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。この不純物含有量が多すぎると、重合時に不純物に対する連鎖移動反応を起こしやすくなるため、重合終了後のポリマー中に残存する溶出性オリゴマー(ポリスチレン)の量が増加することがあり、溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得ることができない。
【0099】
<架橋性芳香族モノマーの使用量の調整>
前述の如く、共重合に供する架橋性芳香族モノマーが多くなるほど樹脂の耐酸化性が向上する傾向にある一方で、架橋度が高すぎると、後工程で溶出性オリゴマーの水洗除去が不完全となりやすく、溶出性化合物(I)含有量の少ない架橋共重合体を得にくくなるため、架橋性芳香族モノマーの使用量は、全モノマー重量に対して通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは2重量%以上であり、通常18重量%以下、好ましくは10重量%以下、更に好ましくは8重量%以下、特に好ましくは6.5重量%以下の範囲で適宜調整する。
【0100】
<架橋共重合体を洗浄する工程>
前記(a)工程後に、(b)工程を行う場合、架橋共重合体の洗浄工程を採用することができる。
即ち、前記(a)工程でモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとから製造した架橋共重合体を、後述の(c)スルホン化工程の前に、溶媒を用いて洗浄することにより、前記溶出性化合物(I)を除去する。
【0101】
この洗浄方法は、架橋共重合体をカラムに詰めて溶媒を通液するカラム方式か、或いはバッチ洗浄法で行うことができる。
【0102】
洗浄温度は、通常室温(20℃)以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、また通常150℃以下、好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。洗浄温度が高すぎると架橋共重合体の分解を併発する。洗浄温度が低すぎると洗浄効率が低下する。
なお、洗浄温度として100℃以上の条件を採用する場合は、過熱水蒸気を用いるとよい。過熱水蒸気を通すことにより、水蒸気蒸留の原理で、残留成分を揮発、除去することができる。
【0103】
溶媒との接触時間は、通常5分以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上で、通常4時間以下である。溶媒との接触時間が短すぎると洗浄効率が低下し、時間が長すぎると生産性が低下する。
【0104】
洗浄に用いる溶媒としては、水、炭素数5以上の脂肪族炭化水素類、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等;芳香族炭化水素類、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等;ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン等;エーテル類、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチラール等;塩素系溶媒、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等;フェノール類、例えばフェノール等;その他ニトロベンゼンが挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、好ましくはベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチラール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ニトロベンゼンである。また、これらの溶媒に水を混合して昇温し、共沸状態で洗浄する方法も採ることができる。
【0105】
<(c)架橋共重合体をスルホン化する工程>
前記(a),(b)工程を経て得られた架橋共重合体は、次いで、公知の方法に従ってイオン交換基を導入するためにスルホン化する。
【0106】
例えば、スルホン酸基を導入する方法としては、特開平5−132565号公報、特表平10−508061号公報等に記載の方法が用いられる。
【0107】
<(d)スルホン化された架橋共重合体(スルホン化架橋共重合体)から、溶出性化合物(II)を除去する工程>
(c)工程で得られたスルホン化架橋共重合体は、次いで、下記式(II)で示される溶出性化合物(II)を除去する処理を行って、前述の初期TOC値が100(mg−TOC/L−樹脂)以下、好ましくは50(mg−TOC/L−樹脂)以下、より好ましくは20(mg−TOC/L−樹脂)以下、更に好ましくは10(mg−TOC/L−樹脂)以下、特に好ましくは5(mg−TOC/L−樹脂)以下のTOC溶出量となるように、スルホン化架橋共重合体を精製することが好ましい。
【0108】
【化6】

【0109】
(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【0110】
ここで、Xのハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基は、通常炭素数1〜10のアルキル基又はハロアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ハロメチル基、ハロエチル基、ハロプロピル基、ハロブチル基であり、さらに好ましくは、メチル基、エチル基、ハロメチル基、ハロエチル基である。
【0111】
Yの金属原子は、例えばナトリウム、カルシウム、カリウム、鉄、亜鉛、鉛、アルミニウム、マンガン、ニッケルなどの陽イオン金属が挙げられる。
【0112】
この溶出性化合物(II)の含有量が多いと、不純物の残存や分解物の発生が抑制された、溶出物の少ないカチオン交換樹脂を得ることができない。溶出性化合物(II)の含有量は少ない程好ましい。
【0113】
なお、本発明に係る前記溶出性化合物(II)は、前記溶出性化合物(I)と同様、製品としてのカチオン交換樹脂からの溶出物の原因となるものである。その内訳は、スルホン化前の架橋共重合体に本来含まれる溶出性化合物に由来する物質と、スルホン化の段階で発生する物質とが挙げられる。
【0114】
スルホン化前の架橋共重合体に本来含まれる溶出性化合物に由来する物質とは、溶出性化合物(I)のスルホン化物であり、上記式(II)で示される物質に相当する。また、複数のスルホン酸基が導入された物質も含まれる。
【0115】
スルホン化の段階で発生する物質とは、スルホン化時の酸化に起因する物質が挙げられ、これも上記式(II)で示される。例えば、架橋共重合体の主鎖の開裂により発生する低分子及び高分子のポリマーやオリゴマー成分である。
【0116】
これらの溶出性化合物(II)のポリスチレン換算における重量平均分子量は、通常200以上、好ましくは300以上であり、通常1,000,000以下、好ましくは100,000以下である。溶出性化合物(II)としては、例えばスチレン系樹脂の場合、重合不十分の低重合体成分としてスチレンダイマー、スチレントリマー、スチレンオリゴマーのスルホン化物等が、遊離重合体成分として線状ポリスチレン、ポリスチレン微粒子のスルホン化物が挙げられる。また重合反応における連鎖移動反応での副生物として、モノマー中に含まれる重合禁止剤の結合した低重合体成分や遊離重合体成分のスルホン化物が挙げられる。
【0117】
このような前記溶出性化合物(II)は、例えば、(c)工程で得られたスルホン化架橋共重合体を、水及び/または有機溶媒により洗浄することにより除去することができる。
この洗浄方法は、スルホン化架橋共重合体をカラムに詰めて有機溶媒及び/または水を通水するカラム方式か、或いはバッチ洗浄法で行うことができる。
【0118】
洗浄温度は、通常室温(20℃)以上、好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上、特に好ましくは90℃以上、また通常150℃以下、好ましくは130℃以下、更に好ましくは120℃以下である。洗浄温度が高すぎるとスルホン化架橋共重合体の分解やスルホン酸基の脱落を併発する。洗浄温度が低すぎると洗浄効率が低下する。
【0119】
水及び/または有機溶媒との接触時間は、通常5分以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上で、通常4時間以下である。この接触時間が短すぎると洗浄効率が低下し、時間が長すぎると生産性が低下する。
【0120】
洗浄に用いる有機溶媒としては、炭素数5以上の脂肪族炭化水素類、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等;芳香族炭化水素類、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等;アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等;ケトン類、例えばアセトン、メチルエチルケトン等;エーテル類、例えばジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチラール等;塩素系溶媒、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン等;フェノール類、例えばフェノール等;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、好ましくは、水、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、メチラールである。
【0121】
<(e)粒子径を調整する工程>
本発明においては、前述の好適な重量平均粒子径及び均一係数を有するカチオン交換樹脂とするために、上述の方法で製造されたカチオン交換樹脂について、既知の分級方法、例えば、篩による分別、水流を用いる水篩、気流を用いる風篩などを利用して粒子径の調整を行ってもよい。
【0122】
[変性カチオン交換樹脂]
本発明のカチオン交換樹脂は、そのカチオン交換樹脂中のカチオン性基(スルホン酸型強酸性カチオン交換樹脂の場合はスルホン酸基)の少なくとも一部をメルカプト基を有する化合物を用いて変性してなる変性カチオン交換樹脂として、ビスフェノール化合物の製造に用いることもできる。
【0123】
カチオン交換樹脂の変性方法としては特に限定されず、代表的な方法としては、メルカプト基を有する化合物(以下「メルカプト化合物」と称す場合がある。)を、水性溶媒もしくは有機溶媒中でカチオン交換樹脂と反応させて、カチオン交換樹脂のカチオン基にイオン結合させる方法が挙げられる。具体的には、水、アルコール、ケトン、エーテル、フェノール等の適当な溶媒に、2−メルカプトエチルアミンや4−(2−メルカプトエチル)ピリジン等のメルカプト基を有するアミン化合物を溶媒に溶解させて、もしくは直接、溶媒中に分散させたカチオン交換樹脂に滴下などにより混合し、攪拌する方法等が挙げられる。この方法により、カチオン交換樹脂のスルホン酸基等のカチオン基の一部とメルカプト基を有するアミン化合物とが反応することによりイオン結合して中和され、変性が行われる。
【0124】
変性に使用されるメルカプト化合物は特に限定されるものではなく、カチオン交換樹脂のスルホン酸基等のカチオン基とイオン結合を形成する化合物であればよい。このようなメルカプト化合物としては、例えば2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−メルカプトプロピルアミン等のメルカプトアルキルアミン類;3−メルカプトメチルピリジン、2−(2−メルカプトエチル)ピリジン、3−(2−メルカプトエチル)ピリジン、4−(2−メルカプトエチル)ピリジン等のメルカプトアルキルピリジン類;チアゾリジン、2,2−ジメチルチアゾリジン、2−メチル−2−フェニルチアゾリジン、3−メチルチアゾリジン等のチアゾリジン類等、及び、これらのメルカプト基が保護された誘導体が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0125】
なお、カチオン交換樹脂をメルカプト化合物により変性する割合(変性率)は、カチオン交換樹脂の全カチオン基の3モル%以上とするのが好ましく、5モル%以上とするのがより好ましい。また70モル%以下とするのが好ましく、50モル%以下とするのが更に好ましく、30%以下とするとより好ましい。これにより、ビスフェノール化合物製造時の縮合反応に必要なカチオン基の量の低下による触媒活性低下を引き起こすことなく、メルカプト化合物由来の基が助触媒として働く効果を最大限に発現させることができる。変性率が小さすぎる場合は反応性や選択性の向上効果が低くなる傾向にあり、触媒としての活性や寿命が不十分となる傾向にある。また、変性率が大きすぎる場合は、選択性は向上するものの反応に関与するカチオン酸基の量が少なくなるので、反応性が低下する傾向がある。また、高価なメルカプト化合物を多く使用することになるので、経済的にも好ましくない。
【0126】
[ビスフェノール化合物の製造方法]
以下に、上述のような本発明のカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂(以下、カチオン交換樹脂及び変性カチオン交換樹脂を「(変性)カチオン交換樹脂」と記す場合がある。)を触媒として用いる本発明のビスフェノール化合物の製造方法について説明する。
【0127】
本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、上述の本発明のカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂を用いて、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させることにより、ビスフェノール化合物を製造する方法である。
【0128】
<フェノール化合物>
フェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応は、フェノール性水酸基の強いオルト−パラ配向性、特にパラ配向性を利用するものと考えられ、従って、使用するフェノール化合物はオルト位又はパラ位に置換基のないものが好ましい。中でも、縮合反応生成物であるビスフェノール化合物は、その用途の点から4,4’−ビスフェノール化合物が一般的に好ましく、この点からパラ位に置換基のないフェノール化合物を用いることが好ましい。
【0129】
フェノール化合物が置換基を有する場合、置換基はフェノール性水酸基のオルト−パラ配向性を阻害せず、また、カルボニル化合物の縮合位置に対して立体障害を及ぼさない限り、得られるビスフェノール化合物の用途や物性に応じて任意のものでありうる。典型的な置換基としては、低級炭化水素基、例えば炭素数1〜4のアルキル基や、弗素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子が挙げられる。置換基の数は1つでも複数でもよい。
【0130】
本発明で用いるフェノール化合物としては、具体的には、例えば、フェノール(無置換のフェノール)、o−クレゾール、m−クレゾール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、2,5−ジクロロフェノール、2,6−ジクロロフェノール等が挙げられる。これらの中ではフェノールが特に好ましい。
【0131】
<カルボニル化合物>
カルボニル化合物としては特に制限はないが、具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等の炭素数3〜10程度のケトン類、及び、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等の炭素数1〜6程度のアルデヒド類が挙げられる。これらの中では、アセトンが好ましい。
【0132】
フェノール化合物としてフェノールを使用し、カルボニル化合物としてアセトンを使用した場合、ポリカーボネート樹脂等の原料として有用なビスフェノールAを得ることができるので、特に好ましい。
【0133】
<前処理>
フェノール化合物とカルボニル化合物とを反応させるに先立ち、フェノール化合物を用いて、40〜110℃の温度で、(変性)カチオン交換樹脂の前処理を行なうことが好ましい。
例えば、回分式の場合は、用いる(変性)カチオン交換樹脂触媒を、その体積の1〜10倍のフェノール化合物で処理するのが好ましい。固定床流通方式の場合は、液時空間速度(LHSV)0.1〜50hr-1でフェノール化合物を通液することが好ましい。
【0134】
この前処理により、(変性)カチオン交換樹脂が水を含んでいる場合であっても、(変性)カチオン交換樹脂触媒は水からフェノール化合物へ溶媒交換され、誘導期間なしで反応に使用できるようになる。
【0135】
<縮合反応>
本発明におけるフェノール化合物とカルボニル化合物との縮合反応方式は、特に限定されるものではなく、(変性)カチオン交換樹脂触媒を充填した反応器にフェノール化合物とカルボニル化合物との原料混合物を連続的に供給して反応を行う固定床流通方式、流動床方式、及び連続撹拌方式のいずれでもよく、又、回分方式であってもよい。
【0136】
固定床流通方式、流動床方式、及び連続撹拌方式(例えば、特開昭59−170031号公報、特開昭62−178533号公報参照)で反応を行う場合には、原料混合物の供給速度は、フェノール化合物湿潤状態の(変性)カチオン交換樹脂触媒基準で通常LHSV0.05hr-1以上、好ましくは0.2hr-1以上で、通常20hr-1以下、好ましくは10hr-1以下である。
【0137】
反応温度は通常40℃以上、好ましくは60℃以上、また通常120℃以下、好ましくは100℃以下とする。反応温度が40℃未満では反応速度が遅くなり、また、原料によっては凝固することがあり、一方、120℃超過では(変性)カチオン交換樹脂触媒の性能低下が著しい場合があり、副生物や着色物質も増加する傾向がある。
【0138】
原料の供給方法としては、例えば、特開平4−1149号公報に記載されるように、反応器の下方から上向に供給する方法を用いても良い。また、樹脂の圧力損失を小さくするため、反応器を複数器に分割しても良い。前記の上向に供給する方法を用いる場合は、原料の液空間速度LHSVが通常0.1hr-1以上、好ましくは0.3hr-1以上であり、通常10.0hr-1以下、好ましくは5.0hr-1以下である。LHSVが大きすぎると、反応液の線速度が大きいために触媒粒子の対流や反応液の吹き抜けが生じ、押し出し流れが達成されない。また、充填層型反応器は、L/Dが通常0.5以上、好ましくは1以上であり、通常5以下、好ましくは3以下で設計することが好ましい。ここで、L、Dは、それぞれ反応帯域の長さ、及び反応帯域の相当直径(例えば反応器が円筒状の場合はその内径)を示す。
【0139】
尚、その際のフェノール化合物とカルボニル化合物のモル比は、カルボニル化合物1モルに対してフェノール化合物が通常2モル以上、好ましくは4モル以上であり、通常40モル以下、好ましくは30モル以下とする。フェノール化合物の使用量が前記範囲未満であると、副生物が増加する傾向があり、一方、前記範囲超過としてもその効果に殆ど変化はなく、むしろ回収再使用するフェノール化合物の量が増大するため経済的でなくなる傾向がある。
【0140】
<ビスフェノール化合物の分離精製>
反応混合物から目的物質であるビスフェノール化合物を分離精製する方法には特に制限はなく、公知の方法に準じて行なわれるが、目的物質が、ビスフェノールAの場合を例として、分離精製方法の代表例を以下に説明する。
【0141】
上記縮合反応に引き続いて、低沸点成分分離工程において、縮合反応で得られた反応混合物をビスフェノールAとフェノールとを含む成分と、反応で副生する水、未反応アセトン等を含む低沸点成分とに分離する。低沸点成分分離工程は、減圧下に蒸留によって低沸点成分を分離する方法で行なわれるのが好ましく、低沸点成分にはフェノール等が含まれていてもよい。ビスフェノールAとフェノールとを含む成分は、必要に応じて、さらに蒸留等によってフェノールを除去したり、フェノールを追加することによって、ビスフェノールAの濃度を所望の濃度に調整することができる。
【0142】
続いて、晶析工程においてビスフェノールAとフェノールとの付加物の結晶を含有するスラリーを得る。晶析工程に供するビスフェノールAとフェノールとを含む成分のビスフェノールAの濃度は、得られるスラリーの取り扱いの容易さ等から、10〜30重量%が好ましい。また晶析方法の例としては、ビスフェノールAとフェノールとを含む成分を直接冷却させる方法、水等の他の溶媒を混合し、当該溶媒を蒸発させることによって冷却を行なう方法、さらにフェノールを除去して濃縮を行なう方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられ、所望の純度の付加物を得るために1回もしくは2回以上晶析を行ってもよい。当該晶析工程で得られたスラリーは、回収工程において減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等により付加物の結晶と母液とに固液分離され、ビスフェノールAとフェノールとの付加物の結晶が回収される。
【0143】
当該回収工程で得られた付加物の結晶を、続く脱フェノール工程において、溶融後にフラッシュ蒸留、薄膜蒸留、スチームストリッピング等の手段によってフェノールを除去することにより、高純度の溶融ビスフェノールAを得る。除去されたフェノールは所望により精製され、反応や上記回収工程で得られた付加物の結晶の洗浄等に供することができる。
【0144】
得られた高純度の溶融ビスフェノールAは、造粒工程において固化されるが、ノズルから噴射させ、冷却ガスと接触させることにより小球状のビスフェノールAプリルを得る方法が簡便で好ましい。
【0145】
系内の不純物の蓄積を防止する目的で、回収工程で分離された母液の少なくとも一部を不純物処理工程において処理することもできる。例えば、アルカリ又は酸を混合して加熱処理した後に蒸留して軽質分と重質分とに分離し、軽質分を酸触媒等により再結合反応処理して反応に使用するのが経済性の点でも好ましい。ここで重質分を系外にパージすることにより不純物の蓄積を防止し、製品の純度を向上させることができる。また、母液の少なくとも一部を酸触媒によって異性化した後、晶析を行なうことによってビスフェノールAの回収率の向上を図ることもできる。
【0146】
低沸点成分分離工程で得られた低沸点成分は、アセトン循環工程によって未反応アセトンを分離回収し、回収されたアセトンを反応工程に循環させることができる。
【0147】
[(変性)カチオン交換樹脂の保管方法]
本発明の(変性)カチオン交換樹脂は、溶存酸素濃度1ppm以下及び/又は比抵抗2MΩ・cm以上の水、好ましくは溶存酸素濃度1ppm以下で比抵抗2MΩ・cm以上の水を用いて、その中に密封して保管するのが好ましい。
【0148】
本発明の(変性)カチオン交換樹脂を保管する水(以下「保管水」と称す場合がある。)の溶存酸素濃度が1ppmより多い場合、或いは、比抵抗が2MΩ・cmよりも低い場合、保管中の(変性)カチオン交換樹脂の劣化の問題があり、保管後の(変性)カチオン交換樹脂をビスフェノール化合物の製造に用いた場合、十分な触媒活性及び触媒寿命を得ることができない。
【0149】
保管水の溶存酸素濃度は低い程好ましく、また、比抵抗は高い程好ましいが、溶存酸素濃度を低くするための脱気処理コストや、比抵抗を高くするための水の精製処理コストを抑えた上で保管中の(変性)カチオン交換樹脂の劣化を防止するために、保管水の溶存酸素濃度は5ppm以下であることが好ましく、また比抵抗は2MΩ・cm以上であることが好ましい。
【0150】
このような保管水は、脱気装置、イオン交換装置、膜分離装置等を備える純水製造装置や超純水製造装置により製造することができる。
【0151】
なお、(変性)カチオン交換樹脂をこのような高純度水中で保管しても、長期保管により(変性)カチオン交換樹脂は経時的に劣化する傾向にある。従って、(変性)カチオン交換樹脂の保管期間は、6ヶ月以内等、できるだけ短期間とすることが好ましい。
【実施例】
【0152】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0153】
[実施例1]
2重量%ポリビニルアルコール水溶液50mlと1000ppm亜硝酸ナトリウム水溶液30mlを混合し、水で希釈して1550mlとした。得られた水相を攪拌しながら、孔径10μmのSUS製焼結フィルターを通して窒素ガスを1時間バブリングすることにより脱気(溶存酸素の除去)した。
【0154】
スチレン429gと、ジビニルベンゼン(純度63重量%)29.11gの混合溶液に、重合開始剤として水湿潤75重量%ベンゾイルパーオキサイド(ベンゾイルパーオキサイド(BPO)含有率75重量%)1.23gと、t−ブチルパーベンゾエート(BPZ)1.08gを添加混合して油相(モノマー相)を調製した。得られたモノマー相を攪拌しながら、孔径10μmのSUS製焼結フィルターを通じて1時間窒素ガスをバブリングすることにより、脱気(溶存酸素除去)した。
【0155】
SUS製加圧重合缶に、水とモノマーを加え、温度を30℃に調整し、180rpmで攪拌して水相中にモノマー相を分散させた。その後、80℃まで2時間で昇温し、80℃で6時間重合した。さらに120℃まで昇温し、6時間重合した。
【0156】
得られた重合ポリマーを3Lのフラスコに移し、50℃に加温した5倍量の1,2−ジクロロエタン(EDC)で2回洗浄した。濾過によりEDCを除去した後、重合ポリマー200gに対しEDCを300g加え、50℃で1時間攪拌した。この溶液を室温に戻した後、98.5重量%硫酸を1000g加え、60℃で3時間加熱してスルホン化した。
【0157】
上記スルホン化後、室温まで冷却し、50重量%の硫酸水溶液を加えて、反応液の硫酸濃度が70重量%となるまで希釈(除酸)した。更に、脱塩水を徐々に滴下し、硫酸濃度が20重量%になるまで希釈(除酸)した。
更に脱塩水で水洗した後、溶液に脱塩水を加え、残留するEDCを水蒸気蒸留で留出させた。得られた樹脂を355μmから500μmの篩を用いて分級して実施例1のカチオン交換樹脂を得た。
【0158】
[実施例2]
実施例1において、得られた樹脂を、355μmから425μmの篩を用いて分級したこと以外は同様にして、実施例2のカチオン交換樹脂を得た。
【0159】
[実施例3]
実施例1において、スルホン化に際し、重合ポリマーにEDCの代りにニトロベンゼンを加え、また、スルホン化して得られた樹脂を、300μmから355μmの篩を用いて分級したこと以外は同様にして実施例3のカチオン交換樹脂を得た。
【0160】
[実施例4]
実施例1と同様にして調製した水相とモノマー溶液を用い、孔径60μmの噴出孔が多数形成されたプレートの噴出孔から、水相内にモノマー溶液を噴出させて、水相内にモノマー溶液の液滴を発生させ、このモノマー液滴を実施例1で用いたものと同様のSUS製重合缶に導入して同様に重合を行った。
【0161】
得られた重合ポリマーは平均粒径158μmの均一粒径の粒子であった。
この重合ポリマー粒子を実施例1と同様にしてスルホン化し、平均粒径280μmの均一粒径の実施例4のカチオン交換樹脂を得た。
【0162】
[実施例5]
スチレン452.1gと、ジビニルベンゼン(純度63重量%)47.6gの混合液に、重合開始剤として75重量%BPO(BPO含有率75重量%)1.35gとPBZ1.08gを添加混合して油相(モノマー相)を調製した。得られたモノマー相を攪拌しながら孔径10μmのSUS製焼結フィルターを通じて窒素ガスを1時間バブリングすることにより脱気(溶存酸素除去)した。
【0163】
モノマー溶液として、上記調製されたモノマー相を用い、300rpmで攪拌したこと以外は実施例1と同様にして重合を行い、その後実施例1と同様にスルホン化した後、得られた樹脂を180μmから215μmの篩を用いて分級して実施例5のカチオン交換樹脂を得た。
【0164】
[実施例6]
4重量%ポリビニルアルコール水溶液150mlと1000ppm亜硝酸ナトリウム水溶液10mlを混合し、水で希釈して1550mlとした。得られた水相を攪拌しながら、孔径10μmのSUS製焼結フィルターを通じて窒素ガスを1時間バブリングすることにより、脱気(溶存酸素除去)した。
【0165】
スチレン126.1gと、ジビニルベンゼン(純度63重量%)4.15gの混合溶液に、重合開始剤として75重量%BPO(BPO含有率75%)0.25gとBPZ0.30gを添加混合して油相(モノマー相)を調製した。得られたモノマー相を攪拌しながら、孔径10μmのSUS製焼結フィルターを通じて窒素ガスを1時間バブリングすることにより、脱気(溶存酸素除去)した。
【0166】
バッフル付き加圧重合缶に、水とモノマーを加え、温度を30℃に調整し、1500rpmで攪拌して水相中にモノマー溶液を分散させた。その後、80℃で6時間重合した後、更に昇温し120℃で6時間重合した。得られた重合ポリマーを水洗した後、50℃で8時間真空乾燥した。
【0167】
この重合ポリマーを、EDCで洗浄した後、3Lのフラスコに重合ポリマー100gを入れ、EDCを300g加えて1時間攪拌した。
【0168】
この溶液に、98.5重量%硫酸500g加え、60℃まで加熱し、60℃で2時間加熱してスルホン化した。
反応液を室温まで冷却した後、孔径0.45μmのフィルタを取り付けたガラス管で抜き出した。この中へ、内温が40℃を超えないように、脱塩水を加えた。この操作を繰り返し、硫酸濃度を1重量%以下にした。
【0169】
その後、この溶液に脱塩水を加え、残留するEDCを水蒸気蒸留で留出させた。
得られた樹脂を、25℃に温度調整した水簸分級塔で逆洗展開し、18〜22μmの範囲で分級して実施例6のカチオン交換樹脂を得た。
【0170】
[実施例7]
実施例1で得られたカチオン交換樹脂を、乳鉢で粉砕した後、53μmから90μmの篩を用いて分級することにより、実施例7のカチオン交換樹脂を得た。
【0171】
[比較例1]
三菱化学(株)製「ダイヤイオンSK104H」を710μmから850μmの篩を用いて分級して、比較例1のカチオン交換樹脂とした。
【0172】
[比較例2]
ランクセス社製カチオン交換樹脂「Lewatit K1131」をカラムに充填し、室温で5BVの脱塩水をSV=5hr−1で通水することにより水洗して、比較例2のカチオン交換樹脂とした。
【0173】
[比較例2]
Dow社製カチオン交換樹脂「Amberlyst15」を乳鉢で粉砕した後、53μmから106μmの篩を用いて分級して比較例3のカチオン交換樹脂とした。
【0174】
[カチオン交換樹脂の評価]
実施例及び比較例で得られたカチオン交換樹脂について、以下の評価を行い、結果を表1に示した。
【0175】
<架橋度>
実施例1〜7においは、モノマー溶液の調整に用いたスチレンとジビニルベンゼンの割合から算出した。
比較例1〜3においては、カタログ値を用いた。
【0176】
<水分>
試料約20mLを採取し、その試料を正確に計量する。それを脱塩水で濾過管に移し、過剰の脱塩水は、水面が試料上約10mmになるまで水抜きする。
次に、2N−HCl 200mLを流速SV=5hrで、脱塩水約1Lを流速SV=10hrで順次流し、樹脂を再生、洗浄する。この時、洗浄水にメチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を入れ、酸性が認められる時は更に洗浄を続ける。
次に濾過管から試料を取り出し、全量をセントル濾過器(直径150mmφ、回転数3000r.p.m)で7分間脱水し、試料全量の重量を正確に測る(W1g)。
それを50±2℃の減圧乾燥器中に入れ、8時間乾燥する。次にデシケーター中で放冷し、その重量(g)を測定する(W2g)。
水分は、次式により算出する。
水分(%)=(試料(W1g)−乾燥重量(W2g))×100/試料(W1g)
【0177】
<交換容量(中性塩分解容量)>
試料10.00mlを採取する。それを脱塩水で濾過管に移し、過剰の脱塩水は、水面が試料の上約10mmになるまで水抜きする。
濾過管に2NのHCl 280mL、次いで脱塩水約1LをダウンフローSV=70hrで順次流し、樹脂を再生、洗浄する。
次いで、5重量%NaCl 250mLをSV=70hrで流し、流出液を250mLメスフラスコに全量回収する。
この溶液をメチルレッド・メチレンブルー混合指示薬を用いて0.1NのNaOH水溶液(力値:F)で滴定し、滴定量a(mL)を求める。
交換容量(meq/mL−樹脂)は下記式により算出する。この値から交換容量(meq/g−樹脂)を換算する。
交換容量(meq/mL−樹脂)=a(mL)×0.1×F/10
比較例1〜3においては、カタログ値を用いた。
【0178】
<平均粒子径(重量平均粒子径)>
篩目の径が1180μm、850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩を、下方になる程、篩目の径が小さくなる様に積み重ねた。この積み重ねた篩をバットの上に置き、最上段に積み重ねられた1180μmの篩の中にカチオン交換樹脂を約100mL入れた。
脱塩水の供給口につないだゴム管から樹脂上にゆるやかに水を注ぎ、小粒を下の方へ篩別した。
1180μmの篩の中に残ったカチオン交換樹脂は、さらに以下の方法により、厳密に小粒を篩別した。即ち、別のバットの1/2位の深さまで水を満たし、1180μmの篩を前記バットの中で上下及び回転運動を与えて動揺させることを繰り返し、小粒を篩別した。
このバットの中の小粒は次の850μmの篩の上へ戻し、また1180μmの篩の上に残ったカチオン交換樹脂はさらに別のバットに採取した。篩の目にカチオン交換樹脂が詰まっていれば、篩をバットに逆に置き、脱塩水の供給口につないだゴム管に密着させ、水を強く流して篩の目に詰まったカチオン交換樹脂を取り出した。取り出したカチオン交換樹脂は、1180μmの篩上に残ったカチオン交換樹脂を採取したバットに移し、合計の容積量をメスシリンダーで測定した。この容積をa(mL)とした。
1180μmの篩を通ったカチオン交換樹脂は850μm、710μm、600μm、425μm、300μmの篩についてそれぞれ同様の操作を行い、メスシリンダーを用いて容積b(850μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、c(710μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、d(600μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、e(425μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)、f(300μmの篩上に残った樹脂の容積)(mL)を求め、最後に300μmの篩を通った樹脂の容積をメスシリンダーで測定し、g(mL)とした。
【0179】
V=a+b+c+d+e+f+gとし、
a/V×100=a’(%)
b/V×100=b’(%)
c/V×100=c’(%)
d/V×100=d’(%)
e/V×100=e’(%)
f/V×100=f’(%)
g/V×100=g’(%)
を算出した。
【0180】
算出したa’〜g’より片軸に各篩の残留分累計(%)、他の軸に篩目の径(mm)をとり、これを対数確率紙上にプロットした。残留分の多い順に3点を取り、この3点を出来るだけ満足するような線を引き、この線から残留分累計が50%に相当する篩目の径(mm)を求め、これを重量平均粒子径とした。
(なお、上記重量平均粒子径の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオン1」改訂1版(平成19年10月31日)第140〜142頁に記載される公知の算出法である。)
【0181】
<均一係数>
対数確率紙上に、上記の重量平均粒子径の測定において算出したa’〜g’の各篩の残留分累計(%)とそれに対応する篩目の径(mm)をプロットし、その中から残留分の多い順に3点を選び、この3点を出来るだけ満足するような直線を引いた。この直線から残留分累計が90%に対応する篩目の径(mm)を求め、これを有効径とした。次に、残留分累計40%に対応する篩目の径(mm)を求め、次式により均一係数を求めた。
均一係数=[残留分累計40%に対応する篩目の径(mm)]/[有効径(mm)]
(なお、上記均一粒係数の算出法は、例えば三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオン1」改訂1版(平成19年10月31日)第140〜142頁に記載される公知の算出法である。)
【0182】
<初期溶出値>
カチオン交換樹脂を50mLのメスシリンダーに入れ、メスシリンダーを軽くたたき樹脂を沈降させた後、樹脂40mLを水湿潤状態で採取して遠心分離器で3000rpmにて5分間遠心分離して余剰の水を除去した。
水切りした樹脂40mLを300mLの三角フラスコの中に入れ、TOC濃度10ppb以下(具体的には8ppb)の超純水を100mL加え、この三角フラスコを40℃に保った水浴に漬け、100ストローク/分で樹脂を20時間振盪した。終了後、上澄み液をサンプリングし、島津製作所製TOC計「TOC−5000A」でTOCを測定した。
TOCの測定結果から、樹脂1L当たりのTOC(mg−TOC/L−樹脂)に換算した。
【0183】
<耐酸化TOC溶出性>
上記初期溶出値の評価において、TOC濃度10ppb以下の超純水の代りに、TOCが10ppb以下の超純水で希釈した0.1重量%過酸化水素水を加える以外は上記と同様にしてTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「酸化TOC値」とし、下記式により耐酸化TOC溶出性を算出した。
(耐酸化TOC溶出性)=(酸化TOC値)−(初期TOC値)
【0184】
<触媒活性>
冷却管、攪拌羽根、及び熱電対を付けた100mLの4つ口フラスコに、50℃で8時間真空乾燥した10.00mL相当のカチオン交換樹脂を窒素気流下で加えた。
この中へ試薬特級フェノール40.0gを添加し、70℃で3時間攪拌して、樹脂を膨潤させた。次いで、4−(2−メルカプトエチル)ピリジンをカチオン交換樹脂の総交換容量の15mol%/meqに相当する量添加し、さらに1時間攪拌した(変性率15モル%)。
【0185】
その後、アセトン1.90gをガスタイトシリンジで一気に添加して反応を開始し、そのまま、70℃で4時間反応させた。反応開始後、30分後、60分後、120分後に反応液をサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(GC)と高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)で、以下の条件にて生成したビスフェノールA(BPA)量を分析し、BPA収率を求めた。
【0186】
(GC分析条件)
Agilent(GC6850シリーズ)にキャピラリーカラム(HP−5)を装着し、FID検出器を用いて分析した。
昇温条件は、50℃に3分保持後、10℃/分で300℃まで昇温、300℃で3分間保持とした。
入り口気化室温度は250℃、検出器温度は250℃に設定した。
サンプルは、1.0μL注入し、スプリット比は、50:1に設定した。
BPAを含む、メタノール溶液を調製し、BPAの検量線を作成した。この検量線からBPAの収率を算出した。
【0187】
(HPLC分析条件)
Agilent1100シリーズの装置に、C18カラム(EclipseXDB−C18カラム)を用い、40重量%アクリロニトリル水溶液から100重量%アクリロニトリルまで10%/分のグラジエントで分析した。100重量%アクリロニトリルに到達後、5分間保持した。
サンプルの注入量は1.0μL、流速は0.5mL/分で、分析波長は280nmとした。
検量線に使用した溶液はGCと同一のサンプルを用いた。
【0188】
【表1】

【0189】
表1より、本発明のカチオン交換樹脂は、触媒活性及び触媒寿命に優れ、ビスフェノール化合物を高収率で長期に亘り安定かつ効率的に製造することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造するために用いるカチオン交換樹脂であって、下記測定方法で求められる該カチオン交換樹脂の耐酸化TOC溶出性が100(mg−TOC/L−樹脂)以下であることを特徴とするカチオン交換樹脂。
<耐酸化TOC溶出性測定方法>
(1)カチオン交換樹脂を水湿潤状態で、3000rpmにて5分間遠心分離して水切りをする。得られた水切り状態のカチオン交換樹脂40mLを三角フラスコに入れ、TOCが10ppb以下の超純水を100mL加える。この三角フラスコを40℃に保った水浴に漬け、20時間振盪後、上澄み液を採取してそのTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「初期TOC値」とする。
(2)上記(1)でTOCが10ppb以下の超純水の代わりに、TOCが10ppb以下の超純水で希釈した0.1重量%過酸化水素水を加える以外は上記(1)と同様にしてTOC値(mg−TOC/L−樹脂)を測定し、これを「酸化TOC値」とする。
(3)下記式により耐酸化TOC溶出性を算出する。
(耐酸化TOC溶出性)=(酸化TOC値)−(初期TOC値)
【請求項2】
前記耐酸化TOC溶出性の測定における初期TOC値が100(mg−TOC/L−樹脂)以下である請求項1に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項3】
前記耐酸化TOC溶出性の測定における初期TOC測定時に溶出する化合物が、下記式(II)で示されるスチレン系重合体を含む請求項1又は2に記載のカチオン交換樹脂。
【化1】

(式(II)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良いアルキル基を示す。Yは、水素原子、金属原子、または4級アンモニウム基を示す。mは自然数を示す。)
【請求項4】
架橋度が10%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項5】
重量平均粒子径が2μm以上600μm以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項6】
樹脂1グラムあたり1ミリ当量以上のスルホン酸基を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項7】
均一係数が1.3以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂中のカチオン性基の少なくとも一部をメルカプト基を有する化合物を用いて変性してなる変性カチオン交換樹脂。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂又は請求項8に記載の変性カチオン交換樹脂の存在下に、フェノール化合物とカルボニル化合物とを縮合反応させてビスフェノール化合物を製造することを特徴とするビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂又は請求項8に記載の変性カチオン交換樹脂を、溶存酸素濃度1ppm以下及び/又は比抵抗2MΩ・cm以上の水中に保管することを特徴とするカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂の保管方法。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のカチオン交換樹脂又は請求項8に記載の変性カチオン交換樹脂を製造する方法であって、シード重合法、加振法、及びチューブリアクター法から選ばれる少なくとも1種の方法を用いることを特徴とするカチオン交換樹脂又は変性カチオン交換樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−98301(P2011−98301A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255110(P2009−255110)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】